(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132816
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20230914BHJP
G01N 27/419 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/419 327G
G01N27/419 327R
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038359
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100134991
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 和樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148507
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 弘行
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
(72)【発明者】
【氏名】橋川 凌
(57)【要約】
【課題】リッチ雰囲気下においても好適に使用可能なガスセンサを提供する。
【解決手段】センサ素子が、ガス導入口から所定の拡散抵抗の下で順次に連通し、それぞれに内側電極が設けられてなる複数の内部空所と、内部空所以外の箇所に配置された外側電極と、外側電極を覆う多孔体領域と、対応する内部空所と素子外部との間で酸素の汲み入れまたは汲み出しが可能な複数の電気化学的ポンプセルとを備え、導入口から最先の位置にある第1内部空所に備わる内側電極である主ポンプ電極と空所外ポンプ電極とを備える主ポンプセルが、酸素濃度が既知のポンプイン電流評価用ガスが導入された場合に第1内部空所に酸素を汲み入れるときの限界電流の大きさをAとし、酸素濃度が既知のポンプアウト電流評価用ガスが導入された場合に第1内部空所から酸素を汲み出すときの限界電流の大きさをBとするときに、比A/Bが、0.07以上である、ようにした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス中の所定ガス成分を検知可能に構成されたガスセンサであって、
酸素イオン伝導性の固体電解質にて構成されてなるセンサ素子と、
前記ガスセンサの動作を制御するコントローラと、
を備え、
前記センサ素子が、
前記被測定ガスの導入口から所定の拡散抵抗の下で順次に連通し、それぞれに内側電極が設けられてなる複数の内部空所と、
前記複数の内部空所以外の箇所に配置された空所外ポンプ電極と、
前記空所外ポンプ電極を覆う多孔体領域と、
それぞれの前記内側電極と前記空所外ポンプ電極との間に所定のポンプ電源にてポンプ電圧を印加することによって前記複数の内部空所のうち対応する内部空所と前記センサ素子の外部との間で酸素の汲み入れまたは汲み出しが可能に構成された複数の電気化学的ポンプセルと、
を備え、
前記複数の内部空所が、
前記導入口から最先の位置にあり、前記内側電極として主ポンプ電極が設けられてなる第1内部空所と、
前記導入口から最奥の位置にあり、前記内側電極として測定電極が設けられてなる測定内部空所と、
を備え、
前記複数の電気化学的ポンプセルが、
前記主ポンプ電極と前記空所外ポンプ電極とを備える主ポンプセルと、
前記測定電極と前記空所外ポンプ電極とを備える測定ポンプセルと、
を有してなり、
前記コントローラは、
前記測定ポンプセルを除く前記複数の電気化学的ポンプセルの動作を制御することにより前記複数の内部空所のうちの対応する内部空所における酸素濃度を調整し、
前記測定電極と前記空所外ポンプ電極との間に前記所定ガス成分の濃度に応じた測定ポンプ電流が流れるように前記測定ポンプセルの動作を制御し、
かつ、
前記測定ポンプ電流の大きさに基づいて前記所定ガス成分の濃度を特定し、
前記導入口から前記複数の内部空所に酸素濃度が既知のポンプイン電流評価用ガスが導入された場合に前記主ポンプセルが前記コントローラの制御に基づいて前記第1内部空所に酸素を汲み入れるときの限界電流である基準ポンプイン電流の大きさをAとし、
前記導入口から前記複数の内部空所に酸素濃度が既知のポンプアウト電流評価用ガスが導入された場合に前記主ポンプセルが前記コントローラの制御に基づいて前記第1内部空所から酸素を汲み出すときの限界電流である基準ポンプアウト電流の大きさをBとするときに、
比A/Bが、0.07以上である、
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサであって、
比A/Bが、0.20以上である、
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のガスセンサであって、
前記基準ポンプイン電流の大きさAが5mA以下である、
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のガスセンサであって、
前記複数の内部空所が、前記第1内部空所と、前記第1内部空所と連通し前記内側電極として補助ポンプ電極を備える第2内部空所と、前記第2内部空所と連通する第3内部空所である前記測定内部空所であり、
前記複数の電気化学的ポンプセルが、前記主ポンプセルと、前記補助ポンプ電極と前記空所外ポンプ電極とを備える補助ポンプセルと、前記測定ポンプセルからなり、
前記コントローラは、
前記主ポンプセルの動作を制御することにより前記第1内部空所における酸素濃度を調整し、
前記補助ポンプセルの動作を制御することにより前記第2内部空所における酸素濃度を調整する、
ことを特徴とするガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、限界電流型のガスセンサに関し、特に、リッチ雰囲気下において使用されるガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばイットリア安定化ジルコニアなどの酸素イオン伝導性の固体電解質を主たる構成成分とするセンサ素子を用いた、限界電流型のガスセンサ(例えばNOxセンサ、酸素センサ)がすでに公知である。係るガスセンサにおいては、被測定ガスがセンサ素子の内部に設けられた空所(内部空所)に導入される。そして、係る内部空所に面して設けられた内側電極と、素子内部に備わり基準ガスに接触する基準電極との電位差を、所望の空所内酸素濃度に応じた所定の値に保つ制御が、行われる。
【0003】
