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特開2023-13285芳香族置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013285
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】芳香族置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/10 20060101AFI20230119BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
C07C67/10
C07C69/54 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117346
(22)【出願日】2021-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000162076
【氏名又は名称】共栄社化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕充
(72)【発明者】
【氏名】内木場 尊信
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB46
4H006BB14
4H006BC10
4H006BC19
4H006BP30
4H006KA05
4H006KC14
4H006KD10
4H006KE20
(57)【要約】
【課題】低着色、高純度の芳香族置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される反応
【化1】
(式中、nは、1~6である。
Rは、芳香族置換基である。
Xは、ハロゲン基である。
Mは、金属元素である。
R´は、水素又はメチル基である。)
を第2級アルコール溶媒中で行う芳香族置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される反応
【化1】
(式中、nは、1~6である。
Rは、芳香族置換基である。
Xは、ハロゲン基である。
Mは、金属元素である。
R´は、水素又はメチル基である。)
を第2級アルコール溶媒中で行うことを特徴とする芳香族置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項2】
Rは、フェニル基、フェノキシ基又はナフチル基である請求項1記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項3】
第2級アルコールは、2-プロパノール及び/又は2-ブタノールである請求項1又は2記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項4】
Xは、塩素、臭素又はヨウ素である請求項1~3のいずれかに記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項5】
Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム又はマグネシウムである請求項1~4のいずれかに記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルは屈折率などの光学特性や希釈性に優れ、光学用途やインクジェット等の光・熱硬化型樹脂組成物として使用されている。(特許文献1、2等)
【0003】
導光板、光拡散板をはじめとする光学用途や塗料用途と歯科材用途などにおいては視覚に与える影響や樹脂組成物の特性悪化を低くするため各部材においても低着色、高純度の部材が求められる。しかし従来の合成方法においては、着色を生じたり、得られた化合物の純度が充分に高くなかったりする場合がある。このため、精製が必要となり、この精製がコストアップの原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-083697号
【特許文献2】特開2017-128688号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記に鑑み、低着色、高純度の芳香族置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記一般式(1)で表される反応
【0007】
【化1】
(式中、nは、1~6である。
Rは、芳香族置換基である。
Xは、ハロゲン基である。
Mは、金属元素である。
R´は、水素又はメチル基である。)
を第2級アルコール溶媒中で行うことを特徴とする芳香族置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルの製造方法である。
【0008】
Rは、フェニル基、フェノキシ基又はナフチル基であることが好ましい。
第2級アルコールは、2-プロパノール及び/又は2-ブタノールであることが好ましい。
Xは、塩素、臭素又はヨウ素であることが好ましい。
Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム又はマグネシウムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の芳香族置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルの製造方法は、低着色、高純度の芳香族置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、芳香族置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルの製造方法に関するものである。芳香族置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルは、導光板、光拡散板をはじめとする光学用途や塗料用途と歯科材用途などにおいて使用される。
これらの分野においては、視覚に与える影響や樹脂組成物の特性悪化を低くするため、低着色、高純度であることが求められる。
【0011】
本発明者は、製造方法における反応条件を検討し、特定の溶媒中で反応を行うことで、低着色、高純度である芳香族置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルを製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、上述した一般式(1)で表される反応を第2級アルコール溶媒中で行うものである。このような溶媒を選択することで、副反応が低減され、高純度で目的化合物を得ることができ、更に、着色も少なくすることができる。これによって、反応後の精製のコストを低減することができる。
