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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132511
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】緩急針、ムーブメント及び時計
(51)【国際特許分類】
   G04B 18/02 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
G04B18/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037876
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】502366745
【氏名又は名称】セイコーウオッチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 正洋
(72)【発明者】
【氏名】木村 怜次
(57)【要約】
【課題】従来技術と比較して計時精度をより向上することができる緩急針、この緩急針を備えたムーブメント及び時計を提供する。
【解決手段】緩急針60は、ひげ棒63を有する。ひげ棒63は、一対のひげ棒本体85と、ひげ棒基部84と、を有する。ひげ棒基部84は、一対のひげ棒本体85と一体となるように形成され、緩急針体61に保持される。ひげ棒本体85は、ひげぜんまい23の外端部23bを挟むように配置され、ジルコニアを含むように形成される。ひげ棒63は、押出成型により、ひげ棒63の外周面及び内周面が形成されるとともに、ひげ棒本体85及びひげ棒基部84が一体的に形成される。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ひげぜんまいの外端部を挟むように配置され、少なくとも前記ひげぜんまいと当接するひげ棒本体がジルコニアを含むように形成されたひげ棒を備える緩急針。
【請求項2】
少なくとも前記ひげ棒本体は、ジルコニアを50%以上含む請求項1に記載の緩急針。
【請求項3】
前記ひげ棒は、
一対の前記ひげ棒本体と、
一対の前記ひげ棒本体と一体となるように形成され、緩急針体に保持されるひげ棒基部と、を有する請求項1又は請求項2に記載の緩急針。
【請求項4】
前記ひげ棒は、押出成型により、前記ひげ棒の外周面及び内周面が形成されるとともに、前記ひげ棒本体及び前記ひげ棒基部が一体的に形成される請求項3に記載の緩急針。
【請求項5】
前記ひげ棒は、
一対の前記ひげ棒本体と、
一対の前記ひげ棒本体が取り付けられ、緩急針体に保持されるひげ棒基部と、
を有する請求項1又は請求項2に記載の緩急針。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の緩急針と、
前記ひげぜんまいが取り付けられるてんぷと、
を備えるムーブメント。
【請求項7】
請求項6に記載のムーブメントを備える時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩急針、ムーブメント及び時計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、てんぷの中心に固定されたひげぜんまいを用いた機械式時計の構成が知られている。機械式時計では、例えば緩急針を用いてひげぜんまいの有効長さを調節することにより歩度を調整し、さらにひげぜんまい及びひげ棒間の間隔を調整することにより歩度の等時性を調整(あおり調整)する技術が種々提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、ひげぜんまいの外端部を挟持する一対のひげ棒と、回転させることによりひげ棒の間隔を調整可能な緩急針座と、を有する緩急針の構成が開示されている。ひげ棒は、ルビーやスピネル等の低摩擦係数を有する耐摩耗性材料により形成されている。特許文献1に記載の技術によれば、ひげ棒を耐摩耗性材料により形成することで、ひげ棒の摩耗を抑制できる。