(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132693
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】放熱部材
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20230914BHJP
C25D 5/12 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
H01L23/36 Z
C25D5/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038171
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 智昭
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健吾
(72)【発明者】
【氏名】細江 晃久
(72)【発明者】
【氏名】杉澤 正則
(72)【発明者】
【氏名】瀧田 朋広
【テーマコード(参考)】
4K024
5F136
【Fターム(参考)】
4K024AA03
4K024AA11
4K024AA12
4K024AB03
4K024AB11
4K024AB15
4K024AB17
4K024AB19
4K024BA09
4K024BB12
4K024BB26
4K024CA01
4K024CA02
4K024CA03
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4K024CA06
4K024DB01
4K024GA01
4K024GA16
5F136BA30
5F136FA01
5F136FA03
5F136GA21
(57)【要約】
【課題】優れた接合性を有する放熱部材を提供すること。
【解決手段】銅を含む金属基材と、上記金属基材上に設けられている被膜とを備える放熱部材であって、
上記被膜は、上記金属基材上に設けられているニッケル層と、上記ニッケル層上に設けられているパラジウム層と、上記パラジウム層上に設けられている金層とを含み、
上記パラジウム層は、アモルファスのパラジウムから構成されている、放熱部材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を含む金属基材と、前記金属基材上に設けられている被膜とを備える放熱部材であって、
前記被膜は、前記金属基材上に設けられているニッケル層と、前記ニッケル層上に設けられているパラジウム層と、前記パラジウム層上に設けられている金層とを含み、
前記パラジウム層は、アモルファスのパラジウムから構成されている、放熱部材。
【請求項2】
前記パラジウム層は、前記金属基材の表面の法線方向に平行な断面を、透過型電子顕微鏡を用いて100万倍の倍率で観察した際に確認できる結晶粒界の数が、170nm×165nmの視野において、0以上10以下である、請求項1に記載の放熱部材。
【請求項3】
前記パラジウム層をX線回折分析して得られたX線スペクトルにおける(200)面の回折ピークの半価幅は、パラジウムの単結晶をX線回折分析して得られたX線スペクトルにおける(200)面の回折ピークの半価幅に対して2倍以上である、請求項1又は請求項2に記載の放熱部材。
【請求項4】
前記パラジウム層における(200)面の結晶子のサイズは、60Å以下である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の放熱部材。
【請求項5】
前記パラジウム層は、リン元素を更に含み、
前記リン元素の含有割合は、前記パラジウム層に対して0.5質量%以上2.0質量%以下である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の放熱部材。
【請求項6】
前記金層におけるニッケル元素の含有割合は、前記金層に含まれる元素の総量に対して0原子%以上5原子%以下である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の放熱部材。
【請求項7】
銅を含む金属基材と、前記金属基材上に設けられている被膜とを備える放熱部材であって、
前記被膜は、前記金属基材上に設けられているニッケル層と、前記ニッケル層上に設けられているパラジウム層と、前記パラジウム層上に設けられている金層とを含み、
前記パラジウム層は、リン元素を更に含み、
前記リン元素の含有割合は、前記パラジウム層に対して0.5質量%以上2.0質量%以下である、放熱部材。
【請求項8】
銅を含む金属基材と、前記金属基材上に設けられている被膜とを備える放熱部材であって、
前記被膜は、前記金属基材上に設けられているニッケル層と、前記ニッケル層上に設けられているパラジウム層と、前記パラジウム層上に設けられている金層とを含み、
前記金層におけるニッケル元素の含有割合は、前記金層に含まれる元素の総量に対して0原子%以上5原子%以下である、放熱部材。
【請求項9】
前記金層におけるニッケル元素の含有割合は、前記金層に含まれる元素の総量に対して0.01原子%以上5原子%以下である、請求項8に記載の放熱部材。
【請求項10】
前記パラジウム層の厚みは、0.03μm以上1.0μm以下である、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の放熱部材。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の放熱部材と、
前記放熱部材上に設けられている銀を含む接合部と、
前記接合部上に設けられている半導体チップと、を備える、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置に備えられている半導体チップは、通電中に熱を発するため、通常放熱基板等の放熱部材上に銀ペースト由来の接合部を介して接合されている。上記半導体チップから生じた熱は上記放熱部材に拡散することで、上記半導体チップが高温になることを抑制でき、ひいては上記半導体チップの性能が維持される。
【0003】
このような放熱部材としては、例えば、銅又は銅合金を基材としてその表面にパラジウムめっきを施したものが従来から知られている(特開2001-262390号公報(特許文献1))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記放熱部材は、パラジウムめっきに加えて、上記基材の上にニッケルめっき、金めっきがよく施される。このときのめっきの順番は、上記基材に近い側からニッケルめっき、パラジウムめっき、金めっきが一般的である。