係る制御は概略、内側電極と、空所外に備わる外側電極(空所外電極)と、両電極間に存在する固体電解質領域とから構成される電気化学的ポンプセルにおいて、両電極間にポンピング電圧を印加し、内部空所と外部との間で酸素の汲み入れまたは汲み出しを行うことによって行われる。係るポンピング電圧の印加により、内側電極と外側電極との間には、空所内の酸素濃度に応じた大きさおよび向きの酸素ポンピング電流が流される。
【0004】
このようなガスセンサの一例として、センサ素子の外面に外側電極を備えるとともに、所定の拡散抵抗を付与するスリット部が係る外側電極の周囲に形成されるようにセラミックス層を設けたガスセンサや、さらには多孔体を埋入させることで該スリット部の機械的強度を高めたガスセンサも、すでに公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、酸素濃度検出セルと酸素ポンプセルとが絶縁層を介して素子厚み方向に積層され、絶縁層の一部に設けられた多孔質体からなる拡散律速部を通じて検出ガスが内部に導入される構成のセンサ素子を備えるガスセンサも、すでに公知である(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-162465号公報
【特許文献2】特開2012-173146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のような限界電流型のガスセンサを、例えばガソリンエンジンからの排気経路の途中など、空燃比が理論空燃比よりも小さいリッチガスが素子内部に導入され得る環境で、使用する場合がある。
【0008】
係る場合、リッチガスが内部空所に導入されると、電気化学的ポンプセルにおいては通常、空所内の酸素濃度を一定するべく、素子外部から内部空所に酸素を汲み入れる動作(ポンピング動作)が実行される。すなわち、酸素が内部空所に汲み入れられるように(酸素イオンが素子外部から内部空所へと移動するように)ポンピング電圧が印加され、これに応じた酸素ポンピング電流が内側電極と外側電極との間に流れる。
【0009】
この酸素の汲み入れに際しては、内部空所に導入されるリッチガスの量が多いほど、ポンピング電圧が大きくなり酸素ポンプ電流が大きくなる傾向にある。しかしながら、被測定ガスのリッチ度合いが過度に大きくなると、ポンピング電圧の増大に応じた外部からの酸素の汲み入れが困難となり、代わって固体電解質中の酸素が抜き取られてしまう、いわゆるブラックニング(黒化)が生じてしまうおそれがある。ブラックニングは不可逆的な現象であり、ひとたび発生してしまうと、ガスセンサはもはや使用出来なくなってしまう。
【0010】
係るブラックニングは、特許文献1に開示されている、外側電極がセラミックス層に覆われた構成のガスセンサや、外側電極の周囲を多孔体で覆った構成のガスセンサのように、外側電極の周りの拡散抵抗が大きいガスセンサほど、生じやすい傾向がある。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、リッチ雰囲気下においても好適に使用可能なガスセンサを提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、被測定ガス中の所定ガス成分を検知可能に構成されたガスセンサであって、酸素イオン伝導性の固体電解質にて構成されてなるセンサ素子と、前記ガスセンサの動作を制御するコントローラと、を備え、前記センサ素子が、前記被測定ガスの導入口から所定の拡散抵抗の下で順次に連通し、それぞれに内側電極が設けられてなる複数の内部空所と、前記複数の内部空所以外の箇所に配置された空所外ポンプ電極と、前記空所外ポンプ電極を覆う多孔体領域と、それぞれの前記内側電極と前記空所外ポンプ電極との間に所定のポンプ電源にてポンプ電圧を印加することによって前記複数の内部空所のうち対応する内部空所と前記センサ素子の外部との間で酸素の汲み入れまたは汲み出しが可能に構成された複数の電気化学的ポンプセルと、を備え、前記複数の内部空所が、前記導入口から最先の位置にあり、前記内側電極として主ポンプ電極が設けられてなる第1内部空所と、前記導入口から最奥の位置にあり、前記内側電極として測定電極が設けられてなる測定内部空所と、を備え、前記複数の電気化学的ポンプセルが、前記主ポンプ電極と前記空所外ポンプ電極とを備える主ポンプセルと、前記測定電極と前記空所外ポンプ電極とを備える測定ポンプセルと、を有してなり、前記コントローラは、前記測定ポンプセルを除く前記複数の電気化学的ポンプセルの動作を制御することにより前記複数の内部空所のうちの対応する内部空所における酸素濃度を調整し、前記測定電極と前記空所外ポンプ電極との間に前記所定ガス成分の濃度に応じた測定ポンプ電流が流れるように前記測定ポンプセルの動作を制御し、かつ、前記測定ポンプ電流の大きさに基づいて前記所定ガス成分の濃度を特定し、前記導入口から前記複数の内部空所に酸素濃度が既知のポンプイン電流評価用ガスが導入された場合に前記主ポンプセルが前記コントローラの制御に基づいて前記第1内部空所に酸素を汲み入れるときの限界電流である基準ポンプイン電流の大きさをAとし、前記導入口から前記複数の内部空所に酸素濃度が既知のポンプアウト電流評価用ガスが導入された場合に前記主ポンプセルが前記コントローラの制御に基づいて前記第1内部空所から酸素を汲み出すときの限界電流である基準ポンプアウト電流の大きさをBとするときに、比A/Bが、0.07以上である、ことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様に係るガスセンサであって、比A/Bが、0.20以上である、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に係るガスセンサであって、前記基準ポンプイン電流の大きさAが5mA以下である、ことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の第4の態様は、第1ないし第3の態様のいずれかに係るガスセンサであって、前記複数の内部空所が、前記第1内部空所と、前記第1内部空所と連通し前記内側電極として補助ポンプ電極を備える第2内部空所と、前記第2内部空所と連通する第3内部空所である前記測定内部空所であり、前記複数の電気化学的ポンプセルが、前記主ポンプセルと、前記補助ポンプ電極と前記空所外ポンプ電極とを備える補助ポンプセルと、前記測定ポンプセルからなり、前記コントローラは、前記主ポンプセルの動作を制御することにより前記第1内部空所における酸素濃度を調整し、前記補助ポンプセルの動作を制御することにより前記第2内部空所における酸素濃度を調整する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1ないし第4の態様によれば、リーン雰囲気に加え、少なくともストイキ組成からλ値が0.97までの範囲のリッチ雰囲気についても、測定を良好に行うことができるガスセンサが、実現される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ガスセンサ100の構成の一例を概略的に示す図である。
