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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132660
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】多機能不織布
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/16 20060101AFI20230914BHJP
   D01F 1/10 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
D04H3/16
D01F1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038119
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】奥 恭行
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 明
【テーマコード(参考)】
4L035
4L047
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035EE11
4L035FF05
4L035GG03
4L035KK01
4L035KK05
4L047AA14
4L047AA29
4L047BA09
4L047BB02
4L047CC12
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、圧力損失が低く、捕集効率及び耐久性に優れ、銀杏エキスによる抗菌性、抗ウイルス性、抗アレルゲン性などの機能を有する多機能不織布を提供することにある。
【解決手段】樹脂と銀杏エキスとを含む繊維を含有することを特徴とする多機能不織布であり、エレクトレット処理が施されていることが好ましく、繊維が帯電促進剤をさらに含むことがより好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と銀杏エキスとを含む繊維を含有することを特徴とする多機能不織布。
【請求項2】
エレクトレット処理が施されている請求項1記載の多機能不織布。
【請求項3】
繊維が帯電促進剤をさらに含む請求項1又は2記載の多機能不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多機能不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新型コロナウイルスによるパンデミック、新型インフルエンザの世界的流行、鳥インフルエンザの変異による人への感染リスク、O157等の細菌による人間の生命を脅かす感染症が広がりをみせ、世界的にその対策が急がれている。
【0003】
また、生活環境の変化に伴い、かゆみ、鼻水、涙、くしゃみ、咳(喘息)といったアレルギー症状を訴える人が増加し、大きな社会問題となっている。アレルギーを誘発する物質として、杉、檜、セイタカアワダチソウ等の花粉といった植物由来物質、ダニの糞、死骸、犬、猫等の体毛といった動物由来物質のタンパク質アレルゲン(アレル物質)が注目され、これらを如何に除去するかが課題とされている。
【0004】
これら、細菌・ウイルス、アレル物質は、生活空間内での浮遊、生活用品などの付着、あるいは対人、対動物などを通して、体内に入り込まれることで、感染症を引き起こすとされ、何らかの方法で除去、捕集・不活性化できれば、ウイルスや細菌においては感染リスクを低減し、アレル物質においてはその症状が緩和できると考えられる。
【0005】
このような背景から、空気清浄機、冷暖房機器などの空調機器の主要部品であるフィルターに対する期待は大きく、高捕集効率、細菌・ウイルス、アレル物質の不活性化など、要求性能も多様化しているが、現状では、全ての課題に高レベルで対応することは難しく、技術は未だ十分とは言えない。
【0006】
民間レベルでの健康志向、衛生観念の高まりを受け、細菌・ウイルス、アレル物質の不活性化に活用できる機能性薬剤が開発され、その機能性薬剤を付与した繊維製品として、フィルター、マスク、ワイパー、カーテン、壁紙、生活雑貨などの応用製品の開発が進んでいるが、これら機能性薬剤に対しては安心、安全性に対する要求は厳しい。
【0007】
古くから植物由来のエキスには多くの生理活性作用が報告されており、健康食品や飲料に用いられている。中でも、銀杏から抽出されたエキス(銀杏エキス)に含まれる有効成分には、循環器機能改善、血流促進改善、老化防止、健胃、健眼、健脳などの様々な有用な機能を有することが知られている。銀杏エキスには、多数のフラボノール配糖体、ギンコライド、ビバロイドなど、銀杏に固有の物質が含有されており、これらが他の植物エキスに見られない特異な生理活性を示すものと推測される。
【0008】
