(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132667
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】原子膜の製造方法、及び原子膜
(51)【国際特許分類】
C01B 32/19 20170101AFI20230914BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20230914BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20230914BHJP
【FI】
C01B32/19
B82Y40/00
B82Y30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038127
(22)【出願日】2022-03-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】林 賢二郎
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC03B
4G146BA01
4G146BB15
4G146BB22
4G146BC16
4G146CB07
4G146CB15
4G146CB16
4G146CB21
4G146DA16
(57)【要約】
【課題】 多層原子膜又はバルク層状結晶から大面積の原子膜を剥離及び分離することができる原子膜の製造方法等の提供。
【解決手段】 多層原子膜又は層状バルク結晶をパターニング加工することと、剥離基材により前記多層原子膜又は層状バルク結晶から原子膜を物理的に剥離することと、剥離した前記原子膜を転写基材上に転写することと、を含む原子膜の製造方法等である。前記剥離基材が、ジメチルポリシロキサンである態様、及び表面を親水性処理されたジメチルポリシロキサンである態様が好ましい。
【選択図】
図1H
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層原子膜又は層状バルク結晶をパターニング加工することと、
剥離基材により前記多層原子膜又は層状バルク結晶から原子膜を物理的に剥離することと、
剥離した前記原子膜を転写基材上に転写することと、を含むことを特徴とする原子膜の製造方法。
【請求項2】
前記剥離基材が、ジメチルポリシロキサンである請求項1に記載の原子膜の製造方法。
【請求項3】
前記ジメチルポリシロキサンが、その表面を親水性処理されたジメチルポリシロキサンである請求項2に記載の原子膜の製造方法。
【請求項4】
前記剥離が、前記多層原子膜又は層状バルク結晶の表面に前記剥離基材を密着させて加熱及び加圧する処理を含む請求項1から3のいずれかに記載の原子膜の製造方法。
【請求項5】
前記加熱の温度が80℃~150℃であり、前記剥離基材による前記多層原子膜又は層状バルク結晶の表面に対する押しつけ圧力が0.5N/mm2~20N/mm2である請求項4に記載の原子膜の製造方法。
【請求項6】
前記剥離前に、インターカラントを多層原子膜又は層状バルク結晶中の原子層間に挿入することを更に含む請求項1から5のいずれかに記載の原子膜の製造方法。
【請求項7】
前記インターカラントが、臭素である請求項6に記載の原子膜の製造方法。
【請求項8】
前記原子膜の層数が、1層~20層である請求項1から7のいずれかに記載の原子膜の製造方法。
【請求項9】
パターニング加工された多層原子膜又は層状バルク結晶から剥離された原子膜であって、
パターニング形状を有することを特徴とする原子膜。
【請求項10】
面積が100μm2以上である請求項9に記載の原子膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子膜の製造方法、及び原子膜に関する。
【背景技術】
【0002】
層状物質であるグラファイトや遷移金属カルコゲナイド(TMDC)は、優れた光学特性と多様な電気特性、柔軟性を有することから、透明導電膜やフレキシブルデバイスへの応用が試みられている。近年、バルク結晶からの剥離により得られた薄い(単層、又は数層)の原子膜において、バルクには無い特異な物性が発現することが見いだされた。これを契機に、バルク結晶から単層の原子膜を得るための剥離法の開発が盛んに研究されてきた。
【0003】
単層、又は数層の原子膜を得る技術としては、これまでに、溶液中でバルクの微小結晶片を分散させ、超音波照射により剥離することで原子膜を生成する方法が提案されている(例えば、非特許文献1)。しかし、得られる原子膜は数ミクロン程度の断片であり、原子膜の層数やサイズは制御できていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Carbon 47 (2009) 3288-3294
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一つの側面では、本件は、多層原子膜又はバルク層状結晶をパターニングすることにより、所望の形状及び大きさの原子膜を剥離及び分離することができる原子膜の製造方法、及び原子膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一つの態様では、本件で開示する原子膜の製造方法は、多層原子膜又は層状バルク結晶をパターニング加工することと、剥離基材により前記多層原子膜又は層状バルク結晶から原子膜を物理的に剥離することと、剥離した前記原子膜を転写基材上に転写することと、を含む。
【0007】
一つの態様では、本件で開示する原子膜は、パターニング加工された多層原子膜又は層状バルク結晶から剥離された原子膜であって、パターニング形状を有する原子膜である。
【発明の効果】
