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特開2023-132842ダイシングテープおよびダイシングテープを使用する、半導体装置の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132842
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】ダイシングテープおよびダイシングテープを使用する、半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20230914BHJP
H01L 21/52 20060101ALI20230914BHJP
C09J 7/30 20180101ALI20230914BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20230914BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
H01L21/78 M
H01L21/52 E
C09J7/30
C09J133/00
C09J11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038398
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】古川 慧
(72)【発明者】
【氏名】角田 俊之
(72)【発明者】
【氏名】増田 晃良
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩和
(72)【発明者】
【氏名】田中 理恵
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
5F047
5F063
【Fターム(参考)】
4J004AA10
4J004AB01
4J004AB05
4J004CA03
4J004CA06
4J004CB03
4J004CC02
4J004CE01
4J004DA03
4J004DB02
4J004EA05
4J004FA08
4J040DF061
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4J040EF282
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4J040HB18
4J040HC01
4J040HD23
4J040JA09
4J040JB02
4J040JB09
4J040KA13
4J040KA16
4J040LA06
4J040MA02
4J040MA10
4J040MB03
4J040MB09
4J040NA20
4J040PA42
5F047BA23
5F047BA34
5F047BA35
5F047BA36
5F047BA52
5F047BB19
5F063AA18
5F063AA31
5F063AA33
5F063EE07
5F063EE13
5F063EE14
5F063EE16
5F063EE17
5F063EE43
5F063EE44
(57)【要約】 (修正有)
【課題】半導体装置の製造工程において、割断性とピックアップ性に優れたダイシングテープ及びダイシングダイボンドフィルムを提供する。
【解決手段】ダイシングテープ10は、0℃におけるMD方向のヤング率とTD方向の5%伸長時弾性率の平均値が165~260MPaの基材フィルム1と、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合及び12.0~40.5mgKOH/gの水酸基価を有するアクリル系粘着性ポリマー100質量部に対して、ポリイソシアネート架橋剤を2.4~7.0質量部含み、ポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基との当量比(-NCO/-OH)が、0.14~1.32であり、23℃におけるステンレス鋼板に対する有酸素下紫外線照射後粘着力が3.50N/25mm以下、無酸素下紫外線照射後粘着力が0.25~0.70N/25mmである粘着剤層2と、から成る。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、該基材フィルム上に活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層と、を備えたダイシングテープであって、
前記基材フィルムは、0℃におけるMD方向(基材フィルムの製膜時における流れ方向)の5%伸長時弾性率をYMD、0℃におけるTD方向(MD方向に対して垂直な方向)の5%伸長時弾性率をYTDとした時に、それぞれの5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2が165MPa以上260MPa以下の範囲の値を有し、
前記活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマー、光重合開始剤、ならびに、前記水酸基と架橋反応するポリイソシアネート系架橋剤を含み、
前記アクリル系粘着性ポリマーは、12.0mgKOH/g以上40.5mgKOH/gの範囲にある水酸基価を有し、前記ポリイソシアネート架橋剤は、前記アクリル系粘着性ポリマー100質量部に対し、2.4質量部以上7.0質量部の範囲で含み、前記ポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(-NCO)と前記アクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(-OH)との当量比(-NCO/-OH)は、0.14以上1.32以下の範囲内で調整され、
前記ダイシングテープの前記粘着剤層は、23℃におけるステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対する有酸素下紫外線照射後粘着力A(紫外線積算光量:150mJ/m2、剥離角度:90°、剥離速度:300mm/分)が3.50N/25mm以下の範囲であり、23℃におけるステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対する無酸素下紫外線照射後粘着力B(紫外線積算光量:150mJ/m2、剥離角度:90°、剥離速度:300mm/分)が0.25N/25mm以上0.70N/25mm以下の範囲である、
ダイシングテープ。
【請求項2】
前記基材フィルムは、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO)およびポリアミド樹脂(PA)とを含有した樹脂組成物から構成される樹脂フィルムである、請求項1に記載のダイシングテープ。
【請求項3】
前記活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、前記光重合開始剤として、少なくとも、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)の3種類の系の光重合開始剤を含む、請求項1又は2に記載のダイシングテープ。
【請求項4】
前記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)の各々の含有量は、前記アクリル系粘着性ポリマー100質量部に対して、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)が0.8質量部以上5.0質量部以下の範囲、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)が0.2質量部以上5.0質量部以下の範囲、およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)が0.2質量部以上2.0質量部以下の範囲である、請求項3に記載のダイシングテープ。
【請求項5】
前記無酸素下紫外線照射後粘着力Bに対する有酸素下紫外線照射後粘着力Aの比A/Bが3.00以上5.00以下の範囲である、請求項1~4のいずれか一項に記載のダインシングテープ。
【請求項6】
前記ダイシングテープは、前記粘着剤層上にダイボンドフィルムと、複数の個片化された半導体チップと、が順次積層されたシート状積層体を、-30℃~0℃の温度でエキスパンド(延伸)し、個片化された半導体チップの形状に合わせて前記ダイボンドフィルムを割断するために使用されるものである、請求項1~5のいずれか一項に記載のダイシングテープ。
【請求項7】
前記ダイシングテープは、前記シート状積層体が貼着されたダイシングテープを、-30℃以上0℃以下の範囲にある温度でエキスパンド(延伸)し、個片化された半導体チップの形状に合わせてダイボンドフィルムを割断した際に、前記ダイボンドフィルムのエッジ部分(四方周囲部分)が粘着剤層から剥離するものである、請求項1~6のいずれか一項に記載のダイシングテープ。
【請求項8】
前記個片化された半導体チップの形状に合わせて割断されたダイボンドフィルムは、前記粘着剤層から剥離した前記ダイボンドフィルムのエッジ部分(四方周囲部分)の面積の割合が、割断されたダイボンドフィルム全体の面積に対して、10%以上45%以下の範囲である、請求項1~7のいずれか一項に記載のダイシングテープ。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のダイシングテープの粘着剤層上に、ダイボンドフィルムが剥離可能に設けられた、ダイシングダイボンドフィルム。
【請求項10】
前記ダイボンドフィルムは、樹脂成分として、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を含む、請求項9に記載のダイシングダイボンドフィルム。
【請求項11】
前記ダイボンドフィルムは、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムである、請求項9又は10に記載のダイシングダイボンドフィルム。
【請求項12】
前記ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムは、80℃でのずり粘度が200Pa・s以上11,000Pa・s以下の範囲である、請求項11に記載のダイシングダイボンドフィルム。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか一項に記載のダイシングテープを使用する、半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造工程で使用することのできるダイシングテープおよびダイシングダイボンドフィルムならびにそのダイシングテープを使用する、半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造においては、ダイシングテープや、該ダイシングテープとダイボンドフィルムとが一体化されたダイシングダイボンドフィルムが使用される。
【0003】
ダイシングテープは、基材フィルム上に粘着剤層が設けられた形態をしており、半導体ウエハのダイシング時にダイシングにより個片化された半導体チップが飛散しないよう固定保持する用途に用いられる。個片化された半導体チップは、その後、ダイシングテープの粘着剤層から剥離され、別途準備した接着剤や接着フィルムを介してリードフレームや配線基板、あるいは別の半導体チップ等の被着体に固着される。
【0004】
ダイシングダイボンドフィルムは、ダイシングテープの粘着剤層上にダイボンドフィルム(以下、「接着フィルム」あるいは「接着剤層」と称する場合がある)が剥離可能に設けられたものである。半導体装置の製造において、ダイシングダイボンドフィルムは、ダイボンドフィルム上に個片化された又はされていない半導体ウエハを配置・貼着して個々のダイシングダイボンドフィルム付き半導体チップを得るために用いられる。ダイボンドフィルム付き半導体チップは、その後、ダイシングテープの下面側から突き上げ治具(例えば突き上げピン)を用いて突き上げることにより、ダイボンドフィルムと共にダイシングテープの粘着剤層から剥離(ピックアップ)され、ダイボンドフィルムを介してリードフレームや配線基板、あるいは別の半導体チップ等の被着体に固着される。
【0005】
上記ダイシングダイボンドフィルムは、生産性向上の観点から好適に用いられるが、ダイシングダイボンドフィルムを使用してダイボンドフィルム付き半導体チップを得る方法として、近年では、従来の高速回転するダイシングブレードによるフルカット切断方法に取って代わり、薄膜化する半導体ウエハをチップに個片化する際のチッピングが抑制できるとして、SDBG(Stealth Dicing Before Griding)と呼ばれる方法が提案されている。
【0006】
この方法では、まず、バックグラインドテープに半導体ウエハを貼り付け、半導体ウエハのダイシング予定ラインに沿って、該半導体ウエハの内部にレーザー光を照射して、半導体ウエハを完全に切断せずに、半導体ウエハの表面から所定の深さ位置に、選択的に改質領域を形成し、その後、研削量を適宜調整しながら所定の厚さまで裏面研削を行い、研削ホイールの研削負荷により、バックグラインドテープ上で複数の半導体チップに個片化する。その後、バックグラインドテープ上の個片化された複数の半導体チップをダイシングダイボンドフィルムに貼り付け、バックグラインドテープからダイシングダイボンドフィルムへ転写し、低温下(例えば、-30℃~0℃)にてダイシングテープをエキスパンド(以下、「クールエキスパンド」と称する場合がある)することにより、低温で脆性化されたダイボンドフィルムを個々の半導体チップの形状に従い割断する。最後にダイシングテープの粘着剤層からピックアップにより剥離して、ダイボンドフィルム付き半導体チップを得ることができる。
【0007】
上記ピックアップの工程においては、ダイボンドフィルム付き半導体ウエハを割断した後、ダイシングテープを常温付近でエキスパンド(以下、「常温エキスパンド」と称する場合がある)して隣接する個々のダイボンドフィルム付き半導体チップ間の間隔(以下、「カーフ幅」と称する場合がある)を広げ、エキスパンド後にそのエキスパンド状態を解除した際に生じるダイシングテープの半導体チップ保持領域より外側の円周部分における弛みを、ヒートシュリンク(以下、「熱収縮」と称する場合がある)工程により除去し、ダイシングテープを緊張状態にすることにより、上記カーフ幅を維持させた後、割断された個々のダイボンドフィルム付き半導体チップをダイシングテープの粘着剤層から剥離してピックアップすることができる。
【0008】
特許文献1には、粘着剤層がアクリルポリマーを含み、アクリルポリマーは、C9~C11アルキル(メタ)アクリレートの構成単位と、水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位とを含み、C9~C11アルキル(メタ)アクリレートの構成単位を、40モル%~85モル%含む、ダイシングテープが開示されている。特許文献1のダイシングテープは、C9~C11アルキル(メタ)アクリレートを使用することでアクリルポリマーの極性を弱め、粘着剤層のダイボンドフィルムに対する親和性を抑え、ピックアップ工程において少ない突き上げ量でもダイシングテープからダイボンドフィルムを良好に剥離するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、近年では、半導体ウエハの薄型化に伴って、半導体チップの多段積層工程におけるワイヤボンド時にチップ割れが発生し易くなっており、その課題対策として、スペーサ機能を兼ね備えたワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムが提案されている。ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムは、ダイボンディング時にワイヤを隙間なく埋め込む必要があり、上述したリードフレームや配線基板に半導体チップを固着するための従来の汎用ダイボンドフィルムと比較して、厚さが厚く、流動性が高い(高温下での溶融粘度が低い)傾向があるため、このようなワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムを従来のダイシングテープに積層して半導体チップの製造に供した際に、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムが、個片化された半導体チップの大きさに沿って綺麗に割断されない場合がある。この対策の一つとして、従来のダイシングテープよりも低温下における引張応力が大きい基材を用いたダイシングテープを適用して、ダイシングテープに密着しているダイボンドフィルムに対し、クールエキスパンドされるダイシングテープから十分な割断力(外部応力)を作用させる方法が考えられる。しかしながら、この方法においては、以下の新たな問題がある。
【0011】
すなわち、上述したクールエキスパンド工程において、ダイシングテープに密着しているダイボンドフィルムに対し、クールエキスパンドされるダイシングテープから割断力(外部応力)を作用させるところ、ダイシングテープの低温下における引張応力が十分であると、ダイボンドフィルムは、例え上記の割断しにくいワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムであっても、個片化された半導体チップの大きさに沿って綺麗に割断される。しかしながらその一方で、ダイボンドフィルムの割断時の衝撃に加え、割断直後のエキスパンドにより該ダイボンドフィルムから離れる方向の応力も半導体チップ間のダイシングテープ部分に集中的に生じるため、半導体チップ間の距離が広げられるとともに、個片化された半導体チップの大きさに対応したそのダイボンドフィルムにおいて、ダイボンドフィルムのエッジ部分(四方周囲部分)がダイシングテープの粘着剤層から部分的に剥離する場合がある。半導体チップ表面に予め形成される配線回路が多層化するほど、当該配線回路と半導体チップの材料との熱膨張率差も一因となって半導体チップが反りやすくなるため、上記のダイボンドフィルムのエッジ部分のダイシングテープの粘着剤層からの部分的な剥離が助長されやすい傾向がある。
【0012】
ダイシングテープの粘着剤層が活性エネルギー線(例えば紫外線)硬化性の粘着剤組成物から構成される場合、ダイシングテープからダイボンドフィルム付き半導体チップをピックアップする前に、粘着剤層の粘着力を低下させるために、紫外線を照射して粘着剤層を硬化させる。しかしながら、上記したように、ダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムのエッジ部分がダイシングテープの粘着剤層から剥離していると、剥離している部分において粘着剤層が空気中の酸素に触れることにより、紫外線を照射しても、成長ポリマーラジカルと酸素との反応が起こり重合連鎖の成長が停止し、活性エネルギー線硬化性の粘着剤組成物の重合が阻害されるため、粘着剤層が十分に硬化しない場合がある。このような場合、粘着剤層の粘着力が十分に低下しないため、ピックアップ工程において、突き上げ治具上に位置する、ダイシングテープ上のダイボンドフィルム付き半導体チップに対して、その上部からピックアップ用の吸着コレットを該半導体チップ表面に接触・着地させた時に、ダイシングテープの粘着剤層から剥離していたダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムのエッジ部分が、紫外線照射による硬化が不十分な粘着剤層に、ダイシングテープの下面側からの治具突き上げおよび吸着コレットによる吸引・持ち上げによっても、ダイボンドフィルム付き半導体チップを粘着剤層2から容易に剥離できない程度にまで強く再固着してしまい、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップが阻害される。
【0013】
反面、ダイボンドフィルムに対する粘着剤層の粘着力を強化することで、上記部分的な剥離をなくすることも考えられるが、この場合、ピックアップ時に紫外線照射後の粘着剤層からダイボンドフィルムを剥離するのに要する力もより大きくなり、ピックアップ性は低下する傾向となるため、良策とは言えない。
【0014】
上記ピックアップ工程において、ダイシングテープの下面側からの治具突き上げによりダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムを、ダイシングテープの紫外線照射後の粘着剤層から剥離する際に、治具の突き上げ量の増大とともにダイボンドフィルムのエッジ部分から剥離が開始し、その後、エッジ部分から中心部に向かって剥離が進行するが、通常は最初のエッジ部分の剥離に要する力、言い換えれば剥離のきっかけを作るのに要する力が最も大きい。
【0015】
このような観点からすれば、ピックアップ工程前の上記エキスパンド工程で既に形成されたダイボンドフィルムのエッジ部分の剥離は、一見、ピックアップ工程における剥離の進行にとって有利に働くとも考えられる。しかしながら、上述したように従来の活性エネルギー線硬化性の粘着剤組成物から構成される粘着剤層に特有の酸素障害による硬化不良という影響により、ピックアップ工程において、突き上げ治具上に位置する、ダイシングテープ上のダイボンドフィルム付き半導体チップに対して、その上部からピックアップ用の吸着コレットを該半導体チップ表面に接触・着地させた時に、ダイシングテープの粘着剤層から剥離していたダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムのエッジ部分が、紫外線照射による硬化が不十分な粘着剤層に、ダイシングテープの下面側からの治具突き上げおよび吸着コレットによる吸引・持ち上げによっても、ダイボンドフィルム付き半導体チップを粘着剤層2から容易に剥離できない程度にまで強く再固着してしまうため、逆に不利に働く。
【0016】
ここで、もし仮に、従来の活性エネルギー線硬化性の粘着剤組成物から構成される粘着剤層と比べて、酸素障害の影響を遥かに受けにくい活性エネルギー線硬化性の粘着剤組成物から構成される粘着剤層を見出すことできれば、ピックアップ工程前のエキスパンド工程において、ダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムのエッジ部分の粘着剤層からの剥離を意図的に形成した場合に、上記再固着による影響を大幅に抑制、すなわち、ダイシングテープの下面側からの治具突き上げおよび吸着コレットによる吸引・持ち上げによって、ダイボンドフィルム付き半導体チップを紫外線照射後の粘着剤層2から容易に剥離できるレベルにまで再固着の力を弱めることができ、従来よりもむしろ割断されたダイボンドフィルムのエッジ部分の剥離に要する力が小さくて済み、良好なピックアップ性が得られる可能性がある。しかしながら、現状においては、そのような酸素による重合阻害を受けにくい活性エネルギー線硬化性の粘着剤組成物から構成される粘着剤層を適用したダイシングテープは見当たらず、このようなエキスパンド工程で形成されたダイボンドフィルムのエッジ部分の剥離を優位に利用することを可能にするダイシングテープの開発に対しては検討の余地があった。
【0017】
本発明は、上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、(1)クールエキスパンドによりダイボンドフィルムが良好に割断されると共に、割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)がダイシングテープの粘着剤層から剥離された状態が形成され、(2)ピックアップ時には、上記の粘着剤層から剥離された状態のダイボンドフィルムのエッジ部分がダイシングテープの紫外線照射後の粘着剤層に、ダイシングテープの下面側からの治具突き上げおよび吸着コレットによる吸引・持ち上げによっても容易に剥離できない程度にまで強く再固着する現象が大幅に抑制され、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ性に優れたダイシングテープおよびダイシングダイボンドフィルム、を提供することにある。また、別の目的とするところは、該ダイシングテープを使用する、半導体装置の製造方法、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、
基材フィルムと、該基材フィルム上に活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層と、を備えたダイシングテープであって、
前記基材フィルムは、0℃におけるMD方向(基材フィルムの製膜時における流れ方向)の5%伸長時弾性率をYMD、0℃におけるTD方向(MD方向に対して垂直な方向)の5%伸長時弾性率をYTDとした時に、それぞれの5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2が165MPa以上260MPa以下の範囲の値を有し、
前記活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマー、光重合開始剤、ならびに、前記水酸基と架橋反応するポリイソシアネート系架橋剤を含み、
前記アクリル系粘着性ポリマーは、12.0mgKOH/g以上40.5mgKOH/gの範囲にある水酸基価を有し、前記ポリイソシアネート架橋剤は、前記アクリル系粘着性ポリマー100質量部に対し、2.4質量部以上7.0質量部の範囲で含み、前記ポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(-NCO)と前記アクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(-OH)との当量比(-NCO/-OH)は、0.14以上1.32以下の範囲内で調整され、
前記ダイシングテープの前記粘着剤層は、23℃におけるステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対する有酸素下紫外線照射後粘着力A(紫外線積算光量:150mJ/m2、剥離角度:90°、剥離速度:300mm/分)が3.50N/25mm以下の範囲であり、23℃におけるステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対する無酸素下紫外線照射後粘着力B(紫外線積算光量:150mJ/m2、剥離角度:90°、剥離速度:300mm/分)が0.25N/25mm以上0.70N/25mm以下の範囲である、ダイシングテープを提供する。
【0019】
ある一形態においては、前記基材フィルムは、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)およびポリアミド樹脂(PA)とを含有した樹脂組成物から構成される樹脂フィルムである。
【0020】
ある一形態においては、前記活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、前記光重合開始剤として、少なくとも、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)の3種類の系の光重合開始剤を含む。
【0021】
ある一形態においては、前記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)の各々の含有量は、前記アクリル系粘着性ポリマー100質量部に対して、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)が0.8質量部以上5.0質量部以下の範囲、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)が0.2質量部以上5.0質量部以下の範囲、およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)が0.2質量部以上2.0質量部以下の範囲である。
【0022】
ある一形態においては、前記無酸素下紫外線照射後粘着力Bに対する有酸素下紫外線照射後粘着力Aの比A/Bが3.00以上5.00以下の範囲である。
【0023】
ある一形態においては、前記ダイシングテープは、前記粘着剤層上にダイボンドフィルムと、複数の個片化された半導体チップと、が順次積層されたシート状積層体を、-30℃~0℃の温度でエキスパンド(延伸)し、個片化された半導体チップの形状に合わせて前記ダイボンドフィルムを割断するために使用されるものである。
【0024】
ある一形態においては、前記ダイシングテープは、前記シート状積層体が貼着されたダイシングテープを、-30℃以上0℃以下の範囲にある温度でエキスパンド(拡張)し、個片化された半導体チップの形状に合わせてダイボンドフィルムを割断した際に、前記ダイボンドフィルムのエッジ部分(四方周囲部分)が粘着剤層から剥離するものである。
【0025】
ある一形態においては、前記個片化された半導体チップの形状に合わせて割断されたダイボンドフィルムは、前記粘着剤層から剥離した前記ダイボンドフィルムのエッジ部分(四方周囲部分)の面積の割合が、割断されたダイボンドフィルム全体の面積に対して、10%以上45%以下の範囲である。
【0026】
また、本発明は、前記ダイシングテープの粘着剤層上に、ダイボンドフィルムが剥離可能に設けられた、ダイシングダイボンドフィルム、を提供する。
【0027】
ある一形態においては、前記ダイボンドフィルムは、樹脂成分として、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を含むことを特徴とする。
【0028】
ある一形態においては、前記ダイボンドフィルムは、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムである。
【0029】
ある一形態においては、前記ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムは、80℃でのずり粘度が200Pa・s以上11,000Pa・s以下の範囲である。
【0030】
また、本発明は、前記ダイシングテープを使用する、半導体装置の製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、(1)クールエキスパンドによりダイボンドフィルムが良好に割断されると共に、割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)がダイシングテープの粘着剤層から剥離された状態が形成され、(2)ピックアップ時には、上記の粘着剤層から剥離された状態のダイボンドフィルムのエッジ部分が、ダイシングテープの紫外線照射後の粘着剤層に、ダイシングテープの下面側からの治具突き上げおよび吸着コレットによる吸引・持ち上げよっても容易に剥離できない程度にまで強く再固着する現象が大幅に抑制され、ピックアップ性に優れたダイシングテープ、が提供される。また、該ダイシングテープを使用する、半導体装置の製造方法、が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本実施の形態が適用されるダイシングテープの基材フィルムの構成の一例を示した断面図である。
【
図2】本実施の形態が適用されるダイシングテープの構成の一例を示した断面図である。
【
図3】本実施の形態が適用されるダイシングテープをダイボンドフィルムと貼り合わせた構成のダイシングダイボンドフィルムの一例を示した断面図である。
【
図4】ダイシングテープの粘着力を測定するための剥離角度自在タイプの粘着・皮膜剥離解析装置を真上から見た概略図である。
【
図5】ダイシングテープの製造方法について説明したフローチャートである。
【
図6】半導体チップの製造方法について説明したフローチャートである。
【
図7】ダイシングダイボンドフィルムの外縁部にリングフレーム(ウエハリング)、ダイボンドフィルム中心部に個片化された半導体ウエハが貼り付けられた状態を示した斜視図である。
【
図8】(a)~(f)は、レーザー光照射により複数の改質領域が形成された半導体ウエハの研削工程および複数の割断された半導体ウエハのダイシングダイボンドフィルムへの貼合工程の一例を示した断面図である。
【
図9】(a)~(f)は、ダイシングダイボンドフィルムが貼合された複数の割断された薄膜半導体ウエハを用いた半導体チップの製造例を示した断面図である。
【
図10】割断されたダイボンドフィルムのエッジ部分(四方周囲部分)がダイシングテープの粘着剤層から部分的に剥離された状態の一例を示した拡大断面図である。
【
図11】割断されたダイボンドフィルムのエッジ部分(四方周囲部分)がダイシングテープの粘着剤層から部分的に剥離された状態を半導体チップの裏面側(基材フィルム側)から観察した拡大平面図である。
【
図12】本実施の形態が適用されるダイシングダイボンドフィルムを用いて製造された半導体チップを用いた積層構成の半導体装置の一態様の模式断面図である。
【
図13】本実施の形態が適用されるダイシングダイボンドフィルムを用いて製造された半導体チップを用いた他の半導体装置の一態様の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、必要に応じて図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0034】
<ダイシングテープおよびダイシングダイボンドフィルムの構成>
図1の(a)~(d)は、本実施の形態が適用されるダイシングテープの基材フィルム1の構成の一例を示した断面図である。本実施の形態のダイシングテープの基材フィルム1は単一の樹脂組成物の単層(
図1の(a)1-A参照)であってもよいし、同一樹脂組成物の複数層から成る積層体(
図1の(b)1-B参照)であってもよいし、異なる樹脂組成物の複数層から成る積層体(
図1の(c)1-C、(d)1-D参照)であってもよい。複数層から成る積層体とする場合、層数は、特に限定されないが、2層~5層の範囲であることが好ましい。
【0035】
図2は、本実施の形態が適用されるダイシングテープの構成の一例を示した断面図である。
図2に示すように、ダイシングテープ10は、基材フィルム1の第1面の上に粘着剤層2を備えた構成を有している。なお、図示はしないが、ダイシングテープ10の粘着剤層2の表面(基材フィルム1に対向する面とは反対側の面)には、離型性を有する基材シート(剥離ライナー)を備えていても良い。基材フィルム1は、0℃におけるMD方向(基材フィルムの製膜時における流れ方向)の5%伸長時弾性率をY
MD、0℃におけるTD方向(MD方向に対して垂直な方向)の5%伸長時弾性率をY
TDとした時に、それぞれの5%伸長時弾性率の平均値(Y
MD+Y
TD)/2が165MPa以上260MPa以下の範囲の値を有する樹脂フィルムから構成される。粘着剤層2を形成する粘着剤としては、例えば、紫外線(UV)等の活性エネルギー線を照射することにより硬化・収縮して被着体に対する粘着力が低下する活性エネルギー線硬化性のアクリル系粘着剤等が使用される。
【0036】
かかる構成のダイシングテープ10は、半導体製造工程においては、例えば、以下のように使用される。ダイシングテープ10の粘着剤層2上に、ブレードにより表面に分割溝が形成された半導体ウエハ又はレーザーにより内部に改質層が形成された半導体ウエハに対して裏面研削して得られる、複数の個片化された半導体チップを、ダイボンドフィルム(接着剤層)を介して貼り付けて保持(仮固定)し、クールエキスパンドにより、ダイボンドフィルムを個片化された個々の半導体チップの形状に従って割断した後、常温エキスパンドおよびヒートシュリンク工程により半導体チップ間のカーフ幅を十分に拡張し、ピックアップ工程により、個々のダイボンドフィルム付き半導体チップをダイシングテープ10の粘着剤層2から剥離する。得られたダイボンドフィルム付き半導体チップは、リードフレームや配線基板、あるいは別の半導体チップ等の被着体に固着させる。
【0037】
図3は、本実施の形態が適用されるダイシングテープ10をダイボンドフィルム(接着フィルム)3と貼り合わせて一体化した構成、いわゆるダイシングダイボンドフィルムの一例を示した断面図である。
図3に示すように、ダイシングダイボンドフィルム20は、ダイシングテープ10の粘着剤層2の上にダイボンドフィルム(接着フィルム)3が剥離可能に密着、積層された構成を有している。
【0038】
かかる構成のダイシングダイボンドフィルム20は、半導体製造工程においては、例えば、以下のように使用される。ダイシングダイボンドフィルム20の、ダイボンドフィルム3上に、ブレードにより表面に分割溝が形成された半導体ウエハ又はレーザーにより内部に改質層が形成された半導体ウエハに対して裏面研削して得られる、複数の個片化された半導体チップを貼り付けて保持(接着)し、クールエキスパンドにより、低温で脆性化されたダイボンドフィルム3を個片化された個々の半導体チップの形状に従って割断し、個々のダイボンドフィルム付き半導体チップを得る。次いで、常温エキスパンドおよびヒートシュリンク工程によりダイボンドフィルム付き半導体チップ間のカーフ幅を十分に拡張した後、ピックアップ工程により、個々のダイボンドフィルム付き半導体チップをダイシングテープ10の粘着剤層2から剥離する。得られたダイボンドフィルム(接着フィルム)3付き半導体チップを、ダイボンドフィルム(接着フィルム)3を介してリードフレームや配線基板、あるいは別の半導体チップ等の被着体に固着させる。なお、図示はしないが、ダイシングテープ10の粘着剤層2の表面(基材フィルム1に対向する面とは反対側の面)およびダイボンドフィルム3の表面(粘着剤層2に対向する面とは反対側の面)には、それぞれ離型性を有する基材シート(剥離ライナー)を備えて使用の際に適宜剥離しても良い。
【0039】
<ダイシングテープ>
(基材フィルム)
本発明のダイシングテープ10における第一の構成要件である基材フィルム1について、以下説明する。
【0040】
[基材フィルムの0℃における5%伸長時弾性率]
上記基材フィルム1は、0℃におけるMD方向(基材フィルムの製膜時における流れ方向)の5%伸長時弾性率をYMD、0℃におけるTD方向(MD方向に対して垂直な方向)の5%伸長時弾性率をYTDとした時に、それぞれの5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2が165MPa以上260MPa以下の範囲の値を有する樹脂フィルムである。上記基材フィルム1の0℃における5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2は、190MPa以上240MPa以下の範囲であることが好ましい。
【0041】
上記基材フィルム1の0℃における5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2が165MPa未満である場合、ダイシングテープ10をエキスパンドしても割断されたダイボンドフィルムから離れる方向の応力が作用しにくくなるため、割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態が形成されないおそれがある。また、低温において、ダイシングテープ10にエキスパンドにより外部応力を加えてもダイボンドフィルム3に十分に伝わらないため、特にワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムを用いる場合、クールエキスパンド工程においてダイボンドフィルム3が良好に割断されないおそれがある。さらに、上記(YMD+YTD)/2の値が過剰に小さい場合、ダイシングテープ10が軟質となり、取扱が困難となるおそれや、カーフ幅を十分に確保できないおそれがある。その結果、従来に比してピックアップ性向上の効果が見られない、あるいはピックアップ性が低下する。
【0042】
一方、上記基材フィルム1の0℃における5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2が260MPaを超える場合、ダイシングテープ10のエキスパンドが困難となるおそれがある。仮にエキスパンドすることができたとしても、エキスパンド中にダイボンドフィム3が粘着剤層2から過度に剥離してしまい、ダイボンドフィルム3に粘着剤層2を介して十分な外部応力を全体にわたって略均一に与えることができずに、ダイボンドフィルム3を綺麗に割断できないおそれや、カーフ幅を十分に確保できない、あるいはカーフ幅がばらつくおそれがある。また、ピックアップ工程において、過度に剥離したダイボンドフィルムが粘着剤層2に再固着した際にはその再固着面積が過度に大きくなるため、粘着剤層2が本発明の要件を満たす活性エネルギー線硬化性の粘着剤組成物から構成されていたとしても、ダイシングテープ10の下面側からの治具突き上げによって剥離するためには、その大きな再固着面積に応じた大きなエネルギーを要するおそれがある。その結果、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ性が低下する。
【0043】
上記基材フィルム1の0℃における5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2が165MPa以上260MPa以下の範囲にあることで、ダイシングテープ10は、クールエキスパンド工程において、後述する特定の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層2上に密着しているダイボンドフィルム3を割断するのに十分な外部応力をダイボンドフィルム3に与えることができるとともに、ダイシングテープ10の粘着剤層2に対して、割断されたダイボンドフィムにおけるエッジ部分と粘着剤層2との間に適度な剥離状態を意図的に形成するのに必要なダイボンドフィルム3から離れる方向の応力を与えることができる。また、この場合、上記ダイボンドフィルム3および粘着剤層2に与えられる応力は適度に抑制されているので、割断されたダイボンドフィムは粘着剤層2から過度に剥離することはなく、カーフ幅を十分に確保でき、半導体チップ同士の衝突による損傷及び粘着剤層2上の固定位置からのずれ等を回避することもできる。この場合、粘着剤層2が本発明の要件を満たす活性エネルギー線硬化性の粘着剤組成物から構成されていると、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ性を従来よりも優れたものとすることができる。
【0044】
本発明における上記基材フィルム1の0℃におけるMD方向の5%伸長時弾性率YMDおよびTD方向の5%伸長時弾性率YTDは、以下の方法で測定される。具体的には、まず、MD方向測定用の試料(試料数N=5)として長さ100mm(MD方向)、幅10mm(TD方向)の形状の試験片、TD方向測定用の試料(試料数N=5)として長さ100mm(TD方向)、幅10mm(MD方向)の形状の試験片をそれぞれ用意した。続いて、ミネベアミツミ株式会社製の引張圧縮試験機(型式:MinebeaTechnoGraph TG-5kN)を用いて、試験片の長手方向の両端をチャック間初期距離20mmとなるようにチャックで固定し、試験片をミネベアミツミ株式会社製の恒温槽(型式:THB-A13-038)内で0℃にて1分間置いた後に、100mm/分の速度で引張試験を行い、引張荷重-伸長曲線を求める。そして、得られた引張荷重-伸長曲線から、原点(伸張開始点)と、原点から1.0mm伸長(チャック間初期距離20mmに対して5%伸長)した時に対応する曲線上の引張荷重値(単位:N)の点とを結んだ直線の傾きを算出して、下記式
【0045】
5%伸長時時弾性率Y(単位:MPa)=(傾き)×[(チャック間初期距離)/(試験片の断面積)]
【0046】
より基材フィルム1の5%伸長時弾性率Yを求める。
それぞれの方向について試料数N=5にて測定を行い、その平均値をそれぞれMD方向の5%伸張時弾性率YMDおよびTD方向の5%伸長時弾性率YTDとする。本発明における上記基材フィルム1の0℃における5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2は、上記のそれぞれの値を用いて算出される値である。
【0047】
[基材フィルムを構成する樹脂組成物]
上記基材フィルム1を構成する樹脂組成物としては、上記基材フィルム1の0℃における5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2が、上記の範囲内である限り、特に限定されないが、エキスパンド性および熱収縮性の両立の観点から、熱可塑性架橋樹脂を含む樹脂組成物であることが好ましい。該樹脂組成物としては、具体的には、例えば、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(以下、単に「アイオノマー」と称する場合がある)から成る熱可塑性架橋樹脂(IO)を含有した樹脂組成物やエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)およびポリアミド樹脂(PA)とを含有した樹脂組成物等が挙げられる。これらの樹脂組成物を用いて製膜された樹脂フィルムを基材フィルム1として好適に供することができる。これら樹脂組成物の中でも、上記基材フィルムを用いたダイシングテープ10として特にワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムの適用にも対応する必要があるところ、低温エキスパンド性と熱収縮性の両物性のバランスにより優れたダイシングテープ10の提供を可能とする、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(以下、単に「アイオノマー」と称する場合がある)から成る熱可塑性架橋樹脂(IO)およびポリアミド樹脂(PA)とを含有した樹脂組成物が好適である。
【0048】
上記基材フィルム1全体におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)との合計量は、上記の基材フィルム1の0℃における5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2が、上記の範囲内である限り、特に限定されないが、基材フィルム1全体を構成する樹脂組成物全量に対して、65質量%以上100質量%以下の割合で占めることが好ましい。より好ましくは75質量%以上100質量%以下、特に好ましくは85質量%以上100質量%以下である。
【0049】
このような構成の基材フィルム1を用いたダイシングテープ10は、その粘着剤層2上にダイボンドフィルム3が密着された形態において、低温下で延伸することによりダイボンドフィルム3に適切な割断力(外部応力)を作用させることができるので、半導体装置の製造工程のクールエキスパンド工程さらには常温エキスパンド工程で使用するのに好適である。すなわち、クールエキスパンド工程により、すでに個片化された半導体チップ個々の形状に従い、ダイボンドフィルム3を良好に割断させて、所定のサイズの個々のダイボンドフィルム付き半導体チップを歩留まり良く得るのに好適である。そして、ダイボンドフィルム3の割断直後に連続するダイシングテープ10のクールエキスパンドにより、ダイシングテープ10の粘着剤層2に対して、個々の割断されたダイボンドフィルムから離れる方向の適度な応力も作用させることができるので、個々の割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態を適度に、且つ意図的に形成するのに好適である。さらに、常温エキスパンド工程においても、半導体チップ間のカーフ幅を十分に確保する上で必要な拡張性を維持する。
【0050】
[エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)とを含有した樹脂組成物]
本発明における上記基材フィルム1としては、上述したように、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)およびポリアミド樹脂(PA)とを含有した樹脂組成物から構成される樹脂フィルムが好ましい態様として挙げられる。これらのエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)およびポリアミド樹脂(PA)について、以下説明する。
【0051】
〔エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)〕
本実施の形態の基材フィルム1において、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のカルボキシル基の一部、または全てが金属(イオン)で中和(架橋)された樹脂である。なお、以下の説明において、「エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂」を、「アイオノマーから成る樹脂」、または、単に「アイオノマー」と表記する場合がある。
【0052】
上記アイオノマーを構成するエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸とが共重合した少なくとも二元の共重合体であり、さらに第3の共重合成分が共重合した三元以上の多元共重合体であってもよい。なお、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、一種単独で用いてもよく、2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体を併用してもよい。
【0053】
上記エチレン・不飽和カルボン酸二元共重合体を構成する不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等の炭素数4~8の不飽和カルボン酸などが挙げられる。特に、アクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。
【0054】
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体が三元以上の多元共重合体である場合、上記二元共重合体を構成するエチレンと不飽和カルボン酸以外に、多元共重合体を形成する第3の共重合成分を含んでもよい。第3の共重合成分としては、不飽和カルボン酸エステル(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等のアルキル部位の炭素数が1~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル)、不飽和炭化水素(例えば、プロピレン、ブテン、1,3-ブタジエン、ペンテン、1,3-ペンタジエン、1-ヘキセン等)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等)、ビニル硫酸やビニル硝酸等の酸化物、ハロゲン化合物(例えば、塩化ビニル、フッ化ビニル等)、ビニル基含有1,2級アミン化合物、一酸化炭素、二酸化硫黄等が挙げられ、これら共重合成分としては、不飽和カルボン酸エステルが好ましい。
【0055】
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の形態は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよく、二元共重合体、三元共重合体のいずれでもよい。中でも、工業的に入手可能な点で、二元ランダム共重合体、三元ランダム共重合体、二元ランダム共重合体のグラフト共重合体あるいは三元ランダム共重合体のグラフト共重合体が好ましく、二元ランダム共重合体または三元ランダム共重合体がより好ましく、エキスパンド性の観点から、拡張時にネッキングしにくい三元ランダム共重合体が特に好ましい。
【0056】
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の具体例としては、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体等の二元共重合体、エチレン・メタクリル酸・アクリル酸2-メチル-プロピル共重合体等の三元共重合体が挙げられる。また、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体として上市されている市販品を用いてもよく、例えば、三井・デュポンポリケミカル社製のニュクレルシリーズ(登録商標)等を使用することができる。
【0057】
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体中における、不飽和カルボン酸エステルの共重合比(質量比)は、1質量%以上20質量%以下の範囲であることが好ましく、エキスパンド工程における拡張性、および耐熱性(ブロッキング、融着)の観点から、5質量%以上15質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0058】
本実施の形態の基材フィルム1において、樹脂(IO)として用いるアイオノマーは、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体に含まれるカルボキシル基が金属イオンによって任意の割合で架橋(中和)されたものが好ましい。酸基の中和に用いられる金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、マンガンイオン等の金属イオンが挙げられる。これら金属イオンの中でも、工業化製品の入手容易性からマグネシウムイオン、ナトリウムイオンおよび亜鉛イオンが好ましく、ナトリウムイオンおよび亜鉛イオンがより好ましい。
【0059】
上記アイオノマーにおけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の中和度は、20モル%以上85モル%以下の範囲であることが好ましく、50モル%以上82%モル%以下の範囲であることがより好ましく、65モル%以上80モル%以下の範囲であることが特に好ましい。上記中和度を20モル%以上とすることで、ダイボンドフィルム3の割断性をより向上することができるとともに、後述するヒートシュリンク工程のおけるダイシングテープ10の熱収縮性も向上することができ、85モル%以下とすることで、フィルムの製膜性をより良好とすることができる。なお、中和度とは、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の有する酸基、特にカルボキシル基のモル数に対する、金属イオンの配合比率(モル%)である。
【0060】
上記アイオノマーから成る樹脂(IO)は、約85~100℃程度の融点を有するが、該アイオノマーから成る樹脂(IO)のメルトフローレート(MFR)は、0.2g/10分以上20.0g/10分以下の範囲であることが好ましく、0.5g/10分以上20.0g/10分以下の範囲であることがより好ましく、0.5g/10分以上18.0g/10分以下の範囲であることが更に好ましい。メルトフローレートが上記範囲内であると、基材フィルム1としての製膜性が良好となる。なお、MFRは、JIS K7210-1999に準拠した方法により190℃、荷重2160gにて測定される値である。
【0061】
本実施の形態の基材フィルム1を構成する樹脂組成物は、上述したエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO)の他に、ポリアミド樹脂(PA)を含むことが好ましい。上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)との質量比率(IO):(PA)は、72:28~95:5の範囲であることが好ましい。上記質量比率となるように混合した樹脂組成物により基材フィルム1を構成することで、該基材フィルム1の0℃における5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2を上述した範囲に調整することが容易となる。上記質量比率(IO):(PA)は、より好ましくは74:26~92:8の範囲、さらに好ましくは80:20~90:10の範囲である。本明細書の数値範囲の上限、および下限は当該数値を任意に選択して、組み合わせることが可能である。
【0062】
〔ポリアミド樹脂(PA)〕
上記ポリアミド樹脂(PA)としては、例えば、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等のカルボン酸と、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、1,4-シクロヘキシルジアミン、m-キシリレンジアミン等のジアミンとの重縮合体、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタム等の環状ラクタム開環重合体、6-アミノカプロン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸の重縮合体、あるいは上記環状ラクタムとジカルボン酸とジアミンとの共重合等が挙げられる。
【0063】
上記ポリアミド樹脂(PA)は、市販品を使用することもできる。具体的には、ナイロン4(融点268℃)、ナイロン6(融点225℃)、ナイロン46(融点240℃)、ナイロン66(融点265℃)、ナイロン610(融点222℃)、ナイロン612(融点215℃)、ナイロン6T(融点260℃)、ナイロン11(融点185℃)、ナイロン12(融点175℃)、共重合体ナイロン(例えば、ナイロン6/66、ナイロン6/12、ナイロン6/610、ナイロン66/12、ナイロン6/66/610など)、ナイロンMXD6(融点237℃)、ナイロン46等が挙げられる。これらポリアミドの中でも、基材フィルム1としての製膜性および機械的特性の観点から、ナイロン6やナイロン6/12が好ましい。
【0064】
上記ポリアミド樹脂(PA)の含有量は、上述したように基材フィルム1全体における上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO)と上記ポリアミド樹脂(PA)との質量比率(IO):(PA)が72:28~95:5の範囲となる量が好ましい。上記ポリアミド樹脂(PA)の質量比率が上記範囲未満の場合、特に上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーの金属イオンによる中和度が低いと、基材フィルム1(ダイシングテープ10)の低温下におけるヤング率の増大の効果が不十分となり、低温下で延伸してもダイボンドフィルム3に適切な割断力(外部応力)を作用させることができないため、ダイボンドフィルム3を綺麗に割断できないおそれがある。また、基材フィルム1(ダイシングテープ10)をエキスパンドしても割断されたダイボンドフィルムから離れる方向の応力が作用しにくくなるため、割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態が形成されないおそれがある。
【0065】
一方、上記ポリアミド樹脂(PA)の質量比率が上記範囲を超える場合、基材フィルム1の樹脂組成物によっては安定な製膜が困難となるおそれがある。また、基材フィルム1の低温下における5%伸長時弾性率の増大が過度となり、ダイシングテープ10のエキスパンドが困難となるおそれがある。また、仮にエキスパンドすることができたとしても、エキスパンド中にダイボンドフィム3が粘着剤層2から過度に剥離してしまい、ダイボンドフィルム3に粘着剤層2を介して十分な外部応力が与えることができずに、ダイボンドフィルム3を綺麗に割断できないおそれや、カーフ幅を十分に確保できない、あるいはカーフ幅がばらつくおそれがある。またさらに、基材フィルム1の柔軟性が損なわれ、ダイシングテープ10の常温エキスパンド工程における拡張性が維持できないおそれや、ダイボンドフィルム付き半導体チップをピックアップする際に、半導体チップの割れ等によるピックアップ不良が発生するおそれがある。上記ポリアミド樹脂(PA)の含有量は、基材フィルム1全体における上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO)と上記ポリアミド樹脂(PA)との質量比率(IO):(PA)が74:26~92:8の範囲となる量であることがより好ましく、80:20~90:10の範囲となる量であることがさらに好ましい。
【0066】
なお、基材フィルム1が複数層から成る積層体である場合、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO)と上記ポリアミド樹脂(PA)との質量比率とは、各層におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)との質量比率と、基材フィルム1(積層体)全体における各層の質量比率とから計算される基材フィルム1(積層体)全体における値を意味する。
【0067】
基材フィルム1全体におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)との質量比率が上記範囲内であると、該基材フィルム1の0℃における5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2を165MPa以上260MPa以下の範囲に調整することが容易となる。その結果、ダイシングテープ10は、クールエキスパンド工程において、後述する特定の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層2上に密着しているダイボンドフィルム3を割断するのに十分な外部応力をダイボンドフィルム3に与えることができるとともに、ダイシングテープ10の粘着剤層2に対して、割断されたダイボンドフィムにおけるエッジ部分と粘着剤層2との間に適度な剥離状態を形成するのに必要なダイボンドフィルム3から離れる方向の応力を与えることができる。また、この場合、上記ダイボンドフィルム3および粘着剤層2に与えられる応力は適度に抑制されているので、割断されたダイボンドフィムは粘着剤層2から過度に剥離することはなく、カーフ幅を十分に確保でき、半導体チップ同士の衝突による損傷及び粘着剤層2上の固定位置からのずれ等を回避することもできる。この場合、粘着剤層2が本発明の要件を満たす活性エネルギー線硬化性の粘着剤組成物から構成されていると、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ性を、従来に比して、より優れたものとすることができる。
【0068】
〔その他〕
上記基材フィルム1を構成する樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の樹脂や各種添加剤が添加されてもよい。上記その他の樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体やポリエーテルエステルアミドを挙げることができる。このようなその他の樹脂は、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO)と上記ポリアミド樹脂(PA)の合計100質量部に対して、例えば20質量部の割合で配合することができる。また、上記添加剤としては、例えば、帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、滑剤、ブロッキング防止剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、発泡剤、発泡助剤、無機充填剤、繊維強化材等を挙げることができる。このような各種添加剤は、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO)と上記ポリアミド樹脂(PA)の合計100質量部に対して、例えば5質量部の割合で配合することができる。
【0069】
[基材フィルムの厚さ]
上記基材フィルム1の厚さは、特に限定されないが、ダイシングテープ10として用いることを考慮すると、例えば、70μm以上120μm以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは70μm以上110μm以下の範囲である。基材フィルム1の厚さが70μm未満であると、ダイシングテープ10をダイシング工程に供する際に、リングフレーム(ウエハリング)の保持が不十分となるおそれがある。また基材フィルム1の厚さが120μmより大きいと、基材フィルム1の製膜時の残留応力の開放による反りが大きくなるおそれがある。
【0070】
[基材フィルムの層構成]
上記基材フィルム1の層構成は、特に限定されず、単一の樹脂組成物の単層であってもよいし、同一樹脂組成物の複数層から成る積層体であってもよいし、異なる樹脂組成物の複数層から成る積層体であってもよい。複数層から成る積層体とする場合、層数は、特に限定されないが、2層以上5層以下の範囲であることが好ましい。
【0071】
上記基材フィルム1を複数層から成る積層体とする場合、例えば、本実施の形態の樹脂組成物を用いて製膜される層が複数積層された構成であってもよいし、本実施の形態の樹脂組成物を用いて製膜される層に、本実施の形態の樹脂組成物以外の他の樹脂組成物を用いて製膜される層が積層された構成であってもよい。
【0072】
上記他の樹脂組成物を用いて製膜される層は、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、エチレン-αオレフィン共重合体、ポリプロピレン、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル三元共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体、エチレン・ビニルエステル共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・一酸化炭素共重合体、あるいはこれらの不飽和カルボン酸グラフト物から選ばれる、単体もしくは任意の複数からなるブレンド物、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(IO)等の樹脂組成物を用いて製膜される層が挙げられる。これらの中でも、本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る樹脂層との密着性および汎用性の観点からは、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル三元共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体およびこれら共重合体のアイオノマー、エチレン-αオレフィン共重合体等が好ましい。
【0073】
本実施の形態の基材フィルム1が積層構成から成る場合の例として、具体的には、以下の2層構成や3層構成等の基材フィルムが挙げられる。
【0074】
2層構成としては、例えば、
(1)[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第1樹脂層]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第2樹脂層)]、
(2)[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第1樹脂層]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO2)とポリアミド樹脂(PA2)の混合物から成る第2樹脂層]、
(3)[エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)から成る第1樹脂層]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第2樹脂層]、
(4)[エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体から成る樹第1脂層]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第2樹脂層]、
等の同一樹脂層または異種樹脂層から成る2層構成([第1樹脂層]/[第2樹脂層])が挙げられる。
【0075】
3層構成としては、例えば、
(5)[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第1樹脂層]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第2樹脂層]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第3樹脂層]、
(6)[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第1樹脂層]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO2)とポリアミド樹脂(PA2)の混合物から成る第2樹脂層]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第3樹脂層]、
(7)[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第1樹脂層]/[エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)から成る第2樹脂層]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第3樹脂層]、
(8)[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第1樹脂層]/[エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体から成る第2樹脂層]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第3樹脂層]、
(9)[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第1樹脂層]/[エチレン-αオレフィン共重合体から成る第2樹脂層]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第3樹脂層]、
等の同一樹脂層または異種樹脂層から成る3層構成([第1樹脂層]/[第2樹脂層]/[第3樹脂層])が挙げられる。
【0076】
[基材フィルムの製膜方法]
本実施の形態の基材フィルム1の製膜方法としては、従来から慣用の方法を採用することができる。アイオノマー樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)、必要に応じて他の成分を加えて溶融混錬した樹脂組成物を、例えば、Tダイキャスト成形法、Tダイニップ成形法、インフレーション成形法、押出ラミネート法、カレンダー成形法等の各種成形方法により、フィルム状に加工すればよい。また、基材フィルム1が複数層から成る積層体の場合は、各層をカレンダー成型法、押出法、インフレーション成型法等の手段によって別々に製膜し、それらを熱ラミネートもしくは適宜接着剤による接着等の手段で積層することにより積層体を製造することができる。上記接着剤としては、例えば、前述の各種エチレン共重合体、あるいはこれらの不飽和カルボン酸グラフト物から選ばれる、単体もしくは任意の複数からなるブレンド物等が挙げられる。また、各層の樹脂組成物を共押出ラミネート法により同時に押出して積層体を製造することもできる。なお、基材フィルム1の粘着剤層2と接する側の面は、後述する粘着剤層2との密着性向上を目的として、コロナ処理またはプラズマ処理等が施されてもよい。また、基材フィルム1の粘着剤層2と接する側の面と反対側の面は、基材フィルム1の製膜時の巻き取りの安定化や製膜後のブロッキングの防止を目的として、シボロールによるエンボス処理等が施されてもよい。
【0077】
(粘着剤層)
本発明のダイシングテープ10における第二の構成要件である活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層2について、以下説明する。
【0078】
上記粘着剤層2は、上述したように活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマー、光重合開始剤、ならびに、前記水酸基と架橋反応するポリイソシアネート系架橋剤を含む活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有して成る。上記活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物においては、12.0mgKOH/g以上40.5mgKOH/gの範囲にある水酸基価を有するアクリル系粘着性ポリマー100質量部に対し、ポリイソシアネート架橋剤を、2.4質量部以上7.0質量部の範囲で含み、上記ポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(-NCO)と上記アクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(-OH)との当量比(-NCO/-OH)が0.14以上1.32以下の範囲内で調整されている。そして、ダイシングテープ10の上記粘着剤層2は、23℃において、3.50N/25mm以下の範囲のステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対する有酸素下紫外線照射後粘着力Aおよび0.25N/25mm以上0.70N/25mm以下の範囲のステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対する無酸素下紫外線照射後粘着力Bを有する。
