IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アヲハタ株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人 熊本大学の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013269
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】青果物製品の製造方法及び青果物製品
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20230119BHJP
   A23L 19/12 20160101ALI20230119BHJP
   A23L 5/30 20160101ALI20230119BHJP
【FI】
A23L19/00 A
A23L19/00 Z
A23L19/12 A
A23L5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117316
(22)【出願日】2021-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】591116036
【氏名又は名称】アヲハタ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】勝木 淳
(72)【発明者】
【氏名】岡田 雄治
【テーマコード(参考)】
4B016
4B035
【Fターム(参考)】
4B016LC02
4B016LE03
4B016LG01
4B016LG06
4B016LP13
4B016LT08
4B035LC01
4B035LG32
4B035LP49
4B035LT20
(57)【要約】
【課題】食品に対してパルス電界処理を行なっても、食品への悪影響を低減できる方法を実現する。
【解決手段】青果物に対して、パルス幅50ns以上、5.0×10ns以下でパルス電界処理を供して細胞膜を変質させるパルス電界処理工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
青果物に対して、パルス幅50ns以上、5.0×10ns以下でパルス電界処理を供して細胞膜を変質させるパルス電界処理工程を含む、
青果物製品の製造方法。
【請求項2】
前記電界処理工程では、電界強度を3.0×10-1kV/cm以上、20kV/cm以下とする請求項1に記載の青果物製品の製造方法。
【請求項3】
前記電界処理工程では、前記パルス電界処理のショット数を1.0×10回以上、5.0×10回以下とする、請求項1又は2に記載の青果物製品の製造方法。
【請求項4】
パルス電界処理をしていない同品種の青果物に対して、細胞膜の静電容量変化率が1.0×10-2以上、7.5×10-1以下であり、且つ細胞膜のインピーダンス減少率が1.0×10-2以上である、青果物製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青果物製品の製造方法及び青果物製品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、食品を軟化させるための、パルスパワーを用いた非加熱調理機が記載されている。特許文献2には、食品を軟化又は粉体化させるための、衝撃波を与える食品の処理方法が記載されている。特許文献3には、カンキツ類果実中へのペクチナーゼ酵素の注入を利用した皮むき方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-150563号公報
【特許文献2】国際公開第2006/098453号
【特許文献3】特開平3-15372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような従来技術では、軟化等の目的を達成する一方で、食品に対して、例えば、褐変、風味の劣化等の悪影響が及ぶ可能性がある。しかし、従来技術では、食品への悪影響については検討されていない。
【0005】
