IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社呉竹の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132643
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】固形墨
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/00 20140101AFI20230914BHJP
【FI】
C09D11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038094
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000142920
【氏名又は名称】株式会社呉竹
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 盛弘
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AD06
4J039AE07
4J039BC07
4J039BE01
4J039EA19
4J039GA29
(57)【要約】

【課題】 本発明は優位な墨色性を呈し、さらに優れた成型性、良好な外観性および良好な表具性を有する固形墨を提供する。
【解決手段】 黒色顔料と、けん化度が87~89モル%、重合度が1000~1700の部分けん化ポリビニルアルコールおよびけん化度が98~99モル%、重合度が500~2400の完全けん化ポリビニルアルコールの混合物とを含み、混合物中の部分けん化ポリビニルアルコールと完全けん化ポリビニルアルコールの重量比が50:50~75:25であり、混合物は黒色顔料に対する配合割合が外率で50~60重量%である固形墨。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色顔料と、けん化度が87~89モル%、重合度が1000~1700の部分けん化ポリビニルアルコールおよびけん化度が98~99モル%、重合度が500~2400の完全けん化ポリビニルアルコールの混合物とを含み、
前記混合物中の前記部分けん化ポリビニルアルコールと前記完全けん化ポリビニルアルコールの重量比が50:50~75:25であり、
前記混合物は、前記黒色顔料に対する配合割合が外率で50~60重量%である固形墨。
【請求項2】
香料をさらに含む請求項1に記載の固形墨。
【請求項3】
ポリエチレングリコールまたはグリセリンをさらに含む請求項1または2に記載の固形墨。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形墨に関する。
【背景技術】
【0002】
固形墨は、書道、習字において硯と共に用いられ、水に濡れた硯の墨堂に磨り付け、磨墨液を作る書道具の一つである。
【0003】
このような固形墨は、従来、天然樹脂(動物性)の膠の溶液と煤を混練し、この混練物に香料を加え、型入れ、乾燥することにより製造されていた。膠は、牛、馬、鹿などの骨、皮または筋に水を加え、煮沸抽出した動物性たんぱく質である。煤は、素焼の皿に植物油を入れ灯芯を燃やし、素焼の蓋に付着したものから採取される。
【0004】
しかしながら、従来の固形墨は天然資源の動物性樹脂である膠を使用するため、持続的、安定的な原料供給を損なう虞がある。
【0005】
このようなことから、特許文献1には水分が揮発した後に水に不溶性になる高分子エマルジョン、水溶性糊料および顔料を混練、型入れ及び乾燥を行って造られる固形墨が開示されている。特許文献1には、膠の代わりにポリビニルアルコール等の水溶性糊料を用いている。ポリビニルアルコールは、実施例2において、株式会社クラレ製の銘柄#205を用いている。銘柄#205は、けん化度が86.5~89モル%、重合度が500の部分けん化ポリビニルアルコールである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭51-4128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に固形墨を水に濡れた硯の墨堂に磨り付け、磨墨液を硯の墨池に溜め、筆に磨墨液を滲み込ませ、画仙紙のような紙に筆記すると、紙の筆跡に基線と呼ばれる濃い線の部分と基線の周囲に滲みと呼ばれる淡い色の部分が生じる。従来のように膠を含む固形墨を用いて得られた磨墨液を筆で紙に筆記した場合、筆跡の基線は濃い墨色を呈する。
【0008】
しかしながら、特許文献1の固形墨を用いて得られた磨墨液を筆で紙に筆記した場合、筆跡の基線の墨色度合が膠を含む固形墨に比べて不十分になる課題がある。
また、特許文献1の固形墨は書作品として表具する場合、ポリビニルアルコールを用いるため、水溶性が高くなって表具することが困難になる。
前記課題を解決するために、本発明は優位な墨色性を呈し、さらに優れた成型性、良好な外観性、および良好な表具性を有する固形墨を提供しようとするものである。
【0009】
