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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132503
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】電動機の回転子
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/278 20220101AFI20230914BHJP
   H02K 1/276 20220101ALI20230914BHJP
【FI】
H02K1/278
H02K1/276
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037866
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】赤池 勝利
(72)【発明者】
【氏名】多田 亮平
(72)【発明者】
【氏名】神田 智基
(72)【発明者】
【氏名】舟木 勇太
【テーマコード(参考)】
5H622
【Fターム(参考)】
5H622CA02
5H622CB04
5H622CB05
5H622PP03
5H622PP18
(57)【要約】
【課題】回転軸2と、軸方向にのび、回転軸2に外嵌する筒状のコア6と、回転軸2に外嵌してコア6を狭圧固定する一対のコア押え7,7と、周方向の間隔を存して設けられた、コア6に埋設される複数の永久磁石3又は二次導体と、熱硬化性樹脂が繊維基材に含浸されたプリプレグシートの加熱硬化によって形成される、軸方向にのびる補強管4とを備えた電動機の回転子1において、高速回転時にも全ての永久磁石3又は全ての二次導体が回転軸2から外方へ飛散するのを抑制しつつ、安価な汎用品とする。
【解決手段】
各コア押え7又はコア6の外周面における周方向の複数箇所に窪み7a,6aが凹設され、コア6と各コア押え7との外周にプリプレグシートが巻き付けられ、加熱硬化によって補強管4の周方向の複数箇所が窪み7a,6aに入り込んで、補強管4が、コア6及び各コア押え7の外周面に接着されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、軸方向に配置されると共に、周方向の間隔を存して回転軸の外周面に取り付けられた複数の永久磁石とを備えた電動機の回転子であって、
熱硬化性樹脂が繊維基材に含浸されたプリプレグシートの加熱硬化によって形成される、軸方向にのびる補強管が、全ての永久磁石の外周面に密着するものにおいて、
各永久磁石の軸方向の両端に位置し、回転軸に外嵌して全ての永久磁石を狭圧固定する一対の磁石押えが設けられ、各磁石押えの外周面における周方向の複数箇所に窪みが凹設され、
プリプレグシートが、一対の磁石押えと共に、全ての永久磁石の外周に巻き付けられ、補強管の周方向の複数箇所が各窪みに入り込んで、補強管が、全ての永久磁石の外周面に接着していることを特徴とする電動機の回転子。
【請求項2】
回転軸と、軸方向にのび、回転軸に外嵌する筒状のコアと、このコアの軸方向の両端に位置し、回転軸に外嵌してコアを狭圧固定する一対のコア押えと、これら一対のコア押え間で、軸方向に配置されると共に、周方向の間隔を存して設けられた複数の永久磁石又は二次導体とを備えた電動機の回転子であって、
永久磁石又は二次導体はコアに埋設され、
熱硬化性樹脂が繊維基材に含浸されたプリプレグシートの加熱硬化によって形成される、軸方向にのびる補強管が、コア及び一対のコア押えの外周面に密着するものにおいて、
一対のコア押え又はコアの外周面における周方向の複数箇所に窪みが凹設され、
一対のコア押えとコアとの外周にプリプレグシートが巻き付けられ、加熱硬化によって軸方向にのびる補強管が形成され、この補強管の周方向の複数箇所が窪みに入り込んで、補強管が、コアの外周面及び一対のコア押えの外周面に接着されていることを特徴とする電動機の回転子。
【請求項3】
回転軸と、軸方向にのび、回転軸に外嵌する筒状のコアと、このコアの軸方向の両端に位置し、回転軸に外嵌してコアを狭圧固定する一対のコア押えと、これら一対のコア押え間で、軸方向に配置されると共に、周方向の間隔を存して設けられた複数の永久磁石又は二次導体とを備えた電動機の回転子であって、
永久磁石又は二次導体はコアに埋設され、
