(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132610
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】誘導性負荷用電源装置
(51)【国際特許分類】
H01F 7/18 20060101AFI20230914BHJP
H05H 7/04 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
H01F7/18 Q
H05H7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038031
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 孝典
(72)【発明者】
【氏名】藤森 弘之
【テーマコード(参考)】
2G085
【Fターム(参考)】
2G085BA14
2G085BA19
2G085BC15
2G085EA03
(57)【要約】
【課題】立ち上がったパルス状電流を短時間で安定させることが可能な誘導性負荷用電源装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る誘導性負荷用電源装置10Aは、予め設定された目標電流値Iref1とパルス状電流の電流値である負荷電流値Iloadとに基づいて第2電流源30を制御する制御部40Aを備える。制御部40AのPWM制御部45は、(1)パルス状電流が立ち上げられるフェイズでは、負荷電流値Iloadと該負荷電流値Iloadを予め定められた規則に従って調整したものとの偏差に基づいて駆動信号のデューティに関するPWM制御信号Vpwmを生成し、(2)パルス状電流が維持されるフェイズでは、目標電流値Iref1と負荷電流値Iloadとの偏差に基づいて上記PWM制御信号Vpwmを生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導性負荷にパルス状電流を印加する誘導性負荷用電源装置であって、
前記パルス状電流を頂部まで立ち上げる第1電流源と、
立ち上げられた前記パルス状電流を前記頂部において維持する第2電流源と、
予め設定された目標電流値と前記パルス状電流の電流値である負荷電流値とに基づいて少なくとも前記第2電流源を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記第2電流源を構成するスイッチング素子をオン/オフさせるための駆動信号を生成する駆動信号生成部と、前記駆動信号のデューティに関するPWM制御信号を前記駆動信号生成部に与えるPWM制御部とを備え、
前記PWM制御部は、(1)前記パルス状電流が立ち上げられるフェイズでは、前記負荷電流値と該負荷電流値を予め定められた規則に従って調整したものとの偏差に基づいて前記PWM制御信号を生成し、(2)前記パルス状電流が維持されるフェイズでは、前記目標電流値と前記負荷電流値との偏差に基づいて前記PWM制御信号を生成し、
前記駆動信号生成部は、(1)前記パルス状電流が立ち上げられるフェイズでは、前記PWM制御信号に基づかずに前記駆動信号を生成し、(2)前記パルス状電流が維持されるフェイズでは、前記PWM制御信号に基づいて前記駆動信号を生成する
ことを特徴とする誘導性負荷用電源装置。
【請求項2】
前記調整が、予め定められた1.00以上1.01以下の係数を前記負荷電流値に掛けることである
ことを特徴とする請求項1に記載の誘導性負荷用電源装置。
【請求項3】
前記誘導性負荷としての電磁石に前記パルス状電流を印加する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の誘導性負荷用電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁石等の誘導性負荷に急峻に立ち上がるパルス状の大電流を印加する誘導性負荷用電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物理化学実験や医療等の分野で使用される加速器には、誘導性負荷である電磁石にパルス状の大電流を印加するための誘導性負荷用電源装置が備えられている。従来の誘導性負荷用電源装置としては、例えば特許文献1に記載されているような、パルス状電流を頂部まで立ち上げる第1電流源と、立ち上がったパルス状電流を頂部において維持する第2電流源とを備えたものが知られている。
