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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132782
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】建物における浸水防止構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/14 20060101AFI20230914BHJP
   E04F 11/18 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
E04H9/14 Z
E04F11/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038309
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】504093467
【氏名又は名称】トヨタホーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100161230
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 雅博
(72)【発明者】
【氏名】小山 徹
【テーマコード(参考)】
2E139
2E301
【Fターム(参考)】
2E139AA08
2E139AC19
2E301GG00
2E301HH03
2E301HH05
(57)【要約】
【課題】建物の出入口から土間空間に水が入り込んだ場合に、その水が床上空間側へ浸入するのを迅速に防止することができる建物における浸水防止構造を提供する。
【解決手段】建物10において玄関土間空間15と玄関ホール16との境界部25付近の壁際には、上下方向に延びる縦手摺棒31が設けられている。縦手摺棒31は、上側支持部33及び下側支持部により周方向に回転可能に支持されている。縦手摺棒31には、浸水防止シート41が巻き付けられている。浸水防止シート41は、縦手摺棒31の回転により、縦手摺棒31から上記境界部25に沿って引き出されることにより展開状態とされる。展開状態では、浸水防止シート41が玄関ホール16の床面16aよりも上方に延びる状態で上記境界部25に沿って配置される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物出入口と連続し、床面が土間床により形成されている土間空間と、
前記土間空間と連続し、床面が前記土間床よりも高い位置にある床上空間とを備える建物に適用され、
前記土間空間と前記床上空間との境界部付近の壁際に配置された、又は前記境界部に形成された床段差部に重ねて配置された板状又はシート状の浸水防止手段を備え、
前記浸水防止手段は、前記土間空間側から前記床上空間側への浸水を防止すべく、前記床上空間の床面よりも上方に延びた状態で前記境界部に沿って配置される浸水防止状態に移行可能となっている、建物における浸水防水構造。
【請求項2】
前記境界部付近の壁際には、上下方向に延びる棒状部材が設けられており、
前記浸水防止手段は、前記棒状部材に巻き付けられた浸水防止シートであり、
前記棒状部材は、周方向に回転可能とされており、
前記浸水防止シートは、前記棒状部材の回転により前記棒状部材から前記境界部に沿って引き出されることで前記浸水防止状態に移行する、請求項1に記載の建物における浸水防止構造。
【請求項3】
前記棒状部材は、手摺として用いられる縦手摺棒であり、
前記縦手摺棒を前記回転可能に支持する支持手段と、
前記縦手摺棒の前記回転を規制する回転規制手段と、
前記回転規制手段による回転規制を解除可能な解除手段と、
を備える、請求項2に記載の建物における浸水防止構造。
【請求項4】
前記回転規制手段は、前記縦手摺棒の中間部に配置され、前記境界部付近の壁に取り付けられた回転規制部材であり、
前記回転規制部材は、前記縦手摺棒に当接することにより当該縦手摺棒の回転を規制するものであり、
前記解除手段は、前記回転規制部材を前記壁から取り外し可能とする取り外し手段又は前記回転規制部材を前記縦手摺棒から離間する位置へ移動可能とする移動手段であり、
前記浸水防止シートは、前記縦手摺棒における前記回転規制部材よりも下側の部分に巻き付けられている、請求項3に記載の建物における浸水防止構造。
【請求項5】
前記浸水防止手段は、床面上に立設された壁状のパネル体を複数有して構成された浸水防止装置であり、
前記浸水防止装置は、前記複数のパネル体が重ねられた状態で前記境界部付近の壁際に配置されており、
前記複数のパネル体において互いに重なり合うパネル体同士は、幅方向に相対移動可能に連結されており、
前記パネル体同士の前記相対移動により前記複数のパネル体が前記幅方向に展開されて前記境界部に沿って配置されることで、前記浸水防止装置が前記浸水防止状態に移行する、請求項1に記載の建物における浸水防止構造。
【請求項6】
前記境界部付近の壁際にはベンチが設置されており、
前記ベンチは、ユーザが座る座板と、前記座板を下方から支持する支持脚とを有し、
前記浸水防止装置は、前記複数のパネル体が互いに重ねられた状態で前記座板の下方空間に収容されている、請求項5に記載の建物における浸水防止構造。
【請求項7】
前記支持脚は板状をなし、その横幅方向を前記境界部の延びる方向に向けて配置された支持板であり、
前記浸水防止装置は、前記複数のパネル体が前記支持板と重なる状態で前記下方空間に収容されており、
前記複数のパネル体が前記下方空間から引き出され前記幅方向に展開されることで、前記浸水防止装置が前記浸水防止状態に移行するようになっており、
前記浸水防止状態においては前記複数のパネル体と前記支持板とが前記境界部に沿って連なって配置される、請求項6に記載の建物における浸水防止構造。
【請求項8】
前記床段差部には、前記境界部に沿って延びる框部が設けられ、
前記浸水防止手段は、前記框部の長手方向に延び、前記框部の前面に重ねて配置された浸水防止板であり、