【
図2】セラミックス層7と多孔体領域8との配置について説明するための、センサ素子101の長手方向に垂直な要部断面図である。
【
図3】制御可能λ閾値の評価の一例を示す図である。
【
図4】実施例1~実施例8および比較例に係るガスセンサ100の制御可能λ閾値を、ポンプ限界電流比A/Bに対しプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<ガスセンサの概略構成>
図1は、本実施の形態に係るガスセンサ100の構成の一例を概略的に示す図である。ガスセンサ100は、センサ素子101によってNOxを検知し、その濃度を測定する、限界電流型のNOxセンサである。また、ガスセンサ100は、各部の動作を制御するとともに、センサ素子101を流れるNOx電流に基づいてNOx濃度を特定するコントローラ110をさらに備える。
図1は、センサ素子101の長手方向に沿った垂直断面図を含んでいる。
【0019】
センサ素子101は、それぞれが酸素イオン伝導性固体電解質であるジルコニア(ZrO
2)からなる(例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ)などからなる)、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの固体電解質層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を主として有する、平板状の(長尺板状の)セラミックス製の素子体である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。なお、以降においては、
図1におけるこれら6つの層のそれぞれの上側の面を単に上面、下側の面を単に下面と称することがある。また、センサ素子101のうち固体電解質からなる部分全体を基体部と総称する。
【0020】
係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0021】
センサ素子101の一先端部であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10を兼ねる第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40と、第4拡散律速部60と、第3内部空所61とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
【0022】
緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40、第3内部空所61とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間(領域)である。なお、ガス導入口10についても同様に、第1拡散律速部11とは別に、センサ素子101の先端面(図面視左端)においてスペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられてなる態様であってもよい。係る場合、第1拡散律速部11がガス導入口10よりも内部に隣接形成されることになる。
【0023】
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30と、第4拡散律速部60とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から最奥の内部空所である第3内部空所61に至る部位をガス流通部とも称する。
【0024】
また、ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43には、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。
【0025】
大気導入層48は、多孔質アルミナからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空間43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0026】
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる大気導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内や第2内部空所40内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。
【0027】
ガス流通部において、ガス導入口10(第1拡散律速部11)は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。
【0028】
第1拡散律速部11は、取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0029】
緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。
【0030】
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0031】
被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。
【0032】
第1内部空所20は、ガス導入口10からみて最先に位置する内部空所であり、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0033】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面(センサ素子101の一方主面)の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側(空所外)ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0034】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)に形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成されてなる。これら天井電極部22aと底部電極部22bとは、第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に設けられた導通部にて接続されてなる(図示省略)。
