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特開2023-1325601,2-シクロヘキサンジオール生合成のための微生物および製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132560
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】1,2-シクロヘキサンジオール生合成のための微生物および製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20230914BHJP
   C12P 7/02 20060101ALI20230914BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20230914BHJP
   C12N 15/60 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
C12N1/21
C12P7/02
C12N15/53
C12N15/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037946
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】井阪 光二
(72)【発明者】
【氏名】宮武 令
(72)【発明者】
【氏名】楠山 直征
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AC13
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC06
4B064DA16
4B065AA01Y
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA03
4B065BC03
4B065CA05
4B065CA60
(57)【要約】      (修正有)
【課題】1,2-シクロヘキサンジオールの生産が可能である新規な組換え微生物、および1,2-ヘキサンジオールの新規な製造方法を提供する。
【解決手段】グルコースから1,2-シクロヘキサンジオールへの変換活性を有する、例えば(A)アジピン酸またはアジピン酸セミアルデヒドの還元活性を示すカルボン酸レダクターゼをコードする外因性遺伝子、および、(B)アジポアルデヒドからヒドロキシシクロヘキサノンへの変換活性を示すピルビン酸デカルボキシラーゼをコードする外因性遺伝子を含む、組換え微生物、ならびに該組換え微生物を培養して培養物を得る培養工程を含む、1,2-シクロヘキサンジオールの製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコースから1,2-シクロヘキサンジオールへの変換活性を有する組換え微生物。
【請求項2】
アジピン酸生産経路またはアジピン酸セミアルデヒド生産経路を有し、かつ、
アジポアルデヒドから1,2-シクロヘキサンジオールへの変換活性を有する、請求項1記載の組換え微生物。
【請求項3】
(A)アジピン酸またはアジピン酸セミアルデヒドの還元活性を示すカルボン酸レダクターゼをコードする外因性遺伝子、および、
(B)アジポアルデヒドからヒドロキシシクロヘキサノンへの変換活性を示すピルビン酸デカルボキシラーゼをコードする外因性遺伝子
を含む、請求項1または2記載の組換え微生物。
【請求項4】
アジピン酸からヒドロキシシクロヘキサノンを生産する生産能を有する、請求項1から3のいずれか一項記載の組換え微生物。
【請求項5】
(C)ヒドロキシシクロヘキサノンから1,2-シクロヘキサンジオールへの変換活性を示すアルコールデヒドロゲナーゼをコードする外因性遺伝子をさらに含む、請求項1から4のいずれか一項記載の組換え微生物。
【請求項6】
アジピン酸から1,2-シクロヘキサンジオールを生産する生産能を有する、請求項1から5のいずれか一項記載の組換え微生物。
【請求項7】
アジポアルデヒドから6-ヒドロキシヘキサナールへの変換を触媒するアルコールデヒドロゲナーゼ活性、および、
6-ヒドロキシヘキサナールから1,6-ヘキサンジオールへの変換を触媒するアルコールデヒドロゲナーゼ活性
の少なくとも1つが、非低下株と比較して低下している、請求項1から6のいずれか一項記載の組換え微生物。
【請求項8】
ヒドロキシシクロヘキサノンから1,2-シクロヘキサンジオールへの変換活性を示す前記アルコールデヒドロゲナーゼが、
アジポアルデヒドから6-ヒドロキシヘキサナールへの変換活性が低いもの、または、6-ヒドロキシヘキサナールから1,6-ヘキサンジオールへの変換活性が低いものである、請求項5から7のいずれか一項記載の組換え微生物。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか一項記載の組換え微生物を培養して培養物を得る培養工程を含む、1,2-シクロヘキサンジオールの製造方法。
【請求項10】
前記培養物から1,2-シクロヘキサンジオールを分離および/または精製する分離および/または精製工程をさらに含む、1,2-シクロヘキサンジオールの製造方法。
【請求項11】
前記1,2-シクロヘキサンジオールが、(R,R)体、(S,S)体およびcis体の少なくとも1つである、請求項1から8のいずれか一項記載の1,2-シクロヘキサンジオールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,2-シクロヘキサンジオール生合成のための遺伝子組換え微生物、および、当該遺伝子組換え微生物を用いた1,2-シクロヘキサンジオールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料は枯渇が危惧され、かつ、地球温暖化の一因とされていることから、化学品製造プロセスにおいては、化石燃料由来の原料から再生可能な原料、例えばバイオマス由来原料への移行が望まれている。また、製造プロセスで排出される、二酸化炭素に代表される温室効果ガス発生量の低減が望まれている。このため、遺伝子組換えにより代謝が改変された微生物を用い、糖などのバイオマス由来原料からのワンポット発酵生産による製造方法が提案されている。
【0003】
1,2-シクロヘキサンジオールのcis-,trans-混合物(CAS No.931-17-9)およびtrans体(CAS No.1460-57-7)は、アジピン酸など有用化合物製造の出発原料として、不斉補助剤として、および、抗がん剤合成時の基質として知られている。
【0004】
trans-1,2-シクロヘキサンジオールはtrans-シクロヘキセンカーボネートの原料であり、さらにこの化合物を重合して得られるポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂組成物およびそれらを含む光学用成形体は、光学レンズ材料、光学デバイス、光学部品用材料、およびディスプレイ材料のような各種の光学用材料等に使用される(特許文献1)。
【0005】
1,2-シクロヘキサンジオールの製造方法としては、外表面酸点が不活性化された中間細孔径ゼオライトを含有する触媒の存在下、シクロヘキセンオキサイドと水とを反応させる方法が提案されているが、当該方法において原料であるシクロヘキセンオキサイドは化石原料より誘導される化合物である(特許文献2)。
【0006】
1,2-シクロヘキサンジオールの製造方法としては、アジポアルデヒドを二段の酵素反応を経て合成する方法も提案されているが、当該方法の原料であるアジポアルデヒドも化石原料より誘導される化合物である(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2021/145443号
【特許文献2】特開第2019-112368号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Adv. Synth. Catal. 2018, 360, 4191-4196
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、1,2-シクロヘキサンジオールの生産が可能である新規な組換え微生物、および、本組み換え微生物を培養することによる1,2-ヘキサンジオールの新規な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記従来技術の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、宿主微生物において、外来性の特定の酵素を発現させることで、1,2-ヘキサンジオールを生産できることを見出し、本知見に基づき本発明をなすに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下を提供する:
[1]グルコースから1,2-シクロヘキサンジオールへの変換活性を有する組換え微生物。
[2]アジピン酸生産経路またはアジピン酸セミアルデヒド生産経路を有し、かつ、
アジポアルデヒドから1,2-シクロヘキサンジオールへの変換活性を有する、[1]記載の組換え微生物;
[3](A)アジピン酸またはアジピン酸セミアルデヒドの還元活性を示すカルボン酸レダクターゼをコードする外因性遺伝子、および、
(B)アジポアルデヒドからヒドロキシシクロヘキサノンへの変換活性を示すピルビン酸デカルボキシラーゼをコードする外因性遺伝子
を含む、[1]または[2]記載の組換え微生物;
[4]アジピン酸からヒドロキシシクロヘキサノンを生産する生産能を有する、[1]から[3]のいずれか一項記載の組換え微生物;
[5](C)ヒドロキシシクロヘキサノンから1,2-シクロヘキサンジオールへの変換活性を示すアルコールデヒドロゲナーゼをコードする外因性遺伝子をさらに含む、[1]から[4]のいずれか一項記載の組換え微生物;
[6]アジピン酸から1,2-シクロヘキサンジオールを生産する生産能を有する、[1]から[5]のいずれか一項記載の組換え微生物;
[7]アジポアルデヒドから6-ヒドロキシヘキサナールへの変換を触媒するアルコールデヒドロゲナーゼ活性、および、
6-ヒドロキシヘキサナールから1,6-ヘキサンジオールへの変換を触媒するアルコールデヒドロゲナーゼ活性
の少なくとも1つが、非低下株と比較して低下している、[1]から[6]のいずれか一項記載の組換え微生物;