【0079】
[アクリル系粘着性ポリマー]
活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物に主成分として含まれるアクリル系粘着性ポリマーは、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーであり、12.0mgKOH/g以上40.5mgKOH/gの範囲にある水酸基価を有する。該アクリル系粘着性ポリマーは、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物の全質量において、90質量%以上100質量%以下の割合で占めることが好ましく、95質量%以上100質量%以下の割合で占めることがより好ましい。
【0080】
上記活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、詳細は後述するが、通常、ベースポリマーとして(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と水酸基含有単量体とを共重合して共重合体(水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマー)を得、その共重合体が有する水酸基に対して付加反応することが可能なイソシアネート基および炭素-炭素二重結合を有する化合物(活性エネルギー線反応性化合物)を付加反応させる方法により得られる。
【0081】
上記水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーの主鎖(主骨格)は、上述のように、共重合体成分として、少なくとも(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と水酸基含有単量体とを含む共重合体から構成される。上記水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーの主鎖のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、-65℃以上-45℃以下の範囲であることが好ましい。ここで、ガラス転移温度(Tg)は、アクリル系粘着性ポリマーを構成するモノマー(単量体)成分の組成に基づいて、下記一般式(1)に示すFoxの式より算出される理論値である。
【0082】
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wn/Tgn 一般式(1)
【0083】
[上記一般式(1)中、Tgはアクリル系粘着性ポリマーのガラス転移温度(単位:K)であり、Tgi(i=1、2、・・・n)は、モノマーiがホモポリマーを形成した際のガラス転移温度(単位:K)であり、Wi(i=1、2、・・・n)は、モノマーiの全モノマー成分中の質量分率を表す。]
【0084】
ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)は、例えば「Polymer Handbook」(J.BrandrupおよびE.H.Immergut編、Interscience Publishers)等で見つけることができる。
【0085】
上記水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマー(共重合体)の主鎖のガラス転移温度(Tg)が、-65℃未満の場合は、特に後述する架橋剤の添加量が少ないと、該共重合体らを含む粘着剤層2が過度に柔らくなり、クールエキスパンドした際に、割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態が形成されないおそれがある。また、紫外線照射後のピックアップ工程において、ダイボンドフィルム付き半導体チップが粘着剤層2から剥離しにくくなるおそれや、ダイボンドフィルム3表面に粘着剤残り(汚染)が生じるおそれがある。その結果、ダイボンドフィルム付き半導体チップの良品歩留まりが低下する。
【0086】
一方、上記ガラス転移温度(Tg)が-45℃を超える場合は、特に後述する架橋剤の添加量が多いと、これらを含む粘着剤層2が過度に硬くなるので、ダイボンドフィルム3に対する濡れ性・追従性が悪くなり、ダイボンドフィルム3に対する初期密着性が悪くなるので、クールエキスパンド工程において、ダイボンドフィム3が粘着剤層2から過度に剥離してしまい、ダイボンドフィルム3に粘着剤層2を介して十分な外部応力が与えることができずに、ダイボンドフィルム3を綺麗に割断できないおそれや、カーフ幅を十分に確保できない、あるいはカーフ幅がばらつくおそれがある。その結果、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ歩留まりが低下する。上記ガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-63℃以上-51℃以下の範囲、より好ましくは-61℃以上-54℃以下の範囲である。
【0087】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、例えば、炭素数6~18のヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、または炭素数5以下の単量体である、ペンチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、2-エチルヘキシルアクリレートを用いることが好ましく、上記水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマー(共重合体)の主鎖を構成する単量体成分全量に対して、40質量%以上85質量%以下の範囲で含むことが好ましい。
【0088】
また、水酸基含有単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12-ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。上記水酸基単量体を共重合する目的は、第一に、上記アクリル系粘着性ポリマーに対して、後述する活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合を付加反応により導入するための付加反応点(-OH)とするため、第二に、上記水酸基と後述するポリイソシアネート系架橋剤のイソシアネート基(-NCO)と反応させて上記アクリル系粘着性ポリマーを高分子量化して、活性エネルギー線照射前の粘着剤層2に凝集力と適度な硬さを付与するための架橋反応点とするため、であるところ、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合をアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基を利用して付加反応により導入する場合は、一つの目安として、上記水酸基単量体の含有量は、共重合体単量体成分全量に対して、例えば16.4質量%以上34.4質量%以下の範囲で調整しておくことが好ましい。すなわち、上記共重合体における水酸基単量体の含有量を上記範囲内で調整しておくことは、本発明の粘着剤組成物に係る構成要件である、アクリル系粘着性ポリマーの水酸基価および後述するポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(-NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(-OH)との当量比(-NCO/-OH)を上述した所定の範囲に制御することが容易になるので、好適である。
【0089】
上記活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、上記水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーを共重合した後に、該共重合体が側鎖に有する水酸基に対して付加反応することが可能なイソシアネート基および炭素-炭素二重結合を有する化合物(活性エネルギー線反応性化合物)を付加反応させる方法により得ることが、その反応追跡の容易さ(制御の安定性)や技術的難易度の観点から、最も好適である。このようなイソシアネート基および炭素-炭素二重結合を有する化合物(活性エネルギー線反応性化合物)としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物が挙げられる。具体的には、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、4-メタクリロイルオキシ-n-ブチルイソシアネート、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、m-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート等が挙げられる。
【0090】
上記付加反応においては、反応が促進されるよう、有機金属触媒の存在下で行われることが好ましい。このような有機金属触媒としては、ジルコニウムを含有する有機化合物、チタンを含有する有機化合物およびスズを含有する有機化合物から選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。有機金属触媒の量は、特に限定されないが、アクリル系粘着性ポリマー100質量部に対して、通常、0.01質量部以上5質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0091】
また、上記付加反応においては、炭素-炭素二重結合の活性エネルギー線反応性が維持されるよう、重合禁止剤を使用することが好ましい。このような重合禁止剤としては、ヒドロキノン・モノメチルエーテルなどのキノン系の重合禁止剤が好ましい。重合禁止剤の量は、特に制限されないが、アクリル系粘着性ポリマー100質量部に対して、通常、0.01質量部以上0.1質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0092】
上記付加反応を行う際には、後に添加するポリイソシアネート系架橋剤により上記アクリル系粘着性ポリマーを架橋させて、さらに高分子量化して、活性エネルギー線照射前の粘着剤層2に凝集力と適度な硬さを付与するために、粘着剤組成物中に所望量のヒドロキシル基が残存するようにしておく必要がある一方で、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度を所望の範囲に制御する必要もある。これら両観点を勘案する必要があるところ、例えば、ヒドロキシル基を側鎖に有する共重合体に対して、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物を反応させる場合、一つの目安として、該(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物は、上記アクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基含有単量体に対して、37モル%~84モル%の範囲の割合となる量を用いて付加反応させることが好ましい。
【0093】
上記アクリル系粘着性ポリマーは、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体および水酸基含有単量体以外に、粘着力、ガラス転移温度(Tg)の調整等を目的として、必要に応じて他の共重合単量体成分が共重合されていてもよい。このような他の共重合単量体成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等のカルボキシル基含有単量体、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物基含有単量体、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のアミド系単量体、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t-ブチルアミノエチル等のアミノ基含有単量体、(メタ)アクリル酸グリシジル等のグリシジル基含有単量体等の官能基を有する単量体が挙げられる。このような官能基を有する単量体の含有量は、特に限定はされないが、共重合単量体成分全量に対して0.5質量%以上30質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0094】
このような水酸基以外の官能基を有する単量体が共重合される場合は、該官能基を利用して上記アクリル系粘着性ポリマーに活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合を導入することもできる。例えば、アクリル系粘着性ポリマーが側鎖にカルボキシル基を有する場合、(メタ)アクリル酸グリシジルや2-(1-アジリジニル)エチル(メタ)アクリレート等の活性エネルギー線反応性化合物と反応させる方法、アクリル系粘着性ポリマーが側鎖にグリシジル基を有する場合は、(メタ)アクリル酸等の活性エネルギー反応性化合物と反応させる方法等により、上記アクリル系粘着性ポリマーに活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合を導入することもできる。但し、水酸基以外の官能基を有する単量体を共重合し、該官能基を利用してアクリル系粘着性ポリマーに活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合を導入する場合は、一つの目安として、同時に共重合される水酸基単量体の含有量は、共重合体単量体成分全量に対して、例えば2.5質量%以上8.4量%以下の範囲で調整しておくことが好ましい。そうすることで、アクリル系粘着性ポリマーの水酸基価、後述するポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(-NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(-OH)との当量比(-NCO/-OH)を上述した所定の範囲に制御することが容易になるので、好適である。
【0095】
さらに、上記官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、凝集力、および耐熱性等を目的として、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、他の共重合単量体成分を含有してもよい。このような他の共重合単量体成分としては、具体的には、例えば、(メタ)アクリロニトリル等のシアノ基含有単量体、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、イソブチレン等のオレフィン系単量体、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系単量体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等のアルコキシ基含有単量体、N-ビニル-2-ピロリドン、N-メチルビニルピロリドン、N-ビニルピリジン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルピリミジン、N-ビニルピペラジン、N-ビニルピラジン、N-ビニルピロール、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルオキサゾール、N-ビニルモルホリン、N-ビニルカプロラクタム、N-(メタ)アクリロイルモルホリン等の窒素原子含有環を有する単量体が挙げられる。これらの他の共重合単量体成分は、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0096】
本実施の形態において、上述した単量体を共重合した水酸基を有する好適な共重合体としては、具体的には、アクリル酸2-エチルヘキシルとアクリル酸2-ヒドロキシエチルとの二元共重合体、アクリル酸2-エチルヘキシルとアクリル酸2-ヒドロキシエチルとメタクリル酸との三元共重合体、アクリル酸2-エチルヘキシルとアクリル酸n-ブチルとアクリル酸2-ヒドロキシエチルとの三元共重合体、アクリル酸2-エチルヘキシルとメタクリル酸メチルとアクリル酸2-ヒドロキシエチルとの三元共重合体、アクリル酸2-エチルヘキシルとアクリル酸n-ブチルとアクリル酸2-ヒドロキシエチルとメタクリル酸との四元共重合体、アクリル酸2-エチルヘキシルとメタクリル酸メチルとアクリル酸2-ヒドロキシエチルとメタクリル酸との四元共重合体等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。そして、これら好適な共重合体に対して、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物として、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを付加反応させて活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーとするのが好適である。
【0097】
このようにして得られた活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、水酸基価が12.0mgKOH/g以上40.5mgKOH/gの範囲である。上記水酸基価が12.0mgKOH/g未満の場合、水酸基価の値が過剰に小さいと、ポリイソシアネート系架橋剤添加後の架橋が不十分となり、活性エネルギー線照射前の粘着剤層2の凝集力が不足するため、ピックアップ時にダイボンドフィルム3に糊残が発生するおそれや、一連の工程終了後にダイシングテープ10をSUS製のリングフレームから剥離した際にリングフレームに糊残が発生するおそれがある。また、活性エネルギー線照射前の粘着剤層2に適度な硬さも付与することができないため、クールエキスパンドした際に、割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態が形成されないおそれがある。その結果、従来に比してピックアップ性向上の効果が見られない、あるいはピックアップ性が低下する。
【0098】
一方、上記水酸基価が40.5mgKOH/gを超える場合、特にポリイソシアネート系架橋剤の添加量が少ないと、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物における架橋反応後の残存水酸基濃度が過度に大きくなり、粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する初期密着性が必要以上に大きくなるおそれがある。この場合、クールエキスパンドした際に、割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態が形成されないおそれがあるとともに、活性エネルギー線照射後のピックアップ工程において、前工程のエキスパンドにより粘着剤層2とダイボンドフィルム3の剥離が生じなかった密着部分において、ダイボンドフィルム付き半導体チップが粘着剤層2から剥離しにくくなるおそれがある。その結果、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ歩留まりが低下する。上記水酸基価は、好ましくは12.5mgKOH/g以上40.1mgKOH/g以下の範囲、より好ましくは12.7mgKOH/g以上30.1mgKOH/g以下の範囲である。
【0099】
上記水酸基価が12.0mgKOH/g以上40.5mgKOH/gの範囲である場合、後述する特定量のポリイソシアネート系架橋剤の添加との組み合わせにより、粘着剤層2に凝集力とともに、適度な硬さおよび極性を付与することができるので、粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する初期密着性を適切に維持する一方で、粘着剤層に活性エネルギー線照射による粘着剤層2の粘着力の低減効果を妨げることなく、クールエキスパンド工程において、割断されたダイボンドフィルム3のエッジ部分に対して、粘着剤層2からの適度な剥離状態を形成することができる。
【0100】
また、上記活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、特に限定されないが、酸価が0mgKOH/g以上9.0mgKOH/g以下の範囲であることが好ましい。酸価が上記範囲内であると、粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する初期密着性を適切に維持する一方で、活性エネルギー線照射による粘着剤層2の粘着力の低減効果を妨げることなく、クールエキスパンド工程において、割断されたダイボンドフィルム3のエッジ部分に対して、粘着剤層2からの適度な剥離状態を形成することが容易となる。上記酸価は、より好ましくは2.0mgKOH/g以上8.2mgKOH/g以下の範囲、さらに好ましくは2.5mgKOH/g以上5.6mgKOH/g以下の範囲である。
【0101】
さらに、上記活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、好ましくは20万以上200万以下の範囲の重量平均分子量Mwを有する。ここで、重量平均分子量Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される標準ポリスチレン換算値を意味する。アクリル系粘着性ポリマーの重量平均分子量Mwが20万未満である場合には、塗工性等を考慮して、数千cP~数万cPの高粘度の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物の溶液を得ることが難しく好ましくない。また、活性エネルギー線照射前の粘着剤層2の凝集力が小さくなって、活性エネルギー線照射後に粘着剤層2からダイボンドフィルム3付半導体チップを脱離する際、ダイボンドフィルム付き半導体ウエハのダイボンドフィルム表面を汚染するおそれがある。また、一連の工程終了後にダイシングテープ10をSUS製のリングフレームから剥離した際にリングフレームに糊残が発生するおそれがある。
【0102】
一方、重量平均分子量Mwが200万を超える場合には、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーを量産的に製造することが難しく、例えば、合成時に活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーがゲル化する場合があり、好ましくない。また、ポリイソシアネート系架橋剤の添加量が多いと、活性エネルギー線照射前の粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する濡れ性・追従性が低下し、初期密着力が低下するため、クールエキスパンド工程において、ダイボンドフィム3が粘着剤層2から過度に剥離してしまい、ダイボンドフィルム3に粘着剤層2を介して十分な外部応力が与えることができずに、ダイボンドフィルム3を綺麗に割断できないおそれや、カーフ幅を十分に確保できない、あるいはカーフ幅がばらつくおそれがある。その結果、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ歩留まりが低下する。上記重量平均分子量Mwは、好ましくは30万以上100万以下の範囲である
【0103】
[架橋剤]
本実施の形態の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、上述した活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーを架橋により高分子量化して、活性エネルギー線照射前の粘着剤層2に凝集力と適度な硬さを付与するためにさらにポリイソシアネート系架橋剤を含有する。上記ポリイソシアネート系架橋剤としては、例えば、イソシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物、トリメチロールプロパンとキシリレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物、トリメチロールプロパンとイソホロンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物等が挙げられる。これらは1種または2種以上組み合わせて使用することができる。これらの中でも、汎用性の観点から、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物およびまたはトリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物が好適に用いられる。
【0104】
トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物としては、東ソー株式会社製のコロネートL-45E、コロネートL-55E、コロネートL(いずれも商品名)や三井化学株式会社製のタケネートD101E(商品名)等の市販品を用いることもできる。また、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物としては、東ソー株式会社製のコロネートHL(商品名)や三井化学株式会社製のタケネートD160N(商品名)等の市販品を用いることもできる。
【0105】
上記ポリイソシアネート系架橋剤は、上述した水酸基価が12.0mgKOH/g以上40.5mgKOH/g以下の範囲である、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマー100質量部に対し、2.4質量部以上7.0質量部の範囲で含み、上記ポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(-NCO)と上記アクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(-OH)との当量比(-NCO/-OH)が、0.14以上1.32以下の範囲となるように調整される。
【0106】
上記当量比(-NCO/-OH)が0.14未満である場合、特にアクリル系粘着性ポリマーの水酸基価が小さいと、活性エネルギー線照射前の粘着剤層2に適度な硬さを付与することができないため、クールエキスパンドした際に、割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態が形成されないおそれがある。その結果、従来に比してピックアップ性向上の効果が見られない、あるいはピックアップ性が低下する。
また、特にアクリル系粘着性ポリマーの水酸基価が大きいと、クールエキスパンドした際に、割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態が形成されないおそれがあるとともに、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物における架橋反応後の残存水酸基濃度が過度に大きくなり、粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する初期密着性が必要以上に大きくなるおそれがある。その結果、活性エネルギー線照射後のピックアップ工程において、前工程のエキスパンドにより粘着剤層2とダイボンドフィルム3の剥離が生じなかった密着部分において、ダイボンドフィルム付き半導体チップが粘着剤層2から剥離しにくくなり、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ歩留まりが低下する。
【0107】
一方、上記当量比(-NCO/-OH)が1.32を超える場合、活性エネルギー線照射前の粘着剤層2が過度に硬くなることにより、活性エネルギー線照射前の粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する濡れ性・追従性が低下し、初期密着力が低下するため、クールエキスパンド工程において、ダイボンドフィム3が粘着剤層2から過度に剥離してしまい、ダイボンドフィルム3に粘着剤層2を介して十分な外部応力が与えることができずに、ダイボンドフィルム3を綺麗に割断できないおそれや、カーフ幅を十分に確保できない、あるいはカーフ幅がばらつくおそれがある。また、粘着剤層2の剛性が大きくなることによりダイシンングテープ10の曲げ弾性率が大きくなり、ピックアップ工程において、ダイシングテープ10を突き上げ治具により突き上げてもダイシングテープ10の湾曲が小さく、ダイボンドフィルム付き半導体チップの四方端部の粘着剤層2からの剥離が助長されにくくなるおそれがある。その結果、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ歩留まりが低下する。また、粘着剤層2のSUS製のリングフレームに対する粘着力が不足し、ダイシングテープ10のエキスパンド中に、ダイシングテープ10がSUS製のリングフレームから剥離してしまい、エキスパンド工程を正常に行えないおそれがある。
【0108】
このように、上記ポリイソシアネート系架橋剤の添加量および上記当量比(-NCO/-OH)が調整された活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層2は、クールエキスパンド時の低温環境において、ダイボンドフィルム3が割断された瞬間にダイボンドフィルムのエッジ部とその直下の粘着剤層2との界面に適度な衝撃を伝えることができる硬さ、およびダイボンドフィルム3から離れる方向の応力を伝えることができる凝集力とを有するとともに、ダイボンドフィルム3に対する適度な初期密着力を有することができる。したがって、上述した基材フィルム1に上記粘着剤層2が積層されたダイシングテープ10を、クールエキスパンド工程に供することにより、ダイボンドフィルム3を綺麗に割断することができるとともに、割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態を適度に、且つ意図的に形成することができる。上記当量比(-NCO/-OH)は、好ましくは0.30以上0.90以下の範囲である。
【0109】
ここで、上記ポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(NCO)と上記アクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)は、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物中におけるポリイソシアネート系架橋剤の含有量と該ポリイソシアネート系架橋剤の1分子あたりのイソシアネート基の平均個数とから計算により求められるイソシアネート基の全モル数を、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合が導入された後のアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基の全モル数で除した理論計算値である。該水酸基の全モル数は、例えば、ベースポリマーである水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーに対して、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合を導入するために(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物を用いて付加反応させた場合、ベースポリマーであるアクリル系粘着性ポリマーにおける水酸基の全モル数から、添加された(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物のイソシアネート基との架橋反応により理論的に消費される水酸基のモル数(=(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物のイソシアネート基のモル数)を差し引いた値である。
【0110】
また、上記ポリイソシアネート系架橋剤の添加量および上記当量比(-NCO/-OH)が上述した範囲に調整された活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物において、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たりにおける架橋反応後の残存水酸基濃度は、0mmol以上0.60mmol以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは、0.02mmol以上0.40mmol以下の範囲である。ここで、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たりにおける架橋反応後の残存水酸基濃度とは、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基の全モル数から、添加されたポリイソシアネート系架橋剤のイソシアネート基との架橋反応により理論的に消費される水酸基のモル数(=架橋剤のイソシアネート基のモル数)を差し引いた値を活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たりに換算したものである。
【0111】
上記活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たりにおける架橋反応後の残存水酸基濃度が、上記範囲内であると、粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する初期密着力およびSUS製のリングフレームに対する粘着力を適度なものとすることができる。したがって、上述した基材フィルム1に上記粘着剤層2が積層されたダイシングテープ10を、クールエキスパンド工程に供することにより、割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態を適度に、且つ意図的に形成することが容易となる。
【0112】
上記活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物により粘着剤層2を形成した後に、上記ポリイソシアネート系架橋剤と上記水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーとを反応させるためのエージングの条件としては、特に限定はされないが、例えば、温度は23℃以上80℃以下の範囲、時間は24時間以上168時間以下の範囲で適宜設定すれば良い。
【0113】
[光重合開始剤]
本実施の形態の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、活性エネルギー線の照射によりラジカルを発生する光重合開始剤を含む。光重合開始剤は、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物に対する活性エネルギー線の照射を感受して、ラジカルを発生させ、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーが有する炭素-炭素二重結合の架橋反応を開始させる。
【0114】
上記光重合開始剤としては、特に限定されず、従来公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、アルキルフェノン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、オキシムエステル系光重合開始剤等を使用することができる。アルキルフェノン系光重合開始剤としては、α-ヒドロキシアルキルフェノン系ラジカル重合開始剤、α-ヒドロキシアセトフェノン系ラジカル重合開始剤、α-アミノアルキルフェノン系ラジカル重合開始剤、ベンジルメチルケタール系ラジカル重合開始剤等が挙げられる。
【0115】
上記光重合開始剤は、本発明の効果を奏する限りにおいては、単独あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよいが、本実施の形態の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物においては、これら光重合開始剤の中でも、有酸素下紫外線照射後粘着力Aおよび無酸素下紫外線照射後粘着力Bの両方を効果的に低減する観点から、光重合開始剤として、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)の少なくとも3種類の系の光重合開始剤を含むことが好ましい。
【0116】
なお、本発明において「有酸素下紫外線照射後粘着力A」とは、ダイシングテープ10の剥離ライナーを剥離し、粘着剤層2面が空気中に暴露された状態(有酸素下)で、活性エネルギー線としての紫外線を粘着剤層2面に直接照射した後に被着体(SUS304・BA板)に貼り付けた場合に測定される粘着力を意味する。これは、ダイボンドフィルム付き半導体チップをピックアップする際に、粘着剤層2における「エキスパンド時に割断されたダイボンドフィルム3が剥離した部分」に対しては、空気中に暴露された状態で紫外線が照射されることになるため、そのように空気中に暴露された状態で紫外線が照射された後の粘着剤層2にダイボンドフィルム3が再固着された場合のダイボンドフィルム3に対するダイシングテープ10の粘着力をモデル的に想定したものであり、ピックアップ工程における再固着部分の剥離のし易さを表す。該粘着力の値が小さければ小さい程、再固着の力は弱く、ダイシングテープ10の粘着剤層2からからダイボンドフィルム付き半導体チップを剥離し易くなる。
【0117】
また、「無酸素下紫外線照射後粘着力B」とは、ダイシングテープ10の剥離ライナーを剥離し、被着体(SUS304・BA板)に粘着剤層2面を貼り付け、粘着剤層2が空気中に暴露されない状態(無酸素下)で、性エネルギー線としての紫外線をダイシングテープ10の基材フィルム1越しに粘着剤層2に対して照射した後に測定される粘着力を意味する。これは、ダイボンドフィルム付き半導体チップをピックアップする際に、粘着剤層2における「エキスパンド時に割断されたダイボンドフィルム3が剥離せずに密着していた部分」に対しては、空気中に暴露されない状態で紫外線が照射されることになるため、そのように空気中に暴露されない状態で粘着剤層2に紫外線が照射された場合のダイボンドフィルム3に対するダイシングテープ10の粘着力をモデル的に想定したものであり、ピックアップ工程における上記再固着部分以外の密着していた部分の剥離のし易さを表す。該粘着力の値が小さければ小さい程、ダイシングテープ10の粘着剤層2からダイボンドフィルム付き半導体チップを剥離し易くなる。これら粘着力の測定方法の詳細については後述する。
【0118】
上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)としては、具体的には、例えば、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン(商品名:Omnirad907、IGM Resins B.V.社製)あるいは2-ベンジルメチル2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン(商品名:Omnirad369、IGM Resins B.V.社製)、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン(商品名:Omnirad379EG、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。これらは、単独あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0119】
これらの中でも、上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)としては、2-ベンジルメチル2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノンあるいは2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オンが好ましく用いられる。
【0120】
上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)は、特に粘着剤層2の有酸素下紫外線照射後粘着力Aを低減させるのに有効である。しかしながら、その一方で、粘着剤層2の無酸素下紫外線照射後粘着力Bについては、上記光重合開始剤(a)の含有量の増加とともに逆に増大する傾向となるので、後述する無酸素下紫外線照射後粘着力Bの低減に有効な、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)と併用することが好ましく、上記光重合開始剤(a)の含有量も後述する範囲に留めることが好ましい。
【0121】
上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)としては、上述したように、α-ヒドロキシアルキルフェノン系ラジカル重合開始剤、α-ヒドロキシアセトフェノン系ラジカル重合開始剤、ベンジルメチルケタール系ラジカル重合開始剤等が挙げられる。これらは、単独あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0122】
α-ヒドロキシアルキルフェノン系光重合開始剤としては、具体的には、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名:Omnirad184、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。
【0123】
α-ヒドロキシアセトフェノン系光重合開始剤としては、具体的には、例えば、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(商品名:Omnirad1173、IGM Resins B.V.社製)、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(商品名:Omnirad2959、IGM Resins B.V.社製)、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン(商品名:Omnirad127、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。
【0124】
ベンジルメチルケタール系光重合開始剤としては、具体的には、例えば、2,2’-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(例えば、商品名Omnirad651、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。
【0125】
これらの中でも、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)としては、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オンあるいは2,2’-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オンが好ましく用いられる。
【0126】
上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)は、特に粘着剤層2の無酸素下紫外線照射後粘着力Bを低減させるのに有効である。また、有酸素下紫外線照射後粘着力Aについても、その低減効果は、上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)と比較して劣るものの、含有量に応じて、ある一定の低減効果を得ることはできる。したがって、上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)と併用することで、有酸素下紫外線照射後粘着力を低減させる効果をさらに補助的に向上させつつ、無酸素下紫外線照射後粘着力Bを低減させることが容易となる。
【0127】
上記アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)としては、具体的には、例えば、2,4,-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド(商品名OmniradTPO、IGM Resins B.V.社製)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(商品名Omnirad819、IGM Resins B.V.社製)、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド(商品名:OmniradTPO、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。これらは、単独あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0128】
これらの中でも、上記アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)としては、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイドが好ましく用いられる。
【0129】
上記アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)は、光重合開始剤の吸収端が400nm以上の波長まで伸びているため、硬化速度が速く、特に粘着剤層2の無酸素下紫外線照射後粘着力Bをより低減させるのに有効である。また、有酸素下紫外線照射後粘着力Aについても、その低減効果は、上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)と比較して劣るものの、含有量に応じて、ある一定の低減効果を得ることはできる。したがって、上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)および上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)と併用することで、有酸素下紫外線照射後粘着力Aを低減させる効果をさらに補助的に向上させつつ、無酸素下紫外線照射後粘着力Bを低減させる効果をより一層向上させることが容易となる。
【0130】
上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)の少なくとも3種類の系の光重合開始剤を含む、好適な光重合開始剤の組み合わせの具体的な例としては、
(1)光重合開始剤(a):2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン/光重合開始剤(b):1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン/光重合開始剤(c):ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、の3種類の組み合わせ、
(2)光重合開始剤(a):2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン/光重合開始剤(b):2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン/光重合開始剤(c):ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、の3種類の組み合わせ、
(3)光重合開始剤(a):2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン/光重合開始剤(b):1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンおよび2,2’-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン/光重合開始剤(c):ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、の4種類の組み合わせ、
(4)光重合開始剤(a):2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン/光重合開始剤(b):1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンおよび2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン/光重合開始剤(c):ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、の4種類の組み合わせ、
(5)光重合開始剤(a):2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン/光重合開始剤(b):2-ヒドロキシ-1-{4-[4-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オンおよび2,2’-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン/光重合開始剤(c):ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、の4種類の組み合わせ、
等が挙げられる。
【0131】
上述したように、本実施の形態の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)の少なくとも3種類の系の光重合開始剤を含むことが好適であるが、この場合、それぞれの光重合開始剤が有する機能の相乗効果により、(1)無酸素下の状態で粘着剤層2に紫外線が照射された際に、粘着剤組成物に含まれる活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合を有するアクリル系粘着性ポリマーの硬化が、所定の時間内に十分に進行するのはもちろんのこと、(2)有酸素下の状態で粘着剤層2に紫外線が照射された際にも、酸素阻害の影響による硬化速度の低下を大幅に抑制し、粘着剤組成物に含まれる活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合を有するアクリル系粘着性ポリマーの硬化を所定の時間内に所望のレベルまで進行させることが容易となる。その結果、まず、(1)粘着剤層2におけるダイボンドフィルム(接着剤層)3の貼合面(エキスパンド工程後も剥離が無く密着している面)については、紫外線が照射された際に、粘着剤層2に対して、後述する所望の範囲の無酸素下紫外線照射後粘着力Bを与えることが容易となる。そして、さらに、(2)エキスパンド工程により形成された、粘着剤層2における割断されたダイボンドフィルム3の剥離した部分については、紫外線が照射された際に、従来ダイシングテープ10で見られたように、周囲の空気中に含まれる酸素による活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合を有するアクリル系粘着性ポリマーの重合阻害のために粘着力が十分に低下せずに粘着力が高い値に保持されるのを回避しながら、粘着剤層2に対して、後述する所望の範囲の有酸素下紫外線照射後粘着力Aを与えることが容易となる。
【0132】
これにより、ピックアップ工程において、ダイボンドフィルム付き半導体チップをピックアップするために、粘着剤層2への紫外線照射後に、半導体チップ上部から吸着コレットを接触させた時に、前工程のエキスパンドにより粘着剤層2から部分的に剥離されたダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムのエッジ部分が、酸素阻害のために硬化が不十分な粘着剤層2に強固に再固着することによる影響を大幅に抑制することができ、すなわち、ダイシングテープ10の下面側からの治具突き上げによって容易に剥離できるレベルまで再固着の力を弱めることができ、また、粘着剤層2とダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムとの剥離がなく密着している面についても好適な無酸素下紫外線照射後粘着力Bを付与することができるので、以降、良好に粘着剤層2からダイボンドフィルム付き半導体チップをピックアップすることが可能となる。
【0133】
上記光重合開始剤の添加量(2種以上を組み合わせて用いる合は、その合計量)としては、上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーの固形分100質量部に対して、1.2質量部以上12.0質量部以下の範囲であることが好ましい。光重合開始剤の添加量が1.2質量部未満の場合には、活性エネルギー線に対する光反応性が十分ではないために活性エネルギー線を照射してもアクリル系粘着性ポリマーの光ラジカル架橋反応が十分に起こらず、その結果、有酸素下および無酸素下のいずれにおいても紫外線照射後の粘着剤層2における粘着力低減効果が小さくなり、半導体チップのピックアップ不良が増大するおそれがある。一方、光重合開始剤の添加量が12.0質量部を超える場合には、その効果は飽和し、経済性の観点からも好ましくない。また、光重合開始剤の種類によっては、粘着剤層2の無酸素下紫外線照射後粘着力Bが所望の値よりも大きくなり、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ不良が増大する場合がある。
【0134】
ある好ましい3種類の系の光重合開始剤を含む実施形態においては、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)のそれぞれの添加量は、上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーの固形分100質量部に対して、上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)は0.8質量部以上5.0質量部以下の範囲、上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)は、0.2質量部以上5.0質量部以下の範囲、上記アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)は、0.2質量部以上2.0質量部以下の範囲で調整されることが好ましい。
【0135】
上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)の添加量が0.8質量部未満の場合には、粘着剤層2の有酸素下紫外線照射後粘着力Aが所望の値まで低下しないおそれがある。一方、上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)の添加量が5.0質量部を超える場合には、粘着剤層2の無酸素下紫外線照射後粘着力Bが所望の値よりも大きくなるおそれがある。また、ダシングテープ10の保存安定性が悪くなるおそれがある。上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)の添加量が0.2質量部未満の場合には、粘着剤層2の有酸素下および無酸素下の紫外線照射後粘着力が所望の値まで低下しないおそれがある。上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)の添加量が5.0質量部を超える場合には、その効果は飽和し、経済性の観点からも好ましくない。また、ダシングテープ10の保存安定性が悪くなるおそれがある。上記アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)の添加量が0.2質量部未満の場合には、粘着剤層2の有酸素下および無酸素下の紫外線照射後粘着力が所望の値まで低下しないおそれがある。上記アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)の添加量が2.0質量部を超える場合には、その効果は飽和し、経済性の観点からも好ましくない。また、他の光重合開始剤(a)および(b)の添加量によっては、ダシングテープ10の保存安定性が悪くなるおそれがある。
【0136】
上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)のそれぞれの添加量が、上記の範囲内で調整されている場合、上述したように、粘着剤層2は有酸素下および無酸素下のいずれにおいても紫外線が照射されることにより、その粘着力を所望のレベルまで低下させることができ、ピックアップ工程において、粘着剤層2からダイボンドフィルム付き半導体チップを良好にピックアップすることが可能となる。
【0137】
また、かかる光重合開始剤の増感剤として、ジメチルアミノエチルメタクリレート、4―ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等の化合物を、本発明の効果を損なわない範囲において、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物に添加してもよい。
【0138】
[その他]
本実施の形態の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、その他に、活性エネルギー線硬化性化合物(例えば、多官能のウレタンアクリレー系オリゴマー等)、粘着付与剤、充填剤、老化防止剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、界面活性剤、シランカップリング剤、レベリング剤等の添加剤を添加してもよい。
【0139】
[活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度]
本実施の形態の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、特に限定されないが、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度が、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たり0.85meq以上1.50meq以下の範囲となるように調整されることが好ましい。活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たりの活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度が0.85meq未満であると、上述した活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たりにおける架橋反応後の残存水酸基濃度が大きい場合に、紫外線照射後の粘着剤層2の粘着力、特に有酸素下紫外線照射後粘着力Aが十分に低下せず、ピックアップ工程においてダイボンドフィルム付き半導体チップを粘着剤層2から剥離しにくくなるおそれがある。
【0140】
一方、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たりの活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度が1.50meqを超える場合は、その効果は徐々に飽和し、経済的な観点からも好ましくない。また、アクリル系粘着性ポリマーの共重合組成によっては合成する際の重合または反応時にゲル化しやすくなり、合成が困難となる場合がある。なお、アクリル系粘着性ポリマーの炭素-炭素二重結合含有量を確認する場合、アクリル系粘着性ポリマーのヨウ素価を測定することで、炭素-炭素二重結合含有量を算出することができる。
【0141】
活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度が、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たり0.85meq以上1.50meq以下の範囲内であると、上述したように、粘着剤層2は有酸素下および無酸素下のいずれにおいても紫外線が照射されることにより、その粘着力を所望のレベルまで低下させることが容易となり、ピックアップ工程において、粘着剤層2からダイボンドフィルム付き半導体チップを良好にピックアップすることが容易となる。上記活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度は、より好ましくは、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たり0.88meq以上1.46meq以下の範囲である。
【0142】
[粘着剤層の粘着力]
上記ダイシングテープ10の粘着剤層2の23℃におけるステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対する有酸素下紫外線照射後粘着力Aは、3.50N/25mm以下の範囲である。ここで、有酸素下紫外線照射後粘着力Aは、上述したように、割断されたダイボンドフィルム(接着剤層)3のエッジ部が剥離して、空気中に暴露された粘着剤層部分について、周囲空気中酸素による重合阻害のために紫外線照射による粘着力低減効果が十分に得られないことを考慮した、粘着剤層2の紫外線照射後粘着力である。上記有酸素下紫外線照射後粘着力Aは、小さければ小さい程好ましいが、酸素による重合阻害を完全に防ぐことは困難であり、その粘着力低減には限界がある一方で、ダイボンドフィルム付き半導体チップを得るための一連の工程において、当然のことながらダイシングテープ10のダイボンドフィルム(接着剤層)3に対する有酸素下紫外線照射後粘着力A以外の特性も考慮する必要があるところ、本発明の粘着剤層においては、その下限値は、1.25N/25mmに留めておくことが好ましい。また、上記有酸素下紫外線照射後粘着力Aが3.50N/25mmを超える場合には、ピックアップ工程において、粘着剤層2に紫外線を照射した後に、突き上げ治具上に位置する、ダイシングテープ10上のダイボンドフィルム付き半導体チップに対して、その上部からピックアップ用の吸着コレットを該半導体チップ表面に接触・着地させた時に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から剥離していたダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムのエッジ部分が、硬化が不十分な粘着剤層2に、ダイシングテープ10の下面側からの治具突き上げおよび吸着コレットによる吸引・持ち上げによっても、ダイボンドフィルム付き半導体チップを粘着剤層2から容易に剥離できない程度にまで強く再固着してしまい、ダイシングテープ10の下面側から突き上げ治具を用いて突き上げても、エッジ部分からの剥離のきっかけを作り難く、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップが阻害されることがある。さらに突き上げ治具の突き上げ高さ(突き上げ量)を大きくして無理にピックアップしようとすると半導体チップが損傷するリスクが高まる。前記有酸素下紫外線照射後粘着力Aは、好ましくは1.30N/25mm以上3.00N/25mm以下の範囲であり、より好ましくは1.35N/25mm以上2.75N/25mm以下の範囲である。
【0143】
上記有酸素下紫外線照射後粘着力Aが3.50N/25mm以下の範囲である場合、ピックアップ工程において、粘着剤層2に紫外線を照射した後、突き上げ治具上に位置する、ダイシングテープ10上のダイボンドフィルム付き半導体チップに対して、その上部からピックアップ用の吸着コレットを該半導体チップ表面に接触・着地させた時に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から剥離していたダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムのエッジ部分が、紫外線照射による硬化が不十分な粘着剤層2に強固に再固着する現象が大幅に抑制され、すなわち、ダイシングテープ10の下面側からの治具突き上げによってダイボンドフィルム付き半導体チップが粘着剤層2から容易に剥離できるレベルまで再固着の力が弱められ、ダイシングテープ10の下面側から突き上げ治具を用いて突き上げた際に、エッジ部分からの剥離のきっかけを作り易く、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップが阻害されることがない。また、ピックアップ時に半導体チップが損傷するリスクも低くなる。その結果、ピックアップ工程において、紫外線照射後の粘着剤層2からダイボンドフィルム付き半導体チップを良好にピックアップすることが可能となる。
【0144】
上述したように、実際のピックアップ工程において、ダイシングテープ10の粘着剤層2から剥離していたダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムのエッジ部分が、空気中に暴露された状態で紫外線が照射された粘着剤層2に再固着した際に、その再固着の力が従来に比して弱められるのは以下の理由によるものと推察される。すなわち、まず、(1)上記有酸素下紫外線照射後粘着力Aが3.50N/25mm以下のレベルにまで低減された粘着剤層2の表面は、紫外線照射により所望のレベルまで硬化されて、適度な硬さが付与されている。このような本実施の形態の粘着剤層2は、紫外線照射前の粘着剤層2や酸素による重合阻害を受けて硬化が不十分な紫外線照射後の従来の粘着剤層に比して、ダイボンドフィルム3に対する濡れ性・追従性が大幅に抑制されている。一方、(2)実際にダイボンドフィルム付き半導体チップをピックアップする際、ダイシングテープ10の粘着剤層2から剥離していたダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムのエッジ部分が、吸着コレットの半導体チップへの接触・着地により紫外線照射後の粘着剤層2に再固着してから、ダイシングテープ10の下面側から治具によって突き上げられるまでの時間は極めて短い。そうすると、上記有酸素下紫外線照射後粘着力Aが3.50N/25mm以下のレベルにまで低減された本実施の形態の粘着剤層2の表面に対して、剥離していたダイボンドフィルム(接着剤層)のエッジ部分の表面が再度接触したとしても、両層が十分になじむ前に、ダイボンドフィルム付き半導体チップに対してダイシングテープ10の下面側から治具による突き上げがすぐに開始され、ピックアップへと移行されることになる。つまり、再固着した際に、従来のように両層間の粘着力が高い値に保持されるのを回避することができる。
したがって、エキスパンド工程によりダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムのエッジ部分が粘着剤層2から適度に剥離する場合、上記の有酸素下紫外線照射後粘着力Aの低減効果と相まって、割断されたダイボンドフィルム(接着剤層)と粘着剤層がエキスパンド工程により剥離することなく両層が最初に貼合されて以降ずっと密着された状態を経てピックアップ工程に供せられる従来のパターンに比して、最初のダイボンドフィルム付き半導体チップのエッジ部分の剥離に要する力が小さくなったものと考える。
【0145】
本発明における上記有酸素下紫外線照射後粘着力Aは、以下に記載の方法により測定される。まず、ダイシングテープ10とステンレス鋼板(SUS304・BA板)を別々に準備する。ダイシングテープ10は幅(基材フィルム1のTD方向)25mm、長さ(基材フィルム1のMD方向)120mmの大きさに裁断する。次いで、剥離ライナーを剥がしたダイシングテープ10の粘着剤層2面側からメタルハライドランプを用いて、中心波長367nmの紫外線(UV)を照射(照射強度:70mW/cm
2、積算光量:150mJ/cm
2)した後、ステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対し、ダイシングテープ10を粘着剤層2面の端から重さ2kgのゴムローラを使用して、温度23℃、湿度50%RHの環境にて、ゴムローラを約5mm/秒の速度で一往復させて、綺麗に圧着、貼り合わせを行い、測定用試験片とする。20分静置後、該試験片について、
図4に示す剥離角度自在タイプの粘着・皮膜剥離解析装置を用いて粘着力を測定する。まず、ステンレス鋼板4にダイシングテープ10が貼り合わされた測定用試験片を、粘着・皮膜剥離解析装置用の平板クロスステージ5に専用治具を用いて固定・装着し、ダイシングテープ10の端部を掴み治具(図示せず)を備えたロードセル7に固定する。次いで、温度23℃、湿度50%RHの環境にて、
図4(装置を真上から見た概略図)に示すように、アクチュエータ6によって平板クロスステージ5が搭載された回転ステージ8を300mm/分のステージ速度V1でロードセル7と反対の方向(矢印V1方向)に移動させながら、平板クロスステージ5も回転ステージ8上でステージ速度V1と同期した300mm/分の剥離速度V2で剥離角度90°の方向(矢印V2方向)に移動させる。これによって、ダイシングテープ10を、平板クロスステージに固定・装着されたステンレス鋼板4から剥離角度を90°に保ちながら300mm/分の剥離速度で引き剥がすことができる。基材フィルム1とともに粘着剤層2が、ステンレス鋼板4から引き剥がされる際の荷重をロードセル7が感知して粘着力が測定される。以上の方法により、ステンレス鋼板(SUS304・BA板)4に対するダイシングテープ10の剥離角度90°粘着力(単位はN/25mm)を測定する。測定は、試験片3検体について行い、3検体の値の平均値をそのダイシングテープ10の有酸素下紫外線照射後粘着力Aとする。
【0146】
また、上記ダイシングテープ10の粘着剤層2の23℃におけるステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対する無酸素下紫外線照射後粘着力Bは、0.25N/25mm以上0.70N/25mm以下の範囲である。ここで、無酸素下紫外線照射後粘着力Bは、周囲酸素による酸素阻害の影響を考慮しない、粘着剤層2と被着体(ダイボンドフィルム3)との貼合面(剥離することなく密着している面)の紫外線照射後粘着力を表すための粘着力である。ピックアップ性向上の観点から、上記紫外線照射後粘着力Bは、上記範囲内においては小さければ小さい程好ましいが、0.25N/25mm未満である場合には、ダイボンドフィルム付き半導体チップはピックアップの前段階にて、ダイシングテープ10の粘着剤層2上の固定位置から意図せず脱落したり、位置ずれを起こしたりすることがある。また、上記無酸素下紫外線照射後粘着力Bが0.70N/25mmより大きい場合には、ピックアップ工程において、ダイシングテープ10の下面側から突き上げ治具を用いて突き上げても、ダイボンドフィルム3aのエッジ部分の剥離に引き続く中心部へ向けての、粘着剤層2からのダイボンドフィルム3aの剥離が進展しにくく、ピックアップ自体が困難となる場合がある。また、突き上げ治具の突き上げ高さ(突き上げ量)を大きくして無理にピックアップしようとすると半導体チップが損傷するおそれがある。前記無酸素下紫外線照射後粘着力Bは、好ましくは0.30N/25mm以上0.65N/25mm以下の範囲であり、より好ましくは0.35N/25mm以上0.60N/25mm以下の範囲である。
【0147】
上記無酸素下照射後粘着力Bが、0.25N/25mm以上0.70N/25mm以下の範囲である
場合には、ピックアップ工程において、ダイシングテープ10の下面側から突き上げ治具を用いて突き上げた際に、ダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムと粘着剤層2の密着面において、その密着面外周部から中心部へ向けての、粘着剤層2からのダイボンドフィルムの剥離が進展し易く、ピックアップ性が良好となる。また、ピックアップ時に半導体チップが損傷するリスクも低くなる。
【0148】