熱硬化性樹脂が繊維基材に含浸されたプリプレグシートの加熱硬化によって形成される、軸方向にのびる補強管が、コア及び一対のコア押えの外周面に密着するものにおいて、
コアの外周面には、各永久磁石又は各二次導体の埋設箇所の間に位置して軸方向にのびる複数の溝部が形成され、
コアの各溝部に熱硬化性樹脂製のバインダーが挿入され、一対のコア押えと共に、コア及び各バインダーの外周にプリプレグシートが巻き付けられ、加熱硬化によって軸方向にのびる補強管が形成され、この補強管が、コアの外周面及び一対のコア押えの外周面に接着されていると共に、補強管は、加熱硬化した各バインダーを介してコアの各溝部にも接着されていることを特徴とする電動機の回転子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸と、軸方向に配置されると共に、周方向の間隔を存して回転軸の外周に設けられた複数の永久磁石又は二次導体とを備えた電動機の回転子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電動機の回転子として、熱硬化性樹脂が繊維基材に含浸されたプリプレグシートの加熱硬化によって形成された軸方向にのびる補強管が、全ての永久磁石の外周面に密着するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような電動機の回転子については、高速回転時の遠心力によっても全ての永久磁石が回転軸から外方へ飛散するのを抑制することが要求される。この要求を満たすためには、補強管の密着強度を高める必要がある。そこで、特許文献1記載の電動機の回転子では、永久磁石が取り付けられた回転軸を内挿可能にした筒状の補強管を予め作製しておくと共に、回転軸に中空なものを採用している。そして、いわゆる冷し嵌めという手法を採用して電動機の回転子を作製する。すなわち、回転軸の中空部に液体窒素等の冷媒を流通させて回転軸を径方向内側に収縮させる。この後、補強管の内部に回転軸を挿入して冷媒の流通を停止し、回転軸の温度を常温に戻すことによって、回転軸を径方向外側に膨張させて元の大きさに復帰させる。そして、補強管を、全ての永久磁石の外周面に密着させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-50925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の電動機の回転子には、作製のために採用している冷し嵌めが特殊な手法であり、専用の治具等が必要であるばかりでなく、筒状の補強管をプリプレグの単体で作製するための治具や中空な回転軸も必要である。したがって、特許文献1記載の電動機の回転子を安価な汎用品とするためには、再検討の余地が少なからずある。
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、高速回転時にも全ての永久磁石又は全ての二次導体が回転軸から外方へ飛散するのを抑制しつつ、安価な汎用品となり得る電動機の回転子を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、第1に、回転軸と、軸方向に配置されると共に、周方向の間隔を存して回転軸の外周面に取り付けられた複数の永久磁石とを備えた電動機の回転子であって、熱硬化性樹脂が繊維基材に含浸されたプリプレグシートの加熱硬化によって形成される、軸方向にのびる補強管が、全ての永久磁石の外周面に密着するものにおいて、各永久磁石の軸方向の両端に位置し、回転軸に外嵌して全ての永久磁石を狭圧固定する一対の磁石押えが設けられ、各磁石押えの外周面における周方向の複数箇所に窪みが凹設され、プリプレグシートが、一対の磁石押えと共に、全ての永久磁石の外周に巻き付けられ、補強管の周方向の複数箇所が各窪みに入り込んで、補強管が、全ての永久磁石の外周面に接着していることを特徴とする。
【0008】
本発明の第1の特徴によれば、プリプレグシートの加熱硬化時に含浸させた熱硬化性樹脂の一部が、各磁石押えに凹設された窪みに浸入して硬化するため、窪みに入り込んだ補強管の周方向の複数箇所がアンカーとして機能する。したがって、全ての永久磁石及び一対の磁石押えと補強管との接着強度は、上記の通りの冷し嵌めによる密着強度と遜色のない十分に高いものになる。このため、高速回転時にも全ての永久磁石が回転軸から外方へ飛散するのを抑制することができる。そして、回転軸に外嵌する、外周面の周方向の複数箇所に窪みが凹設された一対の磁石押えを用い、後に補強管となるプリプレグシートを、一対の磁石押えと共に、全ての永久磁石の外周に巻き付けて加熱硬化することによって、電動機の回転子は作製されるため、この電動機の回転子は安価な汎用品となり得る。
