(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132832
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】タマネギの栽培方法
(51)【国際特許分類】
A01G 22/35 20180101AFI20230914BHJP
【FI】
A01G22/35 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038378
(22)【出願日】2022-03-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)2021年10月8日に佐賀県庁にて開催された「SAGAラボ10+G」にて発表 (2)2021年10月9日付佐賀新聞朝刊第18面にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】590003722
【氏名又は名称】佐賀県
(74)【代理人】
【識別番号】100156959
【弁理士】
【氏名又は名称】原 信海
(72)【発明者】
【氏名】平野 優徳
(72)【発明者】
【氏名】浦田 貴子
(72)【発明者】
【氏名】伊東 寛史
(72)【発明者】
【氏名】石橋 哲也
(72)【発明者】
【氏名】原田 克哉
(72)【発明者】
【氏名】中島 正明
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AB13
2B022BA04
2B022BA16
(57)【要約】
【課題】 所要サイズのペコロスの収量を向上させることができ、また栽培労力を可及的に低減することができるタマネギの栽培方法を提供する。
【解決手段】 タマネギの種を適宜の培養基に播いて、球の直径が40mm以下のタマネギを栽培するに当たって、容量が15ml以上40ml以下であり、相隣るセルの中心間の距離が25mm以上54mm以下であるセル複数を具備するセルトレイを用い、その各セルにそれぞれ培養基を充填し(ステップS1)、各セルの培養基に前記種を播き(ステップS2)、発芽、育生、収穫を実施する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タマネギの種を適宜の培養基に播いて、球の直径が40mm以下のタマネギを栽培する方法において、
適宜のセル複数を具備するセルトレイの各セルにそれぞれ前記培養基を充填し、
各セルの培養基に前記種を播いて発芽、育生、収穫を実施する
ことを特徴とするタマネギの栽培方法。
【請求項2】
前記セルトレイとして、各セルの容量が15ml以上40ml以下であり、相隣るセルの中心間の距離が25mm以上54mm以下であるものを用いる請求項1記載のタマネギの栽培方法。
【請求項3】
各セルに充填された培養基に種を播くタイミングは、日本における1月下旬から2月上旬までの期間である請求項1又は2記載のタマネギの栽培方法。
【請求項4】
栽培期間中、前記セルトレイを圃場から分離させる請求項1から3のいずれかに記載のタマネギの栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、我国においてペコロスと称される小型のタマネギを栽培する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我国では、直径が3cm程度から4cm程度の小型のタマネギのことを、ペコロスと称しているが、かかるペコロスは一般のタマネギと同じ品種であるにも拘わらず、一般のタマネギに比べて甘味が強く、また、外径が小さいことから様々な料理に、多くの場合、丸ごと供されている。ペコロスを国内の中間地又は暖地で栽培する方法として、後記する非特許文献1には次のような方法が開示されている。
【0003】
すなわち、9月に、育苗用の圃場である育床に播種して発芽・育苗し、10月下旬~11月頃に、成長した苗を育床から掘り起こして、本圃場に定植する。この定植を行うに際し、一般のタマネギは株間を10cm~15cmに設定するのに対し、ペコロスにあっては株間を3cm~5cmに設定して、苗を過密状態に定植することによって、球の成長を抑制させる。定植された苗は根を張って定着するが、冬季は成長を止め、春季になって成長を再開し、適当な大きさの球が得られる4月中旬以降に収穫していた。