【0003】
この従来の誘導性負荷用電源装置は、パルス状電流を頂部において高精度に維持するために、予め充電された第1コンデンサの第1放電電流のみを誘導性負荷に供給すること、および予め充電された第2コンデンサの第2放電電流を第1放電電流とともに電磁石に供給することができるよう第2電流源が構成されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の誘導性負荷用電源装置は、立ち上がった直後のパルス状電流に生じるオーバーシュートやアンダーシュートを防ぐことはできなかった。言い換えると、上記従来の誘導性負荷用電源装置では、立ち上がったパルス状電流が安定するまでに長時間を要していた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、立ち上がったパルス状電流を短時間で安定させることが可能な誘導性負荷用電源装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る誘導性負荷用電源装置は、誘導性負荷にパルス状電流を印加するものであって、パルス状電流を頂部まで立ち上げる第1電流源と、立ち上げられたパルス状電流を頂部において維持する第2電流源と、予め設定された目標電流値とパルス状電流の電流値である負荷電流値とに基づいて少なくとも第2電流源を制御する制御部とを備え、制御部は、第2電流源を構成するスイッチング素子をオン/オフさせるための駆動信号を生成する駆動信号生成部と、駆動信号のデューティに関するPWM制御信号を駆動信号生成部に与えるPWM制御部とを備え、PWM制御部は、(1)パルス状電流が立ち上げられるフェイズでは、負荷電流値と該負荷電流値を予め定められた規則に従って調整したものとの偏差に基づいてPWM制御信号を生成し、(2)パルス状電流が維持されるフェイズでは、目標電流値と負荷電流値との偏差に基づいてPWM制御信号を生成し、駆動信号生成部は、(1)パルス状電流が立ち上げられるフェイズでは、PWM制御信号に基づかずに駆動信号を生成し、(2)パルス状電流が維持されるフェイズでは、PWM制御信号に基づいて駆動信号を生成する、との構成を有している。
【0008】
この構成では、パルス状電流が立ち上げられるフェイズにおいて、PWM制御部が負荷電流値と該負荷電流値を予め定められた規則に従って調整したものとの微小な偏差に基づいて生成したPWM制御信号を出力するが、駆動信号生成部はこれに基づかずに駆動信号を生成する。また、この構成では、パルス状電流が維持されるフェイズにおいて、PWM制御部が目標電流値と負荷電流値との偏差に基づいて生成したPWM制御信号を出力し、駆動信号生成部はこれに基づいて駆動信号を生成する。つまり、この構成では、パルス状電流が立ち上げられるフェイズからパルス状電流が維持されるフェイズに切り替わるときに、微小な偏差に基づくPWM制御信号が駆動信号生成部に必ず入力されていることになる。したがって、この構成によれば、フェイズが切り替わったときに、直前のPWM制御信号の影響を受けた不適切なデューティの駆動信号が生成されることがなくなり、立ち上がったパルス状電流が安定するのを早めることができる。
【0009】
上記誘導性負荷用電源装置は、予め定められた1.00以上1.01以下の係数を負荷電流値に掛けることにより調整を行うことが好ましい。
【0010】
上記誘導性負荷用電源装置は、例えば、誘導性負荷としての電磁石にパルス状電流を印加する装置として利用することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、立ち上がったパルス状電流を短時間で安定させることが可能な誘導性負荷用電源装置を提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例に係る誘導性負荷用電源装置を示す図である。
【
図2】調整部において使用する係数を1.0000とした場合の、実施例に係る誘導性負荷用電源装置の動作波形図である。
【
図3】調整部において使用する係数を1.0010とした場合の、実施例に係る誘導性負荷用電源装置の動作波形図である。
【
図4】調整部において使用する係数を1.0022とした場合の、実施例に係る誘導性負荷用電源装置の動作波形図である。
【
図5】調整部において使用する係数を1.0030とした場合の、実施例に係る誘導性負荷用電源装置の動作波形図である。
