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特開2023-132585測位対象の装置、基準装置、測位システム、管理装置、測位方法及びプログラム
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  • 特開-測位対象の装置、基準装置、測位システム、管理装置、測位方法及びプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132585
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】測位対象の装置、基準装置、測位システム、管理装置、測位方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/02 20100101AFI20230914BHJP
   G01S 5/06 20060101ALI20230914BHJP
   G01S 5/04 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
G01S5/02 A
G01S5/02 Z
G01S5/06
G01S5/04
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037996
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】318014809
【氏名又は名称】ALES株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100128691
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 弘通
(72)【発明者】
【氏名】大澤 定夫
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 誠
(72)【発明者】
【氏名】大浜 勇作
(72)【発明者】
【氏名】高橋 友樹
(72)【発明者】
【氏名】楊 一凡
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062BB05
5J062CC12
5J062CC14
5J062CC18
5J062FF01
(57)【要約】
【課題】測位に用いる基準装置の構成や動作を変更することなく、個室などの狭い空間に位置する測位対象の装置の現在位置を低コストで測位可能な位置特定モードと測位対象の装置の現在位置を高精度に測位する位置特定モードを混在させて実施可能な測位システムを提供する。
【解決手段】複数の基準装置は測位対象の装置から発信された測位信号の受信結果の情報を、通信ネットワークを介して管理装置に送信する。管理装置は、測位対象の装置の現在位置を簡易的に特定する第1の位置特定モードが設定されている場合、複数の基準装置のうち測位信号の受信結果に含まれる受信強度が大きい基準装置に近い位置を測位対象の装置の現在位置として特定する。管理装置は、測位対象の装置の現在位置を高精度に測位する第2の位置特定モードが設定されている場合、複数の基準装置の測位信号の受信結果に基づいて測位対象の装置の現在位置を計算して特定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位対象の装置と、互いに異なる既知の位置座標に設置された複数の基準装置と、通信ネットワークを介して前記複数の基準装置と通信可能な管理装置と、を備える測位システムであって、
前記測位対象の装置は、無線媒体による測位信号を発信する発信部を有し、
前記複数の基準装置はそれぞれ、
前記測位対象の装置から発信された前記測位信号を受信する受信部と、前記通信ネットワークを介して前記測位信号の受信結果の情報を前記管理装置に送信する送信部と、を有し、
前記管理装置は、
前記複数の基準装置に設定されている位置特定モードの設定状況を管理する管理情報を記憶する記憶部と、
前記通信ネットワークを介して前記複数の基準装置から前記測位信号の受信結果の情報を受信する受信部と、
前記測位対象の装置の現在位置を簡易的に特定する第1の位置特定モードが設定されている場合、前記複数の基準装置のうち前記測位信号の受信結果に含まれる受信強度が大きい基準装置に近い位置を前記測位対象の装置の現在位置として特定し、前記測位対象の装置の現在位置を高精度に測位する第2の位置特定モードが設定されている場合、前記複数の基準装置の前記測位信号の受信結果に基づいて前記測位対象の装置の現在位置を計算して特定する位置特定部と、を有する、
ことを特徴とする測位システム。
【請求項2】
請求項1の測位システムにおいて、
前記位置特定部は、前記第1の位置特定モードにおいて、前記複数の基準装置のうち一の基準装置のみ前記測位信号を受信した場合、前記一の基準装置の設置位置に近い位置を前記測位対象の装置の現在位置として特定する、ことを特徴とする測位システム。
【請求項3】
請求項1の測位システムにおいて、
前記位置特定部は、前記第1の位置特定モードにおいて、前記複数の基準装置のうち2又は3以上の基準装置が前記測位信号を受信した場合、前記測位信号の受信強度が最も大きい基準装置の設置位置に近い位置を前記測位対象の装置の現在位置として特定する、ことを特徴とする測位システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの測位システムにおいて、
前記複数の基準装置はそれぞれ個室に設置されている、ことを特徴とする測位システム。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかの測位システムにおいて、
前記複数の基準装置はそれぞれ、同一エリア内の壁、敷居、衝立又は仕切りで仕切られた個別開放空間に設置されている、ことを特徴とする測位システム。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれかの測位システムにおいて、
前記複数の基準装置はそれぞれ、同一エリア内の見通し内環境での前記無線媒体による測位信号が互いに到達しない程度に離れた複数の個別開放空間に設置されている、ことを特徴とする測位システム。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかの測位システムにおいて、
前記複数の基準装置は、互いの時刻同期又は時刻差が管理され、
前記管理装置の前記位置特定部は、前記第2の位置特定モードにおいて、前記複数の基準装置のそれぞれから受信した前記測位信号の受信結果と、前記複数の基準装置のそれぞれの位置座標の情報とに基づいて、前記測位対象の装置の現在位置を計算する、ことを特徴とする測位システム。
【請求項8】
請求項7の測位システムにおいて、
