(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132657
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】赤外線放射樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 99/00 20060101AFI20230914BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230914BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C08L99/00
C08K3/04
C08K3/22
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038114
(22)【出願日】2022-03-11
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】595101403
【氏名又は名称】株式会社ファーベスト
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】菊田 俊一
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA001
4J002DA016
4J002DE137
4J002DE148
4J002FD016
4J002FD017
4J002FD018
4J002FD206
4J002FD207
4J002FD208
4J002GC00
4J002GK01
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】所定の波長域において、放射率の平均値が高い赤外線放射材料を含む赤外線放射樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】赤外線放射材料と樹脂とを含む赤外線放射樹脂組成物であって、赤外線放射材料は、二酸化チタンと、焼成ハイドロタルサイト類化合物と、ナノサイズダイヤモンドと、を含み、赤外線放射材料において、二酸化チタンと、焼成ハイドロタルサイト類化合物との質量比が60:40~90:10であり、ナノサイズダイヤモンドの含有量が、二酸化チタンと焼成ハイドロタルサイト類化合物との合計100質量部に対して0.01質量部以上0.5質量部以下である赤外線放射樹脂組成物である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線放射材料と樹脂とを含む赤外線放射樹脂組成物であって、
前記赤外線放射材料は、二酸化チタンと、焼成ハイドロタルサイト類化合物と、ナノサイズダイヤモンドと、を含み、
前記赤外線放射材料において、前記二酸化チタンと、前記焼成ハイドロタルサイト類化合物との質量比が60:40~90:10であり、前記ナノサイズダイヤモンドの含有量が、前記二酸化チタンと前記焼成ハイドロタルサイト類化合物との合計100質量部に対して0.01質量部以上0.5質量部以下である赤外線放射樹脂組成物。
【請求項2】
前記赤外線放射樹脂組成物は、前記赤外線放射材料が樹脂中に分散した板状、筒状、シート状、または、繊維状である請求項1に記載の赤外線放射樹脂組成物。
【請求項3】
前記二酸化チタンの平均粒子径が10nm以上1000nm以下である請求項1または2に記載の赤外線放射樹脂組成物。
【請求項4】
前記焼成ハイドロタルサイト類化合物の平均粒子径が10nm以上1000nm以下である請求項1から3のいずれかに記載の赤外線放射樹脂組成物。
【請求項5】
前記ナノサイズダイヤモンドの二次粒子の平均粒子径が5nm以上200nm以下である請求項1から4のいずれかに記載の赤外線放射樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線放射樹脂組成物に関する。特に、本発明は、種々の材料の乾燥、衣料等に対する保温などの機能性の付与、冷暖房、理美容などに利用される赤外線放射樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、赤外線放射材料としては、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカ等を含むセラミックスが提案されている。このような材料は遠赤外線を放射し、遠赤外線が物質に吸収されることにより、物質が加熱される。
