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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132849
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】盛上げタップ
(51)【国際特許分類】
   B23G 7/00 20060101AFI20230914BHJP
   B23G 5/06 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
B23G7/00 Z
B23G5/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038410
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】591131822
【氏名又は名称】株式会社彌満和製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】小島 祐人
(72)【発明者】
【氏名】吉葉 楓
(72)【発明者】
【氏名】赤木 貞之
(57)【要約】
【課題】より良好なめねじを形成することができる盛上げタップを提供する。
【解決手段】被加工物の下穴を塑性変形させてめねじを形成する盛上げタップ1が、複数のねじ山10を備えたねじ部4と、ねじ部4を分断するように長手方向に設けられた複数の溝部5と、を有し、ねじ山10の外径部11の幅が、溝部5に近いほど狭くなるように構成されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の下穴を塑性変形させてめねじを形成する盛上げタップであって、
複数のねじ山を備えたねじ部と、前記ねじ部を分断するように長手方向に設けられた複数の溝部と、を有し、
前記ねじ山の外径部の幅が、前記溝部に近いほど狭くなるように構成されていることを特徴とする盛上げタップ。
【請求項2】
前記ねじ山において、外径部の逃げ角が有効径部の逃げ角よりも小さい請求項1に記載の盛上げタップ。
【請求項3】
前記外径部の逃げ角が6°~12°の範囲であり且つ前記有効径部の逃げ角が9°~16°の範囲であって、これら範囲において、前記外径部の逃げ角が前記有効径部の逃げ角よりも1°~5°だけ小さい請求項2に記載の盛上げタップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、盛上げタップに関する。
【背景技術】
【0002】
被加工物にめねじを形成するための工具として、盛上げタップが公知である(特許文献1)。盛上げタップでは、ドリル等で下穴が加工された被加工物に対し、つる巻き線状に形成された成形部分であるねじ部を回転させながら下穴に徐々に食い込ませ、下穴部分を塑性変形させることによって、めねじが形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-148430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、盛上げタップのねじ部による被加工物の下穴の塑性変形が開始すると、その変形抵抗によって盛上げタップのねじ部の山頂部分である外径部及びフランク面に高い圧力が加わる。その結果、工具と被加工物の激しい摩擦による発熱と、被加工物の塑性変形に伴う発熱によって、盛上げタップと被加工物とが高温となる。また、被加工物の下穴の表面は盛上げタップのねじ部によって強く押圧され、金属組織が延ばされる。その結果、表層の金属組織が剥離する。盛上げタップとの接触面の高い圧力と上述した高温とによって、剥離した金属組織が凝着物としてねじ部の外径部及びフランク面に凝着する現象が生じる。凝着物がねじ部の表面に付着すると、形成されためねじの表面粗さが粗くなり且つめねじの精度低下が起き、その結果、形成されためねじによる締結力がより弱くなる。また、凝着物が脱落するとき、盛上げタップの表面を傷つけるため、工具寿命低下にもつながる。
【0005】
本発明は、より良好なめねじを形成することができる盛上げタップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、被加工物の下穴を塑性変形させてめねじを形成する盛上げタップであって、複数のねじ山を備えたねじ部と、前記ねじ部を分断するように長手方向に設けられた複数の溝部と、を有し、前記ねじ山の外径部の幅が、前記溝部に近いほど狭くなるように構成されていることを特徴とする盛上げタップが提供される。