前記浸水防止板は、前記框部の前面から上方に移動可能となっており、その上方への移動により前記浸水防止状態に移行する、請求項1に記載の建物における浸水防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物における浸水防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、集中豪雨に伴う河川の決壊等により建物への浸水がたびたび生じている。例えば特許文献1には、こうした建物内への浸水を防止するための技術が提案されている。特許文献1の技術では、建物に設けられた玄関口等の出入口を浸水防止用のシート材により屋外側から覆うことにより、出入口を通じた建物内への浸水防止を図るようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-123900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の技術を採用しても、屋外における水害状況等によっては、出入口から水が建物内に入る場合が想定される。ここで、例えば、建物の玄関口から水が玄関土間に入り込んだ場合、その水は玄関土間から、玄関ホールや居室等の床上空間側に浸入するおそれがある。こうした床上空間側への浸水は比較的短時間に進むことが想定され、その場合、大規模な床上浸水を招くおそれがある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、建物の出入口から土間空間に水が入り込んだ場合に、その水が床上空間側へ浸入するのを迅速に防止することができる建物における浸水防止構造を提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく、第1の発明の建物における浸水防止構造は、建物出入口と連続し、床面が土間床により形成されている土間空間と、前記土間空間と連続し、床面が前記土間床よりも高い位置にある床上空間とを備える建物に適用され、前記土間空間と前記床上空間との境界部付近の壁際に配置された、又は前記境界部に形成された床段差部に重ねて配置された板状又はシート状の浸水防止手段を備え、前記浸水防止手段は、前記土間空間側から前記床上空間側への浸水を防止すべく、前記床上空間の床面よりも上方に延びた状態で前記境界部に沿って配置される浸水防止状態に移行可能となっている。
【0007】
第1の発明によれば、板状又はシート状の浸水防止手段が、土間空間と床上空間との境界部付近の壁際に配置されているか、又は当該境界部に形成された床段差部に重ねて配置されている。この場合、浸水防止手段を、土間空間と床上空間との境界部付近にてユーザの移動の邪魔にならないよう配置することができる。また、浸水防止手段は、床上空間の床面よりも上方に延びた状態で上記境界部に沿って配置される浸水防止状態に移行可能となっている。そして、その移行された浸水防止手段により土間空間側から床上空間側への浸水が防止されるようになっている。これにより、建物開口部を通じて土間空間に水が入り込んだ場合に、その水が床上空間側へ浸入するのを迅速に防止することができる。
【0008】
第2の発明の建物における浸水防止構造は、第1の発明において、前記境界部付近の壁際には、上下方向に延びる棒状部材が設けられており、前記浸水防止手段は、前記棒状部材に巻き付けられた浸水防止シートであり、前記棒状部材は、周方向に回転可能とされており、前記浸水防止シートは、前記棒状部材の回転により前記棒状部材から前記境界部に沿って引き出されることで前記浸水防止状態に移行する。
【0009】
第2の発明によれば、浸水防止シートが壁際に設けられた棒状部材に巻き付けられている。棒状部材は回転可能とされ、その回転により浸水防止シートを棒状部材から引き出し浸水防止状態に移行可能となっている。この場合、浸水防止シートを速やかに浸水防止状態に移行できるため、床上空間側への浸水防止を迅速に図ることができる。
【0010】
第3の発明の建物における浸水防止構造は、第2の発明において、前記棒状部材は、手摺として用いられる縦手摺棒であり、前記縦手摺棒を前記回転可能に支持する支持手段と、前記縦手摺棒の前記回転を規制する回転規制手段と、前記回転規制手段による回転規制を解除可能な解除手段と、を備える。
【0011】
第3の発明によれば、壁際に設けられた縦手摺棒に浸水防止シートが巻き付けられている。縦手摺棒は支持手段により回転可能に支持されている一方、その回転が回転規制手段により規制されている。これにより、通常時には縦手摺棒の回転を規制することで、縦手摺棒を手摺として好適に用いることができる。また、水害発生時には、解除手段により縦手摺棒の回転規制を解除することにより、浸水防止シートを縦手摺棒から引き出して浸水防止状態に移行させることができる。これにより、手摺としての縦手摺棒を上手く用いながら、浸水防止シートによる浸水防止を好適に図ることができる。
【0012】
第4の発明の建物における浸水防止構造は、第3の発明において、前記回転規制手段は、前記縦手摺棒の中間部に配置され、前記境界部付近の壁に取り付けられた回転規制部材であり、前記回転規制部材は、前記縦手摺棒に当接することにより当該縦手摺棒の回転を規制するものであり、前記解除手段は、前記回転規制部材を前記壁から取り外し可能とする取り外し手段又は前記回転規制部材を前記縦手摺棒から離間する位置へ移動可能とする移動手段であり、前記浸水防止シートは、前記縦手摺棒における前記回転規制部材よりも下側の部分に巻き付けられている。
【0013】
第4の発明によれば、縦手摺棒の中間部に回転規制部材が配置され、その回転規制部材が壁に取り付けられている。回転規制部材は、縦手摺棒に当接することにより縦手摺棒の回転を規制するものとなっている。また、回転規制部材は、壁から取り外し可能又は縦手摺棒から離間する位置へ移動可能となっており、その取り外し又は移動により、縦手摺棒の回転規制を解除できるようになっている。この場合、縦手摺棒の回転規制の解除の仕方がわかりやすく、浸水防止シートを浸水防止状態に速やかに移行する上で好適な構成であるといえる。
【0014】
