(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013253
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】移乗機
(51)【国際特許分類】
B61B 1/02 20060101AFI20230119BHJP
E01F 1/00 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
B61B1/02
E01F1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117282
(22)【出願日】2021-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 達二己
【テーマコード(参考)】
2D101
3D101
【Fターム(参考)】
2D101CA16
2D101CB07
2D101EA03
2D101FA33
2D101HA03
2D101HA11
2D101HA17
2D101HB01
2D101HB06
3D101AA03
3D101AA12
3D101AA24
3D101AB13
3D101AC06
3D101AD02
3D101AD03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】拡張板を板状部材の先端に取り付けることで停車時の列車の乗降口までの隙間を覆って旅客の落下を防止すると共に、この拡張板を故障時等に取り外せるようにする。
【解決手段】筐体10は、ホームHに貫入した1本以上のアンカー109によりホームHに固定される。板状部材11の根元部11bは、y軸方向に沿って伸びる軸100により回転可能に支持されている。この軸100は、筐体10に収容されている。板状部材11は、この軸100を中心にして揺動する。板状部材11の先端部11eには着脱可能な拡張板12が装着されている。列車が停車しているとき、移乗機制御装置は駆動部を制御して軸100を回転駆動させ、板状部材11を先端部11eが停車時の列車の乗降口に向けられた第1姿勢にする。列車の走行時において、移乗機制御装置は軸100を中心に板状部材11を回転させて先端部11eが軸100の上方に位置する第2姿勢にする。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホームに沿った軸に根元を支持され、先端に着脱可能な拡張板が設けられた板状部材を、該軸により回転させて、列車の停車時に前記先端が該列車の乗降口に向けられた第1姿勢とし、列車の走行時に前記先端が該軸の上方に向けられた第2姿勢とする移乗機。
【請求項2】
前記第2姿勢で前記板状部材を固定するロック機構、を有し、
前記ロック機構は、前記列車側から解除可能である
請求項1に記載の移乗機。
【請求項3】
前記板状部材が、前記第1姿勢で固定されるときに、前記ホームにおいて、前記乗降口に応じた位置に設けられたホーム柵を開にする
請求項2に記載の移乗機。
【請求項4】
前記ロック機構が、前記板状部材を固定しているときに、停車した前記列車の走行を許可する
請求項2又は3に記載の移乗機。
【請求項5】
決められた時間にわたって前記第1姿勢で固定された前記板状部材の上に旅客がいないときに、前記ホームにおいて、前記乗降口に応じた位置に設けられたホーム柵を閉にする
請求項1から4のいずれか1項に記載の移乗機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移乗機の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車椅子使用者が鉄道を利用する際の問題点が指摘されている。例えば、「鉄道における車椅子利用環境改善に向けた調査報告書」(国土交通省、平成30年3月)は、国内で運行される多くの鉄道でプラットホームと車両の間に隙間や段差が生じており、車椅子使用者の鉄道乗降時に駅係員等による渡し板(スロープ)の介助が必要となるケースが多い、と指摘する。しかし、多くの鉄道事業者では乗換駅や降車駅に対して連絡・手配の上、介助の体制が確認できてから乗車案内を行うことを基本としているため、手配が完了するまで時間を要することが問題となっている。そこで、鉄道の乗降の際に車椅子使用者が特別な手順を必要としない移乗機の開発が望まれている。
【0003】
