(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132687
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】防護装備
(51)【国際特許分類】
A42B 3/04 20060101AFI20230914BHJP
G08B 21/00 20060101ALI20230914BHJP
H04N 7/18 20060101ALI20230914BHJP
A42B 3/30 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
A42B3/04
G08B21/00 A
H04N7/18 U
H04N7/18 D
A42B3/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038165
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】503132280
【氏名又は名称】特定非営利活動法人 国際レスキューシステム研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】522099641
【氏名又は名称】株式会社インテグラルデザイン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】土井 智晴
(72)【発明者】
【氏名】昆陽 雅司
(72)【発明者】
【氏名】中村 泰陸
【テーマコード(参考)】
3B107
5C054
5C086
【Fターム(参考)】
3B107BA08
3B107CA02
3B107DA18
3B107DA21
3B107EA06
3B107EA07
3B107EA09
3B107EA13
3B107EA19
5C054CA05
5C054CC02
5C054DA07
5C054HA19
5C086AA01
5C086AA06
5C086BA30
5C086CB01
5C086DA08
5C086FA02
5C086FA06
5C086GA20
(57)【要約】
【課題】室内上層部の温度を従来よりも適切にモニタリングでき、フラッシュオーバーが発生する可能性があることを装着者に知らせることができる防護装備を提供する。
【解決手段】人が装着する防護装備であって、人が装着可能な装備本体2と、所定方向に延びる検出軸Lを有した熱検出手段3と、熱検出手段3での検出結果を基に、予め定めた所定温度以上の高温領域が周囲に存在するか否かを判定する高温領域判定手段と、高温領域判定手段において、高温領域が存在すると判定した場合に、高温領域が存在することを報知する報知手段と、を備え、熱検出手段3は、検出軸Lが熱検出手段3を含む水平面よりも上側に向かって延びるように、装備本体2に取り付けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人が装着する防護装備であって、
人が装着可能な装備本体と、
所定方向に延びる検出軸を有した熱検出手段と、
前記熱検出手段での検出結果を基に、予め定めた所定温度以上の高温領域が周囲に存在するか否かを判定する高温領域判定手段と、
前記高温領域判定手段において、前記高温領域が存在すると判定した場合に、前記高温領域が存在することを報知する報知手段と、を備え、
前記熱検出手段は、前記検出軸が前記熱検出手段を含む水平面よりも上側に向かって延びるように、前記装備本体に取り付けられた防護装備。
【請求項2】
前記高温領域が建物の室内上層部に存在するか否かを判定可能である請求項1に記載の防護装備。
【請求項3】
前記検出軸と前記水平面とのなす角度が30°以上90°以下である請求項1又は2に記載の防護装備。
【請求項4】
前記熱検出手段の姿勢を検知する姿勢検知手段を備え、
前記高温領域判定手段は、前記姿勢検知手段で検知された姿勢が、前記検出軸が前記水平面よりも上側に向かって延びる姿勢であるときの前記熱検出手段での検出結果を基に、前記高温領域が周囲に存在するか否かを判定する請求項1~3のいずれか一項に記載の防護装備。
【請求項5】
前記姿勢検知手段は、
三次元の慣性運動を計測する慣性計測ユニットと、
