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  • 特開-放熱部材複合体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132843
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】放熱部材複合体
(51)【国際特許分類】
   B29C 55/04 20060101AFI20230914BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230914BHJP
   B29K 23/00 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
B29C55/04
C08J5/18 CES
B29K23:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038400
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】柳本 泰
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤村 太
(72)【発明者】
【氏名】鶴来 交
(72)【発明者】
【氏名】清澤 邦臣
【テーマコード(参考)】
4F071
4F210
【Fターム(参考)】
4F071AA16
4F071AA81
4F071AA88
4F071AF15
4F071AF20
4F071AF44Y
4F071AH12
4F071BA01
4F071BB04
4F071BB07
4F071BC01
4F071BC12
4F210AA06
4F210AG01
4F210AH81
4F210AR12
4F210AR15
4F210AR17
4F210AR20
4F210QA03
4F210QA04
4F210QC02
4F210QD25
4F210QG01
4F210QG17
4F210QM15
4F210QN01
4F210QN21
4F210QW50
(57)【要約】
【課題】高い放熱性を有するテープ状の放熱部材を備えた放熱部材複合体を提供すること。
【解決手段】超高分子量ポリエチレンの一軸延伸成形体と熱源とを有する放熱部材複合体であって、前記一軸延伸成形体が下記要件(I)および(II)を満たす放熱部材複合体:(I)テープ状の成形体であり、延伸方向に直交するテープ幅が1.0cm以上である;(II)延伸方向の熱伝導率が55W/K・m以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高分子量ポリエチレンの一軸延伸成形体と熱源とを有する放熱部材複合体であって、前記一軸延伸成形体が下記要件(I)および(II)を満たす放熱部材複合体:
(I)テープ状の成形体であり、延伸方向に直交するテープ幅が1.0cm以上である;
(II)延伸方向の熱伝導率が55W/K・m以上である。
【請求項2】
前記一軸延伸成形体が下記要件(III)を満たす、請求項1に記載の放熱部材複合体:
(III)デカリン溶媒中、135℃で測定される極限粘度[η]が5~50dl/gである。
【請求項3】
前記一軸延伸成形体が、下記要件(i)を満たすエチレン系重合体粒子の固相延伸成形体である、請求項1または2に記載の放熱部材複合体:
(i)窒素ガス吸着法にて測定された吸脱着等温線からBET法により求められる比表面積が、2.00m2/gより大きく、30.0m2/g以下である。
【請求項4】
前記エチレン系重合体粒子が下記要件(ii)を満たす、請求項3に記載の放熱部材複合体:
(ii)デカリン溶媒中、135℃で測定される極限粘度[η]が5~50dl/gである。
【請求項5】
前記エチレン系重合体粒子が下記要件(iii)を満たす、請求項3または4に記載の放熱部材複合体:
(iii)嵩密度が0.01~0.20g/mLである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱部材複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、放熱部材には、熱伝導率の高い金属やセラミックが用いられているが、近年、電子情報材料の小型化・高度化に伴い、放熱部材の軽量・小型化が求められている。また、折り畳み式のデバイスやウェアラブルデバイスの開発進展に伴い、柔軟かつ高い熱伝導率を持つ放熱材料が求められている。
【0003】
超高分子量ポリエチレンの延伸成形体は、延伸により高度に配向した超高分子量ポリエチレンがその延伸方向に高い熱伝導性を持つことから、放熱部材として既に応用や改良検討がなされている。例えば、特許文献1には、融解紡糸法およびゲル紡糸法が開示されており、冷感シートなどに使われている。非特許文献1には、ゲル紡糸法で得たナノフィブリルが100mWと極めて高い熱伝導率を示す例が開示されている。特許文献2では、固相延伸成形法により、50mWの熱伝導率を示す熱伝導テープを作製する例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭60-47922号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2017/0373360号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nature Nanotechnology,5,251-255(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の繊維は、放熱部材用途として、シート状への加工が必要な場合がある。また、ゲル紡糸法の場合は、その製造工程において大量の溶媒を用いる必要があり、また製品にも微量に溶剤が含まれる可能性があるため、環境対応や部材の汚染防止の観点から溶媒を用いない材料が求められている。また、非特許文献1に記載の繊維はは高い放熱性を示すものの、ナノフィブリルの局所的な物性であり、実装可能なサイズのシート状やテープ状の放熱部材を得る方法は開示されていない。特許文献2は、放熱部材に適した延伸テープが得られているものの、さらに高い放熱性能が求められていた。
【0007】
前記背景技術から鑑みた、本発明が解決しようとする課題は、高い放熱性を有するテープ状の放熱部材を備えた放熱部材複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記課題を解決すべく検討を行った。その結果、下記構成例によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、例えば以下の[1]~[5]に関する。
【0009】
[1] 超高分子量ポリエチレンの一軸延伸成形体と熱源とを有する放熱部材複合体であって、前記一軸延伸成形体が下記要件(I)および(II)を満たす放熱部材複合体:
