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特開2023-13251切削インサートおよび刃先交換式回転切削工具とそのボデー
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013251
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】切削インサートおよび刃先交換式回転切削工具とそのボデー
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/22 20060101AFI20230119BHJP
   B23C 5/10 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
B23C5/22
B23C5/10 D
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117280
(22)【出願日】2021-07-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】堀 一生
(72)【発明者】
【氏名】佐治 龍一
【テーマコード(参考)】
3C022
【Fターム(参考)】
3C022KK01
3C022KK06
3C022KK12
3C022KK16
3C022KK25
3C022MM06
(57)【要約】
【課題】切削工具のボデーへの取り付け精度を向上させることができ、なおかつ、ボデーに載せた状態での刃数を増やすことができるようにした構造とする。
【解決手段】切削インサート1は、長手方向LDと短手方向SDとを有する形状である上面10と、上面10と反対側に位置する下面と、上面10と下面とを連ねるように形成された周側面30と、上面10と周側面30との交差稜線、および下面と周側面30との交差稜線のそれぞれに形成された、長手方向に延びる稜線が曲線状である切れ刃51,52と、上面10から下面まで貫通するねじ穴60と、を備える。周側面30のうち、上面10および下面の長手方向LDに位置する端面31,32が、上面10または下面に対して傾斜し、かつ互いに平行である。周側面30のうち、切れ刃51,52と反対側に位置する基準面33は上面10または下面に対して垂直な平坦面である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向と短手方向とを有する形状である上面と、
前記上面と反対側に位置し、長手方向と短手方向とを有する形状である下面と、
前記上面と前記下面とを連ねるように形成された周側面と、
前記上面と前記周側面との交差稜線、および前記下面と前記周側面との交差稜線のそれぞれに形成された、長手方向に延びる稜線が曲線状である切れ刃と、
前記上面から前記下面まで貫通するねじ穴と、
を備え、
前記周側面のうち、前記上面および前記下面の長手方向に位置する端面が、前記上面または前記下面に対して傾斜し、かつ互いに平行であり、
前記周側面のうち、前記切れ刃と反対側に位置する基準面は前記上面および前記下面に対して垂直な平坦面である、
切削インサート。
【請求項2】
前記曲線状の切れ刃と、前記上面または前記下面の長手方向に位置する交差領域とが、前記上面または下面に垂直な方向から見て曲部で繋がっている、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
前記曲部は円弧状である、請求項2に記載の切削インサート。
【請求項4】
前記曲部の曲率半径は、前記切れ刃の曲率半径よりも小さい、請求項3に記載の切削インサート。
【請求項5】
前記上面と前記下面とが、前記基準面に垂直な対称中心軸を中心とした軸対称形状であり、前記端面の傾斜角度と同角度で互いが前記長手方向に沿ってずれて位置している、請求項1から4のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項6】
前記切れ刃の逃げ面は、その逃げ角が、前記長手方向に沿って正の角度から負の角度へと漸次変化する形状である、請求項5に記載の切削インサート。
【請求項7】