【0006】
上記放熱部材は、銀ペースト由来の接合部を介して半導体チップと接合している。上記接合部に空隙がある場合、半導体チップに通電して当該半導体チップが発熱すると、上記接合部の空隙が熱抵抗となり放熱部材への放熱の効率が低下する傾向がある。その結果、当該半導体チップの性能に影響を及ぼす場合がある。また、上記接合部に空隙がある場合、上記接合部と上記放熱部材との接合性が低下する傾向がある。
【0007】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた接合性を有する放熱部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る第一の放熱部材は、
銅を含む金属基材と、上記金属基材上に設けられている被膜とを備える放熱部材であって、
上記被膜は、上記金属基材上に設けられているニッケル層と、上記ニッケル層上に設けられているパラジウム層と、上記パラジウム層上に設けられている金層とを含み、
上記パラジウム層は、アモルファスのパラジウムから構成されている。
【0009】
本開示に係る第二の放熱部材は、
銅を含む金属基材と、上記金属基材上に設けられている被膜とを備える放熱部材であって、
上記被膜は、上記金属基材上に設けられているニッケル層と、上記ニッケル層上に設けられているパラジウム層と、上記パラジウム層上に設けられている金層とを含み、
上記パラジウム層は、リン元素を更に含み、
上記リン元素の含有割合は、上記パラジウム層に対して0.5質量%以上2.0質量%以下である。
【0010】
本開示に係る第三の放熱部材は、
銅を含む金属基材と、上記金属基材上に設けられている被膜とを備える放熱部材であって、
上記被膜は、上記金属基材上に設けられているニッケル層と、上記ニッケル層上に設けられているパラジウム層と、上記パラジウム層上に設けられている金層とを含み、
上記金層におけるニッケル元素の含有割合は、上記金層に含まれる元素の総量に対して0原子%以上5原子%以下である。
【0011】
本開示に係る半導体装置は、
上記放熱部材と、
上記放熱部材上に設けられている銀を含む接合部と、
上記接合部上に設けられている半導体チップと、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、優れた接合性を有する放熱部材を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、放熱部材の一態様を例示する模式断面図である。
【
図2】
図2は、半導体装置の一態様を例示する模式断面図である。
【
図3】
図3は、被膜の断面を観察したSTEMによる観察画像(左)とEDXによる観察画像(右)である。
【
図4】
図4は、パラジウム層をX線回折分析して得られたX線回折スペクトルのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
[1]本開示に係る第一の放熱部材は、
銅を含む金属基材と、上記金属基材上に設けられている被膜とを備える放熱部材であって、
上記被膜は、上記金属基材上に設けられているニッケル層と、上記ニッケル層上に設けられているパラジウム層と、上記パラジウム層上に設けられている金層とを含み、
上記パラジウム層は、アモルファスのパラジウムから構成されている。
【0015】
上記放熱部材は、上記パラジウム層がアモルファスのパラジウムから構成されていることによって、半導体チップと放熱部材とを接合する際、上記金属基材の銅、ニッケル層のニッケル等が金層中に熱拡散することが抑制される。その結果、接合に用いられる銀ペーストに対する上記金層のぬれ性が向上し、空隙を形成することなく銀ペーストに由来する接合部と上記放熱部材とが接合する。すなわち、上記放熱部材は、上述のような構成を備えることによって、優れた接合性を有する。ここで、「接合性」とは、上記放熱部材と半導体チップとを接合する接合部に対する、上記放熱部材の接合性を意味する。
【0016】
[2]上記パラジウム層は、上記金属基材の表面の法線方向に平行な断面を、透過型電子顕微鏡を用いて100万倍の倍率で観察した際に確認できる結晶粒界の数が、170nm×165nmの視野において、0以上10以下であることが好ましい。このようにすることで、接合性に更に優れた放熱部材を提供することが可能になる。
【0017】
[3]上記パラジウム層をX線回折分析して得られたX線スペクトルにおける(200)面の回折ピークの半価幅は、パラジウムの単結晶をX線回折分析して得られたX線スペクトルにおける(200)面の回折ピークの半価幅に対して2倍以上であることが好ましい。このようにすることで、接合性に更に優れた放熱部材を提供することが可能になる。
【0018】
[4]上記パラジウム層における(200)面の結晶子のサイズは、60Å以下であることが好ましい。このようにすることで、接合性に更に優れた放熱部材を提供することが可能になる。
【0019】
[5]上記パラジウム層は、リン元素を更に含み、
上記リン元素の含有割合は、上記パラジウム層に対して0.5質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。このようにすることで、接合性に優れた放熱部材を提供することが可能になる。
【0020】
[6]上記金層におけるニッケル元素の含有割合は、上記金層に含まれる元素の総量に対して0原子%以上5原子%以下であることが好ましい。このようにすることで、接合性に優れた放熱部材を提供することが可能になる。
【0021】
[7]本開示に係る第二の放熱部材は、
銅を含む金属基材と、上記金属基材上に設けられている被膜とを備える放熱部材であって、
上記被膜は、上記金属基材上に設けられているニッケル層と、上記ニッケル層上に設けられているパラジウム層と、上記パラジウム層上に設けられている金層とを含み、
上記パラジウム層は、リン元素を更に含み、
上記リン元素の含有割合は、上記パラジウム層に対して0.5質量%以上2.0質量%以下である。
【0022】
上記放熱部材は、上述のような構成を備えることによって、優れた接合性を有する。
【0023】
[8]本開示に係る第三の放熱部材は、
銅を含む金属基材と、上記金属基材上に設けられている被膜とを備える放熱部材であって、
上記被膜は、上記金属基材上に設けられているニッケル層と、上記ニッケル層上に設けられているパラジウム層と、上記パラジウム層上に設けられている金層とを含み、