ここで、「優位な墨色性」とは筆跡の基線が膠を含む固形墨と遜色のない濃い墨色を呈し、基線とその周りの滲みの境界が明瞭で、滲みの美麗性が高いことを意味する。
「優れた成型性」とは、固形墨の作製工程における、後述する黒色顔料と部分けん化ポリビニルアルコールおよび完全けん化ポリビニルアルコールの混合物とを水と共に混練する際、墨玉が搗き立ての餅の様に均一で一つの玉に纏まり、人手による成型作業が可能な状態を意味する。
「良好な外観性」とは、固形墨の作製工程での14日間の乾燥経過後の成型物において、表面の割れ、亀裂がなく、平滑な表面が観察されたことを意味する。
「良好な表具性」とは、固形墨を磨って作られる磨墨液により書かれた書作品を表具する際に、書かれた黒い部分が水に溶け、黒色が紙に散りばめられることにより、描かれた文字の墨が流れて文字が黒くなることなく、美麗に表具されることを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態は、黒色顔料と、けん化度が87~89モル%、重合度が1000~1700の部分けん化ポリビニルアルコールおよびけん化度が98~99モル%、重合度が500~2400の完全けん化ポリビニルアルコールの混合物とを含む固形墨である。混合物中の部分けん化ポリビニルアルコールと完全けん化ポリビニルアルコールの重量比は、50:50~75:25である。混合物は、黒色顔料に対する配合割合が外率で50~60重量%である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、動物性の天然樹脂である膠を使用せず、優位な墨色性を呈し、さらに優れた成型性、良好な外観性、および良好な表具性を有する固形墨を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明は、以下の記載に限定されるものではない。また、実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0013】
実施形態に係る固形墨は、黒色顔料と、けん化度が87~89モル%、重合度が1000~1700の部分けん化ポリビニルアルコール(以下、部分けん化PVAと称する場合もある)およびけん化度が98~99モル%、重合度が500~2400の完全けん化ポリビニルアルコール(以下、完全けん化PVAと称する場合もある)の混合物とを含む。混合物中の部分けん化PVAと完全けん化PVAの重量比は、50:50~75:25である。なお、混合物中の部分けん化PVAと完全けん化PVAを重量%で表記すると、部分けん化PVAが50~75重量%、完全けん化PVAが25~50重量%である。混合物は、黒色顔料に対する配合割合が外率で50~60重量%である。
【0014】
発明者は、優位な墨色性を呈し、さらに優れた成型性、良好な外観性、および良好な表具性を有する固形墨を開発すべく、膠の代替としてポリビニルアルコール(PVA)に注目して鋭意研究を進めた。
その結果、けん化度及び重合度が異なる種々の部分けん化PVA単独を膠の代替として用いても、前記成型性および外観性が優れているものの、優位な墨色性および良好な表具性を呈する固形墨を得ることが困難であった。
【0015】
このようなことから、発明者は部分けん化PVAに比べて水溶解性の低い完全けん化PVAに着目し、これらのPVAを混合物の形態で膠の代替として用いることにより、筆跡の基線の墨色度合を改善した固形墨が得られることを究明した。
しかしながら、部分けん化PVAと完全けん化PVAの混合物を単に膠の代替として用いても、成型性の悪化、外観性の低下を生じたり、或いは墨色性の改善、特に筆跡の基線の墨色度合が改善、および表具性の改善がなされなかったり、して改善効果がばらつくことを究明した。
【0016】
そこで、発明者は特定のけん化度(87~89モル%)および重合度(1000~1700)を有する部分けん化PVAと特定のけん化度(98~99モル%)および重合度(500~2400)を有する完全けん化PVAとの混合物を用い、混合物中の部分けん化PVAと完全けん化PVAの重量比を50:50~75:25に特定し、さらにカーボンブラックのような黒色顔料に対する混合物の配合割合を外率で50~60重量%の特定の範囲にすることによって、優位な墨色性を呈し、さらに優れた成型性、良好な外観性、および良好な表具性を有する固形墨を見出した。
【0017】
黒色顔料は、例えばカーボンブラック、ランプブラック(油煙)等を用いることができる。
【0018】
混合物中の部分けん化PVAと完全けん化PVAの重量比が50:50~75:25の範囲を逸脱すると、固形墨の成型性が低下したり、筆跡の基線の墨色度合が低下したり、する。
【0019】
部分けん化PVAと完全けん化PVAの混合物は、黒色顔料に対する配合割合が外率で50重量%未満にすると、固形墨の表面に割れが発生して外観性を損なう。一方、混合物は黒色顔料に対する配合割合が外率で60重量%を超えると、筆跡の基線の墨色度合が低下し、かつ成型性が低下する。
【0020】
実施形態に係る固形墨において、香料をさらに含んでもよい。香料は、例えば龍脳、合成香料等を用いることができる。香料は、黒色顔料およびPVAの混合物の総量に対して外率で2~7重量%配合することが好ましい。