このように、食品を処理するときの悪影響の低減については改善の余地がある。そこで、本発明の一態様は、食品に対してパルス電界処理を行なっても、食品への悪影響を低減できる方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、パルス電界処理の条件のうちパルス幅を所定の範囲とすることによって、悪影響を抑えた処理ができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)青果物に対して、パルス幅50ns以上、5.0×10ns以下でパルス電界処理を供して細胞膜を変質させるパルス電界処理工程を含む、青果物製品の製造方法、
(2)前記電界処理工程では、電界強度を3.0×10-1kV/cm以上、20kV/cm以下とする(1)に記載の青果物製品の製造方法、
(3)前記電界処理工程では、前記パルス電界処理のショット数を1.0×10回以上、5.0×10回以下とする、(1)又は(2)に記載の青果物製品の製造方法、
(4)パルス電界処理をしていない同品種の青果物に対して、細胞膜の静電容量変化率が1.0×10-2以上、7.5×10-1以下であり、且つ細胞膜のインピーダンス減少率が1.0×10-2以上である、青果物製品、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、食品に対してパルス電界処理を行なっても、食品への悪影響を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<青果物製品の製造方法の特徴>
本発明の一態様に係る青果物製品の製造方法は、青果物に対して、パルス幅50ns以上、5.0×10ns以下のパルス電界処理を供して細胞膜を変質させるパルス電界処理工程を含む。これにより、食品への悪影響を低減したパルス電界処理を行なうことができる。また、本発明の一態様に係る青果物製品の製造方法は、パルスの新たな利用方法を提案することができるため、パルスパワーを利用する技術分野における技術革新をもたらすものである。従って、持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に貢献できる。また、悪影響が発生することによる食品の廃棄を減らすことができるので、SDGsの目標12「つくる責任つかう責任」に貢献できる。
【0010】
<青果物の種類>
パルス電界処理工程に供する青果物の種類は、特に限定されず、適宜選択すればよい。青果物としては、例えば、野菜、果物が挙げられる。果物としては、例えば、バラ科、ミカン科等の果物、また、メロン、スイカ、ぶどう、パイナップル、ブルーベリー、キウイ、アボカド、マンゴー等が挙げられる。バラ科の果物としては、例えば、りんご、いちご、もも、梨等が挙げられる。ミカン科の果物としては、例えば、レモン、オレンジ、グレープフルーツ等が挙げられる。野菜としては、ニンジン、タマネギ、きゅうり、ジャガイモ、レタス、セロリ、キャベツ、コーン、大根、ごぼう、ブロッコリー、カリフラワー、トマト、カブ、パプリカ等が挙げられる。
【0011】
また、本明細書において「青果物製品」とは、パルス電界処理に供した後の青果物をいう。
【0012】
<パルス電界処理工程>
パルス電界処理工程は、青果物に対して、パルス幅50ns以上、5.0×10ns以下のパルス電界処理を供して細胞膜を変質させる工程である。パルス電界処理することによって、細胞膜に穴をあけることができる。また、パルス幅が50ns以上、5.0×10ns以下の範囲であるパルス電界処理によって、細胞膜にあける穴を、加熱等の従来の処理、及び、当該範囲より大きいパルス幅によるパルス電界処理に比べて、小さくすることができる。その結果、細胞膜に微小な穴を多数開けることができる。これにより、例えば、細胞内外の物質の移動が容易に行われるように細胞膜を変質させつつも、香気等の風味の劣化、褐変等の悪影響を抑制できる。また、パルス幅が50ns以上であることによって、細胞に所望の変質をもたらすことができる。また、パルス幅が5.0×10ns以下であることによって、褐変、香気劣化等の悪影響を抑え青果物の品位を向上させることができる。換言すれば、パルス幅が、50ns未満であれば所望の通りに変質させることが難しくなり、5.0×10nsを越すと褐変、香気劣化等の悪影響が増える虞がある。