【0009】
本発明の第1の特徴が対象とする電動機の回転子は、いわゆるSPM(Surface Permanent Magnet)方式と呼ばれるタイプであり、回転軸に全ての永久磁石が取り付けられるものであるが、第1の特徴における窪み及びプリプレグシートは、軸方向に配置されると共に、周方向に間隔を存して設けられた複数の永久磁石又は複数の二次導体が、コアに埋設される、いわゆるIPM(Internal Permanent Magnet)方式の電動機の回転子にも等しく適用することができる。
【0010】
そこで、本発明は、第2に、回転軸と、軸方向にのび、回転軸に外嵌する筒状のコアと、このコアの軸方向の両端に位置し、回転軸に外嵌してコアを狭圧固定する一対のコア押えと、これら一対のコア押え間で、軸方向に配置されると共に、周方向の間隔を存して設けられた複数の永久磁石又は二次導体とを備えた電動機の回転子であって、永久磁石又は二次導体はコアに埋設され、熱硬化性樹脂が繊維基材に含浸されたプリプレグシートの加熱硬化によって形成される、軸方向にのびる補強管が、コア及び一対のコア押えの外周面に密着するものにおいて、一対のコア押え又はコアの外周面における周方向の複数箇所に窪みが凹設され、一対のコア押えとコアとの外周にプリプレグシートが巻き付けられ、加熱硬化によって軸方向にのびる補強管が形成され、この補強管の周方向の複数箇所が窪みに入り込んで、補強管が、コアの外周面及び一対のコア押えの外周面に接着されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の第2の特徴によれば、上記第1の特徴と同様に、窪みに入り込んだ補強管の周方向の複数箇所がアンカーとして機能し、コア及び一対のコア押えと補強管との接着強度が十分高くなり、高速回転時にも全ての永久磁石又は全ての二次導体がコアの外方へ飛散するのを抑制することができる。そして、作製される電動機の回転子は安価な汎用品となり得る。
【0012】
また、本発明は、第3に、回転軸と、軸方向にのび、回転軸に外嵌する筒状のコアと、このコアの軸方向の両端に位置し、回転軸に外嵌してコアを狭圧固定する一対のコア押えと、これら一対のコア押え間で、軸方向に配置されると共に、周方向の間隔を存して設けられた複数の永久磁石又は二次導体とを備えた電動機の回転子であって、永久磁石又は二次導体はコアに埋設され、熱硬化性樹脂が繊維基材に含浸されたプリプレグシートの加熱硬化によって形成される、軸方向にのびる補強管が、コア及び一対のコア押えの外周面に密着するものにおいて、コアの外周面には、各永久磁石又は各二次導体の埋設箇所の間に位置して軸方向にのびる複数の溝部が形成され、コアの各溝部に熱硬化性樹脂製のバインダーが挿入され、一対のコア押えと共に、コア及び各バインダーの外周にプリプレグシートが巻き付けられ、加熱硬化によって軸方向にのびる補強管が形成され、この補強管が、コアの外周面及び一対のコア押えの外周面に接着されていると共に、補強管は、加熱硬化した各バインダーを介してコアの各溝部にも接着されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の第3の特徴によれば、補強管の周方向の複数箇所の窪みへの入り込みに替わって、各溝部に挿入した熱硬化性樹脂製のバインダーがアンカーとして機能する。したがって、上記第2の特徴と同様に、コア及び一対のコア押えと補強管との接着強度が十分高くなり、高速回転時にも全ての永久磁石又は全ての二次導体がコアの外方へ飛散するのを抑制することができる。そして、作製される電動機の回転子は安価な汎用品となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(a)は、本発明の第1の特徴に対応する電動機の回転子の一実施形態の概略を示す軸方向断面図。(b)は、同実施形態のA-A断面図。
図2】本発明の第2の特徴に対応する電動機の回転子の一実施形態の概略を示す軸方向断面図。
図3】(a)は、図2に示す実施形態を作製する際に、プリプレグを巻き付ける工程を概略的に示すA-A断面図。(b)は、図2に示す実施形態のA-A断面図。
図4】本発明の第3の特徴に対応する電動機の回転子の一実施形態における回転軸、コア及び永久磁石の概略を示す径方向断面図。