【0008】
一つの側面として、本件は、多層原子膜又はバルク層状結晶をパターニングすることにより、所望の形状及び大きさの原子膜を剥離及び分離することができる原子膜の製造方法、及び原子膜を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】
図1Aは、実施形態1における原子膜の製造方法の手順を示す模式図(その1)である。
【
図1B】
図1Bは、実施形態1における原子膜の製造方法の手順を示す模式図(その2)である。
【
図1C】
図1Cは、実施形態1における原子膜の製造方法の手順を示す模式図(その3)である。
【
図1D】
図1Dは、実施形態1における原子膜の製造方法の手順を示す模式図(その4)である。
【
図1E】
図1Eは、実施形態1における原子膜の製造方法の手順を示す模式図(その5)である。
【
図1F】
図1Fは、実施形態1における原子膜の製造方法の手順を示す模式図(その6)である。
【
図1G】
図1Gは、実施形態1における原子膜の製造方法の手順を示す模式図(その7)である。
【
図1H】
図1Hは、実施形態1における原子膜の製造方法の手順を示す模式図(その8)である。
【
図1I】
図1Iは、実施形態1における原子膜の製造方法の手順を示す模式図(その9)である。
【
図2】
図2は、実施形態1において用いる原子膜の製造装置の概略図である。
【
図3A】
図3Aは、実施形態2における原子膜の製造方法の手順を示す模式図(その1)である。
【
図3B】
図3Bは、実施形態2における原子膜の製造方法の手順を示す模式図(その2)である。
【
図3C】
図3Cは、実施形態2における原子膜の製造方法の手順を示す模式図(その3)である。
【
図3D】
図3Dは、実施形態2における原子膜の製造方法の手順を示す模式図(その4)である。
【
図3E】
図3Eは、実施形態2における原子膜の製造方法の手順を示す模式図(その5)である。
【
図3F】
図3Fは、実施形態2における原子膜の製造方法の手順を示す模式図(その6)である。
【
図3G】
図3Gは、実施形態2における原子膜の製造方法の手順を示す模式図(その7)である。
【
図3H】
図3Hは、実施形態2における原子膜の製造方法の手順を示す模式図(その8)である。
【
図3I】
図3Iは、実施形態2における原子膜の製造方法の手順を示す模式図(その9)である。
【
図4】
図4は、実施例1~6において用いた、パターニング加工を実施した多層グラフェンの写真である。
【
図5】
図5は、
図4に示す多層グラフェンから剥離及び転写した、実施例1~6のパターニング形状を有するグラフェン原子膜の写真である。
【
図6A】
図6Aは、比較例1におけるパターニング加工をしていない多層グラフェンの写真である。
【
図6B】
図6Bは、比較例1におけるパターニング加工をしていない多層グラフェンから剥離及び転写したグラフェン原子膜の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(原子膜の製造方法)
開示の原子膜の製造方法は、多層原子膜又は層状バルク結晶をパターニング加工することと、剥離基材により前記多層原子膜又は層状バルク結晶から原子膜を物理的に剥離することと、剥離した前記原子膜を転写基材上に転写することと、を含む。
【0011】
本件で開示する技術は、従来技術の非特許文献1(Carbon 47 (2009) 3288-3294)の方法では、得られる原子膜は最大長で0.1μm~1.5μmサイズの不定形な微小片であり、大面積の原子膜を剥離する手法は確立していないという問題があり、ランダムな事象であるため、剥離する層数の制御や転写基材への転写位置の制御が困難であるという問題があることを本発明者らは知見した。
また、粘着テープなどによりバルクの層状結晶から物理的に原子膜を剥離する方法も知られているが、得られる原子膜の厚みはランダムであり、そのほとんどが厚い(層数が多い)剥片であり、薄い原子膜の剥片の収量は非常に少ないという問題があり、剥片のサイズも数ミクロン程度と小さいという問題があることを本発明者らは知見した。
このように、多層原子膜から大面積の薄い原子膜を剥離する手法は確立しておらず、所望の形状及び大きさの原子膜を製造する方法も確立していない。更なる新規物性の解明やデバイスへの応用に向けて、所望の形状及び大きさの原子膜を剥離及び分離する方法が求められている。
本開示は、以上の知見に基づき完成させるに至ったものである。
【0012】
開示の原子膜の製造方法は、パターニング加工工程と、剥離工程と、転写工程とを少なくとも含み、インターカラント挿入工程を含むことが好ましく、更に必要に応じて、多層原子膜作製工程などのその他の工程を含む。
前記原子膜の製造方法により単層又は数層の原子膜を製造することができる。
【0013】
<パターニング加工工程>
前記パターニング加工工程は、多層原子膜又は層状バルク結晶をパターニング加工する工程である。
前記パターニング加工する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の方法を選択することができ、例えば、多層グラフェン表面にレジストを塗布することによりパターンの原型をマスクし、露光後、露出した多層グラフェンの上層部を除去(エッチング)し、有機洗浄によりレジストを除去することにより好適に行うことができる。
前記レジストとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フォトレジストであればTSMRシリーズ、TLORシリーズ(いずれも東京応化工業株式会社製)等;電子線レジストであればポリメタクリル酸メチル(PMMA)等;などが挙げられる。これらは全てアセトンにて溶解除去可能である。