上記金層におけるニッケル元素の含有割合は、上記金層に含まれる元素の総量に対して0原子%以上5原子%以下である。
【0024】
上記放熱部材は、上述のような構成を備えることによって、優れた接合性を有する。
【0025】
[9]上記金層におけるニッケル元素の含有割合は、上記金層に含まれる元素の総量に対して0.01原子%以上5原子%以下であることが好ましい。このようにすることで、接合性に更に優れた放熱部材を提供することが可能になる。
【0026】
[10]上記パラジウム層の厚みは、0.03μm以上1.0μm以下であることが好ましい。このようにすることで、接合性に加えて、熱伝導性に優れた放熱部材を提供することが可能になる。
【0027】
[11]本開示に係る半導体装置は、
上記放熱部材と、
上記放熱部材上に設けられている銀を含む接合部と、
上記接合部上に設けられている半導体チップと、を備える。
【0028】
上記半導体装置は、本開示に係る放熱部材を用いている。そのため、上記放熱部材と接合部とが空隙を形成することなく接合し、両者の間の接合性が向上している。さらに、半導体装置に通電した際、半導体チップから発生した熱が上記放熱部材に効率よく逃がせるため、半導体チップの寿命が向上する。
【0029】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す。)について説明する。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。本明細書において「A~Z」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上Z以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Zにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とZの単位とは同じである。
【0030】
≪放熱部材(1)≫
本開示に係る第一の放熱部材は、
銅を含む金属基材と、上記金属基材上に設けられている被膜とを備える放熱部材であって、
上記被膜は、上記金属基材上に設けられているニッケル層と、上記ニッケル層上に設けられているパラジウム層と、上記パラジウム層上に設けられている金層とを含み、
上記パラジウム層は、アモルファスのパラジウムから構成されている。
【0031】
本実施形態の放熱部材50は、銅を含む金属基材1と、上記金属基材1上に設けられている被膜5とを備える(以下、単に「放熱部材」という場合がある。)(
図1)。上記被膜5は、上記金属基材1上に設けられているニッケル層2と、上記ニッケル層2上に設けられているパラジウム層3と、上記パラジウム層3上に設けられている金層4とを含む。
【0032】
<金属基材>
本実施形態の金属基材は、銅を含む。ここで、「金属基材」とは金属からなる基材を意味する。上記金属基材は、この種の金属基材として従来公知のものであればいずれの基材も使用することができる。例えば、上記金属基材は、金属銅(銅単体)、銅合金(例えば、銅-モリブデン合金)、及びCPC(Cupper/press CuMo/Cupper)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。本実施形態の一側面において、上記金属基材は、CPCであることが好ましい。
【0033】
上記金属基材の形状は、特に制限されず板状であってもよいし、棒状であってもよい。
【0034】
<被膜>
本実施形態に係る被膜は、上記金属基材上に設けられているニッケル層と、上記ニッケル層上に設けられているパラジウム層と、上記パラジウム層上に設けられている金層とを含む。「被膜」は、上記金属基材の少なくとも一部(例えば、半導体チップが搭載される面等)を被覆することで、放熱部材における放熱性、ぬれ性、接合性等の諸特性を向上させる作用を有するものである。上記被膜は、上記金属基材の一部に限らず上記金属基材の全面を被覆することが好ましい。しかしながら、上記金属基材の一部が上記被膜で被覆されていなかったり、被膜の構成が部分的に異なっていたりしていたとしても本実施形態の範囲を逸脱するものではない。
【0035】
上記被膜の厚みは、2.13μm以上7.0μm以下であることが好ましく、2.13μm以上3.75μm以下であることがより好ましい。ここで、被膜の厚みとは、被膜を構成する層それぞれの厚みの総和を意味する。「被膜を構成する層」としては、例えば、後述するニッケル層、パラジウム層、及び金層等が挙げられる。上記被膜の厚みは、例えば、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いて、金属基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルにおける任意に選択された10点を測定し、測定された10点の厚みの平均値をとることで求めることが可能である。このとき、一見して異常値と思われる数値は採用しないものとする。本実施形態の一側面において、「被膜の厚み」は、被膜の厚みの平均値と把握することもできる。後述するニッケル層、パラジウム層、及び金層等のそれぞれの厚みを測定する場合も同様である。走査透過型電子顕微鏡としては、例えば、日本電子株式会社製のJEM-2100F(商品名)が挙げられる。
【0036】
(ニッケル層)
本実施形態におけるニッケル層は、上記金属基材上に設けられている。このようにすることで、金属基材に含まれる銅が上記パラジウム層の内部へ熱拡散することを抑制できる。ここで「金属基材上に設けられている」とは、金属基材の直上に設けられている態様に限られず、他の層を介して金属基材の上に設けられている態様も含まれる。すなわち、上記ニッケル層は、本開示の効果が奏する限りにおいて、上記金属基材の直上に設けられていてもよいし、他の層を介して上記金属基材の上に設けられていてもよい。
【0037】
本実施形態において、「ニッケル層」とは、ニッケル元素を主成分として含む金属の層を意味する。ここで「ニッケル元素」とは、ニッケル原子のみならず、化合物中のニッケルの状態も含まれる概念である。後述する他の元素(パラジウム元素、金元素等)についても同様である。上記ニッケル層は、金属ニッケル(ニッケル単体)、及びニッケル合金(例えば、Ni-Co合金、Sn-Ni合金、Zn-Ni合金等)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。上記ニッケル層は金属ニッケルからなることが好ましい。上記ニッケル層は、本開示の効果を奏する範囲において、不可避不純物が含まれていてもよい。不可避不純物としては、例えば、炭素(C)、酸素(O)、窒素(N)、ケイ素(Si)等が挙げられる。
