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特開2023-132599尿素フリー水の製造方法及び製造装置、ならびに尿素の分析方法及び分析装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132599
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】尿素フリー水の製造方法及び製造装置、ならびに尿素の分析方法及び分析装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20230101AFI20230914BHJP
   G01N 33/18 20060101ALI20230914BHJP
   C02F 1/00 20230101ALI20230914BHJP
   B01D 61/02 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C02F1/44 H
G01N33/18 B
C02F1/00 P
B01D61/02 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038018
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 惟
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一重
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006JA57A
4D006KA01
4D006KA72
4D006KB04
4D006KB11
4D006KB30
4D006KE02P
4D006KE03P
4D006KE04P
4D006KE07P
4D006KE08P
4D006KE09P
4D006MB20
4D006PA01
4D006PB02
4D006PB53
(57)【要約】
【課題】試料水中の尿素を分析する際に用いることができ、少なくとも分析に影響を及ぼさない程度にまで尿素濃度が低下した尿素フリー水を、効率よく製造できる尿素フリー水の製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】尿素含有水2にウレアーゼ3を添加することにより、ウレアーゼを含み、尿素を分解した処理水1を得る処理工程と、処理水1を分離膜4に通液することによりウレアーゼを除去した尿素フリー水5を得る分離工程とを含む尿素フリー水の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿素含有水に、ウレアーゼを添加することにより、ウレアーゼを含み、尿素を分解した処理水を得る処理工程と、
前記処理水を分離膜に通液することによりウレアーゼを除去した尿素フリー水を得る分離工程と、
を有する、尿素フリー水の製造方法。
【請求項2】
前記分離膜は逆浸透膜である、請求項1に記載の尿素フリー水の製造方法。
【請求項3】
前記逆浸透膜によりウレアーゼを含む濃縮水を得た後、該濃縮水を前記処理水に戻すことで前記処理水を濃縮する、請求項1又は2に記載の尿素フリー水の製造方法。
【請求項4】
前記逆浸透膜の脱塩率が90%以上である、請求項2又は3に記載のいずれか1項に記載の尿素フリー水の製造方法。
【請求項5】
前記逆浸透膜は、尿素を含有しない溶液を用いて洗浄してから使用する、請求項2~4のいずれか1項に記載の尿素フリー水の製造方法。
【請求項6】
尿素含有水にウレアーゼを添加して尿素を分解する処理手段と、
前記処理手段によって処理された処理水を通液し、前記ウレアーゼを除去する分離膜と、
を備え、
前記分離膜を透過する水を尿素フリー水とする、尿素フリー水の製造装置。
【請求項7】
前記分離膜が逆浸透膜である、請求項6に記載の尿素フリー水の製造装置。
【請求項8】
前記処理水を貯留するタンクを備え、前記逆浸透膜の濃縮水を前記タンクに戻す循環路を有する、請求項6又は7に記載の尿素フリー水の製造装置。
【請求項9】
試料水中の尿素を定量する尿素の定量方法であって、
尿素標準液の調製に用いる水、及びキャリア水の少なくとも一方に、請求項1~5のいずれか1項に記載の尿素フリー水の製造方法で製造された尿素フリー水を使用する、定量方法。
【請求項10】
キャリア水の流れに対して試料水の一定量を導入して前記試料水における尿素の定量を行う尿素の分析装置であって、
請求項6~8のいずれか1項に記載の尿素フリー水の製造装置を備え、
前記尿素フリー水の製造装置から得られる、尿素濃度が1μg/L未満の尿素フリー水を前記キャリア水とする、分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の尿素の定量に関し、特に、尿素の定量を行うときに用いられる尿素フリー水の製造方法及び製造装置と、前記尿素フリー水を用いる尿素の定量方法及び分析装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