銀杏の葉から抽出された銀杏葉エキスの有用性に着目し、通気性基材に銀杏葉エキスを担持させたエアフィルターが開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、特許文献1の技術は、抗菌・抗ウイルス、抗アレルゲン性を示すものとして開示されているが、圧力損失が上昇する場合や捕集効率が低い場合があり、また、耐久性にも課題が残る場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2006/011541号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、圧力損失が低く、捕集効率及び耐久性に優れ、銀杏エキスによる抗菌性、抗ウイルス性、抗アレルゲン性などの機能を有する多機能不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するため鋭意研究を行った結果、以下の多機能不織布を発明するに至った。
【0012】
すなわち本発明は以下の構成からなる。
(1)樹脂と銀杏エキスとを含む繊維を含有することを特徴とする多機能不織布。
(2)エレクトレット処理が施されている上記(1)記載の多機能不織布。
(3)繊維が帯電促進剤をさらに含む上記(1)又は(2)記載の多機能不織布。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、圧力損失が上昇しにくく、捕集効率及び耐久性に優れ、銀杏エキスによる抗菌性、抗ウイルス性、抗アレルゲン性などの機能を有する多機能不織布を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、樹脂と銀杏エキスとを含む繊維を含有することを特徴とする多機能不織布である。
【0015】
銀杏エキスとは、銀杏から抽出されたエキスであり、具体的には、銀杏の葉、種子、樹皮、樹幹等から抽出されたエキスである。銀杏エキスは、植物由来物質又は動物由来物質のタンパク質アレルゲン(アレル物質)を構成するタンパク質を変成することができる。特に、銀杏の葉から抽出されたエキス(銀杏葉エキス)は、アレル物質を低減化させるだけでなく、抗菌作用、抗ウイルス作用を発現することもできるため、好ましい材料である。
【0016】
銀杏エキスの抽出法には、特に制限はなく、これまでに開示された方法によって得ることができる。一例を上げると、水、エチルアルコール、アセトン、エチルエーテル、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、酢酸等の溶剤を用いて、銀杏の葉、種子等より、銀杏エキスを抽出することができる。抽出操作には、特に制限はないが、銀杏エキスを効率的に抽出可能な量の溶媒を用いて抽出すればよい。また、抽出温度は10~80℃が好ましく、抽出時間は1~24時間が好ましい。
【0017】
本発明では、上記のようにして得られた銀杏エキスの抽出液をそのまま用いても良いし、必要に応じ、常法に従って精製、濃縮、乾燥した粉体として用いても良いし、市販されている銀杏エキスを購入して用いてもよい。
【0018】
特許文献1に開示されているエアフィルターでは、銀杏葉エキスがバインダーによって通気性基材に担持されているため、バインダーの影響により、圧力損失が高くなりやすい。本発明の多機能不織布は、樹脂と銀杏エキスとを含む繊維を含有することを特徴としていることから、バインダーによる悪影響が抑制される。また、捕集効率及び耐久性に優れ、銀杏エキスによる抗菌性、抗ウイルス性、抗アレルゲン性などの機能が効率良く発現し、エアフィルターとして高性能である多機能不織布を提供することができる。
【0019】
樹脂に対する銀杏エキスの配合量は、0.1~10質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましい。該配合量が0.1質量%より少ないと、抗菌性・抗ウイルス性、抗アレルゲン性という機能の発現が弱くなる場合がある。該配合量が10質量%を超えると、該機能の発現には問題ないが、繊維を紡糸するために必要な樹脂の流動性が低下する場合があり、生産性が低下する場合や紡糸性が悪くなる場合がある。また、繊維強度も弱くなる場合があり、得られる不織布の強度が低下する場合がある。さらに、銀杏エキスの配合量が多くなると、コストアップにもつながる。そして、銀杏エキスは天然物であり、加温と時間により変色が進むため、商品価値の低下を招く場合がある。
【0020】
本発明において、多機能不織布が含有する繊維の樹脂は、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリスチレン、ゴム補強ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂)等のスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂;ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル等のポリエーテル系樹脂;ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド等のエンジニアリング樹脂;熱可塑性エポキシ樹脂などが例示される。これらの熱可塑性樹脂は、1種を使用しても良いし、2種以上を使用しても良い。本発明で使用できる熱可塑性樹脂は、上記の熱可塑性樹脂に限定されるものではない。
【0021】
繊維は単一構造のものでもよいし、二成分を用いた芯鞘構造からなる複合繊維であってもよい。芯鞘構造の場合、銀杏エキスは鞘成分の樹脂に含まれていることが好ましい。
【0022】