本発明における上記無酸素下紫外線照射後粘着力Bは、以下に記載の方法により測定される。まず、ダイシングテープ10とステンレス鋼板(SUS304・BA板)を別々に準備する。ダイシングテープ10は幅(基材フィルム1のTD方向)25mm、長さ(基材フィルム1のMD方向)120mmの大きさに裁断する。次いで、ステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対して、剥離ライナーを剥がしたダイシングテープ10の粘着剤層2面の端から重さ2kgのゴムローラを使用して、温度23℃、湿度50%RHの環境にて、ゴムローラを約5mm/秒の速度で一往復させて、綺麗に圧着、貼り合わせる。20分静置後、ダイシングテープ10の基材フィルム1側から、メタルハライドランプを用いて、中心波長367nmの紫外線(UV)を照射(照射強度:70mW/cm
2、積算光量:150mJ/cm
2)し、測定用試験片とする。該試験片について、上述した有酸素下紫外線照射後粘着力Aの測定と同様に
図4に示す剥離角度自在タイプの粘着・皮膜剥離解析装置を用いて、ステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対するダイシングテープ10の剥離角度90°粘着力(単位はN/25mm)を測定する。測定は、試験片3検体について行い、3検体の値の平均値をそのダイシングテープ10の無酸素下紫外線照射後粘着力Bとする。
【0149】
ダイシングテープ10の粘着剤層2の無酸素下紫外線照射後粘着力Bに対する有酸素下紫外線照射後粘着力Aの比A/Bを求め、粘着剤層における酸素による重合阻害の影響を評価することができる。で表される。
【0150】
本実施の形態のダイシングテープ10において、無酸素下紫外線照射後粘着力Bに対する有酸素下紫外線照射後粘着力Aの比A/Bは、本発明の効果を損なわない範囲において、特に限定されないが、3.00以上5.00以下の範囲であることが好ましい。上記無酸素下紫外線照射後粘着力Bに対する有酸素下紫外線照射後粘着力Aの比A/Bが上記範囲内である場合には、ダイシングテープ10のエキスパンド工程により形成された、粘着剤層2における割断されたダイボンドフィルム(接着剤層)3のエッジが剥離した(浮いた)部分について、紫外線が照射された際に、周囲の空気中に含まれる酸素による重合阻害のために粘着力が十分に低下せずに粘着力が高い値に保持されるのを回避することがより容易となり、すなわち、ダイシングテープ10の下面側からの治具突き上げによってより容易に剥離できるレベルまで再固着の力をより弱めることができる。その結果、ダイシングテープ10の下面側から突き上げ治具を用いて突き上げた際に、エッジ部分からの剥離のきっかけをより作り易くなり、最初のダイボンドフィルム付き半導体チップのエッジ部分の剥離に要する力をより小さくすることができるので、紫外線照射後の粘着剤層2からダイボンドフィルム付き半導体チップをより良好にピックアップすることが可能となる。
【0151】
[粘着剤層の厚さ]
本実施の形態の粘着剤層2の厚さは、特に限定されないが、3μm以上30μm以下の範囲であることが好ましく、5μm以上20μm以下の範囲がより好ましく、8μm以上15μm以下の範囲が特に好ましい。粘着剤層2の厚さが3μm未満の場合には、特にポリイソシアネート系架橋剤の添加量が多いと、ダイシングテープ10の粘着力が過度に低下するおそれがある。この場合、SUS製のリングフレームに対する粘着力が不足し、クールエキスパンド工程において、ダイシングテープ10がSUS製のリングフレームから剥がれて、正常なエキスパンド工程が行えなくなるおそれがある。また、ダイシングダイボンドフィルムとして使用する時に、粘着剤層2とダイボンドフィルム3との密着不良が生じる場合がある。一方、粘着剤層2の厚さが30μmを超える場合には、特にポリイソシアネート系架橋剤の添加量が多いと、ダイシングテープ10をクールエキスパンドした際に、ダイボンドフィム3が粘着剤層2から過度に剥離してしまい、ダイボンドフィルム3に粘着剤層2を介して十分な外部が与えることができずに、ダイボンドフィルム3を綺麗に割断できないおそれや、カーフ幅を十分に確保できない、あるいはカーフ幅がばらつくおそれがある。その場合、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ不良が増大するおそれがある。また、経済性の観点からも、実用上あまり好ましくない。
【0152】
(アンカーコート層)
本実施の形態のダイシングテープ10では、本発明の効果を損なわない範囲において、ダイシングテープ10の製造条件や製造後のダイシングテープ10の使用条件等に応じて、基材フィルム1と粘着剤層2との間に、基材フィルム1の組成に合わせたアンカーコート層を設けてもよい。アンカーコート層を設けることにより、基材フィルム1と粘着剤層2との密着力が向上する。
【0153】
(剥離ライナー)
また、粘着剤層2の基材フィルム1とは逆の表面側(一方の表面側)には、必要に応じて剥離ライナーを設けてもよい。剥離ライナーとして使用できるものは、特に制限されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂や、紙類等が挙げられる。また、剥離ライナーの表面には、粘着剤層2の剥離性を高めるために、シリコーン系剥離処理剤、長鎖アルキル系剥離処理剤、フッ素系剥離処理剤などによる剥離処理を施してもよい。剥離ライナーの厚さは、特に限定されないが、10μm以上200μm以下の範囲であるものを好適に使用することができる。
【0154】
(ダイシングテープの製造方法)
図4は、ダイシングテープ10の製造方法について説明したフローチャートである。まず、剥離ライナーを準備する(ステップS101:剥離ライナー準備工程)。次に、粘着剤層2の形成材料である粘着剤層2用の塗布溶液(粘着剤層形成用塗布溶液)を作製する(ステップS102:塗布溶液作製工程)。塗布溶液は、例えば、粘着剤層2の構成成分であるアクリル系粘着性ポリマーと架橋剤と希釈溶媒とを均一に混合撹拌することにより作製することができる。溶媒としては、例えば、トルエンや酢酸エチル等の汎用の有機溶剤を使用することができる。
【0155】
そして、ステップS102で作製した粘着剤層2用の塗布溶液を用いて、剥離ライナーの剥離処理面上に該塗布溶液を塗布して乾燥し、所定厚さの粘着剤層2を形成する(ステップS103:粘着剤層形成工程)。塗布方法としては、特に限定されず、例えば、ダイコーター、コンマコーター(登録商標)、グラビアコーター、ロールコーター、リバースコーター等を用いて塗布することができる。また、乾燥条件としては、特に限定されないが、例えば、乾燥温度は80℃以上150℃以下の範囲内、乾燥時間は0.5分間以上5分間以下の範囲内で行うことが好ましい。続いて、基材フィルム1を準備する(ステップS104:基材フィルム準備工程)。そして、剥離ライナーの上に形成された粘着剤層2の上に、基材フィルム1を貼り合わせる(ステップS105:基材フィルム貼合工程)。最後に、形成した粘着剤層2を例えば40℃の環境下で72時間エージングしてアクリル系粘着性ポリマーと架橋剤とを反応させることにより架橋・硬化させる(ステップS106:熱硬化工程)。以上の工程により基材フィルム1の上に基材フィルム側から順に粘着剤層2、剥離ライナーを備えたダイシングテープ10を製造することができる。なお、本発明では、粘着剤層2の上に剥離ライナーを備えている積層体もダイシングテープ10と称する場合がある。
【0156】
なお、上記基材フィルム1上に粘着剤層2を形成する方法として、剥離ライナーの上に粘着剤層2用の塗布溶液を塗布して乾燥し、その後、粘着剤層2の上に基材フィルム1を貼り合わせる方法を例示したが、基材フィルム1上に粘着剤層2用の塗布溶液を直接塗布して乾燥する方法を用いてもよい。安定生産の観点からは、前者の方法が好適に用いられる。
【0157】
本実施の形態のダイシングテープ10は、ロール状に巻かれた形態や、幅が広いシートが積層している形態であってもよい。また、これらの形態のダイシングテープ10を予め定められた大きさに切断して形成されたシート状またはテープ状の形態であってもよい。
【0158】
<ダイシングダイボンドフィルム>
本発明の第2の側面によると、本実施の形態のダイシングテープ10は、半導体製造工程において、ダイシングテープ10の粘着剤層2の上にダイボンドフィルム(接着剤層)3が剥離可能に密着、積層されたダイシングダイボンドフィルム20の形として使用することもできる。ダイボンドフィルム(接着剤層)3は、個片化された半導体チップをリードフレームや配線基板(支持基板)に接着・接続するためのものである。また、半導体チップを積層する場合は、半導体チップ同士の接着剤層の役割もする。この場合、一段目の半導体チップはダイボンドフィルム(接着剤層)3により、端子が形成された半導体チップ搭載用配線基板に接着され、一段目の半導体チップの上に、さらにダイボンドフィルム(接着剤層)3により二段目の半導体チップが接着されている。一段目の半導体チップおよび二段目の半導体チップの接続端子は、ワイヤを介して外部接続端子と電気的に接続されるが、一段目の半導体チップ用のワイヤは、圧着(ダイボンディング)時にダイボンドフィルム(接着剤層)3、すなわち、前述したワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム(接着剤層)3の中に埋め込まれる。以下、本実施の形態のダイシングテープ10をダイシングダイボンドフィルム20の形として使用する場合のダイボンドフィルム(接着剤層)3について一例を示すが、特にこの例に限定されるものではない。
【0159】
(ダイボンドフィルム)
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3は、熱により硬化する熱硬化型の接着剤組成物から成る層である。上記接着剤組成物としては、特に限定されるものでなく、従来公知の材料を使用することができる。上記接着剤組成物の好ましい態様の一例としては、例えば、熱可塑性樹脂としてグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂、および該エポキシ樹脂に対する硬化剤としてフェノール樹脂を含む樹脂組成物に、硬化促進剤、無機フィラー、シランカップリング剤等が添加されて成る熱硬化性接着剤組成物が挙げられる。このような熱硬化性接着剤組成物から成るダイボンドフィルム(接着剤層)3は、半導体チップ/支持基板間、半導体チップ/半導体チップ間の接着性に優れ、また電極埋め込み性および/またはワイヤ埋め込み性等も付与可能で、且つダイボンディング工程では低温で接着でき、短時間で優れた硬化が得られる、封止剤によりモールドされた後は優れた信頼性を有する等の特徴があり好ましい。
【0160】
ワイヤが接着剤層中に埋め込まれない形態で使用される汎用ダイボンドフィルムとワイヤが接着剤層中に埋め込まれる形態で使用されるワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムは、その接着剤組成物を構成する材料の種類については、ほぼ同じであることが多いが、使用する材料の配合割合、個々の材料の物性・特性等を、それぞれの目的に応じて変更することにより、汎用ダイボンドフィルム用あるいはワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用としてカスタマイズされる。また、最終的な半導体装置としての信頼性に問題がない場合には、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムが汎用ダイボンドフィルムとして使用されることもある。すなわち、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムは、ワイヤ埋込用途に限定されず、配線等に起因する凹凸を有する基板、リードフレームなどの金属基板等へ半導体チップを接着する用途でも同様に使用可能である。
【0161】
(汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物)
まず、汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物の一例について説明するが、特にこの例に限定されるものではない。接着剤組成物から形成されるダイボンドフィルム3のダイボンディング時の流動性の指標として、例えば、80℃でのずり粘度特性が挙げられるが、汎用ダイボンドフィルムの場合、一般に、80℃でのずり粘度は、20,000Pa・s以上40,000Pa・s以下の範囲、好ましくは25,000Pa・s以上35,000Pa・s以下の範囲の値を示す。上記汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物の好ましい態様の一例としては、接着剤組成物の樹脂成分である上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、(a)上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体を52質量部以上90質量部以下の範囲、上記エポキシ樹脂を5質量部以上25質量部以下の範囲、上記フェノール樹脂の5質量部以上23質量部以下の範囲で、樹脂成分全量が100質量部となるように調整されて含み、(b)硬化促進剤を上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量100質量部に対して0.1質量部以上0.3質量部以下の範囲で含み、(c)無機フィラーを上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量100質量部に対して5質量部以上20質量部以下の範囲で含む接着剤組成物が挙げられる。
【0162】
[グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体]
上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、共重合体ユニットとして、少なくとも、炭素数1~8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび(メタ)アクリル酸グリシジルを含むことが好ましい。上記(メタ)アクリル酸グリシジルの共重合体ユニットは、適正な接着力確保の観点から、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体全量中に、0.5質量%以上6.0質量%以下の範囲で含むことが好ましく、2.0質量%以上4.0質量%以下の範囲で含むことがより好ましい。また、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、必要に応じ、ガラス転移温度(Tg)の調整の観点から、スチレンやアクリロニトリル等の他の単量体を共重合体ユニットとして含んでいてもよい。
【0163】
上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体のガラス転移温度(Tg)としては、-50℃以上30℃以下の範囲であることが好ましく、ダイボンドフィルムとしての取扱性の向上(タック性の抑制)の観点から、-10℃以上30℃以下の範囲であることがより好ましい。グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体をこのようなガラス転移温度とするには、上記炭素数1~8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、エチル(メタ)アクリレートおよび/またはブチル(メタ)アクリレートを用いることが好適である。
【0164】
上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体の重量平均分子量Mwは、50万以上200万以下の範囲であることが好ましく、70万以上100万以下の範囲であることがより好ましい。重量平均分子量Mwが上記範囲内であると、接着力、耐熱性、フロー性を適切なものとしやすい。ここで、重量平均分子量Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される標準ポリスチレン換算値を意味する。
【0165】
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3における上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体の含有割合は、接着剤組成物中の樹脂成分である該グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と後述するエポキシ樹脂とフェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、52質量%以上90質量%以下の範囲であることが好ましく、60質量%以上80質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0166】
[エポキシ樹脂]
エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノールのジグリシジリエーテル化物、ナフタレンジオールのジグリシジリエーテル化物、フェノール類のジグリシジリエーテル化物、アルコール類のジグリシジルエーテル化物、およびこれらのアルキル置換体、ハロゲン化物、水素添加物等の二官能エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。また、多官能エポキシ樹脂および複素環含有エポキシ樹脂等、一般に知られているその他のエポキシ樹脂を使用してもよい。これらは、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0167】
上記エポキシ樹脂の軟化点は、接着力、耐熱性の観点からは、70℃以上130℃以下の範囲であることが好ましい。また、上記エポキシ樹脂のエポキシ当量は、後述するフェノール樹脂との硬化反応を十分に進行させるという観点からは、100以上300以下の範囲であることが好ましい。
【0168】
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3における上記エポキシ樹脂の含有割合は、ダイボンドフィルム(接着剤層)3において熱硬化型接着剤としての機能を適切に発現させるという観点から、接着剤組成物中の樹脂成分である上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と該エポキシ樹脂と後述するフェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、5質量%以上25質量%以下の範囲であることが好ましく、10質量%以上20質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0169】
[フェノール樹脂:エポキシ樹脂に対する硬化剤]
エポキシ樹脂に対する硬化剤としては、特に限定されないが、例えば、フェノール化合物と2価の連結基であるキシリレン化合物を、無触媒または酸触媒の存在下に反応させて得ることができるフェノール樹脂が挙げられる。上記フェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、および、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン等が挙げられる。ノボラック型フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert-ブチルフェノールノボラック樹脂、およびノニルフェノールノボラック樹脂等が挙げられる。これらフェノール樹脂は、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのフェノール樹脂の中でも、フェノールノボラック樹脂やフェノールアラルキル樹脂は、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の接続信頼性を向上させうる傾向にあるので、好適に用いられる。
【0170】
上記フェノール樹脂の軟化点は、接着力、耐熱性の観点からは、70℃以上90℃以下の範囲であることが好ましい。また、上記フェノール樹脂の水酸基当量は、エポキシ樹脂との硬化反応を十分に進行させるという観点からは、100以上200以下の範囲であることが好ましい。
【0171】
上記熱硬化性樹脂組成物におけるエポキシ樹脂とフェノール樹脂との硬化反応を十分に進行させるという観点からは、フェノール樹脂は、全エポキシ樹脂成分中のエポキシ基1当量当たり、当該全フェノール樹脂成分中の水酸基が好ましくは0.5当量以上2.0当量以下、より好ましくは0.8当量以上1.2当量以下の範囲となる量で、配合するのが好ましい。それぞれの樹脂の官能基当量に依るので、一概には言えないが、例えば、フェノール樹脂の含有割合は、接着剤組成物中の樹脂成分である上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と該フェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、5質量%以上23質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0172】
[硬化促進剤]
また、上記熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、第三級アミン、イミダゾール類、第四級アンモニウム塩類等の硬化促進剤を添加することができる。このような硬化促進剤としては、具体的には、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテート等が挙げられ、これらは、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記硬化促進剤の添加量は、上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂の合計100質量部に対して、0.1質量部以上0.3質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0173】
[無機フィラー]
またさらに、上記熱硬化性樹脂組成物には、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の流動性を制御し、弾性率を向上させる観点から、必要に応じて無機フィラーを添加することができる。無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ホウ酸アルミウイスカ、窒化ホウ素、結晶質シリカ、非晶質シリカ等が挙げられ、これらは、1種または2種以上を併用することもできる。これらの中でも、汎用性の観点からは、結晶質シリカ、非晶質シリカ等が好適に用いられる。具体的には、例えば、平均粒子径がナノサイズであるアエロジル(登録商標:超微粒子乾式シリカ)が好適に用いられる。上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3における上記無機フィラーの含有割合は、上述した樹脂成分であるグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体とエポキシ樹脂とフェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、5質量%以上20質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0174】
[シランカップリング剤]
またさらに、上記熱硬化性樹脂組成物には、被着体に対する接着力を向上させる観点から、必要に応じて、シランカップリング剤を添加することができる。シランカップリング剤としては、例えば、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、およびγ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランが挙げられ、これらは、1種または2種以上を併用することもできる。上記シランカップリング剤の添加量は、上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂の合計100質量部に対して、1.0質量部以上7.0質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0175】
[その他]
またさらに、上記熱硬化性樹脂組成物には、ダイボンドフィルムとしての機能を損なわない範囲で、難燃剤やイオントラップ剤等を添加してもよい。難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、および臭素化エポキシ樹脂等が挙げられる。イオントラップ剤としては、例えば、ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス、含水酸化アンチモン、特定構造のリン酸ジルコニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、トリアゾール系化合物、テトラゾール系化合物、およびビピリジル系化合物等が挙げられる。
【0176】
(ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用接着剤組成物)
続いて、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用接着剤組成物の一例について説明するが、特にこの例に限定されるものではない。接着剤組成物から形成されるダイボンドフィルム3のダイボンディング時の流動性の指標として、例えば、80℃でのずり粘度特性が挙げられるが、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムの場合、一般に、80℃でのずり粘度は、200Pa・s以上11,000Pa・s以下の範囲、好ましくは2,000Pa・s以上7,000Pa・s以下の範囲の値を示す。上記ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用接着剤組成物の好ましい態様の一例としては、接着剤組成物の樹脂成分である上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、(a)上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体を17質量部以上51質量部の範囲、上記エポキシ樹脂を30質量部以上64質量部の範囲、上記フェノール樹脂を19質量部以上53質量部以下の範囲で、樹脂成分全量が100質量部となるように調整されて含み、(b)硬化促進剤を上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量100質量部に対して0.01質量部以上0.07質量部以下の範囲で含み、(c)無機フィラーを上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量100質量部に対して10質量部以上80質量部以下の範囲で含む接着剤組成物が挙げられる。
【0177】
[グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体]
上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、共重合体ユニットとして、少なくとも、炭素数1~8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび(メタ)アクリル酸グリシジルを含むことが好ましい。ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムの場合、ダイボンディング時の流動性向上と硬化後の接着強度確保の両立を図る必要があるため、(メタ)アクリル酸グリシジルの共重合体ユニット比率が高く、分子量が低いグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と、(メタ)アクリル酸グリシジルの共重合体ユニット比率が低く、分子量が高いグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)との併用が好ましく、併用のうち前者の(A)成分が一定量以上含まれることが好ましい。
【0178】
すなわち、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用接着剤組成物における上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、具体的には、「(メタ)アクリル酸グリシジルの共重合体ユニットを、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体全量中に、5.0質量%以上15.0質量%以下の範囲で含み、ガラス転移温度(Tg)が-50℃以上30℃以下の範囲であり、重量平均分子量Mwが10万以上40万以下の範囲であるグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)」と、「(メタ)アクリル酸グリシジルの共重合体ユニットを、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体全量中に、1.0質量%以上7.0質量%以下の範囲で含み、ガラス転移温度(Tg)が-50℃以上30℃以下の範囲であり、重量平均分子量Mwが50万以上90万以下の範囲であるグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)」との混合物からなることが好ましい。ここで、重量平均分子量Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される標準ポリスチレン換算値を意味する。
【0179】
上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)の含有割合は、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体全量((A)と(B)の合計)中の60質量%以上90質量%以下の範囲であることが好ましい。また、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、必要に応じ、ガラス転移温度(Tg)の調整の観点から、スチレンやアクリロニトリル等の他の単量体を共重合体ユニットとして含んでいてもよい。
【0180】
上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体全体のガラス転移温度(Tg)としては、-50℃以上30℃以下の範囲であることが好ましく、ダイボンドフィルムとしての取扱性の向上(タック性の抑制)の観点から、-10℃以上30℃以下の範囲であることがより好ましい。グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体をこのようなガラス転移温度とするには、上記炭素数1~8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、 エチル(メタ)アクリレートおよび/またはブチル(メタ)アクリレートを用いることが好適である。
【0181】
上記ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム(接着剤層)3における上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体全量((A)と(B)の合計)の含有割合は、ダイボンディング時の流動性および硬化後の接着強度の観点から、接着剤組成物中の樹脂成分である該グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と後述するエポキシ樹脂とフェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、17質量%以上51質量%以下の範囲であることが好ましく、20質量%以上45質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0182】
[エポキシ樹脂]
エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、上述の汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物用のエポキシ樹脂として例示したものと同じものを使用することができる。これらは、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムの場合、接着強度の確保とともに、接着面における空隙の発生を抑制しつつ、ワイヤの良好な埋め込み性を付与する必要があるため、その流動性や弾性率を制御する上で、2種類以上のエポキシ樹脂を組み合わせて使用することが好ましい。
【0183】
ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム(接着剤層)3に用いるエポキシ樹脂の好ましい態様としては、常温で液状であるエポキシ樹脂(C)と軟化点が98℃以下、好ましくは85℃以下であるエポキシ樹脂(D)との混合物から成るものが挙げられる。上記の常温で液状であるエポキシ樹脂(C)の含有割合は、エポキシ樹脂全量((C)と(D)の合計)中の15質量%以上75質量%以下の範囲であることが好ましく、30質量%以上50質量%以下の範囲であることがより好ましい。上記エポキシ樹脂のエポキシ当量は、後述するフェノール樹脂との硬化反応を十分に進行させるという観点からは、100以上300以下の範囲であることが好ましい。
【0184】
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3における上記エポキシ樹脂の含有割合は、ダイボンドフィルム(接着剤層)3において熱硬化型接着剤としての機能を適切に発現させるという観点から、接着剤組成物中の樹脂成分である上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と該エポキシ樹脂と後述するフェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、30質量%以上64質量%以下の範囲であることが好ましく、35質量%以上50質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0185】
[フェノール樹脂:エポキシ樹脂に対する硬化剤]
エポキシ樹脂に対する硬化剤としては、特に限定されないが、上述の汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物用のフェノール樹脂として例示したものと同じものを同様に使用することができる。上記フェノール樹脂の軟化点は、接着力、流動性の観点からは、70℃以上115℃以下の範囲であることが好ましい。また、上記フェノール樹脂の水酸基当量は、エポキシ樹脂との硬化反応を十分に進行させるという観点からは、100以上200以下の範囲であることが好ましい。
【0186】
上記熱硬化性樹脂組成物におけるエポキシ樹脂とフェノール樹脂との硬化反応を十分に進行させるという観点からは、フェノール樹脂は、全エポキシ樹脂成分中のエポキシ基1当量当たり、当該全フェノール樹脂成分中の水酸基が好ましくは0.5当量以上2.0当量以下、ダイボンディング時の流動性との両立という観点から、より好ましくは0.6当量以上1.0当量以下の範囲となる量で、配合するのが好ましい。それぞれの樹脂の官能基当量に依るので、一概には言えないが、例えば、フェノール樹脂の含有割合は、接着剤組成物中の樹脂成分である上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と該フェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、19質量%以上53質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0187】
[硬化促進剤]
また、上記熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、第三級アミン、イミダゾール類、第四級アンモニウム塩類等の硬化促進剤を添加することができる。このような硬化促進剤としては、上述の汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物用の硬化促進剤として例示したものと同じものを同様に使用することができる。上記硬化促進剤の添加量は、接着面における空隙の発生を抑制する観点から、上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂の合計100質量部に対して、0.01質量部以上0.07以下質量部の範囲であることが好ましい。
【0188】
[無機フィラー]
またさらに、上記熱硬化性樹脂組成物には、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の取扱い性の向上、ダイボンディング時の流動性の調整、チクソトロピック性の付与、接着強度の向上等の観点から、必要に応じて無機フィラーを添加することができる。無機フィラーとしては、上述の汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物用の無機フィラーとして例示したものと同じものを同様に使用することができるが、これらの中でも、汎用性の観点からは、シリカフィラーが好適に用いられる。上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3における上記無機フィラーの含有割合は、ダイボンディング時の流動性、クールエキスパンド時の割断性および接着強度の観点から、上述した樹脂成分であるグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体とエポキシ樹脂とフェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、10質量%以上80質量%以下の範囲であることが好ましく、15質量%以上50質量%以下の範囲がより好ましい。
【0189】
上記無機フィラーは、ダイボンドフィルム(接着剤層)3のクールエキスパンド時の割断性を向上し、硬化後の接着力を十分に発現させる目的で、平均粒子径の異なる2種類以上の無機フィラーを混合することが好ましい。具体的には、平均粒子径が0.1μm以上5μm以下の範囲である無機フィラーを、無機フィラーの全質量を基準として80質量%以上の割合を占める主たる無機フィラー成分として使用することが好ましい。ダイボンドフィルム(接着剤層)3の流動性が過度に高くなることによる半導体チップ製造工程でのダイボンドフィルム3の発泡の抑制や硬化後の接着強度の向上が必要な場合には、平均粒子径が0.1μm未満である無機フィラーを、無機フィラーの全質量を基準として20質量%の配合量で上記の主たる無機フィラー成分と併用してもよい。
【0190】
[シランカップリング剤]
またさらに、上記熱硬化性樹脂組成物には、被着体に対する接着力を向上させる観点から、必要に応じて、シランカップリング剤を添加することができる。シランカップリング剤としては、上述の汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物用のシランカップリング剤として例示したものと同じものを同様に使用することができる。上記シランカップリング剤の添加量は、接着面における空隙の発生を抑制する観点から、上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂の合計100質量部に対して、0.5質量部以上2.0質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0191】
[その他]
またさらに、上記熱硬化性樹脂組成物には、ダイボンドフィルム3としての機能を損なわない範囲で、難燃剤やイオントラップ剤等を添加してもよい。これら難燃剤やイオントラップ剤としては、上述の汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物用の難燃剤やイオントラップ剤として例示したものと同じものを同様に使用することができる。
【0192】
(ダイボンドフィルム(接着剤層)の厚さ)
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さは、特に限定されないが、接着強度の確保、半導体チップ接続用のワイヤを適切に埋め込むため、あるいは基板の配線回路等の凹凸を十分に充填するため、5μm以上200μm以下の範囲であることが好ましい。ダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さが5μm未満であると、半導体チップとリードフレームや配線基板等との接着力が不十分となるおそれがある。一方、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さが200μmより大きいと経済的でなくなる上に、半導体装置の小型薄膜化への対応が不十分となりやすい。なお、接着性が高く、また、半導体装置を薄型化できる点で、フィルム状接着剤の膜厚は10μm以上100μm以下の範囲がより好ましく、20μm以上75μm以下の範囲が特に好ましい。
【0193】
より具体的には、汎用ダイボンドフィルム(接着剤層)として使用する場合の厚さとしては、例えば、5μm以上30μm未満の範囲、特に10μm以上25μm以下の範囲が好ましく、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム(接着剤層)として使用する場合の厚さとしては、例えば、30μm以上100μm以下の範囲、特に40μm以上80μm以下の範囲であることが好ましい。
【0194】
(ダイボンドフィルムの製造方法)
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3は、例えば、次の通りにして製造される。まず、剥離ライナーを準備する。なお、該剥離ライナーとしては、ダイシングテープ10の粘着剤層2の上に配置する剥離ライナーと同じものを使用することができる。次に、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の形成材料であるダイボンドフィルム(接着剤層)3用の塗布溶液を作製する。塗布溶液は、例えば、上述したようなダイボンドフィルム(接着剤層)3の構成成分であるグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂に対する硬化剤、無機フィラー、硬化促進剤、およびシランカップリング等を含む熱硬化性樹脂組成物と希釈溶媒とを均一に混合分散することにより作製することができる。溶媒としては、例えば、メチルエチルケトンやシクロヘキサノン等の汎用の有機溶剤を使用することができる。
【0195】
次に、ダイボンドフィルム(接着剤層)3用の塗布溶液を仮支持体となる上記剥離ライナーの剥離処理面上に該塗布溶液を塗布して乾燥し、所定厚さのダイボンドフィルム(接着剤層)3を形成する。その後、別の剥離ライナーの剥離処理面をダイボンドフィルム(接着剤層)3の上に貼り合わせる。塗布方法としては、特に限定されず、例えば、ダイコーター、コンマコーター(登録商標)、グラビアコーター、ロールコーター、リバースコーター等を用いて塗布することができる。また、乾燥条件としては、例えば、乾燥温度は60℃以上200℃以下の範囲内、乾燥時間は1分間以上90分間以下の範囲内で行うことが好ましい。なお、本発明では、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の両面あるいは片面に剥離ライナーを備えている積層体もダイボンドフィルム(接着剤層)3と称する場合がある。
【0196】
(ダイシングダイボンドフィルムの製造方法)
上記ダイシングダイボンドフィルム20の製造方法としては、特に限定されないが、従来公知の方法により製造することができる。例えば、上記ダイシングダイボンドフィルム20は、先ずダイシングテープ10およびダイボンドフィルム3を個別にそれぞれ準備し、次に、ダイシングテープ10の粘着剤層2およびダイボンドフィルム(接着剤層)3の剥離ライナーをそれぞれ剥離し、ダイシングテープ10の粘着剤層2とダイボンドフィルム(接着剤層)3を、例えば、ホットロールラミネーター等の圧着ロールにより圧着して貼り合わせればよい。貼り合わせ温度としては、特に限定されず、例えば10℃以上100℃以下の範囲であることが好ましく、貼り合わせ圧力(線圧)としては、例えば0.1kgf/cm以上100kgf/cm以下の範囲であることが好ましい。なお、本発明では、ダイシングダイボンドフィルム20は、粘着剤層2およびダイボンドフィルム(接着剤層)3の上に剥離ライナーが備えられた積層体もダイシングダイボンドフィルム20と称する場合がある。ダイシングダイボンドフィルム20において、粘着剤層2およびダイボンドフィルム(接着剤層)3の上に備えられた剥離ライナーは、ダイシングダイボンドフィルム20をワークに供する際に、剥離すればよい。
【0197】
上記ダイシングダイボンドフィルム20は、ロール状に巻かれた形態や、幅が広いシートが積層している形態であってもよい。また、これらの形態のダイシングテープ10を予め定められた大きさに切断して形成されたシート状またはテープ状の形態であってもよい。
【0198】
例えば、特開2011-159929号公報に開示されるように、剥離基材(剥離ライナー)上に半導体素子を構成するウエハの形状にプリカット加工した接着剤層(ダイボンドフィルム3)および粘着フィルム(ダイシングテープ10)を多数、島状に形成させたフィルムロール状の形態として製造することもできる。この場合、ダイシングテープ10は、ダイボンドフィルム(接着剤層)3よりも大径の円形に形成され、ダイボンドフィルム(接着剤層)3は、半導体ウエハ30よりも大径の円形に形成されている。このようなフィルムロール状の形態としてプリカット加工が施される際に、余分なダイシングテープ10を切れることなく連続的かつ良好に剥離除去するために、ダイシングテープ10が局所的に加熱およびまたは冷却処理される場合がある。ここで、加熱の温度は、適宜選択されるが、30℃以上120℃以下の範囲であることが好ましい。加熱時間は、適宜選択されるが、0.1秒以上10秒以下の範囲であることが好ましい。本発明のダイシングテープ10は、一定の耐熱性を有するため、仮に120℃の高温で加熱処理が施されても、その取扱いにおいて特に問題となることはない。
【0199】
<半導体チップの製造方法>
図6は、本実施の形態のダイシングテープ10の粘着剤層2の上にダイボンドフィルム(接着剤層)3が積層されたダイシングダイボンドフィルム20を使用したダイボンドフィルム付き半導体チップの製造方法について説明したフローチャートである。また、
図7は、ダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10の外縁部(粘着剤層2露出部)にリングフレーム(ウエハリング)40が、中心部のダイボンドフィルム(接着剤層)3上に個片化された半導体ウエハ(複数の半導体チップ)が貼り付けられた状態を示した概略図である。またさらに、
図8(a)~(f)は、レーザー光照射により複数の改質領域が形成された半導体ウエハの研削工程および複数の割断された半導体ウエハ(複数の半導体チップ)のダイシングダイボンドフィルム20への貼合工程の一例を示した断面図である。
図9(a)~(f)は、ダイシングダイボンドフィルム20上に貼合・保持された複数の割断された薄膜半導体ウエハから、個々のダイボンドフィル付き半導体チップを得るための、エキスパンド~ピックアップまでの一連の工程を含む製造方法の一例を示した断面図である。
【0200】
(ダイシングダイボンドフィルム20を使用した半導体チップの製造方法)
ダイシングダイボンドフィルム20を使用した半導体チップの製造方法は、特に限定されず、従来から公知の方法に依ればよいが、ここでは、SDBG(Stealth Dicing Before Griding)による製造方法を例に挙げて説明する。
【0201】
まず、
図8(a)に示すように、例えばシリコンを主成分とする半導体ウエハWの第一面Wa上に複数の集積回路(図示はしない)を搭載した半導体ウエハWを準備する(
図6のステップS201:準備工程)。そして、粘着面Taを有するウエハ加工用テープ(バックグラインドテープ)Tが半導体ウエハWの第1面Wa側に貼り合わされる。
【0202】
次いで、
図8(b)に示すように、ウエハ加工用テープTに半導体ウエハWが保持された状態で、ウエハ内部に集光点の合わせられたレーザー光がウエハ加工用テープTとは反対側、つまり半導体ウエハの第二面Wb側から半導体ウエハWに対して、その格子状のダイシング予定ラインXに沿って照射され、多光子吸収によるアブレーションに因って半導体ウエハW内に改質領域30bが形成される(
図6のステップS202:改質領域形成工程)。改質領域30bは、半導体ウエハWを研削工程により半導体チップ単位に割断・分離させるための脆弱化領域である。半導体ウエハWにおいてレーザー光照射によってダイシング予定ラインに沿って改質領域30bを形成する方法については、例えば、特許第3408805号公報、特開2002-192370号公報、特開2003-338567号公報等に開示されている方法を参照することができる。
【0203】
次いで、
図8(c)に示すように、ウエハ加工用テープTに半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWが予め定められた厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄膜化される。ここで、薄膜化される半導体ウエハ30の厚さは、半導体装置の薄型化の観点から、好ましくは100μm、より好ましくは10μm以上50μm以下の厚さに調節される。本研削・薄膜化工程において、薄膜化された半導体ウエハ30は、研削ホイールの研削負荷が加えられた際に、
図7(b)で形成された改質領域30bを起点として垂直方向に亀裂が成長し、ダイシング予定ラインXに対応した割断ライン30cに沿って、ウエハ加工用テープT上で複数の半導体チップ30aへと割断、個片化される。
【0204】
次いで、
図8(d)、(e)に示すように、ウエハ加工用テープTに保持された複数の半導体チップ30aが別途準備したダイシングダイボンドフィルム20のダイボンドフィルム3に対して貼り合わせられる(
図6のステップS204:貼合工程)。本工程においては、円形にカットしたダイシングダイボンドフィルム20の粘着剤層2およびダイボンドフィルム(接着剤層)3から剥離ライナーを剥離した後、
図6に示すように、ダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10の外縁部(粘着剤層2露出部)にリングフレーム(ウエハリング)40を貼り付けるとともに、ダイシングテープ10の粘着剤層2の上中央部に積層されたダイボンドフィルム(接着剤層)3の上に、ウエハ加工用テープTに保持された複数の半導体チップ30aを貼り付ける。この後、
図8(f)に示すように、薄膜の複数の半導体チップ30aからウエハ加工用テープTが剥がされる。貼り付けは、圧着ロール等の押圧手段により押圧しながら行う。貼り付け温度は、特に限定されず、例えば、20℃以上130℃以下の範囲であることが好ましく、半導体チップ30aの反りを小さくする観点からは、40℃以上100℃以下の範囲であることがより好ましい。貼り付け圧力は、特に限定されず、0.1MPa以上10.0MPa以下の範囲であることが好ましい。本発明のダイシングテープ10は、一定の耐熱性を有するため、貼り付け温度が高温であっても、その取扱いにおいて特に問題となることはない。
【0205】
続いて、ダイシングダイボンドフィルム20におけるダイシングテープ10の粘着剤層2上にリングフレーム40が貼り付けられた後、
図9(a)に示すように、複数の半導体チップ30aを伴う当該ダイシングダイボンドフィルム20がエキスパンド装置の保持具41に固定される。
図9(b)に示すように、割断ライン30cで割断された薄膜の半導体ウエハ30(複数の半導体チップ30a)は、複数のダイボンドフィルム付き半導体チップ30aとして個片化可能なように、その下面側に、次工程でダイシング予定ラインXに沿って割断されることになるダイボンドフィルム3が貼り付けられている。
【0206】
次いで、相対的に低温(例えば、-30℃~0℃)の条件下での第1のエキスパンド工程、すなわち、クールエキスパンド工程が、
図9(c)に示すように行われ、ダイシングダイボンドフィルム20のダイボンドフィルム(接着剤層)3が半導体チップ30aの大きさに対応した小片のダイボンドフィルム(接着剤層)3aに割断されて、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aが得られる(
図6のステップS205:クールエキスパンド工程)。本工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材(図示しない)が、ダイシングダイボンドフィルム20の下側においてダイシングテープ10に当接して上昇され、個片化された半導体ウエハ30(複数の半導体チップ30a)が貼り合わされたダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10が、半導体ウエハ30の径方向および周方向を含む二次元方向に引き伸ばされるようにエキスパンドされる。クールエキスパンドによりダイシングテープ10の全方向への引張により生じた内部応力は、個片化された半導体ウエハ30(複数の半導体チップ30a)に貼り付けられたダイボンドフィルム3に外部応力として伝達される。この外部応力により、低温で脆性化されたダイボンドフィルム3は、半導体チップ30aと同じサイズの小片のダイボンドフィルム3aへと割断されて、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aが得られる。
【0207】
上記クールエキスパンド工程における温度条件は、例えば、-30℃以上0℃以下であり、好ましくは-20℃以上-5℃以下の範囲であり、より好ましくは-15℃以上-5℃以下の範囲であり、特に好ましくは-15℃である。上記クールエキスパンド工程におけるエキスパンド速度(中空円柱状の突き上げ部材が上昇する速度)は、好ましくは0.1mm/秒以上1000mm/秒以下の範囲であり、より好ましくは10mm/秒以上300mm/秒以下の範囲である。また、上記クールエキスパンド工程におけるエキスパンド量(中空円柱状の突き上げ部材の突き上げ高さ)は、好ましくは3mm以上16mm以下の範囲である。
【0208】
ここで、本発明のダイシングテープ10は、まず、その基材フィルム1の0℃における5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2が165MPa以上260MPa以下の適正な範囲に調整されているので、ダイシングテープ10の全方向へのクールエキスパンドにより生じた内部応力は、特定の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有して成る粘着剤層2上に密着しているダイボンドフィルム3に外部応力として効率的に伝達され、その結果、ダイボンドフィルム3が綺麗に歩留まり良く割断される。さらに、本発明のダイシングテープ10は、その粘着剤層2が特定の水酸基価を有するアクリル系粘着性ポリマーと特定量のポリイソシアネート系架橋剤を主成分とする粘着剤組成物から構成され、該ポリイソシアネート系架橋剤のイソシアネート基(-NCO)と該アクリル系粘着性ポリマーの水酸基価(-OH)の当量比(-NCO)/(―OH)を0.14以上1.32以下に制御されているので、架橋反応後の粘着剤層2に、ダイボンドフィルム3が割断された瞬間にダイボンドフィルムのエッジ部とその直下の粘着剤層2との界面に適度な衝撃を伝えることができる硬さ、およびダイボンドフィルム3から離れる方向の応力を伝えることができる凝集力が付与されるとともに、ダイボンドフィルム3に対する適度な初期密着力も付与される。その結果、クールエキスパンドにより割断された、半導体チップ30aを保持している小片のダイボンドフィルム3a(接着剤層)において、そのエッジ部分(四方周囲部分)のダイシングテープ10の粘着剤層2からの適度な剥がれが促進され、ダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態が適度に形成されるのである。また、この場合、上記ダイボンドフィルム3および粘着剤層2に与えられる応力、ならびにダイボンドフィルム3に対する初期密着力は適度に抑制されているので、割断されたダイボンドフィムは粘着剤層2から過度に剥離することはなく、カーフ幅を十分に確保でき、半導体チップ同士の衝突による損傷及び粘着剤層2上の固定位置からのずれ等を回避することもできる。
【0209】
なお、
図9(c)においては、便宜上、半導体チップ30aを保持している小片のダイボンドフィルム3a(接着剤層)のエッジ部分は、ダイシングテープ10の粘着剤層2に密着しているように図示されているが、実際には
図10の拡大断面図に示すように、半導体チップ30aを保持している小片のダイボンドフィルム3a(接着剤層)のエッジ部分は、ダイシングテープ10の粘着剤層2から適度に剥離しており、ダイボンドフィルム3a(接着剤層)の中央部分は、ダイシングテープ10の粘着剤層2に密着している。
【0210】
上記クールエキスパンド工程の後、エキスパンド装置の中空円柱形状の突き上げ部材が下降されて、ダイシングテープ10におけるエキスパンド状態が解除される。
【0211】
次いで、相対的に高温(例えば、10℃~30℃)の条件下での第2のエキスパンド工程、すなわち、常温エキスパンド工程が、
図9(d)に示すように行われ、ダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30a間の距離(カーフ幅)が広げられる。本工程では、エキスパンド装置の備える円柱状のテーブル(図示しない)が、ダイシングダイボンドフィルム20の下側においてダイシングテープ10に当接して上昇され、ダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10がエキスパンドされる(
図6のステップS206:常温エキスパンド工程)。常温エキスパンド工程によりダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30a間の距離(カーフ幅)を十分に確保することにより、CCDカメラ等による半導体チップ30aの認識性を高めるとともに、ピックアップの際に隣接する半導体チップ30a同士が接触することによって生じるダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30a同士の再接着を防止することができる。その結果、後述するピックアップ工程において、ダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aのピックアップ性が向上する。
【0212】
なお、
図9(d)においても、便宜上、半導体チップ30aを保持している小片のダイボンドフィルム3a(接着剤層)のエッジ部分は、ダイシングテープ10の粘着剤層2に密着しているように図示されているが、実際には
図10の拡大断面図に示すように、半導体チップ30aを保持している小片のダイボンドフィルム3a(接着剤層)のエッジ部分は、ダイシングテープ10の粘着剤層2から適度に剥離しており、ダイボンドフィルム3a(接着剤層)の中央部分は、ダイシングテープ10の粘着剤層2に密着している。常温エキスパンド時においては、クールエキスパンド時に比して、環境温度が高い分、ダイボンドフィルム3a(接着剤層)と粘着剤層2が密着している部分の密着力は高く、また、ダイシングテープ10の発生引張応力を抑制しつつエキスパンドを行うことが可能である。したがって、常温エキスパンド工程により、
図9(c)のクールエキスパンド後のダイボンドフィルム3aの剥離状態からわずかに剥離が進行する場合もあるが、過度に剥離が進行することはない。
【0213】
上記常温エキスパンド工程における温度条件は、例えば10℃以上であり、好ましくは15℃以上30℃以下の範囲である。常温エキスパンド工程におけるエキスパンド速度(円柱状のテーブルが上昇する速度)は、例えば0.1mm/秒以上50mm/秒以下の範囲であり、好ましくは0.3mm/秒以上30mm/秒以下の範囲である。また、常温エキスパンド工程におけるエキスパンド量は、例えば3mm以上20mm以下の範囲である。
【0214】
テーブルの上昇によってダイシングテープ10が常温エキスパンドされた後、テーブルはダイシングテープ10を真空吸着する。そして、テーブルによるその吸着を維持した状態で、テーブルがワークを伴って下降されて、ダイシングテープ10におけるエキスパンド状態が解除される。エキスパンド状態解除後にダイシングテープ10上のダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aのカーフ幅が狭まることを抑制するうえでは、ダイシングテープ10がテーブルに真空吸着された状態で、ダイシングテープ10における半導体チップ30a保持領域より外側の円周部分を熱風吹付により加熱収縮(ヒ-トシュリンク)させて、エキスパンドで生じたダイシングテープ10の弛みを解消することで緊張状態を保つことが好ましい。上記加熱収縮後、テーブルによる真空吸着状態が解除される。上記熱風の温度は、基材フィルム1の物性と、熱風吹き出し口とダイシングテープ10との距離、および風量等に応じて調整すれば良いが、例えば200℃以上250℃以下の範囲が好ましい。また、熱風吹き出し口とダイシングテープ10との距離は、例えば15mm以上25mm以下の範囲であることが好ましい。また、風量は、例えば35L/分以上45L/分以下の範囲が好ましい。なお、ヒートシュリンク工程を行う際、エキスパンド装置のステージを、例えば3°/秒以上10°/秒以下の範囲の回転速度で回転させながら、ダイシングテープ10の半導体チップ30a保持領域より外側の円周部分に沿って熱風吹付を行う。
【0215】
本発明のダイシングテープ10は、その基材フィルム1として、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)およびポリアミド樹脂(PA)とを含有した樹脂組成物から構成される樹脂フィルムを好適に用いているので、金属イオンにより架橋されたアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)に起因してエキスパンド後の歪に対する加熱時の復元力が十分に大きい、すなわち熱収縮性が大きいものとなっている。そのため、上記ヒートシュリンク工程において、エキスパンドで生じたダイシングテープ10の弛み部分(円周部分)に高温の熱風を吹き付けた際に、ダイシングテープ10の円周部分を問題なく加熱収縮させて弛みを解消できるので、常温エキスパンドで広げたカーフ幅をダイシングテープ10の緊張状態により維持することができる。
【0216】
図11は、上記クールエキスパンド工程~シュリンク工程まで経た後に、小片ダイボンドフィルム3aのエッジ部分がダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態を半導体チップ30aの裏面側(基材フィルム側)から顕微鏡により観察した際の拡大平面図である。小片のダイボンドフィルム3aの粘着剤層2から剥離したエッジ部分の面積は、本発明の効果を損なわない範囲において、特に限定されないが、例えば、
図11に示した半導体チップ30aの裏面側(基材フィルム側)から観察された粘着剤層2上に保持される一つの小片のダイボンドフィルム3aの状態9(
図10の9部分に相当)において、粘着剤層2から剥離した小片のダイボンドフィルム3aのエッジ部分(斜線部)の面積をS1、小片のダイボンドフィルム3aの粘着剤層2に密着している部分(白部)の面積をS2とした時に、粘着剤層2から剥離した小片のダイボンドフィルム3aのエッジ部分の面積S1の割合が、小片のダイボンドフィルム3a全体の面積(=S1+S2)に対して、10%以上45%以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは、15%以上40%以下の範囲である。
【0217】
上記面積S1の割合が10%未満である場合、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aの粘着剤層2からの剥離に要するトータルの力において、有酸素下紫外線照射後粘着力Aの低減効果、すなわち、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aのエッジ部分の剥離に要する力を低減する効果を十分に反映できないおそれがある。その結果、後述するピックアップ時にダイシングテープ10の下面側から突き上げ治具を用いて突き上げた際に、エッジ部分からの剥離のきっかけを作り難いので、従来に比して、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aのピックアップ性向上の効果がほとんど認められない、あるいはその効果がわずかに留まるおそれがある。
【0218】
上記面積S1の割合が45%を超える場合、すなわち、クールエキスパンド工程において、ダイボンドフィム3が粘着剤層2から過度に剥離すると、ダイボンドフィルム3に粘着剤層2を介して十分な外部応力が与えることができずに、ダイボンドフィルム3を綺麗に割断できないおそれや、カーフ幅を十分に確保できない、あるいはカーフ幅がばらつくおそれがある。また、以後の製造工程において意図せずダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aが位置ずれ、あるいは離脱するおそれがある。さらに、後述のピックアップ工程において、過度に剥離したダイボンドフィルムが粘着剤層2に再固着した際にはその再固着面積が過度に大きくなるため、粘着剤層2が本発明の要件を満たす活性エネルギー線硬化性の粘着剤組成物から構成されていたとしても、ダイシングテープ10の下面側からの治具突き上げによって剥離するためには、その大きな再固着面積の増大に応じた大きなエネルギーを要するおそれがある。その結果、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aのピックアップ歩留まりが低下する。
【0219】
上記面積S1は、言い換えると、エキスパンドにより剥離したダイボンドフィルム3aのエッジ部分と、空気中に暴露された有酸素下状態で紫外線照射された粘着剤層2とが、次工程のピックアップ工程において、ダイシングテープ10の下面側から突き上げ治具を用いて突き上げる前に、吸着コレットの接触・着地により瞬間的に再固着する面積である。したがって、上記面積S1の割合が10%以上40%以下の範囲である場合、有酸素下紫外線照射後粘着力Aが3.50N/25mmに調整された粘着剤層2を適用することにより、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aのエッジ部分の剥離に要する力の低減機能を最も効果的に発現させることが容易となる。一方で、小片のダイボンドフィルム3a全体の面積に対する割合が55%以上90%以下の範囲であるダイボンドフィルム3aの粘着剤層2に密着している上記面積S2の部分においては、粘着剤層2の無酸素下紫外線照射後粘着力Bが0.25N/25mm以上0.70N/25mm以下に調整されているので、ダイボンドフィルム3aのエッジ部分の剥離に引き続く中心部へ向けての、粘着剤層2からのダイボンドフィルム3aの剥離が進展しやすくなっている。次工程のピックアップ工程において、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aを粘着剤層2から剥離するのに要する総エネルギーは、上述した面積S1の部分と面積S2の部分におけるそれぞれの剥離力低減効果の総和であり、本実施の形態のダイシングテープ10は、上記の面積S1と面積S2の割合のバランスにおいて、この総エネルギーを従来に比して、小さくすることが容易となるのである。
【0220】
上記面積S1および面積S2の割合を求める方法は、特に限定されず、従来公知の方法に依り求めることができる。例えば、割断された小片ダイボンドフィルム3aのエッジ部分がダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態を半導体チップの裏面側(基材フィルム側)から顕微鏡観察した際の画像を、画像処理ソフト等を使用して上記面積S1に該当する部分と上記面積S2に該当する部分とを2値化し、それぞれの面積の割合を求める方法や、画像を紙等に印刷し、それぞれ部分をその形に沿って切り出して質量を測定し、その質量比率からそれぞれの面積の割合を求める方法等が挙げられる。
【0221】
続いて、ダイシングテープ10に対して、基材フィルム1側から活性エネルギー線を照射することにより、粘着剤層2を硬化・収縮させ、粘着剤層2のダイボンドフィルム3aに対する粘着力を低下させる(
図6のステップS207:活性エネルギー線照射工程)。ここで、上記後照射に用いる活性エネルギー線としては、紫外線、可視光線、赤外線、電子線、β線、γ線等が挙げられる。これらの活性エネルギー線の中でも、紫外線(UV)および電子線(EB)が好ましく、特に紫外線(UV)が好ましく用いられる。上記紫外線(UV)を照射するための光源としては、特に限定されないが、例えば、ブラックライト、紫外線蛍光灯、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることができる。また、ArFエキシマレーザ、KrFエキシマレーザ、エキシマランプまたはシンクロトロン放射光等も用いることができる。上記紫外線(UV)の照射光量は、特に限定されず、例えば100mJ/cm
2以上2,000J/cm
2以下の範囲であることが好ましく、150mJ/cm
2以上1,000J/cm
2以下の範囲であることがより好ましい。
【0222】
ここで、本発明のダイシングテープ10は、上述したように、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合を有するアクリル系粘着性ポリマーを含む活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有して成る粘着剤層2に対して、有酸素下および無酸素下で積算光量が150mJ/cm2となるように紫外線が照射された場合に、23℃におけるステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対する有酸素下紫外線照射後粘着力A(剥離角度:90°、剥離速度:300mm/分)が3.50N/25mm以下の範囲、23℃におけるステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対する無酸素下紫外線照射後粘着力B(剥離角度:90°、剥離速度:300mm/分)が0.25N/25mm以上0.70N/25mm以下の範囲となるように、粘着剤層2の架橋反応による硬化状態が調整されているので、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aを粘着剤層2から剥離する際に要する力を従来に比して小さくすることができる。その結果、後述するピックアップ工程において、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aのピックアップ性が良好となる。この場合、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度としては、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たり0.85meq以上1.50meq以下の範囲内の値に調整されていることが好適である。
【0223】
続いて、個片化されたそれぞれのダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aを、ダイシングテープ10の紫外線(UV)照射後の粘着剤層2から剥がし取る所謂ピックアップを行う(
図6のステップS208:剥離(ピックアップ)工程)。
【0224】
上記ピックアップの方法としては、例えば、
図9(e)に示すように、半導体チップ30aの表面に吸着コレット50が接触・着地されたダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aをダイシングテープ10の基材フィルム1の第2面を突き上げピン(ニードル)60によって突き上げることにより、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aのエッジ部からの剥離を促進するとともに、