また、浸水防止シートは、縦手摺棒における回転規制部材よりも下側の部分に巻き付けられている。縦手摺棒において床面に近い下側部分は、手摺として使用する際にはそれほど使用されない部分と考えられる。そのため、かかる構成によれば、手摺としての使い勝手が損なわれるのを抑制しながら、縦手摺棒を浸水防止シートの巻き付けに利用することができる。また、回転規制部材が縦手摺棒の中間部に配置されていることで、縦手摺棒における回転規制部材よりも上側の部分、すなわち縦手摺棒を手摺として使用する際に握る部分をわかりやすくすることができ、その点においても好適な構成であるといえる。
【0015】
第5の発明の建物における浸水防止構造は、第1の発明において、前記浸水防止手段は、床面上に立設された壁状のパネル体を複数有して構成された浸水防止装置であり、前記浸水防止装置は、前記複数のパネル体が重ねられた状態で前記境界部付近の壁際に配置されており、前記複数のパネル体において互いに重なり合うパネル体同士は、幅方向に相対移動可能に連結されており、前記パネル体同士の前記相対移動により前記複数のパネル体が前記幅方向に展開されて前記境界部に沿って配置されることで、前記浸水防止装置が前記浸水防止状態に移行する。
【0016】
第5の発明によれば、壁状のパネル体を複数有してなる浸水防止装置を備え、その浸水防止装置は、複数のパネル体が互いに重ねられた状態で土間空間と床上空間との境界部付近に配置されている。これにより、複数のパネル体を有する浸水防止装置をコンパクトな状態でユーザの移動の邪魔にならないよう配置することができる。
【0017】
また、互いに重なり合うパネル体同士は幅方向に相対移動可能に連結されているため、一のパネル体を幅方向に引っ張ると、それに追従して他のパネル体が幅方向に引っ張られる。これにより、各パネル体を容易に幅方向に展開して、土間空間と床上空間との境界部に沿って配置でき、それにより、浸水防止装置を速やかに浸水防止状態に移行することができる。
【0018】
第6の発明の建物における浸水防止構造は、第5の発明において、前記境界部付近の壁際にはベンチが設置されており、前記ベンチは、ユーザが座る座板と、前記座板を下方から支持する支持脚とを有し、前記浸水防止装置は、前記複数のパネル体が互いに重ねられた状態で前記座板の下方空間に収容されている。
【0019】
土間空間と床上空間との境界部付近の壁際には、高齢者等が座って靴を履いたり脱いだりできるよう、ベンチが設置されている場合がある。そこで、第6の発明では、このベンチが有する座板の下方空間に浸水防止装置を収容している。この場合、既設のベンチを利用して浸水防止装置を目立ちにくい状態で配置することが可能となる。
【0020】
第7の発明の建物における浸水防止構造は、第5又は第6の発明において、前記支持脚は板状をなし、その横幅方向を前記境界部の延びる方向に向けて配置された支持板であり、前記浸水防止装置は、前記複数のパネル体が前記支持板と重なる状態で前記下方空間に収容されており、前記複数のパネル体が前記下方空間から引き出され前記幅方向に展開されることで、前記浸水防止装置が前記浸水防止状態に移行するようになっており、前記浸水防止状態においては前記複数のパネル体と前記支持板とが前記境界部に沿って連なって配置される。
【0021】
第7の発明によれば、複数のパネル体がベンチの支持板と重なる状態で、浸水防止装置が座板の下方空間に収容される。また、複数のパネル体が座板の下方空間から引き出され展開されることで、浸水防止装置が浸水防止状態に移行する。そして、浸水防止状態では、複数のパネル体と支持板とが境界部に沿って連なって配置される。この場合、ベンチの支持板を用いて、支持板と各パネル体とによる連続した浸水防止構造を構築することができる。
【0022】
第8の発明の建物における浸水防止構造は、第1の発明において、前記床段差部には、前記境界部に沿って延びる框部が設けられ、前記浸水防止手段は、前記框部の長手方向に延び、前記框部の前面に重ねて配置された浸水防止板であり、前記浸水防止板は、前記框部の前面から上方に移動可能となっており、その上方への移動により前記浸水防止状態に移行する。
【0023】
第8の発明によれば、框部の前面に重ねて配置された浸水防止板を上方へ移動させることにより浸水防止状態に移行することができる。この場合、浸水防止板を速やかに浸水防止状態に移行できるため、床上空間側への浸水防止を迅速に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1の実施形態における玄関周辺を示す平面図であり、(a)が浸水防止シートを展開しない状態で示しており、(b)が浸水防止シートを展開した状態で示している。
図2図1(a)のA-A線断面図。
図3】(a)が図2のB-B線断面図であり、(b)が図2のC-C線断面図である。
図4図1(b)のD-D線断面図。
図5】第2の実施形態における浸水防止装置が設けられた玄関を示す斜視図であり、(a)は浸水防止装置が玄関ベンチのベンチ下空間に収容された状態を示し、(b)は浸水防止装置が展開された状態を示している。
図6】玄関ベンチのベンチ下空間に浸水防止装置が収容された状態を示す正面図。
図7】(a)が浸水防止装置を構成するパネル体を示す正面図であり、(b)がパネル体を示す背面図である。
図8】(a)が浸水防止装置が展開された状態を示す正面図であり、(b)が(a)のE-E線断面図であり、(c)が(a)のF-F線断面図である。
図9】第3の実施形態における玄関框に設けられた浸水防止板を示す斜視図であり、(a)が浸水防止板が下位置にある場合を示し、(b)が浸水防止板が上位置にある場合を示している。
図10】他の実施形態における玄関框に設けられた浸水防止板を示す斜視図であり、(a)が浸水防止板が下位置にある場合を示し、(b)が浸水防止板が上位置にある場合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
〔第1の実施形態〕
以下に、本発明を具体化した一実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、図1は玄関周辺を示す平面図であり、(a)が浸水防止シートを展開しない状態で示しており、(b)が浸水防止シートを展開した状態で示している。