【0038】
上記ニッケル層における上記ニッケル元素の含有割合は、95質量%以上100質量%以下であることが好ましく、99質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。本実施形態の一側面において、「ニッケル元素の含有割合」は「ニッケル原子の含有割合」と把握することもできる。上記ニッケル層中におけるニッケル元素の含有割合は、上述の断面サンプルにあらわれたニッケル層に対して透過型電子顕微鏡(TEM)に付帯のエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy)装置を用いて分析することにより、求めることが可能である。具体的な測定方法については、後述する。
【0039】
上記ニッケル層の厚みは、2.0μm以上5.5μm以下であることが好ましく、2.0μm以上3.5μm以下であることがより好ましい。上記ニッケル層の厚みは、上述したのと同様の方法で、STEMを用いて金属基材と被膜の垂直断面を観察することにより確認することができる。
【0040】
(パラジウム層)
本実施形態におけるパラジウム層は、上記ニッケル層上に設けられている。このようにすることで、ニッケル層に含まれるニッケルが上記金層の内部へ熱拡散することを抑制できる。ここで「ニッケル層上に設けられている」とは、ニッケル層の直上に設けられている態様に限られず、他の層を介してニッケル層の上に設けられている態様も含まれる。すなわち、上記パラジウム層は、本開示の効果が奏する限りにおいて、上記ニッケル層の直上に設けられていてもよいし、他の層を介して上記ニッケル層の上に設けられていてもよい。
【0041】
本実施形態において、「パラジウム層」とは、パラジウム元素を主成分として含む金属の層を意味する。上記パラジウム層は、金属パラジウム(パラジウム単体)、及びパラジウム合金(例えば、Pd-Co合金、Pd-Zn合金、Pd-Ag合金、Pd-Fe合金等)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。上記パラジウム層は金属パラジウムからなることが好ましい。上記パラジウム層は、本開示の効果を奏する範囲において、不可避不純物が含まれていてもよい。不可避不純物としては、例えば、炭素(C)、酸素(O)、窒素(N)、ケイ素(Si)等が挙げられる。
【0042】
上記パラジウム層における上記パラジウム元素の含有割合は、95質量%以上100質量%以下であることが好ましく、99質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。
【0043】
本実施形態の一側面において、上記パラジウム層は、リン元素を更に含み、
上記リン元素の含有割合は、上記パラジウム層に対して0.5質量%以上2.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上1.5質量%以下であることがより好ましい。このようにすることで、上記パラジウム層は、結晶粒界が不連続となりアモルファスの状態となる。なお、上記リン元素の含有割合は、2.0質量%が上記パラジウム層中に固溶できる限界(固溶限界)の含有割合であると発明者らは考えている。
【0044】
上記パラジウム層中におけるパラジウム元素の含有割合及びリン元素の含有割合は、上述の断面サンプルにあらわれたパラジウム層に対して透過型電子顕微鏡(TEM)に付帯のエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy)装置を用いて分析することにより、求めることが可能である。例えば、パラジウム層中におけるリン元素の含有割合を求める場合、具体的には、上記断面サンプルのパラジウム層における任意に選択された10点それぞれを測定してリン元素の含有割合の値を求め、求められた10点の値の平均値を上記パラジウム層におけるリン元素の含有割合とする。このとき、一見して異常値と思われる数値は採用しないものとする。ここで当該「任意に選択された10点」は、上記パラジウム層の互いに異なる位置から選択するものとする。
【0045】
上記EDX装置としては、例えば、日本電子株式会社製のJED-2300(商品名)が挙げられる。なお、リン元素に限らず、他の元素(パラジウム元素、ニッケル元素、銅元素等)の含有割合も上述の方法で算出することが可能である。上述したニッケル層におけるニッケル元素の含有割合、並びに、後述する金層における金元素の含有割合及びニッケル元素の含有割合も上述の方法で算出することが可能である。
【0046】
上記パラジウム層は、アモルファスのパラジウムから構成されている。ここで、「アモルファス」とは、結晶のような長距離秩序はないが、短距離秩序はある物質の状態を意味する。「長距離秩序」とは、結晶格子を構成する原子の種類、変位、又は電子のスピンの方向等についての特性が、ある1個の原子から見て長距離にわたって規則性を保っていることを意味する。「短距離秩序」とは、最近接原子数、原子間の結合距離、原子間の結合角が秩序だった状態であることを意味する。アモルファスのパラジウムは、結晶性のパラジウムと比較して、結晶粒界が不連続である。そのためアモルファスのパラジウムは、結晶粒界を介した熱拡散(「粒界拡散」ともいう)が抑制される。すなわち、上記パラジウム層は、上記ニッケル層に含まれるニッケルが上記パラジウム層の内部へ熱拡散することを抑制できる。
【0047】
上記パラジウム層は、上記金属基材の表面の法線方向に平行な断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて100万倍の倍率で観察した際に確認できる結晶粒界の数が、170nm×165nmの視野において、0以上10以下であることが好ましく、0であることがより好ましい。TEMによる上記パラジウム層の観察は、少なくとも2箇所の視野(サイズ:170nm×165nm)において行い、それぞれの視野において確認された結晶粒界の数の平均値を、「パラジウム層の170nm×165nmの視野において確認できる結晶粒界の数」とする。
【0048】
(パラジウム層のX線回折分析)
