(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133030
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】苗藻の育成装置、苗藻の育成方法及び藻の育成方法
(51)【国際特許分類】
A01G 33/00 20060101AFI20230914BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20230914BHJP
C12N 1/12 20060101ALI20230914BHJP
C12M 1/34 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
A01G33/00
C12M1/00 E
C12N1/12 A
C12M1/34 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038703
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】518362513
【氏名又は名称】株式会社イービス藻類産業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100150876
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】平岡 正明
(72)【発明者】
【氏名】井上 元
【テーマコード(参考)】
2B026
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
2B026AA05
2B026FA05
2B026FB03
4B029AA01
4B029AA02
4B029AA07
4B029BB04
4B029DF04
4B029FA09
4B065AA83X
4B065BC07
4B065BC08
4B065BC11
4B065BC12
4B065BC32
4B065BC48
4B065CA60
(57)【要約】 (修正有)
【課題】効率的に苗藻を育成できる苗藻の育成装置及び育成方法、並びにかかる苗藻を用いた、効率的な藻の育成方法を提供する。
【解決手段】可撓性で且つ所定高さを有する苗藻育成用袋、及び苗藻育成用袋の所定高さに且つ左右両側を覆って、苗藻育成用袋を所定の幅に調整する袋矯正器、を具備し、光源と、受光器と、苗藻含有育成液を通過させる通過管と、光源の光進行方向側に設けられた球体レンズとを具備し、球体レンズを透過した光源からの光を通過管内の苗藻含有育成液を透過させて受光器にて受光するように構成された濃度測定装置、苗藻育成用袋の下部に設けられ、上方から苗藻含有育成液又は育成液を給液する給液口と、袋の底面と平行に排出する排出口とを有し、苗藻育成用袋内の撹拌を行う攪拌装置及び苗藻含有育成液内部の二酸化炭素濃度を測定する二酸化炭素濃度測定装置を具備する苗藻の育成装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性で且つ所定高さを有する苗藻育成用袋、及び
上記苗藻育成用袋の所定高さに且つ左右両側を覆って、上記苗藻育成用袋を所定の幅に調整する袋矯正器、
を具備し、
上記苗藻育成用袋中の藻の濃度を測定するための濃度測定装置であって、光源と、受光器と、苗藻含有育成液を通過させる通過管と、光源の光進行方向側に設けられた球体レンズとを具備し、球体レンズを透過した光源からの光を上記通過管内の苗藻含有育成液を透過させて上記受光器にて受光するように構成された濃度測定装置、
上記苗藻育成用袋の下部に設けられ、上方から苗藻含有育成液又は育成液を給液する給液口と、上記袋の底面と平行に排出する排出口とを有し、苗藻育成用袋内の撹拌を行う攪拌装置
及び
上記苗藻含有育成液内部の二酸化炭素濃度を測定する二酸化炭素濃度測定装置
を具備する苗藻の育成装置。
【請求項2】
上記濃度測定装置により測定される苗藻の濃度のデータ及び上記二酸化炭素濃度測定装置により測定される二酸化炭素濃度のデータから、上記育成液又は二酸化炭素の追加を行うように指示を出す制御装置を更に含む
請求項1記載の育成装置。
【請求項3】
請求項1記載の苗藻の育成装置を用いた苗藻の育成方法であって、
上記の苗藻の育成装置を設置し、育成液及び苗藻を投入して苗藻含有育成液を調整して、苗藻の育成環境を整える調整工程、