【0026】
図1(a)示すように、住宅等の建物10には玄関11が設けられ、その玄関11には玄関口12が設けられている。玄関口12は屋外と玄関11とを連通しており、この玄関口12を通じて屋外から玄関11への出入りが可能となっている。また、玄関口12には玄関ドア13が設けられ、その玄関ドア13により玄関口12が開閉される。なお、玄関口12が建物開口部に相当する。
【0027】
玄関11は、玄関口12と連続する玄関土間空間15と、玄関土間空間15と連続する玄関ホール16とを有している。玄関土間空間15は、その床面15aが土間床17により形成されている。また、玄関ホール16は、玄関土間空間15を挟んで玄関口12とは反対側に位置している。玄関ホール16の床面16aは、玄関土間空間15の床面15aよりも高い位置にある。なお、玄関土間空間15が土間空間に相当する。また、玄関ホール16は、玄関土間空間15と隣接する土間隣接空間ということができる。
【0028】
玄関土間空間15の床面15aと玄関ホール16の床面16aとの間の段差部は床段差部18となっている。床段差部18には、玄関框19(上がり框)が設けられている。玄関框19は、木製の角材により形成され、玄関土間空間15と玄関ホール16との境界部25に沿って延びている。
【0029】
玄関11を挟んだ両側にはそれぞれ仕切壁21,22が設けられている。これらの仕切壁21,22は、玄関土間空間15と玄関ホール16とに跨がって延びており、互いに対向している。各仕切壁21,22のうち、仕切壁21は玄関11を屋外と仕切る外壁部となっており、仕切壁22は玄関11を居室23と仕切る間仕切壁部となっている。
【0030】
建物10には、玄関ホール16よりも建物内部側に居室23や寝室、廊下といった複数の屋内空間が設けられている。これらの屋内空間は玄関ホール16とともに、床面が玄関土間空間15の床面15aよりも高い「床上空間」を構成している。
【0031】
ここで、本実施形態の建物10には、水害発生時に玄関口12より玄関土間空間15に水が入り込んだ場合に、その水が玄関土間空間15から玄関ホール16側に浸入するのを防止する浸水防止構造が設けられている。以下、その浸水防止構造について図1に加え、図2図4に基づき説明する。図2は、図1(a)のA-A線断面図である。図3は、(a)が図2のB-B線断面図であり、(b)が図2のC-C線断面図である。図4は、図1(b)のD-D線断面図である。
【0032】
図1(a)及び図2に示すように、玄関11には、仕切壁21の壁際に上下に延びる縦手摺棒31が設けられている。縦手摺棒31は、玄関11での移動等に際し手摺として用いられるものである。縦手摺棒31は、玄関土間空間15と玄関ホール16との境界部25付近に配置され、詳しくは上記境界部25付近にて玄関ホール16側に配置されている。なお、縦手摺棒31が「棒状部材」に相当する。
【0033】
縦手摺棒31は、丸棒状に形成され、玄関ホール16の床部から上方に延びる状態で設けられている。縦手摺棒31の下端側は玄関ホール16の床部に入り込んでいる。玄関ホール16の床下には、縦手摺棒31の下端部を支持する下側支持部32が設けられている。下側支持部32には、縦手摺棒31の下端部が挿入される挿入孔32aが形成されている。一方、仕切壁21には、縦手摺棒31の上端部を支持する上側支持部33が設けられている。上側支持部33には、縦手摺棒31の上端部が挿入される挿入孔33aが形成されている。
【0034】
縦手摺棒31は、その下端部が下側支持部32の挿入孔32aに挿入され、その上端部が上側支持部33の挿入孔33aに挿入されており、その挿入状態で両支持部32,33により支持されている。詳しくは、縦手摺棒31は、かかる支持状態において周方向に回転可能となっており、換言すると、その軸線を中心として回転可能となっている。なお、各支持部32,33により「支持手段」が構成されている。
【0035】
図2及び図3(a)に示すように、縦手摺棒31の長手方向の中間部には、縦手摺棒31の上記回転を規制する規制部材35が設けられている。規制部材35は、縦手摺棒31の長手方向の中央部よりも下方に配置されている。規制部材35は、仕切壁21と縦手摺棒31との間に介在され、仕切壁21に取り付けられている。なお、規制部材35が「回転規制部材」に相当し、仕切壁21が「壁」に相当する。
【0036】
規制部材35は、縦手摺棒31と当接する当接面35aを有している。当接面35aは、仕切壁21の壁面と平行な平面からなる。一方、縦手摺棒31には、規制部材35の当接面35aが当接する平面状の被当接面31aが形成されている。被当接面31aには、規制部材35の当接面35aが面接触の状態で当接している。これにより、縦手摺棒31は、各支持部32,33により回転可能に支持されながらも、その回転が規制部材35により規制された状態となっている。
【0037】
規制部材35は、仕切壁21に重ねて配置される一対のフランジ部36を有している。これらのフランジ部36には、ビス37を挿通可能な挿通孔38が形成されている。これらの挿通孔38にはそれぞれビス37が挿通され、それら挿通されたビス37が仕切壁21にねじ込まれている。これにより、規制部材35が仕切壁21に対して取り付けられている。また、詳しくは、ビス37は仕切壁21から取り外し可能となっており、これにより、ビス37を取り外すことで規制部材35を仕切壁21から取り外すことが可能となっている。したがって、ビス37は、規制部材35を仕切壁21から取り外し可能とする「取り外し手段」に相当する。また、規制部材35が仕切壁21から取り外されることにより、規制部材35による縦手摺棒31の回転規制が解除される。そのため、ビス37は、縦手摺棒31の回転規制を解除する「解除手段」にも相当する。
【0038】
図2及び図3(b)に示すように、縦手摺棒31には、浸水防止手段としての浸水防止シート41が巻き付けられている。浸水防止シート41は、玄関土間空間15から玄関ホール16側への浸水を防止するためのシートであり、防水性を有する樹脂製のシート材からなる。なお、図2及び図4では、便宜上、浸水防止シート41にドットハッチを付して示している。
【0039】
