(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132715
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】路面状態検知装置、路面状態検知方法、および路面状態検知プログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 13/88 20060101AFI20230914BHJP
G01S 15/08 20060101ALI20230914BHJP
G01S 15/42 20060101ALI20230914BHJP
G01S 15/88 20060101ALI20230914BHJP
G01S 13/08 20060101ALI20230914BHJP
G01S 13/42 20060101ALI20230914BHJP
G01S 17/88 20060101ALI20230914BHJP
G01S 17/42 20060101ALI20230914BHJP
G01S 17/08 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
G01S13/88
G01S15/08
G01S15/42
G01S15/88
G01S13/08
G01S13/42
G01S17/88
G01S17/42
G01S17/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038204
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 永児
(72)【発明者】
【氏名】神谷 達也
(72)【発明者】
【氏名】深代 優輝
(72)【発明者】
【氏名】水谷 厚司
【テーマコード(参考)】
5J070
5J083
5J084
【Fターム(参考)】
5J070AC02
5J070AC13
5J070AE07
5J070AF03
5J070AH31
5J070AK30
5J070AK40
5J070BF01
5J070BF18
5J083AA02
5J083AB20
5J083AC06
5J083AC40
5J083AD04
5J083AD17
5J083AE06
5J083AF06
5J083CA12
5J083CB01
5J083CB14
5J084AA05
5J084AA10
5J084AB16
5J084AC02
5J084BA03
5J084BA49
5J084CA31
5J084CA70
5J084DA09
5J084EA29
5J084EA40
(57)【要約】
【課題】路面における凹部の深さや下降段差の高さを良好に検知可能な技術を提供すること。
【解決手段】路面状態検知装置(10)は、距離センサ(3)による探査波の路面(RS)からの反射波に基づいて下降段差(SD)の存在を判定する段差判定部(113)と、段差判定部が下降段差の存在を判定した場合に、下降段差の高さを算出する段差算出部(114)とを備える。段差判定部は、下降段差における手前側の上部路面(SD1)からの反射波による路面反射区間と奥側の下部路面(SD2)からの反射波による路面反射区間の間に無反射区間を検知することで下降段差の存在を判定する。段差算出部は、互いに送受信条件が異なる複数条件で前記無反射区間が増減することに基づき、距離センサの搭載高さ、無反射区間、指向角、および検知角を用いて下降段差の高さを算出する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
探査波の送信およびその反射波の受信により物標までの距離を検知する距離センサ(3)を用いて、車両(V)の進行先の路面(RS)の状態を検知する、路面状態検知装置(10)であって、
前記路面からの反射波に基づいて、前記車両の進行先における下降段差(SD)の存在を判定する、段差判定部(113)と、
前記段差判定部が前記下降段差の存在を判定した場合に、前記下降段差の高さを算出する、段差算出部(114)と、
を備え、
前記段差判定部は、前記下降段差における進行方向手前側の上部路面(SD1)からの反射波による路面反射区間と前記下降段差における進行方向奥側の下部路面(SD2)からの反射波による路面反射区間の間に、反射波の受信信号強度が閾値未満となる無反射区間を、受信信号強度波形から検知することで、前記下降段差の存在を判定し、
前記段差算出部は、互いに送受信条件が異なる複数条件で前記無反射区間が増減することに基づき、前記距離センサの搭載高さと、前記複数条件における、前記無反射区間、指向性を示す角度であって指向中心軸(C)を中心とする指向角、および前記指向中心軸の方位を示す角度である検知角とを用いて前記下降段差の高さを算出する、
路面状態検知装置。
【請求項2】
前記複数条件は、互いに異なる前記検知角を有し、前記検知角の範囲が±90度以内である、