前記管理装置の前記位置特定部は、前記第2の位置特定モードにおいて、前記複数の基準装置の間の時刻差の情報を取得し、前記時刻差の情報と前記測位信号の受信結果と前記複数の基準装置のそれぞれの位置座標の情報とに基づいて、前記測位対象の装置の現在位置を計算する、ことを特徴とする測位システム。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかの測位システムにおいて、
前記無線媒体は、UWB(超広帯域)無線の電波である、ことを特徴とする測位システム。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかの測位システムにおいて、
前記測位対象の装置は無線ICタグである、ことを特徴とする測位システム。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかの測位システムにおいて、
前記測位対象の装置は、位置座標が変化する移動体である、ことを特徴とする測位システム。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかの測位システムを構成する前記測位対象の装置。
【請求項13】
請求項1乃至11のいずれかの測位システムを構成する前記基準装置。
【請求項14】
請求項1乃至11のいずれかの測位システムを構成する前記管理装置。
【請求項15】
測位対象の装置の位置を測位する方法であって、
前記測位対象の装置が、無線媒体による測位信号を発信することと、
互いに異なる既知の位置座標に設置された複数の基準装置がそれぞれ、前記測位対象の装置から発信された前記測位信号を受信し、通信ネットワークを介して前記測位信号の受信結果の情報を管理装置に送信することと、
前記管理装置が、前記複数の基準装置に設定されている位置特定モードの設定状況を管理する管理情報を記憶することと、
前記管理装置が、前記通信ネットワークを介して前記複数の基準装置から前記測位信号の受信結果の情報を受信することと、
前記管理装置が、前記測位対象の装置の現在位置を簡易的に特定する第1の位置特定モードが設定されている場合、前記複数の基準装置のうち前記測位信号の受信結果に含まれる受信強度が大きい基準装置に近い位置を前記測位対象の装置の現在位置として特定し、前記測位対象の装置の現在位置を高精度に測位する第2の位置特定モードが設定されている場合、前記複数の基準装置の前記測位信号の受信結果に基づいて前記測位対象の装置の現在位置を計算して特定することと、
を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項14の管理装置に備えるコンピュータ又はプロセッサにおいて実行されるプログラムであって、
前記複数の基準装置に設定されている位置特定モードの設定状況を管理する管理情報を記憶するためのプログラムコードと、
前記通信ネットワークを介して前記複数の基準装置から前記測位信号の受信結果の情報を受信するためのプログラムコードと、
前記測位対象の装置の現在位置を簡易的に特定する第1の位置特定モードが設定されている場合、前記複数の基準装置のうち前記測位信号の受信結果に含まれる受信強度が大きい基準装置に近い位置を前記測位対象の装置の現在位置として特定し、前記測位対象の装置の現在位置を高精度に測位する第2の位置特定モードが設定されている場合、前記複数の基準装置の前記測位信号の受信結果に基づいて前記測位対象の装置の現在位置を計算して特定するためのプログラムコードと、
を含む、ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測位対象の装置、基準装置、測位システム、管理装置、測位方法及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、GNSS人工衛星からの電波が届きにくい屋内などのエリア内において、測位される測位対象の装置(以下「対象装置」ともいう。)と既知の位置座標に設置された複数の基準装置との間の見通し内環境(LOS環境)で電波、音波、光などの無線媒体を送受信し、その送受信の結果を入力として前記対象装置の位置座標を出力する測位システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/155437号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記見通し内環境(LOS環境)での電波などの無線媒体の送受信を利用した従来のシステムにおいて、測位に用いる基準装置の構成や動作を変更することなく、個室などの狭い空間に位置する測位対象の装置の現在位置を低コストで測位可能な位置特定モードと測位対象の装置の現在位置を高精度に測位する位置特定モードを混在させて実施したい、という課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る測位システムは、測位対象の装置と、互いに異なる既知の位置座標に設置された複数の基準装置と、通信ネットワークを介して前記複数の基準装置と通信可能な管理装置と、を備える測位システムである。前記測位対象の装置は、無線媒体による測位信号を発信する発信部を有する。前記複数の基準装置はそれぞれ、前記測位対象の装置から発信された前記測位信号を受信する受信部と、前記通信ネットワークを介して前記測位信号の受信結果の情報を前記管理装置に送信する送信部と、を有する。前記管理装置は、前記複数の基準装置に設定されている位置特定モードの設定状況を管理する管理情報を記憶する記憶部と、前記通信ネットワークを介して前記複数の基準装置から前記測位信号の受信結果の情報を受信する受信部と、前記測位対象の装置の現在位置を簡易的に特定する第1の位置特定モードが設定されている場合、前記複数の基準装置のうち前記測位信号の受信結果に含まれる受信強度が大きい基準装置に近い位置を前記測位対象の装置の現在位置として特定し、前記測位対象の装置の現在位置を高精度に測位する第2の位置特定モードが設定されている場合、前記複数の基準装置の前記測位信号の受信結果に基づいて前記測位対象の装置の現在位置を計算して特定する位置特定部と、を有する。
【0006】
本発明の他の態様に係る装置は、前記測位システムに備える測位対象の装置である。前記測位対象の装置は、位置座標が変化する移動体であってもよい。
【0007】
本発明の更に他の態様に係る装置は、前記測位システムに備える複数の基準装置のいずれか一つの基準装置である。
【0008】
本発明の更に他の態様に係る装置は、前記測位システムに備える、通信ネットワークを介して前記複数の基準装置と通信可能な管理装置である。
【0009】
