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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132932
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】堤防補強構造
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/10 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
E02B3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038534
(22)【出願日】2022-03-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公開日 令和3年12月8日 公開の経緯/内容 第66回水工学講演会 「堤防からの落下流特性に着目した実験と侵食破壊モデルによる堤防天端強化の有効性評価」
(71)【出願人】
【識別番号】590002482
【氏名又は名称】株式会社NIPPO
(71)【出願人】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(72)【発明者】
【氏名】黄 旭
(72)【発明者】
【氏名】植松 祥示
(72)【発明者】
【氏名】田中 規夫
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 善哉
【テーマコード(参考)】
2D118
【Fターム(参考)】
2D118AA02
2D118AA05
2D118AA28
2D118BA06
2D118BA07
2D118CA07
2D118FA01
2D118FB30
2D118GA12
2D118GA31
(57)【要約】
【課題】低コストおよび簡易な施工で堤防の決壊までの時間を引き延ばすことができる堤体補強構造を提供する。
【解決手段】河川2の堤外地21の少なくとも一方側の端部に隣接して設けられる堤防3の堤内側法面31の少なくとも一部に敷設されたシート補強材11を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川の堤外地の少なくとも一方側の端部に隣接して設けられる堤防の堤内側法面の少なくとも一部に敷設されたシート補強材を備える、堤防補強構造。
【請求項2】
前記シート補強材は、平面視格子状の空隙を有する敷設面を備えたジオグリッド材により形成される、
請求項1に記載の堤防補強構造。
【請求項3】
前記ジオグリッド材は、前記堤内側法面の全面に敷設される、
請求項2に記載の堤防補強構造。
【請求項4】
前記堤防は、天端に舗装部を備え、
前記ジオグリッド材は、
前記天端と前記舗装部との間に挟持される固定部を備え、
前記固定部から前記堤内側法面上に延設される、
請求項2または3に記載の堤防補強構造。
【請求項5】
前記シート補強材は、遮水シートにより形成される、
請求項1に記載の堤防補強構造。
【請求項6】
前記遮水シートの下端部に連結される錘部を備える、
請求項5に記載の堤防補強構造。
【請求項7】
前記遮水シートは、前記錘部に巻き付けられ、前記堤内側法面に配置される巻き付け部を備え、
前記巻き付け部は、前記河川の河川水の前記堤防の越水により前記錘部に巻き付けられた構成を解除し、前記堤内側法面に敷設される、
請求項6に記載の堤防補強構造。
【請求項8】
前記錘部および前記巻き付け部は、平時において前記堤内側法面の法肩の上端から傾斜方向中間部の間に備えられる、
請求項7に記載の堤防補強構造。
【請求項9】
前記堤防は、天端に舗装部を備え、
前記遮水シートは、
前記天端と前記舗装部との間に挟持される固定部を備え、
前記固定部から前記堤内側法面上に延設される、
請求項5から8のいずれか一項に記載の堤防補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堤防補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
築堤材料が土である河川の堤防は、台風等に伴う集中豪雨により河川水位が堤防の天端高さ以上となり河川水が堤防を越水した際に裏法尻からの洗掘により崩壊が進行し、水位が下がる前に決壊してしまう問題がある。上記の越水に伴う洗掘による崩壊は、河川の堤防の決壊原因の5割以上を占めている。例えば、2019年に発生した台風19号では、日本全国で140箇所の堤防が河川水の越水に伴う洗掘により侵食され決壊した。
【0003】
我が国では、河川の堤防の決壊への対策について、堤防が決壊するまでの時間を引き延ばし、避難の時間を確保することを基本方針としている。上記の堤防が決壊するまでの時間を引き延ばす対策方法としては、例えば、堤防の高さを嵩上げする方法がある。また、例えば堤防の裏法面に法面を防護する保護シートと、保護シート上に被覆される覆土を設け、保護シートの法面側の表面に法面との摩擦力を向上する網状体を設け、覆土側の表面に覆土に植生する植物の根の法面への侵入を防ぐ防草シートを設ける方法がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-96054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記で挙げた堤防の高さを嵩上げする方法については、嵩上げ分を施工する用地の確保が困難であり、対策の実施に多くの時間を要するという問題がある。