前記上面は、前記長手方向および前記短手方向に垂直な軸方向に沿った当該上面の高さが、前記切れ刃に近づくにつれていったん低くなり、さらに前記切れ刃に近づくにつれて漸次高くなる形状に形成されている、請求項6に記載の切削インサート。
【請求項8】
前記軸方向に沿った前記切れ刃の高さが前記上面のうち前記ねじ穴まわりの平坦部分よりも高くなる形状に形成されている、請求項7に記載の切削インサート。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に切削インサートが着脱自在である切削工具のボデーであって、
前記切削インサートにおける前記上面または前記下面のうちの前記ねじ穴まわりの平坦部分が取付面となって着座する着座面と、
該着座面に垂直であり、前記切削インサートにおける前記基準面が当接する拘束面と、
を備えるボデー。
【請求項10】
請求項9に記載のボデーを備える、刃先交換式回転切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削インサートおよび刃先交換式回転切削工具とそのボデーに関する。
【背景技術】
【0002】
複雑形状の部品や金型等の被削材等を5軸加工する際、仕上げ工程において高効率加工や良好な加工面の確保を目的として、切れ刃が曲線状となった切削インサート、及びこの切削インサートが着脱自在な刃先交換式回転切削工具が用いられることがある。仕上げ工程などで用いられるこのような切削インサートは、切れ刃輪郭などの要求精度が高いものとなる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-189855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のごとき従来の切削インサートは、切れ味の確保を目的としてポジ型の形状となっていることが影響して切削工具のボデーへの取り付け精度が劣ることがある。また、切削工具のボデーへの取り付け時に使用するねじのサイズを同等としながらも一つの切削インサート内のコーナ数を増やす(例えば片面2コーナ仕様にする)とインサート幅が大きくなることから、ボデーに載せた状態にて刃数を増やすのが難しいという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、切削工具のボデーへの取り付け精度を向上させることができ、なおかつ、ボデーに載せた状態での刃数を増やすことができるようにした構造の切削インサートおよび刃先交換式回転切削工具とそのボデーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
長手方向と短手方向とを有する形状である上面と、
上面と反対側に位置し、長手方向と短手方向とを有する形状である下面と、
上面と下面とを連ねるように形成された周側面と、
上面と周側面との交差稜線、および下面と周側面との交差稜線のそれぞれに形成された、長手方向に延びる稜線が曲線状である切れ刃と、
上面から下面まで貫通するねじ穴と、
を備え、
周側面のうち、上面および下面の長手方向に位置する端面が、上面または下面に対して傾斜し、かつ互いに平行であり、
周側面のうち、切れ刃と反対側に位置する基準面は上面または下面に対して垂直な平坦面である、切削インサートである。
【0007】
上記のごとき態様によれば、周側面のうち、切れ刃と反対側に位置する基準面が上面および下面に対して垂直な平坦面であることから、従来のインサート形状に比してより安定した取り付けが可能となり、また、上面および下面の長手方向に位置する端面を互いに平行かつ上面および下面に対して傾斜させることで従来のインサート形状よりも切削時のインサートクランプ剛性を高めることが可能となる。さらに、両面(上面および下面)に切れ刃を有する仕様にすることで、インサート幅を大きくせずとも一つの切削インサート内のコーナ数を増やすことができるため、ボデーに載せた状態での刃数を増やすことが可能となっている。
【0008】
上記のごとき態様の切削インサートにおいて、曲線状の切れ刃と、上面または下面の長手方向に位置する交差領域とが、上面または下面に垂直な方向から見て曲部で繋がっていてもよい。
【0009】
上記のごとき態様の切削インサートにおける曲部は円弧状であってもよい。
【0010】
上記のごとき態様の切削インサートにおいて、曲部の曲率半径は、切れ刃の曲率半径より小さくてもよい。
