(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132662
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】積層体、包装材料、および包装体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20230914BHJP
G01N 23/20 20180101ALI20230914BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
B32B27/32 E
G01N23/20
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038121
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】松久 健司
(72)【発明者】
【氏名】江島 優希
【テーマコード(参考)】
2G001
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA15
2G001BA18
2G001CA01
2G001KA08
2G001MA05
3E086AA23
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4F100AA12D
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4F100YY00C
4F100YY00D
(57)【要約】
【課題】引き裂き性が良好であり、モノマテリアル化もしやすい積層体を提供する。
【解決手段】基材層10、第一接着剤層21、中間層30、第二接着剤層22、およびシーラント層50がこの順に積層された積層体1において、基材層、中間層、およびシーラント層はポリエチレンを含む。積層体の基材層側の面において、X線の入射角を1°未満に固定して入射するX線回折法の平行ビーム法を用いた2θスキャン測定により測定した結晶化度は60%以上である。X線回折法のIn-plane法を用い、基材層側の面を、積層体の面に垂直な軸を中心とした回転方向に走査する測定において、基材層の直角方向に検出されるX線強度は、基材層の流れ方向に検出されるX線強度の10倍未満である。積層体のシーラント層側の面において、同様のX線回折法による結晶化度は60%未満である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層、第一接着剤層、中間層、第二接着剤層、およびシーラント層がこの順に積層された積層体であって、
前記基材層、前記中間層、および前記シーラント層がポリエチレンを含み、
前記積層体の前記基材層側の面において、X線の入射角を1°未満に固定して入射するX線回折法の平行ビーム法を用いた2θスキャン測定により回折角度10°から30°の範囲で測定し、全ピーク面積に対するポリエチレン(110)とポリエチレン(200)の結晶ピーク面積の比により算出される結晶化度が60%以上であり、
X線回折法のIn-plane法を用い、X線源とX線検出器の位置関係をPE(110)あるいはPE(200)の回折角度に固定し、前記基材層側の面を、前記積層体の面に垂直な軸を中心とした回転方向に走査する測定において、前記基材層の直角方向に検出されるX線強度は、前記基材層の流れ方向に検出されるX線強度の10倍未満であり、
前記積層体の前記シーラント層側の面において、前記2θスキャン測定に基づいて算出される結晶化度が60%未満である、
積層体。
【請求項2】
基材層、第一接着剤層、中間層、第二接着剤層、およびシーラント層がこの順に積層された積層体であって、
前記基材層、前記中間層、および前記シーラント層がポリエチレンを含み、
前記基材層の単層測定において、X線回折法の平行ビーム法を用いた2θ/θスキャン測定により回折角度10°から30°の範囲で測定し、全ピーク面積に対するポリエチレン(110)とポリエチレン(200)の結晶ピーク面積の比により算出される結晶化度が35%以上であり、
X線回折法のIn-plane法を用い、X線源とX線検出器の位置関係をPE(110)あるいはPE(200)の回折角度に固定し、前記基材層を、面に垂直な軸を中心とした回転方向に走査する測定において、前記基材層の直角方向に検出されるX線強度が、前記基材層の流れ方向に検出されるX線強度と比べて10倍未満であり、
前記中間層および前記シーラント層の単層測定において、前記2θ/θスキャン測定に基づいて算出される結晶化度が35%未満である、
積層体。
【請求項3】
前記中間層の一方の面上に形成されたガスバリア層をさらに備える、
請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記ガスバリア層が無機酸化物からなる、
請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
前記無機酸化物が、酸化珪素、炭素を含む酸化珪素、窒化珪素、金属アルミニウム、酸化アルミニウムのいずれかを含む、
請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
前記中間層と前記ガスバリア層との間に設けられた前処理層をさらに備える、
請求項3から5のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
前記ガスバリア層を覆う被覆層をさらに備える、
請求項3から6のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項8】
前記被覆層は、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物、および水溶性高分子のいずれか、または、ポリカルボン酸系重合体、多価金属化合物、およびポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物との反応生成物であるカルボン酸の多価金属塩のいずれかを含む、
請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
前記第一接着剤層および前記第二接着剤層の少なくとも一方がガスバリア性接着剤からなる、
請求項1から8のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項10】
前記シーラント層に含まれる前記ポリエチレンが、低密度ポリエチレンまたは直鎖状低密度ポリエチレンである、
請求項1から9のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項11】
前記積層体における前記ポリエチレンの割合が、90質量%以上である、
請求項1から10のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の積層体を用いて形成された包装材料。
【請求項13】
請求項12に記載の包装材料と、