これにより、ひげぜんまい及びひげ棒間の間隔の変化による等時性の変化や、摩耗粉の発生による歩度の変化等を抑制し、計時精度を向上することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭47-030232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術にあっては、ひげ棒と当接するひげぜんまいの摩耗は十分に抑制できないおそれがあった。つまり、ひげ棒の材料によっては、ひげぜんまいが摩耗するおそれがあった。ひげぜんまいが摩耗した場合、ひげぜんまい及びひげ棒間の間隔が変化する。また、ひげ棒との間に摩耗粉が発生し、摩耗粉がひげ棒に凝着することがある。これにより、ひげ棒が摩耗した場合と同様、てんぷの等時性が損なわれたり、歩度が変化することにより、計時精度が低下するおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明は、従来技術と比較して計時精度をより向上することができる緩急針、この緩急針を備えたムーブメント及び時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一つの形態の緩急針は、ひげぜんまいの外端部を挟むように配置され、少なくとも前記ひげぜんまいと当接するひげ棒本体がジルコニアを含むように形成されたひげ棒を備える。
【0008】
この構成によれば、ジルコニアを含む複合材料製のひげ棒を用いることにより、ルビーやその他の金属材料によりひげ棒を形成した従来技術と比較して、ひげ棒及びひげぜんまいの摩耗量を低減できる。つまり、従来技術と比較して、ひげ棒だけでなくひげぜんまいの摩耗をも抑制できる。これにより、ひげ棒又はひげぜんまいの摩耗によるひげぜんまい及びひげ棒間の間隔の変化をより一層抑制し、摩耗による等時性の変化を抑制できる。さらに、ひげぜんまいが摩耗することによる摩耗粉のひげ棒への凝着を抑制することができる。よって、摩耗粉の発生による歩度の変化を抑制し、従来技術と比較して歩度を安定させることができる。
したがって、従来技術と比較して計時精度をより向上することができる緩急針を提供できる。
【0009】
また、前記緩急針において、少なくとも前記ひげ棒本体は、ジルコニアを50%以上含む。
【0010】
この構成によれば、ジルコニアの含有率が50%未満の場合と比較して、例えば靱性の低下による曲げ強度の低下を抑制できる。また、50%未満の場合と比較して、ひげ棒本体の加工性を向上できる。よって、強度及び加工性を維持しつつ、ひげ棒及びひげぜんまいの摩耗を効果的に抑制することができる。
【0011】
また、前記緩急針において、前記ひげ棒は、一対の前記ひげ棒本体と、一対の前記ひげ棒本体と一体となるように形成され、緩急針体に保持されるひげ棒基部と、を有する。
【0012】
この構成によれば、一対のひげ棒本体とひげ棒基部とが一体形成されるので、一対のひげ棒同士の間隔及び一対のひげ棒同士の平行度を高精度に維持することができる。
【0013】
また、前記緩急針において、前記ひげ棒は、押出成型により、前記ひげ棒の外周面及び内周面が形成されるとともに、前記ひげ棒本体及び前記ひげ棒基部が一体的に形成される。
【0014】
この構成によれば、ひげ棒本体とひげ棒基部とを押出成型により同時にかつ一体的に形成することができる。よって、製造作業性を向上できる。また、例えばルビーやスピネル等の材料と比較してジルコニアは硬度が小さく金型に損傷を与えにくいため、押出成型による加工を行い易い。よって、材料の特性を活かしつつ製造性を向上できる。
さらに、押出成型によりひげ棒の内周面、すなわちひげぜんまいと当接する部分を形成するので、例えば切削加工等により内周面を形成する場合と比較して、内周面に曲面を形成し易い。また、内周面の表面を滑らかに形成できる。これにより、製造工程を煩雑にすることなく、ひげぜんまいと接触するひげ棒の内周面を最適な形状に形成できる。よって、ひげぜんまいの摩耗をより低減できる。また、より高精度なあおり調整を行うことができる。
【0015】
また、前記緩急針において、前記ひげ棒は、一対の前記ひげ棒本体と、一対の前記ひげ棒本体が取り付けられ、緩急針体に保持されるひげ棒基部と、を有する。
【0016】
この構成によれば、一対のひげ棒本体とひげ棒基部とが別体で構成されるので、例えばひげ棒本体とひげ棒基部とを異なる材料により形成できる。これにより、ひげ棒及びひげぜんまいの摩耗を低減しつつ、ひげ棒の汎用性を向上できる。