天然物である銀杏エキスを樹脂に直接練り込むためには、銀杏エキスの耐熱性に留意する必要がある。おおむね200℃より低い温度で樹脂と銀杏エキスとの混練を行うことが好ましい。
【0023】
安価で入手しやすく、軽量であること、融点が180℃程度と低いこと、減成により流動性の高い樹脂を作りやすいため、より細い繊維を紡糸しやすいという観点から、熱可塑性樹脂がポリプロピレンであることが好ましい。また、後述するエレクトレット処理を行った場合、帯電しやすく、高捕集効率の多機能不織布を作りやすいという観点からも、熱可塑性樹脂がポリプロピレンであることが最も好ましい。
【0024】
樹脂と銀杏エキスとを含む繊維の平均繊維径は、1~10μmが好ましく、1~7μmがより好ましく、1~5μmがさらに好ましい。該平均繊維径が1μm未満の場合、繊維の生産性が悪くなる場合があり、得られる多機能不織布の生産性も悪くなる場合がある。また、繊維強度も弱くなる場合があり、得られる多機能不織布の強度も弱くなる場合がある。該平均繊維径が10μmを超えると、多機能不織布の表面積が小さくなり、繊維表面に抗菌性・抗ウイルス性等を発現させるために十分な銀杏エキスを分布させようとした場合、銀杏エキスの配合量が多くなり過ぎる場合がある。また、細菌・ウイルス、微細なアレル物質が得られた高機能不織布の繊維間をすり抜けてしまう可能性がある。
【0025】
本発明における平均繊維径は以下の方法で求める。光学顕微鏡にて倍率を500~1000倍に設定し任意に視野を選択する。各視野において深度の異なる画像を複数枚撮影し、これを合成した画像を得る。各画像においては、測定対象選択における個人差(私意)が入らないよう認識可能な繊維の繊維径の全数の測定を行う。得られた繊維径の数平均値として平均繊維径を算出する。
【0026】
本発明において、エレクトレット処理は、ハイドロチャージ処理やコロナ放電処理などの方法を選択して用いることができる。
【0027】
ハイドロチャージ処理とは、液体と固体の間に摩擦により発生する流動帯電の原理を利用する。具体的には、非導電性繊維を含有する不織布に液体である極性溶媒を浸透させ、速やかに吸引や乾燥などの方法で除去することにより,液体と固体表面に電荷分離が生じる静電気現象のことを指し、不織布に帯電処理を行うことができる(「流動帯電によるポリプロピレン不織布のエレクトレット特性」、繊維機械学会誌、2007年53巻6号、P.231-236)。
【0028】
また、不織布と極性溶媒との摩擦を促進させて帯電させる方法として、超音波発振子などで溶媒を高周波領域で振動させる方法を用いてもよい。
【0029】
コロナ放電処理とは、電極と金属アースの間に高圧電圧を印可し、電極と金属アース間に電流(コロナ放電)を流すことで、非導電性の樹脂内に電荷をトラップさせ、半永久的に帯電状態を保持させる処理である。多機能不織布をフィルターとして用いた場合に、圧力損失を上昇させることなく、多機能不織布による細菌・ウイルス、アレル物質等の粒子の捕集効率を向上させることができる。
【0030】
コロナ放電処理について、さらに具体的に説明する。コロナ放電処理は、交流コロナ処理と直流コロナ処理に分類される。本発明において、より高捕集効率の多機能不織布を得る方法としては、直流コロナ処理が好ましい。交流コロナ処理では、電圧は高くなるが、チャージされた電荷が正負で中和されるため、十分な捕集効率は得られない場合がある。電極の形状は針状が好ましい。
【0031】
本発明において、直流コロナ処理では、電極と金属アースの間の距離は5~100mmが好ましく、印可電圧は1~50KV/cmが好ましく、照射時間は0.5~10秒が好ましい。該距離が5mm未満の場合は、絶縁破壊によるスパークが発生する場合があり、該距離が100mmを超えると、帯電効果が低下する場合がある。該印可電圧が1KV/cm未満の場合は、帯電効果が低下する場合があり、該電圧が50KV/cmを超えると、絶縁破壊によるスパークが発生する場合がある。該照射時間が0.5秒未満の場合又は10秒を超えた場合、帯電効果が低くなる場合がある。
【0032】
本発明おいて、エレクトレット処理の効果を向上させるため、樹脂と銀杏エキスとを含む繊維が、帯電を促進させる添加剤(帯電促進剤)をさらに含むことが好ましい。帯電促進剤としては、樹脂の耐候性、耐光性、耐熱性を向上させることができる光安定化剤、酸化防止剤が好適であり、これらの帯電促進剤から一種類以上の帯電促進剤を選択して用いることができる。これらの帯電促進剤は、樹脂の分解(光、酸素、熱などによる)を促進するラジカルをトラップする作用機構を有し、エレクトレット処理により繊維・樹脂に照射される電荷を同様にトラップすることにより、捕集効率を向上させていると推定されている。
【0033】
