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特開2023-132706ベーカリー生地用品質改良剤、及び当該品質改良剤を用いたベーカリー製品用生地の製造方法
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  • 特開-ベーカリー生地用品質改良剤、及び当該品質改良剤を用いたベーカリー製品用生地の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132706
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】ベーカリー生地用品質改良剤、及び当該品質改良剤を用いたベーカリー製品用生地の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/36 20060101AFI20230914BHJP
   A21D 2/10 20060101ALI20230914BHJP
   A21D 6/00 20060101ALI20230914BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20230914BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20230914BHJP
【FI】
A21D2/36
A21D2/10
A21D6/00
A21D2/16
A21D13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038190
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】591054602
【氏名又は名称】株式会社第一化成
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 紗織
(72)【発明者】
【氏名】児子 隆英
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DB36
4B032DG01
4B032DG02
4B032DG20
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK17
4B032DK18
4B032DK43
4B032DK55
4B032DK70
4B032DL03
4B032DL08
4B032DL20
4B032DP13
4B032DP25
4B032DP26
4B032DP33
4B032DP37
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】既存の製造工程を変えず生地を混錬する時に、穀物粉と同時に添加する事により簡便に冷凍耐性及び老化防止効果を有し、更に生地損傷を生じさせないベーカリー生地用品質改良剤と、冷凍耐性及び老化防止効果を有するベーカリー製品用生地の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のベーカリー生地用品質改良剤は、酵素活性を有しないモルトエキスを含有し、前記ベーカリー製品用生地に含まれるでん粉質に対して前記モルトエキスが0.045~0.60重量%の割合で配合される。この品質改良剤は、前記モルトエキス1重量部に対して3~19重量部の配合割合で難消化性多糖類を含むことが好ましく、さらに、前記モルトエキス1重量部に対して8重量部以下の量の乳化剤を配合することにより、作業適正や冷凍耐性及び老化防止効果が各段に向上した冷凍ベーカリー生地及びベーカリー製品を製造する事ができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベーカリー製品用生地に添加した際に、冷凍耐性及び老化防止効果を発揮する品質改良剤であって、当該品質改良剤が、酵素活性を有しないモルトエキスを含有し、前記ベーカリー製品用生地に含まれるでん粉質に対して前記モルトエキスが0.045~0.60重量%の割合で配合されることを特徴とするベーカリー生地用品質改良剤。
【請求項2】