【0013】
本発明は、第2級アルコールを溶媒として使用する点に特徴を有するものである。2級アルコールとしては特に限定されず、2-プロパノール及び/又は2-ブタノールであることが特に好ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、これらの第2級アルコールと混合させることができるその他の溶媒を含有するものであっても差し支えない。
【0014】
なお、このような反応において従来使用されてきた各溶媒については、それぞれ以下のような問題を生じている。
第1級アルコール類:副反応として溶媒自体が反応し、副生成物が増加する。
アミド系溶媒:分解し、着色性の高いアミノ化合物が生成する。
エーテル系、ケトン系溶媒:加熱により過酸化物が生成し、(メタ)アクリル酸エステルの重合につながり、工業的製造用途に向かない。
DMSO等:最終製造物への残留性が高い。
本発明においては、第2級アルコールを溶媒として使用することで、これらの問題を生じることなく、高純度、低着色で目的化合物を得ることができる。
【0015】
以下、一般式(1)で表される本発明の反応について詳述する。
【化2】
(式中、nは、1~6である。
Rは、芳香族置換基である。
Xは、ハロゲン基である。
Mは、金属元素である。
R´は、水素又はメチル基である。)
【0016】
上記反応は、ハロゲン化アルキルと(メタ)アクリル酸金属塩との反応によるエステル基形成反応であり、当該反応自体は公知の反応である。本開示においては、R基中に芳香族置換基を有する点に特徴を有する。芳香族置換基を有する化合物は高屈折率となるため、光学用途において使用されることも多い。光学用途においては、素材が視覚に与える影響を最小化するために着色を可能な限り低減することが求められる。このため特に、不純物及び着色の問題を改善するための精製が重要となる化合物である。従って、高純度、低着色な部材を提供する本発明の好適な対象となる。
【0017】
反応溶媒について本発明者が検討したところ、アルコール系溶媒を使用した場合は、着色が少ないという利点があることが明らかとなった。しかし、副生成物の発生が改善すべき問題点となる。
一方、ROHの一般式で表されるアルコール溶媒を使用した場合の副生成物としては、
【化3】
等がある。このような副反応の生成は、溶媒として使用するアルコールの反応性の影響を大きく受ける。よって、このような副反応が生じにくい第2級アルコールを使用することで本開示の目的が達成されると推測される。
また、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を溶媒として使用した場合は、上記不純物の生成は抑制されるものの、着色という別の問題を生じてしまう。以上の観点から、本発明の反応においては、溶媒として第2級アルコールを使用することで、本発明の目的を好適に達成することができる。
【0018】
上記第2級アルコールとしては、特に限定されるものではないが、安価で低沸点であることが好ましい。溶媒として使用した第2級アルコールは、反応後除去する必要があるためである。このような観点から、2-プロパノール及び/又は2-ブタノールであることが特に好ましい。
なお、反応に際しては、発明の効果に悪影響を与えない範囲でその他の溶媒を併用するものであっても差し支えない。その他の溶媒としては特に限定されるものではなく、上述した第2級アルコールと任意の割合で混合することができ、反応性に大きな影響を与えないものであればよい。
【0019】
上記反応におけるnは1~6である。
【0020】
上記Rは、芳香族置換基である。本発明の反応の機構上、芳香族置換基は特に制限されるものではないが、芳香族炭化水素基を有するものであり、更に、芳香族基と(CH基との間に酸素、窒素、硫黄等の原子を有するものであってもよい。また、芳香環上に炭素数1~3のアルキル基、エステル基、アルコキシ基、水酸基、アミノ基、アミド基等の置換基を有するものであってもよい。さらに、Rがフェニル基、フェノキシ基等の芳香族置換基を有する芳香族炭化水素基であってもよい。更に、フルオレン環、アントラセン環を有する構造等であってもよい。
【0021】
想定分野における工業的原料の入手の容易さから具体的な例としてフェニル基、フェノキシ基、ナフチル基等を挙げることができる。ナフチル基である場合、置換位置は1位であっても2位であってもよい。
【0022】
上記Xは、ハロゲン基である。ハロゲン基としては特に限定されないが、特にCl、Br,Iのいずれかであることが特に好ましい。
上記Mとしては特に限定されず、Li,Na,K,Mg等を挙げることができる。
R´は、水素又はメチル基であり、いずれであってもよい。
【0023】
上記反応を行う場合、両成分は、ほぼ当量で使用することが好ましく、より具体的には、ハロゲン化物/(メタ)アクリル酸金属塩=1.0/1.0~1.0/1.5(モル比)の割合で混合することが好ましい。上記比率は、1.0/1.0~1.0/1.3であることがより好ましく、1.0/1.0~1.0/1.1であることが更に好ましい。
【0024】
上記反応を行う場合、反応を容易に進行させるために相間移動触媒を使用しても良い。
相間移動触媒の例としては4級アンモニウム塩やクラウンエーテルがあげられる。より具体的には工業的原料の入手の容易さからテトラメチルアンモニウムクロリド、トリエチルメチルアンモニウムクロリド、エチルトリメチルアンモニウムクロリド、メチルトリブチルアンモニウムクロリド、メチルトリオクチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、トリメチルステアリルアンモニウムクロリド、ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、トリエチルメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド、エチルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド等の4級アンモニウム塩が好適である。これらの相間移動触媒は1種を単独で使用しても良く、2種以上を組み合わせて使用しても良い。また、それらは水溶液で使用することもできる。
【0025】
上記層間移動触媒を使用する場合、その使用量は、反応原料の合計重量全量に対して、0.1~10.0重量%の範囲内であることが好ましい。当該範囲内とすることで、反応が容易に進行し、加えてそのあとで行う精製の工程で簡便に除去することができる。
