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  • 特開-充填材の製造方法および充填材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132709
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】充填材の製造方法および充填材
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
E02D3/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038194
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】509235545
【氏名又は名称】株式会社SEET
(71)【出願人】
【識別番号】522099652
【氏名又は名称】株式会社ISIS
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 仁
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 眞弘
(72)【発明者】
【氏名】松下 眞矢
【テーマコード(参考)】
2D040
【Fターム(参考)】
2D040AB01
2D040AB09
2D040CA09
2D040CA10
(57)【要約】
【課題】流動性を確保しつつ、充填したのちの透水性能を制御可能な充填材を製造することである。
【解決手段】高分子添加剤を溶解した添加剤溶液と粒状材とを含む充填材の製造方法であって、空隙を充填したのちの前記充填材に求められる透水性能に基づいて、前記粒状材の粒径を調整する粒径調整工程と、粒径を調整した前記粒状材の最大粒径に基づいて、該粒状材を保持可能な前記添加剤溶液の目標粘度を取得する粘度取得工程と、取得した前記目標粘度に基づいて、前記添加剤溶液の濃度を選定する濃度選定工程と、選定した濃度に作液した前記添加剤溶液の前記粒状材に対する添加量を、前記粒状材の流動可能な間隙比に基づいて設定する添加量設定工程と、を備えることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子添加剤を溶解した添加剤溶液と粒状材とを含む充填材の製造方法であって、
空隙を充填したのちの前記充填材に求められる透水性能に基づいて、前記粒状材の粒径を調整する粒径調整工程と、
粒径を調整した前記粒状材の最大粒径に基づいて、該粒状材を保持可能な前記添加剤溶液の目標粘度を取得する粘度取得工程と、
取得した前記目標粘度に基づいて、前記添加剤溶液の濃度を選定する濃度選定工程と、
選定した濃度に作液した前記添加剤溶液の前記粒状材に対する添加量を、前記粒状材の流動可能な間隙比に基づいて設定する添加量設定工程と、
を備えることを特徴とする充填材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の充填材の製造方法において、
前記添加剤溶液の目標粘度を、粒径を調整した前記粒状材のうち最大粒径の粒子を保持可能なせん断応力を算定するとともに、算定したせん断応力を粘度に換算することにより取得することを特徴とする充填材の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の充填材の製造方法において、
B型粘度計を用いて前記せん断応力を有する前記添加剤溶液のずり速度を設定し、前記充填材に想定される流動速度に対応するずり速度で、前記せん断応力を除することにより、せん断応力を粘度に換算することを特徴とする充填材の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の充填材の製造方法において、
前記ずり速度を、回転数6rpmの条件で測定することを特徴とする充填材の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の充填材の製造方法において、
前記添加剤溶液の添加量を、前記粒状材の容積に対して0.65倍を超え0.91倍以下に設定することを特徴とする充填材の製造方法。
【請求項6】
空隙を充填する充填材であって、請求項1~5のいずれか1項に記載の充填材の製造方法により製造されることを特徴とする充填材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤中の空隙を充填する充填材の製造方法、及び充填材の製造方法により製造された充填材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、開削工法により地盤を掘削する場合には、周辺土砂の崩壊や止水などを目的として、掘削予定領域を囲繞する土留め壁を構築する。鋼矢板や鋼管矢板などの土留め部材を採用して構築した土留め壁は、矢板、鋼管矢板や鋼管杭の継手部に空隙が発生しやすく、空隙に起因する不具合を生じる場合がある。また、一般には工事終了後にこれらを残置せず引抜くが、引抜き時に生じた地中の空隙や地盤の緩みにより地盤沈下を生じる恐れがあるなど、地盤状況によって周辺地盤に多大な影響を与えかねない。