特許文献1は、第1の位置でプラットホームの端部から車両までの隙間の上に倒れた状態となり、第2の位置で線路側から離れた状態になるステップ部と、このステップ部を軸支し、第1の位置と第2の位置との間でステップ部を回転させる、ホーム柵の一部に取り付けられた駆動部と、前記駆動部を前記ホーム柵の一部に取り付ける取り付け部と、を備えた可動ステップ装置、を開示している。
【0004】
特許文献2は、入線停止中の車両への乗降時に乗降口からホーム側端までの隙間を覆うためのステップ部と、乗降口に向かってステップ部の左右に2つ設けられ、可動ホーム柵側の側部を回転中心側として回転させる回動軸と、この回動軸を回動させることで、ステップ部を起立姿勢又は横姿勢に変位させる駆動部と、非乗降時にはステップ部を起立姿勢とし、乗降時にはステップ部を横姿勢とするように駆動部を駆動制御する駆動制御部と、を備え、横姿勢において可動ホーム柵とホーム側端との間のホーム床部を所定厚さ分切削した切削部にはまり、上面がホームの上面と略同一面となるようにステップ部が構成されている転落防止装置、を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-179818号公報
【特許文献2】特開2011-184020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載の技術はいずれも、跳ね橋のように、乗降時にステップ部(渡し板、スロープともいう)をホームと乗降口との隙間を覆う横向きの姿勢とし、非乗降時にステップ部を上向きの姿勢とする。この構成は、非乗降時にステップ部を下向きの姿勢とする構成と比べて、既存のホームに対する掘削、斫り等の改造工事が少なくて済む。
【0007】
しかし、特許文献1、2の技術では、上向き姿勢の状態で駆動装置に故障が生じると、乗降時にステップ部が通路を塞ぐ壁となり旅客の通行を妨げることがある。また、横向きの姿勢の状態で駆動装置に故障が生じると、ステップ部が走行する列車と衝突することがある。
【0008】
本発明の目的は、拡張板を板状部材の先端に取り付けることで停車時の列車の乗降口までの隙間を覆って旅客の落下を防止すると共に、この拡張板を故障時等に取り外せるようにすること、である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ホームに沿った軸に根元を支持され、先端に着脱可能な拡張板が設けられた板状部材を、該軸により回転させて、列車の停車時に前記先端が該列車の乗降口に向けられた第1姿勢とし、列車の走行時に前記先端が該軸の上方に向けられた第2姿勢とする移乗機、を第1の態様として提供する。
【0010】
第1の態様の移乗機によれば、拡張板を板状部材の先端に取り付けることで停車時の列車の乗降口までの隙間を覆って旅客の落下を防止すると共に、この拡張板を故障時等に取り外すことができる。
【0011】
第1の態様の移乗機において、前記第2姿勢で前記板状部材を固定するロック機構、を有し、前記ロック機構は、前記列車側から解除可能である、という構成が第2の態様として採用されてもよい。
【0012】
第2の態様の移乗機によれば、故障時等に列車側から駅係員、乗務員、旅客等の操作者がロック機構を解除して板状部材の先端を列車の乗降口に向けさせることができる。
【0013】
第2の態様の移乗機において、前記板状部材が、前記第1姿勢で固定されるときに、前記ホームにおいて、前記乗降口に応じた位置に設けられたホーム柵を開にする、という構成が第3の態様として採用されてもよい。
【0014】
第3の態様の移乗機によれば、板状部材の先端が列車の乗降口に向けられているときにホーム柵が開く。
【0015】
第2又は第3の態様の移乗機において、前記ロック機構が、前記板状部材を固定しているときに、停車した前記列車の走行を許可する、という構成が第4の態様として採用されてもよい。
【0016】
第4の態様の移乗機によれば、板状部材の先端が軸の上方に向けられているときに列車の走行が許可される。
【0017】
第1から第4のいずれか1の態様の移乗機において、決められた時間にわたって前記第1姿勢で固定された前記板状部材の上に旅客がいないときに、前記ホームにおいて、前記乗降口に応じた位置に設けられたホーム柵を閉にする、という構成が第5の態様として採用されてもよい。
【0018】
第5の態様の移乗機によれば、決められた時間にわたって板状部材を通行する旅客がいなくなったときにホーム柵が閉じる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る管理システム9の全体構成の例を示す図。
【
図6】先端部11eが軸100の上方に向けられた板状部材11を示す図。
【
図7】第2姿勢の板状部材11を-x方向に見た図。