【0013】
<パルス幅の好ましい範囲>
パルス電界処理工程におけるパルス幅は、細胞に所望の変質をもたらす観点から、60ns以上が好ましく、80ns以上がより好ましい。また、褐変、香気劣化等の品位の観点から4.0×10ns以下が好ましく、3.0×10ns以下がより好ましい。
【0014】
<電界強度>
パルス電界処理工程における電界強度は、青果物に対する所望の処理内容、程度に応じて適宜選択すればよい。また、膜損傷度(インピーダンス減少率)の観点から、3.0×10-1kV/cm以上が好ましく、5.0×10-1kV/cm以上がより好ましい。また、パルス電界処理工程における電界強度の上限は限定されないが、産業技術上の限界値を考慮すると、20kV/cm以下が好ましい。前述のパルス幅で処理することによって、悪影響を抑制したパルス電界処理を行なうことができる。例えば、複数のサンプルに対して、同じ電界強度でパルス電界処理を行なう場合であっても、本発明のパルス電界処理工程のパルス幅の範囲を超すパルス幅で処理したサンプルに比べて、当該範囲内で処理して得られる青果物製品は、悪影響が抑制されている。また、高い電界強度であっても、本発明のパルス電界処理工程のパルス幅で処理することによって、悪影響が抑制される。
【0015】
<ショット数>
ショット数とは、パルス電界処理の対象に対して電界を印加する回数である。パルス電界処理工程におけるショット数は、青果物に対する所望の処理内容、程度に応じて適宜選択すればよい。例えば、パルス電界処理によって青果物に対して加える総印加時間と、パルス幅とに応じて設定してもよい。総印加時間とはパルス幅×ショット数の値である。例えば、所望のインピーダンス減少率及び静電容量変化率向上効果を得る観点から、1.0×10回以上が好ましく、2.0×10回以上がより好ましく、また、食品への悪影響をより低減させる観点から5.0×10回以下が好ましく、2.0×10回以下がより好ましい。本発明のパルス電界処理工程のパルス幅で処理することによって、悪影響を抑制したパルス電界処理を行なうことができる。例えば、複数のサンプルに対して、同じショット数でパルス電界処理を行なう場合であっても、本発明のパルス電界処理工程のパルス幅の範囲を超すパルス幅で処理したサンプルに比べて、当該範囲内のパルス幅で処理して得られる青果物製品は、悪影響が抑制されている。
【0016】
<パルス電界処理の具体的な方法>
パルス電界処理は従来公知のパルス電界処理装置を用いて行えばよい。例えば、電極の間に青果物を設置可能とした、矩形波のパルス電界を発生可能な装置を用いればよい。パルス電界処理は、青果物に対して電界を印加するのに必要な電気伝導率を有する液体中で行われる。よって、電極は、液体を満たすことの可能な槽に設置してもよい。また、係る液体の具体例としては、例えば水が挙げられる。また、パルス幅、電界強度、ショット数等の条件はオシロスコープ等を用いて観測しながら調整すればよい。
【0017】
パルス電界処理に供する青果物は、生の状態でもよく、前処理されていてもよい。前処理の例には、冷凍すること、または冷凍後に半解凍すること等が含まれる。また、パルス電界処理に供する青果物は、裁断されていてもよく、裁断されていなくてもよい。裁断される場合、大きさは特に制限されず、適宜設定することができる。また、青果物は非導電性の袋等の容器に格納した上で、パルス電界処理に供されてもよい。非導電性の容器を用いる場合、電流を妨げないようにメッシュ状等の容器とすることが好ましい。
【0018】
<青果物製品の特徴>
本発明の一態様に係る青果物製品は、パルス電界処理をしていない同品種の青果物に対して、細胞膜の静電容量変化率が1.0×10-2以上、7.5×10-1以下であり、且つ細胞膜のインピーダンス減少率が1.0×10-2以上である。このような青果物製品は、パルス電界処理によって処理されているにもかかわらず、細胞膜に微小な穴を多数開けるように細胞膜が変質していながらも、香気等の風味の劣化、褐変等の悪影響を抑制できる。青果物及び青果物製品については、本発明の青果物製品の製造方法に関する説明に準じ、同じ説明は繰り返さない。なお、細胞膜に微小な穴を多数開けたことを利用して、さらに処理を行なった後の青果物製品も本発明の範疇である。例えば、細胞膜に微小な穴を多数開けたことによる細胞内外の物質の移動の容易さを活かして、細胞内外で移動させる処理を行なった後の青果物も本発明の範疇である。