水中の微量な尿素を精度よく分析し、定量することに対する要求がある。例えば、純水製造システムによって原水から純水を製造する場合、純水製造システムを構成するイオン交換装置や紫外線酸化装置では原水中の尿素を除去することは、困難である。そのため、予め尿素を除去した原水を純水製造システムに供給する必要がある。尿素の除去方法としては、次亜臭素酸を生成する薬剤を原水に加えて、前記次亜臭素酸により尿素を選択的に酸化する方法が知られている。しかし、前記薬剤は純水製造システムの負荷になるため、少ない投入量であることが好ましい。したがって、原水中の尿素濃度を予め定量することによって、適切な量の前記薬剤を投入することが望ましい。さらに、純水製造システムから得られた純水中の尿素濃度を測定することについても要求がある。
【0003】
尿素の定量方法としては、ジアセチルモノオキシムを用いた比色法に基づく定量方法(例えば、衛生試験法(非特許文献1)に記載された方法など)が知られている。ジアセチルモノオキシムを用いる比色法では、反応を促進するなどの目的で他の試薬(例えば、アンチピリン+硫酸溶液、塩酸セミカルバジド水溶液、塩化マンガン+硝酸カリウムの水溶液、リン酸二水素ナトリウム+硫酸溶液など)を併用することができる。アンチピリンを併用する場合には、ジアセチルモノオキシムを酢酸溶液に溶解させてジアセチルモノオキシム酢酸溶液を調製し、アンチピリン(1,5-ジメチル―2-フェニル―3-ピラゾロン)を例えば硫酸に溶解させてアンチピリン含有試薬液を調製し、試料水に対してジアセチルモノオキシム酢酸溶液とアンチピリン含有試薬とを順次混合し、波長460nm付近での吸光度を測定し、標準液との対照によって定量を行う。
【0004】
しかし、ジアセチルモノオキシムを用いた比色法による尿素の定量方法は、例えばプール水や公衆浴場水における尿素の定量を目指して意図されたものであるため、純水製造プロセスに供給される原水などにおける尿素の定量を行うには感度が悪い。そこで特許文献1は、ジアセチルモノオキシムを用いる比色法に基づきながらフローインジェクション分析を適用して吸光度を測定することにより、ppb以下から数ppmの濃度範囲で試料水中の尿素を連続的にオンラインで定量する方法を開示している。特許文献2は、ジアセチルモノオキシムを用いる比色法に基づきながらフローインジェクション分析を適用して尿素を定量する場合に、反応に用いる試薬を冷蔵することによって、長期間にわたるオンラインでの連続的な自動測定を安定して実行できることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-338099号公報
【特許文献2】特開2018-179545号公報
【特許文献3】特開平6-86997号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本薬学会編、衛生試験法・注解1990.4.1.2.3(13)1(1990年版第4刷付追補(1995)、p1028)、1995年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び特許文献2に記載された方法は、フローインジェクション分析を用いることにより高感度で尿素を定量できる方法である。しかし、この定量方法に用いられる水、例えば濃度標準液を調製する際に用いられる水や、フローインジェクション分析でのキャリア水に尿素が含まれていると、それらの水に含まれる尿素が分析誤差の要因となる。フローインジェクション分析以外の方法によって尿素を定量する場合でも、定量操作に用いる水のいずれかに尿素が含まれていると分析誤差の要因となる。例えば、液体クロマトグラフィーによる分析を行うときであっても、移動相として用いるキャリア水に尿素が含まれていると、分析誤差が生じる。特に、試料水中に含まれるμg/Lレベルの微量の分析を行う場合には、標準液の調製時、あるいはキャリア水にμg/Lレベルでも尿素が含まれていると、分析に影響を受ける。したがって、尿素をほとんど含まない水(尿素フリー水という)が求められている。
【0008】
そこで、試料水中の尿素を分析する際に用いることができる尿素フリー水の製造方法として、ウレアーゼを固定化したカラムに通液して尿素を分解することで尿素フリー水を製造する方法がある。さらに、固定化したウレアーゼを用いた尿素の分解としては、特開平6-86997号公報に活性炭にウレアーゼを担持させたウレアーゼ担体分解装置を用いて尿素を分解する純水製造装置が開示されている。しかし、固定化したウレアーゼの作製工程は煩雑であり、固定化担体を大容量化することは難しい。そのため、一度に大量の尿素フリー水を製造することは困難である。また、固定化酵素を作製する際、高濃度のウレアーゼ溶液を担体に接触させるが、全てのウレアーゼが担体に結合しないため、高価なウレアーゼを一部無駄に捨てることになる。さらに、固定化したウレアーゼに通液していると徐々に担体からウレアーゼが脱離するため、時間経過とともに尿素の分解性能が悪くなる。
【0009】
本発明の目的は、試料水中の尿素を分析する際に用いることができ、少なくとも分析に影響を及ぼさない程度にまで尿素濃度が低下した尿素フリー水を、効率よく製造できる尿素フリー水の製造方法及び製造装置を提供することにある。また、本発明の別の目的は、前記尿素フリー水を用いることにより試料水中の微量の尿素を精度よく定量できる分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、尿素含有水に、ウレアーゼを添加することにより、ウレアーゼを含み、尿素を分解した処理水を得る処理工程と、