【0011】
上記のごとき態様の切削インサートにおいて、上面と下面とが、基準面に垂直な対称中心軸を中心とした軸対称形状であり、端面の傾斜角度と同角度で互いが長手方向に沿ってずれて位置していてもよい。
【0012】
上記のごとき態様の切削インサートにおいて、切れ刃の逃げ面は、その逃げ角が、長手方向に沿って正の角度から負の角度へと漸次変化する形状であってもよい。
【0013】
上記のごとき態様の切削インサートにおいて、上面は、長手方向および短手方向に垂直な軸方向に沿った当該上面の高さが、切れ刃に近づくにつれていったん低くなり、さらに切れ刃に近づくにつれて漸次高くなる形状に形成されていてもよい。
【0014】
上記のごとき態様の切削インサートは、軸方向に沿った切れ刃の高さが上面のうちねじ穴まわりの平坦部分よりも高くなる形状に形成されていてもよい。
【0015】
本発明の別の態様は、上記のごとき切削インサートが着脱自在である切削工具のボデーであって、
切削インサートにおける上面または下面のうちのねじ穴まわりの平坦部分が取付面となって着座する着座面と、
該着座面に垂直であり、切削インサートにおける基準面が当接する拘束面と、
を備えるボデーである
【0016】
本発明の別の態様は、上記のごときボデーを備える、刃先交換式回転切削工具である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】切削インサートが着脱自在に装着された刃先交換式回転切削工具の一例を示す図である。
図1B図1Aに示した刃先交換式回転切削工具の一部を拡大して示す図である。
図2A】切削インサートが着脱自在に装着された刃先交換式回転切削工具の一例を示す、刃先側から見た斜視図である。
図2B図2Aに示した刃先交換式回転切削工具の一部を拡大して示す図である。
図3A】切削インサートが着脱自在に装着された刃先交換式回転切削工具の一例を示す、側面から見た図である。
図3B図3Aに示した刃先交換式回転切削工具の一部を縦断面にして示す図である。
図4】切削インサートが着脱自在に装着された刃先交換式回転切削工具の一例を示す、先端側から見た図(底面図)である。
図5】切削インサートの一例を示す斜視図である。
図6】切削インサートをその上面から見た図(平面図)である。
図7】切削インサートの切れ刃が設けられた周側面を、上面(または下面)の短手方向に沿って見た図である。
図8】切削インサートの切れ刃が設けられた周側面のうち端面と呼ぶ面を、上面(または下面)の長手方向に沿って見た図である。
図9A図6中のIXA-IXA線における切削インサートの断面図である。
図9B図6中のIXB-IXB線における切削インサートの断面図である。
図9C図6中のIXC-IXC線における切削インサートの断面図である。
図10A図6中のXA-XA線における切削インサートの断面図である。
図10B図10Aに示した切削インサートの切れ刃の部分を拡大して示す図である。
図11】切削インサートの上面の切れ刃と下面の切れ刃との位置の違いを拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る切削インサートの好適な実施形態について詳細に説明する。以下においては、まず、ワーク(図示省略)の切削に用いられる切削インサート1の概要を説明し、その後、本発明に係る切削インサート1の特徴的な部分について説明する(図1A等参照)。
【0019】
≪刃先交換式回転切削工具の概要≫
刃先交換式回転切削工具100は、特に複雑な形状の部品や金型等の被削材(ワーク)等を5軸加工する際に仕上げ工程において高効率な加工、良好な加工面の確保を目的として用いられる工具である。本実施形態では、切れ刃51,52が曲線状となった切削インサート1が着脱自在である刃先交換式回転切削工具100を用いる(図1A図4参照)。このような刃先交換式回転切削工具100は、ボデー110の先端に設けた着座面112に切削インサート1を装着した状態で工具回転軸100Cを中心に回転し、ワークを切削する(図4等参照)。
【0020】
≪切削インサートの概要≫
本実施形態の切削インサート1は、中心軸Xに沿って図5中の上方を向いた第1端面たる上面10、それとは反対の下方を向いた第2端面たる下面20、上面10と下面20を連ねるように形成された周側面30、切れ刃51,52、上面10から下面20まで貫通するねじ穴60、コーナ部(曲部)70等を有する(図5等参照)。