前記慣性計測ユニットでの計測結果を基に、前記熱検出手段の姿勢を判断する姿勢判断手段と、で構成される請求項4に記載の防護装備。
【請求項6】
外部機器と無線通信可能な通信手段を備える請求項1~5のいずれか一項に記載の防護装備。
【請求項7】
前記熱検出手段での検出結果及び前記高温領域判定手段での判定結果のうち少なくとも一方を、前記通信手段によって前記外部機器に送信可能に構成される請求項6に記載の防護装備。
【請求項8】
装着者の活動状態を監視する活動状態監視手段を備え、
前記活動状態を前記通信手段によって外部機器に送信可能に構成される請求項6又は7に記載の防護装備。
【請求項9】
前記活動状態監視手段は、
三次元の慣性運動を計測する慣性計測ユニットと、
前記慣性計測ユニットでの計測結果を基に、前記装着者の活動状態を判断する活動状態判断手段と、で構成される請求項8に記載の防護装備。
【請求項10】
前記熱検出手段は、前記検出軸としての撮像光軸を有する熱画像撮像装置であり、
前記高温領域判定手段は、前記熱画像撮像装置で撮像された画像を基に、前記高温領域が周囲に存在するか否かを判定する請求項1~9のいずれか一項に記載の防護装備。
【請求項11】
前記装備本体がヘルメットである請求項1~10のいずれか一項に記載の防護装備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災時の消火活動や救助活動などの際に人が装着する防護装備に関する。
【背景技術】
【0002】
消防隊員は、火災時の消火活動や救助活動などを行う際に、火災現場の過酷な環境下でも安全に活動できるようにするため、防火服やヘルメットなどの防護装備を着用して活動に当たっている。
【0003】
防護装備には、火災現場において想定される種々の状況に対応し、安全且つ円滑、迅速に活動するための機能が求められ、従来から種々の機能を備えた防護装備が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、煙などにより視認性の悪い状況下においても円滑な活動を行うための頭部装着型赤外画像視認装置が提案されている。
【0005】
この頭部装着型赤外画像視認装置は、頂上部近傍に赤外線カメラや所定の温度域を着色した赤外画像データを作成する画像処理部などが埋設されたヘルメット、画像処理部が作成した赤外画像データを表示した画像表示素子からの射出光を装着者の瞳に導く光学系を備えたゴーグルなど備えている。また、この頭部装着型赤外画像視認装置は、赤外画像と直視像との重なり合う距離を予め光学系で設定したり、赤外線カメラの画角が装着者の直視視野角と同程度となるようにしたりしている。
【0006】
この頭部装着型赤外画像視認装置によれば、火災で発生した煙等によって装着者の視界が妨げられているような状況下においても、装着者が赤外画像を見ながら種々の活動に当たることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、建物火災での事故原因の一つに「フラッシュオーバー」と呼ばれる現象がある。このフラッシュオーバーとは、火災現場の室内が高温になることで、室内にある可燃物や室内内装の構成物が熱分解し、これによって引火性ガスが発生し、この発生した引火性ガスが室内上層部などに溜まり、輻射熱などによって一気に発火することで生じる。このフラッシュオーバーが発生した場合、爆発的に火が燃え広がり、瞬間的な延焼によって1000℃を超える極めて高温の環境が一気に広がるため、甚大な被害が生じやすい。
【0009】
ここで、フラッシュオーバー発生の予兆の一つとして、室内上層部の急激な温度変化がある。したがって、このような室内上層部の温度変化を検知できれば、消防隊員の避難などを迅速に行うことで、被害の規模が抑えられる。
【0010】
しかしながら、上記特許文献1記載の頭部装着型赤外画像視認装置では、赤外線カメラがその撮像光軸が装着者の目線と略平行となるような状態でヘルメットに埋設されており、赤外線カメラは、装着者の視線の先と略同じ位置の赤外画像を撮像することしかできない。火災現場においては、消防隊員が身を屈めた状態や下を向いた状態での活動を余儀なくされる場合も多く、頭部装着型赤外画像視認装置では室内上層部の温度をモニタリングすることが難しく、室内上層部の温度変化を適切に検知できないという問題がある。