前記処理水を分離膜に通液することによりウレアーゼを除去した尿素フリー水を得る分離工程と、
を有する、尿素フリー水の製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明の他の態様によれば、尿素含有水にウレアーゼを添加して尿素を分解する処理手段と、
前記処理手段によって処理された処理水を通液し、前記ウレアーゼを除去する分離膜と、
を備え、
前記分離膜を透過する水を尿素フリー水とする、尿素フリー水の製造装置が提供される。
【0012】
また、本発明の他の態様によれば、試料水中の尿素を定量する尿素の定量方法であって、
尿素標準液の調製に用いる水、及びキャリア水の少なくとも一方に、前記尿素フリー水の製造方法で製造された尿素フリー水を使用する、定量方法が提供される。
【0013】
また、本発明の他の態様によれば、キャリア水の流れに対して試料水の一定量を導入して前記試料水における尿素の定量を行う尿素の分析装置であって、
前記尿素フリー水の製造装置を備え、
前記尿素フリー水の製造装置から得られる、尿素濃度が1μg/L未満の尿素フリー水を前記キャリア水とする、分析装置が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、試料水中の尿素を分析するときに用いることができ、少なくとも分析に影響を及ぼさない程度にまで尿素濃度が低下した尿素フリー水を、尿素含有水に直接ウレアーゼを添加することで製造する尿素フリー水の製造方法及び製造装置と、前記尿素フリー水を用いることにより試料水中の微量の尿素を精度よく定量できる分析装置とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に基づく尿素フリー水の製造装置の一例を説明する図である。
図2】本発明に基づく尿素フリー水の製造装置の別の例を説明する図である。
図3】逆浸透膜を洗浄することができる本発明に基づく尿素フリー水の製造装置の一例を説明する図である。
図4】本発明に基づく尿素フリー水を使用した尿素の分析装置の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に基づく尿素フリー水の製造方法は、尿素を含有する可能性を有する水をウレアーゼによって処理することにより、試料水中の尿素の分析に影響を与えない程度にまで尿素濃度が低下している尿素フリー水を製造するものである。試料水中の尿素の分析に影響を与えないに程度まで尿素濃度が低下している尿素フリー水とは、尿素濃度が1μg/L未満、特に0.5μg/L未満である水のことをいう。
【0017】
本発明では、ウレアーゼが溶解した溶液あるいはウレアーゼを直接、尿素含有水に添加することにより、尿素を分解し、尿素フリーの処理水を得る。前記処理水は、さらにウレアーゼを除去することで、試験水中の微量の尿素の定量のときに用いる標準液やキャリア水などに用いる尿素フリー水とすることができる。ここで、処理水からのウレアーゼの除去が十分でない場合、尿素フリー水にウレアーゼが混入することとなる。尿素フリー水にウレアーゼが混入している場合、前記ウレアーゼが尿素の定量値に影響を与える。
【0018】
具体的には、ウレアーゼを含む尿素フリー水を尿素標準液の調製に用いる場合、尿素フリー水中のウレアーゼが、尿素標準液中の尿素を分解除去してしまう。そのため、検量線の直線性が得られず、尿素の定量が不可能になる。また、試験水が注入されるキャリア水としてウレアーゼを含む尿素フリー水を用いてしまうと、尿素フリー水中のウレアーゼは、試験水中の尿素を分解除去してしまう。そのため、試験水中の本来の尿素の量よりも小さな定量結果となる。キャリア水にウレアーゼが混入しているかどうかは、尿素を、例えば50ppb、100ppbになるように添加し、数日室温で静置してウレアーゼがリークしたことによる尿素分解の有無を確認すればよい。したがって、ウレアーゼが溶解した溶液あるいはウレアーゼを直接、尿素含有水に添加することによって尿素フリー水を製造する場合には、ウレアーゼが尿素フリー水に混入していないようにする必要がある。
【0019】
そこで、本発明に基づく尿素フリー水の製造方法は、尿素含有水に、ウレアーゼを添加することにより、ウレアーゼを含み、尿素を分解した処理水を得る処理工程と、前記処理水を分離膜に通液することによりウレアーゼを除去した尿素フリー水を得る分離工程と、を有する、尿素フリー水の製造方法である。
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。しかしながら、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではない。
【0021】
図1は、尿素含有水2に、ウレアーゼ3を添加することにより処理水1を得る処理手段101と、前記処理水1を分離膜4に通液することによりウレアーゼを含まない尿素フリー水5を得る分離手段102とを含む尿素フリー水の製造装置の一例を示している。
【0022】
処理手段101では、尿素含有水2にウレアーゼ3を添加することで、尿素含有水2中の尿素が分解された処理水1が得られる。
