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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132957
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】差動増幅回路及び回路切替方法
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/30 20060101AFI20230914BHJP
   H03F 3/45 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
H03F1/30 220
H03F3/45
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038579
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】河原崎 太
(72)【発明者】
【氏名】桑原 啓輔
【テーマコード(参考)】
5J500
【Fターム(参考)】
5J500AA01
5J500AA12
5J500AC04
5J500AC12
5J500AF10
5J500AF18
5J500AH10
5J500AH38
5J500AK05
5J500AT07
5J500DN01
5J500NF06
(57)【要約】
【課題】PBTIによる差動増幅回路の特性変動を抑制可能な差動増幅回路を提供する。
【解決手段】本開示に係る差動増幅回路10は、第1MOSトランジスタ11の第1ゲートへの第1入力電位と、第2MOSトランジスタ12の第2ゲートへの第2入力電位との電位差が所定範囲内にあるとき、第1バックゲートを第1ソースに接続し、第2バックゲートを第2ソースに接続し、電位差が所定範囲内にないとき、第1バックゲート及び第2バックゲートを基準電位源に接続し、所定範囲は、第1入力電位が第1バックゲートの電位と同一となるときの第1境界値と、第2入力電位が第2バックゲートの電位と同一となるときの第2境界値との間に含まれる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1MOSトランジスタ及び第2MOSトランジスタと、
前記第1MOSトランジスタの第1ゲート及び前記第2MOSトランジスタの第2ゲートに接続されている比較器と、
前記比較器、並びに前記第1MOSトランジスタの第1バックゲート及び前記第2MOSトランジスタの第2バックゲートに接続され、前記比較器からの出力に応じて接続先を切り替える切替素子と、
を備え、
前記切替素子は、
前記第1ゲートへの第1入力電位と前記第2ゲートへの第2入力電位との電位差が所定範囲内にあるとき、前記第1バックゲートを前記第1MOSトランジスタの第1ソースに接続し、前記第2バックゲートを前記第2MOSトランジスタの第2ソースに接続し、
前記電位差が前記所定範囲内にないとき、前記第1バックゲート及び前記第2バックゲートを、前記第1ソースの電位及び前記第2ソースの電位、並びに前記第1入力電位及び前記第2入力電位に対して前記第1MOSトランジスタの第1ドレインの電位及び前記第2MOSトランジスタの第2ドレインの電位と反対側に位置する基準電位を有する基準電位源に接続し、
前記所定範囲は、前記第1入力電位が前記第1バックゲートの電位と同一となるときの第1境界値と、前記第2入力電位が前記第2バックゲートの電位と同一となるときの第2境界値との間に含まれる、
差動増幅回路。
【請求項2】
請求項1に記載の差動増幅回路であって、
前記所定範囲は、前記第1境界値と前記第2境界値との間の全範囲を含む、
差動増幅回路。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の差動増幅回路であって、
前記第1MOSトランジスタ及び前記第2MOSトランジスタは、PMOSトランジスタである、
差動増幅回路。
【請求項4】
請求項3に記載の差動増幅回路であって、
前記切替素子は、前記第1ソースの電位及び前記第2ソースの電位、並びに前記第1入力電位及び前記第2入力電位よりも高い電位を有する前記基準電位源としての第1電源に接続されている、
差動増幅回路。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の差動増幅回路であって、
前記第1MOSトランジスタ及び前記第2MOSトランジスタは、NMOSトランジスタである、
差動増幅回路。
【請求項6】
請求項5に記載の差動増幅回路であって、
前記切替素子は、前記第1ソースの電位及び前記第2ソースの電位、並びに前記第1入力電位及び前記第2入力電位よりも低い電位を有する前記基準電位源としてのグランド又は第2電源に接続されている、
差動増幅回路。
【請求項7】
請求項4又は6に記載の差動増幅回路であって、
前記切替素子は、前記第1入力電位又は前記第2入力電位と前記基準電位との電位差が一定となるように前記第1入力電位又は前記第2入力電位に応じて前記基準電位を変動させる前記基準電位源に接続されている、
差動増幅回路。
【請求項8】
第1MOSトランジスタの第1ゲート及び第2MOSトランジスタの第2ゲートに接続されている比較器からの出力に応じて、前記第1MOSトランジスタの第1バックゲート及び前記第2MOSトランジスタの第2バックゲートの接続先を切り替える回路切替方法であって、
前記第1ゲートへの第1入力電位と前記第2ゲートへの第2入力電位との電位差が所定範囲内にあるとき、前記第1バックゲートを前記第1MOSトランジスタの第1ソースに接続し、前記第2バックゲートを前記第2MOSトランジスタの第2ソースに接続するステップと、
前記電位差が前記所定範囲内にないとき、前記第1バックゲート及び前記第2バックゲートを、前記第1ソースの電位及び前記第2ソースの電位、並びに前記第1入力電位及び前記第2入力電位に対して前記第1MOSトランジスタの第1ドレインの電位及び前記第2MOSトランジスタの第2ドレインの電位と反対側に位置する基準電位を有する基準電位源に接続するステップと、
を含み、
前記所定範囲は、前記第1入力電位が前記第1バックゲートの電位と同一となるときの第1境界値と、前記第2入力電位が前記第2バックゲートの電位と同一となるときの第2境界値との間に含まれる、
回路切替方法。
【請求項9】
請求項8に記載の回路切替方法であって、