【0003】
水分子は、伸縮、変角等の振動運動をしており、水分子が遠赤外線を吸収すると励起して高い振動状態となる。その結果、水分子の温度が高くなる。したがって、水分子を含む物質、人体、動植物等は遠赤外線を吸収すると温度が高くなる。
【0004】
したがって、水分子を含む物質、人体、動植物等を効率的に温めるには、水分子の振動運動を励起できる波長の遠赤外線を放射する赤外線放射材料を用いる必要がある。このような赤外線放射材料として、本発明者らは、特許文献1において、人体等の動植物に吸収されやすい遠赤外線を放射することができる赤外線放射材料を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
赤外線放射材料を、たとえば、衣類に用いられる繊維に適用した場合、赤外線放射材料は、衣類を着用している人体から放射される遠赤外線を吸収して蓄熱し、蓄熱した熱エネルギーを遠赤外線として人体に放射する必要がある。すなわち、赤外線放射材料には、他の物質から放射される遠赤外線を吸収して蓄熱し、蓄熱した熱エネルギーを効率よく遠赤外線として放射することが求められる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の赤外線放射材料は、たとえば、人体等から放射される遠赤外線を吸収して蓄熱する効率が十分ではないという問題があった。その結果、蓄熱した熱エネルギーを遠赤外線として放射した場合に、人体等の動植物に吸収されやすい波長域(たとえば、4~20μm)における放射効率が均一ではなく、人体等の動植物による遠赤外線の吸収および放射が不十分であるという問題があった。
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、所定の波長域において、放射率の平均値が高い赤外線放射材料を含む赤外線放射樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上より、本発明の態様は、以下の通りである。
【0010】
[1]赤外線放射材料と樹脂とを含む赤外線放射樹脂組成物であって、
赤外線放射材料は、二酸化チタンと、焼成ハイドロタルサイト類化合物と、ナノサイズダイヤモンドと、を含み、
赤外線放射材料において、二酸化チタンと、焼成ハイドロタルサイト類化合物との質量比が60:40~90:10であり、ナノサイズダイヤモンドの含有量が、二酸化チタンと焼成ハイドロタルサイト類化合物との合計100質量部に対して0.01質量部以上0.5質量部以下である赤外線放射樹脂組成物である。
【0011】
[2]赤外線放射樹脂組成物は、赤外線放射材料が樹脂中に分散した板状、筒状、シート状、または、繊維状である[1]に記載の赤外線放射樹脂組成物である。
【0012】
[3]二酸化チタンの平均粒子径が10nm以上1000nm以下である[1]または[2]に記載の赤外線放射樹脂組成物である。
【0013】
[4]焼成ハイドロタルサイト類化合物の平均粒子径が10nm以上1000nm以下である[1]から[3]のいずれかに記載の赤外線放射樹脂組成物である。
【0014】
[5]ナノサイズダイヤモンドの二次粒子の平均粒子径が5nm以上200nm以下である[1]から[4]のいずれかに記載の赤外線放射樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、所定の波長域において、放射率の平均値が高い赤外線放射材料を含む赤外線放射樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、ブランクの試料について、波長が5~20μmにおける遠赤外線放射率を示すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例1A-1~1A-3の試料について、波長が5~20μmにおける遠赤外線放射率を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例1A-4~1A-6の試料について、波長が5~20μmにおける遠赤外線放射率を示すグラフである。
【
図4】
図4は、比較例1B-1~1B-3の試料について、波長が5~20μmにおける遠赤外線放射率を示すグラフである。
【
図5】