【0017】
本発明の一つの形態のムーブメントは、上述の緩急針と、前記ひげぜんまいが取り付けられるてんぷと、を備える。
【0018】
この構成によれば、ムーブメントは上述の緩急針を備えるので、ひげ棒及びひげぜんまいの摩耗を抑制できる。これにより、摩耗による等時性の変化及び歩度の変化を抑制できる。
したがって、従来技術と比較して計時精度をより向上することができる緩急針を備えた高性能なムーブメントを提供できる。
【0019】
本発明の一つの形態の時計は、上述のムーブメントを備える。
【0020】
この構成によれば、時計は、上述の緩急針を備えたムーブメントを有する。よって、ひげ棒及びひげぜんまいの摩耗を抑制し、摩耗による等時性の変化及び歩度の変化を抑制できる。
したがって、従来技術と比較して計時精度をより向上することができる緩急針を備えた高精度な時計を提供できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来技術と比較して計時精度をより向上することができる緩急針、この緩急針を備えたムーブメント及び時計を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態に係る時計の外観図。
図2】第1実施形態に係るムーブメントを表側から見た平面図。
図3】第1実施形態に係るてんぷ受ユニットを表側から見た平面図。
図4】第1実施形態に係るてんぷ受ユニットの斜視図。
図5図3のV-V線に沿う断面図。
図6】第1実施形態に係るひげ棒を表側から見た斜視図。
図7】第1実施形態に係るひげ棒を裏側から見た斜視図。
図8】第1実施形態に係るひげ棒の平面図。
図9】第2実施形態に係るてんぷ受ユニットの斜視図。
図10】第2実施形態に係るてんぷ受ユニットの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。
【0024】
(第1実施形態)
(時計)
図1は、第1実施形態に係る時計の外観図である。
時計1は、ケース蓋(不図示)及びガラス11を有する時計ケース12内に、ムーブメント2や、時刻に関する情報を示す目盛り等を有する文字板13、各種指針(時針14、分針15及び秒針16)等が組み込まれて構成されている。
【0025】
(ムーブメント)
図2は、第1実施形態に係るムーブメント2を表側から見た平面図である。図2では、図面を見やすくするため、構成部品の一部を省略している場合がある。以下の説明では、ムーブメント2の基板を構成する地板17に対して時計ケース12(図1参照)のガラス11側(文字板13側)をムーブメント2の「裏側」と称し、ケース蓋側(文字板13とは反対側)をムーブメント2の「表側」と称する。
【0026】
ムーブメント2は、地板17と、香箱車、二番車、三番車及び四番車を含む図示しない表輪列と、表輪列の回転を制御するための脱進調速機3と、を備える。図示のムーブメント2は、回転錘(不図示)を備えた自動巻式時計用のムーブメントを例にしている。但し、この場合に限定されるものではなく、巻真18による手巻き式時計用のムーブメントであっても構わない。
図1に示す秒針16は、四番車の回転に基づいて回転するとともに、脱進調速機3によって調速された回転速度、すなわち1分間で1回転する。分針15は、二番車の回転、或いは二番車の回転に伴って回転する分車の回転に基づいて回転するとともに、脱進調速機3によって調速された回転速度、すなわち1時間で1回転する。時針14は、日の裏車を介して二番車の回転に伴って回転する筒車の回転に基づいて回転するとともに、脱進調速機3によって調速された回転速度、すなわち12時間或いは24時間で1回転する。
【0027】
図2に示すように、脱進調速機3は、四番車に噛み合うがんぎ車19及びアンクル20と、てんぷ受ユニット4と、を備える。アンクル20は、がんぎ車19を脱進させる。てんぷ受ユニット4は、一定周期で規則正しく動作するてんぷ5を備えている。
【0028】
(てんぷ受ユニット)
図3は、第1実施形態に係るてんぷ受ユニット4を表側から見た平面図である。図4は、第1実施形態に係るてんぷ受ユニット4の斜視図である。図5は、図3のV-V線に沿う断面図である。
図3から図5に示すように、てんぷ受ユニット4は、てんぷ5と、てんぷ受6と、ひげぜんまい調整機構7と、緩急針機構8と、を有する。
【0029】