前記露光の方法としては、例えば、フォトリソグラフィー、電子線リソグラフィーなどが挙げられる。
【0014】
前記エッチングとしては、例えば、ドライエッチング、ウェットエッチングなどが挙げられる。これらの中でもドライエッチングが好ましく、酸素プラズマによるドライエッチングがより好ましい。
前記エッチングの条件としては、特に制限はなく、剥離したい層数などの目的に応じて適宜選択することができ、エッチングに用いる装置などに応じて一義的には規定できないが、1層~10層程度のグラフェンを除去するためには、200W、0.5Paの条件で、1分間~20分間程度エッジングを行うことが好ましい。
前記有機洗浄に用いる溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アセトンなどが挙げられる。
前記有機洗浄の方法としては、特に制限はなく目的に応じて適宜公知の方法を選択することができる。
【0015】
-多層原子膜又は層状バルク結晶-
前記多層原子膜又は層状バルク結晶(以下、単に「多層原子膜」と称することがある)としては、例えば、グラフェン、層状カルコゲナイド、六方晶窒化ホウ素(hBN)、シリセン、ゲルマネン、スタネンなどが挙げられる。
前記グラフェンとしては、例えば、多層グラフェン、高配向性熱分解グラファイト(HOPG)、グラファイト結晶などが挙げられる。
前記層状カルコゲナイドとしては、例えば、カルコゲン元素(S、Se、Te等)と、遷移金属(Mo、Nb、W、Ta、Ti、Zr、Hf、V等)とからなる遷移金属ダイカルコゲナイド、カルコゲン元素と13族元素(Ga、In、Tl等)とからなる13族カルコゲナイド、カルコゲン元素と14族元素(Ge、Sn、Pb等)とからなる14族カルコゲナイド、カルコゲン元素とビスマスとからなるビスマスカルコゲナイドなどが挙げられる。
前記多層原子膜又は層状バルク結晶は、基材上に作製されることが好ましい。前記多層原子膜又は層状バルク結晶は、化学気相堆積法(CVD)や分子線エピタキシー法(MBE)などによって基材上に作製することができる。
【0016】
前記層状カルコゲナイドを製造する方法としては、例えば、以下の方法などが挙げられる。
CVD法では、目的の層状カルコゲナイドを構成する金属元素とカルコゲン元素を含む原料をそれぞれ炉内に入れ、加熱により蒸発した原料同士が化学反応させることにより、作製することができる。
MBE法では、加熱した基板上に金属元素とカルコゲン元素の単体をそれぞれ蒸着させて反応させることにより、層状カルコゲナイドの多層原子膜を作製することができる。
【0017】
-基材-
前記基材としては、特に制限はなく目的に応じて、その最表面に多層グラフェンを作製できる基材を適宜選択することができ、例えば、金属基材、絶縁性基材などが挙げられる。
前記金属基材としては、例えば、銅、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、パラジウム、金、白金、ルテニウム、これらのうちの2種以上から成る合金などが挙げられる。
前記絶縁性基材としては、例えば、シリコン(Si)、熱酸化膜付きシリコン、サファイア、アルミナ、酸化マグネシウムなどが挙げられる。
【0018】
<剥離工程>
前記剥離工程は、剥離基材により前記多層原子膜又は層状バルク結晶から原子膜を物理的に剥離する工程である。
前記多層原子膜又は層状バルク結晶の表面に前記剥離基材を密着させて前記原子膜を物理的に剥離することが好ましい。
前記密着させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、多層原子膜又は層状バルク結晶と剥離基材との間に空気が入らないよう注意し、全面を密着させることが好ましい。密着させて剥離することにより、剥離基材上に単層又は数層の原子膜を剥離することができる。
【0019】
-原子膜-
前記原子膜は、例えば、グラフェン、層状カルコゲナイド、六方晶窒化ホウ素(hBN)、シリセン、ゲルマネン、スタネンなどの層状物質からなる原子膜である。
前記原子膜の面積としては、原子膜の微細なパターンの外周により囲まれた部分の面積であってもよく、パターニング加工により除去した部分を除いた原子膜自身の面積であってもよく、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100μm2以上が好ましく、500μm2以上がより好ましく、1,000μm2以上が更に好ましく、10,000μm2以上が特に好ましい。
前記原子膜の層数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、単層であってもよく、1層~20層であってもよく、1層~10層であってもよく、1層~5層であってもよい。前記原子膜における二次元(平面)方向に対する層数の分布としては、均一な化学特性及び光学特性を得ることができる点から、特定の層数が均一に分布することが好ましいが、層数の幅を持って分布していてもよい。
【0020】
前記剥離工程において得られる剥離された原子膜の面積は、剥離元であるパターニング加工された多層原子膜又は層状バルク結晶と同等のサイズとなり、典型的には、最大長で10μm~数百μmである。前記剥離された原子膜は、光学顕微鏡により剥離基材と剥離された原子膜とのコントラストの差に基づいて確認でき、その面積、及び層数を求めることができる。層数の同定方法としては、他にも、原子間力顕微鏡により剥離基材と多層原子膜又は層状バルク結晶との段差を直接測定する方法が挙げられ、多層原子膜又は層状バルク結晶単層あたりの厚み(例えば、グラフェン単層あたりの厚み約0.34nm)から算出することができる。
【0021】
-剥離基材-
前記剥離基材としては、特に制限はなく目的に応じて、多層原子膜又は層状バルク結晶から前記原子膜を物理的に剥離できる基材を適宜選択することができ、例えば、金属基材、絶縁性基材、樹脂基材などが挙げられる。