光安定化剤としては、ヒンダードアミン系添加剤又はトリアジン系添加剤が挙げられる。ヒンダードアミン系添加剤としては、例えばポリ[[6-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ)]-1,6-ヘキサンジイル[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]](BASF社製、キマソーブ(登録商標)944FDL、CAS番号:70624-18-9)、コハク酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物(BASF社製、チヌビン(登録商標)622SF、CAS番号:65447-77-0)、上記キマソーブ944FDLとチヌビン622SFの混合物(BASF社製、チヌビン(登録商標)783)、(2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-n-ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)(BASF社製、チヌビン(登録商標)144、CAS番号:63843-89-0)、ポリ[(6-モルフォリノ-S-トリアジン-2,4-ジイル)〔2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル〕イミノ]-ヘキサメチレン[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ](サイテック社製、サイアソーブ(登録商標)UV-3346、CAS番号:82451-48-7)、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、及び1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β′,β′-テトラメチル-3,9-(2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン)ジエタノールとの縮合物(ADEKA社、アデカスタブ(登録商標)LA-63P、CAS番号:101357-36-2、85631-00-1)などが挙げられる。
【0034】
トリアジン系添加剤としては、例えば前述のポリ[[6-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ)]-1,6-ヘキサンジイル[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]](BASF社製、キマソーブ(登録商標)944FDL、CAS番号:70624-18-9)、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-((ヘキシル)オキシ)-フェノール(BASF社製、チヌビン(登録商標)1577FF、CAS番号:147315-50-2)などを挙げることができる。
【0035】
これらの中でも、光安定化剤としては、特にヒンダードアミン系添加剤が、エレクトレット処理による捕集効率向上効果が高いため、好ましい。光安定化剤は、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
光安定化剤の配合量としては、特に限定されないが、繊維質量に対して、好ましくは0.05~5質量%であり、より好ましくは0.1~3質量%である。光安定化剤の配合量が0.05質量%未満である場合、目的とするさらなる高レベルのエレクトレット処理による性能向上効果が得られない場合がある。また、該配合量が5質量%を超えると、コストがアップするだけでなく、紡糸性が低下する場合があり、繊維強度が弱くなる場合もある。
【0037】
酸化防止剤としては、例えば、N-フェニル-1,1,3,3-テトラメチルブチルナフタレン-1-アミン、ジフェニルアミン誘導体(ジフェニルアミンと2,4,4-トリメチルペンテンとの反応生成物)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-di-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ベンゼンプロパン酸,3,5-ビス(1,1-ジメチル-エチル)-4-ヒドロキシ-,C7-C9側鎖アルキルエステル等が挙げられる。これらの酸化防止剤のうちでは、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)が好ましい。これらの酸化防止剤は、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
酸化防止剤の配合量としては、特に限定されないが、繊維質量に対して、好ましくは0.1~5質量%であり、より好ましくは0.2~5質量%である。酸化防止剤の配合量が0.1~5質量%である場合、除塵性能、集塵性能等の効率を向上しやすい。また、経時的な捕集効率の低下を抑制することもできる。酸化防止剤の配合量が0.1質量%未満では、目的とするさらなる高レベルのエレクトレット処理による性能向上効果が得られない場合がある。また、該配合量が5質量%を超えると、コストがアップするだけでなく、紡糸性が低下する場合があり、繊維強度が弱くなる場合もある。
【0039】
本発明の多機能不織布は、下記の製造方法によって製造することができる。
【0040】
本発明の多機能不織布は、銀杏エキスを含む樹脂を紡糸して作製された連続繊維を、所望する繊維長にカットし、得られた25~75mm程度の繊維長のステープル繊維を用い不織布を製造する乾式法、あるいは3~25mm程度の繊維長のチョップド繊維を用いて不織布を製造する湿式法などの間接法で作製されたものでも良いし、樹脂から紡糸した繊維を直接不織布化するスパンボンド法、メルトブロー法、エレクトロスピニング法(特に溶融エレクトロスピニング法)などの直接法で製造されたものでも良い。生産効率が良く、生産工程が簡略である点から、銀杏エキスが混錬された樹脂から紡糸した繊維を直接不織布化するスパンボンド法、メルトブロー法、エレクトロスピニング法(特に溶融エレクトロスピニング法)などの直接法が好ましい。