【
図6】本発明の比較例に係る誘導性負荷用電源装置を示す図である。
【
図7】比較例に係る誘導性負荷用電源装置の動作波形図である。
【
図8】実施例および比較例におけるパルス状電流の拡大波形図である。
【
図9】本発明の変形例に係る誘導性負荷用電源装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る誘導性負荷用電源装置の実施例について説明する。
【0014】
[実施例]
図1に、本発明の実施形態に係る誘導性負荷用電源装置10Aを示す。誘導性負荷用電源装置10Aは、誘導性負荷(本実施例では、電磁石)50にパルス状の大電流である負荷電流Iを印加するためのもので、同図に示すように、第1電流源20と、第2電流源30と、これらを制御する制御部40Aとを備えている。
【0015】
第1電流源20は、数千Vの直流電圧で充電される第1コンデンサC1と、Hブリッジ接続された4つのスイッチング素子SW1,SW2,SW3,SW4と、スイッチング素子SW1,SW2,SW3,SW4のそれぞれに逆並列接続されたダイオードD1,D2,D3,D4とを備えている。
【0016】
スイッチング素子SW1,SW2,SW3,SW4はブリッジ回路部を構成し、スイッチング素子SW1,SW2の接続点が第1出力端、スイッチング素子SW3,SW4の接続点が第2出力端となっている。第1コンデンサC1は、ブリッジ回路部に並列接続されている。
【0017】
スイッチング素子SW1,SW2,SW3,SW4は、パワー半導体素子の一種であるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)からなっている。スイッチング素子SW1,SW2,SW3,SW4の制御端子であるゲートは、制御部40A(後述する第1駆動信号生成部42)に接続されている。なお、ダイオードD1,D2,D3,D4は、スイッチング素子SW1,SW2,SW3,SW4に内蔵されたものであってもよいし、外付けされたものであってもよい。
【0018】
第2電流源30は、数百Vの直流電圧で充電される第2コンデンサC2と、Hブリッジ接続された4つのスイッチング素子SW5,SW6,SW7,SW8と、スイッチング素子SW5,SW6,SW7,SW8のそれぞれに逆並列接続されたダイオードD5,D6,D7,D8とを備えている。
【0019】
スイッチング素子SW5,SW6,SW7,SW8はブリッジ回路部を構成し、スイッチング素子SW5,SW6の接続点が第3出力端、スイッチング素子SW7,SW8の接続点が第4出力端となっている。第2コンデンサC2は、ブリッジ回路部に並列接続されている。
【0020】
スイッチング素子SW5,SW6,SW7,SW8は、スイッチング素子SW1,SW2,SW3,SW4と同様にIGBTからなっている。スイッチング素子SW5,SW6,SW7,SW8の制御端子であるゲートは、制御部40A(後述する第2駆動信号生成部43)に接続されている。なお、ダイオードD5,D6,D7,D8は、スイッチング素子SW5,SW6,SW7,SW8に内蔵されたものであってもよいし、外付けされたものであってもよい。
【0021】
第1電流源20の第1出力端は、誘導性負荷50を介して第2電流源30の第4出力端に接続されている。また、第1電流源20の第2出力端は、第2電流源30の第3出力端に直接接続されている。
【0022】
制御部40Aは、予め設定された目標電流値Iref1と負荷電流Iの電流値である負荷電流値Iloadとに基づいて第1電流源20および第2電流源30を制御する。
図1に示すように、制御部40Aは、記憶部41と、第1駆動信号生成部42と、第2駆動信号生成部43と、フェイズ制御部44と、PWM制御部45と、調整部46と、信号切替部47と、偏差信号出力部48とを備えている。
【0023】
記憶部41は、ユーザが設定した目標電流値Iref1を記憶する不揮発性または揮発性のメモリからなる。
【0024】
第1駆動信号生成部42は、後述するフェイズ制御信号Vphaseに基づいて、第1電流源20を構成するスイッチング素子SW1,SW2,SW3,SW4をオン/オフさせるための駆動信号(ゲート信号)を生成する。
【0025】
第2駆動信号生成部43は、後述するフェイズ制御信号Vphaseおよび後述するPWM制御信号Vpwmに基づいて、第2電流源30を構成するスイッチング素子SW5,SW6,SW7,SW8をオン/オフさせるための駆動信号(ゲート信号)を生成する。