【
図8】拡張板12の板状部材11への着脱機構を示す図。
【
図9】
図8の矢印方向にレバー121aが動かされたときの状態を示す図。
【
図10】板状部材11から拡張板12を脱離させた様子を示す図。
【
図14】カム140のロックが解除される様子を示す図。
【
図15】移乗機1を制御する移乗機制御装置C1の動作の例を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<実施形態>
<管理システムの全体構成>
図1は、本発明の実施形態に係る管理システム9の全体構成の例を示す図である。管理システム9は、列車3の運行を管理し、駅のホーム柵2の動作を制御するとともに、列車の停車時にその列車の乗降口に、拡張板が設けられた板状部材の先端を向けて車椅子等を使用する旅客の移乗を補助する移乗機1の動作を制御するシステムである。
【0021】
図1に示す管理システム9は、移乗機1、ホーム柵2、列車3、操作盤C0、移乗機制御装置C1、ホーム柵制御装置C2、運行管理装置C3、出力装置D、旅客センサE1、ホーム柵センサE2、及び列車センサE3を有する。
【0022】
移乗機制御装置C1は、移乗機1を制御する制御装置であり、例えば、プロセッサ、メモリ、及びインタフェースを有するコンピュータである。移乗機制御装置C1を構成するプロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)でもよいが、FPGA(field-programmable gate array)やASIC(application specific integrated circuit)等のプログラマブルロジックデバイスであってもよい。
【0023】
また、移乗機制御装置C1は、プログラマブルロジックコントローラであってもよい。移乗機制御装置C1は、国際電気標準会議(IEC:International Electrotechnical Commission)が定めた国際規格であるIEC61508等に基づいて第三者の安全認証を得たプログラマブルロジックコントローラ(FS-PLC:Functional Safety programmable logic controller)であってもよい。
【0024】
移乗機制御装置C1のインタフェースは、ホーム柵制御装置C2、及び運行管理装置C3と接続しており、これらからホーム柵2、及び列車3に関する情報を受け取る。また、移乗機制御装置C1のインタフェースは、操作盤C0、出力装置D、及び旅客センサE1に接続されている。移乗機制御装置C1は、操作盤C0、及び旅客センサE1と信号のやり取りをする。また、移乗機制御装置C1は、出力装置Dを制御する。
【0025】
操作盤C0は、駅係員、乗務員、旅客等の操作者により操作される盤であり、操作者の操作を受付けるボタンやレバー等の操作子を有する。操作盤C0が決められた手順で操作されると、その操作に応じた制御信号が移乗機制御装置C1に伝達され、この制御信号に基づいて移乗機1の制御が行われる。
【0026】
出力装置Dは、移乗機制御装置C1の制御の下、旅客や駅係員、乗務員等への通知、又は提示を出力する装置であり、例えば、液晶ディスプレイやスピーカ等を有する。例えば、スピーカを有する出力装置Dは、予め録音された音声や合成音声等を出力することにより旅客等へ警告や情報の通知をする。
【0027】
旅客センサE1は、移乗機1の近傍における旅客の有無を感知するセンサである。旅客センサE1は、例えば、赤外線センサであってもよいし、ロードセル等の重量センサであってもよい。移乗機制御装置C1は、旅客の存在を感知した旨の信号を旅客センサE1から受けると、列車3の運行状態やホーム柵2の開閉状態を参照して、移乗機1、又は出力装置Dを制御する。
【0028】
例えば、列車3が停止して乗降口を開けており、ホーム柵2が開けられているときに旅客センサE1が旅客の存在を感知すると、移乗機制御装置C1は移乗機1を乗降口へ向けて架け渡し、旅客が移乗機1の上を通行できるようにさせるとともに、出力装置Dから乗降口への搭乗を案内する音声を出力させる。
【0029】
また、例えば、列車が走行中であり、又はホーム柵2が閉められていて、旅客が安全に移乗機1の上を通行できない状態であるとき、移乗機制御装置C1は移乗機1を上へ向けて、旅客が移乗機1の上を通行できないようにさせるとともに、出力装置Dから移乗機1に接近しないように警告する音声を出力させる。
【0030】
