(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132507
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】電気化学セルの製造方法及び電気化学セル
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20230914BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230914BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230914BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20230914BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230914BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20230914BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20230914BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/139
H01M4/13
H01M4/134
H01M4/40
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037871
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】牧島 聖弥
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AL12
5H029AM12
5H029BJ03
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ13
5H029DJ08
5H029DJ13
5H029EJ05
5H029HJ02
5H050AA19
5H050BA16
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050DA09
5H050EA12
5H050FA13
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA13
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】本発明は、電池設計における材料選択の自由度をより高められる電気化学セル及び電気化学セルの製造方法を目的とする。
【解決手段】固体電解質層7と、固体電解質層7の一方の面に位置する正極層5と、固体電解質層7の他方の面に位置する負極層6とを有する電気化学セルの製造方法であって、正極活物質を含む正極スラリーを第一の多孔質体に含浸させた正極層前駆体と、固体電解質層7との積層体を焼成して、正極層5と固体電解質層7とが接合した第一の積層体とする、電気化学セル1の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層と、前記固体電解質層の一方の面に位置する正極層と、前記固体電解質層の他方の面に位置する負極層とを有する電気化学セルの製造方法であって、
正極活物質を含む正極スラリーを第一の多孔質体に含浸させた正極層前駆体と、前記固体電解質層との積層体を焼成して、前記正極層と前記固体電解質層とが接合した第一の積層体とする、電気化学セルの製造方法。
【請求項2】
前記負極層を構成する負極活物質が金属リチウムである、請求項1に記載の電気化学セルの製造方法。
【請求項3】
固体電解質層と、前記固体電解質層の一方の面に位置する正極層と、前記固体電解質層の他方の面に位置する負極層とを有する電気化学セルの製造方法であって、
正極活物質を含む正極スラリーを第一の多孔質体に含浸させた正極層前駆体と、
負極活物質を含む負極スラリーを第二の多孔質体に含浸させた負極層前駆体と、
前記固体電解質層との積層体を焼成して、前記正極層と前記固体電解質層と前記負極層とが接合した第二の積層体とする、電気化学セルの製造方法。
【請求項4】
前記固体電解質層が多孔質体ではない、請求項1~3のいずれか一項に記載の電気化学セルの製造方法。
【請求項5】
前記固体電解質層を構成する固体電解質が、下記式(1)で表されるガーネット型酸化物を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の電気化学セルの製造方法。
Li-La-M’-M”-O ・・・(1)
[式(1)中、M’及びM”は、Zr、Nb、Ta、Ga及びBaから選ばれる1種以上の元素を表す。]
【請求項6】