前記所定範囲は、前記第1境界値と前記第2境界値との間の全範囲を含む、
回路切替方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、差動増幅回路及び回路切替方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、MOS(Metal-Oxide Semiconductor)トランジスタを用いた差動増幅回路に関する技術が知られている。例えば、特許文献1には、過電圧に対する保護機能を有する差動増幅回路が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-176321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
MOSトランジスタにおいて、通常であれば、バックゲート電位は、他の3つの端子の電位よりも高くなるか、又は低くなる。しかしながら、MOSトランジスタのソースとバックゲートとの間の電位差により生じる基板バイアス効果を避けるために、バックゲートをソースに接続した状態でMOSトランジスタを差動増幅回路に用いることがある。この場合、動作状態によっては、MOSトランジスタのゲート電位がバックゲート電位を高電位側又は低電位側に超えることがある。このような状態になると、PBTI(Positive Bias Temperature Instability)という現象が発生し、MOSトランジスタの特性が変化して、差動増幅回路の特性が変動してしまうという問題があった。
【0005】
本開示は、PBTIによる差動増幅回路の特性変動を抑制可能な差動増幅回路及び回路切替方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
幾つかの実施形態に係る差動増幅回路は、第1MOSトランジスタ及び第2MOSトランジスタと、前記第1MOSトランジスタの第1ゲート及び前記第2MOSトランジスタの第2ゲートに接続されている比較器と、前記比較器、並びに前記第1MOSトランジスタの第1バックゲート及び前記第2MOSトランジスタの第2バックゲートに接続され、前記比較器からの出力に応じて接続先を切り替える切替素子と、を備え、前記切替素子は、前記第1ゲートへの第1入力電位と前記第2ゲートへの第2入力電位との電位差が所定範囲内にあるとき、前記第1バックゲートを前記第1MOSトランジスタの第1ソースに接続し、前記第2バックゲートを前記第2MOSトランジスタの第2ソースに接続し、前記電位差が前記所定範囲内にないとき、前記第1バックゲート及び前記第2バックゲートを、前記第1ソースの電位及び前記第2ソースの電位、並びに前記第1入力電位及び前記第2入力電位に対して前記第1MOSトランジスタの第1ドレインの電位及び前記第2MOSトランジスタの第2ドレインの電位と反対側に位置する基準電位を有する基準電位源に接続し、前記所定範囲は、前記第1入力電位が前記第1バックゲートの電位と同一となるときの第1境界値と、前記第2入力電位が前記第2バックゲートの電位と同一となるときの第2境界値との間に含まれる。
【0007】
これにより、PBTIによる差動増幅回路の特性変動を抑制可能である。差動増幅回路は、第1MOSトランジスタの第1ゲートへの第1入力電位と第2MOSトランジスタの第2ゲートへの第2入力電位との電位差が所定範囲内にあるか否かを識別し、第1バックゲート及び第2バックゲートの接続先を切り替える。これにより、差動増幅回路は、第1MOSトランジスタ及び第2MOSトランジスタにおいてゲート電位がバックゲート電位を高電位側又は低電位側に超えることで通常とは異なる状態となることを回避可能である。したがって、差動増幅回路は、PBTIの発生を回避可能であり、差動増幅回路の特性変動を抑制可能である。
【0008】
一実施形態における差動増幅回路では、前記所定範囲は、前記第1境界値と前記第2境界値との間の全範囲を含んでもよい。これにより、差動増幅回路は、第1バックゲート及び第2バックゲートを基準電位源に接続するときを、差動増幅回路として機能しないときに限定できる。したがって、第1バックゲート及び第2バックゲートを基準電位源に接続することで生じる基板バイアス効果の影響を考慮する必要性が低減する。
【0009】
一実施形態における差動増幅回路では、前記第1MOSトランジスタ及び前記第2MOSトランジスタは、PMOSトランジスタであってもよい。これにより、差動増幅回路は、ソースからドレインに向けて電流が流れ、かつ通常であればバックゲート電位が他の3つの端子の電位よりも高くなるような回路系を用いて回路切替方法を実行可能である。
【0010】
一実施形態における差動増幅回路では、前記切替素子は、前記第1ソースの電位及び前記第2ソースの電位、並びに前記第1入力電位及び前記第2入力電位よりも高い電位を有する前記基準電位源としての第1電源に接続されていてもよい。これにより、差動増幅回路は、第1MOSトランジスタ及び第2MOSトランジスタにおいてゲート電位がバックゲート電位よりも高い状態になることを回避可能である。
【0011】
一実施形態における差動増幅回路では、前記第1MOSトランジスタ及び前記第2MOSトランジスタは、NMOSトランジスタであってもよい。これにより、差動増幅回路は、ドレインからソースに向けて電流が流れ、かつ通常であればバックゲート電位が他の3つの端子の電位よりも低くなるような回路系を用いて回路切替方法を実行可能である。
【0012】
一実施形態における差動増幅回路では、前記切替素子は、前記第1ソースの電位及び前記第2ソースの電位、並びに前記第1入力電位及び前記第2入力電位よりも低い電位を有する前記基準電位源としてのグランド又は第2電源に接続されていてもよい。これにより、差動増幅回路は、第1MOSトランジスタ及び第2MOSトランジスタにおいてゲート電位がバックゲート電位よりも低い状態になることを回避可能である。
【0013】
一実施形態における差動増幅回路では、前記切替素子は、前記第1入力電位又は前記第2入力電位と前記基準電位との電位差が一定となるように前記第1入力電位又は前記第2入力電位に応じて前記基準電位を変動させる前記基準電位源に接続されていてもよい。これにより、第1MOSトランジスタ及び第2MOSトランジスタにおいてバックゲートが基準電位源に接続されているときのゲート電位とバックゲート電位との電位差が一定になり、ソース電位とバックゲート電位との電位差の変動も抑制される。したがって、ソース電位とバックゲート電位との電位差により基板バイアス効果として生じるVthの変動も抑制される。