ホーム柵制御装置C2は、ホーム柵2を制御する制御装置であり、例えばコンピュータである。ホーム柵センサE2は、ホーム柵2におけるホーム柵本体の位置を感知するセンサであり、例えば、接点出力形センサや非接触センサである。ホーム柵制御装置C2は、ホーム柵センサE2と接続しており、ホーム柵センサE2からホーム柵2におけるホーム柵本体の位置の感知結果を取得する。そして、ホーム柵センサE2は、ホーム柵センサE2から取得した感知結果に応じて、ホーム柵2を制御する。
【0031】
運行管理装置C3は、列車3の運行を管理する管理装置であり、例えばコンピュータである。列車センサE3は、列車3の位置、速度、加速度、乗降口の開閉状態等を感知するセンサである。運行管理装置C3は、列車センサE3と接続しており、列車センサE3から列車に関する感知結果を取得する。そして、運行管理装置C3は、列車センサE3から取得した感知結果に応じて、列車3を制御する。
【0032】
<移乗機1の利用状況>
図2は、移乗機1の利用状況を示す図である。図において、各構成が配置される空間をxyz右手系座標空間として表す。空間においてx軸に沿う方向をx軸方向という。また、x軸方向のうち、x成分が増加する方向を+x方向といい、x成分が減少する方向を-x方向という。y、z成分についても、上記の定義に沿ってy軸方向、+y方向、-y方向、z軸方向、+z方向、-z方向を定義する。
【0033】
図2において-z方向は重力の作用する方向、つまり、下であり、+z方向は上である。また、y軸方向は、列車3が走行する軌道の伸びる方向である。+x方向は、旅客がホームHから列車3に乗るときに移動する方向であり、-x方向は、旅客が列車3からホームHに降りるときに移動する方向である。
【0034】
移乗機1は、駅のホームHの軌道側の端において、列車3の乗降口が停止する位置に設置される。
図2に示すホーム柵2は、列車3の乗降口が停止する位置に設けられ、乗降口を封鎖する状態(すなわち、ホーム柵本体を閉じる状態)、及び、乗降口を開放する状態(すなわち、ホーム柵本体を開く状態)になる。ホーム柵2が有するホーム柵本体は、例えば、列車の進行方向(y軸方向)に沿って開くスライドドアであってもよいし、上下方向(z軸方向)に沿って移動する1以上の棒状の遮断部材(昇降バー)であってもよい。
【0035】
旅客は、例えば、車椅子Vの使用者であり、この車椅子Vに乗って+x方向に進み、列車3の乗降口に架け渡された状態の移乗機1の上を通過して列車3に搭乗する。なお、
図2に示す通り、ホームHには、列車3の乗降口が停止する位置に合わせて、乗降口のz軸方向のズレ、つまり段差を解消するために、スロープSが設けられていてもよい。スロープの傾斜角は、例えば5度程度(±1度)が望ましい。ホームHは、乗降口との段差が30ミリメートル未満になるように嵩上げされてもよい。
【0036】
<移乗機1の構成>
図3は、移乗機1の構成を示す図である。移乗機1は、筐体10、板状部材11、拡張板12、駆動部13、及び固定部14を有する。筐体10は、ホームH(
図2参照)の上に配置されて移乗機1をホームHに固定する箱状の部材であり、板状部材11の根本を支持する軸100(
図5参照)を収容する。
【0037】
拡張板12は、板状部材11の先端に着脱可能に設けられている。駆動部13は軸100(
図5参照)を回転駆動させ、軸100に支持される板状部材11を揺動(回転)させる。固定部14は、軸100の回転を制限して板状部材11の姿勢を固定するロック機構を備える。
【0038】
図4は、ホームHの改造部分を説明するための図である。図に示す座標記号のうち、円の中に点を描いた記号は、紙面奥側から手前側に向かう矢印を表し、円の中に交差する2本の線を描いた記号は、紙面手前側から奥側に向かう矢印を表す。
図4には、ホームHを+y方向に見た概略図が示されている。
図2に示す移乗機1を固定するため、ホームHは
図4に示す改造部分Hcを掘削される必要がある。この改造部分Hcは、ホームHの軌道側(+x方向)の端部であって、上面の一部である。したがって、この改造工事は、ホームHの笠石の撤去やタイル剥がし等の比較的小さな規模の工事で足りる。
【0039】
図5は、ホームHに固定された移乗機1を示す図である。
図4に示す改造部分Hcは
図5において掘削・除去されており、この改造部分Hcがあった空間には移乗機1の筐体10が配置される。筐体10は、ホームHに貫入した1本以上のアンカー109により、ホームHに固定される。板状部材11の根元部11bは、y軸方向に沿って伸びる軸100により回転可能に支持されている。この軸100は、筐体10に収容されている。板状部材11は、この軸100を中心にして揺動する。
【0040】
