(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132611
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】分版画像データ処理装置
(51)【国際特許分類】
B41L 13/16 20060101AFI20230914BHJP
B41L 13/04 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
B41L13/16 Z
B41L13/04 F
B41L13/16 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038032
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】岩本 拓也
(57)【要約】
【課題】穿孔画像の縮みによる分版画像間の位置ずれを、画像の形状に大きな影響を与えることなく抑制する。
【解決手段】インク色別のマスタMにそれぞれ形成した分版画像SIをマスタMの製版時における搬送方向Yにおいて均等分割した分版画像SIの分割領域SP毎の印字率を、インク色別にそれぞれ算出する印字率算出部23と、分版画像SIにおける位置が同じ分割領域SP同士の印字率をインク色間で比較し、印字率が高い方のインク色の分版画像SIと印字率が低い方のインク色の分版画像SIとの分割領域SPにおける印字画素差を算出する画素差算出部23と、印字率が高い方のインク色の分版画像SI又は印字率が低い方のインク色の分版画像SIの、分割領域SPを細分化した複数の細分化領域SDのうち特定の印字パターンを含む細分化領域SDに対し、印字画素差を減らす印字画素の増減処理を行う印字画素増減部24と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク色別のマスタにそれぞれ形成した分版画像を前記マスタの製版時における搬送方向において均等分割した前記分版画像の分割領域毎の印字率を、前記インク色別にそれぞれ算出する印字率算出部と、
前記分版画像における位置が同じ前記分割領域同士の前記印字率を前記インク色間で比較し、前記印字率が高い方のインク色の前記分版画像と前記印字率が低い方のインク色の前記分版画像との前記分割領域における印字画素差を算出する画素差算出部と、
前記印字率が高い方のインク色の前記分版画像又は前記印字率が低い方のインク色の前記分版画像の、前記分割領域を細分化した複数の細分化領域のうち特定の印字パターンを含む細分化領域に対し、前記印字画素差を減らす印字画素の増減処理を行う印字画素増減部と、
を備える分版画像データ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分版画像データ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
孔版印刷装置で二色印刷を行う場合は、カラー画像を分版処理した分版画像のデータにより色別のマスタを製版する。製版した色別のマスタは、色別のドラムに巻装して印刷に使用される。特許文献1には、孔版印刷装置における印刷において、1つ目のドラムによる印刷画像に対する2つ目のドラムによる印刷画像の位置ずれを軽減するために、2つ目のドラムに対する用紙の送り込みタイミングを調整することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
孔版印刷装置において、TPH(サーマルプリントヘッド)により孔版原紙のフィルムに穿孔してマスタを製版する際に、フィルムの溶け出し量が多くなると、TPHとマスタとの摩擦力が上がってプラテンローラによるマスタの搬送力を超える。マスタの搬送力をマスタの摩擦力が上回ると、マスタの搬送速度が低下してTPHにおける孔版原紙の通過速度が下がる。
【0005】
孔版原紙の通過速度が下がると、TPHにより製版されたマスタの穿孔ピッチが正規の間隔よりも縮まって、マスタの搬送方向おいて穿孔画像が縮んで見える現象が起こる。搬送方向に縮んだ穿孔画像が製版されたマスタを用いて分版画像を印刷すると、他色の分版画像との間に画像の位置ずれが生じる。このような現象は、分版画像中に印字率の高いベタ部が多いと発生しやすい。
【0006】
特許文献1で開示された用紙の送り込みタイミングの調整では、2つ目のドラムにより用紙に印刷される画像の位置が、画像の全体に亘って用紙の搬送方向に調整されるものの、上述した穿孔画像の縮みによる画像の形状の乱れは解消されない。
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みなされたもので、本発明の目的は、穿孔画像の縮みによる分版画像間の位置ずれを、画像の形状に大きな影響を与えることなく抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一つの態様による分版画像データ処理装置は、