本発明の更に他の態様に係る方法は、測位対象の装置の位置を測位する方法である。この方法は、前記測位対象の装置が、無線媒体による測位信号を発信することと、互いに異なる既知の位置座標に設置された複数の基準装置がそれぞれ、前記測位対象の装置から発信された前記測位信号を受信し、通信ネットワークを介して前記測位信号の受信結果の情報を管理装置に送信することと、前記管理装置が、前記複数の基準装置に設定されている位置特定モードの設定状況を管理する管理情報を記憶することと、前記管理装置が、前記通信ネットワークを介して前記複数の基準装置から前記測位信号の受信結果の情報を受信することと、前記管理装置が、前記測位対象の装置の現在位置を簡易的に特定する第1の位置特定モードが設定されている場合、前記複数の基準装置のうち前記測位信号の受信結果に含まれる受信強度が大きい基準装置に近い位置を前記測位対象の装置の現在位置として特定し、前記測位対象の装置の現在位置を高精度に測位する第2の位置特定モードが設定されている場合、前記複数の基準装置の前記測位信号の受信結果に基づいて前記測位対象の装置の現在位置を計算して特定することと、を含む。
【0010】
本発明の更に他の態様に係るプログラムは、前記管理装置に備えるコンピュータ又はプロセッサにおいて実行されるプログラムである。このプログラムは、前記複数の基準装置に設定されている位置特定モードの設定状況を管理する管理情報を記憶するためのプログラムコードと、前記通信ネットワークを介して前記複数の基準装置から前記測位信号の受信結果の情報を受信するためのプログラムコードと、前記測位対象の装置の現在位置を簡易的に特定する第1の位置特定モードが設定されている場合、前記複数の基準装置のうち前記測位信号の受信結果に含まれる受信強度が大きい基準装置に近い位置を前記測位対象の装置の現在位置として特定し、前記測位対象の装置の現在位置を高精度に測位する第2の位置特定モードが設定されている場合、前記複数の基準装置の前記測位信号の受信結果に基づいて前記測位対象の装置の現在位置を計算して特定するためのプログラムコードと、を含む。
【0011】
前記測位対象の装置、前記測位システム、前記管理装置、前記測位方法及び前記プログラムにおいて、前記第1の位置特定モードにおいて、前記複数の基準装置のうち一の基準装置のみ前記測位信号を受信した場合、前記一の基準装置の設置位置に近い位置を前記測位対象の装置の現在位置として特定してもよい。
【0012】
前記測位対象の装置、前記測位システム、前記管理装置、前記測位方法及び前記プログラムにおいて、前記第1の位置特定モードにおいて、前記複数の基準装置のうち2又は3以上の基準装置が前記測位信号を受信した場合、前記測位信号の受信強度が最も大きい基準装置の設置位置に近い位置を前記測位対象の装置の現在位置として特定してもよい。
【0013】
前記測位対象の装置、前記測位システム、前記管理装置、前記測位方法及び前記プログラムにおいて、前記複数の基準装置はそれぞれ、複数の個室に設置されていてもよいし、同一エリア内の壁、敷居、衝立若しくは仕切りで仕切られた複数の個別開放空間に設置されていてもよいし、又は、同一エリア内の見通し内環境での前記無線媒体による測位信号が互いに到達しない程度に離れた複数の個別開放空間に設置されていてもよい。
【0014】
前記測位対象の装置、前記測位システム、前記管理装置、前記測位方法及び前記プログラムにおいて、前記複数の基準装置は互いの時刻同期又は時刻差が管理されてもよく、前記第2の位置特定モードにおいて、前記複数の基準装置のそれぞれから受信した前記測位信号の受信結果と、前記複数の基準装置のそれぞれの位置座標の情報とに基づいて、前記測位対象の装置の現在位置を計算してもよい。ここで、前記第2の位置特定モードにおいて、前記複数の基準装置の間の時刻差の情報を取得し、前記時刻差の情報と前記測位信号の受信結果と前記複数の基準装置のそれぞれの位置座標の情報とに基づいて、前記測位対象の装置の現在位置を計算してもよい。
【0015】
前記測位対象の装置、前記測位システム、前記管理装置、前記測位方法及び前記プログラムにおいて、前記無線媒体は、UWB(超広帯域)無線の電波であってもよい。
【0016】
前記測位対象の装置、前記測位システム、前記管理装置、前記測位方法及び前記プログラムにおいて、前記測位対象の装置は無線ICタグであってもよい。
【0017】
また、前記測位対象の装置、前記測位システム、前記管理装置、前記測位方法及び前記プログラムにおいて、測位対象の装置の位置は、機械学習の学習済モデルを用いて推定してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、測位に用いる基準装置の構成や動作を変更することなく、個室などの狭い空間に位置する測位対象の装置の現在位置を低コストで測位可能な位置特定モードと測位対象の装置の現在位置を高精度に測位する位置特定モードを混在させて実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る測位システムの主要な構成の一例を示す説明図。
図2】実施形態に係る測位システムの基準装置、対象装置及び管理装置の主要な構成の一例を示すブロック図。
図3】実施形態に係る測位システムの基準装置(アンカー)を建物の部屋ごとに配置した応用例を示す説明図。
図4】実施形態に係る測位システムの基準装置(アンカー)を工場の製造ラインに沿って配置した応用例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
本書に記載された実施形態に係る測位システムは、タグ(測位対象の装置)と、互いに異なる既知の位置座標に設置された複数のアンカー(基準装置)との間で、見通し内環境(LOS環境)で超広帯域(UWB)の電波による測位信号の送受信を行い、その送受信の結果を入力としてタグ(測位対象の装置)の現在位置を特定する、UWBを使った屋内測位サービスを提供可能な測位システムである。特に、本実施形態の側システムは、タグの現在位置を簡易的に特定する第1の位置特定モード(UWB1点測位のモード)と、タグの現在位置を高精度に測位する第2の位置特定モードとを混在させて実施することができる測位システムである。前者の第1の位置特定モード(UWB1点測位のモード)では、老人ホームや病院の病室のような比較的小さい部屋のそれぞれにアンカー(基準装置)を一台設置した低コストの構成で、その部屋にタグが入ったことを検知してタグの位置を特定することができる。後者の第2の位置特定モードでは、例えば、前記測位信号の送受信に基づくTDoA(到達時間差)方式又はToA(Time of Arrival)の測距推定法のアルゴリズムを用いてタグの位置座標を計算して特定する。
【0021】
本実施形態のTDoA方式の測位システムは、例えばGNSS人工衛星からの電波が届かない又は届きにくい屋内などのエリア内におけるタグの位置座標の測位に適する。本実施形態の測位システムは、タグなどの測位対象の装置の位置をリアルタイムに測位するリアルタイム位置測位システム(RTLS:Real Time Location System)の実現に適する。
【0022】