【0035】
天井電極部22aおよび底部電極部22bは、平面視矩形状に設けられてなる。ただし、天井電極部22aのみ、あるいは、底部電極部22bのみが設けられる態様であってもよい。
【0036】
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極として形成される。特に、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。例えば、5%~40%の気孔率を有し、Auを0.6wt%~1.4wt%程度含むAu-Pt合金とZrO2とのサーメット電極として、5μm~20μmの厚みに形成される。Au-Pt合金とZrO2との重量比率は、Pt:ZrO2=7.0:3.0~5.0:5.0程度であればよい。
【0037】
一方、外側ポンプ電極23は、例えばPtあるいはその合金とZrO2とのサーメット電極として、平面視矩形状に形成される。
【0038】
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に可変電源24によって所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向に主ポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。なお、主ポンプセル21において内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に印加されるポンプ電圧Vp0を、主ポンプ電圧Vp0とも称する。
【0039】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセルである主センサセル80が構成されている。
【0040】
主センサセル80における内側ポンプ電極22と基準電極42との電位差である起電力V0を測定することで、第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。
【0041】
さらに、コントローラ110が、起電力V0が一定となるように主ポンプ電圧Vp0をフィードバック制御することで、主ポンプ電流Ip0が制御されている。これにより、第1内部空所内20内の酸素濃度は所定の一定値に保たれるようになっている。
【0042】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0043】
第2内部空所40は、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧をさらに調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、補助ポンプセル50が作動することによって調整される。第2内部空所40においては、被測定ガスの酸素濃度がさらに高精度に調整される。
【0044】
第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行われるようになっている。
【0045】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101と外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0046】
補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様の形態にて、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成されてなり、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成されてなる。これら天井電極部51aと底部電極部51bは、平面視矩形状をなしているとともに、第2内部空所40の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に設けられた導通部にて接続されてなる(図示省略)。
【0047】
なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0048】
補助ポンプセル50においては、コントローラ110による制御のもと、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧(補助ポンプ電圧)Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
【0049】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセルである補助センサセル81が構成されている。補助センサセル81においては、第2内部空所40内の酸素分圧に応じて補助ポンプ電極51と基準電極42との間に生じる電位差である起電力V1が、検出される。
【0050】
補助ポンプセル50は、この補助センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、ポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にフィードバック制御されるようになっている。
【0051】
また、これとともに、その補助ポンプ電流Ip1が、主センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、補助ポンプ電流Ip1は、制御信号として主センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0052】
第4拡散律速部60は、第2内部空所40で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所61に導く部位である。
【0053】
第3内部空所61は、ガス導入口10からみて最奥に位置する内部空所であり、第4拡散律速部60を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間(測定用内部空所)として設けられている。NOx濃度の測定は、第3内部空所61において、測定ポンプセル41が動作することによりなされる。第3内部空所61には、第2内部空所40において酸素濃度が高精度に調整された被測定ガスが導入されるため、ガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0054】
