(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132743
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】コーヒー成分の分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20230914BHJP
G01N 33/14 20060101ALI20230914BHJP
B01J 20/287 20060101ALI20230914BHJP
G01N 30/74 20060101ALI20230914BHJP
G01N 30/54 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
G01N30/88 C
G01N33/14
B01J20/287
G01N30/74 E
G01N30/54 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038253
(22)【出願日】2022-03-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年1月25日に下記アドレスのウェブサイトで公開 https://www.an.shimadzu.co.jp/aplnotes/lc/an_01-00280-jp.pdf 令和4年2月28日に下記アドレスのウェブサイトで公開 https://www.an.shimadzu.co.jp/aplnotes/lc/an_01-00286-jp.pdf
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(74)【代理人】
【識別番号】100143096
【弁理士】
【氏名又は名称】山岸 忠義
(72)【発明者】
【氏名】岩田 奈津紀
(57)【要約】
【課題】コーヒー成分であるトリゴネリンおよびピロカテコールを短時間で簡便に分析することができる。
【解決手段】コーヒー成分の分析方法であって、コーヒー豆から抽出されたコーヒー成分を含有する試料液を用意する用意工程と、試料液を希釈する希釈工程と、希釈された試料液に対して液体クロマトグラフィーを実施して、コーヒー成分を検出する検出工程とを順に備える。検出工程では、試料液を、ペンタフルオロフェニルプロピル基を有する充填剤が充填されたカラムに通過させ、次いで、通過した試料液中のトリゴネリンおよびピロカテコールを、フォトダイオードアレイ紫外可視吸光度検出器により検出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー豆から抽出されたコーヒー成分を含有する試料液を用意する用意工程と、
前記試料液を希釈する希釈工程と、
前記希釈された試料液に対して液体クロマトグラフィーを実施して、前記コーヒー成分を検出する検出工程とを順に備え、
前記検出工程では、前記試料液を、ペンタフルオロフェニルプロピル基を有する充填剤が充填されたカラムに通過させ、次いで、通過した前記試料液中のトリゴネリンおよびピロカテコールを、フォトダイオードアレイ紫外可視吸光度検出器により検出する、コーヒー成分の分析方法。
【請求項2】
前記フォトダイオードアレイ紫外可視吸光度検出器にて前記コーヒー成分を検出する光の波長が、少なくとも、260nm以上280nm以下の波長、および、315nm以上335nm以下の波長である、請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記カラムの温度が、30℃以下である、請求項1または2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記検出工程において、トリゴネリン、ピロカテコール、クロロゲン酸、カフェインおよびカフェイン酸を一斉に検出する、請求項1~3のいずれか一項に記載の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーヒー成分の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、食料品の機能性成分が研究されている。その中で、コーヒー豆から抽出されるコーヒー成分についても研究され、近年、コーヒー成分であるトリゴネリンおよびピロカテコールが、認知症、糖尿病、がんなどの生活習慣病に対して予防効果または改善効果に関与していると報告されている。同様に、クロロゲン酸も、抗酸化作用を奏し、老化抑制効果があると報告されている。