【0004】
このようなペコロスは、前述したように需要があるものの、国内生産量が少ないため、市場価値が高く、高い単価で取引されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“野菜の育て方・栽培方法 ペコロスの育て方・栽培方法”、[online]」、[令和4年2月1日検索]、インターネット<https://xn--m9jp4402bdtwxkd8n0a.net/howto/pecoros>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の栽培方法にあっては、育苗及び定植を共に圃場にて実施する上に、定植作業を機械化することができないことから、定植された苗の株間隔が不均一であり、従って収穫されるペコロスのサイズも不均一であるため、規格内に納まる所要サイズのペコロスの収量が少ないという問題があった。また、苗床から苗を掘り起こす作業、及び得られた苗を本圃場に定植する作業を機械化することができないため、それらを手作業で実施しなければならず、過大な労力を要するという問題があった。
【0007】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであって、所要サイズのペコロスの収量を向上させることができ、また栽培労力を可及的に低減することができるタマネギの栽培方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係るタマネギの栽培方法は、タマネギの種を適宜の培養基に播いて、球の直径が40mm以下のタマネギを栽培する方法において、適宜のセル複数を具備するセルトレイの各セルにそれぞれ前記培養基を充填し、各セルの培養基に前記種を播いて発芽、育生、収穫を実施することを特徴とする。
【0009】
本発明のタマネギの栽培方法にあっては、タマネギの種を適宜の培養基に播いて、球の直径が40mm以下のタマネギを栽培するに当たって、適宜のセル複数を具備するセルトレイの各セルにそれぞれ前記培養基を充填する。そして、各セルの培養基にタマネギの種を播いて発芽、育生、収穫を実施するのである。このように、セルトレイを用いて播種から収穫までを実施するため、従前の栽培方法の如き掘り起こし及び定植の作業等を行う必要がなく、栽培労力及び作業時間を大幅に削減することができる。また、適宜のセル複数を具備するセルトレイを用いることによって、球の直径が40mm以下の小型のタマネギの収量を向上させることができる。
【0010】
(2)また、本発明に係るタマネギの栽培方法は、前記セルトレイとして、各セルの容量が15ml以上40ml以下であり、相隣るセルの中心間の距離が25mm以上54mm以下であるものを用いることを特徴とする。
【0011】
本発明のタマネギの栽培方法にあっては、セルトレイとして、各セルの容量が15ml以上40ml以下であり、相隣るセルの中心間の距離が25mm以上54mm以下であるものを用いる。
【0012】
セルの容量が15ml未満である場合、収穫されるタマネギを所要のサイズまで肥大化させることができないため、規定サイズのタマネギの収量が極めて少ない。一方、セルの容量が40mlを超えると、タマネギが肥大し過ぎるため、規定サイズのタマネギの収量が低下する。これに対して、セルの容量が15ml以上40ml以下である場合、所要サイズのタマネギに肥大化させることができるため、規定サイズのタマネギの収量を可及的に多くすることができる。
【0013】
また、セルトレイは、相隣るセルの中心間の距離が25mm以上54mm以下であることが好ましく、より好ましくは、35mm以上41mm以下であるとよい。セルトレイを構成する相隣るセルの中心間の距離が25mm未満である場合、相隣る苗にあって、相隣る苗の葉の影響により日照が阻害されるため、収穫されるタマネギの肥大化も阻害され、従って規定サイズのタマネギの収量の向上を図ることができない。また、相隣るセルの中心間の距離が54mmを超えると、栽培密度が粗になり過ぎ、単位面積当たりのタマネギの収量が低下するため、規定サイズのタマネギの収量の向上を図ることができない。これに対して、相隣るセルの中心間の距離が25mm以上54mm以下である場合、相隣る苗の葉の影響を可及的に小さくすることができる一方、適宜の栽培密度になすことができるため、規定サイズのタマネギの収量を向上させることができる。