(てんぷ)
てんぷ5は、てん真21と、てん輪22と、ひげぜんまい23と、を備える。てん真21は、中心軸線C周りに回転自在とされている。てん真21は、詳しくは後述するてんぷ受6に軸受31を介して回転可能に支持されている。
以下の説明では、てん真21の中心軸線Cに沿う方向を軸方向といい、中心軸線Cに直交する方向を径方向といい、中心軸線C周りに周回する方向を周方向という場合がある。
図5に示すように、てん輪22は、てん真21に圧入等によって固定されたハブ部24と、ハブ部24を径方向の外側から囲繞する環状のリム部25と、ハブ部24及びリム部25間を連結する連結部26と、を備える。
【0030】
ひげぜんまい23は、てん真21とてん輪22との間に配置されている。ひげぜんまい23は、アルキメデス曲線に沿うように巻回された、軸方向から見て渦巻状の平ひげである。ひげぜんまい23の内端部23aは、てん真21に連結されている。ひげぜんまい23の外端部23bは、詳しくは後述するひげぜんまい調整機構7のひげ持41(図3参照)に連結されている。ひげぜんまい23のうち外端部23bを含む最も外径側に位置する部分は、径方向の外側に膨出した弧状部23c(図3参照)となっている。
【0031】
てん真21は、ひげぜんまい23から伝えられた動力によって中心軸線C周りに一定の振動周期で正逆回動する。てん真21は、軸方向における一端部21a(表側端部)が軸受31を介しててんぷ受6に支持され、他端部21b(裏側端部)が地板17(図2参照)に形成された図示しない軸受に支持されている。てん真21の他端部21bには、上述したアンクル20に連係する筒状の振り座28が外装されている。
【0032】
(てんぷ受)
図5に示すように、てんぷ受6は、軸方向においててんぷ5より表側に配置されている。てんぷ受6は、取付基部30と、軸受31と、を有する。
図3及び図4に示すように、取付基部30は、軸方向から見て、中心軸線Cから径方向の片側に向かって延びている。取付基部30は、軸方向を厚み方向とする平板状に形成されている。取付基部30の延在方向の端部の形状は、時計ケース12の形状に合わせた円弧状に形成されている(図2も参照)。取付基部30には、軸方向に貫通する取付孔32が複数形成されている。てんぷ受ユニット4は、取付孔32内にそれぞれ挿通された固定ねじ(不図示)を介して地板17(図2参照)に固定されている。図5に示すように、取付基部30は、中心軸線Cと同軸上に形成された中央孔33を有する。取付基部30のうち、中央孔33の外周部を形成する部分は、軸受筒部34とされている。軸受筒部34は、取付基部30に対して裏側に一段下がって形成されている。
【0033】
軸受31は、いわゆる耐振軸受であって、軸受枠35と、穴石36と、受石37と、を備える。
軸受枠35は、軸受筒部34内に軸方向の表側から圧入されている。これにより、軸受枠35は、中心軸線Cと同軸上に配置されるとともに、てんぷ受6に固定されている。
穴石36は、軸受枠35内に取り付けられている。穴石36は、てん真21の一端部21aを回転可能に支持している。
受石37は、穴石36に重ねて配置され、てん真21の一端部21aを表側から支持している。受石37には、受石37をてん真21に向けて付勢する受石押さえばね38(図3参照)が重ねて配置されている。
なお、軸受31の構成は一例であり、てん真21を回転可能に支持できる構成であれば、上述の構成に限られない。
【0034】
(ひげぜんまい調整機構)
図3及び図4に示すように、ひげぜんまい調整機構7は、上述のひげぜんまい23と、ひげ持受40と、ひげ持41と、ねじ部材42と、を備える。
【0035】
ひげ持受40は、てんぷ受6に連結されている。ひげ持受40は、てんぷ受6の軸受筒部34に外嵌されている。ひげ持受40の径方向の内側端部は、軸方向から見た平面視でC字状に形成されている。ひげ持受40の径方向の内側端部は、所定の回転トルクを付与したときに軸受筒部34に対して摺動する。これにより、ひげ持受40は、軸受筒部34に対して中心軸線C周りに回転可能となっている。
【0036】
ひげ持受40の径方向外側の端部には、ひげ持挿入孔43と、締結孔44と、が形成されている。ひげ持挿入孔43は、中心軸線Cと平行な第一軸線O1に沿ってひげ持受40を貫通している。締結孔44は、ひげ持受40の径方向外側の端部の側面に設けられている。締結孔44は、第一軸線O1と交差する方向(径方向)を深さ方向とする孔であり、ひげ持挿入孔43と連通している。締結孔44の内周部には、雌ねじが形成されている。