【0019】
詳細は後述するが、インピーダンス減少率は、細胞膜に開いた穴の大きさによる影響を受ける傾向にあり、大きいほど細胞膜は変質しており、所望の変質が与えられた程度を示す指標となり得る。また、静電容量変化率は、細胞膜に微小な穴が多数開くと大きくなる傾向がある。細胞膜の静電容量変化率が1.0×10-2以上、7.5×10-1以下であり、且つ細胞膜のインピーダンス減少率が1.0×10-2以上であることは、細胞膜に穴が多数開いているが、穴の大きさが微小であるため、細胞に悪影響が発生しない。このように、青果物製品の細胞膜が、前述の静電容量変化率、及び、インピーダンス減少率であることは、パルス電界処理をしていない天然に存在する青果物とは異なること、及び、加熱等の処理によって細胞膜が壊れた青果物製品とは異なることを示している。
【0020】
<静電容量変化率>
静電容量変化率は、キャパシタンス変化率とも称される。パルス電界処理によって、細胞膜に穴をあけると、当該細胞膜の静電容量は減少する。静電容量変化率は、パルス電界処理をしていない同品種の青果物における細胞膜の静電容量に対して、パルス電界処理によって細胞膜の静電容量がどの程度減少するかを表している。
【0021】
静電容量変化率は、パルス電界処理によって、細胞膜にあけられた穴の大きさの指標となる。例えば、静電容量変化率の値が大きい程、パルス電界処理によって細胞膜に開けられた穴の大きさが小さく、且つ、穴の数が多いことを表す。
【0022】
細胞膜の静電容量は、従来公知のインピーダンスアナライザを用いて測定することができる。細胞膜の静電容量の測定条件は、測定に用いる装置の仕様に応じて適宜選択することができる。
【0023】
静電容量変化率は、以下の数式(1)より算出することができる:
静電容量変化率[-]=(初期静電容量[F]-対象サンプルにおける静電容量[F])/初期静電容量[F] ・・・(1)。
【0024】
前記数式(1)中の「初期静電容量」は、パルス電界処理をしていない同品種の青果物の細胞膜の静電容量である。「初期静電容量」は、青果物の種類及び品種によって決まった値を示すことが分かっている。従って、異なる個体であっても種類及び品種が同じであれば、初期静電容量は同じ値となる。
【0025】
<静電容量変化率の好ましい範囲>
静電容量変化率は、細胞に開いた穴を好適な大きさにする観点から、5.0×10-2以上が好ましい。また、悪影響をより抑制する観点から3.0×10-1以下が好ましい。
【0026】
<インピーダンス減少率>
インピーダンス減少率は、パルス電界処理をしていない同品種の青果物における細胞膜のインピーダンスに対して、パルス電界処理によって細胞膜のインピーダンスがどの程度減少するかを表している。インピーダンスは、細胞膜の電気特性を表している。
【0027】
インピーダンス減少率は、パルス電界処理によって、所望の特性、すなわち細胞膜に穴をあける特性を付与し得たか否かの指標となる。例えば、インピーダンス減少率の値が小さいと、細胞膜に開いた穴の大きさ(総面積)が小さいことを示す。これは、細胞膜の変質が少ないことを示す。一方、インピーダンス減少率の値が大きいと、細胞膜に開いた穴の大きさ(総面積)が大きいことを示す。これは、細胞膜の変質が大きいことを示す。
【0028】
細胞膜のインピーダンス減少率は、従来公知のインピーダンスアナライザを用いて測定することができる。細胞膜のインピーダンス減少率の測定条件は、測定に用いる装置の仕様に応じて適宜選択することができる。
【0029】
インピーダンス減少率は、以下の数式(2)より算出することができる:
インピーダンス減少率[-]=(初期インピーダンス[Ω]-対象サンプルにおけるインピーダンス[Ω])/初期インピーダンス[Ω] ・・・(2)。
【0030】