(I)テープ状の成形体であり、延伸方向に直交するテープ幅が1.0cm以上である;
(II)延伸方向の熱伝導率が55W/K・m以上である。
[2] 前記一軸延伸成形体が下記要件(III)を満たす、[1]に記載の放熱部材複合体:
(III)デカリン溶媒中、135℃で測定される極限粘度[η]が5~50dl/gである。
[3] 前記一軸延伸成形体が、下記要件(i)を満たすエチレン系重合体粒子の固相延伸成形体である、[1]または[2]に記載の放熱部材複合体:
(i)窒素ガス吸着法にて測定された吸脱着等温線からBET法により求められる比表面積が、2.00m2/gより大きく、30.0m2/g以下である。
[4] 前記エチレン系重合体粒子が下記要件(ii)を満たす、[3]に記載の放熱部材複合体:
(ii)デカリン溶媒中、135℃で測定される極限粘度[η]が5~50dl/gである。
[5] 前記エチレン系重合体粒子が下記要件(iii)を満たす、[3]または[4]に記載の放熱部材複合体:
(iii)嵩密度が0.01~0.20g/mLである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、超高分子量ポリエチレンの一軸延伸成形体からなる高い放熱性を有するテープ状の放熱部材を備えた放熱部材複合体を提供することができる。また、該放熱部材は金属製またはセラミック製の放熱部材に比べ、軽量かつ柔軟であるため各種用途の熱源に実装可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例において、放熱部材複合体作製時の全体構造を側面から見た模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0013】
〔放熱部材複合体〕
本発明の放熱部材複合体は、超高分子量ポリエチレンの一軸延伸成形体と熱源とを有する。本発明における前記一軸延伸成形体で構成されるテープ状の放熱部材は、高い放熱性を有するため、該放熱部材を備えた熱源から効率よく熱を逃すことが可能である。
【0014】
[超高分子量ポリエチレンの一軸延伸成形体]
本発明における超高分子量ポリエチレンの一軸延伸成形体は、下記要件(I)および(II)を満たすことを特徴とする。以下、各要件について順に説明する。
(I)テープ状の成形体であり、延伸方向に直交するテープ幅が1.0cm以上である。
(II)延伸方向の熱伝導率が55W/K・m以上である。
【0015】
<要件(I)>
本発明にかかる超高分子量ポリエチレンの一軸延伸成形体は、テープ状の成形体であり、延伸方向に直交するテープ幅が1.0cm以上である。前記テープ幅は、好ましくは1.0cm~2mであり、より好ましくは1.0cm~50cmであり、さらに好ましくは1.0cm~20cmであり、さらにより好ましくは1.0cm~2.0cmである。テープ幅が前記範囲にあることで、熱源との接触面を確保しやすくなり、放熱部材としての実装性に優れる。テープ幅は後述する各種熱源により適宜選択できるが、前記範囲より小さい場合は、熱源との接触面を確保できないため放熱部材として実装する際に適さない。また、テープ幅が前記範囲より大きい場合は、延伸成形体の取り扱いが困難になり実用上適さない場合がある。
【0016】
<要件(II)>
本発明にかかる超高分子量ポリエチレンの一軸延伸成形体は、延伸方向の熱伝導率が55W/K・m以上である。前記延伸方向の熱伝導率は、後述の実施例の方法に準拠して測定される。延伸方向の熱伝導率は、通常、55~100W/K・mであり、好ましくは55~70W/K・m、より好ましくは60~65W/K・mである。延伸方向の熱伝導率が前記範囲にあることにより、本発明に用いられる放熱部材は優れた放熱性を示す。
【0017】
本発明にかかる超高分子量ポリエチレンの成形体が一軸延伸成形体であることは、広角X線回折で得られる配向関数fが高い値を示すことから確認できる。配向関数fはWilchinskyの方法を用いて(110),(200)面からの回折から算出する。配向関数fの値は0.85以上であることが好ましく、0.90以上であることがより好ましく、0.95以上であることがさらに好ましく、0.98以上であることが特に好ましい。
【0018】
また、一軸延伸成形体の延伸倍率は、無配向の原反シートの重量を同尺の延伸テープの重量で除すことで求めることができ、延伸倍率は好ましくは50倍以上であり、より好ましくは50~300倍、さらに好ましくは100~250倍である。前記配向関数および延伸倍率が各々前記範囲にあることで、超高分子量ポリエチレンのポリマー鎖が高度に配向し、得られる延伸成形体は延伸方向への高い熱伝導性を発現し、放熱部材として高い放熱性を示す。一方、上記範囲を下回るとポリマー鎖が十分に配向しておらず、十分に高い放熱性を示さない場合がある。また、上記範囲を上回る場合、テープの局所的な破断により欠陥が生じ、十分に高い放熱性を示さない場合がある。
【0019】
本発明にかかる超高分子量ポリエチレンの一軸延伸成形体は、好ましくは下記要件(III)を上記要件(I)および(II)と同時に満たす。以下、下記要件(III)について説明する。
(III)デカリン溶媒中、135℃で測定される極限粘度[η]が5~50dl/gである。
【0020】
<要件(III)>
本発明にかかる超高分子量ポリエチレンの一軸延伸成形体の極限粘度[η]は、デカリン溶媒中135℃で測定され、好ましくは5~50dl/gであり、より好ましくは10~50dl/gであり、さらに好ましくは15~45dl/gであり、特に好ましくは20~40dl/gである。極限粘度[η]が上記範囲にあることにより、配向度が高くポリマーの末端構造に由来の欠陥が少ないため、より高い放熱性を発現する。一方、極限粘度[η]が上記下限を下回るとポリマー鎖の自由末端に由来する構造欠陥により十分な熱伝導性を示さない場合がある。また、極限粘度[η]が上記範囲を上回る場合、延伸成形性が低下し配向度が低下することに由来して十分な熱伝導性を示さない場合がある。
【0021】
さらに、本発明にかかる超高分子量ポリエチレンの一軸延伸成形体は、好ましくは下記要件(IV)~(VII)のいずれか一つ以上を、上記要件(I)および(II)と同時に満たし、より好ましくは下記要件(IV)~(VII)のいずれか一つ以上を、上記要件(I)~(III)と同時に満たす。以下、各要件について順に説明する。
(IV)引張弾性率が100GPa以上である。
(V)引張強度が1.5GPa以上である。
(VI)Mw(重量平均分子量)とMn(数平均分子量)との比(Mw/Mn)が6以下である。
(VII)有機溶媒含量は100ppm未満である。
【0022】
<要件(IV)>
本発明にかかる超高分子量ポリエチレンの一軸延伸成形体の引張弾性率は、100GPa以上であることが好ましく、120GPa以上であることがより好ましく、140GPa以上であることがさらに好ましい。引張弾性率の上限は特にないが、ポリエチレンの理論弾性率は、280GPaとされている。本発明の成形体の場合、他の性能とのバランスも考慮すると好ましくは250GPaである。