ウレアーゼによる尿素の分解は、ウレアーゼを酵素(触媒)とする加水分解反応であり、次式で表される。ウレアーゼによれば、水の存在下にごく微量の尿素であっても二酸化炭素とアンモニアに分解できる。
(NHCO + HO → CO +NH
添加するウレアーゼ3は、固体の状態でも、溶媒に溶解させた溶液状態でもよい。ウレアーゼ3を溶解させる溶媒は、ウレアーゼに影響を及ぼさず、分離手段102を経て得られる尿素フリー水を用いて尿素を定量分析するときに影響を及ばさない溶媒であれば特に限定されないが、水であることが好ましい。また、ウレアーゼの添加方法は、尿素含有水を含む水槽に直接添加してもよく、また、尿素含有水が通液するライン上にウレアーゼを添加するラインを設けてもよい。さらに、ウレアーゼ添加後、尿素が分解されるまでに十分な時間が必要であるが、尿素含有水中の想定される尿素濃度、ウレアーゼの添加量、水温、撹拌の程度などに応じて時間を適宜設定することができる。また、予備的にウレアーゼを添加して、尿素濃度が検出限界以下になる時間を求めておき、実際の処理水の製造はその時間以上静置して、あるいは撹拌しながら行うことができる。撹拌方法としては、既存の方法を用いることができる。例えば、転倒混和や手動撹拌などが挙げられる。あるいは、処理水を尿素が十分に分解されるまで循環して撹拌してもよい。本発明では、尿素の分解処理工程は、処理手段101と分離手段102とを別体としたバッチ式、あるいは分離手段102と合体した処理手段101内で行ってもよいが、バッチ式でウレアーゼによる尿素分解処理を行うことが十分な処理時間を確保する点、また、処理量の点から好ましい。例えば、尿素含有水を蓄えた水槽にウレアーゼを添加し、一昼夜処理して十分に尿素を分解しておくことができる。
【0023】
分離手段102では、処理手段101により得られた処理水1が、供給配管6を通じて、分離膜4に通液され、前記分離膜4によりウレアーゼが分離されたのち、排水配管7を通じて、ウレアーゼを含まない尿素フリー水5が得られる。供給配管6には、処理水1を分離膜4に通液するためのポンプPと流量計FIと圧力計PIが備えられている。分離膜4へ通液するときの圧力が、分離膜を装填するベッセルの耐圧を超える場合は、分離膜4の前で戻り配管を設けて、分離膜4へ通液前の処理水1に戻してもよい。分離膜4は、ウレアーゼを透過しない分離膜であれば特に限定されないが、逆浸透膜であることが好ましい。本発明者らの検討によれば、ウレアーゼの分子量よりも十分に小さい分画分子量を有するナノフィルター膜(NF膜)であっても、わずかにウレアーゼがリークしていることを確認している。分離膜として逆浸透膜を用いる際、逆浸透膜の脱塩率は90%以上あることが好ましい。上限については特に限定はなく、可能であるならば100%でもよいが、実質的に99.7%が上限であり、製造の容易さから99.0%で十分である。ここで90%以上の脱塩率とは、濃度250ppmのNaCl水溶液を、25℃、pH7、回収率15%、入口圧力0.34MPaで処理した際のNaCl水溶液の脱塩率が90%以上であることを意味する。脱塩率は、分離膜へ透過前と透過後のNaCl水溶液のNa濃度とCl濃度をイオンクロマトグラフィーで測定し、透過前後の濃度差を透過前の濃度で除することで求めた。また、供給水と透過水の導電率を求め、両者の導電率の差を供給水の導電率で除することでも計算することができる。前記範囲の逆浸透膜を使用した場合、ウレアーゼを含有しない透過水とウレアーゼを含む濃縮水とに分離することができる。また、濃縮水は処理水1に循環させ、再び逆浸透膜に通液することができる。菌の混入を防ぐため、透過水が通液するラインに紫外線(UV)照射装置を設けてもよい。また、分離膜4の後段には、よりウレアーゼを除去するために、何れかの方法で透過水をアニオン交換樹脂に通液する手段を設けてもよい。透過水をアニオン交換樹脂に通液する手段としては、アニオン交換樹脂充填したカラムに通液する方法などが挙げられる。アニオン交換樹脂としては、強塩基性アニオン交換樹脂と弱塩基性アニオン交換樹脂のいずれも使用することができる。UV照射装置と併用する際は、UV照射装置の前段又は後段にアニオン交換樹脂に通液する手段を設けることができるが、ウレアーゼを含まない尿素フリー水5への菌の混入を防ぐという観点からUV照射装置の前段にアニオン交換樹脂に通液する手段を設けることが好ましい。また、逆浸透膜は、多段式にしてもよい。
【0024】
図2は、ウレアーゼを含み、尿素を分解した処理水8を逆浸透膜15に通液することで、ウレアーゼを含有しない透過水とウレアーゼを含む濃縮水とに分離する尿素フリー水の製造装置の一例を示している。
【0025】
