IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人東京理科大学の特許一覧 ▶ 株式会社SPACE WALKERの特許一覧

<>
  • 特開-センシングシステム 図1
  • 特開-センシングシステム 図2
  • 特開-センシングシステム 図3A
  • 特開-センシングシステム 図3B
  • 特開-センシングシステム 図4
  • 特開-センシングシステム 図5
  • 特開-センシングシステム 図6
  • 特開-センシングシステム 図7
  • 特開-センシングシステム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132989
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】センシングシステム
(51)【国際特許分類】
   B64D 43/02 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
B64D43/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038625
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(71)【出願人】
【識別番号】518128883
【氏名又は名称】株式会社SPACE WALKER
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤川 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】米本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】角田 智樹
(57)【要約】
【課題】飛行体の姿勢状態又は運動状態を精度よく推定する。
【解決手段】センシングシステムは、飛行体前側の先端部表面に設けられた複数の基準圧測定用孔と、第1連通路を介して接続された空間である、前記飛行体内の第1基準圧室と、前記先端部表面に設けられた複数の圧力測定用孔と、第2連通路を介して接続された空間である、前記飛行体内の第2基準圧室と、前記第2連通路に設けられた、前記圧力測定用孔側の圧力と前記第2基準圧室側の圧力との差圧を検出する複数の差圧センサと、前記第2基準圧室に設けられた、絶対圧を検出する絶対圧センサと、前記差圧センサの出力及び前記絶対圧センサの出力に基づいて、前記飛行体の姿勢状態又は運動状態を推定する推定部と、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛行体前側の先端部表面に設けられた複数の基準圧測定用孔と、第1連通路を介して接続された空間である、前記飛行体内の第1基準圧室と、
前記先端部表面に設けられた複数の圧力測定用孔と、第2連通路を介して接続された空間である、前記飛行体内の第2基準圧室と、
前記第2連通路に設けられた、前記圧力測定用孔側の圧力と前記第2基準圧室側の圧力との差圧を検出する複数の差圧センサと、
前記第2基準圧室に設けられた、絶対圧を検出する絶対圧センサと、
前記差圧センサの出力及び前記絶対圧センサの出力に基づいて、前記飛行体の姿勢状態又は運動状態を推定する推定部と、
を含むセンシングシステム。
【請求項2】
前記第1基準圧室と前記第2基準圧室との間を接続する第3連通路を、前記第1連通路が形成された面と対向する面の中央部に形成する請求項1記載のセンシングシステム。
【請求項3】
前記推定部は、前記差圧センサの出力及び前記絶対圧センサの出力に基づいて、前記圧力測定用孔の圧力を算出し、前記圧力測定用孔の圧力に基づいて、前記飛行体の姿勢状態又は運動状態を推定する請求項1又は2記載のセンシングシステム。
【請求項4】
前記絶対圧センサを複数備え、
前記複数の絶対圧センサは、前記第2基準圧室に形成された複数の絶対圧測定用孔内に設けられ、
前記推定部は、
前記複数の差圧センサ及び前記複数の絶対圧センサの各々の異常状態を判定し、
異常状態と判定されていない前記絶対圧センサの出力に基づいて、前記第2基準圧室の圧力を算出し、