板状部材11の先端部11eには、拡張板12が装着されている。列車3が停車しているとき、移乗機制御装置C1は駆動部13(
図3参照)を制御して、軸100を回転駆動させ、板状部材11を
図5に示す姿勢にする。
図5に示す軸100から見て、停車時の列車3の乗降口は+x方向にある。したがって、
図5に示す板状部材11の姿勢は、先端部11eが停車時の列車3の乗降口に向けられた姿勢(第1姿勢という)である。
【0041】
筐体10の外側であってホームHの軌道側の端部上面には、ペダル101が設けられている。このペダル101は、板状部材11の姿勢を固定する固定部14(
図3参照)のロック機構を解除するために用いられる。
【0042】
図6は、先端部11eが軸100の上方に向けられた板状部材11を示す図である。列車3の走行時において、移乗機制御装置C1は駆動部13(
図3参照)を制御して軸100を中心に板状部材11を回転させて、
図6に示す通り、先端部11eが軸100の上方に位置する姿勢(第2姿勢という)にする。板状部材11が第2姿勢をとることによって、板状部材11、及びその先端部11eに装着された拡張板12は、ホームHの軌道側の端面よりも軌道側に突出しない。そのため、軌道上を走行する列車3とホームHとの隙間が変動しても、移乗機1に列車が衝突することはない。
【0043】
なお、第2姿勢をとるときの板状部材11のうち、+x方向の面11fは、板状部材11が第1姿勢をとるときにホームHの掘削された部分の上面によって支えられてもよい。このとき、面11fは、軸100から先端部11eに伸びる2本以上のリブで構成されてもよい。この場合、面11fは、板状部材11が第1姿勢をとったときにホームHの掘削された上面によって支持されるが、面11fを有するリブのy軸方向の位置がペダル101と重ならないため、ペダル101を下に押し付けることはない。
【0044】
図7は、第2姿勢の板状部材11を-x方向に見た図である。板状部材11は、第1姿勢のときに下側(つまり、-z方向)に向いている面が、第2姿勢のときに、軌道側(つまり、+x方向)に向く。つまり、
図7には、板状部材11、及び拡張板12の面のうち、第1姿勢のときに下側に向いている面が示されている。
【0045】
<移乗機1の着脱機構の構成>
図8は、拡張板12の板状部材11への着脱機構を示す図である。
図8には、
図7に示す領域Rを拡大した図が示されている。
【0046】
図8に示すとおり、領域Rにおいて拡張板12は、軸ピン120、連結部材121、バネ122、及びガイドピン123を有する。
【0047】
軸ピン120は、拡張板12に対して略垂直に差し込まれる棒状の部材であり、連結部材121を拡張板12の平面に沿って揺動可能に支持する中心軸として機能する。連結部材121は、駅係員、乗務員、旅客等の操作者が掴んで
図8に示す矢印方向に動かすレバー121aと、このレバー121aに対して略直角に伸び、先端に鈎が設けられた係合部121eと、を有する。バネ122は、連結部材121を
図8に示す時計回りに付勢している。そのため、
図8に示す通り、係合部121eは、板状部材11のリブに穿たれた穴111に差し込まれる。これにより、拡張板12は、板状部材11に装着され、
図8に示すz軸方向の移動が制限される。
【0048】
板状部材11の先端部11eには、
図8に示すz軸方向に穿たれたガイド穴112がある。このガイド穴112にガイドピン123が差し込まれることにより、拡張板12は、
図8におけるx軸方向、及びy軸方向の位置が定まり、その移動が制限される。
【0049】
図9は、
図8の矢印方向にレバー121aが動かされたときの状態を示す図である。バネ122の付勢に抗して
図8の矢印方向にレバー121aが動かされると、連結部材121は、軸ピン120を中心に、
図8に示す反時計回りに回転する。そして、連結部材121の係合部121eが穴111から外れると、
図8に示すz軸方向の制限がなくなり、拡張板12は、z軸方向に移動可能となる。これにより、拡張板12は、板状部材11から脱離可能となる。
【0050】
図10は、板状部材11から拡張板12を脱離させた様子を示す図である。上述した通り、操作者は、連結部材121を回転させることにより、
図10に示す通り移乗機1の拡張板12を板状部材11から脱離させることができる。
【0051】
したがって、拡張板12が有する軸ピン120、連結部材121、及びガイドピン123は、拡張板12を板状部材11に着脱可能とする着脱機構である。
【0052】