【0011】
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであり、室内上層部の温度を従来よりも適切にモニタリングでき、フラッシュオーバーが発生する可能性があることを装着者に知らせることができる防護装備の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明に係る防護装備の特徴構成は、
人が装着する防護装備であって、
人が装着可能な装備本体と、
所定方向に延びる検出軸を有した熱検出手段と、
前記熱検出手段での検出結果を基に、予め定めた所定温度以上の高温領域が周囲に存在するか否かを判定する高温領域判定手段と、
前記高温領域判定手段において、前記高温領域が存在すると判定した場合に、前記高温領域が存在することを報知する報知手段と、を備え、
前記熱検出手段は、前記検出軸が前記熱検出手段を含む水平面よりも上側に向かって延びるように、前記装備本体に取り付けられた点にある。
【0013】
上記特徴構成によれば、熱検出手段の検出軸が熱検出手段を含む水平面よりも上側に向かって延びるように装備本体に取り付けられる。これにより、装着者が下を向いたような姿勢をとった場合でも、検出軸が上方を向き易く、従来と比較して、熱検出手段よりも上側の熱を検出し易くなるため、室内上層部の温度の適切なモニタリングが可能となる。
【0014】
更に、熱検出手段での検出結果を基に、所定温度以上の高温領域が存在するか否かを判定し、高温領域が周囲に存在する場合にはその旨を報知することもできる。したがって、室内上層部の温度が徐々に上昇して所定温度以上となった場合に、高温領域が存在することが報知されるため、フラッシュオーバーが発生する可能性があることを装着者が知ることができる。
【0015】
本発明に係る防護装備の更なる特徴構成は、
前記高温領域が建物の室内上層部に存在するか否かを判定可能である点にある。
【0016】
上記特徴構成によれば、室内上層部に高温領域が存在するか否かを判定でき、室内上層部に高温領域が存在する場合に、その旨を報知することができる。
【0017】
本発明に係る防護装備の更なる特徴構成は、
前記検出軸と前記水平面とのなす角度が30°以上90°以下である点にある。
【0018】
上記特徴構成によれば、装着者が極端に下を向くような姿勢をとった場合でも、検出軸が水平面よりも上側に向かった状態になり易く、熱検出手段よりも上側の熱を検出し易くなるため、室内上層部の温度のより適切なモニタリングが可能となる。
【0019】
本発明に係る防護装備の更なる特徴構成は、
前記熱検出手段の姿勢を検知する姿勢検知手段を備え、
前記高温領域判定手段は、前記姿勢検知手段で検知された姿勢が、前記検出軸が前記水平面よりも上側に向かって延びる姿勢であるときの前記熱検出手段での検出結果を基に、前記高温領域が周囲に存在するか否かを判定する点にある。
【0020】
例えば、検出軸が熱検出手段を含む水平面よりも上側に向かって延びるように装備本体に取り付けられていても、装着者の姿勢によっては熱検出手段の姿勢が、検出軸が水平面と略平行、或いは水平面よりも下側に向かって延びる姿勢になる場合がある。このような姿勢の熱検出手段での検出結果は、当該熱検出手段よりも上側に関するものではない。そのため、このような検出結果を基に高温領域が存在すると判定され、その旨が報知されると、実際には、室内上層部に高温領域が存在しているわけでないにもかかわらず、室内上層部に高温領域が存在し、フラッシュオーバーが発生する可能性があると装着者に誤解を与える虞がある。しかしながら、上記特徴構成によれば、検出軸が水平面よりも上側に向かって延びる姿勢である熱検出手段での検出結果に基づいて高温領域が存在するか否かを判定するため、装着者に上記のような誤解を与える事態が生じ難い。
【0021】
本発明に係る防護装備の更なる特徴構成は、
前記姿勢検知手段は、
三次元の慣性運動を計測する慣性計測ユニットと、
前記慣性計測ユニットでの計測結果を基に、前記熱検出手段の姿勢を判断する姿勢判断手段と、で構成される点にある。
【0022】