前記第一の多孔質体が、下記式(2)で表されるナシコン型酸化物及び下記式(3)で表されるペロブスカイト型酸化物から選ばれる1種以上を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の電気化学セルの製造方法。
Li1+yAlyTi2-y(PO4)3 ・・・(2)
Li3xLa2/3-xTiO3 ・・・(3)
[式(2)中、yは0.05~0.6の数である。式(3)中、xは0.033~0.17の数である。]
【請求項7】
固体電解質層と、前記固体電解質層の一方の面に位置する正極層と、前記固体電解質層の他方の面に位置する負極層とを有する電気化学セルであって、
前記正極層は、第一の多孔質体の孔部に正極活物質が担持されてなり、
前記正極層と前記固体電解質層とが接合した第一の積層体を有する、電気化学セル。
【請求項8】
前記負極層を構成する負極活物質が金属リチウムである、請求項7に記載の電気化学セル。
【請求項9】
固体電解質層と、前記固体電解質層の一方の面に位置する正極層と、前記固体電解質層の他方の面に位置する負極層とを有する電気化学セルであって、
前記正極層は、第一の多孔質体の孔部に正極活物質が担持されてなり、
前記負極層は、第二の多孔質体の孔部に負極活物質が担持されてなり、
前記正極層と前記固体電解質層と前記負極層とが接合した第二の積層体を有する、電気化学セル。
【請求項10】
前記固体電解質層が多孔質体ではない、請求項7~9のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項11】
前記固体電解質層を構成する固体電解質が、下記式(1)で表されるガーネット型酸化物を含む、請求項7~10のいずれか一項に記載の電気化学セル。
Li-La-M’-M”-O ・・・(1)
[式(1)中、M’及びM”は、Zr、Nb、Ta、Ga及びBaから選ばれる1種以上の元素を表す。]
【請求項12】
前記第一の多孔質体が、下記式(2)で表されるナシコン型酸化物及び下記式(3)で表されるペロブスカイト型酸化物から選ばれる1種以上を含む、請求項7~11のいずれか一項に記載の電気化学セル。
Li1+yAlyTi2-y(PO4)3 ・・・(2)
Li3xLa2/3-xTiO3 ・・・(3)
[式(2)中、yは0.05~0.6の数である。式(3)中、xは0.033~0.17の数である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルの製造方法及び電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の電解液や、電解液を高分子ポリマーに保持させたゲル電解質に代えて、無機材料からなる固体電解質を用いる全固体電池(電気化学セル)が知られている。
全固体電池においては、無機材料間の接触抵抗に起因して、固体電解質内部の内部抵抗が高くなり、電池性能が低下する。
【0003】
こうした問題に対して、例えば、特許文献1には、特定のリチウムイオン導電性を示す多孔質固体電解質と前記多孔質固体電解質の孔内部に充填される電池活物質との複合体から構成される全固体電池が提案されている。特許文献1の発明によれば、電池性能を高めることが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の発明では、多孔質を有する固体電解質を用いており、材料の選択肢が限られてしまう問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、電池設計における材料選択の自由度をより高められる電気化学セル及び電気化学セルの製造方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を有する。
本発明に係る電気化学セルの製造方法は、固体電解質層と、前記固体電解質層の一方の面に位置する正極層と、前記固体電解質層の他方の面に位置する負極層とを有する電気化学セルの製造方法であって、正極活物質を含む正極スラリーを第一の多孔質体に含浸させた正極層前駆体と、前記固体電解質層との積層体を焼成して、前記正極層と前記固体電解質層とが接合した第一の積層体とする。
【0008】
この構成によれば、固体電解質層の種類によらず、正極層と、固体電解質層とを容易に接合できる。
加えて、この構成によれば、従来のゾルゲル法のようにゾルの調整やゾルをゲル化する工程といった作業を行う必要がないため、製造に要する時間及びコストを大きく削減することができる。
【0009】
また、前記負極層を構成する負極活物質が金属リチウムであってもよい。
この構成によれば、電気化学セルのエネルギー密度をより高められる。
【0010】