前記金属基材としては、例えば、銅、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、パラジウム、金、白金、ルテニウム、これらのうちの2種以上から成る合金などが挙げられる。
前記絶縁性基材としては、例えば、シリコン(Si)、熱酸化膜付きシリコン、サファイア、アルミナ、酸化マグネシウムなどが挙げられる。
前記樹脂基材としては、例えば、シリコーン樹脂などが挙げられる。前記シリコーン樹脂としては、例えば、ジメチルポリシロキサンなどが挙げられる。
これらの中でも、シリコーン樹脂が好ましく、ジメチルポリシロキサンがより好ましい。また、原子膜との密着性が向上する点で、その表面を親水性処理された剥離基材が好ましく、その表面を親水性処理されたジメチルポリシロキサンがより好ましい。
前記剥離基材の平均厚みとしては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、100nm~1mmが好ましい。
前記剥離基材の表面を親水性処理する方法としては、例えば、使用直前に剥離基材の表面に対して酸素プラズマ処理、又はUVオゾン処理を行い、有機不純物を除去し、その表面を親水性に改質させる方法が好適に挙げられる。
【0022】
<<加熱加圧処理>>
前記剥離工程は、加熱加圧処理を含むことが好ましい。
前記加熱加圧処理は、前記剥離工程において、前記多層原子膜又は層状バルク結晶の表面に前記剥離基材を密着させて加熱及び加圧する処理である。
前記密着させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、多層原子膜又は層状バルク結晶と剥離基材との間に空気が入らないよう、全面を密着させることが好ましい。密着させた状態で加圧することにより、剥離基材が多層原子膜又は層状バルク結晶の表面に強く吸着し、前記加熱により、密着性を向上させることができる。
前記加熱は、前記多層原子膜又は層状バルク結晶を積載した前記基材、及び前記剥離基材の少なくともいずれかの加熱により行うことができ、前記加熱の温度としては、80℃~150℃が好ましく、80℃~100℃がより好ましい。
前記加圧における、前記剥離基材による前記多層原子膜又は層状バルク結晶の表面に対する押しつけ圧力としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、0.5N/mm2~20N/mm2が好ましく、0.5N/mm2~4N/mm2がより好ましい。
剥離される原子膜の層数は、加圧、加熱、及び用いる剥離基材などの様々な条件により制御され、一義的に規定することはできないが、前記押しつけ圧力としては、単層~10層を剥離する場合は、0.5N/mm2~2N/mm2が好ましく、10層~20層を剥離する場合は、2N/mm2~20N/mm2が好ましい。
前記加熱加圧処理の時間としては、特に制限はなく、用途に合わせて適宜選択することができるが、5秒間~10時間が好ましく、1分間~5時間がより好ましく、1分間~1時間が更に好ましい。多層原子膜又は層状バルク結晶の表面に剥離基材を密着させて加熱及び加圧しながら所定時間保持し、加熱及び加圧を停止して、多層原子膜又は層状バルク結晶から剥離基材を剥がすことで、剥離基材上に単層又は数層の原子膜が剥離され付着する。
【0023】
<転写工程>
前記転写工程は、前記剥離工程において剥離した前記原子膜を転写基材上に転写する工程である。
前記剥離基材上に付着した原子膜の表面に前記転写基材を密着させて前記原子膜を前記転写基材上に転写することが好ましい。
前記密着させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、剥離基材上に付着した原子膜と転写基材との間に空気が入らないよう注意し、全面を密着させることが好ましい。密着させて転写することにより、転写基材上に単層又は数層の原子膜を転写することができる。
グラフェンの転写の有無は、光学顕微鏡により転写基板とのコントラストの差で確認できる。
【0024】
-転写基材-
前記転写基材としては、特に制限はなく、用途に合わせて適宜選択することができ、例えば、金属基材、絶縁性基材、樹脂基材、紙などが挙げられる。
前記金属基材としては、例えば、銅、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、パラジウム、金、白金、ルテニウム、これらのうちの2種以上から成る合金などが挙げられる。
前記絶縁性基材としては、例えば、シリコン(Si)、熱酸化膜付きシリコン、サファイア、アルミナ、酸化マグネシウムなどが挙げられる。
前記樹脂基材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリアミドなどが挙げられる。
これらの中でも、熱酸化膜付きシリコンが好ましい。また、その表面を親水性処理された転写基材が好ましく、その表面を親水性処理された熱酸化膜付きシリコンがより好ましい。
前記転写基材の表面を親水性処理する方法としては、例えば、使用直前に転写基材の表面に対して酸素プラズマ処理、又はUVオゾン処理を行い、有機不純物を除去し、その表面を親水性に改質させる方法が好適に挙げられる。
【0025】
-原子膜-
前記転写工程において得られる原子膜の面積は、剥離基材により剥離された原子膜と同等のサイズとなり、典型的には、最大長で10μm~数百μmである。前記原子膜の転写の有無は、光学顕微鏡により転写基材と転写された原子膜とのコントラストの差に基づいて確認でき、転写された原子膜の面積を求めることができる。