すなわち、この移乗機1は、ホームに沿った軸に根元を支持され、先端に着脱可能な拡張板が設けられた板状部材を、この軸により回転させて、列車の停車時に先端がこの列車の乗降口に向けられた第1姿勢とし、列車の走行時に先端が該軸の上方に向けられた第2姿勢とする移乗機の例である。
【0053】
この構成により、移乗機1は、板状部材11の先端に取り付けた拡張板12は、停車時の列車3の乗降口までの隙間(例えば、120ミリメートル以上200ミリメートル未満)を覆うため、旅客はこの隙間に落下することが防止される。なお、拡張板12は、隙間の全てを覆う必要はなく、列車3の乗降口から車両内に進入しなくてよい。拡張板12と乗降口との隙間は、例えば、50ミリメートル未満であればよい。
【0054】
また、この拡張板12が板状部材11から取り外すことができるため、例えば、移乗機1が故障しても、板状部材11から拡張板12を取り外して、走行時の列車3との接触を回避することができる。
【0055】
<移乗機1の解除機構の構成>
図11は、移乗機1の解除機構の構成を示す図である。
図11に示す通り、移乗機1の筐体10は、軸100とペダル101とを有する。板状部材11のリブは、
図11に示す面11fを有する。この面11fは、板状部材11が第1姿勢になるときにホームHの上面に接する面である。ただし、面11fを有するリブは、ペダル101とy軸方向における位置が重ならないように配置されているため、面11fによってペダル101が下方向に押されることはない。
【0056】
図12は、ペダル101を+y方向に見た概念図である。ペダル101は、第2姿勢を維持して立った状態の板状部材11よりも軌道側、つまり、列車3の側にある。ここで軌道側とは、+x方向である。そのため、ペダル101は、列車3に乗った、又は、乗降口付近にいる操作者の、例えば足によって押下される。
【0057】
ペダル101は、+x方向の端が軸101aによってホームHに対し揺動可能に固定されている。ペダル101は、バネ等の図示しない弾性部材によって
図12に示す矢印方向に付勢されているため、-x方向の端がホームHよりも浮いており、いわゆる「踏み代」ができている。
【0058】
図13は、ロック機構の構成を説明するための図である。固定部14は、カム140、及び制止部材141を有する。カム140は、固定部14に収納されており、軸100に連結され、この軸100を中心に回転するように設けられている。
図13に示すカム140の位置は、軸100が板状部材11を第2姿勢にするときの位置である。
【0059】
制止部材141は、軸141aを中心に揺動可能に設けられている。軸141aは、上述した軸101aと、逆回転リンク機構によって接続されている。これにより、図示しない弾性部材がペダル101を、軸101aを中心にして
図13に破線で示す矢印方向に付勢するとき、制止部材141は、軸141aを中心にして
図13に実線で示す矢印方向に付勢する。すなわち、逆回転リンク機構により、ペダル101が
図13に示すxz平面において時計回りに付勢されていると、制止部材141は同じxy平面において反時計回りに付勢される。
【0060】
これにより、制止部材141の先端141eは、カム140の最大径よりも軸100に近い部分に進入するため、カム140はこの先端141eにかかり、
図13に示す時計回りの回転が制止される。カム140は、軸100と連動しているため、カム140の回転が制止されることにより軸100の回転が制止され、軸100と連動する板状部材11の姿勢は第2姿勢のまま固定される。つまり、制止部材141は、板状部材11の姿勢を第2姿勢のまま維持するロック機構である。
【0061】
図14は、カム140のロックが解除される様子を示す図である。操作者がペダル101を踏みつけることにより、ペダル101が上述した付勢力に抗して
図14に破線で示す矢印方向に回転すると、制止部材141は、この回転方向とは逆の方向、つまり、
図14に実線で示す矢印方向D1に回転する。これにより、制止部材141の先端141eは、カム140の最大径よりも軸100から離れた部分に移動するため、カム140は、この先端141eから離れ、
図14に実線で示す矢印方向D2、つまり、軸100を中心に時計回りに回転する。これにより、軸100と連動する板状部材11の姿勢は第1姿勢になる。つまり、ペダル101は、制止部材141を移動させてカム140との接触を外し、これを以て、第2姿勢の板状部材11のロックを解除する解除機構である。
【0062】
したがって、この移乗機1は、第2姿勢で板状部材を固定するロック機構、を有し、ロック機構は、列車側から解除可能である移乗機の例である。この構成により、移乗機1は、故障時などに列車3の側から操作者がロック機構を解除して板状部材11の先端部11eを列車3の乗降口に向けさせることができる。