図5は、比較例1B-4~1B-6の試料について、波長が5~20μmにおける遠赤外線放射率を示すグラフである。
【
図6】
図6は、比較例1B-7および1B-8の試料について、波長が5~20μmにおける遠赤外線放射率を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例AMF-1、比較例BMF-1およびブランクL-1のレギンスの着用前と20分着用後における大腿部の体表温度を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例NWA-1、比較例NWB-1およびブランクBL-1の不織布シートを加熱してから140秒後までにおける不織布シートの温度変化を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例NHA-1の不織布ボードを設置した乾燥装置と、実施例NHA-1の不織布ボードを設置していない乾燥装置と、を用いた乾燥実験における木材の含水率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、具体的な実施形態に基づき、以下の順序で詳細に説明する。
1.赤外線放射樹脂組成物
1.1.赤外線放射材料
1.2.二酸化チタン
1.3.焼成ハイドロタルサイト類化合物
1.4.ナノサイズダイヤモンド
2.赤外線放射樹脂組成物の製造方法
【0018】
(1.赤外線放射樹脂組成物)
本実施形態に係る赤外線放射樹脂組成物は、赤外線放射材料と樹脂とを有している。赤外線放射材料は粉末状であることが好ましく、赤外線放射樹脂組成物において、赤外線放射材料粉末が樹脂中に分散していることが好ましい。赤外線放射材料については後述する。
【0019】
樹脂としては、赤外線放射樹脂組成物の用途に応じて、公知の樹脂を用いることができる。公知の樹脂としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリウレタン、アクリル、ナイロン、ポリ乳酸系樹脂、エポキシ樹脂等の熱可塑性樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂等の熱硬化性樹脂、天然ゴム、合成ゴム等のゴム、レーヨン等の再生樹脂等が挙げられる。本実施形態では、ポリオレフィン系のポリプロピレンやポリエチレン;ポリエステル系のポリエチレンテレフタレート;ナイロン等が好適に用いられる。
【0020】
赤外線放射樹脂組成物は用途に応じて種々の形状に成形されて使用される。本実施形態では、赤外線放射樹脂組成物は、板状、筒状、シート状、または、繊維状であることが好ましく、繊維状であることがより好ましい。繊維状の赤外線放射樹脂組成物においては、繊維状の樹脂中に赤外線放射材料が分散している。
【0021】
繊維状の赤外線放射樹脂組成物は、紡糸工程により繊維化されたものである。このような繊維は、化学的手法を用いて人工的に製造された化学繊維である。化学繊維には、天然繊維以外の繊維が含まれ、たとえば、合成繊維(ポリエステル系、ポリアミド系)、半合成繊維(セルロース系)、再生繊維(セルロース系)等が含まれる。
【0022】
赤外線放射材料と樹脂との配合比は、用途に応じて設定すればよい。本実施形態では、赤外線放射樹脂組成物が板状、筒状、シート状である場合には、樹脂100質量部に対して、赤外線放射材料が10質量部以上20質量部以下であることが好ましい。また、赤外線放射樹脂組成物が繊維状である場合には、樹脂100質量部に対して、赤外線放射材料が0.5質量部以上2.0質量部以下であることが好ましい。
【0023】
(1.1.赤外線放射材料)
赤外線放射材料は、遠赤外線を放射する材料である。本実施形態では、特に、物質、人体、動植物等に含まれる水分子を励起するのに適した波長を有する遠赤外線を放射する材料であることが好ましい。また、当該赤外線放射材料は、波長が5μmから20μmの範囲、特に好ましくは、7μmから14μmの範囲内において遠赤外線放射率が高い材料であることが好ましい。遠赤外線放射率は、フーリエ変換赤外分光光度計(Fourier Transform Infrared Spectroscopy:FTIR)を用いて、たとえば、遠赤外線協会が認定する測定方法に基づき測定することができる。
【0024】