[8]ヒドロキシシクロヘキサノンから1,2-シクロヘキサンジオールへの変換活性を示す前記アルコールデヒドロゲナーゼが、
アジポアルデヒドから6-ヒドロキシヘキサナールへの変換活性が低いもの、または、6-ヒドロキシヘキサナールから1,6-ヘキサンジオールへの変換活性が低いものである、[5]から[7]のいずれか一項記載の組換え微生物;
[9][1]から[6]のいずれか一項記載の組換え微生物を培養して培養物を得る培養工程を含む、1,2-シクロヘキサンジオールの製造方法;
[10]前記培養物から1,2-シクロヘキサンジオールを分離および/または精製する分離および/または精製工程をさらに含む、1,2-シクロヘキサンジオールの製造方法;
[11] 前記1,2-シクロヘキサンジオールが、(R,R)体、(S,S)体およびcis体の少なくとも1つである、[1]から[8]のいずれか一項記載の1,2-シクロヘキサンジオールの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、1,2-シクロヘキサンジオールの生産が可能である新規な組換え微生物、および、1,2-シクロヘキサンジオールの新規な製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の組換え微生物が有する、アセチル-CoA及びスクシニル-CoAからの1,2-シクロヘキサンジオール生合成経路の一例を示す図である。
図2図2は、酵素のアミノ酸配列を示す図である。
図3図3は、プライマーの塩基配列を示す図である。
図4図4は、酵素のアミノ酸配列を示す図である。
図5図5は、酵素のアミノ酸配列を示す図である。
図6図6は、酵素のアミノ酸配列を示す図である。
図7図7は、プライマーの塩基配列を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。また、本明細書に記述されているDNAの取得、ベクターの調製および形質転換等の遺伝子操作は、特に明記しない限り、Molecular Cloning 4th Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2012)、Current Protocols in Molecular Biology(Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience)、および、遺伝子工学実験ノート(羊土社 田村隆明)等公知の文献に記載されている方法により行うことができる。本明細書において特に断りのない限りヌクレオチド配列は5’方向から3’方向に向けて記載される。本明細書において、「ポリペプチド」および「タンパク質」の語は、互換可能に使用される。また、本明細書において、これらの語は、化学反応を触媒する場合、「酵素」と称される。
【0015】
本明細書において、「内因」または「内因性」という用語は、言及している遺伝子組換えによる改変がなされていない宿主微生物が、言及している遺伝子またはそれによりコードされるタンパク質(典型的には酵素)を、当該宿主細胞内で優位な生化学的反応を進行させ得る程度に機能的に発現しているかどうかに関わらず、宿主微生物が有していることを意味するために用いられる。
【0016】
本明細書において、「外来」または「外来性」という用語は、遺伝子組換え前の宿主微生物が本発明により導入されるべき遺伝子を有していない場合、その遺伝子による酵素を実質的に発現していない場合、及びその遺伝子もしくは異なる遺伝子により当該酵素のアミノ酸配列をコードしているが、遺伝子組換え後に匹敵する内因性酵素活性を発現しない場合において、本発明に基づく遺伝子または核酸配列を宿主に導入することを意味するために用いられる。「外来性」の語は、「外因性」の語と互換可能に使用される。
【0017】
本発明にかかる微生物は、グルコースから1,2-シクロヘキサンジオールへの変換活性を有する組換え微生物である。
【0018】
本発明者らは、宿主微生物において、外来性の特定の酵素を発現させることで、バイオマス原料、例えばグルコースから、1,2-シクロヘキサンジオールを生産できることを見出した。上記のとおり、本発明にかかる組換え微生物は、宿主微生物に外来性の酵素遺伝子を導入した遺伝子組換え微生物である。「遺伝子組換え微生物」は、単に「組換え微生物」または「改変微生物」とも称する。
【0019】
本明細書において、目的の外来性遺伝子が導入される宿主微生物は特に限定されず、原核生物および真核生物のいずれであってもよい。既に単離保存されているもの、新たに天然から分離したものおよび遺伝子改変をされたものから任意に選択することができる。宿主微生物は、例えば、エスケリキア(Escherichia)属、バチルス(Bacillus)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、アルスロバクター(Arthrobacter)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、クロストリジウム(Clostridium)属、ザイモモナス(Zymomonas)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、シネコシスティス(Synechocystis)属、アルカリハロバチルス(Alkalihalobacillus)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、ヤロウィア(Yarrowia)属、カンジタ(Candida)属、ピキア(Pichia)属、またはアスペルギルス(Aspergillus)属に属する。宿主微生物は、好ましくは、エスケリキア(Escherichia)属に属し、より好ましくは、大腸菌(Escherichia coli)である。
【0020】
したがって、上記宿主微生物に外来性遺伝子を導入した本発明にかかる組換え微生物は、例えば、エスケリキア(Escherichia)属、バチルス(Bacillus)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、アルスロバクター(Arthrobacter)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、クロストリジウム(Clostridium)属、ザイモモナス(Zymomonas)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、シネコシスティス(Synechocystis)属、アルカリハロバチルス(Alkalihalobacillus)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、ヤロウィア(Yarrowia)属、カンジタ(Candida)属、ピキア(Pichia)属、またはアスペルギルス(Aspergillus)属に属する。本発明にかかる組換え微生物は、好ましくは、エスケリキア(Escherichia)属に属し、より好ましくは、大腸菌(Escherichia coli)である。
【0021】
本発明にかかる組換え微生物は、以下で詳述する図1に示す生合成経路におけるグルコース以外の化合物を出発物質として、1,2-シクロヘキサンジオール以外の目的化合物へと変換する活性を有していてもよい。例えば、一態様において、本発明にかかる組換え微生物は、アジピン酸からヒドロキシシクロヘキサノンを生産する生産能を有する。
【0022】
また、別の態様において、本発明にかかる組換え微生物は、アジピン酸から1,2-シクロヘキサンジオールを生産する生産能を有する。
【0023】
本発明にかかる組換え微生物は、図1に示す生合成経路における化合物のいずれかを出発物質および目的化合物とし、当該出発化合物を当該目的化合物へと変換する活性を有し得る。出発物質および目的化合物の組み合わせは、図1に示す化合物の範囲内において、特に制限されない。目的化合物は、1,2-シクロヘキサンジオールのほか、例えば、アジポアルデヒドおよびヒドロキシシクロヘキサノンであってもよい。
【0024】
好ましい一態様において、本発明にかかる組換え微生物は、
(1)アジピン酸生産経路またはアジピン酸セミアルデヒド生産経路を有し、かつ、
(2)アジポアルデヒドから1,2-シクロヘキサンジオールへの変換活性を有する、組換え微生物である。
【0025】
本明細書において、ある化合物に関し、「生産経路を有する」とは、本発明にかかる遺伝子組換え微生物が、その化合物の生産経路の各反応段階が進行するために十分な量の酵素を発現し、その化合物を生合成可能であることを意味する。本発明の組換え微生物は、当該化合物を生産する能力を本来有する宿主微生物を用いたものであってもよく、本来は当該化合物を生産する能力を有さない宿主微生物に対して、その化合物の生産能を有するように改変を行ったものであってもよい。
【0026】
本発明にかかる上記組換え微生物は、アジピン酸生産経路またはアジピン酸セミアルデヒド生産経路の各反応段階が進行するために十分な量の酵素を発現し、アジピン酸またはアジピン酸セミアルデヒドを生合成することが可能である。さらに、アジポアルデヒドから1,2-シクロヘキサンジオールへの変換活性を有することにより、アジピンまたはアジピン酸セミアルデヒドから、アジポアルデヒドを経由して、1,2-シクロヘキサンジオールを生合成することが可能である(図1)。
【0027】
本発明にかかる組換え微生物において、アジポアルデヒドから1,2-シクロヘキサンジオールへの変換活性(図1、ステップL)は、外来性のポリペプチド、具体的には、アジポアルデヒドから1,2-シクロヘキサンジオールへの変換活性を有する外来性の酵素の塩基配列を宿主微生物に導入することによって、付与される。
【0028】
より好ましい態様において、本発明にかかる組換え微生物は、
(A)アジピン酸またはアジピン酸セミアルデヒドの還元活性を示すカルボン酸レダクターゼをコードする外因性遺伝子、および
(B)アジポアルデヒドからヒドロキシシクロヘキサノンへの変換活性を示すピルビン酸デカルボキシラーゼをコードする外因性遺伝子
を含む。
【0029】
上記(A)の酵素は、以下で説明する図1のステップGおよび/またはHの反応を触媒する酵素である。当該酵素は、例えば、図1のステップGおよびHに関連して以下で例示される生物に由来する。
【0030】
ここで、アジピン酸またはアジピン酸セミアルデヒドの還元活性を示すカルボン酸レダクターゼ(酵素(A))をコードする外因性遺伝子は、例えば:
・配列番号10または11に示すアミノ酸配列と80%以上、85%以上、88%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる、または、
・配列番号10または11に示すアミノ酸配列に対して1~10個、1~7個、1~5個または1~3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる、ポリペプチドである。
【0031】
上記(B)の酵素は、以下で説明する図1のステップKの反応を触媒する酵素である。当該酵素は、例えば、図1のステップKに関連して以下で例示される生物に由来する。
【0032】
ここで、アジポアルデヒドからヒドロキシシクロヘキサノンへの変換活性を示すピルビン酸デカルボキシラーゼ(酵素(B))をコードする外因性遺伝子は、例えば:
・配列番号14または15に示すアミノ酸配列と80%以上、85%以上、88%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる、または、
・配列番号14または15に示すアミノ酸配列に対して1~10個、1~7個、1~5個または1~3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる、ポリペプチドである。
【0033】
本明細書において、「由来する」とは、遺伝子またはそれによりコードされるタンパク質(典型的には酵素)が、言及する特定の生物種が内因的に有しているものであることを意味する。
【0034】
本発明にかかる組換え微生物は、上記(A)および(B)の酵素の外因性遺伝子に加え、さらなる酵素の外因性遺伝子を含んでもよい。一態様において、本発明にかかる組換え微生物は、ヒドロキシシクロヘキサノンから1,2-シクロヘキサンジオールへの変換活性を示すアルコールデヒドロゲナーゼ(以下、酵素(C)とも称する。)をコードする外因性遺伝子をさらに含む。
【0035】
上記(C)の酵素は、以下で説明する図1のステップLの反応を触媒する酵素である。当該酵素は、例えば、図1のステップLに関連して以下で例示される生物に由来する。
【0036】
ヒドロキシシクロヘキサノンから1,2-シクロヘキサンジオールへの変換活性を示すアルコールデヒドロゲナーゼ(酵素(C))をコードする外因性遺伝子は、例えば:
・配列番号16または17に示すアミノ酸配列と80%以上、85%以上、88%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる、または、
・配列番号16または17に示すアミノ酸配列に対して1~10個、1~7個、1~5個または1~3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる、ポリペプチドである。
【0037】
好ましい一態様において、本発明にかかる組換え微生物は、ヒドロキシシクロヘキサノンから1,2-シクロヘキサンジオールへの変換活性を示す前記アルコールデヒドロゲナーゼ(前記(C)の酵素)が、
・アジポアルデヒドから6-ヒドロキシヘキサナールへの変換活性が低いもの、または、
・6-ヒドロキシヘキサナールから1,6-ヘキサンジオールへの変換活性が低いもの
である。
【0038】
ここで、「変換活性が低い」とは、ヒドロキシシクロヘキサノンから1,2-シクロヘキサンジオールへの変換活性に対し、アジポアルデヒドから6-ヒドロキシヘキサナールへの変換活性または6-ヒドロキシヘキサナールから1,6-ヘキサンジオールへの変換活性が低いことをいう。具体的に、「変換活性が低い」とは、アジポアルデヒドから6-ヒドロキシヘキサナールへの変換活性または6-ヒドロキシヘキサナールから1,6-ヘキサンジオールへの変換活性が、ヒドロキシシクロヘキサノンから1,2-シクロヘキサンジオールへの変換活性の、例えば30%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは1%以下である。「変換活性が低い」とは、最も好ましくは活性が検出されないことをいう。
【0039】
本発明にかかる組換え微生物に関連して、1,2-シクロヘキサンジオール生産経路の例を図1に示す。以下、各反応段階を触媒する酵素について図1を参照しながら説明する。本発明にかかる組換え微生物は、図1に示す反応段階を触媒する酵素の外因性遺伝子をさらに含んでもよい。
【0040】
図1のステップAでは、スクシニル-CoAとアセチル-CoAが縮合し、3-オキソアジピル-CoAへと変換される。本変換を触媒し得る酵素の例としては、β-ケトチオラーゼが挙げられる。更には、例えば、EC 2.3.1.9(アセトアセチルCoAチオラーゼ)、EC 2.3.1.16(3-ケトアシル-CoAチオラーゼ)およびEC 2.3.1.174(3-オキソアジピル-CoAチオラーゼ)などの群に分類される酵素も、本変換に対して活性を有し得る酵素として例示することができる。本変換で使用され得る酵素は、本変換に対する活性を有するものであれば限定されないが、例えば、スクシニルCoA:アセチルCoAアシルトランスフェラーゼ、および、3-オキソアジピルCoAチオラーゼが挙げられる。一態様において、配列番号1に記載されるアミノ酸配列からなる大腸菌由来のPaaJが使用される。
【0041】
図1のステップBでは、3-オキソアジピル-CoAが、3-ヒドロキシアジピル-CoAへと変換される。本変換を触媒し得る酵素の例としては、EC 1.1.1に分類されるオキシドレダクターゼが挙げられる。例えば、EC 1.1.1.35(3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ)、EC 1.1.1.36(アセトアセチル-CoAデヒドロゲナーゼ)、EC 1.1.1.157(3-ヒドロキシブタノイル-CoAデヒドロゲナーゼ)、EC 1.1.1.211(長鎖3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ)およびEC 1.1.1.259(3-ヒドロキシピメロイル-CoAデヒドロゲナーゼ)などの群に分類される酵素は、本変換に対して活性を有し得る酵素として例示することができる。本発明で使用され得る酵素は、本変換に対する活性を有するものであれば限定されないが、例えば、3-ヒドロキシアジピルCoAデヒドロゲナーゼである。一態様において、配列番号2に記載されるアミノ酸配列からなる大腸菌由来のPaaHが使用される。
【0042】
図1のステップCでは、3-ヒドロキシアジピル-CoAが、2,3-デヒドロアジピル-CoAへと変換される。本変換を触媒し得る酵素の例としては、EC 4.2.1に分類されるヒドロリアーゼが挙げられる。例えば、EC 4.2.1.17(エノイル-CoAヒドラターゼ)、EC 4.2.1.55(3-ヒドロキシブタノイル-CoAデヒドラターゼ)およびEC 4.2.1.74(長鎖エノイル-CoAヒドラターゼ)などの群に分類される酵素は、本変換に対して活性を有し得る酵素として例示することができる。本発明で使用され得る酵素は、本変換に対する活性を有するものであれば限定されないが、例えば、3-ヒドロキシアジピルCoAデヒドラターゼである。一態様において、配列番号3に記載されるアミノ酸配列からなる大腸菌由来のPaaFが使用される。また、別の態様として、当該酵素としては、配列番号4に示すヌクレオチドおよび配列番号5に示すヌクレオチド(図3)をプライマーとして使用した、バークホルデリア属(Burkholderia sp.)LEBP-3株の染色体DNAを鋳型としたPCR増幅物の塩基配列(783bp)にコードされる3-ヒドロキシアジピルCoAデヒドラターゼPaaF(L3)が使用される。Burkholderia sp.LEBP-3株(以下、「L3株」とも略称する。)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)(住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に2020年12月4日に寄託申請し(受領番号:NITE ABP-03334)、「受託番号:NITE BP-03334」として国際寄託されている。
【0043】
ここで、PCR増幅物の調製に用いるDNAポリメラーゼとしては当該分野で既知のものが用いられ、例えば、Taq DNAポリメラーゼ、ホットスタート調整されたDNAポリメラーゼ、ポリメラーゼ活性とは別に3’-5’エキソヌクレアーゼ活性を有するプルーフリーディングDNAポリメラーゼ等が挙げられるが、これらには限定されない。PCR増幅物の調製条件の好ましい一態様において、特定のヌクレオチドを1μMずつ、フォワードプライマーおよびリバースプライマーとして用い、且つ、酵素としてPrimeSTAR Max DNA Polymerase(製品名、タカラバイオ製)を用いて、25μL液の量で熱処理98℃10秒、アニーリング55℃15秒、伸長72℃5秒/kbの条件での処理を30サイクル実施することで調製される。
【0044】
図1のステップDでは、2,3-デヒドロアジピル-CoAが、アジピル-CoAへと変換される。本変換を触媒し得る酵素の例としては、EC 1.3.1に分類されるオキシドレダクターゼが挙げられる。例えば、EC 1.3.1.8(アシル-CoAデヒドロゲナーゼ(NADP+))、EC 1.3.1.9(エノイル-ACPレダクターゼ(NADH))、EC 1.3.1.38(トランス-2-エノイル-CoAレダクターゼ(NADP+))、EC 1.3.1.44(トランス-2-エノイル-CoAレダクターゼ(NAD+))、EC 1.3.1.86(クロトニル-CoAレダクターゼ)、EC 1.3.1.93(長鎖アシル-CoAレダクターゼ)およびEC 1.3.1.104(エノイル-ACPレダクターゼ(NADPH))などの群に分類される酵素は、本変換に対して活性を有し得る酵素として例示することができる。
【0045】
本発明で使用される2,3-デヒドロアジピルCoAレダクターゼは、例えば、以下の生物種に由来する酵素である:Thermothelomyces thermophilus(配列番号6)、Chaetomium thermophilum(配列番号7)、candida tropicalis(配列番号8)(図4)。これらアミノ酸配列からなる酵素の少なくとも1つが使用される。
【0046】