前記包装材料内に収容された内容物と、
を備える、
包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関する。この積層体を用いた包装材料および包装体についても言及する。
【背景技術】
【0002】
近年、海洋プラスチックごみ問題等に端を発する環境意識の高まりから、プラスチック材料の分別回収と再資源化のさらなる高効率化が求められつつある。これまで様々な異種材料を組み合わせることで高性能化を図ってきた包装用の積層体においても例外でなく、モノマテリアル化が求められつつある。
【0003】
積層体においてモノマテリアル化を実現するためには、各層を構成するフィルムの樹脂材料を同一系統とする必要がある。例えばポリオレフィンの一種であるポリエチレンは、包装材料に広く使用されているため、ポリエチレンを使用した積層体のモノマテリアル化が期待されている。
【0004】
モノマテリアル化を実現するために、例えば、特許文献1では、基材、ヒートシール層の少なくとも一方の面に蒸着層を備えるポリエチレン系フィルムを用いた積層体が提案されており、印刷適性、製袋適性の観点から延伸ポリエチレンが基材として開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
積層体には、モノマテリアル化とは別に、包装材料の構成部材として、良好な引き裂き性等も求められている。これらの条件をクリアしなければ、モノマテリアルであっても普及が見込めず、環境負荷の低減につながらない。
【0007】
上記事情を踏まえ、本発明は、引き裂き性が良好であり、モノマテリアル化もしやすい積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様は、基材層、第一接着剤層、中間層、第二接着剤層、およびシーラント層がこの順に積層された積層体である。
基材層、中間層、およびシーラント層はポリエチレンを含む。
積層体の基材層側の面において、X線の入射角を1°未満に固定して入射するX線回折法の平行ビーム法を用いた2θスキャン測定により回折角度10°から30°の範囲で測定し、全ピーク面積に対するポリエチレン(110)とポリエチレン(200)の結晶ピーク面積の比により算出される結晶化度は60%以上である。
X線回折法のIn-plane法を用い、X線源とX線検出器の位置関係をPE(110)あるいはPE(200)の回折角度に固定し、基材層側の面を、積層体の面に垂直な軸を中心とした回転方向に走査する測定において、基材層の直角方向に検出されるX線強度は、基材層の流れ方向に検出されるX線強度の10倍未満である。
積層体のシーラント層側の面において、上述の2θスキャン測定に基づいて算出される結晶化度は60%未満である。
【0009】
本発明の他の積層体は、基材層、第一接着剤層、中間層、第二接着剤層、およびシーラント層がこの順に積層された積層体である。
基材層、中間層、およびシーラント層はポリエチレンを含む。
基材層の単層測定において、X線回折法の平行ビーム法を用いた2θ/θスキャン測定により回折角度10°から30°の範囲で測定し、全ピーク面積に対するポリエチレン(110)とポリエチレン(200)の結晶ピーク面積の比により算出される結晶化度は35%以上である。
X線回折法のIn-plane法を用い、X線源とX線検出器の位置関係をPE(110)あるいはPE(200)の回折角度に固定し、基材層を、面に垂直な軸を中心とした回転方向に走査する測定において、基材層の直角方向に検出されるX線強度が、基材層の流れ方向に検出されるX線強度と比べて10倍未満である。
中間層およびシーラント層の単層測定において、上述の2θ/θスキャン測定に基づいて算出される結晶化度は35%未満である。
【0010】
本発明の第二の態様は、第一の態様に係る積層体を用いて形成された包装材料である。
本発明の第三の態様は、第二の態様に係る包装材料と、包装材料内に収容される内容物とを備える包装体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、引き裂き性が良好であり、モノマテリアル化もしやすい積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る積層体の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、
図1を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る積層体1の模式断面図である。積層体1は、基材層10、中間層30、およびシーラント層50の3つの層を備えている。これらの層は、いずれも樹脂成分として、ポリエチレンを最も多く含む。
基材層10と中間層30とは、第一接着剤層21により接合され、中間層30とシーラント層50とは、第二接着剤層22により接合されている。
【0014】
基材層10に含まれるポリエチレンは、ホモポリマー、ランダムコポリマー及びブロックコポリマーから選ばれる少なくとも一種のポリマーであってもよい。ホモポリマーはポリエチレン単体のみからなるポリエチレンである。ランダムコポリマーは、主モノマーであるエチレンと、エチレンとは異なる少量のコモノマー(例えばα―オレフィン)がランダムに共重合し、均質な相をなすポリエチレンである。ブロックコポリマーは、主モノマーであるエチレンと上記コモノマー(例えばα―オレフィン)がブロック的に共重合したり、ゴム状に重合したりすることによって不均質な相を形成するポリエチレンである。
【0015】
発明者らは、上記のような基本構成を有する積層体に関して、良好な引き裂き性を実現するため種々検討を行った。その結果、ポリエチレンを含む3つの層の結晶化度を所定の範囲とし、さらに基材層の面内における分子配向性を所定の値とすることにより、良好な引き裂き性を実現できることを突き止めた。
【0016】
本発明における結晶化度とは、平行ビーム法を用いたX線回折法(XRD)によって測定したものと定義する。以下に、結晶化度の測定方法の一例について説明する。
【0017】
樹脂フィルムの結晶化度は、X線回折法のアウト・オブ・プレーン(Out-of-plane)測定で2θ/θスキャンまたは2θスキャンさせて測定を行うことで得られるX線回折パターンに基づき測定できる。
樹脂フィルムを測定する場合、X線は特性X線CuKαを用い、多層膜ミラーによりX線を平行化してX線を樹脂フィルムへ入射させ、受光ユニットには平板コリメータを取り付けたシンチレーション検出器を用いる方法(平行ビーム法)を用いることが好ましい。
平行ビーム法以外のX線回折法として集中法が知られているが、集中法では、樹脂フィルム等の表面に凹凸を有する試料の場合、測定面の位置ずれによるピークの広がり等の測定結果への影響が生じやすい。これに対し、平行ビーム法では、表面に凹凸を有する試料の場合であっても、測定面の位置ずれが測定結果へ及ぼす影響が小さい。