【0021】
実施形態に係る固形墨において、ポリエチレングリコールまたはグリセリンをさらに含んでもよい。ポリエチレングリコールは、例えば数平均分子量が200~30000であることが好ましい。ポリエチレングリコールまたはグリセリンは、黒色顔料およびPVAの混合物の総量に対して外率で5~40重量%配合することが好ましい。
【0022】
次に、実施形態に係る固形墨の製造方法を説明する。
最初に、冷水に部分けん化PVAと完全けん化PVAを攪拌しながら速やかに投入し、所望の膨潤時間を経た後、湯煎し、再度、攪拌してPVA混合物の水溶液を調製する。この工程において、混合物中の部分けん化PVAと完全けん化PVAの重量比を50:50~75:25に調整する。
【0023】
次いで、黒色顔料と調製したPVA混合物の水溶液とを両者が均一になり、人手による成型が可能な性状になる迄撹拌、混合する。この工程において、使用するPVA混合物の水溶液の量により硬さが異なるため、水を適時追加し、得られる墨玉の硬さを調整する。なお、混合物の配合量は黒色顔料に対して混合物の純分で外率にて50~60重量%に調整する。
得られた墨玉から所望量取出し、板の上で黒色顔料とPVA混合物がより均一になるように混練する。混練した墨玉を棒状に延ばし、型内に入れ、上部から水平に抑えて型の文様を写し取りながら型内の形に成型する。型から取り出した墨を例えば新聞紙のような紙に挟み、その新聞紙ごと型内の木灰に埋め、型の木灰内で墨玉を徐々に乾燥させる。その後、乾燥した成型物を灰から取り出し、外形加工して固形墨を製造する。
【実施例0024】
以下、実施例を詳細に説明する。
(実施例1)
最初に、樹脂1としてけん化度87~89モル%、重合度1700の部分けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄22-88)および樹脂2としてけん化度98~99モル%、重合度2400の完全けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄60-98)を準備した。つづいて、冷水に部分けん化PVAと完全けん化PVAを攪拌しながら速やかに投入し、30分間以上の膨潤時間を経た後、85℃、2時間湯煎し、再度、攪拌してPVA混合物の水溶液を調製した。この工程において、PVA混合物中の部分けん化ポリビニルアルコールおよび完全けん化ポリビニルアルコールの重量比率をそれぞれ75%、25%に調整した。
【0025】
次いで、撹拌混合機(株式会社ダルトン製:DM型)を用いてカーボンブラック(三菱ケミカル株式会社:銘柄MA-100,以下CBと略す)50gと、調製したPVA混合物の水溶液とを両者が均一になり、人手による成型が可能な性状になる迄撹拌、混合した。この工程において、水を適時追加し、得られる墨玉の硬さを調整した。また、PVA混合物の水溶液を当該PVA混合物がCBに対して外率で50重量%になるように配合して墨玉を得た。
得られた墨玉から約25g取出し、板の上でCBとPVA混合物がより均一になるように混練した。混練した墨玉を棒状に延ばし、型内に入れ、上部から蓋で水平に抑えて型の文様を写し取りながら型内の形に成型した。型から取り出した墨を新聞紙に挟み、その新聞紙ごと型内の木灰に埋め、型の木灰内で墨玉を徐々に乾燥させ、14日経過させて成型物を作製した。
【0026】
(実施例2)
樹脂1としてけん化度87~89モル%、重合度1700の部分けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄22-88)および樹脂2としてけん化度98~99モル%、重合度500の完全けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄5-98)を準備し、実施例1と同様の方法によりPVA混合物の水溶液を調製した。PVA混合物中の部分けん化ポリビニルアルコールおよび完全けん化ポリビニルアルコールの重量比率をそれぞれ75%、25%に調整した。次いで、実施例1と同様のCB50gおよびPVA混合物の水溶液を用い、当該PVA混合物がCBに対して外率で60重量%になるように配合した以外、実施例1と同様の方法により成型物を作製した。
【0027】
(実施例3)
樹脂1としてけん化度87~89モル%、重合度1700の部分けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄22-88)および樹脂2としてけん化度98~99モル%、重合度1000の完全けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄11-98)を準備し、実施例1と同様の方法によりPVA混合物の水溶液を調製した。PVA混合物中の部分けん化ポリビニルアルコールおよび完全けん化ポリビニルアルコールの重量比率をそれぞれ75%、25%に調整した。次いで、実施例1と同様のCB50gおよびPVA混合物の水溶液を用い、当該PVA混合物がCBに対して外率で60重量%になるように配合した以外、実施例1と同様の方法により成型物を作製した。
