(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132462
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】空調システム
(51)【国際特許分類】
F24F 3/14 20060101AFI20230914BHJP
F24F 6/04 20060101ALI20230914BHJP
F24F 6/02 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
F24F3/14
F24F6/04
F24F6/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037803
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】弁理士法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 健太
(72)【発明者】
【氏名】樋口 康博
【テーマコード(参考)】
3L053
3L055
【Fターム(参考)】
3L053BB01
3L053BC05
3L055BA00
3L055BC00
(57)【要約】
【課題】外気の加湿に係るエネルギーおよび循環空気の冷却に係るエネルギーを節減しつつ、反応性の良い加湿を実現し得る空調システムを提供する。
【解決手段】
対象空間Sに対し導入する外気を調和して供給する外調機2と、対象空間Sからの還気を吸込んだのち温調して給気として対象空間Sへ供給する空調機1と対象空間Sとの間で空気を循環させる空調システムに関し、対象空間Sから空調機1に還気A3を導く還気路6と、還気路6に対し外調機2から外気A0を導入する外気供給路9とを備え、還気路6は、外気供給路9との合流点より下流側において、気化式の加湿器(混気加湿器)13bを備えた加湿路13と、加湿器を備えない非加湿路14とに分岐し、加湿路13および非加湿路14を流通する空気(混気A5)は、下流側において空調機1に導入されると共に、加湿路13を流通する空気と、非加湿路14を流通する空気の相対的な流量を調整し得るよう構成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象空間に対し導入する外気を調和して供給する外調機と、対象空間からの還気を吸込んだのち温調して給気として対象空間へ供給する空調機と対象空間との間で空気を循環させる空調システムであって、
前記対象空間から前記空調機に還気を導く還気路と、
前記還気路に対し前記外調機から外気を導入する外気供給路と
を備え、
前記還気路は、前記外気供給路との合流点より下流側において、
気化式の加湿器を備えた加湿路と、
加湿器を備えない非加湿路とに分岐し、
前記加湿路および前記非加湿路を流通する空気は、下流側において前記空調機に導入されると共に、
前記加湿路を流通する空気と、前記非加湿路を流通する空気の相対的な流量が調整可能に構成されていること
を特徴とする空調システム。
【請求項2】
前記外調機に外気を加湿する蒸気式の加湿器を備えたこと
を特徴とする請求項1に記載の空調システム。
【請求項3】
前記加湿路および前記非加湿路に流量調整部としてダンパが設けられ、該ダンパの開度により、前記加湿路と前記非加湿路を流通する空気の流量が調整されるよう構成されていること
を特徴とする請求項1または2に記載の空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外調機を備えて必要に応じ外気及び還気を調和して対象空間へ供給する機能を備えた空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の工業製品の工場やサーバルーム、その他の各種の施設には、年間を通じて目的の室内における空気の温度と湿度を一定の範囲内に保つために空調システムが設置される。特に室内に高負荷の発熱体が存在しながら、前記空気温湿度の一定範囲内保持という目的を達成するために年間冷房が要求される室のための空調システムが設置される。下記特許文献1は、こうした空調システムの一例を示すものであり、対象空間(内調空間)の空気の一部を排気すると共に外気を取り入れながら、空調機(内調機)と対象空間との間で空気を循環させる仕組みが記載されている。