具体的には、WinROOFシリーズ(三谷商事株式会社製)、SPIPTM(Digital Surf社)などの一般的な画像解析ソフトを使用することで、取得画像から面積や剥離片の数を見積もることができる。
前記原子膜の面積としては、原子膜の微細なパターンの外周により囲まれた部分の面積であってもよく、パターニング加工により除去した部分を除いた原子膜自身の面積であってもよく、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100μm2以上が好ましく、500μm2以上がより好ましく、1,000μm2以上が更に好ましく、10,000μm2以上が特に好ましい。
前記原子膜の層数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、単層であってもよく、1層~20層であってもよく、1層~10層であってもよく、1層~5層であってもよい。前記原子膜における二次元(平面)方向に対する層数の分布としては、均一な化学特性及び光学特性を得ることができる点から、特定の層数が均一に分布することが好ましいが、層数の幅を持って分布していてもよい。
前記原子膜の層数の同定方法としては、例えば、転写基材とのコントラストの差に基づいて測定する方法、原子間力顕微鏡により転写基材と多層原子膜又は層状バルク結晶との段差を直接測定する方法が挙げられ、多層原子膜又は層状バルク結晶単層あたりの厚み(例えば、グラフェン単層あたりの厚み約0.34nm)から算出することができる。
【0026】
<<加熱加圧処理>>
前記転写工程は、加熱加圧処理を含むことが好ましい。
前記加熱加圧処理は、前記転写工程において、剥離基材上に付着した前記原子膜を前記転写基材に密着させて加熱、及び加圧する処理である。
前記密着させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、剥離基材上に付着した原子膜と転写基材との間に空気が入らないよう、全面を密着させることが好ましい。密着させた状態で加圧することにより、転写基材が原子膜の表面に強く吸着し、前記加熱により、密着性を向上させることができる。
前記加熱は、剥離基材、及び転写基材の少なくともいずれかの加熱により行うことができ、前記加熱の温度としては、80℃~150℃が好ましい。
前記加圧の押しつけ圧力としては、0.5N/mm2~20N/mm2が好ましい。
前記加熱加圧処理の時間としては、特に制限はなく、用途に合わせて適宜選択することができるが、5秒間~10時間が好ましく、1分間~5時間がより好ましく、1分間~1時間が更に好ましい。剥離基材上に付着した前記単層原子膜を前記転写基材に密着させて加熱及び加圧しながら所定時間保持し、加熱及び加圧を停止して、転写基材から剥離基材を剥がすことで、剥離基材側から転写基材上に単層又は数層の原子膜が転写される。
【0027】
<インターカラント挿入工程>
前記剥離工程の前に、インターカラント挿入工程を更に含むことが好ましい。
前記インターカラント挿入工程は、インターカラントをパターニング加工された多層原子膜又は層状バルク結晶中の原子層間に挿入する工程である。これにより、原子膜の剥離が容易になり、層数を制御した大面積の原子膜を剥離及び転写することができる。
前記インターカラントとしては、特に制限はなく、目的に応じて公知の層状構造などをもつ分子集団の隙間に挿入される物質(層間物質)を適宜選択することができるが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ストロンチウム、バリウム、臭素、塩素、ヨウ化塩素、ヨウ化臭素、硝酸、硫酸、塩化銅、塩化コバルト、塩化金、塩化マンガン、塩化鉄などが挙げられる。これらの中でも、揮発性であり除去が容易である点で、臭素が好ましい。
【0028】
前記インターカラントを挿入する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の方法を選択でき、例えば、室温においてインターカラントを含む溶液にパターニング加工された多層原子膜又は層状バルク結晶を浸漬させる方法、インターカラントを含む気体に多層原子膜又は層状バルク結晶を暴露させる方法などが挙げられる。これにより、パターニング加工された多層原子膜又は層状バルク結晶中にインターカラントが拡散し、各層間に挿入され、多層原子膜又は層状バルク結晶の層間距離が広がり層間の結合力が減少するため、薄い単層又は数層の原子膜を剥離しやすくなる。
前記挿入する時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、1分間~10時間が好ましく、10分間~5時間がより好ましい。また、挿入する時間を変えることにより、剥離する原子膜の層数を調節することができる。
【0029】
前記インターカラント挿入工程に続いて、前記剥離工程を行い、必要に応じて前記インターカラントを除去した後、前記転写工程を行う。
前記インターカラントを除去する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の方法を選択でき、例えば、臭素などの揮発性のインターカラントの場合は、剥離した原子膜が付着した剥離基材を、原子膜が暴露されている状態で加熱する方法が挙げられる。前記加熱の条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、温度は50℃~100℃が好ましく、時間は1分間~10時間が好ましく、10分間~5時間がより好ましい。
【0030】
<その他の工程>
<<多層原子膜作製工程>>
開示の原子膜の製造方法は、多層原子膜又は層状バルク結晶を作製する多層原子膜作製工程を含んでもよい。
前記多層原子膜又は層状バルク結晶を基材上に作製することが好ましい。
【0031】
-基材-