上記特徴構成によれば、加速度センサやジャイロスコープなどを個別に設ける場合と異なり、個別のセンサ設計やセンサ回路の調整などを要することなく、三次元の慣性運動を計測できる。そして、計測結果を基に、熱検出手段の姿勢を適切に判断できる。
【0023】
本発明に係る防護装備の更なる特徴構成は、
外部機器と無線通信可能な通信手段を備える点にある。
【0024】
上記特徴構成によれば、外部機器と防護装備との間で各種データの送受信が可能となる。したがって、例えば、複雑な演算を要する処理を外部機器側で行い、その結果を防護装備側が受信して利用したり、防護装備側で取得した情報を外部機器に送信し、外部機器のオペレータが装着者の置かれた状況を把握したりすることが可能となる。
【0025】
本発明に係る防護装備の更なる特徴構成は、
前記熱検出手段での検出結果及び前記高温領域判定手段での判定結果のうち少なくとも一方を、前記通信手段によって前記外部機器に送信可能に構成される点にある。
【0026】
上記特徴構成によれば、熱検出手段での検出結果や高温領域判定手段での判定結果を外部機器が受信し、これらの結果を基に外部機器のオペレータ等が、今後フラッシュオーバーが発生する可能性が高くなるか否かを判断したり、フラッシュオーバー発生の予兆が現れていることを把握したりすることが可能となる。
【0027】
本発明に係る防護装備の更なる特徴構成は、
装着者の活動状態を監視する活動状態監視手段を備え、
前記活動状態を前記通信手段によって外部機器に送信可能に構成される点にある。
【0028】
上記特徴構成によれば、装着者の活動状態(装着者が動いている状態、装着者が転倒している状態など)が監視され、当該活動状態を外部機器が受信し、この活動状態に基づいて、装着者が正常に活動できているかといった装着者の状況を外部機器のオペレータ等が把握できるようになる。
【0029】
本発明に係る防護装備の更なる特徴構成は、
前記活動状態監視手段は、
三次元の慣性運動を計測する慣性計測ユニットと、
前記慣性計測ユニットでの計測結果を基に、前記装着者の活動状態を判断する活動状態判断手段と、で構成される点にある。
【0030】
上記特徴構成によれば、各種センサを個別に設ける場合と異なり、個別のセンサ設計やセンサ回路の調整などを要することなく、慣性計測ユニットによって三次元の慣性運動を計測できる。そして、計測結果から装着者の動きや姿勢が分かるため、これらの情報を基に、装着者の活動状態を適切に判断できる。
【0031】
本発明に係る防護装備の更なる特徴構成は、
前記熱検出手段は、前記検出軸としての撮像光軸を有する熱画像撮像装置であり、
前記高温領域判定手段は、前記熱画像撮像装置で撮像された画像を基に、前記高温領域が周囲に存在するか否かを判定する点にある。
【0032】
上記特徴構成によれば、熱画像撮像装置が当該熱画像撮像装置を含む水平面よりも上側に向かって撮像光軸が延びるように装備本体に取り付けられている。これにより、装着者が下を向くような姿勢をとった場合でも、撮像光軸が上方を向いた状態になり易く、熱画像撮像装置よりも上側の画像を撮像し易くなるため、当該画像を基に、室内上層部の温度の適切なモニタリングが可能となる。また、撮影された画像を基に、高温領域が周囲に存在するか否かを判定できる。
【0033】
本発明に係る防護装備の更なる特徴構成は、
前記装備本体がヘルメットである点にある。
【0034】
上記特徴構成によれば、防護装備がヘルメットが有する耐衝撃性などの特性を兼ね備えたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】一実施形態に係る防護装備を示す正面図である。
【
図2】一実施形態に係る防護装備を示す側面図である。
【
図3】一実施形態に係る防護装備を示す上面図である。
【
図4】一実施形態に係る防護装備の制御構成を示すブロック図である。
【
図5】防護装備の着用者が火災現場内で立位姿勢又は歩行して活動する状態を表した図である。
【
図6】防護装備の着用者が視線を下に向けた状態を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る防護装備について説明する。尚、以下においては、防護装備を構成する装備本体がヘルメットである場合を例にとって説明する。
【0037】