測定ポンプセル41は、第3内部空所61内に導入された被測定ガスのNOx濃度を測定するためのものである。測定ポンプセル41は、第3内部空所61に面する第1固体電解質層4の上面であって第3拡散律速部30から離間した位置に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。
【0055】
測定電極44は、貴金属と固体電解質との多孔質サーメット電極である。例えばPtあるいはPtとRhなどの他の貴金属との合金と、センサ素子101の構成材料たるZrO2とのサーメット電極として形成される。測定電極44は、第3内部空所61内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。
【0056】
測定ポンプセル41においては、コントローラ110による制御のもと、第3内部空所61内の雰囲気中におけるNOxの分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
【0057】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって、電気化学的なセンサセルである測定センサセル82が構成されている。測定センサセル82にて検出される、第3内部空所61内の酸素分圧に応じて測定電極44と基準電極42との間に生じる電位差である起電力V2に基づいて、可変電源46がフィードバック制御される。
【0058】
第3内部空所61内に導かれた被測定ガス中のNOxは測定電極44により還元され(2NO→N2+O2)、酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定センサセル82にて検出された起電力V2が一定となるように可変電源46の電圧(測定ポンプ電圧)Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中のNOxの濃度に比例するものであるから、測定ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中のNOx濃度が算出されることとなる。以降、係るポンプ電流Ip2のことを、NOx電流Ip2とも称する。
【0059】
また、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と基準電極42を組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx成分の濃度を求めることも可能である。
【0060】
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0061】
センサ素子101は、さらに、基体部を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。
【0062】
ヒータ部70は、ヒータ電極71と、ヒータエレメント72と、ヒータリード72aと、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74と、圧力放散孔75と、
図1においては図示を省略するヒータ抵抗検出リードとを、主として備えている。また、ヒータ部70は、ヒータ電極71を除いて、センサ素子101の基体部に埋設されてなる。
【0063】
ヒータ電極71は、第1基板層1の下面(センサ素子101の他方主面)に接する態様にて形成されてなる電極である。
【0064】
ヒータエレメント72は、第2基板層2と第3基板層3との間に設けられた抵抗発熱体である。ヒータエレメント72は、
図1においては図示を省略する、センサ素子101の外部に備わる図示しないヒータ電源から、通電経路であるヒータ電極71、スルーホール73、およびヒータリード72aを通じて給電されることより、発熱する。ヒータエレメント72は、Ptにて、あるいはPtを主成分として、形成されてなる。ヒータエレメント72は、センサ素子101のガス流通部が備わる側の所定範囲に、素子厚み方向においてガス流通部と対向するように埋設されている。ヒータエレメント72は、10μm~20μm程度の厚みを有するように設けられる。
【0065】
センサ素子101においては、ヒータ電極71を通じてヒータエレメント72に電流を流すことにより、ヒータエレメント72を発熱させることで、センサ素子101の各部を所定の温度に加熱、保温することができるようになっている。具体的には、センサ素子101は、ガス流通部付近の固体電解質および電極の温度が700℃~900℃程度になるように加熱される。係る加熱によって、センサ素子101において基体部を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性が高められる。なお、ガスセンサ100が使用される際の(センサ素子101が駆動される際の)ヒータエレメント72による加熱温度を、センサ素子駆動温度と称する。
【0066】
ヒータエレメント72による発熱の程度(ヒータ温度)は、ヒータエレメント72の抵抗値の大きさ(ヒータ抵抗)によって把握される。
【0067】
以上のような構成要素に加えて、本実施の形態に係るガスセンサ100のセンサ素子101はさらに、第2固体電解質層6の上に、セラミックス層7と、多孔体領域8とを備える。
図2は、これらセラミックス層7と多孔体領域8との配置について説明するための、センサ素子101の長手方向に垂直な要部断面図である。
図2においては、紙面から手前に向かう向きがガス導入口10の備わるセンサ素子101の先端へと向かう向きであるとする。
【0068】
セラミックス層7は、第2固体電解質層6の上に、その全面を覆うように設けられてなる。セラミックス層7は第2固体電解質層6の大部分と隣接しているが、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6の上面のうち素子短手方向(
図2における左右方向)において該外側ポンプ電極23の側方(図面視左右)に位置する領域(以下、電極側方領域)とからは、離隔させられてなる。外側ポンプ電極23とセラミックス層7との間の領域、および、第2固体電解質層6の電極側方領域とセラミックス層7との間の領域は、多孔体領域8となっている。多孔体領域8は、外側ポンプ電極23を覆うようにかつ素子短手方向の両端部(
図2における左右端部)において露出するように設けられてなり、セラミックス層7は、係る多孔体領域8を含む第2固体電解質層6の上面全体を覆うように、設けられてなる。
【0069】
より詳細には、セラミックス層7は、例えば第2固体電解質層6などと同程度に緻密な、セラミックス(例えば、ジルコニア、アルミナなど)にて構成されてなる。
【0070】