【0014】
(3)また、本発明に係るタマネギの栽培方法は、各セルに充填された培養基に種を播くタイミングは、日本における1月下旬から2月上旬までの期間であることを特徴とする。
【0015】
本発明に係るタマネギの栽培方法にあっては、各セルに充填された培養基に種を播くタイミングは、日本における1月下旬から2月上旬までの期間である。播種時期が1月中旬以前である場合、栽培期間が長くなるため、タマネギが罹病する可能性が高く、また栽培コストが嵩むという問題がある一方、播種時期が2月中旬以降である場合、播種から収穫までの栽培期間が短いため、収穫されるタマネギのサイズが小さく、規定サイズのタマネギ収量が少ない。
【0016】
これに対して、播種時期が1月下旬から2月上旬までの間である場合、栽培期間が適当であるため、タマネギが罹病する可能性が低く、また規定サイズのタマネギの収量が多い。更に、栽培コストの上昇を抑制することもできる。
【0017】
(4)また、本発明に係るタマネギの栽培方法は、栽培期間中、前記セルトレイを圃場から分離させることを特徴とする。
【0018】
本発明のタマネギの栽培方法にあっては、栽培期間中、セルトレイを圃場から分離させる。分離の方法としては、セルトレイを載置台に載置してもよいし、圃場とセルトレイとの間に、不透水性のシート等を介装させてもよい。
【0019】
これによって、各セル内でタマネギの苗の根が成長した際に、圃場の土壌からの影響を回避することができるため、収穫されるタマネギのサイズをより均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係るタマネギの栽培方法の一例を時系列的に説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係るタマネギの栽培方法を図面に基づいて詳述する。
なお、本実施の形態で説明するタマネギの栽培方法は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含むことはいうまでもない。
【0022】
図1は本発明に係るタマネギの栽培方法の一例を時系列的に説明するフローチャートである。
【0023】
本発明に係る栽培方法にあっては、小型のタマネギであるペコロスを栽培するに際して、播種・育生から収穫までを、セルと称する小さいポットを碁盤目状に連結させてなるセルトレイを用いて実施するが、作業者は、播種を行う前に、次のように所定のセルトレイの選定、選定したセルトレイの各セルへの培土の投入、等の栽培準備を行う(ステップS1)。
【0024】
使用するセルトレイとしては、各セルの容量が15ml以上40ml以下であることが好ましく、より好ましくは、24ml以上30ml以下であるとよい。
【0025】
セルの容量が15ml未満である場合、ペコロスを所要のサイズまで肥大化させることができないため、規定サイズのペコロスの収量が極めて少ない。一方、セルの容量が40mlを超えると、ペコロスが肥大し過ぎるため、規定サイズのペコロスの収量が低下する。これに対して、セルの容量が15ml以上40ml以下である場合、所要サイズのペコロスに肥大化させることができるため、規定サイズのペコロスの収量を可及的に多くすることができる。
【0026】
また、セルトレイは、相隣るセルの中心間の距離が25mm以上54mm以下であることが好ましく、より好ましくは、35mm以上41mm以下であるとよい。このような条件を満たす既存のセルトレイとしては、例えば、ヤンマーナプラ野菜トレイ128穴(ヤンマーホールディングス株式会社製)を用いることができる。
【0027】
セルトレイを構成する相隣るセルの中心間の距離が25mm未満である場合、相隣る苗にあって、相隣る苗の葉の影響により日照が阻害されるため、ペコロスの肥大化も阻害され、従って規定サイズのペコロスの収量の向上を図ることができない。また、相隣るセルの中心間の距離が54mmを超えると、栽培密度が粗になり過ぎ、単位面積当たりのペコロスの収量が低下するため、規定サイズのペコロスの収量の向上を図ることができない。これに対して、相隣るセルの中心間の距離が25mm以上54mm以下である場合、相隣る苗の葉の影響を可及的に小さくすることができる一方、適宜の栽培密度になすことができるため、規定サイズのペコロスの収量を向上させることができる。