図1~
図4に示すように、本実施形態に係る防護装備1は、人が装着可能なヘルメット2(装備本体)と、所定方向に延びる撮像光軸L(検出軸)を有した熱検出手段としての赤外線カメラ3(熱画像撮像装置)と、赤外線カメラ3で撮像された画像(検出結果)を基に、予め定めた所定温度以上の高温領域Hが周囲に存在するか否かを判定する高温領域判定部14(高温領域判定手段)と、高温領域判定部14において、高温領域Hが存在すると判定した場合に、高温領域Hが存在することを報知するためのスピーカー4とを備えている。
【0038】
また、防護装備1は、慣性計測ユニット5、並びに慣性計測ユニット5での計測結果を基に、赤外線カメラ3の姿勢を判断する姿勢判断部13(姿勢判断手段)及び装着者の活動状態を判断する活動状態判断部15(活動状態判断手段)を備えている。更に、防護装備1は、外部機器Gとの間で無線通信可能な通信部17(通信手段)を備えている。
【0039】
本実施形態において、姿勢判断部13や高温領域判定部14、活動状態判断部15、通信部17は、制御装置10の一機能部である。また、制御装置10は、上記の他に、画像データ取得部11や、画像処理部12、報知処理部16などの各種機能部を備えている。また、防護装備1は、赤外線カメラ3やスピーカー4、制御装置10などに電力を供給する電源ユニット6を備えている。
【0040】
図1~
図3に示すように、ヘルメット2は、従来から消防隊員が着用している既知のヘルメットであり、帽体2aに前方に延びるひさし部2bが形成された既知の形状を有している。また、ヘルメット2は、自己消火性や、労働安全衛生法に基づく規格やJIS規格等に適合した耐熱性や耐炎性、耐衝撃性等を備えている。
【0041】
赤外線カメラ3は、耐熱性を有する樹脂製のケースに収納された状態で、撮像光軸Lが当該赤外線カメラ3を含む水平面Zよりも前方上側に向かって延びるように、ヘルメット2のひさし部2bの付け根に固定されている。より具体的に、赤外線カメラ3は、撮像光軸Lと水平面Zとのなす角度θが30°以上90°以下の範囲内の任意の角度となり、且つ撮像光軸Lが前方を向くようにヘルメット2に固定されており、本実施形態において、角度θは45°である。赤外線カメラ3は、レンズなどの光学系や赤外線検出素子などから構成され、被写体から放射される赤外線を感知して赤外線画像データを生成する。尚、本実施形態の赤外線カメラ3は、400℃程度までの温度計測が可能である。生成された赤外線画像データは、画像データ取得部11により取得される。尚、赤外線カメラ3による撮像タイミングや、画角、ピント、ズームの調整等は、制御装置10の制御部(図示せず)により制御される。例えば、防護装備1の着用者が正面を向いた状態において、側方の壁が赤外線画像データに含まれないように(側方の壁が検出エリアに含まれないように)、赤外線カメラ3の画角等が調整される。このような検出エリアとしては、例えば、着用者の前方に設定され、長軸が鉛直面と平行な楕円状のエリアを例示できる。
【0042】
スピーカー4は、赤外線カメラ3の上に配置された筐体Bに設けられており、報知処理部16からの信号を受けて警告音や警告メッセージを発するように構成されている。
【0043】
慣性計測ユニット5は、筐体B内に配設されている。この慣性計測ユニット5は、三次元の慣性運動(直交3軸方向の並進運動及び回転運動)を検出するセンサーユニットであり、並進運動を検出する加速度センサや回転運動を検出するジャイロセンサを一つのパッケージに統合したものである。慣性計測ユニット5での計測結果は、姿勢判断部13及び活動状態判断部15に送信される。このように、慣性計測ユニット5を用いることで、各種センサを個別に設ける場合と異なり、個別のセンサ設計やセンサ回路の調整などを要することなく、慣性運動を検出できる。
【0044】
電源ユニット6は、筐体Bの上面上に配設されており、防護装備1の各部で要求される電力を供給するように構成されている。電源ユニット6は、防護装備1の各部に電力を供給できる構成であれば、特に限定されるものではない。尚、本実施形態においては、複数本の乾電池で構成された一つのユニットによって構成されており、防護装備1の各部で要求される全ての電力を賄っている。
【0045】