【0021】
上面10と下面20は、長手方向(図中、符号LDで示す)に延びる長辺部と短手方向(図中、符号SDで示す)に延びる短辺部とを有する略矩形状の面である。下面20は、当該切削インサート1が刃先交換式回転切削工具100に装着された際にボデー110の着座面112に接する取付面ないしは拘束面となる平坦部分20Fを含むように構成されている。また、上面10は、当該切削インサート1を反転させて刃先交換式回転切削工具100に装着した際にボデー110の着座面に接する取付面ないしは拘束面となる平坦部分10Fを含むように構成されている。
【0022】
切れ刃51は上面10と周側面30との交差稜線、切れ刃52は下面20と周側面30との交差稜線にそれぞれに、長手方向に延びる当該稜線が曲線状となるように形成されている(図5図8等参照)。本実施形態では、これら切れ刃51,52を円弧状に形成している(図6等参照)。なお、このように曲線状ないしは円弧状に形成された切れ刃51,52にコーナ部70は含まれておらず、これら切れ刃51,52とコーナ部70とは区別された構成となっている。
【0023】
上面10および下面20のうち上記の切れ刃51,52に連なる部分にはすくい部15,25が形成されている(図10A等参照)。本実施形態の切削インサート1において、上面10のすくい部15は、長手方向LDおよび短手方向SDに垂直な軸(すなわち中心軸X)に沿った高さが、切れ刃51に近づくにつれていったん僅かに低くなり、さらに切れ刃51に近づくにつれて漸次高くなり、切れ刃51の近傍においては上面10のうち前記ねじ穴まわりの平坦部分(別言すれば、ボデー110の着座面に接する取付面ないしは拘束面となる平坦部分)10Fよりも高くなる形状に形成されている(図10B参照)。下面20のすくい部25も、同様の形状に形成されている(図10A等参照)。上面10および下面20のうち切れ刃51,52に連なる部分をこのような形状とすることで、当該切削インサート1のすくい角がよりポジ方向に大きくできるため、切削抵抗が軽減され、切れ味が向上する。
【0024】
コーナ部70は、切れ刃51,52と、上面10または下面20の長手方向LDに位置する交差領域(別言すれば、上面10または下面20と、端面31,32との間の辺陵部)との間にこれらを繋げるように形成されている(図5等参照)。これらコーナ部70は、上面10または下面20に垂直な方向から見てR形状(円弧状)となっている(図6等参照)。R形状であるコーナ部70の曲率半径は、切れ刃51,52の曲率半径よりも小さくなっている。
【0025】
周側面30のうち、上記長手方向LDに位置する両端面(別言すれば、上面10と下面20の短辺部に連なる両側面であり、一端面を符号31、他端面を符号32で示す)は、上面または下面に対して傾斜し、かつ互いに平行であり(図5等参照)、切削インサート1を短手方向SDに沿って見た場合に当該切削インサート1は略斜方形(ひし形)となっている(図7参照)。本実施形態の切削インサート1において、これら両端面31,32は、上面10または下面20に対して負の角度βで傾斜している。ここでいう負の角度βとは、刃先交換式回転切削工具100に例えば下面20を着座面112に向けてねじ120で装着した際、当該刃先交換式回転切削工具100の基端側(先端とは逆である。図3B等において上方となる側)に位置する端面(本例でいえば、基端側を向く端面32と下面20との間の角)が鋭角となる角度のことをいう(図3B図7等参照)。この傾斜角度βは、例えば11度である。一般に、上面10や下面20が略矩形である切削インサートは加工時に生じる切削抵抗によってボデー110に対し動きやすいところ、本実施形態では上記のごとく両端面31,32に傾斜を設けることで、刃先交換式回転切削工具100の基端側では楔状の効果と相まってボデー110との拘束を強め、インサートの浮き上がりを抑えるダブテイル構造となり、加工時に当該切削インサート1が動きにくくなるようにして、さらなる高精度加工を可能としている。また、刃先交換式回転切削工具100の先端側では、傾斜した当該端面31(32)が、正の逃げ角をつくる。
【0026】