図5】(a)(b)(c)は、夫々、図4に示す実施形態を作製する際の各工程を概略的に示す径方向断面図。
図6図5(b)に示す工程後の回転子の前駆体の概略と、図5(c)に示す工程後の、本発明の第3の特徴に対応する電動機の回転子の一実施形態の概略を示す軸方向断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1(a)(b)に示す実施形態は、上記SPMに分類される電動機の回転子の一例である。電動機はモータであり、回転子1は、回転軸2と、軸方向に配置されると共に、周方向の間隔を存して回転軸2の外周面に取り付けられた複数の永久磁石3とを備えている。回転軸2は、鉄その他の磁性物質を含有する金属材料から形成されている。各永久磁石3は、具体的には、各永久磁石3の構成単位となる複数の磁石片3aが、軸方向に一列に配列され、回転軸2の外周面に磁石片3aが有する磁力によって取り付けられている。各永久磁石3は、モータの要求性能を満たすことができるような磁界を発生するものである限り、永久磁石3の数、回転軸2への取付位置等は特に限定されない。また、磁石片3aを形成する材料についても特に限定されない。
【0016】
また、回転子1では、熱硬化性樹脂が繊維基材に含浸されたプリプレグシートの加熱硬化によって形成される、軸方向にのびる補強管4が、全ての永久磁石3の外周面に密着している。プリプレグシートについては、繊維基材には、例えば、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、チラノ(SiTiC)繊維繊、ケブラー繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維等の織布又は不織布が採用可能である。熱硬化性樹脂には、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂等が採用可能である。上記プリプレグシートから形成される補強管4は、軽量であり、且つ全ての永久磁石3が、高速回転によっても回転軸2から外方への飛散するのを抑制することができる強度を有するものが望ましい。以上のことを考慮して、上記繊維基材及び上記熱硬化性樹脂は選択される。
【0017】
さらに、回転子1では、各永久磁石3の軸方向の両端に位置し、回転軸2に外嵌して全ての永久磁石3を狭圧固定する一対の磁石押え5,5が設けられている。各磁石押え5の外周面における周方向の複数箇所に窪み5aが凹設されている。補強管4は、その周方向の複数箇所が、各窪み5aに入り込んで、補強管4が、全ての永久磁石3の外周面及び一対の磁石押え5,5の永久磁石3側に位置する外周面に接着している。全ての永久磁石3及び一対の磁石押え5,5と補強管4との接着は、上記プリプレグシートが、一対の磁石押え5,5と共に、全ての永久磁石3の外周面に巻き付けられ、加熱硬化によって補強管4になる時に、上記熱硬化性樹脂の一部が、各磁石押え5に凹設された各窪み5aに浸入して硬化することによって実現される。そして、各窪み5aに入り込んだ補強管4の周方向の複数箇所がアンカーとして機能し、全ての永久磁石3及び一対の磁石押え5,5と補強管4との接着強度は、従来の冷し嵌めによる密着強度と遜色のない十分に高いものになる。
【0018】
より具体的には、上記プリプレグシートの軸方向の幅寸法は、各磁石押え5の全ての窪み5aよりも軸方向外側までの長さとされ、原反から引き出され、いわゆるBステージとされた状態で一対の磁石押え5,5と共に、全ての永久磁石3の外周に、所定の張力で巻き付けられる。また、全ての永久磁石3及び一対の磁石押え5,5に補強管4を接着させる際には、一対の磁石押え5,5と共に、全ての永久磁石3の外周に上記プリプレグシートが巻き付けられた前駆体を、例えば、減圧可能とされた袋、容器等の内部に収納し、減圧によってプリプレグシートが、各磁石押え5の各窪み5aの内面及び各永久磁石3の外周面に沿うように変形させる。そして、上記前駆体を、上記プリプレグシートの上記熱硬化性樹脂の硬化温度まで加熱する。この時の加熱は、袋、容器等の内部に収納したままの連続処理であっても、一旦外部に取り出し、熱処理路等の内部に収納し直して加熱するバッチ処理であっても構わない。
【0019】