請求項1に記載の路面状態検知装置。
【請求項3】
前記検知角が前記指向角以上である、
請求項2に記載の路面状態検知装置。
【請求項4】
前記検知角が前記指向角未満である、
請求項2に記載の路面状態検知装置。
【請求項5】
前記複数条件は、互いに異なる前記指向角を有し、前記指向角の範囲が±90度以内である、
請求項1に記載の路面状態検知装置。
【請求項6】
前記段差算出部は、異なる2つの地点からの反射波を用いる移動ステレオにより、前記下降段差の高さを算出する、
請求項1に記載の路面状態検知装置。
【請求項7】
前記指向角および前記検知角から幾何学的に決定される反射面積に基づいて、前記無反射区間の補正を行う、
請求項1に記載の路面状態検知装置。
【請求項8】
探査波の送信およびその反射波の受信により物標までの距離を検知する距離センサ(3)を用いて、車両(V)の進行先の路面(RS)の状態を検知する、路面状態検知方法であって、
前記路面からの反射波に基づいて、前記車両の進行先における下降段差(SD)の存在を判定する、段差判定処理と、
前記段差判定処理にて前記下降段差の存在を判定した場合に、前記下降段差の高さを算出する、段差算出処理と、
を含み、
前記段差判定処理は、前記下降段差における進行方向手前側の上部路面(SD1)からの反射波による路面反射区間と前記下降段差における進行方向奥側の下部路面(SD2)からの反射波による路面反射区間の間に、反射波の受信信号強度が閾値未満となる無反射区間を、受信信号強度波形から検知することで、前記下降段差の存在を判定し、
前記段差算出処理は、互いに送受信条件が異なる複数条件で前記無反射区間が増減することに基づき、前記距離センサの搭載高さと、前記複数条件における、前記無反射区間、指向性を示す角度であって指向中心軸(C)を中心とする指向角、および前記指向中心軸の方位を示す角度である検知角とを用いて前記下降段差の高さを算出する、
路面状態検知方法。
【請求項9】
探査波の送信およびその反射波の受信により物標までの距離を検知する距離センサ(3)を用いて車両(V)の進行先の路面(RS)の状態を検知する路面状態検知装置(10)により実行される、路面状態検知プログラムであって、
前記路面状態検知装置が実行する処理は、
前記路面からの反射波に基づいて、前記車両の進行先における下降段差(SD)の存在を判定する、段差判定処理と、
前記段差判定処理にて前記下降段差の存在を判定した場合に、前記下降段差の高さを算出する、段差算出処理と、
を含み、
前記段差判定処理は、前記下降段差における進行方向手前側の上部路面(SD1)からの反射波による路面反射区間と前記下降段差における進行方向奥側の下部路面(SD2)からの反射波による路面反射区間の間に、反射波の受信信号強度が閾値未満となる無反射区間を、受信信号強度波形から検知することで、前記下降段差の存在を判定し、
前記段差算出処理は、互いに送受信条件が異なる複数条件で前記無反射区間が増減することに基づき、前記距離センサの搭載高さと、前記複数条件における、前記無反射区間、指向性を示す角度であって指向中心軸(C)を中心とする指向角、および前記指向中心軸の方位を示す角度である検知角とを用いて前記下降段差の高さを算出する、
路面状態検知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の進行先の路面状態を検知する、路面状態検知装置、路面状態検知方法、および路面状態検知プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の路面監視装置は、路面の凹部の有無を検知する構成を開示する。路面の凹部は、例えば、路面の窪み、溝、歩道から車道に変わる段差、等である。具体的には、この路面監視装置は、距離センサと、送受信部と、障害物検知部とを備えている。距離センサは、探査用の送信波を空中へ発し、障害物によって反射して帰着する反射波を受信する。送受信部は、距離センサに、送信波の送信と反射波の受信とを繰り返し行わせる。障害物検知部は、送受信部の送受信結果に基づいて障害物を検知する。距離センサは、送信波の一部を路面方向にも発し、障害物検知部は、路面で反射して帰着した反射波を距離センサで受信した受信波の形態を、路面における過去の受信波の形態と比較して、欠落部分を検知し、欠落部分の検知で路面の凹部の存在を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