前記基材としては、特に制限はなく目的に応じて、その最表面に多層グラフェンを作製できる基材を適宜選択することができ、例えば、金属基材、絶縁性基材などが挙げられる。
前記金属基材としては、例えば、銅、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、パラジウム、金、白金、ルテニウム、これらのうちの2種以上から成る合金などが挙げられる。
前記絶縁性基材としては、例えば、シリコン(Si)、熱酸化膜付きシリコン、サファイア、アルミナ、酸化マグネシウムなどが挙げられる。
【0032】
前記多層原子膜又は層状バルク結晶の作製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の方法を選択することができ、例えば、化学気相堆積法(CVD)、分子線エピタキシー法(MBE)などが挙げられる。
表面が均一になるように大面積の多層原子膜又は層状バルク結晶を作製することにより、本発明の原子膜の製造方法により、所望の形状の大面積で均一な厚みの単層又は数層の原子膜を得ることができる。
【0033】
(原子膜)
開示の原子膜は、パターニング加工された前記多層原子膜又は層状バルク結晶から剥離された原子膜であって、パターニング形状を有する。
開示の原子膜は、開示の原子膜の製造方法により好適に製造することができる。
前記パターニング形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜所望の形状を選択することができ、例えば、複数の直線を有する形状、規則的な周期的な形状などが挙げられる。
【0034】
前記原子膜は、例えば、グラフェン、層状カルコゲナイド、六方晶窒化ホウ素(hBN)、シリセン、ゲルマネン、スタネンなどの層状物質からなる原子膜である。
前記原子膜の面積としては、原子膜の微細なパターンの外周により囲まれた部分の面積であってもよく、パターニング加工により除去した部分を除いた原子膜自身の面積であってもよく、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100μm2以上であり、500μm2以上が好ましく、1,000μm2以上がより好ましく、10,000μm2以上が更に好ましい。
前記原子膜の層数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、単層であってもよく、1層~20層であってもよく、1層~10層であってもよく、1層~5層であってもよい。前記原子膜における二次元(平面)方向に対する層数の分布としては、均一な化学特性及び光学特性を得ることができる点から、特定の層数が均一に分布することが好ましいが、層数の幅を持って分布していてもよい。
【0035】
前記原子膜は、光学顕微鏡により剥離基材と剥離された原子膜とのコントラストの差に基づいて確認でき、その面積、及び層数を求めることができる。層数の同定方法としては、他にも、原子間力顕微鏡により基材と多層原子膜又は層状バルク結晶との段差を直接測定する方法が挙げられ、多層原子膜又は層状バルク結晶単層あたりの厚み(例えば、グラフェン単層あたりの厚み約0.34nm)から算出することができる。
【0036】
前記原子膜は、多層状の前記多層原子膜又は層状バルク結晶にはない特異的な物性を発現する二次元材料として利用できる。
前記原子膜がグラフェンである場合、多層状の前記多層原子膜又は層状バルク結晶に対して、高電子移動度を示すことから高周波デバイスへの応用、比表面積が大きいことから化学センサへの応用、高い光吸収係数を示すことから光学センサへの応用ができる。また、前記原子膜が層状カルコゲナイドである場合、層数に依存してバンドギャップが変化し、単層では直接遷移型の性質を示す、組成に応じて導電性及び半導電性の物性が変化する、透明、フレキシブルなどの特性を示すことから、これらの用途に応用できる。
【0037】
以下、開示の原子膜の製造方法における実施形態について、図面を参照しながら説明するが、本件は以下の実施形態に制限されるものではない。なお、以下の図面において、図示の便宜上、相対的に正確な大きさや厚みを示していない構成部材がある。
【0038】
[実施形態1]
図1A~
図1Iは、実施形態1における原子膜の製造方法の手順を示す模式図である。
まず、基材1上に、多層原子膜2としての多層グラフェンを用意する(
図1A)。次に、多層原子膜2の上層部を加工するため、多層グラフェン表面にレジスト3を塗布し任意の形状にパターニングする(
図1B)。パターニングは、通常のフォトリソグラフィー、又は電子線リソグラフィーによって行う。パターニング後、露出した多層グラフェンの上層部分を除去する。典型的には酸素プラズマによるドライエッチングを行う(
図1C)。剥離したい層数に応じてエッチングするグラフェンの層数を変えることが好ましい。エッチングに用いる装置にも依存するが、1層~10層程度のグラフェンを除去するためには、200W、0.5Paの条件で、1分間~20分間程度エッジングを行うことが好ましい。エッチング完了後、有機洗浄によりレジスト3を除去する(
図1D)。これにより、多層原子膜2の上層部が、パターニング加工された原子膜4aとなる。
次に、剥離基材5としてのジメチルポリシロキサン(PDMS)を多層原子膜2の表面に密着させる(
図1E)。
図1E中の矢印は、剥離基材5による多層原子膜2の表面に対する押しつけ圧力を示す。その状態で剥離基材5を80℃~150℃に加熱し、0.5N/mm
2~20N/mm
2の圧力を加え、5秒間~10時間保持することが好ましい。加熱は、剥離基材5側、基材1側、又はその両方に行う。次いで、剥離基材5を多層原子膜2から剥離すると、剥離基材5上にパターニング加工され、剥離された単層又は数層の原子膜4bが得られる(
図1F)。
図1F中の矢印は、剥離基材5を剥離する方向を示す。