前記品質改良剤が、さらに難消化性多糖類を含み、当該難消化性多糖類の配合割合が、前記モルトエキス1重量部に対して3~19重量部であることを特徴とする請求項1に記載のベーカリー生地用品質改良剤。
【請求項3】
前記品質改良剤が、さらに乳化剤を含み、当該乳化剤の配合割合が、前記モルトエキス1重量部に対して8重量部以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のベーカリー生地用品質改良剤。
【請求項4】
冷凍されたベーカリー製品用生地であって、当該ベーカリー製品用生地に含まれるでん粉質に対して前記モルトエキスが0.045~0.60重量%の割合となるように、請求項1~3のいずれか1項に記載のベーカリー生地用品質改良剤が練り込まれていることを特徴とする冷凍ベーカリー生地。
【請求項5】
請求項4に記載の冷凍ベーカリー生地を使用したベーカリー製品。
【請求項6】
冷凍耐性及び老化防止効果を有するベーカリー製品用生地の製造方法であって、当該製造方法が、ベーカリー製品用生地に、酵素活性を有しないモルトエキスを含有する品質改良剤を、前記ベーカリー製品用生地に含まれるでん粉質に対して前記モルトエキスが0.045~0.60重量%の割合となるように配合し、混錬を行うことを含むベーカリー製品用生地の製造方法。
【請求項7】
難消化性多糖類を、前記モルトエキス1重量部に対して3~19重量部配合することを特徴とする請求項6に記載のベーカリー製品用生地の製造方法。
【請求項8】
乳化剤を、前記モルトエキス1重量部に対して8重量部以下の量にて配合することを特徴とする請求項6又は7に記載のベーカリー製品用生地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー生地に添加する事により冷凍耐性及び老化防止効果を発揮するベーカリー製品生地用品質改良剤、当該品質改良剤が練り込まれた冷凍ベーカリー生地、当該冷凍ベーカリー生地を使用したベーカリー製品である。さらに、前記品質改良剤を用いたベーカリー製品用生地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベーカリー製品は、穀物粉に水や調味料又はイースト等を加え混錬し、目的に応じて醗酵させ又は醗酵させないで、生地を調整し、焼成して製品化させた製品である。その作業は一連の基になされる事が多いが、作業上の都合や流通上の都合により、製品中間体である生地又は製品の状態で凍結させ凍結状態で保存又は流通する事がなされている。しかし、生地を凍結させると、凍結により生地構造が破壊され、二次醗酵時の生地膨張が低下する等の影響により非凍結の製品と比べて品質の低下がみられる。また、生地又は製品を凍結させると、凍結時や解凍時にでん粉等に老化現象と言われる変性が生じる。そこで、でん粉の老化現象に伴う品質の低下を防止する様々な検討がなされてきた。
【0003】
冷凍耐性及び老化防止効果を目的としたベーカリー製品生地用品質改良剤としては、酵素製剤を中心に様々な検討がなされており、特にアミラーゼはベーカリー製品の主原料である小麦粉のでん粉質を加水分解する性質を利用して、冷凍耐性や老化防止効果だけでなく、様々な品質改良用途で検討をされているが、添加量や作業工程によっては過度の加水分解により生地構造を損傷させる。それに伴い付着粘性が増加するため作業適正が著しく低下する問題を生じさせ、さらに製品が過度に軟化して品質を低下させる等の問題が生じており、各種改良が検討されてきた。
【0004】
特許文献1には、糖類水溶液中にα-アミラーゼを含有させることによってα-アミラーゼの耐熱性を向上させた上、その糖類水溶液を油脂中に安定に油中水型に乳化することにより、焼成前の製パン工程では生地中にα-アミラーゼが溶出することなく、生地焼成中に乳化が破壊され、生地中にα-アミラーゼが溶出して、効力を発揮するような条件を求めることによって、有効なパン類の老化防止効果を奏する組成物の提供に関する開示がなされている。さらに特許文献2には、α-アミラーゼとアスコルビン酸を同時添加する事により、冷凍パン生地の体積増加及びフィッシュアイを出現させない品質改善効果が開示されている。
【0005】