【0023】
<要件(V)>
本発明にかかる超高分子量ポリエチレンの一軸延伸成形体の引張強度は、1.5GPa以上であることが好ましく、2GPa以上であることがより好ましく、2.5GPa以上であることがさらに好ましく、3GPa以上であることが特に好ましい。引張強度の上限は特にないが、好ましくは5GPaである。本発明の成形体の場合、他の性能とのバランスも考慮するとより好ましくは4.5GPaである。
【0024】
<要件(VI)>
本発明にかかる超高分子量ポリエチレンの一軸延伸成形体の、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分析されるMw(重量平均分子量)とMn(数平均分子量)との比(Mw/Mn)は、好ましくは6以下であり、より好ましくは2~6、さらに好ましくは2~5、特に好ましくは3~5である。Mw/Mnは分子量分布の指標として知られており、Mw/Mnが上記範囲にあることにより、配向度が高くポリマーの末端構造に由来の欠陥が少ないため、より高い放熱性を発現する。一方、Mw/Mnの比が記下限を上回ると、ポリマー鎖の自由末端に由来する構造欠陥により、十分な熱伝導性を示さない場合がある。また、Mw/Mnの比が上記範囲を下回ると、延伸成形性が低下し配向度が低下することに由来して十分な熱伝導性を示さない場合がある。
【0025】
<要件(VII)>
本発明にかかる超高分子量ポリエチレンの一軸延伸成形体は、後述する固相延伸成形法により製造されることが好ましいため、超高分子量ポリエチレンの一軸延伸成形体の有機溶媒含量は、好ましくは100ppm未満である。固相延伸成形法は溶媒を用いずに成形する方法であるため、成形設備が比較的シンプルであり、また環境への悪影響も少ない成形法である。
【0026】
[一軸延伸成形体の製造方法]
本発明にかかる超高分子量ポリエチレンの一軸延伸成形体は、エチレン系重合体粒子を融点以下の温度で圧着させた後に延伸させる、固相延伸成形法によって製造されることが好ましい。具体的には、エチレン系重合体粒子を1MPa以上の圧力で圧着してシート状に成形し、これを比較的高温で引張延伸する方法や、ロールなどを用いて圧力をかけながら延伸する方法が挙げられる。このような圧着工程や延伸工程における成形温度は、エチレン系重合体粒子の融点以下であることが好ましいが、実質的に溶融流動が起こらなければ、融点以上での成形となっても構わない。該固相延伸成形法は、特開平7-156173号公報、特開平9-254252号公報、特開昭63-41512号公報、特開昭63-66207号公報などに記載されている。
【0027】
[エチレン系重合体粒子]
本発明にかかる超高分子量ポリエチレンの一軸延伸成形体は、前記固相延伸成形法により成形する場合において、下記要件(i)を満たすエチレン系重合体粒子を用いることが好ましい。該エチレン系重合体粒子は、固相延伸成形法により成形する場合、極めて高い延伸性能を示す。以下、下記要件(i)について説明する。
(i)窒素ガス吸着法にて測定された吸脱着等温線からBET法により求められる比表面積が、2.00m2/gより大きく、30.0m2/g以下である。
【0028】
<要件(i)>
前記比表面積とは、窒素ガス吸着法にて測定された吸脱着等温線からBET法により求められる比表面積の全てを合計した全比表面積を意味し、2.00m2/gより大きく、30.0m2/g以下であり、好ましくは2.50~28.0m2/g、より好ましくは3.00~26.0m2/gである。前記比表面積が前記範囲内であることにより、本発明の一軸延伸成形体は、放熱部材として特に高い放熱特性を示す。これは、エチレン系重合体粒子の比表面積が大きく、前記範囲内であることにより、エチレン系重合体の分子量が大きくなった際にも粒子同士の圧着性が良好となり、高い延伸倍率での固相延伸成形が可能となることから、配向度が高くなり、高い熱伝導性を発現するものと考えられる。
【0029】
さらに、本発明に用いるエチレン系重合体粒子は、下記要件(ii)~(vii)のいずれか一つ以上を、上記要件(i)と同時に満たしていることがより好ましい。その中でも下記要件(ii)または(iii)のいずれか、もしくは両方を満たしている態様がさらに好ましい。以下、各要件について順に説明する。
(ii)デカリン溶媒中、135℃で測定した極限粘度[η]が5~50dl/gである。
(iii)嵩密度(B.D.)が0.01~0.20g/mLである。
(iv)マグネシウム含有量が10~2,000ppmである。
(v)1mm×1mmの網目ふるいにて振とう時間10分、振幅0.5mm、インターバル15秒でふるった時に、ふるいを通過しない粒子の含有量が、20質量%以下である。
(vi)エチレン系重合体粒子のアセトン抽出物が、下記一般式[I]の分子骨格を有する化合物(F)を6ppm以上1,000ppm以下の範囲で含む。
【0030】
【化1】
【0031】
(vii)エチレン系重合体粒子を構成するエチレン系重合体は、エチレンの単独重合体、または、エチレンと炭素原子数3~20の直鎖状もしくは分岐状のα-オレフィンとの共重合体である。
【0032】
<要件(ii)>
本発明に用いるエチレン系重合体粒子は、デカリン溶媒中、135℃で測定した極限粘度[η]が5~50dl/gであることが好ましく、10~50dl/gであることがより好ましく、15~45dl/gであることがさらに好ましく、20~40dl/gであることが特に好ましい。極限粘度[η]が前記範囲内であることにより、配向度が高くポリマーの末端構造に由来の欠陥が少ないため、得られる放熱部材はより高い放熱性を発現する。また、得られる延伸成形体の引張弾性率および引張強度にも優れる傾向にある。
【0033】
<要件(iii)>
本発明に用いるエチレン系重合体粒子は、嵩密度(B.D.)が0.01~0.20g/mLであることが好ましく、0.02~0.18g/mLであることがより好ましく、0.03~0.16g/mLであることがさらに好ましく、0.04~0.15g/mLであることが特に好ましい。嵩密度(B.D.)が前記範囲内であることにより、粒子同士の圧着性が良好となり、高い延伸倍率での固相延伸成形が可能となることから、配向度が高くなり、高い放熱性を発現するものと考えられる。
【0034】
<要件(iv)>
後述するエチレン系重合体粒子の製造方法において詳述の通り、製造時にマグネシウムハロゲン化物(好ましくはMgCl2)を用いることで、比表面積の非常に高いエチレン系重合体粒子を生成することができる。製造時に用いたマグネシウムハロゲン化物の一部は、通常、エチレン系重合体粒子中に含められ、そのマグネシウム含有量は、製造時のマグネシウムハロゲン化物の濃度に対応する。エチレン系重合体粒子中のマグネシウム含有量は10~2,000ppmであることが好ましく、20~1,500ppmであることがより好ましく、30~1,000ppmであることがさらに好ましい。上記範囲にあることにより、得られる放熱部材は高い放熱特性を示す傾向にある。