樹脂フィルムがポリエチレンフィルムの場合、回折角度10°~30°の範囲で2θ/θスキャンを行うことが好ましい。この範囲でスキャンを行うと、PE(110)面とPE(200)面に対応する2つシャープな結晶ピークとブロードな非晶質ピーク(ハローピーク)が観測される。この3つのピークを分離解析し、結晶ピークと非晶質ピークの面積を算出すると、下記式(1)より結晶化度が求められる。
結晶化度=結晶ピーク面積/(結晶ピーク面積+非晶質ピーク面積)…(1)
樹脂フィルムの表面は平坦ではなく、測定面にずれが生じる可能性があることから、平行ビーム法を用いることが好ましい。
【0018】
積層体の状態で各層の測定を行う場合は、X線の潜り込みにより測定対象と異なる層の影響を受けることから、入射角度は1°未満に設定した2θスキャン法(薄膜法)を用いて行う。
このようにして測定した本実施形態に係る基材層10の結晶化度は35%以上であり、中間層30およびシーラント層50の結晶化度は35%未満である。
【0019】
他の方法として、第一接着剤層21および第二接着剤等22を溶解する等により、各層を分離してそれぞれの結晶化度を測定することもできる。この場合は、他の層の影響を受けないため、X線の入射角度に特に制限はない。
このようにして測定した本実施形態に係る基材層10の結晶化度は60%以上であり、中間層30およびシーラント層50の結晶化度は60%未満である。
【0020】
基材層10、中間層30、およびシーラント層50は、上述した結晶化度を満たす限り、延伸フィルム、未延伸フィルムのいずれを用いて構成してもよい。
【0021】
次に、分子配向性の測定方法の一例について説明する。
樹脂フィルムの面内配向性は、X線回折法のイン・プレーン(In-plane)測定を用いて測定できる。X線源とX線検出器の位置関係(2θχ/φ)を前記2θ/θスキャンにより得られる結晶ピークの角度に固定し、樹脂フィルムの面に垂直な軸を中心とした回転方向に走査(φスキャン)することでX線回折パターンが得られる。このX線回折パターンにおいて、フィルムの流れ方向(MD)に対してのみピークが検出される場合には結晶が直角方向(TD)に優先配向しており、フィルムの直角方向(TD)に対してのみピークが検出される場合には結晶が延伸方向(MD)に優先配向していることを示す。
【0022】
樹脂フィルムを測定する場合、X線は特性X線CuKαを用い、多層膜ミラーによりX線を平行化してX線を樹脂フィルムへ入射させ、受光ユニットには平行コリメータ等を取り付けていないシンチレーション検出器を用いることが好ましい。また、樹脂フィルムの面に対するX線源の位置(θ)は0.01°~5°の範囲に設定することが好ましく、0.01°~1°の範囲に設定することがより好ましい。なお、X線検出器の位置(2θ)はX線源の位置(θ)により適宜決定される。X線源の位置(θ)を0.01°未満に設定すると、X線は樹脂フィルムの内部を通らずに適切に測定できない可能性がある。
樹脂フィルムがポリエチレンフィルムの場合、X線源とX線検出器の位置関係(2θχ/φ)はPE(110)面またはPE(200)に対応する結晶ピークの角度に固定する。
【0023】
なお、「流れ方向」とは、フィルムが機械により連続製造される際の繰り出し方向を意味するが、包装材料等に加工された状態では、流れ方向を直ちに特定することは困難である。一般に、一軸延伸フィルムにおいては、流れ方向に延伸が行われるため、配向性測定において最大のピークが検出される方向が直角方向となり、これに直交する方向を流れ方向と定義することができる。また、包装材料が平面視において正方形あるいは長方形である場合、流れ方向は、その一辺と平行であり、直角方向は、この一辺と直交する他の一辺と平行であることが多い。
【0024】
本実施形態に係る基材層10は、上記のようにして測定した直角方向のX線強度が流れ方向のX線強度の10倍未満である。
【0025】
基材層10および中間層30に含まれるポリエチレンの密度に特に制限はない。シーラント層50に含まれるポリエチレンが低密度ポリエチレン(LDPE)または直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)であると、熱融着時の接合性が良好になり、好ましい。
【0026】
基材層10、中間層30、およびシーラント層50の厚さに特に制限はない。積層する際の加工性を考慮すると、基材層10の厚さは実用的には3~200μmの範囲が好ましく、特に6~90μmが好ましい。
また、後述するガスバリア層60や被覆層62等を形成する場合の加工性を考慮すると、基材層10の厚さは実用的には3~200μmの範囲が好ましく、特に6~90μmが好ましい。
シーラント層50の厚さは目的に応じて決められるが、例えば50~200μm程度とできる。
【0027】
本発明に係る積層体に必須の構成ではないが、本実施形態の積層体は、ガスバリア層60を備えている。
ガスバリア層60は、酸化珪素、炭素を含む酸化珪素、窒化珪素、金属アルミニウム、および酸化アルミニウムのいずれかを主成分とし、主成分に応じて、酸素、水蒸気等の、所定の気体に対してバリア性を発揮する。
【0028】
ガスバリア層60の厚さは、用いられる成分の種類・構成・成膜方法により異なるが、一般的には3~300nmの範囲内で適宜設定できる。ガスバリア層60の厚さが3nm未満であると、均一な膜が得られないことや膜厚が十分ではないことがあり、ガスバリア層としての機能を十分に発揮しない場合がある。ガスバリア層60の厚さが300nmを越えると、成膜後に折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により、ガスバリア層60に亀裂を生じてバリア性を失う可能性がある。ガスバリア層60の厚さは、6~150nmの範囲内がより好ましい。
【0029】
ガスバリア層60の形成方法に制限はなく、例えば真空蒸着法、プラズマ活性化蒸着法、イオンビーム蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、プラズマ化学気相成長法(PECVD)などを使用できる。プラズマアシスト法やイオンビームアシスト法などを組み合わせると、ガスバリア層60を緻密に形成してバリア性を向上できる。
【0030】
本実施形態においては、中間層30のうち、シーラント層50側の第一面30aに前処理層61が設けられ、その上にガスバリア層60が形成されている。前処理層61は任意の構成であり、省略することもできるが、前処理層61を設けることで、ガスバリア層60の成膜性や密着強度を向上させることができる。前処理層61の成分や形成方法に制限はなく、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂またはプラズマ処理などから選択できる。
【0031】
前処理層61に樹脂層を用いる場合、前処理層61における有機高分子の含有量は、例えば70質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよい。有機高分子としては、ポリアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂などが挙げられ、中間層30とガスバリア層60との密着強度を考慮すると、ポリアクリル系樹脂、ポリオール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、またはこれら有機高分子の反応生成物の少なくとも1つを含むことが好ましい。また前処理層61は、シランカップリング剤や有機チタネートまたは変性シリコーンオイルを含んでいてもよい。