本実施形態の一側面において、上記パラジウム層をX線回折分析して得られたX線スペクトルにおける(200)面の回折ピークの半価幅は、パラジウムの単結晶をX線回折分析して得られたX線スペクトルにおける(200)面の回折ピークの半価幅に対して2倍以上であることが好ましく、2倍以上4倍以下であることがより好ましい。本実施形態の他の側面において、上記パラジウム層をX線回折分析して得られたX線スペクトルにおける(111)面の回折ピークの半価幅は、パラジウムの単結晶をX線回折分析して得られたX線スペクトルにおける(111)面の回折ピークの半価幅に対して2倍以上であることが好ましく、2倍以上4倍以下であることがより好ましい。(200)面の回折ピークの半価幅、又は(111)面の回折ピークの半価幅がこのような条件を満たすことで、上記パラジウム層がアモルファスのパラジウムから構成されてると判断できる。ここで、「(200)面の回折ピーク」及び「(111)面の回折ピーク」とは、それぞれ、「パラジウムに由来する(200)面の回折ピーク」及び「パラジウムに由来する(111)面の回折ピーク」を意味する。X線回折分析の具体的な方法は以下の通りである。
【0049】
X線回折装置(Rigaku社製「MiniFlex600」(商品名))を用いて上述の断面サンプルにおけるパラジウム層のX線スペクトルを得る(例えば、
図4)。このときのX線回折装置の条件は例えば、下記の通りとする。
特性X線: Cu-Kα(波長1.54Å)
管電圧: 45kV
管電流: 40mA
フィルター: 多層ミラー
光学系: 集中法
X線回折法: θ-2θ法。
【0050】
得られたX線スペクトルにおいて、(200)面の回折ピークの半価幅及び(111)面の回折ピークの半価幅それぞれを測定する。ここで、「回折ピークの半価幅」とは、対象ピークの高さ(cps)の半分の値を示す位置におけるピークの幅を意味する。上記(111)面の回折ピークは、回折角2θ=40°付近に確認することができる。上記(200)面の回折ピークは、回折角2θ=47°付近に確認することができる。ピークの高さはバックグラウンドを除いた値とする。また、同様の方法でパラジウムの単結晶をX線回折分析して得られたX線スペクトルにおける各回折ピークの半価幅も測定する。両者の半価幅を比較して、上述の倍率を算出する。
【0051】
本実施形態の一側面において、上記パラジウム層における(200)面の結晶子のサイズは、60Å以下であることが好ましく、30Å以上60Å以下であることがより好ましい。ここで、「パラジウム層における(200)面の結晶子」とは、パラジウム層における「パラジウムに由来する(200)面の結晶子」を意味する。当該(200)面の結晶子のサイズが60Å以下であることで、上記パラジウム層がアモルファスのパラジウムから構成されてると判断できる。上記結晶子のサイズは、上述のX線回折分析で得られたスペクトルから以下に示すシェラーの式(式1)を用いて求めることができる。式1中、Dは結晶子サイズ(nm)を示し、Kはシェラー定数を示し、λはX線の波長(nm)を示し、Bは半値全幅(rad)を示し、θはブラッグ角(rad)を示す。上述のλ、B、θは、X線回折分析の結果から得られるパラメータである。式1におけるシェラー定数は、0.89を用いている。0.89という数値は、結晶が1辺の長さDの立方体形状であること、回折ベクトルが面法線方向を向いていること、及び回折線の広がりがラウエ関数で表されるモデルであると仮定して得られる数値である。
D=Kλ/Bcosθ (式1)
【0052】
本実施形態の一側面において、上記パラジウム層における(111)面の結晶子のサイズは、90Å以下であることが好ましく、80Å以上90Å以下であることがより好ましい。ここで、「パラジウム層における(111)面の結晶子」とは、パラジウム層における「パラジウムに由来する(111)面の結晶子」を意味する。当該(111)面の結晶子のサイズが90Å以下であることで、上記パラジウム層がアモルファスのパラジウムから構成されてると判断できる。上記結晶子のサイズは、上述のX線回折分析で得られたスペクトルから上述の方法で求めることができる。
【0053】
上記パラジウム層の厚みは、0.03μm以上1.0μm以下であることが好ましく、0.03μm以上0.1μm以下であることがより好ましく、0.03μm以上0.05μm以下であることが更に好ましい。従来のパラジウム層は、ニッケル等の熱拡散を抑制するために厚みが0.1μm程度であった。これに対して、本実施形態におけるパラジウム層はアモルファスのパラジウムから構成されているため、パラジウム層の厚みを従来より薄くしても、従来のパラジウム層と同程度にニッケル等の熱拡散を抑制することができる。上記パラジウム層の厚みは、上述したのと同様の方法で、STEMを用いて金属基材と被膜の垂直断面を観察することにより確認することができる。
【0054】
(金層)
本実施形態における金層は、上記パラジウム層上に設けられている。ここで「パラジウム層上に設けられている」とは、パラジウム層の直上に設けられている態様に限られず、他の層を介してパラジウム層の上に設けられている態様も含まれる。すなわち、上記金層は、本開示の効果が奏する限りにおいて、上記パラジウム層の直上に設けられていてもよいし、他の層を介して上記パラジウム層の上に設けられていてもよい。上記金層は、上記被膜における最表面の層であってもよい。
【0055】
本実施形態において、「金層」とは、金元素を主成分として含む金属の層を意味する。このようにすることで、上記被膜の表面の反応(酸化反応等)を抑制できる。上記金層は、単体の金、及び金の合金(例えば、Au-Co合金、Au-Ni合金、Au-Ag合金、Au-Cu合金、Au-In合金等)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。上記金層は単体の金からなることが好ましい。上記金層は、本開示の効果を奏する範囲において、不可避不純物が含まれていてもよい。不可避不純物としては、例えば、炭素(C)、酸素(O)、窒素(N)、ケイ素(Si)等が挙げられる。
【0056】
上記金層における上記金元素の含有割合は、85質量%以上100質量%以下であることが好ましく、95質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。
【0057】
本実施形態の一側面において、上記金層におけるニッケル元素の含有割合は、上記金層に含まれる元素の総量に対して0原子%以上5原子%以下であることが好ましく、0.01原子%以上5原子%以下であることがより好ましい。このようにすることで、上記放熱部材は、銀ペーストに対するぬれ性が向上する。
【0058】