また、α-アミラーゼは精製された酵素製剤として利用する場合もあるが、特許文献3では、モルト末(又はエキス)をα-アミラーゼの代替としてアスコルビン酸や増粘多糖類と共にパン生地へ添加しており、生地伸展性が増し、生地切れを起こさず抗張力を有したホイロ後生地が得られる。また、冷凍生地の乾燥防止や水分保湿効果も得られ、ボリューム、風味、食感が安定である生地改良剤に関しても開示されている。
【0006】
アミラーゼ以外にも冷凍耐性及び老化防止効果に関しては、特許文献4には、冷水可溶性澱粉とリパーゼを添加してなることを特徴とするホイロ済み冷凍生地製パン法が開示されており、特許文献5には、グルコースオキシダーゼやプロテアーゼ活性を有する酵素を用いた冷凍生地改良剤が開示されている。さらに、特許文献6にはアミラーゼ以外にキシラナーゼを用いた例等が開示されており、様々な酵素によりベーカリー製品の品質改良の検討がなされている。
【0007】
しかし、酵素の活性制御は難しく、過剰な反応による生地損傷に対しては、決定的な解決策を得られていないのが現状である。生地損傷は製品の風味や食感を損なうだけでなく、作業時に生地粘度が上昇して付着性が出てしまい、作業効率の低下が起こる問題が生じる。
【0008】
そこで、酵素によらない品質改良方法であり、最も行われる改良方法としては、グルテンやイーストの添加量を多くしたり、水の添加量を少なくしたりする等、冷凍障害が発生しにくい配合を組む方法があるが、捏上温度を低くする等、製造工程の変更が必要であった。そこで、特許文献7には、2価の有機酸でグルテンを加熱処理した組成物を生地に添加する方法が開示されており、特許文献8には、HLB10以上の親水性ポリグリセリン脂肪酸エステルを予め粉末状態で小麦粉を主成分とするパンミックスに混合すれば、小麦粉中の蛋白質並びにでん粉等との親和性が大幅に向上し、少量であってもパンに柔らかさを付与させることができ、工業的な製パン製造及びホームベーカリー自動パン焼き機等を使用した手作りパン調理において食感の良好なパンが得られることが開示されている。
また、特許文献9によると、高品質なパン類を製造することのできる冷凍パン生地として、穀粉類100重量部に対してサイリュームシードガムを0.001~1重量部の割合で添加することにより、パン体積の低下、フィッシュアイの出現、焼色の赤色化、焼色やパン形状の不均一化、内相品質の低下、風味や食味の低下を抑制することが開示されているが、生地加工に硬さが出てしまい作業適正の低下が課題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61-63232号公報
【特許文献2】特開平11-56218号公報
【特許文献3】特開平7-8159号公報
【特許文献4】特開平4-158731号公報
【特許文献5】特開2000-270757号公報
【特許文献6】特開2005-261221号公報
【特許文献7】特開2020-171202号公報
【特許文献8】特開平11-318320号公報
【特許文献9】特開平11-113481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
かかる現状に鑑み、既存の製造工程を変えず生地を混錬する時に、穀物粉と同時に添加する事により、簡便に冷凍耐性及び老化防止効果を有し、更に生地損傷を生じさせないベーカリー生地用品質改良剤と、冷凍耐性及び老化防止効果を有するベーカリー製品用生地の製造方法を提供する事を課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
天然物より抽出されるエキス(天然エキス)中には複数の酵素が存在していることは公知の事実であり、エキス中の酵素は過度の反応を起こす恐れがある為、本発明者らは、モルトエキスの中でも酵素活性を有しないモルトエキスに着目した。そして、モルトエキスはアミラーゼを有している事から、本発明者らは、アミラーゼ活性(酵素活性)を有しないモルトエキスを選択し、前記課題を解決するために発明者らは鋭意検討を重ねた結果、アミラーゼ活性を有しないモルトエキスを所定の割合で、ベーカリー製品の必須原材料である小麦粉等の穀物粉に生地調整段階で加える事により、生地ダレを起こさず成形性に優れ、生地の冷解凍に伴う凍結損傷を抑え、更に老化現象を防止する効果が発揮されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