【0028】
ところで、ペコロスの栽培に使用する培土(培養基)としては、セル成型苗用育苗培土を適用することができる。セル成型苗用育苗培土は、根張り及び活着等の生育の優れた良質苗の生産と育苗管理に適した化学性と物理性とを有するように、土壌とピートモス及びバーミキュライトとを混合して調製されており、セルトレイを用いたペコロスの栽培に適している。かかるセル成型苗用育苗培土としては種々販売されているが、例えば、与作N-150(九州化学工業株式会社製)を用いることができる。
【0029】
また、ペコロスを栽培するための肥料としては、一般のタマネギの栽培に用いられるものを適用することができるが、例えばマイクロロングトータル280・100日タイプ(販売元:ジェイカムアグリ株式会社)を用いることができる。
【0030】
培土への肥料の添加量は、培土1Lに対して添加する肥料が、窒素成分として900mg程度になるように調整するとよい。例えば、マイクロロングトータル280・100日タイプを用いる場合にあっては、培土45Lに対して281g程度添加する。
【0031】
そして、例えば、マイクロロングトータル280の100日タイプを、培土45Lに対して281g程度添加しておき、これを、例えばヤンマーナプラ野菜トレイ128穴(ヤンマーホールディングス株式会社製)の各セルにそれぞれ充填する。
【0032】
なお、本形態では既存のセルトレイを用いた例について説明したが、本発明はこれに限らず、各セルの内径及び深さ、並びに各セルの容量、更に相隣るセルの中心間の距離を至適に調製した専用のセルトレイを適用し得ることは言うまでもない。
【0033】
このようにしてペコロス栽培の準備が完了すると、作業者は、セルトレイの各セルそれぞれにタマネギの種を播いた(ステップS2)後、当該セルトレイを、例えば適宜高さの載置台上に載置することによって、セルトレイを圃場の土壌から分離させる(ステップS3)。
【0034】
これによって、セルトレイを圃場の土壌から分離させた状態に保持することができるため、セルトレイへの散水時に当該土壌から苗への跳ね返りが防止され、罹病の危険性を低減させることができる。また、各セル内で苗の根が成長した際に、圃場の土壌からの影響を回避することができるため、収穫されるペコロスのサイズをより均一にすることができる。
【0035】
なお、載置台を用いない場合にあってはセルトレイと圃場の土壌表面との間に、水分及び栄養素等が透過し得ない適宜のシートを介装させるとよい。この場合もシートによって、散水時にハウス内の土の表面から苗への跳ね返りが防止されるため、罹病の危険性を低減させることができる一方、圃場の土壌から影響を回避することができる。
【0036】
ここで、ペコロスの栽培に用いるタマネギの品種としては、早生又は極早生又は超極早生が好適である。中生又は晩生の品種を用いた場合、ペコロスの玉の肥大化が遅いため、所要サイズのペコロスを得ることが難しい。早生の品種としてはシャルム、貝塚早生、早生7号等を用いることができる。また、極早生の品種としては浜笑、貴錦等を用いることができる。一方、超極早生の品種としては例えばスーパーこがねを用いることができる。
【0037】
ところで、本発明に係るタマネギ栽培方法が適用され得る地域は、我国にあっては九州地方、中国地方、四国地方、近畿地方、中部地方及び関東地方等、秋まきのタマネギの生産地が適しているが、例えばハウス内での加温及び保温、又は冷却及び保温等、エネルギーを投入する積極的な温度管理の設備を導入することによって、より緯度が高い地域、又はより緯度が低い地域でも実施することができる。
【0038】
秋まきのタマネギの生産地にあっては、播種時期は、1月下旬から2月上旬までの間、より好ましくは2月上旬に実施する。播種時期が1月中旬以前である場合、栽培期間が長くなるため、タマネギが罹病する可能性が高く、また栽培コストが嵩むという問題がある。
【0039】
一方、播種時期が2月中旬以降である場合、播種から収穫までの栽培期間が短いため、得られるペコロスのサイズが小さく、規定サイズのペコロスの収量が少ない。
【0040】