また、本発明に係る電気化学セルの製造方法は、固体電解質層と、前記固体電解質層の一方の面に位置する正極層と、前記固体電解質層の他方の面に位置する負極層とを有する電気化学セルの製造方法であって、正極活物質を含む正極スラリーを第一の多孔質体に含浸させた正極層前駆体と、負極活物質を含む負極スラリーを第二の多孔質体に含浸させた負極層前駆体と、前記固体電解質層との積層体を焼成して、前記正極層と前記固体電解質層と前記負極層とが接合した第二の積層体とする。
【0011】
この構成によれば、固体電解質層の種類によらず、正極層と、固体電解質層と、負極層とを一括して容易に接合できる。
加えて、この構成によれば、従来のゾルゲル法のようにゾルの調整やゾルをゲル化する工程といった作業を行う必要がないため、製造に要する時間及びコストを大きく削減することができる。
【0012】
また、前記固体電解質層が多孔質体ではなくてもよい。
この構成によれば、正極活物質と負極活物質との混合をより確実に抑制できる。このため、電気化学セルの電池性能をより高められる。
【0013】
また、前記固体電解質層を構成する固体電解質が、下記式(1)で表されるガーネット型酸化物を含んでいてもよい。
Li-La-M’-M”-O ・・・(1)
[式(1)中、M’及びM”は、Zr、Nb、Ta、Ga及びBaから選ばれる1種以上の元素を表す。]
この構成によれば、電気化学セルのエネルギー密度をより高められ、加えて、電気化学セルの電気的特性の安定性をより高められる。
【0014】
また、前記第一の多孔質体が、下記式(2)で表されるナシコン型酸化物及び下記式(3)で表されるペロブスカイト型酸化物から選ばれる1種以上を含んでいてもよい。
Li1+yAlyTi2-y(PO4)3 ・・・(2)
Li3xLa2/3-xTiO3 ・・・(3)
[式(2)中、yは0.05~0.6の数である。式(3)中、xは0.033~0.17の数である。]
この構成によれば、電気化学セルのエネルギー密度をより高められる。
【0015】
本発明に係る電気化学セルは、固体電解質層と、前記固体電解質層の一方の面に位置する正極層と、前記固体電解質層の他方の面に位置する負極層とを有する電気化学セルであって、前記正極層は、第一の多孔質体の孔部に正極活物質が担持されてなり、前記正極層と前記固体電解質層とが接合した第一の積層体を有する。
【0016】
この構成によれば、多孔質ではない固体電解質層を用いることができ、電池設計における材料選択の自由度をより高められる。
【0017】
また、前記負極層を構成する負極活物質が金属リチウムであってもよい。
この構成によれば、電気化学セルのエネルギー密度をより高められる。
【0018】
また、本発明に係る電気化学セルは、固体電解質層と、前記固体電解質層の一方の面に位置する正極層と、前記固体電解質層の他方の面に位置する負極層とを有する電気化学セルであって、前記正極層は、第一の多孔質体の孔部に正極活物質が担持されてなり、前記負極層は、第二の多孔質体の孔部に負極活物質が担持されてなり、前記正極層と前記固体電解質層と前記負極層とが接合した第二の積層体を有する。
【0019】
この構成によれば、多孔質ではない固体電解質層を用いることができ、電池設計における材料選択の自由度をより高められる。
【0020】
また、前記固体電解質層が多孔質体ではなくてもよい。
この構成によれば、正極活物質と負極活物質との混合をより確実に抑制できる。このため、電気化学セルの電池性能をより高められる。
【0021】
また、前記固体電解質層を構成する固体電解質が、下記式(1)で表されるガーネット型酸化物を含んでいてもよい。
Li-La-M’-M”-O ・・・(1)
[式(1)中、M’及びM”は、Zr、Nb、Ta、Ga及びBaから選ばれる1種以上の元素を表す。]
この構成によれば、電気化学セルのエネルギー密度をより高められ、加えて、電気化学セルの電気的特性の安定性をより高められる。
【0022】
また、前記第一の多孔質体が、下記式(2)で表されるナシコン型酸化物及び下記式(3)で表されるペロブスカイト型酸化物から選ばれる1種以上を含んでいてもよい。
Li1+yAlyTi2-y(PO4)3 ・・・(2)
Li3xLa2/3-xTiO3 ・・・(3)
[式(2)中、yは0.05~0.6の数である。式(3)中、xは0.033~0.17の数である。]
この構成によれば、電気化学セルのエネルギー密度をより高められる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の電気化学セルの製造方法及び電気化学セルによれば、電池設計における材料選択の自由度をより高められる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電気化学セルの断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る多孔質体の模式図である。
【
図3】本発明の第一実施形態に係る電気化学セルの製造方法のフローチャートの一例である。
【