上記金層中における金元素の含有割合及びニッケル元素の含有割合は、上述したのと同様の方法で、上述の断面サンプルにあらわれた金層に対して透過型電子顕微鏡(TEM)に付帯のエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy)装置を用いて分析することにより、求めることが可能である。
【0059】
上記金層の厚みは、0.1μm以上0.5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上0.2μm以下であることがより好ましい。上記金層の厚みは、上述したのと同様の方法で、STEMを用いて金属基材と被膜の垂直断面を観察することにより確認することができる。
【0060】
(他の層)
本実施形態に係る放熱部材が上述の効果を奏する限りにおいて、上記被膜は、他の層を更に含んでいてもよい。上記他の層は、上記ニッケル層、上記パラジウム層、又は上記金層とは組成が異なっていてもよいし、同じであってもよい。他の層に含まれる組成としては、例えば、タングステン(W)、モリブデン(Mo)等を挙げることができる。上記他の層の厚みは、本実施形態の効果を奏する限りにおいて、特に制限はないが例えば、0.1μm以上1.0μm以下が挙げられる。
【0061】
≪放熱部材(2)≫
本開示に係る第二の放熱部材は、
銅を含む金属基材と、上記金属基材上に設けられている被膜とを備える放熱部材であって、
上記被膜は、上記金属基材上に設けられているニッケル層と、上記ニッケル層上に設けられているパラジウム層と、上記パラジウム層上に設けられている金層とを含み、
上記パラジウム層は、リン元素を更に含み、
上記リン元素の含有割合は、上記パラジウム層に対して0.5質量%以上2.0質量%以下である。
【0062】
上記リン元素は、結晶調整剤として上記パラジウム層に含まれている。その結果、上記パラジウム層は、結晶粒界が不連続となりアモルファスの状態となる。アモルファスのパラジウムは、結晶性のパラジウムと比較して、結晶粒界が不連続であるため、半導体チップと放熱部材とを接合する際、上記金属基材の銅、ニッケル層のニッケル等が金層中に熱拡散することが抑制される。その結果、接合に用いられる銀ペーストに対する上記金層のぬれ性が向上し、空隙を形成することなく銀ペーストに由来する接合部と上記放熱部材とが接合する。
【0063】
第二の放熱部材における上記金属基材、上記被膜(ニッケル層、パラジウム層、金層)は、上述した第一の放熱部材で挙げられた態様のものを用いることができる。
【0064】
≪放熱部材(3)≫
本開示に係る第三の放熱部材は、
銅を含む金属基材と、上記金属基材上に設けられている被膜とを備える放熱部材であって、
上記被膜は、上記金属基材上に設けられているニッケル層と、上記ニッケル層上に設けられているパラジウム層と、上記パラジウム層上に設けられている金層とを含み、
上記金層におけるニッケル元素の含有割合は、上記金層に含まれる元素の総量に対して0原子%以上5原子%以下である。
【0065】
上記金層におけるニッケル元素の含有割合が上述の範囲内にあると、上記放熱部材は、銀ペーストに対するぬれ性が向上する。その結果、半導体チップと放熱部材とを接合する際、接合部に空隙を形成することなく銀ペーストに由来する接合部と上記放熱部材とが接合する。
【0066】
第三の放熱部材における上記金属基材、上記被膜(ニッケル層、パラジウム層、金層)は、上述した第一の放熱部材で挙げられた態様のものを用いることができる。
【0067】
≪半導体装置≫
本実施形態に係る半導体装置80は、
上記放熱部材50と、
上記放熱部材50上に設けられている銀を含む接合部60と、
上記接合部60上に設けられている半導体チップ70と、を備える(
図2)。
上記半導体装置は、本開示に係る放熱部材を用いている。そのため、上記放熱部材と接合部とが空隙を形成することなく接合し、両者の間の接合性が向上している。さらに、半導体装置に通電した際、半導体チップから発生した熱が上記放熱部材に効率よく逃がせるため、半導体チップの寿命が向上する。
【0068】
上記放熱部材としては、上述した本開示に係る放熱部材が用いられる。
【0069】
上記接合部は銀を含む。上記接合部は、通常銀ペーストを焼結処理することで形成される部材である。
【0070】
上記半導体チップとしては、特に制限はないが、例えば、GaN、GaAs、InP、SiC等が挙げられる。
【0071】
≪放熱部材の製造方法≫
本実施形態に係る放熱部材の製造方法は、
上記金属基材を準備する工程(以下、単に「第1工程」という場合がある。)と、
めっき法を用いて、上記金属基材上に上記ニッケル層を形成する工程(以下、単に「第2工程」という場合がある。)と、
めっき法を用いて、上記ニッケル層上に上記パラジウム層を形成する工程(以下、単に「第3工程」という場合がある。)と、
めっき法を用いて、上記パラジウム層上に上記金層を形成する工程(以下、単に「第4工程」という場合がある。)と、を含み、
上記ニッケル層上に上記パラジウム層を形成する工程において用いるめっき浴は、パラジウム塩及び有機リン化合物を含む。
【0072】
<第1工程:基材を準備する工程>
第1工程では金属基材を準備する。具体的には、上記金属基材として銅を含む金属基材が準備される。当該金属基材は、市販品を用いてもよく、一般的な製法(例えば、鋳造―圧延法)で製造してもよい。上記金属基材の形状は、特に制限されず板状であってもよいし、棒状であってもよいし、線状であってもよい。上記以外の金属基材であっても、この種の金属基材として従来公知の基材であればいずれも準備可能である。
【0073】
<第2工程:めっき法を用いて、金属基材上に上記ニッケル層を形成する工程>
第2工程では、めっき法を用いて、上記金属基材上に上記ニッケル層を形成する。めっきの方法は、特に制限されず、無電解めっきを適用することもできる。効率の観点から上記めっきの方法は、電解めっき(所謂、電気めっき)を用いることが好ましい。上記電解めっきでは、上記金属基材をカソードとして用いる。
【0074】
上述の電解めっきに用いるめっき浴としては、公知のものを使用することができる。たとえばワット浴、塩化浴、スルファミン酸浴などを用いることができる。例えば、ニッケルの電解めっきの浴組成および電解条件は、以下の例を挙げることができる。
【0075】
(浴組成)
塩(水溶液): スルファミン酸ニッケル(300~450g/L)
ホウ酸: 30~50g/L
pH: 3.5~4.5。
【0076】
(電解条件)
温度: 40~60℃