【0035】
<要件(v)>
本発明における粗粒とは、1mm以上の粒子を意味し、1mm×1mmの網目ふるいにて振とう時間10分、振幅0.5mm、インターバル15秒でふるった時に、ふるいを通過しない粒子を指す。エチレン系重合体粒子において、1mm以上の粗粒が多く含まれると、重合後の移送時に十分な流動性が得られず、バルブ、ポンプ、ストレーナー等で閉塞が発生することがある。上記不具合を防止する観点から、エチレン系重合体粒子中の粗粒の含有量は、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、特に好ましくは7質量%以下、特により好ましくは3質量%以下、とりわけ好ましくは1.5質量%以下である。粗粒が少ないと加工プロセスにおけるパウダーの搬送性が良いため、均一にパウダーを賦形することができ、放熱部材としても品質が安定する。
【0036】
<要件(vi)>
本発明に用いるエチレン系重合体粒子のアセトン抽出物は、下記一般式[I]の分子骨格を有する化合物(F)を含んでいることが好ましい。前記エチレン系重合体粒子のアセトン抽出物とは、本発明に用いるエチレン系重合体粒子とアセトンとを接触させた後に、アセトンへ溶出される成分である。一般に、アセトンへ溶出される成分は、エチレン重合体粒子の構成成分のうち、重合操作の段階で使用される触媒や添加剤等である。重合後に使用される添加剤等の成分も前記アセトン抽出物に含まれる。以下、一般式[I]で表される分子骨格を「オキシアルキレン骨格」と呼ぶ場合がある。
【0037】
【化2】
【0038】
前記式[I]中、Rは水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示す。炭素数1~12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基などの直鎖状または分岐状のアルキル基を例示することができるが、Rが水素原子またはメチル基である場合に、重合活性と粗粒発生抑制効果に優れるので好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0039】
上記オキシアルキレン骨格を含む化合物(F)は、重合操作の段階で添加されてもよい添加剤の一つである、帯電防止剤に由来する化合物である。また、重合後にさらに添加されてもよい。このため、前記化合物(F)のエチレン系重合体粒子中の含有量は、重合操作時の化合物(F)の添加量で調節が可能であり、さらに重合後に化合物(F)を添加して調節してもよい。前記化合物(F)が存在することでパウダーの流動性が良くなるため、均一にパウダーを賦形することができる。さらに、化合物(F)を重合後に添加するのではなく重合時に化合物(F)を添加することにより、重合体粒子内部まで化合物(F)が入り込み、延伸性および強度により優れた延伸成形体を得られる傾向にある。
【0040】
前記化合物(F)としては、好ましくは前記一般式[I]で表されるオキシアルキレン骨格中の酸素原子に水素原子が結合した骨格を有する化合物であり、特に好ましくは、下記一般式[F1]、[F2]または[F3]で表される骨格を、分子内に一つまたは二つ以上の複数個持つ化合物であり、これらを制限無く使用できる。
【0041】
【化3】
【0042】
上記式中、Rは上記式[I]で説明するRと同義である。また上記式中、R”は前記Rと同様の原子または基を示し、nおよびmは0または1の整数であり、pは1または2の整数であり、mとpの合計は2である。重合活性と粗粒発生抑制効果の点から、mは0であり、pは2であることが好ましい。
【0043】
前記一般式[F1]で表される骨格を有する化合物としては、ポリオキシアルキレン系化合物を挙げることができ、例えば、ポリオキシアルキレングリコール、エチレンジアミンベースのポリオキシアルキレンポリオール等が挙げられる。
上記一般式[F2]で表される骨格を有する化合物については、特許5796797号公報に記載の脂肪族ジエタノールアミドを好ましく例示することができる。
上記一般式[F3]で表される骨格を有する化合物についても、特許5796797号公報に記載の第3級アミン化合物を好ましく例示することができる。
【0044】
前記化合物(F)の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により特定され、好ましくは500以上30,000以下であり、より好ましくは1,000以上25,500以下であり、さらに好ましくは1,500以上20,000以下,特に好ましくは1,500以上10,000以下である。前記範囲内であると、粗粒の発生量を低くできるため、移送時の管内の流動性が向上し、成形時において均一な成形体が得られる。一方、Mwが小さいと成形時にブリードアウトして品質不良の恐れがあり、Mwが大きいと成形体に異物として組み込まれる場合がある。
【0045】
上記態様を満たす化合物(F)の具体例として、例えば、株式会社ADEKA製の「アデカプルロニック(登録商標)」シリーズが挙げられる。後述する実施例では、その中でも、入手容易性、粗粒発生抑制能力などの観点から、「アデカプルロニック(登録商標)L-71(Mw:3,760)」、「アデカプルロニック(登録商標)L-72(Mw:4,700)」、「アデカプルロニック(登録商標)P-85(Mw:7,430)」、「アデカプルロニック(登録商標)F-68(Mw:15,100)」、「アデカプルロニック(登録商標)F―88(Mw:19,300)」等のポリオキシアルキレングリコール;「アデカプルロニック(登録商標)TR-701(Mw:5,060)」、「アデカプルロニック(登録商標)TR-702(Mw:5,390)」等のエチレンジアミンベースポリオキシアルキレンポリオールを使用しているが、本発明に用いる化合物(F)はこの化合物に何ら限定されるものではない。前記化合物(F)は、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0046】
上記オキシアルキレン骨格は、核磁気共鳴(NMR)スペクトルなどの公知の分析手法によって同定が可能である。また、液体クロマトグラフィー質量(LC-MS)分析から算出される、エチレン系重合体粒子から溶出される化合物(F)の含有量は、エチレン系重合体粒子に対して6ppm以上1,000ppm以下であることが好ましい。化合物(F)の含有量が前記範囲であると、高い延伸倍率での成形が可能なエチレン系重合体粒子で、かつ、粗粒の発生を抑制できるため、移送時の管内の流動性が向上する。また、さらに粗粒の発生を抑制することができる点から、より好ましくは8ppm以上600ppm以下であり、さらに好ましくは10ppm以上400ppm以下である。
【0047】
<要件(vii)>