図4】本発明の第一実施形態に係る電気化学セルの製造方法のフローチャートの一例である。
【
図5】本発明の第二実施形態に係る電気化学セルの製造方法のフローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る電気化学セルの実施形態について図面を参照して説明する。以下の実施形態では、電気化学セルの一例として、コイン型の全固体電池(以下、単に「電池」ともいう。)を挙げ、この電池の構成について説明する。
なお、本実施形態の全固体電池は、コイン型に限らず、チップ型、ラミネート型、角型、円筒型といった種々の容器態様とすることができる。また、以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更し、表示している。
【0026】
≪電気化学セル≫
図1に示すように、本実施形態の電池(電気化学セル)1は、いわゆるコイン型の外装体2と、外装体2の内部に収容された電極体3と、外装体2を密封するためのガスケット30とを備えている。
外装体2は、有底円筒状の正極缶10と、正極缶10の開口部にガスケット30を介して固定され、正極缶10との間に収容空間を形成する有蓋円筒状の負極缶20とを有している。そして、正極缶10の開口部の周縁を負極缶20側にかしめて封止することで、外装体2が形成されている。
【0027】
正極缶10及び負極缶20は金属製であり、それぞれ電極体3と電気的に接続することで、正極端子及び負極端子として機能する。正極缶10の材質としては従来公知のものを何ら制限なく用いることができ、例えば、SUS316L、SUS329J4L等の公知のステンレス鋼、あるいはステンレス鋼以外の金属材料を採用できる。負極缶20の材質としては正極缶10の材質同様に、従来公知のものを何ら制限なく用いることができ、例えば、SUS316L、SUS329J4L、SUS304等の公知のステンレス鋼、あるいはステンレス鋼以外の金属材料を採用できる。また、負極缶20の材質として、例えば、ステンレス鋼に銅やニッケル等が圧接されてなるクラッド材を用いてもよい。
【0028】
電極体3は、固体電解質層7の一方の面に位置する正極層5と、固体電解質層7の他方の面に位置する負極層6とを有する。固体電解質層7は、固体電解質を含む。正極層5は、正極活物質を含む。負極層6は、負極活物質を含む。
正極層5は正極缶10と、負極層6は負極缶20と、それぞれ電気的に接続している。正極層5と固体電解質層7とは後述のプロセスにより一体化され、外装体2の内部に収容されている。
【0029】
ここで、
図2に、本実施形態の正極層5の模式図を示す。正極層5は、偏平円柱状(ペレット形状)に形成された第一の多孔質体51の孔部51aの内部に正極活物質52が担持されている。
第一の多孔質体51の厚さT
51は、例えば、100~1000μmが好ましく、200~900μmがより好ましく、300~800μmがさらに好ましい。厚さT
51が上記下限値以上であると、電池1の電気容量をより高められる。厚さT
51が上記上限値以下であると、電池1の厚さをより薄くできる。
【0030】
第一の多孔質体51の孔部51aの長径D51aは、例えば、0.01~10μmが好ましく、0.1~8μmがより好ましく、1~6μmがさらに好ましい。孔部51aの長径D51aが上記下限値以上であると、正極スラリーをより含浸させやすい。孔部51aの長径D51aが上記上限値以下であると、第一の多孔質体51の強度をより高められる。
第一の多孔質体51の孔部51aの長径D51aは、例えば、顕微鏡等で観察することにより測定できる。ここで、「孔部51aの長径D51a」とは、一つの孔部51aにおける開口部の最大径をいう。
【0031】
第一の多孔質体51としては、例えば、下記式(2)で表されるナシコン型酸化物、下記式(3)で表されるペロブスカイト型酸化物等が挙げられる。
Li1+yAlyTi2-y(PO4)3 ・・・(2)
Li3xLa2/3-xTiO3 ・・・(3)
式(2)中、yは0.05~0.6の数である。式(3)中、xは0.033~0.17の数である。
第一の多孔質体51が、上記酸化物であると、リチウムイオンの高い導電性を維持でき、正極活物質52をより安定して担持できる。
第一の多孔質体51は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
第一の多孔質体51は、例えば、ゾルゲル法を用いて作製できる。具体的には、基板上にポリスチレンやポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂等の高分子の粒子を堆積させ、この堆積物中に第一の多孔質体51の前駆体であるゾルを充填し、ゾルをゲル化した後、高分子の粒子を焼成して取り除くことにより第一の多孔質体51を作製することができる。またゾルゲル法以外では、例えば、支持体上に造孔剤粒子及び電解質粒子を含む堆積物を形成した後、得られた堆積物を加熱して造孔剤粒子を除去することにより作製してもよい。