特に、本実施形態の測位システムは、病院、老人ホーム、工場などの屋内などのエリアにおいて移動する対象者の衣服やバック、作業者のヘルメットや帽子、製造中の製品、フォークリフト、ロボット、ドローンなどの移動体に搭載された測位対象の装置(タグ、エッジデバイス、UWBデバイス)の現在位置をリアルタイムに特定することが可能になる測位システムである。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る測位システムの主要な構成の一例を示す説明図である。図1の測位システムでは、図中の右側の壁などで仕切られた比較的狭い複数の対象空間10A(1)~10A(3)に1台ずつ設置され第1の位置特定モード(以下「1点測位モード」又は「UWB1点測位モード」ともいう。)に用いられる複数の基準装置(以下「アンカー」ともいう。)20A(1)~20A(3)と、比較的広い対象空間10B内の互いに異なる既知の位置座標に設置され第2の第1の位置特定モード(以下、「複数点測位モード」又は「4点測位モード」ともいう。)に用いられる複数の基準装置20B(1)~20B(4)を備える。1点測位モードは、測位対象の装置(以下「対象装置」ともいう。)30Aの現在位置を簡易的に特定する測位モードである。複数点測位モードは、対象装置30Bの現在位置を高精度に測位する測位モードである。測位システムは、測位対象の装置30A,30Bを更に備えてもよい。
【0024】
なお、図1の例は、図中左側の対象空間10での複数点測位モードにおいて対象装置30の位置をTDoA方式で測位する測位システムを示しているが、ToA(Time of Arrival)方式などの他の測位方式で対象装置30の位置を測位してもよい。
【0025】
また、図1の例では、複数点測位モードの対象空間10Bにおける基準装置20B(1)~20B(4)の数は4であるが、対象空間における基準装置の数は5以上であってもよい。また、各測位モードの対象空間10A(1)~10A(3),10Bにおける対象装置30A,30Bの数は1であるが、対象空間10A(1)~10A(3),10Bにおける対象装置30A,30Bの数はそれぞれ2以上であってもよい。
【0026】
また、図1の例では、1点測位モードの対象空間10A(1)~10A(3)の数が3の場合について示されているが、1点測位モードの対象空間の数は単数、2又は4以上であってもよい。図1の例では、複数点測位モードの対象空間10Bの数が単数の場合について示されているが、複数点測位モードの対象空間の数は2であってもよいし、又は、3以上であってもよい。
【0027】
なお、図1の測位システムにおける複数の対象空間10A(1)~10A(3),10Bに共通する事項について説明するときは対象空間10と記載する。また、各基準装置20A(1)~20A(3),20B(1)~20B(4)に共通する事項について説明するときは、基準装置20又は基準装置20(1)、20(2)、・・・と記載する。また、各対象装置30A,30Bに共通する事項について記載するときときは対象装置30と記載する。
【0028】
また、図1に示すように、本実施形態の測位システムは、複数の基準装置20(1)~20(4)のそれぞれと通信可能な管理装置40を備える。管理装置40は、対象装置30と通信可能であってもよい。
【0029】
図1において、1点測位モードが設定されている基準装置20A(1)~20A(3)はそれぞれ、例えば老人ホーム、病院、会社などの個室に1台ずつ設置される。基準装置20A(1)~20A(3)は、例えば工場の製造ライン(生産ライン)などの同一エリア内の壁、敷居、衝立又は仕切りで仕切られた個別開放空間に設置してもよい。基準装置20A(1)~20A(3)の設置位置は、天井、壁、壁、敷居、衝立、仕切り、支柱等の構造体の表面であってもよい。また、1点測位モードに用いる基準装置は、同一エリア内の見通し内環境での無線媒体による測位信号が互いに到達しない程度に離れた複数の個別開放空間(例えば長い廊下の中央部及び端部の空間)に設置してもよい。
【0030】
1点測位モードの基準装置20の設置位置は、例えば、その基準装置が設置されている個室の部屋番号や個別開放空間の識別情報で管理することができる。
【0031】
また、図1において、複数点測位モードが設定されている基準装置20(1)~(4)は、建物などの比較的広い部屋などの内部の2次元又は3次元の対象空間10の互いに異なる複数の位置に設置される。複数の基準装置20(1)~(4)の設置位置は、水平方向の位置及び高さの少なくとも1つが互いに異なる。
【0032】
複数点測位モードの基準装置20の数は、例えば測位方式のアルゴリズムに応じて設定される。例えば、TDoA方式で3次元空間における対象装置30の位置を測位する場合、基準装置20の数は例えば4以上である。なお、2次元のエリアで対象装置30の位置を測位する場合は、基準装置の数は3以上であってもよい。
【0033】
複数点測位モードの複数の基準装置20は、装置間に適用可能な任意の同期方法により、互いの時刻同期又は時刻差が管理されている。複数の基準装置20はそれぞれ、互いの時刻同期又は時刻差が管理された内部クロックを備える。
【0034】
ここで、上記「時刻同期」とは、複数の基準装置20の間で特定の時点どうしを同期させることを意味し、「時間同期」とも言われることがある。また、上記時刻同期が管理される場合の例としては、例えば、複数の基準装置20のそれぞれとの間の位置関係(例えば距離)が既知である位置に共通の送信装置を設置した状態で当該送信装置から送信された信号を複数の基準装置20が受信した受信タイミングのタイムスタンプの時刻差を測定し、その時刻差を基準装置間のOffset値(基準装置のクロックのずれ)として管理装置40などに保持することが挙げられる。この基準装置間のOffset値は、後述のTDoA方式の測位において対象装置30の複数の基準装置20との間の距離の計算に用いられる基準装置間の受信時間差(タイムスタンプの差)の補正に用いることができ、複数の基準装置20の間の時刻同期を行うことなく、対象装置30の現在位置の計算(推定)が可能になる。なお、上記Offset値は、初期設定の後、所定のタイミングに(例えば所定周期の定期的なタイミングに)、上記共通の送信装置からの信号の受信タイミングのタイムスタンプの時刻差を測定して更新してもよい。
【0035】
複数点測位モードの複数の基準装置20のそれぞれが設置された既知の位置座標は、例えば、対象空間10に予め設定された座標系における相対的な位置座標である。本実施形態における複数の基準装置20の位置座標は、対象空間10内の任意の点に原点が設定された直交座標系における相対的な位置座標であってもよい。例えば、複数の基準装置20の位置座標は、いずれか1つの基準装置20の設置位置を通る垂直座標軸上の任意の点に原点が設定された直交座標系における相対的な位置座標であってもよい。
【0036】
対象空間10の所定の座標系における複数の基準装置20の位置座標は、例えば、アンカー設置台(設置補助装置)の複数の補助アンカー(補助基準装置)と基準装置20との間の測位信号の送受信によって特定してもよい。
【0037】