また、特許文献1に記載の保護シートの両面にそれぞれ網状体と防草シートを設ける方法については、保護シートを複数の層により形成するため、施工にコストと手間を要するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、低コストおよび簡易な施工で堤防の決壊までの時間を引き延ばすことができる堤体補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る堤防補強構造は、河川の堤外地の少なくとも一方側の端部に隣接して設けられる堤防の堤内側法面の少なくとも一部に敷設されたシート補強材を備える。
【0008】
本発明によれば、堤防を越流した越水が流下する堤内側法面を簡易な構成および施工方法により設置できるシート補強材により越水に対して補強することができ、越水により堤防が決壊するまでの時間を引き延ばすことができる。また、堤体補強構造は、堤防の嵩上げ工事を必要とせず、シート補強材は複数の層を形成するコストおよび手間を省略できるため、低コストおよび短工期で実施できる。
【0009】
また、本発明に係る堤防補強構造において、前記シート補強材は、平面視格子状の空隙を有する敷設面を備えたジオグリッド材により形成されてもよい。
【0010】
本発明によれば、河川から越流しジオグリッド材上を流れる越水の一部がジオグリッド材の空隙を介して堤防の堤内側法面に落水するため、ジオグリッド材上を流れる越水の流量を低減できる。そのため、堤内側法面を流下した越水が堤防の裏法尻付近に流入する際のエネルギーも低減でき、裏法尻付近における越水による渦流の発生を抑制できる。上記によって、渦流の発生を抑制できるため、裏法尻付近における渦流による洗掘の進行を抑制できる。以上より、堤防の裏法尻付近から堤防を侵食する速度を低減できる。
また、ジオグリッド材の空隙により、堤内側法面に落水し堤内側法面を洗堀する越水の流量を低減できる。そのため、越水の流下による堤内側法面の洗堀の進行を抑制できる。
また、シート補強材がジオグリッド材により形成されていることで、ジオグリッド材表面の材料抵抗により、ジオグリッド材上を流れる越水の流速を低減できる。そのため、越水による堤内側法面を洗掘するエネルギーと越水が裏法尻付近に流入する際のエネルギーとを抑制できる。
【0011】
また、本発明に係る堤防補強構造において、前記ジオグリッド材は、前記堤内側法面の全面に敷設されてもよい。
【0012】
本発明によれば、堤内側法面の全面においてジオグリッド材上を流れる越水の流量を低減できるため、裏法尻付近における越水による渦流の発生を抑制できる。また、堤内側法面の全面において堤内側法面を洗掘する越水の流量を低減できるため、堤内側法面の全面において洗掘の進行を抑制できる。
【0013】
また、本発明に係る堤防補強構造において、前記堤防は、天端上に舗装部を備え、前記ジオグリッド材は、前記天端と前記舗装部との間に挟持される固定部を備え、前記固定部から前記堤内側法面上に延設されてもよい。
【0014】
本発明によれば、固定部が天端と舗装部との間に挟持されることで、ジオグリッド材を越水によって配置位置からずれないように設けることができる。
【0015】
また、本発明に係る堤防補強構造において、前記シート補強材は、遮水シートにより形成されてもよい。
【0016】
本発明によれば、遮水シートにより、河川水の越水による堤内側法面側への侵食を抑制できる。また、越水により堤防が決壊するまでの時間を引き延ばすことができる。
【0017】
また、本発明に係る堤防補強構造は、前記遮水シートの下端部に連結される錘部を備えてもよい。
【0018】
本発明によれば、遮水シートは、錘の重量によって、越水に流されることなく敷設できる。
【0019】
また、本発明に係る堤防補強構造において、前記遮水シートは、前記錘部に巻き付けられ、前記堤内側法面に配置される巻き付け部を備え、前記巻き付け部は、前記河川の河川水の前記堤防の越水により前記錘部に巻き付けられた構成を解除し、前記堤内側法面に敷設されてもよい。
【0020】
本発明によれば、越水により堤内側法面の法尻側に落堀が形成され始めてから直ぐに遮水シートを落堀内に落下させ、落堀の堤防側の洗掘面上に敷設できる。そのため、落堀の形成初期の段階から遮水シートにより越水の落水による渦流のうち、堤防側に発生する渦流を堤防に対して遮断し、越水による堤防側への洗掘の進行を抑制し、堤防の侵食を抑制できる。
【0021】
また、本発明に係る堤防補強構造において、前記錘部および前記巻き付け部は、平時において前記堤内側法面の法肩の上端から傾斜方向中間部の間に備えられてもよい。
【0022】
本発明によれば、遮水シートは、平時において堤内側法面の上方または中間部までの一部が敷設されている構成となるため、コンパクトな状態で設置できる。また、遮水シートが平時において上記の構成で設置されることで、堤防は、河川水の越水が発生しない程度の降雨を浸透させ排水できる。そのため、降雨した雨水の堤内地側への過度な流出による堤内地の浸水等を抑制できる。
【0023】
また、本発明に係る堤防補強構造において、前記堤防は、天端上に舗装部を備え、前記遮水シートは、前記天端と前記舗装部との間に挟持される固定部を備え、前記固定部から前記堤内側法面上に延設されてもよい。
【0024】
本発明によれば、固定部が天端と舗装部との間に挟持されることで、遮水シートを越水によって配置位置からずれないように設けることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、低コストおよび簡易な施工で堤防の決壊までの時間を引き延ばすことができる堤体補強構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第1の実施形態に係る堤防補強構造の一例を示す説明図であり、(a)は平時における堤防補強構造の横断面図、(b)は河川の越水時における堤防補強構造の横断面図である。
図2】本発明の第2の実施形態に係る堤防補強構造の一例を示す説明図であり、(a)は平時における堤防補強構造の横断面図、(b)は河川の越水時における堤防補強構造の横断面図である。