【0063】
<移乗機制御装置C1の動作>
図15は、移乗機1を制御する移乗機制御装置C1の動作の例を示すフロー図である。移乗機制御装置C1のプロセッサは、運行管理装置C3とやり取りする情報に基づいて、列車センサE3が列車3の正常な停止を検知したか否かを判断する(ステップS101)。列車3の正常な停止を検知していない、と判断する間(ステップS101;NO)、移乗機制御装置C1はこの判断を続ける。列車3の正常な停止を検知した、と判断すると(ステップS101;YES)、移乗機制御装置C1は、板状部材11を、その先端部11eが列車3の乗降口に向いた第1姿勢にする(ステップS102)。これにより、移乗機1の板状部材11と、この板状部材11の先端部11eに装着された拡張板12とは、x軸方向、つまり、略水平方向に伸びて、ホームHと列車3の乗降口とを架け渡した状態(架橋状態ともいう)となる。
【0064】
板状部材11が第1姿勢になると、移乗機制御装置C1は、運行管理装置C3に対して、列車3の乗降口を開ける指示をする(ステップS103)。そして、移乗機制御装置C1は、ホーム柵制御装置C2に対して、ホーム柵を開ける指示をする(ステップS104)。
【0065】
これにより、列車3の乗降口、及びホーム柵が開放になり、移乗機1において板状部材11と拡張板12とは上述した架橋状態となっているため、車椅子利用者等の旅客は、ホームHと列車3との隙間に落ちることなく乗降口を乗り降りすることができる。
【0066】
次に、移乗機制御装置C1は、旅客センサE1が旅客を検知しているか否か、を判断する(ステップS105)。ここで、移乗機制御装置C1は、旅客センサE1が旅客を検知していると判断する間(ステップS105;YES)、この判断を続ける。一方、旅客センサE1が板状部材11の付近で旅客を、例えば決められた期間にわたって検知しなくなった、と判断すると(ステップS105;NO)、移乗機制御装置C1は、ホーム柵制御装置C2に対して、ホーム柵を閉める指示をし(ステップS106)、さらに、運行管理装置C3に対して、列車3の乗降口を閉める指示をする(ステップS107)。これにより、第1姿勢となっている板状部材11、及び拡張板12によって形成される、ホームHから列車3への旅客の通路は封鎖される。
【0067】
上述した通路が封鎖されると、移乗機制御装置C1は、板状部材11の先端部11eを軸100の+z方向、つまり、上に向けた第2姿勢にする(ステップS108)。これにより、横向きの架橋状態になって通路を形成していた板状部材11、及び拡張板12は、縦向きの、いわゆる跳ね橋でいうところの跳開状態になるので、これらの部材は旅客の通路を横断してその通行を妨げる「壁」になる。
【0068】
このため、例えば、ホーム柵2が故障して閉じないときに車椅子やベビーカーがホームHを+x方向に進んでも、この第2姿勢となった板状部材11等に衝突して止まるため、軌道側に落下することが防止される。また、例えば、ホーム柵2が設置されていないホームHであったとしても、視覚障碍者は、白杖の先をこの第2姿勢であって跳開状態となっている板状部材11に当てることで、ホームHの軌道側の端を確認することができる。
【0069】
そして、板状部材11が第2姿勢になると、移乗機制御装置C1は、運行管理装置C3に対して、列車3の走行を許可する指示をする(ステップS109)。これにより、列車3は、走行が許可され、運転手の運転により走行する。
【0070】
以上、説明した動作により、列車3が正常に停止した状態で移乗機1は、板状部材11を横向きの第1姿勢にし、板状部材11が第1姿勢になったことを契機として列車3の乗降口、及びホーム柵2が開くので、旅客は、ホームHと停止した列車3とを行き来して列車3を乗降することができる。
【0071】
また、旅客が第1姿勢の板状部材11の付近で決められた時間にわたって検知されなくなったことを契機としてホーム柵2、及び列車3の乗降口が閉まるので、旅客がホーム柵2、及び列車3に接触して挟まる危険が回避される。
【0072】
つまり、移乗機制御装置C1、ホーム柵制御装置C2、及び運行管理装置C3は、検知結果に基づく条件によって連動するインターロック機構を構築するため、管理システム9は、旅客を安全に乗降させ、列車3を安全に走行させることができる。
【0073】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさ及び配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎない。したがって、本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【0074】