凹部の深さや下降段差の高さによっては、そのまま走行可能な場合もあり得る。この点、特許文献1に記載の路面監視装置によれば、距離センサにより凹部や下降段差の存在判定および距離算出は可能であるものの、凹部の深さや下降段差の高さが検知できないため、そのまま回避せずに走行可能であっても転落回避の判定しかできず、凹部や下降段差がない走行ルートしか選択できない。本発明は、上記に例示した事情等に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、例えば、路面における凹部の深さや下降段差の高さを良好に検知可能な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の路面状態検知装置(10)は、探査波の送信およびその反射波の受信により物標までの距離を検知する距離センサ(3)を用いて、車両(V)の進行先の路面(RS)の状態を検知するように構成されている。
かかる路面状態検知装置は、
前記路面からの反射波に基づいて、前記車両の進行先における下降段差(SD)の存在を判定する、段差判定部(113)と、
前記段差判定部が前記下降段差の存在を判定した場合に、前記下降段差の高さを算出する、段差算出部(114)と、
を備え、
前記段差判定部は、前記下降段差における進行方向手前側の上部路面(SD1)からの反射波による路面反射区間と前記下降段差における進行方向奥側の下部路面(SD2)からの反射波による路面反射区間の間に、反射波の受信信号強度が閾値未満となる無反射区間を、受信信号強度波形から検知することで、前記下降段差の存在を判定し、
前記段差算出部は、互いに送受信条件が異なる複数条件で前記無反射区間が増減することに基づき、前記距離センサの搭載高さと、前記複数条件における、前記無反射区間、指向性を示す角度であって指向中心軸(C)を中心とする指向角、および前記指向中心軸の方位を示す角度である検知角とを用いて前記下降段差の高さを算出する。
請求項8に記載の路面状態検知方法は、探査波の送信およびその反射波の受信により物標までの距離を検知する距離センサ(3)を用いて、車両(V)の進行先の路面(RS)の状態を検知する方法であって、
前記路面からの反射波に基づいて、前記車両の進行先における下降段差(SD)の存在を判定する、段差判定処理と、
前記段差判定処理にて前記下降段差の存在を判定した場合に、前記下降段差の高さを算出する、段差算出処理と、
を含み、
前記段差判定処理は、前記下降段差における進行方向手前側の上部路面(SD1)からの反射波による路面反射区間と前記下降段差における進行方向奥側の下部路面(SD2)からの反射波による路面反射区間の間に、反射波の受信信号強度が閾値未満となる無反射区間を、受信信号強度波形から検知することで、前記下降段差の存在を判定し、
前記段差算出処理は、互いに送受信条件が異なる複数条件で前記無反射区間が増減することに基づき、前記距離センサの搭載高さと、前記複数条件における、前記無反射区間、指向性を示す角度であって指向中心軸(C)を中心とする指向角、および前記指向中心軸の方位を示す角度である検知角とを用いて前記下降段差の高さを算出する。
請求項9に記載の路面状態検知プログラムは、探査波の送信およびその反射波の受信により物標までの距離を検知する距離センサ(3)を用いて車両(V)の進行先の路面(RS)の状態を検知する路面状態検知装置(10)により実行されるプログラムであって、
前記路面状態検知装置が実行する処理は、
前記路面からの反射波に基づいて、前記車両の進行先における下降段差(SD)の存在を判定する、段差判定処理と、
前記段差判定処理にて前記下降段差の存在を判定した場合に、前記下降段差の高さを算出する、段差算出処理と、
を含み、
前記段差判定処理は、前記下降段差における進行方向手前側の上部路面(SD1)からの反射波による路面反射区間と前記下降段差における進行方向奥側の下部路面(SD2)からの反射波による路面反射区間の間に、反射波の受信信号強度が閾値未満となる無反射区間を、受信信号強度波形から検知することで、前記下降段差の存在を判定し、
前記段差算出処理は、互いに送受信条件が異なる複数条件で前記無反射区間が増減することに基づき、前記距離センサの搭載高さと、前記複数条件における、前記無反射区間、指向性を示す角度であって指向中心軸(C)を中心とする指向角、および前記指向中心軸の方位を示す角度である検知角とを用いて前記下降段差の高さを算出する。
【0006】
なお、出願書類の各欄において、各要素に括弧付きの参照符号が付される場合がある。しかしながら、かかる参照符号は、同要素と後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を、単に示すものにすぎない。よって、本発明は、上記の参照符号の記載によって、何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】車載システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る路面状態検知装置の概略的な機能構成を示すブロック図である。
【
図3】
図2に示された路面状態検知装置の動作の概略を示す図である。
【
図4】
図2に示された路面状態検知装置の動作の概略を示す図である。