【0032】
前処理層61に用いられる有機高分子としてさらに好ましくは、高分子末端に2つ以上のヒドロキシル基を有するポリオール類とイソシアネート化合物との反応により生成したウレタン結合を有する有機高分子、および/または高分子末端に2つ以上のヒドロキシル基を有するポリオール類とシランカップリング剤またはその加水分解物のような有機シラン化合物との反応生成物を含む有機高分子が挙げられる。
【0033】
ポリオール類としては、例えば、アクリルポリオール、ポリビニルアセタール、ポリスチルポリオール、及びポリウレタンポリオール等から選択される少なくとも一種が挙げられる。アクリルポリオールは、アクリル酸誘導体モノマーを重合させて得られるものであってもよく、アクリル酸誘導体モノマーとその他のモノマーとを共重合させて得られるものであってもよい。アクリル酸誘導体モノマーとしては、エチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、及びヒドロキシブチルメタクリレート等が挙げられる。アクリル酸誘導体モノマーと共重合させるモノマーとしては、スチレン等が挙げられる。
【0034】
イソシアネート化合物は、ポリオールと反応して生じるウレタン結合により中間層30とガスバリア層60との密着性を高める作用を有する。すなわち、イソシアネート化合物は、架橋剤又は硬化剤として機能する。イソシアネート化合物としては、例えば、芳香族系のトリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、脂肪族系のキシレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、及びイソホロンジイソシアネート(IPDI)などのモノマー類、これらの重合体、及びこれらの誘導体が挙げられる。上述のイソシアネート化合物は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、及びγ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。有機シラン化合物は、これらのシランカップリング剤の加水分解物であってもよい。有機シラン化合物は、上述のシランカップリング剤及びその加水分解物の1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0036】
前処理層61として設ける樹脂層は、有機溶媒中に上述の成分を任意の割合で配合して混合液を調製し、中間層30の第一面30a上に調製した混合液を用いて形成することができる。混合液は、例えば、3級アミン、イミダゾール誘導体、カルボン酸の金属塩化合物、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩等の硬化促進剤;フェノール系、硫黄系、ホスファイト系等の酸化防止剤;レベリング剤;流動調整剤;触媒;架橋反応促進剤;充填剤等を含有してもよい。
【0037】
混合液は、オフセット印刷法、グラビア印刷法、又はシルクスクリーン印刷法等の周知の印刷方式、或いは、ロールコート、ナイフエッジコート、又はグラビアコートなどの周知の塗布方式を用いて中間層30の第一面30a上にコーティングすることができる。コーティング後、例えば50~200℃に加熱し、乾燥および/または硬化することによって、前処理層61を形成することができる。
【0038】
前処理層61として樹脂層を形成する場合の厚さは、用途又は求められる特性に応じて調整してもよいが、0.01~1μmが好ましく、0.01~0.5μmがより好ましい。前処理層61の厚みが0.01μm以上であれば、中間層30とガスバリア層60との十分な密着強度が得られ、ガスバリア性も良好となる。前処理層61の厚みが1μm以下であれば、均一な塗工面を形成することが容易であり、また、乾燥負荷や製造コストを抑制できる。
【0039】
前処理層61をプラズマ処理により形成する場合には、生産性の観点からインラインで行うことが可能なプラズマ処理が好ましい。プラズマ処理の方法としてはグロー放電など特に限定されず、プラズマ密度を高めるために磁石を用いてもよい。またプラズマ処理を行う際に使用するガスは酸素、窒素、アルゴンのいずれかもしくは複数から選択することができる。
【0040】
本実施形態において、ガスバリア層60は、被覆層62により覆われている。被覆層62は任意の構成であり、省略することもできるが、ガスバリア層60を保護するとともに、積層体1のバリア性をさらに高めることができる。
被覆層62は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化樹脂、金属アルコキシド、水溶性高分子、ポリカルボン酸系重合体、多価金属化合物、ポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物との反応生成物であるカルボン酸の多価金属塩などのコーティング層を用いることができる。特に酸素バリア性に優れる金属アルコキシドと水溶性高分子が好ましい。これは水溶性高分子と1種以上の金属アルコキシドまたはその加水分解物を含む水溶液或いは水/アルコール混合溶液を主剤とするコーティング剤を用いて形成される。例えば、水溶性高分子を水系(水或いは水/アルコール混合)溶媒で溶解させたものに金属アルコキシドを直接、或いは予め加水分解させるなど処理を行ったものを混合してコーティング剤を調製する。このコーティング剤をガスバリア層60上に塗布した後、乾燥することで、被覆層62を形成できる。
【0041】
被覆層62を形成するためのコーティング剤に含まれる各成分について更に詳細に説明する。コーティング剤に用いられる水溶性高分子として、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等を例示できる。特に、PVAを用いると、優れたガスバリア性が得られるため好ましい。PVAは、一般にポリ酢酸ビニルをけん化することで得られる。PVAとして、酢酸基が数十%残存している、いわゆる部分けん化PVA、酢酸基が数%しか残存していない完全PVAのいずれも用いることができる。両者の中間のPVAを用いてもよい。
【0042】