図3】堤防補強構造の水理模型実験に適用される堤防模型の説明図である。
図4】第1の実施形態の水理模型実験に適用される堤防補強構造模型の平時における横断面図であり、(a)は第1の比較ケースの横断面図、(b)は第2の比較ケースの横断面図である。
図5】第2の実施形態の水理模型実験に適用される堤防補強構造模型の平時における横断面図であり、(a)は第1の比較ケースの横断面図、(b)は第2の比較ケースの横断面図、(c)は第3の比較ケースの横断面図、(d)は第4の比較ケースの横断面図である。
図6】本発明の堤防補強構造に係る第1の実施形態の水理模型実験による検討結果(ジオグリッド材の厚み1mmに対する目開きの比率と越水から堤防の決壊までに要する時間との関係)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<第1の実施形態>
以下、本発明の第1の実施形態に係る堤防補強構造について、図面を参照しながら説明する。
【0028】
図1(a)に示すように、堤防補強構造1は、シート補強材11を備える。以下、本実施形態における堤防補強構造1を堤防補強構造1Aと記載する。シート補強材11は、河川2の堤外地21の少なくとも一方側の端部に隣接して設けられる堤防3の堤内側法面に敷設される。本実施形態では、シート補強材11は、堤外地21の両隣に位置する堤防3、3のそれぞれの堤内側法面31に敷設される。以下、堤内側法面31を裏法面31と記載する。以下、一方の堤防3における堤防補強構造1Aについて説明する。
【0029】
河川2は、平時において河川水W1が堤外地21内を流下している。河川2は、集中豪雨等により河川水W1の水位H1が堤防3の天端32を越えると堤内地22に向かって越流水深H2の高さで越流し、越水23が堤内地22に流出する。
【0030】
堤防3は、土砂材により形成され、断面視台形形状を備える。堤防3は、天端32に舗装部321を備える。舗装部321は、天端32に形成される路盤321aと、路盤321a上に形成される表層321bと、を備える。路盤321aは、天端32に公知の砕石を積層することで形成され、表層321bは、路盤321a上に公知のアスファルト混合物を敷設することで形成される。アスファルト混合物は不透水性を有する。
【0031】
堤防3は、堤防補強構造1Aを備えない場合において、河川水W1が堤防3を越流すると、越水23が裏法面31の裏法尻33および裏法尻33付近の堤内地22に落水する。以下、越水23が落水する地点を落水地点24と記載する。落水した越水23は、落水時のエネルギーにより落水地点24から両側に対になった渦流が発生し、落水地点24を洗掘する。上記の渦流は、越水23の流れが一部(落水地点24)に集中することにより多方向に発生する。また、上記の渦流は、堤防3側に発生する渦流の方が大きい。また、上記の渦流は、越水23が地表面を細流となって流れ、該細流が集中することにより地表面が谷状に洗掘されるガリー浸食が発達した際に顕著に発生する。
【0032】
上記の洗掘は、河川水W1の水位H1が天端32以下となり、越水が発生しなくなるまで継続する。上記の洗掘が落水地点24から全方向に進行することで落堀4が形成される。堤防3は、落堀4が堤防3側に進行し堤防3を下部から侵食することで決壊する。落堀4内は常に湛水されている。
【0033】
シート補強材11は、河川2の河川水W1が堤防3を越水した際の越水23の水流および水圧に対して、裏法面31から剥離しない耐久力を備える。シート補強材11は、表面に平面視格子状の空隙111(以下、「目開き111」と記載する。)を有する敷設面を備えたジオグリッド材により形成される。以下、本実施形態の説明においてシート補強材11をジオグリッド材11と記載する。ジオグリッド材11は、裏法面31の全面に敷設される。
【0034】
ジオグリッド材11は、例えば強化繊維や強化プラスチックによる網目状のシート材である。ジオグリッド材11の平面視格子形状は例えば正方形や長方形、菱形形状である。ジオグリッド材11は、固定部112と、敷設部113と、を備える。ジオグリッド材11は、ジオグリッド材11上に覆土を敷設してもよい。また、堤防補強構造1は、覆土上に植生を設けてもよいし、植生上にジオグリッド材11を設けてもよい。堤防補強構造1に植生を設けることにより、流水による裏法面の侵食を抑制できる。例えば、ジオグリッド材11上の覆土上に植生を設ける場合、植生の根毛がジオグリッド材11を介して裏法面31に固着するため、植生の根毛層が流水により消失するまでの時間が裸堤上に設けた植生より2.5倍長くなる。つまり、流水による裏法面31の浸食抑制に繋がる。
【0035】
堤防補強構造1に植生を設ける場合、ジオグリッド材11の目開き111は、4mm以上24mm以下が好ましく、8mm以上20mm以下がさらに好ましい。目開き111が4mm以下であると、植生がジオグリッド材11を通過し難くなり、植生の成長を妨害する。また、植生上にジオグリッド材11が設けられる場合、ジオグリッド材11が植生に持ち上げられ変形するおそれがある。目開き111が24mm以上であると、ジオグリッド材11と植生との結合力が弱まる。
【0036】
また、ジオグリッド材11は、外部からの負荷による変形が、負荷が開放された後に残留しやすい材質であるため、端部に木杭を打設する等により裏法面31に固定する構成としてもよい。
【0037】
固定部112は、天端32と舗装部321との間に挟持される。固定部112は、路盤321aと表層321bとの間に介装されて固定されている。固定部112は、表層321bの敷設直後の温度が約150℃の高温であるため、耐熱性を備えていることが好ましい。固定部112は、既設の表層を除去して露出させた路盤321a上に配置され、固定部112上に新たに表層321bを形成し、既設の路盤321aと新設された表層321bとの間に挟持される構成としてもよい。
また、既設の表層上にジオグリッド材11を敷設し、その上に表層321bを舗設することで、ジオグリッド材11と舗装部321を一体化させる構成も挙げられる。