【0003】
このため、土留め部材の引抜き跡に充填材を充填する場合が多く、例えば、特許文献1には、充填材として硬化剤を採用し、この硬化剤を土留め部材の引抜き跡に注入する工法が開示されている。具体的には、地中に打設した土留め部材に隣接して硬化剤注入管を所定の間隔で設置する。そして、土留め部材の引抜き時に、硬化剤注入管を土留め部材とともに引抜きながら、引抜き跡に硬化剤を充填する。また、矢板、鋼管矢板や鋼管杭の継手に発生した継手に対しても同様に、硬化剤を充填する工法が実施されている。このような硬化剤を充填する工法を採用すれば、土留め部材の引抜き跡や矢板、鋼管矢板や鋼管杭の継手部の空隙、もしくは土留め部材の引抜き跡に生じる空隙や地盤のゆるみに起因して生じかねない周辺地盤への影響を最小限にとどめることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3940735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような地盤中に生じた空隙を充填材で充填する工事は、土留め部材の継手や引抜き跡に限らず、あらゆる地盤中の空隙を対象に実施され、いずれの空隙を充填する場合も充填した跡には周辺地盤と同等の圧縮強度が求められる。このため、流動性の確保及び強度発現の容易な流動化処理土を採用する場合が多い。しかし、流動化処理土は調達に費用がかかる、セメント系固化材を採用するため環境負荷が増大するなど、様々な課題を有する。また、透水性能の制御が困難であるため、充填した跡に圧縮強度だけでなく周辺地盤と同等の透水性を求められる環境下において、使用することができない。
【0006】
このような中、非セメント系の流動化剤に礫や砂、水などを混合した、透水性及び透気性を有する充填材も検討されている。しかし、配合作業が煩雑になりやすく多大な作業手間を有するとともに、使用する材料によっては十分な流動性が得られず、充填材のポンプ圧送やトレミー管による打設が困難となる場合がある。このような場合には、充填材を空隙に直接投下する方法も考えられるが、例えば、空隙に地下水などが満たされていると直接投下した充填材が水中で分離する恐れが生じるなど、施工性に課題を有していた。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、流動性を確保しつつ、充填したのちの透水性能を制御可能な充填材を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、本発明の充填材の充填方法は、高分子添加剤を溶解した添加剤溶液と粒状材とを含む充填材の製造方法であって、空隙を充填したのちの前記充填材に求められる透水性能に基づいて、前記粒状材の粒径を調整する粒径調整工程と、粒径を調整した前記粒状材の最大粒径に基づいて、該粒状材を保持可能な前記添加剤溶液の目標粘度を取得する粘度取得工程と、取得した前記目標粘度に基づいて、前記添加剤溶液の濃度を選定する濃度選定工程と、選定した濃度に作液した前記添加剤溶液の前記粒状材に対する添加量を、前記粒状材の流動可能な間隙比に基づいて設定する添加量設定工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の充填材の充填方法は、前記添加剤溶液の目標粘度を、粒径を調整した前記粒状材のうち最大粒径の粒子を保持可能なせん断応力を算定するとともに、算定したせん断応力を粘度に換算することにより取得することを特徴とする。
【0010】
本発明の充填材の充填方法は、B型粘度計を用いて前記せん断応力を有する前記添加剤溶液のずり速度を設定し、前記充填材に想定される流動速度に対応するずり速度で、前記せん断応力を除することにより、せん断応力を粘度に換算することを特徴とする。
【0011】
本発明の充填材の充填方法は、前記ずり速度を、回転数6rpmの条件で測定することを特徴とする。
【0012】
本発明の充填材の充填方法は、前記添加剤溶液の添加量を、前記粒状材の容積に対して0.65倍を超え0.91倍以下に設定することを特徴とする。
【0013】
本発明の充填材は、空隙を充填する充填材であって、本発明の充填材の製造方法により製造されることを特徴とする。
【0014】
本発明の充填材の充填方法及び充填材によれば、粒状材を保持可能な目標粘度に基づいて添加剤溶液の濃度を選定し、選定した濃度に作液した添加剤溶液を粒状材に対して、粒状材が流動可能な間隙比を維持できる程度に添加する。これにより、充填材を空隙内で自在に流動させて、隅々まで充填させることができる。