【0026】
フェイズ制御部44は、記憶部41に記憶された目標電流値Iref1、負荷電流値Iloadおよびユーザからの出力開始指令(不図示)に基づいて、第1駆動信号生成部42および第2駆動信号生成部43に与えるフェイズ制御信号Vphaseを生成する。具体的には、フェイズ制御部44は、(1)出力開始指令を受け取るまではフェイズ1を示すフェイズ制御信号Vphaseを生成し、(2)出力開始指令を受け取ってから負荷電流値Iloadが目標電流値Iref1に一致するまでの間はフェイズ2を示すフェイズ制御信号Vphaseを生成し、(3)フェイズ2が終了してから所定の時間が経過するまでの間はフェイズ3を示すフェイズ制御信号Vphaseを生成し、(4)フェイズ3が終了してから負荷電流値Iloadがゼロになるまでの間はフェイズ4を示すフェイズ制御信号Vphaseを生成する。
【0027】
PWM制御部45は、後述する偏差信号に基づいて、第2駆動信号生成部43が出力する駆動信号のデューティに関するPWM制御信号Vpwmを生成する。
【0028】
各フェイズにおけるスイッチング素子SW1,SW2,SW3,SW4,SW5,SW6,SW7,SW8の状態を整理すると、下表の通りとなる。
【表1】
【0029】
フェイズ1では、第1駆動信号生成部42が、スイッチング素子SW1,SW2,SW3,SW4をオフさせる駆動信号を生成するとともに、第2駆動信号生成部43が、スイッチング素子SW5,SW6,SW7,SW8をオフさせる駆動信号を生成する。このフェイズでは、誘導性負荷50に負荷電流Iは流れない。
【0030】
フェイズ2では、第1駆動信号生成部42が、スイッチング素子SW1,SW4をオン、スイッチング素子SW2,SW3をオフさせる駆動信号を生成するとともに、第2駆動信号生成部43が、スイッチング素子SW8をオン、スイッチング素子SW5,SW6,SW7をオフさせる駆動信号を生成する。このフェイズでは、“第1コンデンサC1→スイッチング素子SW1→誘導性負荷50→スイッチング素子SW8→ダイオードD6→スイッチング素子SW4→第1コンデンサC1”の経路で第1コンデンサC1が放電し、負荷電流Iが流れる。
【0031】
フェイズ3では、第1駆動信号生成部42が、スイッチング素子SW4をオン、スイッチング素子SW1,SW2,SW3をオフさせる駆動信号を生成するとともに、第2駆動信号生成部43が、スイッチング素子SW5をオン、スイッチング素子SW6,SW7をオフ、スイッチング素子SW8をPWM制御信号Vpwmに対応したオンデューティでオン/オフさせる駆動信号を生成する。このフェイズでは、スイッチング素子SW8がオンすると、“第2コンデンサC2→スイッチング素子SW5→スイッチング素子SW4→ダイオードD2→誘導性負荷50→スイッチング素子SW8→第2コンデンサC2”の経路で負荷電流Iが流れる。また、このフェイズでは、スイッチング素子SW8がオフすると、“誘導性負荷50→ダイオードD7→スイッチング素子SW5→スイッチング素子SW4→ダイオードD2→誘導性負荷50”の経路で負荷電流Iが還流する。
【0032】
フェイズ4では、第1駆動信号生成部42が、スイッチング素子SW1,SW2,SW3,SW4をオフさせる駆動信号を生成するとともに、第2駆動信号生成部43が、スイッチング素子SW5,SW6,SW7,SW8をオフさせる駆動信号を生成する。このフェイズでは、“誘導性負荷50→ダイオードD7→第2コンデンサC2→ダイオードD6→ダイオードD3→第1コンデンサC1→ダイオードD2→誘導性負荷50”の経路で誘導性負荷50に蓄えられたエネルギーが第1コンデンサC1および第2コンデンサC2に回生される。このとき、負荷電流Iは徐々に減少する。
【0033】
調整部46は、負荷電流値Iloadを調整し、調整後の電流値を信号切替部47に出力する。本実施例では、予め定められた1.00以上1.01以下の係数αをIloadに掛けることにより調整を行う。このため、本実施例では、信号切替部47に目標電流値Iref1および調整後負荷電流値α×Iloadが入力される。
【0034】
信号切替部47は、フェイズ制御部44が生成したフェイズ制御信号Vphaseに基づいて、Iref2として出力する値を切り替える。具体的には、信号切替部47は、フェイズ制御信号Vphaseがフェイズ2を示している場合は、調整後負荷電流値α×IloadをIref2として出力し、それ以外の場合(すなわち、フェイズ制御信号Vphaseがフェイズ1,3,4を示している場合)は、目標電流値Iref1をIref2として出力する。