【0033】
正極活物質52としては、全固体電池に用いられる公知のものを利用できる。正極活物質52としては、例えば、一元系正極材、二元系正極材、三元系正極材等が挙げられる。
一元系正極材としては、例えば、LiMO2(Mは、Co、Ni、Mn、Al、Fe等の金属元素を表す)が挙げられる。
二元系正極材としては、例えば、Li1-xCoMnO4(xは、0<x<1を満たす数)、LixFePO4(xは、0<x≦1を満たす数)、LixV6O13(xは、0<x≦1を満たす数)、Li1-xMn2O4(xは、0<x<1を満たす数)、Li1-xNi0.5Mn1.5O4(xは、0<x<1を満たす数)等が挙げられる。
三元系正極材としては、例えば、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2等が挙げられる。
これらの正極活物質52は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの正極活物質52は、第一の多孔質体51の孔部51aの内部に担持されている。
【0034】
第一の多孔質体51の孔部51aの内部には、正極活物質52のほか、必要に応じて導電助剤、もしくは結着剤が配置されていてもよい。
導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ等の炭素材料を用いることができる。
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等を用いることができる。
【0035】
本実施形態では、上述したような第一の多孔質体51と正極活物質52とを備えた正極層5とすることで、活物質と多孔質体との接触面積を高め、正極層5の内部抵抗を低減することができる。
【0036】
図2は、本実施形態の負極層6の模式図に読み替えることができる。
図2に示すように、負極層6は、負極活物質62を含む。
負極活物質62としては、全固体電池に用いられる公知のものを利用できる。負極活物質62としては、例えば、黒鉛等の炭素材料、SiやSn等の金属もしくはその酸化物、金属リチウムといった種々の材料を用いることができる。
【0037】
負極活物質62が炭素材料もしくは金属酸化物といった粉末状で用いられる材料の場合、正極層5と同様に、ペレット状の第二の多孔質体61の孔部61aの内部に担持される。このとき必要に応じて、上述した導電助剤や結着剤も孔部61aの内部に配置されていてもよい。第二の多孔質体61の材質としては、上述の第一の多孔質体51と同様の材料を用いることができる。
【0038】
負極活物質62が金属である場合、円形に打ち抜かれたシート状、円板状、もしくはペレット状で用いられる。特に、負極層6(負極活物質62)が金属リチウムである場合、電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0039】
固体電解質層7に含まれる固体電解質としては、例えば、下記式(1)で表されるガーネット型酸化物等が挙げられる。
Li-La-M’-M”-O ・・・(1)
式(1)中、M’及びM”は、Zr、Nb、Ta、Ga及びBaから選ばれる1種以上の元素を表す。
これらの中でも特に、ランタンジルコン酸リチウム(LLZ、Li7La3Zr2O12)が好ましい。固体電解質としてLLZを用いると、リチウムイオンの高い導電性を維持でき、負極層6に含まれる金属リチウムに対する化学的な安定性をより高められる。
【0040】
固体電解質層7は、多孔質体でないこと(非多孔質体)が好ましい。固体電解質層7が多孔質体でないと、正極活物質52と負極活物質62との混合をより確実に抑制できる。このため、電気化学セル1の電池性能をより高められる。
本明細書において、「多孔質」とは、多数の細孔を有する性質をいう。「多孔質でない」とは、細孔を有しない性質、すなわち、緻密質であることをいう。
【0041】
固体電解質層7は、多孔質体であってもよい。固体電解質層7が多孔質体の場合、多孔質体としては、例えば、上述した第一の多孔質体51や第二の多孔質体61と同様の材料を用いることができる。
本実施形態の固体電解質層7は、多孔質体に加えて、非多孔質体を適用できる。このため、電池設計における材料選択の自由度をより高められる。
【0042】
本実施形態の電極体3は、一対の正極層5と負極層6とが固体電解質層7を介して積層された構造を有する。
しかし、電極体は、上述した構造に限られない。例えば、金属箔上に形成された正極層5と金属箔上に形成された負極層6とが固体電解質層7を介して対向した状態で、積層、折畳、巻回といった方法により一体化され、外装体2の内部に収容された構成の電極体であってもよい。
【0043】
≪電気化学セルの製造方法≫