【0003】
このような空調システムを運転するにあたり、外気の状態は無論、その地域や季節、その時の気象といった条件によって様々である。室内の定常的な熱負荷や建屋負荷に比べても、室内温湿度にとって導入する外気はさらなる外乱となる。そこで、こうした空調システムでは、外気の状態(温度や湿度)を調整するための外調機を備え、該外調機によって外気の状態をある程度調整してから室内に導入あるいは室内側の空調に導入し、室内側の前記空調機でさらに調和外気と還気との混合空気を調和して対象空間に供給するようになっている。
【0004】
日本の場合、特に冬期は空気が乾燥し、要求される室内空気の条件に対し外気の絶対湿度が不足しがちである。そこで、こうした状況下においては、外気に対し加湿器を用いて水分を添加することが行われる。特許文献1に記載の空調システムでは、外調機内に加湿器が備えられ、該加湿器の前段に設置された加熱コイルで外気を加熱し、該加熱された外気に対し加湿器にて水分が添加されるようになっている。また、特許文献2には、外調機で加湿された外気を還気ダクトに合流させて、室内側の空調機にて温調する年間冷房の空調システムがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-216330号公報
【特許文献2】特開2012-119547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
加湿器の型式には、気化式と蒸気式の2種類が存在する。気化式の加湿器は、液体の水を空気の流路に気化しやすい形で供給し、空気中で水を空気の持つ熱で蒸発気化させることで空気に対し水分を付加する仕組みであり、蒸気式の加湿器は、ボイラ等で別途発生させた水蒸気を空気に対し混合する仕組みである。
【0007】
気化式の加湿器は、空気のもつ熱を利用して加湿を行うため、水の気化に別途エネルギーを使用せず、また蒸気を発生させる熱源よりもはるかに低い温度場の空気の熱を利用するためエネルギー効率が良いという利点があるが、その一方で、湿度を調整する操作に対する実際の湿度変化の応答が遅く、制御性に欠けるという弱点がある。気化式の加湿器は、例えば空気の流路に設置したエレメントに対し水を滴下して浸透させ、前記エレメントの表面を、あるいはエレメント内を空気が通過する際に水が蒸発し加湿されるといった型式であるが、外気や室内空気の露点温度等に基づき空気に加湿が必要であると判断されてから、供給される空気において実際に湿度が上昇するまでの間には、表面が乾いたエレメントに対して滴下水が十分にいきわたって安定した気化水分とその後の気化しにくい余剰供給水分の制御による減少との平衡が図れて初めて実際の湿度となった空気が後段に流れるので加湿量を変更するには平衡がはかれるまで、相当のタイムラグが生じがちなのである。
【0008】
よって、特に厳密な湿度の制御が要求される場合には、蒸気式の加湿器が用いられることが多い。蒸気式の加湿器であれば、空気に対し水分を水蒸気の形で直接供給することができ、必要な水分量を噴出してすぐに空気中に取り込まれるので、迅速な加湿及び迅速に安定する加湿量制御が可能である。ただし、蒸気式の加湿器で加湿を行うには、ボイラ等によって蒸気を発生させる必要があり、そのために燃料燃焼の千℃に近い高い温度熱場のエネルギーを100℃強の低い温度熱場の水蒸気に利用し、エネルギーカスケードの利用が悪く、無駄なエネルギー消費が生じてしまう。また、前述のように空気の熱により気化加湿が可能なところ、この空気熱を利用せずにかえって蒸気で空気を加熱することとなり、循環空調系では電気利用する冷凍機で冷凍する冷水により、蒸気で加熱された分も含めて空気を冷却するという、二重のエネルギー使用となりさらに無駄が生じてしまう。
【0009】
特に近年では、空調の分野において省エネルギーが重視されるが、空気の加湿に関しては上述のように、省エネルギーと反応性の両立が困難であるという実情があった。
【0010】