【0037】
ひげ持41は、ひげ持受40のひげ持挿入孔43に挿入されている。ひげ持41は、第一軸線O1と同軸上に設けられている。ひげ持41は、第一軸線O1を中心として回転可能に支持されている。ひげ持41の裏側の端部には、ひげぜんまい23の外端部23bが固定されている。
【0038】
ねじ部材42は、締結孔44に嵌合されている。ねじ部材42は、例えば外面に雄ねじ部を有するボルトである。ねじ部材42の径方向外側の端面には、ドライバー等の工具を挿入可能な凹溝(不図示)が形成されている。ねじ部材42が径方向内側へ移動するようにねじ部材42を締めることにより、ひげ持41がひげ持受40に所定の位置で固定される。一方、ねじ部材42が径方向外側へ移動するようにねじ部材42を緩めることにより、ひげ持41がひげ持受40に対して回転可能となり、ひげ持41の回転角度を調整することができる。
【0039】
(緩急針機構)
緩急針機構8は、微動緩急針レバー50と、緩急針60と、を有する。
図3及び図4に示すように、微動緩急針レバー50は、軸受枠35(図5参照)に対して中心軸線C回りに回転可能に取り付けられている。微動緩急針レバー50は、軸受枠35に嵌合される嵌合部51と、嵌合部51から径方向の外側に延びるとともに、周方向に分岐する二股状に形成された係合フォーク52と、を有する。係合フォーク52の内側には、調整ピン53が配設されている。調整ピン53は、てんぷ受6に対して回転可能に嵌合されている。調整ピン53は、表側に位置する頭部56と、頭部56から裏側に延びる軸部57と、を有する。軸部57は、てんぷ受6に回転可能に嵌合されている。頭部56は、軸部57に対して偏心して設けられている。頭部56は、係合フォーク52の内面に摺動可能に接触している。よって、調整ピン53をてんぷ受6に対して回転させることで、微動緩急針レバー50の全体をてんぷ5の中心軸線C回りに回転させることが可能となっている。
【0040】
図3から図5に示すように、緩急針60は、緩急針体61と、ひげ棒支持体62と、ひげ棒63と、ひげ受64と、を備える。
緩急針体61は、中心軸線C周りに回転可能とされている。緩急針体61は、微動緩急針レバー50の嵌合部51を径方向外側から囲むベース部81と、ベース部81から径方向の外側に延びる緩急針アーム82と、を有する。
【0041】
ひげ棒支持体62は、緩急針体61の緩急針アーム82の裏側の面に重ねられた状態で緩急針アーム82に取り付けられている。ひげ棒支持体62は、後述するひげ棒63及びひげ受64を緩急針体61に取り付けるための接続部材として機能する。
【0042】
図6は、第1実施形態に係るひげ棒63を表側から見た斜視図である。図7は、第1実施形態に係るひげ棒63を裏側から見た斜視図である。図8は、第1実施形態に係るひげ棒63を裏側から見た平面図である。
【0043】
図5に示すように、ひげ棒63は、ひげ棒支持体62の裏側の端部に取り付けられている。図6から図8に示すように、ひげ棒63は、ひげ棒基部84と、一対のひげ棒本体85と、を有する。ひげ棒基部84は、ひげ棒支持体62(図5参照)に保持される部分である。ひげ棒基部84は、中心軸線Cと平行な第二軸線O2を中心とする円筒状に形成されている。ひげ棒基部84には、第二軸線O2方向に貫通する異形状の孔65が形成されている。具体的に、孔65は、平面視において、第二軸線O2を中心とする仮想円の直径の両端から互いに近づく方向に突出した一対の凸部65aと、一対の凸部65a間を連結し仮想円に沿う一対の円弧状部65bと、を有するヒョウタン形状に形成されている。
【0044】
ひげ棒本体85は、ひげ棒基部84と一体形成されている。ひげ棒本体85は、ひげ棒基部84から軸方向の裏側に向かって延びている。ひげ棒本体85は、平面視において、一対の凸部65aと重なる位置にそれぞれ対応して一対設けられている。一対のひげ棒本体85の間には隙間が設けられている。図4及び図5に示すように、一対のひげ棒本体85の隙間には、ひげぜんまい23が挟まれた状態で配置される。一対のひげ棒本体85は対称な形状とされているので、以下の説明では一方のひげ棒本体85について説明し、他方のひげ棒本体85の説明を省略する。