【
図5】
図2に示された路面状態検知装置の動作の概略を示す図である。
【
図6】
図2に示された路面状態検知装置の動作の概略を示す図である。
【
図7】
図2に示された路面状態検知装置の動作の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、一つの実施形態に対して適用可能な各種の変形例については、当該実施形態に関する一連の説明の途中に挿入されると当該実施形態の理解が妨げられるおそれがある。このため、変形例は、実施形態の説明の後にまとめて記載する。
【0009】
(第一実施形態)
図1を参照すると、車載システム1は、移動体としての車両Vに搭載されている。車両Vは、地上すなわち道路上を走行する、いわゆる四輪自動車であって、平面視にて略矩形状に形成された箱状の車体を備えている。車載システム1は、車両Vに搭載することで、かかる車両Vにおける運転支援や自動運転等の各種機能を実現可能に構成されている。具体的には、車載システム1は、走行状態センサ2と、距離センサ3と、電子制御装置4と、警報装置5と、車両挙動制御装置6とを備えている。
【0010】
走行状態センサ2は、車載通信回線を介して、電子制御装置4と情報あるいは信号を通信可能に接続されている。走行状態センサ2は、車両Vの走行状態に関連する諸量に対応する情報あるいは信号を生成して、電子制御装置4に出力するように設けられている。「走行状態に関連する諸量」は、例えば、アクセル操作量、ブレーキ操作量、シフトポジション、操舵角、等の、運転者あるいは運転自動化システム(例えば自動運転システム)による車両Vの運転操作状態に関連する諸量を含む。また、「走行状態に関連する諸量」は、例えば、車速、角速度、前後方向加速度、左右方向加速度、等の、車両Vの挙動に関連する物理量を含む。すなわち、走行状態センサ2は、シフトポジションセンサ、車速センサ、アクセル開度センサ、操舵角センサ、角速度センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ、等の、車両Vの運転制御に必要な周知の各種センサ類を、図示および説明の簡略化のために総称したものである。
【0011】
距離センサ3は、車載通信回線を介して、電子制御装置4と情報あるいは信号を通信可能に接続されている。距離センサ3は、探査波の送信およびその反射波の受信により物標までの距離を検知するように構成されている。具体的には、本実施形態においては、距離センサ3は、
図3に示されているように、検知角ωを変更することで水平走査可能なレーダセンサあるいはレーザレーダセンサとしての構成を有している。「検知角」は、指向中心軸Cの方位を示す角度であって、具体的には所定の基準軸CRと指向中心軸Cとのなす角度である。基準軸CRは、指向中心軸Cの走査可能範囲における中心に相当する仮想直線であって、距離センサ3が車両Vの前面の車幅方向における中心位置に搭載された場合には車両全長方向と平行となる。車両全長方向は、車幅方向と直交し且つ車高方向と直交する方向である。
【0012】
電子制御装置4は、運転支援ECUあるいは自動運転ECUとしての構成を有していて、走行状態センサ2および距離センサ3による検知結果に基づいて警報装置5や車両挙動制御装置6の動作を制御するように設けられている。ECUはElectronic Control Unitの略である。警報装置5および車両挙動制御装置6は、車載通信回線を介して、電子制御装置4と情報あるいは信号を通信可能に接続されている。警報装置5は、車両Vの乗員に各種の情報を音声や表示により通知するように構成されている。車両挙動制御装置6は、車両Vにおける加減速や制動や操舵を制御する挙動制御ECUとしての構成を有している。
【0013】
(路面状態検知装置)
図2は、本実施形態に係る路面状態検知装置10の概略的な機能構成を示す。
図3~
図7は、かかる路面状態検知装置10による路面状態検知動作の概要を示す。
図3~
図7において、(a)および(b)は、車両Vの進行先に下降段差SDが存在する場合の、距離センサ3による下降段差SDの検知の様子を示す、側面図および平面図である。(c)は、(a)および(b)に対応する、受信信号強度の時間経過を示す。(1)と(2)とは、それぞれ、距離センサ3における異なる送受信条件を示す。h
sは距離センサ3の搭載高さを示し、h
tは下降段差SDの高さを示す。以下、
図1~
図3等を参照しつつ、本実施形態に係る路面状態検知装置10の構成について説明する。路面状態検知装置10は、距離センサ3を用いて、車両Vの進行先の路面RSの状態を検知するように構成されている。
【0014】