本実施形態では、赤外線放射材料は、二酸化チタンと、焼成ハイドロタルサイト類化合物と、ナノサイズダイヤモンドと、を含んでいる。また、赤外線放射材料において、二酸化チタンと、焼成ハイドロタルサイト類化合物との質量比が60:40~90:10であり、ナノサイズダイヤモンドの含有量が、二酸化チタンと焼成ハイドロタルサイト類化合物との合計100質量部に対して0.01質量部以上0.5質量部以下である。
【0025】
二酸化チタンと焼成ハイドロタルサイト類化合物との質量比が上記の範囲内であることにより、本実施形態に係る赤外線放射材料の遠赤外線放射効率を高めることができる。
【0026】
二酸化チタンと焼成ハイドロタルサイト類化合物との質量比は、70:30~80:20であることが好ましい。
【0027】
また、ナノサイズダイヤモンドは、熱伝導率が極めて高いため、赤外線放射材料がナノサイズダイヤモンドを含むことにより、赤外線放射材料の赤外線放射熱エネルギーの吸収・放射効率を上げることができる。したがって、ナノサイズダイヤモンドの含有量を上記の範囲内とすることにより、本実施形態に係る赤外線放射材料の遠赤外線放射効率を高めることができ、さらに、波長が5μmから20μmの範囲内において放射効率を均一にすることができる。ただし、コストの観点から、ナノサイズダイヤモンドの含有量の上限は上記の値に設定される。
【0028】
ナノサイズダイヤモンドの含有量は、二酸化チタンと焼成ハイドロタルサイト類化合物との合計100質量部に対して、0.02質量部以上0.2質量部以下であることが好ましい。
【0029】
(1.2.二酸化チタン)
二酸化チタンは、結晶構造の違いにより、アナタース型(正方晶)、ルチル型(正方晶)、ブルッカイト型(斜方晶)が存在する。本実施形態では、二酸化チタンの結晶構造は特に制限されないが、工業原料としての入手性の観点から、アナタース型またはルチル型であることが好ましい。また、二酸化チタンを工業的に製造する方法としては、塩素法および硫酸法が知られているが、本実施形態では、二酸化チタンの製造方法は特に制限されない。
【0030】
本実施形態では、二酸化チタンは粉末状であることが好ましい。二酸化チタン粉末の平均粒子径D50は、10nm以上1000nm以下であることが好ましく、100nm以上700nm以下であることがより好ましい。本実施形態では、平均粒子径D50はレーザー回折法により測定された数値である。
【0031】
上記の二酸化チタンの市販品としては、石原産業社製「CR-60」(ルチル型)、石原産業社製「A-100」(アナタース型)、富士チタン社製「TAF-520」(アナタース型)、富士チタン社製「TA301」(アナタース型)、テイカ社製「JR-800」(ルチル型)、テイカ社製「JA-1」(アナタース型)、堺化学工業製「SA-1」(アナタース型)、堺化学工業社製「R-11.P」(ルチル型)等が例示される。
【0032】
(1.3.焼成ハイドロタルサイト類化合物)
ハイドロタルサイト類化合物は、化学式Mg1-xAlx(OH)2(CO3)x/2・mH2Oで表される層状の無機化合物である。化学式から明らかなように、ハイドロタルサイト類化合物は結晶水を含んでおり、層間に存在している。ハイドロタルサイト類化合物を加熱すると、約180~230℃付近で結晶水の脱離が生じる。
【0033】
一方、本実施形態に係る赤外線放射樹脂組成物は、赤外線放射材料を樹脂に配合して得られるが、配合時における各処理(混練、架橋等)が200℃以上に加熱して行われる場合がある。この時、赤外線放射樹脂組成物がハイドロタルサイト類化合物を含んでいると、ハイドロタルサイト類化合物に含まれる結晶水が脱離して、赤外線放射樹脂組成物中に混入し、赤外線放射樹脂組成物の成形不良や発泡等の不具合が生じることがある。
【0034】
そこで、本実施形態では、上記の不具合を抑制するために、ハイドロタルサイト類化合物に含まれる結晶水を脱離して得られる焼成ハイドロタルサイト類化合物を用いる。具体的には、結晶水の脱離により、焼成ハイドロタルサイト類化合物において、上記の化学式中の「m」は、0≦m≦0.05の範囲内であることが好ましい。
【0035】
「m」の範囲を0≦m≦0.05とするには、たとえば、ハイドロタルサイト類化合物を所定の乾燥条件で乾燥すればよい。乾燥条件は特に制限されないが、たとえば、乾燥温度は120~350℃であることが好ましく、130~340℃であることがより好ましく、140~330℃であることがさらに好ましい。また、乾燥時間は1~24時間であることが好ましく、1.5~22時間であることがより好ましく、2~20時間であることがさらに好ましい。