一方、多孔体領域8は、気孔率が30%~60%程度の多孔質体(例えばアルミナなど)にて構成されてなる。多孔体領域8は、外側ポンプ電極23の上方における厚みが(換言すれば外側ポンプ電極23とセラミックス層7との素子厚み方向における距離が)25μm~40μm程度となるように構成されてなる。
【0071】
セラミックス層7および多孔体領域8は、例えば、これらを除くセンサ素子101をあらかじめ構成したうえで、印刷等の公知の手法によって形成される。あるいは、上述した6つの固体電解質層を形成するグリーンシート積層体に対し、最終的にセラミックス層7および多孔体領域8となる材料を印刷等の公知の手法によってさらに積層し、係る積層体を一体焼成することによって形成されてもよい。
【0072】
このような構成のセラミックス層7および多孔体領域8を有することにより、センサ素子101においては、外側ポンプ電極23を通じたセンサ素子101の内部と外部との間における酸素の汲み入れおよび汲み出しに際し、多孔体領域8を通過する酸素に所定の拡散抵抗が付与されるようになっている。
【0073】
また、センサ素子101の一先端部側(図面視左端側)の所定範囲の外周に、センサ素子101を覆う単層または多層の多孔質層である耐熱衝撃保護層がさらに備わる態様であってもよい。係る耐熱衝撃保護層は、ガスセンサ100の使用時に被測定ガスに含まれる水分がセンサ素子101に付着して凝縮することに伴い生じる熱衝撃により、センサ素子101にクラックが発生することを防ぐ目的や、被測定ガス中に混在する被毒物質がセンサ素子101の内部に入り込むことを防ぐ目的で、設けられる。なお、センサ素子101と耐熱衝撃保護層との間に層状の空隙(空隙層)が形成される態様であってもよい。
【0074】
また、センサ素子101は、ガス導入口10側と基準ガス導入空間43側との間が気密に封止される態様にて図示しない金属製の収容部材(ケーシング)に収容される。これらセンサ素子101と収容部材とが、ガスセンサ100の本体部を構成する。そして、ガスセンサ100が実際に使用される際には、係る本体部が、例えばエンジン排気管などの使用箇所に取り付けられる。また、収容部材からは、内部においてセンサ素子101の各部との電気的接続が確保された配線が引き出され、それらの配線は、コントローラ110や各種電源等へと適宜に接続される。
【0075】
以上のような構成を有するガスセンサ100においてNOxの濃度が測定される際には、主ポンプセル21さらには補助ポンプセル50を作動させることによって、第1内部空所20さらには第2内部空所40において酸素濃度が一定とされるフィードバック制御が実行され、酸素濃度一定とされた被測定ガスが、第3内部空所61へと導入され、測定電極44に到達する。例えば、被測定ガスがリーン雰囲気である場合、酸素分圧がNOxの測定に実質的に影響がない程度(例えば0.0001ppm~1ppm)にまで十分に低めた被測定ガスが、第3内部空所61へと導入される。
【0076】
そして、測定電極44においては、到達した被測定ガス中のNOxが還元されることによって、酸素が発生する。係る酸素は、測定ポンプセル41より汲み出されるが、係る汲み出しの際に流れるNOx電流Ip2は、被測定ガス中のNOxの濃度と一定の関数関係(以下、感度特性と称する)を有する。
【0077】
係る感度特性は、ガスセンサ100を実使用するに先立ってあらかじめ、NOx濃度が既知の複数種類のモデルガスを用いて特定され、そのデータがコントローラ110に記憶される。そして、ガスセンサ100の実使用時には、被測定ガスにおけるNOx濃度に応じて流れるNOx電流Ip2の値を表す信号がコントローラ110に時々刻々と与えられる。コントローラ110においては、その値と特定した感度特性とに基づいて、NOx濃度が次々と演算され、NOxセンサ検出値として出力される。これにより、ガスセンサ100においては、被測定ガス中のNOx濃度をほぼリアルタイムで把握することができるようになっている。
【0078】
なお、主ポンプセル21、補助ポンプセル50、および測定ポンプセル41のそれぞれをフィードバック制御する際の主センサセル80、補助センサセル81、および測定センサセル82における起電力V0、V1、およびV2の目標値は、具体的なセンサ素子101の各部の構成、サイズ、さらにはガスセンサ100の使用状況、使用態様などに応じて、適宜に設定されてよい。
【0079】
<ポンプ限界電流比と被測定ガス雰囲気との関係>
本実施の形態に係るガスセンサ100は主として、リーン雰囲気など、被測定ガスに酸素が比較的十分に含まれる状況下で、上述した通常モードで動作することが、つまりは被測定ガス中のNOxの濃度を特定することが、想定されている。
【0080】
より詳細には、ガスセンサ100の通常モードでの動作時、主ポンプセル21は、主センサセル80に生じる起電力V0が第1内部空所20における酸素濃度値(あるいは酸素分圧値)として所望される値に応じた所定の値となるように作動するものであるところ、外部空間から第1内部空所20に導入される被測定ガスにおける酸素濃度は時々刻々変化するため、主ポンプセル21においては、リーン雰囲気下であっても、酸素の汲み出しあるいは汲み入れの双方が行われ得る。
【0081】
これに対し、補助ポンプセル50および測定ポンプセル41は、構成上酸素の汲み入れも可能とされてはいるものの、それぞれのポンプセルを作動させる際の制御目標値たる、補助センサセル81における起電力V1と測定センサセル82における起電力V2の設定値は、NOx濃度の測定原理上、酸素の汲み出しを行われることを前提に設定される。すなわち、ガスセンサ100が通常モードにて動作する際、補助ポンプセル50および測定ポンプセル41においては専ら、酸素の汲み出しが行われる。
【0082】
ただし、ガスセンサ100は必ずしも酸素を十分に含む雰囲気下で使用されるとは限らず、ガスセンサ100の本体部が例えばガソリンエンジンの排気経路に取り付けられて当該エンジンからの排ガスが被測定ガスとされる場合など、雰囲気ガスが空燃比あるいはλ値(空気比)の小さいリッチガスとなり得る環境下で使用される場合もある。係る場合、センサ素子101の内部に導入される被測定ガスもリッチガスとなり、主ポンプセル21は、外部からの酸素の汲み入れにより第1内部空所20内の酸素濃度値を保とうとする。
【0083】
従って、リッチガス雰囲気下における主ポンプセル21の酸素の汲み入れ能力が高いほど、ガスセンサ100はよりリッチな(空燃比の小さい)ガス雰囲気下において使用することが可能となる。
【0084】
本実施の形態においては、被測定ガスがリーン雰囲気であるときに第1内部空所20から酸素を汲み出すべく主ポンプセル21を流れる主ポンプ電流Ip0(基準ポンプアウト電流と称する)の大きさに対する、被測定ガスがリッチ雰囲気であるときに第1内部空所20に酸素を汲み入れるべく主ポンプセル21を流れる主ポンプ電流Ip0(基準ポンプアウト電流と称する)の大きさの比である、ポンプ限界電流比を、リッチガス雰囲気に対するガスセンサ100の使用適応度の指標として用いる。