本発明は、斯かる実情に鑑み、外気の加湿に係るエネルギーおよび循環空気の冷却に係るエネルギーを節減しつつ、反応性の良い加湿を実現し得る空調システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、対象空間に対し導入する外気を調和して供給する外調機と、対象空間からの還気を吸込んだのち温調して給気として対象空間へ供給する空調機と対象空間との間で空気を循環させる空調システムであって、前記対象空間から前記空調機に還気を導く還気路と、前記還気路に対し前記外調機から外気を導入する外気供給路とを備え、前記還気路は、前記外気供給路との合流点より下流側において、気化式の加湿器を備えた加湿路と、加湿器を備えない非加湿路とに分岐し、前記加湿路および前記非加湿路を流通する空気は、下流側において前記空調機に導入されると共に、前記加湿路を流通する空気と、前記非加湿路を流通する空気の相対的な流量が調整可能に構成されていることを特徴とする空調システムにかかるものである。
【0012】
本発明の空調システムは、前記外調機に外気を加湿する蒸気式の加湿器を備えることができる。
【0013】
本発明の空調システムは、前記加湿路および前記非加湿路に流量調整部としてダンパを設け、該ダンパの開度により、前記加湿路と前記非加湿路を流通する空気の流量が調整されるよう構成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の空調システムによれば、外気の加湿に係るエネルギーおよび循環空気の冷却に係るエネルギーを節減しつつ、反応性の良い加湿を実現するという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施による空調システムのシステム構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】加湿器に対する水の供給機構の一例を示すブロック図である。
【
図3】本実施例の空調システムの稼働時における空気の状態の変化の一例を示す空気線図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0017】
図1は本発明の実施による空調システムのシステム構成の一例を示している。本実施例の空調システムは、対象空間Sとの間で空気を循環させつつ、温度および湿度の調整された空気を対象空間Sへ供給する空調機1と、該空調機1と対象空間Sとの間の空気の循環路に対し、必要に応じて状態を調整された外気を供給する外調機2とを備えている。
【0018】
空調機1は、例えばフィルタや循環空気と熱媒や冷熱媒とで熱交換する熱交換器およびファンを備えたAHU等と称される一般的な空調機である(空調機1内部の具体的な構成については、本発明の趣旨と直接関係しないため詳しい図示や説明は省略する)。空調機1の出側は、対象空間Sの天井に設けられた送風口3と給気路4によって接続されている。対象空間Sの適宜位置(ここでは、天井)には還気口5が設けられ、該還気口5は空調機1の入側と還気路6によって接続されている。また、対象空間Sの別の位置(ここでは、天井)には排気口7が設けられ、該排気口7には排気路8が接続されており、対象空間S内の空気は排気口7から排気路8を通じて図示しない排気ファンにより適宜屋外へ排出されるようになっている。
【0019】
外調機2は、取り込んだ外気中に含まれる塵埃を除去するフィルタ2aと、外気を加熱冷却する加熱冷却器としての冷温水コイル2bと、外気に対して加湿を行う加湿器(外気加湿器)2cと、外気の取込みと供給を駆動するファン2dを内蔵している。また、外調機2の前段には、冷温水コイル2bに通す前の冬期の外気を予熱する予熱器としての予熱コイル2eが設けられている。冷温水コイル2bおよび予熱コイル2eは、例えばフィンを備えた伝熱管の内部を熱媒が流通する一般的な型式の熱交換器である。尚、外調機2には、他にもフィルタやコイル等も設けられるが、本願発明の要旨とは直接関係しない構成要素については、ここでは図示を省略している。ここで外調機2は、外気を加熱冷却する加熱冷却器として、冷温水コイル2bのみを備えても良いし、加熱コイル及び冷却コイルを備えても良い。また外調機2は、冷温水コイル2bに冷水または温水を流しても良いし、加熱コイル及び冷却コイルに温水、冷水、対応の流体を流しても良い。