インク色別のマスタにそれぞれ形成した分版画像を前記マスタの製版時における搬送方向において均等分割した前記分版画像の分割領域毎の印字率を、前記インク色別にそれぞれ算出する印字率算出部と、
前記分版画像における位置が同じ前記分割領域同士の前記印字率を前記インク色間で比較し、前記印字率が高い方のインク色の前記分版画像と前記印字率が低い方のインク色の前記分版画像との前記分割領域における印字画素差を算出する画素差算出部と、
前記印字率が高い方のインク色の前記分版画像又は前記印字率が低い方のインク色の前記分版画像の、前記分割領域を細分化した複数の細分化領域のうち特定の印字パターンを含む細分化領域に対し、前記印字画素差を減らす印字画素の増減処理を行う印字画素増減部と、
を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、穿孔画像の縮みによる分版画像間の位置ずれを、画像の形状に大きな影響を与えることなく抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る分版画像データ処理装置を設けた孔版印刷機を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1の孔版印刷機のマイクロコントローラによって実行される処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、
図2のフローチャートの手順において特定の印字パターンを含む細分化領域を検出する順序を示す図である。
【
図4】
図4(a)及び(b)は、特定の印字パターンと特定の印字パターンから印字画素を間引きした後の印字パターンとの一例を示す図である。
【
図5】
図5(a)~(h)は、特定の印字パターンと特定の印字パターンから印字画素を間引きした後の印字パターンとの一例を示す図である。
【
図6】
図6(a)~(c)は、
図2の間引き処理における間引き前の細分化領域に含まれる印字パターン、間引き後の細分化領域に含まれる印字パターン、間引き後の印字パターンで製版したマスタで印刷した細分化領域の画像の一例を示す図である。
【
図7】
図7(a)~(c)は、
図2の間引き処理における間引き前の細分化領域に含まれる印字パターン、間引き後の細分化領域に含まれる印字パターン、間引き後の印字パターンで製版したマスタで印刷した細分化領域の画像の一例を示す図である。
【
図8】
図8(a)及び(b)は、分割領域の印字率が低いインク色の分版画像における、分割領域の印字率が高いインク色の分版画像において間引いた印字画素と同じ細分化領域の注目画素に、印字画素を追加して印刷した場合の印字パターンの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0012】
また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0013】
図1に示す実施形態の孔版印刷機1は、操作パネル部10及び印刷機本体20を有している。
【0014】
操作パネル部10は、タッチパネルを有し、グラフィカルユーザインタフェース(GUI)として用いられる。操作パネル部10は、タッチパネルにおいて、ユーザからの情報の入力を受け付け、あるいは、ユーザに対する情報の出力を行う。操作パネル部10は、印刷機本体20と共通の筐体に設けてもよく、印刷機本体20に接続された外部の端末装置に設けてもよい。
【0015】
操作パネル部10を、例えば、無線LANにより印刷機本体20とオンライン接続されたタブレット端末等の携帯端末で構成する場合、操作パネル部10は、マイクロコントローラ11を内部に有する。マイクロコントローラ11は、不図示のメモリにインストールしたアプリケーションプログラムの実行により、分版処理部12を仮想的に構築する。
【0016】
分版処理部12は、印刷機本体20において原稿画像からマスタを製版するのに必要な印刷設定の入力要求画面を、タッチパネルの表示部に表示させる。印刷設定は、例えば、印刷機本体20における印刷色及び色数、原稿の種類(写真有り/なし等)を含むものとすることができる。操作パネル部10は、表示部の入力要求画面に対応してユーザがタッチパネルのタッチ操作により入力した印刷設定のデータを、印刷機本体20に送信する。
【0017】
印刷機本体20は、例えば、不図示のスキャナにより紙原稿から取り込んだ原稿画像のデータを、操作パネル部10から受信した印刷設定のデータに基づいて分版処理する。印刷機本体20は、例えば、分版処理により得られた分版画像データに基づいて、マスタを製版し、製版したマスタを用いて二色印刷を行うことができる。