〔1〕ベーカリー製品用生地に添加した際に、冷凍耐性及び老化防止効果を発揮する品質改良剤であって、当該品質改良剤が、酵素活性を有しないモルトエキスを含有し、前記ベーカリー製品用生地に含まれるでん粉質に対して前記モルトエキスが0.045~0.60重量%の割合で配合されることを特徴とするベーカリー生地用品質改良剤。
〔2〕前記品質改良剤が、さらに難消化性多糖類を含み、当該難消化性多糖類の配合割合が、前記モルトエキス1重量部に対して3~19重量部であることを特徴とする〔1〕に記載のベーカリー生地用品質改良剤。
〔3〕前記品質改良剤が、さらに乳化剤を含み、当該乳化剤の配合割合が、前記モルトエキス1重量部に対して8重量部以下であることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載のベーカリー生地用品質改良剤。
〔4〕冷凍されたベーカリー製品用生地であって、当該ベーカリー製品用生地に含まれるでん粉質に対して前記モルトエキスが0.045~0.60重量%の割合となるように、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のベーカリー生地用品質改良剤が練り込まれていることを特徴とする冷凍ベーカリー生地。
〔5〕〔4〕に記載の冷凍ベーカリー生地を使用したベーカリー製品。
〔6〕冷凍耐性及び老化防止効果を有するベーカリー製品用生地の製造方法であって、当該製造方法が、ベーカリー製品用生地に、酵素活性を有しないモルトエキスを含有する品質改良剤を、前記ベーカリー製品用生地に含まれるでん粉質に対して前記モルトエキスが0.045~0.60重量%の割合となるように配合し、混錬を行うことを含むベーカリー製品用生地の製造方法。
〔7〕難消化性多糖類を、前記モルトエキス1重量部に対して3~19重量部配合することを特徴とする〔6〕に記載のベーカリー製品用生地の製造方法。
〔8〕乳化剤を、前記モルトエキス1重量部に対して8重量部以下の量にて配合することを特徴とする〔6〕又は〔7〕に記載のベーカリー製品用生地の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、ベーカリー製品に必須な主原材料である小麦粉等の穀物粉に対して、アミラーゼ酵素活性を有しないモルトエキスを過不足無く添加して混錬し生地を調整することにより、生地混練作業適正を損なう付着粘性の上昇を抑制すると共に、生地を凍結させても凍結に伴う生地損傷が抑制され、老化防止効果を有する冷凍ベーカリー生地及び冷凍ベーカリー製品を提供する事ができる。
本発明のベーカリー生地用品質改良剤は、酵素を配合しておらず、成形時のべたつきが少なく、焼成時のガスの保持力が高く、窯伸び増大効果に優れている。そして、本発明の品質改良剤を用いた場合には、腰もちが高くなり、好ましい丸みを帯びた外観に焼きあがり、クラムが均一で厚さの薄い構造を有したベーカリー製品が製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る丸パン生地製造工程を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る丸パン生地の解凍焼成工程を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る腰もち評価方法を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係るモルトエキスの添加量検討試験における焼成後の丸パンの状態を示す写真である。
図5】本発明の一実施形態に係る難消化性多糖類(サイリウムシードガム)の添加量検討試験における焼成後の丸パンの状態を示す写真である。
図6】本発明の一実施形態に係る乳化剤の添加量検討試験における焼成後の丸パンの状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔ベーカリー生地用品質改良剤〕