【0020】
ファン2dの作動によって取り込まれる外気は、予熱コイル2eにより必要に応じて予熱された後、外調機2内のフィルタ2aで塵埃を除去され、冷温水コイル2bにより必要に応じて温度を調整され、さらに外気加湿器2cにより必要に応じて加湿されて下流へ送り出されるようになっている。外調機2の出側は、外気供給路9を介して還気路6の途中に接続されており、外調機2から送り出される空気が還気路6を流通する空気と混合されるようになっている。
【0021】
外気加湿器2cは、蒸気式の加湿器であり、外調機2の外部に設けられた図示しないボイラ等の蒸気発生器から供給される蒸気を、外調機2内における空気の流路に噴射するようになっている。外気加湿器2cに蒸気を供給する流路の途中には蒸気供給弁10が備えられ、該蒸気供給弁10の開閉および開度の調整により、外調機2に取り込まれる外気に対する蒸気の供給の有無および供給量が調整されるようになっている。蒸気供給弁10の開閉および開度は、制御部11によって制御される。
【0022】
また、外気供給路9における外調機2の出側の位置には、外気供給路9を流通する外気の露点温度を計測する露点温度計12が備えられている。制御部11は、露点温度計12の測定値によって外調機2を通過後の外気の状態を把握し、これに応じて蒸気供給弁10の開閉および開度を自動で調整するようになっている。すなわち、要求される空気の露点温度に対し、外気の露点温度が大きく不足する場合は蒸気供給弁10を開きまたは開度を大きくして外気により多くの蒸気を供給し、外気の露点温度が十分あるいはさほど大きくは不足しない場合には蒸気供給弁10を閉じまたは開度を小さくして外気に対する蒸気の供給量を抑える。
【0023】
また、還気路6は、外気供給路9の合流点より下流の位置において加湿路13と非加湿路14とに分岐するバイパス構造をなしており、加湿路13と非加湿路14は、さらに下流側の空調機1より上流側の位置にて再び一本の還気路6として合流している。
【0024】
加湿路13および非加湿路14の途中には、それぞれ流通する空気の流量を調整するための流量調整部としてのダンパ13a,14aが設けられている。ダンパ13a,14aの開度は、制御部15によって制御される(尚、上に述べた蒸気供給弁10の制御を行う制御部11と、このダンパ13a,14aの制御を行う制御部15は、互いに別の制御装置として構成してもよいし、同一の装置に備えられた別々の機能として構成してもよい)。
【0025】
加湿路13の途中におけるダンパ13aより下流側の位置には、加湿路13を流通する空気に対し加湿を行うための加湿器(混気加湿器)13bが設けられている。
【0026】
混気加湿器13bは、気化式の加湿器であり、加湿路13の途中に設けられた気化エレメントとして構成されている。気化エレメントである混気加湿器13bには、
図2に示す如く、加湿路13の外部に設けられた貯留槽16から水が汲み出されて滴下されるようになっている。混気加湿器13bに滴下された水のうち蒸発しなかった分は、下方に流れて再び貯留槽16へ戻される。貯留槽16には水位計16aが設けられ、貯留された水の量が少なくなると、外部の水供給源から貯留槽16へ水が供給されるようになっている。
【0027】
図1に示す如く、対象空間S内の適宜位置(ここでは、天井付近)には温湿度計17が設けられており、後述するように、対象空間S内の空気の状態に応じてダンパ13a,14aの開度を調整するようになっている。
【0028】
尚、流量調整部の具体的な構成は、ここに示したようなダンパに限定されない。後述するように、加湿路13、非加湿路14の相対的な流量を調整可能であれば、流量調整部としてはどのような仕組みを採用してもよい。例えば、加湿路13と非加湿路14にそれぞれファンを設け、各該ファンの回転数を調整することで相対的な流量を調整するといったことも理論上は可能である。ただ、空調機1のファンと直列になるため風量制御は難しくなる。ただし、本発明を実施するにあたり、流量調整部はここに例示したようなダンパとして構成すれば、簡単な構成により後述する流量調整を好適に行うことができる。
【0029】