上記苗藻育成用袋に光を当てながら、内部の苗藻含有育成液を撹拌して、苗藻を全体に撹拌するとともに、苗藻含有育成液の光透過度を測定することで内部の苗藻の濃度を測定する濃度測定工程、及び
苗藻の濃度が所定量を超えた場合に、育成液を追加投入して苗藻の濃度を低下させて苗藻の育成を継続する育成液追加工程を具備する苗藻の育成方法。
【請求項4】
請求項3記載の苗藻の育成方法により得られた苗藻を用い、屋外環境下に順化させるための順化方法であって、
上記育成装置をそのまま用いて撹拌を通常の藻の育成における条件と同様のものへと移行させる第1の順化工程と、
外気温と苗藻の育成を行った場所の気温が異なる場合は、当該育成を行った場所にて徐々に温度を変化させて温度に順応させる第2の順化工程と、
屋外の光の光度と上記の苗藻の育成方法により育成を行った場所の光度とに差がある場合に、遮光ネットにより光量を調整する第3の順化工程と、を具備する藻の屋外環境下への順化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、効率的に苗藻を育成できる苗藻の育成装置及び育成方法、並びにかかる苗藻を用いた、効率的な藻の育成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
藻類の育成においては、まず、苗藻の育成を行い、得られた苗藻を用いて藻類の育成を行うのが通常であるため、苗藻の育成を効率良く行うことが重要である。
この点、海藻類の苗の育成については、例えば特許文献1等種々提案されている。
特許文献1においては、効率的な生産が可能であり、移植用の海藻種苗とした場合には移植後の定着率が良好で、そのまま造成用構造物に対して簡単に取り付けることができ、また食用や餌料としての適用も可能な海藻種苗の生産方法が提案されている。具体的には、海藻の生殖細胞を含む水槽の内部に、上部に矩形状枠部で囲まれた網状部を備える支持具を設置するとともに、この網状部に対して、帯状部と頭部とからなる多数の結束バンドをそれらの頭部が互いに近づいた状態で各頭部を上にして網目に差し込み、結束バンドの頭部に生殖細胞を付着させる。そして、新鮮な海水と空気をそれぞれ給水管と給気管を介して水槽内に供給して海藻の小藻体に育成する方法である。
しかしながら、藻類、特に微細藻類については、特許文献2及び3等の藻類の育成方法や育成装置についての提案はあるものの、苗の育成方法は提案されていないのが現状である。
特許文献2においては、簡単な装置で、簡便な操作で、光照射する、単位面積あたりより早い速度で藻類を生産することができる、藻類の育成方法及び藻類培養装置が提案されている。具体的には、藻類を付着させた支持体を気相中に配置し、支持体の上から連続的に培養液を供給して前記藻類を育成する方法であって、0.1~6時間おきに支持体1から育成された藻類を取り去る工程を有する方法である。支持体1から藻類を取り去る工程は、2~4時間おきに行われてもよい。
特許文献3においては、藻類の育成効率を向上させることができる藻類育成装置及び藻類育成方法が提案されている。具体的には、藻類育成装置は、気体溶解部と、藻類槽と、第1のLEDと、第2のLEDと、供給部と、循環ポンプ部とを備える。気体溶解部は、海洋深層水に二酸化炭素及び酸素を溶解して育成水を生成する。藻類槽は、育成水と海苔葉体を収容する。循環ポンプ部は育成水と海苔葉体を藻類槽から吸出して気体溶解部へ送出し、気体溶解部と供給部の供給管を通過させて育成水と海苔葉体を藻類槽内へ注入する。供給部は、藻類槽の内側面の湾曲方向に対して斜めに交差する方向に沿って育成水と海苔葉体を放流し、育成水は渦状の流れとなって藻類槽内を流れる方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-284141号公報
【特許文献2】特開2018-88916号公報
【特許文献3】特許第6736067号号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のとおり、藻類、特に微細藻類において、苗藻を効率的に育成できる苗藻の育成装置及び育成方法については、提案されていないのが現状である。また、苗藻を、その育成環境から藻の大量培養のための装置に移送すると、藻に過大なストレスが掛かるなどして良好な藻の培養・育成が行えないという問題もあった。
要するに、効率的に苗藻を育成できる、苗藻の育成装置及び育成方法の開発が要望されていると共に、かかる苗藻を用いた効率的な藻の育成方法の開発も要望されているのが現状である。
【0005】