【0007】
前記ねじ山において、外径部の逃げ角が有効径部の逃げ角よりも小さくてもよい。前記外径部の逃げ角が6°~12°の範囲であり且つ前記有効径部の逃げ角が9°~16°の範囲であって、これら範囲において、前記外径部の逃げ角が前記有効径部の逃げ角よりも1°~5°だけ小さくてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の態様によれば、より良好なめねじを形成することができる盛上げタップを提供するという共通の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態による盛上げタップの正面図である。
図2図2は、図1の線A-Aにおける断面図である。
図3図3は、ねじ部の拡大図である。
図4図4は、ねじ部のねじ山の拡大図である。
図5図5は、ねじ部のねじ山の縦断面図である。
図6図6は、盛上げタップの製造方法を示す模式図である。
図7図7は、盛上げタップによって形成されためねじの拡大写真である。
図8図8は、盛上げタップによってめねじを形成するときのタッピングトルクの時系列的変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に亘り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
【0011】
図1は、本発明の実施形態による盛上げタップ1の正面図である。
【0012】
盛上げタップ1は、シャンク2と加工部3とを有している。盛上げタップ1は、シャンク2がチャックに把持されることによって加工機の主軸に取り付けられる。盛上げタップ1には、被加工物との摩擦抵抗を低減するために、TiN、TiCN、AlCrN、CrTiN等の硬質被膜が施されるか、又は、酸化や窒化等の表面処理が施されている。加工部3は、つる巻き線状に形成されたねじ部4と、ねじ部4を分断するように長手方向に設けられた複数の溝部5とを有している。溝部5を介して切削油剤が供給される。複数の溝部5は、例えば5つの溝部5であるが、2つ又は3つ等その他の数の溝部5であってもよい。複数の溝部5は、周方向に沿って等間隔に配置されている。
【0013】
ねじ部4の先端には、食付き部4aが設けられている。食付き部4aは、先細りのテーパ状に形成され、ドリル等で加工された被加工物の下穴に盛上げタップ1が入り込むための呼び込みの役割を果たす。すなわち、食付き部4aの先端のねじ外径は下穴の内径より小さく形成されている。食付き部4aのねじの外径及び有効径は、先端側からリードに沿って徐々に増加し、規定のめねじの谷径になるように形成されている。食付き部4aの長さは2~4山である。盛上げタップ1では、食付き部4aが下穴にねじ込まれることによって、下穴の金属組織が徐々に押しつぶされ塑性変形し、下穴の内面が盛り上げられてめねじが形成される。
【0014】
図2は、図1の線A-Aにおける断面図である。詳細には、図2は、ねじ部4のつる巻き線状の谷部12に沿った1リード分の断面図であり、一連一体の断面図となるよう模式的に示されている。図2において、溝部5によって分断された5つのねじ山10が示されている。図3は、ねじ部4の拡大図である。図3(a)は、図1のM部に対応するねじ部4を周方向に展開した図であり、図3(b)は、参考例として従来の盛上げタップのねじ部104を同様に周方向に展開した図である。図3(a)及び図3(b)はいずれも1ランド分のねじ部を示している。図4は、ねじ部4のねじ山10の拡大図である。図4(a)は、1ランド分のねじ山10を軸方向から見た拡大図であり、図4(b)は、図4(a)のねじ山10を軸方向に対して垂直な方向から見た図である。
【0015】
図2図3(a)及び図4を参照すると、盛上げタップ1において、ねじ部4は、ねじ山10と、周方向に沿ったねじ山10の山頂部分(外径)に相当する外径部11と、隣接するねじ山10間に設けられた谷部12とを有している。外径部11は、マージン部であり且つ径方向外方に最も突出した突出部13と、盛上げタップ1の回転時に前方に位置する盛り上げ側逃げ部14aと、盛上げタップ1の回転時に後方に位置する逃げ側逃げ部14bとを有している。要するに盛り上げ側逃げ部14aは、盛り上げ側の端面付近であり、逃げ側逃げ部14bは、逃げ側の端面付近である。突出部13の表面は、図4(a)に示されるように軸方向から見て、円弧状に形成されている。図4(a)には、ねじ部4の有効径(フランク面)のローブ形状である有効径部20が示されている。有効径部20は、外径部11の突出部13に対応する位置において径方向外方に最も突出している。