本発明に用いるエチレン系重合体粒子を構成するエチレン系重合体は、エチレンの単独重合体、または、エチレンと炭素原子数3~20の直鎖状もしくは分岐状のα-オレフィンとの共重合体であり、好ましくはエチレンの単独重合体である。
【0048】
ここで、エチレンと共重合する前記炭素原子数3~20のα-オレフィンとして、好ましくは炭素原子数3~10のα-オレフィンであり、より好ましくは炭素原子数3~8のα-オレフィンである。具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセンなどの直鎖状オレフィン;4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ブテンなどの分岐状オレフィンを挙げることができ、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテンが好ましい。前記α-オレフィンは、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。コモノマーの含有量、すなわちエチレンと共重合するα-オレフィンから導かれる繰り返し単位の全繰り返し単位に対するモル比は、5mol%以下、好ましくは2mol%以下、より好ましくは0.5mol%以下である。
【0049】
本発明に用いるエチレン系重合体がエチレン単独重合体である場合、分岐による構造欠陥が少ないため、延伸性に優れ、高強度の延伸成形体が得られる。このように、結晶化度を高め、延伸性および強度特性を高める観点からは、エチレンの単独重合体であることが好ましい。一方、エチレンとα-オレフィンとの共重合体である場合、コモノマーの含有量が上述した範囲より多いと、コマノマーに由来する分岐が構造欠陥となり十分な強度が得られない。なお、エチレン系重合体中のエチレン含有量は、例えば、赤外吸収スペクトル測定のような公知の測定方法により測定が可能である。
【0050】
<エチレン系重合体粒子の製造方法>
本発明に用いるエチレン系重合体粒子は、後述する製造方法により製造することができる。該製造方法は、下記工程[α]および[β]を含むことを特徴とする。
【0051】
[α]少なくとも、金属ハロゲン化物とアルコールとを炭化水素溶媒中で接触させる工程(1)、ならびに、前記工程(1)で得られた成分と有機アルミニウム化合物および/または有機アルミニウムオキシ化合物とを接触させる工程(2)を経由して懸濁液を得る工程<i>、
前記工程<i>で得られた懸濁液と、下記一般式[II]で表される遷移金属化合物(B)とを接触させる工程<ii>、ならびに
前記一般式[I]で表される分子骨格を含む化合物(F)を添加する工程<iii>
を含み、前記工程<iii>を、前記工程<i>と前記工程<ii>の間、および/または前記工程<ii>の後に実施してオレフィン重合用触媒含有液を製造する工程
【0052】
[β]前記重合用触媒含有液の存在下、エチレンを単独重合させることにより、または、エチレンと炭素原子数3~20の直鎖状もしくは分岐状のα-オレフィンとを共重合させることによりエチレン系重合体粒子を製造する工程
【0053】
【化4】
【0054】
式[II]中、Mはチタン、ジルコニウム、またはハフニウムを示し、
mは1~4の整数を示し、
1~R5は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、これらのうちの2個以上が互いに連結して環を形成していてもよく、
6は、水素原子、1級または2級炭素のみからなる炭素数1~4の炭化水素基、炭素数4以上の脂肪族炭化水素基、アリール基置換アルキル基、単環性または二環性の脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン原子から選ばれ、
nは、Mの価数を満たす数であり、
Xは、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、ヘテロ環式化合物残基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、nが2以上の場合は、Xで示される複数の基は互いに同一でも異なっていてもよく、またXで示される複数の基は互いに結合して環を形成してもよい。
【0055】
(金属ハロゲン化物)
前記工程[α]で用いられる金属ハロゲン化物としては、上述した範囲の比表面積を有するエチレン系重合体粒子を得るために、好ましくはマグネシウムのハロゲン化物を使用する。マグネシウムのハロゲン化物としてより好ましくは、MgI2、MgCl2であり、さらに好ましくはMgCl2である。MgCl2から前記工程<i>で懸濁液を得ることで、比表面積の非常に高いエチレン系重合体粒子を生成することができると考えられる。
【0056】
さらに、用いるマグネシウムのハロゲン化物の前記重合用触媒含有液中の濃度が、エチレン系重合体粒子の比表面積に影響し、前記濃度が高いと比表面積が高くなる傾向にある。前記マグネシウムのハロゲン化物の濃度は、0.10~5.0mmol/Lであることが好ましく、0.20~3.0mmol/Lであることがより好ましく、0.30~2.0mmol/Lであることがさらに好ましい。
【0057】
上述した通り、製造時に用いたマグネシウムハロゲン化物の一部は、通常、エチレン系重合体粒子中に含められ、そのマグネシウム含有量は、製造時のマグネシウムハロゲン化物の濃度に対応する。本発明に用いるエチレン系重合体粒子は、上記効果を奏する点から、マグネシウムを10~2,000ppm含むことが好ましく、20~1,000ppm含むことがより好ましく、30~500ppm含むことがさらに好ましい。
【0058】
(アルコール)
前記工程[α]で用いられるアルコールとしては、炭素原子数1~25のアルコールが挙げられる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、2-エチルヘキサノール、オクタノール、ドデカノール、オクタデシルアルコール、オレイルアルコール、2-ブチルオクタノール、2-ヘキシルデカノール、2-ヘキシルドデカノール、2-オクチルデカノール、2-オクチルドデカノール、イソヘキサデカノール、イソエイコサノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、クミルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、イソプロピルベンジルアルコールなどの炭素原子数1~25のアルコール類;トリクロロメタノール、トリクロロエタノール、トリクロロヘキサノールなどの炭素原子数1~25のハロゲン含有アルコール類;フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ノニルフェノール、クミルフェノール、ナフトールなどの低級アルキル基を有してもよい炭素原子数6~25のフェノール類等が挙げられる。
【0059】
(有機アルミニウム化合物)