【0038】
敷設部113は、固定部112から裏法面31に延設される。敷設部113は、裏法面31の全面に敷設されている。敷設部113は、裏法肩34側の端部から裏法尻33に近接する落水地点24までの面上に敷設されている。
【0039】
次に、上述した本発明の実施形態による堤防補強構造1Aの作用・効果について図面を用いて説明する。
【0040】
図1(b)に示すように、堤防補強構造1Aは、シート補強材として平面視格子状の目開き111を有するジオグリッド材11が裏法面31に敷設されている。
この構成によれば、堤防補強構造1Aは、河川2から越流しジオグリッド材11上を流れる越水23の一部がジオグリッド材11の目開き111を介して堤防3の裏法面31に落水するため、ジオグリッド材11上を流れる越水23の流量を低減できる。そのため、裏法面31を流下した越水23が落水地点24に落水(落堀4の形成前)または落堀4内に流入(落堀4の形成後)する際のエネルギーも低減でき、落水または流入した越水23による渦流の発生を抑制できる。上記によって、越水23による渦流の発生を抑制できるため、渦流による洗掘の進行とそれによる落堀4の拡大を抑制できる。以上より、堤防3の裏法尻33付近から堤防を侵食する速度を低減できる。
【0041】
また、堤防補強構造1Aは、ジオグリッド材11の目開き111により、裏法面31に落水し裏法面31を洗堀する越水23の流量を低減できる。そのため、越水23の流下による裏法面31の洗堀の進行を抑制できる。
【0042】
また、シート補強材が強化繊維や強化プラスチックによるジオグリッド材11により形成されていることで、ジオグリッド材11の表面の材料抵抗により、ジオグリッド材11上を流れる越水23の流速を低減できる。そのため、越水23による裏法面31を洗掘するエネルギーと越水23が落水地点24に落水(落堀4の形成前)または落堀4内に流入(落堀4の形成後)する際のエネルギーを抑制できる。
【0043】
上記により、裏法面31を簡易な構成および施工方法により越水23に対して補強することができ、越水23により堤防が決壊するまでの時間を引き延ばすことができる。また、堤防補強構造1Aは、堤防の嵩上げ工事を必要とせず、ジオグリッド材11は複数の層による構成ではないため、施工のコストおよび手間を省略できる。そのため、堤防補強構造1Aは、低コストおよび短工期で実施できる。
【0044】
また、堤防補強構造1Aにおいて、ジオグリッド材11は、裏法面31の全面と落水地点24に敷設されている。
本発明によれば、裏法面31の全面においてジオグリッド材11上を流れる越水23の流量を低減できるため、落水地点24に落水(落堀4の形成前)または落堀4内に流入(落堀4の形成後)した越水23による渦流の発生を抑制できる。また、裏法面31の全面において裏法面31に落水して洗掘する越水23の流量を低減できるため、裏法面31の全面において洗堀の進行をできる。
【0045】
また、ジオグリッド材11が落水地点24まで敷設されていることにより、越水23により落堀4が形成された際にジオグリッド材11を落堀4内に確実に配置できる。そのため、目開き111により落堀4内に流入する越水23の流量を低減し、越水23の流入位置を分散させることで落堀4における渦流の発生と渦流による洗堀および落堀4の進行をより抑制できる。
【0046】
また、堤防補強構造1Aにおいて、固定部112は、天端32と舗装部321との間に挟持され固定される。
この構成によれば、ジオグリッド材11を越水23によって堤防3における配置位置からずれないように設けることができる。
【0047】
また、堤防補強構造1Aにおいて、ジオグリッド材11上に覆土が敷設されている場合、ジオグリッド材11が目開き111を有することにより、越水23の一部が堤防3の堤内側法面31に落水するため、降雨により覆土が流されることがない。
【0048】
<第2の実施形態>
以下、本発明の第2の実施形態に係る堤防補強構造1について、図面を参照しながら説明する。本実施形態では、上述の第1の実施形態と同一な構成には同一の符号を用いて説明を省略し、第1の実施形態と異なる構成について説明する。
【0049】
図2(a)に示すように、堤防補強構造1は、シート補強材12を備える。以下、本実施形態における堤防補強構造1を堤防補強構造1Bと記載する。本実施形態において適用されるシート補強材12は、遮水シートにより構成される。以下、本実施形態の説明においてシート補強材12を遮水シート12と記載する。遮水シート12は、水を通さない材質である。また、堤防補強構造1Bは、遮水シート12の下端部に連結される錘13を備える。
【0050】
遮水シート12は、固定部121と、敷設部122と、巻き付け部123と、を備える。遮水シート12は、例えば河川流下方向の幅長が約2mの遮水シートを河川流下方向に複数敷設し、隣接する遮水シートの端部同士を河川流下方向に平面視で交互に重複もしくは近接させて接続し、裏法面31に敷設する。
【0051】
錘13は、巻き付け部123の下端部に取り付けられている。錘13は、越水23の水流によって流されない重量を有する。
【0052】
固定部121は、天端32と舗装部321との間に挟持される。固定部121は、路盤321aと表層321bとの間に介装されて固定されている。固定部121は、表層321bの敷設直後の温度が約150℃の高温であるため、耐熱性を備えていることが好ましい。固定部121は、既設の表層を除去して露出させた路盤321a上に配置され、固定部121上に新たに表層321bを形成し、既設の路盤321aと新設された表層321bとの間に挟持される構成としてもよい。
また、既設の表層上にジオグリッド材11を敷設し、その上に表層321bを舗設することで、ジオグリッド材11と舗装部321を一体化させる構成でもよい。
【0053】