したがって、本発明の目的は、効率的に苗藻を育成できる苗藻の育成装置及び育成方法、並びにかかる苗藻を用いた、効率的な藻の育成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解消すべく鋭意検討した結果、苗藻を、育成液中の濃度を確認しつつ、適宜育成液を追加できるようにした、閉鎖環境下に培養育成することで、苗物育成に最適な環境を生成できることを知見し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の各発明を提供するものである。
1.可撓性で且つ所定高さを有する苗藻育成用袋、及び上記苗藻育成用袋の所定高さに且つ左右両側を覆って、上記苗藻育成用袋を所定の幅に調整する袋矯正器、を具備し、
上記苗藻育成用袋中の藻の濃度を測定するための濃度測定装置であって、光源と、受光器と、苗藻含有育成液を通過させる通過管と、光源の光進行方向側に設けられた球体レンズとを具備し、球体レンズを透過した光源からの光を上記通過管内の苗藻含有育成液を透過させて上記受光器にて受光するように構成された濃度測定装置、
上記苗藻育成用袋の下部に設けられ、上方から苗藻含有育成液又は育成液を給液する給液口と、上記袋の底面と平行に排出する排出口とを有し、苗藻育成用袋内の撹拌を行う攪拌装置及び上記苗藻育成用袋における苗藻含有育成液内部の二酸化炭素濃度を測定する二酸化炭素濃度測定装置を具備する苗藻の育成装置。
2.上記濃度測定装置により測定される苗藻の濃度のデータ及び上記二酸化炭素濃度測定装置により測定される二酸化炭素濃度のデータから、上記育成液又は二酸化炭素の追加を行うように指示を出す制御装置を更に含む1記載の育成装置。
3.1記載の苗藻の育成装置を用いた苗藻の育成方法であって、上記の苗藻の育成装置を設置し、育成液及び苗藻を投入して苗藻含有育成液を調整して、苗藻の育成環境を整える調整工程、
上記苗藻育成用袋に光を当てながら、内部の苗藻含有育成液を撹拌して、苗藻を全体に撹拌するとともに、苗藻含有育成液の光透過度を測定することで内部の苗藻の濃度を測定する濃度測定工程、及び
苗藻の濃度が所定量を超えた場合に、育成液を追加投入して苗藻の濃度を低下させて苗藻の育成を継続する育成液追加工程を具備する苗藻の育成方法。
4.3記載の苗藻の育成方法により得られた苗藻を用い、屋外環境下に順化させるための順化方法であって、
上記育成装置をそのまま用いて撹拌を通常の藻の育成における条件と同様のものへと移行させる第1の順化工程と、
外気温と苗藻の育成を行った場所の気温が異なる場合は、当該育成を行った場所にて徐々に温度を変化させて温度に順応させる第2の順化工程と、
屋外の光の光度と上記の苗藻の育成方法により育成を行った場所の光度とに差がある場合に、遮光ネットにより光量を調整する第3の順化工程と、を具備する藻の屋外環境下への順化方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の藻類の育成装置は、効率的に苗藻を育成できるものである。
本発明の苗藻の育成方法によれば、効率的に苗藻を育成できる。
また、本発明の藻類の育成方法によれば、苗藻にかかるストレスを最小限に抑えて、藻の育成を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の育成装置における1実施形態の全体構成を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1における育成装置の袋矯正器を省略して内部の構成を示す側面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す育成装置における濃度測定装置を拡大して示す、一部拡大図である。
【
図4】
図4は、
図2に示す育成装置における攪拌装置を拡大して示す、一部拡大図である。
【
図5】
図5は、
図1に示す育成装置に用いられる制御装置の詳細を示す概略図である。
【
図6】
図6は、
図5に示す制御装置に適用されるプログラムのフローシートである。
【
図7】
図7は、本発明の育成装置の他の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【
図8】
図8は、育成方法を実施する際の初期状態を示す概略図(
図2に対応した図)である。
【
図9】
図9は、育成方法を実施する際の最終状態(苗藻の育成の終了時)を示す概略図(
図2に対応した図)である。
【符号の説明】
【0009】