路面状態検知装置10は、距離センサ3および/または電子制御装置4に設けられたマイクロコンピュータにおける一機能構成として設けられている。具体的には、路面状態検知装置10は、装置構成として、プロセッサ11とメモリ12とを備えている。プロセッサ11は、CPUやMPU等により構成されていて、メモリ12に格納されたプログラムを読み出して実行することで、車載システム1の動作の全体を制御するように構成されている。メモリ12は、ROM、RAM、不揮発性リライタブルメモリ、等の各種の非遷移的実体的記憶媒体のうち、少なくともROMまたは不揮発性リライタブルメモリを備えている。不揮発性リライタブルメモリは、電源投入中は情報を書き換え可能である一方で電源遮断中は情報を書き換え不能に保持する記憶装置であって、例えばフラッシュROM等である。
図2に示されているように、路面状態検知装置10は、本発明に係る路面状態検知プログラムがメモリ12から読み出されプロセッサ11により実行されることによりマイクロコンピュータ上に実現される機能構成として、受信結果取得部111と、無反射区間検知部112と、段差判定部113と、段差算出部114とを備えている。
【0015】
受信結果取得部111は、距離センサ3による路面RSからの反射波の受信結果を取得するようになっている。無反射区間検知部112は、受信結果取得部111によって取得された受信結果に基づいて、無反射区間が存在するか否かを検知するようになっている。「無反射区間」とは、反射波の受信信号強度が閾値未満となる区間である。
【0016】
段差判定部113は、路面RSからの反射波に基づいて、車両Vの進行先における下降段差SDの存在を判定するようになっている。すなわち、段差判定部113は、無反射区間検知部112が無反射区間の存在を検知した場合に、下降段差SDの存否を判定するようになっている。具体的には、段差判定部113は、受信信号強度波形から、下降段差SDにおける進行方向手前側の上部路面SD1からの反射波が観測される路面反射区間と、下降段差SDにおける進行方向奥側の下部路面SD2からの反射波が観測される路面反射区間との間に、無反射区間を検知することで、下降段差SDの存在を判定するようになっている。
【0017】
段差算出部114は、段差判定部113が下降段差SDの存在を判定した場合に、下降段差SDの高さを算出するようになっている。具体的には、段差算出部114は、
図3における(b)および(c)に示されているように、互いに送受信条件が異なる複数条件で無反射区間が増減することに基づき、距離センサ3の搭載高さと、かかる複数条件における、無反射区間、指向角θ、および検知角ωとを用いて、下降段差SDの高さを算出するようになっている。指向角θは、距離センサ3の指向性を示す角度であって、指向中心軸Cを中心とする角度で示される。具体的には、指向角θは、
図3における(b)に示されているように、指向中心軸Cについて軸対称の扇形(図中二点鎖線参照)における中心角の2分の1として示され、より詳細には半値角の2分の1である。半値角は、探査波の強度が最大放射方向すなわち指向中心軸Cの延びる方向から3dB低下する方向の角度範囲である。
【0018】
(動作概要:第一実施形態)
以下、本実施形態に係る路面状態検知装置10の動作概要、ならびに、かかる路面状態検知装置10により実行される路面状態検知方法および路面状態検知プログラムの概要について、これらにより奏される効果とともに、各図面を参照しつつ説明する。以下、本実施形態に係る路面状態検知装置10と、これにより実行される路面状態検知方法および路面状態検知プログラムとを、「本実施形態」と総称する。
【0019】
図3は、検知角ωが指向角θ以上(すなわちω≧θ)の場合を示す。検知角ωの範囲は±90度以内である。
図3における(a)に示されているように、距離センサ3から斜め下方の下降段差SDに向かって探査波を送信すると、受信信号波形において、下降段差SDにおける進行方向手前側の上部路面SD1からの反射波が観測される路面反射区間と、下降段差SDにおける進行方向奥側の下部路面SD2からの反射波が観測される路面反射区間との間に、無反射区間が生じる。具体的には、上部路面SD1からの反射波の観測は、下降段差SDにおける上端反射点SD3からの反射波の受信で終了する。そして、無反射区間の後、下部路面SD2上における反射波が受信可能な最近接の下底反射点SD4からの反射波の受信により、下部路面SD2からの反射波の観測が開始する。そして、基準軸CRと平行な方向において、距離センサ3から上端反射点SD3までの距離をR
uとし、距離センサ3から下底反射点SD4までの距離をR
lとすると、距離差ΔR=R
l-R
u分の無反射区間が発生する。かかる無反射区間をL
nとして表す。すなわち、下記の(1)式が成立する。
【数1】
【0020】
図3における(1)および(2)に示されているように、検知角ωをω
1からω
2に変化させると、無反射区間L
nもL
n1からL