図4に示すように、制御装置10は、画像データ取得部11、画像処理部12、姿勢判断部13、高温領域判定部14、活動状態判断部15、報知処理部16、通信部17などを備えており、筐体B内に配設されている。
【0046】
画像データ取得部11は、赤外線カメラ3によって撮像された赤外線画像データを取得する機能部である。具体的に、本実施形態においては、赤外線カメラ3から送信される赤外線画像データに係る信号を受信して、赤外線画像データを取得する。
【0047】
画像処理部12は、画像データ取得部11で取得した赤外線画像データを処理する機能部である。具体的に、本実施形態における画像処理部12は、画像データ取得部11が取得した赤外線画像データを、温度域毎に色分けした色分け画像データに変換する処理を行う。尚、本実施形態において、画像処理部12で変換された色分け画像データは、外部機器Gへ送信される。
【0048】
上記のように、姿勢判断部13は、赤外線カメラ3の姿勢を判断する機能部である。具体的に、本実施形態の姿勢判断部13は、慣性計測ユニット5から送信される計測結果を基に、赤外線カメラ3の姿勢を判断する。尚、本実施形態においては、慣性計測ユニット5及び姿勢判断部13が姿勢検知手段を構成している。
【0049】
上記のように、高温領域判定部14は、赤外線カメラ3で撮像された画像を基に、周囲に高温領域Hが存在するか否かを判定する機能部である。具体的に、高温領域判定部14は、画像データ取得部11が取得した赤外線画像データを解析して、赤外線画像中に予め定めた所定温度以上(例えば、200℃以上)の領域が存在する場合や、赤外線画像全体でみたときの平均温度が所定温度以上(例えば、200℃以上)である場合に、周囲に高温領域Hが存在すると判定する。尚、本実施形態においては、赤外線画像全体でみたときの平均温度が所定温度以上である場合に、周囲に高温領域Hが存在すると判定するが、これに限られるものではない。
【0050】
また、本実施形態の高温領域判定部14は、高温領域Hが存在すると判定した場合、高温領域Hが存在することを知らせる信号や高温領域Hの温度に関する信号を、判定結果に関する信号として報知処理部16に送信する。また、これらの信号は、外部機器Gにも送信される。
【0051】
尚、本実施形態の高温領域判定部14は、姿勢判断部13での判断結果を基に、高温領域Hが存在するか否かを判定する際に解析する赤外線画像データを取捨選択する。具体的に、本実施形態の高温領域判定部14は、撮像光軸Lが水平面Zよりも上側に向かって延びる姿勢にある赤外線カメラ3によって撮像された画像に係る赤外線画像データを解析して高温領域Hの存否を判定する。一方、高温領域判定部14は、撮像光軸Lが水平面Zと略平行、或いは水平面Zよりも下側に向かって延びる姿勢にある赤外線カメラ3によって撮像された画像に係る赤外線画像データについては、高温領域Hの存否の判定に使用しない。
【0052】
上記のように、活動状態判断部15は、装着者の活動状態を判断する機能部である。具体的に、本実施形態の活動状態判断部15は、慣性計測ユニット5から送信される計測結果を基に、装着者が問題なく動いているか、装着者が転倒していないかといった活動状態を判断する。活動状態判断部15での判断結果は、外部機器Gへと送信されるようになっている。尚、本実施形態においては、慣性計測ユニット5及び活動状態判断部15が活動状態監視手段を構成している。
【0053】
報知処理部16は、スピーカー4から警告音や警告メッセージを発するための処理を行う機能部である。具体的に、本実施形態の報知処理部16は、高温領域Hが存在することを知らせる信号や高温領域Hの温度に関する信号を受信した場合に、高温領域Hが存在することを知らせる警告音や、高温領域Hの温度を知らせるメッセージをスピーカー4から発するための処理を行う。
【0054】
上記のように、通信部17は、外部機器Gの通信部G1との間で無線又は有線での双方向通信を行うように構成されている。
【0055】
尚、外部機器Gは、例えば、消防署の指揮所内に配置されたコンピュータであり、防護装備1の通信部17との間で無線又は有線での双方向通信を行うように構成された通信部G1や、防護装備1から送信される情報を表示する表示部G2などを備えている。
【0056】