本発明のベーカリー生地用品質改良剤に配合されるモルトエキスは、麦芽を糖化させ濃縮させたエキスであり、でん粉質の加水分解を促進させる酵素であるアミラーゼ活性を有しないモルトエキスである。このようなモルトエキスは、液状や粉末等その性状に関わらず用いる事が出来るが、粉末又は顆粒状のものが望ましい。
【0016】
アミラーゼ活性を有しないモルトエキスとは、第十八改日本薬局方消化力試験法のでんぷん糖化力測定法及びでんぷん糊精化力測定法のいずれの測定方法においても活性を認めないモルトエキス(でんぷん糖化力:0.0U/g、でんぷん糊精化力:0.0U/g)を言い、例えば、モルトエキスプロダクト社製の「ドライモルト エキストラクト」等を利用することができる。
【0017】
本発明のベーカリー生地用品質改良剤は、当該品質改良剤中に配合されたアミラーゼ活性を有しないモルトエキスが、ベーカリー製品用生地に含まれるでん粉質に対して0.045~0.60重量%(でん粉質100重量部に対して0.045~0.60重量部)となる量にて使用される。なおこの添加割合は、でん粉質に対して0.05~0.55重量%であることが好ましく、0.07~0.50重量%であることがより好ましい。
【0018】
本発明のベーカリー生地用品質改良剤には、難消化性多糖類が配合されることが好ましく、配合される難消化性多糖類は特に限定されないが、酵素活性を有しないモルトエキスと併用することにより更なる作業適正向上効果や老化防止効果を向上させる効果を有した食物繊維である事が好ましい。
このような食物繊維としては、例えば、大豆由来、エンドウ由来、緑豆由来、柑橘由来、グァー種子由来、コンニャク由来、キク科植物由来のもの等が挙げられ、特にサイリウム種皮由来の食物繊維が好ましい。このような食物繊維としては、食品素材又は食品添加物として取り扱われている市販品を利用することができる。サイリウム種皮由来の食物繊維は、オオバコ科の植物であるブロンドサイリウムの種皮から得られるものであり、サイリウムシードガム、サイリウムハスク末、オオバコ種皮などと呼ばれ、多糖類を主成分とし、市販品を利用することができる。
【0019】
本発明における上記の難消化性多糖類の添加割合は、モルトエキス1重量部に対して3~19重量部が好ましく、4~17重量部がさらに好ましく、5~15重量部がより好ましい。
【0020】
さらに、本発明のベーカリー生地用品質改良剤には、上記のモルトエキスと難消化性多糖類に加えて乳化剤が配合されることが好ましく、乳化剤には、冷凍耐性を付与する効果があり、冷凍耐性を更に向上させる目的で使用することができる。
このような乳化剤の種類については特に限定されないが、HLBが7以上のポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましく、冷凍耐性効果を向上させる目的で使用する場合、乳化剤特有の風味によりベーカリー製品に好ましくない風味が付与されるため、乳化剤の配合割合は、モルトエキス1重量部に対して8重量部以下である事が好ましく、6.5重量部以下がさらに好ましく、冷凍耐性を向上させるのに5重量部以下の添加がより好ましい。
【0021】
本発明によるベーカリー生地用品質改良剤には、上記のモルトエキス、難消化性多糖類、乳化剤の他に、有機酸又はその塩類や、無機酸又はその塩類、食塩、砂糖、香辛料、香辛料抽出物、香料、甘味料、ミネラル類、デキストリン等の調味や賦形剤等が配合されても良く、粉末状又は顆粒で提供される事が好ましいが、液状で提供されてもよい。
【0022】
本発明のベーカリー生地用品質改良剤が添加されるでん粉質は、ベーカリー生地に使用するでん粉質であれば特に限定されない。一般的には強力粉(でん粉質:70.6重量%)、全粒粉(でん粉質:68.2重量%)等小麦由来の穀物粉が使用される事が多いが、米粉(でん粉質:81.9重量%)、トウモロコシ粉(でん粉質:76.1重量%)、ライ麦粉(でん粉質:75.8重量%)など、由来原料に関わらずベーカリー製品用生地を製造できるでん粉質を含む原材料であれば特に限定されない。
【0023】
本発明によるベーカリー生地用品質改良剤は、ホイロ(二次発酵)前又はホイロ後の冷凍ベーカリー生地に使用してもよく、特に限定されるものではない。また、冷蔵ベーカリー生地、焼成ベーカリー製品、半焼成冷凍ベーカリー製品、焼成冷凍ベーカリー製品等にも使用可能である。