これに対して、播種時期が1月下旬から2月上旬までの間である場合、栽培期間が適当であるため、タマネギが罹病する可能性が低く、また規定サイズのタマネギの収量が多い。更に、栽培コストの上昇を抑制することもできる。また、播種時期が2月上旬である場合、規定サイズのペコロスの収量を可及的に多くすることができるため、より好ましい。
【0041】
なお、本明細書では各月の1日から10日までの期間を上旬、11日から20日までの期間を中旬、21日から晦日までの期間を下旬としている。
【0042】
このとき、前述した生産地及び播種時期にあっては、露地において発芽及び生育に適した温度に達していないため、ハウス栽培による育生を実施する(ステップS4)。例えば、ビニール又はガラス等、適宜の素材で形成されたハウス内にセルトレイを配置し、ハウス内の温度が22℃程度から24℃程度に達すると、ハウスの両側部を開放し、ハウス内を換気することによって室内の温度を管理するとよい。
【0043】
ここで、温度管理としては、播種してから発芽するまでの期間は、平均10℃程度以上平均25℃程度までの温度範囲内になるように調整し、また、発芽してから収穫するまでの期間は、平均15℃程度以上平均27℃程度までの温度範囲内になるように調整する。従って、露地において、このような温度が担保される地域にあってはハウス栽培を行わなくてもよい。
【0044】
播種してから発芽するまでの期間の温度が平均10℃程度未満であっても、平均25℃程度を超えた場合であっても、発芽が抑制される。また、発芽してから収穫するまでの期間の温度が、平均15℃程度未満である場合、低温によって芽・葉・球及び根の成長が抑制され、平均27℃程度を超えた場合、高温によって成長が抑制される。
【0045】
また、ペコロスの栽培を実施している間、作業者は、セルトレイの各トレイに充填された土壌が乾燥しないように、各セルトレイに適宜給水する(ステップS5)。
【0046】
例えば、播種後の1ヵ月程度の間は、1日1回、1セルトレイ当たり100mlから150mlになるようにスプリンクラー等により散水し、それ以降は、前同様の散水を1日2回行うとよい。なお、後者の場合、雨天時には1日1回とするとよい。
【0047】
ペコロスは生育した葉が倒伏してから1週間程度が収穫時期であるため、作業者は、葉が倒伏したか否かによって、ペコロスが収穫時期に達したか否かを判断し(ステップS6)、収穫時期に達したと判断するまで、ステップS4~ステップS5までの操作を繰り返す。
【0048】
作業者は、ステップS6でペコロスが収穫時期に達したと判断した場合、セルトレイの各セルからペコロスを収穫する(ステップS7)。そして、作業者は、収穫したペコロスの球径を測定し(ステップS8)、測定結果に基づいて、各ペコロスをサイズ別に分別し(ステップS9)、規定サイズのペコロスを得る。
【0049】
このように本発明に係るタマネギの栽培方法にあっては、セルトレイを用いて播種から収穫までを実施するため、従前の栽培方法の如き掘り起こし及び定植の作業等を行う必要がなく、栽培労力及び作業時間を大幅に削減することができる。また、適当な容量のセルを有し、相隣るセルの中心間の距離が適当であるセルトレイを用いることによって、所要サイズのペコロスの収量を容易に向上させることができる。更に、我国にあっては、栽培期間が最長でも1月下旬から6月中旬までであるので、栽培期間が可及的に短い。
【0050】
一方で、圃場を使用することなく、セルトレイを用いて栽培するため、ペコロスの栽培に連作障害が発生しない。また、圃場の土壌から分離させた状態で栽培するため、罹病の発生を可及的に回避することができる。
【0051】
なお、本発明に係るタマネギの栽培方法が適用され得る地域は、前述した如く、我国にあっては九州地方、中国地方、四国地方、近畿地方、中部地方、東海地方及び関東地方、並びにそれらの周辺であるが、海外の国というようにこれらの地域以外であっても、これらの地域と同様の気象条件の地域であれば本発明方法を適用し得ることは言うまでもない。このとき、北半球と南半球とでは季節の推移が逆になるため、それに対応して播種から収穫までの月日を調整する。
【実施例0052】
次に本発明に係るタマネギの栽培方法を実施した結果について説明する。
(実施例1)
本実施例では、セルトレイを構成するセルの大きさの違いが、収穫されるペコロスのサイズ及び収量に及ぼす影響を検討した結果について説明する。
【0053】