例えば、このようにして作製される本実施形態のモータの回転子1は、上記の通り、全ての永久磁石及び一対の磁石押え5,5と補強管4との接着強度が十分高く、回転子1の高速回転時にも全ての永久磁石3が回転軸2から外方へ飛散するのを抑制することができる。そして、モータの回転子1は、回転軸2に外嵌する、外周面の周方向の複数箇所に窪み5aが凹設された一対の磁石押え5を用い、後に補強管4となる上記プリプレグシートを、一対の磁石押え5,5と共に、全ての永久磁石3の外周に巻き付けて加熱硬化することによって作製されるため、モータの回転子1は安価な汎用品となり得る。
【0020】
図2及び図3(a)(b)は、上記IPMに分類される電動機の回転子の一実施形態である。なお、図1(a)(b)に示す実施形態と同じ部品及び部位については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0021】
図2及び図3(a)(b)に示す電動機もモータであるが、永久磁石3は、巻線等の二次導体に置換することができ、この場合、電動機は発電機になる。なお、図2及び図3(a)(b)に示すモータの回転子1は、回転軸2に外嵌する筒状のコア6と、回転軸2に外嵌し、コア3を軸方向両端で狭圧固定する、筒状の一対のコア押え7,7とを備えている。
【0022】
なお、図2及び図3(a)(b)に示すモータは、IPMに分類されるものであるため、複数の永久磁石3は、コア6に周方向の間隔を存して埋設されている。このようなIPMに分類されるモータの場合、回転子1については、回転性能の向上を図るために、固定子とのギャップを縮小することが望ましく、この場合、全ての永久磁石3は、コア6の外周面寄りの部分に埋設される。
【0023】
各コア押え6の外周面における周方向の複数箇所には、図1(a)(b)に示す窪み5aに相当する窪み6aが凹設されている。本実施形態のモータの回転子1も、図1(a)(b)に示すモータの回転子1と同様にして作製することができる。すなわち、コア6と一対のコア押え7との外周に、熱硬化性樹脂が繊維基材に含浸されたプリプレグシート8が巻き付けられ、加熱硬化によって軸方向にのびる補強管4が形成される。また、コア押え7の各窪み7aには、補強管4の周方向の複数箇所が入り込み、補強管4が、一対のコア押え7及びコア6の外周面に接着される。したがって、各窪み7aに入り込んだ補強管4の周方向の複数箇所がアンカーとして機能し、コア6及び一対のコア押え7,7と補強管4との接着強度が十分高くなり、高速回転時にも全ての永久磁石3がコア6の外方へ飛散するのを抑制することができる。そして、作製されるモータの回転子1は安価な汎用品となり得る。これらのことは、発電機の場合にも同様である。
【0024】
なお、本実施形態のモータの回転子1は、発電機の場合も含め、コア押え7,7に凹設された各窪み7aは、コア6に設けることもできる。この場合にも、窪みは、コア6の周方向の複数箇所に設ける。このようにコア6に凹設される各窪みの位置は、コア6の軸方向に任意とすることができ、例えば、軸方向に所定の間隔を存して配置することもできる。この場合の各窪みは、例えば、各窪みの凹設箇所に位置する複数の電磁鋼板の外周縁部に、夫々、窪みの径方向の断面形状に相当する形状の切欠きを形成することによって形成される。
【0025】
そして、図4図5(a)(b)(c)及び図6を参照して、上記IPMに分類される電動機の回転子の別の実施形態について説明する。本実施形態も、図2及び図3(a)(b)に示す実施形態と同様に、図1(a)(b)に示す実施形態と同じ部品及び部位については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0026】
図4図5(a)(b)(c)及び図6に示す電動機としてのモータの回転子1は、図4に示すように、まず、コア6の形状及び構造が、図2及び図3(a)(b)に示すモータの回転子1と相違している。すなわち、コア6には、周方向の間隔を存して埋設された、軸方向にのびる永久磁石3の埋設箇所の間に位置して、軸方向にのびる複数の溝部6aが形成されている。具体的には、各溝部6aは、径方向の断面がV字形の形状を有し、コア6の周方向に所定の間隔で形成されている。各溝部6aは、コア6を形成する各電磁鋼板の外周縁部を各溝部6aの上記断面形状に一致する形状に切り欠き、周方向に間隔を存する切欠きを形成し、各電磁鋼板を、上記切欠きが一致するように軸方向に積層することによって形成することができる。
【0027】
また、軸方向にのびる永久磁石3は、その2本を一組として、コア6の外周面寄りの部分に埋設されている。各組では、2本の永久磁石3,3は、相互の間にギャップが形成されるように離隔して配置されている。この配置は、2本一組とした永久磁石3,3の外周面寄りの部分での埋設によるコア6の強度低下を抑制するためである。