【0014】
幾つかの実施形態に係る回路切替方法は、第1MOSトランジスタの第1ゲート及び第2MOSトランジスタの第2ゲートに接続されている比較器からの出力に応じて、前記第1MOSトランジスタの第1バックゲート及び前記第2MOSトランジスタの第2バックゲートの接続先を切り替える回路切替方法であって、前記第1ゲートへの第1入力電位と前記第2ゲートへの第2入力電位との電位差が所定範囲内にあるとき、前記第1バックゲートを前記第1MOSトランジスタの第1ソースに接続し、前記第2バックゲートを前記第2MOSトランジスタの第2ソースに接続するステップと、前記電位差が前記所定範囲内にないとき、前記第1バックゲート及び前記第2バックゲートを、前記第1ソースの電位及び前記第2ソースの電位、並びに前記第1入力電位及び前記第2入力電位に対して前記第1MOSトランジスタの第1ドレインの電位及び前記第2MOSトランジスタの第2ドレインの電位と反対側に位置する基準電位を有する基準電位源に接続するステップと、を含み、前記所定範囲は、前記第1入力電位が前記第1バックゲートの電位と同一となるときの第1境界値と、前記第2入力電位が前記第2バックゲートの電位と同一となるときの第2境界値との間に含まれる。
【0015】
これにより、PBTIによる差動増幅回路の特性変動を抑制可能である。回路切替方法では、第1MOSトランジスタの第1ゲートへの第1入力電位と第2MOSトランジスタの第2ゲートへの第2入力電位との電位差が所定範囲内にあるか否かを識別し、第1バックゲート及び第2バックゲートの接続先が切り替わる。これにより、回路切替方法を用いた差動増幅回路は、第1MOSトランジスタ及び第2MOSトランジスタにおいてゲート電位がバックゲート電位を高電位側又は低電位側に超えることで通常とは異なる状態となることを回避可能である。したがって、このような差動増幅回路は、PBTIの発生を回避可能であり、差動増幅回路の特性変動を抑制可能である。
【0016】
一実施形態における回路切替方法では、前記所定範囲は、前記第1境界値と前記第2境界値との間の全範囲を含んでもよい。これにより、回路切替方法を用いた差動増幅回路は、第1バックゲート及び第2バックゲートを基準電位源に接続するときを、差動増幅回路として機能しないときに限定できる。したがって、第1バックゲート及び第2バックゲートを基準電位源に接続することで生じる基板バイアス効果の影響を考慮する必要性が低減する。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、PBTIによる差動増幅回路の特性変動を抑制可能な差動増幅回路及び回路切替方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本開示の第1実施形態に係る差動増幅回路の概略構成図である。
図2図1の差動増幅回路の動作を説明するための模式図である。
図3】本開示の一実施形態に係る回路切替方法を示すフローチャートである。
図4図1の差動増幅回路の変形例の概略構成図である。
図5】本開示の第2実施形態に係る差動増幅回路の概略構成図である。
図6図5の差動増幅回路の動作を説明するための模式図である。
図7図5の差動増幅回路の変形例の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
従来技術の背景及び問題点についてより詳細に説明する。
【0020】
従来技術における差動増幅回路の一態様として、後述の図1に示されている比較器13と切替素子14とが省略された回路が考えられる。このとき、ゲートへの第1入力電位Vin1及び第2入力電位Vin2の電位差により、PMOS(Positive-channel Metal-Oxide Semiconductor)トランジスタである第1MOSトランジスタ11に流れる第1ドレイン電流Id1と、PMOSトランジスタである第2MOSトランジスタ12に流れる第2ドレイン電流Id2と、が定まる。増幅出力回路16は、これらの電流に応じた電圧Voutを出力する。
【0021】
一般的に、PMOSトランジスタのドレイン電流Idは、Vsg-Vthの関数で表される。ここで、Vsgは、ソース及びゲート間の電位差であり、Vsをソース電位、Vgをゲート電位とすると、Vs-Vgで表される。Vthは、ゲート閾値電圧である。MOSがオンする方向を正の値とする。
【0022】
Vsg-Vthが増加すると、ドレイン電流Idが増加する。Vsg-Vthが減少すると、ドレイン電流Idが減少する。ここで、第1MOSトランジスタ11の第1ソース電位Vs1及び第2MOSトランジスタ12の第2ソース電位Vs2は互いに同一であり、まとめてVsと表記する。ゲート閾値電圧Vthも、第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12において互いに同一であるとする。電位差Vin1-Vin2によって、第1MOSトランジスタ11のVsg1(=Vs-Vin1)及び第2MOSトランジスタ12のVsg2(=Vs-Vin2)が変化し、第1ドレイン電流Id1及び第2ドレイン電流Id2が決定する。第1ドレイン電流Id1及び第2ドレイン電流Id2の総和は、電流源15から一定となるように出力される電流Iと等しくなる。第1ドレイン電流Id1及び第2ドレイン電流Id2は、以下のような関係となる。
【0023】
第1に、Vin1=Vin2のとき、Vsg1=Vsg2となり、Id1=Id2となる。第2に、Vin1>Vin2のとき、Vsg1<Vsg2となり、Id1<Id2となる。第3に、Vin1<Vin2のとき、Vsg1>Vsg2となり、Id1>Id2となる。
【0024】
ここで、第1入力電位Vin1と第2入力電位Vin2との電位差が大きくなると、一方のMOSトランジスタについてVsg-Vthが0以下になり、他方のMOSトランジスタのみに電流Iが流れる。例えば、Vin1>Vin2の状態で第1入力電位Vin1と第2入力電位Vin2との電位差が大きくなると、第1MOSトランジスタ11のVsg1は小さくなり、第2MOSトランジスタ12のVsg2は大きくなる。第1MOSトランジスタ11のVsg1がさらに小さくなってVsg1-Vthが0以下になると、第2MOSトランジスタ12のみに電流Iが流れる。
【0025】