【0015】
また、所定時間の経過後には、空隙に粒状材が残存して添加剤溶液の粘度が消失する、いわゆる水締めと同様の現象が生じる。つまり、空隙内は、粒状材を密に充填した場合の透水性能とほぼ同等となる。したがって、空隙を充填したのちの充填材に要求される透水性能に応じて、あらかじめ粒状材の粒径を調整しておくことで、充填材の透水性能を制御し、所望の透水性能(難透水性~高透水性)を実現することが可能となる。
【0016】
さらに、せん断応力を粘度に換算する際に用いる添加剤溶液のずり速度は、B型粘度計を用いて回転数6rpmの条件で測定する。このような測定方法は、地中孔の孔壁保護に用いる安定液(ベントナイト溶液)の性状を把握する際に実施する方法と同様であり、添加剤溶液の性状をより正確に把握することが可能となる。
【0017】
加えて、粒状材は、土質材料や現地発生土、もしくは粒度調整材など充填材として一般に使用される材料を適用することができるとともに、高分子添加剤も充填材に付与したい性能に応じて適宜の材料を選択できる。これにより、空隙の形状や用途に対応した充填材を、容易に製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、充填材に高分子添加剤を溶解した添加剤溶液と粒状材を用いるとともに、添加剤溶液を、粒状材を保持できる粘度に設定し、また、その添加量を粒状材が流動可能な間隙比に基づいて設定することにより、充填材の流動性を確保しつつ、充填後の透水性能を制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施の形態における充填材の概略を示す図である。
図2】本実施の形態における充填材の製造方法を示すフローである。
図3】本実施の形態におけるクレーガー(Creager)による20%粒径(D20)と透水係数kとの関係表(株式会社建設産業調査会発行,「改訂 地下水ハンドブック」,平成10年8月1日発行,p290より)、及び粘土と濃度の関係を示すグラフである。
図4】本実施の形態における粒状材による三次元構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、粒状材を添加剤溶液に保持させたモルタル状の充填材及びその製造方法に関する発明であり、充填材に流動性を付与して空隙の隅々まで充填させるとともに、充填後は添加剤溶液を消失させて、残存する粒状材の粒径に基づく透水性能を発揮させるものである。
【0021】
以下に、図1図4を参照しつつ、本発明の充填材の製造方法、及びこの製造方法により製造した充填材の詳細を説明する。本実施の形態では、開削工事により形成された地中の掘削孔(空隙部)として、充填材で埋め戻す場合を事例に挙げて説明する。
【0022】
≪≪充填材≫≫
図1(a)で示すように、地盤中に設けられた空隙部Hは充填材1が充填されて埋め戻されている。充填材1は、粒状材11と添加剤溶液12と混合したものであり、添加剤溶液12は、高分子添加剤2を溶解したものである。
【0023】
高分子添加剤2は、水溶性ポリマーであればいずれを採用してもよいが、例えば、杭工事及び連続壁工事などの安定液やシールド工事・推進工事用安定液などの添加剤として採用される、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリルアミド共重合物、ポリアクリル酸ナトリウム等を事例として挙げることができる。これらは、単一の材料を高分子添加剤2として採用してもよいし、複数を適宜組み合わせて採用してもよい。
【0024】
また、粒状材11は、土質材料や建設残土(現地発生土を含む)もしくは粒度調整材など、充填材にとして一般に使用されるいずれの材料も採用することができる。建設残土を採用する場合には、中間処理施設で水洗いのうえ分級されたリサイクル砂を採用することが望ましく、その他、粘土分の少ない乾燥砂や湿潤砂も採用可能である。
【0025】
≪≪充填材の製造方法≫≫
上記の材料よりなる充填材1は、次の手順により製造することができる。以下に、図2で示すフロー図に従って、その詳細を説明する。
【0026】
≪STEP1:粒径調整工程≫
まず、図1で示したような、空隙部Hを充填したのちの充填材1に求められる透水性能に基づいて粒状材11の粒径を調整する。
【0027】
透水性能に基づいて粒状材11の粒径を調整するには、クレーガー(Creager)法を採用している。具合的には、図3(a)で示すような、クレーガーによって作成された試料の20%粒径(D20)と透水係数kとの関係表から、空隙部Hに充填されたのちの充填材1に要求される透水性能を満足する20%粒径(D20)を選定する。そして、選定した20%粒径(D20)に基づいて粒状材11の粒径を調整する。