【0026】
上記反応を行う場合、反応中の加熱による(メタ)アクリル酸誘導体の重合を防止するため、慣用の重合防止剤を使用することができる。代表例としてキノン類、アルキルフェノール類、アミン類等の重合防止剤があげられるが、これらに限定されない。
【0027】
反応混合物においては、上記第2級アルコール溶液に添加する原料化合物は合計で、20~80重量%の範囲内であることが好ましい。このような範囲内とすることで、効率よく反応を行い、本発明の効果を得ることができる。
【0028】
本発明の製造方法における反応条件は特に限定されず、例えば、60℃以上、上限は還留下で反応させることによって行うことができる。反応温度の下限は、70℃であることがより好ましく、80℃であることが更に好ましい。
【0029】
本発明の方法によって得られた反応生成物は、目的物である芳香族置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルが20重量%以上の割合で含まれることが好ましい。このようなものとすることで、その後で行う精製の工程を簡便に行うことができる点で好ましい。
【0030】
本発明の方法によって得られた反応生成物は、JIS K 0071-1:2017にて規格されているハーゼン単位色数(APHA)が、30以下であることが好ましい。本発明の方法に従うと、このような着色の少ない化合物を得ることができる。
【0031】
本発明の方法によって得られた反応生成物は、その後、選択した製造方法に応じて公知の手法であるろ過或いは非極性溶媒で希釈の後、中性水、酸性水、アルカリ性水による油水分離により脱離塩を除去し、溶媒を留去する等の工程を経ることによって、純度が高い所望の化合物を得ることができる。
【0032】
このような本発明の製造方法によって得られた芳香族置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルは、化学構造由来の光学特性と本発明による低色数、高純度を併せてレンズやディスプレイといった光学用部材、インクジェット塗料、歯科材料等の用途において好適に使用することができる。
【実施例0033】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお文中の部は重量を表す。
【0034】
[実施例・比較例]
・各実施例、比較例における着色の比較としてJIS K 0071-1:2017にて規格されているハーゼン単位色数(APHA)を目視比色により確認し、数値化した。
・各実施例、比較例における純度及び副生成物の含有量についてはジメチルポリシロキサンカラムを備えた島津社製GC-2014によりJIS K 0114:2012に規格されるガスクロマトグラフィーによる面積百分率法により定量した。
また、主生成物及び副生成物の化合物の帰属については上記同条件のガスクロマトグラフィーの元、日本電子社製JMS-Q1050GCにより質量分析を実施し、任意の化合物の分子量を確認することで同定した。
【0035】
実施例1. 4-フェノキシブチルアクリレートの製造方法(2-プロパノール溶媒)
4-フェノキシブチルクロリド32.0g(173.4mmol)とアクリル酸カリウム21.6g(196.4mmol)とテトラメチルアンモニウムクロリド3.2g(27.7mmol)とBHT 15.0mgを2-プロパノール24gに溶解し、90℃で8時間反応させた。反応終了後、シクロヘキサン40gで希釈した。上水40gを加えて撹拌後、静置し、油水分離して水相を廃棄することで生成塩を除去した。これを3回繰り返した後、有機相を回収し、減圧下で溶媒を留去したところ、目的の生成物が得られた。(収量36.4g、収率95.5%)。
この生成物についてはAPHA=20、純度97.6%(m/z=220)、2-プロパノールに由来する副生成物の合計は0.76%(m/z=208、m/z=280)であった。
【0036】
実施例2. 2-フェニルエチルアクリレートの製造方法
実施例1.の原料を2-フェニルエチルブロミド32.0g(173.0mmol)に変更した以外は、実施例1.と同様に合成を実施した。目的の生成物は収量28.9g、収率95.0%で得られ、APHA=40、純度98.2%(m/z=176)であり、2-プロパノールに由来する副生成物の合計は0.36%(m/z=164、m/z=236)であった。
【0037】
実施例3. 4-フェノキシブチルアクリレートの製造方法(2-ブタノール溶媒)
実施例1.の溶媒を2-ブタノールに変更した以外は、実施例1.と同様に合成を実施した。目的の生成物は収量36.0g、収率94.5%で得られ、APHA=20、純度98.4%(m/z=220)であり、2-ブタノールに由来する副生成物の合計は0.52%(m/z=222、m/z=294)であった。
【0038】
実施例4. 1-ナフタレンメチルアクリレートの製造方法
実施例1.の原料を1-ナフタレンメチルクロリド32.0g(181.3mmol)に変更した以外は、実施例1.と同様に合成を実施した。目的の生成物は収量37.0g、収率96.2%で得られ、APHA=40、純度97.7%(m/z=212)であり、2-プロパノールに由来する副生成物の合計は1.56%(m/z=200、m/z=272)であった。
【0039】
比較例1. 4-フェノキシブチルアクリレートの製造方法(溶媒:エタノール)
実施例1.の溶媒をエタノールに変更した以外は、実施例1.と同様に合成を実施した。目的の生成物は収量38.0g、収率99.8%で得られ、APHA=40、純度87.7%(m/z=220)であり、エタノールに由来する副生成物の合計は10.75%(m/z=194、m/z=266)であった。
【0040】
比較例2. 4-フェノキシブチルアクリレートの製造方法(DMF)
実施例1.の溶媒をDMFに変更した以外は、実施例1.と同様に合成を実施した。目的の生成物は収量36.0g、収率94.5%で得られ、APHA=200、純度99.0%(m/z=220)であり、DMFに由来する副生成物の合計は検出下限以下であった。すなわち、純度が高い目的物が得られたものの、着色が著しく、実際の使用に際しては、精製が必要となってしまう。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法によって得られた芳香族置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルは、光学分野、光学用部材、インクジェット塗料、歯科材料等において好適に使用することができる。