第2MOSトランジスタ12のVsg2は、第2ドレイン電流Id2=電流Iとなる値となり、第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12のソース電位Vsは、Vin2+Vsg2によって定まる。第1入力電位Vin1と第2入力電位Vin2との電位差がさらに大きくなると、第1MOSトランジスタ11のVsg1が0よりも小さくなり、その第1ゲート電位Vg1>第1ソース電位Vs1となる。
【0026】
ところで、PMOSトランジスタにおいて、通常であれば、バックゲート電位は、他の3つの端子の電位よりも高くなる。このような関係を満たすために、PMOSトランジスタのバックゲートは、例えば図1の電源20に接続される。
【0027】
PMOSトランジスタのバックゲートが電源20に接続されると、ソースとバックゲートとの間に電位差が生じる。この電位差により、基板バイアス効果と呼ばれるVthの変動が生じる。この電位差は、電源20の電位及びゲートへの入力電位に依存して変化する。したがって、基板バイアス効果によるVth変動も電源20の電位及びゲートへの入力電位に依存して変化する。
【0028】
通常、素子ばらつきが存在するため、第1MOSトランジスタ11と第2MOSトランジスタ12との間で、基板バイアス効果によるVth変動が完全に一致することは稀である。すなわち、第1MOSトランジスタ11と第2MOSトランジスタ12との間で、Vthの変動量に差が生じる。このVthの変動量の差は、差動増幅回路におけるオフセット電圧の変動となって表れる。したがって、例えば電源20の変動によってオフセット電圧の変動が生じ、PSRR(Power Supply Rejection Ratio)特性が悪化する。また、第1入力電位Vin1及び第2入力電位Vin2のコモンモード電圧の変動によりオフセット電圧の変動が生じ、CMRR(Common Mode Rejection Ratio)特性が悪化する。
【0029】
このような基板バイアス効果による問題点を避けるために、PMOSトランジスタのバックゲートをソースに接続した状態でPMOSトランジスタを差動増幅回路に用いることがある。例えば第1MOSトランジスタ11の第1ソースと第1バックゲートとが接続されていると、上記の第1ゲート電位Vg1>第1ソース電位Vs1という関係式は、第1ゲート電位Vg1>第1バックゲート電位Vb1となる。
【0030】
この状態になると、PBTIという現象が発生し、PMOSトランジスタの特性が変化する。PBTIは、PMOSトランジスタのゲート電位がバックゲート電位よりも高い状態にあることで、ゲート閾値電圧Vthなどのトランジスタ特性が経時変化する現象である。PBTIによるトランジスタ特性の変化は、PBTIの状態が解消された後も残る。したがって、PBTIによりトランジスタ特性が変化すると、第1入力電位Vin1及び第2入力電位Vin2と、第1ドレイン電流Id1及び第2ドレイン電流Id2との関係が変動し、差動増幅回路の特性が変動してしまうという問題があった。
【0031】
以上のような問題点は、Vin2>Vin1の状態で第2入力電位Vin2と第1入力電位Vin1との電位差が大きくなる場合、並びに第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12がNMOS(Negative-channel Metal-Oxide Semiconductor)トランジスタである場合においても同様に生じる。
【0032】
本開示は、以上のような問題点を解決するために、PBTIによる差動増幅回路の特性変動を抑制可能な差動増幅回路及び回路切替方法を提供することを目的とする。以下では、添付図面を参照しながら本開示の一実施形態について主に説明する。
【0033】
(第1実施形態)
図1は、本開示の第1実施形態に係る差動増幅回路10の概略構成図である。図1を参照しながら、第1実施形態に係る差動増幅回路10の構成について主に説明する。図1において、第1MOSトランジスタ11の第1ソース電位Vs1及び第2MOSトランジスタ12の第2ソース電位Vs2は互いに同一であり、まとめてソース電位Vsと表記する。第1MOSトランジスタ11の第1バックゲート電位Vb1及び第2MOSトランジスタ12の第2バックゲート電位Vb2は互いに同一であり、まとめてバックゲート電位Vbと表記する。第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12において、ゲート閾値電圧Vthも互いに同一であるとする。
【0034】
差動増幅回路10は、第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12を有する。第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12は、PMOSトランジスタである。
【0035】
差動増幅回路10は、第1MOSトランジスタ11の第1ゲート及び第2MOSトランジスタ12の第2ゲートに接続されている比較器13を有する。比較器13は、差動増幅回路10の差動入力に備わる。差動増幅回路10は、比較器13、並びに第1MOSトランジスタ11の第1バックゲート及び第2MOSトランジスタ12の第2バックゲートに接続されている切替素子14を有する。
【0036】
切替素子14は、入力差動対のPMOSトランジスタのバックゲートの接続先を切り替えるスイッチである。切替素子14は、比較器13からの出力に応じて接続先を切り替える。切替素子14の接続先の一方は、第1MOSトランジスタ11の第1ソース及び第2MOSトランジスタ12の第2ソースである。切替素子14の接続先の他方は、差動増幅回路10に接続されている電源20である。電源20は、第1ソース電位及び第2ソース電位であるVs、並びに第1入力電位Vin1及び第2入力電位Vin2よりも高い一定の電位を有する基準電位源としての第1電源に相当する。
【0037】
差動増幅回路10は、電源20に接続されている電流源15を有する。電流源15から一定の電流Iが出力される。差動増幅回路10は、第1MOSトランジスタ11の第1ドレイン及び第2MOSトランジスタ12の第2ドレインに接続されている増幅出力回路16を有する。増幅出力回路16は、電源30に接続されている。
【0038】
差動増幅回路10は、第1入力電位Vin1及び第2入力電位Vin2を差動入力として第1MOSトランジスタ11の第1ゲート及び第2MOSトランジスタ12の第2ゲートでそれぞれ受けて、増幅出力回路16から電圧Voutを出力する。
【0039】