【0003】
このようなコーヒー成分などの機能性成分の分析方法としては、液体クロマトグラフィーが一般的に採用されている。例えば、特許文献1では、疎水性が大きいクロロゲン酸は逆相クロマトグラフィーで分離し、親水性化合物であるトリゴネリンは、逆相クロマトグラフィーでは保持されないため、順相クロマトグラフィーの1種である親水性相互作用クロマトグラフィーで保持している。また、特許文献2は、イオンペア試薬を用いた逆相クロマトグラフィーによって、トリゴネリンおよびクロロゲン酸の両方を同時に分離している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kana ARAI et al. ANTLYTICAL SCIENCES, August 2015, Volume 3, p. 831-835
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、2種類の液体クロマトグラフィーを別々に実施する必要があるため、時間および手間を要する。特に、親水性相互作用クロマトグラフィーは、分析の安定性、すなわち、保持時間の再現性が劣り、それを改善するために、カラム平衡化の時間を十分に担保する必要がある。特許文献2の方法では、イオンペア試薬を用いるため、固定相(充填剤)をイオンペア試薬で修飾するコンディショニング時間を必要とする。コンディショニング時間は概ね2~3時間ほどであり、分析開始までに時間がかかる。また、分析中に移動相の溶媒比率を変化させて短時間で分析を終了させるグラジエント溶離法との相性が良くないため、移動相の溶媒比率を一定にしたイソクラティック溶離法で分析するため、分析そのものにも時間がかかる。
【0007】
また、上記2つの文献では、重要なピロカテコールの分析については開示されておらず、生活習慣病に効果があるトリゴネリンとピロカテコールとの両方を同時に分析することも開示されていない。
【0008】
したがって、本発明は、コーヒー成分であるトリゴネリンおよびピロカテコールを短時間で簡便に分析できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様の分析方法は、コーヒー成分の分析方法であって、コーヒー豆から抽出されたコーヒー成分を含有する試料液を用意する用意工程と、前記試料液を希釈する希釈工程と、前記希釈された試料液に対して液体クロマトグラフィーを実施して、トリゴネリンおよびピロカテコールを分析する分析工程とを順に備え、前記分析工程では、前記試料液を、ペンタフルオロフェニルプロピル基を有する充填剤が充填されたカラムに通過させ、次いで、通過した試料液をフォトダイオードアレイ紫外可視吸光度検出器により検出する。
【発明の効果】
【0010】
第1の態様の分析方法によれば、コーヒー成分であるトリゴネリンおよびピロカテコールを短時間で簡便に分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、波長270nmの条件で混合標準液を分析した実施例1および比較例1のクロマトグラムであり、縦軸はピーク強度、横軸は保持時間を示し、クロマトグラムの上段は比較例1(C18固定相を使用)の結果、下段は実施例1(PFPP固定相を使用)の結果を示す。
【
図2】
図2は、波長325nmの条件で混合標準液を分析したクロマトグラムである。
【
図3】
図3は、トリゴネリンおよびピロカテコールの検量線である。
【
図4】
図4は、波長270nmの条件でコーヒーおよび混合標準液を分析した実施例2のクロマトグラムであり、縦軸はピーク強度、横軸は保持時間を示し、クロマトグラムの上段はコーヒーの結果、下段は標準液の結果を示す。
【
図5】
図5は、波長325nmの条件でコーヒーおよび混合標準液を分析した実施例2のクロマトグラムである。
【
図6】コーヒーの各ピークにおける分離液および個別標準液のUVスペクトルであり、実線がコーヒーの結果、破線が個別標準液の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.第1の実施形態
本発明の第1の実施形態の分析方法は、用意工程、希釈工程および検出工程を順に備える。以下、各工程を詳述する。
【0013】
(用意工程)
本工程では、コーヒー成分を含有する試料液を用意する。
【0014】