異常状態と判定されていない前記差圧センサの出力と、前記第2基準圧室の圧力とに基づいて、前記飛行体の姿勢状態又は運動状態を推定する請求項1~請求項3の何れか1項記載のセンシングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センシングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機ではエアデータ(対気速度および空力姿勢など)の推定にピトー管や迎角ベーン等を用いたADS(Air Data Sensing)システムが用いられている。しかしスペースプレーンのように極超音速飛行を伴う場合、鋭利な形状のADSシステムでは衝撃波の影響により先端が高温にさらされるため、使用が困難である。そこで、鈍頭形状のノーズ表面に多数の圧力孔を設けたFADS(Flush Air Data Sensing)システムによるエアデータ推定法が知られている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Whitmore, S. A., Cobleigh, B. R. and Hearing, E. A., Design and Calibration of the X-33 Flush Airdata Sensing (FADS) System, NASA/TM-1998-206540, 1998.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のFADSシステムではリフトオフ直後や軌道頂点付近の低動圧領域において推定精度が低下するという問題がある。これは、高動圧飛行時の各孔圧力を測定可能な大きなレンジを有する圧力センサでは、低動圧時の孔間の差圧を捉えられるほどの測定精度を実現できないためである。複数の圧力レンジをもった圧力センサを切り替えて使用する必要があるが、コストが増大する。
【0005】
そこで、ノーズ表面の平均的な圧力を導くような基準圧室を設け、各孔と基準圧室の間での差圧測定を利用することで圧力センサに必要なレンジを狭め、推定精度を向上させることが考えられる。
【0006】
このとき、ノーズ表面の圧力は、各差圧計により計測される基準圧との差分を用いて算出されるため、複数の基準圧測定点の間で圧力の差異が生じないような基準圧室の設計が求められる。
【0007】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであり、飛行体の姿勢状態又は運動状態を精度よく推定することができるセンシングシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るセンシングシステムは、飛行体前側の先端部表面に設けられた複数の基準圧測定用孔と、第1連通路を介して接続された空間である、前記飛行体内の第1基準圧室と、前記先端部表面に設けられた複数の圧力測定用孔と、第2連通路を介して接続された空間である、前記飛行体内の第2基準圧室と、前記第2連通路に設けられた、前記圧力測定用孔側の圧力と前記第2基準圧室側の圧力との差圧を検出する複数の差圧センサと、前記第2基準圧室に設けられた、絶対圧を検出する絶対圧センサと、前記差圧センサの出力及び前記絶対圧センサの出力に基づいて、前記飛行体の姿勢状態又は運動状態を推定する推定部と、を含んで構成されている。
【0009】
本発明によれば、飛行体内の第1基準圧室が、飛行体前側の先端部表面に設けられた複数の基準圧測定用孔に接続され、飛行体内の第2基準圧室が、先端部表面に設けられた複数の圧力測定用孔に接続されている。また、差圧センサが、圧力測定用孔と第2基準圧室とを接続する第2連通路に設けられ、絶対圧センサが、第2基準圧室に設けられている。
【0010】
そして、推定部が、前記差圧センサの出力及び前記絶対圧センサの出力に基づいて、前記飛行体の姿勢状態又は運動状態を推定する。
【0011】
このように、第1基準圧室と第2基準圧室とを設け、第2基準圧室に設けられた絶対圧センサの出力と、第2連通路に設けられた差圧センサの出力とを用いることにより、飛行体の姿勢状態又は運動状態を精度よく推定することができる。
【0012】
本発明に係る前記第1基準圧室と前記第2基準圧室との間を接続する第3連通路を、前記第1連通路が形成された面と対向する面の中央部に形成することができる。これにより、第1基準圧室内の気体の流れによる、第2基準圧室内への影響を抑制することができる。
【0013】
本発明に係る前記推定部は、前記差圧センサの出力及び前記絶対圧センサの出力に基づいて、前記圧力測定用孔の圧力を算出し、前記圧力測定用孔の圧力に基づいて、前記飛行体の姿勢状態又は運動状態を推定することができる。これにより、前記圧力測定用孔の圧力を精度よく算出することができ、前記飛行体の姿勢状態又は運動状態を精度よく推定することができる。
【0014】