【0036】
本実施形態では、焼成ハイドロタルサイト類化合物は粉末状であることが好ましい。焼成ハイドロタルサイト類化合物粉末の平均粒子径D50は、10nm以上1000nm以下であることが好ましく、100nm以上700nm以下であることがより好ましい。本実施形態では、平均粒子径D50はレーザー回折法により測定された数値である。
なお、二酸化チタン粉末の平均粒子径と、焼成ハイドロタルサイト類化合物粉末の平均粒子径とは同程度であることが好ましい。
【0037】
上記の焼成ハイドロタルサイト類化合物の市販品としては、協和化学工業社製「DHT-4C」(Mg4.3Al2(OH)12.6CO3・mH2O:0≦m≦0.05)、協和化学工業社製「DHT-4A-2」(Mg4.3Al2(OH)12.6CO3・mH2O:0≦m≦0.05)、堺化学工業社製「HT-9」(Mg1-xAlx(OH)x/2CO3・mH2O:0≦x≦0.5、0≦m≦0.05)等が例示される。
【0038】
(1.4.ナノサイズダイヤモンド)
ナノサイズダイヤモンドは、微細な粒子状ダイヤモンドであり、ダイヤモンド構造を有するコアの表層が、アモルファス炭素、グラフェン、グラファイト等の炭素層で被覆されている。ナノサイズダイヤモンドは、赤外線により励起され、波長が1~10μm程度の赤外線を放射する。励起されるキャリア数が酸化物に比べて多いので、ナノサイズダイヤモンドの含有量が上記の範囲内であっても、十分に遠赤外線放射効率を高くすることができる。
【0039】
本実施形態では、ナノサイズダイヤモンドは、一次粒子径が2~7nm程度のダイヤモンド粒子の凝集体から構成される二次粒子の集合体である。二次粒子の平均粒子径D50は、50nm以上200nm以下であることが好ましく、80nm以上150nm以下であることがより好ましい。本実施形態では、ナノサイズダイヤモンドの平均粒子径D50は、レーザー光を用いる動的光散乱法により測定された数値である。
【0040】
ナノサイズダイヤモンドの製造方法は特に制限されないが、通常、爆発法により製造される。爆発法では、炭素を含む火薬を密閉した状態で爆発させ、爆発時に得られる高温高圧下で火薬中の一部の炭素の結晶構造がダイヤモンド構造に変化することにより、微細な粒子状ダイヤモンドが得られる。
【0041】
上記のナノサイズダイヤモンドの市販品としては、ダイヤマテリアル社製「SCMナノダイヤ」(平均粒子径D50:50~100nm)、ナノ炭素研究所社製「NanoAmando」(平均粒子径 一次粒子:2.6nm±0.5nm,二次粒子:50nm)、ダイセル社製「ディノベア」(平均粒子径 一次粒子:4~6nm)等が例示される。
【0042】
(2.赤外線放射樹脂組成物の製造方法)
本実施形態に係る赤外線放射樹脂組成物は、樹脂と赤外線放射材料とを混合することにより混合物として得られる。混合物中では、赤外線放射材料が樹脂中に分散していることが好ましい。
【0043】
樹脂と赤外線放射材料との混合は、たとえば、公知の混練機を用いて、樹脂と赤外線放射材料とを溶融混練することにより行われる。公知の混練機としては、ミキサー、ニーダー、ロール、押出機等が例示される。また、樹脂と赤外線放射材料との混合物は、赤外線放射材料を高濃度で含むマスターバッチを作製し、マスターバッチと残りの樹脂原料とを混練して得てもよい。
【0044】
本実施形態では、得られた赤外線放射樹脂組成物は、用途に応じて、所定の形状に成形することが好ましい。赤外線放射樹脂組成物の成形は、上記の混合と同時に行ってもよい。
【0045】
赤外線放射樹脂組成物を板状、筒状、シート状に成形する場合には、射出成形、押出成形、Tダイ成形、カレンダー成形等の成形方法を用いることが好ましい。また、赤外線放射樹脂組成物を繊維状に成形する場合には、溶融紡糸、乾式紡糸、湿式紡糸、遠心紡糸等の紡糸方法を用いることが好ましい。繊維状に成形された赤外線放射樹脂組成物は、たとえば、織物、編物、不織布、フェルト、パンチングシート等に加工される。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。
【実施例0047】
以下、実施例を用いて、発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
(試験1)