【0016】
図3(b)を参照すると、従来の盛上げタップのねじ部104は、ねじ山110と、周方向に沿ったねじ山110の山頂部分に相当する外径部111と、隣接するねじ山110間に設けられた谷部112とを有している。外径部111は、マージン部であり且つ径方向外方に最も突出した突出部113と、盛上げタップの回転時に前方に位置する盛り上げ側逃げ部114aと、盛上げタップの回転時に後方に位置する逃げ側逃げ部114bとを有している。要するに盛り上げ側逃げ部114aは、盛り上げ側の端面付近であり、逃げ側逃げ部114bは、逃げ側の端面付近である。図4において、比較のため、従来の盛上げタップの外径部111が示されている。
【0017】
図3(a)及び図4(b)に示されるように、盛上げタップ1の外径部11は、突出部13から盛り上げ側逃げ部14a又は逃げ側逃げ部14bに向かうに従って、幅が狭くなるように形成されている。すなわち、突出部13における外径部11の幅を幅L1とすると、例えば逃げ側逃げ部14bに向かう中間位置における外径部11の幅は幅L2となり、幅L2は幅L1よりも狭い。要するに、ねじ部4のねじ山10の各々の外径部11の幅は、溝部5に近いほど狭くなるように構成されている。また、盛上げタップ1の中心軸線を中心として、外径部11に外接する、すなわち突出部13に外接する仮想円を第1円S1とし、有効径部20に外接する仮想円を第2円S2とする。外径部11の逃げ角について第1円S1を基準にして第1逃げ角αとし、有効径部20の逃げ角について第2円S2を基準にして第2逃げ角βとすると、第1逃げ角αが第2逃げ角βよりも小さくなるように形成されている。
【0018】
他方、図3(b)及び図4(b)に示されるように、従来の盛上げタップの外径部111は、突出部113から盛り上げ側逃げ部114a又は逃げ側逃げ部114bに向かって一定幅L3で形成されている。また、図4(a)に示されるように、従来の盛上げタップの有効径部120は、本発明の実施形態による盛上げタップ1の有効径部20と等しいとして、外径部111は、盛上げタップ1の外径部11よりも径方向内方に傾斜するように形成されている。すなわち、従来の盛上げタップの外径部111の逃げ角について第1円S1を基準にして第3逃げ角γとすると、盛上げタップ1の外径部11の第1逃げ角αは、従来の盛上げタップの外径部111の第3逃げ角γよりも小さくなるように形成されている。また一般に、従来の盛上げタップの外径部111の第3逃げ角γは、有効径部20の第2逃げ角βと等しくなるように形成されている。
【0019】
図5は、ねじ部4のねじ山10の縦断面図である。図5(a)は、図4(a)の線B-Bにおける、すなわち突出部13におけるねじ山10の断面図であり、図5(b)は、図4(a)の線C-Cにおけるねじ山10の断面図であり、図5(c)は、参考例として従来の盛上げタップについて、図4(a)の線C-Cに相当するねじ山110の断面図である。ねじ山10及びねじ山110の角度は60度である。ねじ山10の山頂部分、すなわち外径部11の縦断面形状は、緩やかなR形状であるが、平らであってもよい。
【0020】
図5に示されるように、線B-Bにおけるねじ山10の高さを高さH1とし(図5(a))、線C-Cにおけるねじ山10の高さを高さH2とすると(図5(b))、高さH2は高さH1よりも低く形成されている。他方、略同一位置である線C-Cにおける従来の盛上げタップのねじ山10の高さを高さH3とすると(図5(c))、高さH3は高さH2よりも低く形成されている。一方で、ねじ山10又はねじ山110の山頂部分の幅、すなわち外径部の幅に関し、上述したように、ねじ山10の外径部11の幅L2は、ねじ山110の外径部111の幅L3よりも狭い。
【0021】
図6は、盛上げタップ1の製造方法を示す模式図である。図6(a)は、円形の砥石G1を用いてねじ山10を形成する工程を示しており、図6(b)は、円形の砥石G2を用いてねじ山10に外径部11を形成する工程を示している。図6(a)及び図6(b)の各々において、左図は図2と同様の断面図であり、右図は対応するねじ部4の正面図である。