コーヒー成分は、コーヒー豆から抽出される成分であって、コーヒー豆を高温(例えば150℃から250℃)で焙煎し、粉砕して、その粉砕物を水または熱湯に接触させることにより、コーヒー豆から溶出される。このようなコーヒー成分としては、具体的には、トリゴネリン、ピロカテコール、クロロゲン酸、カフェイン、カフェイン酸などが挙げられる。これら以外に、コーヒー豆に付着した夾雑物なども試料液に含有される。
【0015】
第1の実施形態では、コーヒー成分として、生活習慣病の予防または改善効果が期待されるトリゴネリンおよびピロカテコールの両方を同時に分析する。好ましくは、老化防止効果が期待されるクロロゲン酸も同時に分析する。すなわち、トリゴネリン、ピロカテコールおよびクロロゲン酸の3種を一斉に分析する。より好ましくは、コーヒー成分の主要成分であるトリゴネリン、ピロカテコール、クロロゲン酸、カフェインおよびカフェイン酸の5種を一斉に分析する。
【0016】
(希釈工程)
本工程では、用意工程で得た試料液を希釈する。これにより、希釈された試料液(希釈試料液)が調製される。
【0017】
希釈するための溶媒は、水、有機溶媒などが挙げられるが、好ましくは、水が挙げられる。
【0018】
希釈濃度は、抽出されるコーヒー成分濃度に応じて適宜決定すればよい。一般的な抽出により得られるコーヒーを分析する場合は、当該コーヒーを、例えば、2倍以上、好ましくは、5倍以上、また、例えば、100倍以下、好ましくは、50倍以下となるように希釈すればよい。これにより、カラムなどの装置の汚染を抑制しつつ、コーヒー成分を高感度で検出することができる。
【0019】
(検出工程)
本工程では、希釈された試料液に対して液体クロマトグラフィーを実施する。これにより、コーヒー成分が分離検出される。
【0020】
液体クロマトグラフィーでは、試料液を溶離液(移動相)と混合し、カラムに通過させることにより、試料液中の成分を時間ごとに分離させる。液体クロマトグラフィーに用いる装置としては、公知の液体クロマトグラフ装置分析計を用いればよく、例えば、島津製作所社製のNexeraシリーズなどが市販されている。
【0021】
溶離液としては、例えば、有機溶媒、水などが挙げられる。有機溶媒としては、例えば、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、クロロホルム、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これら有機溶媒は、1種単独で使用または2種類以上を併用することができる。好ましくは、アセトニトリルが挙げられる。これにより、コーヒー成分を確実に検出することができる。
【0022】
また、第1の実施形態では、好ましくは、グラジエント溶離法を採用する。すなわち、移動相の有機溶媒の濃度を分析開始初期から徐々に増やしていく。有機溶媒の濃度の調整には、リン酸緩衝液などの緩衝液を用いればよい。これにより、各成分のピーク分離を良好にしつつ、分析完了時間を短縮することができる。
【0023】
液体クロマトグラフに装備されるカラムは、ペンタフルオロフェニルプロピル基を有する充填剤が充填されている。すなわち、試料液に対して、ペンタフルオロフェニルプロピル基(ペンタフルオロフェニル基)を有する充填剤を充填したカラムを通過させるようにする。このような充填剤は、例えば、シリカゲルにペンタフルオロフェニルプロピル基を化学結合させることにより得られる。具体的には、島津製作所社のShim Pack Scepter PFPP(登録商標)、GLサイエンス社のInertSustain PFPなどが挙げられる。第1の実施形態では、カラムの充填剤(固定相)がペンタフルオロフェニルプロピル基を有し、移動相として使用した、酸性緩衝液と有機溶媒の混合溶液に比べ、ペンタフルオロフェニルプロピル基の疎水性が高く、逆相クロマトグラフィーの分離挙動を示す。カフェインは、疎水性相互作用に加え、π-π相互作用やCH/π相互作用が働くとされており、C18固定相より保持が大きくなる。ピロカテコールやクロロゲン酸、カフェイン酸は、移動相に比べ疎水性が大きいが、ペンタフルオロフェニルプロピル基も疎水性が大きいため、両者間に疎水性同士の親和による相互作用が働く。なお、ピロカテコールは、カテコール骨格を持つクロロゲン酸やカフェイン酸より疎水性は小さく、この3成分の間で比較すると保持が小さい。その一方、親水性が高いトリゴネリンに対しては、ペンタフルオロフェニルプロピル基は、大きく分極しており、トリゴネリンも、正電荷を持つピリジン環状構造である電子供与性化合物であって分極しているため、極性分子同士のクーロン力による相互作用が働くためと推測される。なお、第1の実施形態は、上記メカニズムに限定されない。