【0085】
具体的には、十分にリーンなガス雰囲気であるとみなすことができる、酸素濃度が既知の評価用ガス(ポンプアウト電流評価用ガス)が被測定ガスとして導入されたときの基準ポンプアウト電流の大きさに対する、十分にリッチなガス雰囲気であるとみなすことができる、酸素濃度が既知の評価用ガス(ポンプイン電流評価用ガス)が被測定ガスとして導入されたときの基準ポンプイン電流の大きさの比を、ポンプ限界電流比と定義する。
【0086】
すなわち、基準ポンプイン電流の大きさをAとし、基準ポンプアウト電流の大きさをBとしたとき、ポンプ限界電流比A/Bの値の大小にて、リッチガス雰囲気に対するガスセンサ100の使用適応度を表すものとする。酸素汲み入れ時の限界電流である基準ポンプイン電流の大きさは、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23のサイズに違いがなく、かつ、被測定ガスにおける酸素濃度が一定である場合、多孔体領域8を通じて外側ポンプ電極23へと導入されるセンサ素子101の外部の被測定ガスに対し多孔体領域8が与える拡散抵抗の大きさに、応じたものとなる。また、同様に、酸素汲み出し時の限界電流である基準ポンプアウト電流の大きさも、被測定ガスにおける酸素濃度が一定である場合、ガス導入口10から第1内部空所20へと導入される被測定ガスに対しガス流通部が与える拡散抵抗の大きさに、応じたものとなる。
【0087】
なお、本実施の形態においては、ポンプアウト電流評価用ガスとして、酸素濃度が20.5%であり、H2Oを2%含み、残余がN2である混合ガスを用いるものとする。また、ポンプイン電流評価用ガスとしては、酸素濃度が5%であり、H2Oを3%含み、残余がN2である混合ガスを用いるものとする。ただし、他の酸素濃度のポンプアウト電流評価用ガスおよびポンプイン電流評価用ガスが用いられる態様であってもよい。
【0088】
リッチ雰囲気に対する使用適応度の評価に、リーン雰囲気のもとでの基準ポンプアウト電流を考慮しているのは、主ポンプセル21を流れる限界電流の大きさはポンプアウト電流およびポンプイン電流のいずれについてもガス導入口から内部空所へと流入する被測定ガスに付与される拡散抵抗に依存するものであり、また、リーン雰囲気下でのポンプアウト電流値とリッチ雰囲気下でのポンプイン電流値との間には相関があるため、リーン雰囲気下で基準ポンプアウト電流を測定することによって、リッチ雰囲気下でのポンプイン電流に対する上記拡散抵抗の影響を考慮することが出来るからである。
【0089】
また、ポンプ限界電流の大きさは電極やガス流通部の形状、サイズなどにも依存するが、同一の主ポンプセル21を流れる、つまりは、同じ内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間を流れる基準ポンプイン電流と基準ポンプアウト電流との比であるポンプ限界電流比A/Bの評価に関しては、それらの影響は相殺できるとしてよい。すなわち、ポンプ限界電流比A/Bの値は、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23のサイズが相異なるガスセンサ100の間でも、比較することが可能となる。
【0090】
一方、それぞれのガスセンサ100が実際にどの程度のリッチガス雰囲気まで、使用可能であるか否かの特定は、制御可能λ閾値を評価することにより行う。
【0091】
具体的には、補助ポンプセル50に一定の大きさの補助ポンプ電流Ip1が流れるようにガスセンサ100を動作させる、Ip1一定制御なる制御態様にてガスセンサ100を動作させた状態で、被測定ガスのλ値をリーン側から徐々にリッチ側へと違えていったときに、主ポンプセル21における酸素の汲み入れ能力が限界となった結果として、補助ポンプ電流Ip1の値が設定された所定の制御目標値を保つことが出来ず、所定の閾値以上のずれが生じることになる直前のλ値を、制御可能λ閾値として特定する。補助ポンプセルにおいてIp1一定制御が良好に行われる場合、測定ポンプセル41において、被測定ガスにおけるNOx濃度に応じたNOx電流を精度良く測定することが可能となる。なお、Ip1一定制御を好適に行い得る点からは、センサ素子101は、3μA~10μAの補助ポンプ電流Ip1が流れるように構成されているのが好ましい。
【0092】
図3は、制御可能λ閾値の評価の一例を示す図である。具体的には、
図3は、あるガスセンサ100を対象に、被測定ガスのλ値をリーン雰囲気であるλ=1.05を初期値としておよそ60秒のスパンでステップ状に小さくしつつ、補助ポンプ電流Ip1の制御目標値を7μAとしたIp1一定制御を行ったときの様子を示している。
【0093】
図3に示す例においては、λ値が0.99のときまでは補助ポンプ電流Ip1の値はほぼ7μAを保っていたものの、時刻がおよそ170秒経過し、λ値が0.99から0.97へとステップダウンしたタイミングで、補助ポンプ電流Ip1が7μAから大きく変動してしまっている。係る場合、制御可能λ閾値は0.99であると判断される。
【0094】
このようにして評価される制御可能λ閾値は、ポンプ限界電流比A/Bに対し負の相関を有しており、具体的には以下の対応関係がある。
【0095】
A/B<0.07→制御可能λ閾値=0.97;
0.07≦A/B≦0.20→0.95≦制御可能λ閾値≦0.97;
0.20<A/B(<1.0)→制御可能λ閾値<0.95;
係る対応関係は、例えば、ポンプ限界電流比A/Bが0.07以上であるガスセンサ100を用いた場合、リーン雰囲気はもちろんのこと、少なくともストイキ組成からλ値が0.97までの範囲のリッチ雰囲気についても、ガスセンサ100によるNOx濃度の測定を良好に行えるということを示している。
【0096】
また、上記の対応関係によれば、ポンプ限界電流比A/Bの値が大きいほど、よりリッチな雰囲気についてまで測定を行い得ることになるが、一般的なガソリンエンジンからの排ガスの場合、リッチ雰囲気におけるλ値は最小でもせいぜい0.95~0.97程度に留まるので、ポンプ限界電流比A/Bが0.2以上であるガスセンサ100は、一般的なガソリンエンジンからの排ガスの測定に問題なく使用することが可能な、十分な使用適応度を有しているといえる。なお、基準ポンプイン電流の大きさAが0.14mA以上となるように構成されたセンサ素子101であれば、ポンプ限界電流比A/Bを得ることが可能である。
【0097】