周側面30のうち、切れ刃51,52と反対側に位置する面は、上面10と下面20に対して垂直な平坦面からなる基準面33として構成されている(図8図10A等参照)。拘束面となる上面10と下面20に対してこのように基準面33を垂直とした本実施形態の切削インサート1によれば、ボデー110に装着した際のずれが少なくなる。より詳しく説明すると、例えば上面10や下面20の形状ないしは平滑面に生じうる製造誤差により切削インサート1の装着高さに差が生じたとしても、基準面33が垂直であれば、装着高さの違いにかかわらず切れ刃51,52の位置(基準面33が接するボデー110の拘束面113から切れ刃51,52までの距離)は常に一定になり、ずれが極力少なくなることが期待される(図4等参照)。このことから、例えば切削インサート1を反転させてボデー110へ装着し直し切れ刃51,52を入れ替えた際の当該切れ刃51,52と側面(拘束面)との距離のずれが少なくなり、より精度の良い加工をすることが可能となる。なお、ここでは平坦面からなる基準面33について説明したがこれは好適な例にすぎない。上記のように基準となる面として機能しうる限りは、例えば部分的に溝が形成されていて全面的に平坦とはなっていないような基準面33であっても問題はない。
【0027】
周側面30のうち、上面10側の切れ刃51と下面20側の切れ刃52との間に連なる部分は、当該切れ刃51,52の逃げ面(符号34で示す)として機能する(図5等参照)。本実施形態の切削インサート1における逃げ面34は、その逃げ角αが、長手方向LDに沿って漸次変化する形状となっている(図6図9A図9C参照)。すなわち、本実施形態の切削インサート1においては、上面10と下面20とが、基準面33に垂直かつ基準面33の中心を通る対称中心軸(符号Yで示す)を中心した軸対称形状であり、対称中心軸Yまわりに180°反転させることで上面10側の切れ刃51と下面20側の切れ刃52とを入れ替えることができる構造となっていて、さらに、これら上面10と下面20とは、端面31,32の傾斜角度βと同角度で互いが長手方向LDに沿ってずれて位置している(図7図11)。このような位置関係にある上面10と下面20とを連ねる面で構成される逃げ面34は、その逃げ角αが、長手方向LDに沿って正の角度から負の角度へと漸次変化する形状となっている(図9A図9C参照)。また、逃げ面34の逃げ角αは、長手方向LDの中間においてゼロとなる(図9B参照)。このような本実施形態の切削インサート1の逃げ面34は、例えば、上面10の円弧状の切れ刃51を下面20の円弧状の切れ刃52(の位置)まで平行移動する際に、当該円弧状の切れ刃51が通る軌跡によって形成される面となる場合がある。別言すると、逃げ面34は、上面10の円弧状の切れ刃51の曲線を下面20の円弧状の切れ刃52の方向へ引き延ばした曲面で構成される場合がある。
【0028】
ここまで説明したように、上記のごとき本実施形態の切削インサート1は、上面10および下面20の両面に切れ刃51,52を有する構造であることから、インサート幅(上記実施形態に照らせば短手方向SDの幅、別言すれば切れ刃51,52と基準面33との距離)をわざわざ大きくせずとも複数の刃数を確保することができる。このように、刃数を確保しながらもインサート幅を抑えることとすれば、刃先交換式回転切削工具100のボデー110へのインサート搭載数を増やし、当該工具における切れ刃の数を増加させることが可能である。
【0029】
また、ここまで説明したように、本実施形態の切削インサート1は、2コーナタイプでありながら、切れ刃51,52と短手方向SDの反対側に平坦面を有し、この平坦面がインサートの製造時にも、カッタボデーへの装着時にも基準面33として有効に機能することから、従来にない高精度加工を実現できる。
【0030】
また、上記のごとき本実施形態の切削インサート1ないしはこれが装着可能な刃先交換式回転切削工具100は、従来構造の下記のごとき問題を解消させうるものでもある。
・従来構造における、基準面が傾斜しており、切れ刃が1コーナしかないため精度が悪く、経済性が悪いという問題を解消させうる。すなわち、切れ刃と反対側の側面が平坦面であったとして正の角度で傾斜していれば曲線状の切れ刃(および逃げ面)を精度よく装着作するための「基準面」として利用しにくい。また、傾斜した面を基準面にすると、加工精度が低下しやすい。また、使用できる切れ刃が1つしかないため、経済性が悪化する場合がある。