浸水防止シート41は、縦手摺棒31における規制部材35よりも下側の部分に巻き付けられている。浸水防止シート41の巻き付け状態において、浸水防止シート41の下端は玄関ホール16の床面16aと略同じ高さ位置に位置し、浸水防止シート41の上端は規制部材35よりも低い高さ位置に位置している。また、浸水防止シート41の巻き付け方向の一端であるシート基端部は、縦手摺棒31に固定されている。詳しくは、シート基端部は、その上下方向の全域が縦手摺棒31に固定され、それにより上下方向の全域において縦手摺棒31との間の水密性が確保されている。
【0040】
規制部材35が仕切壁21から取り外された状態では、上述したように、縦手摺棒31の回転規制が解除される。この解除状態では、縦手摺棒31の周方向への回転が可能となる。この場合、図1(b)及び図4に示すように、縦手摺棒31の回転により、浸水防止シート41を縦手摺棒31から引き出して展開することが可能となる。浸水防止シート41が展開された状態では、浸水防止シート41が玄関ホール16の床面16aから上方に延びた状態で、玄関土間空間15と玄関ホール16との境界部25に沿って配置される。以下、このように浸水防止シート41が展開された状態を浸水防止シート41の展開状態という。この展開状態が、浸水防止シート41の「浸水防止状態」に相当する。
【0041】
このように、本浸水防止構造では、浸水防止シート41が縦手摺棒31に巻き付けられた巻き付け状態から上記の展開状態に移行することが可能となっている。そして、その展開状態において玄関土間空間15から玄関ホール16側への浸水防止が図られるものとなっている。
【0042】
浸水防止シート41の展開状態では、浸水防止シート41のシート先端部(詳しくは浸水防止シート41の巻き付け方向の他端部となるシート先端部)が仕切壁22又は仕切壁22付近に到達する。仕切壁22には、浸水防止シート41のシート先端部を固定するシート固定部43が設けられている。シート固定部43は、玄関土間空間15と玄関ホール16との境界部25付近に配置され、例えば浸水防止シート41のシート先端部を挟持するシート挟持部からなる。シート固定部43は、浸水防止シート41の上下方向全域に亘って設けられ、同シート41の上下方向全域を挟持して固定することが可能となっている。これにより、浸水防止シート41を展開状態で保持することが可能となっている。また、浸水防止シート41がシート固定部43に固定された状態では、浸水防止シート41の上下方向全域において同シート41とシート固定部43との間の水密性が確保される。
【0043】
続いて、浸水防止シート41を用いて浸水防止を図る際の作業手順について説明する。
【0044】
浸水防止作業に際してはまず、規制部材35を取り付けているビス37を取り外し、それから規制部材35を仕切壁21から取り外す。規制部材35を取り外す際は、規制部材35を仕切壁21と縦手摺棒31との間から横方向に抜き取ることにより取り外す。これにより、縦手摺棒31が周方向へ回転可能となる。
【0045】
次に、浸水防止シート41を縦手摺棒31から引き出して展開状態に移行させる。この場合、縦手摺棒31が回転しながら浸水防止シート41が展開状態へ移行される。移行後、浸水防止シート41のシート先端部をシート固定部43により固定する。これにより、浸水防止シート41が展開状態で保持される。
【0046】
次に、浸水防止シート41の下端部と玄関ホール16の床面16aとの間を塞ぐ作業を行う。この作業では、例えば浸水防止シート41の下端部と床面16aとの境界部に沿って防水テープを貼り付けることで、シート下端部と床面16aとの間を塞ぐ。
【0047】
次に、縦手摺棒31と仕切壁21との間に止水部材45を配設することで、両者21,31の間を塞ぐ作業を行う。止水部材45は、例えばゴム材料により長尺状に形成され、その長さが浸水防止シート41の上下方向の長さと略同じとなっている。この作業では、止水部材45を、その長手方向を上下方向に向けた状態で、縦手摺棒31と仕切壁21との間に嵌め込む。また、この際、止水部材45の下端を玄関ホール16の床面16aに密着させる。以上により、浸水防止構造が構築され、一連の作業が終了する。
【0048】
以上、詳述した本実施形態の構成によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0049】
玄関土間空間15と玄関ホール16との境界部25付近における仕切壁21の壁際には縦手摺棒31が設けられ、その縦手摺棒31に浸水防止シート41が巻き付けられている。この場合、浸水防止シート41を、上記境界部25付近にて居住者の移動の邪魔にならないように配置することができる。
【0050】
また、縦手摺棒31は回転可能とされ、その回転により浸水防止シート41を縦手摺棒31から引き出し展開状態(浸水防止状態に相当)に移行可能となっている。この場合、浸水防止シート41を速やかに展開状態に移行できるため、玄関ホール16側(つまり床上空間側)への浸水防止を迅速に図ることができる。
【0051】
縦手摺棒31の回転が規制部材35により規制されているため、通常時には縦手摺棒31を手摺として好適に用いることができる。また、規制部材35による回転規制を解除する解除手段が設けられているため、水害発生時には、縦手摺棒31の回転規制を解除することで、浸水防止シート41を縦手摺棒31から引き出し展開状態に移行させることができる。これにより、手摺としての縦手摺棒31を上手く用いながら、浸水防止シート41による浸水防止を好適に図ることができる。
【0052】
規制部材35は仕切壁21に取り付けられ、縦手摺棒31に当接することにより縦手摺棒31の回転を規制するものとなっている。また、規制部材35は、ビス37を取り外すことにより仕切壁21から取り外し可能となっており、その取り外しにより縦手摺棒31の回転規制を解除できるようになっている。この場合、縦手摺棒31の回転規制の解除の仕方がわかりやすく、浸水防止シート41を展開状態に速やかに移行する上で好適な構成となっている。
【0053】