図1のステップEでは、アジピル-CoAがアジピン酸へと変換される。本変換を触媒し得る酵素の例としては、EC 3.1.2に分類されるチオエステルヒドロラーゼが挙げられる。例えば、EC 3.1.2.1(アセチル-CoAヒドロラーゼ)および、EC 3.1.2.20(アシル-CoAヒドロラーゼ)などの群に分類される酵素は、本変換に対して活性を有し得る酵素として例示することができる。本発明で使用され得る酵素は、本変換に対する活性を有するものであれば限定されないが、例えば、アジピル-CoAヒドロラーゼである。
【0047】
また、図1のステップEの反応を触媒し得る別の酵素の例として、EC 2.8.3に分類されるCoA-トランスフェラーゼも挙げることができる。例えば、EC 2.8.3.5(3-オキソ酸 CoA-トランスフェラーゼ)、EC 2.8.3.6(3-オキソアジピン酸 CoA-トランスフェラーゼ)およびEC 2.8.3.18(スクシニル-CoA:アセチル-CoA-トランスフェラーゼ)などの群に分類される酵素は、本変換に対して活性を有し得る酵素として例示することができる。本発明で使用され得る酵素は、本変換に対する活性を有するものであれば限定されないが、例えば、アジピン酸 CoAトランスフェラーゼである。
【0048】
さらには、図1のステップEの反応を触媒し得る別の酵素変換の例として、EC 2.3.1に分類されるアシルトランスフェラーゼによって、アジピル-CoAのアジピル基をリン酸に転移してアジピルリン酸を生成した後、EC 2.7.2に分類されるホスホトランスフェラーゼによる脱リン酸化を経る経路も例示することができる。例えば、アシルトランスフェラーゼとしては、EC 2.3.1.8(リン酸アセチルトランスフェラーゼ)およびEC 2.3.1.19(リン酸ブチリルトランスフェラーゼ)などの群に分類される酵素は、本変換に対して活性を有し得る酵素として例示することができる。ホスホトランスフェラーゼとしては、EC 2.7.2.1(酢酸キナーゼ)およびEC 2.7.2.7(ブタン酸キナーゼ)などの群に分類される酵素は、本変換に対して活性を有し得る酵素として例示することができる。本発明で使用され得る酵素は、本変換に対する活性を有するものであれば限定されないが、例えば、リン酸アジピルトランスフェラーゼおよびアジピン酸キナーゼである。
【0049】
図1のステップFでは、アシル-CoAがアルデヒドへと変換される。本変換を触媒し得る酵素の例としては、EC 1.2.1に分類される酵素が挙げられる。例えば、EC 1.2.1.10(アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ(アセチル化))、EC 1.2.1.17(グリオキシル酸デヒドロゲナーゼ(アシル化))、EC 1.2.1.42(ヘキサデカナールデヒドロゲナーゼ(アシル化))、EC 1.2.1.44(シナモイル-CoAレダクターゼ(アシル化))、EC 1.2.1.75(マロニル-CoAレダクターゼ(マロン酸セミアルデヒド形成))およびEC 1.2.1.76(コハク酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(アシル化))などの群に分類される酵素は、本変換と同様に、CoAを脱離しアルデヒドを生成する変換反応を触媒することから、本変換に対しても活性を有し得る酵素として例示することができる。本発明で使用され得る酵素は、本変換に対する活性を有するものであれば限定されないが、例えば、配列番号9に記載されるアミノ酸配列からなるClostridium kluyveri由来のsucDが使用される(図4)。
【0050】
図1のステップGおよびHでは、カルボキシル基がアルデヒドへと変換される。本変換を触媒し得る酵素としては、例えば、カルボン酸レダクターゼ(Carboxylic Acid Reductase;CAR)が挙げられる。例えば、EC 1.2.1.30(カルボン酸レダクターゼ(NADP+))、EC 1.2.1.31(L-アミノアジピン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ)、EC 1.2.1.95(L-2-アミノアジピン酸レダクターゼ)およびEC 1.2.99.6(カルボン酸レダクターゼ)などの群に分類される酵素が、本変換と同様に、カルボン酸からアルデヒドを生成する変換反応を触媒することから、本変換に対しても活性を有し得る酵素として例示することができる。酵素の由来となる生物種の典型的な例としては、Nocardia iowensis、Nocardia asteroides、Nocardia brasiliensis、Nocardia farcinica、Segniliparus rugosus、Segniliparus rotundus、Tsukamurella paurometabola、Mycobacterium marinum、Mycobacterium neoaurum、Mycobacterium abscessus、Mycobacterium avium、Mycobacterium chelonae、Mycobacterium immunogenum、Mycobacterium smegmatis、Serpula lacrymans、Heterobasidion annosum、Coprinopsis cinerea、Aspergillus flavus、Aspergillus terreus、Neurospora crassa、Saccharomyces cerevisiaeが挙げられるが、これらに限定されない。本発明で使用され得る酵素は、本変換に対する活性を有するものであれば限定されないが、好ましくは、配列番号10に記載されるアミノ酸配列からなるMycobacterium abscessus由来の酵素MaCar、配列番号11に記載されるアミノ酸配列からなるMaCarの変異体であるMaCar(m)の少なくとも一方が使用され、より好ましくは配列番号11に記載されるアミノ酸配列からなるMaCar(m)が使用される(図5)。
【0051】
また、カルボン酸レダクターゼは、ホスホパンテテイニル化されることにより活性型のホロ酵素に変換され得る(Venkitasubramanian et al., Journal of Biological Chemistry,Vol.282,No.1,478-485(2007))。ホスホパンテテイニル化はホスホパンテテイニル基転移酵素(Phosphopantetheinyl Transferase;PT)により触媒される。本反応を触媒し得る酵素としては、例えば、EC 2.7.8.7に分類される酵素が挙げられる。したがって、本発明の微生物は更に、ホスホパンテテイニル基転移酵素の活性が増大するように改変されていて良い。ホスホパンテテイニル基転移酵素の活性を増大する方法としては、外来のホスホパンテテイニル基転移酵素遺伝子を導入する方法、および、内因性のホスホパンテテイニル基転移酵素遺伝子の発現を強化する方法が挙げられるが、これらに限定されない。本発明で使用され得る酵素は、ホスホパンテテイニル基転移活性を有する限り、これらに限定されないが、典型的な酵素としては、例えば、大腸菌のEntD、および、Bacillus subtilisのSfp、Nocardia iowensisのNpt(Venkitasubramanian et al., Journal of Biological Chemistry,Vol.282,No.1,478-485(2007))、Saccharomyces cerevisiaeのLys5(Ehmann et al., Biochemistry 38.19 (1999): 6171-6177.)が挙げられる。本発明で使用され得る酵素は、本変換に対する活性を有するものであれば限定されないが、好ましくは、配列番号12に記載されるアミノ酸配列からなるNocardia iowensis由来のNocardia iowensisのNptが使用される(図5)。
【0052】
図1のステップIおよびJでは、アルデヒドがアルコールに変換される。本変換を触媒し得る酵素の例としては、EC 1.1.1に分類されるオキシドレダクターゼが挙げられる。例えば、EC 1.1.1.1(アルコールデヒドロゲナーゼ)、EC 1.1.1.2(アルコールデヒドロゲナーゼ(NADP+))およびEC 1.1.1.71(アルコールデヒドロゲナーゼ[NAD(P)+])などの群に分類される酵素は、本変換と同様に、アルデヒドからアルコールへの変換反応を触媒することから、本変換に対しても活性を有し得る酵素として例示することができる。本発明で使用され得る酵素は、本変換に対する活性を有するものであれば限定されないが、例えば、配列番号13に記載される大腸菌由来のAhrである(図6)。
【0053】
図1のステップKでは、アジポアルデヒドがシクロヘキサノンに変換される。本変換を触媒し得る酵素の例としては、EC 4.1.1に分類されるカルボキシリアーゼが挙げられる。例えば、EC 4.1.1.1(ピルビン酸デカルボキシラーゼ)に分類される酵素は、本変換に対しても活性を有し得る酵素として例示することができる。本発明で使用され得る酵素は、本変換に対する活性を有するものであれば限定されないが、例えば、配列番号14に記載されるStreptococcus pneumoniae由来のPdcおよび配列番号15に記載されるZymomonas mobilis由来のPdcである(図6)。
【0054】
図1のステップLでは、シクロヘキサノンがtrans-1,2-シクロヘキサンジオールに変換される。本変換を触媒し得る酵素の例としては、EC 1.1.1に分類されるオキシドレダクターゼが挙げられる。例えば、EC 1.1.1.1(アルコールデヒドロゲナーゼ)、EC 1.1.1.2(アルコールデヒドロゲナーゼ(NADP+))およびEC 1.1.1.71(アルコールデヒドロゲナーゼ[NAD(P)+])などの群に分類される酵素は、本変換と同様に、ケトンからアルコールへの変換反応を触媒することから、本変換に対しても活性を有し得る酵素として例示することができる。本発明で使用され得る酵素は、本変換に対する活性を有するものであれば限定されないが、例えば、配列番号16に記載されるThermoethanolicus brockii由来のadhおよび配列番号17に記載されるKlebsiella variicola由来のadhである(図6)。
【0055】