本発明の電気化学セルの製造方法は、正極活物質を含む正極スラリーを第一の多孔質体に接触させて正極層前駆体を得、前記正極層前駆体と、前記固体電解質層とを焼成して接合し、前記正極層を形成する工程、を有する。
以下に、本実施形態の電気化学セルの製造方法について、図面を参照して、詳細に説明する。
【0044】
図3に示すように、本実施形態の電気化学セルの製造方法は、正極スラリーを作製する工程(S11)と、正極スラリーを第一の多孔質体51に含浸させて正極層前駆体を作製する工程(S12)と、正極層前駆体を固体電解質層7の一方の面に積層する工程(S13)と、正極層前駆体と固体電解質層7との積層体を焼成する工程(S14)とを有する。S11~S14の各工程を経て、正極層5と固体電解質層7とが接合した第一の積層体が得られる。
【0045】
正極スラリーを作製する工程(S11)では、正極活物質52と結着剤と有機溶剤とを混合することにより正極スラリーを作製する。このとき必要に応じて導電助剤をさらに混合してもよい。
正極活物質52、結着剤及び導電助剤としては上述した各材料を用いることができる。
【0046】
有機溶剤としては、例えば、アルコール類、ケトン類等が挙げられる。
アルコール類としては、例えば、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール等が挙げられる。
ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0047】
正極活物質52と結着剤と有機溶剤とを混合する際に使用する混合機としては、例えば、混成機や攪拌機等を使用でき、これらの混合機を用いて各材料を均一に混合することができる。
混合する際の時間(混合時間)は、例えば、10~24時間が好ましく、12~18時間がより好ましい。混合時間が上記下限値以上であると、充分に均一な正極スラリーが得られる。混合時間が上記上限値以下であると、生産性をより高められる。
【0048】
正極スラリーの25℃における粘度は、例えば、1000~10000mPa・sが好ましく、3000~9000mPa・sがより好ましく、4000~8000mPa・sがさらに好ましい。正極スラリーの25℃における粘度が上記下限値以上であると、正極スラリーをより容易に固化できる。正極スラリーの25℃における粘度が上記上限値以下であると、第一の多孔質体51により含浸しやすくなる。
正極スラリーの25℃における粘度は、例えば、測定対象を25℃に調整し、B型粘度計を用い、回転数2000rpmで、ローターの回転開始から60秒後の値を読み取ることによって求められる。
【0049】
正極スラリーにおける正極活物質52の含有量は、正極スラリーの総質量に対して、例えば、10~50質量%が好ましく、15~40質量%がより好ましく、20~30質量%がさらに好ましい。正極活物質52の含有量が上記下限値以上であると、電気容量をより高められる。正極活物質52の含有量が上記上限値以下であると、正極スラリーの粘度を低減でき、第一の多孔質体51により含浸しやすくなる。
【0050】
正極スラリーにおける結着剤の含有量は、正極スラリーの総質量に対して、例えば、5~30質量%が好ましく、10~25質量%がより好ましく、15~20質量%がさらに好ましい。結着剤の含有量が上記下限値以上であると、第一の多孔質体51に正極活物質52をより担持させやすい。結着剤の含有量が上記上限値以下であると、正極スラリーの粘度を低減でき、第一の多孔質体51により含浸しやすくなる。
【0051】
正極スラリーにおける有機溶剤の含有量は、正極スラリーの総質量に対して、例えば、10~90質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましく、30~65質量%がさらに好ましい。有機溶剤の含有量が上記下限値以上であると、各材料を均一に混合しやすい。有機溶剤の含有量が上記上限値以下であると、電気容量をより高められる。
【0052】
次に、正極スラリーを第一の多孔質体51に含浸させて正極層前駆体を作製する(工程S12)。正極スラリーを第一の多孔質体51に含浸させることにより、第一の多孔質体51の孔部51aの内部に正極スラリーが侵入して、正極活物質52が担持される。加えて、第一の多孔質体51の表面に正極スラリーが付着した状態となる。
正極スラリーを第一の多孔質体51に含浸させる方法としては、例えば、正極スラリーが収容された容器内に第一の多孔質体51を浸漬する方法が挙げられる。
浸漬する際の温度は、常温(例えば、5~30℃)でよい。
浸漬する際の圧力は、常圧(例えば、0.1MPa)でよい。
浸漬する際の時間(浸漬時間)は、例えば、10~60秒間が好ましく、20~50秒間がより好ましい。浸漬時間が上記下限値以上であると、正極スラリーを第一の多孔質体51に充分含浸できる。浸漬時間が上記上限値以下であると、生産性をより高められる。
【0053】