【0018】
印刷機本体20は、マイクロコントローラ21を内部に有している。マイクロコントローラ21は、プログラムの実行により、分版画像処理部22、版別、領域別画素数判定部23及びフィルタ処理部24を仮想的に構築する。マイクロコントローラ21は、
図2のフローチャートに示す処理を実行する。
【0019】
まず、マイクロコントローラ21は、分版画像処理部22において、分版画像処理を行う(ステップS1)。分版画像処理では、操作パネル部10からの印刷設定のデータに基づいて原稿画像のデータを分版する。本実施形態では、操作パネル部10から黒と赤の二色印刷を行う内容の印刷設定が入力され、その印刷設定のデータを印刷機本体20が受信したものとする。
【0020】
分版画像処理部22は、ステップS1の分版画像処理において、原稿画像のデータから黒と赤の二色の分版画像データを生成する。分版画像データは、インク色別の版胴である第1ドラム及び第2ドラムにそれぞれ巻回するマスタ(図示せず)を、不図示のサーマルプリントヘッド(TPH)による分版画像の感熱穿孔で製版するのに用いられる。以下の説明では、各ドラムに巻回するマスタ用の分版画像データを区別して、1版側の分版画像データ及び2版側の分版画像データとそれぞれ称することがある。
【0021】
次に、マイクロコントローラ21は、版別、領域別画素数判定部23において、1版側及び2版側の各分版画像データにおける印字画素数を、分版画像中の対象とする特定領域を順次更新しながら、特定領域毎に計算する(ステップS3)。また、マイクロコントローラ21は、版別、領域別画素数判定部23において、ステップS3で分版画像の特定領域毎に計算した印字画素数に対応する、1版側及び2版側の各分版画像の印字率を計算する。そして、1版側と2版側との印字率との差がα%以上であるか否かを比較する(ステップS5)。版別、領域別画素数判定部23は、印字率算出部及び画素差算出部として機能する。
【0022】
ここで、画像の印字率とは、画像を印刷する用紙(図示せず)のうち余白領域を除いた印刷可能領域に対する、実際の画像の印刷部分の割合を示す率のことである。画像の印字率は、例えば、用紙の1ページの面積に対する画像を印刷した部分の面積の割合で表すことができる。
【0023】
各分版画像の特定領域は、例えば、製版時のTPHに対するマスタの搬送方向(副走査方向)に分版画像を500ピクセルずつ区切って均等分割した分割領域とすることができる。各分版画像の印字率を特定領域毎に比較することで、版別、領域別画素数判定部23は、各分版画像の印字率が全体に亘って均一でなくばらついている場合でも、1版側と2版側との印字率の差を領域毎に分けて判定することができる。
【0024】
α%は、1版側の印字率と2版側の印字率との間にどれくらい差があると、TPHによる感熱穿孔で製版されるマスタの分版画像に縮みが発生するかを、事前の実験で統計をとり決めた値である。以後、α%を「縮み発生判定値」と称することがある。
【0025】
特定領域毎に計算した1版側の印字率と2版側の印字率との差分がα%以上である場合、版別、領域別画素数判定部23は、その差分をα%未満にするのに必要な、印字率が高い方の分版画像から減らす印字画素数βを、事前に計算しておく。計算した印字画素数βを、以後、「減画素数」と称することがある。
【0026】
1版側の印字率と2版側の印字率との差が縮み発生判定値α%以上でない場合は(ステップS5でNO)、後述するステップS17に処理を移行する。1版側の印字率と2版側の印字率との差が縮み発生判定値α%以上である場合は(ステップS5でYES)、マイクロコントローラ21は、版別、領域別画素数判定部23において、減画素数βを設定する(ステップS7)。
【0027】
次に、マイクロコントローラ21は、フィルタ処理部24において、ステップS5で計算した特定領域の印字率が高い方の分版画像の分版画像データに対して、パターン検出処理を行う(ステップS9)。パターン検出処理では、フィルタ処理部24は、特定領域を細分化した複数の細分化領域から、分版画像中に特定の印字パターンを含んでいる細分化領域を検出する。
【0028】
例えば、
図3に示すように、細分化領域SDは、マスタM上に形成する分版画像SIの特定領域SPにおける3×3画素の領域とすることができる。フィルタ処理部24は、従来公知の方法で、分版画像SI中に特定の印字パターンを含んでいる細分化領域SDを検出することができる。
【0029】
例えば、フィルタ処理部24は、特定の印字パターンを配置したフィルタFで、印字率が高い方の分版画像SIにおける特定領域SPを走査することで、特定領域SP中の特定の印字パターンを含んでいる細分化領域SDを検出することができる。フィルタFは、例えば、3×3画素の領域とすることができる。