【0028】
そして、図4図5(a)(b)(c)及び図6に示すモータの回転子1は、各溝部6aに熱硬化性樹脂製のバインダー9が挿入される点でも、図2及び図3(a)(b)に示すモータの回転子1と相違している。バインダー9を形成する熱硬化性樹脂としては、例えば、コア6の外周に巻き付けられるプリプレグシート8の上記熱硬化性樹脂との親和性が良好なものが採用される。プリプレグシート8の熱硬化性樹脂と同一のものを採用することができ、この場合、親和性を良好とするのに特に好適である。
【0029】
また、バインダー9は、固体状であっても、プリプレグシート8と同様にBステージにしたものであってもよい。いずれにしても、各溝部6aへの挿入後にバインダー9が各溝部6aから脱落しなければよい。固体状のバインダー9の形状は、各溝部6aの各側面と密接する断面を有するものとする。具体的には、三角形状の断面等が例示される。また、バインダー9は、各溝部6aの軸方向の全長に亘って挿入される。但し、バインダー9は、必ずしも各溝部6aの全長に亘ってのびる長尺なものでなくともよい。複数の短尺のバインダー9を各溝部6aの長さ方向に間隔を開け又は開けずに挿入することも可能である。複数の短尺のバインダー9を隣接する2つの間で間隔をあけて挿入する場合は、プリプレグシート8を加熱硬化させる際に溶融等する部分が密着し、隙間が形成されないような間隔にすることが望ましい。
【0030】
さらに、バインダー9については、加熱硬化による熱収縮を考慮して、各溝部6aに挿入したときの外側面が、コア6の外周面から径方向外側に突出する大きさにすることができる。この場合の突出代は、各熱硬化性樹脂に固有の熱収縮率に基づいて設定することができる。
【0031】
図4図5(a)(b)(c)及び図6に示すモータの回転子1を作製する際には、図5(a)に示すように、コア6の各溝部6aにバインダー9を挿入し、図4(b)に示すように、プリプレグシート8をコア6及び一対のコア押え7,7の外周に巻き付ける。巻き付けた後の回転子1の前駆体は、図6に示すように、プリプレグシート8と各コア押え7のコア6側に位置する端部との間には、バインダー9の径方向外側への突出によって、空隙10が形成される。
【0032】
この後の工程は、他の実施形態のモータの回転子1の工程に準ずる。そして、図5(c)に示すように、加熱硬化に伴うバインダー9の溶融等を伴う熱収縮によって、図6に示す空隙10が消失し、プリプレグシート8の加熱硬化によって軸方向にのびる補強管4が形成される。そして、補強管4は、一対のコア押え7,7及びコア6の外周面に接着されると共に、加熱硬化した各バインダー9を介してコア6の各溝部6aにも接着される。このため、回転性能の向上のために永久磁石3をコア6の外周面寄りの部分に配置しても、回転子1におけるコア6の強度が向上する。
【0033】
また、他の実施形態における補強管4の周方向の複数箇所の窪み5a,7aへの入り込みに替わって、溝部6aに挿入した熱硬化性樹脂製のバインダー9がアンカーとして機能し、コア6及び一対のコア押え7,7と補強管4との接着強度が十分高くなる。このため、高速回転時にも全ての永久磁石3がコア6の外方へ飛散するのを抑制することができる。そして、他の実施形態と同様に、作製されるモータの回転子1は安価な汎用品となり得る。これらのことは、発電機の場合にも同様である。
【0034】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、永久磁石3の形状、大きさ、数及び回転軸2の外周面への取付位置又はコア6への埋設位置、そして、永久磁石3の構成単位である永久磁石片3aの数、形状、大きさ及び材質については特に限定されない。また、各磁石押え5に凹設する窪み5aの形状、大きさ、数及び配置位置についても特に限定されない。このことは、各コア押え7に凹設する窪み7a又は各コア6に凹設する上記窪みにも共通する。さらに、コア6に形成する各溝部6aの形状、大きさ及び数についても同様である。そして、プリプレグシート8を構成する繊維基材及び熱硬化性樹脂の種類等についても特に限定されない。
【符号の説明】
【0035】
1…電動機の回転子、2…回転軸、3…永久磁石、4…補強管、5…磁石押え、5a,7a…窪み、6…コア、6a…溝部、7…コア押え、8…プリプレグシート、9…バインダー。
図1
図2
図3
図4
図5
図6