【0041】
本発明における好ましい平均繊維径は先述した1~10μmである。直接法において、このような細い繊維を得やすい方法であるメルトブロー法がより好ましい。メルトブロー法を用いた場合、ポリプロピレンを例にとると、使用する熱可塑性繊維のメルトフローレート(MFR)は、500~2000g/10分が好ましい。
【0042】
メルトフローレートは、JIS K 7210-1:2014記載のメルトマスフローレートを指し、9項記載のB法を用い、230℃で溶融し、荷重2.16Kgの荷重下でのメルトボリュームレート値から、樹脂の溶融密度(例えば、ポリプロピレンの溶融密度は0.711g/cm)を乗ずることで、算出した流動性を示す値で、単位はg/10分である。数値が大きいほど、流動性は高い。
【0043】
メルトブロー法による不織布の製造方法は、原材料となる少なくとも一種類の樹脂を混練溶融する溶融工程、溶融した樹脂をノズルから吐出する紡糸工程、紡糸された繊維状樹脂を捕集し、完全に固化する前の繊維同士が融着する不織布化工程からなる。
【0044】
銀杏葉エキスと樹脂との混錬は、樹脂の流動性が発現する温度(例えば、ポリプロピレンの場合は180℃)以上で、銀杏エキスの加熱質量減少が顕著となる温度(220℃)以下で行うことが好ましい。220℃を超えた温度で混錬すると、銀杏エキスの生理活性が損なわれる場合がある。また、銀杏エキスが着色して外観上好ましくない場合もある。
【0045】
本発明においては、溶融された樹脂が紡糸工程に移行するときに、銀杏エキスが失活又は分解せず、樹脂内で均質に分散し、紡糸工程に影響を与えないように留意する必要がある。銀杏エキスを直接樹脂に添加する方法と、キャリア樹脂に銀杏エキスを混練して得られたマスターバッチを(希釈)樹脂に添加して用いる方法とがある。銀杏エキスは、比較的樹脂内で分散しやすい。銀杏エキスを樹脂内で均質に分散させることによって、銀杏エキスの性能を効率良く発現させ、生産性に影響を与えない方法としては、後者の方法が好ましく、具体的には、キャリア樹脂に銀杏エキスを混錬して得られたマスターバッチを、(希釈)樹脂にて希釈し、マスターバッチより低濃度で溶融混練する方法が好ましい。
【0046】
マスターバッチにおける銀杏エキスの配合量は、マスターバッチ全体に対して、5~50質量%が好ましく、さらに好ましくは5~30質量%である。該配合量が5質量%より少ないと、不織布製造時のマスターバッチの投入量が多くなり、紡糸性に影響を及ぼす場合がある。該配合量が50質量%より多いと、銀杏エキスが均質に分散した状態のマスターバッチを作製することが難しくなる場合がある。
【0047】
銀杏エキスの形状に特に制限はないが、溶融から混練への工程移行及び混練を行いやすいことから、粉体形状であることが好ましい。また、100メッシュ(150μm)通過区分が95質量%以上である銀杏エキスであることが好ましい。
【0048】
マスターバッチを作製するうえで、キャリア樹脂と銀杏エキスを混練する方法としては、連続式である一軸又は二軸以上の多軸を備えた押出機を用いてもよいし、バッチ式密閉型混練装置(例えば、国際公開2004/076044号パンフレット記載のバッチ式密閉型混練装置)などを用いてもよい。銀杏エキスには粉体状態で水分が含まれるため、前者押出機の場合、混練工程で発生する水蒸気をベントよりガス抜きしながら混練を行うとよい。後者の場合、圧力容器中で、加温せずにせん断発熱のみで混練することが可能であり、銀杏エキスの加熱質量減少が顕著となる温度以下で混練するために適した方法の一つである。
【0049】
マスターバッチの形状は、混練物を円形のダイから押し出したストランドをカットしたペレット状、混練物の塊がランダムに粉砕されたフレーク状が好ましい。
【0050】
キャリア樹脂のMFRは、30~500g/10分が好ましい。キャリア樹脂のMFRが30g/10分より低いと、得られたマスターバッチと希釈樹脂が混ざりにくく、混錬に時間がかかり、加温状態が長くなると、銀杏エキスが変色する場合がある。
【0051】
希釈樹脂とは、マスターバッチと混錬されることによって、マスターバッチに含まれる有効成分(銀杏エキス)を希釈する樹脂であり、メルトブロー不織布の繊維を構成する主要樹脂を指す。希釈樹脂のMFRは、ポリプロピレンを例にして上述したように、500~2000g/10分が好ましい。
【0052】
キャリア樹脂のMFRが希釈樹脂のMFR以下であることが好ましく、双方の樹脂及び銀杏葉エキスの分散状態が良好となりやすい。キャリア樹脂のMFRが希釈樹脂のMFRより大きいと、キャリア樹脂と希釈樹脂の混ざり具合が不均一となりやすく、メルトブロー法における紡糸性が悪くなる場合や、糸切れやショットが発生し、得られた不織布の外観が悪くなる場合がある。
【0053】
このようにして、所望する銀杏エキスの配合量となるように、マスターバッチと希釈樹脂とを混合するとよい。
【0054】
メルトブロー法における紡糸工程と不織布化工程を具体的に説明する。紡糸工程では、上記の溶融工程を経た銀杏エキスを含む樹脂を、複数の孔を有する紡糸口金(ノズル)から紡糸し、随伴する高速の加熱ガスによって紡糸された樹脂をより細く、引き延ばして、細化することによって、連続する繊維状樹脂とする。