n2に変化する。ここで、上端反射点SD3は、図中二点鎖線で示された指向性における、基準軸CRから最も離隔した位置に生じる。下底反射点SD4は、図中二点鎖線で示された指向性における、基準軸CRに最も近接した位置に生じる。距離センサ3から上端反射点SD3までの実際の距離をR
u’とし、距離センサ3から下底反射点SD4までの実際の距離をR
l’とすると、
【数2】
【数3】
である。
【0021】
検知角ω
1,ω
2において、上記(1)式より、
【数4】
【数5】
である。
【0022】
よって、検知角ωをω
1からω
2に変化させたときの、無反射区間L
nの変化量ΔL
nは、上記(2)式~(5)式より、
【数6】
となる。
【0023】
上記(6)式におけるΔR
u’は、以下の(7)式の通りとなる。ここで、下記(7)式におけるΔR
u’は、反射波の観測結果により求まる。また、上記(7)式における検知角ω
1,ω
2および指向角θは既知である。よって、下記(7)式により、R
uの値が求まる。
【数7】
【0024】
上記(6)式におけるΔR
l’は、以下の(8)式の通りとなる。
【数8】
【0025】
ここで、下記(9)式および(10)式が成立する。
【数9】
【数10】
【0026】
したがって、上記(8)式~(10)式より、下記(11)式が成立する。
【数11】
【0027】
ここで、上記(11)式におけるΔRl’は、反射波の観測結果により求まる。また、上記(11)式における検知角ω1,ω2および指向角θは既知である。さらに、上記(11)式におけるRuは、上記(7)式により既に求まっている。よって、上記(11)式により、下降段差SDの高さhtの値が求まる。このようにして算出した下降段差SDの高さhtは、車両Vの下降段差SDの通過可否判定や、通過不可である場合の減速・停止判定あるいは経路再算出や、乗員に対する警告等、に用いられる。
【0028】
なお、検知角ωを変化させることなく、無反射区間Lnと、距離センサ3の搭載高さhsと、距離センサ3から上端反射点SD3までの距離Ruとに基づいて、ht=Ln・hs/Ruにより下降段差SDの高さhtを算出することも一応可能である。但し、この方法においては、反射波強度が路面RSの材質や形状に影響を受けることによる誤差が生じる。これに対し、本実施形態によれば、異なる検知角ωにおける路面RSからの反射波の受信結果に基づいて下降段差SDの高さhtを算出することで、路面RSの材質や形状の影響による誤差の発生を良好に回避することが可能となる。
【0029】
図4は、検知角ω
1,ω
2のうち、ω
1のみが指向角θ未満である例を示す。検知角ωが指向角θ未満である場合、
図4における(1)に示されているように、上端反射点SD3は、図中二点鎖線で示された指向性における、基準軸CRから最も離隔した位置に生じる。下底反射点SD4は、図中二点鎖線で示された指向性における、基準軸CR上の位置に生じる。ここで、検知角ω
1が指向角θ未満であるものとすると、検知角ω
1については、上記(3)式に代えて、下記(3’)式を用いる。
【数12】
【0030】
また、上記(6)式におけるΔR
l’は、以下の(8’)式の通りとなる。
【数13】
【0031】
したがって、上記(8’)式、上記(9)式、および上記(10)式より、下記(11’)式が成立する。
【数14】
【0032】
ここで、上記(11’)式におけるΔRl’は、反射波の観測結果により求まる。また、上記(11’)式における検知角ω2および指向角θは既知である。さらに、上記(11’)式におけるRuは、上記(7)式により既に求まっている。よって、上記(11’)式により、下降段差SDの高さhtの値が求まる。
【0033】
図5は、検知角ω
1,ω
2の双方が指向角θ未満である例を示す。この場合、R
l’=R
lであるため、上記(6)式におけるΔR
l’は、以下の(8”)式の通りとなる。
【数15】
【0034】
よって、下記(11”)式が成立し、下記(11”)式と、観測されるR
lおよびR
uと、既知の距離センサ3の搭載高さh
sとに基づいて、下降段差SDの高さh
tが算出される。なお、この場合、ΔR
l’ではなくR
lを観測するために路面RSの材質や形状の影響を受けるものの、ΔR
u’を用いているため、小さな検知角ωで精度の向上が期待できる。
【数16】
【0035】
(第二実施形態)
以下、第二実施形態について説明する。なお、以下の第二実施形態の説明においては、主として、上記第一実施形態と異なる部分について説明する。また、第一実施形態と第二実施形態とにおいて、互いに同一または均等である部分には、同一符号が付されている。したがって、以下の第二実施形態の説明において、第一実施形態と同一の符号を有する構成要素に関しては、技術的矛盾または特段の追加説明なき限り、上記第一実施形態における説明が適宜援用され得る。後述の第三実施形態以降についても同様である。
【0036】