次に、正極層前駆体を固体電解質層7の一方の面に積層する(S13)。正極層前駆体は、表面に正極スラリーが付着した状態となるため、正極層前駆体を固体電解質層7の一方の面に積層することで、正極層前駆体と固体電解質層7との密着性をより高められる。
【0054】
次に、正極層前駆体と固体電解質層7との積層体を焼成する(S14)。正極層前駆体と固体電解質層7との積層体を一括して焼成することにより、正極スラリーに含まれる有機溶剤が除去され、正極層5と固体電解質層7とが接合した第一の積層体が得られる。
正極層前駆体と固体電解質層7との積層体を一括して焼成することにより、正極層前駆体及び固体電解質層7の双方が緻密質であり、加圧によっても充分に接合できない材料同士であっても、正極層5と固体電解質層7とを接合できる。このため、固体電解質層7の種類によらず、正極層5と固体電解質層7とを容易に接合でき、電池設計における材料選択の自由度をより高められる。
【0055】
工程S14では、正極層前駆体と固体電解質層7との積層体を焼成炉等の内部に配置させて加熱処理を行う。
焼成炉としては、例えば、ランプ炉やマッフル炉等が挙げられる。
加熱処理における温度(焼成温度)は、例えば、100~1500℃が好ましく、200~1300℃がより好ましく、300~1100℃がさらに好ましい。焼成温度が上記下限値以上であると、有機溶剤を充分に除去できる。焼成温度が上記上限値以下であると、環境負荷を低減できる。
なお、焼成温度を300℃以上とすることで、有機溶剤に加えて、結着剤を除去できる。結着剤を除去することで、正極活物質52と固体電解質層7との接触抵抗をより低減できる。
焼成温度は、電池1の電気的特性や正極活物質52と固体電解質層7との接触抵抗に応じて適宜調整できる。
【0056】
本実施形態の電気化学セル(全固体電池)は、上述した工程S11~S14により作製された第一の積層体を用いて製造することができる。本実施形態の電気化学セルの製造方法のフローチャートの一例を
図4に示す。
図4において、工程S11~S14は、上述した
図3のフローチャートと共通するため、その説明を省略する。
【0057】
図4に示す方法では、作製した第一の積層体と、負極層6とを接合する(S15)。第一の積層体と、負極層6との接合は、加圧して行うことが好ましい。このとき、固体電解質層7の他方の面に負極層6を積層し、固体電解質層7の厚さ方向に圧力を加える。圧力を加えることで、正極層5、固体電解質層7、負極層6がこの順に積層された電極体3が得られる。
【0058】
圧力を加える際は、公知の加圧手段を用いることができる。加圧手段としては、例えば、機械加圧、ガス加圧等が挙げられる。機械加圧としては、例えば、ボールネジや油圧等を介して加圧するものが挙げられる。ガス加圧としては、例えば、空気を介して加圧するものが挙げられる。
接合する際の圧力(加圧圧力)は、例えば、100~2000MPaが好ましく、200~1500MPaがより好ましく、300~1000MPaがさらに好ましい。加圧圧力が上記下限値以上であると、各層が充分に密着した電極体3が得られる。加圧圧力が上記上限値以下であると、各層、特に正極層5の劣化を抑制できる。
【0059】
負極層6としては、加圧して接合することにより固体電解質層7と密着可能な材料が好ましい。このような材料としては、例えば、金属リチウムが挙げられる。
【0060】
得られた電極体3を正極缶10と負極缶20との間に配置し、正極缶10と負極缶20とを、ガスケット30を介してかしめ封止をして組立てる(S16)。工程S16により、外装体2の内部に電極体3が収容された全固体電池1が得られる。
【0061】
ガスケット30としては、例えば、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリフェニルサルファイド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、液晶ポリマー(LCP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリエーテルニトリル樹脂(PEN)、ポリエーテルケトン樹脂(PEK)、ポリアリレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フッ素樹脂等のプラスチック樹脂が挙げられる。これらの中でも、ガスケット30にポリプロピレン樹脂を用いることが、高温環境下における使用や保管時にガスケットが大きく変形することを防止でき、全固体電池の封止性がさらに向上する観点から好ましい。
ガスケット30を構成するプラスチック樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
ガスケット30は、正極缶10と負極缶20との間に挟まれ、その少なくとも一部が圧縮された状態となる。この際の圧縮率は特に限定されず、電池1の内部を確実に封止でき、かつ、ガスケット30に破断が生じない範囲とすればよい。