次に、以上の構成を備えた防護装備1の使用態様について、図面を参照して説明する。尚、
図5は、防護装備1を装着した人が火災現場内で立位姿勢又は歩行して活動する状態を表している。また、
図6は、防護装備1の着用者が下を向いた状態を表している。
【0057】
図6に示すように、本実施形態の防護装備1は、人が頭部に装着して使用するものであり、人が装着した状態において、赤外線カメラ3の撮像光軸Lと赤外線カメラ3を含む水平面Zとのなす角度θが45°程度となる。これにより、装着者が視線を前方に向けた立位姿勢である場合、視線を前方に向けて歩行している場合には、赤外線カメラ3の撮像光軸Lが室内上層に位置する天井に向けられた状態となるため、赤外線カメラ3で撮像された画像を基に、室内上層部(より具体的には天井部)における高温領域Hの存否を判定でき、室内上層部の温度をモニタリングできる。
【0058】
そして、高温領域判定部14において、高温領域Hが存在すると判定した場合、高温領域Hの存在を知らせる信号及び高温領域Hの温度に関する信号が報知処理部16へと送信され、当該信号を受信した報知処理部16は、高温領域Hが存在することを知らせる警告音及び高温領域Hの温度を知らせるメッセージをスピーカー4から発すための処理を行い、かかる警告音及びメッセージがスピーカー4から発せられる。
【0059】
これにより、装着者は、室内上層部に高温領域Hが存在すること、即ち、室内上層部の温度が所定温度以上となっていることを知ることができ、フラッシュオーバーが発生する可能性があることを認識できる。
【0060】
また、
図6に示すように、本実施形態の赤外線カメラ3のように、撮像光軸Lと水平面Zとのなす角度θが45°となるように(即ち、撮像光軸Lが水平面Zよりも上側に向かって延びるように)ヘルメット2に固定されていても、装着者の姿勢によっては赤外線カメラ3の姿勢が、撮像光軸Lが水平面Zと略平行、或いは水平面Zよりも下側に向かって延びる姿勢になる場合がある。このような姿勢の赤外線カメラ3で撮像された画像に係る赤外線画像データは、赤外線カメラ3よりも上側の情報を主として含む赤外線画像データではない。そのため、このような赤外線画像データを基に高温領域Hが存在すると判定されると、例えば、実際には、室内上層部に高温領域Hが存在しているわけでないにもかかわらず、室内上層部に高温領域Hが存在すると判定されたことになる。そうすると、室内上層部に高温領域Hが存在しているわけでないにもかかわらず、高温領域Hが存在する旨が装着者に報知されることになり、フラッシュオーバーが発生する可能性があると装着者が誤解する虞がある。
【0061】
しかしながら、本実施形態の防護装備1においては、姿勢判断部13によって赤外線カメラ3の姿勢を判断し、その判断結果を基に、撮像光軸Lが水平面Zよりも上側に向かって延びる姿勢にある赤外線カメラ3によって撮像された画像に係る赤外線画像データ(即ち、水平面Zよりも上側に位置する室内上層部などに関する情報を含む赤外線画像データ)のみを解析して高温領域Hの存否を判定する。したがって、本実施形態においては、室内上層部における高温領域Hの存否が適切に判定され、室内上層部の温度をモニタリングでき、室内上層部に高温領域Hが存在する場合にその旨が報知される。よって、実際に室内上層部に高温領域Hが存在するような場合に、そのことを装着者が知ることができ、装着者に上記のような誤解を与える事態が生じ難い。
【0062】
また、本実施形態においては、防護装備1から外部機器Gへと種々のデータが送信される。まず、防護装備1から外部機器Gへと色分け画像データが送信され、かかる画像が表示部G2に表示される。これにより、送信された画像データを確認することで、外部機器Gのオペレータ等が、火災現場の状況(装着者の置かれた状況)を容易に把握したり、今後フラッシュオーバーが発生する可能性が高くなるか否かを判断したり、フラッシュオーバー発生の予兆が現れていることを把握したりすることができ、オペレータから装着者へ適切な指示や連絡を行うこともできる。
【0063】
また、本実施形態においては、高温領域判定部14から高温領域Hが存在することを知らせる信号や、高温領域Hの温度に関する信号が外部機器Gに送信され、所定温度の高温領域Hが存在する旨が表示部G2に表示される。これにより、外部機器Gのオペレータ等は、単に色分け画像が表示される場合よりも、現在の状況をより容易に把握することができる。