【0055】
メルトブロー法は、樹脂を冷却せずに繊維状樹脂を捕集するため、不織布化工程では、溶融紡糸された繊維状樹脂は未固化の状態で、ノズルに対して相対的に移動する多孔質のコンベヤ上に捕集、堆積され、その後、繊維状樹脂同士が固化、融着することで不織布が作製される。
【0056】
吐出時のノズルの温度(紡糸温度)は、先の溶融工程と同様に、220℃以下で行うことが好ましい。
【0057】
ノズルの単孔径(ノズル径)は、好ましくは0.1~2mmであり、さらに好ましくは0.15~0.5mmである。ノズル径が0.1~2mmの範囲であれば、生産性を大きく損なわずに、平均繊維径が0.1~10μmの繊維が得られやすい。単孔あたりの吐出量(単孔吐出量)は5~500mg/分であることが好ましく、5~300mg/分であることがより好ましく、6~200mg/分であることがさらに好ましい。
【0058】
加熱ガスとしては、清浄な大気成分を取り込み、加温して用いることができる。加熱ガスの温度は、紡糸温度±30℃の温度範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、紡糸温度から+20℃の範囲が好ましい。加熱ガスの基準流量は、250~800Nm/hr/mであることが好ましく、500~750Nm/hr/mであることがより好ましい。
【0059】
ノズル径、単孔吐出量、加熱ガスの温度及び加熱ガスの基準流量が上記範囲である場合、糸切れの発生が少なく、ショットやフライの発生を抑えた状態で、平均繊維径が小さな繊維が得られやすい。
【0060】
本発明において、ノズルに対して相対的に移動するコンベヤとノズルとの距離により、多機能不織布の厚みを調整することができる。距離が近いほど、繊維状樹脂同士が融着した状態で捕集され、距離が遠くなるほど、繊維状樹脂の温度が下がってからコンベヤ上に捕集されるので、繊維状樹脂同士が融着せずに、綿状となる。ノズルとコンベヤとの距離は50~500mmが好ましく、さらに好ましくは100~350mmである。
【0061】
紡糸された繊維状樹脂の捕集は、コンベヤの裏側から空気を吸引しつつ行ってもよい。裏側から空気を吸引すると、フライ発生を防止できる場合がある。
【0062】
捕集の工程において、コンベヤ上に、他の不織布などの多孔質材料を配置することで、メルトブロー法で製造された多機能不織布と多孔質材料が積層一体化された複合不織布を得ることができる。
【0063】
多機能不織布の目付に制限はないが、安定して巻取りを製造するという観点から、5~100g/mが好ましい。空気清浄装置、マスクなどのフィルターとしては、圧力損失を過度に上昇させない点から、5~50g/mがさらに好ましい。
【0064】
なお、必要に応じて、本発明の趣旨を逸脱せず、他の性能を付加する目的において、脱臭、防黴、より一層の抗菌、より一層の抗ウイルス、より一層の抗アレルゲン、防虫、殺虫、消臭、芳香、感温、保温、畜温、蓄熱、発熱、吸熱、防水、耐水、撥水、疎水、親水、除湿、調湿、吸湿、撥油、親油、油などの吸着、水や揮発性薬剤などの蒸散又は徐放などの各種機能を新たに付加したものでも良い。
【0065】
本発明の多機能不織布には、多機能不織布の性能を阻害しない範囲であれば、二次加工をさらに施してもよい。二次加工としては、例えば、交絡処理、押圧加工、ギア加工、印刷加工、塗布加工、ラミネート加工、加熱処理、賦型加工、親水加工、撥水加工、プレス加工等が挙げられる。
【実施例0066】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例において記載の部や百分率は断りのない限り、全て質量によるものである。実施例及び比較例で得られた(多機能)不織布の物性の測定及び評価を行い、本発明の有効性の確認を行った。物性及び評価結果を表2に示した。なお、本発明において、特に記載のない限り、物性の測定及び評価は、25℃、50%RHの条件で行った。
【0067】
<目付>
(多機能)不織布を20×25cmの大きさにカットし、5枚の質量を平均し、単位面積当たりの質量(目付)を求めた。単位はg/mである。
【0068】
<抗菌性の評価>
JIS L 1902:2015(繊維製品の抗菌性試験)に定める抗菌性試験を実施した。試験概要は以下の通りである。
【0069】
1)試験菌懸濁液を作製する。
試験菌種として黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC 12732)、大腸菌(Escherichia coil NBRC 3301)の2種類を使用した。
2)試験片0.4gに、試験菌液0.2ml(0.05%の界面活性剤(Tween(登録商標)80)(シグマ-アルドリッチ社製)を含む)を滴下後、37℃で18時間培養する。対象試料は標準綿布を用いた。
3)洗い出し液20mlを加えて試験片から試験菌を洗い出し、洗い出し液中の生菌数を混釈平板培養法又は発光測定法により測定する。
4)抗菌活性値の算出方法は以下の通りである。
抗菌活性値=(対照試料の培養後生菌数の常用対数-対照試料の接種直後生菌数の常用対数)-((多機能)不織布の培養後生菌数の常用対数-(多機能)不織布の接種直後生菌数の常用対数)
抗菌活性値が2.2以上のとき、「効果あり」と判断した。
【0070】
<抗ウイルス性の評価>
JIS L 1922:2016(繊維製品の抗ウイルス性試験方法)に定める抗ウイルス試験を実施した。試験概要は以下の通りである。