複数の基準装置20の位置座標は、例えば、一般的な測量技術(例えば、トータルステーション、レーザ測距センサー)を使った測量作業を行って特定してもよい。また、複数の基準装置20の一部又は全部がGNSSの人工衛星からの電波を受信できるエリアに配置されている場合は、前記一部又は全部の基準装置20の既知の位置座標としてGNSS受信機で測定された位置座標を使用してもよい。この場合の位置座標は、例えば、緯度、経度及び高度であってもよいし、ある基準点を定義されたECEF(Earth-Centered Earth-Fixed)座標系における座標位置(X,Y,Z)であってもよい。また、ある基準点を原点としたENU(東East(m)、北North(m)、上Up(m):基準点からの相対距離)座標へ変換した変換座標系上の座標であってもよい。
【0038】
対象装置30は、例えば無線ICタグ(以下「タグ」ともいう。)である。対象装置30は、タグのほか、台車、フォークリフト、ロボット、ドローンなどの自走可能な装置、各種の部品、又は、各種の製品であってもよい。対象装置30は、移動中の装置若しくは一時停止中の装置であってもよいし、又は、固定配置された装置であってもよい。
【0039】
対象装置30は、複数の基準装置20のそれぞれに対して所定の無線媒体による測位信号の送信を行う。測位信号の送受信に用いる無線媒体は、電波、音波、光などの無線媒体である。本実施形態では、無線媒体としてUWB(超広帯域)無線の電波を用いる。UWBは、広帯域(例えば、数GHz帯中の任意の周波数を中心とした数百MHzの帯域幅)の微弱電波での通信技術であり、IEEE802.15.4で定義されている。
【0040】
管理装置40は、例えば、インターネットなどのオープンな通信ネットワーク45に構築されたクラウドコンピュータシステム(以下「クラウドシステム」ともいう。)であってもよいし、オンプレミスシステムのように、ローカルに閉じたネットワークに接続された構成としてもよい。管理装置40は、単一又は複数のコンピュータ装置で構成したサーバであってもよい。管理装置40と複数の基準装置20との間の通信は、例えば、移動通信網(例えば、LTE、5G)、無線ローカルネットワーク(例えばWi-Fi)などを含む通信ネットワーク45を介して行うことができる。この通信は、例えば有線又は無線の通信回線を介して行うことができる。通信回線は公衆回線であってもよいし専用回線であってもよい。
【0041】
図2は、本実施形態の測位システムの基準装置(アンカー)20、対象装置(タグ)30及び管理装置40の主要な構成の一例を示すブロック図である。図2において、基準装置20は、UWB通信部210と、記憶部230と、NW通信部240とを備える。基準装置20は、USB電源供給機能やUSBデータ出力機能を備えてもよい。
【0042】
UWB通信部210は、対象装置30の測位時における測位信号の受信部としても機能する。UWB通信部210は、例えばUWB無線通信モジュールで構成されている。UWB通信部210は、対象装置30の測位時に、対象装置30からUWBの電波で送信(ブロードキャスト発信)された測位信号を、アンテナ211を介して受信する。
【0043】
また、UWB通信部210は、対象装置30から受信した測位信号に含まれる情報と、測位信号の受信時刻情報(Timestamp)とを出力する。
【0044】
対象装置30から送信される測位信号の送信フォーマットは、例えば、フレーム制御情報(Frame Control)、送信連続番号(Sequence Number)、対象装置30を識別可能な対象装置識別情報(TAG ID)、メッセージ識別情報(Message ID)、測位管理識別情報(Purpose ID)及びデータエラー修復用情報(CRC)を含む。測位管理識別情報(Purpose ID)は、例えば、測位の目的、測位の結果の用途及び測位の結果を使用する主体の少なくとも1つを識別可能な情報である。
【0045】
記憶部230は、UWB通信部210から出力された測位信号に含まれる各種情報と、測位信号の送受信結果の情報である測位信号の受信時刻情報(Timestamp)とを互いに関連付けて記憶する。また、記憶部230は、基準装置(自装置)20の位置座標の情報と、他の基準装置との間の時刻差の情報(例えば、前述のOffset値)とを記憶してもよい。
【0046】
NW通信部240は、通信ネットワーク45の有線又は無線の通信回線を介して管理装置40と通信することができる。NW通信部240は、対象装置30から受信した測位信号の受信結果の情報を管理装置40に送信する送信部としての機能も有する。
【0047】
管理装置40に送信される測位信号の受信結果の情報の送信フォーマットは、例えば、対象装置識別情報(TAG ID)、基準装置(自装置)20を識別可能な基準装置識別情報(Anchor ID)、対象装置カウント情報(TAG Counter)、測位管理識別情報(Purpose ID)、対象装置30からの測位信号の受信時刻情報(Timestamp)及び電波強度及び絶対時刻情報(Epoch Time)、電波強度及びデータエラー修復用情報(CRC)を含む。電波強度は、対象装置30からの測位信号を受信した受信電波の強度(例えばRSSI(Received Signal Strength Indicator)値)である。受信結果の情報の送信フォーマットは、基準装置(自装置)20の位置座標の情報と、他の基準装置との間の時刻差の情報(例えば、前述のOffset値)とを含んでもよい。
【0048】
図2において、対象装置30は、UWB通信部310と、記憶部330とを備える。対象装置30は、基準装置20と同様に、USB電源供給機能やUSBデータ出力機能を備えてもよい。
【0049】
UWB通信部310は、例えばUWB無線通信モジュールで構成され、UWBの電波で、前述の測位管理識別情報(Purpose ID)等を含む送信フォーマットを有する測位信号を、アンテナ311を介して送信(ブロードキャスト発信)する送信部としても機能する。測位信号は、例えば、パルス状の信号であり、所定の時間間隔で周期的に発信される。
【0050】
記憶部330は、UWB通信部310から送信する測位信号に含める情報を記憶する。また、記憶部330は、基準装置20に予め設定されている測位管理識別情報(Purpose ID)を記憶してもよい。
【0051】
図2において、複数点測位モードが設定された基準装置20は、対象装置30の測位に先立って、任意のタイミングに対象空間の複数の基準装置20の位置座標(又は各基準装置間の距離)の情報をアンカー座標ファイルとして管理装置40からダウンロードし、また、任意のタイミングに基準装置間の時刻差の情報(Offset値)をオフセットテーブルのファイルとして管理装置40からダウンロードすることができる。また、基準装置20は、定期的に(例えば数秒間隔で)管理装置40にアクセスして問い合わせ、アンカー座標ファイル及びオフセットテーブルのファイルを継続的に更新してもよい。
【0052】