<変形例>
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の変形例は組み合わされてもよい。
【0075】
<1>
上述した実施形態において、移乗機制御装置C1は、板状部材11が第1姿勢になったことを契機として列車3の乗降口、及びホーム柵2を開かせていたが、板状部材11が第1姿勢で固定されるときに列車3の乗降口、及びホーム柵2を開かせてもよい。この場合、例えば、
図14に示す制止部材141は、その先端141eが時計回りに回転するカム140の最大径を超えて軸100に近い部分に進入し、カム140が反時計回りに回転することを制止してもよい。これにより、制止部材141は、カム140に連動する板状部材11を第1姿勢に固定することとなる。
【0076】
そして、固定部14は、カム140と制止部材141との位置を、接点方式センサや赤外線センサ等により感知して、板状部材11が第1姿勢に固定されたことを検知してもよい。移乗機制御装置C1は、この検知結果を受けて上述した乗降口、及びホーム柵2を制御すればよい。
【0077】
この変形例における移乗機1は、板状部材が、第1姿勢で固定されるときに、ホームにおいて、乗降口に応じた位置に設けられたホーム柵を開にする移乗機の例である。
【0078】
<2>
上述した実施形態において、移乗機制御装置C1は、板状部材11が第2姿勢になると、運行管理装置C3に対して、列車3の走行を許可する指示をしていたが、板状部材11が上述したロック機構によって第2姿勢のまま固定されているときに、列車3の走行を許可する指示をしてもよい。この場合、固定部14は、カム140と制止部材141との位置を、接点方式センサや赤外線センサ等により感知して、板状部材11が第2姿勢に固定されたことを検知してもよい。移乗機制御装置C1は、この検知結果を受けて上述した列車3の走行を許可する指示をすればよい。
【0079】
この変形例における移乗機1は、ロック機構が、板状部材を固定しているときに、停車した列車の走行を許可する移乗機の例である。
【0080】
<3>
上述した実施形態において、旅客が第1姿勢の板状部材11の付近で決められた時間にわたって検知されなくなったことを契機として、移乗機制御装置C1は、ホーム柵制御装置C2、及び運行管理装置C3に指示をして、ホーム柵2、及び列車3の乗降口を閉じていたが、ロック機構によって第1姿勢で固定された板状部材11の上に旅客が決められた時間にわたって検知されなくなったときに、ホーム柵2、及び列車3の乗降口を閉じるようにしてもよい。
【0081】
この場合、移乗機制御装置C1は、接点方式センサや赤外線センサ等によって板状部材11が第1姿勢に固定されたことを検知したときに旅客センサE1を起動し、この旅客センサE1が有する赤外線センサ等に板状部材11の上を監視させて、旅客の有無を検知すればよい。
【0082】
この変形例における移乗機1は、決められた時間にわたって第1姿勢で固定された板状部材の上に旅客がいないときに、前記ホームにおいて、前記乗降口に応じた位置に設けられたホーム柵を閉にする移乗機の例である。
【0083】
<4>
上述した実施形態において、拡張板12を板状部材11に着脱可能とする着脱機構は、レバー121aを操作することで、軸ピン120を中心に連結部材121を回転させて係合部121eを穴111から外していたが、着脱機構は、この構成に限られない。例えば、ガイドピン123に代えて、ボルトをガイド穴112に差し込んでもよい。この場合、このガイド穴112を挟んで、ナットを締め込むことで、拡張板12を板状部材11に装着してもよい。この場合、操作者は、ナットを緩めてボルトから外すことにより、拡張板12を板状部材11から脱離させればよい。
【符号の説明】
【0084】
1…移乗機、10…筐体、100…軸、101…ペダル、101a…軸、109…アンカー、11…板状部材、111…穴、112…ガイド穴、11b…根元部、11e…先端部、11f…面、12…拡張板、120…軸ピン、121…連結部材、121a…レバー、121e…係合部、122…バネ、123…ガイドピン、13…駆動部、14…固定部、140…カム、141…制止部材、141a…軸、141e…先端、2…ホーム柵、3…列車、9…管理システム、C0…操作盤、C1…移乗機制御装置、C2…ホーム柵制御装置、C3…運行管理装置、E1…旅客センサ、E2…ホーム柵センサ、E3…列車センサ。