また、浸水防止シート41は、縦手摺棒31における規制部材35よりも下側の部分に巻き付けられている。縦手摺棒31において床面16aに近い下側部分は、手摺として使用する際にはそれほど使用されない部分と考えられる。そのため、かかる構成によれば、手摺としての使い勝手が損なわれるのを抑制しながら、縦手摺棒31を浸水防止シート41の巻き付けに利用することができる。また、規制部材35が中間部に配置されていることで、縦手摺棒31における規制部材35よりも上側の部分、すなわち縦手摺棒31を手摺として使用する際に握る部分をわかりやすくすることができ、その点においても好適な構成であるといえる。
【0054】
〔第2の実施形態〕
続いて、第2の実施形態における浸水防止構造について図5及び図6に基づき説明する。図5は浸水防止装置60が設けられた玄関11を示す斜視図であり、(a)は浸水防止装置60が玄関ベンチ51のベンチ下空間55に収容された状態を示し、(b)は浸水防止装置60が展開された状態を示している。図6は、玄関ベンチ51のベンチ下空間55に浸水防止装置60が収容された状態を示す正面図である。なお、以下では、第1の実施形態との相違点を中心として説明する。
【0055】
図5(a)及び図6に示すように、玄関11には、仕切壁21の壁際に玄関ベンチ51が設置されている。玄関ベンチ51は、玄関土間空間15と玄関ホール16との境界部25付近に配置され、玄関土間空間15と玄関ホール16とに跨って設置されている。玄関ベンチ51は、ユーザが座る座板52と、座板52を下方から支持する一対の側板部53とを有する。座板52は、玄関土間空間15と玄関ホール16とが並ぶ並び方向に延びる長尺平板状に形成され、その上面が座面となっている。なお、玄関ベンチ51がベンチに相当し、側板部53が支持板及び支持脚に相当する。
【0056】
各側板部53は、座板52の長手方向の両端部に配置され、上記長手方向に互いに対向している。各側板部53のうち、一方の側板部53aは玄関土間空間15の床面15a上に配置され、他方の側板部53bは玄関ホール16の床面16a上に配置されている。また、側板部53aの下端部にはアジャスタ脚54が取り付けられ、そのアジャスタ脚54を介して側板部53aが床面15a上に配置されている。なお、図5及び図6では便宜上、アジャスタ脚54の図示を省略している。
【0057】
各側板部53は、その横幅方向を玄関土間空間15と玄関ホール16との境界部25が延びる方向に向けて配置されている。各側板部53の横幅寸法は座板52の奥行き寸法と略同じとされている。また、各側板部53は仕切壁21の壁面に当接又は近接しており、その当接又は近接する部分ではシール処理等が施されることにより水密性が確保されている。
【0058】
玄関ベンチ51において座板52の下方空間となるベンチ下空間55には、浸水防止手段としての浸水防止装置60が設けられている。以下、浸水防止装置60の構成について図5及び図6に加え、図7及び図8を用いながら説明する。図7は、(a)が浸水防止装置60を構成するパネル体61を示す正面図であり、(b)がパネル体61を示す背面図である。図8は、(a)が浸水防止装置60が展開された状態を示す正面図であり、(b)が(a)のE-E線断面図であり、(c)が(a)のF-F線断面図である。
【0059】
図5(a)及び図6に示すように、浸水防止装置60は、壁状をなす複数(本実施形態では4つ)のパネル体61を有している。これらのパネル体61は矩形板状に形成され、玄関ベンチ51の側板部53aと略同じ大きさを有している。また、図7に示すように、各パネル体61の下端部には、一対の回転体62が取り付けられている。これらの回転体62は、パネル体61の幅方向の両端部に配置されている。各パネル体61は、各回転体62を介して玄関土間空間15の床面15a上に立設されている。そのため、各回転体62を転がしながらパネル体61を幅方向に移動させることが可能となっている。また、回転体62にはロック部(図示略)が設けられ、そのロック部により回転体62の回転をロック及びロック解除することが可能となっている。なお、図5及び図6では便宜上、回転体62の図示を省略している。
【0060】
各パネル体61は、玄関土間空間15の床面15a上に立設された状態において、玄関ホール16の床面16aよりも上方に延びている。この場合、パネル体61において床面16aよりも上方に延びている部分の上下方向寸法は、床段差部18の段差寸法(つまり、玄関土間空間15の床面15aと玄関ホール16の床面16aとの間の上下方向寸法)よりも大きくなっている。
【0061】
浸水防止装置60は、各パネル体61が厚み方向に重ねられた状態で、玄関ベンチ51のベンチ下空間55に収容されている。各パネル体61は、玄関ベンチ51の側板部53aと厚み方向に重なる状態で配置されている。この場合、各パネル体61は、その幅方向を玄関土間空間15と玄関ホール16との境界部25が延びる方向に向けて配置されている。
【0062】
なお、以下の説明では、場合によって各パネル体61を区別するため、各パネル体61の符号にA~Dを付す。具体的には、各パネル体61A~61Dのうち、側板部53a側のものから順にパネル体61A、パネル体61B、パネル体61C、パネル体61Dとする。
【0063】
複数のパネル体61において互いに重なり合うパネル体61同士は、幅方向に相対移動可能に連結されている。図7(a)に示すように、パネル体61の一方の板面には、その上端側に横方向に延びる溝部63が形成されている。溝部63は、パネル体61の幅方向の略全域に亘って延びている。一方、パネル体61の他方の板面には、その上端側に突出部64が設けられている。突出部64は、パネル体61の幅方向の端部に配置され、詳しくは仕切壁21側の端部に配置されている。
【0064】
図8に示すように、互いに重なり合うパネル体61同士において、一方のパネル体61の突出部64は他方のパネル体61の溝部63に入り込んでいる。これにより、それらパネル体61同士は、突出部64を介して互いに連結されている。また、かかるパネル体61同士の連結状態において、溝部63に入り込んだ突出部64は当該溝部63に沿って変位可能となっている。このため、上記パネル体61同士は、かかる突出部64の変位により幅方向に相対移動可能となっている。これにより、パネル体61同士の相対移動により、浸水防止装置60を構成する複数のパネル体61は全体として幅方向に展開されるようになっている(図5(b)及び図8参照)。この場合、複数のパネル体61は、玄関土間空間15と玄関ホール16との境界部25に沿って連なって配置される。このように複数のパネル体61が展開された状態を、以下では、浸水防止装置60の展開状態という。なお、この展開状態が、浸水防止装置60の「浸水防止状態」に相当する。