本実施形態においては、距離センサ3は、超音波センサであるPMUTアレイとしての構成を有していて、各PMUT素子における送受信に位相を設けることで検知角ωを変更可能に構成されている。PMUTはPiezoelectric Micromechanical Ultrasonic Transducerの略である。かかる構成においても、上記第一実施形態と同様に、検知角ωと指向角θとの大小関係に応じた算出式を用いることで、下降段差SDの高さhtが良好な精度で算出され得る。
【0037】
(第三実施形態)
以下、第三実施形態について説明する。本実施形態においては、距離センサ3は、超音波センサであるPMUTアレイとしての構成を有していて、各PMUT素子における送受信に位相を設けることで指向角θを変更可能に構成されている。すなわち、本実施形態は、互いに異なる指向角θを有する複数条件での送受信結果に基づいて、下降段差SDの高さhtを算出する。
【0038】
図6は、本実施形態による動作概要を示す。本例において、検知角ωは指向角θ未満である。また、指向角θの範囲は±90度以内である。この場合、上記(6)式におけるΔR
u’は、以下の(7’)式の通りとなる。ここで、下記(7’)式におけるΔR
u’は、反射波の観測結果により求まる。また、上記(7’)式における検知角ωおよび指向角θ
1,θ
2は既知である。よって、下記(7)式により、R
uの値が求まる。また、この場合、R
l’=R
lであるため、上記(6)式におけるΔR
l’は、上記(8”)式の通りとなる。よって、上記(11”)式と、観測されるR
lおよびR
uと、既知の距離センサ3の搭載高さh
sとに基づいて、下降段差SDの高さh
tが算出される。なお、この場合、ΔR
l’ではなくR
lを観測するために路面RSの材質や形状の影響を受けるものの、ΔR
u’を用いているため、小さな検知角ωで精度の向上が期待できる。
【数17】
【0039】
(第四実施形態)
以下、第四実施形態について説明する。本実施形態においては、段差算出部114は、異なる2つの地点からの反射波を用いる移動ステレオにより、下降段差SDの高さを算出する。すなわち、本実施形態は、車両Vの走行に伴う距離センサ3の移動中に距離センサ3と下降段差SDとの相対位置関係が変動することを利用して、下降段差SDに対する送受信条件(すなわち検知角ωや指向角θ)を変化させる。距離センサ3は、上記第一実施形態のようなレーダセンサあるいはレーザレーダセンサとしての構成を有していてもよいし、上記第三実施形態のようなPMUTアレイとしての構成を有していてもよい。
【0040】
図7は、本実施形態による動作概要を示す。本例において、検知角ωは指向角θ未満である。また、指向角θの範囲は±90度以内である。この場合、使用する計算式は、上記第三実施形態と同様である。本実施形態によれば、検知角ωや指向角θを距離センサ3側で変更しなくても、車両Vの走行に伴う距離センサ3の移動中に距離センサ3と下降段差SDとの相対位置関係が変動することを利用して、下降段差SDの高さを精度よく算出することが可能である。したがって、検知角ωや指向角θを距離センサ3側で変更する構成を有していなくても、下降段差SDの高さを精度よく算出することが可能となる。
【0041】
(第五実施形態)
以下、第五実施形態について説明する。本実施形態は、検知角ωを変更した場合の補正に関する。すなわち、上記の通り、無反射区間L
nの変化を用いることで、路面RSの材質や形状の影響による算出誤差の発生を良好に回避することが可能となる。一方、検知角ωを変更した場合、実際には、
図3等に示されているように、等距離円上の反射面積、具体的には、
図3(b)等における上端反射点SD3と下底反射点SD4とを通る環状扇形の面積の増減の影響を受ける。但し、その影響は幾何学的に決まるため、補正が可能である。そこで、本実施形態は、検知角ωおよび指向角θから幾何学的に決定される反射面積に基づいて、無反射区間L
nの補正を行う。具体的には、例えば、上記(7)式や上記(7’)式におけるΔR
u’の観測値に、上記の通りの検知角ωおよび指向角θの変動に伴う環状扇形の面積の増減の影響に基づいて作成した補正値マップM_ΔR
u’(ω,θ)から読み出した補正値を乗算することで、ΔR
u’の補正が行われ得る。また、例えば、上記(8)式や上記(8’)式におけるΔR
l’の観測値に補正値マップM_ΔR
l’(ω,θ)から読み出した補正値を乗算することで、ΔR
l’の補正が行われ得る。
【0042】
(変形例)
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。故に、上記実施形態に対しては、適宜変更が可能である。以下、代表的な変形例について説明する。以下の変形例の説明においては、上記実施形態との相違点を主として説明する。また、上記実施形態と変形例とにおいて、互いに同一または均等である部分には、同一の符号が付されている。したがって、以下の変形例の説明において、上記実施形態と同一の符号を有する構成要素に関しては、技術的矛盾または特段の追加説明なき限り、上記実施形態における説明が適宜援用され得る。