図2に示す尿素フリー水の製造装置200は、逆浸透膜15を有する。前記逆浸透膜15は、図1の分離膜4として使用する逆浸透膜と同様に90%以上の脱塩率を有するものを使用することが好ましい。前記逆浸透膜15からは、ウレアーゼを含む濃縮水を取り出す濃縮水ライン13とウレアーゼを含有しない透過水が排出される透過水ライン14の2つのラインが設けられている。ウレアーゼを含み、尿素を分解した処理水8は供給配管6を通じて逆浸透膜15へ通液される。処理水8としては、図1の処理手段101により得られた処理水1を用いることもできる。供給配管6には、処理水8を逆浸透膜15に通液するためのポンプPと流量計FIと圧力計PIとが設けられている。逆浸透膜15へ通液するときの圧力が、逆浸透膜15を装填するベッセルの耐圧を超える場合は、逆浸透膜15の前で戻り配管9を設けて、逆浸透膜15へ通液する前の処理水8へ循環させてもよい。また、濃縮水ライン13には流量計FIと圧力計PIが設けられており、濃縮水が濃縮水ライン13を通って、処理水8のタンクへ循環し、再び逆浸透膜15に通液される。さらに、透過水ライン14には流量計FIと圧力計PIが設けられており、ウレアーゼを含まない尿素フリー水5が得られる。菌の混入を防ぐため、透過水ライン14にUV照射装置を設けてもよい。また、逆浸透膜15の後段には、よりウレアーゼを除去するために、何れかの方法で透過水をアニオン交換樹脂に通液する手段を設けてもよい。透過水をアニオン交換樹脂に通液する手段としては、アニオン交換樹脂を充填したカラムに通液する方法などが挙げられる。アニオン交換樹脂としては、強塩基性アニオン交換樹脂と弱塩基性アニオン交換樹脂のいずれも使用することができる。UV照射装置と併用する際は、UV照射装置の前段又は後段にアニオン交換樹脂に通液する手段を設けることができるが、ウレアーゼを含まない尿素フリー水5への菌の混入を防ぐという観点からUV照射装置の前段にアニオン交換樹脂に通液する手段を設けることが好ましい。また、逆浸透膜は、多段式にしてもよい。
【0026】
図3は、未使用の逆浸透膜を用いるときに、透過水と濃縮水を廃液17として一定時間排出することで逆浸透膜15を洗浄することができる尿素フリー水の製造装置の一例である。
【0027】
本発明において未使用の逆浸透膜15を用いる場合、洗浄してから使用することが望ましい。洗浄せずに使用すると、尿素濃度の測定に影響が出る場合がある。そのため、逆浸透膜15を用いてウレアーゼの分離を開始する前に、逆浸透膜15を洗浄することが必要である。具体的には、図2の濃縮水ライン13と透過水ライン14にそれぞれ三方弁16を設け、それぞれのラインから廃液17として排出できるようにする。まず、図3(a)に示すように、ウレアーゼを含む処理水8を逆浸透膜15に通液し、一定時間、透過水と濃縮水をそれぞれ廃液17として排水することで、逆浸透膜15を洗浄し、尿素濃度の測定に影響が出ないようにする。次に、図3(b)に示すように三方弁16を切り替え、ウレアーゼを含む濃縮水は循環させ、透過水であるウレアーゼを含まない尿素フリー水5を回収する。ウレアーゼを含む処理水8としては、図1の処理手段101により得られた処理水1を用いることもできる。逆浸透膜15を洗浄するための洗浄液は、尿素を含まず、かつ、尿素の分析を阻害するような物質を含まない液体であれば、特に限定されない。また、逆浸透膜15の洗浄方法は、逆浸透膜15の使用時に尿素濃度の測定に影響が出なければ、特に限定されない。
【0028】
図4は、本発明に基づく尿素フリー水の製造方法を適用した尿素分析装置300を示している。ここでは、純水製造に用いる原水、あるいは純水そのものを試料水とし、試料水に含まれる微量の尿素をオンラインで連続的に定量する場合を例に挙げて説明する。尿素の分析対象となる試料水は、純水製造に用いる原水あるいは純水に限定されるものではない。
【0029】
図4に示されるように、純水製造に用いる原水のライン20が設けられており、このライン20では、原水がポンプPによって送水される。原水のライン20から分岐する試料水配管21が設けられている。試料水配管21は、原水から分岐した試料水の配管であり、開閉弁22、流量計FIを備えている。試料水配管21の先端は、サンプリング弁10(インジェクター、インジェクション弁ともいう)が設けられている。サンプリング弁10を含めてサンプリング弁10から下流の部分は、フローインジェクション分析装置としての構成を有して実際に尿素の定量に関わる部分となる。
【0030】
サンプリング弁10は、フローインジェクション法において一般的に用いられる構成のものであり、六方弁11とサンプルループ12とを備えている。六方弁11は、図示丸付き数字で示される6個のポートを備えている。試料配管21はポート(2)に接続している。また、ポンプPを介してキャリア水が供給される配管23がポート(6)に接続し、ポンプPを介して試料水を排水するための配管25がポート(3)に接続している。ポート(1)とポート(4)との間には、所定容量の試料水を採取するためのサンプルループ12が接続している。ポート(5)には、サンプリング弁10の出口となる配管24の一端が接続している。キャリア水は、配管19を介してポンプPに供給され、ポンプPから配管23を介してポート(6)に向けて送液されている。
【0031】