【0024】
カラム温度は、例えば、50℃以下、好ましくは、30℃以下、より好ましくは、28℃以下であり、また、例えば、5℃以上、好ましくは、10℃以上である。カラムを上記上限以下とすることにより、ピーク分離が良好となる。特に30℃以下とすることにより、夾雑物のピークとトリゴネリンのピークとの分離が明確になり、トリゴネリンの定量分析をより正確にすることができる。
【0025】
検出器としては、フォトダイオードアレイ(半導体素子)紫外可視吸光度検出器(以下、「フォトダイオードアレイ検出器」と略する。)を用いる。すなわち、カラムを通過してきた試料液(換言すると、試料液中のコーヒー成分が時間ごとに分離して流れてくる分離液)、をフォトダイオードアレイ検出器により検出する。具体的には、所定の光(例えば、タングステンランプ光とD2ランプ光との混合光)をフローセル中の試料液に照射し、その透過光を回折格子で分光して、フォトダイオードアレイ検出器にて波長ごとの光を検知する。そして、検知した光を解析またはデータ処理することにより、光の強度(特に、分離液の吸光度)を保持時間に従って示したグラフが、クロマトグラムとして、出力される。このクロマトグラムは、フォトダイオードアレイ検出器で任意に設定した複数の波長ごとに得られる。また、特定の保持時間における分離液に対するUVスペクトル(吸収スペクトなど)を得られるため、分離されたコーヒー成分ごとに、それぞれ、UVスペクトルを得られる。すなわち、フォトダイオードアレイ検出器を用いることにより、複数の波長ごとのクロマトグラムが得られるとともに、分離されるコーヒー成分ごとのUVスペクトルも得られる。
【0026】
検出する波長は、好ましくは、複数であり、例えば、260nm以上280nm以下の波長(以下、第1波長とする)、および、315nm以上335nm以下である波長(以下、第2波長とする)が挙げられる。特に、第1波長では、トリゴネリン、ピロカテコール、クロロゲン酸、カフェインおよびカフェイン酸の全てが、第1波長の光を吸収するため、分光分析が可能である。また、第2波長では、特に、クロロゲン酸およびカフェイン酸が、第2波長の光を強く吸収するため、これら2成分の検出精度を向上させることができる。
【0027】
本工程により得られるクロマトグラムにおいて、特に、第1波長で検出したクロマトグラムにおいて、トリゴネリン、ピロカテコール、クロロゲン酸、カフェインおよびカフェイン酸のそれぞれに対応するピークが、異なる保持時間域で確認される。特に、保持時間が3分以上15分以下の間に、上記5成分のピークが確認される。
【0028】
これにより、試料液中のコーヒー成分を一斉に分析することができる。具体的には、トリゴネリンおよびピロカテコールを一斉に分析でき、好ましくは、トリゴネリン、ピロカテコールおよびクロロゲン酸の3種類を一斉に分析でき、最も好ましくは、トリゴネリン、ピロカテコール、クロロゲン酸、カフェインおよびカフェイン酸の5種類を一斉に分析できる。
【0029】
なお、第1の実施形態では、検量線の作成により、上記コーヒー成分の定量分析が可能となる。具体的には、各コーヒー成分それぞれにおいて、複数の既知濃度の標準液を用意して、上記検出工程を実施して、当該複数濃度のクロマトグラムを得ることにより、成分ごとの検量線(ピーク強度と既知濃度との関係をプロットしたグラフ)を作成する。この検量線に、濃度が未知である試料液におけるコーヒー成分のピーク強度を対応させて、当該コーヒー成分の濃度を決定することができる。第1の実施形態では、検量線のグラフの直線性が非常に良好であるため、優れた精度でコーヒー成分の濃度を測定することができる。
【0030】
また、第1の実施形態では、UVスペクトルなどの吸収スペクトルの出力により、上記コーヒー成分の同定が可能となる。具体的には、クロマトグラムの特定のピークに対してUVスペクトルを取得し、当該UVスペクトルと、既知のコーヒー成分のUVスペクトルとを対比する。これにより、クロマトグラムの特定のピークが、目的のコーヒー成分によるピークであるかどうかを確実に判断することができる。これは、試料液が多種の夾雑物を含有し、クロマトグラムに多種の夾雑物のピークが検出された場合に、目的のコーヒー成分を正確に判別することができるため、有効である。
【0031】