【0024】
〔ベーカリー製品用生地〕
本発明におけるベーカリー製品用生地とは、ベーカリー製品を製造するための生地であって、前記ベーカリー生地用品質改良剤が練り込まれたものである。ベーカリー製品用生地の例としては、例えば、パン生地、ピザ生地、ドーナッツ生地、クッキー生地、パイ生地、スポンジ生地、シュー生地、中華まん生地等があるが、特に制限されるものではなくベーカリー製品用生地であればよい。
【0025】
〔ベーカリー製品用生地の製造方法〕
冷凍耐性及び老化防止効果を有するベーカリー製品用生地を製造するための本発明の製造方法では、酵素活性を有しないモルトエキスを含有する品質改良剤を準備し、この品質改良剤を、ベーカリー製品用生地に含まれるでん粉質に対して前記モルトエキスが0.045~0.60重量%となるように配合し、混錬を行い、ベーカリー製品用生地を製造する。本発明によるベーカリー製品用生地の製造方法としては、ストレート法、中種法、発酵種法等のベーカリー製品を製造可能な方法であれば、特に限定されず、様々な方法を用いることができる。
この際、前述の難消化性多糖類を、モルトエキス1重量部に対して3~19重量部配合することが好ましく、前述の乳化剤を、モルトエキス1重量部に対して8重量部以下の割合で配合することがより好ましく、これによって、作業適性を高めることができ、優れた冷凍耐性及び老化防止効果が得られる。
【0026】
〔冷凍ベーカリー生地〕
本発明の冷凍ベーカリー生地は、前記ベーカリー製品用生地を冷凍したものであり、上記の製造方法により得られたベーカリー製品用生地を冷凍することにより冷凍ベーカリー生地を製造することができる。
本発明では、この冷凍ベーカリー生地をその後、解凍し、焼成することによりベーカリー製品を製造することができる。あるいは、前述のようにしてベーカリー製品用生地を製造した後、このベーカリー製品用生地を成型し、半焼成又は焼成を行い、その後、冷凍を行うことによって、半焼成又は焼成冷凍ベーカリー製品を製造することもできる。
【0027】
本発明の冷凍ベーカリー生地を用いて製造されるベーカリー製品は、ベーカリー製品であれば特に限定されないが、パン、ピザ、ドーナッツ、クッキー、パイ、スポンジ、シュー、中華まん等のベーカリー製品をいう。
【実施例0028】
以下、本発明を、丸パンを例として実施例により説明するが、本発明はそれにより制限されるものではない。
【0029】
〔モルトエキス〕
本発明の丸パン製造に使用するモルトエキスは、モルトエキスプロダクト社製「ドライモルト エキストラクト」を使用した。
【0030】
酵素活性の有無を調べるために、モルトエキス1.0%溶液をpH5.0の1mol/L酢酸・酢酸ナトリウム緩衝液にて調製し、第十八改日本薬局方消化力試験のでんぷん糖化力測定法にて測定し、基質液を加えない滴定値と同等であることを確認した(0.0U/g)。また、同じくモルトエキス1.0%水溶液を用いて、第十八改日本薬局方消化力試験のでんぷん糊精化力測定法においても活性を有しないことを確認し(0.0U/g)、本発明の実施例に使用する酵素活性を有しないモルトエキスとした。
また、比較対象としてディアマルテリア・イタリアーナ社製「ディアマルテリア ユーロモルト ブリオ」も同様に、第十八改日本薬局方消化力試験のでんぷん糖化力測定法及びでんぷん糊精化力測定法にて酵素活性を測定した結果、第十八改日本薬局方消化力試験のでんぷん糖化力測定法では35.1U/g、でんぷん糊精化力測定法では144.3U/gの酵素活性を有することを確認し、比較例2に使用する酵素活性を有するモルトエキスとした。
【0031】
〔丸パン生地の製造と作業適正評価〕
強力粉(株式会社ニップン製「強力小麦粉」)、砂糖、脱脂粉乳、食塩、ドライイースト、サイリウムシードガム(三栄薬品貿易株式会社製「殺菌サイリウムハスク末」)、乳化剤(阪本薬品工業株式会社製「SYグリスターGP-120」、HLB 10.2)、モルトエキス(モルトエキスプロダクト社製「ドライモルト エキストラクト」)、食用なたね油(日清オイリオグループ株式会社「日清キャノーラ油」)を用い、ドライイースト以外の粉体原料はすべて事前に混合し一剤化した。