次の表1は、セルトレイを構成するセルの容量の違いが、収穫されるペコロスのサイズに及ぼす影響を検討した結果を示すものであり、表2は同じく収穫されるペコロスの収量に及ぼす影響を検討した結果を示すものである。
【0054】
セルトレイは次のものを使用した。即ち、72穴セルトレイ、128穴セルトレイ、200穴セルトレイ、288穴セルトレイ(いずれもヤンマーナプラ野菜トレイ;ヤンマーホールディングス株式会社製)、448穴セルトレイ(みのるポット448穴;みのる産業株式会社製)を用いた。各セルトレイのセルの容量は、72穴セルトレイが38.0mlであり、128穴セルトレイが27.0mlであり、200穴セルトレイが16.0mlであり、288穴セルトレイが11.5mlであり、448穴セルトレイが4.0mlである。
【0055】
培土としては与作N-150(九州化学工業株式会社製)を用い、マイクロロングトータル280・100日タイプ(販売元:ジェイカムアグリ株式会社)の肥料を、培土45Lに対して281g程度添加した。
【0056】
かかる培土を前記セルトレイの各セルにそれぞれ充填しておき、2021年2月3日に、シャルムの種を各セルトレイの各セルに1粒ずつ播いた後、佐賀県上場営農センターのビニールハウス内に設置された載置台上に各セルトレイを載置して栽培を開始し、2021年6月6日に、各セルトレイからペコロスを収穫した。
【0057】
なお、ハウス内の温度が24℃程度に達すると、ハウスの両側部を開放し、ハウス内を換気することによって室内の温度を、播種してから発芽するまでの期間は、平均15℃程度以上平均20℃程度までの温度範囲内になるように調整し、また、発芽してから収穫するまでの期間は、平均15℃程度以上平均27℃程度までの温度範囲内になるように調整した。また、播種後の1ヵ月程度の間は、1日1回、1セルトレイ当たり100mlから150mlになるようにスプリンクラーにより散水し、それ以降は、前同様の散水を1日2回行った。なお、後者の場合、雨天時には1日1回とした。
【0058】
【0059】
【0060】
ここで、表1中、Mはペコロスの直径が36.1mm以上40.0mm以下を、Sはペコロスの直径が33.1mm以上36.0mm以下を、2Sはペコロスの直径が30.1mm以上33.0mm以下を、3Sはペコロスの直径が25.1mm以上30.0mm以下をそれぞれ示している。また、商品とは3S~Mまでの直径を有するペコロスのことを言い、3S未満の直径のペコロス、Mを超えた直径のペコロスは商品ではない。
【0061】
表1から明らかな如く、セルの容量が大きくなるに従って、収穫されたペコロスの直径が大きくなっていた。そして、448穴セルトレイ、即ち、セルの容量が4.0mlである場合、3S以上の直径のペコロスを収穫することができなかった。また、72穴セルトレイ、即ち、セルの容量が38.0mlである場合、Mを超える直径が収穫される割合が30%を超えていた。
【0062】
一方、表2から明らかな如く、72穴セルトレイから200穴セルトレイ、即ちセルの容量が38.0mlから16.0mlまでにあっては、1トレイ当たり1,000g以上の商品収量が得られていたが、288穴セルトレイ、即ちセルの容量が11.5ml以下にあっては、1トレイ当たり400g未満の商品収量しか得ることが出来なかった。
【0063】
以上の結果及びペコロスの栽培経験より、各セルの容量が15ml以上40ml以下であることが好ましい。また、より好ましくは、各セルの容量が24ml以上30ml以下であるとよい。
【0064】
前述したように、セルの容量が11.5ml以下にあっては、1トレイ当たり400g未満の商品収量しか得ることが出来ず、従って経験的に、セルの容量が15ml未満である場合、規定サイズのペコロスの収量が極めて少ないと考えられた。
【0065】
一方、セルの容量が40mlにおいて、Mを超える直径が収穫される割合が30%を超えることから、セルの容量の上限は40mlであるものと考えられた。
【0066】
ところで、表1及び表2から明らかように、128穴セルトレイ、即ちセルの容量が27.0mlである場合、Mの直径が収穫される率が最も高く、また、商品収量が最も多かった。従って、セルの容量が27.0mlの前後、即ち、セルの容量が24ml以上30ml以下であることがより好ましいものと考えられた。
【0067】
(実施例2)