【0028】
(実施例4)
樹脂1としてけん化度87~89モル%、重合度1700の部分けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄22-88)および樹脂2としてけん化度98~99モル%、重合度1700の完全けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄28-98)を準備し、実施例1と同様の方法によりPVA混合物の水溶液を調製した。PVA混合物中の部分けん化ポリビニルアルコールおよび完全けん化ポリビニルアルコールの重量比率をそれぞれ75%、25%に調整した。次いで、実施例1と同様のCB50gおよびPVA混合物の水溶液を用い、当該PVA混合物がCBに対して外率で60重量%になるように配合した以外、実施例1と同様の方法により成型物を作製した。
【0029】
(実施例5)
PVA混合物を実施例1と同様のCBに対して外率で60重量%になるように配合した以外、実施例1と同様の方法により成型物を作製した。
【0030】
(実施例6)
PVA混合物中の部分けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄22-88)および完全けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄60-98)の重量比率をそれぞれ50%、50%に調整した以外、実施例1と同様の方法により成型物を作製した。
【0031】
(実施例7)
PVA混合物中の部分けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄22-88)および完全けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄60-98)の重量比率をそれぞれ60%、40%に調整した以外、実施例1と同様の方法により成型物を作製した。
【0032】
(実施例8)
PVA混合物中の部分けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄22-88)および完全けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄60-98)の重量比率をそれぞれ70%、30%に調整した以外、実施例1と同様の方法により成型物を作製した。
【0033】
(実施例9)
PVA混合物中の部分けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄22-88)および完全けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄60-98)の重量比率をそれぞれ50%、50%に調整し、かつPVA混合物の水溶液を当該PVA混合物が実施例1と同様のCBに対して外率で60重量%になるように配合した以外、実施例1と同様の方法により成型物を作製した。
【0034】
(実施例10)
PVA混合物中の部分けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄22-88)および完全けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄60-98)の重量比率をそれぞれ60%、40%に調整し、かつPVA混合物の水溶液を当該PVA混合物が実施例1と同様のCBに対して外率で60重量%になるように配合した以外、実施例1と同様の方法により成型物を作製した。
【0035】
(実施例11)
PVA混合物中の部分けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄22-88)および完全けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄60-98)の重量比率をそれぞれ70%、30%に調整し、かつPVA混合物の水溶液を当該PVA混合物が実施例1と同様のCBに対して外率で60重量%になるように配合した以外、実施例1と同様の方法により成型物を作製した。
【0036】
(比較例1)
最初に、冷水に樹脂1としてカルボキシメチルセルロース(CMC)および樹脂2としてアラビアガムを、さらに実施例1と同様のCB5gを投入し、撹拌混合機(株式会社ダルトン製:DM型)を用いてCBとCMC,アラビアガムが均一になり、人手による成型が可能な性状になる迄撹拌、混合した。この工程において、CMCとアラビアガムの重量比率はそれぞれ75%、25%とした。また、CMCとアラビアガムの混合物はCBに対して外率で100重量%になるように配合した。得られたCB、CMCおよびアラビアガムを含む玉墨から約25g取出し、板の上でCB、CMCおよびアラビアガムがより均一になるように混練した。混練した墨玉を棒状に延ばし、型内に入れ、上部から蓋で水平に抑えて型の文様を写し取りながら型内の形に成型した。型から取り出した墨を新聞紙に挟み、その新聞紙ごと型内の木灰に埋め、型の木灰内で墨玉を徐々に乾燥させ、14日経過させて成型物を作製した。