【0035】
偏差信号出力部48は、負荷電流値IloadとIref2との偏差に対応した偏差信号をPWM制御部45に出力する。具体的には、偏差信号出力部48は、フェイズ2においては、偏差“α×Iload-Iload”に対応した偏差信号を出力し、それ以外のフェイズにおいては、偏差“Iref1-Iload”に対応した偏差信号を出力する。
【0036】
このため、パルス状電流が立ち上がるフェイズ2の間、PWM制御部45には、0以上0.01×Iload以下の微小な偏差に対応した偏差信号が入力される。そして、このような偏差信号が入力されたPWM制御部45は、第2駆動信号生成部43が出力する駆動信号のデューティが極端に大きくも小さくもならないようなPWM制御信号Vpwmを出力する。
【0037】
また、パルス状電流が頂部において維持されるフェイズ3の間、PWM制御部45には、偏差“Iref1-Iload”に対応した偏差信号が入力される。そして、このような偏差信号が入力されたPWM制御部45は、負荷電流値Iloadを目標電流値Iref1に一致させるようなPWM制御信号Vpwmを出力する。より詳しくは、PWM制御部45は、負荷電流値Iloadが目標電流値Iref1よりも大きければ、PWM制御信号Vpwmの電圧値を下げることによって第2駆動信号生成部43が出力する駆動信号のデューティ、すなわちスイッチング素子SW8のオンデューティを低下させる。反対に、PWM制御部45は、負荷電流値Iloadが目標電流値Iref1よりも小さければ、PWM制御信号Vpwmの電圧値を上げることによって第2駆動信号生成部43が出力する駆動信号のデューティ、すなわちスイッチング素子SW8のオンデューティを上昇させる。
【0038】
ここで、表1から理解されるように、第2駆動信号生成部43は、フェイズ1,2,4においてPWM制御信号Vpwmを必要としない。言い換えると、第2駆動信号生成部43は、フェイズ1,2,4においてはPWM制御信号Vpwmに基づかずに駆動信号を生成する。信号切替部47を設けて、フェイズ2の間に第2駆動信号生成部43に微小な偏差に対応したPWM制御信号Vpwmが入力されるようにすることは、フェイズ2からフェイズ3に切り替わったときに、直前のPWM制御信号Vpwmの影響を受けた不適切なデューティの駆動信号が第2駆動信号生成部43からスイッチング素子SW5,SW6,SW7,SW8(特に、スイッチング素子SW8)に出力されてしまい、負荷電流Iに大きなオーバーシュートが生じるのを防ぐのに役立つ。
【0039】
図2~
図5に、目標電流値Iref1を2.1kAとして誘導性負荷用電源装置10Aを動作させたシミュレーションの結果を示す。
図2は調整部46において使用する係数αを1.0000とした場合のシミュレーション結果、
図3は係数αを1.0010とした場合のシミュレーション結果、
図4は係数αを1.0022とした場合のシミュレーション結果、
図5は係数αを1.0030とした場合のシミュレーション結果である。各図の(A)は第2電流源30の第4出力端を基準とした第1電流源20の第1出力端の電圧(すなわち、誘導性負荷50に生じている電圧)の波形図であり、(B)は信号切替部47が出力するIref2の波形図であり、(C)はPWM制御部45が出力するPWM制御信号Vpwmの波形図であり、(D)は負荷電流I(Iload)の波形図であり、(E)はI(Iload)およびIref2の拡大波形図である。また、各図の横軸は、シミュレーション開始時刻を基準とした時刻(単位はs)である。なお、本シミュレーションでは、時刻0.20sに出力開始指令がなされたことによるフェイズ1からフェイズ2への切り替わりが起こり、時刻約0.22sに負荷電流値Iloadが目標電流値Iref1に一致したことによるフェイズ2からフェイズ3への切り替わりが起こるものとする。
【0040】
図2~
図5は、係数αを変化させると、フェイズ3直前のPWM制御信号Vpwmの電圧値が変化し(各図(C)参照)、負荷電流I(Iload)の立ち上がり方に違いが生じたことを示している(各図(E)参照)。
【0041】
具体的には、係数αを1.0000とした