図2は、図1の差動増幅回路10の動作を説明するための模式図である。図2は、比較器13及び切替素子14によるバックゲートの接続先の電位差Vin1-Vin2に対する特性を示したものである。図1及び図2を参照しながら、第1実施形態に係る差動増幅回路10の動作について主に説明する。
【0040】
比較器13は、第1MOSトランジスタ11の第1ゲートへの第1入力電位Vin1と第2MOSトランジスタ12の第2ゲートへの第2入力電位Vin2との電位差が所定範囲内にあるか否かを検出する。切替素子14は、比較器13における比較結果を反映した出力を比較器13から受けて、第1MOSトランジスタ11の第1バックゲート及び第2MOSトランジスタ12の第2バックゲートの接続先を切り替える。
【0041】
切替素子14は、第1入力電位Vin1と第2入力電位Vin2との電位差が所定範囲内にあるとき、第1バックゲートを第1MOSトランジスタ11の第1ソースに接続し、第2バックゲートを第2MOSトランジスタ12の第2ソースに接続する。すなわち、切替素子14は、図1に示す端子0と端子1とを接続する。
【0042】
切替素子14は、第1入力電位Vin1と第2入力電位Vin2との電位差が所定範囲内にないとき、第1バックゲート及び第2バックゲートを、基準電位源である第1電源としての電源20に接続する。すなわち、切替素子14は、図1に示す端子0と端子2とを接続する。上記のような基準電位源は、第1ソース電位及び第2ソース電位であるVs、並びに第1入力電位Vin1及び第2入力電位Vin2に対して第1MOSトランジスタ11の第1ドレイン電位及び第2MOSトランジスタ12の第2ドレイン電位と反対側に位置する基準電位を有する。
【0043】
比較器13で識別する所定範囲は、バックゲート及びソースを互いに接続しているときに差動増幅回路10がPBTIの状態にならない範囲とする。所定範囲は、第1入力電位Vin1が第1バックゲートの電位と同一となるときの第1境界値V1と、第2入力電位Vin2が第2バックゲートの電位と同一となるときの第2境界値V2との間に含まれる。例えば、図2では、所定範囲は、第1境界値V1と第2境界値V2との間の全範囲を含む。
【0044】
差動増幅回路10がPBTIの状態になるとき、電流源15からの電流Iが第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12のいずれか一方のみに流れる。電流源15からの電流Iが第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12の両方に流れるとき、第1ゲート電位Vg1<第1ソース電位Vs(=第1バックゲート電位Vb)であり、かつ第2ゲート電位Vg2<第2ソース電位Vs(=第2バックゲート電位Vb)であるため、差動増幅回路10はPBTIの状態にならない。
【0045】
第1に、電流源15の電流Iが第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12のうち第2MOSトランジスタ12のみに流れる場合、すなわちVin1>Vin2である場合を考える。第2MOSトランジスタ12に電流Iが流れるときのVsg2をVsg2@Iと表記すると、ソース電位Vs及びバックゲート電位Vbは、Vs=Vb=Vin2+Vsg2@Iとなる。第1MOSトランジスタ11がPBTIの状態にならないための条件は、Vin1≦Vbなので、Vin1≦Vin2+Vsg2@IからVin1-Vin2≦Vsg2@Iとなる。
【0046】
第2に、電流源15の電流Iが第1MOSトランジスタ11のみに流れる場合、すなわちVin2>Vin1である場合を考える。このときも同様に、PBTIの状態にならないための条件は、Vin2-Vin1≦Vsg1@Iとなる。
【0047】
以上により、差動増幅回路10がPBTIの状態にならない所定範囲は-Vsg1@I≦Vin1-Vin2≦Vsg2@Iとなる。すなわち、図2の第1境界値V1がVsg2@Iに対応し、第2境界値V2が-Vsg1@Iに対応する。理想的には、差動増幅回路10では、第1MOSトランジスタ11と第2MOSトランジスタ12とが互いに同一特性を有するように設計される。このような場合、Vsg1@I=Vsg2@Iとなり、第1境界値V1の絶対値と第2境界値V2の絶対値とが互いに同一となる。実際には、第1MOSトランジスタ11の特性と第2MOSトランジスタ12の特性とが互いに完全に同一となることは稀であるので、第1境界値V1の絶対値と第2境界値V2の絶対値とは、互いに若干異なる。
【0048】
比較器13により識別する所定範囲は、第1境界値V1と第2境界値V2との間の全範囲を含む。これに限定されず、所定範囲は、第1境界値V1と第2境界値V2との間の任意の範囲であってもよい。切替素子14は、電位差Vin1-Vin2が所定範囲を超えた場合、接続を切り替えて、第1バックゲート及び第2バックゲートを電源20に接続する。
【0049】
第1入力電位Vin1及び第2入力電位Vin2は、電源20の電位より低い電位である。したがって、第1バックゲート及び第2バックゲートが電源20に接続されると、第1ゲート電位Vg1及び第2ゲート電位Vg2がバックゲート電位Vbより高い状態にならない。
【0050】
第1バックゲート及び第2バックゲートが電源20に接続されると、従来技術の問題点において述べた基板バイアス効果により、ゲート閾値電圧Vthが大きくなる。しかしながら、第1バックゲート及び第2バックゲートを電源20に接続するときは、一方のMOSトランジスタのみに電流Iが流れ、差動増幅回路10は、差動増幅回路として機能する状態ではないため問題とならない。加えて、基板バイアス効果は、経時的な変化であるPBTIと異なり可逆的な変化である。すなわち、第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12のゲート閾値電圧Vthは、電位差Vin1-Vin2が所定範囲内に戻りバックゲート及びソースが互いに接続されると、基板バイアス効果によるVth変動が解消され、元の値に戻る。
【0051】
図3は、本開示の一実施形態に係る回路切替方法を示すフローチャートである。図3を参照しながら、一実施形態に係る回路切替方法について説明する。当該回路切替方法では、第1MOSトランジスタ11の第1ゲート及び第2MOSトランジスタ12の第2ゲートに接続されている比較器13からの出力に応じて、第1MOSトランジスタ11の第1バックゲート及び第2MOSトランジスタ12の第2バックゲートの接続先が切り替わる。