前記数式(2)中の「初期インピーダンス」は、パルス電界処理をしていない同品種の青果物の細胞膜のインピーダンスである。「初期インピーダンス」は、青果物の種類及び品種によって決まった値を示すことがわかっている。従って、異なる個体であっても種類及び品種が同じであれば、初期インピーダンスは同じ値となる。
【0031】
<インピーダンス減少率の好ましい範囲>
インピーダンス減少率は、細胞に開いた穴の総面積を大きくする観点から、4.0×10-2以上が好ましい。また、悪影響をより抑制する観点から5.0×10-1以下が好ましく、3.0×10-1以下がより好ましい。
【実施例0032】
<実施例A>
実施例Aでは、パルス電界処理する青果物としてリンゴを用いた。
【0033】
(実施例A-1)
皮をむき、7mm角にカットしたリンゴを、電流を妨げないメッシュ状のプラスチック製の袋に入れた。カットしたリンゴの一部を、パルス電界処理しない参照用のサンプルとした。次いで、リンゴを袋に格納したまま、水を満たした処理槽(内容積;700ml、電極間距離:35mm)に浸漬し、表1に示すパルス幅、電界強度及びショット数にてパルス電界処理を行うことで、実施例A-1の青果物製品を作製した。パルス電界処理は常温(25℃)で行った。
【0034】
(実施例A-2~A-13、比較例A-1~A-4)
パルス電界処理のパルス幅、電界強度及びショット数を表1に示す条件に変更したこと以外は、実施例A-1と同じ方法で、実施例A-2~A-13及び比較例A-1~A-4の青果物製品をそれぞれ作製した。
【0035】
<実施例B>
実施例Bでは、パルス電界処理する青果物としてジャガイモを用いた。
【0036】
(実施例B-1)
皮をむき、7mm角にカットしたジャガイモを、電流を妨げないメッシュ状のプラスチック製の袋に入れた。カットしたジャガイモの一部を、パルス電界処理しない参照用のサンプルとした。次いで、ジャガイモを袋に格納したまま、実施例A-1で用いた処理槽と同じ処理槽に浸漬し、表2に示すパルス幅、電界強度及びショット数にてパルス電界処理を行うことで、実施例B-1の青果物製品を作製した。パルス電界処理は常温(25℃)で行った。
【0037】
(実施例B-2~B-13、比較例B-1~B-4)
パルス電界処理のパルス幅、電界強度及びショット数を表2に示す条件に変更したこと以外は、実施例B-1と同じ方法で、実施例B-2~B-13及び比較例B-1~B-4の青果物製品をそれぞれ作製した。
【0038】
<実施例C>
実施例Cでは、パルス電界処理する青果物としてモモを用いた。
【0039】
(実施例C-1)
皮をむき、7mm角にカットしたジャガイモを、電流を妨げないメッシュ状のプラスチック製の袋に入れた。カットしたジャガイモの一部を、パルス電界処理しない参照用のサンプルとした。次いで、モモを袋に格納したまま、実施例A-1で用いた処理槽と同じ処理槽に浸漬し、表3に示すパルス幅、電界強度及びショット数にてパルス電界処理を行うことで、実施例C-1の青果物製品を作製した。パルス電界処理は常温(25℃)で行った。
【0040】
(実施例C-2~C-5)
パルス電界処理のパルス幅、電界強度及びショット数を表3に示す条件に変更したこと以外は、実施例C-1と同じ方法で、実施例C-2~C-5の青果物製品をそれぞれ作製した。
【0041】
<青果物製品の物性評価>
(1.静電容量変化率の測定)
静電容量(キャパシタンス)の測定には、インピーダンスアナライザ IM3570(HIOKI製)を用いた。電極間距離を7mmに固定したピンセットプローブ(L2001)でサンプルを挟み、以下の測定条件で静電容量を測定した。
等価回路モデル R-C並列回路
周波数掃引 0.01~5000[kHz]
【0042】
1000kHzにおける静電容量を用いて、以下の数式(1)により対象サンプルにおける静電容量変化率を算出した:
静電容量変化率[-]=(初期静電容量[F]-対象サンプルにおける静電容量[F])/初期静電容量[F] ・・・(1)。
【0043】