象印マホービン(株)製 ホームベーカリー BB-HB10に液体原料(水及び植物油脂)を、次いで一剤化した粉体原料を入れ、さらにドライイーストを入れたのち、「パン・ピザ生地コース」を選択し、図1に示される工程に従い、丸パンの生地を調製、凍結した。なお、分割は40g±1g、凍結は-20℃設定冷凍庫にて緩慢凍結した。
【0032】
作業適正の評価は、生地分割時に熟練した作業者が以下のパン生地作業適正の評価基準に従い、二重盲検法を用いて実施した。
【0033】
〈パン生地の作業適正評価基準〉
A:生地の付着性が非常に低く、作業適正が極めて良い
B:生地の付着性が低く、作業適正が良い
C:生地の付着性はややあるが、作業適正に問題はない
D:生地の付着性が高い又は固く、作業適正が悪い
E:生地の付着性が非常に高い又は非常に固く、作業適正が極めて悪い
【0034】
〔冷凍耐性及び老化防止効果評価方法〕
凍結後7日間冷凍保存した丸パン生地を、図2に示される工程に従い、丸パン生地を解凍焼成し、丸パンの冷凍耐性評価及び老化防止効果を以下の方法により評価した。なお、丸パン生地解凍は恒温恒湿機を用いて温度27℃、湿度95%にて30分間、ホイロは温度35℃、湿度85%にて40分間実施した。なお、焼成は上火及び下火を180℃に設定したオーブンにて10分間実施した。焼成後1時間常温下で放冷後、さらに24時間放置した後に、冷凍耐性及び老化防止効果を評価した。
【0035】
冷凍耐性評価は、冷凍耐性が劣るとパンの比容積が小さくなるため、菜種置換法にて評価し、さらに外観的にも丸みが無くなることから、図3に示した測定方法にて腰もちの評価を行った。
【0036】
以上の丸パンの比容積測定の結果、腰もち評価結果の合計値を基に、冷凍耐性評価を行った。その際の評価基準は、表1記載の冷凍耐性評価の通りである。
【0037】
【表1】
【0038】
老化防止効果に関しては、でん粉の老化によりパンが硬くなってしまうため、食感評価について訓練されたパネラー8名により、比較例1に対する各検体の評価について一対比較法を用い、食感による丸パン内層部のやわらかさの官能試験を実施した(比較例1を0(=Control)とした時、各検体の評価を、固い-3~柔らかい+3で採点した)。
さらに、でん粉の老化によりパンが硬くなることに加えて保水性も下がり、俗に言うしっとり感がなくなるため、やわらかさの官能試験に加え、しっとり感も同様に官能試験を実施した(パサつき-3~しっとり+3)。また、でん粉の老化により丸パンの好ましい丸みが無くなることから、腰もちに関しても老化防止効果の評価項目とした。
【0039】
なお、官能評価では呈味に関する自由記載によるアンケートも実施し、不快な風味等に関する調査も実施した。
【0040】
丸パンのやわらかさ及びしっとり感の官能試験評価、腰もち評価結果の合計値を基に、老化防止効果の評価を行った。その際の評価基準は、表2記載の老化防止効果評価の通りである。
【0041】
【表2】
【0042】
〔試験1〕モルトエキスの酵素活性確認試験
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【0045】
酵素活性を有するモルトエキスを添加した比較例2は、冷凍耐性に関しては比較例1より改善する結果が得られたが、作業時の付着粘性が高く、作業適正が著しく低かった。これに対して酵素活性を有しないモルトエキスを添加した実施例2は、生地の付着性がほぼ無く、問題のない程度の作業適正であった。さらに、冷凍耐性及び老化防止についても有効性が確認された。
【0046】
〔試験2〕モルトエキスの添加量検討試験
【0047】
【表5】
【0048】
【表6】
【0049】
表6の結果より、比較例1と比較した場合、実施例1~3においてパン生地の作業適正が問題の無い程度まで改善され、冷解凍したのちに焼成した丸パンも、図4の写真の通りふっくらと大きく膨らみ、腰もちが高く好ましい丸みを帯びており、冷凍耐性を有する結果が得られた。さらに、食感についても比較例1と比較してやわらかくしっとりとしており、適度に老化現象を抑制していることから、老化防止効果を有する事が証明された。
【0050】