前記工程[α]において、有機アルミニウム化合物としては、下記式(Al-1)で表される化合物を用いることができる。
a nAlX3-n ・・・(Al-1)
(式(Al-1)中、Raは炭素原子数1~12の炭化水素基であり、Xはハロゲン原子または水素原子であり、nは1~3の整数である。)
【0060】
前記炭素原子数1~12の炭化水素基は、例えば、炭素原子数1~12のアルキル基、炭素原子数3~12のシクロアルキル基または炭素原子数6~12のアリール基であり、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、トリル基などである。
【0061】
前記式(Al-1)で表される有機アルミニウム化合物としては、具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリ2-エチルヘキシルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム;イソプレニルアルミニウムなどのアルケニルアルミニウム;ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジイソプロピルアルミニウムクロリド、ジイソブチルアルミニウムクロリド、ジメチルアルミニウムブロミドなどのジアルキルアルミニウムハライド;メチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、イソプロピルアルミニウムセスキクロリド、ブチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキブロミドなどのアルキルアルミニウムセスキハライド;メチルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、イソプロピルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムジブロミドなどのアルキルアルミニウムジハライド;ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどのアルキルアルミニウムハイドライドなどが挙げられる。
【0062】
また、前記工程[α]において、有機アルミニウム化合物として、下記式(Al-2)で表される化合物を用いることもできる。
a nAlY3-n ・・・(Al-2)
(式(Al-2)中、Raは上記式(Al-1)と同様の置換基であり、Yは-ORb、-OSiRc 3、-OAlRd 2、-NRe 2、-SiRf 3、または-N(Rg)AlRh 2で表される基であり、nは1~2の整数であり、Rb、Rc、RdおよびRhは、メチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基などであり、Reは水素原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基、フェニル基、トリメチルシリル基などであり、RfおよびRgは、メチル基、エチル基などである。)
【0063】
前記式(Al-2)で表される有機アルミニウム化合物としては、具体的には、以下のような化合物が用いられる。
(i)Ra nAl(ORb3-nで表される化合物
前記化合物としては、例えば、ジメチルアルミニウムメトキシド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジイソブチルアルミニウムメトキシド、ジエチルアルミニウム-2-エチルヘキソキシドなどのアルキルアルミニウムアルコキシドが挙げられる。
(ii)Ra nAl(OSiRc 33-nで表される化合物
前記化合物としては、例えば、Et2Al(OSiMe3)、(iso-Bu)2Al(OSiMe3)、(iso-Bu)2Al(OSiEt3)が挙げられる。
(iii)Ra nAl(OAlRd 23-nで表される化合物
前記化合物としては、例えば、Et2AlOAlEt2、(iso-Bu)2AlOAl(iso-Bu)2が挙げられる。
(iv)Ra nAl(NRe 23-nで表される化合物
前記化合物としては、例えば、Me2AlNEt2、Et2AlNHMe、Me2AlNHEt、Et2AlN(Me3Si)2、(iso-Bu)2AlN(Me3Si)2が挙げられる。
(v)Ra nAl(SiRf 33-nで表される化合物
前記化合物としては、例えば、(iso-Bu)2AlSiMe3が挙げられる。
(vi)Ra nAl〔N(Rg)AlRh 23-nで表される化合物
前記化合物としては、例えば、Et2AlN(Me)AlEt2、(iso-Bu)2AlN(Et)Al(iso-Bu)2が挙げられる。
【0064】
また、前記工程[α]において、有機アルミニウム化合物として、第I族金属とアルミニウムとの錯アルキル化物である、下記式(Al-3)で表される化合物を用いることができる。
1AlRj 4 ・・・(Al-3)
(式(Al-3)中、M1はLi、Na、またはK等の第I族金属原子であり、Rjは炭素原子数1~15の炭化水素基である。)
【0065】
前記式(Al-3)で表される有機アルミニウム化合物としては、具体的には、LiAl(C254、LiAl(C7154などが挙げられる。
【0066】
上述した有機アルミニウム化合物のうち、前記式(Al-1)で表される化合物が好ましく、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジイソブチルアルミニウムハイドライドが特に好ましい。
【0067】
[放熱部材]
本発明にかかる超高分子量ポリエチレンの一軸延伸成形体は、発熱体(熱源)からの熱の吸収性および吸収した熱の伝導性が良好であるため、放熱部材として用いることが好ましい。また、前記一軸延伸成形体はテープ状の成形体であることから、種々の放熱部材の中でも、放熱テープとしての使用が好適である。
【0068】
前記放熱部材(好ましくは放熱テープ)は、本発明にかかる一軸延伸成形体を単層で用いてもよく、複数重ねて多層で用いてもよい。放熱テープとして用いる場合、厚さの制限は特にないが、好ましくは10~500μmである。前記放熱部材には、1種または2種以上の本発明の一軸延伸成形体を用いることができる。さらに、本発明の効果を損なわない限りにおいて、熱源の種類および用途に応じて、粘着剤層、剥離層、金属層、耐火樹脂層等のその他の層を設けてもよい。
【0069】
前記放熱部材(好ましくは放熱テープ)の放熱性については、例えば、サーモカメラを用いて該放熱テープを実装した放熱部材複合体の温度を測定することで評価が可能である。本発明の放熱部材複合体の温度は、放熱前の熱源の温度、周囲温度、および各種用途により異なる。一般に、放熱部材を構成する延伸成形体の熱伝導率が高いと、該放熱部材は、熱源の有する温度から放熱後に一定となる温度までの低下速度が早い、熱源における放熱後の温度がより低い、熱源と放熱部材を接触させ続けた際の放熱部材の温度の上昇が高いなどの特性を示す。すなわち、放熱部材を構成する延伸成形体の熱伝導性が高いことは、該放熱部材の放熱性に優れるといえる。本発明においては、熱源と放熱部材を接触させ続けて一定時間経過後に、熱源を基準としたある点における放熱部材の温度についてサーモカメラを用いて確認し、その温度を比較することでその放熱性を評価した。