キャリア水は、一般には純水などが使用されるが、尿素の定量精度に大きな影響を与えるものであり、尿素濃度が極めて低いことが要求される。試料水中のμg/Lレベルの尿素の定量を行う場合には、キャリア水中の尿素濃度は1μg/L未満である必要がある。そこで本実施形態では、本発明の製造方法によって製造された尿素フリー水をキャリア水として使用する。そのため、分析装置は、逆浸透膜15を含む。ウレアーゼを含み、尿素を分解した処理水8は供給配管6を通じて逆浸透膜15へ通液される。供給配管6には、処理水8を逆浸透膜15に送液するためのポンプPと流量計FIと圧力計PIとが設けられている。処理水8は、前記分析装置300とは別に、予め尿素含有水にウレアーゼを添加することで、尿素含有水中の尿素が分解したものを用いる。逆浸透膜15へ送液するときの圧力が、逆浸透膜15を装填するベッセルの耐圧を超えないようにするため、逆浸透膜15へ通液する前のウレアーゼを含む処理水8が循環できるよう、逆浸透膜15の前で戻り配管9が設けられている。さらに、逆浸透膜15から、ウレアーゼを含む濃縮水が通液する濃縮水ライン13とウレアーゼを含有しない透過水が通液する透過水ライン14の2つのラインが設けられている。濃縮水ライン13と透過水ライン14にはそれぞれ三方弁16が設けられており、濃縮水と透過水をそれぞれ廃液として排水できる。これにより、未使用の逆浸透膜15を用いるとき、まず一定時間排水することで逆浸透膜15を洗浄し、尿素濃度の測定に影響が出ないようにすることができる。濃縮水ライン13には流量計FIと圧力計PIが設けられており、濃縮水が前記濃縮水ライン13を通って、逆浸透膜15へ通液する前のウレアーゼを含む処理水8へ循環し、再び逆浸透膜15に通液される。さらに、透過水ライン14には流量計FIと圧力計PIが設けられており、ウレアーゼを含まない尿素フリー水がキャリア水として配管23に供給されて、フローインジェクション分析法による尿素の定量において使用されることになる。
【0032】
六方弁11においてポートXとポートYとが連通することを(X-Y)と表すこととすると、六方弁11は、(1-2)、(3-4)、(5-6)である第1の状態と、(2-3)、(4-5)、(6-1)である第2の状態とを切り替えられるようになっている。図4において、第1の状態でのポート間の接続関係は実線で示され、第2の状態でのポート間の接続は破線で示されている。第1の状態においてキャリア水は、配管23→ポート(6)→ポート(5)→配管24と流れてサンプリング弁10から下流側に流出する。試料水は、試料水配管21→ポート(2)→ポート(1)→サンプルループ12→ポート(4)→ポート(3)と流れて配管25から排水として排出される。この第1の状態から第2の状態に切り替わると、試料水は、試料水配管21→ポート(2)→ポート(3)と流れて配管25から排出され、また、キャリア水は、配管23→ポート(6)→ポート(1)→サンプルループ12→ポート(4)→ポート(5)→配管24と流れ、下流側へ流出する。このとき、第1の状態であったときに既に流入してサンプルループ12内を満たしている試料水は、キャリア水に先立ってポート(5)から配管24へと流れ込み、サンプリング弁10の下流側へと流れる。配管24に流れる試料水の体積は、サンプルループ12によって規定される。したがって、第1の状態と第2の状態とを繰り返し切り替えることによって、例えば六方弁11を図示矢印方向に回転することによって、所定容量の試料水を繰り返して配管24に送り込むことができる。第1の状態と第2の状態との切り替えは、反応に必要な滞留時間や、検出器32で尿素が検出されるまでの時間を考慮して、所定の時間ごとに行うことができる。また、検出器32に導入した試料水が検出器32から排出されたことを検知して切り替えを行うこともできる。このように、第1の状態と第2の状態との切り替えを自動的に行うようにすることで、尿素を連続的に定量することができる。
【0033】
前記分析装置では、ジアセチルモノオキシムを用いる比色法による尿素の定量に対してフローインジェクション法を適用する。そのため、尿素の定量に用いる反応試薬として、ジアセチルモノオキシム酢酸溶液(以下、試薬Aともいう)とアンチピリン含有試薬液(以下、試薬Bともいう)を使用する。ここではジアセチルモノオキシムと併用される試薬としてアンチピリン含有試薬液を用いる場合を説明するが、ジアセチルモノオキシムと併用される試薬はアンチピリン含有試薬液に限定されるものではない。試薬A及び試薬Bは、それぞれ、貯槽41、42に貯えられる。
【0034】
本発明者らは、特許文献2において既に開示したように、これらの試薬を調製後、尿素の連続定量のために長期間(例えば数日間以上)にわたって室温に保持した場合に吸光度測定でのピーク強度が低下すること、及び、このピーク強度の低下は試薬(特に試薬B)を冷蔵することにより防ぐことができることを見出している。安定した定量を行うためには吸光度測定でのピーク強度が低下しないことが好ましいので、本実施形態の分析装置では、貯槽41、42を冷蔵部40内に設けている。試薬Aはジアセチルモノオキシムを酢酸溶液に溶解させて調製されるが、冷蔵部40を設ける場合には、調製自体を貯槽41で行う、あるいは、試薬Aをその調製後、貯槽41に貯えるようにする。同様に、試薬Bは、アンチピリンを例えば硫酸に溶解させて調製されるが、調製自体を貯槽42で行う、あるいは、試薬Bをその調製後、貯槽42に貯えるようにする。冷蔵部40は、貯槽41、42を遮光するとともに、貯槽41、42を冷却し、これによって、貯槽41、42内の試薬A、試薬Bの温度を20℃以下、好ましくは3℃以上20℃以下、より好ましくは5℃以上15℃以下に維持する。なお、試薬Aを貯える貯槽41については、遮光保管できるものであれば、必ずしも冷蔵部40内に配置する必要はない。試薬の冷蔵温度は、5℃未満であっても、試薬において結晶の析出が生じなければ差し支えない。衛生試験法(非特許文献1)には、アンチピリンを硫酸に溶解させたアンチピリン硫酸溶液について、褐色瓶に保管すれば2~3箇月は使用できることと、結晶が析出し室温に戻しても再溶解しないため冷蔵保管は適さないこととが記載されているが、本発明者らは、衛生試験法にしたがって調整されたアンチピリン硫酸溶液は3℃でも結晶化しないことを実験により確認した。なお、試薬A及び試薬Bの調製のときの希釈操作を行うのであれば、希釈に使用する水としては、本発明に基づいて製造された尿素フリー水を用いることが好ましい。