次に、相隣るセルの中心間の距離の違いが、収穫されるペコロスの直径に与える影響を検討した結果について説明する。
【0068】
前記表2は、セルトレイを構成する相隣るセルの中心間の距離の違いが、収穫されるペコロスの直径に及ぼす影響を検討した結果も示している。また、表3は、相隣るセルの中心間の距離の違いが、収穫されるペコロスの直径に及ぼす影響を更に検討した結果を示すものである。
【0069】
前述した各セルトレイにおいて、相隣るセルの中心間の距離は次の通りである。即ち、72穴セルトレイが50.0mmであり、128穴セルトレイが38.0mmであり、200穴セルトレイが最小で28.0mmであり、288穴セルトレイが最小で23.0mmであり、448穴セルトレイが最小で19.0mmである。
【0070】
また、表3では、更に、128穴セルトレイについて、128穴全てに播種した場合、及び128穴中の32穴に播種した場合、200穴セルトレイについて、200穴中の60穴に播種した場合、並びに448穴セルトレイについて、448穴中の66穴に播種した場合について、それぞれ収穫されるペコロスの直径に及ぼす影響を検討した結果を示している。なお、相隣るセルの中心間の距離は、128穴セルトレイについて32穴に播種した場合は70.0mmであり、200穴セルトレイについて60穴に播種した場合は57mmであり、448穴セルトレイについて66穴に播種した場合は最小で54mmである。
【0071】
なお、播種日が2020年1月29日であり、収穫日が2020年6月10日であった以外、品種、培土、肥料、温度管理、散水管理は前同に実施した。
【0072】
【0073】
表3から明らかな如く、128穴セルトレイについて、128穴全てに播種した場合と、128穴中の32穴に播種した場合とを比較した結果、相隣るセルの中心間の距離が長い方が、平均商品1球質量が重かった。また、448穴セルトレイについて、448穴全てに播種した場合(表2)と、448穴中の66穴に播種した場合(表3)とを比較すると、相隣るセルの中心間の距離が長い方が、商品収量が多かった。これらは、相隣るセルの中心間の距離が長くなるに従って、相隣る苗にあって、相隣る苗の葉の影響が低減されて、日照が阻害されないため、ペコロスの肥大化が促進されたものと考えられる。
【0074】
しかしながら、128穴セルトレイについて、128穴全てに播種した場合と、128穴中の32穴に播種した場合とを比較した結果から明らかなように、相隣るセルの中心間の距離を必要以上に長くすると、栽培密度が粗になるため、1トレイ当たりの商品収量が低減してしまう。
【0075】
一方、表2から明らかなように、288穴セルトレイを用いた場合、即ち、相隣るセルの中心間の距離が最小で23.0mmである場合、1トレイ当たりの商品収量が400gに達しなかったのに対し、200穴セルトレイを用いた場合、即ち、相隣るセルの中心間の距離が最小で28.0mmである場合、1トレイ当たりの商品収量が1,000gを超えていた。
【0076】
これらの結果及びペコロスの栽培経験から、相隣るセルの中心間の距離は25mm以上は必要であると考えられた。
【0077】
これに対し、128穴セルトレイを用いた場合、即ち、相隣るセルの中心間の距離が38.0mmである場合、1トレイ当たりの商品収量は1,900gを超えており、また、72穴セルトレイを用いた場合、即ち、相隣るセルの中心間の距離が50.0mmである場合、1トレイ当たりの商品収量は1,000g以上を保持していた。加えて、448穴セルトレイについて、448穴全てに播種した場合と、448穴中の66穴に播種した場合とを比較した結果から、後者の場合、即ち、相隣るセルの中心間の距離が最小で54mmである場合は、商品収量が増大していたことから、相隣るセルの中心間の距離は54mm以下であることが必要であると考えられた。
【0078】
また、表2及び表3から明らかなように、128穴セルトレイを用いた場合、即ち、相隣るセルの中心間の距離が38.0mmである場合が、1トレイ当たりの商品収量が最も多いこと及びペコロスの栽培経験から、相隣るセルの中心間の距離は、より好ましくは、35mm以上41mm以下であるとよいものと考えられた。
【0079】