【0039】
次に、
図1Gに示すように、転写基材6(転写用の別基材)としての熱酸化膜付きシリコン(Si)基材を用意し、原子膜4bが付着している側の剥離基材5の表面を転写基材6に密着させる。
図1G中の矢印は、転写基材6による剥離基材5の表面に対する押しつけ圧力を示す。その状態で転写基材6を80℃~150℃に加熱し、0.5N/mm
2~20N/mm
2の圧力を加え、5秒間~10時間保持することが好ましい。加熱は、剥離基材5側、転写基材6側、又はその両方に行う。最後に、転写基材6から剥離基材5を剥がすことで、剥離基材5側から転写基材6上に単層又は数層のパターニング加工された原子膜4bが転写され、転写された原子膜4cが得られる(
図1H)。
更に、所望の他の基材7上に転写基材6側から原子膜4cを更に転写してもよい(
図1I)。
【0040】
図2に実施形態1において用いる原子膜の製造装置の概略図を示す。剥離基材5と多層原子膜2を間に空気が入らないように密着させてヒーター機能付きの平坦なプレート20a上に載せ、上からヒーター機能付きの平坦なプレート20bを押し付けることで加熱及び加圧を行う。加圧するときの圧力はプレート20b上部に備えられた圧力センサ30によって計測でき、剥離基材5と多層原子膜2との接触面積で規格化される。また、加熱するときの温度は、上下のプレート(20a、20b)に備えられた温調器40により制御される。
剥離基材5側から転写基材6上への原子膜4の転写も同様に、
図2に示す原子膜の製造装置を用いて行うことができる。
【0041】
[実施形態2]
図3A~Iは、実施形態2における原子膜の製造方法の手順を示す模式図である。実施形態2は、インターカラント挿入工程を含む原子膜の製造方法である。
まず、基材1上に、多層原子膜2としての多層グラフェンを用意する(
図3A)。次に、多層原子膜2の上層部を加工するため、多層グラフェン表面にレジスト3を塗布し任意の形状にパターニングする(
図3B)。パターニングは、通常のフォトリソグラフィー、又は電子線リソグラフィーによって行う。パターニング後、露出した多層グラフェンの上層部分を除去する。典型的には酸素プラズマによるドライエッチングを行う(
図3C)。剥離したい層数に応じてエッチングするグラフェンの層数を変えることが好ましい。エッチングに用いる装置にも依存するが、1層~10層程度のグラフェンを除去するためには、200W、0.5Paの条件で、1分間~20分間程度エッジングを行うことが好ましい。エッチング完了後、有機洗浄によりレジスト3を除去する(
図3D)。これにより、多層原子膜2の上層部が、パターニング加工された原子膜4aとなる。
以上の工程は、実施形態1の
図1A~
図1Dと同様である。
【0042】
次に、
図3Eに示すように、パターニング加工された原子膜4aを有する多層原子膜2にインターカラント8(層間物質)としての臭素を挿入する。室温において多層原子膜2を臭素に浸漬させるか、又は臭素を含む気体に暴露させることで臭素分子が多層原子膜2中に拡散し、各層間に挿入される。これにより、パターニング加工された原子膜4aの層間距離が広がり層間の結合力が減少するため、薄い単層又は数層の原子膜4aを剥離しやすくなる。インターカラント8を挿入する時間は特に限定しないが、1分間~10時間が好ましい。また、挿入時間を変えることにより、剥離させる層数を制御できる。次いで、剥離基材5としてのジメチルポリシロキサン(PDMS)をパターニング加工された原子膜4aの表面に密着させる(
図3F)。
図3F中の矢印は、剥離基材5によるパターニング加工された原子膜4aを有する多層原子膜2の表面に対する押しつけ圧力を示す。その状態で剥離基材3を80℃~150℃に加熱し、0.5N/mm
2~20N/mm
2の圧力を加え、5秒間~10時間保持することが好ましい。加熱は、剥離基材5側、基材1側、又はその両方に行う。次いで、剥離基材5を多層原子膜2から剥離すると、剥離基材5上にパターニング加工され、剥離された単層又は数層の原子膜4bが得られる(
図3G)。
図3G中の矢印は、剥離基材5を剥離する方向を示す。次に、剥離したグラフェン中に残留している臭素分子を蒸発させるために、グラフェン表面が暴露されている状態で剥離基材5を加熱する。加熱温度は50℃~100℃程度で、加熱時間は5秒間~10時間が好ましい。
【0043】
次に、
図3Hに示すように、転写基材6(転写用の別基材)としての熱酸化膜付きシリコン(Si)基材を用意し、原子膜4bが付着している側の剥離基材5の表面を転写基材5に密着させる。
図3H中の矢印は、転写基材6による剥離基材5の表面に対する押しつけ圧力を示す。その状態で転写基材5を80℃~150℃に加熱し、0.5N/mm
2~20N/mm
2の圧力を加え、5秒間~10時間保持することが好ましい。加熱は、剥離基材5側、転写基材6側、又はその両方に行う。最後に、転写基材6から剥離基材5を剥がすことで、剥離基材5側から転写基材6上に単層又は数層のパターニング加工された原子膜4cが転写される(
図3I)。
更に、実施形態1と同様に、所望の他の基材7上に転写基材6側から原子膜4cを更に転写してもよい(図示せず)。
原子膜を剥離及び転写するための原子膜の製造装置としては、実施形態1と同様に、
図2に示す原子膜の製造装置を用いることができる。
【実施例0044】
以下、実施例に基づいて開示の原子膜の製造方法、及び原子膜をより具体的に説明するが、本件は以下の実施例に制限されるものではない。
【0045】
(実施例1~6)
実施形態1の方法にしたがって、以下の条件により原子膜を製造した。
<多層グラフェン原子膜の作製>
原材料として用いた多層グラフェン原子膜は、金属基材上にCVD合成により合成した。具体的には、多層グラフェン作製のための基材として鉄膜を用いて、多層グラフェン原子膜を作製した。