コーティング剤に用いられる金属アルコキシドは、一般式、M(OR)n(M:Si、Alの金属、R:CH3、C2H5等のアルキル基)で表せる化合物である。具体的にはテトラエトキシシラン〔Si(OC2H5)4〕、トリイソプロポキシアルミニウムAl[OCH(CH3)2]3などを例示できる。シランカップリング剤としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのエポキシ基を有するもの、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基を有するもの、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプト基を有するもの、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのイソシアネート基を有するもの、トリス-(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートなどを例示できる。
【0043】
ポリカルボン酸系重合体は、分子内に2個以上のカルボキシ基を有する重合体である。ポリカルボン酸系重合体としては、たとえば、エチレン性不飽和カルボン酸の(共)重合体;エチレン性不飽和カルボン酸と他のエチレン性不飽和単量体との共重合体;アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ペクチン等の分子内にカルボキシル基を有する酸性多糖類が挙げられる。エチレン性不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げられる。エチレン性不飽和カルボン酸と共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル等の飽和カルボン酸ビニルエステル類、アルキルアクリレート類、アルキルメタクリレート類、アルキルイタコネート類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、アクリルアミド、アクリロニトリル等が挙げられる。これらのポリカルボン酸系重合体は1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0044】
ガスバリア性の観点からは、上述した成分のうち、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸及びクロトン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合性単量体から誘導される構成単位を含む重合体が好ましく、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸及びイタコン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合性単量体から誘導される構成単位を含む重合体が特に好ましい。上記重合体において、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸及びイタコン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合性単量体から誘導される構成単位の割合は、80mol%以上であることが好ましく、90mol%以上であることがより好ましい(ただし重合体を構成する全構成単位の合計を100mol%とする)。この重合体は、単独重合体でも、共重合体でもよい。重合体が、上記構成単位以外の他の構成単位を含む共重合体である場合、他の構成単位としては、例えば前述のエチレン性不飽和カルボン酸と共重合可能なエチレン性不飽和単量体から誘導される構成単位などが挙げられる。
【0045】
ポリカルボン酸系重合体の数平均分子量は、2,000~10,000,000の範囲内が好ましく、5,000~1,000,000がより好ましい。数平均分子量が2,000未満では、用途によってはガスバリアフィルムの耐水性が充分でなく、水分によってガスバリア性や透明性が悪化する場合や、白化の発生が起こる場合がある。他方、数平均分子量が10,000,000を超えると、コーティング剤の粘度が高くなり、塗工性が損なわれる場合がある。本実施形態において、数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求めた、ポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0046】
ポリカルボン酸系重合体を主成分とするコーティング剤には各種添加剤を加えることができ、バリア性能を損なわない範囲で架橋剤、硬化剤、レベリング剤、消泡剤、アンチブロッキング剤、静電防止剤、分散剤、界面活性剤、柔軟剤、安定剤、膜形成剤、増粘剤などが挙げられる。
【0047】
ポリカルボン酸系重合体を主成分とするコーティング剤に用いる溶媒は水性媒体が好ましい。水性媒体としては、水、水溶性または親水性有機溶剤、またはこれらの混合物が挙げられる。水性媒体は通常、水または水を主成分として含むものである。水性媒体中の水の含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。水溶性または親水性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、セロソルブ類、カルビトール類、アセトニトリル類の二トリル類等が挙げられる。
【0048】
多価金属化合物は、ポリカルボン酸系重合体のカルボキシル基と反応してポリカルボン酸の多価金属塩を形成する化合物であれば特に限定されず、酸化亜鉛粒子、酸化マグネシウム粒子、マグネシウムメトキシド、酸化銅、炭酸カルシウム等が挙げられる。これらを単独或いは複数を混合して用いてもよい。酸素バリア性皮膜の酸素バリア性の観点からは、上記のうち酸化亜鉛粒子が好ましい。酸化亜鉛は紫外線吸収能を有する無機材料である。酸化亜鉛粒子の平均粒子径は特に限定されないが、ガスバリア性、透明性、コーティング適性の観点から、平均粒子径が5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、0.1μm以下であることが特に好ましい。
【0049】
多価金属化合物を主成分とするコーティング剤を塗布、乾燥して皮膜を形成する場合は、必要に応じて、本実施形態の効果を損なわない範囲で、酸化亜鉛粒子のほかに、各種添加剤を含有してもよい。該添加剤としては、コーティング剤に用いる溶媒に可溶又は分散可能な樹脂、該溶媒に可溶又は分散可能な分散剤、界面活性剤、柔軟剤、安定剤、膜形成剤、増粘剤等を含有してもよい。上記の中でも、コーティング剤に用いる溶媒に可溶または分散可能な樹脂を含有することが好ましい。これにより、コーティング剤の塗工性、製膜性が向上する。このような樹脂としては、例えば、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、イソシアネート樹脂等が挙げられる。また、コーティング剤に用いる溶媒に可溶又は分散可能な分散剤を含有することが好ましい。これにより、多価金属化合物の分散性が向上する。該分散剤としては、アニオン系界面活性剤や、ノニオン系界面活性剤を用いることができる。該界面活性剤としては、(ポリ)カルボン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルフォコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、芳香族リン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、アルキルアリル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ソルビタンアルキルエステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン等の各種界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は単独で用いても、二種以上を混合して用いてもよい。多価金属化合物を主成分とするコーティング剤に添加剤が含まれている場合には、多価金属化合物と添加剤との質量比(多価金属化合物:添加剤)は、30:70~99:1の範囲内であることが好ましく、50:50~98:2の範囲内であることが好ましい。