1 育成装置、10 苗藻育成用袋、20 袋矯正器、30 濃度測定装置、40 攪拌装置、50 二酸化炭素濃度測定装置
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の1実施形態を、図面を参照してさらに詳細に説明する。
本実施形態の苗藻の育成装置1は、
図1~4に示すように、可撓性で且つ所定高さを有する苗藻育成用袋10、及び苗藻育成用袋10の高さ方向全体を且つ左右両側を覆う袋矯正器20を具備する。
育成装置1は、苗藻育成用袋10中の藻の濃度を測定するための濃度測定装置30、攪拌装置40及び二酸化炭素濃度測定装置50を具備する。
以下、更に詳述する。
【0011】
〔藻類及び育成液〕
苗藻育成用袋10の内部には、苗藻(苗藻の種)及び苗藻の育成液とが投入される。本明細書においては、苗藻と育成液とが混合されて、苗藻の育成が進捗する状態の育成液は「苗藻含有育成液」と称し、上記育成液と区別する。なお、「苗藻含有育成液(育成液)」との表記は、いずれを採用する(通過、給液、排出等)ことも可能であることを意味する。
本発明において培養される上記苗藻用の藻類としては、この種の培養装置において培養可能な藻類であれば特に制限されないが、ユースティグマトス目ユースティグマトス科ナンノクロロプシス属ナンノクロロプシス、トレボウクシア藻綱クロレラ目パラクロレラ等を好ましく挙げることができ、中でも特にナンノクロロプシスを好ましく挙げることができる。
育成液としては、培養する藻類に応じて任意であるが、海水、または真水、精製水、イオン交換水、水道水等に栄養塩を混ぜたもの等を用いることができる。
苗藻の初期濃度(育成開始時における苗藻の濃度)は、用いる種藻に応じて種々の濃度を採用可能であるが、103~108個/ミリリットル程度であるのが好ましい。
【0012】
〔苗藻育成用袋〕
苗藻育成用袋10は、可撓性で且つ所定高さを有するものである。
図1においては、開口の閉じられた形態を示しているが、本実施形態においては、育成液を保持する部分として高さ1m、奥行き1m、幅0.1mの寸法を有するのが好ましい。したがって、袋の高さは上部に空気層A部分を形成可能なように、本実施形態のように1mの高さまで育成液を投入可能とする場合には、1m50cm以上の高さを有しているのが好ましい。また、高さ方向の一端が開口となっており、仕様時には育成液と苗藻とを入れた状態で開閉自在に封止することができるようになっている。
なお、寸法は、これに制限されず、種々高さ、奥行き、幅を採用することが可能である。ただし、後述する人工光等光が十分に全体に行き渡るようにするために幅を5cm~30cmの範囲内に調節するのが好ましい。また、水圧により下部の破損などが生じないように高さは50cm~2mの範囲内とするのが好ましい。すなわち、上記所定高さは、50cm~2mの範囲内である。
苗藻育成用袋の材料は、透明で可撓性があれば特に制限されず、ポリエチレン、ポリプロピレン等の各種樹脂材料を用いることができ、光が内部に行渡る厚みであればその厚みも特に制限されない。
苗藻育成用袋10には、後述する各種配線や二酸化炭素供給管91などを通すための配線及び配管穴を設けることができ、これらの配線や配管を通した部分は各種シール材を用いて封止することができる。
【0013】
〔袋矯正器〕
袋矯正器20は、苗藻育成用袋の高さ方向全体を且つ左右両側を覆うものである。この袋矯正器で左右両側を覆うことで苗藻育成用袋10を所定幅に維持した状態で鉛直に建てることが可能となる。
具体的には、2枚の挟持板21と、挟持板21を所定間隔で保持する保持部材23と、苗藻育成用袋10を支持する袋支持部材25と、保持部材23を袋支持部材25に懸架させるための連結部材27とを具備する。
挟持板21は、本実施形態においては、高さ1m、奥行き1mの正方形状であるが、寸法及び形状は苗藻育成用袋の形状に応じて任意である。また、本実施形態においては、金網により形成されている。金網を用いる場合のメッシュサイズは、苗藻の育成に十分な光量で光を透過する範囲であれば任意であるが、水圧に耐えうる強度を有しているのが好ましい。挟持板21のメッシュサイズは、2~10cmとするのが好ましく、3~7cmとするのが更に好ましい。また、挟持板21は、パンチングメタル等の他、鋼等の金属にプラスチック等のコーティングが施された針金を編み込んで形成されたものを好ましく用いることができる。また、挟持板21には必要に応じて補強のための補強板(図示せず)を設置することができる。