敷設部122は、固定部121から裏法面31に延設される。敷設部122は、固定部121の裏法肩34側の端部から裏法面31に沿って延設されている。敷設部113は、裏法肩34側の端部から裏法面31の中間部まで敷設され、裏法尻33側の先端から巻き付け部123が延設されている。
【0054】
巻き付け部123は、敷設部122の裏法尻33側の先端から延設され、平時は錘13に巻き付けられて裏法面31に配置される。巻き付け部123は、河川水W1が堤防3を越水することにより、越水23が裏法面31を流下した際に錘13に巻き付けられる構成を解除し、裏法面31に広がり敷設される。巻き付け部123の錘13への巻き付け方法は、河川水W1の越水時に巻き付け部123を裏法面31に敷設することができれば巻き付け方法は限定されない。巻き付け部123の錘13への巻き付け方法は、例えば錘13の上部側から巻き付ける外巻きや遮水シート12を錘13の下部側から巻き込む内巻きが挙げられる。巻き付け部123および錘13は、平時において裏法面31の裏法肩34の上端から傾斜方向中間部の間に設けられる。
【0055】
敷設部122、巻き付け部123および錘13は、平時において埋設され上部に覆土25が敷設されている。覆土25上には、植生が設けられていてもよい。裏法面31は、錘13が裏法面31から突出しない深さの溝部が形成され、錘13が埋設される。裏法面31は、錘13が埋設されていることで裏法面31は平滑な面となり越水時に越水23を滞留させることなく流下させる。覆土25は、越水23が裏法面31を流下した際に裏法面31から剥離する。巻き付け部123および錘13は、覆土25が剥離することで露出し、巻き付け部123が錘13に巻き付けられる構成を解除して巻き付け部123が裏法面31に広がり敷設される。
【0056】
遮水シート12は、河川水W1の越流時に越水23により形成される落堀4の堤防3側の洗掘面41に錘13が落下できる長さを備える。また、落堀4の底部42に落下できる長さを備えてもよい。固定部121と敷設部122との境界から巻き付け部123と錘13との境界までの長さは、堤防3の高さH3の1倍から8倍もしくは裏法面31の傾斜方向の長さの1/4倍から2倍である。
【0057】
次に、上述した本発明の実施形態による堤防補強構造1Bの作用・効果について図面を用いて説明する。
【0058】
図2(b)に示すように、堤防補強構造1Bは、シート補強材として水を通さない材質である遮水シート12が裏法面31に敷設されている。
この構成によれば、遮水シート12により、越水23による裏法面31側への侵食を抑制できる。また、堤防補強構造1Bは堤防の嵩上げ工事が発生せず、遮水シート12は複数の層による構成ではないため、施工のコストおよび手間を省略できる。そのため、堤防補強構造1Bは、低コストおよび短工期で実施できる。
【0059】
また、堤防補強構造1Bは、巻き付け部123の下端部に錘13が取り付けられている。
この構成によれば、遮水シート12は、落堀4が形成されると錘13の重量によって容易に落堀4内に落下し、敷設部122および巻き付け部123が越水23に流されることなく堤防3側の洗掘面41上に敷設できるため、堤防3側への洗掘の進行を抑制できる。
【0060】
また、堤防補強構造1Bは、錘13に巻き付けられ、裏法面31に配置された巻き付け部123を備え、巻き付け部123は、越水23が裏法面31を流下した際に錘13に巻き付けられる構成を解除し、裏法面31に広がり敷設される。
この構成によれば、落堀4が形成され始めてから直ぐに遮水シート12を落堀4内に落下させ落堀4の堤防3側の洗掘面41上に敷設できる。そのため、落堀4の形成初期の段階から遮水シート12により越水23の落水による渦流のうち堤防3側に発生する渦流を堤防3に対して遮断し、越水23による堤防3側への洗掘の進行を抑制し、堤防3の侵食を抑制できる。
【0061】
巻き付け部123および錘13は、平時において裏法面31の傾斜方向中間部に備えられる。
この構成によれば、遮水シート12は、平時において裏法面31の上端から中間部までの一部が敷設されている構成となるため、コンパクトな状態で設置できる。また、遮水シート12が平時において上記の構成で設置されることで、堤防3は、河川水W1の越水が発生しない程度の降雨を浸透させ排水できる。そのため、覆土25の流出や降雨した雨水の堤内地22側への過度な流出による堤内地22の浸水等を抑制できる。
【0062】
また、堤防補強構造1Bにおいて、固定部121は、天端32と舗装部321との間に挟持され固定される。
この構成によれば、遮水シート12を越水23によって配置位置がずれないように設けることができる。
【0063】
また、遮水シート12は、巻き付け部123が錘13に内巻きにより巻き付けられることで、錘13の下部が洗掘されると直ぐに巻き付け部123を転回させて落堀4に落下させ遮水シート12を敷設できる。
【0064】
また、遮水シート12は、巻き付け部123が錘13に外巻きにより巻き付けられることで、河川水W1の越流時に巻き付け部123および錘13を越水23に接触すると直ぐに落下させ敷設できる。そのため、落堀4の堤防3側への洗掘の進行をさらに抑制できる。
【0065】
堤防補強構造1について、1/10の縮尺で作成された堤防模型を用いて室内水理模型実験を実施し、補強効果を検証した。
【0066】
図3に示すように、本実験に用いる河川モデル5は、水源50と、ポンプ51と、流量調整弁52と、水流計53と、導管54と、基盤55と、を備える。河川モデル5は、基盤55上の堤外部56と堤外部56の一方側に隣接する堤内部57との間に堤防模型6が設けられる。河川モデル5は、導管54により水源50とポンプ51と流量調整弁52と水流計53とが連通され、導管54の一端が堤外部56内に位置するように設けられる。
【0067】