【0070】
[熱源]
本発明の放熱部材複合体は、前述の超高分子量ポリエチレンの一軸延伸成形体と熱源とを構成要素とすることを特徴としている。前記熱源については特に限定はしないが、金属板や電子デバイスに使われるチップや基盤、人肌などが挙げられる。熱源の温度についても周囲温度に対して高温であれば特に限定しないが、好ましくは30~130℃、より好ましくは35~100℃である。
【0071】
本発明の放熱部材複合体は、さらに、放熱・排熱を促進させるヒートシンク等の金属部品またはセラミック部品を備えていてもよい。例えば、熱源として電子デバイスを用いる場合、該デバイスとヒートシンクとの間に前記一軸延伸成形体で構成される放熱テープを設けることで、該デバイスから発生する熱を効率よく外部に放熱することができる。
【0072】
本発明に用いられる一軸延伸成形体は、固相延伸成形法により作製されることで、環境負荷が少なく、成形体の溶剤汚染も避けることが可能である。また、上記エチレン系重合体粒子を用いることで、前記固相延伸成形法によって、高い熱伝導性を有し、かつ目的とするサイズの成形が容易となり、放熱性の優れた放熱部材を得ることができる。さらに、該延伸成形体により構成される放熱部材(好ましくは放熱テープ)は、金属製またはセラミック製の放熱部材に比べて、柔軟かつ軽量であるため、上述した種々の熱源に実装可能である。
【実施例0073】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0074】
[エチレン系重合体粒子の物性測定]
以下の実施例において、エチレン系重合体粒子の比表面積、極限粘度[η]、嵩密度は、下記の方法に拠って測定した。
【0075】
(比表面積:要件(i))
比表面積については、高精度ガス吸着装置(マイクロトラック・ベル製 LA-950)を用いて窒素ガス吸着法にて吸脱着等温線を測定した。解析法としてBET法を用いて比表面積を求めた。測定前に、前処理装置(マイクロトラック・ベル製 BELPREP VAC-II)にて脱気処理を行った。
【0076】
(極限粘度[η]:要件(ii))
極限粘度[η]は、エチレン系重合体粒子をデカリンに溶解させ、全自動粘度測定装置(離合社製 VMR-053UPC)を用いて、温度135℃のデカリン中で測定した。
【0077】
(嵩密度:要件(iii))
エチレン系重合体粒子の嵩密度は、規格形カサ比重測定器(筒井理化学機器製 JIS K-6720 塩化ビニール用)を用いて測定した。予め重量を測定した付属の100mLSUS容器をセットし、規格形カサ比重測定器(筒井理化学機器製 JIS K-6720 塩化ビニール用)のロートからパウダーを充填した。SUS容器上の余分なパウダーをヘラで落として正確に100mLに調製して再度重量を測定し、嵩密度を算出した。
【0078】
[一軸延伸成形体の物性測定]
以下の実施例において、一軸延伸成形体の熱伝導率、引張弾性率、および引張強度は下記の方法に拠って測定した。なお、一軸延伸成形体の極限粘度[η](要件(III))の測定は、上記エチレン系重合体粒子の極限粘度[η]の測定と同様の測定方法で実施した。
【0079】
(熱伝導率[λ]:要件(II))
一軸延伸成形体の延伸方向の熱伝導率は、以下(1)~(5)のようにして測定した。
(1)一軸延伸成形体を長さ(延伸方向:X方向)30mm、幅(延伸方向に直交する方向:Y方向)3mmの短冊状に切り出して、短冊状サンプルを得る。
(2)短冊状サンプルの片面に、受光膜(Bi薄膜、厚み:約1000Å)を蒸着して、熱拡散率測定用サンプルを得る。
(3)光交流法を原理とする熱拡散率測定装置(アルバック理工社製 LaserPIT)を用いて、温度25℃における熱拡散率測定用サンプルの延伸方向(X方向)の熱拡散率α(m2/s)を測定する。
(4)短冊状サンプルを質量約5mgとなる大きさ(直径約5mmの測定用アルミパンに入る大きさ)に切り出し、示差走査熱量(DSC)測定用サンプルを得る。示差走査熱量計を用いて、測定用アルミニウムパンにDSC測定用サンプルを設置し、比熱Cp(J/(kg・K))及び密度ρ(kg/m3)を測定する。
(5)上記各測定値を下記式にあてはめ、熱伝導率λ(W/mK)を求める。
熱伝導率[λ]=α×ρ×Cp
【0080】
(引張弾性率:要件(IV)/引張強度:要件(V))
引張試験機(インストロン社製、万能試験機5982型)を用いて、温度23℃、チャック間10mm、引張速度50mm/minの条件で、幅を約2mmに調整した延伸成形体の延伸方向の引張弾性率および破断強度を測定し、該破断強度を引張強度とした。
【0081】
[実施例1]
(エチレン系重合体粒子の製造)
<成分(i)の調製>
充分に窒素置換した撹拌機付き1Lガラス容器に、無水塩化マグネシウム66.1g(0.694mol)、脱水デカン246gおよび2-エチルヘキシルアルコール271g(2.08mol)を装入し、145℃で4時間反応を行い、Mg原子換算で1.0mol/Lの均一透明な成分(i')を得た。
前記成分(i')を脱水デカンで希釈し、Mg原子換算で0.25mol/Lの均一透明な成分(i)を得た。
【0082】
<エチレン重合>
充分に窒素置換した、撹拌機、および邪魔板を設置した1L反応器に脱水デカン500mlを装入後、エチレン置換を行った。60℃に昇温後、トリイソブチルアルミニウムをAl原子換算で1.39mmol装入した後、前記成分(i)をMg原子換算で0.44mmol装入して15分間撹拌した。その後40℃まで冷却し、下記遷移金属化合物(B-1)をTi原子換算で2.2μmolを装入し、エチレン供給しながら3分間撹拌した。次いで、帯電防止剤である化合物(F)としてアデカプルロニック(登録商標)L-71(株式会社ADEKA製)を2.95mg、水素を3.75mL装入した後、全圧が0.5MPaGとなるようにエチレンガスを供給しながら、50℃で117分間重合反応を行った。重合終了後、重合体をデカンでろ過洗浄し、ヘキサン洗浄後80℃で18時間減圧乾燥した。得られたエチレン系重合体粒子は、25.5gであり、[η]は37.1dl/g、嵩密度は0.068g/ml、比表面積は11.4m2/gであった。
【0083】
【化5】
【0084】
(一軸延伸成形体の作製)