図9(f)に示すように、突き上げられたダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aを、ピックアップ装置(図示せず)の吸着コレット50により吸引して持ち上げることにより、ダイシングテープ10の粘着剤層2から剥がし取る方法等が挙げられる。これにより、ダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aが得られる。
【0225】
ピックアップ条件としては、実用上、許容できる範囲であれば特に限定されず、通常は、突き上げピン(ニードル)60の突き上げ速度は、1mm/秒以上100mm/秒以下の範囲内で設定されることが多いが、半導体チップ30aの厚さ(半導体ウエハの厚さ)が100μmと薄い場合には、薄膜の半導体チップ30aの損傷抑制の観点から、1mm/秒以上20mm/秒以下の範囲内で設定することが好ましい。生産性を加味した観点からは、5mm/秒以上20mm/秒以下の範囲内で設定できることがより好ましい。
【0226】
また、半導体チップ30aが損傷せずにピックアップが可能となる突き上げピンの突き上げ高さは、例えば、上記と同様の観点から、100μm以上600μm以下の範囲内で設定できることが好ましく、半導体薄膜チップに対する応力軽減の観点から、100μm以上450μm以下の範囲内で設定できることがより好ましい。生産性を加味した観点からは、100μm以上350μm以下の範囲内で設定できることがとりわけ好ましい。このような突き上げ高さをより小さくできるダイシングテープはピックアップ性に優れていると言える。
【0227】
以上、説明したように、基材フィルム1と、粘着剤層2とから構成される本発明のダイシングテープ10は、半導体製造工程において、ダイシングテープ10の粘着剤層2の上にダイボンドフィルム(接着剤層)3が剥離可能に密着、積層されたダイシングダイボンドフィルム20の形として使用した場合、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムのような流動性が高く、厚さが厚いダイボンドフィルムを貼合して適用する場合であっても、クールエキスパンドによりダイボンドフィルム3が良好に割断されると共に、割断後のダイボンドフィルム3aにおいて、そのエッジ部分がダイシングテープ10の粘着剤層2から適度に剥離した状態が形成され、割断された個々のダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aのダイボンドフィルム3aの剥離した状態のエッジ部分が、紫外線照射後の粘着剤層2に、ダイシングテープの下面側からの治具突き上げおよび吸着コレットによる吸引・持ち上げによっても容易に剥離できない程度にまで強く再固着する現象が大幅に抑制され、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aをダイシングテープ10の紫外線照射後の粘着剤層2から良好にピックアップすることできる。
【0228】
なお、
図9(a)~(f)で説明した製造方法は、ダイシングダイボンドフィルム20を用いた半導体チップ30aの製造方法の一例(SDBG)であり、ダイシングテープ10をダイシングダイボンドフィルム20の形として使用する方法は、上記の方法に限定されない。すなわち、本実施の形態のダイシングダイボンドフィルム20は、ダイシングに際して、半導体ウエハ30に貼り付けられるものであれば、上記の方法に限定されることなく使用することができる。
【0229】
中でも、本発明のダイシングテープ10は、DBG、ステルスダイシング、SDBG等といった薄膜半導体チップを得るための製造方法において、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムと一体化してダイシングダイボンドフィルム20として用いるためのダイシングテープとして好適である。もちろん、汎用ダイボンドフィルムと一体化して用いることも可能である。
【0230】
<半導体装置の製造方法>
本実施の形態が適用されるダイシングテープ10とダイボンドフィルム3とを一体化したダイシングダイボンドフィルム20を用いて製造された半導体チップが搭載された半導体装置について、以下、具体的に説明する。
【0231】
半導体装置(半導体パッケージ)は、例えば、上述のダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aを半導体チップ搭載用支持部材または半導体チップに加熱圧着して接着させ、その後、ワイヤボンディング工程と封止材による封止工程等の工程を経ることにより得ることができる。
【0232】
図12は、本実施の形態が適用されるダイシングテープ10とワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム3とを一体化したダイシングダイボンドフィルム20を用いて製造された半導体チップが搭載された積層構成の半導体装置の一態様の模式断面図である。
図12に示す半導体装置70は、半導体チップ搭載用支持基板71と、硬化されたダイボンドフィルム(接着剤層)3a1、3a2と、一段目の半導体チップ30a1と、二段目の半導体チップ30a2と、封止材75とを備えている。半導体チップ搭載用支持基板71、硬化されたダイボンドフィルム3a1および半導体チップ30a1は、半導体チップ30a2の支持部材76を構成している。
【0233】
半導体チップ搭載用支持基板71の一方の面には、外部接続端子72が複数配置されており、半導体チップ搭載用支持基板71の他方の面には、端子73が複数配置されている。半導体チップ搭載用支持基板71は、半導体チップ30a1および半導体チップ30a2の接続端子(図示せず)と、外部接続端子72とを電気的に接続するためのワイヤ74を有している。半導体チップ30a1は、硬化されたダイボンドフィルム3a1により半導体チップ搭載用支持基板71に外部接続端子72に由来する凹凸を埋め込むような形で接着されている。半導体チップ30a2は、硬化されたダイボンドフィルム3a2により半導体チップ30a1に接着されている。半導体チップ30a1、半導体チップ30a2およびワイヤ74は、封止材75によって封止されている。このようにワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム3aは、半導体チップ30aを複数重ねる積層構成の半導体装置に好適に使用される。
【0234】
また、
図13は、本実施の形態が適用されるダイシングテープ10と汎用ダイボンドフィルム3とを一体化したダイシングダイボンドフィルム20を用いて製造された半導体チップが搭載された他の半導体装置の一態様の模式断面図である。
図13に示す半導体装置80は、半導体チップ搭載用支持基板81と、硬化されたダイボンドフィルム3aと、半導体チップ30aと、封止材85とを備えている。半導体チップ搭載用支持基板81は、半導体チップ30aの支持部材であり、半導体チップ30aの接続端子(図示せず)と半導体素チップ搭載用支持基板81の主面に配置された外部接続端子(図示せず)とを電気的に接続するためのワイヤ84を有している。半導体チップ30aは、硬化されたダイボンドフィルム3aにより半導体チップ搭載用支持基板81に接着されている。半導体チップ30aおよびワイヤ7は、封止材85によって封止されている。
【実施例0235】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0236】
1.基材フィルム1の作製
基材フィルム1(a)~1(k)を作製するための材料として下記の樹脂をそれぞれ準備した。
【0237】
(エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A))
・樹脂(IO1)
エチレン/メタクリル酸/アクリル酸2-メチル-プロピル=80/10/10の質量比率から成る三元共重合体、Zn2+イオンによる中和度:60モル%、融点:86℃、MFR:1g/10分(190℃/2.16kg荷重)、密度:0.96g/cm3
・樹脂(IO2)
エチレン/メタクリル酸/アクリル酸2-メチル-プロピル=80/10/10の質量比率から成る三元共重合体、Zn2+イオンによる中和度:70モル%、融点:87℃、MFR:1g/10分(190℃/2.16kg荷重)、密度:0.96g/cm3
【0238】
(ポリアミド樹脂(B))
・樹脂(PA1)
ナイロン6、融点:225℃、密度:1.13g/cm3
【0239】
(その他樹脂(C))
・樹脂(TPO)
熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー(エチレン-α-オレフィンランダム共重合体)
・樹脂(POPE)
ポリオレフィン-ポリエーテルブロック共重合体(高分子型帯電防止剤)、融点:115℃、MFR:15g/10分(190℃/2.16kg荷重)
・樹脂(PP)
ランダム共重合ポリプロピレン、融点138℃
・樹脂(EVA)
エチレン-酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル含有量20質量%、融点82℃、密度:0.94g/cm3
【0240】
(基材フィルム1(a))
アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)として(IO1)、ポリアミド樹脂(B)として(PA1)を準備した。まず、上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=95:5の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(a)用樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、1種(同一樹脂)3層Tダイフィルム成形機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度240℃の条件で成形し、同一樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(a)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=20μm/50μm/20μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=95:5である。
【0241】
(基材フィルム1(b))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=90:10の質量比率でドライブレンドしたこと以外は、基材フィルム1(a)と同様にして、同一樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(b)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=20μm/50μm/20μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=90:10である。
【0242】
(基材フィルム1(c))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=85:15の質量比率でドライブレンドしたこと以外は、基材フィルム1(a)と同様にして、同一樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(c)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=20μm/50μm/20μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=85:15である。
【0243】
(基材フィルム1(d))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=80:20の質量比率でドライブレンドしたこと以外は、基材フィルム1(a)と同様にして、同一樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(d)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=20μm/50μm/20μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=80:20である。
【0244】
(基材フィルム1(e))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=72:28の質量比率でドライブレンドしたこと以外は、基材フィルム1(a)と同様にして、同一樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(e)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=20μm/50μm/20μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=72:28である。
【0245】
(基材フィルム1(f))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)として(IO1)、ポリアミド樹脂(B)として(PA1)、その他樹脂(C)として熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー(エチレン-α-オレフィンランダム共重合体)(TPO)およびポリオレフィン-ポリエーテルブロック共重合体(POPE)を準備した。まず、第1層、第2層用の樹脂として、上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=90:10の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(g)の第1層、第2層用の樹脂組成物を得た。また、第3層用の樹脂として、アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)=(IO1)、ポリアミド樹脂(B)=(PA1)、熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー(TPO)、ポリオレフィン-ポリエーテルブロック共重合体(POPE)をそれぞれ76:8:8:8の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(f)の第3層用の樹脂組成物を得た。それぞれの樹脂組成物および樹脂を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度240℃の条件で成形し、2種類の樹脂組成物による3層構成の厚さ80μmの基材フィルム1(f)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=30μm/30μm/20μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=90:10である。また、層全体における樹脂(A)と樹脂(B)の合計量の含有割合は95質量%である。
【0246】
(基材フィルム1(g))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)として(IO1)、ポリアミド樹脂(B)として(PA1)、その他樹脂(C)として熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー(エチレン-α-オレフィンランダム共重合体)(TPO)を準備した。まず、第1層、第3層用の樹脂として、上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=85:15の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(g)の第1層、第3層用の樹脂組成物を得た。また、第2層用の樹脂として、上記熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー(エチレン-α-オレフィンランダム共重合体)=(TPO)を単独で用いた。それぞれの樹脂組成物および樹脂を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度240℃の条件で成形し、2種類の樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(g)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=85:15である。また、層全体における樹脂(A)と樹脂(B)の合計量の含有割合は67質量%である。
【0247】
(基材フィルム1(h))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)として(IO1)および(IO2)、ポリアミド樹脂(B)として(PA1)を準備した。まず、第1層、第3層用の樹脂として、上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=90:10の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(h)の第1層、第3層用の樹脂組成物を得た。また、第2層用の樹脂として、上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)として(IO2)を単独で用いた。それぞれの樹脂組成物および樹脂を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度240℃の条件で成形し、2種類の樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(g)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=93:7である。
【0248】
(基材フィルム1(i))
アイオノマーからなる樹脂(A)として(IO1)を準備した。アミド樹脂(B)=(PA1)をドライブレンドしなかったこと以外は、基材フィルム1(a)と同様にして、同一樹脂組成物(アイオノマーからなる樹脂(A)のみ)による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(i)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=20μm/50μm/20μmとした。
【0249】
(基材フィルム1(j))
基材フィルム1の各層の厚さを、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=20μm/50μm/20μmとしたこと以外は、基材フィルム1(g)と同様にして、2種類の樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(j)を作製した。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=90:10である。また、層全体における樹脂(A)と樹脂(B)の合計量の含有割合は44質量%である。
【0250】
(基材フィルム1(k))
その他樹脂(C)として、(PP)および(EVA)を準備した。第1層および第3層用の樹脂として(PP)を、第2層用の樹脂として(EVA)を用い、それぞれの樹脂を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度150℃の条件で成形し、2種類の樹脂組成物による3層構成の厚さ80μmの基材フィルム1(k)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層に接する面側)/第2層/第3層=8μm/64μm/8μmとした。
【0251】
[基材フィルムの5%伸長時弾性率]
基材フィルム1の0℃におけるMD方向の5%伸長時弾性率YMDおよびTD方向の5%伸長時弾性率YTDは、以下の方法で測定した。まず、MD方向測定用の試料(試料数N=5)として長さ100mm(MD方向)、幅10mm(TD方向)の形状の試験片、TD方向測定用の試料(試料数N=5)として長さ100mm(TD方向)、幅10mm(MD方向)の形状の試験片をそれぞれ用意した。続いて、ミネベアミツミ株式会社製の引張圧縮試験機(型式:MinebeaTechnoGraph TG-5kN)を用いて、試験片の長手方向の両端をチャック間初期距離20mmとなるようにチャックで固定し、試験片をミネベアミツミ株式会社製の恒温槽(型式:THB-A13-038)内で0℃にて1分間置いた後に、100mm/分の速度で引張試験を行い、引張荷重-伸長曲線を測定した。そして、得られた引張荷重-伸長曲線から、原点(伸張開始点)と、原点から1.0mm伸長(チャック間初期距離20mmに対して5%伸長)した時に対応する曲線上の引張荷重値(単位:N)の点とを結んだ直線の傾きを算出して、上述した式により5%伸長時時弾性率Y(単位:MPa)を求めた。それぞれの方向について試料数N=5にて測定を行い、その平均値をそれぞれMD方向の5%伸長時時弾性率YMDおよびTD方向の5%伸長時時弾性率YTDとした。それらの値を用いて上記で製膜した基材フィルム1の0℃における5%伸長時時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2を算出した。
【0252】
実施例および比較例のダイシングテープ10の基材フィルム1として用いる基材フィルム1(a)~1(k)の0℃における5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2は、それぞれ表1~9に示す通りである。
【0253】
2.粘着剤組成物の溶液の調製
ダイシングテープ10の粘着剤層2用の粘着剤組成物として、下記の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)~2(u)の溶液を調製した。
なお、これら粘着剤組成物のベースポリマー(アクリル酸エステル共重合体)を構成する共重合モノマー成分として、
・アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA、分子量:184.3、Tg:-70℃)、
・アクリル酸-2ヒドロキシエチル(2-HEA、分子量:116.12、Tg:-15℃)、
・メタクリル酸(MAA、分子量:86.06:Tg:228℃)、
を準備した。
【0254】
また、ポリイソシアネート系架橋剤として、東ソー株式会社製の
・TDI系のポリイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートL-45E、固形分濃度:45質量%、溶液中のイソシアネート基含有量:8.05質量%、固形分中のイソシアネート基含有量:17.89質量%、計算上のイソシアネート基の数:平均2.8個/1分子、理論上分子量:656.64)、
・HDI系のポリイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートHL、固形分濃度:75質量%、溶液中のイソシアネート基含有量:12.8質量%、固形分中のイソシアネート基含有量:17.07質量%、計算上のイソシアネート基の数:平均2.6個/1分子、理論上分子量:638.75)、
を準備した。
【0255】
(活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)の溶液)
共重合モノマー成分として、アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA)、アクリル酸-2ヒドロキシエチル(2-HEA)、メタクリル酸メチル(MMA)を準備した。これらの共重合モノマー成分を、2-EHA/2-HEA/MMA=81.5質量部/17.5質量部/1.0質量部(=442.21mmol/150.71mmol/11.62mmol)の共重合比率となるように混合し、溶媒として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用い溶液ラジカル重合により、水酸基を有するベースポリマー(アクリル酸エステル共重合体)の溶液を合成した。得られたベースポリマーのFoxの式より算出したTgは-61℃である。
【0256】
次に、このベースポリマーの固形分100質量部に対し、昭和電工株式会社製の活性エネルギー線反応性化合物として、昭和電工株式会社製のイソシアネート基と活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合とを有する2-イソシアネートエチルメタクリレート(商品名:カレンズMOI、分子量:155.15、イソシアネート基:1個/1分子、二重結合基:1個/1分子)19.2質量部(123.75mmol:2-HEAに対して82.11mol%)を配合し、2-HEAの水酸基の一部と反応させて、炭素-炭素二重結合を側鎖に有するアクリル系粘着性ポリマー(A)の溶液(固形分濃度:50質量%、重量平均分子量Mw:33万、固形分水酸基価:12.7mgKOH/g、固形分酸価:5.5mgKOH/g、炭素-炭素二重結合含有量:1.04meq/g)を合成した。なお、上記の反応にあたっては、炭素-炭素二重結合の反応性を維持するための重合禁止剤としてヒドロキノン・モノメチルエーテルを0.05質量部用いた。
【0257】
続いて、上記で合成したアクリル系粘着性ポリマー(A)の溶液200質量部(固形分換算100質量部)に対して、IGM Resins B.V.社製のα-ヒドロキシアルキルフェノン系光重合開始剤(商品名:Omnirad184)を4.0質量部、IGM Resins B.V.社製のベンジルメチルケタール系光重合開始剤(商品名:Omnirad651)を0.8質量部、IGM Resins B.V.社製のα-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(商品名:Omnirad379EG)を1.0質量部、IGM Resins B.V.社製のアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(商品名:Omnirad819)を0.4質量部、架橋剤として東ソー株式会社製のHDI系のポリイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートHL、固形分濃度:75質量%)を5.5質量部(固形分換算4.1質量部、7.65mmol)の比率で配合し、酢酸エチルにて希釈、撹拌して、固形分濃度22質量%の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)の溶液を調製した。表1に示したように、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)における、ポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)は0.74、残存水酸基濃度は0.06mmol/g、炭素-炭素二重結合濃度は1.00meq/gであった。
【0258】
(活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)~2(u)の溶液)
アクリル系粘着性ポリマー(A)に対して、それぞれ表4、5、9に示したように共重合モノマー成分の共重合比率、活性エネルギー線反応性化合物の配合量、および共重合モノマー成分を適宜変更し、アクリル系粘着性ポリマー(B)~(G)の溶液をそれぞれ合成した。合成したアクリル系粘着性ポリマー(B)~(G)における、ベースポリマーのTg、重量平均分子量Mw、酸価および水酸基価は、それぞれ表4、5、9に示す通りである。続いて、これらのアクリル系粘着性ポリマーの溶液を用いて、アクリル系粘着性ポリマー(A)~(G)の固形分換算100質量部に対して、それぞれ表3~6、8、9に示したように光重合開始剤およびポリイソシアネート系架橋剤を適宜配合して、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)~2(u)の溶液を調製した。活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)~2(u)における、ポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)、残存水酸基濃度および炭素-炭素二重結合基濃度は、それぞれ表3~6、8、9に示す通りである。
【0259】
3.接着剤組成物の溶液の調製
ダイシングダイボンドフィルム20のダイボンドフィルム(接着剤層)3用の接着剤組成物として、下記の接着剤組成物3(a)~3(d)の溶液を調製した。
【0260】
(接着剤組成物3(a)の溶液)
ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用として、以下の接着剤組成物溶液3(a)の溶液を調製、準備した。まず、熱硬化性樹脂として株式会社プリンテック製のビスフェノール型エポキシ樹脂(商品名:R2710、エポキシ当量:170、分子量:340、常温で液状)26質量部、東都化成株式会社製のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:YDCN-700-10、エポキシ当量210、軟化点80℃)36質量部、架橋剤として三井化学株式会社製のフェノール樹脂(商品名:ミレックスXLC-LL、水酸基当量:175、軟化点:77℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:4質量%)1質量部、エア・ウォーター株式会社製のフェノール樹脂(商品名:HE200C-10、水酸基当量:200、軟化点:71℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:4質量%)25質量部、エア・ウォーター株式会社製のフェノール樹脂(商品名:HE910-10、水酸基当量:101、軟化点:83℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:3質量%)12質量部、無機フィラーとしてアドマテックス株式会社製のシリカフィラー分散液(商品名:SC2050-HLG、平均粒子径:0.50μm)15質量部、アドマテックス株式会社製のシリカフィラー分散液(商品名:SC1030-HJA、平均粒子径:0.25μm)14質量部、日本アエロジル株式会社製のシリカ(商品名:アエロジルR972、平均粒子径:0.016μm)1質量部、からなる樹脂組成物に、溶媒としてシクロヘキサノンを加えて撹拌混合し、更にビーズミルを用いて90分間分散した。
【0261】
次いで、上記樹脂組成物に、熱可塑性樹脂としてナガセケムテックス株式会社製のグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(商品名:HTR-860P-30B-CHN、グリシジル(メタ)アクリレート含有量:8質量%、重量平均分子量Mw:23万、Tg:-7℃)37質量部、ナガセケムテックス株式会社製のグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(商品名:HTR-860P-3CSP、グリシジル(メタ)アクリレート含有量:3質量%、重量平均分子量Mw:80万、Tg:-7℃)9質量部、シランカップリング剤としてGE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-1160)0.7質量部、GE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-189)0.3質量部、および硬化促進剤として四国化成株式会社製の1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(商品名:キュアゾール2PZ-CN)0.03質量部加え、攪拌混合し、100メッシュのフィルターでろ過した後、真空脱気し、固形分濃度20質量%の接着剤組成物3(a)の溶液を調製した。樹脂成分全量(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および架橋剤の合計質量)における各樹脂成分の含有割合は、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体:エポキシ樹脂:フェノール樹脂=31.5質量%:42.5質量%:26.0質量%であった。また、無機フィラーの含有量は樹脂成分全量に対して20.5質量%であった。
【0262】
(接着剤組成物3(b)の溶液)
ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用として、以下の接着剤組成物溶液3(b)の溶液を調製、準備した。まず、熱硬化性樹脂として東都化成株式会社製のビスフェノールF型エポキシ樹脂(商品名:YDF-8170C、エポキシ当量:159、分子量:310、常温で液状)21量部、東都化成株式会社製のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:YDCN-700-10、エポキシ当量210、軟化点80℃)33質量部、架橋剤としてエア・ウォーター株式会社製のフェノール樹脂(商品名:HE200C-10、水酸基当量:200、軟化点:71℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:4質量%)46質量部、無機フィラーとしてアドマテックス株式会社製のシリカフィラー分散液(商品名:SC1030-HJA、平均粒子径:0.25μm)18質量部、からなる樹脂組成物に、溶媒としてシクロヘキサノンを加えて撹拌混合し、更にビーズミルを用いて90分間分散した。
【0263】
次いで、上記樹脂組成物に、熱可塑性樹脂としてナガセケムテックス株式会社製のグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(商品名:HTR-860P-30B-CHN、グリシジル(メタ)アクリレート含有量:8質量%、重量平均分子量Mw:23万、Tg:-7℃)16質量部、ナガセケムテックス株式会社製のグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(商品名:HTR-860P-3CSP、グリシジル(メタ)アクリレート含有量:3質量%、重量平均分子量Mw:80万、Tg:-7℃)64質量部、シランカップリング剤としてGE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-1160)1.3質量部、GE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-189)0.6質量部、および硬化促進剤として四国化成株式会社製の1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(商品名:キュアゾール2PZ-CN)0.05質量部加え、攪拌混合し、100メッシュのフィルターでろ過した後、真空脱気し、固形分濃度20質量%の接着剤組成物3(b)の溶液を調製した。樹脂成分全量(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および架橋剤の合計質量)における各樹脂成分の含有割合は、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体:エポキシ樹脂:フェノール樹脂=44.4質量%:30.0質量%:25.6質量%であった。また、無機フィラーの含有量は樹脂成分全量に対して10.0質量%であった。
【0264】
(接着剤組成物3(c)の溶液)
ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用として、以下の接着剤組成物溶液3(c)の溶液を調製、準備した。まず、熱硬化性樹脂として株式会社プリンテック製のビスフェノール型エポキシ樹脂(商品名:R2710、エポキシ当量:170、分子量:340、常温で液状)11質量部、DIC株式会社製のジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(商品名:HP-7200H、エポキシ当量280、軟化点83℃)40質量部、DIC株式会社製のビスフェノールS型エポキシ樹脂(商品名:EXA-1514、エポキシ当量300、軟化点75℃)18質量部、架橋剤として三井化学株式会社製のフェノール樹脂(商品名:ミレックスXLC-LL、水酸基当量:175、軟化点:77℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:4質量%)1質量部、エア・ウォーター株式会社製のフェノール樹脂(商品名:HE200C-10、水酸基当量:200、軟化点:71℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:4質量%)20質量部、エア・ウォーター株式会社製のフェノール樹脂(商品名:HE910-10、水酸基当量:101、軟化点:83℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:3質量%)10質量部、無機フィラーとしてアドマテックス株式会社製のシリカフィラー分散液(商品名:SC1030-HJA、平均粒子径:0.25μm)24質量部、日本アエロジル株式会社製のシリカ(商品名:アエロジルR972、平均粒子径:0.016μm)0.8質量部、からなる樹脂組成物に、溶媒としてシクロヘキサノンを加えて撹拌混合し、更にビーズミルを用いて90分間分散した。
【0265】
次いで、上記樹脂組成物に、熱可塑性樹脂としてナガセケムテックス株式会社製のグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(商品名:HTR-860P-30B-CHN、グリシジル(メタ)アクリレート含有量:8質量%、重量平均分子量Mw:23万、Tg:-7℃)30質量部、ナガセケムテックス株式会社製のグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(商品名:HTR-860P-3CSP、グリシジル(メタ)アクリレート含有量:3質量%、重量平均分子量Mw:80万、Tg:-7℃)7.5質量部、シランカップリング剤としてGE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-1160)0.57質量部、GE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-189)0.29質量部、および硬化促進剤として四国化成株式会社製の1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(商品名:キュアゾール2PZ-CN)0.023質量部加え、攪拌混合し、100メッシュのフィルターでろ過した後、真空脱気し、固形分濃度20質量%の接着剤組成物3(c)の溶液を調製した。樹脂成分全量(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および架橋剤の合計質量)における各樹脂成分の含有割合は、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体:エポキシ樹脂:フェノール樹脂=27.3質量%:50.2質量%:22.5質量%であった。また、無機フィラーの含有量は樹脂成分全量に対して18.0質量%であった。
【0266】
(接着剤組成物3(d)の溶液)
汎用ダイボンドフィルム用として、以下の接着剤組成物3(d)の溶液を調製、準備した。まず、熱硬化性樹脂として東都化成株式会社製のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:YDCN-700-10、エポキシ当量210、軟化点80℃)54質量部、架橋剤として三井化学株式会社製のフェノール樹脂(商品名:ミレックスXLC-LL、水酸基当量:175、吸水率:1.8%)46質量部、無機フィラーとして日本アエロジル株式会社製のシリカ(商品名:アエロジルR972、平均粒子径0.016μm)32質量部、からなる樹脂組成物に、溶媒としてシクロヘキサノンを加えて撹拌混合し、更にビーズミルを用いて90分間分散した。
【0267】
次いで、上記樹脂組成物に、熱可塑性樹脂としてナガセケムテックス株式会社製のグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(商品名:HTR-860P-3CSP、グリシジル(メタ)アクリレート含有量:3質量%、重量平均分子量Mw:80万、Tg:-7℃)274質量部、シランカップリング剤としてGE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-1160)5.0質量部、GE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-189)1.7質量部、および硬化促進剤として四国化成株式会社製の1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(商品名:キュアゾール2PZ-CN)0.1質量部加え、攪拌混合し、100メッシュのフィルターでろ過した後、真空脱気し、固形分濃度20質量%の接着剤組成物3(d)の溶液を調製した。樹脂成分全量(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および架橋剤の合計質量)における各樹脂成分の含有割合は、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体:エポキシ樹脂:フェノール樹脂=73.3質量%:14.4質量%:12.3質量%であった。また、無機フィラーの含有量は樹脂成分全量に対して8.6質量%であった。
【0268】
4.ダイシングテープ10およびダイシングダイボンドフィルム20の作製
(実施例1)
剥離ライナー(厚さ38μm、ポリエチレンテレフタレートフィルム)の剥離処理面側に乾燥後の粘着剤層2の厚さが8μmとなるように、上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物(a)の溶液を塗布して100℃の温度で3分間加熱することにより溶媒を乾燥させた後に、粘着剤層2上に基材フィルム1(a)の第1層側の表面を貼り合わせ、ダイシングテープ10の原反を作製した。その後、ダイシングテープ10の原反を23℃の温度で96時間保存して粘着剤層2を架橋、硬化させた。
【0269】
次いで、ダイボンドフィルム(接着剤層)3形成用の接着剤組成物3(a)の溶液を準備し、剥離ライナー(厚さ38μm、ポリエチレンテレフタレートフィルム)の剥離処理面側に乾燥後のダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さが50μmとなるように、上記接着剤組成物3(a)の溶液を塗布して、まず90℃の温度で5分間、続いて140℃の温度で5分間の2段階で加熱することにより溶媒を乾燥させ、剥離ライナーを備えたダイボンドフィルム(接着剤層)3を作製した。なお、必要に応じ、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の乾燥面側には保護フィルム(例えばポリエチレンフィルム等)を貼り合わせても良い。
【0270】
続いて、上記で作製した剥離ライナーを備えたダイボンドフィルム(接着剤層)3を、剥離ライナーごと直径335mmの円形にカットし、該ダイボンドフィルム(接着剤層)3の接着剤層露出面(剥離ライナーの無い面)を、剥離ライナーを剥離した上記ダイシングテープ10の粘着剤層2面に貼り合わせた。貼り合わせ条件は、23℃、10mm/秒、線圧30kgf/cmとした。
【0271】
最後に、直径370mmの円形にダイシングテープ10をカットすることにより、直径370mmの円形のダイシングシート10の粘着剤層2の上中心部に直径335mmの円形のダイボンドフィルム(接着剤層)3が積層されたダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a))を作製した。
【0272】
(実施例2~8)
基材フィルム1(a)を、それぞれ表1~2に示した基材フィルム1(b)~1(h)に変更したこと以外はすべて実施例1と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(b)~DDF(h))を作製した。
【0273】
(実施例9~23)
活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)の溶液を、それぞれ表3~6に示した活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)~2(p)の溶液に変更したこと以外はすべて実施例2と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(i)~DDF(w))を作製した。
【0274】
(実施例24)
接着剤樹脂組成物3(a)の溶液を接着剤組成物3(b)の溶液に変更し、乾燥後のダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さを30μmに変更したこと以外はすべて実施例2と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(x))を作製した。
【0275】
(実施例25)
接着剤樹脂組成物3(a)の溶液を接着剤組成物3(c)の溶液に変更したこと以外はすべて実施例2と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(y))を作製した。
【0276】
(実施例26)
接着剤樹脂組成物3(a)の溶液を接着剤組成物3(d)の溶液に変更し、乾燥後のダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さを20μmに変更したこと以外はすべて実施例2と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(z))を作製した。
【0277】
(比較例1)
基材フィルム1(a)を基材フィルム1(i)に変更し、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)の溶液を表8に示した活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(q)の溶液に変更し、接着剤樹脂組成物3(a)の溶液を接着剤組成物3(c)の溶液に変更したこと以外はすべて実施例1と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(aa))を作製した。
【0278】
(比較例2)
基材フィルム1(a)を基材フィルム1(j)に変更し、接着剤樹脂組成物3(c)の溶液を接着剤組成物3(a)の溶液に変更したこと以外はすべて比較例1と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(bb))を作製した。
【0279】
(比較例3)
基材フィルム1(a)を基材フィルム1(k)に変更したこと以外はすべて比較例2と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(cc))を作製した。
【0280】
(比較例4)
活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(q)の溶液を表8に示した活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(r)の溶液に変更したこと以外はすべて比較例1と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(dd))を作製した。
【0281】
(比較例5~7)
活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)の溶液を、それぞれ表9に示した活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(s)~2(u)の溶液に変更したこと以外はすべて実施例2と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(ee)~DDF(gg))を作製した。
【0282】
5.ダイシングテープの紫外線照射後粘着力およびダイボンドフィルムのずり粘度の測定
実施例1~26および比較例1~7で作製したダイシングテープ10の紫外線照射後粘着力およびダイボンドフィルム3のずり粘度について、以下に示す方法で測定した。
【0283】
5.1 ダイシングテープ10の粘着剤層2の有酸素紫外線照射後粘着力とダイボンドフィルム(接着剤層)3に対するダイシングテープ10の粘着剤層2の無酸素紫外線照射後粘着力の測定
上記実施例1~26および比較例1~7で作製したダイシングテープ10について、以下の方法により、粘着剤層2の有酸素下紫外線照射後粘着力Aおよび無酸素下紫外線照射後粘着力Bを測定した。
【0284】
5.1.1 有酸素下紫外線照射後粘着力A
まず、ダイシングテープ10を幅(基材フィルム1のTD方向)25mm、長さ(基材フィルム1のMD方向)120mmの大きさに裁断した。次いで、剥離ライナーを剥がしたダイシングテープ10の粘着剤層2面側からメタルハライドランプを用いて、中心波長367nmの紫外線(UV)を照射(照射強度:70mW/cm
2、積算光量:150mJ/cm
2)した後、ステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対し、ダイシングテープ10を粘着剤層2面の端から重さ2kgのゴムローラを使用して、温度23℃、湿度50%RHの環境にて、ゴムローラを約5mm/秒の速度で一往復させて、綺麗に圧着、貼り合わせを行い、測定用試験片とした。20分静置後、該試験片について、温度23℃、湿度50%RHの環境にて、
図4に示す剥離角度自在タイプの粘着・皮膜剥離解析装置を用いて、ステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対するダイシングテープ10の剥離角度90°粘着力(単位はN/25mm)を測定した。剥離速度は300mm/分とした。測定は、試験片3検体について行い、3検体の値の平均値をそのダイシングテープ10の有酸素下紫外線照射後粘着力Aとした。
【0285】
5.1.2 無酸素下紫外線照射後粘着力B
まず、ダイシングテープ10を幅(基材フィルム1のTD方向)25mm、長さ(基材フィルム1のMD方向)120mmの大きさに裁断した。次いで、ステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対して、剥離ライナーを剥がしたダイシングテープ10の粘着剤層2面の端から重さ2kgのゴムローラを使用して、温度23℃、湿度50%RHの環境にて、ゴムローラを約5mm/秒の速度で一往復させて、綺麗に圧着、貼り合わせた。20分静置後、ダイシングテープ10の基材フィルム1側から、メタルハライドランプを用いて、中心波長367nmの紫外線(UV)を照射(照射強度:70mW/cm
2、積算光量:150mJ/cm
2)し、測定用試験片とした。該試験片について、上述した有酸素下紫外線照射後粘着力Aの測定と同様に
図4に示す剥離角度自在タイプの粘着・皮膜剥離解析装置を用いて、ステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対するダイシングテープ10の剥離角度90°粘着力(単位はN/25mm)を測定した。剥離速度は300mm/分とした。測定は、試験片3検体について行い、3検体の値の平均値をそのダイシングテープ10の無酸素下紫外線照射後粘着力Bとした。
【0286】
また、上記粘着力の測定値を用いて、ダイシングテープ10の粘着剤層2の無酸素下紫外線照射後粘着力Bに対する有酸素下紫外線照射後粘着力Aの比A/Bを算出した。
【0287】
5.2 ダイボンドフィルム(接着剤層)3の80℃でのずり粘度の測定
接着剤組成物3(a)~3(d)の溶液から形成した各ダイボンドフィルム(接着剤層)3フィルムについて、下記の方法により、80℃でのずり粘度を測定した。
剥離ライナーを除去したダイボンドフィルム(接着剤層)3を総厚さが200~210μmとなるように70℃で複数枚貼り合わせて積層体を作製した。次いで、その積層体を、厚み方向に10mm×10mmの大きさに打ち抜いて測定サンプルとした。続いて、動的粘弾性装置ARES(レオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー社製)を用いて、直径8mmの円形アルミプレート治具を装着した後、測定サンプルをセットした。測定サンプルに35℃で5%の歪みを与えながら、昇温速度5℃/分の条件で測定サンプルを昇温しながらずり粘度を測定し、80℃でのずり粘度の値を求めた。
【0288】
実施例1~26および比較例1~7で作製したダイシングテープ10およびダイシングダイボンドフィルム20について、それぞれの構成および上記の各測定結果を表1~9に示す。
【0289】
【0290】
【0291】
【0292】
【0293】
【0294】
【0295】
【0296】
【0297】
【0298】
6.ダイシングテープの実装評価
上記実施例1~26および比較例1~7で作製したダイシングテープ10について、ダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(gg))の態様にて、以下に示す方法で評価を行った。
【0299】
6.1 ダイボンドフィルム(接着剤層)割断性
まず、半導体ウエハ(シリコンミラーウエハ、厚さ750μm、外径12インチ)Wを準備し、一方の面に市販のバックグラインドテープを貼り付けた。次いで、半導体ウエハWのバックグラインドテープを貼り付けた側と反対面から、株式会社ディスコ製のステルスダイシングレーザソー(装置名:DFL7361)を使用し、割断後の半導体チップ30aの大きさが4.6mm×7.2mmのサイズとなるように、格子状のダイシング予定ラインに沿って、以下の条件にて、レーザー光を照射することにより、半導体ウエハWの所定の深さの位置に改質領域30bを形成した。
【0300】
・レーザー照射条件
(1)レーザー発振器型式:半導体レーザー励起Qスイッチ固体レーザー
(2)波長:1342nm
(3)発振形式:パルス
(4)周波数:90kHz
(5)出力:1.7W
(6)半導体ウエハの載置台の移動速度:700mm/秒
【0301】
次いで、株式会社ディスコ製のバックグラインド装置(装置名:DGP8761)を使用し、バックグラインドテープに保持された当該改質領域30bが形成された厚さ750μmの半導体ウエハWを研削、薄膜化することにより、厚さ30μmの個片化された半導体チップ30aを得た。続いて、以下の方法によりクールエキスパンド工程を実施することで、ダイボンドフィルム(接着剤層)割断性を評価した。具体的には、厚さ30μmの半導体チップ30aのバックグラインドテープが貼り付けられた側とは反対面に、各実施例および比較例で作製したダイシングダイボンドフィルム20から剥離ライナーを剥離することによって露出させたダイボンドフィルム3が密着するように、株式会社ディスコ製のラミネート装置(装置名:DFM2800)を使用し、当該半導体チップ30aに対してダイシングダイボンドフィルム20をラミネート温度70℃、ラミネート速度10mm/秒の条件にて貼り合わせるとともに、ダイシングテープ10の外縁部の粘着剤層2露出部にリングフレーム(ウエハリング)40を貼り付けた後、バックグラインドテープを剥離した。なお、ここで、ダイシングダイボンドフィルム20は、その基材フィルム1のMD方向と半導体チップ30aの格子状の分割ラインの縦ライン方向(基材フィルム1のTD方向と半導体チップ30aの格子状の分割ラインの横ライン方向)とが一致するように、半導体チップ30aに貼り付けられている。
【0302】
上記リングフレーム(ウエハリング)40に保持された半導体チップ30aを含む積層体(半導体ウエハ30/ダイボンドフィルム3/粘着剤層2/基材フィルム1)を株式会社ディスコ製のエキスパンド装置(装置名:DDS2300 Fully Automatic Die Separator)に固定した。次いで、以下の条件にて、半導体チップ30aを伴うダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10(粘着剤層2/基材フィルム1)をクールエキスパンドすることによって、ダイボンドフィルム3を割断した。これにより、ダイボンドフィルム(接着剤層)3付き半導体チップ30aを得た。なお、本実施例では、下記の条件にてクールエキスパンド工程を実施したが、基材フィルム1の物性および温度条件等によってエキスパンド条件(「エキスパンド速度」および「エキスパンド量」等)を適宜調整した上でクールエキスパンド工程を実施すればよい。
【0303】
・クールエキスパンド工程の条件
温度:-15℃、冷却時間:80秒、
エキスパンド速度:300mm/秒、
エキスパンド量:11mm、
(4)待機時間:0秒
【0304】
クールエキスパンド後のダイボンドフィルム(接着剤層)3について、半導体チップ30aの表面側から、株式会社キーエンス製の光学顕微鏡(形式:VHX-1000)を用い、倍率200倍にて観察することによって、割断予定の辺のうち、割断されていない辺の数を計測した。そして、割断予定の辺の総数と未割断の辺の総数とから、割断予定の辺の総数に占める、割断された辺の数の割合を、割断率(%)として算出した。前記光学顕微鏡による観察は、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aの全数に対して行った。以下の基準に従って、ダイボインドフィルム(接着剤層)3の割断性を評価し、B以上の評価を割断性が良好と判断した。
【0305】
A:割断率が95%以上100%以下であった。
B:割断率が90%以上95%未満であった。
C:割断率が85%以上90%未満であった。
D:割断率が85%未満であった。
【0306】
6.2 ダイボンドフィルムのエッジ部の剥離の有無の確認および粘着剤層から剥離したダイボンドフィルムのエッジ部分の面積S1の割合の算出
上記クールエキスパンド状態を解除した後、再度、株式会社ディスコ製のエキスパンド装置(装置名:DDS2300 Fully Automatic Die Separator)を用い、そのヒートエキスパンダーユニットにて、以下の条件にて、常温エキスパンド工程を実施した。
【0307】
・常温エキスパンド工程の条件
温度:23℃、
エキスパンド速度:30mm/秒、
エキスパンド量:9mm、
(4)待機時間:15秒
【0308】
次いで、エキスパンド状態を維持したまま、ダイシングテープ10を吸着テーブルで吸着させ、吸着テーブルによるその吸着を維持した状態で吸着テーブルをワークとともに下降させた。そして、以下の条件にて、ヒートシュリンク工程を実施し、ダイシングテープ10における半導体チップ30a保持領域より外側の円周部分を加熱収縮(ヒ-トシュリンク)させた。
【0309】
・ヒートシュリンク工程の条件
熱風温度:200℃、
風量:40L/min、
熱風吹き出し口とダイシングテープ10との距離:20mm、
ステージの回転速度:7°/秒
【0310】
続いて、吸着テーブルによる吸着からダイシングテープ10を解放した後、割断された個々の半導体チップの四方周辺において、ダイボンドフィルム(接着剤層)3がダイシングテープ10の粘着剤層2から剥離している状態を、半導体チップ30aの裏面側(基材フィルム1側)から、株式会社キーエンス製の光学顕微鏡(形式:VHX-1000)を用い、倍率50倍にて観察した。ダイボンドフィルム(接着剤層)3の剥離の状態は、いずれの位置の半導体チップ30aにおいてもほぼ同様な状態として観察されたため、剥離の有無の確認は半導体ウエハ30の中央部に位置する所定の20個のダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aについて行った。また、上記面積S1の割合の算出は以下の方法により行った。まず、上記20個のダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aの中から任意の3個を選び、それぞれに観察された画像を、画像処理ソフト「ImageJ」(https://imagej.Nih.gov/ij/より入手可能)を用いて、上記面積S1に該当する部分および面積S2に該当する部分とを2値化した。2値化した上記画像処理像により、小片のダイボンドフィルム3a全体の面積(=S1+S2)に対する、粘着剤層2から剥離した小片のダイボンドフィルム3aのエッジ部分の面積S1の割合を3個の測定の平均値として求めた。
【0311】
6.3 ピックアップ性
上記エキスパンド工程により割断、個片化されたダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aを保持しているダイシングテープ10の基材フィルム1側から、照射強度70mW/cm2にて積算光量が150mJ/cm2となるように中心波長367nmの紫外線(UV)を照射し粘着剤層2を硬化させることにより、評価試料を作製した。
【0312】
続いて、ファスフォードテクノロジ株式会社製(旧株式会社日立ハイテクノロジーズ製)のピックアップ機構を有する装置(装置名:ダイボンダDB-830P)を用いて、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aのピックアップ試験を行った。ピックアップ用コレットのサイズは4.5×7.1mm、突上げピンのピン本数は12本とし、ピックアップの条件については、突き上げピンの突き上げ速度を5mm/秒、突き上げピンの突き上げ高さを300μm、200μmおよび150μmとした。ピックアップのトライのサンプル数を所定の位置の個片化された20個(チップ)とし、これを連続的にピックアップし、ピックアップ成功個数をカウントした。各突き上げ高さにおけるダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aのピックアップ性は、以下の基準に従って評価した。
【0313】
A:20チップを連続的にピックアップし、チップ割れ又はピックアップミスが発生しなかった個数(ピックアップ成功個数)が19個以上20個以下であった(成功率95%以上100%以下)。
B:20チップを連続的にピックアップし、チップ割れ又はピックアップミスが発生しなかった個数(ピックアップ成功個数)が17個以上19個未満であった(成功率85%以上95%未満)。
C:20チップを連続的にピックアップし、チップ割れ又はピックアップミスが発生しなかった個数(ピックアップ成功個数)が17個未満であった(成功率85%未満)。
【0314】
上記ピックアップ試験の総合評価としては、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aのピックアップ成功個数の評価がAまたはBとなる突き上げピンの突き上げ高さの量が小さければ小さいほどそのダイシングテープ10を用いた場合におけるピックアップ性がより優れていると判断した。
【0315】
6.3.評価結果
実施例1~26および比較例1~7で作製した各ダイシングテープ10について、ダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(gg))の態様にて実装評価した結果を表10~18に示す。
【0316】
【0317】
【0318】
【0319】
【0320】
【0321】
【0322】
【0323】
【0324】
【0325】
表10~16に示すように、本発明の要件を満たす基材フィルム1(a)~1(h)および粘着剤組成物2(a)~2(p)を含有する粘着剤層2を備え、かつ粘着剤層2の有酸素下紫外線照射後粘着力Aおよび無酸素下紫外線照射後粘着力Bの要件を満たすダイシングテープ10を用いて作製した実施例1~26のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(z))については、半導体装置の製造工程に供した場合、クールエキスパンドによりダイボンドフィルム3が良好に割断されると共に、割断されたダイボンドフィルム3aにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)がダイシングテープ10の粘着剤層2から適度に剥離された状態が形成され、有酸素下紫外線照射後粘着力Aが大幅に低減されていることにより、ピックアップ時には、上記の粘着剤層から剥離された状態のダイボンドフィルム3のエッジ部分が、ダイシングテープ10の紫外線照射後の粘着剤層2に強く再固着する現象が大幅に抑制され、突き上げによるダイシングダイボンドフィルム3a付半導体チップ30aの粘着剤層2からの剥離がエッジ部よりスムースに進行し、ピックアップ性の評価においても好ましい結果が得られることが確認された。
【0326】
実施例を詳細に比較した場合、実施例2~4、実施例6、実施例8、実施例10、11、実施例14~16、実施例21、22および実施例24~26のダイシングダイボンドフィルム20については、ダイボンドフィルム3の割断性およびピックアップ性の評価においてハイレベルで両立可能であり、特に優れていることが分かった。すなわち、クールエキスパンド工程におけるダイボンドフィルム3の割断率は極めて良好であり、さらに、突き上げピンの突き上げ高さの量が小さいピックアップ試験における歩留まりも極めて良好であった。
【0327】
実施例1、実施例7のダイシングダイボンドフィルム20は、基材フィルム1(a)、1(g)の0℃におけるMD方向とTD方向の5%伸長時弾性の平均値(YMD+YTD)/2が、本発明の範囲の下限値に近いため、実施例2~4、実施例6、実施例8のダイシングダイボンドフィルム20と比較して、ダイボンドフィルム3の割断性およびピックアップ性がやや劣っていた。一方、実施例5のダイシングダイボンドフィルム20は、基材フィルム1(e)の0℃におけるMD方向とTD方向の5%伸長時弾性の平均値(YMD+YTD)/2が、本発明の範囲の上限値に近いため、実施例2~4、実施例6、実施例8のダイシングダイボンドフィルム20と比較して、ピックアップ性がやや劣っていた。
【0328】
実施例9、実施例18のダイシングダイボンドフィルム20は、粘着剤組成物2(a)のアクリル系粘着性ポリマー(A)が有する水酸基価が本発明の範囲の下限値に近く、また、ポリイソシアネート系架橋剤の添加量も本発明の範囲の下限値であるため、実施例2、実施例10、11のダイシングダイボンドフィルム20と比較して、クールエキスパンド時に粘着剤層2から剥離した小片のダイボンドフィルム3aのエッジ部分(斜線部)の面積S1の割合がやや小さく、すなわち有酸素下紫外線照射後粘着力の低減効果の寄与が小さく、ピックアップ性がやや劣っていた。
【0329】
実施例12、実施例17および実施例19のダイシングダイボンドフィルム20は、粘着剤組成物2(a)のアクリル系粘着性ポリマー(A)が有する水酸基価が本発明の範囲の下限値に近く、また、ポリイソシアネート系架橋剤の添加量も本発明の範囲の上限値に近い、あるいは上限値であり、粘着剤組成物2(a)におけるポリイソシアネート系架橋剤の添加量およびポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(-NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(-OH)との当量比(-NCO/-OH)も本発明の範囲の上限値に近いため、実施例2、実施例10、11のダイシングダイボンドフィルム20と比較して、クールエキスパンド時に粘着剤層2から剥離した小片のダイボンドフィルム3aのエッジ部分(斜線部)の面積S1の割合がやや大きく、有酸素下紫外線照射後粘着力の低減効果が再固着面積増大の影響により徐々に抑制され、ピックアップ性がやや劣っていた。また、実施例12、実施例19のダイシングダイボンドフィルム20は、ダイボンドフィルム3の割断性もやや劣っていた。
【0330】
実施例13のダイシングダイボンドフィルム20は、粘着剤組成物2(a)のアクリル系粘着性ポリマー(A)が有する水酸基価が本発明の範囲の下限値に近く、また、ポリイソシアネート系架橋剤の添加量も本発明の範囲の下限値であり、実施例2、実施例14~17のダイシングダイボンドフィルム20と比較して、クールエキスパンド時に粘着剤層2から剥離した小片のダイボンドフィルム3aのエッジ部分(斜線部)の面積S1の割合がやや小さく、すなわち有酸素下紫外線照射後粘着力の低減効果の寄与が小さく、ピックアップ性がやや劣っていた。
【0331】
実施例20、23のダイシングダイボンドフィルム20は、有酸素下紫外線照射後粘着力が本発明の範囲の上限値に近く、実施例2、実施例21、22のダイシングダイボンドフィルム20と比較して、ピックアップ性がやや劣っていた。
【0332】
これに対し、表17、18に示すように、基材フィルム1、粘着剤組成物の諸特性および粘着剤層2の有酸素下紫外線照射後粘着力Aおよび無酸素下紫外線照射後粘着力Bの要件の少なくともいずれかを満たさないダイシングテープ10を用いて作製した比較例1~7のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(aa)~DDF(gg))については、クールエキスパンド工程におけるダイボンドフィルム3の割断性およびピックアップ工程におけるピックアップ性の評価のいずれかの項目において実施例1~26のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(z))よりも劣る結果であることが確認された。
【0333】
具体的には、比較例1のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(aa))については、ダイシングテープ10の基材フィルム1(i)の0℃におけるMD方向とTD方向の5%伸長時弾性の平均値(YMD+YTD)/2、粘着剤組成物2(q)におけるポリイソシアネート系架橋剤の添加量およびポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(-NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(-OH)との当量比(-NCO/-OH)が本発明の範囲の下限値を下回るため、クールエキスパンド工程における接着剤組成物3(c)から成るダイボンドフィルム3の割断性は悪く、割断されたダイボンドフィルム3aにおいても、そのエッジ部分に粘着剤層2から剥離された状態は形成されず(剥離は認められず)、接着剤組成物3(c)から成るダイボンドフィルム3を用いた実施例25のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(y))と比較して、接着剤組成物3(c)から成るダイボンドフィルム3の割断性およびピックアップ性のいずれの評価においても劣る結果であることが確認された。
【0334】
また、同様に、比較例2、3のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(bb))、(DDF(cc))についても、ダイシングテープ10の基材フィルム1(j)、1(l)の0℃におけるMD方向とTD方向の5%伸長時弾性の平均値(YMD+YTD)/2、粘着剤組成物2(q)におけるポリイソシアネート系架橋剤の添加量およびポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(-NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(-OH)との当量比(-NCO/-OH)が本発明の範囲の下限値を下回るため、クールエキスパンド工程における接着剤組成物3(a)から成るダイボンドフィルム3の割断性は悪く、割断されたダイボンドフィルム3aにおいても、そのエッジ部分に粘着剤層2から剥離された状態は形成されず(剥離は認められず)、例えば、実施例1~17、20~23のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(q))、(DDF(t)~DDF(w))と比較して、接着剤組成物3(a)から成るダイボンドフィルム3の割断性およびピックアップ性のいずれの評価においても劣る結果であることが確認された。
【0335】
さらに、比較例4のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(dd))については、ダイシングテープ10の粘着剤組成物2(a)は本発明の要件を満たすが、基材フィルム1(i)のの0℃におけるMD方向とTD方向の5%伸長時弾性の平均値(YMD+YTD)/2が本発明の範囲の下限値を下回り、粘着剤層2の有酸素下紫外線照射後粘着力Aが本発明の範囲の上限値を超えるため、クールエキスパンド工程における接着剤組成物3(a)から成るダイボンドフィルム3の割断性は悪く、割断されたダイボンドフィルム3aにおいて、その四隅に粘着剤層2から剥離された状態がわずかに形成されたものの、有酸素下紫外線照射後粘着力Aが大きく、例えば、実施例7のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(g))と比較して、接着剤組成物3(a)から成るダイボンドフィルム3の割断性およびピックアップ性のいずれの評価においても劣る結果であることが確認された。