【0045】
図7及び図8に示すように、ひげ棒本体85は、径方向の外側を向く外周面66と、径方向の内側を向く内周面67と、外周面66と内周面67とを接続する一対の側面68と、を有する柱状に形成されている。外周面66は、ひげ棒基部84の外周面と連続する第一外周面88と、第一外周面88に対して傾斜した第二外周面89と、を有する。第二外周面89は、先端方向(ひげ棒基部84から離間する方向)へ向かうにつれて外径が小さくなるように傾斜している。ひげ棒本体85の内周面67は、ひげ棒基部84の凸部65aと連続している。内周面67は、平面視において凸部65aと同等の形状を有して形成されている。内周面67は、径方向の内側に向かって突出する曲面となっている。一対の側面68は、外周面66の周方向の端部と、内周面67の周方向の端部と、をそれぞれ接続している。
【0046】
上述のひげ棒63は、押出成型により、ひげ棒63の外周面及び内周面が形成されるとともに、ひげ棒本体85及びひげ棒基部84が一体的に形成される。特に、ひげ棒基部84の凸部65aとひげ棒本体85の内周面67とが軸方向に連続し、かつ平面視で同等の形状となるように形成されているので、押出成型による加工が可能となっている。具体的には、まず、押出成形でひげ棒63の外周面及び内周面が長い棒状に形成される。さらに、必要長さに切断され、傾斜した第二外周面89が加工される。最後に除去加工により一対の側面68が形成される。このようにして上述のひげ棒63が形成される。また、押出成型で加工することにより、一対のひげ棒本体85が互いに対向する面である内周面67を滑らかな曲面として形成することが可能となる。
【0047】
ひげ棒63は、少なくともひげぜんまいと当接するひげ棒本体85がジルコニアを含むように形成されている。本実施形態において、ひげ棒基部84及びひげ棒本体85は一体的に形成されるので、ひげ棒63全体がジルコニアを含むように形成されている。ひげ棒63は、例えばセラミック材料により形成されている。ひげ棒63は、例えばジルコニアを50%以上含むように形成されている。
【0048】
図5に示すように、ひげ受64は、ひげ棒支持体62に取り付けられている。ひげ受64の一部は、ひげぜんまい23の弧状部23cよりも下方に配置される。これにより、ひげ受64は、ひげ棒63との間にひげぜんまい23を挟んで軸方向に向い合うように配置されている。
【0049】
(作用、効果)
次に、上述の緩急針60、ムーブメント2及び時計1の作用、効果について説明する。
本実施形態の緩急針60によれば、緩急針60は、少なくともひげぜんまい23と当接するひげ棒本体85がジルコニアを含むように形成されたひげ棒63を備える。ジルコニアを含む複合材料製のひげ棒63を用いることにより、ルビーやその他の金属材料によりひげ棒を形成した従来技術と比較して、ひげ棒63及びひげぜんまい23の摩耗量を低減できる。つまり、従来技術と比較して、ひげ棒63だけでなくひげぜんまい23の摩耗をも抑制できる。これにより、ひげ棒63又はひげぜんまい23の摩耗によるひげぜんまい23及びひげ棒63間の間隔の変化をより一層抑制し、摩耗による等時性の変化を抑制できる。さらに、ひげぜんまい23が摩耗することによる摩耗粉のひげ棒63への凝着を抑制することができる。よって、摩耗粉の発生による歩度の変化を抑制し、従来技術と比較して歩度を安定させることができる。
したがって、従来技術と比較して計時精度をより向上することができる緩急針60を提供できる。
【0050】
ひげ棒本体85は、ジルコニアを50%以上含む。これにより、ジルコニアの含有率が50%未満の場合と比較して、例えば靱性の低下による曲げ強度の低下を抑制できる。また、50%未満の場合と比較して、ひげ棒本体の加工性を向上できる。よって、強度及び加工性を維持しつつ、ひげ棒及びひげぜんまいの摩耗を効果的に抑制することができる。
【0051】
ひげ棒63は、一対のひげ棒本体85と、一対のひげ棒本体85と一体となるように形成され、緩急針体61に保持されるひげ棒基部84と、を有する。一対のひげ棒本体85とひげ棒基部84とが一体形成されるので、一対のひげ棒63同士の間隔及び一対のひげ棒63同士の平行度を高精度に維持することができる。
【0052】