図2において、管理装置40は、NW通信部410と位置特定部(測位計算部)420と記憶部(DB)430とを備える。NW通信部410は、対象装置30の測位時における測位信号の送受信結果の情報を受信する受信部としても機能する。
【0053】
NW通信部410は、通信ネットワーク45の有線又は無線の通信回線を介して複数の基準装置20及び対象装置30と通信することができる。NW通信部410は、複数の基準装置20の位置座標の情報と、基準装置間の時刻差の情報(例えば、前述のOffset値)とを、複数の基準装置20に送信する送信部としても機能する。
【0054】
NW通信部410は、対象装置30の測位時に、対象装置30の測位に関する測位関連情報を各基準装置20から受信する。基準装置20からの測位関連情報は、例えば、対象装置識別情報(TAG ID)、基準装置(自装置)20を識別可能な基準装置識別情報(Anchor ID)、対象装置カウント情報(TAG Counter)、測位管理識別情報(Purpose ID)、対象装置30からの測位信号の受信時刻情報(Timestamp)、電波強度及び絶対時刻情報(Epoch Time)を含む。
【0055】
位置特定部420は、対象装置30の測位時における対象装置30の位置を特定する機能を有する。測位計算部420は、各基準装置20から受信した測位関連情報に基づいて、例えば、対象装置30毎に、対象装置30の現在位置を特定(測位)する。
【0056】
位置特定部420は、例えば、1点測位モードにおいて、対象装置30からの測位信号を受信した基準装置20が1台のみの場合、その基準装置20の設置位置に近い位置(当該基準装置20が配置されている部屋又は個別開放空間)を、対象装置30の現在位置として特定する。
【0057】
位置特定部420は、1点測位モードにおいて、基準装置20から受信した測位関連情報に基づいて、測位管理識別情報(Purpose ID)毎に、且つ、対象装置30毎に、対象装置30の現在位置を特定してもよい。
【0058】
また例えば、位置特定部420は、1点測位モードにおいて、対象装置30からの測位信号を受信した基準装置20が複数(2又は3以上)の場合、その複数の基準装置20のうち測位信号の受信強度(電波強度)が最も大きい基準装置20の設置位置に近い位置(当該基準装置20が配置されている部屋又は個別開放空間)を、対象装置30の現在位置として特定する。
【0059】
また、複数点測位モードにおいて、位置特定部420は、対象空間10における複数の基準装置20から受信した測位関連情報に基づいて、対象装置30の現在位置を計算して特定(測位)する測位計算部として機能する。ここで、位置特定部(測位計算部)420は、各基準装置20から受信した測位関連情報に基づいて、測位管理識別情報(Purpose ID)毎に、且つ、対象装置30毎に、対象装置30の現在位置を計算して特定(測位)してもよい。この現在位置の計算には、基準装置間の時刻差の情報(例えば、前述のOffset値)を更に用いてもよい。
【0060】
記憶部(DB)430は、位置特定部(測位計算部)420での計算に用いる測位関連情報、測位計算部420で測位管理識別情報(Purpose ID)毎に且つ対象装置30毎に計算された測位結果(位置特定結果)を記憶する。なお、記憶部(DB)430のアンカー情報DBは、複数点測位モードに用いる基準装置間の時刻差の情報(例えば、前述のOffset値)を記憶してもよい。また、記憶部(DB)430のアンカー情報DBは、複数の基準装置20のそれぞれに予め設定した測位管理識別情報(Purpose ID)を記憶してもよい。
【0061】
例えば、記憶部(DB)430は、1点測位モード及び複数点測位モードに対応するように、基準装置20の情報を管理するDB(アンカー情報DB)と、基準装置20の受信結果の情報を管理するDB(ログDB)と、対象装置30の位置特定結果(測位結果)の情報を管理するDB(測位結果DB)とを有する。
【0062】
表1は、アンカー情報DBにおけるアンカー管理情報の一例を示している。
【表1】
【0063】
表1の例では、複数の基準装置(アンカー)20のそれぞれについて、設置主体又は管理主体を識別する企業ID、基準装置識別情報(Anchor ID)、測位管理識別情報(Purpose ID)、基準装置(アンカー)20に設定されている測位モードの識別情報(1点測位、4点測位)、基準装置(アンカー)20の設置位置の位置座標(相対座標)の情報及び関連情報が、互いに関連付けて記憶されている。関連情報は、1点測位モードが設定されている基準装置(アンカー)20が設置されている部屋の識別情報(部屋番号)である。
【0064】
1点測位モードでの位置特定(測位)を行う場合には、該当する基準装置(アンカー)のアンカー管理情報の測位モードの識別情報としての1点測位フラグに「1」を立てる。これによって、通常では3点ないし4点以上の基準装置(アンカー)からの測位が必要となるが、1点測位フラグが立っているタイミングにTagInfo情報を1台のアンカーで受信している場合には、フロントエンドの見える化で1点測位結果と対象装置(タグ)の受信電波の強度(RSSI値)を管理装置40の表示部等に表示させる。もし同じ対象装置(タグ)を複数の1点測位モードの基準装置(アンカー)が受信してしまった場合には、受信電波の強度(RSSI値)の大きい方の基準装置(アンカー)が優先される。1点測位フラグが「1」以外が立っている基準装置(アンカー)は通常の複数点測位モード(3次元の場合は4点測位、2次元の場合は3点測位)による対象装置(タグ)の測位が行われる。
【0065】
表2は、測位結果DBにおけるタグ測位結果の情報の一例を示している。
【表2】
【0066】
表2の例では、対象装置(タグ)30の測位のそれぞれについて、対象装置30からの測位信号の受信時刻情報(Timestamp)、対象装置識別情報(TAG ID)、測位管理識別情報(Purpose ID)、測位モードの識別情報(1点測位、4点測位)、測位に用いた基準装置(アンカー)20の数、測位対象(タグ)30の測位結果の位置座標(相対座標)の情報、測位に用いた複数の基準装置(アンカー)20のうち受信電波の強度(例えばRSSI値)が最大の基準装置(アンカー)20の識別情報、測位精度の低下率を示す測定品質情報としてのDoP(Dilution Of Precision)値、測位計算の状態(測位OK、未計算)及び受信電波の強度(RSSI値)が、互いに関連付けて記憶されている。
【0067】
対象装置(タグ)30の位置特定結果である測位結果のリアルタイム表示では、4点測位モード及び1点測位モードに限らず、当該対象装置(タグ)30に対応する対象装置識別情報(TAG ID)の電波の強度(RSSI値)が大きい基準装置(アンカー)20の名称(アンカー名)などを記録する。1点測位モードの場合には、そのアンカー名や位置が対象装置(タグ)30の位置として管理される。
【0068】