【0035】
貯槽41には配管26の一端が接続し、配管26の他端は混合部43により配管24に接続している。配管26には、試薬Aを所定の流量で配管24に送り込むためのポンプPが設けられている。同様に貯槽42には配管27の一端が接続し、配管27の他端は混合部44により配管24に接続している。配管27には、試薬Bを所定の流量で配管24に送り込むためのポンプPが設けられている。混合部43、44は、それぞれ、試薬A、試薬Bを配管24内の液体の流れに対して均一に混合する機能を有する。配管24の他端は、反応恒温槽30内に設けられた反応コイル31の入口に接続している。反応コイル31は、その内部においてアンチピリンの存在下での尿素とジアセチルモノオキシムとによる発色反応を起こさせるものであり、その長さと反応コイル31の内部での流速とは、反応に必要な滞留時間に応じて適宜に選択される。反応恒温槽30は、反応コイル31を反応に適した温度まで昇温するものであって、例えば、50℃以上150℃以下、好ましくは90℃以上130℃以下の温度に反応コイル31を加熱する。
【0036】
反応コイル31の末端すなわち出口には、反応コイル31から流れ出る液を対象として、発色反応によって液中に生じた発色の吸光度を測定するための検出器32が設けられている。検出器32によって、例えば、波長460nm付近での吸光度のピーク強度あるいはピーク面積を求める。キャリア水が流れているときの吸光度をベースラインとし、尿素濃度が既知の標準液に対する吸光度から検量線を求めることにより、試料水に対する吸光度から試料水での尿素の濃度を求めることができる。検出器32の出口には、ポンプPからサンプリング弁10、配管24及び反応コイル31を経て検出器32に至る管路に対して背圧を与える背圧コイル33が設けられている。検出器32の出口と背圧コイル33の入口との間の位置に対し、圧力計PIが接続している。背圧コイル33の出口から、この分析装置の排液が流出する。
【0037】
本実施形態の分析装置において尿素の定量を行う場合には、それに先立ち、尿素標準液を用いて検量線を作成する必要がある。検量線の作成に用いる尿素標準液を調製するときにも、ウレアーゼを添加することによって処理し、さらに分離膜、好ましくは逆浸透膜によって残存するウレアーゼを分離して、尿素濃度が1μg/L未満となった尿素フリー水を使用する。
【0038】
本実施形態の分析装置によれば、尿素濃度が1μg/L未満、特に0.5μg/L未満のほぼ尿素を含有しないキャリア水を使用してフローインジェクション分析を行うので、試料水に含まれるμg/Lのレベルの尿素をより正確に定量することができる。
【実施例0039】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
実施例及び比較例で使用した分離膜は以下の通りである。
●逆浸透膜
・TW30(商品名:FilmTec TW30-1812-50HR、デュポン社製)
脱塩率:99%(250ppmNaCl、25℃、pH7、回収率15%、入口圧力0.34MPa)
・BW60(商品名:FilmTec BW60-1812-75、デュポン社製)
脱塩率:97%(250ppmNaCl、25℃、pH7、回収率15%、入口圧力0.34MPa)
●ナノフィルター膜
・XT2(商品名:XT2-1812TM、Synder FilRation社製)
分画分子量:1,000Da
脱塩率:1.5%(250ppmNaCl、25℃、pH7、回収率15%、入口圧力0.34MPa)
【0041】
[実験例1]
超純水5Lに10mg/Lの尿素溶液を5mL添加して、10μg/Lの尿素溶液を調製した。調製した尿素溶液5Lに、酵素活性が150U/mgのウレアーゼ溶液(富士フィルム和光純薬社製)を1mL添加し、ウレアーゼの濃度が500μg/Lとなるようにウレアーゼ添加液を調製した。前記調製したウレアーゼ添加液を撹拌したのち、室温にて静置した。各時間でサンプリングし、オンライン尿素計(ORUREA(登録商標)、オルガノ社製)で尿素濃度を測定した。結果を表1に示す。3.5時間経過後には、0.5μg/L未満となり、尿素が検出されなかった。
【0042】
【表1】
【0043】
[実験例2]
実験例1の手順で3.5時間以上静置して調製した、尿素が分解され、ウレアーゼを含む処理水80Lを図2の試験系で処理した。このとき、分離膜は逆浸透膜であるBW60を用いた。入口流量は1200mL/min、濃縮流量は840mL/min、透過流量は360mL/minであった。得られた濃縮水は、BW60へ通液前の処理水に循環させ、処理水が4Lになるまで通液を続け、分離膜の入口圧力と出口圧力を測定した。なお、入口圧力は図2の圧力計PIにより測定を行った。また、出口圧力とは濃縮水の出口の圧力のことをいい、図2の圧力計PIにより測定を行った。結果を表2に示す。濃縮倍率が高いほど膜は閉塞しやすいが、20倍濃縮であれば、ベッセルの耐圧以下での運転が可能であった。