ひげ棒63は、押出成型により形成される。これにより、ひげ棒本体85とひげ棒基部84とを押出成型により同時にかつ一体的に形成することができる。よって、製造作業性を向上できる。また、例えばルビーやスピネル等の材料と比較してジルコニアは硬度が小さく金型に損傷を与えにくいため、押出成型による加工を行い易い。よって、材料の特性を活かしつつ製造性を向上できる。
さらに、押出成型によりひげ棒63の内周面(ひげ棒本体85の内周面67)、すなわちひげぜんまい23と当接する部分を形成するので、例えば切削加工等により内周面67を形成する場合と比較して、内周面67に曲面を形成し易い。また、内周面67の表面を滑らかに形成できる。これにより、製造工程を煩雑にすることなく、ひげぜんまい23と接触するひげ棒63の内周面67を最適な形状に形成できる。よって、ひげぜんまい23の摩耗をより低減できる。また、より高精度なあおり調整を行うことができる。
【0053】
ムーブメント2は、上述の緩急針60と、ひげぜんまい23が取り付けられるてんぷ5と、を備える。ムーブメント2は上述の緩急針60を備えるので、ひげ棒63及びひげぜんまい23の摩耗を抑制できる。これにより、摩耗による等時性の変化及び歩度の変化を抑制できる。
したがって、従来技術と比較して計時精度をより向上することができる緩急針60を備えた高性能なムーブメント2を提供できる。
【0054】
時計1は、上述の緩急針60を備えたムーブメント2を有する。よって、ひげ棒63及びひげぜんまい23の摩耗を抑制し、摩耗による等時性の変化及び歩度の変化を抑制できる。
したがって、従来技術と比較して計時精度をより向上することができる緩急針60を備えた高精度な時計1を提供できる。
【0055】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態について説明する。図9は、第2実施形態に係るてんぷ受ユニット204の斜視図である。図10は、第2実施形態に係るてんぷ受ユニット204の断面図である。図10は、例えば図3のV-V線に沿う断面図に相当する。第2実施形態では、ひげ棒基部284とひげ棒本体285とが別体で設けられる点で上述した第1実施形態と相違している。
【0056】
図9及び図10に示すように、第2実施形態において、ひげ棒263は、ひげ棒基部284と、一対のひげ棒本体285と、を有する。ひげ棒基部284は、緩急針体61の緩急針アーム84に取り付けられる。つまり、第2実施形態のひげ棒基部284は、第1実施形態におけるひげ棒支持体62(図5参照)の機能を兼ねている。
一対のひげ棒本体285は、ひげ棒基部284にそれぞれ取り付けられている。各ひげ棒本体285は、円柱状に形成されている。ひげ棒本体285は、ジルコニアを含むように形成されている。一対のひげ棒本体285は、互いに隙間をあけてひげ棒基部284に取り付けられている。
【0057】
第2実施形態によれば、一対のひげ棒本体285とひげ棒基部284とが別体で構成されるので、例えばひげ棒本体285とひげ棒基部284とを異なる材料により形成できる。これにより、ひげ棒263及びひげぜんまい23の摩耗を低減しつつ、ひげ棒263の汎用性を向上できる。
【0058】
なお、本発明の技術範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述の実施形態では、ひげ棒基部84の孔65がヒョウタン形状に形成される例について説明したが、これに限られない。ひげ棒基部84の孔の形状及びひげ棒本体85の形状は、ひげ棒基部84及びひげ棒本体85が押出成型で一体的に形成可能かつひげぜんまい23が接触する部分(内周面67)が少なくとも曲面を有するような形状であればよい。ひげ棒63の形状は図面で図示した形状に限定されない。
【0059】
ひげ棒本体85,285の材料は、ジルコニアを含むセラミック材料であってもよく、ジルコニアを含む金属材料であってもよい。
【0060】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 時計
2 ムーブメント
5 てんぷ
23 ひげぜんまい
23b (ひげぜんまいの)外端部
60 緩急針
61 緩急針体
63,263 ひげ棒
84,284 ひげ棒基部
85,285 ひげ棒本体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10