また、特に図示しないが、苗藻育成用袋10の底部を支持するための底面部を設けることもできる。
保持部材23は、本実施形態においては棒状の部材であり、苗藻育成用袋10の両端(奥行方向)側において上下2箇所、合計4箇所に設けられている。保持部材23は、挟持板21に針金など公知の締結部材(図示せず)を介して設置されている。
袋支持部材25は、棒状部材(本実施形態においては内部に配線可能なパイプ)により形成されている。そして、苗藻育成用袋10の上部は袋支持部材25に巻きつけられて上部開口(図示せず)が封止されている。
連結部材27は、棒状の部材により形成されている。かかる連結部材27の中央部分を袋支持部材25に固定して、袋支持部材25を保持している。
【0014】
〔攪拌装置〕
攪拌装置40は、
図2及び
図3に示すように、苗藻育成用袋10の下部に設けられ、攪拌装置40の上方から苗藻含有育成液(育成液)を給液する給液口41と、苗藻育成用袋10の底面と平行に苗藻含有育成液(育成液)を排出する排出口43とを有する。両者の間にポンプ45を有する。
給液口41と排出口43とは、それぞれパイプにより形成されて、ポンプ45に連結されている。ポンプ45は、耐水性で、水中で使用できるものであれば、市販品を特に制限なく用いることができる。
このように構成された攪拌装置40は、給液口41から苗藻含有育成液を吸入し、排出口43から吸入した藻類育成液を排出することができる。これにより、後述するように、苗藻育成用袋上部の苗藻含有育成液を苗藻育成用袋の底面側に循環させることができ、苗藻含有育成液を全体的に撹拌循環させることができる。
排出口43を形成するパイプには、濃度測定装置30が設けられている。このように絶えず育成液が流動する排出口に濃度測定装置を設けることで濃度測定装置に苗藻が付着するなどして測定精度が低下することを防止できる。また、苗藻育成用袋10における苗藻含有育成液(又は育成液)の上部に形成される空間からのエアーを吸気する吸気管(図示せず)を設けることもできる。更に、排出口43には、濁り度を測定するセンサ(図示せず)を取り付け、後述する濃度測定装置30における球体レンズや受光器の光学面の汚れを防ぐこともできる。
【0015】
〔濃度測定装置〕
濃度測定装置30は、
図4に示すように、排出口43を形成するパイプの径方向に貫通する貫通孔を設け、当該貫通孔に、光源31と、受光器33と、光源31の光進行方向側に設けられた球体レンズ37とを設けることで構成される。また、排出口43を構成するパイプが苗藻含有育成液(又は育成液)を通過させる通過管35として機能する。このように構成されていることで、球体レンズ37を透過した光源31からの光を通過管35内の苗藻含有育成液(又は育成液)を透過させて受光器33にて受光することができる。
光源31は、通過管35としてのパイプの外周面に固定部材32を介して固定されている。この固定部材32は通過管何に外部の苗藻含有育成液(育成液)が混入するのを防止できるように公知の耐水性パテ等を用いて形成することができる。光源31としては、赤色の光を発するものを用いるのが好ましい。これは、藻類のクロロフィルが赤色の光を吸収するので、赤色の光の光量を測定することで、初期状態に比して所定割合光量が減じた場合に育成液を投入する等苗藻の育成環境を制御することが可能なためである。ここで用いられる光源としては、赤色の光を発するものであれば特に制限されないが、LEDライト等を用いることができる。
受光器33は、通過管35の一方の貫通孔に設置されており、特に図示しないが、通過管35の外部の苗藻含有育成液が通過管35内部に含浸しないようにパテなどにより耐水性をもって封止されて固定されている。
通過管35を構成する排出口43としてのパイプは、本実施形態のように通過管として用いる場合には、その直径が重要になる。この場合、直径は、10~25mmとするのが、光の通過性と苗藻含有育成液の通過性とのバランスの観点から好ましい。
球体レンズ37は、光源として好ましく用いられるLEDライトのレンズと育成液として好適に用いられる海水の屈折率が近いので、光源からの光が水中で平行光になるように設置されるものである。球体レンズは、通過管35の貫通孔(受光器33の設けられた側に対向して設けられた貫通孔)に嵌合させて設けられている。球体レンズとしては、透明なガラス玉を用いることができ、これにより
図4の矢印に示すように、光源からの光が散乱することなく受光器35に届けられる。