第1の実施形態の分析方法によれば、試料液から、コーヒー成分を分析、特に、トリゴネリン、ピロカテコール、クロロゲン酸、カフェインおよびカフェイン酸を一斉に分離検出および定量することができる。また、一つのカラムを用いて、1回の液体クロマトグラフィーでコーヒー成分を一斉に分析できるため、簡便である。また、イオンペア試薬などを用いる必要が無く、多くのコンディショニング時間を必要としないため、短時間で分析することができる。また、イオンペア試薬による固定相の変性がないため、カラムの再利用が可能である。また、得られるクロマトグラムにおける保持時間およびピーク面積の再現性が良好であるため、分析精度が良好である。また、直線性が高く、ばらつきが少ない検量線を作成することができるため、コーヒー成分の濃度を正確に測定することができる。また、夾雑物のピークとコーヒー成分のピークとを分離して検出することができるため、かつ、UVスペクトルによる同定が可能なため、より正確にコーヒー成分を判別して、定量することができる。
【0032】
2.態様
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0033】
(第1項)一態様に係るコーヒー成分の分析方法は、コーヒー豆から抽出されたコーヒー成分を含有する試料液を用意する用意工程と、前記試料液を希釈する希釈工程と、前記希釈された試料液に対して液体クロマトグラフィーを実施して、前記コーヒー成分を検出する検出工程とを順に備え、前記検出工程では、前記試料液を、ペンタフルオロフェニルプロピル基を有する充填剤が充填されたカラムに通過させ、次いで、通過した前記試料液中のトリゴネリンおよびピロカテコールを、フォトダイオードアレイ紫外可視吸光度検出器により検出してもよい。
【0034】
(第2項)第1項の記載の分析方法において、前記フォトダイオードアレイ紫外可視吸光度検出器にて前記コーヒー成分を検出する光の波長が、少なくとも、260nm以上280nm以下の波長、および、315nm以上335nm以下の波長であってもよい。
【0035】
(第3項)第1項または第2項の記載の分析方法において、前記カラムの温度が、30℃以下であってもよい。
【0036】
(第4項)第1項~第3項のいずれか一項の記載の分析方法において、前記検出工程において、トリゴネリン、ピロカテコール、クロロゲン酸、カフェインおよびカフェイン酸を一斉に検出してもよい。
【実施例0037】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらによって限定されない。
【0038】
<実施例1>
(混合標準液の分析)
トリゴネリン、ピロカテコール、クロロゲン酸、カフェインおよびカフェイン酸をそれぞれ10mg/L含有した混合標準液を用意し、下記の条件で、液体クロマトグラフィーを実施した。なお、カラムには、ペンタフルオロフェニルプロピル基(PFPP)を有する充填剤が充填されており、検出器には、フォトダイオードアレイ検出器を用いた。この結果について、検出波長270nmでのクロマトグラムを
図1に示し、検出波長325nmでのクロマトグラムを
図2に示す。
【0039】
装置名:Nexera lite(超高速液体クロマトグラフ、島津製作所製)
カラム:Shim-pack Scepter PFPP-120 (150 mm×4.6 mm I.D., 3μm)
流速:1.0mL/min
移動相:A) 20mmol/L (Sodium) phosphate buffer (pH 2.6)
B) Acetonitrile
グラジエント溶離法、0%B (0.00-1.00 min)、10%B (4.00 min)、20%B (10.00-12.00 min)、70%B (12.01-13.00 min)、0%B (13.01-18.00 min)
ミキサー:180μL
カラム温度:25℃
注入量:5μL
検出器:フォトダイオードアレイ(PDA)紫外可視吸光度検出器(「SPD-M40」、島津製作所製)
検出波長:270nm、325nm
【0040】
図1~
図2において、5つのピークが確認されたことから、コーヒー成分である5成分(トリゴネリン、ピロカテコール、クロロゲン酸、カフェインおよびカフェイン酸)を分離検出することができた。また、各ピークが全て、液体クロマトグラフ装置が推奨する保持最適時間である3分以上を満たしていることから、5成分をカラムで適切に保持および分離できていることが分かった。また、5成分の保持時間が、13.5分以内であったため、短時間で分析が完了できていることが分かった。
【0041】
なお、コーヒー成分をそれぞれ1成分のみを含有する個別標準液も調製して、上記液体クロマトグラフィーを実施して、各成分とそのピークとを対応させることにより、「1」のピークがトリゴネリン、「2」のピークがピロカテコール、「3」のピークがクロロゲン酸、「4」のピークがカフェイン、「5」のピークがカフェイン酸に由来することを確認した。