しかし、比較例4の様に酵素活性を有しないモルトエキスの添加量を増加させても、生地の粘性が高まり作業適正が劣ってしまうため、酵素活性を有しないモルトエキスは適切な添加量の範囲において、作業適正の向上、冷凍耐性効果及び老化防止効果を有する事が明らかとなった。
【0051】
〔試験3〕難消化性多糖類(サイリウムシードガム)の添加量検討試験
【0052】
【表7】
【0053】
【表8】
【0054】
表8の結果より、実施例2は、酵素活性を有しないモルトエキス添加により比較例1と比較して作業適正と冷凍耐性及び老化防止効果を有しているが、実施例4~6においてパン生地の付着性が低減され、作業適正が飛躍的に改善されたほか、図5の写真の通り、パン生地を冷解凍後に焼成した丸パンにおいても、大きく膨らみ、且つ丸みを維持して腰もちが高く好ましい外観となっており、冷凍耐性を有する効果が得られた。さらに、食感についても、実施例4~6は、実施例2と比較してやわらかく、しっとり感があるという評価を受けており、酵素活性を有しないモルトエキスに難消化性多糖類を添加する事によりパン生地の作業適正及び老化防止の効果が一層高まっている事が証明された。
【0055】
一方、難消化性多糖類の添加量が多すぎるとパン生地が固くなり、生地伸展性が低下するため作業適正が悪くなる傾向が見られた。また、生地の伸展性を欠いた影響により比容積が小さい値となる傾向が見られたことから、酵素活性を有しないモルトエキスに難消化性多糖類を添加する場合は、モルトエキス1重量部に対して19重量部以下とすることが、作業適正の向上及び老化防止効果に優れた効果を得る上で好ましい。
【0056】
〔試験4〕乳化剤の添加量検討試験
【0057】
【表9】
【0058】
【表10】
【0059】
表10の結果より、実施例5でも比較例1と比較して優れた作業適正や冷凍耐性及び老化防止効果を有しているが、更なる各種効果の向上を試みるため、乳化剤の検討を実施した結果、実施例7、8及び9のいずれの検体においてもパン生地の付着性が非常に低く、作業適正が極めて高い事が分かった。さらに、図6の写真の通り実施例5と比較して、実施例7、8及び9において、パンが大きく膨らみ比容積が増大することが確認され、外観についても好ましい丸みを帯びており、冷凍耐性が極めて高くなっていることが証明された。加えて、食感についてもやわらかく、しっとり感に対する評価が極めて高く、非常に高い老化防止効果を有していることが明らかとなったことから、酵素活性を有しないモルトエキスに対する難消化性多糖類及び乳化剤の併用添加は、非常に優れた冷凍耐性及び老化防止効果を発揮することが判明した。
【0060】
しかしながら、実施例9においては、官能評価の際に実施した自由記載のアンケートで「喫食時に異味を感じる」という意見が散見されたことから、実施例9で用いた乳化剤の添加量はやや過剰であると思われ、実施例9より少ない添加量(即ち、モルトエキス1重量部に対して8重量部以下)とすることが、食味に関してもより品質の高いパンを製造する上で好ましい。
上記の試験結果から、酵素活性を有しないモルトエキスに難消化性多糖類及び乳化剤を過不足なく添加することにより、作業適正や冷凍耐性及び老化防止効果が画期的に優れた冷凍ベーカリー製品を製造できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
酵素活性を有しないモルトエキスを所定の割合で含む本発明のベーカリー生地用品質改良剤を、ベーカリー製品を製造する生地に添加することによって、既存の製造工程を変えず冷凍耐性や老化防止効果を付与することができる。さらに、難消化性多糖類及び/又は乳化剤を配合することにより、作業適正や冷凍耐性及び老化防止効果を各段に向上させることが可能なベーカリー生地用品質改良剤が提供できる。
また、ベーカリー製品用生地に本発明のベーカリー生地用品質改良剤を添加・混錬する事により、冷凍耐性及び老化防止効果を有する冷凍ベーカリー生地及び製品を提供することができ、本発明の製造方法は、各種ベーカリー製品を製造するのに有用である。
【符号の説明】
【0062】
a 丸パンの幅の長さ
b 丸パンの底辺の鉄板と接した部分の幅の長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6