一方、基準ポンプアウト電流の大きさBが一定である場合、ポンプ限界電流比A/Bが大きいほど、酸素を汲み入れる際に主ポンプセル21に印加される主ポンプ電圧Vp0の値が増大するが、主ポンプ電圧Vp0の値が過大になるほど、ブラックニングが生じるおそれが高まることになるため、基準ポンプイン電流の大きさAは5mA以下であるのが望ましく、ポンプ限界電流比A/Bの値は1.0未満であるのが望ましい。
【0098】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、ガスセンサにおけるポンプ限界電流比を0.07以上とすることで、リーン雰囲気に加え、少なくともストイキ組成からλ値が0.97までの範囲のリッチ雰囲気においても、NOx濃度の測定を良好に行うことができる。
【0099】
<変形例>
上述の実施の形態においては、ガスセンサが、内部に3つの空所を有するセンサ素子を備える場合を対象としていたが、ポンプ限界電流比を所定の値とすることでリッチ雰囲気下でも好適に使用可能なセンサ素子の構成(例えば内部空所の具備態様)は、上述の実施の形態のものに限られない。ポンプ限界電流比の測定やIp1一定制御の元での制御可能λ閾値の特定が可能である限りにおいて、他の構成が採用されていてもよい。
【0100】
図1においてセンサ素子101の図面視下端に備わる第1基板層1を覆う態様にて、セラミックス層7と同様のセラミックス層が設けられていてもよい。
【実施例0101】
実施例として、外側ポンプ電極23の周囲に備わる多孔体領域8の気孔率と外側ポンプ電極23の上方における厚みとの組み合わせ種々に違えた他は、同一の構成を有する8通り(8水準)のガスセンサ100(実施例1~実施例8)を作製し、それぞれについて、ポンプ限界電流比A/Bと、制御可能λ閾値とを求め、得られた制御可能λ閾値に基づいて、一般的なガソリンエンジンからの排ガスを被測定ガスとして想定した場合の、当該ガスセンサ100のリッチ雰囲気下における使用適応度を判定した。
【0102】
ポンプアウト電流評価用ガスには酸素濃度が20.5%であり、H2Oを2%含み、残余がN2である混合ガスを用いた。また、ポンプイン電流評価用ガスには、酸素濃度が5%であり、H2Oを3%含み、残余がN2である混合ガスを用いた。
【0103】
また、比較例として、本来は多孔体領域8が備わる箇所をスリット状の空間としたほかは、実施例1~実施例8と同様の構成を有するガスセンサ100も用意し、実施例1~実施例8と同様の評価を行った。なお、係る比較例のガスセンサ100は仮想的に、多孔体領域8の気孔率を100%としたものに相当する。
【0104】
表1は、実施例1~実施例8および比較例に係るガスセンサ100における、外側ポンプ電極23の周囲の構造の種別、気孔率、外側ポンプ電極23の上方における厚み、基準ポンプイン電流の大きさA、基準ポンプアウト電流の大きさB、ポンプ限界電流比A/B、制御可能λ閾値、およびリッチ雰囲気下における使用適応度の判定結果を、一覧に示している。なお、表1において、それぞれの項目の項目名は順に、「外側電極周囲構造」、「外側電極周囲気孔率」、「外側電極周囲膜厚」、「ポンプイン限界電流A」、「ポンプアウト限界電流B」、「比A/B」、「閾値」、および「判定」とされている。また、制御可能λ値の評価に際しては、補助ポンプ電流Ip1の制御目標値を7μAとした。
【0105】
【0106】
使用適応度の判定に際しては、3段階で評価を行っている。具体的には、制御可能λ閾値が0.95未満であるガスセンサ100については、一般的なガソリンエンジンからの排ガスを被測定ガスとして想定した場合において、リッチ雰囲気下での使用適応度が十分であると判定し、「判定」項目において「◎」(二重丸印)を付している。また、制御可能λ閾値が0.95以上0.97以下であるガスセンサ100については、リッチ雰囲気に対し概ね良好な使用適応度を有していると判定し、「判定」項目において「○」(丸印)を付している。一方、制御可能λ閾値が0.97超であるガスセンサ100については、リッチ雰囲気に対する使用適応度を実質的に有してはいないと判定し、「判定」項目において「×」(バツ印)を付している。
【0107】
また、
図4は、表1に示した実施例1~実施例8および比較例に係るガスセンサ100の制御可能λ閾値を、ポンプ限界電流比A/B(
図4においては「ポンプイン/ポンプアウト限界電流比A/B」と記載)に対しプロットしたグラフである。
【0108】
表1に示したように、実施例1~実施例8のガスセンサ100における多孔体領域8の気孔率と厚みとの組み合わせは種々様々であるが、
図4からは、それらのガスセンサ100の制御可能λ閾値は、ポンプ限界電流比A/Bに対し負の線形的な相関があることがわかる。
【0109】
より具体的には、
図4においては、ポンプ限界電流比A/Bが0.07以上であれば、多孔体領域8の気孔率と厚みとの組み合わせによらず、制御可能λ閾値が0.97以下となっている。係る結果は、ガスセンサ100のポンプ限界電流比A/Bが0.07以上であるならば、当該ガスセンサ100は、リッチ雰囲気下においても概ね良好に使用できることを指し示している。
【0110】
さらには、
図4においては、ポンプ限界電流比A/Bが0.20を超えれば、多孔体領域8の気孔率と厚みとの組み合わせによらず、制御可能λ閾値は0.95を下回っている。係る結果は、ガスセンサ100のポンプ限界電流比A/Bが0.20を超えているならば、当該ガスセンサ100は、リッチ雰囲気下において問題なく使用できることを指し示している。
本実施の形態においては、被測定ガスがリーン雰囲気であるときに第1内部空所20から酸素を汲み出すべく主ポンプセル21を流れる主ポンプ電流Ip0(基準ポンプアウト電流と称する)の大きさに対する、被測定ガスがリッチ雰囲気であるときに第1内部空所20に酸素を汲み入れるべく主ポンプセル21を流れる主ポンプ電流Ip0(基準ポンプイン電流と称する)の大きさの比である、ポンプ限界電流比を、リッチガス雰囲気に対するガスセンサ100の使用適応度の指標として用いる。
具体的には、補助ポンプセル50に一定の大きさの補助ポンプ電流Ip1が流れるようにガスセンサ100を動作させる、Ip1一定制御なる制御態様にてガスセンサ100を動作させた状態で、被測定ガスのλ値をリーン側から徐々にリッチ側へと違えていったときに、主ポンプセル21における酸素の汲み入れ能力が限界となった結果として、補助ポンプ電流Ip1の値が設定された所定の制御目標値を保つことが出来ず、所定の閾値以上のずれが生じることになる直前のλ値を、制御可能λ閾値として特定する。補助ポンプセル50においてIp1一定制御が良好に行われる場合、測定ポンプセル41において、被測定ガスにおけるNOx濃度に応じたNOx電流を精度良く測定することが可能となる。なお、Ip1一定制御を好適に行い得る点からは、センサ素子101は、3μA~10μAの補助ポンプ電流Ip1が流れるように構成されているのが好ましい。