赤外線放射材料の原料として、二酸化チタン粉末(富士チタン社製「TA301」)と、焼成ハイドロタルサイト類化合物粉末(堺化学工業社製「HT-9」)と、ナノサイズダイヤモンド粉末(ナノ炭素研究所社製「NanoAmando」)とを準備した。二酸化チタン粉末の平均粒子径D50は580nmであり、焼成ハイドロタルサイト類化合物粉末の平均粒子径D50は500nmであり、ナノサイズダイヤモンドの二次粒子の平均粒子径は50nmであった。
【0049】
準備した二酸化チタン粉末、焼成ハイドロタルサイト類化合物粉末およびナノサイズダイヤモンドを表1に示す配合で混合して、赤外線放射材料を得た。なお、比較例1B-8については、二酸化チタン粉末90質量部と二酸化ケイ素粉末(トクヤマ社製「レオロシール(登録商標)MT-10」)10質量部と酸化イットリウム(信越レアアース社製「3NUU」)5質量部とを混合して赤外線放射材料を得た。
【0050】
【0051】
得られた赤外線放射材料における二酸化チタンと焼成ハイドロタルサイト類化合物との合計質量と、ポリエチレン樹脂の質量との比が1:9となるように配合して、混練機(ブラベンダ-社製「プラスチコーダーラボスティーション W50EHT型」)を用いて、回転数50rpm、樹脂温度180℃で10分間混練してペレットを得た。
【0052】
得られたペレットに対して、プレス成形機(東邦プレス製作所社製)を用いて、加熱温度:200℃、ゲージ圧:10Mpaの条件で熱プレスを行い、100mm×100mm×0.6mmの寸法を有するシート状の赤外線放射樹脂組成物を得た。
【0053】
なお、比較例1B-7については、ポリエチレン樹脂100質量部に対して、ナノサイズダイヤモンドを0.005質量部配合し、上記のようにして、シート状の赤外線放射樹脂組成物を得た。また、比較例1B-8については、二酸化チタンと二酸化ケイ素との合計質量と、ポリエチレン樹脂の質量との比が1:9となるように配合し、上記のようにして、シート状の赤外線放射樹脂組成物を得た。さらに、ブランクとして、上記のようにして、赤外線放射材料を含まずポリエチレン樹脂のみからなるシート状の樹脂組成物を得た。
【0054】
得られた赤外線放射樹脂組成物に対して、以下のようにして、遠赤外線分光放射率を測定した。得られたシート状の赤外線放射樹脂組成物から、40mm×40mmの寸法を有する試験片を切り出し、遠赤外線分光放射率測定機(パーキンエルマー社製「SpectrumOne Frontier T」)を用いて、測定温度:40℃、環境温度:20℃、湿度:65%の条件で、FT-IR法により、遠赤外線の波長範囲(5~20μm)において遠赤外線分光放射率を測定した。また、ブランクの試料についても、上記の条件で、遠赤外線分光放射率を測定した。測定結果から、遠赤外線の波長範囲(7~14μm)において、ブランクの平均放射率を算出すると、83.375%であった。
【0055】
本実施例では、社団法人遠赤外線協会が規定する「遠赤外線繊維製品評価基準」における評価項目「放射特性、分光放射率」の基準を考慮して、遠赤外線の波長範囲(7~14μm)において、平均放射率が92.0%以上である試料を良好であると判断した。結果を表2および
図1~6に示す。
【0056】
【0057】
表2および
図1~6より、赤外線放射材料が上述した成分を含み、その含有量が上述した範囲内である場合に、平均放射率が高い赤外線放射樹脂組成物が得られることが確認できた。
【0058】
(試験2)
赤外線放射材料の原料として、二酸化チタン粉末(石原産業社製「CR-60」)と、焼成ハイドロタルサイト類化合物粉末(堺化学工業社製「HT-9」)と、ナノサイズダイヤモンド粉末(ナノ炭素研究所社製「NanoAmando」)とを準備した。二酸化チタン粉末の平均粒子径D50は210nmであり、焼成ハイドロタルサイト類化合物粉末の平均粒子径D50は500nmであり、ナノサイズダイヤモンドの二次粒子の平均粒子径D50は50nmであった。
【0059】
準備した二酸化チタン粉末85質量部、焼成ハイドロタルサイト類化合物粉末15質量部およびナノサイズダイヤモンド0.02質量部を混合して、赤外線放射材料(実施例2A-1)を得た。実施例2A-1の赤外線放射材料と、ナイロン樹脂との質量比が1:9となるように配合して、樹脂溶解混練装置(東洋精機所社製「50C型150」)を用いて、加熱温度:270℃、回転数:100rpmの条件で混練を行い、マスターバッチ2AM-1を作製した。
【0060】