また、ここでは空調機1や給気路3、還気路6あるいはその他の空調システムを構成する各部を単純化して図示したが、これはあくまで模式図である。実際の空調システムの構成は、こうした模式図よりは複雑であることが通常であり、例えば空調機1の台数や給気路3、還気路6の本数や形状、その他各部の具体的な構成は、
図1とは異なっていてもかまわない。
【0030】
次に、上記した本実施例の作動を説明する。
【0031】
上記空調システムの運転中、空調機1からは、適当な状態に調和された空気が給気A1として対象空間Sに供給され、対象空間S内の空気(室内空気A2)は、一部が還気A3として還気口5から取り込まれ、還気路6を通じて空調機1に戻される。
【0032】
これに加え、外調機2からは外気A0が取り込まれ、予熱コイル2e、冷温水コイル2bおよび外気加湿器2cにより必要に応じて温度・湿度を調整されたうえで、外気供給路9から還気路6に供給される。空調機1では、還気口5から還気A3として取り込まれた空気と、外調機2から取り込まれた外気A0が混合した空気(以下、混気A5と称する)が調和され、給気A1として対象空間Sに供給される。また、室内空気A2の別の一部は、排気A4として排気口7から排気路8を通じて排出される。
【0033】
こうして、一部は外気A0として新しく取り込まれ、また一部は排気A4として排出されることで適度に換気が行われながら、空調機1と対象空間Sの間で空気が循環される。
【0034】
このような運転において、本実施例の場合、さらに加湿路13と非加湿路14によって構成される還気路6のバイパス構造により、必要に応じて混気A5に対し加湿が行われる。
【0035】
すなわち、還気路6を流通する混気A5は、バイパス構造をなす加湿路13と非加湿路14に各々設けられたダンパ13a,14aの開度の比に応じ、加湿路13または非加湿路14のいずれか又は両方を流通するが、このとき、制御部15は、温湿度計17を通じて把握された室内空気A2の状態に基づいてダンパ13a,14aの開度を調整する。室内空気A2に、より多くの湿度が必要と判断される場合には、ダンパ14aの開度に対してダンパ13aの開度を相対的に大きくし、より多くの混気A5を加湿路13に流通させ、逆に室内空気A2の湿度が高い場合には、ダンパ14aの開度に対してダンパ13aの開度を相対的に小さくするのである。加湿路13の途中には混気加湿器13bが設けられている一方、非加湿路14には加湿器が設けられていないので、このように加湿路13と非加湿路14を流通する空気の流量比を調整することで、空調機1に導入される前の空気(混気A5)の湿度を調整することができる。
【0036】
そして、このような加湿路13と非加湿路14のバイパス構造による湿度制御によれば、エネルギー消費の少ない気化式の加湿器(混気加湿器13b)を用いながら、湿度に関してある程度制御性の高い運転が可能である。上述のように、気化式の加湿器は一般的に、応答性に関して弱点を有している。湿度上昇の要求に応じてエレメントに水を供給してから、水が蒸発して湿度が上昇するまでの間にタイムラグがある(また、湿度低下の要求に応じてエレメントへの水の供給を停止してから、エレメントの水が蒸発しきって湿度が低下するまでの間にタイムラグがある)ためであるが、この点に関し、本実施例のようにすれば、混気加湿器13bに対しては常時水を供給しておき、湿度を上昇させたい場合には加湿路13への混気A5の流量を増せば、水分を含むエレメントを混気A5が通過することですぐに湿度が上昇するし、湿度を低下ないし湿度の上昇を止めたい場合には、加湿路13への混気A5の流量を減らして非加湿路14への混気A5への流量を増せば、混気A5の多くは水分を含むエレメントを通過しなくなり、湿度の上昇が停止する。このような方式によれば、加湿の全てを蒸気式の加湿器で賄う場合と比較すれば制御の厳密性はやや劣るものの、例えば目標値に対し±10%程度の精度であれば十分な制御をこなし得るし、それでいて加湿に係るエネルギーの全消費量は少なく済む。また本実施例の場合、気化式の混気加湿器13bのみで全ての加湿を賄うのではなく、外気A0に対し蒸気式の外気加湿器2cによってある程度加湿したうえでさらに気化式の混気加湿器13bによって加湿を行うので、ある程度までは蒸気式の加湿器により応答性よく加湿を行うこともできる。