【0043】
本発明は、上記実施形態に示された具体的な装置構成に限定されるものではない。例えば、距離センサ3の種類や個数についても、特段の限定はない。
【0044】
上記実施形態にて説明した、各種の動作、手順、あるいは処理を実行可能とする、本発明に係るプログラムは、V2X通信を介して、ダウンロードあるいはアップグレードされ得る。V2XはVehicle to Xの略である。あるいは、かかるプログラムは、車両Vの製造工場、整備工場、販売店、等に設けられた端末機器を介して、ダウンロードあるいはアップグレードされ得る。かかるプログラムの格納先は、メモリーカード、光学ディスク、磁気ディスク、等であってもよい。
【0045】
このように、上記の各機能構成および処理は、コンピュータプログラムにより具体化された一つあるいは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、上記の各機能構成および処理は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、上記の各機能構成および処理は、一つあるいは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移的実体的記憶媒体に記憶されていてもよい。すなわち、上記の各機能構成および処理は、これを実現するための手順を含むコンピュータプログラム、あるいは、当該プログラムを記憶した非遷移的実体的記憶媒体としても表現可能である。
【0046】
したがって、
図2に示された受信結果取得部111、無反射区間検知部112、段差判定部113、および段差算出部114は、あくまで、本発明の内容の理解に資するために便宜的に設定した機能構成ブロックである。したがって、これらの機能構成ブロックが実際にルーチンあるいはハードウェアとして実現されていなくても、本発明所定の機能あるいは処理が実現されていれば、本発明の要件は充足され得る。
【0047】
路面状態検知装置10を構成する、距離センサ3に内蔵された制御ユニットおよび/または電子制御装置4の、全部または一部は、上記のような動作を可能に構成されたデジタル回路、例えばASICあるいはFPGAを備えた構成であってもよい。ASICはApplication Specific Integrated Circuitの略である。FPGAはField Programmable Gate Arrayの略である。すなわち、上記構成において、車載マイクロコンピュータ部分とデジタル回路部分とは併存し得る。
【0048】
本発明は、上記実施形態に示された具体的な動作態様に限定されない。すなわち、例えば、上記各具体例において、検知角ωを変更する場合、2つの検知角ω1,ω2を用いていたが、本発明は、かかる態様に限定されない。すなわち、例えば、3つの検知角ω1,ω2,ω3を用いてもよい。この場合、例えば、検知角ω1,ω2を用いた第一高さht12と、検知角ω1,ω3を用いた第二高さht13と、検知角ω2,ω2を用いた第三高さht23とを統計処理(例えば平均)することで、下降段差SDの高さhtを算出することが可能である。
【0049】
「超える」と「以上」とは互いに置換可能である。同様に、「未満」と「以下」とは互いに置換可能である。「取得」「算出」「検知」「検出」等の互いに類似の概念も、技術的に矛盾あるいは不都合がない限り、互いに置換可能である。
【0050】
上記実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、構成要素の個数、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数値に限定される場合等を除き、その特定の数値に本発明が限定されることはない。同様に、構成要素等の形状、方向、位置関係等が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に特定の形状、方向、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、方向、位置関係等に本発明が限定されることはない。
【0051】
変形例も、上記の例示に限定されない。例えば、複数の実施形態が、技術的に矛盾しない限り、互いに組み合わされ得る。また、複数の変形例が、技術的に矛盾しない限り、互いに組み合わされ得る。さらに、上記実施形態の全部または一部と、変形例の全部または一部とが、技術的に矛盾しない限り、互いに組み合わされ得る。
【符号の説明】
【0052】
3 距離センサ
10 路面状態検知装置
113 段差判定部
114 段差算出部
C 指向中心軸
RS 路面
SD 下降段差
SD2 上部路面
SD3 下部路面
V 車両