【0030】
フィルタ処理部24は、フィルタFの「注」の文字を付した中央の注目画素の位置を特定領域SP上で順次移動させながら、フィルタFで特定領域SPを主走査方向X及び副走査方向Yに走査する。副走査方向Yは、製版時のTPHに対するマスタMの搬送方向であり、副走査方向Yと直交する方向が主走査方向Xである。フィルタ処理部24は、フィルタFで特定領域SP上を走査しながら、特定の印字パターンを含んでいる細分化領域SDを検出する。フィルタ処理部24は、主走査方向Xにおける特定領域SPの端部から、特定の印字パターンを含んでいる細分化領域SDを検出する。主走査方向X及び副走査方向Yにおける特定領域SPの端部のような、フィルタFの領域に満たない大きさのためパターン検出できない領域は、走査の対象から外してもよい。
【0031】
特定の印字パターンは、3×3画素の領域における中央の画素と、その上下左右に配置された周辺の各画素とが、いずれも印字画素である印字パターンとすることができる。
【0032】
特定の印字パターンは、例えば、
図4(a)に示す、3×3画素の四隅の画素を除く5つの画素が印字画素であるプラス(+)型の印字パターンP1とすることができる。
図5(a)~(d)に示す、3×3画素の領域の全画素、あるいは、3×3画素の領域における1又は2つの隅部の画素を除く他の画素が全て印字画素である印字パターンP2~P5のいずれかを、特定の印字パターンとしてもよい。なお、図示しないが、3×3画素の領域における3つの隅部を除く他の画素が全て印字画素である印字パターンを、特定の印字パターンとしてもよい。
【0033】
次に、マイクロコントローラ21は、フィルタ処理部24において、
図2のステップS9で検出した特定の印字パターンを含んでいる細分化領域SDに対し、印字画素を間引く処理を行う(ステップS11)。この間引き処理は、特定の印字パターン(印字パターンP1~P5)を含む細分化領域SDの中央の画素CP(注目画素)を印字画素から除外することで行う。
図4(b)及び
図5(e)~(h)は、印字画素の間引き後における細分化領域SDの印字パターンP6~P10を示している。フィルタ処理部24は、印字画素増減部として機能する。
【0034】
例えば、
図4(a)に示す印字パターンP1を含む
図6(a)の細分化領域SDが間引き処理されると、
図6(b)に示すように、細分化領域SDは、
図4(b)の間引き後の印字パターンP6を含むようになる。
図5(a)に示す印字パターンP2を含む
図7(a)の細分化領域SDが間引き処理されると、
図7(b)に示すように、細分化領域SDは、
図5(b)の間引き後の印字パターンP7を含むようになる。
【0035】
間引き処理後の印字パターンP6,P7で、マスタ(図示せず)の細分化領域SDに対応する領域を製版した場合、そのマスタを用いた印刷処理で細分化領域SDに印刷される画像は、
図6(c)及び
図7(c)に示す内容となる。
【0036】
細分化領域SDの間引きした中央の画素CP(注目画素)にはインクが印刷されない。しかし、中央の画素CP(注目画素)の多くの部分は、中央の画素CP(注目画素)の上下左右に配置された周辺の各印字画素に印刷されてドットゲインにより画素からはみ出たインクで埋められる。したがって、印字画素の間引き処理後の細分化領域SDに印刷される画像PI1,PI2は、間引き処理前の印字画素に印字すると細分化領域SDに印刷される画像(図示せず)と大きく変わらない。
【0037】
図2のステップS11の間引き処理では、印字率が高い方の分版画像SIの分版画像データによって印刷される画像PI1,PI2の形状に大きな影響を与えずに、印字画素を間引き、1版側の分版画像と2版側の分版画像との印字率の差分を減らすことができる。
【0038】
ステップS11の間引き処理を行うと、印字率が高い方の分版画像SIにおける特定領域SPの印字画素数が1画素減るので、マイクロコントローラ21は、減画素数βを「1」減らして(ステップS13)、ステップS15に処理を移行する。
【0039】
ステップS15では、マイクロコントローラ21は、減画素数βが「0」まで減ったか否か、あるいは、ステップS9のパターン検出処理を全ての細分化領域SDについて行ったか否かを確認する。減画素数βが「0」まで減っておらず、かつ、ステップS9のパターン検出処理を全ての細分化領域SDについて行い終えていない場合は(ステップS15でNO)、ステップS9にリターンする。減画素数βが「0」まで減ったか、あるいは、ステップS9のパターン検出処理を全ての細分化領域SDについて行った場合は(ステップS15でYES)、ステップS17に処理を移行する。
【0040】