真鍮製の金型に製造したエチレン系重合体のパウダーを充填し、油圧プレス機を用いて加熱プレス(125℃、40MPa、1分間)を行った。その後、冷却プレスを行い圧縮シート(厚さ1mm、幅30mm、長さ450mm)を得た。次に、プレヒーター(110℃)で予熱した圧縮シートを、加熱ロールプレス機(ロール直径:250mmφ、130℃、ロール速度0.3m/分、ギャップ143μm)を用いて圧延し、圧延されたシートを加熱ロール直下のピンチロール(ロール速度2m/min)で引き取ることにより、加熱ロール上で予備延伸した。予備延伸されたテープ状の成形体を135℃に設定した熱板の間を通るようにして送り、ピンチロール(ロール速度0.2m/min)と引き取りピンチロール(ロール速度0.8m/min)の速度差により1次延伸を行った。さらに、熱板の設定温度を140℃に変更し、1次延伸により得られた成形体を、送りピンチロール(ロール速度0.2m/min)と巻き取りのピンチロール(ロール速度0.47m/min)にて同様に処理し、2次延伸を行った。得られた延伸成形体を450mmに切り出して秤量し、原反の圧縮シートの重量を除すことにより、延伸倍率を求めた。得られた一軸延伸成形体の延伸倍率は245倍、テープ幅は1.2cm、[η]は37.1dl/g、熱伝導率は63W/Kmであった。
【0085】
(放熱部材複合体の作製)
プレス機を用いて、100℃に加熱した2枚の熱板で、得られた一軸延伸成形体14枚を重ね厚さ約200μmとした延伸成形体層(放熱部材)を挟み、放熱部材複合体を作製した。作製した放熱部材複合体の温度を、厚さ方向に対して垂直上方5cmの位置から、サーモカメラ(フリアーシステムズ社製、FLIRi5)を用いて測定した。温度の測定位置は、該放熱部材を熱板で挟んだ端から1.5cmの位置とした。放熱部材複合体作製20分後の温度を用いて放熱部材複合体の放熱性の評価を行った。図1は、放熱部材複合体作製時の全体構造を側面から見た模式図であり、図中の●が前述した温度の測定位置を示す。サーモグラフィーで測定した放熱部材複合体作製20分後の放熱部材の温度は、32.0℃であった。
【0086】
[実施例2]
(一軸延伸成形体の作製)
実施例1と同じエチレン系重合体粒子を用いて、一次延伸における引き取りピンチロールのロール速度を0.65m/minに変更した以外は実施例1と同様にして一軸延伸成形体を得た。得られた一軸延伸成形体の延伸倍率は160倍、テープ幅は1.2cm、[η]は37.1dl/g、熱伝導率は60W/Kmであった。
【0087】
(放熱部材複合体の作製)
プレス機を用いて、100℃に加熱した2枚の熱板で、得られた一軸延伸成形体11枚を重ね厚さ約200μmとした延伸成形体層(放熱部材)とを挟み、放熱部材複合体を作製した。実施例1と同様の方法で放熱性の評価を行った。サーモグラフィーで測定した放熱部材複合体作製20分後の放熱部材の温度は、31.8℃であった。
【0088】
[比較例1]
(一軸延伸成形体の作製)
エチレン系重合粒子として、ハイゼックスミリオン540RU(三井化学株式会社製、極限粘度[η]23.6dl/g)を用いた。ステンレス製の金型にエチレン系重合体のパウダーを充填し、油圧プレス機を用いて加熱プレス(140℃、40MPa、10分間)を行った。その後、冷却プレスを行い圧縮シート(厚み1mm、幅30mm、長さ450mm)を得た。次に、プレヒーター(110℃)で予熱した圧縮シートを、加熱ロールプレス機(ロール直径:250mmφ、130℃、ロール速度0.2m/分、ギャップ143μm)を用いて圧延し、圧延されたシートを加熱ロール直下のピンチロール(ロール速度0.5m/min)で引き取ることにより、加熱ロール上で予備延伸した。予備延伸されたテープ状の成形体を135℃に設定した熱板の間を通るようにして送り、ピンチロール(ロール速度0.2m/min)と引き取りピンチロール(ロール速度0.7m/min)の速度差により1次延伸を行った。さらに、熱板の設定温度を140℃に変更し、1次延伸により得られた成形体を、送りピンチロール(ロール速度0.2m/min)と巻き取りのピンチロール(ロール速度0.52m/min)にて同様に処理し、2次延伸を行った。さらに、熱板の設定温度を146℃に変更し、2次延伸により得られた成形体を、送りピンチロール(ロール速度0.2m/min)と巻き取りのピンチロール(ロール速度0.41m/min)にて同様に処理し、3次延伸を行った。得られた延伸成形体を450mmに切り出して秤量し、原反の圧縮シートの重量を除すことにより、延伸倍率を求めた。得られた延伸成形体の、延伸倍率は150倍、テープ幅は1.2cm、[η]は23.6dl/g、熱伝導率は54W/Kmであった。
【0089】
(放熱部材複合体の作製)
プレス機を用いて、100℃に加熱した2枚の熱板で、得られた一軸延伸成形体11枚を重ね厚さ約200μmとした延伸成形体層(放熱部材)とを挟み、放熱部材複合体を作製した。実施例1と同様の方法で放熱性の評価を行った。サーモグラフィーで評価した放熱部材複合体作製20分後の放熱部材の温度は29.9℃であった。
【0090】
[比較例2]
(エチレン系重合体粒子の製造)
<成分(ii)の調製>
国際公開第2010/055652号パンフレットに記載の方法(予備実験1および実施例5)に準じて、固体状アルミノキサン(成分(ii))の調製を実施した。ただし、トリメチルアルミニウムの発火等の安全性に配慮して、当該文献に開示されている条件の約1/6倍の濃度で実施し、4.6μmの成分(ii)を得た。
【0091】
<エチレン重合>
充分に窒素置換した、撹拌機、および邪魔板を設置した1L反応器に脱水デカン500mlを装入後、エチレン置換を行った。トリノルマルオクチルアルミニウムをAl原子換算で0.60mmol装入した。45℃に昇温後、前記成分(ii)をAl原子換算で2.08mmol装入し、前記遷移金属化合物(B-1)をTi原子換算で8.33μmolを装入し、次いで、帯電防止剤である化合物(F)としてアデカプルロニック(登録商標)L-71を24.0mg、水素を3.75mL装入した後、全圧が0.65MPaGとなるようにエチレンガスを供給しながら、50℃で257分間重合反応を行った。重合終了後、重合体をデカンでろ過洗浄し、ヘキサン洗浄後80℃で18時間減圧乾燥した。得られたエチレン系重合体粒子は、123.9gであり、[η]は36.1dl/g、嵩密度は0.26g/ml、比表面積は0.05m2/gであった。
【0092】
(一軸延伸成形体の作製)
得られたエチレン系重合粒子を用いて、固相延伸成形を試みたが、圧縮シートに十分な強度がなく、延伸成形体を得ることができなかった。このため、延伸成形体および放熱部材複合体の評価を行うことができなかった。
【0093】
【表1】
【0094】
実施例1、2および比較例1の放熱性をサーモグラフィーにより比較したところ、実施例1および2の方が、比較例1に比べて放熱部材の温度が高かった。このことから、実施例1および2で用いた一軸延伸成形体がより高い熱伝導性を有し、放熱部材の放熱性が高いことが示された。また、重合体粒子として、比表面積が前記要件(i)を満たさないエチレン系重合体粒子を用いたところ(比較例2)、固相延伸成形法によるシート作製が困難であった。
【符号の説明】
【0095】
1 サーモカメラ
2 プレス機
3 熱板
4 放熱部材(延伸成形体層)
図1