上記の発明に係るセンシングシステムは、前記絶対圧センサを複数備え、前記複数の絶対圧センサは、前記第2基準圧室に形成された複数の絶対圧測定用孔内に設けられ、前記複数の差圧センサ及び前記複数の絶対圧センサの各々の異常状態を判定する異常判定部を更に含み、前記推定部は、異常状態と判定されていない前記絶対圧センサの出力に基づいて、前記第2基準圧室の圧力を算出し、異常状態と判定されていない前記差圧センサの出力と、前記第2基準圧室の圧力とに基づいて、前記飛行体の姿勢状態又は運動状態を推定することができる。これにより、圧力測定用孔又は絶対圧測定用孔に異常が生じても、飛行体の姿勢状態又は運動状態を精度よく推定することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明のセンシングシステムによれば、第1基準圧室と第2基準圧室とを設け、第2基準圧室に設けられた絶対圧センサの出力と、第2連通路に設けられた差圧センサの出力とを用いることにより、飛行体の姿勢状態又は運動状態を精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(A)本発明の実施の形態に係る飛行体前側の先端部の正面図、及び(B)先端部の側面図である。
図2】本発明の実施の形態に係るセンシングシステムの構成を示す模式図である。
図3A図1(A)のA-A線の断面図である。
図3B図1(A)のB-B線の断面図である。
図4】本発明の実施の形態に係るセンシングシステムの推定装置を示すブロック図である。
図5】本発明の実施の形態に係るセンシングシステムの推定装置による推定処理の内容を示すフローチャートである。
図6】実施例における有翼ロケット実験機の飛行プロファイルを示すグラフである。
図7】絶対圧測定による推定誤差を示すグラフである。
図8】差圧測定による推定誤差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
<本発明の実施の形態の概要>
飛行体の前側の先端部表面の圧力は、各差圧計により計測される基準圧との差分を用いて算出されるため、複数の基準圧測定点の間で圧力の差異が生じないような基準圧室の設計が求められる。
【0019】
本発明の実施の形態では、この要求を満たすように、内部の気体の流れを抑制した、先端部内部の基準圧室の形状を設計し、圧力測定用孔の圧力を精度良く推定し、エアデータの推定精度を向上させる。
【0020】
<本発明の実施の形態のセンシングシステムの構成>
図1に示すように、本発明の実施の形態に係るセンシングシステムは、差圧式フラッシュ型エアデータセンシングシステムである。本発明の実施の形態に係るセンシングシステムでは、飛行体の前側の先端部100Fの表面に、複数の基準圧測定用孔r1~r8と、複数の圧力測定用孔1~9とが形成されている。
【0021】
図1(A)は、飛行体の前側の先端部100Fの正面図であり、飛行体の筐体に形成されている、8個の基準圧測定用孔r1~r8と、9個の圧力測定用孔1~9とが放射状に配置されている例を示している。また、正面視で、内側の円上に4個の基準圧測定用孔r1~r4が、90°間隔で配置され、外側の円上に4個の基準圧測定用孔r5~r8が、90°間隔で配置される例を示している。また、正面視で、円の中心に圧力測定用孔1が配置され、内側の円上に4個の圧力測定用孔2~5が、90°間隔で配置され、外側の円上に4個の圧力測定用孔6~9が、90°間隔で配置される例を示している。
【0022】
また、図1(B)に示すように、側面視で、先端部100Fの表面の曲線を近似した円の中心から15°間隔で、5個の圧力測定用孔1、2、4、6、8が配置されている例を示している。
【0023】
また、図2に、飛行体の前側の先端部100Fの内部のセンシングシステムの模式図を示す。センシングシステムは、第1基準圧室10と、第2基準圧室20と、複数の差圧センサ51~59と、複数の絶対圧センサ61~64とを備えている。
【0024】
第1基準圧室10は、複数の基準圧測定用孔r1~r8と、第1連通路31~38を介して接続された、飛行体内の空間である。第2基準圧室20は、複数の圧力測定用孔1~9と、第2連通路41~49を介して接続された、飛行体内の空間である。
【0025】
差圧センサ51~59は、第2連通路41~49に設けられており、圧力測定用孔1~9側の圧力と反対側の圧力である基準圧との差圧を検出する。
【0026】
複数の絶対圧センサ61~64は、第2基準圧室20に設けられており、絶対圧を検出する。
【0027】
第1基準圧室10と第2基準圧室20との間を接続する第3連通路81~83を、第1連通路31~38が形成された面と対向する面の中央部に形成する。
【0028】
複数の絶対圧センサ61~64は、第2基準圧室20に形成された複数の絶対圧測定用孔91~94内に設けられている。
【0029】
第1基準圧室10には、複数の基準圧測定用孔r1~r8が接続されることで、先端部100Fの表面の平均的な圧力が導かれる。
【0030】
本実施の形態では、幅広い動圧、マッハ数、空力姿勢において、第2基準圧室20と圧力測定用孔1~9の間の差圧を小さくすることで、差圧センサ51~59に必要なレンジを狭め、圧力測定用孔1~9の圧力の推定精度を向上させる。なお、圧力測定用孔1~9の各孔圧力を算出する際に異なる基準圧を用いてしまうと、圧力の推定精度が悪化するため、差圧センサ51~59による基準圧測定点の間で圧力の差異が生じないような設計が求められる.