前述したように、セルトレイを構成する相隣るセルの中心間の距離が25mm未満である場合、相隣る苗にあって、相隣る苗の葉の影響により日照が阻害されるため、ペコロスの肥大化も阻害され、従って規定サイズのペコロスの収量の向上を図ることができない。また、相隣るセルの中心間の距離が54mmを超えると、栽培密度が粗になり過ぎ、単位面積当たりのペコロスの収量が低下するため、規定サイズのペコロスの収量の向上を図ることができない。これに対して、相隣るセルの中心間の距離が25mm以上54mm以下である場合、相隣る苗の葉の影響を可及的に小さくすることができる一方、適宜の栽培密度になすことができるため、規定サイズのペコロスの収量を向上させることができる。
【0080】
(実施例3)
次に、セルトレイの保持環境の違いが、収穫されるペコロスの直径に与える影響を検討した結果について説明する。
【0081】
次の表4は、セルトレイの保持環境の違いが、収穫されるペコロスの直径に与える影響を検討した結果を示すものである。セルトレイとしては、128穴セルトレイ及び200穴セルトレイをそれぞれ6ずつ用い、それらを2群に分けて、一方の群は、ハウス内に配置した載置台上に載置し、他方の群はハウス内の圃場(地床)上に直接載置した。なお、それ以外の播種・収穫日、品種、培土、肥料、温度管理、散水管理は、実施例1と同じである。
【0082】
【0083】
表4から明らかなように、128穴セルトレイ及び200穴セルトレイのいずれであっても、セルトレイを載置台に載置して、圃場から分離させた環境に保持した場合に比べて、セルトレイを圃場の上に直接載置して、圃場から分離させない環境に保持した場合の方が、収穫されたペコロスの直径にバラつきが大きく、また、3S未満の直径のペコロスの割合が増大していた。
【0084】
これは、セルトレイの各セル内で生長した苗の根がセルの底部開設された細孔から外へ延出して圃場の土壌に接触し、圃場の土壌から影響を受けるためであると考えられる。
【0085】
従って、ペコロスを栽培するには、例えば、セルトレイを載置台に載置して、圃場から分離させた環境に保持することが好ましいと言える。
【0086】
(実施例4)
更に、播種時期の違いが、収穫されるペコロスの直径に与える影響を検討した結果について説明する。
【0087】
次の表5及び表6は、播種時期の違いが、収穫されるペコロスの直径に与える影響を検討した結果を示すものである。セルトレイとしては、128穴セルトレイ及び200穴セルトレイを用い、それらを3群に分けて、第1群は1月23日に播種し、第2群は2月3日に播種し、第3群は2月23日に播種した。なお、それ以外の品種、培土、肥料、温度管理、散水管理は、実施例1と同じである。
【0088】
【0089】
【0090】
表5から明らかなように、128穴セルトレイを用いた場合、商品収量はいずれの播種時期であっても比較的多かったが、表6から明らかなように、播種時期が2月下旬であると、他の播種時期であった場合に比べて、収穫されたペコロスのサイズが小さいものであった。更に、200穴セルトレイを用いた場合、播種時期が2月下旬であると、他の播種時期であった場合に比べて、収穫されたペコロスのサイズが小さいのに加えて、総収量に対する商品収量の割合が極端に低いという結果であった。
【0091】
これらの結果より、播種時期は1月下旬から2月上旬の間が好ましく、より好ましくは2月上旬であると考えられた。
【0092】
(実施例5)
また、タマネギの品種の違いが、収穫されるペコロスの直径に与える影響を検討した結果について説明する。
【0093】
次の表7は、タマネギの品種の違いが、収穫されるペコロスの直径に与える影響を検討した結果を示すものである。タマネギの品種は、早生の品種としてシャルム、貝塚早生及び早生7号を用い、極早生の品種として浜笑及び貴錦を用い、超極早生の品種としてスーパーこがねを用いた。また、中生の品種としてターザンを用いた。なお、128穴セルトレイを用い、2月上旬に播種した以外の培土、肥料、温度管理、散水管理は、実施例1と同じである。
【0094】
【0095】
表7から明らかなように、中生の品種にあっては、早生、極早生及び超極早生の品種に比べて、その商品収量が極端に少なかった。これに対して、早生、極早生及び超極早生の品種にあってはいずれも1セルトレイ当たりの商品収量が1,000g程度あり、商品収量が多かった。
【0096】
これらの結果より、タマネギの品種としては早生、極早生及び超極早生が好ましいと考えられた。