本発明に利用できる上記の酵素をコードする遺伝子は、例示された生物以外に由来するものであっても、または人工的に合成したものであってもよく、宿主微生物細胞内で実質的な酵素活性を発現できるものであればよい。
【0056】
本発明にかかる組換え微生物は、目的化合物に応じて、適宜、任意の酵素の活性が、非低下株と比較して低下したものであってよい。すなわち、本発明にかかる組換え微生物は、たとえば、宿主微生物に対して、非低下株と比較して低下するような改変を行ったものであってよい。
【0057】
ある酵素の活性が非低下株と比較して低下するような改変は、当該酵素をコードする遺伝子の発現が抑制される改変であるか、または、当該酵素の活性が抑制されるような改変である。本明細書において、酵素をコードする遺伝子に関して、「発現の抑制」には、「発現の低下」を含むものとする。また、酵素に関して、「活性の抑制」とは、「機能の抑制」、「機能の低下」および「活性の低下」と同義であり、互換可能に使用される。
【0058】
一態様において、本発明にかかる組換え微生物は:
・アジポアルデヒドから6-ヒドロキシヘキサナールへの変換を触媒するアルコールデヒドロゲナーゼ活性、および、
・6-ヒドロキシヘキサナールから1,6-ヘキサンジオールへの変換を触媒するアルコールデヒドロゲナーゼ活性
の少なくとも1つが非低下株と比較して低下している。
【0059】
本発明にかかる組換え微生物においては、ヒドロキシシクロヘキサノンから1,2-シクロヘキサンジオールへの変換活性を示す前記アルコールデヒドロゲナーゼ(前記(C)の酵素)が、
・アジポアルデヒドから6-ヒドロキシヘキサナールへの変換活性が低い、および、
・6-ヒドロキシヘキサナールから1,6-ヘキサンジオールへの変換活性が低い
という特性の少なくとも1つを有する。
【0060】
本発明にかかる組換え微生物において、
・アジポアルデヒドから6-ヒドロキシヘキサナールへの変換を触媒するアルコールデヒドロゲナーゼ活性、および、
・6-ヒドロキシヘキサナールから1,6-ヘキサンジオールへの変換を触媒するアルコールデヒドロゲナーゼ活性
の少なくとも1つが非低下株と比較して低下していることが好ましい。
【0061】
あるいは、上記アルコールデヒドロゲナーゼの活性が低下するような改変、例えば、アルコールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の発現が抑制される改変、および、当該酵素の活性が抑制されるような改変が行われることによって、本発明の組換え微生物は、非低下株(例えば宿主微生物)に対して、アルコールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の発現が抑制されるか、あるいは、当該酵素の活性が抑制されるように改変が行われ、その結果、酵素の活性が非低下株と比較して低下していてもよい。このように、上記の特定のアルコールデヒドロゲナーゼ活性が低下することによって、副反応(図1のステップIおよびステップJ)が抑制され、目的化合物の産生が促進される。
【0062】
上記のアルコールデヒドロゲナーゼ活性に関し、宿主微生物が内因性のアルコールデヒドロゲナーゼを有する場合は、当該内因性のアルコールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の発現が抑制されるような改変、または、当該酵素の活性が抑制されるような改変が行われていることが好ましい。また、宿主微生物に外来性のアルコールデヒドロゲナーゼを導入する場合は、外来性のアルコールデヒドロゲナーゼによる上記のアルコールデヒドロゲナーゼ活性が抑制されるように、即ち、図1のステップIおよびステップJの副反応の進行が抑制されるように、当該外来性の酵素の遺伝子に改変が行われていることが好ましい。
【0063】
上記のアルコールデヒドロゲナーゼ活性に関し、宿主微生物が内因性のアルコールデヒドロゲナーゼおよび外因性のアルコールデヒドロゲナーゼの双方を有する場合、当該内因性のアルコールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の発現が抑制されるような改変または当該酵素の活性が抑制されるような改変が行われており、かつ、外来性のアルコールデヒドロゲナーゼによる上記のアルコールデヒドロゲナーゼ活性が抑制されるような改変が行われていることが、より好ましい。かかる改変によって、図1のステップIおよびステップJの副反応の進行が抑制され、目的化合物の産生が促進される。ここで、内因性のアルコールデヒドロゲナーゼとしては、例えばyqhD、fucO、adhP、eutG、ybbO、ahr、yahKおよびdkgAが挙げられ、外来性のアルコールデヒドロゲナーゼとしては、例えばadhが挙げられる。
【0064】
本発明にかかる組換え微生物に関し、宿主微生物において、任意の酵素の遺伝子の発現の抑制または任意の酵素の活性の抑制は、例えば、当該酵素の遺伝子の破壊によって行われてもよい。標的遺伝子の破壊は、当該分野で公知の方法により行われる。
【0065】
また、本発明に利用できる上記の酵素のアミノ酸配列、または酵素をコードする遺伝子の塩基配列には、前記宿主微生物細胞で実質的な酵素活性を発現できるものであれば、自然界で発生し得るすべての変異、ならびに、人工的に導入された変異及び修飾を有していてよく、例えば、欠失、置換、挿入、付加といった変異が含有され得る。例えば、上記の酵素のアミノ酸配列に対して1又は複数個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~7個、さらにより好ましくは1~5個、特に好ましくは1~3個のアミノ酸の欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含んでいてよい。
【0066】
さらに、本発明で利用できる上記の酵素をコードする遺伝子の塩基配列には、前記宿主微生物細胞で実質的な酵素活性を発現できるものであれば、相補的な塩基配列を有するDNAと緊縮条件下でハイブリダイズするDNAも利用可能である。「緊縮条件」とは、例えば、「1xSSC、0.1%SDS、60℃」程度の条件であり、より厳しい条件としては「0.1xSSC、0.1%SDS、60℃」程度の条件であり、さらに厳しい条件としては「0.1xSSC、0.1%SDS、68℃」程度の条件である。
【0067】
加えて、特定のアミノ酸をコードする種々のコドンには余分のコドンが存在することが知られており、そのため本発明においても同一のアミノ酸に最終的に翻訳されることになる代替コドンを利用してよい。つまり、遺伝子コードは縮重しているので、ある特定のアミノ酸をコードするのに複数のコドンを使用でき、そのためアミノ酸配列は任意の1セットの類似のDNAオリゴヌクレオチドでコードされ得る。なお、ほとんどの生物は特定のコドン(最適コドン)のサブセットを優先的に用いることが知られているので(Gene、Vol.105、pp.61-72、1991等)、宿主微生物に応じて「コドン最適化」を行うことは本発明においても有用であり得る。
【0068】
したがって、本発明にかかる遺伝子組換え微生物は、酵素活性を発現できることを条件に、上記酵素遺伝子の塩基配列と、例えば80%以上、85%以上、88%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上または99%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み得る。あるいは、上記酵素のアミノ酸配列と、例えば80%以上、85%以上、88%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする遺伝子を含み得る。
【0069】
なお、本明細書において、参照アミノ酸配列に対する比較アミノ酸配列の「配列同一性」の割合(%)は、これら2つの配列間の同一性が最大となるように配列を整列させ、必要であれば2つの配列の一方または双方にギャップが導入されたときの、参照配列中のアミノ酸残基と同一である、比較配列中のアミノ酸残基の百分率として定義される。このとき、保存的置換は配列同一性の一部として考慮しない。配列同一性は、公に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用することによって決定することができ、例えば、BLAST(登録商標)(Basic Local Alignment Search Tool)等のアライメントサーチツールを用いて決定することができる。当業者は、アラインメントにおいて、比較配列の最大のアラインメントを得るために適切なパラメーターを決定することができる。ヌクレオチド配列の「配列同一性」についても、同様の方法によって決定することができる。
【0070】
上記の化合物生合成酵素遺伝子が「発現カセット」として宿主微生物細胞内に導入されることで、より安定的で高レベルの酵素活性を得ることができる。本明細書において、「発現カセット」とは、発現対象の核酸または発現対象の遺伝子に機能的に結合された転写および翻訳をレギュレートする核酸配列を含むヌクレオチドを意味する。典型的に、本発明の発現カセットは、コード配列から5’上流にプロモーター配列、3’下流にターミネーター配列、場合により更なる通常の調節エレメントを機能的に結合された状態で含み、そのような場合に、発現対象の核酸または発現対象の遺伝子が宿主微生物に導入される。
【0071】
プロモーターとは、構成発現型プロモーターであるか誘導発現型プロモーターであるかに拘わらず、RNAポリメラーゼをDNAに結合させ、RNA合成を開始させるDNA配列と定義される。強いプロモーターとはmRNA合成を高頻度で開始させるプロモーターであり、本発明においても好適に使用される。大腸菌ではlac系、trp系、tacまたはtrc系、λファージの主要オペレーター及びプロモーター領域、fdコートタンパク質の制御領域、解糖系酵素(例えば、3-ホスホグリセレートキナーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素)、グルタミン酸デカルボキシラーゼA、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼに対するプロモーター、T7ファージ由来RNAポリメラーゼのプロモーター領域等が利用可能である。コリネ菌(Corynebacterium glutamicum)ではHCE(high-level constitutive expression)プロモーター、cspBプロモーター、sodAプロモーター、伸長因子(EF-Tu)プロモーターなどが利用可能である。ターミネーターとしては、T7ターミネーター、rrnBT1T2ターミネーター、lacターミネーターなどが利用可能である。プロモーターおよびターミネーター配列のほかに、他の調節エレメントの例として挙げられ得るのは、選択マーカー、増幅シグナル、複製起点などである。好適な調節配列については、例えば、”Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185”、Academic Press (1990)に記載されている。