【0037】
(比較例2)
樹脂1としてけん化度87~89モル%、重合度1700の部分けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄22-88)を用い、単独の部分けん化PVAの水溶液を当該部分けん化PVAが実施例1と同様のCBに対して外率で50重量%になるように配合した以外、実施例1と同様の方法により成型物を作製した。
【0038】
(比較例3)
樹脂1としてけん化度87~89モル%、重合度1000の部分けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄9-88)を用い、単独の部分けん化PVAの水溶液を当該部分けん化PVAが実施例1と同様のCBに対して外率で60重量%になるように配合した以外、実施例1と同様の方法により成型物を作製した。
【0039】
(比較例4)
樹脂1としてけん化度87~89モル%、重合度1000の部分けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄9-88)を用い、単独の部分けん化PVAの水溶液を当該部分けん化PVAが実施例1と同様のCBに対して外率で70重量%になるように配合した以外、実施例1と同様の方法により成型物を作製した。
【0040】
(比較例5)
樹脂2としてけん化度98~99モル%、重合度2400の完全けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄60-98)を用い、単独の完全けん化PVAを実施例1と同様に冷水に攪拌しながら速やかに投入し、30分間以上の膨潤時間を経た後、85℃、2時間湯煎し、再度、攪拌して完全けん化PVAの水溶液を調製することを試みた。この時、完全けん化PVAは水に溶解され、当該水溶液を完全けん化PVAが実施例1と同様のCBに対して外率で60重量%になるように配合することにより墨玉を得ることができた。しかしながら、墨玉が均一にまとまらず、かつ成形した際に均一な表面の墨にはならないため、墨としての評価が実質的にできなかった。
【0041】
(比較例6)
樹脂1としてけん化度87~89モル%、重合度1700の部分けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄22-88)および樹脂2としてけん化度98~99モル%、重合度2400の完全けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄60-98)を準備し、実施例1と同様の方法によりPVA混合物の水溶液を調製した。この時、PVA混合物中の部分けん化PVAおよび完全けん化PVAの重量比率をそれぞれ40%、60%に調整した。次いで、当該PVA混合物の水溶液および実施例1と同様のCB50gを用い、PVA混合物がCBに対して外率で60重量%になるように配合した以外、実施例1と同様の方法により成型物を作製した。
【0042】
(比較例7)
樹脂1としてけん化度87~89モル%、重合度1700の部分けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄22-88)および樹脂2としてけん化度98~99モル%、重合度2400の完全けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄60-98)を準備し、実施例1と同様の方法によりPVA混合物の水溶液を調製した。この時、PVA混合物中の部分けん化PVAおよび完全けん化PVAの重量比率をそれぞれ80%、20%に調整した。次いで、当該PVA混合物の水溶液および実施例1と同様のCB50gを用い、PVA混合物がCBに対して外率で60重量%になるように配合した以外、実施例1と同様の方法により成型物を作製した。
【0043】
(比較例8)
樹脂1としてけん化度87~89モル%、重合度1700の部分けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄22-88)および樹脂2としてけん化度98~99モル%、重合度2400の完全けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄60-98)を準備し、実施例1と同様の方法によりPVA混合物の水溶液を調製した。この時、PVA混合物中の部分けん化PVAおよび完全けん化PVAの重量比率をそれぞれ60%、40%に調整した。次いで、当該PVA混合物の水溶液および実施例1と同様のCB50gを用い、PVA混合物がCBに対して外率で40重量%になるように配合した以外、実施例1と同様の方法により成型物を作製した。
【0044】
(比較例9)
樹脂1としてけん化度87~89モル%、重合度1700の部分けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄22-88)および樹脂2としてけん化度98~99モル%、重合度2400の完全けん化PVA(株式会社クラレ:銘柄60-98)を準備し、実施例1と同様の方法によりPVA混合物の水溶液を調製した。この時、PVA混合物中の部分けん化PVAおよび完全けん化PVAの重量比率をそれぞれ60%、40%に調整した。次いで、当該PVA混合物の水溶液および実施例1と同様のCB50gを用い、PVA混合物がCBに対して外率で70重量%になるように配合した以外、実施例1と同様の方法により成型物を作製した。