【0022】
図6(a)を参照すると、砥石G1は、その外周面が60度の三角形断面に形成されている。盛上げタップ1の材料である円柱状のタップ素材30を中心軸線周りに回転させると共に、砥石G1を反対方向に回転させ且つ軸方向に移動させることによって、ねじ山10が形成される。このとき、砥石G1は、形成しようとする部位に応じて、タップ素材30に対して径方向外方又は内方に往復動する。具体的には、ねじ山10の突出部13の部分を形成するときには、砥石G1は最も径方向外方に位置し、ねじ山10の盛り上げ側逃げ部14aの端面及び逃げ側逃げ部14bの端面を形成するときには、砥石G1は最も径方向内方に位置する。図6(a)に示された工程によって、山頂部分が尖ったねじ山10が形成される。次いで、図6(b)の工程に進む。
【0023】
図6(b)を参照すると、ねじ山10の山頂部分の縦断面形状を平ら又は緩やかなR形状とするように、砥石G2は、その外周が平面又は凹面状に形成されている。タップ素材30を中心軸線周りに回転させると共に、砥石G2を反対方向に回転させ且つ軸方向に移動させることによって、尖ったねじ山10に外径部11が形成される。このとき、砥石G2は、形成しようとする部位に応じて、タップ素材30に対して径方向外方又は内方に往復動する。具体的には、ねじ山10の突出部13の部分の外径部11を形成するときには、砥石G2は最も径方向外方に位置し、ねじ山10の盛り上げ側逃げ部14a及び逃げ側逃げ部14bの外径部11を形成するときには、砥石G2は最も径方向内方に位置する。
【0024】
砥石G2の往復動による移動量D2(図6(b)が砥石G1の往復動による移動量D1(図6(a))と等しいと、従来の盛上げタップのように、幅L3の一定幅の外径部111がねじ山110に形成される。他方、砥石G2の往復動による移動量D2が砥石G1の往復動による移動量D1よりも小さくなるようにすると、図5(b)に示されるような盛上げタップ1のような外径部11がねじ山10に形成される。
【0025】
一般に盛上げタップでは、ねじ部のねじ山の山頂部分に相当する外径部が、被加工物の下穴に食い込み、被加工物の材料を左右に押し広げる。そして、ねじ部のねじ山のフランク面が被加工物の材料をさらに押し広げて盛り上げることで、めねじが形成される。従来の盛上げタップでは、上述したように外径部が周方向に亘り一定幅で形成されている。従来の盛上げタップでは有効径部及び外径部の逃げ角又は逃げ量は一定であるため、有効径部と外径部の位置関係が工具の円周方向にも常に一定である。
【0026】
本発明の実施形態による盛上げタップ1では、めねじ形成時の被加工物の材料の盛り上げ量を従来の盛上げタップと同等とするように、有効径部20の逃げ角(第2逃げ角β)を従来の盛上げタップの有効径部120の逃げ角と同等にしている。一方で、めねじ形成時に圧力や温度が高く凝着の生じやすいねじ山10の外径部11の逃げ角である第1逃げ角αを従来の盛上げタップの外径部111の第3逃げ角γよりも小さくしている(図4(a))。そのため、ねじ山10の外径部11の逃げ量は相対的に有効径部20の逃げ量よりも小さくなる。結果として、盛上げタップ1の外径部11は、突出部13から盛り上げ側逃げ部14a又は逃げ側逃げ部14bに向かうに従って、幅が狭くなるように形成される。
【0027】
ところで、一般に、盛上げタップにおいて、凝着を防止するための潤滑油剤として、不水溶性切削油剤が用いられているが、近年の環境意識の高まりから、加工現場では不水溶性切削油剤から水溶性切削油剤への切り替えが進んでいる。水溶性切削油剤は、不水溶性切削油剤に比べて冷却性は高いが、潤滑性は極めて劣る。また。潤滑油剤においてリン及び硫黄の極圧添加剤を含まないものが主流となりつつあり、塑性加工の現場では、水溶性油剤への切り替えが大きな課題となっている。
【0028】
上述した盛上げタップ1によれば、水溶性油剤下においても従来の盛上げタップと比べて、ねじ部4のダメージを軽減し且つ凝着の発生も低減すると共に、タッピングトルクを減少させることができる。また、上述した盛上げタップ1によれば、山頂部分である外径部11における応力集中を緩和し、フランク面における面圧の急激な上昇を抑えることができることから、被加工物の凝着を低減することが可能となる。特に、外径部11の第1逃げ角αが6°~12°の範囲であり且つ有効径部20の第2逃げ角βが9°~16°の範囲であって、これら範囲において、外径部11の第1逃げ角αが有効径部20の第2逃げ角βよりも1°~5°だけ小さいことが好ましい。