【0072】
上記で説明した発現カセットは、例えば、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、ISエレメント、フォスミド、コスミド、又は線状もしくは環状のDNA等から成るベクターに組み入れて、宿主微生物中に挿入される。プラスミドおよびファージが好ましい。これらのベクターは、宿主微生物中で自律複製されるものでもよいし、また染色体により複製されてもよい。好適なプラスミドは、例えば、大腸菌のpLG338、pACYC184、pBR322、pUC18、pUC19、pKC30、pRep4、pHS1、pKK223-3、pDHE19.2、pHS2、pPLc236、pMBL24、pLG200、pUR290、pIN-III113-B1、λgt11又はpBdCI;桿菌のpUB110、pC194又はpBD214;コリネバクテリウム属のpSA77又はpAJ667などである。バチルス属などの桿菌ではpUB110、pC194またはpBD214などが挙げられる。これらの他にも使用可能なプラスミド等は、”Gene Cloning and DNA analysis 7th edition”、Wiley-Blackwell(2016)に記載されている。ベクターへの発現カセットの導入は、適当な制限酵素による切り出し、クローニング、及びライゲーションを含む慣用の方法によって可能である。各々の発現カセットは、1つのベクター上に配置されてもよく、2つまたはそれ以上のベクターに配置されてもよい。
【0073】
上記のようにして本発明の発現カセットを有するベクターが構築された後、該ベクターを宿主微生物に導入する際に適用できる手法は慣用の方法を用いることができる。例えば、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、接合伝達法、プロトプラスト融合法などが挙げられるが、これらに限定されず、宿主微生物に好適な方法が選択可能である。
【0074】
本発明の第二の側面は、目的化合物の製造方法に関する。目的化合物は具体的には、1,2-シクロヘキサンジオールであるか、または、図1に示す1,2-シクロヘキサンジオールの前駆体である。1,2-シクロヘキサンジオールの前駆体としては、例えば、アジポアルデヒドおよびヒドロキシシクロヘキサノンが挙げられる。
【0075】
本発明にかかる1,2-シクロヘキサンジオールの製造方法は、本発明にかかる先述の遺伝子組換え微生物を培養する培養工程を含む。具体的には、培養工程では、組換え微生物を、炭素源および窒素源を含有する培地で目的化合物を生産するのに十分な期間培養することによって、菌体を含む培養物が得られる。本発明の遺伝子組換え微生物は、1,2-シクロヘキサンジオール生産、ならびに、微生物の生育および維持に適した条件下で培養され、好適な培地組成、培養時間および培養条件は当業者によって適宜設定することができる。
【0076】
炭素源としては、D-グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、オリゴ糖、多糖、でんぷん、セルロース、米ぬか、廃糖蜜、油脂(例えば大豆油、ヒマワリ油、ピーナッツ油、ヤシ油など)、脂肪酸(例えばパルミチン酸、リノール酸、オレイン酸、リノレン酸など)、アルコール(例えばグリセロール、エタノールなど)、有機酸(例えば酢酸、乳酸、コハク酸など)、トウモロコシ分解液、セルロース分解液が挙げられる。好ましくは、D-グルコース、スクロースまたはグリセロールである。これらの炭素源は、個別にあるいは混合物として使用することができる。
【0077】
バイオマス由来の原料を用いて製造された化合物は、ISO16620-2またはASTM D6866に規定されるCarbon-14(放射性炭素)分析に基づくバイオベース炭素含有率の測定により、例えば石油、天然ガス、石炭などを由来とする合成原料と明確に区別することができる。
【0078】
窒素源としては、含窒素有機化合物(例えば、ペプトン、カザミノ酸、トリプトン、酵母抽出物、肉抽出物、麦芽抽出物、コーンスティープリカー、大豆粉、アミノ酸および尿素など)、または無機化合物(例えば、アンモニア水溶液、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウムなど)が挙げられる。これらの窒素源は、個別にあるいは混合物として使用することが出来る。
【0079】
また、培地は、組換え微生物が有用な付加的形質を発現する場合、例えば抗生物質への耐性マーカーを有する場合、対応する抗生物質を含んでいてよい。それにより、培養時の雑菌による汚染リスクが低減される。抗生物質としては、アンピシリンなどのβ-ラクタム系抗生物質、カナマイシンなどのアミノグリコシド系抗生物質、エリスロマイシンなどのマクロライド系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質、クロラムフェニコールなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0080】
培養は、バッチ式であっても連続式であってもよい。また、いずれの場合にも、培養の適切な時点で追加の前記炭素源等を補給する形式であってもよい。更に、培養は、好適な温度、酸素濃度、pH等の条件を制御しながら培養されてもよい。一般的な微生物宿主細胞に由来する形質転換体の好適な培養温度は、通常15℃~55℃、好ましくは25℃~40℃の範囲である。宿主微生物が好気性の場合、発酵中の適切な酸素濃度を確保するために振盪(フラスコ培養等)、攪拌/通気(ジャー・ファーメンター培養等)を行ってもよい。それらの培養条件は、当業者にとって容易に設定可能である。
【0081】
本発明にかかる化合物の製造方法は、目的化合物を分離および/または精製する工程を含んでよい。本発明にかかる化合物の製造方法は、具体的に、前記培養物から1,2-シクロヘキサンジオールを分離および/または精製する、分離および/または精製工程をさらに含んでもよい。当該分離および/または精製する工程で使用される方法としては、任意の手法、例えば、遠心分離、ろ過、膜分離、晶析、抽出、蒸留、吸着、相分離、イオン交換および各種のクロマトグラフィーなどが挙げられるが、これらに限定されない。分離および/または精製工程では、一種類の方法を選択して使用しても良く、また複数の方法を組み合わせて使用しても良い。
【0082】
別の一態様において、本発明にかかる製造方法は、培養工程において、組換え微生物の培養物および/または培養物の抽出物を得ることを含んでもよい。また、本発明にかかる製造方法は、前記培養物および/または前記培養物の抽出物を、基質化合物と混合して混合液を得る混合工程をさらに含んでもよい。基質化合物は、酵素および目的化合物に応じて適宜選択されてよい。
【0083】
本発明の第三の側面は、先述の製造方法で製造された、1,2-シクロヘキサンジオールに関する。当該1,2-シクロヘキサンジオールは、(R,R)体、(S,S)体およびcis体の少なくとも1つである。
【0084】
本発明の第四の側面は、酵素(B)に関する組換えポリペプチドに関する。具体的には:
(a)アジポアルデヒドからヒドロキシシクロヘキサノンへ変換する酵素活性を有し、
(b)以下:
(i)配列番号14または15に示すアミノ酸配列と80%以上、85%以上、88%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる、
(ii)配列番号14または15に示すアミノ酸配列に対して1~10個、1~7個、1~5個または1~3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる、
(iii)以下で特定する配列番号に示すポリヌクレオチド配列と80%以上、85%以上、88%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上または99%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列からなるDNAによってコードされる、
(iv)以下で特定する配列番号に示すポリヌクレオチド配列によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列に対して1~10個、1~7個、1~5個または1~3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAによってコードされる、
(v)以下で特定する配列番号に示すポリヌクレオチド配列に相補的なポリヌクレオチド配列からなるDNAと緊縮条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされる、または
(vi)以下で特定する配列番号に示すポリヌクレオチド配列の縮重異性体からなるDNAによってコードされる、組換えポリペプチドに関する。
【0085】
本発明の第五の側面は、酵素(C)に関する組換えポリペプチドに関する。具体的には:
(a)ヒドロキシシクロヘキサノンから1,2-シクロヘキサンジオールへ変換する酵素活性を有し、
(b)以下:
(i)配列番号16または17に示すアミノ酸配列と80%以上、85%以上、88%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる、
(ii)配列番号16または17に示すアミノ酸配列に対して1~10個、1~7個、1~5個または1~3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる、
(iii)以下で特定する配列番号に示すポリヌクレオチド配列と80%以上、85%以上、88%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上または99%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列からなるDNAによってコードされる、