【0044】
【表2】
【0045】
[実験例3]
図3(a)の試験系で、未使用の逆浸透膜に尿素フリー水を通液して洗浄し、廃液として排出された濃縮水と透過水をサンプリングした。サンプリングしたそれぞれの溶液の尿素濃度をオンライン尿素計(ORUREA(登録商標)、オルガノ社製)で測定した。これにより、未使用の逆浸透膜を洗浄せずに使用したことで、尿素濃度の測定に及ぼす影響を観察した。結果を表3に示す。入口流量は1200mL/min(0.50MPa)、濃縮水量は840mL/min(0.49MPa)、透過水量は360mL/minであった。
【0046】
【表3】
【0047】
通液開始直後(洗浄時間:0分)の透過水は、オンライン尿素計の測定値が6.3ppbとピークを検出した。このことから、未使用の逆浸透膜を洗浄せずに使用すると、尿素濃度の測定に影響が出ることがわかる。洗浄時間が30分後の透過水では、オンライン尿素計にピークは検出されなかった。また、60分後にもオンライン尿素計にピークは検出されなかった。このことから、30分の洗浄操作により、未使用の逆浸透膜を洗浄せずに使用したことによる尿素濃度の測定の際の影響をなくすことができるということがわかる。
【0048】
[実施例1]
実験例1の手順で3.5時間以上静置し、尿素が検出されなかった、ウレアーゼを含む処理水を、図2の試験系で通液した。このとき、分離膜は逆浸透膜であるTW30を用いた。最初に図3(a)に示すように三方弁16を操作して、処理水を実験例3の手順で通液することで、尿素濃度の測定に未使用の逆浸透膜による影響が出ないよう洗浄し、濃縮水及び透過水を廃棄した。その後、図3(b)に示すように三方弁16を切り替え、処理水の80Lを逆浸透膜15に通液し、濃縮水は、濃縮水ライン13から処理水8に循環させ、処理水が4Lになるまで、すなわち20倍に濃縮するまで通液した。逆浸透膜15への入口流量は400mL/min(0.28MP)、濃縮水量は280mL/min(0.25MP)、透過水量は120mL/minとした。
尿素フリー水5を採取し、尿素の濃度が50ppb及び100ppbとなるように尿素溶液を添加した。尿素の濃度を50ppbとした尿素溶液をサンプル1、100ppbとした尿素溶液をサンプル4とする。尿素溶液を添加後の溶液を、数日間、室温で静置後、尿素濃度の変化を測定した。
【0049】
[実施例2]
分離膜として実施例1のTW30の代わりに逆浸透膜であるBW60を用い、実施例1と同様の手順で尿素濃度の変化を測定した。尿素濃度を50ppbとした尿素溶液をサンプル2、100ppbとした尿素溶液をサンプル5とする。入口流量は1200mL/min(0.50MPa)、濃縮水量は840mL/min(0.49MPa)、透過水量は360mL/minとした。
【0050】
[比較例1]
分離膜として実施例1のTW30の代わりにナノフィルター膜であるXT2を用い、実施例1と同様の手順で尿素濃度の変化を測定した。尿素濃度を50ppbとした尿素溶液をサンプル3、100ppbとした尿素溶液をサンプル6とする。入口流量は400mL/min(0.28MP)、濃縮流量は280mL/min(0.25MP)、透過流量は120mL/minとした。
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
表4及び表5中の「-」は、未測定であることを表している。逆浸透膜であるTW30とBW60を用いたサンプル1、2、4及び5は、尿素の濃度の変化はなかった。しかし、ナノフィルター膜であるXT2を用いたサンプル3及び6では尿素濃度が徐々に低下した。これは、ウレアーゼがXT2を透過し、尿素を添加後の溶液内で尿素とウレアーゼが反応したためである。
【0054】
以上から、逆浸透膜であるTW30及びBW60は尿素フリー水へのウレアーゼのリークを防ぐことができるが、ナノフィルター膜であるXT2はウレアーゼのリークを十分に阻止できなかった。
【0055】
[実施例3]
尿素濃度を0~50μg/Lに調整した尿素標準液を、オンライン尿素計(ORUREA(登録商標)、オルガノ社製)を用いて尿素濃度測定を行った。測定の際、キャリア水として実施例1で調製した尿素フリー水をキャリア水1、実施例2で調製した尿素フリー水をキャリア水2として用いた。
【0056】
【表6】
【0057】
尿素濃度を0~50μg/Lに調整した尿素標準液に対して、キャリア水1及びキャリア水2を用いてオンライン尿素計により測定した尿素濃度との誤差は±5%以内であった。このことから、本発明による方法で調整した尿素フリー水は、キャリア水として低濃度尿素の分析に適用できることが示された。
【符号の説明】
【0058】
101 処理手段
102 分離手段
200 尿素フリー水の製造装置
300 尿素分析装置
1 処理水
2 尿素含有水
3 ウレアーゼ
4 分離膜
5 ウレアーゼを含まない尿素フリー水
8 ウレアーゼを含み、尿素が分解された処理水
9 戻り配管
13 濃縮水ライン
14 透過水ライン
15 逆浸透膜
図1
図2
図3
図4