【0028】
≪STEP2:粘度取得工程≫
次に、粒径を調整した粒状材11の最大粒径に基づいて、粒状材11を保持可能な添加剤溶液12の目標粘度を取得する。添加剤溶液12の目標粘度は、粒径を調整した粒状材11のうち最大粒径の粒子を保持可能なせん断応力Sを算定したのち、このせん断応力Sを粘度に換算することにより取得する。
【0029】
添加剤溶液12のせん断応力Sは、次の(1)式により算定することができる。
【0030】
なお、粒子密度ρsは、粒子の重量と粒子の容積から算定できる。また、添加剤溶液12の密度ρτは、例えば、使用する高分子添加剤2の密度が1.5程度の場合、ほぼ1.0と見做すことができる。
【0031】
次に、上記のせん断応力を備える添加剤溶液12を試験作液し、試験作液した添加剤溶液12のずり速度(充填材1に想定される流動速度に対応するずり速度)を、B型粘度計を用いて測定する。ずり速度の測定は、回転数6rpmの条件で実施すると良い。これは、安定液の性状を把握する際に採用する条件と同様であり、添加剤溶液12の性状をより正確に把握することが可能となる。こののち、測定したずり速度で上記の(1)式で算定したせん断応力Sを除して粘度に換算することにより、目標粘度を取得する。
【0032】
≪STEP3:濃度選定工程≫
上記のSTEP2で取得した目標粘度に基づいて、添加剤溶液12の濃度を選定する。一般に、高分子化合物の溶液には、粘度と濃度との間に図3(b)で示すような関係があり、溶液の粘度調整は、濃度を調整することにより行われることが広く知られている。
【0033】
そこで、あらかじめ高分子添加剤2を溶解した濃度の異なる添加剤溶液12を複数作成し、それぞれの粘度を測定する。次に、濃度とこれに対応する粘度の関係から、高分子添加剤2を用いた添加剤溶液12における濃度と粘度の関係式を作成しておく。そして、先に算出した添加剤溶液12の目標粘度を代入して、濃度を算出する。
【0034】
≪STEP4:添加量設定工程≫
濃度設定工程で添加剤溶液12の濃度を選定したのち、選定した濃度に作液した添加剤溶液12の粒状材11に対する添加量を、粒状材11が流動可能な間隙比に基づいて設定する。
【0035】
図4で示すように、粒状材11を構成する粒子が等大の球体であると仮定すると、粒状材11がいわゆる最密充填状態で積層されている場合、身動きが取れず流動できない。しかし、正方形粗充填、もしくは正方形粗充填と六方系粗充填との混合状態で積層されている場合、粒状材11が流動することは、一般に広く知られている。また、六方系粗充填状態で積層されている場合であっても、条件によっては(例えば、粒状材11の形状が球形に近い場合など)、粒状材11は流動可能である。そして、六方系粗充填の間隙比(間隙の体積/粒状材の体積)は0.654、正方系粗充填の間隙比は0.910であることも知られている。
【0036】
そこで、粒状材11の間隙比が少なくとも0.654以上、好ましくは0.910以上を維持できるよう、添加剤溶液12の添加量を、粒状材11の容積に対して少なくとも0.65倍以上、好ましくは0.91倍以上に設定する。
【0037】
≪STEP5:作液工程≫
上記の粒状材選定工程で粒径を調整した粒状材11に、濃度選定工程で選定した濃度に作液した添加剤溶液12を、添加量設定工程で設定した添加量だけ添加し、充填材1を作液する。なお、別の製造方法として、粉末の高分子添加剤2をあらかじめ添加剤溶液12に作液するのではなく、高分子添加剤2と粒径を調整した粒状材11を粉末ブレンドした後、高分子添加剤2が所定の濃度になるように計量した水を添加して、撹拌する。このような方法によっても容易に、充填材1を製造することができる。
【0038】
≪充填材の性能:高流動性≫
上記の手順により製造した充填材1において、粒状材11を保持可能な粘性を有する添加剤溶液12は、少量が粒状材11に表面吸着して一体となって運動する程度の非常に高い表面張力を有する。このような表面張力の高い添加剤溶液12は球状になりやすく、径が1cm程度の粒状材11に吸着すると、疑似的には球体に近似できる。そして、前述したように、粒状材11に対する添加剤溶液12の添加量は、粒状材11が流動可能な間隙比を維持できる程度に設定されている。
【0039】
これにより充填材1は、高い流動性をもって空隙部Hを隅々まで充填することが可能となる。なお、一時的に流動性を増加させたい場合には、充填材1に例えばシェービングクリーム状に発泡させた気泡を添加するなどしても良い。したがって、充填手段は、ポンプ圧送やトレミー管による打設、もしくは直接投下などいずれの手段にあっても採用可能である。
【0040】
≪充填材の性能:水中不分離性≫