特に図示しないが、光源31及び受光器33には電源からの電気が入力されるように配線が施されており、受光器33には、測定される受光データを信号として後述す制御装置などに移送する配線が施されている。これらの配線には防水性が付与される。
濃度測定装置30が、攪拌装置の排出口43内に設けられていることにより、絶えず流動化した苗藻含有育成液に接するので培地内の物質が光学素子に付着して誤作動することを防ぐことができる。
【0016】
〔二酸化炭素濃度測定装置〕
二酸化炭素濃度測定装置50は、苗藻含有育成液中の二酸化炭素濃度を測定するものである。二酸化炭素濃度測定装置50は苗藻含有育成液中に位置するように苗藻育成用袋に固定して設けられている。二酸化炭素濃度測定装置50としては、防水機能を付与すれば公知の測定装置を特に制限なく用いることができる。電池式(充電式)の物を用いれば電気供給用の配線は不要であるが、後述する制御装置にデータを移送するための配線は設ける必要があるので電気配線も設けて非充電式の測定装置を用いることもできる。防水機能を付与する構成としては、種々採用可能であるが、小型のCO2センサ(以下単に「センサ」という場合がある。例えばSensirion社製,商品名「SCD30」;Amphenol社製,商品名「T6615-R12」;Winsen社製,商品名「MHZ16」「MH-Z19C」等)をフッ素樹脂製の繊維からなる不織布等ガス透過性で且つ水不透過性の袋に入れることでセンサを防水機能を持たせて苗藻含有育成液中に設置することができる。なお、センサとしては、「SD30」が測定濃度範囲が広いこと、およびデータ出力がI2CというPC向きにできていること、から好ましい。 上記吸気管が設けられている場合、苗藻育成用袋内の水面より上の空気層Aの空気を引き込み、微細な泡として水とともに吐出することができる。この結果、苗藻含有育成液中の二酸化炭素濃度が低下した場合に、二酸化炭素を補充して溶存二酸化炭素濃度を向上させるべく苗藻含有育成液中に二酸化炭素を溶かし込むことができる。すなわ、二酸化炭素濃度を二酸化炭素濃度測定装置で測定することで、苗藻含有育成液中の二酸化炭素濃度を苗藻の育成に最適な任意の設定値に保つことができる。
苗藻育成用袋の上部空間の空気中二酸化炭素濃度を測定する方式では、上部空間中の二酸化炭素が水に溶け込むまでに時間を要するので空間中の二酸化炭素濃度を測定しても液中の二酸化炭素濃度をリアルタイムに表さない場合が多い。このため本実施形態のように育成液中の二酸化炭素濃度を測定する方式が有用である。また、空間中の二酸化炭素濃度を測定する方式では、藻が消費するCO2より速く二酸化炭素を液中に供給するために、空気を循環ポンプの給水口まで加圧して送り込む等空気の供給方式が複雑で高価になることからも、育成液中の二酸化炭素濃度を直接計測する方式が有用である。
【0017】
〔制御装置〕
本実施形態の育成装置においては、更に、濃度測定装置30により測定される苗藻の濃度のデータ及び二酸化炭素濃度測定装置50により測定される二酸化炭素濃度のデータから、育成液又は二酸化炭素(空気の供給)の追加を行うように指示を出す制御装置を設けることができる。
制御装置は、配線又は無線によりデータ通信可能とされた状態で
図1に示す藻類育成用袋10等から隔離された外部に配置されていても良いし、藻類育成用袋内部、例えば攪拌装置40内に設置されても良い。制御装置は、
図5に示すマイクロコンピュータ60により構成することができる。具体的には、中央演算処理装置(CPU)63、一時記憶領域としてのメモリ61、及びハードディスクやソリッドステートデバイス等の不揮発性の記憶媒体65を含む、通常のコンピュータを特に制限なく用いることができる。外部に配置する場合には、スマートフォンやタブレット等で制御装置を構成しても良い。よって、本実施形態におけるコンピュータは、特に図示しないが、通信デバイスを有し、ネットワークを介しての通信が可能であるのが好ましい。
本実施形態においては、このコンピュータの記憶媒体65に以下のプログラムが格納されて、当該コンピュータを制御装置として機能させる。
(プログラム)
本実施形態の制御装置に格納されるプログラムは、制御装置としてのコンピュータに以下の各ステップを実行させて、育成装置の制御を行うプログラムである。
上記ステップは、