(iv)以下で特定する配列番号に示すポリヌクレオチド配列によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列に対して1~10個、1~7個、1~5個または1~3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAによってコードされる、
(v)以下で特定する配列番号に示すポリヌクレオチド配列に相補的なポリヌクレオチド配列からなるDNAと緊縮条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされる、または
(vi)以下で特定する配列番号に示すポリヌクレオチド配列の縮重異性体からなるDNAによってコードされる、組換えポリペプチドに関する。
【0086】
本発明の更なる側面は、先述の組換えポリペプチドを用いることを含む、1,2-シクロヘキサンジオールの製造方法に関する。本発明にかかる製造方法は、前記組換えポリペプチドを、基質化合物と混合して混合液を得る混合工程を含んでもよい。基質化合物は、酵素および目的化合物に応じて適宜選択されてよい。
【0087】
以上説明したとおり、本発明によれば、1,2-シクロヘキサンジオールの生産が可能である新規な組換え微生物、および、1,2-シクロヘキサンジオールの新規な製造方法を提供することができる。また、本発明にかかる組換え微生物は、バイオマス原料であるグルコースから1,2-シクロヘキサンジオールへの変換活性を有する。本発明で規定する特性を有するアルコールデヒドロゲナーゼをコードする外因性遺伝子を含むことによって、目的化合物である1,2-シクロヘキサンジオールの産生を促進することができる。さらに、本発明で規定する特定のアルコールデヒドロゲナーゼの活性を抑制することによって、副反応の進行および副産物の生成を抑制し、目的化合物を効率よく産生することができる。本発明にかかる組換え微生物および/または製造方法は、良好な目的化合物の生産能を有するので、工業的規模で目的化合物を生産できることが期待される。また、本発明にかかる組換え微生物および製造方法によって製造される1,2-シクロヘキサンジオールは、特に、ポリマー製造のためのモノマー原料として使用することができる。
【0088】
以上の説明を与えられた当業者は、本発明を十分に実施することができる。以下、更なる説明の目的として実施例を与え、従って、本発明は当該実施例に限定されるものではない。
【実施例0089】
<分析方法>
実施例及び比較例において使用された分析方法は、以下の通りである。
【0090】
液体クロマトグラフ(LC)
分析目的:ヒドロキシシクロヘキサノン、1,2-シクロヘキサンジオールの定量
測定装置:Prominence(株式会社島津製作所製)
移動相:8mM メタンスルホン酸
カラム:Shim-pack Fast-OA(G)+Shim-pack Fast-OA(7.8 x100mm)2本
カラム温度:35℃
流量:0.6mL/min
注入量:10μL
検出器:示差屈折検出器、UV検出器210nm
【0091】
液体クロマトグラフ(LC)
分析目的:ヒドロキシシクロヘキサノン、1,2-シクロヘキサンジオールの光学異性体定量
測定装置:Prominence(株式会社島津製作所製)
移動相: アセトニトリル
カラム: CHIRALPAK IG (4.6mm×250mm)
カラム温度:30 ℃
流量:1mL/min
注入量:10μL
検出器:示差屈折検出器、UV検出器210nm
【0092】
ガスクロマトグラフ(GC)
分析目的:ヒドロキシシクロヘキサノン、1,2-シクロヘキサンジオールの定量
測定装置:GC-2010(株式会社島津製作所製)
キャリアガス:He
カラム:β-DEXTM225 (0.25mm×60m)
検出器:FID
注入量:1.0μL
スプリット比:-1.0
カラム温度:80℃―105℃(1℃/min)-150℃(2℃/min)インジェクション温度:80℃
検出器温度:150℃
【0093】
Burkholderia属LEBP-3株(以下、「L3株」とも略称する。)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に2020年12月4日に寄託申請し、受託番号:NITE BP-03334として国際寄託がなされている。
【0094】
<ADH遺伝子破壊株の構築、および、遺伝子破壊用プラスミドの構築>
ADH遺伝子の破壊は、pHAK1(受領番号NITE BP-02919として、独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(NPMD)(住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に2019年3月18日に寄託した。)を用いた相同組換え法により行った。pHAK1は温度感受性変異型repA遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、Bacillus subtilis由来レバンスクラーゼ遺伝子SacBを含む。レバンスクラーゼ遺伝子は、スクロース存在下において宿主微生物に対して致死的に作用する。PCR断片の増幅にはPrimeSTAR Max DNA Polymerase(製品名、タカラバイオ製)、または、KOD FX Neo(製品名、東洋紡製)、プラスミド調製は大腸菌HST08株を用いて行った
【0095】
大腸菌BL21(DE3)株のゲノムDNAを鋳型とし、破壊標的遺伝子の5’相同領域、コード領域、および3’相同領域を含むPCR産物を得た。標的遺伝子とプライマー配列の組み合わせを下記表1-1に示した。
【0096】
【表1-1】
【0097】
次に本PCR産物をIn-Fusion(登録商標) HD cloning kit(製品名、Clontech社製)を用いて、配列番号40及び41のプライマーを用いて増幅したpHAK1プラスミド断片に挿入し、環状化した。大腸菌HST08株に形質転換し、得られた形質転換体からプラスミドを抽出した。プライマー配列の組み合わせを下記表1-2に示した。
【0098】
【表1-2】
【0099】
上記で抽出した、破壊標的遺伝子の5’相同領域、コード領域、および3’相同領域のDNA断片が挿入されたpHAK1プラスミドを鋳型として、下記表2に記載するプライマーを用いてPCRを行い、破壊標的遺伝子のコード領域の一部領域または全領域が除かれ、5’相同領域および3’相同領域を内含するpHAK1プラスミド断片を得た。
【0100】
【表2】
【0101】
得られたプラスミド断片を末端リン酸化、セルフライゲーションにより環状化した。大腸菌HST08株に形質転換し、得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、遺伝子破壊用プラスミドを得た。
【0102】
<大腸菌改変株の構築>
エレクトロポレーション法(羊土社 遺伝子工学実験ノート 田村隆明著、参照)により、大腸菌BL21(DE3)株に所望の遺伝子の破壊のためのプラスミドを形質転換した後、カナマイシン硫酸塩100mg/Lを含有するLB寒天培地(トリプトン10g/L、酵母エキス5g/L、塩化ナトリウム5g/L、寒天末15g/L)に塗布し、30℃で一晩培養してシングルコロニーを取得し、形質転換体を得た。本形質転換体をカナマイシン硫酸塩100mg/Lを含有するLB液体培地(トリプトン10g/L、酵母エキス5g/L、塩化ナトリウム5g/L)1mLに一白金耳植菌し、30℃で振盪培養を行った。得られた培養液を、カナマイシン硫酸塩100mg/Lを含有するLB寒天培地に塗布し、42℃で一晩培養した。得られるコロニーはシングルクロスオーバーにより、プラスミドがゲノム中に挿入されている。コロニーをLB液体培地1mLに一白金耳植菌し、30℃で振盪培養を行った。得られた培養液を、スクロース10%を含有するLB寒天培地に塗布し、一晩培養した。得られたコロニーについて、所望の遺伝子が破壊されていることを、表3に示すプライマーセットを用い、コロニーダイレクトPCRにより確認した。
【0103】
【表3】
【0104】
以上の操作により各種遺伝子破壊を繰り返し、複数の遺伝子破壊を含む大腸菌株としてADH027株を取得した。ADH027株の遺伝子型はBL21(DE3)ΔyqhD,ΔfucO,ΔadhP,ΔeutG,ΔybbO,Δahr,ΔyahK,ΔdkgA,ΔyneI,ΔydcW,ΔgabDであり、Δは該酵素遺伝子が欠損していることを示す。
【0105】
<1,2-シクロヘキサンジオール合成遺伝子発現プラスミドの構築>
プラスミドpNFP-A51(FERM P-22182として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(IPOD)に2011年10月25日に寄託した。国際寄託番号:FERM BP-11515)のマルチクローニングサイトの、BglIIおよびEcoRVサイトを利用してプロモーター配列を、XbaI及びHindIIIサイトを使用してターミネーター配列を挿入し、pSK000を構築した。
【0106】
Mycobacterium abscessusのカルボン酸レダクターゼMaCar(配列番号10)は、アミノ酸配列の283番目のトリプトファン残基をアルギニン残基に、303番目のアラニン残基をメチオニン残基に置換した変異体MaCar(m)として使用した(配列番号11)。MaCar(m)をコードするポリヌクレオチドは、大腸菌発現用に塩基配列の最適化を行い、ユーロフィンジェノミクス社の人工遺伝子合成サービスを利用して取得した。Nocardia iowensisのNpt(配列番号12)をコードするポリヌクレオチドは、Nocardia iowensis JCM18299株(文部科学省ナショナルバイオリソースプロジェクトを介して理研BRCから提供された。)のゲノムDNAからクローニングを行って取得した。
【0107】
合成遺伝子配列を鋳型として、各酵素をPCR増幅した。MaCar(m)をコードする遺伝子配列は、配列番号86および配列番号87記載のオリゴヌクレオチドをプライマーに使用し(図7)、98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(20sec),30cycleの反応条件で増幅させた。Nptをコードする遺伝子配列は、配列番号88および配列番号89記載のオリゴヌクレオチドをプライマーに使用し(図7)、98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(10sec),30cycleの反応条件で増幅させた。