【0336】
またさらに、比較例5のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(ee))については、ダイシングテープ10の基材フィルム1(b)は本発明の要件を満たすが、粘着剤組成物2(s)におけるポリイソシアネート系架橋剤の添加量およびポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(-NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(-OH)との当量比(-NCO/-OH)が本発明の範囲の下限値を下回るため、クールエキスパンド工程における接着剤組成物3(a)から成るダイボンドフィルム3の割断性は良好であったものの、割断されたダイボンドフィルム3aにおいては、そのエッジ部分に粘着剤層2から剥離された状態は形成されず(剥離は認められず)、例えば、実施例9の
ダイシングダイボンドフィルム20(DDF(i))と比較して、ピックアップ性の評価において、やや劣る結果であることが確認された。
【0337】
またさらに、比較例6のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(ff))については、ダイシングテープ10の基材フィルム1(b)および粘着剤組成物2(t)の諸特性は本発明の要件を満たすが、
粘着剤層2の有酸素下紫外線照射後粘着力Aが本発明の範囲の上限値を超えるため、クールエキスパンド工程における接着剤組成物3(a)から成るダイボンドフィルム3の割断性は良好であり、割断されたダイボンドフィルム3aにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)がダイシングテープ10の粘着剤層2から適度に剥離された状態が形成されたものの、有酸素下紫外線照射後粘着力Aが大きく、例えば、実施例16のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(p))と比較して、ピックアップ性の評価において劣る結果であることが確認された。
【0338】
またさらに、比較例7のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(gg))については、ダイシングテープ10の基材フィルム1(b)および粘着剤層2の有酸素下紫外線照射後粘着力Aおよび無酸素下紫外線照射後粘着力Bの本発明の要件を満たすが、粘着剤組成物2(u)におけるポリイソシアネート系架橋剤の添加量およびポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(-NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(-OH)との当量比(-NCO/-OH)が本発明の範囲の上限値を超えるため、接着剤組成物3(a)から成るダイボンドフィルム3はクールエキスパンド工程において問題ないレベルで割断はできたものの、割断されたダイボンドフィルム3aにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)から中心部に向けてダイシングテープ10の粘着剤層2から過度に、かつ不規則に剥離されてしまい、ピックアップ時に、上記の粘着剤層から剥離された状態のダイボンドフィルム3aのダイシングテープ10の紫外線照射後の粘着剤層2への再固着面積が大きくなり過ぎて、例えば、実施例12のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(l))と比較して、ピックアップ性の評価において劣る結果であることが確認された。また、エキスパンド工程後に、一部、粘着剤層2の割れや基材フィルム1からのめくれが観察された。
【符号の説明】
【0339】
1…基材フィルム、
2…粘着剤層、
3、3a1、3a2…ダイボンドフィルム(接着剤層、接着フィルム)、
4…ステンレス鋼板(SUS304・BA板)、
5…平板クロスステージ、
6…アクチュエータ、
7…ロードセル、
8…回転ステージ、
9…ダイボンドフィルム付き半導体チップ、
10…ダイシングテープ、
11…OPPフィルム基材片面粘着テープ(裏打ちテープ)、
12…紙両面粘着テープ(固定テープ)、
13…平板クロスステージ、
14…PETフィルム基材片面粘着テープ(裏打ちテープ、固定テープ)、
15…SUS板、
20…ダイシングダイボンドフィルム、
W、30…半導体ウエハ、
30a、30a1、30a2…半導体チップ、
30b…改質領域(
図7(c)~(f)、
図8(a)、(b)では割断領域)、
30c…半導体ウエハの割断ライン
31…半導体ウエハ中心部
32…半導体ウエハ左部
33…半導体ウエハ右部
34…半導体ウエハ上部
35…半導体ウエハ下部
40…リングフレーム(ウエハリング)、
41…保持具、
50…吸着コレット、
60…突き上げピン(ニードル)
70、80…半導体装置
71、81…半導体チップ搭載用支持基板
72…外部接続端子、
73…端子、
74、84…ワイヤ
75、85…封止材
76…支持部材
【手続補正書】
【提出日】2023-02-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造工程で使用することのできるダイシングテープおよびダイシングテープを使用する、半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造においては、ダイシングテープや、該ダイシングテープとダイボンドフィルムとが一体化されたダイシングダイボンドフィルムが使用される。
【0003】
ダイシングテープは、基材フィルム上に粘着剤層が設けられた形態をしており、半導体ウエハのダイシング時にダイシングにより個片化された半導体チップが飛散しないよう固定保持する用途に用いられる。個片化された半導体チップは、その後、ダイシングテープの粘着剤層から剥離され、別途準備した接着剤や接着フィルムを介してリードフレームや配線基板、あるいは別の半導体チップ等の被着体に固着される。
【0004】
ダイシングダイボンドフィルムは、ダイシングテープの粘着剤層上にダイボンドフィルム(以下、「接着フィルム」あるいは「接着剤層」と称する場合がある)が剥離可能に設けられたものである。半導体装置の製造において、ダイシングダイボンドフィルムは、ダイボンドフィルム上に個片化された又はされていない半導体ウエハを配置・貼着して個々のダイシングダイボンドフィルム付き半導体チップを得るために用いられる。ダイボンドフィルム付き半導体チップは、その後、ダイシングテープの下面側から突き上げ治具(例えば突き上げピン)を用いて突き上げることにより、ダイボンドフィルムと共にダイシングテープの粘着剤層から剥離(ピックアップ)され、ダイボンドフィルムを介してリードフレームや配線基板、あるいは別の半導体チップ等の被着体に固着される。
【0005】
上記ダイシングダイボンドフィルムは、生産性向上の観点から好適に用いられるが、ダイシングダイボンドフィルムを使用してダイボンドフィルム付き半導体チップを得る方法として、近年では、従来の高速回転するダイシングブレードによるフルカット切断方法に取って代わり、薄膜化する半導体ウエハをチップに個片化する際のチッピングが抑制できるとして、SDBG(Stealth Dicing Before Griding)と呼ばれる方法が提案されている。
【0006】
この方法では、まず、バックグラインドテープに半導体ウエハを貼り付け、半導体ウエハのダイシング予定ラインに沿って、該半導体ウエハの内部にレーザー光を照射して、半導体ウエハを完全に切断せずに、半導体ウエハの表面から所定の深さ位置に、選択的に改質領域を形成し、その後、研削量を適宜調整しながら所定の厚さまで裏面研削を行い、研削ホイールの研削負荷により、バックグラインドテープ上で複数の半導体チップに個片化する。その後、バックグラインドテープ上の個片化された複数の半導体チップをダイシングダイボンドフィルムに貼り付け、バックグラインドテープからダイシングダイボンドフィルムへ転写し、低温下(例えば、-30℃~0℃)にてダイシングテープをエキスパンド(以下、「クールエキスパンド」と称する場合がある)することにより、低温で脆性化されたダイボンドフィルムを個々の半導体チップの形状に従い割断する。最後にダイシングテープの粘着剤層からピックアップにより剥離して、ダイボンドフィルム付き半導体チップを得ることができる。
【0007】
上記ピックアップの工程においては、ダイボンドフィルム付き半導体ウエハを割断した後、ダイシングテープを常温付近でエキスパンド(以下、「常温エキスパンド」と称する場合がある)して隣接する個々のダイボンドフィルム付き半導体チップ間の間隔(以下、「カーフ幅」と称する場合がある)を広げ、エキスパンド後にそのエキスパンド状態を解除した際に生じるダイシングテープの半導体チップ保持領域より外側の円周部分における弛みを、ヒートシュリンク(以下、「熱収縮」と称する場合がある)工程により除去し、ダイシングテープを緊張状態にすることにより、上記カーフ幅を維持させた後、割断された個々のダイボンドフィルム付き半導体チップをダイシングテープの粘着剤層から剥離してピックアップすることができる。
【0008】
特許文献1には、粘着剤層がアクリルポリマーを含み、アクリルポリマーは、C9~C11アルキル(メタ)アクリレートの構成単位と、水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位とを含み、C9~C11アルキル(メタ)アクリレートの構成単位を、40モル%~85モル%含む、ダイシングテープが開示されている。特許文献1のダイシングテープは、C9~C11アルキル(メタ)アクリレートを使用することでアクリルポリマーの極性を弱め、粘着剤層のダイボンドフィルムに対する親和性を抑え、ピックアップ工程において少ない突き上げ量でもダイシングテープからダイボンドフィルムを良好に剥離するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、近年では、半導体ウエハの薄型化に伴って、半導体チップの多段積層工程におけるワイヤボンド時にチップ割れが発生し易くなっており、その課題対策として、スペーサ機能を兼ね備えたワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムが提案されている。ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムは、ダイボンディング時にワイヤを隙間なく埋め込む必要があり、上述したリードフレームや配線基板に半導体チップを固着するための従来の汎用ダイボンドフィルムと比較して、厚さが厚く、流動性が高い(高温下での溶融粘度が低い)傾向があるため、このようなワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムを従来のダイシングテープに積層して半導体チップの製造に供した際に、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムが、個片化された半導体チップの大きさに沿って綺麗に割断されない場合がある。この対策の一つとして、従来のダイシングテープよりも低温下における引張応力が大きい基材を用いたダイシングテープを適用して、ダイシングテープに密着しているダイボンドフィルムに対し、クールエキスパンドされるダイシングテープから十分な割断力(外部応力)を作用させる方法が考えられる。しかしながら、この方法においては、以下の新たな問題がある。
【0011】
すなわち、上述したクールエキスパンド工程において、ダイシングテープに密着しているダイボンドフィルムに対し、クールエキスパンドされるダイシングテープから割断力(外部応力)を作用させるところ、ダイシングテープの低温下における引張応力が十分であると、ダイボンドフィルムは、例え上記の割断しにくいワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムであっても、個片化された半導体チップの大きさに沿って綺麗に割断される。しかしながらその一方で、ダイボンドフィルムの割断時の衝撃に加え、割断直後のエキスパンドにより該ダイボンドフィルムから離れる方向の応力も半導体チップ間のダイシングテープ部分に集中的に生じるため、半導体チップ間の距離が広げられるとともに、個片化された半導体チップの大きさに対応したそのダイボンドフィルムにおいて、ダイボンドフィルムのエッジ部分(四方周囲部分)がダイシングテープの粘着剤層から部分的に剥離する場合がある。半導体チップ表面に予め形成される配線回路が多層化するほど、当該配線回路と半導体チップの材料との熱膨張率差も一因となって半導体チップが反りやすくなるため、上記のダイボンドフィルムのエッジ部分のダイシングテープの粘着剤層からの部分的な剥離が助長されやすい傾向がある。
【0012】
ダイシングテープの粘着剤層が活性エネルギー線(例えば紫外線)硬化性の粘着剤組成物から構成される場合、ダイシングテープからダイボンドフィルム付き半導体チップをピックアップする前に、粘着剤層の粘着力を低下させるために、紫外線を照射して粘着剤層を硬化させる。しかしながら、上記したように、ダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムのエッジ部分がダイシングテープの粘着剤層から剥離していると、剥離している部分において粘着剤層が空気中の酸素に触れることにより、紫外線を照射しても、成長ポリマーラジカルと酸素との反応が起こり重合連鎖の成長が停止し、活性エネルギー線硬化性の粘着剤組成物の重合が阻害されるため、粘着剤層が十分に硬化しない場合がある。このような場合、粘着剤層の粘着力が十分に低下しないため、ピックアップ工程において、突き上げ治具上に位置する、ダイシングテープ上のダイボンドフィルム付き半導体チップに対して、その上部からピックアップ用の吸着コレットを該半導体チップ表面に接触・着地させた時に、ダイシングテープの粘着剤層から剥離していたダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムのエッジ部分が、紫外線照射による硬化が不十分な粘着剤層に、ダイシングテープの下面側からの治具突き上げおよび吸着コレットによる吸引・持ち上げによっても、ダイボンドフィルム付き半導体チップを粘着剤層2から容易に剥離できない程度にまで強く再固着してしまい、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップが阻害される。
【0013】
反面、ダイボンドフィルムに対する粘着剤層の粘着力を強化することで、上記部分的な剥離をなくすることも考えられるが、この場合、ピックアップ時に紫外線照射後の粘着剤層からダイボンドフィルムを剥離するのに要する力もより大きくなり、ピックアップ性は低下する傾向となるため、良策とは言えない。
【0014】
上記ピックアップ工程において、ダイシングテープの下面側からの治具突き上げによりダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムを、ダイシングテープの紫外線照射後の粘着剤層から剥離する際に、治具の突き上げ量の増大とともにダイボンドフィルムのエッジ部分から剥離が開始し、その後、エッジ部分から中心部に向かって剥離が進行するが、通常は最初のエッジ部分の剥離に要する力、言い換えれば剥離のきっかけを作るのに要する力が最も大きい。
【0015】
このような観点からすれば、ピックアップ工程前の上記エキスパンド工程で既に形成されたダイボンドフィルムのエッジ部分の剥離は、一見、ピックアップ工程における剥離の進行にとって有利に働くとも考えられる。しかしながら、上述したように従来の活性エネルギー線硬化性の粘着剤組成物から構成される粘着剤層に特有の酸素障害による硬化不良という影響により、ピックアップ工程において、突き上げ治具上に位置する、ダイシングテープ上のダイボンドフィルム付き半導体チップに対して、その上部からピックアップ用の吸着コレットを該半導体チップ表面に接触・着地させた時に、ダイシングテープの粘着剤層から剥離していたダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムのエッジ部分が、紫外線照射による硬化が不十分な粘着剤層に、ダイシングテープの下面側からの治具突き上げおよび吸着コレットによる吸引・持ち上げによっても、ダイボンドフィルム付き半導体チップを粘着剤層2から容易に剥離できない程度にまで強く再固着してしまうため、逆に不利に働く。
【0016】
ここで、もし仮に、従来の活性エネルギー線硬化性の粘着剤組成物から構成される粘着剤層と比べて、酸素障害の影響を遥かに受けにくい活性エネルギー線硬化性の粘着剤組成物から構成される粘着剤層を見出すことできれば、ピックアップ工程前のエキスパンド工程において、ダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムのエッジ部分の粘着剤層からの剥離を意図的に形成した場合に、上記再固着による影響を大幅に抑制、すなわち、ダイシングテープの下面側からの治具突き上げおよび吸着コレットによる吸引・持ち上げによって、ダイボンドフィルム付き半導体チップを紫外線照射後の粘着剤層2から容易に剥離できるレベルにまで再固着の力を弱めることができ、従来よりもむしろ割断されたダイボンドフィルムのエッジ部分の剥離に要する力が小さくて済み、良好なピックアップ性が得られる可能性がある。しかしながら、現状においては、そのような酸素による重合阻害を受けにくい活性エネルギー線硬化性の粘着剤組成物から構成される粘着剤層を適用したダイシングテープは見当たらず、このようなエキスパンド工程で形成されたダイボンドフィルムのエッジ部分の剥離を優位に利用することを可能にするダイシングテープの開発に対しては検討の余地があった。
【0017】
本発明は、上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、(1)クールエキスパンドによりダイボンドフィルムが良好に割断されると共に、割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)がダイシングテープの粘着剤層から剥離された状態が形成され、(2)ピックアップ時には、上記の粘着剤層から剥離された状態のダイボンドフィルムのエッジ部分がダイシングテープの紫外線照射後の粘着剤層に、ダイシングテープの下面側からの治具突き上げおよび吸着コレットによる吸引・持ち上げによっても容易に剥離できない程度にまで強く再固着する現象が大幅に抑制され、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ性に優れたダイシングテープおよびダイシングダイボンドフィルム、を提供することにある。また、別の目的とするところは、該ダイシングテープを使用する、半導体装置の製造方法、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、
基材フィルムと、該基材フィルム上に活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層と、を備えたダイシングテープであって、
前記基材フィルムは、0℃におけるMD方向(基材フィルムの製膜時における流れ方向)の5%伸長時弾性率をYMD、0℃におけるTD方向(MD方向に対して垂直な方向)の5%伸長時弾性率をYTDとした時に、それぞれの5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2が165MPa以上260MPa以下の範囲の値を有し、
前記活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマー、光重合開始剤、ならびに、前記水酸基と架橋反応するポリイソシアネート系架橋剤を含み、
前記アクリル系粘着性ポリマーは、12.0mgKOH/g以上40.5mgKOH/gの範囲にある水酸基価を有し、前記ポリイソシアネート系架橋剤は、前記アクリル系粘着性ポリマー100質量部に対し、2.4質量部以上7.0質量部の範囲で含み、前記ポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(-NCO)と前記アクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(-OH)との当量比(-NCO/-OH)は、0.14以上1.32以下の範囲内で調整され、
前記ダイシングテープの前記粘着剤層は、23℃におけるステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対する有酸素下紫外線照射後粘着力A(紫外線積算光量:150mJ/m2、剥離角度:90°、剥離速度:300mm/分)が3.50N/25mm以下の範囲であり、23℃におけるステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対する無酸素下紫外線照射後粘着力B(紫外線積算光量:150mJ/m2、剥離角度:90°、剥離速度:300mm/分)が0.25N/25mm以上0.70N/25mm以下の範囲である、ダイシングテープを提供する。
【0019】
ある一形態においては、前記基材フィルムは、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)およびポリアミド樹脂(PA)とを含有した樹脂組成物から構成される樹脂フィルムである。
【0020】
ある一形態においては、前記活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、前記光重合開始剤として、少なくとも、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)の3種類の系の光重合開始剤を含む。
【0021】
ある一形態においては、前記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)の各々の含有量は、前記アクリル系粘着性ポリマー100質量部に対して、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)が0.8質量部以上5.0質量部以下の範囲、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)が0.2質量部以上5.0質量部以下の範囲、およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)が0.2質量部以上2.0質量部以下の範囲である。
【0022】
ある一形態においては、前記無酸素下紫外線照射後粘着力Bに対する有酸素下紫外線照射後粘着力Aの比A/Bが3.00以上5.00以下の範囲である。
【0023】
ある一形態においては、前記ダイシングテープは、前記粘着剤層上にダイボンドフィルムと、複数の個片化された半導体チップと、が順次積層されたシート状積層体を、-30℃~0℃の温度でエキスパンド(延伸)し、個片化された半導体チップの形状に合わせて前記ダイボンドフィルムを割断するために使用されるものである。
【0024】
ある一形態においては、前記ダイシングテープは、前記シート状積層体が貼着されたダイシングテープを、-30℃以上0℃以下の範囲にある温度でエキスパンド(拡張)し、個片化された半導体チップの形状に合わせてダイボンドフィルムを割断した際に、前記ダイボンドフィルムのエッジ部分(四方周囲部分)が粘着剤層から剥離するものである。
【0025】
ある一形態においては、前記個片化された半導体チップの形状に合わせて割断されたダイボンドフィルムは、前記粘着剤層から剥離した前記ダイボンドフィルムのエッジ部分(四方周囲部分)の面積の割合が、割断されたダイボンドフィルム全体の面積に対して、10%以上45%以下の範囲である。
【0026】
また、本発明は、前記ダイシングテープを使用する、半導体装置の製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、(1)クールエキスパンドによりダイボンドフィルムが良好に割断されると共に、割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)がダイシングテープの粘着剤層から剥離された状態が形成され、(2)ピックアップ時には、上記の粘着剤層から剥離された状態のダイボンドフィルムのエッジ部分が、ダイシングテープの紫外線照射後の粘着剤層に、ダイシングテープの下面側からの治具突き上げおよび吸着コレットによる吸引・持ち上げよっても容易に剥離できない程度にまで強く再固着する現象が大幅に抑制され、ピックアップ性に優れたダイシングテープ、が提供される。また、該ダイシングテープを使用する、半導体装置の製造方法、が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本実施の形態が適用されるダイシングテープの基材フィルムの構成の一例を示した断面図である。
【
図2】本実施の形態が適用されるダイシングテープの構成の一例を示した断面図である。
【
図3】本実施の形態が適用されるダイシングテープをダイボンドフィルムと貼り合わせた構成のダイシングダイボンドフィルムの一例を示した断面図である。
【
図4】ダイシングテープの粘着力を測定するための剥離角度自在タイプの粘着・皮膜剥離解析装置を真上から見た概略図である。
【
図5】ダイシングテープの製造方法について説明したフローチャートである。
【
図6】半導体チップの製造方法について説明したフローチャートである。
【
図7】ダイシングダイボンドフィルムの外縁部にリングフレーム(ウエハリング)、ダイボンドフィルム中心部に個片化された半導体ウエハが貼り付けられた状態を示した斜視図である。
【
図8】(a)~(f)は、レーザー光照射により複数の改質領域が形成された半導体ウエハの研削工程および複数の割断された半導体ウエハのダイシングダイボンドフィルムへの貼合工程の一例を示した断面図である。
【
図9】(a)~(f)は、ダイシングダイボンドフィルムが貼合された複数の割断された薄膜半導体ウエハを用いた半導体チップの製造例を示した断面図である。
【
図10】割断されたダイボンドフィルムのエッジ部分(四方周囲部分)がダイシングテープの粘着剤層から部分的に剥離された状態の一例を示した拡大断面図である。
【
図11】割断されたダイボンドフィルムのエッジ部分(四方周囲部分)がダイシングテープの粘着剤層から部分的に剥離された状態を半導体チップの裏面側(基材フィルム側)から観察した拡大平面図である。
【
図12】本実施の形態が適用される
ダイシングテープを、ダイボンドフィルムと貼り合わせた構成のダイシングダイボンドフィルムを用いて製造された半導体チップを用いた積層構成の半導体装置の一態様の模式断面図である。
【
図13】本実施の形態が適用される
ダイシングテープを、ダイボンドフィルムと貼り合わせた構成のダイシングダイボンドフィルムを用いて製造された半導体チップを用いた他の半導体装置の一態様の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、必要に応じて図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0030】
<ダイシングテープおよびダイシングダイボンドフィルムの構成>
図1の(a)~(d)は、本実施の形態が適用されるダイシングテープの基材フィルム1の構成の一例を示した断面図である。本実施の形態のダイシングテープの基材フィルム1は単一の樹脂組成物の単層(
図1の(a)1-A参照)であってもよいし、同一樹脂組成物の複数層から成る積層体(
図1の(b)1-B参照)であってもよいし、異なる樹脂組成物の複数層から成る積層体(
図1の(c)1-C、(d)1-D参照)であってもよい。複数層から成る積層体とする場合、層数は、特に限定されないが、2層~5層の範囲であることが好ましい。
【0031】
図2は、本実施の形態が適用されるダイシングテープの構成の一例を示した断面図である。
図2に示すように、ダイシングテープ10は、基材フィルム1の第1面の上に粘着剤層2を備えた構成を有している。なお、図示はしないが、ダイシングテープ10の粘着剤層2の表面(基材フィルム1に対向する面とは反対側の面)には、離型性を有する基材シート(剥離ライナー)を備えていても良い。基材フィルム1は、0℃におけるMD方向(基材フィルムの製膜時における流れ方向)の5%伸長時弾性率をY
MD、0℃におけるTD方向(MD方向に対して垂直な方向)の5%伸長時弾性率をY
TDとした時に、それぞれの5%伸長時弾性率の平均値(Y
MD+Y
TD)/2が165MPa以上260MPa以下の範囲の値を有する樹脂フィルムから構成される。粘着剤層2を形成する粘着剤としては、例えば、紫外線(UV)等の活性エネルギー線を照射することにより硬化・収縮して被着体に対する粘着力が低下する活性エネルギー線硬化性のアクリル系粘着剤等が使用される。
【0032】
かかる構成のダイシングテープ10は、半導体製造工程においては、例えば、以下のように使用される。ダイシングテープ10の粘着剤層2上に、ブレードにより表面に分割溝が形成された半導体ウエハ又はレーザーにより内部に改質層が形成された半導体ウエハに対して裏面研削して得られる、複数の個片化された半導体チップを、ダイボンドフィルム(接着剤層)を介して貼り付けて保持(仮固定)し、クールエキスパンドにより、ダイボンドフィルムを個片化された個々の半導体チップの形状に従って割断した後、常温エキスパンドおよびヒートシュリンク工程により半導体チップ間のカーフ幅を十分に拡張し、ピックアップ工程により、個々のダイボンドフィルム付き半導体チップをダイシングテープ10の粘着剤層2から剥離する。得られたダイボンドフィルム付き半導体チップは、リードフレームや配線基板、あるいは別の半導体チップ等の被着体に固着させる。
【0033】
図3は、本実施の形態が適用されるダイシングテープ10をダイボンドフィルム(接着フィルム)3と貼り合わせて一体化した構成、いわゆるダイシングダイボンドフィルムの一例を示した断面図である。
図3に示すように、ダイシングダイボンドフィルム20は、ダイシングテープ10の粘着剤層2の上にダイボンドフィルム(接着フィルム)3が剥離可能に密着、積層された構成を有している。
【0034】
かかる構成のダイシングダイボンドフィルム20は、半導体製造工程においては、例えば、以下のように使用される。ダイシングダイボンドフィルム20の、ダイボンドフィルム3上に、ブレードにより表面に分割溝が形成された半導体ウエハ又はレーザーにより内部に改質層が形成された半導体ウエハに対して裏面研削して得られる、複数の個片化された半導体チップを貼り付けて保持(接着)し、クールエキスパンドにより、低温で脆性化されたダイボンドフィルム3を個片化された個々の半導体チップの形状に従って割断し、個々のダイボンドフィルム付き半導体チップを得る。次いで、常温エキスパンドおよびヒートシュリンク工程によりダイボンドフィルム付き半導体チップ間のカーフ幅を十分に拡張した後、ピックアップ工程により、個々のダイボンドフィルム付き半導体チップをダイシングテープ10の粘着剤層2から剥離する。得られたダイボンドフィルム(接着フィルム)3付き半導体チップを、ダイボンドフィルム(接着フィルム)3を介してリードフレームや配線基板、あるいは別の半導体チップ等の被着体に固着させる。なお、図示はしないが、ダイシングテープ10の粘着剤層2の表面(基材フィルム1に対向する面とは反対側の面)およびダイボンドフィルム3の表面(粘着剤層2に対向する面とは反対側の面)には、それぞれ離型性を有する基材シート(剥離ライナー)を備えて使用の際に適宜剥離しても良い。
【0035】
<ダイシングテープ>
(基材フィルム)
本発明のダイシングテープ10における第一の構成要件である基材フィルム1について、以下説明する。
【0036】
[基材フィルムの0℃における5%伸長時弾性率]
上記基材フィルム1は、0℃におけるMD方向(基材フィルムの製膜時における流れ方向)の5%伸長時弾性率をYMD、0℃におけるTD方向(MD方向に対して垂直な方向)の5%伸長時弾性率をYTDとした時に、それぞれの5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2が165MPa以上260MPa以下の範囲の値を有する樹脂フィルムである。上記基材フィルム1の0℃における5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2は、190MPa以上240MPa以下の範囲であることが好ましい。
【0037】
上記基材フィルム1の0℃における5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2が165MPa未満である場合、ダイシングテープ10をエキスパンドしても割断されたダイボンドフィルムから離れる方向の応力が作用しにくくなるため、割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態が形成されないおそれがある。また、低温において、ダイシングテープ10にエキスパンドにより外部応力を加えてもダイボンドフィルム3に十分に伝わらないため、特にワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムを用いる場合、クールエキスパンド工程においてダイボンドフィルム3が良好に割断されないおそれがある。さらに、上記(YMD+YTD)/2の値が過剰に小さい場合、ダイシングテープ10が軟質となり、取扱が困難となるおそれや、カーフ幅を十分に確保できないおそれがある。その結果、従来に比してピックアップ性向上の効果が見られない、あるいはピックアップ性が低下する。
【0038】
一方、上記基材フィルム1の0℃における5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2が260MPaを超える場合、ダイシングテープ10のエキスパンドが困難となるおそれがある。仮にエキスパンドすることができたとしても、エキスパンド中にダイボンドフィム3が粘着剤層2から過度に剥離してしまい、ダイボンドフィルム3に粘着剤層2を介して十分な外部応力を全体にわたって略均一に与えることができずに、ダイボンドフィルム3を綺麗に割断できないおそれや、カーフ幅を十分に確保できない、あるいはカーフ幅がばらつくおそれがある。また、ピックアップ工程において、過度に剥離したダイボンドフィルムが粘着剤層2に再固着した際にはその再固着面積が過度に大きくなるため、粘着剤層2が本発明の要件を満たす活性エネルギー線硬化性の粘着剤組成物から構成されていたとしても、ダイシングテープ10の下面側からの治具突き上げによって剥離するためには、その大きな再固着面積に応じた大きなエネルギーを要するおそれがある。その結果、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ性が低下する。
【0039】
上記基材フィルム1の0℃における5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2が165MPa以上260MPa以下の範囲にあることで、ダイシングテープ10は、クールエキスパンド工程において、後述する特定の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層2上に密着しているダイボンドフィルム3を割断するのに十分な外部応力をダイボンドフィルム3に与えることができるとともに、ダイシングテープ10の粘着剤層2に対して、割断されたダイボンドフィムにおけるエッジ部分と粘着剤層2との間に適度な剥離状態を意図的に形成するのに必要なダイボンドフィルム3から離れる方向の応力を与えることができる。また、この場合、上記ダイボンドフィルム3および粘着剤層2に与えられる応力は適度に抑制されているので、割断されたダイボンドフィムは粘着剤層2から過度に剥離することはなく、カーフ幅を十分に確保でき、半導体チップ同士の衝突による損傷及び粘着剤層2上の固定位置からのずれ等を回避することもできる。この場合、粘着剤層2が本発明の要件を満たす活性エネルギー線硬化性の粘着剤組成物から構成されていると、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ性を従来よりも優れたものとすることができる。
【0040】
本発明における上記基材フィルム1の0℃におけるMD方向の5%伸長時弾性率YMDおよびTD方向の5%伸長時弾性率YTDは、以下の方法で測定される。具体的には、まず、MD方向測定用の試料(試料数N=5)として長さ100mm(MD方向)、幅10mm(TD方向)の形状の試験片、TD方向測定用の試料(試料数N=5)として長さ100mm(TD方向)、幅10mm(MD方向)の形状の試験片をそれぞれ用意した。続いて、ミネベアミツミ株式会社製の引張圧縮試験機(型式:MinebeaTechnoGraph TG-5kN)を用いて、試験片の長手方向の両端をチャック間初期距離20mmとなるようにチャックで固定し、試験片をミネベアミツミ株式会社製の恒温槽(型式:THB-A13-038)内で0℃にて1分間置いた後に、100mm/分の速度で引張試験を行い、引張荷重-伸長曲線を求める。そして、得られた引張荷重-伸長曲線から、原点(伸張開始点)と、原点から1.0mm伸長(チャック間初期距離20mmに対して5%伸長)した時に対応する曲線上の引張荷重値(単位:N)の点とを結んだ直線の傾きを算出して、下記式
【0041】
5%伸長時弾性率Y(単位:MPa)=(傾き)×[(チャック間初期距離)/(試験片の断面積)]
【0042】
より基材フィルム1の5%伸長時弾性率Yを求める。
それぞれの方向について試料数N=5にて測定を行い、その平均値をそれぞれMD方向の5%伸張時弾性率YMDおよびTD方向の5%伸長時弾性率YTDとする。本発明における上記基材フィルム1の0℃における5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2は、上記のそれぞれの値を用いて算出される値である。
【0043】
[基材フィルムを構成する樹脂組成物]
上記基材フィルム1を構成する樹脂組成物としては、上記基材フィルム1の0℃における5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2が、上記の範囲内である限り、特に限定されないが、エキスパンド性および熱収縮性の両立の観点から、熱可塑性架橋樹脂を含む樹脂組成物であることが好ましい。該樹脂組成物としては、具体的には、例えば、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(以下、単に「アイオノマー」と称する場合がある)から成る熱可塑性架橋樹脂(IO)を含有した樹脂組成物やエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)およびポリアミド樹脂(PA)とを含有した樹脂組成物等が挙げられる。これらの樹脂組成物を用いて製膜された樹脂フィルムを基材フィルム1として好適に供することができる。これら樹脂組成物の中でも、上記基材フィルムを用いたダイシングテープ10として特にワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムの適用にも対応する必要があるところ、低温エキスパンド性と熱収縮性の両物性のバランスにより優れたダイシングテープ10の提供を可能とする、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(以下、単に「アイオノマー」と称する場合がある)から成る熱可塑性架橋樹脂(IO)およびポリアミド樹脂(PA)とを含有した樹脂組成物が好適である。
【0044】
上記基材フィルム1全体におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)との合計量は、上記の基材フィルム1の0℃における5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2が、上記の範囲内である限り、特に限定されないが、基材フィルム1全体を構成する樹脂組成物全量に対して、65質量%以上100質量%以下の割合で占めることが好ましい。より好ましくは75質量%以上100質量%以下、特に好ましくは85質量%以上100質量%以下である。
【0045】
このような構成の基材フィルム1を用いたダイシングテープ10は、その粘着剤層2上にダイボンドフィルム3が密着された形態において、低温下で延伸することによりダイボンドフィルム3に適切な割断力(外部応力)を作用させることができるので、半導体装置の製造工程のクールエキスパンド工程さらには常温エキスパンド工程で使用するのに好適である。すなわち、クールエキスパンド工程により、すでに個片化された半導体チップ個々の形状に従い、ダイボンドフィルム3を良好に割断させて、所定のサイズの個々のダイボンドフィルム付き半導体チップを歩留まり良く得るのに好適である。そして、ダイボンドフィルム3の割断直後に連続するダイシングテープ10のクールエキスパンドにより、ダイシングテープ10の粘着剤層2に対して、個々の割断されたダイボンドフィルムから離れる方向の適度な応力も作用させることができるので、個々の割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態を適度に、且つ意図的に形成するのに好適である。さらに、常温エキスパンド工程においても、半導体チップ間のカーフ幅を十分に確保する上で必要な拡張性を維持する。
【0046】
[エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)とを含有した樹脂組成物]
本発明における上記基材フィルム1としては、上述したように、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)およびポリアミド樹脂(PA)とを含有した樹脂組成物から構成される樹脂フィルムが好ましい態様として挙げられる。これらのエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)およびポリアミド樹脂(PA)について、以下説明する。
【0047】
〔エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)〕
本実施の形態の基材フィルム1において、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のカルボキシル基の一部、または全てが金属(イオン)で中和(架橋)された樹脂である。なお、以下の説明において、「エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂」を、「アイオノマーから成る樹脂」、または、単に「アイオノマー」と表記する場合がある。
【0048】
上記アイオノマーを構成するエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸とが共重合した少なくとも二元の共重合体であり、さらに第3の共重合成分が共重合した三元以上の多元共重合体であってもよい。なお、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、一種単独で用いてもよく、2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体を併用してもよい。
【0049】
上記エチレン・不飽和カルボン酸二元共重合体を構成する不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等の炭素数4~8の不飽和カルボン酸などが挙げられる。特に、アクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。
【0050】
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体が三元以上の多元共重合体である場合、上記二元共重合体を構成するエチレンと不飽和カルボン酸以外に、多元共重合体を形成する第3の共重合成分を含んでもよい。第3の共重合成分としては、不飽和カルボン酸エステル(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等のアルキル部位の炭素数が1~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル)、不飽和炭化水素(例えば、プロピレン、ブテン、1,3-ブタジエン、ペンテン、1,3-ペンタジエン、1-ヘキセン等)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等)、ビニル硫酸やビニル硝酸等の酸化物、ハロゲン化合物(例えば、塩化ビニル、フッ化ビニル等)、ビニル基含有1,2級アミン化合物、一酸化炭素、二酸化硫黄等が挙げられ、これら共重合成分としては、不飽和カルボン酸エステルが好ましい。
【0051】
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の形態は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよく、二元共重合体、三元共重合体のいずれでもよい。中でも、工業的に入手可能な点で、二元ランダム共重合体、三元ランダム共重合体、二元ランダム共重合体のグラフト共重合体あるいは三元ランダム共重合体のグラフト共重合体が好ましく、二元ランダム共重合体または三元ランダム共重合体がより好ましく、エキスパンド性の観点から、拡張時にネッキングしにくい三元ランダム共重合体が特に好ましい。
【0052】
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の具体例としては、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体等の二元共重合体、エチレン・メタクリル酸・アクリル酸2-メチル-プロピル共重合体等の三元共重合体が挙げられる。また、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体として上市されている市販品を用いてもよく、例えば、三井・デュポンポリケミカル社製のニュクレルシリーズ(登録商標)等を使用することができる。
【0053】
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体中における、不飽和カルボン酸エステルの共重合比(質量比)は、1質量%以上20質量%以下の範囲であることが好ましく、エキスパンド工程における拡張性、および耐熱性(ブロッキング、融着)の観点から、5質量%以上15質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0054】
本実施の形態の基材フィルム1において、樹脂(IO)として用いるアイオノマーは、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体に含まれるカルボキシル基が金属イオンによって任意の割合で架橋(中和)されたものが好ましい。酸基の中和に用いられる金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、マンガンイオン等の金属イオンが挙げられる。これら金属イオンの中でも、工業化製品の入手容易性からマグネシウムイオン、ナトリウムイオンおよび亜鉛イオンが好ましく、ナトリウムイオンおよび亜鉛イオンがより好ましい。
【0055】
上記アイオノマーにおけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の中和度は、20モル%以上85モル%以下の範囲であることが好ましく、50モル%以上82モル%以下の範囲であることがより好ましく、65モル%以上80モル%以下の範囲であることが特に好ましい。上記中和度を20モル%以上とすることで、ダイボンドフィルム3の割断性をより向上することができるとともに、後述するヒートシュリンク工程のおけるダイシングテープ10の熱収縮性も向上することができ、85モル%以下とすることで、フィルムの製膜性をより良好とすることができる。なお、中和度とは、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の有する酸基、特にカルボキシル基のモル数に対する、金属イオンの配合比率(モル%)である。
【0056】
上記アイオノマーから成る樹脂(IO)は、約85~100℃程度の融点を有するが、該アイオノマーから成る樹脂(IO)のメルトフローレート(MFR)は、0.2g/10分以上20.0g/10分以下の範囲であることが好ましく、0.5g/10分以上20.0g/10分以下の範囲であることがより好ましく、0.5g/10分以上18.0g/10分以下の範囲であることが更に好ましい。メルトフローレートが上記範囲内であると、基材フィルム1としての製膜性が良好となる。なお、MFRは、JIS K7210-1999に準拠した方法により190℃、荷重2160gにて測定される値である。
【0057】
本実施の形態の基材フィルム1を構成する樹脂組成物は、上述したエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO)の他に、ポリアミド樹脂(PA)を含むことが好ましい。上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)との質量比率(IO):(PA)は、72:28~95:5の範囲であることが好ましい。上記質量比率となるように混合した樹脂組成物により基材フィルム1を構成することで、該基材フィルム1の0℃における5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2を上述した範囲に調整することが容易となる。上記質量比率(IO):(PA)は、より好ましくは74:26~92:8の範囲、さらに好ましくは80:20~90:10の範囲である。本明細書の数値範囲の上限、および下限は当該数値を任意に選択して、組み合わせることが可能である。
【0058】
〔ポリアミド樹脂(PA)〕
上記ポリアミド樹脂(PA)としては、例えば、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等のカルボン酸と、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、1,4-シクロヘキシルジアミン、m-キシリレンジアミン等のジアミンとの重縮合体、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタム等の環状ラクタム開環重合体、6-アミノカプロン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸の重縮合体、あるいは上記環状ラクタムとジカルボン酸とジアミンとの共重合体等が挙げられる。
【0059】
上記ポリアミド樹脂(PA)は、市販品を使用することもできる。具体的には、ナイロン4(融点268℃)、ナイロン6(融点225℃)、ナイロン46(融点240℃)、ナイロン66(融点265℃)、ナイロン610(融点222℃)、ナイロン612(融点215℃)、ナイロン6T(融点260℃)、ナイロン11(融点185℃)、ナイロン12(融点175℃)、共重合体ナイロン(例えば、ナイロン6/66、ナイロン6/12、ナイロン6/610、ナイロン66/12、ナイロン6/66/610など)、ナイロンMXD6(融点237℃)、ナイロン46等が挙げられる。これらポリアミドの中でも、基材フィルム1としての製膜性および機械的特性の観点から、ナイロン6やナイロン6/12が好ましい。
【0060】
上記ポリアミド樹脂(PA)の含有量は、上述したように基材フィルム1全体における上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO)と上記ポリアミド樹脂(PA)との質量比率(IO):(PA)が72:28~95:5の範囲となる量が好ましい。上記ポリアミド樹脂(PA)の質量比率が上記範囲未満の場合、特に上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーの金属イオンによる中和度が低いと、基材フィルム1(ダイシングテープ10)の低温下におけるヤング率の増大の効果が不十分となり、低温下で延伸してもダイボンドフィルム3に適切な割断力(外部応力)を作用させることができないため、ダイボンドフィルム3を綺麗に割断できないおそれがある。また、基材フィルム1(ダイシングテープ10)をエキスパンドしても割断されたダイボンドフィルムから離れる方向の応力が作用しにくくなるため、割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態が形成されないおそれがある。
【0061】
一方、上記ポリアミド樹脂(PA)の質量比率が上記範囲を超える場合、基材フィルム1の樹脂組成物によっては安定な製膜が困難となるおそれがある。また、基材フィルム1の低温下における5%伸長時弾性率の増大が過度となり、ダイシングテープ10のエキスパンドが困難となるおそれがある。また、仮にエキスパンドすることができたとしても、エキスパンド中にダイボンドフィム3が粘着剤層2から過度に剥離してしまい、ダイボンドフィルム3に粘着剤層2を介して十分な外部応力が与えることができずに、ダイボンドフィルム3を綺麗に割断できないおそれや、カーフ幅を十分に確保できない、あるいはカーフ幅がばらつくおそれがある。またさらに、基材フィルム1の柔軟性が損なわれ、ダイシングテープ10の常温エキスパンド工程における拡張性が維持できないおそれや、ダイボンドフィルム付き半導体チップをピックアップする際に、半導体チップの割れ等によるピックアップ不良が発生するおそれがある。上記ポリアミド樹脂(PA)の含有量は、基材フィルム1全体における上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO)と上記ポリアミド樹脂(PA)との質量比率(IO):(PA)が74:26~92:8の範囲となる量であることがより好ましく、80:20~90:10の範囲となる量であることがさらに好ましい。
【0062】
なお、基材フィルム1が複数層から成る積層体である場合、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO)と上記ポリアミド樹脂(PA)との質量比率とは、各層におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)との質量比率と、基材フィルム1(積層体)全体における各層の質量比率とから計算される基材フィルム1(積層体)全体における値を意味する。
【0063】
基材フィルム1全体におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)との質量比率が上記範囲内であると、該基材フィルム1の0℃における5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2を165MPa以上260MPa以下の範囲に調整することが容易となる。その結果、ダイシングテープ10は、クールエキスパンド工程において、後述する特定の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層2上に密着しているダイボンドフィルム3を割断するのに十分な外部応力をダイボンドフィルム3に与えることができるとともに、ダイシングテープ10の粘着剤層2に対して、割断されたダイボンドフィムにおけるエッジ部分と粘着剤層2との間に適度な剥離状態を形成するのに必要なダイボンドフィルム3から離れる方向の応力を与えることができる。また、この場合、上記ダイボンドフィルム3および粘着剤層2に与えられる応力は適度に抑制されているので、割断されたダイボンドフィムは粘着剤層2から過度に剥離することはなく、カーフ幅を十分に確保でき、半導体チップ同士の衝突による損傷及び粘着剤層2上の固定位置からのずれ等を回避することもできる。この場合、粘着剤層2が本発明の要件を満たす活性エネルギー線硬化性の粘着剤組成物から構成されていると、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ性を、従来に比して、より優れたものとすることができる。
【0064】
〔その他〕
上記基材フィルム1を構成する樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の樹脂や各種添加剤が添加されてもよい。上記その他の樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体やポリエーテルエステルアミドを挙げることができる。このようなその他の樹脂は、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO)と上記ポリアミド樹脂(PA)の合計100質量部に対して、例えば20質量部の割合で配合することができる。また、上記添加剤としては、例えば、帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、滑剤、ブロッキング防止剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、発泡剤、発泡助剤、無機充填剤、繊維強化材等を挙げることができる。このような各種添加剤は、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO)と上記ポリアミド樹脂(PA)の合計100質量部に対して、例えば5質量部の割合で配合することができる。
【0065】
[基材フィルムの厚さ]
上記基材フィルム1の厚さは、特に限定されないが、ダイシングテープ10として用いることを考慮すると、例えば、70μm以上120μm以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは70μm以上110μm以下の範囲である。基材フィルム1の厚さが70μm未満であると、ダイシングテープ10をダイシング工程に供する際に、リングフレーム(ウエハリング)の保持が不十分となるおそれがある。また基材フィルム1の厚さが120μmより大きいと、基材フィルム1の製膜時の残留応力の開放による反りが大きくなるおそれがある。
【0066】
[基材フィルムの層構成]
上記基材フィルム1の層構成は、特に限定されず、単一の樹脂組成物の単層であってもよいし、同一樹脂組成物の複数層から成る積層体であってもよいし、異なる樹脂組成物の複数層から成る積層体であってもよい。複数層から成る積層体とする場合、層数は、特に限定されないが、2層以上5層以下の範囲であることが好ましい。
【0067】
上記基材フィルム1を複数層から成る積層体とする場合、例えば、本実施の形態の樹脂組成物を用いて製膜される層が複数積層された構成であってもよいし、本実施の形態の樹脂組成物を用いて製膜される層に、本実施の形態の樹脂組成物以外の他の樹脂組成物を用いて製膜される層が積層された構成であってもよい。
【0068】
上記他の樹脂組成物を用いて製膜される層は、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、エチレン-αオレフィン共重合体、ポリプロピレン、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル三元共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体、エチレン・ビニルエステル共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・一酸化炭素共重合体、あるいはこれらの不飽和カルボン酸グラフト物から選ばれる、単体もしくは任意の複数からなるブレンド物、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(IO)等の樹脂組成物を用いて製膜される層が挙げられる。これらの中でも、本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る樹脂層との密着性および汎用性の観点からは、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル三元共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体およびこれら共重合体のアイオノマー、エチレン-αオレフィン共重合体等が好ましい。
【0069】
本実施の形態の基材フィルム1が積層構成から成る場合の例として、具体的には、以下の2層構成や3層構成等の基材フィルムが挙げられる。
【0070】
2層構成としては、例えば、
(1)[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第1樹脂層]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第2樹脂層)]、
(2)[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第1樹脂層]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO2)とポリアミド樹脂(PA2)の混合物から成る第2樹脂層]、
(3)[エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)から成る第1樹脂層]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第2樹脂層]、
(4)[エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体から成る第1樹脂層]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第2樹脂層]、
等の同一樹脂層または異種樹脂層から成る2層構成([第1樹脂層]/[第2樹脂層])が挙げられる。
【0071】
3層構成としては、例えば、
(5)[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第1樹脂層]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第2樹脂層]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第3樹脂層]、
(6)[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第1樹脂層]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO2)とポリアミド樹脂(PA2)の混合物から成る第2樹脂層]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第3樹脂層]、
(7)[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第1樹脂層]/[エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)から成る第2樹脂層]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第3樹脂層]、
(8)[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第1樹脂層]/[エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体から成る第2樹脂層]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第3樹脂層]、
(9)[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第1樹脂層]/[エチレン-αオレフィン共重合体から成る第2樹脂層]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO1)とポリアミド樹脂(PA1)の混合物から成る第3樹脂層]、
等の同一樹脂層または異種樹脂層から成る3層構成([第1樹脂層]/[第2樹脂層]/[第3樹脂層])が挙げられる。
【0072】
[基材フィルムの製膜方法]
本実施の形態の基材フィルム1の製膜方法としては、従来から慣用の方法を採用することができる。アイオノマー樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)、必要に応じて他の成分を加えて溶融混錬した樹脂組成物を、例えば、Tダイキャスト成形法、Tダイニップ成形法、インフレーション成形法、押出ラミネート法、カレンダー成形法等の各種成形方法により、フィルム状に加工すればよい。また、基材フィルム1が複数層から成る積層体の場合は、各層をカレンダー成型法、押出法、インフレーション成型法等の手段によって別々に製膜し、それらを熱ラミネートもしくは適宜接着剤による接着等の手段で積層することにより積層体を製造することができる。上記接着剤としては、例えば、前述の各種エチレン共重合体、あるいはこれらの不飽和カルボン酸グラフト物から選ばれる、単体もしくは任意の複数からなるブレンド物等が挙げられる。また、各層の樹脂組成物を共押出ラミネート法により同時に押出して積層体を製造することもできる。なお、基材フィルム1の粘着剤層2と接する側の面は、後述する粘着剤層2との密着性向上を目的として、コロナ処理またはプラズマ処理等が施されてもよい。また、基材フィルム1の粘着剤層2と接する側の面と反対側の面は、基材フィルム1の製膜時の巻き取りの安定化や製膜後のブロッキングの防止を目的として、シボロールによるエンボス処理等が施されてもよい。
【0073】
(粘着剤層)
本発明のダイシングテープ10における第二の構成要件である活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層2について、以下説明する。
【0074】
上記粘着剤層2は、上述したように活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマー、光重合開始剤、ならびに、前記水酸基と架橋反応するポリイソシアネート系架橋剤を含む活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有して成る。上記活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物においては、12.0mgKOH/g以上40.5mgKOH/gの範囲にある水酸基価を有するアクリル系粘着性ポリマー100質量部に対し、ポリイソシアネート系架橋剤を、2.4質量部以上7.0質量部の範囲で含み、上記ポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(-NCO)と上記アクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(-OH)との当量比(-NCO/-OH)が0.14以上1.32以下の範囲内で調整されている。そして、ダイシングテープ10の上記粘着剤層2は、23℃において、3.50N/25mm以下の範囲のステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対する有酸素下紫外線照射後粘着力Aおよび0.25N/25mm以上0.70N/25mm以下の範囲のステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対する無酸素下紫外線照射後粘着力Bを有する。
【0075】
[アクリル系粘着性ポリマー]
活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物に主成分として含まれるアクリル系粘着性ポリマーは、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーであり、12.0mgKOH/g以上40.5mgKOH/gの範囲にある水酸基価を有する。該アクリル系粘着性ポリマーは、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物の全質量において、90質量%以上100質量%以下の割合で占めることが好ましく、95質量%以上100質量%以下の割合で占めることがより好ましい。
【0076】
上記活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、詳細は後述するが、通常、ベースポリマーとして(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と水酸基含有単量体とを共重合して共重合体(水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマー)を得、その共重合体が有する水酸基に対して付加反応することが可能なイソシアネート基および炭素-炭素二重結合を有する化合物(活性エネルギー線反応性化合物)を付加反応させる方法により得られる。
【0077】
上記水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーの主鎖(主骨格)は、上述のように、共重合体成分として、少なくとも(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と水酸基含有単量体とを含む共重合体から構成される。上記水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーの主鎖のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、-65℃以上-45℃以下の範囲であることが好ましい。ここで、ガラス転移温度(Tg)は、アクリル系粘着性ポリマーを構成するモノマー(単量体)成分の組成に基づいて、下記一般式(1)に示すFoxの式より算出される理論値である。
【0078】
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wn/Tgn 一般式(1)
【0079】
[上記一般式(1)中、Tgはアクリル系粘着性ポリマーのガラス転移温度(単位:K)であり、Tgi(i=1、2、・・・n)は、モノマーiがホモポリマーを形成した際のガラス転移温度(単位:K)であり、Wi(i=1、2、・・・n)は、モノマーiの全モノマー成分中の質量分率を表す。]
【0080】
ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)は、例えば「Polymer Handbook」(J.BrandrupおよびE.H.Immergut編、Interscience Publishers)等で見つけることができる。
【0081】
上記水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマー(共重合体)の主鎖のガラス転移温度(Tg)が、-65℃未満の場合は、特に後述する架橋剤の添加量が少ないと、該共重合体らを含む粘着剤層2が過度に柔らくなり、クールエキスパンドした際に、割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態が形成されないおそれがある。また、紫外線照射後のピックアップ工程において、ダイボンドフィルム付き半導体チップが粘着剤層2から剥離しにくくなるおそれや、ダイボンドフィルム3表面に粘着剤残り(汚染)が生じるおそれがある。その結果、ダイボンドフィルム付き半導体チップの良品歩留まりが低下する。
【0082】
一方、上記ガラス転移温度(Tg)が-45℃を超える場合は、特に後述する架橋剤の添加量が多いと、これらを含む粘着剤層2が過度に硬くなるので、ダイボンドフィルム3に対する濡れ性・追従性が悪くなり、ダイボンドフィルム3に対する初期密着性が悪くなるので、クールエキスパンド工程において、ダイボンドフィム3が粘着剤層2から過度に剥離してしまい、ダイボンドフィルム3に粘着剤層2を介して十分な外部応力が与えることができずに、ダイボンドフィルム3を綺麗に割断できないおそれや、カーフ幅を十分に確保できない、あるいはカーフ幅がばらつくおそれがある。その結果、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ歩留まりが低下する。上記ガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-63℃以上-51℃以下の範囲、より好ましくは-61℃以上-54℃以下の範囲である。