【0071】
1)試験ウイルス懸濁液を作製する。
試験ウイルス種としてA型インフルエンザウイルス(A/Hong Kong/8/68(H3N2)ATCC VR-1679)を用いた。
2)試験片0.4gに試験ウイルス液0.2mlを滴下し、25℃で2時間静置する。対照試料は標準綿布を用いた。
3)SCDLP培地20mlを加えて試験片からウイルスを洗い出し、プラーク測定法により感染価を算出する。
4)抗ウイルス活性値の算出方法は以下の通りである。
抗ウイルス活性値=(対照試料の2時間作用後の感染価常用対数)-((多機能)不織布の感染価常用対数)
抗ウイルス活性値が2.0以上の場合を「効果あり」と判断した。
【0072】
<抗アレルゲン性の評価>
アレルゲン不活性化試験により評価を行った。概要は以下の通りである。
【0073】
1.薬品の調薬
(1)アレルゲン溶液の調製
精製ダニアレルゲンrDerf2(生化学工業社製)をPBS(-)に溶解し、試験用アレルゲン溶液として500ng/mlとなるように調製した。
(2)抗体溶液の調製
抗rDerf2モノクロナール抗体15E11(生化学工業社製)を2μg/mlの濃度となるようにPBS(-)で希釈した。
(3)標識抗体溶液の調製
西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗rDerf2モノクロナール抗体13A4PO(生化学工業社製)をPBS-Tで5000倍希釈した。PBS-Tについては、0.5gのTween(登録商標)20(シグマ-アルドリッチ社製)を1000mlのPBS(-)に溶解して使用した。
(4)1%-BSA-PBS(-)の調製
0.2gのBSAを20mlのPBS(-)に溶解して使用した。
(5)0.3mg/ml-ABTS(基質溶液)の調製
3mgのABTSを10mlの0.3M-Cirate buffer(pH4.0)で溶解し、これに10μlの30%過酸化水素を添加して使用した。
【0074】
2.試験方法
本試験方法は、(多機能)不織布上で捕捉したアレルゲンが不活化されることの確認試験である。
(1)概要
実施例及び比較例で得た(多機能)不織布を、それぞれ2mm×4mmの大きさに裁断して検体とし、個々に試験した。検体を48ウェルプレートの底に置き、1ウェル当たり300μlのアレルゲン溶液(初期アレルゲン量:500ng/ml)を添加し、室温で2時間静置した。静置後、50μlを採取し、その中に存在するアレルゲン濃度をサンドイッチELISA法により定量した。サンドイッチELISA法の詳細は以下の通りである。
【0075】
(2)サンドイッチELISA法
1) コーティング溶液(抗体溶液、2μg/ml)50μlをELISAプレートの各ウェルに添加し、4℃で一晩静置した。
2) コーティング溶液を除去し、300μlのPBS(-)で3回洗浄後、200μlの1%-BSA-PBA(-)を添加し、室温で1時間静置した。
3) ELISAプレートを300μlのPBS-Tで3回洗浄後、検体と2時間接触させたアレルゲン溶液50μlを採取して添加し、室温で2時間静置した。
4) ELISAプレートを300μlのPBS-Tで3回洗浄後、標識抗体溶液を50μl添加して、室温で2時間静置した。
5) ELISAプレートを300μlのPBS-Tで3回洗浄後、100μlの0.3mg/ml-ABTSを添加して室温で発色させ、20~30分反応後にミキシングさせ、マイクロプレートリーダーにより405nmの吸光度を測定した。
6) 吸光度より検体接触させたアレルゲン溶液中の精製ダニアレルゲンrDerf2濃度(アレルゲン残存量:ng/ml)を算出した。
7) アレルゲン除去率算出方法は以下の通りである。
アレルゲン除去率(%)=[1-(アレルゲン残存量)/(初期アレルゲン量)]×100
アレルゲン除去率を実施例と比較例で比較し、その効果を判断した。
【0076】
<通気性の評価(圧力損失)>
JIS B9908:2011 形式1に準じて、面風速5.3cm/秒の条件で、(多機能)不織布の上流側と下流側の差圧を圧力損失として測定した。単位はPaである。
【0077】
<補足性能の評価(捕集効率)>
JIS B9908:2011 形式1に準じて、面風速5.3cm/秒の条件で、(多機能)不織布の上流側と下流側の粒子径0.3μm以上、5.0μm未満の大気塵粒子の粒子数をパーティクルカウンター(リオン社製、商品名KC-11)を用い測定した。上流側の測定粒子数から下流側の測定粒子数を減じ、補足した粒子数を求め、上流側の粒子数で除し、百分率(%)で表したものを捕集効率とした。単位は%である。
【0078】
<耐久性の評価(銀杏エキスの脱落有無)>
(多機能)不織布を平織り綿布に、手で擦り付けた際、綿布への銀杏エキスの移行付着の有無を、光学顕微鏡を用いて観察した。移行が見られないものを○、少し見られるものを△として合格とし、甚だしい移行が見られるものを×として不合格とした。
【0079】
(マスターバッチ作製例1)
MFR60g/10分のポリプロピレン80部に対し、100メッシュ通過区分が95質量%以上である銀杏葉エキス粉体20部をタンブラー装置に入れ、36rpmの回転数で10分間混合したものを、ベントを有する二軸押出機のホッパーから投入し、200℃で混練する。混練中に銀杏葉エキスが持つ水分が蒸発することにより発生する水蒸気をベントよりガス抜きを行いながら混練を行い、吐出されたストランドを水中に導入冷却し、ロータリー式のペレタイザーにてカット長約3mmのペレット状のマスターバッチ(mbG1)を作製した。