【0108】
次いで、得られたDNA断片を、Mighty Cloning Reagent Set(Takara社製)にてリン酸化し、クローニングするDNA断片として用いた。別途、pSK000プラスミドをEcoRV制限酵素で処理し、次いでアルカリフォスファターゼ(BAP, タカラ社製)で処理した。前述のDNA断片とベクター断片を、Mighty Cloning Reagent Set(Takara社製)を用いてライゲーションした(16℃、一晩)。ライゲーション反応液1μLで大腸菌JM109株を形質転換した。出現コロニーからプラスミドを抽出して配列解析を行い、酵素タンパク質が発現されるように遺伝子が挿入されたプラスミドとして「MaCar(m)-npt―pAK000」を作製した。
【0109】
Streptococcus pneumoniae由来のpdcをコードするヌクレオチドは、大腸菌発現用に塩基配列の最適化を行い、ユーロフィンジェノミクス社の人工遺伝子合成サービスを利用して取得した。配列番号90および91のオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCRを行い(図7)、pdc遺伝子のコード領域の最適化配列を含むPCR産物を得た。pRSFDuet-1(製品名、Merck社製)を鋳型として、配列番号92および93のオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCRを行い(図7)、pRSFDuet-1断片を得た。pdc遺伝子コード領域を含むDNA断片とpRSFDuet-1断片とを、In-Fusion(登録商標) HD cloning kit(製品名、Clontech社製)を用いて接続した。大腸菌JM109株に形質転換し、得られた形質転換体からプラスミドを抽出した。pdc遺伝子発現プラスミドとして「pdc-pRSFDuet」を得た。
【0110】
Thermoethanolicus brockii由来のadh(配列番号16)をコードするヌクレオチドは、大腸菌発現用に塩基配列の最適化を行い、ユーロフィンジェノミクス社の人工遺伝子合成サービスを利用して取得した。配列番号94および95のオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCRを行い(図7)、adh遺伝子のコード領域の最適化配列を含むPCR産物を得た。「pdc-pRSFDuet」を鋳型とし、配列番号96および97のオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCRを行い(図7)、「pdc-pRSFDuet」断片を得た。adhのコード領域を含むDNA断片と、「pdc-pRSFDuet」断片とをIn-Fusion(登録商標) HD cloning kit(製品名、Clontech社製)を用いて接続した。大腸菌JM109株に形質転換し、得られた形質転換体より、プラスミドを抽出した。pdc、adh共発現プラスミドとして「pdc-adh-pRSFDuet」を得た。
【0111】
<細胞破砕液(粗酵素液)によるアジポアルデヒドからの1,2-シクロヘキサンジオール合成(比較例1および実施例1)>
エレクトロポレーション法により、大腸菌改変株ADH027株または改変前の元株であるBL21(DE3)株に1,2-シクロヘキサンジオール合成遺伝子発現プラスミド「pdc-pRSFDuet」または「pdc-adh-pRSFDuet」を形質転換し、カナマイシン硫酸塩30mg/Lを含むLB寒天培地上で、37℃、一日間培養して、コロニーを形成させた。カナマイシン硫酸塩30mg/Lを含むLB液体培地2mL(14mL容ラウンドボトムチューブ)にコロニーを一白金耳植菌し、37℃、3~5時間振盪培養を行い、前培養液を得た。得られた前培養液0.2mLをカナマイシン硫酸塩30mg/L及びIPTG0.02mMを含むCG液体培地20mL(125mL容フラスコ)に加え、30℃、1日間振盪培養を行った。培養液各50μLを20倍希釈して、THERMO SCIENTIFIC社製 吸光度測定器 Multiscan-GOを用いてOD600値を記録した。残りの培養液を遠心管に移し、トミー精工社製 MDX―310微量高速冷却遠心機を用いて4000×gで5分間遠心した。上清を捨て、2.5mLのPBSでペレットを再懸濁したのち、再度4000×gで5分間遠心することでペレットの洗浄を行った。洗浄後のペレットをOD600値が40となるようPBSで懸濁したのち、氷浴上で超音波破砕により菌体を粉砕した。破砕液を13200rpmで10分間遠心し、Bio-rad社製プロテインアッセイ濃縮色素試薬を用いたBradford法に基づき、上清の全タンパク質濃度を算出した。PBSを用いて上清を下記の反応条件に合う濃度に希釈後、粗酵素液として酵素反応に用いた。反応液は2.0mLチューブで調整し、PDC及びADHを含有する粗酵素液をそれぞれ50μL添加した。反応はタイテック社製卓上シェーカーを用いて30℃、24時間振盪することで実施した。反応液の組成は次の通りである。
【0112】
反応条件1:
10mMアジポアルデヒド、0.1mMチアミンピロリン酸クロリド塩酸塩、2.5mM硫酸マグネシウム、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH=6.3)、1.0mM NADPH、グルコース30mM、グルコースデヒドロゲナーゼ 1U/mL、全量1000μL。PDC及びADH含有粗酵素液濃度:5.0 mg/mL。
【0113】
反応条件2
10mMアジポアルデヒド、0.1mMチアミンピロリン酸クロリド塩酸塩、2.5mM硫酸マグネシウム、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH=6.3)、1.0mM NADPH、グルコース30mM、グルコースデヒドロゲナーゼ 1U/mL、全量1000μL。PDC及びADH含有粗酵素液濃度:5.0 mg/mL。
【0114】
反応条件3
10mMアジポアルデヒド、0.1mMチアミンピロリン酸クロリド塩酸塩、2.5mM硫酸マグネシウム、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH=6.3)、30mM NADPH、全量1000μL。PDC含有粗酵素液濃度:5.0 mg/mL。
【0115】
【表4】
【0116】
<アジピン酸からの1,2-シクロヘキサンジオール合成(比較例2および実施例2)>
エレクトロポレーション法により、大腸菌改変株ADH027株または改変前の元株であるBL21(DE3)株に1,2-シクロヘキサンジオール合成遺伝子発現プラスミド「pdc-adh-pRSFDuet」および「MaCar(m)-npt―pAK000」を形質転換し、アンピシリンナトリウム50mg/L、カナマイシン硫酸塩30mg/Lを含むLB寒天培地上で、37℃、一日間培養して、コロニーを形成させた。アンピシリンナトリウム50mg/L、カナマイシン硫酸塩30mg/Lを含むLB液体培地2mL(14mL容ラウンドボトムチューブ)にコロニーを一白金耳植菌し、37℃、3~5時間振盪培養を行い、前培養液を得た。本培養は2mL容96ディープウェルプレートを使用した。カルベニシリンナトリウム50mg/L、カナマイシン硫酸塩30mg/L、IPTG0.02mMを含む合成培地1mLに前培養液0.01mLを添加し、1,100rpm、37℃で2日間本培養を行った。当該培地の組成を表5に示した。振とう培養はタイテック社製のM・BR-1212FPプレートシェーカーを使用した。Thremo Fisher社製Sorvall ST-8FL遠心機(プレートローター装着)にて、培養後のディープウェルプレートを、2,456 xg、10分遠心した。
【0117】
【表5】
【0118】
遠心上清に含まれる1,2-シクロヘキサンジオールの分析はトリメチルシリル誘導体化を用いたGC/MS分析によって行った。培養液遠心上清40μL(内部標準としてセバシン酸二ナトリウムを終濃度10mMとなるように添加)に水:メタノール:クロロホルム=5:2:2(v/v/v)となるように混合された抽出液を360μL添加し、ボルテックスミキサーでよく攪拌した。遠心分離(16,000×g、5分)後、上清40μLを別のマイクロチューブに採取し、遠心エバポレータで1時間遠心乾固した。得られた乾固物にメトキシアミン塩酸塩20mg/mLピリジン溶液100μLを添加し、30℃で90分振盪した。N-メチル-N-トリメチルシリルトリフルオロアセトアミド50μLを添加し、37℃で30分振盪した。反応溶液をGC/MS測定試料とし、下記の条件で分析を行った。
【0119】
<GC/MS分析条件>
装置:GCMS-QP-2020NX(島津製作所製)
カラム:フューズドシリカキャピラリーチューブ 不活性処理チューブ(長さ1m、外径0.35mm、内径0.25mm、GLサイエンス社製)、InertCap 5MS/NP(長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm、GLサイエンス社製)
試料注入量:1μL
試料導入法:スプリット(スプリット比25:1)
気化室温度:230℃
キャリアガス:ヘリウム
キャリアガス線速度:39.0cm/秒
オーブン温度:80℃、2分保持→15℃/分昇温→325℃、13分保持
イオン化法:電子イオン化法(EI)
イオン化エネルギー:70eV
イオン源温度:230℃
スキャン範囲:m/z=50~500
【0120】
培養液中の代謝物濃度の結果を表6に示す。形質転換体では培地に含まれるアジピン酸を消費し、1,2-シクロヘキサンジオールが生産された。
【0121】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明は、1,2-シクロヘキサンジオールの効率的な製造プロセスを提供することができ、工業的規模での生産への応用が期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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