【0065】
浸水防止装置60の展開状態では、各パネル体61A~61Dが、展開方向の先端側から基端側に向けてパネル体61D、パネル体61C、パネル体61B、パネル体61Aの順に並ぶ。展開方向の先端部に位置するパネル体61Dは、仕切壁22と当接又は近接する位置に配置される。また、展開方向の基端部に位置するパネル体61Aは、玄関ベンチ51の側板部53aと幅方向に連なって配置される。詳しくは、側板部53aの内面には、その上端部に突出部66が設けられ、その突出部66がパネル体61Aの溝部63に入り込んでいる。これにより、パネル体61Aは、側板部53aに対して幅方向に移動可能な状態で側板部53aと連結されている。このため、浸水防止装置60の展開状態では、パネル体61Aが側板部53aに対して幅方向に移動して、側板部53aと幅方向に連なるように配置される。したがって、この場合、複数のパネル体61Aと側板部53aとが、玄関土間空間15と玄関ホール16との境界部25に沿って連なって配置される。
【0066】
続いて、浸水防止装置60を用いて浸水防止を図る際の作業手順について説明する。
【0067】
まず、浸水防止装置60をベンチ下空間55から引き出して展開状態に移行させる。この場合、浸水防止装置60のパネル体61Dをベンチ下空間55から引き出し、幅方向に引っ張る(移動させる)。すると、それに追従して他のパネル体61A~61Cがベンチ下空間55から引き出され、幅方向に引っ張られる。これにより、各パネル体61A~61Dが幅方向に展開され、玄関土間空間15と玄関ホール16との境界部25に沿って配置される。つまり、浸水防止装置60が展開状態とされる。
【0068】
次に、各パネル体61の回転体62をロック部によりロックする。これにより、各パネル体61の幅方向への移動が規制される。そのため、浸水防止装置60が展開状態で保持される。
【0069】
次に、パネル体61Dと仕切壁22との間の隙間を塞ぐ作業を行う。この作業では、例えばパネル体61Dと仕切壁22との境界部に沿って防水テープを貼り付けることにより隙間を塞ぐ。
【0070】
次に、パネル体61A~61Dの下端部と玄関土間空間15の床面15aとの間の隙間及び、玄関ベンチ51の側板部53aと床面15aとの間の隙間を塞ぐ作業を行う。この作業では、例えば長尺状をなすゴム製の止水部材68を各隙間に嵌め込むことにより隙間を塞ぐ。
【0071】
次に、隣接するパネル体61の間の隙間、及びパネル体61Aと側板部53aとの間の隙間を塞ぐ作業を行う。この作業では、例えば隙間を防水テープを用いて塞ぐ。以上により、浸水防止構造が構築され、一連の作業が終了する。
【0072】
以上、詳述した本実施形態の構成によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0073】
浸水防止装置60は、複数のパネル体61が互いに重ねられた状態で玄関土間空間15と玄関ホール16(ひいては床上空間)との境界部25付近に配置されている。これにより、複数のパネル体61を有する浸水防止装置60をコンパクトな状態で居住者の移動の邪魔にならないよう配置することができる。
【0074】
また、互いに重なり合うパネル体61同士は幅方向に相対移動可能に連結されているため、一のパネル体61を幅方向に引っ張ると、それに追従して他のパネル体61が幅方向に引っ張られる。これにより、各パネル体61を容易に幅方向に展開して、玄関土間空間15と玄関ホール16との境界部25に沿って配置でき、それにより、浸水防止装置60を速やかに展開状態(浸水防止状態に相当)に移行することができる。
【0075】
玄関土間空間15と玄関ホール16との境界部25付近における仕切壁21の壁際には玄関ベンチ51が設置され、その玄関ベンチ51のベンチ下空間55に浸水防止装置60が収容されている。この場合、玄関ベンチ51を利用して浸水防止装置60を目立ちにくい状態で配置することができる。
【0076】
複数のパネル体61が玄関ベンチ51の側板部53aと重なる状態で、浸水防止装置60がベンチ下空間55に収容されている。また、複数のパネル体61がベンチ下空間55から引き出され展開されることで、浸水防止装置60が展開状態に移行する。そして、展開状態では、複数のパネル体61と側板部53aとが玄関土間空間15と玄関ホール16との境界部25に沿って連なって配置される。この場合、玄関ベンチ51の側板部53aを用いて、側板部53aと各パネル体61とによる連続した浸水防止構造を構築することができる。
【0077】
〔第3の実施形態〕
続いて、第3の実施形態における浸水防止構造について図9に基づき説明する。図9は、玄関框19に設けられた浸水防止板71を示す斜視図であり、(a)が浸水防止板71が下位置にある場合を示し、(b)が浸水防止板71が上位置にある場合を示している。以下、第1の実施形態との相違点を中心として説明する。
【0078】
図9(a)に示すように、玄関土間空間15と玄関ホール16との境界部25に形成された床段差部18には、浸水防止手段としての浸水防止板71が設けられている。浸水防止板71は、玄関框19の前面に重ねて配置されており、玄関框19の長手方向に延びる長尺平板状に形成されている。詳しくは、浸水防止板71は、玄関框19の長手方向の長さと略同じ長さを有し、各仕切壁21,22の間に跨るように延びている。なお、各仕切壁21,22の下端部には巾木74が設けられている。また、玄関框19が框部に相当する。
【0079】