前記数式(1)中の「初期静電容量」は、パルス電界処理をしていない参照用サンプルの1000kHzにおける静電容量である。実施例A~Cで用いたリンゴ、ジャガイモ、及びモモの「初期静電容量」は、それぞれ、1.5×10-11~2.4×10-11F、2.0×10-9~2.9×10-9F、及び1.0×10-10~1.6×10-10Fであった。なお、初期静電容量は、青果物の種類ごとにほぼ同値であり個体差はほぼ無かった。
【0044】
(2.インピーダンス減少率の測定)
インピーダンスの測定には、インピーダンスアナライザ IM3570(HIOKI製)を用いた。電極間距離を7mmに固定したピンセットプローブ(L2001)でサンプルを挟み、以下の測定条件でインピーダンスを測定した。
等価回路モデル R-C並列回路
周波数掃引 0.01~5000[kHz]
【0045】
1000kHzにおけるインピーダンスを用いて、以下の数式(2)により対象サンプルにおけるインピーダンス減少率を算出した:
インピーダンス減少率[-]=(初期インピーダンス[Ω]-対象サンプルにおけるインピーダンス[Ω])/初期インピーダンス[Ω] ・・・(2)。
【0046】
前記数式(2)中の「初期インピーダンス」は、パルス電界処理をしていない参照用サンプルの1000kHzにおけるインピーダンスである。実施例A~Cで用いたリンゴ、ジャガイモ及びモモの「初期インピーダンス」は、それぞれ、1.4×10~1.6×10Ω、3.4×10-1~6.4×10-1Ω及び1.1×10-1~1.2×10-1Ωであった。なお、初期インピーダンスは、青果物の種類ごとにほぼ同値であり個体差はほぼ無かった。
【0047】
<青果物製品の悪影響総合評価>
青果物製品の悪影響総合評価は、青果物製品の褐変度及び香気を測定し、その結果に基づき以下の評価基準に従って1~5の5段階で評価した。評価が2点以上であれば、良好な結果であると言える。
【0048】
[悪影響総合評価基準]
5:褐変度が5以下、且つ香気が5又は4。
4:褐変度が5より大きく10以下、且つ香気が3又は4。
3:褐変度が10より大きく15以下、且つ香気が3又は4。
2:褐変度が15より大きく20以下、且つ香気が2。
1:褐変度が20より大きく、香気が1。
【0049】
[褐変度の測定方法]
青果物製品の褐変度は、色彩色差計(コニカミノルタ製、CR-400)を用いて色差を測定した。具体的には、まず、色彩色差計を用いて表色モードLab表色系にて、対象サンプルの色差を測定した。一定時間経過ごとにサンプリングを行い、以下の数式(3)にて算出する色度を時間-色度グラフにプロットした。
【数1】
作成したプロットから色度の平衡値を読み取り、これを褐変度とした。褐変度が20以下であれば、良好な結果と言える。
【0050】
[香気の評価方法]
青果物製品の香気は、官能評価法によって評価した。具体的には、食品加工学研究年数2年以上の評価者5名により、下記の基準で生の青果物様の香りの程度により5段階で官能評価を実施し平均点を算出した。評価が2点以上であれば、良好な結果であると言える。
【0051】
[香気の評価基準]
5:青果物特有の果実様の香りを非常に良く感じた。
4:青果物特有の果実様の香りを十分に感じた。
3:青果物特有の果実様の香りを感じた。
2:青果物特有の果実様の香りをやや感じた。
1:青果物特有の果実様の香りが乏しかった。
【0052】
<評価の結果>
各実施例及び比較例の評価の結果を表1~表3に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
表1~3に示したように、青果物に対して、パルス幅50ns以上、5.0×10ns以下でパルス電界処理を供して細胞膜を変質させるパルス電界処理工程を含む、青果物製品の製造方法は、細胞膜に微小な穴を多数開けるように細胞膜を変質させつつも、褐変、香気劣化等の悪影響を抑制できることが示された。つまり、当該製造方法によって得られる青果物製品は、細胞膜の静電容量変化率が1.0×10-2以上、7.5×10-1以下であり、且つ細胞膜のインピーダンス減少率が1.0×10-2以上であったことから、細胞膜に微小な穴を多数開ける加工が施され、且つ、悪影響が抑制されたことが示された。なお、比較例1及び2の悪影響総合評価の結果が高評価となった理由としては、比較例1及び2では、悪影響を及ぼすほどのパルス処理がされていないためであると考えられた。