図4に示すように、堤防模型6の裏法面61には、堤防補強構造模型7としてシート補強材71が設けられる。シート補強材71は、裏法面61上に敷設される敷設部711と堤防模型6の天端62に固定される固定部712とを有する。基盤55と、堤外部56と、堤内部57と、堤防模型6と、シート補強材71と、は、実験水路8内に設けられる。実験水路8は、公知の室内実験用水路であり、上面が開口する開水路である。実験水路8を流れる実験水W2の流下方向は、堤防模型6における越水方向に相当し、実験水路8の幅方向は、河川モデル5の流下方向に相当する。基盤55と、堤外部56と、堤内部57と、堤防模型6と、シート補強材71と、の実験水路8の流下方向の長さは、実験水路8の幅長と略一致し、実験水路8の両側面に接地している。本実施形態において実験水路8の水路幅は50cmである。
【0068】
堤防模型6は、天端62に舗装部63が設けられ、舗装部63上の流下方向中央部に仕切り板64が立設されている。固定部712は、舗装部63の下部に配置される。基盤55は、堤防模型6の表法肩65より堤外部56側に位置する固定基盤551と、表法肩65より堤内部57側に位置する土基盤552と、を有する。固定基盤551と、堤防模型6の堤外部56側の法面である表法面66と、は、コンクリート等の不透水性材料により固定床67として形成される。堤防模型6および土基盤552は、土砂材料により形成される。
【0069】
堤防模型6の製作手順について説明する。堤防模型6の諸条件を表1に示すとおりである。
【0070】
【表1】
【0071】
先ず、堤防模型6を形成する築堤材料を製造する。表1に記載の所定量の珪砂8号を公知のモルタルミキサーへ投入し、珪砂の含水比が最適含水比である15.0%となるように水を投入し、投入材料が均一になるまで練り混ぜることで含水比を調整した築堤材料を製造する。練り混ぜ時間は、5分間とする。また、ミキサーに投入前の珪砂の含水比を予め測定し最適含水比とするために必要な投入水量を算出する。
【0072】
上記の工程により製造した築堤材料を実験水路8内の堤防模型6の形成箇所に複数の層に分けて積層し積層体を形成する。積層体は16層により形成される。積層体の各層は、固定床67の堤内部57側端部から実験水W2の流下方向の土基盤552端部の間において略鉛直方向に積層される。実験水W2の流下方向の土基盤552端部においては、略鉛直に起立するL字型の端部止めを積層体に当接させながら積層作業を補助してもよい。積層体の各層は、土砂材を敷き均した後に公知のスライドダンパで締め固めることにより形成される。各層の締固め度は90%とし、上記の締固め条件を達成するために事前に試験施工等により転圧回数等の締固め作業の諸条件を決定する。上記の作業を規定の高さまで繰り返す。積層体の1層あたりの厚さは、堤防模型6の高さH4と基盤55の高さH5との合計が80cmであるため、5cmとする。また、積層体の1層あたりの実験水W2の流下方向の長さは、土基盤552の実験水W2の流下方向の長さに相当し、1500cmで形成される。
【0073】
上記により、形成された積層体を研削し、所望の裏法面61および天端62を成形する。裏法面61は、1:2の勾配で研削され成形される。裏法面61の横断面形状と表法面66の横断面形状は略一致する。堤防模型6の天端幅Bは30cmで形成される。実験水W2は、天端62上を越流水深H6で越水する。
【0074】
次に、天端62に舗装部63を形成する。舗装部63の厚さは例えば5mmで形成され、固定部712の厚さは例えば1mmで形成される。裏法面61および天端62は、舗装部63および固定部712の厚さを考慮して研削等を行って成形してもよい。舗装部63は、天端62の全面に形成されている。
【0075】
舗装部63は、公知のアスファルト混合物により形成され諸条件は表2とする。表面防水剤は、堤防3に用いられる不透水性を有するアスファル混合物に条件を合わせ、舗装部63に防水性能を付与する目的で舗装部63の表面に塗布される。表面防水剤は、舗装版631に用いられるアスファルト混合物の性能に影響を与えない。表面防水剤は、表2より公知の水置換性防水剤であるMOLYKOTEを用いる。
【0076】
【表2】
【0077】
河川モデル5は、水源50から実験水W2をポンプ51に供給し、ポンプ51で導管54に圧送し、堤外部56内に実験水W2を貯留する。流量調整弁52は、導管54の中間部に設けられ、導管54により供給される実験水W2の流量を開閉により調整する。水流計53は、導管54の中間部に設けられ、導管54により供給される実験水W2の流量を測定する。流量調整弁52と、水流計53とは、水流計53の測定結果により流量調整弁52の開閉を制御することで実験水W2の供給量を調整可能に設けられる。
【0078】
河川モデル5は、実験開始前の時点で仕切り板64を取り除いた瞬間に堤防模型6を実験水W2が越水58として越水するように構成される。具体的には、仕切り板64を天端62に立設した状態で堤外部56内に貯留した実験水W2を天端62の高さH4よりも高い水位まで貯留させ、仕切り板64の堤外部56側の平面視縁部は実験水路8の実験水W2に対する潤辺の一部となる。このときの実験水W2の水位は、天端62の高さH4よりも0cm以上1cm未満高く貯留されている。この状態において、仕切り板64を上方に引き上げて堤防模型6に実験水W2を越水させ実験を開始する。この際に、実験開始前の実験水W2の水位が天端62の高さH4よりも高いことで実験開始時の越水58を場所によって水流が偏ることなく均等な水流で発生させることができるため、実験の正確性を向上できる。河川モデル5は、実験水路8を流下した実験水W2を水源50に回収し、再度堤外部56に供給する循環機構として設けられる。
【0079】