【0052】
ステップS100では、比較器13は、第1MOSトランジスタ11の第1ゲートへの第1入力電位Vin1と第2MOSトランジスタ12の第2ゲートへの第2入力電位Vin2との電位差を検出する。
【0053】
ステップS101では、ステップS100において比較器13により検出された電位差が所定範囲内にあるか否かで場合分けされる。電位差が所定範囲内にあるとき、ステップS102の動作が実行される。電位差が所定範囲内にないとき、ステップS103の動作が実行される。
【0054】
ステップS102では、切替素子14は、ステップS100において比較器13により検出された電位差が所定範囲内にあるとき、第1MOSトランジスタ11の第1バックゲートをその第1ソースに接続し、第2MOSトランジスタ12の第2バックゲートをその第2ソースに接続する。
【0055】
ステップS103では、切替素子14は、ステップS100において比較器13により検出された電位差が所定範囲内にないとき、第1MOSトランジスタ11の第1バックゲート及び第2MOSトランジスタ12の第2バックゲートを、第1ソース電位及び第2ソース電位であるVs、並びに第1入力電位Vin1及び第2入力電位Vin2に対して第1MOSトランジスタ11の第1ドレイン電位及び第2MOSトランジスタ12の第2ドレイン電位と反対側に位置する基準電位を有する基準電位源に接続する。例えば、第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12がPMOSトランジスタである場合、切替素子14は、第1MOSトランジスタ11の第1バックゲート及び第2MOSトランジスタ12の第2バックゲートを、第1ソース電位及び第2ソース電位であるVs、並びに第1入力電位Vin1及び第2入力電位Vin2よりも高い電位を有する基準電位源としての電源20に接続する。
【0056】
ステップS104では、差動増幅回路10の動作が終了したか否かで場合分けされる。差動増幅回路10の動作が終了した場合、フローは終了する。差動増幅回路10の動作が終了していない場合、フローはステップS101に戻る。「差動増幅回路10の動作が終了する」とは、例えば差動増幅回路10に接続されている電源20及び電源30がオフとなり、差動増幅回路10への電源供給が停止している状態を意味する。
【0057】
以上のような第1実施形態に係る差動増幅回路10によれば、PBTIによる差動増幅回路10の特性変動を抑制可能である。差動増幅回路10は、第1MOSトランジスタ11の第1ゲートへの第1入力電位Vin1と第2MOSトランジスタ12の第2ゲートへの第2入力電位Vin2との電位差が所定範囲内にあるか否かを識別し、第1バックゲート及び第2バックゲートの接続先を切り替える。これにより、差動増幅回路10は、第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12においてゲート電位がバックゲート電位よりも高い状態になることを回避可能である。したがって、差動増幅回路10は、PBTIの発生を回避可能であり、差動増幅回路10の特性変動を抑制可能である。
【0058】
所定範囲が第1境界値V1と第2境界値V2との間の全範囲を含むことで、差動増幅回路10は、第1バックゲート及び第2バックゲートを基準電位源としての電源20に接続するときを、差動増幅回路として機能しないときに限定できる。これにより、第1バックゲート及び第2バックゲートを電源20に接続することで生じる基板バイアス効果の影響を考慮する必要性が低減する。
【0059】
第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12は、PMOSトランジスタである。これにより、差動増幅回路10は、ソースからドレインに向けて電流が流れ、かつ通常であればバックゲート電位が他の3つの端子の電位よりも高くなるような回路系を用いて回路切替方法を実行可能である。
【0060】
切替素子14は、第1ソース電位及び第2ソース電位であるVs、並びに第1入力電位Vin1及び第2入力電位Vin2よりも高い電位を有する基準電位源としての第1電源、すなわち電源20に接続されている。より具体的には、切替素子14の端子2が電源20に接続されている。これにより、差動増幅回路10は、第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12においてゲート電位がバックゲート電位よりも高い状態になることを回避可能である。
【0061】
図4は、図1の差動増幅回路10の変形例の概略構成図である。図1では、電流源15に接続されている電源20に対して切替素子14の端子2が接続されると説明したが、これに限定されない。差動増幅回路10は、電流源15に接続されている電源20とは異なる電源40を第1電源として、切替素子14の端子2が電源40に接続されるように構成されてもよい。すなわち、差動増幅回路10は、電流源15に接続する電源20と切替素子14に接続する電源40とが分離されるように構成されてもよい。
【0062】
電源40は、電源20と必ずしも同一の電源である必要はなく、第1ソース電位及び第2ソース電位であるVs、並びに第1入力電位Vin1及び第2入力電位Vin2よりも高い一定の電位を有する基準電位源としての任意の他の電源であってもよい。
【0063】
以上に加えて、図1の第1電源としての電源20及び図4の第1電源としての電源40は、第1入力電位Vin1又は第2入力電位Vin2と基準電位との電位差が一定となるように第1入力電位Vin1又は第2入力電位Vin2に応じて基準電位を変動させる基準電位源であってもよい。これにより、差動増幅回路10は、第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12においてゲート電位がバックゲート電位よりも高い状態になることを回避可能である。したがって、PBTIによる差動増幅回路10の特性変動を抑制可能である。
【0064】
加えて、第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12においてバックゲートが第1電源に接続されているときのゲート電位とバックゲート電位との電位差が一定になり、ソース電位とバックゲート電位との電位差の変動も抑制される。したがって、ソース電位とバックゲート電位との電位差により基板バイアス効果として生じるVthの変動も抑制される。