【0042】
<比較例1>
カラムを、C18固定相が充填されたカラム(Shim-pack Scepter C18-120(150 mm×4.6 mm I.D., 3μm))に変更した以外は、実施例1と同様にした。この結果について、検出波長270nmでのクロマトグラムを
図1に示し、検出波長325nmでのクロマトグラムを
図2に示す。
【0043】
比較例1では、「1」のピーク、すなわち、トリゴネリンを示すピークが、保持時間2.1分の箇所に検出されており、これは、保持最適時間3分以上を満たしていないため、不適であった。
【0044】
(保持時間の再現性)
5成分をそれぞれ1mg/L含有する混合標準溶液を用意し、上記と同様の分析を6回繰り返した。このとき、各ピークの保持時間およびピーク面積の相対標準偏差(RSD)を計算した。その結果を下記表1に示す。
【0045】
【0046】
保持時間については、5成分ともに標準偏差が0.1%未満であり、ピーク面積については、5成分ともに標準偏差が0.7%未満であった。これらから、保持時間およびピーク面積ともに、ばらつきが非常に低く、再現性に優れていることが分かった。
【0047】
(検量線の作成)
5成分のそれぞれについて、濃度の異なる個別標準液を調製して、上記と同様の分析を実施して、検量線を作成した。このときの、検量線濃度範囲および寄与率を下記表2に示す。また、トリゴネリンおよびピロカテコールの検量線を
図3に示す。
【0048】
【0049】
表2および
図3において、5成分ともに、寄与率が0.9999%以上であり、優れた直線性が得られたことから、検量線として有効に使用できることが分かった。
【0050】
<実施例2>
(コーヒーの分析)
市販のコーヒー挽き豆10gを150mLの熱湯で抽出した抽出液を、0.2μmのメンブランフィルターでろ過した。その後、超純水で10倍希釈して、試料液を調製した。この試料液を用いて、実施例1と同様の分析条件で、液体クロマトグラフィーを実施した。 この結果について、検出波長270nmでのクロマトグラム(実線)を
図4に示す。検出波長325nmでのクロマトグラム(実線)を
図5に示す。また、「1」~「4」のピークについて、200nm~400nmでのUVスペクトルを測定した。この結果を
図6に示す。また、上記検量線に基づいて各成分の濃度を決定した。試料液の分析および濃度決定を6回繰り返し、その相対標準偏差を計算した。この結果を下記表3に示す。
【0051】
【0052】
(標準液の分析)
トリゴネリン20mg/L、ピロカテコール2mg/L、クロロゲン酸20mg/L、カフェイン20mg/Lおよびカフェイン酸2mg/Lを含有した混合標準液を用意し、実施例1と同様の分析条件で、液体クロマトグラフィーを実施した。この混合標準液でのクロマトグラム(破線)を
図4および
図5に示す。また、トリゴネリン、ピロカテコール、クロロゲン酸およびカフェインの個別標準液に対して200nm~400nmでのUVスペクトルを測定した。この結果を
図6に示す。
【0053】
(考察)
図4および
図5から、コーヒー豆から抽出したコーヒー成分のクロマトグラムにおいても、「1」~「4」のピークが確認されていた。また、
図6から、各個別標準液のスペクトルと、「1」~「4」のピークのUVスペクトルとが完全に一致していた。これらから、「1」~「4」のピークが、それぞれ、トリゴネリン、ピロカテコール、クロロゲン酸およびカフェインに対応し、これらの成分がコーヒーに含まれていることが分かった。なお、カフェイン酸に該当するピークは確認されなかったので、このコーヒーには含有されていないと判断することができる。また、定量性についても、標準偏差が小さく、優れていた。また、
図4において、「1」のピークの手前に、小さいピーク(矢印参照)が検出されているが、これは夾雑物に由来するものであり、本発明の分析方法では、夾雑物を分離できていることが分かった。
【0054】
<実施例3>
焙煎時間の異なるコーヒーを用意し、実施例1と同様に、上記液体クロマトグラフィーを実施した。この際、カラム温度を25℃、30℃、35℃に変更して、それぞれ実施した。これらの結果、25℃では、トリゴネリンのピークと、その直前にある夾雑物のピークとが明確に分離していることが確認された。30℃では、トリゴネリンのピークと夾雑物のピークとが近接して、両ピークの裾がごくわずかに重複していた。35℃では、両ピークが重複していた。