図3は、本実施形態に係る測位システムの基準装置(アンカー)20を建物の部屋ごとに配置した応用例を示す説明図である。図3の例では、老人ホームや病院などの建物100内の壁11で仕切られた複数の部屋(個室や病室)10(1)~10(20)及び廊下の互いに離れた個別開放空間10(21)~10(24)に、図中の■で示した基準装置(アンカー)20が1部屋ごとに1台ずつ配置されている。図中の▲は検索対象の対象装置(タグ)30である。管理装置40は、部屋10(4)に設置された基準装置(アンカー)20の受信結果の情報に基づいて、対象装置(タグ)30が当該部屋10(4)に入ってきたことを検知することができる。管理装置40は、対象装置(タグ)30の位置座標を計算する測位ではなく、対象装置(タグ)30からの電波を受信した基準装置(アンカー)20が設置された部屋10(4)を、対象装置(タグ)30の現在位置として、特定色やハッチングなどで強調表示する。本例では、1点測位モードにより各部屋の基準装置(アンカー)1台による受信で対象装置(タグ)30の所在がわかる。なお、本例において、部屋を仕切っている壁11はその材質によってはある程度電波を通すので、対象装置(タグ)30が発信する電波の送信電力は、対象装置(タグ)30の所在を特定できる範囲内で弱めて設定したり、対象装置(タグ)30の発信強度でフィルタをしたりしてもよい。
【0069】
図4は、本実施形態に係る測位システムの基準装置(アンカー)20を工場の製造ラインに沿って配置した応用例を示す説明図である。図4の例では、工場の製造ライン12に沿って敷居14によって互いに仕切られた隣合う複数の個別開放空間13(1),13(2)を設定し、その個別開放空間13(1),13(2)のそれぞれに基準装置(アンカー)20(1),20(2)を配置している。本例では、1点測位モードにより製造ライン12に沿って配置した基準装置(アンカー)20(1),20(2)による受信で製造ライン12のどのエリアを、対象装置(タグ)30、31'が付けられた製造物が移動しているかがわかる。
【0070】
なお、本実施形態の測位システムの複数点測位モードで用いることができるTDoA方式は例えば次のように行うことができる。TDoA方式において、対象装置30及び管理装置40に保持される複数の基準装置20の間の時刻のずれ(クロックのずれ)である動的に変化する時刻差(Offset値)は、例えば、次のような同期/Calibration処理によって特定することができる。ここで、複数の基準装置20の設置場所の位置座標(例えば直交座標系のX,Y,Z)の静的なデータは予め計測されて管理装置40に保持されている。管理装置40はタイムスタンプのズレを調べるコマンドで各基準装置を同期(Anchor Sync)させて、イニシエータとしての基準装置20(0)と他のレスポンダーとしての基準装置20(n)のTimestampを集める。例えば、管理装置40は、基準装置20(0)に他の基準装置20(n)との同期/Calibration処理の指示に行うと、基準装置20(0)は発信Timestamp(Tx0ts)をつけてUWBの電波による同期信号を送信(発信)する。他の基準装置20(n)は、その同期信号を受信すると、基準装置20(0)からの発信Timestamp(Tx0ts)と自身の受信Timestamp(Rxnts)が分かるので、そのTx0tsとRxntsを管理装置40に送る。この基準装置20(0)の送信時刻情報(Timestamp:Tx0ts)と、他の基準装置20(n)の受信時刻情報(Timestamp:Rxnts)が管理装置40に送られる。このTx0tsとRxntsとの差は、基準装置20(0)と他の基準装置20(n)とのクロックのズレ(TS_Offset)と基準装置間の距離を電波が飛ぶ飛行時間(ToF)の合計である。
【0071】
更に、管理装置40は、キャリブレーション用のコマンドで基準装置間の距離に相当するToF値を集める。このToF値は、基準装置間でTWR(2方向レンジング)を行うToF(Time of Flight)方式で測定した基準装置間の距離(例えば、基準装置20(0)と他の基準装置20(n)との間の距離Dis0n)である。
【0072】
管理装置40は、各基準装置から集めた送信時刻情報(Timestamp)及び受信時刻情報(Timestamp)と、基準装置間の距離とに基づき、基準装置間の時刻差の情報(Offset値)を計算することができる。例えば、基準装置20(0)と基準装置20(n)とのクロックのずれ(TS_Offset)は、TS_Offset=Tx0ts-Rxnts-Dis0n/c(c:光速)で計算できる。他の基準装置間の時刻差の情報(Offset値)も同様に計算することができる。これらの複数の基準装置間の時刻差の情報(Offset値)が管理装置40(及び対象装置30)にOffsetテーブルとして保持される。
【0073】
なお、上記時刻差の情報(Offset値)の計算に用いる基準装置間の距離は、上記設置場所の位置座標から計算してもよい。
【0074】
各実施形態のTDoA方式の測位システムにおいて、対象装置30及び管理装置40は、対象装置30の現在位置を、例えば次のアルゴリズムにより計算することができる。ここで、前述の図1の対象空間10において、対象装置30から送信された測位信号が4箇所の基準装置20(1)、20(2)、20(3)、20(4)に到達した受信時刻(Timestamp)をT1、T2、T3、T4とし、測位信号の伝搬速度をv[m/s]とし、対象装置30と基準装置20(1)、20(2)、20(3)、20(4)のそれぞれとの距離をD1、D2、D3、D4とし、基準装置間の測位信号の受信時間差をΔT12=T1-T2、ΔT13=T1-T3、ΔT14=T1-T4、ΔT23=T2-T3、ΔT24=T2-T4、ΔT34=T3-T4とすると、次の(1)~(6)の関係式が成立する。
【数1】
【0075】
上記関係式(1)~(6)を用いて未知の変数である距離D1、D2、D3、D4を求めることができる。この求めた距離D1、D2、D3、D4それぞれを半径とし、基準装置20(1)、20(2)、20(3)、20(4)の既知の位置座標を原点とした4つの球面の交点を求める任意のアルゴリズムにより、3次元の対象空間10Aにおける対象装置30の現在位置を数センチメール(例えば3~10cm)の精度で計算することができる。
【0076】
なお、基準装置間に時刻差がある場合、上記関係式(1)~(6)におけるΔT12、ΔT13、ΔT14、ΔT23、ΔT24、ΔT34は、上記同期/Calibration処理によって予め決定して保持している時刻差の情報(Offset値)で補正される。
【0077】
以上、本実施形態によれば、測位に用いる基準装置(アンカー)20の構成や動作を変更することなく、個室などの狭い空間に位置する対象装置(タグ)30の現在位置を低コストで測位可能な位置特定モード(1点測位モード)と対象装置(タグ)30の現在位置を高精度に測位する位置特定モード(複数点測位モード)を混在させて実施することができる。
【0078】