次に、得られたマスターバッチ2AM-1と、ナイロン樹脂との質量比が1:9となるように配合して、マルチフィラメント製造装置(ムサシノキカイ製)を用いて、加熱温度:280℃の条件で、溶融紡糸により、繊度が88dtex、フィラメント数が36fであるナイロンマルチフィラメント糸AMF-1を作製した。
【0061】
作製したナイロンマルチフィラメント糸AMF-1をPOY・DTY方式(高速で紡糸することにより、一部の延伸を行いPOY(半延伸糸;Partially Oriented Yarn)として、そのPOYを延伸・仮撚り工程を経て、DTY(延伸加工糸;Draw Textured Yarn)とする方法)にて、仮撚りPOY延伸ローラ巻き取り速度:4,000m/minの条件で、POY糸を作り、延伸加工糸DTY:3,200t/mの撚りをかけ、ヒートセット後、撚りを戻し、かさ高く伸縮性のある糸に加工した。
【0062】
加工したAMF-1を、丸編機にて、生地を作製し、レギンス(AMF-1)を作製した。
【0063】
二酸化チタン粉末50質量部、焼成ハイドロタルサイト類化合物粉末50質量部およびナノサイズダイヤモンド0.005質量部を混合して得られた赤外線放射材料(比較例2B-3)を用いた以外は、上記と同じ方法により、ナイロンマルチフィラメント糸BMF-1を作製し、作製したナイロンマルチフィラメント糸BMF-1を用いて、レギンス(BMF-1)を作製した。
【0064】
さらに、赤外線放射材料を含まずナイロン樹脂からなる樹脂組成物を用いた以外は、上記と同じ方法により、ナイロンマルチフィラメント糸L-1を作製し、作製したナイロンマルチフィラメント糸L-1を用いて、レギンス(L-1)を作製した。
【0065】
以下に示す試験方法に従い、得られたレギンスを着用し、脱衣後の体表温度を測定することにより、レギンスの保温性を評価した。
【0066】
被験者が、室内温度:20℃、室内湿度:65%に維持された実験室内に入室後、座位にて安静状態を保ち、サーモグラフィ(FLIR Systems Inc.製FLIR A615)を用いて、測定部位(大腿部)の体表温度を測定し、安定した時点での体表温度を着用前の体表温度とした。確認後、上記で作製したレギンスを着衣し座位にて安静状態を保ち、20分後にレギンスを脱衣した。サーモグラフィ(FLIR Systems Inc.製「FLIR A615」)を用いて脱衣直後の大腿部の体表温度を測定した。結果を表3および
図7に示す。
【0067】
【0068】
表3および
図7より、レギンス(AMF-1)の保温性が高いことが確認できた。
【0069】
(試験3)
赤外線放射材料の原料として、二酸化チタン粉末(石原産業社製「A-100」)と、焼成ハイドロタルサイト類化合物粉末(協和化学工業社製「DHT-4A-2」)と、ナノサイズダイヤモンド粉末(ダイヤマテリアル社製「SCMナノダイヤ」)とを準備した。二酸化チタン粉末の平均粒子径D50は100nmであり、焼成ハイドロタルサイト類化合物粉末の平均粒子径D50は400nmであり、ナノサイズダイヤモンドの二次粒子の平均粒子径D50は50~100nmであった。
【0070】
準備した二酸化チタン粉末80質量部、焼成ハイドロタルサイト類化合物粉末20質量部およびナノサイズダイヤモンド0.03質量部を混合して、赤外線放射材料(実施例3A-3)を得た。実施例3A-3の赤外線放射材料と、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂との質量比が1:9となるように配合して、樹脂溶解混練装置(東洋精機所社製「50C型150」)を用いて、加熱温度:280℃、回転数:100rpmの条件で混練を行い、マスターバッチ3MA-1を作製した。
【0071】
次に、得られたマスターバッチ3MA-1と、PET樹脂との質量比が1:9となるように配合して、短繊維紡糸延伸製造装置を用いて、加熱温度:280℃の条件で、溶融紡糸により、繊度が6.6dtex、繊維長51mmのPET樹脂ステープル糸PSA-1を作製した。
【0072】
作製したステープル糸PSA-1を原料として、カード機(池上機械社製「H2DS」)を用いてウェブを形成した。形成したウェブをレーヤー機(池上機械社製「IK30-2」)にて、何層にも積層し、それを不織布ニードルパンチ機(フェラー社製「NL21」)により幅:1000mm、生地厚み:100g/m2のPET不織布NWA-1を作製した。
【0073】