【0045】
得られた実施例1~11および比較例1~4、6~9の成型物に関して、以下に説明する成型性、外観、表具性および墨色を評価した。
【0046】
1)成型性
成型物の作製工程におけるCBとPVAの組成物を混練りする際、墨玉が均一にならずにバラバラなったり、硬すぎたりして、一つの玉に纏まらない状態を“×”とし、墨玉が搗き立ての餅の様に均一で一つの玉に纏まり、人手による成型作業が可能な状態を“〇”として評価した。
【0047】
2)外観性(割れ・表面性状)
14日間の乾燥の経過後の成型物について、外観を観察した。表面の割れ、亀裂、表面のザラザラが観察された場合は、“×”、表面の割れ、亀裂がなく、平滑な表面が観察された場合は“〇”と評価した。
【0048】
3)表具性
室温にて14日間自然乾燥させた後の成形物を水2mL滴下した天然硯の墨堂に2分間磨り付け、磨墨液を硯の墨池に溜めた後、筆に磨墨液の原液を滲み込ませて画仙紙に筆記した。筆記後の墨が完全に乾いた後、表面が平滑な表具用板の上に筆記面が裏面になるように乗せ、画仙紙全体を湿すように水を霧吹きで吹き付けた。続いて、刷毛で画仙紙の皴を伸ばしながら画仙紙上の余分な水を取った後、画仙紙表面に別の刷毛ででんぷん糊を均等に塗布し、直後に表具紙を乗せて糊の付いていない刷毛で中央から外側に向けて表具紙が画仙紙に密着するように擦った。その後、表具紙が付いた画仙紙を表具用板から剥がして裏返し、筆記線が表になる様に別の場所へ少量の水で張り付けた後、室温で自然乾燥させた。表具板上の画仙紙が十分に乾燥したことを確認後に板から剥がし、画仙紙上の線が筆記された部分以外の場所に墨の黒色が観察できる場合を“×”、画仙紙の筆記された部分以外の場所に墨の黒色が観察されず美麗な場合を“○”と評価した。
【0049】
4)墨色性
14日間の経過後の成型物を水2mL滴下した天然硯の墨堂に2分間磨り付け、磨墨液を天然硯の墨池に溜めた。筆に磨墨液の原液を滲み込ませ、画仙紙に筆記した。また、筆に原液の4倍水希釈液を滲み込ませ、画仙紙に筆記した。さらに筆に原液の16倍水希釈液を滲み込ませ、画仙紙に筆記した。その後、各画仙紙を乾燥し、膠を含む一般的な固形墨を使用した場合に比べて墨色が白っぽい、滲みと基線の境界が不明確、滲みの美麗性が劣る場合を“×”、墨色が鮮明、滲みと基線の境界が明確、滲みの美麗性が高い場合を“〇”と評価した。
【0050】
得られた評価結果を、下記表1、表2に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
前記表1から明らかなように特定のけん化度および重合度の部分けん化PVAと特定のけん化度および重合度の完全けん化PVAの混合物を用い、混合物中の部分けん化PVAおよび完全けん化PVAの重量比率をそれぞれ50~75%、25~50%とし、混合物はカーボンブラック(CB)に対する配合割合が外率で50~60重量%である実施例1~11の成型物(固形墨)は、優れた成型性、外観性および表具性に加え、優位な墨色性を有することがわかる。
【0054】
これに対し、前記表2から明らかなようにカーボンブラックに樹脂1としてカルボキシメチルセルロース(CMC)および樹脂2としてアラビアガムの混合物を配合し、CMCとアラビアガムの混合比率がそれぞれ75%、25%、混合物のカーボンブラックに対する割合(外率)が100重量%である比較例1の成型物(固形墨)は、成型性が良好であるものの、外観性,表具性および墨色性が劣ることがわかる。
【0055】
樹脂1として部分けん化PVA単独を用いる比較例2~4の成型物(固形墨)は、成型性が良好で、外観性も概ね良好であるものの,表具性および墨色性が劣ることがわかる。
【0056】
樹脂1である部分けん化PVAおよび樹脂2である完全けん化PVAの混合比率が本発明の範囲(部分けん化PVAおよび完全けん化PVAの重量比率をそれぞれ50~75%、25~50%)を外れる、部分けん化PVAおよび完全けん化PVAの重量比率がそれぞれ40%、60%の比較例6の成型物(固形墨)、並びに部分けん化PVAおよび完全けん化PVAの重量比率がそれぞれ80%、20%の比較例7の成型物(固形墨)は、表具性が良好であるものの、成型性、外観性、墨色性が劣る固形墨になることがわかる。
【0057】
また、樹脂1である部分けん化PVAおよび樹脂2である完全けん化PVAの混合比率がそれぞれ60%、40%であるが、PVA混合物の水溶液を当該PVA混合物がCBに対して外率で40重量%になるように配合した比較例8の成型物(固形墨)、並びに部分けん化PVAおよび完全けん化PVAの混合比率がそれぞれ60%、40%と同じであるが、PVA混合物の水溶液を当該PVA混合物がCBに対して外率で70重量%になるように配合した比較例9の成型物(固形墨)は、表具性が良好であるものの、成型性、外観性、墨色性が劣る固形墨になることがわかる。