【0065】
(第2実施形態)
図5は、本開示の第2実施形態に係る差動増幅回路10の概略構成図である。図5を参照しながら、第2実施形態に係る差動増幅回路10の構成及び動作について主に説明する。第2実施形態に係る差動増幅回路10は、第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12がNMOSトランジスタである点で第1実施形態と相違する。NMOSトランジスタの場合、ゲート電位がバックゲート電位より低い状態になるとPBTIが発生し、NMOSトランジスタの特性が変化する。
【0066】
その他の構成、機能、効果、及び変形例などについては、第1実施形態と同様であり、対応する説明が第2実施形態に係る差動増幅回路10にも当てはまる。以下では、第1実施形態と同様の構成部については同一の符号を付し、その説明を省略する。第1実施形態と異なる点について主に説明する。
【0067】
切替素子14は、入力差動対のNMOSトランジスタのバックゲートの接続先を切り替えるスイッチである。切替素子14の接続先の一方は、第1MOSトランジスタ11の第1ソース及び第2MOSトランジスタ12の第2ソースである。切替素子14の接続先の他方は、差動増幅回路10に接続されている電源50である。電源50は、第1ソース電位及び第2ソース電位であるVs、並びに第1入力電位Vin1及び第2入力電位Vin2よりも低い一定の電位を有する基準電位源としての第2電源に相当する。
【0068】
差動増幅回路10では、電源50に接続されている電流源15から一定の電流Iが出力される。第1MOSトランジスタ11の第1ドレイン及び第2MOSトランジスタ12の第2ドレインに接続されている増幅出力回路16は、電源60に接続されている。
【0069】
図6は、図5の差動増幅回路10の動作を説明するための模式図である。図6は、比較器13及び切替素子14によるバックゲートの接続先の電位差Vin1-Vin2に対する特性を示したものである。図5及び図6を参照しながら、第2実施形態に係る差動増幅回路10の動作について主に説明する。
【0070】
切替素子14は、第1入力電位Vin1と第2入力電位Vin2との電位差が所定範囲内にあるとき、第1バックゲートを第1MOSトランジスタ11の第1ソースに接続し、第2バックゲートを第2MOSトランジスタ12の第2ソースに接続する。すなわち、切替素子14は、図5に示す端子0と端子1とを接続する。
【0071】
切替素子14は、第1入力電位Vin1と第2入力電位Vin2との電位差が所定範囲内にないとき、第1バックゲート及び第2バックゲートを、基準電位源である第2電源としての電源50に接続する。すなわち、切替素子14は、図5に示す端子0と端子2とを接続する。上記のような基準電位源は、第1ソース電位及び第2ソース電位であるVs、並びに第1入力電位Vin1及び第2入力電位Vin2に対して第1MOSトランジスタ11の第1ドレイン電位及び第2MOSトランジスタ12の第2ドレイン電位と反対側に位置する基準電位を有する。
【0072】
差動増幅回路10がPBTIの状態になるとき、電流源15からの電流Iが第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12のいずれか一方のみに流れる。電流源15からの電流Iが第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12の両方に流れるとき、第1ゲート電位Vg1>第1ソース電位Vs(=第1バックゲート電位Vb)であり、かつ第2ゲート電位Vg2>第2ソース電位Vs(=第2バックゲート電位Vb)であるため、差動増幅回路10はPBTIの状態にならない。
【0073】
第1に、電流源15の電流Iが第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12のうち第2MOSトランジスタ12のみに流れる場合、すなわちVin1<Vin2である場合を考える。第2MOSトランジスタ12に電流Iが流れるときのVgs2をVgs2@Iと表記すると、ソース電位Vs及びバックゲート電位Vbは、Vs=Vb=Vin2-Vgs2@Iとなる。ここで、Vgs2は、ゲート及びソース間の電位差であり、Vg2-Vsで表される。第1MOSトランジスタ11がPBTIの状態にならないための条件は、Vin1≧Vbなので、Vin1≧Vin2-Vgs2@IからVin1-Vin2≧-Vgs2@Iとなる。
【0074】
第2に、電流源15の電流Iが第1MOSトランジスタ11のみに流れる場合、すなわちVin2<Vin1である場合を考える。このときも同様に、PBTIの状態にならないための条件は、Vin2-Vin1≧-Vgs1@Iとなる。ここで、Vgs1は、ゲート及びソース間の電位差であり、Vg1-Vsで表される。
【0075】
以上により、差動増幅回路10がPBTIの状態にならない所定範囲は-Vgs2@I≦Vin1-Vin2≦Vgs1@Iとなる。すなわち、図6の第1境界値V1が-Vgs2@Iに対応し、第2境界値V2がVgs1@Iに対応する。理想的には、差動増幅回路10では、第1MOSトランジスタ11と第2MOSトランジスタ12とが互いに同一特性を有するように設計される。このような場合、Vgs1@I=Vgs2@Iとなり、第1境界値V1の絶対値と第2境界値V2の絶対値とが互いに同一となる。実際には、第1MOSトランジスタ11の特性と第2MOSトランジスタ12の特性とが互いに完全に同一となることは稀であるので、第1境界値V1の絶対値と第2境界値V2の絶対値とは、互いに若干異なる。
【0076】
比較器13により識別する所定範囲は、第1境界値V1と第2境界値V2との間の全範囲を含む。これに限定されず、所定範囲は、第1境界値V1と第2境界値V2との間の任意の範囲であってもよい。切替素子14は、電位差Vin1-Vin2が所定範囲を超えた場合、接続を切り替えて、第1バックゲート及び第2バックゲートを電源50に接続する。
【0077】
第1入力電位Vin1及び第2入力電位Vin2は、電源50の電位より高い電位である。したがって、第1バックゲート及び第2バックゲートが電源50に接続されると、第1ゲート電位Vg1及び第2ゲート電位Vg2がバックゲート電位Vbより低い状態にならない。
【0078】