電流密度: 0.5~15A/dm2
アノード: SKニッケル、電解ニッケル(山本鍍金試験機製)。
【0077】
<第3工程:めっき法を用いて、ニッケル層上にパラジウム層を形成する工程>
第3工程では、めっき法を用いて、上記ニッケル層上に上記パラジウム層を形成する。めっきの方法は、特に制限されず、無電解めっきを適用することもできる。効率の観点から上記めっきの方法は、電解めっき(所謂、電気めっき)を用いることが好ましい。上記電解めっきでは、上記金属基材をカソードとして用いる。
【0078】
上述の電解めっきに用いるめっき浴は、パラジウム塩及び有機リン化合物を含む。
【0079】
上記パラジウム塩としては、例えば、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫化物、硝酸塩、アミド硫酸塩等が挙げられる。具体的には、ジクロロテトラアンミンパラジウム([Pd(NH3)4]Cl2・H2O、硫酸パラジウム(PdSO4)等が挙げられる。本実施形態において、上記パラジウム塩は、スルファミン酸塩を含むことが好ましい。上記パラジウム塩は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
めっき浴中のパラジウム塩の濃度は、1.0g/L以上12.0g/L以下であることが好ましく、7.0g/L以上12.0g/L以下であることがより好ましい。
【0081】
上記有機リン化合物としては、芳香族ホスフィン酸、芳香族ホスホン酸、脂肪族ホスフィン酸、脂肪族ホスホン酸等が挙げられる。具体的には、フェニルホスフィン酸、フェニルホスホン酸、ジメチルホスフィン酸、ジメチルホスホン酸等が挙げられる。上記有機リン化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本実施形態において、上記有機リン化合物は、フェニルホスフィン酸及びフェニルホスホン酸を含むことが好ましい。
【0082】
めっき浴中の有機リン化合物の濃度は、0.1g/L以上0.7g/L以下であることが好ましく、0.2g/L以上0.7g/L以下であることがより好ましい。有機リン化合物の濃度を上述の範囲とすることで、形成されるパラジウム層がアモルファスのパラジウムから構成されるようになる。
【0083】
第3工程におけるめっき浴の温度は、30℃以上60℃以下であることが好ましく、50℃以上60℃以下であることがより好ましい。
【0084】
第3工程におけるめっき時の電流密度は、0.1A/dm2以上2.5A/dm2以下であることが好ましく、0.3A/dm2以上2.5A/dm2以下であることがより好ましく、0.3A/dm2以上1.0A/dm2以下であることが更に好ましい。
【0085】
本実施形態において、パラジウムの電解めっきの浴組成および電解条件は、以下の例を挙げることができる。
(浴組成)
パラジウム塩(水溶液):ジクロロテトラアンミンパラジウム([Pd(NH3)4]Cl2・H2O)(1.0~12.0g/L)
フェニルホスフィン酸: 0.1~0.35g/L
フェニルホスホン酸: 0.1~0.35g/L
pH: 6.0~7.5。
【0086】
(電解条件)
温度: 40~60℃
電流密度: 0.1~0.5A/dm2
アノード: 白金ラス板、IrコーティングTi電極。
【0087】
<第4工程:めっき法を用いて、パラジウム層上に金層を形成する工程>
第4工程では、めっき法を用いて、上記パラジウム層上に上記金層を形成する。めっきの方法は、特に制限されず、無電解めっきを適用することもできる。効率の観点から上記めっきの方法は、電解めっき(所謂、電気めっき)を用いることが好ましい。上記電解めっきでは、上記金属基材をカソードとして用いる。
【0088】
上述の電解めっきに用いるめっき浴としては、公知のものを使用することができる。たとえば軟質金めっき浴、硬質金めっき浴、ノンシアン金めっき浴などを用いることができる。例えば、金の電解めっきの浴組成および電解条件は、以下の例を挙げることができる。
【0089】
(浴組成)
塩(水溶液):シアン化金(I)カリウム(KAu(CN)2)(3.0~16.0g/L)
pH: 3.5~4.5。
【0090】
(電解条件)
温度: 30~40℃
電流密度: 0.1~0.5A/dm2
アノード: 白金ラス板、IrコーティングTi電極。
【0091】
<その他の工程>
本実施形態に係る製造方法では、上述した工程の他にも、本実施形態の効果を奏する限りにおいて追加工程を適宜行ってもよい。上記追加工程としては例えば、上記金層を形成して得られた放熱部材を洗浄する工程、乾燥を行う工程、梱包を行う工程、及びAgペーストを焼結する工程等が挙げられる。
【0092】
以上、本実施形態に係る放熱部材の製造方法について説明したが、本実施形態に係る放熱部材における被膜(ニッケル層、パラジウム層及び金層)は、めっき法以外の方法を用いても形成可能である。例えば、蒸着法(化学蒸着法、物理蒸着法)、スパッタリング法等を用いて、被膜を形成してもよい。
【実施例0093】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0094】
≪放熱部材の作製≫
<金属基材の準備>
まず、被膜を形成させる対象となる金属基材として、以下の構成を備える基材(以下、単に「基材」という場合がある。)を準備した(第1工程)。
金属基材の構成
CPC-300(株式会社アライドマテリアル製)、サイズ1.0mmt×10mm×20mm
【0095】
<被膜の作製>
上記基材の表面上に、表1に示されるニッケル層(Ni層)(第2工程)、パラジウム層(Pd層)(第3工程)及び金層(Au層)(第4工程)を形成することによって、上記基材の表面上に被膜を作製した。被膜の作製には、電気めっき法を用いた。上記基材はカソードとして用いた。以下、各めっきにおける条件を示す。なお、試料4ではニッケル層と金層のみを形成し、パラジウム層は形成させなかった。
【0096】
(ニッケル層のめっき条件)
めっき浴の名称:スルファミン酸ニッケル浴
めっき浴の温度:50±10℃
Ni濃度 :350±50g/L(スルファミン酸ニッケルとして)
ホウ酸濃度:40±10g/L
pH: 4.0±0.5
電流密度 :15A/dm2
アノード: SKニッケル、電解ニッケル(山本鍍金試験機製)
通電時間 :表1に示される厚みとなるように通電時間を調整した。
【0097】
(パラジウム層のめっき条件)
(試料1~3及び5~7))
めっき浴の温度:50±10℃
Pd濃度 :4±1g/L(ジクロロテトラアンミンパラジウムとして)