【0031】
そこで、本実施の形態のセンシングシステムは、第1基準圧室10と第2基準圧室20とを備えており、基準圧室が2段構造となっている。複数の基準圧測定用孔r1~r8の間で圧力差が存在すると、第1基準圧室10の内部に気体の流れが生じるが、その影響が圧力測定に及ばないように、差圧センサ51~59と絶対圧センサ61~64とに繋がる第2基準圧室20を設けている。第1基準圧室10と第2基準圧室20を接続する3つの第3連通路81~83の間の圧力差を小さくして、第2基準圧室20内部の圧力の偏りの発生を抑えるため、3つの第3連通路81~83を、第1連通路31~38が形成された面と対向する面の中央部に形成する。
【0032】
図3Aに、飛行体100の前側の先端部100Fについての上記図1(A)のA-A線断面図を示す。図3Bに、飛行体100の前側の先端部100Fについての上記図1(A)のB-B線断面図を示す。図3A図3Bでは、筐体の内側に、第1基準圧室10を設け、第1基準圧室10より飛行体後側に、第2基準圧室20を設ける例を示している。図3A図3Bでは、第1基準圧室10が、第1連通路32、34、36、38を介して基準圧測定用孔r2、r4、r6、r8と接続されている様子が示され、第1基準圧室10が、圧力測定用孔1、2、4、6、8と接続されていない様子が示されている。
【0033】
また、センシングシステムは、更に、差圧センサ51~59の出力及び絶対圧センサ61~64の出力に基づいて、飛行体の姿勢状態又は運動状態を推定する推定装置70を備えている。
【0034】
推定装置70は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、後述する推定処理ルーチンを実行するためのプログラムや各種データを記憶したROM(Read Only Memory)と、を含むコンピュータで構成することが出来る。推定装置70は、機能的には、図4に示すように、取得部72及び推定部76を備えている。
【0035】
ここで、推定装置70による飛行体の姿勢状態及び運動状態の推定方法について説明する。
【0036】
本実施の形態では、絶対圧測定と差圧測定を併用して、圧力測定用孔1~9の圧力を推定する。予め、必要な較正係数を風洞試験などの実験データから取得しておく。
【0037】
飛行体の飛行中に、圧力測定用孔1~9の圧力を推定する際に、まず入力として差圧センサ51~59により測定された、第2基準圧室20側と圧力測定用孔1~9側との差圧Δpと、絶対圧センサ61~64により測定される絶対圧p(r)、圧力測定用孔1~9及び基準圧測定用孔r1~r8の各々の配置(正面視の角度φ,側面視の角度λ)を取得する。なお、圧力測定用孔1~9及び基準圧測定用孔r1~r8の各々の配置(正面視の角度φ,側面視の角度λ)は、事前に設計された値として既知のものである。
【0038】
次に、4つの絶対圧p(r)から、第2基準圧室20の基準圧p(r)を決定する。差圧Δpと基準圧p(r)の和から各圧力測定用孔1~9の圧力pを求める。
【0039】
圧力測定用孔1~9の圧力pが算出された後は、以下に説明するように、Triples method(非特許文献1)を適用し飛行体の姿勢状態及び運動状態を推定する。
【0040】
まず、正面視で鉛直線上に位置する圧力測定用孔1,2,4,6,8から3孔を選択した複数個の組み合わせから局所迎角αを求める。

また、求められたpとαから局所横滑り角βを算出する。また、p、α、βと予め取得しておいた較正係数εからマッハ数M、動圧q、静圧qを推定する。また、局所迎角αと局所横滑り角βから迎角補正値δαと横滑り角補正値δβを計算する。
最後に局所迎角αと局所横滑り角βと迎角補正値δαと横滑り角補正値δβから主流に対する迎角αと横滑り角βを推定する。
【0041】
なお、上記非特許文献1では、6つの圧力測定用孔を有するFADSにTriples methodを適用している。本実施の形態では、冗長な9つの圧力測定用孔1~9を設けることで、圧力計の1故障許容(圧力推定精度の悪化なしに使用可能であること)と2故障判別(複数故障による推定精度悪化を警告する故障フラグffailの出力)という耐故障性を実現する。さらに、差圧センサの併用により低動圧下での圧力推定精度は向上したものの、極度に低い動圧には対応できないため、動圧低下により推定精度が保証できないことを自己判別し精度低下フラグflowで通知する機能を有する。
【0042】
以上説明したように、本実施の形態では、取得部72は、差圧センサ51~59の出力及び絶対圧センサ61~64の出力を取得する。
【0043】
推定部76は、差圧センサ51~59及び絶対圧センサ61~64の各々の異常状態を判定する。例えば、絶対圧センサ61~64の出力を比較することにより、他の絶対圧センサの出力との差の絶対値が閾値以上である場合には、当該絶対圧が異常状態であると判定する。そして、1つの差圧センサ出力以外を使用した迎角推定と横滑り角推定を複数回行い、複数の推定値の間に閾値以上の差異がある場合、外れ値の推定に共通して使用されている差圧センサを異常状態であると判定する。