【0064】
更に、本実施形態においては、活動状態判断部15での判断結果が外部機器Gへ送信され、装着者の活動状態が表示部G2に表示される。これにより、外部機器Gのオペレータが装着者の活動状態を容易に把握でき、例えば、装着者の動きが確認できないような場合には、現場の他の作業員に状況確認を指示することができるようになる。
【0065】
以上のように、本実施形態に係る防護装備1によれば、室内上層部の温度を従来よりも適切にモニタリングでき、フラッシュオーバーが発生する可能性があることを装着者に知らせることができる。
【0066】
〔別実施形態〕
〔1〕上記実施形態では、装備本体がヘルメット2である態様としたが、これに限られるものではなく、防火服等であってもよい。
【0067】
〔2〕上記実施形態では、熱検出手段が赤外線カメラ3である態様としたが、これに限られるものではなく、種々の温度センサを利用できる。
【0068】
〔3〕上記実施形態では、撮像光軸Lと水平面Zとのなす角度θが45°且つ撮像光軸Lが前方を向くように、赤外線カメラ3をヘルメット2のひさし部2bの付け根に固定する態様としたが、これに限られるものではない。赤外線カメラ3を固定する箇所は、ヘルメット2の後部や側部であってもよい。また、赤外線カメラ3の取付姿勢についても、撮像光軸Lが水平面Zよりも上側に向かって延びる姿勢であれば、特に限定されない。
【0069】
〔4〕上記実施形態では、報知手段がスピーカー4である態様としたが、これに限られるものではなく、振動等によって装着者に報知するようなものであってもよい。
【0070】
〔5〕上記実施形態では、赤外線画像データの解析結果を基に、予め定めた所定温度以上の高温領域Hが存在するか否かを判定し、高温領域Hが存在する場合に報知する態様としたが、これに限られるものではない。例えば、125℃、150℃、175℃などのように複数の温度閾値を予め定めた上で、赤外線画像データの解析結果を基に、周囲に各温度閾値を超えた高温領域Hが存在するか否かを判定し、各温度閾値を超えた高温領域Hが存在する場合に報知する態様であってもよい。このようにすれば、周囲の温度が徐々に上昇していることを装着者に知らせることができる。
【0071】
〔6〕上記実施形態では、姿勢判断手段及び活動状態判断手段の一構成要素として、慣性計測ユニット5を備える態様としたが、これに限られるものではなく、複数のセンサをそれぞれ個別に設ける態様であってもよい。
【0072】
〔7〕上記実施形態では、姿勢判断手段及び活動状態判断手段を備える態様としたが、これに限られるものではなく、これらを一方又は両方を備えていない態様であってもよい。
【0073】
〔8〕上記実施形態では、通信部17を備え、外部機器Gと無線通信可能な態様としたが、これに限られるものではなく、通信部17を備えていない態様であってもよい。
【0074】
〔9〕上記実施形態では、色分け画像データや高温領域Hが存在することを知らせる信号、高温領域Hの温度に関する信号、活動状態判断部15での判断結果などを防護装備1から外部機器Gへと送信する態様としたが、これに限られるものではなく、これらの一部又は全部を送信しない態様であってもよい。
【0075】
〔10〕上記実施形態では、防護装備1の制御装置10が画像処理部12を備える態様としたが、これに限られるものではなく、画像処理部12を備えていない態様であってもよい。この場合、例えば、赤外線画像データを外部機器Gへと送信し、外部機器G側で適宜画像処理を行うようにしてもよい。
【0076】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 :防護装備
2 :ヘルメット(装備本体)
3 :赤外線カメラ(熱検出手段、熱画像撮像装置)
4 :スピーカー(報知手段)
5 :慣性計測ユニット(姿勢検知手段、活動状態監視手段)
13 :姿勢判断部(姿勢検知手段)
14 :高温領域判定部(高温領域判定手段)
15 :活動状態判断部(活動状態監視手段)
17 :通信部(通信手段)
G :外部機器
H :高温領域
L :撮像光軸(検出軸)
Z :水平面