・従来構造における、基準面が傾斜しており、切れ刃が4コーナあるものの正方形の形状となるためボデーにインサートを多く載せられないため経済性(加工能率)が悪いという問題を解消させうる。例えば、円弧状の切れ刃を有する4コーナタイプのポジティブインサートでは、切れ刃と反対側の側面が平坦面ではない。また、短手方向を有さず、正方形状なので、インサートの幅が大きくなり、小径サイズのエンドミルに適用できない。
【0031】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、切削インサートおよび刃先交換式回転切削工具に適用して好適である。
【符号の説明】
【0033】
1…切削インサート
10…上面
10F…上面の平坦部分
15…すくい部
20…下面
20F…下面の平坦部分
25…すくい部
30…周側面
31…長手方向の一端面(端面)
32…長手方向の他端面(端面)
33…基準面
34…逃げ面
40…交差領域
51,52…曲線状の切れ刃
60…ねじ穴
70…コーナ部(曲部)
100…刃先交換式回転切削工具
100C…工具回転軸
110…ボデー
112…着座面
113…切削インサートの基準面が接するボデーの拘束面
120…ねじ
LD…長手方向
SD…短手方向
w…上面と端面31との間のコーナ部および下面と端面31との間のコーナ部を結ぶ傾斜稜線
X…中心軸(長手方向と短手方向に垂直な軸)
Y…対称中心軸
α…逃げ角
β…端面の傾斜角度
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図11
【手続補正書】
【提出日】2021-11-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向と短手方向とを有する形状である上面と、
前記上面と反対側に位置し、長手方向と短手方向とを有する形状である下面と、
前記上面と前記下面とを連ねるように形成された周側面と、
前記上面と前記周側面との交差稜線、および前記下面と前記周側面との交差稜線のそれぞれに形成された、長手方向に延びる稜線の大半が曲線状である切れ刃と、
前記上面から前記下面まで貫通するねじ穴と、
を備え、
前記周側面のうち、前記上面および前記下面の長手方向に位置する端面が、前記上面または前記下面に対して傾斜し、かつ互いに平行であり、
前記周側面のうち、前記切れ刃と反対側に位置する基準面は前記上面および前記下面に対して垂直な平坦面であり、
前記切れ刃の逃げ面は、その逃げ角が、前記長手方向に沿って正の角度から負の角度へと漸次変化する形状である、
切削インサート。
【請求項2】
前記曲線状の切れ刃と、前記上面または前記下面の長手方向に位置する交差領域とが、前記上面または下面に垂直な方向から見て曲部で繋がっている、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
前記曲部は円弧状である、請求項2に記載の切削インサート。
【請求項4】
前記曲部の曲率半径は、前記切れ刃の曲率半径よりも小さい、請求項3に記載の切削インサート。
【請求項5】
前記上面と前記下面とが、前記基準面に垂直な対称中心軸を中心とした軸対称形状であり、前記端面の傾斜角度と同角度で互いが前記長手方向に沿ってずれて位置している、請求項1から4のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項6】
前記上面は、前記長手方向および前記短手方向に垂直な軸方向に沿った当該上面の高さが、前記切れ刃に近づくにつれていったん低くなり、さらに前記切れ刃に近づくにつれて漸次高くなる形状に形成されている、請求項に記載の切削インサート。
【請求項7】
前記軸方向に沿った前記切れ刃の高さが前記上面のうち前記ねじ穴まわりの平坦部分よりも高くなる形状に形成されている、請求項に記載の切削インサート。
【請求項8】
請求項1からのいずれか一項に記載の切削インサートが着脱自在である切削工具のボデーであって、
前記切削インサートにおける前記上面または前記下面のうちの前記ねじ穴まわりの平坦部分が取付面となって着座する着座面と、
該着座面に垂直であり、前記切削インサートにおける前記基準面が当接する拘束面と、
を備えるボデー。
【請求項9】
請求項に記載のボデーを備える、刃先交換式回転切削工具。