【0083】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、例えば、炭素数6~18のヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、または炭素数5以下の単量体である、ペンチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、2-エチルヘキシルアクリレートを用いることが好ましく、上記水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマー(共重合体)の主鎖を構成する単量体成分全量に対して、40質量%以上85質量%以下の範囲で含むことが好ましい。
【0084】
また、水酸基含有単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12-ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。上記水酸基単量体を共重合する目的は、第一に、上記アクリル系粘着性ポリマーに対して、後述する活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合を付加反応により導入するための付加反応点(-OH)とするため、第二に、上記水酸基と後述するポリイソシアネート系架橋剤のイソシアネート基(-NCO)と反応させて上記アクリル系粘着性ポリマーを高分子量化して、活性エネルギー線照射前の粘着剤層2に凝集力と適度な硬さを付与するための架橋反応点とするため、であるところ、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合をアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基を利用して付加反応により導入する場合は、一つの目安として、上記水酸基単量体の含有量は、共重合体単量体成分全量に対して、例えば16.4質量%以上34.4質量%以下の範囲で調整しておくことが好ましい。すなわち、上記共重合体における水酸基単量体の含有量を上記範囲内で調整しておくことは、本発明の粘着剤組成物に係る構成要件である、アクリル系粘着性ポリマーの水酸基価および後述するポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(-NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(-OH)との当量比(-NCO/-OH)を上述した所定の範囲に制御することが容易になるので、好適である。
【0085】
上記活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、上記水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーを共重合した後に、該共重合体が側鎖に有する水酸基に対して付加反応することが可能なイソシアネート基および炭素-炭素二重結合を有する化合物(活性エネルギー線反応性化合物)を付加反応させる方法により得ることが、その反応追跡の容易さ(制御の安定性)や技術的難易度の観点から、最も好適である。このようなイソシアネート基および炭素-炭素二重結合を有する化合物(活性エネルギー線反応性化合物)としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物が挙げられる。具体的には、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、4-メタクリロイルオキシ-n-ブチルイソシアネート、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、m-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート等が挙げられる。
【0086】
上記付加反応においては、反応が促進されるよう、有機金属触媒の存在下で行われることが好ましい。このような有機金属触媒としては、ジルコニウムを含有する有機化合物、チタンを含有する有機化合物およびスズを含有する有機化合物から選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。有機金属触媒の量は、特に限定されないが、アクリル系粘着性ポリマー100質量部に対して、通常、0.01質量部以上5質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0087】
また、上記付加反応においては、炭素-炭素二重結合の活性エネルギー線反応性が維持されるよう、重合禁止剤を使用することが好ましい。このような重合禁止剤としては、ヒドロキノン・モノメチルエーテルなどのキノン系の重合禁止剤が好ましい。重合禁止剤の量は、特に制限されないが、アクリル系粘着性ポリマー100質量部に対して、通常、0.01質量部以上0.1質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0088】
上記付加反応を行う際には、後に添加するポリイソシアネート系架橋剤により上記アクリル系粘着性ポリマーを架橋させて、さらに高分子量化して、活性エネルギー線照射前の粘着剤層2に凝集力と適度な硬さを付与するために、粘着剤組成物中に所望量のヒドロキシル基が残存するようにしておく必要がある一方で、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度を所望の範囲に制御する必要もある。これら両観点を勘案する必要があるところ、例えば、ヒドロキシル基を側鎖に有する共重合体に対して、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物を反応させる場合、一つの目安として、該(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物は、上記アクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基含有単量体に対して、37モル%~84モル%の範囲の割合となる量を用いて付加反応させることが好ましい。
【0089】
上記アクリル系粘着性ポリマーは、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体および水酸基含有単量体以外に、粘着力、ガラス転移温度(Tg)の調整等を目的として、必要に応じて他の共重合単量体成分が共重合されていてもよい。このような他の共重合単量体成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等のカルボキシル基含有単量体、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物基含有単量体、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のアミド系単量体、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t-ブチルアミノエチル等のアミノ基含有単量体、(メタ)アクリル酸グリシジル等のグリシジル基含有単量体等の官能基を有する単量体が挙げられる。このような官能基を有する単量体の含有量は、特に限定はされないが、共重合単量体成分全量に対して0.5質量%以上30質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0090】
このような水酸基以外の官能基を有する単量体が共重合される場合は、該官能基を利用して上記アクリル系粘着性ポリマーに活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合を導入することもできる。例えば、アクリル系粘着性ポリマーが側鎖にカルボキシル基を有する場合、(メタ)アクリル酸グリシジルや2-(1-アジリジニル)エチル(メタ)アクリレート等の活性エネルギー線反応性化合物と反応させる方法、アクリル系粘着性ポリマーが側鎖にグリシジル基を有する場合は、(メタ)アクリル酸等の活性エネルギー線反応性化合物と反応させる方法等により、上記アクリル系粘着性ポリマーに活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合を導入することもできる。但し、水酸基以外の官能基を有する単量体を共重合し、該官能基を利用してアクリル系粘着性ポリマーに活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合を導入する場合は、一つの目安として、同時に共重合される水酸基単量体の含有量は、共重合体単量体成分全量に対して、例えば2.5質量%以上8.4量%以下の範囲で調整しておくことが好ましい。そうすることで、アクリル系粘着性ポリマーの水酸基価、後述するポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(-NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(-OH)との当量比(-NCO/-OH)を上述した所定の範囲に制御することが容易になるので、好適である。
【0091】
さらに、上記官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、凝集力、および耐熱性等を目的として、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、他の共重合単量体成分を含有してもよい。このような他の共重合単量体成分としては、具体的には、例えば、(メタ)アクリロニトリル等のシアノ基含有単量体、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、イソブチレン等のオレフィン系単量体、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系単量体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等のアルコキシ基含有単量体、N-ビニル-2-ピロリドン、N-メチルビニルピロリドン、N-ビニルピリジン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルピリミジン、N-ビニルピペラジン、N-ビニルピラジン、N-ビニルピロール、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルオキサゾール、N-ビニルモルホリン、N-ビニルカプロラクタム、N-(メタ)アクリロイルモルホリン等の窒素原子含有環を有する単量体が挙げられる。これらの他の共重合単量体成分は、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0092】
本実施の形態において、上述した単量体を共重合した水酸基を有する好適な共重合体としては、具体的には、アクリル酸2-エチルヘキシルとアクリル酸2-ヒドロキシエチルとの二元共重合体、アクリル酸2-エチルヘキシルとアクリル酸2-ヒドロキシエチルとメタクリル酸との三元共重合体、アクリル酸2-エチルヘキシルとアクリル酸n-ブチルとアクリル酸2-ヒドロキシエチルとの三元共重合体、アクリル酸2-エチルヘキシルとメタクリル酸メチルとアクリル酸2-ヒドロキシエチルとの三元共重合体、アクリル酸2-エチルヘキシルとアクリル酸n-ブチルとアクリル酸2-ヒドロキシエチルとメタクリル酸との四元共重合体、アクリル酸2-エチルヘキシルとメタクリル酸メチルとアクリル酸2-ヒドロキシエチルとメタクリル酸との四元共重合体等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。そして、これら好適な共重合体に対して、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物として、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを付加反応させて活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーとするのが好適である。
【0093】
このようにして得られた活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、水酸基価が12.0mgKOH/g以上40.5mgKOH/gの範囲である。上記水酸基価が12.0mgKOH/g未満の場合、水酸基価の値が過剰に小さいと、ポリイソシアネート系架橋剤添加後の架橋が不十分となり、活性エネルギー線照射前の粘着剤層2の凝集力が不足するため、ピックアップ時にダイボンドフィルム3に糊残が発生するおそれや、一連の工程終了後にダイシングテープ10をSUS製のリングフレームから剥離した際にリングフレームに糊残が発生するおそれがある。また、活性エネルギー線照射前の粘着剤層2に適度な硬さも付与することができないため、クールエキスパンドした際に、割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態が形成されないおそれがある。その結果、従来に比してピックアップ性向上の効果が見られない、あるいはピックアップ性が低下する。
【0094】
一方、上記水酸基価が40.5mgKOH/gを超える場合、特にポリイソシアネート系架橋剤の添加量が少ないと、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物における架橋反応後の残存水酸基濃度が過度に大きくなり、粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する初期密着性が必要以上に大きくなるおそれがある。この場合、クールエキスパンドした際に、割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態が形成されないおそれがあるとともに、活性エネルギー線照射後のピックアップ工程において、前工程のエキスパンドにより粘着剤層2とダイボンドフィルム3の剥離が生じなかった密着部分において、ダイボンドフィルム付き半導体チップが粘着剤層2から剥離しにくくなるおそれがある。その結果、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ歩留まりが低下する。上記水酸基価は、好ましくは12.5mgKOH/g以上40.1mgKOH/g以下の範囲、より好ましくは12.7mgKOH/g以上30.1mgKOH/g以下の範囲である。
【0095】
上記水酸基価が12.0mgKOH/g以上40.5mgKOH/gの範囲である場合、後述する特定量のポリイソシアネート系架橋剤の添加との組み合わせにより、粘着剤層2に凝集力とともに、適度な硬さおよび極性を付与することができるので、粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する初期密着性を適切に維持する一方で、粘着剤層に活性エネルギー線照射による粘着剤層2の粘着力の低減効果を妨げることなく、クールエキスパンド工程において、割断されたダイボンドフィルム3のエッジ部分に対して、粘着剤層2からの適度な剥離状態を形成することができる。
【0096】
また、上記活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、特に限定されないが、酸価が0mgKOH/g以上9.0mgKOH/g以下の範囲であることが好ましい。酸価が上記範囲内であると、粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する初期密着性を適切に維持する一方で、活性エネルギー線照射による粘着剤層2の粘着力の低減効果を妨げることなく、クールエキスパンド工程において、割断されたダイボンドフィルム3のエッジ部分に対して、粘着剤層2からの適度な剥離状態を形成することが容易となる。上記酸価は、より好ましくは2.0mgKOH/g以上8.2mgKOH/g以下の範囲、さらに好ましくは2.5mgKOH/g以上5.6mgKOH/g以下の範囲である。
【0097】
さらに、上記活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、好ましくは20万以上200万以下の範囲の重量平均分子量Mwを有する。ここで、重量平均分子量Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される標準ポリスチレン換算値を意味する。アクリル系粘着性ポリマーの重量平均分子量Mwが20万未満である場合には、塗工性等を考慮して、数千cP~数万cPの高粘度の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物の溶液を得ることが難しく好ましくない。また、活性エネルギー線照射前の粘着剤層2の凝集力が小さくなって、活性エネルギー線照射後に粘着剤層2からダイボンドフィルム3付半導体チップを脱離する際、ダイボンドフィルム付き半導体ウエハのダイボンドフィルム表面を汚染するおそれがある。また、一連の工程終了後にダイシングテープ10をSUS製のリングフレームから剥離した際にリングフレームに糊残が発生するおそれがある。
【0098】
一方、重量平均分子量Mwが200万を超える場合には、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーを量産的に製造することが難しく、例えば、合成時に活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーがゲル化する場合があり、好ましくない。また、ポリイソシアネート系架橋剤の添加量が多いと、活性エネルギー線照射前の粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する濡れ性・追従性が低下し、初期密着力が低下するため、クールエキスパンド工程において、ダイボンドフィム3が粘着剤層2から過度に剥離してしまい、ダイボンドフィルム3に粘着剤層2を介して十分な外部応力が与えることができずに、ダイボンドフィルム3を綺麗に割断できないおそれや、カーフ幅を十分に確保できない、あるいはカーフ幅がばらつくおそれがある。その結果、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ歩留まりが低下する。上記重量平均分子量Mwは、好ましくは30万以上100万以下の範囲である
【0099】
[架橋剤]
本実施の形態の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、上述した活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーを架橋により高分子量化して、活性エネルギー線照射前の粘着剤層2に凝集力と適度な硬さを付与するためにさらにポリイソシアネート系架橋剤を含有する。上記ポリイソシアネート系架橋剤としては、例えば、イソシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物、トリメチロールプロパンとキシリレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物、トリメチロールプロパンとイソホロンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物等が挙げられる。これらは1種または2種以上組み合わせて使用することができる。これらの中でも、汎用性の観点から、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物およびまたはトリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物が好適に用いられる。
【0100】
トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物としては、東ソー株式会社製のコロネートL-45E、コロネートL-55E、コロネートL(いずれも商品名)や三井化学株式会社製のタケネートD101E(商品名)等の市販品を用いることもできる。また、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物としては、東ソー株式会社製のコロネートHL(商品名)や三井化学株式会社製のタケネートD160N(商品名)等の市販品を用いることもできる。
【0101】
上記ポリイソシアネート系架橋剤は、上述した水酸基価が12.0mgKOH/g以上40.5mgKOH/g以下の範囲である、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマー100質量部に対し、2.4質量部以上7.0質量部の範囲で含み、上記ポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(-NCO)と上記アクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(-OH)との当量比(-NCO/-OH)が、0.14以上1.32以下の範囲となるように調整される。
【0102】
上記当量比(-NCO/-OH)が0.14未満である場合、特にアクリル系粘着性ポリマーの水酸基価が小さいと、活性エネルギー線照射前の粘着剤層2に適度な硬さを付与することができないため、クールエキスパンドした際に、割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態が形成されないおそれがある。その結果、従来に比してピックアップ性向上の効果が見られない、あるいはピックアップ性が低下する。
また、特にアクリル系粘着性ポリマーの水酸基価が大きいと、クールエキスパンドした際に、割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態が形成されないおそれがあるとともに、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物における架橋反応後の残存水酸基濃度が過度に大きくなり、粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する初期密着性が必要以上に大きくなるおそれがある。その結果、活性エネルギー線照射後のピックアップ工程において、前工程のエキスパンドにより粘着剤層2とダイボンドフィルム3の剥離が生じなかった密着部分において、ダイボンドフィルム付き半導体チップが粘着剤層2から剥離しにくくなり、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ歩留まりが低下する。
【0103】
一方、上記当量比(-NCO/-OH)が1.32を超える場合、活性エネルギー線照射前の粘着剤層2が過度に硬くなることにより、活性エネルギー線照射前の粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する濡れ性・追従性が低下し、初期密着力が低下するため、クールエキスパンド工程において、ダイボンドフィム3が粘着剤層2から過度に剥離してしまい、ダイボンドフィルム3に粘着剤層2を介して十分な外部応力が与えることができずに、ダイボンドフィルム3を綺麗に割断できないおそれや、カーフ幅を十分に確保できない、あるいはカーフ幅がばらつくおそれがある。また、粘着剤層2の剛性が大きくなることによりダイシンングテープ10の曲げ弾性率が大きくなり、ピックアップ工程において、ダイシングテープ10を突き上げ治具により突き上げてもダイシングテープ10の湾曲が小さく、ダイボンドフィルム付き半導体チップの四方端部の粘着剤層2からの剥離が助長されにくくなるおそれがある。その結果、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ歩留まりが低下する。また、粘着剤層2のSUS製のリングフレームに対する粘着力が不足し、ダイシングテープ10のエキスパンド中に、ダイシングテープ10がSUS製のリングフレームから剥離してしまい、エキスパンド工程を正常に行えないおそれがある。
【0104】
このように、上記ポリイソシアネート系架橋剤の添加量および上記当量比(-NCO/-OH)が調整された活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層2は、クールエキスパンド時の低温環境において、ダイボンドフィルム3が割断された瞬間にダイボンドフィルムのエッジ部とその直下の粘着剤層2との界面に適度な衝撃を伝えることができる硬さ、およびダイボンドフィルム3から離れる方向の応力を伝えることができる凝集力とを有するとともに、ダイボンドフィルム3に対する適度な初期密着力を有することができる。したがって、上述した基材フィルム1に上記粘着剤層2が積層されたダイシングテープ10を、クールエキスパンド工程に供することにより、ダイボンドフィルム3を綺麗に割断することができるとともに、割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態を適度に、且つ意図的に形成することができる。上記当量比(-NCO/-OH)は、好ましくは0.30以上0.90以下の範囲である。
【0105】
ここで、上記ポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(NCO)と上記アクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)は、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物中におけるポリイソシアネート系架橋剤の含有量と該ポリイソシアネート系架橋剤の1分子あたりのイソシアネート基の平均個数とから計算により求められるイソシアネート基の全モル数を、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合が導入された後のアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基の全モル数で除した理論計算値である。該水酸基の全モル数は、例えば、ベースポリマーである水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーに対して、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合を導入するために(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物を用いて付加反応させた場合、ベースポリマーであるアクリル系粘着性ポリマーにおける水酸基の全モル数から、添加された(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物のイソシアネート基との架橋反応により理論的に消費される水酸基のモル数(=(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物のイソシアネート基のモル数)を差し引いた値である。
【0106】
また、上記ポリイソシアネート系架橋剤の添加量および上記当量比(-NCO/-OH)が上述した範囲に調整された活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物において、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たりにおける架橋反応後の残存水酸基濃度は、0mmol以上0.60mmol以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは、0.02mmol以上0.40mmol以下の範囲である。ここで、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たりにおける架橋反応後の残存水酸基濃度とは、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基の全モル数から、添加されたポリイソシアネート系架橋剤のイソシアネート基との架橋反応により理論的に消費される水酸基のモル数(=架橋剤のイソシアネート基のモル数)を差し引いた値を活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たりに換算したものである。
【0107】
上記活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たりにおける架橋反応後の残存水酸基濃度が、上記範囲内であると、粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する初期密着力およびSUS製のリングフレームに対する粘着力を適度なものとすることができる。したがって、上述した基材フィルム1に上記粘着剤層2が積層されたダイシングテープ10を、クールエキスパンド工程に供することにより、割断されたダイボンドフィルムにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態を適度に、且つ意図的に形成することが容易となる。
【0108】
上記活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物により粘着剤層2を形成した後に、上記ポリイソシアネート系架橋剤と上記水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーとを反応させるためのエージングの条件としては、特に限定はされないが、例えば、温度は23℃以上80℃以下の範囲、時間は24時間以上168時間以下の範囲で適宜設定すれば良い。
【0109】
[光重合開始剤]
本実施の形態の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、活性エネルギー線の照射によりラジカルを発生する光重合開始剤を含む。光重合開始剤は、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物に対する活性エネルギー線の照射を感受して、ラジカルを発生させ、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーが有する炭素-炭素二重結合の架橋反応を開始させる。
【0110】
上記光重合開始剤としては、特に限定されず、従来公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、アルキルフェノン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、オキシムエステル系光重合開始剤等を使用することができる。アルキルフェノン系光重合開始剤としては、α-ヒドロキシアルキルフェノン系ラジカル重合開始剤、α-ヒドロキシアセトフェノン系ラジカル重合開始剤、α-アミノアルキルフェノン系ラジカル重合開始剤、ベンジルメチルケタール系ラジカル重合開始剤等が挙げられる。
【0111】
上記光重合開始剤は、本発明の効果を奏する限りにおいては、単独あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよいが、本実施の形態の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物においては、これら光重合開始剤の中でも、有酸素下紫外線照射後粘着力Aおよび無酸素下紫外線照射後粘着力Bの両方を効果的に低減する観点から、光重合開始剤として、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)の少なくとも3種類の系の光重合開始剤を含むことが好ましい。
【0112】
なお、本発明において「有酸素下紫外線照射後粘着力A」とは、ダイシングテープ10の剥離ライナーを剥離し、粘着剤層2面が空気中に暴露された状態(有酸素下)で、活性エネルギー線としての紫外線を粘着剤層2面に直接照射した後に被着体(SUS304・BA板)に貼り付けた場合に測定される粘着力を意味する。これは、ダイボンドフィルム付き半導体チップをピックアップする際に、粘着剤層2における「エキスパンド時に割断されたダイボンドフィルム3が剥離した部分」に対しては、空気中に暴露された状態で紫外線が照射されることになるため、そのように空気中に暴露された状態で紫外線が照射された後の粘着剤層2にダイボンドフィルム3が再固着された場合のダイボンドフィルム3に対するダイシングテープ10の粘着力をモデル的に想定したものであり、ピックアップ工程における再固着部分の剥離のし易さを表す。該粘着力の値が小さければ小さい程、再固着の力は弱く、ダイシングテープ10の粘着剤層2からからダイボンドフィルム付き半導体チップを剥離し易くなる。
【0113】
また、「無酸素下紫外線照射後粘着力B」とは、ダイシングテープ10の剥離ライナーを剥離し、被着体(SUS304・BA板)に粘着剤層2面を貼り付け、粘着剤層2が空気中に暴露されない状態(無酸素下)で、性エネルギー線としての紫外線をダイシングテープ10の基材フィルム1越しに粘着剤層2に対して照射した後に測定される粘着力を意味する。これは、ダイボンドフィルム付き半導体チップをピックアップする際に、粘着剤層2における「エキスパンド時に割断されたダイボンドフィルム3が剥離せずに密着していた部分」に対しては、空気中に暴露されない状態で紫外線が照射されることになるため、そのように空気中に暴露されない状態で粘着剤層2に紫外線が照射された場合のダイボンドフィルム3に対するダイシングテープ10の粘着力をモデル的に想定したものであり、ピックアップ工程における上記再固着部分以外の密着していた部分の剥離のし易さを表す。該粘着力の値が小さければ小さい程、ダイシングテープ10の粘着剤層2からダイボンドフィルム付き半導体チップを剥離し易くなる。これら粘着力の測定方法の詳細については後述する。
【0114】
上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)としては、具体的には、例えば、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン(商品名:Omnirad907、IGM Resins B.V.社製)あるいは2-ベンジルメチル2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン(商品名:Omnirad369、IGM Resins B.V.社製)、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン(商品名:Omnirad379EG、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。これらは、単独あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0115】
これらの中でも、上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)としては、2-ベンジルメチル2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノンあるいは2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オンが好ましく用いられる。
【0116】
上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)は、特に粘着剤層2の有酸素下紫外線照射後粘着力Aを低減させるのに有効である。しかしながら、その一方で、粘着剤層2の無酸素下紫外線照射後粘着力Bについては、上記光重合開始剤(a)の含有量の増加とともに逆に増大する傾向となるので、後述する無酸素下紫外線照射後粘着力Bの低減に有効な、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)と併用することが好ましく、上記光重合開始剤(a)の含有量も後述する範囲に留めることが好ましい。
【0117】
上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)としては、上述したように、α-ヒドロキシアルキルフェノン系ラジカル重合開始剤、α-ヒドロキシアセトフェノン系ラジカル重合開始剤、ベンジルメチルケタール系ラジカル重合開始剤等が挙げられる。これらは、単独あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0118】
α-ヒドロキシアルキルフェノン系光重合開始剤としては、具体的には、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名:Omnirad184、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。
【0119】
α-ヒドロキシアセトフェノン系光重合開始剤としては、具体的には、例えば、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(商品名:Omnirad1173、IGM Resins B.V.社製)、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(商品名:Omnirad2959、IGM Resins B.V.社製)、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン(商品名:Omnirad127、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。
【0120】
ベンジルメチルケタール系光重合開始剤としては、具体的には、例えば、2,2’-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(例えば、商品名Omnirad651、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。
【0121】
これらの中でも、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)としては、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オンあるいは2,2’-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オンが好ましく用いられる。
【0122】
上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)は、特に粘着剤層2の無酸素下紫外線照射後粘着力Bを低減させるのに有効である。また、有酸素下紫外線照射後粘着力Aについても、その低減効果は、上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)と比較して劣るものの、含有量に応じて、ある一定の低減効果を得ることはできる。したがって、上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)と併用することで、有酸素下紫外線照射後粘着力を低減させる効果をさらに補助的に向上させつつ、無酸素下紫外線照射後粘着力Bを低減させることが容易となる。
【0123】
上記アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)としては、具体的には、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド(商品名OmniradTPO、IGM Resins B.V.社製)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(商品名Omnirad819、IGM Resins B.V.社製)、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド(商品名:OmniradTPO、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。これらは、単独あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0124】
これらの中でも、上記アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)としては、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイドが好ましく用いられる。
【0125】
上記アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)は、光重合開始剤の吸収端が400nm以上の波長まで伸びているため、硬化速度が速く、特に粘着剤層2の無酸素下紫外線照射後粘着力Bをより低減させるのに有効である。また、有酸素下紫外線照射後粘着力Aについても、その低減効果は、上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)と比較して劣るものの、含有量に応じて、ある一定の低減効果を得ることはできる。したがって、上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)および上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)と併用することで、有酸素下紫外線照射後粘着力Aを低減させる効果をさらに補助的に向上させつつ、無酸素下紫外線照射後粘着力Bを低減させる効果をより一層向上させることが容易となる。
【0126】
上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)の少なくとも3種類の系の光重合開始剤を含む、好適な光重合開始剤の組み合わせの具体的な例としては、
(1)光重合開始剤(a):2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン/光重合開始剤(b):1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン/光重合開始剤(c):ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、の3種類の組み合わせ、
(2)光重合開始剤(a):2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン/光重合開始剤(b):2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン/光重合開始剤(c):ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、の3種類の組み合わせ、
(3)光重合開始剤(a):2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン/光重合開始剤(b):1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンおよび2,2’-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン/光重合開始剤(c):ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、の4種類の組み合わせ、
(4)光重合開始剤(a):2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン/光重合開始剤(b):1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンおよび2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン/光重合開始剤(c):ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、の4種類の組み合わせ、
(5)光重合開始剤(a):2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン/光重合開始剤(b):2-ヒドロキシ-1-{4-[4-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オンおよび2,2’-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン/光重合開始剤(c):ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、の4種類の組み合わせ、
等が挙げられる。
【0127】
上述したように、本実施の形態の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)の少なくとも3種類の系の光重合開始剤を含むことが好適であるが、この場合、それぞれの光重合開始剤が有する機能の相乗効果により、(1)無酸素下の状態で粘着剤層2に紫外線が照射された際に、粘着剤組成物に含まれる活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合を有するアクリル系粘着性ポリマーの硬化が、所定の時間内に十分に進行するのはもちろんのこと、(2)有酸素下の状態で粘着剤層2に紫外線が照射された際にも、酸素阻害の影響による硬化速度の低下を大幅に抑制し、粘着剤組成物に含まれる活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合を有するアクリル系粘着性ポリマーの硬化を所定の時間内に所望のレベルまで進行させることが容易となる。その結果、まず、(1)粘着剤層2におけるダイボンドフィルム(接着剤層)3の貼合面(エキスパンド工程後も剥離が無く密着している面)については、紫外線が照射された際に、粘着剤層2に対して、後述する所望の範囲の無酸素下紫外線照射後粘着力Bを与えることが容易となる。そして、さらに、(2)エキスパンド工程により形成された、粘着剤層2における割断されたダイボンドフィルム3の剥離した部分については、紫外線が照射された際に、従来ダイシングテープ10で見られたように、周囲の空気中に含まれる酸素による活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合を有するアクリル系粘着性ポリマーの重合阻害のために粘着力が十分に低下せずに粘着力が高い値に保持されるのを回避しながら、粘着剤層2に対して、後述する所望の範囲の有酸素下紫外線照射後粘着力Aを与えることが容易となる。
【0128】
これにより、ピックアップ工程において、ダイボンドフィルム付き半導体チップをピックアップするために、粘着剤層2への紫外線照射後に、半導体チップ上部から吸着コレットを接触させた時に、前工程のエキスパンドにより粘着剤層2から部分的に剥離されたダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムのエッジ部分が、酸素阻害のために硬化が不十分な粘着剤層2に強固に再固着することによる影響を大幅に抑制することができ、すなわち、ダイシングテープ10の下面側からの治具突き上げによって容易に剥離できるレベルまで再固着の力を弱めることができ、また、粘着剤層2とダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムとの剥離がなく密着している面についても好適な無酸素下紫外線照射後粘着力Bを付与することができるので、以降、良好に粘着剤層2からダイボンドフィルム付き半導体チップをピックアップすることが可能となる。
【0129】
上記光重合開始剤の添加量(2種以上を組み合わせて用いる場合は、その合計量)としては、上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーの固形分100質量部に対して、1.2質量部以上12.0質量部以下の範囲であることが好ましい。光重合開始剤の添加量が1.2質量部未満の場合には、活性エネルギー線に対する光反応性が十分ではないために活性エネルギー線を照射してもアクリル系粘着性ポリマーの光ラジカル架橋反応が十分に起こらず、その結果、有酸素下および無酸素下のいずれにおいても紫外線照射後の粘着剤層2における粘着力低減効果が小さくなり、半導体チップのピックアップ不良が増大するおそれがある。一方、光重合開始剤の添加量が12.0質量部を超える場合には、その効果は飽和し、経済性の観点からも好ましくない。また、光重合開始剤の種類によっては、粘着剤層2の無酸素下紫外線照射後粘着力Bが所望の値よりも大きくなり、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ不良が増大する場合がある。
【0130】
ある好ましい3種類の系の光重合開始剤を含む実施形態においては、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)のそれぞれの添加量は、上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーの固形分100質量部に対して、上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)は0.8質量部以上5.0質量部以下の範囲、上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)は、0.2質量部以上5.0質量部以下の範囲、上記アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)は、0.2質量部以上2.0質量部以下の範囲で調整されることが好ましい。
【0131】
上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)の添加量が0.8質量部未満の場合には、粘着剤層2の有酸素下紫外線照射後粘着力Aが所望の値まで低下しないおそれがある。一方、上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)の添加量が5.0質量部を超える場合には、粘着剤層2の無酸素下紫外線照射後粘着力Bが所望の値よりも大きくなるおそれがある。また、ダシングテープ10の保存安定性が悪くなるおそれがある。上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)の添加量が0.2質量部未満の場合には、粘着剤層2の有酸素下および無酸素下の紫外線照射後粘着力が所望の値まで低下しないおそれがある。上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)の添加量が5.0質量部を超える場合には、その効果は飽和し、経済性の観点からも好ましくない。また、ダシングテープ10の保存安定性が悪くなるおそれがある。上記アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)の添加量が0.2質量部未満の場合には、粘着剤層2の有酸素下および無酸素下の紫外線照射後粘着力が所望の値まで低下しないおそれがある。上記アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)の添加量が2.0質量部を超える場合には、その効果は飽和し、経済性の観点からも好ましくない。また、他の光重合開始剤(a)および(b)の添加量によっては、ダシングテープ10の保存安定性が悪くなるおそれがある。
【0132】
上記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)のそれぞれの添加量が、上記の範囲内で調整されている場合、上述したように、粘着剤層2は有酸素下および無酸素下のいずれにおいても紫外線が照射されることにより、その粘着力を所望のレベルまで低下させることができ、ピックアップ工程において、粘着剤層2からダイボンドフィルム付き半導体チップを良好にピックアップすることが可能となる。
【0133】
また、かかる光重合開始剤の増感剤として、ジメチルアミノエチルメタクリレート、4―ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等の化合物を、本発明の効果を損なわない範囲において、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物に添加してもよい。
【0134】
[その他]
本実施の形態の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、その他に、活性エネルギー線硬化性化合物(例えば、多官能のウレタンアクリレート系オリゴマー等)、粘着付与剤、充填剤、老化防止剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、界面活性剤、シランカップリング剤、レベリング剤等の添加剤を添加してもよい。
【0135】
[活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度]
本実施の形態の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、特に限定されないが、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度が、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たり0.85meq以上1.50meq以下の範囲となるように調整されることが好ましい。活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たりの活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度が0.85meq未満であると、上述した活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たりにおける架橋反応後の残存水酸基濃度が大きい場合に、紫外線照射後の粘着剤層2の粘着力、特に有酸素下紫外線照射後粘着力Aが十分に低下せず、ピックアップ工程においてダイボンドフィルム付き半導体チップを粘着剤層2から剥離しにくくなるおそれがある。
【0136】
一方、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たりの活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度が1.50meqを超える場合は、その効果は徐々に飽和し、経済的な観点からも好ましくない。また、アクリル系粘着性ポリマーの共重合組成によっては合成する際の重合または反応時にゲル化しやすくなり、合成が困難となる場合がある。なお、アクリル系粘着性ポリマーの炭素-炭素二重結合含有量を確認する場合、アクリル系粘着性ポリマーのヨウ素価を測定することで、炭素-炭素二重結合含有量を算出することができる。
【0137】
活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度が、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たり0.85meq以上1.50meq以下の範囲内であると、上述したように、粘着剤層2は有酸素下および無酸素下のいずれにおいても紫外線が照射されることにより、その粘着力を所望のレベルまで低下させることが容易となり、ピックアップ工程において、粘着剤層2からダイボンドフィルム付き半導体チップを良好にピックアップすることが容易となる。上記活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度は、より好ましくは、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たり0.88meq以上1.46meq以下の範囲である。
【0138】
[粘着剤層の粘着力]
上記ダイシングテープ10の粘着剤層2の23℃におけるステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対する有酸素下紫外線照射後粘着力Aは、3.50N/25mm以下の範囲である。ここで、有酸素下紫外線照射後粘着力Aは、上述したように、割断されたダイボンドフィルム(接着剤層)3のエッジ部が剥離して、空気中に暴露された粘着剤層部分について、周囲空気中酸素による重合阻害のために紫外線照射による粘着力低減効果が十分に得られないことを考慮した、粘着剤層2の紫外線照射後粘着力である。上記有酸素下紫外線照射後粘着力Aは、小さければ小さい程好ましいが、酸素による重合阻害を完全に防ぐことは困難であり、その粘着力低減には限界がある一方で、ダイボンドフィルム付き半導体チップを得るための一連の工程において、当然のことながらダイシングテープ10のダイボンドフィルム(接着剤層)3に対する有酸素下紫外線照射後粘着力A以外の特性も考慮する必要があるところ、本発明の粘着剤層においては、その下限値は、1.25N/25mmに留めておくことが好ましい。また、上記有酸素下紫外線照射後粘着力Aが3.50N/25mmを超える場合には、ピックアップ工程において、粘着剤層2に紫外線を照射した後に、突き上げ治具上に位置する、ダイシングテープ10上のダイボンドフィルム付き半導体チップに対して、その上部からピックアップ用の吸着コレットを該半導体チップ表面に接触・着地させた時に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から剥離していたダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムのエッジ部分が、硬化が不十分な粘着剤層2に、ダイシングテープ10の下面側からの治具突き上げおよび吸着コレットによる吸引・持ち上げによっても、ダイボンドフィルム付き半導体チップを粘着剤層2から容易に剥離できない程度にまで強く再固着してしまい、ダイシングテープ10の下面側から突き上げ治具を用いて突き上げても、エッジ部分からの剥離のきっかけを作り難く、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップが阻害されることがある。さらに突き上げ治具の突き上げ高さ(突き上げ量)を大きくして無理にピックアップしようとすると半導体チップが損傷するリスクが高まる。前記有酸素下紫外線照射後粘着力Aは、好ましくは1.30N/25mm以上3.00N/25mm以下の範囲であり、より好ましくは1.35N/25mm以上2.75N/25mm以下の範囲である。
【0139】
上記有酸素下紫外線照射後粘着力Aが3.50N/25mm以下の範囲である場合、ピックアップ工程において、粘着剤層2に紫外線を照射した後、突き上げ治具上に位置する、ダイシングテープ10上のダイボンドフィルム付き半導体チップに対して、その上部からピックアップ用の吸着コレットを該半導体チップ表面に接触・着地させた時に、ダイシングテープ10の粘着剤層2から剥離していたダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムのエッジ部分が、紫外線照射による硬化が不十分な粘着剤層2に強固に再固着する現象が大幅に抑制され、すなわち、ダイシングテープ10の下面側からの治具突き上げによってダイボンドフィルム付き半導体チップが粘着剤層2から容易に剥離できるレベルまで再固着の力が弱められ、ダイシングテープ10の下面側から突き上げ治具を用いて突き上げた際に、エッジ部分からの剥離のきっかけを作り易く、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップが阻害されることがない。また、ピックアップ時に半導体チップが損傷するリスクも低くなる。その結果、ピックアップ工程において、紫外線照射後の粘着剤層2からダイボンドフィルム付き半導体チップを良好にピックアップすることが可能となる。
【0140】
上述したように、実際のピックアップ工程において、ダイシングテープ10の粘着剤層2から剥離していたダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムのエッジ部分が、空気中に暴露された状態で紫外線が照射された粘着剤層2に再固着した際に、その再固着の力が従来に比して弱められるのは以下の理由によるものと推察される。すなわち、まず、(1)上記有酸素下紫外線照射後粘着力Aが3.50N/25mm以下のレベルにまで低減された粘着剤層2の表面は、紫外線照射により所望のレベルまで硬化されて、適度な硬さが付与されている。このような本実施の形態の粘着剤層2は、紫外線照射前の粘着剤層2や酸素による重合阻害を受けて硬化が不十分な紫外線照射後の従来の粘着剤層に比して、ダイボンドフィルム3に対する濡れ性・追従性が大幅に抑制されている。一方、(2)実際にダイボンドフィルム付き半導体チップをピックアップする際、ダイシングテープ10の粘着剤層2から剥離していたダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムのエッジ部分が、吸着コレットの半導体チップへの接触・着地により紫外線照射後の粘着剤層2に再固着してから、ダイシングテープ10の下面側から治具によって突き上げられるまでの時間は極めて短い。そうすると、上記有酸素下紫外線照射後粘着力Aが3.50N/25mm以下のレベルにまで低減された本実施の形態の粘着剤層2の表面に対して、剥離していたダイボンドフィルム(接着剤層)のエッジ部分の表面が再度接触したとしても、両層が十分になじむ前に、ダイボンドフィルム付き半導体チップに対してダイシングテープ10の下面側から治具による突き上げがすぐに開始され、ピックアップへと移行されることになる。つまり、再固着した際に、従来のように両層間の粘着力が高い値に保持されるのを回避することができる。
したがって、エキスパンド工程によりダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムのエッジ部分が粘着剤層2から適度に剥離する場合、上記の有酸素下紫外線照射後粘着力Aの低減効果と相まって、割断されたダイボンドフィルム(接着剤層)と粘着剤層がエキスパンド工程により剥離することなく両層が最初に貼合されて以降ずっと密着された状態を経てピックアップ工程に供せられる従来のパターンに比して、最初のダイボンドフィルム付き半導体チップのエッジ部分の剥離に要する力が小さくなったものと考える。
【0141】
本発明における上記有酸素下紫外線照射後粘着力Aは、以下に記載の方法により測定される。まず、ダイシングテープ10とステンレス鋼板(SUS304・BA板)を別々に準備する。ダイシングテープ10は幅(基材フィルム1のTD方向)25mm、長さ(基材フィルム1のMD方向)120mmの大きさに裁断する。次いで、剥離ライナーを剥がしたダイシングテープ10の粘着剤層2面側からメタルハライドランプを用いて、中心波長367nmの紫外線(UV)を照射(照射強度:70mW/cm
2、積算光量:150mJ/cm
2)した後、ステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対し、ダイシングテープ10を粘着剤層2面の端から重さ2kgのゴムローラを使用して、温度23℃、湿度50%RHの環境にて、ゴムローラを約5mm/秒の速度で一往復させて、綺麗に圧着、貼り合わせを行い、測定用試験片とする。20分静置後、該試験片について、
図4に示す剥離角度自在タイプの粘着・皮膜剥離解析装置を用いて粘着力を測定する。まず、ステンレス鋼板4にダイシングテープ10が貼り合わされた測定用試験片を、粘着・皮膜剥離解析装置用の平板クロスステージ5に専用治具を用いて固定・装着し、ダイシングテープ10の端部を掴み治具(図示せず)を備えたロードセル7に固定する。次いで、温度23℃、湿度50%RHの環境にて、
図4(装置を真上から見た概略図)に示すように、アクチュエータ6によって平板クロスステージ5が搭載された回転ステージ8を300mm/分のステージ速度V1でロードセル7と反対の方向(矢印V1方向)に移動させながら、平板クロスステージ5も回転ステージ8上でステージ速度V1と同期した300mm/分の剥離速度V2で剥離角度90°の方向(矢印V2方向)に移動させる。これによって、ダイシングテープ10を、平板クロスステージに固定・装着されたステンレス鋼板4から剥離角度を90°に保ちながら300mm/分の剥離速度で引き剥がすことができる。基材フィルム1とともに粘着剤層2が、ステンレス鋼板4から引き剥がされる際の荷重をロードセル7が感知して粘着力が測定される。以上の方法により、ステンレス鋼板(SUS304・BA板)4に対するダイシングテープ10の剥離角度90°粘着力(単位はN/25mm)を測定する。測定は、試験片3検体について行い、3検体の値の平均値をそのダイシングテープ10の有酸素下紫外線照射後粘着力Aとする。
【0142】
また、上記ダイシングテープ10の粘着剤層2の23℃におけるステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対する無酸素下紫外線照射後粘着力Bは、0.25N/25mm以上0.70N/25mm以下の範囲である。ここで、無酸素下紫外線照射後粘着力Bは、周囲酸素による酸素阻害の影響を考慮しない、粘着剤層2と被着体(ダイボンドフィルム3)との貼合面(剥離することなく密着している面)の紫外線照射後粘着力を表すための粘着力である。ピックアップ性向上の観点から、上記紫外線照射後粘着力Bは、上記範囲内においては小さければ小さい程好ましいが、0.25N/25mm未満である場合には、ダイボンドフィルム付き半導体チップはピックアップの前段階にて、ダイシングテープ10の粘着剤層2上の固定位置から意図せず脱落したり、位置ずれを起こしたりすることがある。また、上記無酸素下紫外線照射後粘着力Bが0.70N/25mmより大きい場合には、ピックアップ工程において、ダイシングテープ10の下面側から突き上げ治具を用いて突き上げても、ダイボンドフィルム3aのエッジ部分の剥離に引き続く中心部へ向けての、粘着剤層2からのダイボンドフィルム3aの剥離が進展しにくく、ピックアップ自体が困難となる場合がある。また、突き上げ治具の突き上げ高さ(突き上げ量)を大きくして無理にピックアップしようとすると半導体チップが損傷するおそれがある。前記無酸素下紫外線照射後粘着力Bは、好ましくは0.30N/25mm以上0.65N/25mm以下の範囲であり、より好ましくは0.35N/25mm以上0.60N/25mm以下の範囲である。
【0143】
上記無酸素下紫外線照射後粘着力Bが、0.25N/25mm以上0.70N/25mm以下の範囲である
場合には、ピックアップ工程において、ダイシングテープ10の下面側から突き上げ治具を用いて突き上げた際に、ダイボンドフィルム付き半導体チップのダイボンドフィルムと粘着剤層2の密着面において、その密着面外周部から中心部へ向けての、粘着剤層2からのダイボンドフィルムの剥離が進展し易く、ピックアップ性が良好となる。また、ピックアップ時に半導体チップが損傷するリスクも低くなる。
【0144】
本発明における上記無酸素下紫外線照射後粘着力Bは、以下に記載の方法により測定される。まず、ダイシングテープ10とステンレス鋼板(SUS304・BA板)を別々に準備する。ダイシングテープ10は幅(基材フィルム1のTD方向)25mm、長さ(基材フィルム1のMD方向)120mmの大きさに裁断する。次いで、ステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対して、剥離ライナーを剥がしたダイシングテープ10の粘着剤層2面の端から重さ2kgのゴムローラを使用して、温度23℃、湿度50%RHの環境にて、ゴムローラを約5mm/秒の速度で一往復させて、綺麗に圧着、貼り合わせる。20分静置後、ダイシングテープ10の基材フィルム1側から、メタルハライドランプを用いて、中心波長367nmの紫外線(UV)を照射(照射強度:70mW/cm
2、積算光量:150mJ/cm
2)し、測定用試験片とする。該試験片について、上述した有酸素下紫外線照射後粘着力Aの測定と同様に
図4に示す剥離角度自在タイプの粘着・皮膜剥離解析装置を用いて、ステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対するダイシングテープ10の剥離角度90°粘着力(単位はN/25mm)を測定する。測定は、試験片3検体について行い、3検体の値の平均値をそのダイシングテープ10の無酸素下紫外線照射後粘着力Bとする。
【0145】
ダイシングテープ10の粘着剤層2の無酸素下紫外線照射後粘着力Bに対する有酸素下紫外線照射後粘着力Aの比A/Bを求め、粘着剤層における酸素による重合阻害の影響を評価することができる。で表される。
【0146】
本実施の形態のダイシングテープ10において、無酸素下紫外線照射後粘着力Bに対する有酸素下紫外線照射後粘着力Aの比A/Bは、本発明の効果を損なわない範囲において、特に限定されないが、3.00以上5.00以下の範囲であることが好ましい。上記無酸素下紫外線照射後粘着力Bに対する有酸素下紫外線照射後粘着力Aの比A/Bが上記範囲内である場合には、ダイシングテープ10のエキスパンド工程により形成された、粘着剤層2における割断されたダイボンドフィルム(接着剤層)3のエッジが剥離した(浮いた)部分について、紫外線が照射された際に、周囲の空気中に含まれる酸素による重合阻害のために粘着力が十分に低下せずに粘着力が高い値に保持されるのを回避することがより容易となり、すなわち、ダイシングテープ10の下面側からの治具突き上げによってより容易に剥離できるレベルまで再固着の力をより弱めることができる。その結果、ダイシングテープ10の下面側から突き上げ治具を用いて突き上げた際に、エッジ部分からの剥離のきっかけをより作り易くなり、最初のダイボンドフィルム付き半導体チップのエッジ部分の剥離に要する力をより小さくすることができるので、紫外線照射後の粘着剤層2からダイボンドフィルム付き半導体チップをより良好にピックアップすることが可能となる。
【0147】
[粘着剤層の厚さ]
本実施の形態の粘着剤層2の厚さは、特に限定されないが、3μm以上30μm以下の範囲であることが好ましく、5μm以上20μm以下の範囲がより好ましく、8μm以上15μm以下の範囲が特に好ましい。粘着剤層2の厚さが3μm未満の場合には、特にポリイソシアネート系架橋剤の添加量が多いと、ダイシングテープ10の粘着力が過度に低下するおそれがある。この場合、SUS製のリングフレームに対する粘着力が不足し、クールエキスパンド工程において、ダイシングテープ10がSUS製のリングフレームから剥がれて、正常なエキスパンド工程が行えなくなるおそれがある。また、ダイシングダイボンドフィルムとして使用する時に、粘着剤層2とダイボンドフィルム3との密着不良が生じる場合がある。一方、粘着剤層2の厚さが30μmを超える場合には、特にポリイソシアネート系架橋剤の添加量が多いと、ダイシングテープ10をクールエキスパンドした際に、ダイボンドフィム3が粘着剤層2から過度に剥離してしまい、ダイボンドフィルム3に粘着剤層2を介して十分な外部応力が与えることができずに、ダイボンドフィルム3を綺麗に割断できないおそれや、カーフ幅を十分に確保できない、あるいはカーフ幅がばらつくおそれがある。その場合、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ不良が増大するおそれがある。また、経済性の観点からも、実用上あまり好ましくない。
【0148】
(アンカーコート層)
本実施の形態のダイシングテープ10では、本発明の効果を損なわない範囲において、ダイシングテープ10の製造条件や製造後のダイシングテープ10の使用条件等に応じて、基材フィルム1と粘着剤層2との間に、基材フィルム1の組成に合わせたアンカーコート層を設けてもよい。アンカーコート層を設けることにより、基材フィルム1と粘着剤層2との密着力が向上する。
【0149】
(剥離ライナー)
また、粘着剤層2の基材フィルム1とは逆の表面側(一方の表面側)には、必要に応じて剥離ライナーを設けてもよい。剥離ライナーとして使用できるものは、特に制限されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂や、紙類等が挙げられる。また、剥離ライナーの表面には、粘着剤層2の剥離性を高めるために、シリコーン系剥離処理剤、長鎖アルキル系剥離処理剤、フッ素系剥離処理剤などによる剥離処理を施してもよい。剥離ライナーの厚さは、特に限定されないが、10μm以上200μm以下の範囲であるものを好適に使用することができる。
【0150】
(ダイシングテープの製造方法)
図5は、ダイシングテープ10の製造方法について説明したフローチャートである。まず、剥離ライナーを準備する(ステップS101:剥離ライナー準備工程)。次に、粘着剤層2の形成材料である粘着剤層2用の塗布溶液(粘着剤層形成用塗布溶液)を作製する(ステップS102:塗布溶液作製工程)。塗布溶液は、例えば、粘着剤層2の構成成分であるアクリル系粘着性ポリマーと架橋剤と希釈溶媒とを均一に混合撹拌することにより作製することができる。溶媒としては、例えば、トルエンや酢酸エチル等の汎用の有機溶剤を使用することができる。
【0151】