【0037】
図3は、冬期の条件を想定した場合の、上述した本実施例の如き空調システムによる空気調和の一例を示している。
【0038】
冬期においては、要求される室内空気A2の状態(室内条件;例えば、乾球温度25℃±2℃、相対湿度45%(絶対湿度0.00888kg/kg)±10%;図中に破線で示す範囲)に対し、外気A0の温度および絶対湿度は低い(外気条件;乾球温度-11℃、相対湿度70%(絶対湿度0.00102kg/kg);
図3中符号1)。この外気A0を導入するにあたり、まず予熱コイル2eにて外気A0をある程度の温度(例えば、5℃)まで加熱する(
図3中符号2)。予熱コイル2eにより昇温された外気A0は、外調機2に導入され、冷温水コイル2bによりさらに(例えば、14.9℃まで)昇温される(
図3中符号3)。続いて、蒸気式の加湿器である外気加湿器2cにより蒸気が添加され、例えば相対湿度68%(絶対湿度0.00718kg/kg)まで加湿される(
図3中符号4)。さらに、外調機2のファン2dを通過する際、該ファン2dの作動により生じる熱を受け取って僅かに(例えば、16.0℃まで)昇温する(
図3中符号5)。
【0039】
この状態(乾球温度16.0℃、相対湿度64%)の外気A0は、外気供給路9から還気路6に導入され、還気A3と合流する。還気A3はもともと室内空気A2の一部であるので、室内空気A2が十分に調和されている場合、状態は例えば乾球温度25℃、相対湿度45%(絶対湿度0.00888kg/kg)である(
図3中符号6)。乾球温度16℃、相対湿度64%の外気A0は、乾球温度25℃、相対湿度45%の還気A3と混合して混気A5となる。この時点の混気A5の状態は、例えば乾球温度23.2℃、相対湿度48%(絶対湿度0.00847kg/kg)である(
図3中符号7)。
【0040】
混気A5は、加湿路13と非加湿路14に分かれてそれぞれ流入する。加湿路13に流入した混気A5は、気化式の加湿器である混気加湿器13bを通過するに伴って加湿され、湿度が上昇すると共に気化熱を奪われて温度が下がる。混気加湿器13bの出側における混気A5の状態は、例えば乾球温度17.4℃、相対湿度87%(絶対湿度0.0108kg/kg)である(
図3中符号8)。非加湿路14に流入した混気A5の状態は、非加湿路14以前における状態(乾球温度23.2℃、相対湿度48%;
図3中符号7)の状態と変わらない。
【0041】
加湿路13を通過した図中符号7の状態の混気A5と、非加湿路14を通過した図中符号6の状態の混気A5は、加湿路13と非加湿路14の合流点において混合する。ここにおける混気A5の状態は、例えば乾球温度22.5℃、相対湿度52%(絶対湿度0.00888kg/kg)である(
図3中符号9)。
【0042】
続いて、混気A5は空調機1において温度を吹出温度(例えば、17.7℃)に調整され、給気A1として対象空間Sに供給される(
図3中符号10)。このときの湿度は、外気加湿器2cおよび混気加湿器13bの働きの結果、絶対湿度0.00888kg/kgに調整されている。給気A1は室内空気A2と混合され、これにより、室内空気A2が乾球温度25±2℃、相対湿度45±10%の適当な状態(
図3中に符号6および破線で示す領域に相当する状態)に調和される。
【0043】
このような空気の温湿度制御において、外気は
図3中符号1~3の状態における絶対湿度(
図3中におけるy座標の値;0.00102kg/kg)から、符号6の状態における絶対湿度(0.00888kg/kg)まで加湿される。ここで、外気の加湿の全てを蒸気式の加湿器で行う従来の方式であれば、符号1の状態の絶対湿度から符号6の状態の絶対湿度までの加湿が蒸気によって行われるので、加湿に用いる蒸気発生のためのエネルギーは、上記2値の差分(0.00786kg/kg)にあたる分だけ必要である。しかし本願発明の如く蒸気式の外気加湿器2cと気化式の混気加湿器13bを併用すれば、外気加湿器による加湿分は符号3の状態における絶対湿度(0.00102kg/kg)と符号5の状態における絶対湿度(0.00718kg/kg)の差分(0.00616kg/kg)のみに留まり、残りの加湿分(符号5の状態と符号6の状態のy座標の差分;0.00170kg/kg)は混気加湿器13bによって賄われる。これにより、外気の加湿に係るエネルギーを節減することができる。