【0029】
凝着の低減及びタッピングトルクの減少について、上述した盛上げタップ1を用いて実際にめねじを形成した結果を図7及び図8を参照しながら説明する。
【0030】
図7は、盛上げタップによって形成されためねじの拡大写真である。図7(a)は、盛上げタップ1によって形成されためねじ40の拡大写真であり、図7(b)は、参考例として従来の盛上げタップによって形成されためねじ140の拡大写真である。
【0031】
図7(a)及び図7(b)のいずれにおいても同じ条件及び機械とし、SUS304に対し、20倍に希釈した水溶性切削油剤を用いて15m/minの切削速度でめねじの形成を行った。
【0032】
図7(a)を参照すると、盛上げタップ1によって形成されためねじ40の表面、特にフランク面41において、凹凸や付着物がほとんど観察されず、フランク面41が非常に平滑に形成されていることが分かる。他方、図7(b)を参照すると、従来の盛上げタップによって形成されためねじ140の表面、特にフランク面141において、被加工物を盛上げタップによって加工するときに生じたであろう被加工物の金属組織の剥離による凹凸142や、剥離した金属組織に起因する付着物、すなわち凝着物143が観察される。要するに、本発明の実施形態による盛上げタップ1によれば、従来の盛上げタップよりも被加工物の金属組織の剥離を低減することができ、めねじ40の表面の凹凸及び凝着物の付着を低減することができる。したがって、盛上げタップ1によれば、より良好なめねじを形成することができる。
【0033】
図8は、盛上げタップによってめねじを形成するときのタッピングトルクの時系列的変化を示す図である。図8(a)は、盛上げタップ1によってめねじを形成するときのグラフであり、図8(b)は、参考例として従来の盛上げタップによってめねじを形成するときのグラフである。図8の各グラフにおいて、横軸が時間[s]を示し、縦軸がタッピングトルク[N・m]を示す。
【0034】
図8(a)を参照すると、ポイント50では、盛上げタップ1のねじ山10、特に食付き部4aのねじ山が回転しながら初めて被加工物に作用する。次いで、ポイント51では、食付き部4aがすべて作用した状態である。次いで、盛上げタップ1が回転しながら略線形にタッピングトルクが上昇してめねじの形成が行われる。次いで、ポイント52では、盛上げタップ1を引き抜くため逆回転が開始される。最後に、ポイント53でめねじの加工が完了する。
【0035】
他方、図8(b)を参照すると、図8(a)と同様に、ポイント150では、従来の盛上げタップのねじ山、特に特に食付き部のねじ山が回転しながら初めて被加工物に作用する。次いで、ポイント151では、食付き部がすべて作用した状態である。次いで、盛上げタップが回転しながらタッピングトルクが上昇してめねじの形成が行われる。しかしながら、図8(a)のグラフの傾向と異なり、タッピングトルクの上昇は、略線形ではない。特にポイントEにおいてタッピングトルクが急激に上昇する。タッピングトルクの急激な上昇は、被加工物の金属組織の剥離、さらには凝着が生じた結果、抵抗が増大したことによると考えられる。要するに、本発明の実施形態による盛上げタップ1によれば、従来の盛上げタップよりも容易に良好なめねじを形成することができる。
【0036】
盛上げタップ1では、盛り上げ側逃げ部14aにおける外径部11の幅と逃げ側逃げ部14bにおける外径部11の幅とが等しく形成されているが、逃げ側逃げ部14bにおける外径部11の幅が盛り上げ側逃げ部14aにおける外径部11の幅よりも広くなるように形成してもよい。食付き部4aの勾配角を、図1に示されるように一定ではなく、徐々に盛り上げ量を小さくするように、正面から見て二次曲線形状にしてもよい。盛上げタップ1は、外径基準寸法がM3~M16のめねじを形成する用であることが好ましい。
【符号の説明】
【0037】
1 盛上げタップ
2 シャンク
3 加工部
4 ねじ部
5 溝部
10 ねじ山
11 外径部
12 谷部
13 突出部
14a 盛り上げ側逃げ部
14b 逃げ側逃げ部
20 有効径部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8