浸水防止板71は、その上端部に設けられた回動軸72を介して玄関框19に取り付けられている。回動軸72は、浸水防止板71の長手方向に延びる軸であり、玄関框19の前面上端部に取り付けられている。浸水防止板71は、この回動軸72を中心として上下方向に回動可能とされている。この回動により、浸水防止板71は、玄関框19の前面に重ねて配置される下位置(図9(a)に示す位置)と、玄関ホール16の床面16aよりも上方に突出して配置される上位置(図9(b)に示す位置)との間で移動可能となっている。なお、浸水防止板71の上位置は、下位置から上方に180°回動した位置となっている。また、図示は省略するが、玄関框19には、浸水防止板71を上位置にて保持するロック部(図示略)が設けられている。
【0080】
続いて、浸水防止板71を用いて浸水防止を図る際の作業手順について説明する。この作業に際してはまず、浸水防止板71を下位置から上位置に回動して移動する。移動後、浸水防止板71をロック部によりロックする。これにより、浸水防止板71が上位置にて保持される。なお、浸水防止板71が上位置に位置する状態が「浸水防止状態」に相当する。
【0081】
その後、浸水防止板71の長手方向の端部と巾木74及び仕切壁21,22との間の隙間を防水テープ等を用いて塞ぐ。以上により、浸水防止構造が構築され、一連の作業が終了する。
【0082】
〔他の実施形態〕
本発明は上記第1~第3の実施形態に限らず、例えば次のように実施されてもよい。
【0083】
(1)上記第1の実施形態では、規制部材35を仕切壁21から取り外すことにより縦手摺棒31の回転規制を解除するようにしたが、規制部材35を縦手摺棒31から離間する位置まで移動可能とし、その移動により上記回転規制を解除するようにしてもよい。具体的には、仕切壁21の壁面に規制部材35を支持する支持レール(移動手段に相当)を設け、その支持レールに沿って規制部材35を縦手摺棒31から離間する位置まで移動させることにより上記回転規制を解除することが考えられる。
【0084】
(2)上記第1の実施形態では、規制部材35を用いて縦手摺棒31の回転を規制したが、縦手摺棒31の回転を規制する手段は必ずしもこれに限らない。例えば、上側支持部33と縦手摺棒31とに跨る孔部を形成し、その孔部にピン等の挿入部材を挿入することで縦手摺棒31の回転を規制してもよい。この場合、挿入部材を孔部から抜き取ることにより縦手摺棒31の回転規制を解除することができる。
【0085】
(3)上記第1の実施形態では、手摺として用いられる縦手摺棒31(棒状部材に相当)に浸水防止シート41を巻き付けたが、縦手摺棒31に代えて、上下に延びる巻き付け専用の棒状部材を設け、その棒状部材に浸水防止シート41を巻き付けてもよい。この場合にも、棒状部材を周方向に回転可能とし、その回転により浸水防止シート41を棒状部材から引き出し可能とする。
【0086】
(4)上記第1の実施形態では、仕切壁22に浸水防止シート41のシート先端部を固定するシート固定部43を設けたが、これを変更して、仕切壁22にシート先端部を引っ掛ける引っ掛け部(フック等)を設けてもよい。例えば、シート先端部に孔部を形成し、その孔部を引っ掛け部に引っ掛けるようにする。また、この場合、シート先端部を引っ掛け部に引っ掛けた後、シート先端部と仕切壁22との間を防水テープ等を用いて塞ぐようにする。
【0087】
(5)上記第2の実施形態では、浸水防止装置60を玄関ベンチ51のベンチ下空間55に収容したが、玄関ベンチ51が設置されていない建物においては、浸水防止装置60を仕切壁21の壁際にそのまま(露出状態で)配置すればよい。また、この場合には、浸水防止装置60を各仕切壁21,22に跨るように展開する構成とする。
【0088】
(6)上記第2の実施形態では、浸水防止装置60を玄関土間空間15の床面15a上に設けたが、これを変更して、浸水防止装置60を玄関ホール16の床面16a上に設けてもよい。この場合にも、浸水防止装置60を、玄関土間空間15と玄関ホール16との境界部25付近に配置するようにする。
【0089】
(7)上記第2の実施形態では、玄関ベンチ51の支持脚が板状の側板部53であったが、支持脚は棒状のものであってもよい。
【0090】
(8)上記第3の実施形態では、浸水防止板71を上下方向に回動可能としたが、例えば図10に示すように、浸水防止板81を上下方向にスライド可能としてもよい。図10(a)の例では、浸水防止板71の長手方向の両端部にそれぞれ上下方向に延びるレール部材82が配設されている。これらのレール部材82は、各仕切壁21,22(図10では便宜上、図示を省略)の壁面にそれぞれ取り付けられ、互いに向き合うように開口されたレール溝83を有している。各レール部材82のレール溝83には、浸水防止板81の長手方向の両端部が挿入され、その挿入状態で浸水防止板81が各レール部材82に沿って上下方向にスライド可能となっている。かかる構成においても、浸水防止板81をレール部材82に沿ってスライドすることにより、浸水防止板81を玄関框19の前面に重ねて配置される下位置(図10(a)に示す位置)から、玄関ホール16の床面16aよりも上方に突出して配置される上位置(図10(b)に示す位置)に移動することが可能となる。
【0091】
(9)建物には、玄関口12以外に、勝手口等の建物出入口が設けられている場合がある。例えば、勝手口が設けられた建物では、勝手口と連続する土間空間と、その土間空間と連続する床上空間とが設けられている。そこで、かかる建物において、土間空間から床上空間への浸水を防止すべく、本発明の浸水防止構造を適用してもよい。
【符号の説明】
【0092】
10…建物、12…建物出入口としての玄関口、15…土間空間としての玄関土間空間、16…床上空間を構成する玄関ホール、17…土間床、18…床段差部、19…框部としての玄関框、25…境界部、31…棒状部材としての縦手摺棒、35…回転規制手段及び回転規制部材としての規制部材、37…取り外し手段及び解除手段としてのビス、41…浸水防止手段としての浸水防止シート、51…ベンチとしての玄関ベンチ、52…座板、53…支持脚及び支持板としての側板部、55…下方空間としてのベンチ下空間、60…浸水防止手段としての浸水防止装置、61…パネル体、71…浸水防止手段としての浸水防止板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10