また、例えば地下水で満たされている空隙部Hに充填材1を直接投下する場合には、空隙部Hの底部近傍で投下する。こうすると、充填材1を水中分離させることなく、底部に沿って押し広げながら徐々に堆積する態様となり、空隙部Hの隅々まで充填させることが可能となる。これは、前述したように、添加剤溶液12は少量が粒状材11に表面吸着して一体となって運動する程度の非常に高い表面張力を有することに起因する。なお、本実施の形態において水中不分離性とは、水中に投下したのちの充填材1が、空隙部Hの底部で堆積しレベルの状態を形成する程度を指す。
【0041】
≪充填材の性能:透水性能≫
さらに、図1(b)で示すように、空隙部Hに充填されたのちを充填材1は、時間の経過とともに添加剤溶液12が消失し粒状材11が残存する。つまり、空隙部H内で水締めと同様の現象が生じるため粒状材11が密に充填した状態となる。したがって、空隙部Hに充填されたのちの充填材1に要求される透水性能は、粒状材11を密に充填した場合の透水性能とほぼ同等となる。
【0042】
このため、上記の粒状材選定工程では、空隙部Hに充填されたのちの充填材1に要求される透水性能に対応させて、粒状材11の粒径を調整している。これにより、空隙部Hに充填されたのちの充填材1を、難透水性から高遮水性まで自在に制御することができる。
【0043】
なお、粒状材11の粒径を調整することにより充填材1の透水性能を制御する方法は、クレーガー(Creager)法に限定するものではなく、粒度組成情報から透水係数を推定する手段として提案されている様々な経験式を適宜選択して採用してもよい。また、充填材1は、空隙部Hが大気中(地下水より高い位置)にある場合に、透気性能を制御することが可能となる。
【0044】
上記のとおり、いずれの充填手段にも対応可能、かつ難透水性から高透水性まで透水性能を制御可能な充填材1は、様々な空隙部H及び用途に適用可能である。例えば、開削工事により形成された地中の掘削孔の充填材や、非常用井戸のグラベルパッキング、地中熱利用井戸の充填材、帯水層の透水性充填材もしくは止水性充填材、充填添加剤(ショットブラスト)による熱伝導率向上)、鋼管杭のジョイント部止水材、暫増強度増加型充填材、陥没した地盤の充填材、加泥シールド工事の発進時チャンバー内充填材、シートパイルの引抜き跡の空隙充填材などでの利用を、事例として挙げることが可能である。
【0045】
≪充填材の性能:長距離圧送性≫
また、充填材1は、深さ方向に大きい空隙部Hだけでなく、平面方向に広がりを有する空隙部Hにも採用することが可能であり、事例として、長大な地中配管の中空部などが挙げられる、なお、地中配管の中空部を充填する場合には、充填材1に変質防止剤を添加すると良い。
【0046】
変質防止剤としては、有機アミン系・トリアジン系・環状窒素硫黄系と環状窒素系複合物などを採用できる。例えば、充填材1に用いる高分子添加剤2として、シールド用加泥材として広く採用されているCMCを主成分とする材料を採用した場合、充填材1は、数日から数週間で流動性を消失する。しかし、変質防止剤を添加すると、充填材1の流動性を長期(例えば、数週間から数か月程度)にわたって維持させることができる。したがって、充填対象となる地中配管の中空部が長距離に渡る場合にも、充填材1を確実に充填することが可能となる。
【0047】
≪充填材の性能:非変形性長距離圧送性≫
さらに、空隙部Hに充填されたのちの充填材1は、添加剤溶液12が徐々に消失するが、消失する際発熱などの反応を伴うことがない。また、消失する際に水締めと同様の現象が生じて密状態の粒状材11が残存するのみで、経時的に変形する、または経年劣化により体積変化を生じることがないだけでなく、充填材に残存する接着剤成分により、粒子同士が接着され、地震時に液状化することもない。
【0048】
また、地盤と同程度の一軸圧縮強度(0.2~0.5N/mm2程度)を発現させることもできるため、空隙部を充填したのちの地盤を再掘削することも可能である。この場合には、充填材1に用いる高分子添加剤2として、例えば、ノニオン系のメチルセルロース(MC)やヒドロキシ(プロピル)エチルセルロース(HEC)、また、弱アニオン系のアクリルアマイドなどを採用したうえで、充填材1にセメント系硬化剤を添加すると良い。
【0049】
上記のとおり、充填材1の製造方法によれば、流動性を確保しつつ、充填したのちの透水性能を制御可能な充填材1を製造することが可能である。そして、添加剤溶液12は高分子添加剤2を溶解したものであるため、腐敗して可燃性ガスなどを発生することがない。さらには、流動化処理土のようにセメント系硬化剤を採用する場合と比較して、環境負荷を大幅に低減することが可能となる。
【0050】
本発明の充填材1の製造方法及び充填材1は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 充填材
11 粒状材
12 添加剤溶液
2 高分子添加剤
H 空隙部
図1
図2
図3
図4