【0050】
多価金属化合物を主成分とするコーティング剤に用いる溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、ジメチルスルフォキシド、ジメチルフォルムアミド、ジメチルアセトアミド、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチルが挙げられる。また、これらの溶媒は1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、塗工性の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、水が好ましい。また製造性の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、水が好ましい。
【0051】
ポリカルボン酸系重合体を主成分とするコーティング剤を塗布、乾燥して皮膜を形成した後に多価金属化合物の皮膜を形成する場合、ポリカルボン酸系重合体は、カルボキシ基の一部が予め塩基性化合物で中和されていてもよい。ポリカルボン酸系重合体の有するカルボキシ基の一部を予め中和することにより、ポリカルボン酸系重合体からなる皮膜の耐水性や耐熱性をさらに向上させることができる。塩基性化合物としては、上述した多価金属化合物、一価金属化合物およびアンモニアからなる群から選択される少なくとも1種の塩基性化合物が好ましい。一価金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0052】
ポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物を混合したコーティング剤を塗布、乾燥して皮膜を形成する場合には、ポリカルボン酸系重合体と、多価金属化合物と、水またはアルコール類を溶媒として、溶媒に溶解或いは分散可能な樹脂や分散剤、および必要に応じて添加剤を混合してコーティング剤を調整する。このようなコーティング剤を公知のコーティング方法にて塗布、乾燥することでも、被覆層62を形成することができる。
【0053】
被覆層62のコート法としては、例えばキャスト法、ディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、リバースコート法、スプレーコート法、キットコート法、ダイコート法、メタリングバーコート法、チャンバードクター併用コート法、カーテンコート法等が挙げられる。
【0054】
被覆層62の厚さは、使用するコーティング剤の組成や塗工条件等によって異なり、特に制限はない。ただし、被覆層62の乾燥後膜厚が0.01μm未満の場合は、均一な塗膜にならず十分なガスバリア性を得られない場合がある。乾燥後膜厚が50μmを超える場合は被覆層62にクラックが生じ易くなる。したがって、被覆層62の好適な厚さは、例えば0.01~50μmの範囲であり、被覆層62の最適な厚さは、例えば0.1~10μmの範囲である。
【0055】
第一接着剤層21および第二接着剤層22としては、公知のドライラミネート用接着剤を使用できる。ドライラミネート用接着剤であれば特に制限なく使用できるが、具体例として、2液硬化型のエステル系接着剤やエーテル系接着剤、ウレタン系接着剤等が挙げられる。
【0056】
硬化した層がガスバリア性を発揮するガスバリア性接着剤を第一接着剤層21や第二接着剤層22に用いることもできる。ガスバリア性接着剤を第二接着剤層22に適用することで、積層体1のガスバリア性を向上させることができる。ガスバリア性接着剤が硬化した層の酸素透過度は、150cc/m2・day・atm以下であることが好ましく、100cc/m2・day・atm以下であることがより好ましく、80cc/m2・day・atm以下であることが更に好ましく、50cc/m2・day・atm以下であることが特に好ましい。酸素透過度が上記範囲内であることで、積層体のガスバリア性を十分に向上させることができると共に、仮にガスバリア層60または被覆層62に軽微な割れが生じた場合であっても、その隙間にガスバリア性接着剤が入り込んで補完することができ、ガスバリア性の低下を抑制することができる。
ガスバリア性接着剤にはエポキシ系、ポリエステル・ポリウレタン系等がある。具体例としては、三菱ガス化学社製の「マクシーブ」、DIC社製の「Paslim」等が挙げられる。
【0057】
第二接着剤層22の厚さは、0.1~20μmであることが好ましく、0.5~10μmであることがより好ましく、1~5μmであることが更に好ましい。第二接着剤層22の厚さが上記下限値以上であることで、ガスバリア層60の割れをより十分に抑制することができ、かつ、積層体1トータルのガスバリア性をより向上させることができる。また、第二接着剤層22の厚さが上記下限値以上であることで、外部からの衝撃を緩和するクッション性を得ることができ、衝撃によりガスバリア層60が割れることを防ぐことができる。一方、第二接着剤層22の厚さが上記上限値以下であることで、積層体1の柔軟性を十分に保持できる傾向がある。
【0058】
上記の条件に加えて、第二接着剤層22の厚さは、ガスバリア層60の厚さの50倍以上であることが好ましい。第二接着剤層22の厚さが上記条件を満たすことで、ガスバリア層60および被覆層62の割れをより十分に抑制することができ、かつ、第二接着剤層22にガスバリア性接着剤を用いる場合は積層体1トータルのガスバリア性をより向上させることができる。また、第二接着剤層22の厚さが上記条件を満たすことで、外部からの衝撃を緩和するクッション性をさらに高めることができ、衝撃によりガスバリア層60および被覆層62が割れることを防止できる。一方、積層体1の柔軟性の保持、加工適性、およびコストの観点から、第二接着剤層22の厚さは、ガスバリア層60の厚さの300倍以下であることが好ましい。
【0059】