フェニルホスフィン酸濃度:0.1~0.35g/L
フェニルホスホン酸濃度:0.1~0.35g/L
フェニルホスフィン酸とホスホン酸との濃度を変えることでリンの共析量を調整した。試料5では、フェニルホスフィン酸、フェニルホスホン酸をめっき浴に添加しなかった。
pH: 6.0~7.5
電流密度 :0.1~0.5A/dm2
アノード: 白金ラス板、IrコーティングTi電極
通電時間 :表1に示される厚みとなるように通電時間を調整した。
【0098】
(パラジウム層のめっき条件)
(試料8~10)
めっき浴の温度:50±10℃
Pd濃度 :4±1g/L(ジクロロテトラアンミンパラジウムとして)
リン酸アンモニウム濃度:20g/L(試料8のみ)
リン酸ナトリウム濃度:15g/L(試料9のみ)
リン酸カリウム濃度:7g/L(試料10のみ)
pH: 6.0~7.5
電流密度 :0.1~0.5A/dm2
アノード: 白金ラス板、IrコーティングTi電極
通電時間 :表1に示される厚みとなるように通電時間を調整した。
【0099】
(金層のめっき条件)
めっき浴の温度:35±5℃
Au濃度 :3.5±5g/L(シアン化金(I)カリウムとして)
pH: 3.5~4.5
電流密度 :0.2A/dm2
アノード: 白金ラス板、IrコーティングTi電極
通電時間 :表1に示される厚みとなるように通電時間を調整した。
【0100】
以上の工程によって、本実施例に係る放熱部材を作製した。
【0101】
≪放熱部材の特性評価≫
上述のようにして作製した試料の放熱部材を用いて、以下のように、放熱部材の各特性を評価した。ここで、試料1~3、6及び7の放熱部材は、実施例に相当する。試料4、5及び8~10の放熱部材は、比較例に相当する。
【0102】
<被膜等の厚みの測定>
被膜、及び当該被膜を構成するニッケル層、パラジウム層及び金層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製、商品名:JEM-2100F)を用いて、金属基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルにおける任意に選択された10点を各層ごとに測定し、測定された10点の厚みの平均値をとることで求めた(例えば、
図3)。結果を表1に示す。
【0103】
<パラジウム層の断面観察>
上記断面サンプルにおけるパラジウム層を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて100万倍の倍率で観察して、170nm×165nmの視野において確認できる結晶粒界の数をカウントした。TEMによる上記パラジウム層の観察は、2箇所の視野(サイズ:170nm×165nm)において行い、それぞれの視野において確認された結晶粒界の数の平均値を、「パラジウム層の170nm×165nmの視野において確認できる結晶粒界の数」とした。その結果、試料1~3、試料6及び7では、当該結晶粒界が確認できず、アモルファスの状態であることが分かった。一方、試料5及び試料8~10では、当該結晶粒界の数が20以上であり、結晶を形成していることが分かった。
【0104】
<パラジウム層及び金層の組成分析>
パラジウム層及び金層の組成は、上述した方法で、上記断面サンプルに現れた各層に対してTEMに付帯のEDX装置(日本電子株式会社製、商品名:JED-2300)を用いて分析することによって求めた(例えば、
図3)。パラジウム層におけるリン元素の含有割合(質量%)(「P含有割合」の欄)、及び金層におけるニッケル元素の含有割合(原子%)(「Ni含有割合」の欄)の結果を表1に示す。
【0105】
<パラジウム層における結晶子サイズ及び半価幅の分析>
パラジウム層における結晶子サイズ及び半価幅は、上述した方法で、X線回折分析により得られるX線スペクトルにおける回折ピークのパターンを解析することによって求めた(例えば、
図4)。X線回折装置は、Rigaku社製「MiniFlex600」(商品名)を用いた。X線回折装置の条件は下記の通りとした。各試料において求めた、パラジウム層における結晶子サイズ及び半価幅を表1に示す。表1における「半価幅」及び「結晶子サイズ」の欄において、括弧書きで示されている数字は、対応する結晶面を意味する。例えば、表1における結晶子サイズの「(111)」の欄には、パラジウム層における(111)面の結晶子サイズが示されている。
特性X線: Cu-Kα(波長1.54Å)
管電圧: 45kV
管電流: 40mA
フィルター: 多層ミラー
光学系: 集中法
X線回折法: θ-2θ法。
【0106】
≪接合性試験≫
(接合性評価:ダイシェア試験)
上述のようにして作製した試料の放熱部材を用いて、以下の条件により、ダイシェア試験を行った。
・ダイシェア試験(JEITA規格 ED-4703 K-111に準拠)により、ダイシェア試験機(デイジ(dage)社製、商品名:ボンドテスター シリーズ4000)を用いて、0.05mm/秒のシェア速度で測定を実施した。
・半導体チップと基板との接着には田中貴金属社製のAgペーストを使用し、250℃5分で水素雰囲気にてリフローを実施した。
【0107】
上述のダイシェア試験の結果を表1に示す。以下の評価基準に基づいて、放熱部材と銀ペーストとの間の接合性を評価した。A評価の放熱部材を接合性に優れる放熱部材とした。
評価基準
A評価:銀ペーストと半導体チップとの間で剥離が発生した。
C評価:放熱部材の金層と銀ペーストとの間で剥離が発生した。
【0108】
【0109】
結果
表1の結果から、パラジウム層がアモルファスのパラジウムから構成されている試料1~3、試料6及び7の放熱部材は、ダイシェア試験の結果がA評価であった。一方、パラジウム層が結晶状態のパラジウムから構成されている試料5及び試料8~10の放熱部材は、ダイシェア試験の結果がC評価であった。以上より、実施例に対応する放熱部材は、比較例に対応する放熱部材よりも接合性に優れることが分かった。
【0110】
以上のように本発明の実施形態及び実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態及び各実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0111】
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態及び実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。