【0044】
推定部76は、異常状態の判定結果に応じた故障フラグffailを出力する。また、推定部76は、動圧低下により推定精度が保証できないことを自己判別し精度低下フラグflowを出力する。
【0045】
推定部76は、差圧センサ51~59の出力及び絶対圧センサ61~64の出力に基づいて、圧力測定用孔1~9の圧力を算出し、圧力測定用孔1~9の圧力に基づいて、飛行体の姿勢状態又は運動状態を推定する。
【0046】
具体的には、推定部76は、複数の絶対圧測定用孔91~94のうち、異常状態と判定されていない絶対圧センサの出力に基づいて、第2基準圧室20の圧力を算出する。
【0047】
また、推定部76は、圧力測定用孔1~9のうち、異常状態と判定されていない差圧センサの出力と、第2基準圧室20の圧力とに基づいて、飛行体の姿勢状態として、主流に対する迎角αと横滑り角βを推定し、運動状態としてマッハ数M、動圧q、静圧qを推定する。
【0048】
<本発明の実施の形態のセンシングシステムの動作>
まず、必要な較正係数εを、風洞試験などの実験データから取得しておく。
【0049】
そして、飛行体が飛行中に、複数の圧力測定用孔1~9に接続されている第2連通路41~49に設けられた差圧センサ51~59が、差圧を出力し、第2基準圧室20に形成された複数の絶対圧測定用孔91~94内に設けられている絶対圧センサ61~64が、絶対圧を出力する。このとき、図5に示すような推定処理が、推定装置70によって実行される。
【0050】
まず、ステップS100において、取得部72は、差圧センサ51~59の出力及び絶対圧センサ61~64の出力を取得する。
【0051】
ステップS101において、推定部76は、差圧センサ51~59及び絶対圧センサ61~64の各々の異常状態を判定する。
【0052】
ステップS102において、推定部76は、複数の絶対圧測定用孔91~94のうち、異常状態と判定されていない絶対圧センサの出力に基づいて、第2基準圧室20の圧力を算出する。
【0053】
ステップS104において、推定部76は、絶対圧測定用孔1~9のうち、異常状態と判定されていない差圧センサの出力と、第2基準圧室20の圧力とに基づいて、異常状態と判定されていない圧力測定用孔の圧力pを算出する。
【0054】
ステップS106において、推定部76は、異常状態と判定されていない差圧センサに対応する圧力測定用孔の圧力に基づいて、局所迎角αを求める。
【0055】
ステップS108において、推定部76は、異常状態と判定されていない差圧センサに対応する圧力測定用孔の圧力に基づいて、求められた圧力測定用孔の圧力pと局所迎角αから局所横滑り角βを算出する。
【0056】
ステップS110において、推定部76は、異常状態と判定されていない差圧センサに対応する圧力測定用孔の圧力p、局所迎角α、局所横滑り角βと、予め取得しておいた較正係数εとから、マッハ数M、動圧q、静圧qを推定する。
【0057】
ステップS112において、推定部76は、局所迎角αと局所横滑り角βと迎角補正値δαと横滑り角補正値δβから主流に対する迎角αと横滑り角βを推定する。
【0058】
ステップS114において、推定部76は、異常状態の判定結果に応じた故障フラグffailを決定する。また、推定部76は、動圧低下により推定精度が保証できないことを自己判別し精度低下フラグflowを決定する。
【0059】
ステップS116において、推定装置70は、主流に対する迎角αと横滑り角β、マッハ数M、動圧q、静圧q、故障フラグffail、精度低下フラグflowを出力する。
【0060】
<実施例>
上記の実施の形態で説明したセンシングシステムが、従来のFADSに比べて推定精度が優れていることを示すために、有翼ロケット実験機WIRES#015(非特許文献2)の飛行プロファイル(図6)を解析条件として使用し、絶対圧センサおよび差圧センサの3σ誤差(表1)を想定して、推定誤差の解析を行った。
【0061】
[非特許文献2]Fukushima, D., Yonemoto, K., Fujikawa, T., Matsukami, T., Otsuki, T., Kitazono, Y., Koshida, Y., Murakami, M., Watanabe, T., and Morito, T., Design and Development Status of Experiment Winged Rocket WIRES#015, 33rd International Symposium on Space Technology and Science, 2022.