図6に示すように、濃度測定装置30から藻類含有育成液を透過する光(赤色光)の強度データを取得するとともに、二酸化炭素濃度測定装置50から二酸化炭素濃度データを取得するデータ取得ステップ(S1)と、取得したデータ、及び予め用意されている赤色光の強度データの閾値及び二酸化炭素濃度の閾値を比較する比較ステップ(S2)と、強度データの閾値を下回る場合には育成液の追加の指示を送り、育成液供給部(図示せず)から所定量の育成液を藻類育成用袋10内部に供給するよう指示し、また二酸化炭素濃度の閾値を下回る場合には二酸化炭素供給部(図示せず)から育成液中に二酸化炭素を供給するように指示して、上部の空間の空気を藻類含有育成液中に送り込む指示ステップ(S3)とである。
また、これらの各ステップ以外に、予め赤色光の強度データの閾値及び二酸化炭素濃度の閾値を記録媒体に格納するデータ格納ステップ(S0、図示せず)も行う。
なお、上記育成液供給部は、特に図示しないが、育成液保存タンク又は海から直接にパイプなどの配管及びポンプを通じて所定量の育成液を袋内部に供給可能になっている。また、上記二酸化炭素供給部は、ボンベと配管とバルブとからなり、上記指示によりバルブを開放して二酸化炭素を供給可能になっている。
【0018】
〔他の部材〕
本実施形態の育成装置1には、特に図示しないが、各種配線及び配管が連結されており、電気の供給や育成液の供給が行われる。また、育成装置を載置する載置台も設置されても良い。
また、本実施形態においては、自然光で苗藻の育成を行うことを想定した例を示しているが、人工光で育成することを想定した形態としてもよい。この場合には、
図7に示すように、光供給体70を挟持板21に設置することができる。光供給体70は、LEDパネル(40W程度)を、本実施形態のように100リットルの苗藻育成用袋の側面に設置する場合、4枚設けるのが好ましい。これで実現できる光量は野外の曇天時の光量に近い値になる。
また、
図1に示すように、二酸化炭素を育成液中に導入するための二酸化炭素供給管91が設けられており、図示しない二酸化炭素供給用のボンベに開閉弁を制御可能なバルブを介して連結されている。二酸化炭素供給管91は、
図1に示すように、攪拌装置40の給液口41近傍に二酸化炭素を排出する排出口が位置するように設置するのが、効率的に育成液全体に二酸化炭素を循環させることができるので好ましい。
【0019】
<使用方法(苗藻の育成方法)>
本実施形態の苗藻の育成装置の使用方法、すなわち、本実施形態の苗藻の育成方法は、以下の各工程を行うことで実施することができる。
すなわち、上述の実施形態の苗藻の育成装置を設置し、育成液及び苗藻を投入して苗藻含有育成液を調整して、苗藻の育成環境を整える調整工程、
上記苗藻育成用袋に光を当てながら、内部の苗藻含有育成液を撹拌して、苗藻を全体に撹拌するとともに、苗藻含有育成液の光透過度を測定することで内部の苗藻の濃度を測定する濃度測定工程、及び
苗藻の濃度が所定量(上記閾値)を超えた場合に、育成液を追加投入して苗藻の濃度を低下させて苗藻の育成を継続する育成液追加工程。
そして、所定量の育成液の追加が完了し、且つ苗藻の濃度が所定量となった場合に、苗藻の育成を完了する、終了工程を行い、苗藻の育成を完了して、藻の育成へと移行する。
(調整工程)
調整工程は、まず上述の実施形態の苗藻の育成装置を組み立てる。すなわち、苗藻育成用袋10の外面に袋矯正器20を設置する。更に、苗藻育成用袋内に濃度測定装置30の配された攪拌装置、及び二酸化炭素濃度測定装置50を設置することで、育成装置を設置する。次に、苗藻育成用袋10内部に育成液及び苗藻を投入する。投入は、
図8に示すように、育成液を苗藻育成用袋の底面から最終容量の1/10程度となる量(本実施形態においては10cm高さ)の位置となるようにする。そして、この量の育成液において、上述の初期濃度となるように、苗藻を投入する。
(濃度測定工程)
濃度測定工程は、苗藻育成用袋10に光を当てながら、内部の苗藻含有育成液を攪拌装置により撹拌する。苗藻含有育成液の量が少ない状態では、もっぱら
図8の矢印方向への液体の流れが生じることとなる。この撹拌により苗藻を苗藻育成用袋の全体に拡散させる。これにより、苗藻全てに十分な光を当てることが可能となる。撹拌しながら、苗藻含有育成液の光透過度(赤色光の透過度)を測定することで苗藻含有育成液中の苗藻の濃度を測定する。この濃度測定工程は、本実施形態においては、終了工程が完了するまで継続される。
(育成液追加工程)
育成液追加工程は、上述の工程により苗藻の濃度が所定量(苗藻の育成の阻害要因となるほどの苗藻の濃度)を超えたデータが得られた場合、育成液を追加投入する。追加投入は、初期と同様に最終容量の1/10程度とするのが好ましい。すなわち、この育成液追加工程は、9回の育成液の追加を行うのが好ましい。このように小刻みに育成液を追加投入することで、苗藻の育成に適した苗藻濃度を維持して、苗藻の育成場の容量を増大させる。