ステップS17では、マイクロコントローラ21は、ステップS3~ステップS15の処理を、1版側及び2版側の各分版画像SIの全ての特定領域SPについて行ったか否かを確認する。全ての特定領域SPについて行い終えていない場合は(ステップS17でNO)、ステップS3にリターンする。全ての特定領域SPについて行った場合は(ステップS17でYES)、一連の処理を終了する。
【0041】
なお、ステップS11の間引き処理で、印字率が高い方の分版画像SIから印字画素を間引いた場合に、印字率が低い方の分版画像SIにおける対応する画素に、印字画素を追加してもよい。印字率が低い方の分版画像SIにおける対応する画素とは、印字率が高い方の分版画像SIから間引く画素と同じ、各細分化領域SDの中央の画素CP(注目画素)である。
【0042】
マイクロコントローラ21は、印字率が低い方の分版画像SIにおける、印字率が高い方の分版画像SIから間引いた印字画素と同じ、細分化領域SDの中央の画素CP(注目画素)が、印字画素であるか否かを確認する。この確認は、細分化領域SDの中央の画素CP(注目画素)だけについて行うもので、ステップS9のパターン検出処理のような、特定の印字パターンが細分化領域SDに含まれているか否かを確認するものではない。したがって、マイクロコントローラ21は、印字率が低い方の分版画像SIにおける細分化領域SDの中央の画素CP(注目画素)が印字画素であるか否かの確認を、
図3のフィルタFによる分版画像SIの走査によって行う必要はない。
【0043】
以上の処理を行うことで、1版側の分版画像SIと2版側の分版画像SIとの印字率の差を減らすことができる。印字率の差を減らすことで、各分版画像SIに対応する各マスタをTPHで製版する際のマスタ間の搬送速度差が減る。マスタ間の搬送速度差が減ることで、一方のマスタの穿孔画像が他方のマスタの穿孔画像に対してマスタの搬送方向に縮まるのを抑制し、両マスタを使った印刷により得られる分版画像間に生じる位置ずれを抑制できる。
【0044】
印字率が低い方の分版画像SIにおける、印字率が高い方の分版画像SIから間引いた印字画素と同じ細分化領域SDの中央の画素CP(注目画素)が、印字画素でない場合、マイクロコントローラ21は、その画素を印字画素に追加してもよい。印字率が低い方の分版画像SIにおける、細分化領域SDの中央の画素CP(注目画素)が印字画素である場合は、その画素を印字画素のままとする。
【0045】
図8(a)及び(b)では、印字率が低い方の分版画像SIにおける、細分化領域SDの中央の、印字画素でない画素CP(注目画素)を印字画素に追加する場合の例を示している。
図8(a)及び(b)の矢印の左側が印字画素の追加前の印字パターン、矢印の右側が印字画素の追加後の印字パターンである。
【0046】
印字率が高い方の分版画像SIにおいて、細分化領域SDの中央の画素CP(注目画素)を印字画素から間引くと、印字画素を間引いた分版画像SIの分版画像データにより印刷される画像の濃度が、細分化領域SDにおいて低下する。一方、印字率が低い方の分版画像SIにおける、細分化領域SDの中央の画素CP(注目画素)に印字画素を追加すると、印字画素を追加した分版画像SIの分版画像データにより印刷される画像の濃度が、細分化領域SDにおいて増加する。
【0047】
印字率が高い方の分版画像SIの分版画像データにより印刷される画像において低下する濃度を、印字率が低い方の分版画像SIの分版画像データにより印刷される画像において増加する濃度で補うことで、印刷画像に生じる濃度変化の影響を抑制できる。
【0048】
なお、印字率が低い方の分版画像SIにおける、印字率が高い方の分版画像SIから間引いた印字画素と同じ、細分化領域SDの中央の画素CP(注目画素)に、印字画素を追加するのは、一定の条件を満たした場合に限ってもよい。
【0049】
一定の条件は、例えば、印字率が高い方及び低い方の各分版画像SIの分版画像データにより印刷される各画像の色が、同一色相同士又は無彩色同士である場合とすることができる。一定の条件は、例えば、印字率が高い方の分版画像SIの分版画像データにより印刷される画像の色が無彩色である場合としてもよい。
【0050】
上述した一定の条件を満たす場合は、例えば、
図6(c),
図7(c)に示す、細分化領域SDの中央の画素CP(注目画素)に、印字率が低い方の分版画像SIに対応する色のインクが印刷されることになる。
【0051】
例えば、印字率が高い方及び低い方の各分版画像SIの分版画像データにより印刷される画像の色が、同一色相同士又は無彩色同士である場合は、印刷画像における中央の画素CP(注目画素)と周辺の画素との間に、画像の色の大きな違いが生じない。
【0052】