【0046】
<原子膜の作製>
パターニング加工は、フォトリソグラフィー装置(MLA150、Heidelberg Instruments社製)及びレジスト(商品名:TSMR、東京応化工業株式会社製)を用いて、ラインとスペースの幅が等しい、5μm(実施例1)、7μm(実施例2)、10μm(実施例3)、15μm(実施例4)、20μm(実施例5)、及び30μm(実施例6)の間隔の6種類のラインアンドスペースのパターニングを行った。パターニング後、酸素プラズマ装置(400W、1.0Pa)を用いて露出した箇所のグラフェンをエッチングした。処理時間は5分間であった。次いで、アセトンを用いてTSMRレジストを除去した後、イソプロピルアルコール(IPA)により洗浄した。
図4に、実施例1~6において用いた、パターニング加工を実施した剥離元の多層グラフェンの写真を示す。多層グラフェンは、鉄膜上に合成されたものであり、点線で囲まれた領域には6種類(実施例1~6)のラインアンドスペースのパターニングが施されている。
【0047】
次いで、パターニング加工された多層グラフェンから原子膜を剥離した。
剥離工程における条件は、加圧は2N/mm
2、温度は100℃、保持時間は5秒間であり、転写工程における条件としては、加圧は0.5N/mm
2、温度は80℃、保持時間は60分間であった。剥離基材としてジメチルポリシロキサン(PDMS)、転写基材として熱酸化膜付きシリコン(Si)基材を用いた。
図5に、
図4に示す多層グラフェンからの剥離及び転写によって得られた、実施例1~6のパターニング形状を有するグラフェン原子膜の写真を示す。
【0048】
図4~5の結果から、加工パターンと同じ形状のグラフェン膜が熱酸化膜付きシリコン基板上に転写されており、所望のパターニング間隔であり、かつ数百μmの長さのグラフェン薄膜が得られることが観察された。本手法によって任意の形状やサイズのグラフェン膜を多層グラフェンから剥離できることを示している。
コントラスの濃淡は多層グラフェンの層数の違いを反映しており、転写基材とのコントラストから、剥離されたグラフェンの層数は、単層~10層程度であった。グラフェンの層数は透過電子顕微鏡(TEM)による断面観察により確認した。
【0049】
(比較例1)
実施例1において、パターニング加工を施さないこと以外は、実施例1と同様にして原子膜の作製を行った。
図6A及びBに、比較例1におけるパターニング加工をしていない多層グラフェンの写真、及び比較例1における前記パターニング加工をしていない多層グラフェンから剥離及び転写したグラフェン原子膜の写真を示す。
図6Aは、CVD合成直後に撮影した剥離元となる鉄膜上に合成した多層グラフェンの写真である。コントラスの濃淡は多層グラフェンの層数の違いを反映している。薄い場所では数層、濃い場所では100層程度のグラフェンが形成されている。
図6Bは、
図6Aの領域の多層グラフェン全面から剥離及び転写した後のグラフェン膜の写真である。ここでもコントラスの濃淡がグラフェン層数の違いを反映しているが、得られたグラフェンの層数が大きくばらついていることが分かる。また、形状も不規則であり最大長も5~10μm程度であった。
【0050】
以上の実施例1~6を含む実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
多層原子膜又は層状バルク結晶をパターニング加工することと、
剥離基材により前記多層原子膜又は層状バルク結晶から原子膜を物理的に剥離することと、
剥離した前記原子膜を転写基材上に転写することと、を含むことを特徴とする原子膜の製造方法。
(付記2)
前記剥離基材が、ジメチルポリシロキサンである付記1に記載の原子膜の製造方法。
(付記3)
前記ジメチルポリシロキサンが、その表面を親水性処理されたジメチルポリシロキサンである付記2に記載の原子膜の製造方法。
(付記4)
前記剥離が、前記多層原子膜又は層状バルク結晶の表面に前記剥離基材を密着させて加熱及び加圧する処理を含む付記1から3のいずれかに記載の原子膜の製造方法。
(付記5)
前記加熱の温度が80℃~150℃であり、前記剥離基材による前記多層原子膜又は層状バルク結晶の表面に対する押しつけ圧力が0.5N/mm2~20N/mm2である付記4に記載の原子膜の製造方法。
(付記6)
前記剥離前に、インターカラントを多層原子膜又は層状バルク結晶中の原子層間に挿入することを更に含む付記1から5のいずれかに記載の原子膜の製造方法。
(付記7)
前記インターカラントが、臭素である付記6に記載の原子膜の製造方法。
(付記8)
前記原子膜の層数が、1層~20層である付記1から7のいずれかに記載の原子膜の製造方法。
(付記9)
前記多層原子膜又は層状バルク結晶が、グラフェン、層状カルコゲナイド、六方晶窒化ホウ素、シリセン、ゲルマネン、及びスタネンから選択される付記1から8のいずれかに記載の原子膜の製造方法。
(付記10)
前記原子膜が、グラフェン、層状カルコゲナイド、六方晶窒化ホウ素、シリセン、ゲルマネン、及びスタネンから選択される層状物質からなる付記1から9のいずれかに記載の原子膜の製造方法。
(付記11)
前記原子膜の面積が、100μm2以上である付記1から10のいずれかに記載の原子膜の製造方法。
(付記12)
パターニング加工された多層原子膜又は層状バルク結晶から剥離された原子膜であって、
パターニング形状を有することを特徴とする原子膜。
(付記13)
面積が100μm2以上である付記12に記載の原子膜。
(付記14)
前記原子膜が、グラフェン、層状カルコゲナイド、六方晶窒化ホウ素、シリセン、ゲルマネン、及びスタネンから選択される層状物質からなる付記12から13のいずれかに記載の原子膜。
(付記15)
前記原子膜の層数が、1層~20層である付記12から14のいずれかに記載の原子膜。