そして、ステップS102で作製した粘着剤層2用の塗布溶液を用いて、剥離ライナーの剥離処理面上に該塗布溶液を塗布して乾燥し、所定厚さの粘着剤層2を形成する(ステップS103:粘着剤層形成工程)。塗布方法としては、特に限定されず、例えば、ダイコーター、コンマコーター(登録商標)、グラビアコーター、ロールコーター、リバースコーター等を用いて塗布することができる。また、乾燥条件としては、特に限定されないが、例えば、乾燥温度は80℃以上150℃以下の範囲内、乾燥時間は0.5分間以上5分間以下の範囲内で行うことが好ましい。続いて、基材フィルム1を準備する(ステップS104:基材フィルム準備工程)。そして、剥離ライナーの上に形成された粘着剤層2の上に、基材フィルム1を貼り合わせる(ステップS105:基材フィルム貼合工程)。最後に、形成した粘着剤層2を例えば40℃の環境下で72時間エージングしてアクリル系粘着性ポリマーと架橋剤とを反応させることにより架橋・硬化させる(ステップS106:熱硬化工程)。以上の工程により基材フィルム1の上に基材フィルム側から順に粘着剤層2、剥離ライナーを備えたダイシングテープ10を製造することができる。なお、本発明では、粘着剤層2の上に剥離ライナーを備えている積層体もダイシングテープ10と称する場合がある。
【0152】
なお、上記基材フィルム1上に粘着剤層2を形成する方法として、剥離ライナーの上に粘着剤層2用の塗布溶液を塗布して乾燥し、その後、粘着剤層2の上に基材フィルム1を貼り合わせる方法を例示したが、基材フィルム1上に粘着剤層2用の塗布溶液を直接塗布して乾燥する方法を用いてもよい。安定生産の観点からは、前者の方法が好適に用いられる。
【0153】
本実施の形態のダイシングテープ10は、ロール状に巻かれた形態や、幅が広いシートが積層している形態であってもよい。また、これらの形態のダイシングテープ10を予め定められた大きさに切断して形成されたシート状またはテープ状の形態であってもよい。
【0154】
<ダイシングダイボンドフィルム>
本実施の形態のダイシングテープ10は、半導体製造工程において、ダイシングテープ10の粘着剤層2の上にダイボンドフィルム(接着剤層)3が剥離可能に密着、積層されたダイシングダイボンドフィルム20の形として使用することもできる。ダイボンドフィルム(接着剤層)3は、個片化された半導体チップをリードフレームや配線基板(支持基板)に接着・接続するためのものである。また、半導体チップを積層する場合は、半導体チップ同士の接着剤層の役割もする。この場合、一段目の半導体チップはダイボンドフィルム(接着剤層)3により、端子が形成された半導体チップ搭載用配線基板に接着され、一段目の半導体チップの上に、さらにダイボンドフィルム(接着剤層)3により二段目の半導体チップが接着されている。一段目の半導体チップおよび二段目の半導体チップの接続端子は、ワイヤを介して外部接続端子と電気的に接続されるが、一段目の半導体チップ用のワイヤは、圧着(ダイボンディング)時にダイボンドフィルム(接着剤層)3、すなわち、前述したワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム(接着剤層)3の中に埋め込まれる。以下、本実施の形態のダイシングテープ10をダイシングダイボンドフィルム20の形として使用する場合のダイボンドフィルム(接着剤層)3について一例を示すが、特にこの例に限定されるものではない。
【0155】
(ダイボンドフィルム)
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3は、熱により硬化する熱硬化型の接着剤組成物から成る層である。上記接着剤組成物としては、特に限定されるものでなく、従来公知の材料を使用することができる。上記接着剤組成物の好ましい態様の一例としては、例えば、熱可塑性樹脂としてグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂、および該エポキシ樹脂に対する硬化剤としてフェノール樹脂を含む樹脂組成物に、硬化促進剤、無機フィラー、シランカップリング剤等が添加されて成る熱硬化性接着剤組成物が挙げられる。このような熱硬化性接着剤組成物から成るダイボンドフィルム(接着剤層)3は、半導体チップ/支持基板間、半導体チップ/半導体チップ間の接着性に優れ、また電極埋め込み性および/またはワイヤ埋め込み性等も付与可能で、且つダイボンディング工程では低温で接着でき、短時間で優れた硬化が得られる、封止剤によりモールドされた後は優れた信頼性を有する等の特徴があり好ましい。
【0156】
ワイヤが接着剤層中に埋め込まれない形態で使用される汎用ダイボンドフィルムとワイヤが接着剤層中に埋め込まれる形態で使用されるワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムは、その接着剤組成物を構成する材料の種類については、ほぼ同じであることが多いが、使用する材料の配合割合、個々の材料の物性・特性等を、それぞれの目的に応じて変更することにより、汎用ダイボンドフィルム用あるいはワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用としてカスタマイズされる。また、最終的な半導体装置としての信頼性に問題がない場合には、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムが汎用ダイボンドフィルムとして使用されることもある。すなわち、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムは、ワイヤ埋込用途に限定されず、配線等に起因する凹凸を有する基板、リードフレームなどの金属基板等へ半導体チップを接着する用途でも同様に使用可能である。
【0157】
(汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物)
まず、汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物の一例について説明するが、特にこの例に限定されるものではない。接着剤組成物から形成されるダイボンドフィルム3のダイボンディング時の流動性の指標として、例えば、80℃でのずり粘度特性が挙げられるが、汎用ダイボンドフィルムの場合、一般に、80℃でのずり粘度は、20,000Pa・s以上40,000Pa・s以下の範囲、好ましくは25,000Pa・s以上35,000Pa・s以下の範囲の値を示す。上記汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物の好ましい態様の一例としては、接着剤組成物の樹脂成分である上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、(a)上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体を52質量部以上90質量部以下の範囲、上記エポキシ樹脂を5質量部以上25質量部以下の範囲、上記フェノール樹脂の5質量部以上23質量部以下の範囲で、樹脂成分全量が100質量部となるように調整されて含み、(b)硬化促進剤を上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量100質量部に対して0.1質量部以上0.3質量部以下の範囲で含み、(c)無機フィラーを上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量100質量部に対して5質量部以上20質量部以下の範囲で含む接着剤組成物が挙げられる。
【0158】
[グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体]
上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、共重合体ユニットとして、少なくとも、炭素数1~8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび(メタ)アクリル酸グリシジルを含むことが好ましい。上記(メタ)アクリル酸グリシジルの共重合体ユニットは、適正な接着力確保の観点から、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体全量中に、0.5質量%以上6.0質量%以下の範囲で含むことが好ましく、2.0質量%以上4.0質量%以下の範囲で含むことがより好ましい。また、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、必要に応じ、ガラス転移温度(Tg)の調整の観点から、スチレンやアクリロニトリル等の他の単量体を共重合体ユニットとして含んでいてもよい。
【0159】
上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体のガラス転移温度(Tg)としては、-50℃以上30℃以下の範囲であることが好ましく、ダイボンドフィルムとしての取扱性の向上(タック性の抑制)の観点から、-10℃以上30℃以下の範囲であることがより好ましい。グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体をこのようなガラス転移温度とするには、上記炭素数1~8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、エチル(メタ)アクリレートおよび/またはブチル(メタ)アクリレートを用いることが好適である。
【0160】
上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体の重量平均分子量Mwは、50万以上200万以下の範囲であることが好ましく、70万以上100万以下の範囲であることがより好ましい。重量平均分子量Mwが上記範囲内であると、接着力、耐熱性、フロー性を適切なものとしやすい。ここで、重量平均分子量Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される標準ポリスチレン換算値を意味する。
【0161】
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3における上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体の含有割合は、接着剤組成物中の樹脂成分である該グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と後述するエポキシ樹脂とフェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、52質量%以上90質量%以下の範囲であることが好ましく、60質量%以上80質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0162】
[エポキシ樹脂]
エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノールのジグリシジルエーテル化物、ナフタレンジオールのジグリシジルエーテル化物、フェノール類のジグリシジルエーテル化物、アルコール類のジグリシジルエーテル化物、およびこれらのアルキル置換体、ハロゲン化物、水素添加物等の二官能エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。また、多官能エポキシ樹脂および複素環含有エポキシ樹脂等、一般に知られているその他のエポキシ樹脂を使用してもよい。これらは、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0163】
上記エポキシ樹脂の軟化点は、接着力、耐熱性の観点からは、70℃以上130℃以下の範囲であることが好ましい。また、上記エポキシ樹脂のエポキシ当量は、後述するフェノール樹脂との硬化反応を十分に進行させるという観点からは、100以上300以下の範囲であることが好ましい。
【0164】
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3における上記エポキシ樹脂の含有割合は、ダイボンドフィルム(接着剤層)3において熱硬化型接着剤としての機能を適切に発現させるという観点から、接着剤組成物中の樹脂成分である上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と該エポキシ樹脂と後述するフェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、5質量%以上25質量%以下の範囲であることが好ましく、10質量%以上20質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0165】
[フェノール樹脂:エポキシ樹脂に対する硬化剤]
エポキシ樹脂に対する硬化剤としては、特に限定されないが、例えば、フェノール化合物と2価の連結基であるキシリレン化合物を、無触媒または酸触媒の存在下に反応させて得ることができるフェノール樹脂が挙げられる。上記フェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、および、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン等が挙げられる。ノボラック型フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert-ブチルフェノールノボラック樹脂、およびノニルフェノールノボラック樹脂等が挙げられる。これらフェノール樹脂は、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのフェノール樹脂の中でも、フェノールノボラック樹脂やフェノールアラルキル樹脂は、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の接続信頼性を向上させうる傾向にあるので、好適に用いられる。
【0166】
上記フェノール樹脂の軟化点は、接着力、耐熱性の観点からは、70℃以上90℃以下の範囲であることが好ましい。また、上記フェノール樹脂の水酸基当量は、エポキシ樹脂との硬化反応を十分に進行させるという観点からは、100以上200以下の範囲であることが好ましい。
【0167】
上記熱硬化性樹脂組成物におけるエポキシ樹脂とフェノール樹脂との硬化反応を十分に進行させるという観点からは、フェノール樹脂は、全エポキシ樹脂成分中のエポキシ基1当量当たり、当該全フェノール樹脂成分中の水酸基が好ましくは0.5当量以上2.0当量以下、より好ましくは0.8当量以上1.2当量以下の範囲となる量で、配合するのが好ましい。それぞれの樹脂の官能基当量に依るので、一概には言えないが、例えば、フェノール樹脂の含有割合は、接着剤組成物中の樹脂成分である上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と該フェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、5質量%以上23質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0168】
[硬化促進剤]
また、上記熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、第三級アミン、イミダゾール類、第四級アンモニウム塩類等の硬化促進剤を添加することができる。このような硬化促進剤としては、具体的には、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテート等が挙げられ、これらは、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記硬化促進剤の添加量は、上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂の合計100質量部に対して、0.1質量部以上0.3質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0169】
[無機フィラー]
またさらに、上記熱硬化性樹脂組成物には、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の流動性を制御し、弾性率を向上させる観点から、必要に応じて無機フィラーを添加することができる。無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ホウ酸アルミウイスカ、窒化ホウ素、結晶質シリカ、非晶質シリカ等が挙げられ、これらは、1種または2種以上を併用することもできる。これらの中でも、汎用性の観点からは、結晶質シリカ、非晶質シリカ等が好適に用いられる。具体的には、例えば、平均粒子径がナノサイズであるアエロジル(登録商標:超微粒子乾式シリカ)が好適に用いられる。上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3における上記無機フィラーの含有割合は、上述した樹脂成分であるグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体とエポキシ樹脂とフェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、5質量%以上20質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0170】
[シランカップリング剤]
またさらに、上記熱硬化性樹脂組成物には、被着体に対する接着力を向上させる観点から、必要に応じて、シランカップリング剤を添加することができる。シランカップリング剤としては、例えば、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、およびγ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランが挙げられ、これらは、1種または2種以上を併用することもできる。上記シランカップリング剤の添加量は、上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂の合計100質量部に対して、1.0質量部以上7.0質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0171】
[その他]
またさらに、上記熱硬化性樹脂組成物には、ダイボンドフィルムとしての機能を損なわない範囲で、難燃剤やイオントラップ剤等を添加してもよい。難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、および臭素化エポキシ樹脂等が挙げられる。イオントラップ剤としては、例えば、ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス、含水酸化アンチモン、特定構造のリン酸ジルコニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、トリアゾール系化合物、テトラゾール系化合物、およびビピリジル系化合物等が挙げられる。
【0172】
(ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用接着剤組成物)
続いて、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用接着剤組成物の一例について説明するが、特にこの例に限定されるものではない。接着剤組成物から形成されるダイボンドフィルム3のダイボンディング時の流動性の指標として、例えば、80℃でのずり粘度特性が挙げられるが、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムの場合、一般に、80℃でのずり粘度は、200Pa・s以上11,000Pa・s以下の範囲、好ましくは2,000Pa・s以上7,000Pa・s以下の範囲の値を示す。上記ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用接着剤組成物の好ましい態様の一例としては、接着剤組成物の樹脂成分である上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、(a)上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体を17質量部以上51質量部以下の範囲、上記エポキシ樹脂を30質量部以上64質量部以下の範囲、上記フェノール樹脂を19質量部以上53質量部以下の範囲で、樹脂成分全量が100質量部となるように調整されて含み、(b)硬化促進剤を上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量100質量部に対して0.01質量部以上0.07質量部以下の範囲で含み、(c)無機フィラーを上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量100質量部に対して10質量部以上80質量部以下の範囲で含む接着剤組成物が挙げられる。
【0173】
[グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体]
上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、共重合体ユニットとして、少なくとも、炭素数1~8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび(メタ)アクリル酸グリシジルを含むことが好ましい。ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムの場合、ダイボンディング時の流動性向上と硬化後の接着強度確保の両立を図る必要があるため、(メタ)アクリル酸グリシジルの共重合体ユニット比率が高く、分子量が低いグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と、(メタ)アクリル酸グリシジルの共重合体ユニット比率が低く、分子量が高いグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)との併用が好ましく、併用のうち前者の(A)成分が一定量以上含まれることが好ましい。
【0174】
すなわち、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用接着剤組成物における上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、具体的には、「(メタ)アクリル酸グリシジルの共重合体ユニットを、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体全量中に、5.0質量%以上15.0質量%以下の範囲で含み、ガラス転移温度(Tg)が-50℃以上30℃以下の範囲であり、重量平均分子量Mwが10万以上40万以下の範囲であるグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)」と、「(メタ)アクリル酸グリシジルの共重合体ユニットを、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体全量中に、1.0質量%以上7.0質量%以下の範囲で含み、ガラス転移温度(Tg)が-50℃以上30℃以下の範囲であり、重量平均分子量Mwが50万以上90万以下の範囲であるグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)」との混合物からなることが好ましい。ここで、重量平均分子量Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される標準ポリスチレン換算値を意味する。
【0175】
上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)の含有割合は、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体全量((A)と(B)の合計)中の60質量%以上90質量%以下の範囲であることが好ましい。また、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、必要に応じ、ガラス転移温度(Tg)の調整の観点から、スチレンやアクリロニトリル等の他の単量体を共重合体ユニットとして含んでいてもよい。
【0176】
上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体全体のガラス転移温度(Tg)としては、-50℃以上30℃以下の範囲であることが好ましく、ダイボンドフィルムとしての取扱性の向上(タック性の抑制)の観点から、-10℃以上30℃以下の範囲であることがより好ましい。グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体をこのようなガラス転移温度とするには、上記炭素数1~8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、 エチル(メタ)アクリレートおよび/またはブチル(メタ)アクリレートを用いることが好適である。
【0177】
上記ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム(接着剤層)3における上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体全量((A)と(B)の合計)の含有割合は、ダイボンディング時の流動性および硬化後の接着強度の観点から、接着剤組成物中の樹脂成分である該グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と後述するエポキシ樹脂とフェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、17質量%以上51質量%以下の範囲であることが好ましく、20質量%以上45質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0178】
[エポキシ樹脂]
エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、上述の汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物用のエポキシ樹脂として例示したものと同じものを使用することができる。これらは、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムの場合、接着強度の確保とともに、接着面における空隙の発生を抑制しつつ、ワイヤの良好な埋め込み性を付与する必要があるため、その流動性や弾性率を制御する上で、2種類以上のエポキシ樹脂を組み合わせて使用することが好ましい。
【0179】
ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム(接着剤層)3に用いるエポキシ樹脂の好ましい態様としては、常温で液状であるエポキシ樹脂(C)と軟化点が98℃以下、好ましくは85℃以下であるエポキシ樹脂(D)との混合物から成るものが挙げられる。上記の常温で液状であるエポキシ樹脂(C)の含有割合は、エポキシ樹脂全量((C)と(D)の合計)中の15質量%以上75質量%以下の範囲であることが好ましく、30質量%以上50質量%以下の範囲であることがより好ましい。上記エポキシ樹脂のエポキシ当量は、後述するフェノール樹脂との硬化反応を十分に進行させるという観点からは、100以上300以下の範囲であることが好ましい。
【0180】
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3における上記エポキシ樹脂の含有割合は、ダイボンドフィルム(接着剤層)3において熱硬化型接着剤としての機能を適切に発現させるという観点から、接着剤組成物中の樹脂成分である上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と該エポキシ樹脂と後述するフェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、30質量%以上64質量%以下の範囲であることが好ましく、35質量%以上50質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0181】
[フェノール樹脂:エポキシ樹脂に対する硬化剤]
エポキシ樹脂に対する硬化剤としては、特に限定されないが、上述の汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物用のフェノール樹脂として例示したものと同じものを同様に使用することができる。上記フェノール樹脂の軟化点は、接着力、流動性の観点からは、70℃以上115℃以下の範囲であることが好ましい。また、上記フェノール樹脂の水酸基当量は、エポキシ樹脂との硬化反応を十分に進行させるという観点からは、100以上200以下の範囲であることが好ましい。
【0182】
上記熱硬化性樹脂組成物におけるエポキシ樹脂とフェノール樹脂との硬化反応を十分に進行させるという観点からは、フェノール樹脂は、全エポキシ樹脂成分中のエポキシ基1当量当たり、当該全フェノール樹脂成分中の水酸基が好ましくは0.5当量以上2.0当量以下、ダイボンディング時の流動性との両立という観点から、より好ましくは0.6当量以上1.0当量以下の範囲となる量で、配合するのが好ましい。それぞれの樹脂の官能基当量に依るので、一概には言えないが、例えば、フェノール樹脂の含有割合は、接着剤組成物中の樹脂成分である上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と該フェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、19質量%以上53質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0183】
[硬化促進剤]
また、上記熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、第三級アミン、イミダゾール類、第四級アンモニウム塩類等の硬化促進剤を添加することができる。このような硬化促進剤としては、上述の汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物用の硬化促進剤として例示したものと同じものを同様に使用することができる。上記硬化促進剤の添加量は、接着面における空隙の発生を抑制する観点から、上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂の合計100質量部に対して、0.01質量部以上0.07質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0184】
[無機フィラー]
またさらに、上記熱硬化性樹脂組成物には、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の取扱い性の向上、ダイボンディング時の流動性の調整、チクソトロピック性の付与、接着強度の向上等の観点から、必要に応じて無機フィラーを添加することができる。無機フィラーとしては、上述の汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物用の無機フィラーとして例示したものと同じものを同様に使用することができるが、これらの中でも、汎用性の観点からは、シリカフィラーが好適に用いられる。上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3における上記無機フィラーの含有割合は、ダイボンディング時の流動性、クールエキスパンド時の割断性および接着強度の観点から、上述した樹脂成分であるグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体とエポキシ樹脂とフェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、10質量%以上80質量%以下の範囲であることが好ましく、15質量%以上50質量%以下の範囲がより好ましい。
【0185】
上記無機フィラーは、ダイボンドフィルム(接着剤層)3のクールエキスパンド時の割断性を向上し、硬化後の接着力を十分に発現させる目的で、平均粒子径の異なる2種類以上の無機フィラーを混合することが好ましい。具体的には、平均粒子径が0.1μm以上5μm以下の範囲である無機フィラーを、無機フィラーの全質量を基準として80質量%以上の割合を占める主たる無機フィラー成分として使用することが好ましい。ダイボンドフィルム(接着剤層)3の流動性が過度に高くなることによる半導体チップ製造工程でのダイボンドフィルム3の発泡の抑制や硬化後の接着強度の向上が必要な場合には、平均粒子径が0.1μm未満である無機フィラーを、無機フィラーの全質量を基準として20質量%の配合量で上記の主たる無機フィラー成分と併用してもよい。
【0186】
[シランカップリング剤]
またさらに、上記熱硬化性樹脂組成物には、被着体に対する接着力を向上させる観点から、必要に応じて、シランカップリング剤を添加することができる。シランカップリング剤としては、上述の汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物用のシランカップリング剤として例示したものと同じものを同様に使用することができる。上記シランカップリング剤の添加量は、接着面における空隙の発生を抑制する観点から、上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂の合計100質量部に対して、0.5質量部以上2.0質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0187】
[その他]
またさらに、上記熱硬化性樹脂組成物には、ダイボンドフィルム3としての機能を損なわない範囲で、難燃剤やイオントラップ剤等を添加してもよい。これら難燃剤やイオントラップ剤としては、上述の汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物用の難燃剤やイオントラップ剤として例示したものと同じものを同様に使用することができる。
【0188】
(ダイボンドフィルム(接着剤層)の厚さ)
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さは、特に限定されないが、接着強度の確保、半導体チップ接続用のワイヤを適切に埋め込むため、あるいは基板の配線回路等の凹凸を十分に充填するため、5μm以上200μm以下の範囲であることが好ましい。ダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さが5μm未満であると、半導体チップとリードフレームや配線基板等との接着力が不十分となるおそれがある。一方、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さが200μmより大きいと経済的でなくなる上に、半導体装置の小型薄膜化への対応が不十分となりやすい。なお、接着性が高く、また、半導体装置を薄型化できる点で、フィルム状接着剤の膜厚は10μm以上100μm以下の範囲がより好ましく、20μm以上75μm以下の範囲が特に好ましい。
【0189】
より具体的には、汎用ダイボンドフィルム(接着剤層)として使用する場合の厚さとしては、例えば、5μm以上30μm未満の範囲、特に10μm以上25μm以下の範囲が好ましく、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム(接着剤層)として使用する場合の厚さとしては、例えば、30μm以上100μm以下の範囲、特に40μm以上80μm以下の範囲であることが好ましい。
【0190】
(ダイボンドフィルムの製造方法)
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3は、例えば、次の通りにして製造される。まず、剥離ライナーを準備する。なお、該剥離ライナーとしては、ダイシングテープ10の粘着剤層2の上に配置する剥離ライナーと同じものを使用することができる。次に、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の形成材料であるダイボンドフィルム(接着剤層)3用の塗布溶液を作製する。塗布溶液は、例えば、上述したようなダイボンドフィルム(接着剤層)3の構成成分であるグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂に対する硬化剤、無機フィラー、硬化促進剤、およびシランカップリング等を含む熱硬化性樹脂組成物と希釈溶媒とを均一に混合分散することにより作製することができる。溶媒としては、例えば、メチルエチルケトンやシクロヘキサノン等の汎用の有機溶剤を使用することができる。
【0191】
次に、ダイボンドフィルム(接着剤層)3用の塗布溶液を仮支持体となる上記剥離ライナーの剥離処理面上に該塗布溶液を塗布して乾燥し、所定厚さのダイボンドフィルム(接着剤層)3を形成する。その後、別の剥離ライナーの剥離処理面をダイボンドフィルム(接着剤層)3の上に貼り合わせる。塗布方法としては、特に限定されず、例えば、ダイコーター、コンマコーター(登録商標)、グラビアコーター、ロールコーター、リバースコーター等を用いて塗布することができる。また、乾燥条件としては、例えば、乾燥温度は60℃以上200℃以下の範囲内、乾燥時間は1分間以上90分間以下の範囲内で行うことが好ましい。なお、本発明では、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の両面あるいは片面に剥離ライナーを備えている積層体もダイボンドフィルム(接着剤層)3と称する場合がある。
【0192】
(ダイシングダイボンドフィルムの製造方法)
上記ダイシングダイボンドフィルム20の製造方法としては、特に限定されないが、従来公知の方法により製造することができる。例えば、上記ダイシングダイボンドフィルム20は、先ずダイシングテープ10およびダイボンドフィルム3を個別にそれぞれ準備し、次に、ダイシングテープ10の粘着剤層2およびダイボンドフィルム(接着剤層)3の剥離ライナーをそれぞれ剥離し、ダイシングテープ10の粘着剤層2とダイボンドフィルム(接着剤層)3を、例えば、ホットロールラミネーター等の圧着ロールにより圧着して貼り合わせればよい。貼り合わせ温度としては、特に限定されず、例えば10℃以上100℃以下の範囲であることが好ましく、貼り合わせ圧力(線圧)としては、例えば0.1kgf/cm以上100kgf/cm以下の範囲であることが好ましい。なお、本発明では、ダイシングダイボンドフィルム20は、粘着剤層2およびダイボンドフィルム(接着剤層)3の上に剥離ライナーが備えられた積層体もダイシングダイボンドフィルム20と称する場合がある。ダイシングダイボンドフィルム20において、粘着剤層2およびダイボンドフィルム(接着剤層)3の上に備えられた剥離ライナーは、ダイシングダイボンドフィルム20をワークに供する際に、剥離すればよい。
【0193】
上記ダイシングダイボンドフィルム20は、ロール状に巻かれた形態や、幅が広いシートが積層している形態であってもよい。また、これらの形態のダイシングテープ10を予め定められた大きさに切断して形成されたシート状またはテープ状の形態であってもよい。
【0194】
例えば、特開2011-159929号公報に開示されるように、剥離基材(剥離ライナー)上に半導体素子を構成するウエハの形状にプリカット加工した接着剤層(ダイボンドフィルム3)および粘着フィルム(ダイシングテープ10)を多数、島状に形成させたフィルムロール状の形態として製造することもできる。この場合、ダイシングテープ10は、ダイボンドフィルム(接着剤層)3よりも大径の円形に形成され、ダイボンドフィルム(接着剤層)3は、半導体ウエハ30よりも大径の円形に形成されている。このようなフィルムロール状の形態としてプリカット加工が施される際に、余分なダイシングテープ10を切れることなく連続的かつ良好に剥離除去するために、ダイシングテープ10が局所的に加熱およびまたは冷却処理される場合がある。ここで、加熱の温度は、適宜選択されるが、30℃以上120℃以下の範囲であることが好ましい。加熱時間は、適宜選択されるが、0.1秒以上10秒以下の範囲であることが好ましい。本発明のダイシングテープ10は、一定の耐熱性を有するため、仮に120℃の高温で加熱処理が施されても、その取扱いにおいて特に問題となることはない。
【0195】
<半導体チップの製造方法>
図6は、本実施の形態のダイシングテープ10の粘着剤層2の上にダイボンドフィルム(接着剤層)3が積層されたダイシングダイボンドフィルム20を使用したダイボンドフィルム付き半導体チップの製造方法について説明したフローチャートである。また、
図7は、ダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10の外縁部(粘着剤層2露出部)にリングフレーム(ウエハリング)40が、中心部のダイボンドフィルム(接着剤層)3上に個片化された半導体ウエハ(複数の半導体チップ)が貼り付けられた状態を示した概略図である。またさらに、
図8(a)~(f)は、レーザー光照射により複数の改質領域が形成された半導体ウエハの研削工程および複数の割断された半導体ウエハ(複数の半導体チップ)のダイシングダイボンドフィルム20への貼合工程の一例を示した断面図である。
図9(a)~(f)は、ダイシングダイボンドフィルム20上に貼合・保持された複数の割断された薄膜半導体ウエハから、個々のダイボンドフィル付き半導体チップを得るための、エキスパンド~ピックアップまでの一連の工程を含む製造方法の一例を示した断面図である。
【0196】
(ダイシングダイボンドフィルム20を使用した半導体チップの製造方法)
ダイシングダイボンドフィルム20を使用した半導体チップの製造方法は、特に限定されず、従来から公知の方法に依ればよいが、ここでは、SDBG(Stealth Dicing Before Griding)による製造方法を例に挙げて説明する。
【0197】
まず、
図8(a)に示すように、例えばシリコンを主成分とする半導体ウエハWの第一面Wa上に複数の集積回路(図示はしない)を搭載した半導体ウエハWを準備する(
図6のステップS201:準備工程)。そして、粘着面Taを有するウエハ加工用テープ(バックグラインドテープ)Tが半導体ウエハWの第1面Wa側に貼り合わされる。
【0198】
次いで、
図8(b)に示すように、ウエハ加工用テープTに半導体ウエハWが保持された状態で、ウエハ内部に集光点の合わせられたレーザー光がウエハ加工用テープTとは反対側、つまり半導体ウエハの第二面Wb側から半導体ウエハWに対して、その格子状のダイシング予定ラインXに沿って照射され、多光子吸収によるアブレーションに因って半導体ウエハW内に改質領域30bが形成される(
図6のステップS202:改質領域形成工程)。改質領域30bは、半導体ウエハWを研削工程により半導体チップ単位に割断・分離させるための脆弱化領域である。半導体ウエハWにおいてレーザー光照射によってダイシング予定ラインに沿って改質領域30bを形成する方法については、例えば、特許第3408805号公報、特開2002-192370号公報、特開2003-338567号公報等に開示されている方法を参照することができる。
【0199】
次いで、
図8(c)に示すように、ウエハ加工用テープTに半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWが予め定められた厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄膜化される。ここで、薄膜化される半導体ウエハ30の厚さは、半導体装置の薄型化の観点から、好ましくは100μm、より好ましくは10μm以上50μm以下の厚さに調節される。本研削・薄膜化工程において、薄膜化された半導体ウエハ30は、研削ホイールの研削負荷が加えられた際に、図
8(b)で形成された改質領域30bを起点として垂直方向に亀裂が成長し、ダイシング予定ラインXに対応した割断ライン30cに沿って、ウエハ加工用テープT上で複数の半導体チップ30aへと割断、個片化される。
【0200】
次いで、
図8(d)、(e)に示すように、ウエハ加工用テープTに保持された複数の半導体チップ30aが別途準備したダイシングダイボンドフィルム20のダイボンドフィルム3に対して貼り合わせられる(
図6のステップS204:貼合工程)。本工程においては、円形にカットしたダイシングダイボンドフィルム20の粘着剤層2およびダイボンドフィルム(接着剤層)3から剥離ライナーを剥離した後、図
7に示すように、ダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10の外縁部(粘着剤層2露出部)にリングフレーム(ウエハリング)40を貼り付けるとともに、ダイシングテープ10の粘着剤層2の上中央部に積層されたダイボンドフィルム(接着剤層)3の上に、ウエハ加工用テープTに保持された複数の半導体チップ30aを貼り付ける。この後、
図8(f)に示すように、薄膜の複数の半導体チップ30aからウエハ加工用テープTが剥がされる。貼り付けは、圧着ロール等の押圧手段により押圧しながら行う。貼り付け温度は、特に限定されず、例えば、20℃以上130℃以下の範囲であることが好ましく、半導体チップ30aの反りを小さくする観点からは、40℃以上100℃以下の範囲であることがより好ましい。貼り付け圧力は、特に限定されず、0.1MPa以上10.0MPa以下の範囲であることが好ましい。本発明のダイシングテープ10は、一定の耐熱性を有するため、貼り付け温度が高温であっても、その取扱いにおいて特に問題となることはない。
【0201】
続いて、ダイシングダイボンドフィルム20におけるダイシングテープ10の粘着剤層2上にリングフレーム40が貼り付けられた後、
図9(a)に示すように、複数の半導体チップ30aを伴う当該ダイシングダイボンドフィルム20がエキスパンド装置の保持具41に固定される。
図9(b)に示すように、割断ライン30cで割断された薄膜の半導体ウエハ30(複数の半導体チップ30a)は、複数のダイボンドフィルム付き半導体チップ30aとして個片化可能なように、その下面側に、次工程でダイシング予定ラインXに沿って割断されることになるダイボンドフィルム3が貼り付けられている。
【0202】
次いで、相対的に低温(例えば、-30℃~0℃)の条件下での第1のエキスパンド工程、すなわち、クールエキスパンド工程が、
図9(c)に示すように行われ、ダイシングダイボンドフィルム20のダイボンドフィルム(接着剤層)3が半導体チップ30aの大きさに対応した小片のダイボンドフィルム(接着剤層)3aに割断されて、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aが得られる(
図6のステップS205:クールエキスパンド工程)。本工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材(図示しない)が、ダイシングダイボンドフィルム20の下側においてダイシングテープ10に当接して上昇され、個片化された半導体ウエハ30(複数の半導体チップ30a)が貼り合わされたダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10が、半導体ウエハ30の径方向および周方向を含む二次元方向に引き伸ばされるようにエキスパンドされる。クールエキスパンドによりダイシングテープ10の全方向への引張により生じた内部応力は、個片化された半導体ウエハ30(複数の半導体チップ30a)に貼り付けられたダイボンドフィルム3に外部応力として伝達される。この外部応力により、低温で脆性化されたダイボンドフィルム3は、半導体チップ30aと同じサイズの小片のダイボンドフィルム3aへと割断されて、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aが得られる。
【0203】
上記クールエキスパンド工程における温度条件は、例えば、-30℃以上0℃以下であり、好ましくは-20℃以上-5℃以下の範囲であり、より好ましくは-15℃以上-5℃以下の範囲であり、特に好ましくは-15℃である。上記クールエキスパンド工程におけるエキスパンド速度(中空円柱状の突き上げ部材が上昇する速度)は、好ましくは0.1mm/秒以上1000mm/秒以下の範囲であり、より好ましくは10mm/秒以上300mm/秒以下の範囲である。また、上記クールエキスパンド工程におけるエキスパンド量(中空円柱状の突き上げ部材の突き上げ高さ)は、好ましくは3mm以上16mm以下の範囲である。
【0204】
ここで、本発明のダイシングテープ10は、まず、その基材フィルム1の0℃における5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2が165MPa以上260MPa以下の適正な範囲に調整されているので、ダイシングテープ10の全方向へのクールエキスパンドにより生じた内部応力は、特定の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有して成る粘着剤層2上に密着しているダイボンドフィルム3に外部応力として効率的に伝達され、その結果、ダイボンドフィルム3が綺麗に歩留まり良く割断される。さらに、本発明のダイシングテープ10は、その粘着剤層2が特定の水酸基価を有するアクリル系粘着性ポリマーと特定量のポリイソシアネート系架橋剤を主成分とする粘着剤組成物から構成され、該ポリイソシアネート系架橋剤のイソシアネート基(-NCO)と該アクリル系粘着性ポリマーの水酸基価(-OH)の当量比(-NCO)/(―OH)を0.14以上1.32以下に制御されているので、架橋反応後の粘着剤層2に、ダイボンドフィルム3が割断された瞬間にダイボンドフィルムのエッジ部とその直下の粘着剤層2との界面に適度な衝撃を伝えることができる硬さ、およびダイボンドフィルム3から離れる方向の応力を伝えることができる凝集力が付与されるとともに、ダイボンドフィルム3に対する適度な初期密着力も付与される。その結果、クールエキスパンドにより割断された、半導体チップ30aを保持している小片のダイボンドフィルム3a(接着剤層)において、そのエッジ部分(四方周囲部分)のダイシングテープ10の粘着剤層2からの適度な剥がれが促進され、ダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態が適度に形成されるのである。また、この場合、上記ダイボンドフィルム3および粘着剤層2に与えられる応力、ならびにダイボンドフィルム3に対する初期密着力は適度に抑制されているので、割断されたダイボンドフィムは粘着剤層2から過度に剥離することはなく、カーフ幅を十分に確保でき、半導体チップ同士の衝突による損傷及び粘着剤層2上の固定位置からのずれ等を回避することもできる。
【0205】
なお、
図9(c)においては、便宜上、半導体チップ30aを保持している小片のダイボンドフィルム3a(接着剤層)のエッジ部分は、ダイシングテープ10の粘着剤層2に密着しているように図示されているが、実際には
図10の拡大断面図に示すように、半導体チップ30aを保持している小片のダイボンドフィルム3a(接着剤層)のエッジ部分は、ダイシングテープ10の粘着剤層2から適度に剥離しており、ダイボンドフィルム3a(接着剤層)の中央部分は、ダイシングテープ10の粘着剤層2に密着している。
【0206】
上記クールエキスパンド工程の後、エキスパンド装置の中空円柱形状の突き上げ部材が下降されて、ダイシングテープ10におけるエキスパンド状態が解除される。
【0207】
次いで、相対的に高温(例えば、10℃~30℃)の条件下での第2のエキスパンド工程、すなわち、常温エキスパンド工程が、
図9(d)に示すように行われ、ダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30a間の距離(カーフ幅)が広げられる。本工程では、エキスパンド装置の備える円柱状のテーブル(図示しない)が、ダイシングダイボンドフィルム20の下側においてダイシングテープ10に当接して上昇され、ダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10がエキスパンドされる(
図6のステップS206:常温エキスパンド工程)。常温エキスパンド工程によりダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30a間の距離(カーフ幅)を十分に確保することにより、CCDカメラ等による半導体チップ30aの認識性を高めるとともに、ピックアップの際に隣接する半導体チップ30a同士が接触することによって生じるダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30a同士の再接着を防止することができる。その結果、後述するピックアップ工程において、ダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aのピックアップ性が向上する。
【0208】
なお、
図9(d)においても、便宜上、半導体チップ30aを保持している小片のダイボンドフィルム3a(接着剤層)のエッジ部分は、ダイシングテープ10の粘着剤層2に密着しているように図示されているが、実際には
図10の拡大断面図に示すように、半導体チップ30aを保持している小片のダイボンドフィルム3a(接着剤層)のエッジ部分は、ダイシングテープ10の粘着剤層2から適度に剥離しており、ダイボンドフィルム3a(接着剤層)の中央部分は、ダイシングテープ10の粘着剤層2に密着している。常温エキスパンド時においては、クールエキスパンド時に比して、環境温度が高い分、ダイボンドフィルム3a(接着剤層)と粘着剤層2が密着している部分の密着力は高く、また、ダイシングテープ10の発生引張応力を抑制しつつエキスパンドを行うことが可能である。したがって、常温エキスパンド工程により、
図9(c)のクールエキスパンド後のダイボンドフィルム3aの剥離状態からわずかに剥離が進行する場合もあるが、過度に剥離が進行することはない。
【0209】
上記常温エキスパンド工程における温度条件は、例えば10℃以上であり、好ましくは15℃以上30℃以下の範囲である。常温エキスパンド工程におけるエキスパンド速度(円柱状のテーブルが上昇する速度)は、例えば0.1mm/秒以上50mm/秒以下の範囲であり、好ましくは0.3mm/秒以上30mm/秒以下の範囲である。また、常温エキスパンド工程におけるエキスパンド量は、例えば3mm以上20mm以下の範囲である。
【0210】
テーブルの上昇によってダイシングテープ10が常温エキスパンドされた後、テーブルはダイシングテープ10を真空吸着する。そして、テーブルによるその吸着を維持した状態で、テーブルがワークを伴って下降されて、ダイシングテープ10におけるエキスパンド状態が解除される。エキスパンド状態解除後にダイシングテープ10上のダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aのカーフ幅が狭まることを抑制するうえでは、ダイシングテープ10がテーブルに真空吸着された状態で、ダイシングテープ10における半導体チップ30a保持領域より外側の円周部分を熱風吹付により加熱収縮(ヒ-トシュリンク)させて、エキスパンドで生じたダイシングテープ10の弛みを解消することで緊張状態を保つことが好ましい。上記加熱収縮後、テーブルによる真空吸着状態が解除される。上記熱風の温度は、基材フィルム1の物性と、熱風吹き出し口とダイシングテープ10との距離、および風量等に応じて調整すれば良いが、例えば200℃以上250℃以下の範囲が好ましい。また、熱風吹き出し口とダイシングテープ10との距離は、例えば15mm以上25mm以下の範囲であることが好ましい。また、風量は、例えば35L/分以上45L/分以下の範囲が好ましい。なお、ヒートシュリンク工程を行う際、エキスパンド装置のステージを、例えば3°/秒以上10°/秒以下の範囲の回転速度で回転させながら、ダイシングテープ10の半導体チップ30a保持領域より外側の円周部分に沿って熱風吹付を行う。
【0211】
本発明のダイシングテープ10は、その基材フィルム1として、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)およびポリアミド樹脂(PA)とを含有した樹脂組成物から構成される樹脂フィルムを好適に用いているので、金属イオンにより架橋されたアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)に起因してエキスパンド後の歪に対する加熱時の復元力が十分に大きい、すなわち熱収縮性が大きいものとなっている。そのため、上記ヒートシュリンク工程において、エキスパンドで生じたダイシングテープ10の弛み部分(円周部分)に高温の熱風を吹き付けた際に、ダイシングテープ10の円周部分を問題なく加熱収縮させて弛みを解消できるので、常温エキスパンドで広げたカーフ幅をダイシングテープ10の緊張状態により維持することができる。
【0212】
図11は、上記クールエキスパンド工程~シュリンク工程まで経た後に、小片ダイボンドフィルム3aのエッジ部分がダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態を半導体チップ30aの裏面側(基材フィルム側)から顕微鏡により観察した際の拡大平面図である。小片のダイボンドフィルム3aの粘着剤層2から剥離したエッジ部分の面積は、本発明の効果を損なわない範囲において、特に限定されないが、例えば、
図11に示した半導体チップ30aの裏面側(基材フィルム側)から観察された粘着剤層2上に保持される一つの小片のダイボンドフィルム3aの状態9(
図10の9部分に相当)において、粘着剤層2から剥離した小片のダイボンドフィルム3aのエッジ部分(斜線部)の面積をS1、小片のダイボンドフィルム3aの粘着剤層2に密着している部分(白部)の面積をS2とした時に、粘着剤層2から剥離した小片のダイボンドフィルム3aのエッジ部分の面積S1の割合が、小片のダイボンドフィルム3a全体の面積(=S1+S2)に対して、10%以上45%以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは、15%以上40%以下の範囲である。
【0213】
上記面積S1の割合が10%未満である場合、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aの粘着剤層2からの剥離に要するトータルの力において、有酸素下紫外線照射後粘着力Aの低減効果、すなわち、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aのエッジ部分の剥離に要する力を低減する効果を十分に反映できないおそれがある。その結果、後述するピックアップ時にダイシングテープ10の下面側から突き上げ治具を用いて突き上げた際に、エッジ部分からの剥離のきっかけを作り難いので、従来に比して、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aのピックアップ性向上の効果がほとんど認められない、あるいはその効果がわずかに留まるおそれがある。
【0214】
上記面積S1の割合が45%を超える場合、すなわち、クールエキスパンド工程において、ダイボンドフィム3が粘着剤層2から過度に剥離すると、ダイボンドフィルム3に粘着剤層2を介して十分な外部応力が与えることができずに、ダイボンドフィルム3を綺麗に割断できないおそれや、カーフ幅を十分に確保できない、あるいはカーフ幅がばらつくおそれがある。また、以後の製造工程において意図せずダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aが位置ずれ、あるいは離脱するおそれがある。さらに、後述のピックアップ工程において、過度に剥離したダイボンドフィルムが粘着剤層2に再固着した際にはその再固着面積が過度に大きくなるため、粘着剤層2が本発明の要件を満たす活性エネルギー線硬化性の粘着剤組成物から構成されていたとしても、ダイシングテープ10の下面側からの治具突き上げによって剥離するためには、その大きな再固着面積の増大に応じた大きなエネルギーを要するおそれがある。その結果、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aのピックアップ歩留まりが低下する。
【0215】
上記面積S1は、言い換えると、エキスパンドにより剥離したダイボンドフィルム3aのエッジ部分と、空気中に暴露された有酸素下状態で紫外線照射された粘着剤層2とが、次工程のピックアップ工程において、ダイシングテープ10の下面側から突き上げ治具を用いて突き上げる前に、吸着コレットの接触・着地により瞬間的に再固着する面積である。したがって、上記面積S1の割合が10%以上40%以下の範囲である場合、有酸素下紫外線照射後粘着力Aが3.50N/25mmに調整された粘着剤層2を適用することにより、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aのエッジ部分の剥離に要する力の低減機能を最も効果的に発現させることが容易となる。一方で、小片のダイボンドフィルム3a全体の面積に対する割合が55%以上90%以下の範囲であるダイボンドフィルム3aの粘着剤層2に密着している上記面積S2の部分においては、粘着剤層2の無酸素下紫外線照射後粘着力Bが0.25N/25mm以上0.70N/25mm以下に調整されているので、ダイボンドフィルム3aのエッジ部分の剥離に引き続く中心部へ向けての、粘着剤層2からのダイボンドフィルム3aの剥離が進展しやすくなっている。次工程のピックアップ工程において、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aを粘着剤層2から剥離するのに要する総エネルギーは、上述した面積S1の部分と面積S2の部分におけるそれぞれの剥離力低減効果の総和であり、本実施の形態のダイシングテープ10は、上記の面積S1と面積S2の割合のバランスにおいて、この総エネルギーを従来に比して、小さくすることが容易となるのである。
【0216】
上記面積S1および面積S2の割合を求める方法は、特に限定されず、従来公知の方法に依り求めることができる。例えば、割断された小片ダイボンドフィルム3aのエッジ部分がダイシングテープ10の粘着剤層2から部分的に剥離された状態を半導体チップの裏面側(基材フィルム側)から顕微鏡観察した際の画像を、画像処理ソフト等を使用して上記面積S1に該当する部分と上記面積S2に該当する部分とを2値化し、それぞれの面積の割合を求める方法や、画像を紙等に印刷し、それぞれ部分をその形に沿って切り出して質量を測定し、その質量比率からそれぞれの面積の割合を求める方法等が挙げられる。
【0217】
続いて、ダイシングテープ10に対して、基材フィルム1側から活性エネルギー線を照射することにより、粘着剤層2を硬化・収縮させ、粘着剤層2のダイボンドフィルム3aに対する粘着力を低下させる(
図6のステップS207:活性エネルギー線照射工程)。ここで、上記後照射に用いる活性エネルギー線としては、紫外線、可視光線、赤外線、電子線、β線、γ線等が挙げられる。これらの活性エネルギー線の中でも、紫外線(UV)および電子線(EB)が好ましく、特に紫外線(UV)が好ましく用いられる。上記紫外線(UV)を照射するための光源としては、特に限定されないが、例えば、ブラックライト、紫外線蛍光灯、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることができる。また、ArFエキシマレーザ、KrFエキシマレーザ、エキシマランプまたはシンクロトロン放射光等も用いることができる。上記紫外線(UV)の照射光量は、特に限定されず、例えば100mJ/cm
2以上2,000J/cm
2以下の範囲であることが好ましく、150mJ/cm
2以上1,000J/cm
2以下の範囲であることがより好ましい。
【0218】
ここで、本発明のダイシングテープ10は、上述したように、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合を有するアクリル系粘着性ポリマーを含む活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有して成る粘着剤層2に対して、有酸素下および無酸素下で積算光量が150mJ/cm2となるように紫外線が照射された場合に、23℃におけるステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対する有酸素下紫外線照射後粘着力A(剥離角度:90°、剥離速度:300mm/分)が3.50N/25mm以下の範囲、23℃におけるステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対する無酸素下紫外線照射後粘着力B(剥離角度:90°、剥離速度:300mm/分)が0.25N/25mm以上0.70N/25mm以下の範囲となるように、粘着剤層2の架橋反応による硬化状態が調整されているので、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aを粘着剤層2から剥離する際に要する力を従来に比して小さくすることができる。その結果、後述するピックアップ工程において、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aのピックアップ性が良好となる。この場合、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度としては、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たり0.85meq以上1.50meq以下の範囲内の値に調整されていることが好適である。
【0219】
続いて、個片化されたそれぞれのダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aを、ダイシングテープ10の紫外線(UV)照射後の粘着剤層2から剥がし取る所謂ピックアップを行う(
図6のステップS208:剥離(ピックアップ)工程)。
【0220】
上記ピックアップの方法としては、例えば、
図9(e)に示すように、半導体チップ30aの表面に吸着コレット50が接触・着地されたダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aをダイシングテープ10の基材フィルム1の第2面を突き上げピン(ニードル)60によって突き上げることにより、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aのエッジ部からの剥離を促進するとともに、
図9(f)に示すように、突き上げられたダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aを、ピックアップ装置(図示せず)の吸着コレット50により吸引して持ち上げることにより、ダイシングテープ10の粘着剤層2から剥がし取る方法等が挙げられる。これにより、ダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aが得られる。
【0221】
ピックアップ条件としては、実用上、許容できる範囲であれば特に限定されず、通常は、突き上げピン(ニードル)60の突き上げ速度は、1mm/秒以上100mm/秒以下の範囲内で設定されることが多いが、半導体チップ30aの厚さ(半導体ウエハの厚さ)が100μmと薄い場合には、薄膜の半導体チップ30aの損傷抑制の観点から、1mm/秒以上20mm/秒以下の範囲内で設定することが好ましい。生産性を加味した観点からは、5mm/秒以上20mm/秒以下の範囲内で設定できることがより好ましい。
【0222】
また、半導体チップ30aが損傷せずにピックアップが可能となる突き上げピンの突き上げ高さは、例えば、上記と同様の観点から、100μm以上600μm以下の範囲内で設定できることが好ましく、半導体薄膜チップに対する応力軽減の観点から、100μm以上450μm以下の範囲内で設定できることがより好ましい。生産性を加味した観点からは、100μm以上350μm以下の範囲内で設定できることがとりわけ好ましい。このような突き上げ高さをより小さくできるダイシングテープはピックアップ性に優れていると言える。
【0223】
以上、説明したように、基材フィルム1と、粘着剤層2とから構成される本発明のダイシングテープ10は、半導体製造工程において、ダイシングテープ10の粘着剤層2の上にダイボンドフィルム(接着剤層)3が剥離可能に密着、積層されたダイシングダイボンドフィルム20の形として使用した場合、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムのような流動性が高く、厚さが厚いダイボンドフィルムを貼合して適用する場合であっても、クールエキスパンドによりダイボンドフィルム3が良好に割断されると共に、割断後のダイボンドフィルム3aにおいて、そのエッジ部分がダイシングテープ10の粘着剤層2から適度に剥離した状態が形成され、割断された個々のダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aのダイボンドフィルム3aの剥離した状態のエッジ部分が、紫外線照射後の粘着剤層2に、ダイシングテープの下面側からの治具突き上げおよび吸着コレットによる吸引・持ち上げによっても容易に剥離できない程度にまで強く再固着する現象が大幅に抑制され、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aをダイシングテープ10の紫外線照射後の粘着剤層2から良好にピックアップすることできる。
【0224】
なお、
図9(a)~(f)で説明した製造方法は、ダイシングダイボンドフィルム20を用いた半導体チップ30aの製造方法の一例(SDBG)であり、ダイシングテープ10をダイシングダイボンドフィルム20の形として使用する方法は、上記の方法に限定されない。すなわち
、ダイシングダイボンドフィルム20は、ダイシングに際して、半導体ウエハ30に貼り付けられるものであれば、上記の方法に限定されることなく使用することができる。
【0225】
中でも、本発明のダイシングテープ10は、DBG、ステルスダイシング、SDBG等といった薄膜半導体チップを得るための製造方法において、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムと一体化してダイシングダイボンドフィルム20として用いるためのダイシングテープとして好適である。もちろん、汎用ダイボンドフィルムと一体化して用いることも可能である。
【0226】
<半導体装置の製造方法>
本実施の形態が適用されるダイシングテープ10とダイボンドフィルム3とを一体化したダイシングダイボンドフィルム20を用いて製造された半導体チップが搭載された半導体装置について、以下、具体的に説明する。
【0227】
半導体装置(半導体パッケージ)は、例えば、上述のダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aを半導体チップ搭載用支持部材または半導体チップに加熱圧着して接着させ、その後、ワイヤボンディング工程と封止材による封止工程等の工程を経ることにより得ることができる。
【0228】
図12は、本実施の形態が適用されるダイシングテープ10とワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム3とを一体化したダイシングダイボンドフィルム20を用いて製造された半導体チップが搭載された積層構成の半導体装置の一態様の模式断面図である。
図12に示す半導体装置70は、半導体チップ搭載用支持基板71と、硬化されたダイボンドフィルム(接着剤層)3a1、3a2と、一段目の半導体チップ30a1と、二段目の半導体チップ30a2と、封止材75とを備えている。半導体チップ搭載用支持基板71、硬化されたダイボンドフィルム3a1および半導体チップ30a1は、半導体チップ30a2の支持部材76を構成している。
【0229】
半導体チップ搭載用支持基板71の一方の面には、外部接続端子72が複数配置されており、半導体チップ搭載用支持基板71の他方の面には、端子73が複数配置されている。半導体チップ搭載用支持基板71は、半導体チップ30a1および半導体チップ30a2の接続端子(図示せず)と、外部接続端子72とを電気的に接続するためのワイヤ74を有している。半導体チップ30a1は、硬化されたダイボンドフィルム3a1により半導体チップ搭載用支持基板71に外部接続端子72に由来する凹凸を埋め込むような形で接着されている。半導体チップ30a2は、硬化されたダイボンドフィルム3a2により半導体チップ30a1に接着されている。半導体チップ30a1、半導体チップ30a2およびワイヤ74は、封止材75によって封止されている。このようにワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム3aは、半導体チップ30aを複数重ねる積層構成の半導体装置に好適に使用される。