【0044】
尚、空調システムにおいて、対象空間からの還気を、気化式の加湿器を設けた流路と、加湿器を設けていない流路とに分けて流通させ、これによって湿度を調整する仕組みに関しては、例えば上記特許文献2に記載がある。しかしながら、この特許文献2に記載の空調システムでは、対象空間(サーバルーム)からの還気は気化式の加湿器(潜熱冷却器)を設けた流路と設けていない流路とに振り分けられるものの、外調機から導入された外気はそれらの流路に振り分けられず、振り分けられた後の還気に対し混合されるようになっている。このような方式では、気化式の加湿器による加湿が行われた後の還気に外気が混合され、これに対して空調機による温度調整が行われるので、気化式の加湿器による加湿が空調機からの給気に直接反映されず、給気に対する湿度の調整が難しいと考えられる。また、特許文献2には、外調機あるいはその周辺における外気に対する加湿に関する記載がないが、仮にここに本願発明における外気加湿器2cに相当する加湿器を設けた場合、外気加湿器による加湿後の外気と、気化式の加湿器(潜熱冷却器)による加湿後の還気と、加湿されていない還気とが混合されて空調機に導入されることになるので、給気に対する湿度の調整のための制御はいっそう難しくなる。このように、特許文献2に記載の空調システムと、本願発明の空調システムとは、還気の流通する流路を気化式の加湿器を設けた流路と、加湿器を設けていない流路とによるバイパス構造とした点において共通するものの、作用効果において大きく相違している。またその結果、空気線図により記述される空気の状態の変化も大きく異なる。
【0045】
以上のように、上記本実施例の空調システムは、対象空間Sに対し導入する外気を調和して供給する外調機2と、対象空間Sからの還気を吸込んだのち温調して給気として対象空間Sへ供給する空調機1と対象空間Sとの間で空気を循環させる空調システムであって、対象空間Sから空調機1に還気A3を導く還気路6と、還気路6に対し外調機2から外気A0を導入する外気供給路9とを備え、還気路6は、外気供給路9との合流点より下流側において、気化式の加湿器(混気加湿器)13bを備えた加湿路13と、加湿器を備えない非加湿路14とに分岐し、加湿路13および非加湿路14を流通する空気(混気A5)は、下流側において空調機1に導入されると共に、加湿路13を流通する空気と、非加湿路14を流通する空気の相対的な流量が調整可能に構成されている。このようにすれば、エネルギー消費の少ない気化式の加湿器13bを用いながら、湿度に関してある程度制御性の高い空調システムの運転が可能である。
【0046】
また、本実施例の空調システムは、外調機2に外気A0を加湿する蒸気式の加湿器2cを備えている。このようにすれば、外気A0に対し蒸気式の外気加湿器2cによってある程度加湿したうえでさらに気化式の混気加湿器13bによって加湿を行うことで、より応答性のよい加湿が可能である。
【0047】
また、本実施例の空調システムは、加湿路13および非加湿路14に流量調整部としてダンパ13a,14aを設け、該ダンパ13a,14aの開度により、加湿路13と非加湿路14を流通する空気(混気A5)の流量が調整されるよう構成されている。このようにすれば、加湿路13および非加湿路14における流量調整を簡単な構成により好適に行うことができる。
【0048】
したがって、上記本実施例の空調システムによれば、外気の加湿に係るエネルギーおよび循環空気の冷却に係るエネルギーを節減しつつ、反応性の良い加湿を実現し得る。
【0049】
尚、本発明の空調システムは、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0050】
1 空調機
2 外調機
2c 加湿器(外気加湿器)
6 還気路
9 外気供給路
13 加湿路
13a 流量調整部(ダンパ)
13b 加湿器(混気加湿器)
14 非加湿路
14a 流量調整部(ダンパ)
A0 空気(外気)
A3 空気(還気)
A5 空気(混気)
S 対象空間