例えば、印字率が高い方の分版画像SIの分版画像データにより印刷される画像の色が無彩色である場合は、印刷画像における中央の画素CP(注目画素)に印刷されるインクの多くが、周辺の画素に印刷される無彩色のインクで埋められる。したがって、印刷画像における中央の画素CP(注目画素)の視覚上の色は、周辺の画素の色に支配される。例えば、無彩色のインクが黒色である場合は、印刷画像における中央の画素CP(注目画素)に有彩色のインクを印刷しても、周辺の画素に印刷される黒色のインクにつぶされて、ほとんど有彩色として視認されなくなる。
【0053】
このため、印字率が低い方の分版画像SIにおける細分化領域SDの中央の画素CP(注目画素)に印字画素を追加するのを、上述した一定の条件を満たす場合に限ることで、印刷画像における中央の画素CP(注目画素)の色が変わるのを抑制できる。
【0054】
図2のフローチャートでは、印字率が高い方の分版画像SIに対し、特定領域SP中の特定の印字パターンを含む細分化領域SDから印字画素を間引く処理を行う場合を説明した。しかし、印字率が高い方の分版画像SIから印字画素を間引く処理を行う代わりに、印字率が低い方の分版画像SIに対し、特定領域SP中の特定の印字パターンを含む細分化領域SDに印字画素を追加する処理を行うようにしてもよい。この場合、特定領域SP中の特定の印字パターンを含む細分化領域SDに印字画素を追加する処理は、マイクロコントローラ21のフィルタ処理部24において行うことができ、フィルタ処理部24は、印字画素増減部として機能する。
【0055】
細分化領域SDに印字画素を追加する処理を行う場合の特定の印字パターンは、3×3画素の領域における中央の画素CPが印字画素でなく、中央の画素CPの上下左右に配置された周辺の各画素が印字画素であるパターンとすることができる。特定の印字パターンを含む細分化領域SDに印字画素を追加する処理は、例えば、印字画素でない中央の画素CPを印字画素に追加する処理とすることができる。
【0056】
中央の画素CPを追加する前の印字画素に印字すると、細分化領域SDに印刷される画像(図示せず)の中央の画素にはインクが印刷されないが、中央の画素の多くの部分は、周辺の各印字画素からドットゲインによりはみ出たインクで埋められる。したがって、印字画素の追加処理後の細分化領域SDに印刷される画像は、追加処理前の印字画素に印字した場合に細分化領域SDに印刷される画像と大きく変わらない。中央の画素CPを印字画素に追加する印字画素の追加処理では、印字率が低い方の分版画像SIの分版画像データによって印刷される画像(図示せず)の形状に大きな影響を与えずに、印字画素を追加することができる。
【0057】
以上の処理を行うことでも、両分版画像SIの印字率の差による各マスタの製版時の搬送速度差を減らし、一方のマスタの穿孔画像が他方のマスタの穿孔画像に対して縮まって分版画像間に生じる位置ずれを抑制できる。
【0058】
本発明は上記の実施形態のままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記の実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【0059】
[付記]
以上に説明した実施形態によって、以下に示す態様の発明が開示される。
【0060】
即ち、一つの態様の発明として、
インク色別のマスタにそれぞれ形成した分版画像を前記マスタの製版時における搬送方向において均等分割した前記分版画像の分割領域毎の印字率を、前記インク色別にそれぞれ算出する印字率算出部と、
前記分版画像における位置が同じ前記分割領域同士の前記印字率を前記インク色間で比較し、前記印字率が高い方のインク色の前記分版画像と前記印字率が低い方のインク色の前記分版画像との前記分割領域における印字画素差を算出する画素差算出部と、
前記印字率が高い方のインク色の前記分版画像又は前記印字率が低い方のインク色の前記分版画像の、前記分割領域を細分化した複数の細分化領域のうち特定の印字パターンを含む細分化領域に対し、前記印字画素差を減らす印字画素の増減処理を行う印字画素増減部と、
を備える分版画像データ処理装置が開示される。
【0061】
そして、上記態様による発明によれば、穿孔画像の縮みによる分版画像間の位置ずれを、画像の形状に大きな影響を与えることなく抑制することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 孔版印刷機
10 操作パネル部
11 マイクロコントローラ
12 分版処理部
20 印刷機本体
21 マイクロコントローラ
22 分版画像処理部
23 領域別画素数判定部(印字率算出部、画素差算出部)
24 フィルタ処理部(印字画素増減部)
CP 中央の画素
F フィルタ
M マスタ
P1~P5 間引き前の印字パターン
P6~P10 間引き後の印字パターン
PI1,PI2 画像
SD 細分化領域
SI 分版画像
SP 特定領域(分割領域)
X 主走査方向
Y 副走査方向