特に、本実施形態によれば、UWBを使った屋内測位サービスにおいて、屋内等での精度の高い測位だけでなく、対象装置(タグ)30がどの個室にあるのかといったおおよその所在の場所が分かればよいというニーズに対応でき、UWBで多目的に使える。
【0079】
また特に、本実施形態によれば、UWBの測位システムの管理装置(RTLS)40側だけの管理機能の追加として、各基準装置(アンカー)が精度の高い複数点測位モードの測位方式(TDoAやToA等)用なのか、基準装置(アンカー)1台で対象装置(タグ)の発信を受信できたら対象装置(タグ)はその基準装置(アンカー)のそばにあると判断する1点測位モードの基準装置(アンカー)かの区別を管理装置(RTLS)40側で行うことができる。これにより、対象装置(タグ)や基準装置(アンカー)に変更を加えることなく基準装置(アンカー)が対象装置(タグ)の発信を受信したことを管理装置(RTLS)40側に通知すると言った通常動作で、管理装置(RTLS)40としては1点測位モードの基準装置(アンカー)の設置位置の近くに対象装置(タグ)があるとして、基準装置(アンカー)の位置を対象装置(タグ)のある位置として認知することができる。
【0080】
また特に、本実施形態によれば、各個室に、基準装置(アンカー)が1台設置されていて、タグの発信が他の部屋の、基準装置(アンカー)で受信されないことを前提とし、対象装置(タグ)の発信を受信した、基準装置(アンカー)がRTLS側に送るデータとして対象装置(タグ)からの電波受信強度を通知するので、管理装置(RTLS)40は複数の基準装置(アンカー)から同じタグの発信を受信した場合でも最も強い電波を受信した、基準装置(アンカー)を最も近い、基準装置(アンカー)として評価を行うことができる。よって、どの個室の、基準装置(アンカー)のそばに対象装置(タグ)があるのか正しく選別できる。
【0081】
また特に、本実施形態によれば、UWBを使った屋内の測位方式で、精度の高い測位ができるTDoAやToAといった測位を行える対象装置(タグ)や基準装置(アンカー)を何の設定変更やモード変更を行うことなく、精度の高い測位精度と混在しても全く問題なく、小さな個室レベル内の基準装置(アンカー)の側に対象装置(タグ)があることを認知できる。それによって他のBLEやWi-Fiといった別のシステムを導入することもなく、統一したUWBを使った測位システムの中で複数の測位モードを使い分けができる。また、対象装置(タグ)の発信が個室の壁を透過してしまったとしても基準装置(アンカー)の電波受信強度から最寄りの基準装置(アンカー)を選べる。
【0082】
また、本発明は、UWBを使った屋内の測位システムの基盤を低コストで提供できるため、持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の達成に貢献できる。
【0083】
なお、本明細書で説明された処理工程並びに測位システムの構成要素(例えば、基準装置、対象装置、管理装置)は、様々な手段によって実装することができる。例えば、これらの工程及び構成要素は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせで実装されてもよい。
【0084】
ハードウェア実装については、実体(例えば、各種無線通信装置、通信モジュール、Node B、Node G、端末、ハードディスクドライブ装置、又は、光ディスクドライブ装置)において上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、1つ又は複数の、特定用途向けIC(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、電子デバイス、本明細書で説明された機能を実行するようにデザインされた他の電子ユニット、コンピュータ、又は、それらの組み合わせの中に実装されてもよい。
【0085】
また、ファームウェア及び/又はソフトウェア実装については、上記構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、本明細書で説明された機能を実行するプログラム(例えば、プロシージャ、関数、モジュール、インストラクション、などのコード)で実装されてもよい。一般に、ファームウェア及び/又はソフトウェアのコードを明確に具体化する任意のコンピュータ/プロセッサ読み取り可能な媒体が、本明細書で説明された上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段の実装に利用されてもよい。例えば、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば制御装置において、メモリに記憶され、コンピュータやプロセッサにより実行されてもよい。そのメモリは、コンピュータやプロセッサの内部に実装されてもよいし、又は、プロセッサの外部に実装されてもよい。また、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、フラッシュメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、磁気又は光データ記憶装置、などのような、コンピュータやプロセッサで読み取り可能な媒体に記憶されてもよい。そのコードは、1又は複数のコンピュータやプロセッサにより実行されてもよく、また、コンピュータやプロセッサに、本明細書で説明された機能性のある態様を実行させてもよい。
【0086】
また、前記媒体は非一時的な記録媒体であってもよい。また、前記プログラムのコードは、コンピュータ、プロセッサ、又は他のデバイス若しくは装置機械で読み込んで実行可能であればよく、その形式は特定の形式に限定されない。例えば、前記プログラムのコードは、ソースコード、オブジェクトコード及びバイナリコードのいずれでもよく、また、それらのコードの2以上が混在したものであってもよい。
【0087】
また、本明細書で開示された実施形態の説明は、当業者が本開示を製造又は使用するのを可能にするために提供される。本開示に対するさまざまな修正は当業者には容易に明白になり、本明細書で定義される一般的原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他のバリエーションに適用可能である。それゆえ、本開示は、本明細書で説明される例及びデザインに限定されるものではなく、本明細書で開示された原理及び新規な特徴に合致する最も広い範囲に認められるべきである。
【符号の説明】
【0088】
10 :対象空間(対象空間)
20 :基準装置
30 :対象装置(測位対象の装置)
40 :管理装置
45 :通信ネットワーク
210 :UWB通信部
211 :アンテナ
230 :記憶部
240 :NW通信部
310 :UWB通信部
311 :アンテナ
330 :記憶部
410 :NW通信部
420 :位置特定部(測位計算部)
430 :記憶部
図1
図2
図3
図4