第一接着剤層21および第二接着剤層22を形成するための接着剤は、例えば、バーコート法、ディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、リバースコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、ダイコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、グラビアオフセット法等により塗布することができる。接着剤の塗膜を乾燥させる際の温度は、例えば、30~200℃とすることができ、50~180℃とすることが好ましい。また、塗膜を硬化させる際の温度は、例えば、室温(27℃)~70℃とすることができ、30~60℃とすることが好ましい。乾燥及び硬化時の温度を上記範囲内とすることで、ガスバリア層60や第二接着剤層22にクラックが発生することをより一層抑制でき、優れたガスバリア性を発現することができる。
【0060】
上記の構成を有する本実施形態の積層体1は、引き裂き性が良好である。
また、積層体1は、突き刺しに対しても高い耐性を有し、包装袋等を構成した際に破袋しにくいという利点もある。
2枚あるいは折り返した1枚の積層体1を、シーラント層を対向させつつ周縁部を熱融着すると、積層体1からなるパウチ等の包装材料を形成でき、収容した内容物が密封された包装体とできる。
積層体1からなる包装材料および包装体は、取り扱いが容易で開封も容易である。また、積層体1がガスバリア層60を有する場合は、内容物が水蒸気や酸素と接触することを防ぎ、好適に長期間保存できる。
積層体1は、基材層10、中間層30、およびシーラント層50として、適宜のポリエチレンフィルムを選択することにより、積層体1に占めるポリエチレンの比率を90質量%以上とすることも容易である。すなわち、積層体1は、モノマテリアル化が容易であり、リサイクルしやすい。
【0061】
本実施形態のガスバリア性フィルムについて、実施例および比較例を用いてさらに説明する。本発明の技術的範囲は、実施例および比較例の具体的内容のみを根拠として限定されることはない。
【0062】
(実施例1)
基材層10として結晶化度が79.2%のポリエチレンフィルム(厚み25μm)を、中間層30として結晶化度が23.0%のポリエチレンフィルム(厚み35μm)を、シーラント層50として結晶化度が16.5%のポリエチレンフィルム(厚み60μm)を用いた。
結晶化度は積層前に測定した単層測定の値であり、X線回折法の2θ/θスキャン測定で回折角度10°~30°の範囲で測定した値である。
基材層10について、X線回折法のIn-plane法を用いて、X線源とX線検出器の位置関係をPE(110)の回折角度に固定し、基材層10の面に垂直な軸を中心とした回転方向に走査する測定(φスキャン)を行ったところ、直角方向(TD)に検出されるX線強度は、流れ方向(MD)に検出されるX線強度の0.34倍であった。
【0063】
中間層30の一方の面に、二液硬化型ポリウレタン系接着剤をグラビアコート法で塗工及び乾燥させて第二接着剤層22を形成し、シーラント層50と貼り合わせた。
また、シーラント層50を貼っていない面に、Arガスを用いたプラズマ処理を100W・sec/m2の処理強度で実施した。処理強度は以下のように算出した。
電力密度[W/m2]=投入電力[W]/カソード面積[m2]
処理時間[sec]=電極MD幅[m]/処理速度[m/sec]
処理強度=電力密度[W/m2]×処理時間[sec]
プラズマ処理を施した面に、上記二液硬化型ポリウレタン系接着剤をグラビアコート法で塗工及び乾燥させて第一接着剤層21を形成し基材層10と貼り合わせた。
以上により、実施例1に係る積層体を作製した。
【0064】
(実施例2)
基材層10、中間層30、およびシーラント層50として、それぞれ実施例1と同一のフィルムを用いた。
真空装置内においてSiOを昇華させ、中間層30の一方の面に電子ビーム蒸着法により酸化珪素(SiOx)からなるガスバリア層60(膜厚30nm)を形成した。反対側の面には、実施例1と同一条件のプラズマ処理を行った。
【0065】
続いて、ガスバリア層60上に、下記組成のガスバリア性接着剤Aをグラビアコート法で塗工及び乾燥して第二接着剤層22を形成し、シーラント層50を貼り合わせた。
<ガスバリア性接着剤A>
・酢酸エチルとメタノールとを質量比1:1で混合した溶媒 23質量部
・三菱ガス化学社製 マクシーブC93T 16質量部
・三菱ガス化学社製 マクシーブM-100 5質量部
さらに、実施例1と同様の手順でプラズマ処理面に基材層10を貼り合わせた。
以上により、実施例2に係る積層体を作製した。
【0066】
(実施例3)
基材層10として、結晶化度が55.9%のポリエチレンフィルム(厚み20μm)を用い、ガスバリア層60の膜厚を20nmとした点を除き、実施例2と同様の手順で実施例3に係る積層体を作製した。
基材層10について、X線回折法のIn-plane法を用いた上記測定(φスキャン)を行ったところ、直角方向(TD)に検出されるX線強度は、流れ方向(MD)に検出されるX線強度の0.68倍であった。
【0067】
(実施例4)
基材層10として、結晶化度が72.4%のポリエチレンフィルム(厚み25μm)を用い、ガスバリア層60の膜厚を10nmとした点を除き、実施例2と同様の手順で実施例3に係る積層体を作製した。
基材層10について、X線回折法のIn-plane法を用いた上記測定(φスキャン)を行ったところ、直角方向(TD)に検出されるX線強度は、流れ方向(MD)に検出されるX線強度の0.65倍であった。
【0068】
(実施例5)
中間層30のガスバリア層を形成する前に、上記と同一条件のプラズマ処理を実施して前処理層61を形成した。前処理層61を形成した点と、ガスバリア層60の膜厚を40nmとした点を除き、実施例2と同様の手順で実施例4に係る積層体を作製した。
【0069】
(実施例6)
中間層30として、結晶化度が14.9%のポリエチレンフィルム(厚み32μm)を使用した。
アクリルポリオールとトリレンジイソシアネートとを、アクリルポリオールのOH基の数に対してトリレンジイソシアネートのNCO基の数が等量となるように混合し、全固形分(アクリルポリオール及びトリレンジイソシアネートの合計量)が5質量%になるよう酢酸エチルで希釈した。希釈後の混合液に、さらにβ-(3,4エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシランを、アクリルポリオール及びトリレンジイソシアネートの合計量100質量部に対して5質量部となるように添加して、前処理層用塗工液を調製した。
中間層30の一方の面に前処理層用塗工液をグラビアコート法により塗布して乾燥及び硬化させ、プラズマ処理を行わずに熱硬化性樹脂からなる前処理層61を形成した。
さらに、ガスバリア層60の膜厚を25nmとした。
上記以外は実施例5と同様手順で実施例6に係る積層体を作製した。
【0070】
(実施例7)
中間層30として、結晶化度が34.3%のポリエチレンフィルム(厚み35μm)を使用し、ガスバリア層60の膜厚を15nmとした点を除き、実施例6と同様の手順で実施例7に係る積層体を作製した。
【0071】
(実施例8)