【0080】
(マスターバッチ作製例2)
MFR1300g/10分のポリプロピレン80部に対し、帯電促進剤としてキマソーブ944FDL(BASF社製)18部、チヌビン622SF(BASF社製)2部をポリ袋に入れて手振りで簡単に混合したものを、二軸押出機のホッパーから投入し、200℃で混練することで、帯電促進剤のマスターバッチ(mbE1)を作製した。
【0081】
(実施例1~5)
一軸押出機が装備されたメルトブロー製造装置を用い、多機能不織布を作製した。mbG1と希釈樹脂としてMFR1300g/10分のポリプロピレンとを、表1記載の部数で、200℃で混練溶融した後、ノズル径0.2mm、ピッチ1.0mmのノズルを用い、紡糸温度が200℃、単孔吐出量が150mg/分、加熱ガスの温度が210℃、基準流量が650Nm/hr/m、ノズルとコンベヤの距離が150mmとなるように調整し、メルトブロー法による多機能不織布を得た。表1に配合、得られた多機能不織布の平均繊維径を示す。
【0082】
(比較例1)
mbG1を用いず、希釈樹脂のみで、実施例1と同じ方法で不織布を作製した。
【0083】
(比較例2)
比較例1の不織布に、マスターバッチ作製例1で用いた銀杏葉エキスをイソプロピルアルコール溶剤に溶解したのち、アクリル酸エステル系バインダー(日本エヌエスシー社製、商品名:ヨドゾール(登録商標)AD81B)と混合し、固形分比70:20となるように調整した水系分散液を作製し、銀杏葉エキスの添着量が1質量%となるように分散液を含浸させたのち、120℃で乾燥させることで、銀杏葉エキスを含有する不織布を作製した。
【0084】
(実施例6)
表1記載の部数で、mbG1、MFR1300g/10分のポリプロピレン(希釈樹脂)、mbE1を用いた以外は、実施例2と同じ方法で、多機能不織布を作製した。
【0085】
(比較例3)
表1記載の部数で、MFR1300g/10分のポリプロピレン(希釈樹脂)、mbE1を用いた以外は、実施例2と同じ方法で、メルトブロー不織布を作製した。
【0086】
(比較例4)
「比較例1の不織布」の代わりに「比較例3の不織布」を使用した以外は、比較例2と同じ方法で不織布を作製した。
【0087】
表1に、(多機能)不織布の配合と平均繊維径を示す。また、比較例2及び4の銀杏エキスの配合量は、不織布表面への銀杏エキスの添着量を示し、バインダー成分の添着量は除く。
【0088】
【表1】
【0089】
(エレクトレット処理例:コロナ放電処理(コロナ処理))
8mmピッチで千鳥配列の針状電極を用い、針状電極とアースである金属板との距離を20mmとし、金属板の上に(多機能)不織布を配置し、印加電圧はプラス20KV/cmで、2秒間コロナ放電処理を行った。なお、比較例4では、比較例3の不織布にコロナ放電処理を行った後、銀杏葉エキスを添着した。
【0090】
【表2】
【0091】
表2の結果から、実施例1~5と比較例1の比較から、樹脂と銀杏エキスとを含む繊維を含有する実施例1~5の多機能不織布は、圧力損失が低く、抗菌性・抗ウイルス性、抗アレルゲン性を備えた多機能不織布であることが判る。また、エレクトレット処理により、抗菌性・抗ウイルス性、抗アレルゲン性を低減させることなく、高い捕集効率が発現していることが判る。
【0092】
銀杏エキスをバインダーで添着した比較例2の不織布の場合、抗菌性・抗ウイルス性、抗アレルゲン性は発現しているが、圧力損失が大幅に上昇した。また、銀杏エキスの脱落も見られた。
【0093】
実施例2と実施例6との比較から、繊維がさらに帯電促進剤を含むことにより、さらに高い捕集効率を発現させることができる。また、実施例6と比較例3との比較から、樹脂と銀杏エキスとを含む繊維を含有する実施例6の多機能不織布は、抗菌性・抗ウイルス性、抗アレルゲン性を備えた多機能不織布であることが判る。また、エレクトレット処理を行っても、抗菌・抗ウイルス、抗アレルゲン性を低減させることなく、高い捕集効率が発現していることが判る。銀杏エキスをバインダーで添着した比較例4の不織布の場合、抗菌・抗ウイルス性、抗アレルゲン性は発現しているが、圧力損失が大幅に上昇し、捕集効率も良くないことが判る。また、銀杏エキスの脱落も見られた。
【0094】
以上のように、本発明の多機能不織布は、圧力損失が低く、捕集効率及び耐久性に優れ、銀杏エキスによる抗菌性、抗ウイルス性、抗アレルゲン性などの機能を有する多機能不織布であることが確認された。また、エレクトレット処理が施されても、機能を低減させることなく、また、帯電促進剤をさらに含むことによって、より高い捕集効率が発現することを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の多機能不織布は、抗菌性・抗ウイルス性、抗アレルゲン性が要求される、フィルター、マスク、除菌ワイパー、カーテン、壁紙、衣料、生活雑貨、医療分野、産業分野などの分野で使用される繊維製品として利用することができる。特に、高捕集効率が要求される空調機、空気清浄機、掃除機、除湿機、乾燥機、加湿機、換気扇、扇風機、熱交換装置等の各種空気処理装置、自然給排気のための外気流入口(通気口や窓など)のフィルターとして利用することができる。