第1バックゲート及び第2バックゲートが電源50に接続されると、従来技術の問題点において述べた基板バイアス効果により、ゲート閾値電圧Vthが大きくなる。しかしながら、第1バックゲート及び第2バックゲートを電源50に接続するときは、一方のMOSトランジスタのみに電流Iが流れ、差動増幅回路10は、差動増幅回路として機能する状態ではないため問題とならない。加えて、基板バイアス効果は、経時的な変化であるPBTIと異なり可逆的な変化である。すなわち、第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12のゲート閾値電圧Vthは、電位差Vin1-Vin2が所定範囲内に戻りバックゲート及びソースが互いに接続されると、基板バイアス効果によるVth変動が解消され、元の値に戻る。
【0079】
以上のような第2実施形態に係る差動増幅回路10によれば、第1実施形態と同様にPBTIによる差動増幅回路10の特性変動を抑制可能である。差動増幅回路10は、第1MOSトランジスタ11の第1ゲートへの第1入力電位Vin1と第2MOSトランジスタ12の第2ゲートへの第2入力電位Vin2との電位差が所定範囲内にあるか否かを識別し、第1バックゲート及び第2バックゲートの接続先を切り替える。これにより、差動増幅回路10は、第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12においてゲート電位がバックゲート電位よりも低い状態になることを回避可能である。したがって、差動増幅回路10は、PBTIの発生を回避可能であり、差動増幅回路10の特性変動を抑制可能である。
【0080】
所定範囲が第1境界値V1と第2境界値V2との間の全範囲を含むことで、差動増幅回路10は、第1バックゲート及び第2バックゲートを基準電位源としての電源50に接続するときを、差動増幅回路として機能しないときに限定できる。これにより、第1バックゲート及び第2バックゲートを電源50に接続することで生じる基板バイアス効果の影響を考慮する必要性が低減する。
【0081】
第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12は、NMOSトランジスタである。これにより、差動増幅回路10は、ドレインからソースに向けて電流が流れ、かつ通常であればバックゲート電位が他の3つの端子の電位よりも低くなるような回路系を用いて回路切替方法を実行可能である。
【0082】
切替素子14は、第1ソース電位及び第2ソース電位であるVs、並びに第1入力電位Vin1及び第2入力電位Vin2よりも低い電位を有する基準電位源としての第2電源、すなわち電源50に接続されている。より具体的には、切替素子14の端子2が電源50に接続されている。これにより、差動増幅回路10は、第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12においてゲート電位がバックゲート電位よりも低い状態になることを回避可能である。
【0083】
図7は、図5の差動増幅回路10の変形例の概略構成図である。図5では、電流源15に接続されている電源50に対して切替素子14の端子2が接続されると説明したが、これに限定されない。差動増幅回路10は、電流源15に接続されている電源50とは異なる電源70を第2電源として、切替素子14の端子2が電源70に接続されるように構成されてもよい。すなわち、差動増幅回路10は、電流源15に接続する電源50と切替素子14に接続する電源70とが分離されるように構成されてもよい。
【0084】
電源70は、電源50と必ずしも同一の電源である必要はなく、第1ソース電位及び第2ソース電位であるVs、並びに第1入力電位Vin1及び第2入力電位Vin2よりも低い一定の電位を有する基準電位源としての任意の他の電源であってもよい。
【0085】
以上に加えて、図5の第2電源としての電源50及び図7の第2電源としての電源70は、第1入力電位Vin1又は第2入力電位Vin2と基準電位との電位差が一定となるように第1入力電位Vin1又は第2入力電位Vin2に応じて基準電位を変動させる基準電位源であってもよい。これにより、差動増幅回路10は、第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12においてゲート電位がバックゲート電位よりも低い状態になることを回避可能である。したがって、PBTIによる差動増幅回路10の特性変動を抑制可能である。
【0086】
加えて、第1MOSトランジスタ11及び第2MOSトランジスタ12においてバックゲートが第2電源に接続されているときのゲート電位とバックゲート電位との電位差が一定になり、ソース電位とバックゲート電位との電位差の変動も抑制される。したがって、ソース電位とバックゲート電位との電位差により基板バイアス効果として生じるVthの変動も抑制される。
【0087】
上記第2実施形態では、第1ソース電位及び第2ソース電位であるVs、並びに第1入力電位Vin1及び第2入力電位Vin2よりも低い電位を有する基準電位源は、第2電源、すなわち電源50又は電源70であると説明したが、これに限定されない。このような基準電位源は、グランドであってもよい。
【0088】
本開示を諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形及び修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成又はステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0089】
例えば、本開示は、上述した差動増幅回路10の各機能を実現する処理内容を記述したプログラム又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得る。本開示の範囲には、これらも包含されると理解されたい。
【0090】
例えば、上述した各構成部の配置及び個数は、上記の説明及び図面における図示の内容に限定されない。各構成部の配置及び個数は、その機能を実現できるのであれば、任意に構成されてもよい。
【符号の説明】
【0091】
10 差動増幅回路
11 第1MOSトランジスタ
12 第2MOSトランジスタ
13 比較器
14 切替素子
15 電流源
16 増幅出力回路
20 電源(第1電源)
30 電源
40 電源(第1電源)
50 電源(第2電源)
60 電源
70 電源(第2電源)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7