ガスバリア層60上に、下記(1)液と(2)液とを重量比6:4で混合したコーティング剤をグラビアコート法により塗布、乾燥し、厚さ0.4μmの被覆層62を形成した。
(1)液:テトラエトキシシラン10.4gに塩酸(0.1N)89.6gを加え、30分間撹拌し加水分解させた固形分3wt%(SiO2換算)の加水分解溶液
(2)液:ポリビニルアルコールの3wt%水/イソプロピルアルコール溶液(水:イソプロピルアルコール重量比 90:10)
被覆層62上に二液硬化型ポリウレタン系接着剤からなる第二接着剤層22を形成してシーラント層50を貼り合わせた点、およびガスバリア層60の膜厚を28nmとした点を除き、実施例6と同様の手順で実施例8に係る積層体を作製した。
【0072】
(実施例9)
ガスバリア層60を膜厚3nmの酸化アルミニウム(AlOx)層(電子ビーム蒸着により形成)とした点を除き、実施例2と同様の手順で実施例9に係る積層体を作製した。
【0073】
(実施例10)
ガスバリア層60を膜厚9nmの酸化アルミニウム(AlOx)層(電子ビーム蒸着により形成)とした点を除き、実施例6と同様の手順で実施例10に係る積層体を作製した。
【0074】
(実施例11)
ガスバリア層60を膜厚20nmの酸化アルミニウム(AlOx)層(電子ビーム蒸着により形成)とした点を除き、実施例4と同様の手順で実施例11に係る積層体を作製した。
【0075】
(実施例12)
ガスバリア層60を膜厚10nmの金属アルミニウム(Al)層(電子ビーム蒸着により形成)とした点を除き、実施例2と同様の手順で実施例12に係る積層体を作製した。
【0076】
(実施例13)
真空装置内にヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を導入し、プラズマCVD法により炭素を含む酸化珪素(SiOxCy)からなるガスバリア層60(膜厚30nm)を形成した点を除き、実施例2と同様の手順で実施例13に係る積層体を作製した。
【0077】
(実施例14)
真空装置内にモノシラン(SiH4)、アンモニア(NH3)、および窒素(N2)を導入し、プラズマCVD法により窒化珪素(SiNx)からなるガスバリア層60(膜厚30nm)を形成した点を除き、実施例2と同様の手順で実施例14に係る積層体を作製した。
【0078】
(比較例1)
基材層10として結晶化度が14.9%のポリエチレンフィルム(厚み32μm)を使用した点を除き、実施例2と同様の手順で比較例1に係る積層体を作製した。
基材層10について、X線回折法のIn-plane法を用いた上記測定(φスキャン)を行ったところ、直角方向(TD)に検出されるX線強度は、流れ方向(MD)に検出されるX線強度の1.08倍であった。
【0079】
(比較例2)
基材層10として結晶化度が27.5%のポリエチレンフィルム(厚み30μm)を、中間層30として結晶化度が14.9%のポリエチレンフィルム(厚み32μm)を使用した点を除き、実施例2と同様の手順で比較例2に係る積層体を作製した。
基材層10について、X線回折法のIn-plane法を用いた上記測定(φスキャン)を行ったところ、直角方向(TD)に検出されるX線強度は、流れ方向(MD)に検出されるX線強度の0.75倍であった。
【0080】
(比較例3)
基材層10として結晶化度が78.1%のポリエチレンフィルム(厚み20μm)を、中間層30として結晶化度が14.9%のポリエチレンフィルム(厚み32μm)を使用した点を除き、実施例2と同様の手順で比較例3に係る積層体を作製した。
基材層10について、X線回折法のIn-plane法を用いた上記測定(φスキャン)を行ったところ、直角方向(TD)に検出されるX線強度は、流れ方向(MD)に検出されるX線強度の35.2倍であった。
【0081】
実施例および比較例に係る積層体に対して、以下の評価を行った。
(積層体の結晶化度測定)
リガク製のX線回折装置(ATX-G)を使用し、Out-of-plane法により基材層10およびシーラント層50において、X線の入射角1°未満でX線回折パターンを得た。得られたX線回折パターンを非晶質PE、PE(110)、PE(200)の3つのピークに分離し、各ピークの面積強度を解析して結晶化度を算出した。
上記各層単独での結晶化度測定は、X線の入射角を除き、概ね上記と同様に測定している。
(積層体における基材層の面内配向性測定)
上記ATX-Gを用い、基材層単独での測定と同一の条件にて行った。
【0082】
(積層体の引裂き性評価)
JIS K-7128に記載のトラウザー法に従って、各例の積層体の引裂き強度を測定した。流れ方向における引裂き強度が100N/mm以下であるものを、引裂き性良好(〇)、引裂き強度が100N/mm以上もしくは積層体が伸びて引き裂けなかったものを引裂き性不良(×)とした。
【0083】
(密着性評価)
JIS Z1707に準拠して、各例の積層体から15mm巾短冊状試験片を切り出し、オリエンテック社テンシロン万能試験機RTC-1250を用いて基材層と中間層とのラミネート強度、および中間層とシーラント層とのラミネート強度を測定した。両方のラミネート強度が2N/15mm以上、または積層体が伸びて対象の2層を剥離できなかったものを密着性良好(〇)、いずれかのラミネート強度が2N/15mm未満であったものを密着性不良(×)とした。
各例の主な構成および評価結果について、表1に示す。
【0084】
【0085】
いずれの実施例も、基材層、中間層、およびシーラント層の結晶化度が、所定の範囲内であり、かつ、直角方向(TD)に検出されるX線強度が、流れ方向(MD)に検出されるX線強度と比べて10倍未満であることにより、良好な引き裂き性を示した。
一方、比較例1および2では、基材層の2θスキャン測定に基づく結晶化度が60%未満であり、2θ/θスキャン測定に基づく単層測定の結晶化度が35%未満であった。引き裂き性は良好でなく、基材層の結晶化度がその一因であると考えられた。
比較例3では、特に基材層と中間層等の密着性が十分でなかった。これは、基材層の結晶化度が高すぎることがその一因であると考えられた。
【0086】
以上、本発明の一実施形態、および実施例について説明したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。以下にいくつか変更を例示するが、これらはすべてではなく、それ以外の変更も可能である。これらの変更は自由に組み合わせることができる。
【0087】
・基材層には、内容物に関する各種情報や、イメージ絵柄等を表示するための印刷層が設けられてもよい。第一接着剤層が設けられる面に文字等が反転した印刷層を設けると、使用者が印刷層に直接触れることがなくなり、印刷層による表示等を好適に長期間保持できる。
【0088】
・ガスバリア層が、シーラント層側の第一面でなく、基材層側の第二面に設けられてもよい。あるいは、中間層の両面にガスバリア層が設けられてもよい。
【符号の説明】
【0089】
1 積層体
10 基材層
21 第一接着剤層
22 第二接着剤層
30 中間層
30a 第一面
50 シーラント層
60 ガスバリア層
61 前処理層
62 被覆層