【0063】
次に、電気化学セルの製造方法の第二実施形態について、
図5に基づいて説明する。
本実施形態では、上述した実施形態の正極層前駆体に加えて、負極側でも負極層前駆体を作製し、正極層前駆体と固体電解質層7と負極層前駆体との積層体を焼成して、正極層5と固体電解質層7と負極層6とが接合した第二の積層体を作製することを特徴とする。
本実施形態の電気化学セルの製造方法によれば、負極層6が第二の多孔質体61を有する材料であっても、固体電解質層7との密着性をより高められる。このため、電池設計における材料選択の自由度をより一層高められる。
【0064】
本実施形態は、上述した工程S11、工程S11に加えて、負極スラリーを作製する工程(S21)と、負極スラリーを第二の多孔質体61に含浸させて負極層前駆体を作製する工程(S22)と、正極層前駆体を固体電解質層7の一方の面に積層し、負極層前駆体を固体電解質層7の他方の面に積層する工程(S23)と、正極層前駆体と固体電解質層7と負極層前駆体との積層体を焼成する工程(S24)と、得られた第二の積層体(電極体3)を正極缶10と負極缶20との間に配置し、正極缶10と負極缶20とを、ガスケット30を介してかしめ封止をして組立てる工程(S25)と、を有する。
【0065】
本実施形態において、負極層前駆体を作製する、工程S21、工程S22は、正極層前駆体を作製する、工程S11、工程S12と共通するため、その説明を省略する。
工程S23では、板状(シート状又は円板状)の固体電解質層7の一方の面に正極層前駆体を、他方の面に負極層前駆体を、それぞれ積層する。正極層前駆体は第一の多孔質体51の表面に正極スラリーが、負極層前駆体は第二の多孔質体61の表面に負極スラリーがそれぞれ付着しており、固体電解質層7との密着性をより高められる。
【0066】
次いで、正極層前駆体と固体電解質層7と負極層前駆体との積層体を一括して焼成することで、正極層5と固体電解質層7と負極層6とが接合された第二の積層体が得られる(S24)。
焼成する際の焼成温度は、上述した工程S14における焼成温度と同様である。
【0067】
得られた第二の積層体(電極体3)を正極缶10と負極缶20との間に配置し、正極缶10と負極缶20とを、ガスケット30を介してかしめ封止をして組立てることにより、外装体2の内部に電極体3が収容された電池1を作製することができる(S25)。
【0068】
本発明の電気化学セルの製造方法は、正極活物質を含む正極スラリーを第一の多孔質体に含浸させた正極層前駆体と、固体電解質層との積層体を焼成して、正極層と固体電解質層とが接合した第一の積層体とするため、固体電解質層の種類によらず、正極層と、固体電解質層とを容易に接合できる。このため、電池設計における材料選択の自由度をより高められる。加えて、従来のゾルゲル法のようにゾルの調整やゾルをゲル化する工程といった作業を行う必要がないため、製造に要する時間及びコストを大きく削減することができる。
本発明の電気化学セルは、正極層は、第一の多孔質体の孔部に正極活物質が担持されてなり、正極層と固体電解質層とが接合した第一の積層体を有する。このため、活物質と多孔質体との接触面積を高め、正極層の内部抵抗を低減することができる。
本発明の電気化学セルは、内部抵抗を低減した正極層を有するため、種々の固体電解質層を利用できる。このため、電池設計における材料選択の自由度をより高められる。加えて、多孔質の固体電解質層を作製するためのゾルゲル法のようにゾルの調整やゾルをゲル化する工程といった作業を行う必要がないため、製造に要する時間及びコストを大きく削減することができる。
【0069】
以上、本発明の電気化学セル及び電気化学セルの製造方法について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述の実施形態では、正極スラリーを第一の多孔質体51に含浸させて正極層前駆体を作製した。しかし、あらかじめ用意された正極層前駆体を用いて第一の積層体を作製してもよい。
例えば、上述の実施形態では、第一の積層体に負極層を接合した。しかし、固体電解質層と負極層とを接合した後に、正極層と固体電解質層とを接合してもよい。
上述の実施形態では、電極体3は一つであるが、電極体の数は二つ以上でもよい。電極体の数を二つ以上とすることで、電気化学セルの電気容量をより高められる。
本発明の電気化学セルの製造方法によれば、電極体を容易にかつ、大量に作製できる。このため、電極体を二つ以上有する電気化学セルを容易に作製できる。
【符号の説明】
【0070】
1…電気化学セル、2…外装体、3…電極体、5…正極層、6…負極層、7…固体電解質層、10…正極缶、20…負極缶、30…ガスケット、51…第一の多孔質体、51a,61a…孔部、52…正極活物質、61…第二の多孔質体、62…負極活物質