【0230】
また、
図13は、本実施の形態が適用されるダイシングテープ10と汎用ダイボンドフィルム3とを一体化したダイシングダイボンドフィルム20を用いて製造された半導体チップが搭載された他の半導体装置の一態様の模式断面図である。
図13に示す半導体装置80は、半導体チップ搭載用支持基板81と、硬化されたダイボンドフィルム3aと、半導体チップ30aと、封止材85とを備えている。半導体チップ搭載用支持基板81は、半導体チップ30aの支持部材であり、半導体チップ30aの接続端子(図示せず)と半導
体チップ搭載用支持基板81の主面に配置された外部接続端子(図示せず)とを電気的に接続するためのワイヤ84を有している。半導体チップ30aは、硬化されたダイボンドフィルム3aにより半導体チップ搭載用支持基板81に接着されている。半導体チップ30aおよびワイヤ7は、封止材85によって封止されている。
【実施例0231】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0232】
1.基材フィルム1の作製
基材フィルム1(a)~1(k)を作製するための材料として下記の樹脂をそれぞれ準備した。
【0233】
(エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A))
・樹脂(IO1)
エチレン/メタクリル酸/アクリル酸2-メチル-プロピル=80/10/10の質量比率から成る三元共重合体、Zn2+イオンによる中和度:60モル%、融点:86℃、MFR:1g/10分(190℃/2.16kg荷重)、密度:0.96g/cm3
・樹脂(IO2)
エチレン/メタクリル酸/アクリル酸2-メチル-プロピル=80/10/10の質量比率から成る三元共重合体、Zn2+イオンによる中和度:70モル%、融点:87℃、MFR:1g/10分(190℃/2.16kg荷重)、密度:0.96g/cm3
【0234】
(ポリアミド樹脂(B))
・樹脂(PA1)
ナイロン6、融点:225℃、密度:1.13g/cm3
【0235】
(その他樹脂(C))
・樹脂(TPO)
熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー(エチレン-α-オレフィンランダム共重合体)
・樹脂(POPE)
ポリオレフィン-ポリエーテルブロック共重合体(高分子型帯電防止剤)、融点:115℃、MFR:15g/10分(190℃/2.16kg荷重)
・樹脂(PP)
ランダム共重合ポリプロピレン、融点138℃
・樹脂(EVA)
エチレン-酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル含有量20質量%、融点82℃、密度:0.94g/cm3
【0236】
(基材フィルム1(a))
アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)として(IO1)、ポリアミド樹脂(B)として(PA1)を準備した。まず、上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=95:5の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(a)用樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、1種(同一樹脂)3層Tダイフィルム成形機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度240℃の条件で成形し、同一樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(a)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=20μm/50μm/20μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=95:5である。
【0237】
(基材フィルム1(b))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=90:10の質量比率でドライブレンドしたこと以外は、基材フィルム1(a)と同様にして、同一樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(b)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=20μm/50μm/20μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=90:10である。
【0238】
(基材フィルム1(c))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=85:15の質量比率でドライブレンドしたこと以外は、基材フィルム1(a)と同様にして、同一樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(c)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=20μm/50μm/20μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=85:15である。
【0239】
(基材フィルム1(d))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=80:20の質量比率でドライブレンドしたこと以外は、基材フィルム1(a)と同様にして、同一樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(d)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=20μm/50μm/20μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=80:20である。
【0240】
(基材フィルム1(e))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=72:28の質量比率でドライブレンドしたこと以外は、基材フィルム1(a)と同様にして、同一樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(e)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=20μm/50μm/20μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=72:28である。
【0241】
(基材フィルム1(f))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)として(IO1)、ポリアミド樹脂(B)として(PA1)、その他樹脂(C)として熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー(エチレン-α-オレフィンランダム共重合体)(TPO)およびポリオレフィン-ポリエーテルブロック共重合体(POPE)を準備した。まず、第1層、第2層用の樹脂として、上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=90:10の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(g)の第1層、第2層用の樹脂組成物を得た。また、第3層用の樹脂として、アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)=(IO1)、ポリアミド樹脂(B)=(PA1)、熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー(TPO)、ポリオレフィン-ポリエーテルブロック共重合体(POPE)をそれぞれ76:8:8:8の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(f)の第3層用の樹脂組成物を得た。それぞれの樹脂組成物および樹脂を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度240℃の条件で成形し、2種類の樹脂組成物による3層構成の厚さ80μmの基材フィルム1(f)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=30μm/30μm/20μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=90:10である。また、層全体における樹脂(A)と樹脂(B)の合計量の含有割合は95質量%である。
【0242】
(基材フィルム1(g))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)として(IO1)、ポリアミド樹脂(B)として(PA1)、その他樹脂(C)として熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー(エチレン-α-オレフィンランダム共重合体)(TPO)を準備した。まず、第1層、第3層用の樹脂として、上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=85:15の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(g)の第1層、第3層用の樹脂組成物を得た。また、第2層用の樹脂として、上記熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー(エチレン-α-オレフィンランダム共重合体)=(TPO)を単独で用いた。それぞれの樹脂組成物および樹脂を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度240℃の条件で成形し、2種類の樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(g)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=85:15である。また、層全体における樹脂(A)と樹脂(B)の合計量の含有割合は67質量%である。
【0243】
(基材フィルム1(h))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)として(IO1)および(IO2)、ポリアミド樹脂(B)として(PA1)を準備した。まず、第1層、第3層用の樹脂として、上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=90:10の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(h)の第1層、第3層用の樹脂組成物を得た。また、第2層用の樹脂として、上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)として(IO2)を単独で用いた。それぞれの樹脂組成物および樹脂を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度240℃の条件で成形し、2種類の樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(g)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=93:7である。
【0244】
(基材フィルム1(i))
アイオノマーからなる樹脂(A)として(IO1)を準備した。ポリアミド樹脂(B)=(PA1)をドライブレンドしなかったこと以外は、基材フィルム1(a)と同様にして、同一樹脂組成物(アイオノマーからなる樹脂(A)のみ)による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(i)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=20μm/50μm/20μmとした。
【0245】
(基材フィルム1(j))
基材フィルム1の各層の厚さを、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=20μm/50μm/20μmとしたこと以外は、基材フィルム1(g)と同様にして、2種類の樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(j)を作製した。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=90:10である。また、層全体における樹脂(A)と樹脂(B)の合計量の含有割合は44質量%である。
【0246】
(基材フィルム1(k))
その他樹脂(C)として、(PP)および(EVA)を準備した。第1層および第3層用の樹脂として(PP)を、第2層用の樹脂として(EVA)を用い、それぞれの樹脂を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度150℃の条件で成形し、2種類の樹脂組成物による3層構成の厚さ80μmの基材フィルム1(k)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層に接する面側)/第2層/第3層=8μm/64μm/8μmとした。
【0247】
[基材フィルムの5%伸長時弾性率]
基材フィルム1の0℃におけるMD方向の5%伸長時弾性率YMDおよびTD方向の5%伸長時弾性率YTDは、以下の方法で測定した。まず、MD方向測定用の試料(試料数N=5)として長さ100mm(MD方向)、幅10mm(TD方向)の形状の試験片、TD方向測定用の試料(試料数N=5)として長さ100mm(TD方向)、幅10mm(MD方向)の形状の試験片をそれぞれ用意した。続いて、ミネベアミツミ株式会社製の引張圧縮試験機(型式:MinebeaTechnoGraph TG-5kN)を用いて、試験片の長手方向の両端をチャック間初期距離20mmとなるようにチャックで固定し、試験片をミネベアミツミ株式会社製の恒温槽(型式:THB-A13-038)内で0℃にて1分間置いた後に、100mm/分の速度で引張試験を行い、引張荷重-伸長曲線を測定した。そして、得られた引張荷重-伸長曲線から、原点(伸張開始点)と、原点から1.0mm伸長(チャック間初期距離20mmに対して5%伸長)した時に対応する曲線上の引張荷重値(単位:N)の点とを結んだ直線の傾きを算出して、上述した式により5%伸長時弾性率Y(単位:MPa)を求めた。それぞれの方向について試料数N=5にて測定を行い、その平均値をそれぞれMD方向の5%伸長時弾性率YMDおよびTD方向の5%伸長時弾性率YTDとした。それらの値を用いて上記で製膜した基材フィルム1の0℃における5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2を算出した。
【0248】
実施例および比較例のダイシングテープ10の基材フィルム1として用いる基材フィルム1(a)~1(k)の0℃における5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2は、それぞれ表1~9に示す通りである。
【0249】
2.粘着剤組成物の溶液の調製
ダイシングテープ10の粘着剤層2用の粘着剤組成物として、下記の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)~2(u)の溶液を調製した。
なお、これら粘着剤組成物のベースポリマー(アクリル酸エステル共重合体)を構成する共重合モノマー成分として、
・アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA、分子量:184.3、Tg:-70℃)、
・アクリル酸-2ヒドロキシエチル(2-HEA、分子量:116.12、Tg:-15℃)、
・メタクリル酸(MAA、分子量:86.06:Tg:228℃)、
を準備した。
【0250】
また、ポリイソシアネート系架橋剤として、東ソー株式会社製の
・TDI系のポリイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートL-45E、固形分濃度:45質量%、溶液中のイソシアネート基含有量:8.05質量%、固形分中のイソシアネート基含有量:17.89質量%、計算上のイソシアネート基の数:平均2.8個/1分子、理論上分子量:656.64)、
・HDI系のポリイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートHL、固形分濃度:75質量%、溶液中のイソシアネート基含有量:12.8質量%、固形分中のイソシアネート基含有量:17.07質量%、計算上のイソシアネート基の数:平均2.6個/1分子、理論上分子量:638.75)、
を準備した。
【0251】
(活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)の溶液)
共重合モノマー成分として、アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA)、アクリル酸-2ヒドロキシエチル(2-HEA)、メタクリル酸メチル(MMA)を準備した。これらの共重合モノマー成分を、2-EHA/2-HEA/MMA=81.5質量部/17.5質量部/1.0質量部(=442.21mmol/150.71mmol/11.62mmol)の共重合比率となるように混合し、溶媒として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用い溶液ラジカル重合により、水酸基を有するベースポリマー(アクリル酸エステル共重合体)の溶液を合成した。得られたベースポリマーのFoxの式より算出したTgは-61℃である。
【0252】
次に、このベースポリマーの固形分100質量部に対し、昭和電工株式会社製の活性エネルギー線反応性化合物として、昭和電工株式会社製のイソシアネート基と活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合とを有する2-イソシアネートエチルメタクリレート(商品名:カレンズMOI、分子量:155.15、イソシアネート基:1個/1分子、二重結合基:1個/1分子)19.2質量部(123.75mmol:2-HEAに対して82.11mol%)を配合し、2-HEAの水酸基の一部と反応させて、炭素-炭素二重結合を側鎖に有するアクリル系粘着性ポリマー(A)の溶液(固形分濃度:50質量%、重量平均分子量Mw:33万、固形分水酸基価:12.7mgKOH/g、固形分酸価:5.5mgKOH/g、炭素-炭素二重結合含有量:1.04meq/g)を合成した。なお、上記の反応にあたっては、炭素-炭素二重結合の反応性を維持するための重合禁止剤としてヒドロキノン・モノメチルエーテルを0.05質量部用いた。
【0253】
続いて、上記で合成したアクリル系粘着性ポリマー(A)の溶液200質量部(固形分換算100質量部)に対して、IGM Resins B.V.社製のα-ヒドロキシアルキルフェノン系光重合開始剤(商品名:Omnirad184)を4.0質量部、IGM Resins B.V.社製のベンジルメチルケタール系光重合開始剤(商品名:Omnirad651)を0.8質量部、IGM Resins B.V.社製のα-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(商品名:Omnirad379EG)を1.0質量部、IGM Resins B.V.社製のアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(商品名:Omnirad819)を0.4質量部、架橋剤として東ソー株式会社製のHDI系のポリイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートHL、固形分濃度:75質量%)を5.5質量部(固形分換算4.1質量部、7.65mmol)の比率で配合し、酢酸エチルにて希釈、撹拌して、固形分濃度22質量%の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)の溶液を調製した。表1に示したように、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)における、ポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)は0.74、残存水酸基濃度は0.06mmol/g、炭素-炭素二重結合濃度は1.00meq/gであった。
【0254】
(活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)~2(u)の溶液)
アクリル系粘着性ポリマー(A)に対して、それぞれ表4、5、9に示したように共重合モノマー成分の共重合比率、活性エネルギー線反応性化合物の配合量、および共重合モノマー成分を適宜変更し、アクリル系粘着性ポリマー(B)~(G)の溶液をそれぞれ合成した。合成したアクリル系粘着性ポリマー(B)~(G)における、ベースポリマーのTg、重量平均分子量Mw、酸価および水酸基価は、それぞれ表4、5、9に示す通りである。続いて、これらのアクリル系粘着性ポリマーの溶液を用いて、アクリル系粘着性ポリマー(A)~(G)の固形分換算100質量部に対して、それぞれ表3~6、8、9に示したように光重合開始剤およびポリイソシアネート系架橋剤を適宜配合して、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)~2(u)の溶液を調製した。活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)~2(u)における、ポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)、残存水酸基濃度および炭素-炭素二重結合濃度は、それぞれ表3~6、8、9に示す通りである。
【0255】
3.接着剤組成物の溶液の調製
ダイシングダイボンドフィルム20のダイボンドフィルム(接着剤層)3用の接着剤組成物として、下記の接着剤組成物3(a)~3(d)の溶液を調製した。
【0256】
(接着剤組成物3(a)の溶液)
ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用として、以下の接着剤組成物溶液3(a)の溶液を調製、準備した。まず、熱硬化性樹脂として株式会社プリンテック製のビスフェノール型エポキシ樹脂(商品名:R2710、エポキシ当量:170、分子量:340、常温で液状)26質量部、東都化成株式会社製のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:YDCN-700-10、エポキシ当量210、軟化点80℃)36質量部、架橋剤として三井化学株式会社製のフェノール樹脂(商品名:ミレックスXLC-LL、水酸基当量:175、軟化点:77℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:4質量%)1質量部、エア・ウォーター株式会社製のフェノール樹脂(商品名:HE200C-10、水酸基当量:200、軟化点:71℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:4質量%)25質量部、エア・ウォーター株式会社製のフェノール樹脂(商品名:HE910-10、水酸基当量:101、軟化点:83℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:3質量%)12質量部、無機フィラーとしてアドマテックス株式会社製のシリカフィラー分散液(商品名:SC2050-HLG、平均粒子径:0.50μm)15質量部、アドマテックス株式会社製のシリカフィラー分散液(商品名:SC1030-HJA、平均粒子径:0.25μm)14質量部、日本アエロジル株式会社製のシリカ(商品名:アエロジルR972、平均粒子径:0.016μm)1質量部、からなる樹脂組成物に、溶媒としてシクロヘキサノンを加えて撹拌混合し、更にビーズミルを用いて90分間分散した。
【0257】
次いで、上記樹脂組成物に、熱可塑性樹脂として重量平均分子量Mwが低いグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体37質量部、重量平均分子量Mwが高いグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体9質量部、シランカップリング剤としてGE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-1160)0.7質量部、GE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-189)0.3質量部、および硬化促進剤として四国化成株式会社製の1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(商品名:キュアゾール2PZ-CN)0.03質量部加え、攪拌混合し、100メッシュのフィルターでろ過した後、真空脱気し、固形分濃度20質量%の接着剤組成物3(a)の溶液を調製した。樹脂成分全量(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および架橋剤の合計質量)における各樹脂成分の含有割合は、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体:エポキシ樹脂:フェノール樹脂=31.5質量%:42.5質量%:26.0質量%であった。また、無機フィラーの含有量は樹脂成分全量に対して20.5質量%であった。
【0258】
(接着剤組成物3(b)の溶液)
ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用として、以下の接着剤組成物溶液3(b)の溶液を調製、準備した。まず、熱硬化性樹脂として東都化成株式会社製のビスフェノールF型エポキシ樹脂(商品名:YDF-8170C、エポキシ当量:159、分子量:310、常温で液状)21質量部、東都化成株式会社製のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:YDCN-700-10、エポキシ当量210、軟化点80℃)33質量部、架橋剤としてエア・ウォーター株式会社製のフェノール樹脂(商品名:HE200C-10、水酸基当量:200、軟化点:71℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:4質量%)46質量部、無機フィラーとしてアドマテックス株式会社製のシリカフィラー分散液(商品名:SC1030-HJA、平均粒子径:0.25μm)18質量部、からなる樹脂組成物に、溶媒としてシクロヘキサノンを加えて撹拌混合し、更にビーズミルを用いて90分間分散した。
【0259】
次いで、上記樹脂組成物に、熱可塑性樹脂として重量平均分子量Mwが低いグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体16質量部、重量平均分子量Mwが高いグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体64質量部、シランカップリング剤としてGE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-1160)1.3質量部、GE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-189)0.6質量部、および硬化促進剤として四国化成株式会社製の1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(商品名:キュアゾール2PZ-CN)0.05質量部加え、攪拌混合し、100メッシュのフィルターでろ過した後、真空脱気し、固形分濃度20質量%の接着剤組成物3(b)の溶液を調製した。樹脂成分全量(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および架橋剤の合計質量)における各樹脂成分の含有割合は、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体:エポキシ樹脂:フェノール樹脂=44.4質量%:30.0質量%:25.6質量%であった。また、無機フィラーの含有量は樹脂成分全量に対して10.0質量%であった。
【0260】
(接着剤組成物3(c)の溶液)
ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用として、以下の接着剤組成物溶液3(c)の溶液を調製、準備した。まず、熱硬化性樹脂として株式会社プリンテック製のビスフェノール型エポキシ樹脂(商品名:R2710、エポキシ当量:170、分子量:340、常温で液状)11質量部、DIC株式会社製のジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(商品名:HP-7200H、エポキシ当量280、軟化点83℃)40質量部、DIC株式会社製のビスフェノールS型エポキシ樹脂(商品名:EXA-1514、エポキシ当量300、軟化点75℃)18質量部、架橋剤として三井化学株式会社製のフェノール樹脂(商品名:ミレックスXLC-LL、水酸基当量:175、軟化点:77℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:4質量%)1質量部、エア・ウォーター株式会社製のフェノール樹脂(商品名:HE200C-10、水酸基当量:200、軟化点:71℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:4質量%)20質量部、エア・ウォーター株式会社製のフェノール樹脂(商品名:HE910-10、水酸基当量:101、軟化点:83℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:3質量%)10質量部、無機フィラーとしてアドマテックス株式会社製のシリカフィラー分散液(商品名:SC1030-HJA、平均粒子径:0.25μm)24質量部、日本アエロジル株式会社製のシリカ(商品名:アエロジルR972、平均粒子径:0.016μm)0.8質量部、からなる樹脂組成物に、溶媒としてシクロヘキサノンを加えて撹拌混合し、更にビーズミルを用いて90分間分散した。
【0261】
次いで、上記樹脂組成物に、熱可塑性樹脂として重量平均分子量Mwが低いグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体30質量部、重量平均分子量Mwが高いグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体7.5質量部、シランカップリング剤としてGE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-1160)0.57質量部、GE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-189)0.29質量部、および硬化促進剤として四国化成株式会社製の1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(商品名:キュアゾール2PZ-CN)0.023質量部加え、攪拌混合し、100メッシュのフィルターでろ過した後、真空脱気し、固形分濃度20質量%の接着剤組成物3(c)の溶液を調製した。樹脂成分全量(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および架橋剤の合計質量)における各樹脂成分の含有割合は、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体:エポキシ樹脂:フェノール樹脂=27.3質量%:50.2質量%:22.5質量%であった。また、無機フィラーの含有量は樹脂成分全量に対して18.0質量%であった。
【0262】
(接着剤組成物3(d)の溶液)
汎用ダイボンドフィルム用として、以下の接着剤組成物3(d)の溶液を調製、準備した。まず、熱硬化性樹脂として東都化成株式会社製のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:YDCN-700-10、エポキシ当量210、軟化点80℃)54質量部、架橋剤として三井化学株式会社製のフェノール樹脂(商品名:ミレックスXLC-LL、水酸基当量:175、吸水率:1.8%)46質量部、無機フィラーとして日本アエロジル株式会社製のシリカ(商品名:アエロジルR972、平均粒子径0.016μm)32質量部、からなる樹脂組成物に、溶媒としてシクロヘキサノンを加えて撹拌混合し、更にビーズミルを用いて90分間分散した。
【0263】
次いで、上記樹脂組成物に、熱可塑性樹脂としてグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体274質量部、シランカップリング剤としてGE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-1160)5.0質量部、GE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-189)1.7質量部、および硬化促進剤として四国化成株式会社製の1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(商品名:キュアゾール2PZ-CN)0.1質量部加え、攪拌混合し、100メッシュのフィルターでろ過した後、真空脱気し、固形分濃度20質量%の接着剤組成物3(d)の溶液を調製した。樹脂成分全量(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および架橋剤の合計質量)における各樹脂成分の含有割合は、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体:エポキシ樹脂:フェノール樹脂=73.3質量%:14.4質量%:12.3質量%であった。また、無機フィラーの含有量は樹脂成分全量に対して8.6質量%であった。
【0264】
4.ダイシングテープ10およびダイシングダイボンドフィルム20の作製
(実施例1)
剥離ライナー(厚さ38μm、ポリエチレンテレフタレートフィルム)の剥離処理面側に乾燥後の粘着剤層2の厚さが8μmとなるように、上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物(a)の溶液を塗布して100℃の温度で3分間加熱することにより溶媒を乾燥させた後に、粘着剤層2上に基材フィルム1(a)の第1層側の表面を貼り合わせ、ダイシングテープ10の原反を作製した。その後、ダイシングテープ10の原反を23℃の温度で96時間保存して粘着剤層2を架橋、硬化させた。
【0265】
次いで、ダイボンドフィルム(接着剤層)3形成用の接着剤組成物3(a)の溶液を準備し、剥離ライナー(厚さ38μm、ポリエチレンテレフタレートフィルム)の剥離処理面側に乾燥後のダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さが50μmとなるように、上記接着剤組成物3(a)の溶液を塗布して、まず90℃の温度で5分間、続いて140℃の温度で5分間の2段階で加熱することにより溶媒を乾燥させ、剥離ライナーを備えたダイボンドフィルム(接着剤層)3を作製した。なお、必要に応じ、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の乾燥面側には保護フィルム(例えばポリエチレンフィルム等)を貼り合わせても良い。
【0266】
続いて、上記で作製した剥離ライナーを備えたダイボンドフィルム(接着剤層)3を、剥離ライナーごと直径335mmの円形にカットし、該ダイボンドフィルム(接着剤層)3の接着剤層露出面(剥離ライナーの無い面)を、剥離ライナーを剥離した上記ダイシングテープ10の粘着剤層2面に貼り合わせた。貼り合わせ条件は、23℃、10mm/秒、線圧30kgf/cmとした。
【0267】
最後に、直径370mmの円形にダイシングテープ10をカットすることにより、直径370mmの円形のダイシングテープ10の粘着剤層2の上中心部に直径335mmの円形のダイボンドフィルム(接着剤層)3が積層されたダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a))を作製した。
【0268】
(実施例2~8)
基材フィルム1(a)を、それぞれ表1~2に示した基材フィルム1(b)~1(h)に変更したこと以外はすべて実施例1と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(b)~DDF(h))を作製した。
【0269】
(実施例9~23)
活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)の溶液を、それぞれ表3~6に示した活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)~2(p)の溶液に変更したこと以外はすべて実施例2と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(i)~DDF(w))を作製した。
【0270】
(実施例24)
接着剤組成物3(a)の溶液を接着剤組成物3(b)の溶液に変更し、乾燥後のダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さを30μmに変更したこと以外はすべて実施例2と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(x))を作製した。
【0271】
(実施例25)
接着剤組成物3(a)の溶液を接着剤組成物3(c)の溶液に変更したこと以外はすべて実施例2と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(y))を作製した。
【0272】
(実施例26)
接着剤組成物3(a)の溶液を接着剤組成物3(d)の溶液に変更し、乾燥後のダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さを20μmに変更したこと以外はすべて実施例2と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(z))を作製した。
【0273】
(比較例1)
基材フィルム1(a)を基材フィルム1(i)に変更し、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)の溶液を表8に示した活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(q)の溶液に変更し、接着剤組成物3(a)の溶液を接着剤組成物3(c)の溶液に変更したこと以外はすべて実施例1と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(aa))を作製した。
【0274】
(比較例2)
基材フィルム1(a)を基材フィルム1(j)に変更し、接着剤組成物3(c)の溶液を接着剤組成物3(a)の溶液に変更したこと以外はすべて比較例1と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(bb))を作製した。
【0275】
(比較例3)
基材フィルム1(a)を基材フィルム1(k)に変更したこと以外はすべて比較例2と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(cc))を作製した。
【0276】
(比較例4)
活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(q)の溶液を表8に示した活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(r)の溶液に変更したこと以外はすべて比較例1と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(dd))を作製した。
【0277】
(比較例5~7)
活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)の溶液を、それぞれ表9に示した活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(s)~2(u)の溶液に変更したこと以外はすべて実施例2と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(ee)~DDF(gg))を作製した。
【0278】
5.ダイシングテープの紫外線照射後粘着力およびダイボンドフィルムのずり粘度の測定
実施例1~26および比較例1~7で作製したダイシングテープ10の紫外線照射後粘着力およびダイボンドフィルム3のずり粘度について、以下に示す方法で測定した。
【0279】
5.1 ダイシングテープ10の粘着剤層2の有酸素紫外線照射後粘着力とダイボンドフィルム(接着剤層)3に対するダイシングテープ10の粘着剤層2の無酸素紫外線照射後粘着力の測定
上記実施例1~26および比較例1~7で作製したダイシングテープ10について、以下の方法により、粘着剤層2の有酸素下紫外線照射後粘着力Aおよび無酸素下紫外線照射後粘着力Bを測定した。
【0280】
5.1.1 有酸素下紫外線照射後粘着力A
まず、ダイシングテープ10を幅(基材フィルム1のTD方向)25mm、長さ(基材フィルム1のMD方向)120mmの大きさに裁断した。次いで、剥離ライナーを剥がしたダイシングテープ10の粘着剤層2面側からメタルハライドランプを用いて、中心波長367nmの紫外線(UV)を照射(照射強度:70mW/cm
2、積算光量:150mJ/cm
2)した後、ステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対し、ダイシングテープ10を粘着剤層2面の端から重さ2kgのゴムローラを使用して、温度23℃、湿度50%RHの環境にて、ゴムローラを約5mm/秒の速度で一往復させて、綺麗に圧着、貼り合わせを行い、測定用試験片とした。20分静置後、該試験片について、温度23℃、湿度50%RHの環境にて、
図4に示す剥離角度自在タイプの粘着・皮膜剥離解析装置を用いて、ステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対するダイシングテープ10の剥離角度90°粘着力(単位はN/25mm)を測定した。剥離速度は300mm/分とした。測定は、試験片3検体について行い、3検体の値の平均値をそのダイシングテープ10の有酸素下紫外線照射後粘着力Aとした。
【0281】
5.1.2 無酸素下紫外線照射後粘着力B
まず、ダイシングテープ10を幅(基材フィルム1のTD方向)25mm、長さ(基材フィルム1のMD方向)120mmの大きさに裁断した。次いで、ステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対して、剥離ライナーを剥がしたダイシングテープ10の粘着剤層2面の端から重さ2kgのゴムローラを使用して、温度23℃、湿度50%RHの環境にて、ゴムローラを約5mm/秒の速度で一往復させて、綺麗に圧着、貼り合わせた。20分静置後、ダイシングテープ10の基材フィルム1側から、メタルハライドランプを用いて、中心波長367nmの紫外線(UV)を照射(照射強度:70mW/cm
2、積算光量:150mJ/cm
2)し、測定用試験片とした。該試験片について、上述した有酸素下紫外線照射後粘着力Aの測定と同様に
図4に示す剥離角度自在タイプの粘着・皮膜剥離解析装置を用いて、ステンレス鋼板(SUS304・BA板)に対するダイシングテープ10の剥離角度90°粘着力(単位はN/25mm)を測定した。剥離速度は300mm/分とした。測定は、試験片3検体について行い、3検体の値の平均値をそのダイシングテープ10の無酸素下紫外線照射後粘着力Bとした。
【0282】
また、上記粘着力の測定値を用いて、ダイシングテープ10の粘着剤層2の無酸素下紫外線照射後粘着力Bに対する有酸素下紫外線照射後粘着力Aの比A/Bを算出した。
【0283】
5.2 ダイボンドフィルム(接着剤層)3の80℃でのずり粘度の測定
接着剤組成物3(a)~3(d)の溶液から形成した各ダイボンドフィルム(接着剤層)3について、下記の方法により、80℃でのずり粘度を測定した。
剥離ライナーを除去したダイボンドフィルム(接着剤層)3を総厚さが200~210μmとなるように70℃で複数枚貼り合わせて積層体を作製した。次いで、その積層体を、厚み方向に10mm×10mmの大きさに打ち抜いて測定サンプルとした。続いて、動的粘弾性装置ARES(レオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー社製)を用いて、直径8mmの円形アルミプレート治具を装着した後、測定サンプルをセットした。測定サンプルに35℃で5%の歪みを与えながら、昇温速度5℃/分の条件で測定サンプルを昇温しながらずり粘度を測定し、80℃でのずり粘度の値を求めた。
【0284】
実施例1~26および比較例1~7で作製したダイシングテープ10およびダイシングダイボンドフィルム20について、それぞれの構成および上記の各測定結果を表1~9に示す。
【0285】
【0286】
【0287】
【0288】
【0289】
【0290】
【0291】
【0292】
【0293】
【0294】
6.ダイシングテープの実装評価
上記実施例1~26および比較例1~7で作製したダイシングテープ10について、ダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(gg))の態様にて、以下に示す方法で評価を行った。
【0295】
6.1 ダイボンドフィルム(接着剤層)割断性
まず、半導体ウエハ(シリコンミラーウエハ、厚さ750μm、外径12インチ)Wを準備し、一方の面に市販のバックグラインドテープを貼り付けた。次いで、半導体ウエハWのバックグラインドテープを貼り付けた側と反対面から、株式会社ディスコ製のステルスダイシングレーザソー(装置名:DFL7361)を使用し、割断後の半導体チップ30aの大きさが4.6mm×7.2mmのサイズとなるように、格子状のダイシング予定ラインに沿って、以下の条件にて、レーザー光を照射することにより、半導体ウエハWの所定の深さの位置に改質領域30bを形成した。
【0296】
・レーザー照射条件
(1)レーザー発振器型式:半導体レーザー励起Qスイッチ固体レーザー
(2)波長:1342nm
(3)発振形式:パルス
(4)周波数:90kHz
(5)出力:1.7W
(6)半導体ウエハの載置台の移動速度:700mm/秒
【0297】
次いで、株式会社ディスコ製のバックグラインド装置(装置名:DGP8761)を使用し、バックグラインドテープに保持された当該改質領域30bが形成された厚さ750μmの半導体ウエハWを研削、薄膜化することにより、厚さ30μmの個片化された半導体チップ30aを得た。続いて、以下の方法によりクールエキスパンド工程を実施することで、ダイボンドフィルム(接着剤層)割断性を評価した。具体的には、厚さ30μmの半導体チップ30aのバックグラインドテープが貼り付けられた側とは反対面に、各実施例および比較例で作製したダイシングダイボンドフィルム20から剥離ライナーを剥離することによって露出させたダイボンドフィルム3が密着するように、株式会社ディスコ製のラミネート装置(装置名:DFM2800)を使用し、当該半導体チップ30aに対してダイシングダイボンドフィルム20をラミネート温度70℃、ラミネート速度10mm/秒の条件にて貼り合わせるとともに、ダイシングテープ10の外縁部の粘着剤層2露出部にリングフレーム(ウエハリング)40を貼り付けた後、バックグラインドテープを剥離した。なお、ここで、ダイシングダイボンドフィルム20は、その基材フィルム1のMD方向と半導体チップ30aの格子状の分割ラインの縦ライン方向(基材フィルム1のTD方向と半導体チップ30aの格子状の分割ラインの横ライン方向)とが一致するように、半導体チップ30aに貼り付けられている。
【0298】
上記リングフレーム(ウエハリング)40に保持された半導体チップ30aを含む積層体(半導体ウエハ30/ダイボンドフィルム3/粘着剤層2/基材フィルム1)を株式会社ディスコ製のエキスパンド装置(装置名:DDS2300 Fully Automatic Die Separator)に固定した。次いで、以下の条件にて、半導体チップ30aを伴うダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10(粘着剤層2/基材フィルム1)をクールエキスパンドすることによって、ダイボンドフィルム3を割断した。これにより、ダイボンドフィルム(接着剤層)3付き半導体チップ30aを得た。なお、本実施例では、下記の条件にてクールエキスパンド工程を実施したが、基材フィルム1の物性および温度条件等によってエキスパンド条件(「エキスパンド速度」および「エキスパンド量」等)を適宜調整した上でクールエキスパンド工程を実施すればよい。
【0299】
・クールエキスパンド工程の条件
温度:-15℃、冷却時間:80秒、
エキスパンド速度:300mm/秒、
エキスパンド量:11mm、
(4)待機時間:0秒
【0300】
クールエキスパンド後のダイボンドフィルム(接着剤層)3について、半導体チップ30aの表面側から、株式会社キーエンス製の光学顕微鏡(形式:VHX-1000)を用い、倍率200倍にて観察することによって、割断予定の辺のうち、割断されていない辺の数を計測した。そして、割断予定の辺の総数と未割断の辺の総数とから、割断予定の辺の総数に占める、割断された辺の数の割合を、割断率(%)として算出した。前記光学顕微鏡による観察は、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aの全数に対して行った。以下の基準に従って、ダイボインドフィルム(接着剤層)3の割断性を評価し、B以上の評価を割断性が良好と判断した。
【0301】
A:割断率が95%以上100%以下であった。
B:割断率が90%以上95%未満であった。
C:割断率が85%以上90%未満であった。
D:割断率が85%未満であった。
【0302】
6.2 ダイボンドフィルムのエッジ部の剥離の有無の確認および粘着剤層から剥離したダイボンドフィルムのエッジ部分の面積S1の割合の算出
上記クールエキスパンド状態を解除した後、再度、株式会社ディスコ製のエキスパンド装置(装置名:DDS2300 Fully Automatic Die Separator)を用い、そのヒートエキスパンダーユニットにて、以下の条件にて、常温エキスパンド工程を実施した。
【0303】
・常温エキスパンド工程の条件
温度:23℃、
エキスパンド速度:30mm/秒、
エキスパンド量:9mm、
(4)待機時間:15秒
【0304】
次いで、エキスパンド状態を維持したまま、ダイシングテープ10を吸着テーブルで吸着させ、吸着テーブルによるその吸着を維持した状態で吸着テーブルをワークとともに下降させた。そして、以下の条件にて、ヒートシュリンク工程を実施し、ダイシングテープ10における半導体チップ30a保持領域より外側の円周部分を加熱収縮(ヒ-トシュリンク)させた。
【0305】
・ヒートシュリンク工程の条件
熱風温度:200℃、
風量:40L/min、
熱風吹き出し口とダイシングテープ10との距離:20mm、
ステージの回転速度:7°/秒
【0306】
続いて、吸着テーブルによる吸着からダイシングテープ10を解放した後、割断された個々の半導体チップの四方周辺において、ダイボンドフィルム(接着剤層)3がダイシングテープ10の粘着剤層2から剥離している状態を、半導体チップ30aの裏面側(基材フィルム1側)から、株式会社キーエンス製の光学顕微鏡(形式:VHX-1000)を用い、倍率50倍にて観察した。ダイボンドフィルム(接着剤層)3の剥離の状態は、いずれの位置の半導体チップ30aにおいてもほぼ同様な状態として観察されたため、剥離の有無の確認は半導体ウエハ30の中央部に位置する所定の20個のダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aについて行った。また、上記面積S1の割合の算出は以下の方法により行った。まず、上記20個のダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aの中から任意の3個を選び、それぞれに観察された画像を、画像処理ソフト「ImageJ」(https://imagej.Nih.gov/ij/より入手可能)を用いて、上記面積S1に該当する部分および面積S2に該当する部分とを2値化した。2値化した上記画像処理像により、小片のダイボンドフィルム3a全体の面積(=S1+S2)に対する、粘着剤層2から剥離した小片のダイボンドフィルム3aのエッジ部分の面積S1の割合を3個の測定の平均値として求めた。
【0307】
6.3 ピックアップ性
上記エキスパンド工程により割断、個片化されたダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aを保持しているダイシングテープ10の基材フィルム1側から、照射強度70mW/cm2にて積算光量が150mJ/cm2となるように中心波長367nmの紫外線(UV)を照射し粘着剤層2を硬化させることにより、評価試料を作製した。
【0308】
続いて、ファスフォードテクノロジ株式会社製(旧株式会社日立ハイテクノロジーズ製)のピックアップ機構を有する装置(装置名:ダイボンダDB-830P)を用いて、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aのピックアップ試験を行った。ピックアップ用コレットのサイズは4.5×7.1mm、突上げピンのピン本数は12本とし、ピックアップの条件については、突き上げピンの突き上げ速度を5mm/秒、突き上げピンの突き上げ高さを300μm、200μmおよび150μmとした。ピックアップのトライのサンプル数を所定の位置の個片化された20個(チップ)とし、これを連続的にピックアップし、ピックアップ成功個数をカウントした。各突き上げ高さにおけるダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aのピックアップ性は、以下の基準に従って評価した。
【0309】
A:20チップを連続的にピックアップし、チップ割れ又はピックアップミスが発生しなかった個数(ピックアップ成功個数)が19個以上20個以下であった(成功率95%以上100%以下)。
B:20チップを連続的にピックアップし、チップ割れ又はピックアップミスが発生しなかった個数(ピックアップ成功個数)が17個以上19個未満であった(成功率85%以上95%未満)。
C:20チップを連続的にピックアップし、チップ割れ又はピックアップミスが発生しなかった個数(ピックアップ成功個数)が17個未満であった(成功率85%未満)。
【0310】
上記ピックアップ試験の総合評価としては、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aのピックアップ成功個数の評価がAまたはBとなる突き上げピンの突き上げ高さの量が小さければ小さいほどそのダイシングテープ10を用いた場合におけるピックアップ性がより優れていると判断した。
【0311】
6.3.評価結果
実施例1~26および比較例1~7で作製した各ダイシングテープ10について、ダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(gg))の態様にて実装評価した結果を表10~18に示す。
【0312】
【0313】
【0314】
【0315】
【0316】
【0317】
【0318】
【0319】
【0320】
【0321】
表10~16に示すように、本発明の要件を満たす基材フィルム1(a)~1(h)および粘着剤組成物2(a)~2(p)を含有する粘着剤層2を備え、かつ粘着剤層2の有酸素下紫外線照射後粘着力Aおよび無酸素下紫外線照射後粘着力Bの要件を満たすダイシングテープ10を用いて作製した実施例1~26のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(z))については、半導体装置の製造工程に供した場合、クールエキスパンドによりダイボンドフィルム3が良好に割断されると共に、割断されたダイボンドフィルム3aにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)がダイシングテープ10の粘着剤層2から適度に剥離された状態が形成され、有酸素下紫外線照射後粘着力Aが大幅に低減されていることにより、ピックアップ時には、上記の粘着剤層から剥離された状態のダイボンドフィルム3のエッジ部分が、ダイシングテープ10の紫外線照射後の粘着剤層2に強く再固着する現象が大幅に抑制され、突き上げによるダイシングダイボンドフィルム3a付半導体チップ30aの粘着剤層2からの剥離がエッジ部よりスムースに進行し、ピックアップ性の評価においても好ましい結果が得られることが確認された。
【0322】
実施例を詳細に比較した場合、実施例2~4、実施例6、実施例8、実施例10、11、実施例14~16、実施例21、22および実施例24~26のダイシングダイボンドフィルム20については、ダイボンドフィルム3の割断性およびピックアップ性の評価においてハイレベルで両立可能であり、特に優れていることが分かった。すなわち、クールエキスパンド工程におけるダイボンドフィルム3の割断率は極めて良好であり、さらに、突き上げピンの突き上げ高さの量が小さいピックアップ試験における歩留まりも極めて良好であった。
【0323】
実施例1、実施例7のダイシングダイボンドフィルム20は、基材フィルム1(a)、1(g)の0℃におけるMD方向とTD方向の5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2が、本発明の範囲の下限値に近いため、実施例2~4、実施例6、実施例8のダイシングダイボンドフィルム20と比較して、ダイボンドフィルム3の割断性およびピックアップ性がやや劣っていた。一方、実施例5のダイシングダイボンドフィルム20は、基材フィルム1(e)の0℃におけるMD方向とTD方向の5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2が、本発明の範囲の上限値に近いため、実施例2~4、実施例6、実施例8のダイシングダイボンドフィルム20と比較して、ピックアップ性がやや劣っていた。
【0324】
実施例9、実施例18のダイシングダイボンドフィルム20は、粘着剤組成物2(a)のアクリル系粘着性ポリマー(A)が有する水酸基価が本発明の範囲の下限値に近く、また、ポリイソシアネート系架橋剤の添加量も本発明の範囲の下限値であるため、実施例2、実施例10、11のダイシングダイボンドフィルム20と比較して、クールエキスパンド時に粘着剤層2から剥離した小片のダイボンドフィルム3aのエッジ部分(斜線部)の面積S1の割合がやや小さく、すなわち有酸素下紫外線照射後粘着力の低減効果の寄与が小さく、ピックアップ性がやや劣っていた。
【0325】
実施例12、実施例17および実施例19のダイシングダイボンドフィルム20は、粘着剤組成物2(a)のアクリル系粘着性ポリマー(A)が有する水酸基価が本発明の範囲の下限値に近く、また、ポリイソシアネート系架橋剤の添加量も本発明の範囲の上限値に近い、あるいは上限値であり、粘着剤組成物2(a)におけるポリイソシアネート系架橋剤の添加量およびポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(-NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(-OH)との当量比(-NCO/-OH)も本発明の範囲の上限値に近いため、実施例2、実施例10、11のダイシングダイボンドフィルム20と比較して、クールエキスパンド時に粘着剤層2から剥離した小片のダイボンドフィルム3aのエッジ部分(斜線部)の面積S1の割合がやや大きく、有酸素下紫外線照射後粘着力の低減効果が再固着面積増大の影響により徐々に抑制され、ピックアップ性がやや劣っていた。また、実施例12、実施例19のダイシングダイボンドフィルム20は、ダイボンドフィルム3の割断性もやや劣っていた。
【0326】
実施例13のダイシングダイボンドフィルム20は、粘着剤組成物2(a)のアクリル系粘着性ポリマー(A)が有する水酸基価が本発明の範囲の下限値に近く、また、ポリイソシアネート系架橋剤の添加量も本発明の範囲の下限値であり、実施例2、実施例14~17のダイシングダイボンドフィルム20と比較して、クールエキスパンド時に粘着剤層2から剥離した小片のダイボンドフィルム3aのエッジ部分(斜線部)の面積S1の割合がやや小さく、すなわち有酸素下紫外線照射後粘着力の低減効果の寄与が小さく、ピックアップ性がやや劣っていた。
【0327】
実施例20、23のダイシングダイボンドフィルム20は、有酸素下紫外線照射後粘着力が本発明の範囲の上限値に近く、実施例2、実施例21、22のダイシングダイボンドフィルム20と比較して、ピックアップ性がやや劣っていた。
【0328】
これに対し、表17、18に示すように、基材フィルム1、粘着剤組成物の諸特性および粘着剤層2の有酸素下紫外線照射後粘着力Aおよび無酸素下紫外線照射後粘着力Bの要件の少なくともいずれかを満たさないダイシングテープ10を用いて作製した比較例1~7のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(aa)~DDF(gg))については、クールエキスパンド工程におけるダイボンドフィルム3の割断性およびピックアップ工程におけるピックアップ性の評価のいずれかの項目において実施例1~26のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(z))よりも劣る結果であることが確認された。
【0329】
具体的には、比較例1のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(aa))については、ダイシングテープ10の基材フィルム1(i)の0℃におけるMD方向とTD方向の5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2、粘着剤組成物2(q)におけるポリイソシアネート系架橋剤の添加量およびポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(-NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(-OH)との当量比(-NCO/-OH)が本発明の範囲の下限値を下回るため、クールエキスパンド工程における接着剤組成物3(c)から成るダイボンドフィルム3の割断性は悪く、割断されたダイボンドフィルム3aにおいても、そのエッジ部分に粘着剤層2から剥離された状態は形成されず(剥離は認められず)、接着剤組成物3(c)から成るダイボンドフィルム3を用いた実施例25のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(y))と比較して、接着剤組成物3(c)から成るダイボンドフィルム3の割断性およびピックアップ性のいずれの評価においても劣る結果であることが確認された。
【0330】
また、同様に、比較例2、3のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(bb))、(DDF(cc))についても、ダイシングテープ10の基材フィルム1(j)、1(l)の0℃におけるMD方向とTD方向の5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2、粘着剤組成物2(q)におけるポリイソシアネート系架橋剤の添加量およびポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(-NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(-OH)との当量比(-NCO/-OH)が本発明の範囲の下限値を下回るため、クールエキスパンド工程における接着剤組成物3(a)から成るダイボンドフィルム3の割断性は悪く、割断されたダイボンドフィルム3aにおいても、そのエッジ部分に粘着剤層2から剥離された状態は形成されず(剥離は認められず)、例えば、実施例1~17、20~23のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(q))、(DDF(t)~DDF(w))と比較して、接着剤組成物3(a)から成るダイボンドフィルム3の割断性およびピックアップ性のいずれの評価においても劣る結果であることが確認された。
【0331】
さらに、比較例4のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(dd))については、ダイシングテープ10の粘着剤組成物2(a)は本発明の要件を満たすが、基材フィルム1(i)のの0℃におけるMD方向とTD方向の5%伸長時弾性率の平均値(YMD+YTD)/2が本発明の範囲の下限値を下回り、粘着剤層2の有酸素下紫外線照射後粘着力Aが本発明の範囲の上限値を超えるため、クールエキスパンド工程における接着剤組成物3(a)から成るダイボンドフィルム3の割断性は悪く、割断されたダイボンドフィルム3aにおいて、その四隅に粘着剤層2から剥離された状態がわずかに形成されたものの、有酸素下紫外線照射後粘着力Aが大きく、例えば、実施例7のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(g))と比較して、接着剤組成物3(a)から成るダイボンドフィルム3の割断性およびピックアップ性のいずれの評価においても劣る結果であることが確認された。
【0332】
またさらに、比較例5のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(ee))については、ダイシングテープ10の基材フィルム1(b)は本発明の要件を満たすが、粘着剤組成物2(s)におけるポリイソシアネート系架橋剤の添加量およびポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(-NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(-OH)との当量比(-NCO/-OH)が本発明の範囲の下限値を下回るため、クールエキスパンド工程における接着剤組成物3(a)から成るダイボンドフィルム3の割断性は良好であったものの、割断されたダイボンドフィルム3aにおいては、そのエッジ部分に粘着剤層2から剥離された状態は形成されず(剥離は認められず)、例えば、実施例9の
ダイシングダイボンドフィルム20(DDF(i))と比較して、ピックアップ性の評価において、やや劣る結果であることが確認された。
【0333】
またさらに、比較例6のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(ff))については、ダイシングテープ10の基材フィルム1(b)および粘着剤組成物2(t)の諸特性は本発明の要件を満たすが、
粘着剤層2の有酸素下紫外線照射後粘着力Aが本発明の範囲の上限値を超えるため、クールエキスパンド工程における接着剤組成物3(a)から成るダイボンドフィルム3の割断性は良好であり、割断されたダイボンドフィルム3aにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)がダイシングテープ10の粘着剤層2から適度に剥離された状態が形成されたものの、有酸素下紫外線照射後粘着力Aが大きく、例えば、実施例16のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(p))と比較して、ピックアップ性の評価において劣る結果であることが確認された。
【0334】
またさらに、比較例7のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(gg))については、ダイシングテープ10の基材フィルム1(b)および粘着剤層2の有酸素下紫外線照射後粘着力Aおよび無酸素下紫外線照射後粘着力Bの本発明の要件を満たすが、粘着剤組成物2(u)におけるポリイソシアネート系架橋剤の添加量およびポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(-NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(-OH)との当量比(-NCO/-OH)が本発明の範囲の上限値を超えるため、接着剤組成物3(a)から成るダイボンドフィルム3はクールエキスパンド工程において問題ないレベルで割断はできたものの、割断されたダイボンドフィルム3aにおいて、そのエッジ部分(四方周囲部分)から中心部に向けてダイシングテープ10の粘着剤層2から過度に、かつ不規則に剥離されてしまい、ピックアップ時に、上記の粘着剤層から剥離された状態のダイボンドフィルム3aのダイシングテープ10の紫外線照射後の粘着剤層2への再固着面積が大きくなり過ぎて、例えば、実施例12のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(l))と比較して、ピックアップ性の評価において劣る結果であることが確認された。また、エキスパンド工程後に、一部、粘着剤層2の割れや基材フィルム1からのめくれが観察された。
前記基材フィルムは、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る樹脂(IO)およびポリアミド樹脂(PA)とを含有した樹脂組成物から構成される樹脂フィルムである、請求項1に記載のダイシングテープ。
前記活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、前記光重合開始剤として、少なくとも、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)の3種類の系の光重合開始剤を含む、請求項1又は2に記載のダイシングテープ。
前記α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)の各々の含有量は、前記アクリル系粘着性ポリマー100質量部に対して、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(a)が0.8質量部以上5.0質量部以下の範囲、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤以外のアルキルフェノン系光重合開始剤(b)が0.2質量部以上5.0質量部以下の範囲、およびアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(c)が0.2質量部以上2.0質量部以下の範囲である、請求項3に記載のダイシングテープ。
前記無酸素下紫外線照射後粘着力Bに対する有酸素下紫外線照射後粘着力Aの比A/Bが3.00以上5.00以下の範囲である、請求項1~4のいずれか一項に記載のダインシングテープ。
前記ダイシングテープは、前記粘着剤層上にダイボンドフィルムと、複数の個片化された半導体チップと、が順次積層されたシート状積層体を、-30℃~0℃の温度でエキスパンド(延伸)し、個片化された半導体チップの形状に合わせて前記ダイボンドフィルムを割断するために使用されるものである、請求項1~5のいずれか一項に記載のダイシングテープ。
前記ダイシングテープは、前記シート状積層体が貼着されたダイシングテープを、-30℃以上0℃以下の範囲にある温度でエキスパンド(延伸)し、個片化された半導体チップの形状に合わせてダイボンドフィルムを割断した際に、前記ダイボンドフィルムのエッジ部分(四方周囲部分)が粘着剤層から剥離するものである、請求項1~6のいずれか一項に記載のダイシングテープ。
前記個片化された半導体チップの形状に合わせて割断されたダイボンドフィルムは、前記粘着剤層から剥離した前記ダイボンドフィルムのエッジ部分(四方周囲部分)の面積の割合が、割断されたダイボンドフィルム全体の面積に対して、10%以上45%以下の範囲である、請求項1~7のいずれか一項に記載のダイシングテープ。