【0062】
【表1】
【0063】
迎角、横滑り角、マッハ数、飛行動圧および大気静圧のエアデータについて誤差解析を行った結果を図7図8に示す。図7は、従来のFADSである絶対圧測定による推定誤差を示すグラフである。図8は、上記の実施の形態で説明した差圧測定による推定誤差を示すグラフである。その結果、上記の実施の形態で説明した差圧測定による推定は、従来のFADSに比べて、エアデータの計測誤差が極めて小さく抑えられていることが分かる。
【0064】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係るセンシングシステムによれば、第1基準圧室と第2基準圧室とを設け、第2基準圧室に設けられた絶対圧センサの出力と、第2連通路に設けられた差圧センサの出力とを用いることにより、飛行体の姿勢状態又は運動状態を精度よく推定することができる。
【0065】
また、第1基準圧室と第2基準圧室との間を接続する第3連通路を、第1連通路が形成された面と対向する面の中央部に形成することにより、第1基準圧室内の気体の流れによる、第2基準圧室内への影響を抑制することができる。
【0066】
また、差圧センサの出力及び絶対圧センサの出力に基づいて、圧力測定用孔の圧力を算出することにより、低い動圧であっても、圧力測定用孔の圧力を精度よく算出することができ、飛行体の姿勢状態又は運動状態を精度よく推定することができる。
【0067】
また、複数の圧力測定用孔及び前記複数の絶対圧測定用孔の各々の異常状態を判定し、異常状態と判定されていない絶対圧測定用孔の絶対圧センサの出力に基づいて、第2基準圧室の圧力を算出し、異常状態と判定されていない圧力測定用孔の差圧センサの出力と、第2基準圧室の圧力とに基づいて、飛行体の姿勢状態又は運動状態を推定することにより、圧力測定用孔又は絶対圧測定用孔に異常が生じても、飛行体の姿勢状態又は運動状態を精度よく推定することができる。
【0068】
また、幅広い動圧域で高精度なエアデータ推定を実現するために差圧測定を併用したFADSに対して、基準圧室を2段構造にすることにより、基準圧を測定する2段目の基準圧室への気流の流入を抑えることができる。また、実験機の飛行プロファイルに沿った誤差解析の結果、差圧測定を併用したFADSにより飛行体の姿勢状態又は運動状態の推定精度が向上することが確認できた。
【0069】
なお、上記の実施の形態において、飛行体の前側の先端部の表面に、8個の基準圧測定用孔と、9個の圧力測定用孔とが形成されている場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。基準圧測定用孔の個数が8個以外でもよく、圧力測定用孔の個数が、9個以外であってもよい。基準圧測定用孔と圧力測定用孔の配置が、上記図1に示す配置以外のものであってもよい。
【符号の説明】
【0070】
1~9 圧力測定用孔
10 第1基準圧室
20 第2基準圧室
31~38 第1連通路
41~49 第2連通路
51~59 差圧センサ
61~64 絶対圧センサ
70 推定装置
72 取得部
76 推定部
81~83 第3連通路
91~94 絶対圧測定用孔
100 飛行体
100F 先端部
r1~r8 基準圧測定用孔
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8