図2では、Iref2から遅れて負荷電流I(Iload)が立ち上がり、時刻0.26s頃に負荷電流I(Iload)が目標電流値Iref1である2.1kAで安定する。係数αを1.0010とした
図3でも、Iref2から遅れて負荷電流I(Iload)が立ち上がり、時刻0.25s頃に負荷電流I(Iload)が2.1kAで安定する。係数αを1.0022とした
図4では、Iref2からほとんど遅れることなく負荷電流I(Iload)が立ち上がり、時刻0.225s頃に負荷電流I(Iload)が2.1kAで安定する。また、係数αを1.0030とした
図5では、Iref2を追い越すように負荷電流I(Iload)が立ち上がり、時刻0.25s頃に負荷電流I(Iload)が2.1kAで安定する。
【0042】
比較のために、制御部40Aの代わりに制御部40Cを備えた誘導性負荷用電源装置10Cについても同様のシミュレーションを行った。
図6に示すように、制御部40Cは、偏差信号出力部48が負荷電流値Iloadと目標電流値Iref1との偏差に対応した偏差信号を常に出力するようになっている点で制御部40Aと異なっている。
【0043】
図7に、目標電流値Iref1を2.1kAとして誘導性負荷用電源装置10Cを動作させたシミュレーションの結果を示す。同図の(A)は誘導性負荷50に生じている電圧の波形図であり、(B)は偏差信号出力部48に入力されるIref1の波形図であり、(C)はPWM制御部45が出力するPWM制御信号Vpwmの波形図であり、(D)は負荷電流I(Iload)の波形図であり、(E)はI(Iload)およびIref1の拡大波形図である。また、同図の横軸は、シミュレーション開始時刻を基準とした時刻(単位はs)である。なお、本シミュレーションでも、時刻0.20sに出力開始指令がなされたことによるフェイズ1からフェイズ2への切り替わりが起こり、時刻約0.22sに負荷電流値Iloadが目標電流値Iref1に一致したことによるフェイズ2からフェイズ3への切り替わりが起こるものとする。
【0044】
図7は、PWM制御信号Vpwmの電圧値が、負荷電流値Iloadを目標電流値Iref1(2.1kA)に維持するのに適したPWM制御信号Vpwmの電圧値(約2.5V)よりもかなり大きいときにフェイズ2からフェイズ3への切り替わりが起こった結果、切り替わり直後の負荷電流I(Iload)に大きなオーバーシュートが生じ、時刻0.27s頃まで負荷電流I(Iload)が安定しなかったことを示している。
【0045】
図8は、実施例(係数α=1.0000~1.0030)に係る誘導性負荷用電源装置10Aの負荷電流I(Iload)の波形と、比較例に係る誘導性負荷用電源装置10Cの負荷電流I(Iload)の波形とを重ねたものである。同図は、実施例に係る誘導性負荷用電源装置10A(特に、係数αを1.0022とした誘導性負荷用電源装置10A)によれば、立ち上がった負荷電流I(Iload)を比較的短時間で安定させることができることを示している。
【0046】
以上、本発明に係る誘導性負荷用電源装置の実施例について説明してきたが、本発明の構成はこれに限定されるものではない。
【0047】
[変形例]
例えば、調整部46で使用する係数αは、1.00以上1.01以下の範囲内で変更することができる。係数αを1.01程度としても、比較例よりも短時間で立ち上がった負荷電流I(Iload)を安定させることができる。なお、最適な係数αの値(実施例では、1.0022)は、誘導性負荷50のインダクタンスや目標電流値Iref1に応じて変化すると考えられる。
【0048】
調整部46は、予め定められた0を超える数値を足すことにより負荷電流値Iloadを調整してもよい。
【0049】
第1電流源20は、フェイズ1~4を通してオンすることのないスイッチング素子SW2,SW3が省略されていてもよい。同様に、第2電流源30は、フェイズ1~4を通してオンすることのないスイッチング素子SW6,SW7が省略されていてもよい。
【0050】
また、本発明に係る誘導性負荷用電源装置は、
図9に示した誘導性負荷用電源装置10Bのように、より急峻にパルス状電流を立ち上げるために複数の第1電流源20を備えていてもよい。
【符号の説明】
【0051】
10A,10B 誘導性負荷用電源装置
20 第1電流源
30 第2電流源
40A 制御部
41 記憶部
42 第1駆動信号生成部
43 第2駆動信号生成部
44 フェイズ制御部
45 PWM制御部
46 調整部
47 信号切替部
48 偏差信号出力部
50 誘導性負荷