二酸化チタン粉末20質量部および焼成ハイドロタルサイト類化合物粉末80質量部を混合して得られた赤外線放射材料(比較例3B-4)を用いた以外は、上記と同じ方法により、PET樹脂ステープル糸PSB-1を作製し、作製したステープル糸PSB-1を用いて、PET不織布NWB-1を作製した。
【0074】
さらに、赤外線放射材料を含まずナイロン樹脂からなる樹脂組成物を用いた以外は、上記と同じ方法により、PET樹脂ステープル糸BL-1を作製し、作製したステープル糸BL-1を用いて、PET不織布BL-1を作製した。
【0075】
作製したPET不織布を加熱した際の温度変化を以下のようにして測定した。
【0076】
得られたPET不織布から、200mm×150mmの寸法を有する試験片を切り出した。切り出した試験片を、試験片を挟んで対向するように配置された2台のハロゲンランプ(CASTER社製「CHP-500」)を用いて試験片の上方斜め方向から加熱し、加熱開始から140秒までにおける試験片(PET不織布)の平均温度を測定した。ハロゲンランプの出力は500Wであった。試験片の平均温度は、試験片の上方から、赤外線カメラ(FLIR Systems Inc.製「FLIR SC655」)を用いて、7.5~14μmのスペクトルを検出して測定した。結果を表4および
図8に示す。
【0077】
【0078】
表4および
図8より、PET不織布NWA-1から放射される熱エネルギーが高いことが確認できた。
【0079】
(試験4)
実施例3A-3の赤外線放射材料と、PET樹脂との質量比が1:9となるように配合して、樹脂溶解混練装置(東洋精機所社製「50C型150」)を用いて、加熱温度:280℃、回転数:100rpmの条件で混練を行い、マスターバッチ3MA-1を作製した。
【0080】
次に、得られたマスターバッチ3MA-1と、PET樹脂との質量比が1:9となるように配合して、短繊維紡糸延伸製造装置を用いて、加熱温度:280℃の条件で、溶融紡糸により、繊度が8.8dtex、繊維長が51mmのPET樹脂ステープル糸PSA-2を作製した。
【0081】
作製したステープル糸PSA-2を原料として、カード機(池上機械社製「H2DS」)を用いてウェブを形成した。形成したウェブをレーヤー機(池上機械社製「IK30-2」)にて、何層にも積層し、それを不織布ニードルパンチ機(フェラー社製「NL21」)により900mm×900mm×5mmの寸法を有し、生地厚み:350g/m2の不織布ボードNHA-1を作製した。
【0082】
作製した不織布ボードNHA-1を木材乾燥装置に適用して、以下のようにして、木材の乾燥を評価した。
【0083】
木材乾燥装置として、IF型蒸気式木材乾燥装置(ヒルデブランド社製)を用いた。IF型蒸気式木材乾燥装置では、送風機が乾燥室内に設置されており、乾湿温度センサーにより湿度が制御された蒸気を、送風機を用いて室内に循環させることにより乾燥が行われる。
【0084】
作製した不織布ボードNHA-1を、IF型蒸気式木材乾燥装置の乾燥室内部(壁面および天井)に隙間なく設置して、2300mm×82mm×82mmの寸法を有する木材170本および1150mm×82mm×82mmの寸法を有する木材200本を含水率センサー上に載置して乾燥室内に設置し、1085時間蒸気乾燥を行い、木材(被乾燥材)の含水率の変化を測定した。蒸気乾燥では、温度を80℃に維持した状態で、湿度が100%の蒸気を所定時間供給する操作と、温度を80℃よりも低くした状態で、湿度が100%未満の蒸気を所定時間供給する操作と、を組み合わせた。
【0085】
次に、不織布ボードNHA-1を撤去した以外は、上記と同じ条件により、木材の蒸気乾燥を行った。含水率の変化の結果を
図9に示す。
【0086】
また、蒸気乾燥後の木材について、表面割れおよび落ち込みの有無について評価した。結果を表5に示す。
【0087】
【0088】
図9より、不織布ボードNHA-1を設置した場合には、不織布ボードNHA-1を設置しない場合に比べて、含水率の変化が小さく抑制されていることが確認できた。その結果、表5に示すように、含水率の低下に伴う木材の収縮に起因する応力が抑制され、木材の表面割れおよび落ち込み等の損傷が抑制できたと考えられる。
本発明に係る赤外線放射樹脂組成物は、所定の波長域において、放射率の平均値が高い赤外線放射材料を含んでいるので、保温性が求められる衣料等に用いられる繊維や、種々の材料の乾燥に用いられる材料として好適である。