本実験では、仕切り板64を引き上げて実験水W2の越水が開始された時点を実験開始時とし、仕切り板64を引き上げてから堤防模型6が決壊するまでの時間T1を測定する(以下、「決壊所要時間T1」と記載する)。堤防模型6が越水58により決壊する機構は、上記の堤防3の決壊機構と同様である。実験中は、ポンプ51を用いて堤外部56に実験水W2を継続して供給する。また、実験中は、流量調整弁52および水流計53により、天端62の流下方向中央部における越流水深H6が2cmに維持されるように実験水W2の供給量を調整する。本実験における実験水W2の供給流量は、9.0m/hである。
【0080】
上記の実験方法により、堤防模型6の裏法面61に設けられた堤防補強構造模型7の越水に対する補強効果を検証する。なお、本実験では、補強効果の検証のための比較ケースとして、図3に示すような堤防模型6に堤防補強構造模型7を設けない構成を基本構成としてケース1とおき、同様に決壊所要時間T1を測定する。本実験では、決壊所要時間T1の値により堤防補強構造模型7の越水に対する補強効果を評価し、決壊所要時間T1がケース1よりも長ければ補強効果があり、決壊所要時間T1の差が大きいほど補強効果も大きいと評価する。
【0081】
本実験の一態様として、図4(a)および図4(b)に示すように、シート補強材71としてジオグリッド材を裏法面61に敷設した構成について検討する。以下、シート補強材71をジオグリッド材71と記載する。ジオグリッド材71は、裏法面61の傾斜方向の敷設長さ以外の構成について、上記の第1の実施形態と同様とする。本実験では、図4(a)、図4(b)および表3に示すようにジオグリッド材71の敷設範囲、ジオグリッド材71の1mmの厚みD1に対する目開きD2の比率を変化させたケース2からケース6により実験を行った。ケース2からケース6の実験結果を表3に示す。目開きD2は、ジオグリッド材71に備えられる複数備えられる矩形状の空隙713(以下、「目開き713」と記載する)において、越水58の流下方向に略平行な方向の幅長である。図4(a)におけるジオグリッド材71の裏法面61の傾斜方向の敷設範囲は、裏法面61の上端部(裏法肩68端部)から裏法尻69に向かって15cmの範囲である。
【0082】
【表3】
【0083】
表3に示すように、堤防補強構造模型7を設けない構成であるケース1の決壊所要時間T1は31分であった。これに対し、ジオグリッド材71を設けたケース2からケース6の決壊所要時間T1は、ケース1の決壊所要時間T1の1.5倍から3.8倍となる。そのため、ジオグリッド材71を敷設することにより裏法面61上を流れる越水58の流量を低減でき、裏法面61を洗堀する越水58の流量も低減できる。そのため、裏法尻69付近における越水58の流入から発生する渦流による洗掘と洗堀による落堀の形成の進行および裏法面61への越水58の落水による洗堀の進行と洗堀を抑制でき、堤防模型6の決壊を遅延させることができる。
【0084】
また、ジオグリッド材71が裏法面61の全面および裏法尻69から落水地点59までの範囲に敷設されているケース3からケース6の決壊所要時間T1は、55~119分の範囲である。上記のケース3からケース6の決壊所要時間T1は、いずれもジオグリッド材71が裏法肩68端部から裏法尻69に向かって15cmの範囲に敷設される構成であるケース2の決壊所要時間T1である46分よりも長い。そのため、ジオグリッド材71が裏法面61の全面および裏法尻69から落水地点59に敷設されることで、裏法面61の全面において、落水地点59に落水(落堀の形成前)または越水58により落水地点59付近に形成された落堀内に流入(落堀の形成後)した越水58により発生する渦流による洗掘および落堀の形成の進行と、裏法面61の洗掘の進行と、を抑制できる。
【0085】
また、ジオグリッド材71が落水地点59まで敷設されていることで、越水58により落堀が形成された際にジオグリッド材71を落堀内に確実に配置でき、目開き713により落堀内に流入する越水58の流量を低減し、分散させることで渦流の発生と渦流による洗堀および落堀の進行をより抑制できる。そのため、落堀の形成が抑制され堤防模型6の決壊をさらに遅延させることができる。
【0086】
また、ジオグリッド材71の1mmの厚さD1に対する目開きD2が最も小さいケース3の決壊所要時間T1は119分であり、ジオグリッド材71を用いたケース2からケース6の中で最も決壊所要時間T1が長い。そのため、同じ厚さD1に対して目開きD2を小さくすることで越水58の落水位置が細かく分散され、さらに目開き713による抵抗が大きくなるため、ジオグリッド材71から落水した越水58が裏法面61を洗堀するエネルギーを分散できる。そのため、ジオグリッド材71から落水した越水58による裏法面61を洗堀する力(せん断力)を低減できるため、堤防模型6の決壊をさらに遅延させることができる。
【0087】
本実験の一態様として、図5(a)から図5(c)に示すように、シート補強材72として遮水シートを裏法面61に敷設した構成について検討する。以下、シート補強材72を遮水シート72と記載する。ケース7、ケース9から11における遮水シート72は、下端に錘73を備える。遮水シート72は、裏法面61の傾斜方向の敷設長さ、錘73の取付方法および錘73への巻き付け方法以外の構成について、上記の第2の実施形態と同様とする。本実験では、図5(a)から図5(c)および表4に示すように、遮水シート72の敷設範囲、遮水シート72への錘73の取付方法および巻き付け方法を変化させたケース7からケース11により実験を行った。ケース7からケース11の実験結果を表4に示す。
【0088】
【表4】
【0089】
ケース7における錘73は、裏法肩68端部から裏法尻69に向かって15cmの範囲に敷設される遮水シート72の敷設部721の下端に設けられる。ケース9およびケース11における錘73は、平時において巻き付け部722の下端に設けられ、巻き付け部722は錘73の下部側から内巻きされて設けられている。ケース10における錘73は、平時において巻き付け部722の下端に設けられ、巻き付け部722は錘73の上部側から外巻きされて設けられている。また、ケース11は、巻き付け部722がケース9およびケース10よりも錘73に緩く巻き付けられている。
【0090】
敷設部721、巻き付け部722および錘73は、平時において裏法面61に埋設され設けられている。ケース9から11における遮水シート72の敷設時の裏法面61の傾斜方向の長さは、裏法面61の長さよりも十分長く形成される。
【0091】
表4に示すように、ケース1の決壊所要時間T1が31分であるのに対して、遮水シート72を設けたケース7からケース11の決壊所要時間T1は、ケース1の決壊所要時間T1の1.8倍以上となる。そのため、遮水シート72を敷設することにより堤防模型6側への越水58による洗掘の進行を抑制できるため、堤防模型6の決壊を遅延させることができる。
【0092】
また、遮水シート72が裏法面61の長さよりも十分長く形成されるケース9からケース11の決壊所要時間T1は、115分以上である。上記のケース9からケース11の決壊所要時間T1は、いずれも遮水シート72が裏法肩68まで敷設されているケース7およびケース8の決壊所要時間T1よりも長い。そのため、遮水シート72が越水時において裏法面61の上端から裏法尻69付近に越水58により形成される落堀の堤防模型6側の洗掘面まで敷設されることで、越水58から堤防模型6を遮断し、堤防模型6側への洗掘の進行を抑制できる。そのため、落堀の進行が抑制され堤防模型6の決壊をさらに遅延させることができる。
【0093】
また、平時において巻き付け部722が錘73に外巻きされているケース10は、裏法面61が浸食されないため、仕切り板64を引き上げてから180分後に実験を中止した。以上より、ケース10の決壊所要時間T1は、180分以上であるため、遮水シート72を用いたケース7からケース11の中で最も決壊所要時間T1が長い。また、本実験で実施された全ケースの中で最も決壊所要時間T1が長い。そのため、ケース10において遮水シート72は、外巻きにより設けられた巻き付け部722および錘73に越水時に越水58が接触することでケース7からケース11の中で最も早く落堀内の堤防模型6側の洗掘面まで敷設できる。また、敷設するまでの所要時間が短いため、落堀の形成が進行する前に遮水シート72の被覆を完了でき、堤防模型6側への洗掘の進行を抑制できるため、堤防模型6の決壊をさらに遅延させることができる。
【0094】
本実験におけるジオグリッド材71を用いたケース3からケース6と、シート補強材上に目開き713が設けられないケースとしてケース10の結果を適用し、ジオグリッド材71の1mmの厚みD1に対する目開きD2と、決壊所要時間T1との相関を図6および表5に示す。図5より、ジオグリッド材71の1mmの厚みD1に対する目開きD2と、決壊所要時間T1との相関から線形近似線9が求められる。線形近似線9は下式により表される。
【0095】
【表5】
【0096】
【数1】
【0097】
上式の近似式により、決壊所要時間T1がケース1の31分以上となるジオグリッド材71の1mmの厚みD1に対する目開きD2の範囲が求められる。以上より、表5に示すように、ジオグリッド材71の1mmの厚みD1と対する目開きD2との比率を1:0(目開きなし)から1:19の範囲内とすることにより、決壊所要時間T1をケース1よりも長くすることができる。また、ジオグリッド材の1mmの厚みD1と対する目開きD2との比率を1:0から1:6の範囲内とすることがより好ましい。
【0098】
以上、本発明による堤防補強構造の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の第1の実施形態においてジオグリッド材11は、裏法肩34側の端部から裏法尻33に近接する落水地点24までの面上に敷設されているが、例えば裏法面31の中間部や裏法尻33まで敷設される構成であってもよい。
【0099】
また、第1の実施形態においてジオグリッド材11は錘を設けない構成であるが、例えばジオグリッド材11の端部に錘を設けてもよい。
【0100】
また、第1の実施形態においてジオグリッド材11は路盤321aと表層321bとの間に固定部112が固定されるが、例えばアンカーを天端32からさらに打設して固定する構成としてもよいし、路盤321aの下部に固定する構成としてもよい。同様に上記の第2の実施形態おいて遮水シート72は、路盤321aと表層321bとの間に固定部121が固定されるが、例えばアンカーを天端32からさらに打設して固定する構成としてもよいし、路盤321aの下部に固定する構成としてもよい。
【0101】
また、第2の実施形態において遮水シート72は、越水時において裏法面31の全面と落堀4の洗掘面41に敷設されるが、例えば裏法面31の中間部や裏法尻33まで敷設される構成であってもよい。
【0102】
また、第2の実施形態において遮水シート12は下端に錘13が設けられるが、例えば遮水シート12に錘13を設けない構成としてもよい。
【0103】
また、第2の実施形態において遮水シート12は、巻き付け部123を錘13に巻き付けた構成を有するが、例えば遮水シート12は巻き付け部123を備えず錘13に巻き付けない構成としてもよい。
【0104】
また、第2の実施形態において遮水シート12は、平時において巻き付け部123および錘13を裏法面31の中間部に設けているが、例えば巻き付け部123および錘13が裏法肩34の上端に設けられてもよい。
【0105】
また、第2の実施形態において遮水シート12は、裏法面31に埋設され上部に覆土25が設けられるが、例えば裏法面31の面上に露出して設けられてもよい。
【符号の説明】
【0106】
1 堤防補強構造
2 河川
3 堤防
11 シート補強材(ジオグリッド材)
12 シート補強材(遮水シート)
13 錘(錘部)
21 堤外地
31 堤内側法面(裏法面)
32 天端
111 空隙(目開き)
112 固定部
121 固定部
123 巻き付け部
321 舗装部
W1 河川水
図1
図2
図3
図4
図5
図6