そして、追加を9回終えた状態では、
図9に示すように上方にまで育成液が充填された状態となり、攪拌装置40による撹拌により
図9の矢印に示すように苗藻含有育成液が流れる。
さらに苗藻育成用袋の容量を増やす、本実施形態の装置の数を増やす等して苗藻の育成場の容量を増大させることで苗藻の絶対数を増加させることが本工程により可能となる。
(終了工程)
終了工程は、育成液追加工程で所定量の育成液の追加が完了し、濃度測定工程における苗藻の濃度が所定量となった場合に、苗藻の育成を完了して、得られた苗藻を用いて藻の育成へと移行する。この終了工程は、すべての苗藻の育成を完了させる必要はなく、1部のみ完了させて一部のみ藻の育成へと移行することでもよい。
本実施形態においては、更に、苗藻育成用袋内の二酸化炭素濃度を測定する二酸化炭素濃度測定工程、及び二酸化炭素濃度が所定量(上記閾値)を下回った場合、育成液中に二酸化炭素を追加供給する二酸化炭素追加工程を行うことができる。
(二酸化炭素濃度測定工程)
二酸化炭素濃度測定工程は、苗藻育成用袋内における二酸化炭素濃度を二酸化炭素濃度測定装置にて測定する工程である。この工程は、終了工程まで継続される。
(二酸化炭素追加工程)
二酸化炭素濃度測定工程において、測定される二酸化炭素濃度が所定量を下回った場合に二酸化炭素(空気)を、二酸化炭素供給管91を介して育成液中に供給する。これにより十分な量の二酸化炭素が苗藻含有育成液中に供給される。
【0020】
<作用効果>
本実施形態の育成装置は、上述のように平面的に構成されているので、すべての苗藻に十分な光を供給することができる。また、苗藻に機械的な負荷をかけることなく苗藻含有育成駅を撹拌できるように構成されているので、育成液全体に苗藻を拡散させることができ、苗藻の育成の阻害要因である密集を防止して、光及び養分の偏りを防止することができる。そのため、苗藻の濃度を一定に保つことができ、光強度と苗藻の濃度とのバランスを所定の条件に制御する事が可能である。そして、二酸化炭素量や苗藻の濃度変化を常時監視することができるので、全体に十分な栄養分を常時供給できる。
【0021】
<藻の屋外環境下への順化方法>
上述の苗藻の育成装置を用い、上述の育成方法にて得られた苗藻は、いきなり外部環境にさらされると、ストレスから成長が鈍化するか死滅する恐れがある。そのため、所定の順化工程を得て、外部環境下における育成へと移行するのが好ましい。
すなわち、本発明においては、上述の実施形態により得られた苗藻を用いる藻の育成方法において、屋外環境下への順化が重要である。この順化は、以下の藻の屋外環境下への順化方法により実施するのが好ましい。
上記の実施形態の育成装置をそのまま用いて撹拌を通常の藻の育成における条件と同様のものへと移行させる第1の順化工程と、
外気温と苗藻の育成を行った場所の気温が異なる場合は、当該育成を行った場所にて徐々に温度を変化させて温度に順応させる第2の順化工程と、
人工光等で育成を行った場合等、屋外の光の光度と上記の育成を行った場所の光度とに差がある場合に、遮光ネットにより光量を調整する第3の順化工程と、を具備する藻の屋外環境下への順化方法。
第1の順化工程では、撹拌のみならず、二酸化炭素の供給も通常の藻の育成と同様にすることができる。ここで、撹拌は上述の攪拌装置から、エアーの注入や、機械的に水流を発生させる装置により行うことができる。
第2の順化工程では、気温を例えば、1℃/1日~1週間で変化させて外気温になれさせるのが好ましい。
第3の順化工程では、遮光ネットの遮光率を2~5段階で調整することが好ましい。
更に、本実施形態においては、藻の増殖が始まったところで、日射を調整したレースウェイ形式の培養容器に移して、当該培養容器において必要量になるよう海水で希釈し培養を継続することで、藻の育成を行うことができる。
本実施形態のように、異なった環境因子に対する順化を一度に行うのではなく、必要な間隔をおいて一つずつ実施することで、成長停止や死亡のリスクを低減することが可能である。
【0022】
〔他の工程〕
本実施形態の苗藻の育成方法及び藻の育成方法においては、上述の各工程に加えて、本発明の趣旨をいつ出すしない範囲で更に他の工程を追加してもよい。
【0023】
なお、本発明は上述の実施形態に何ら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
たとえば、データ移送用の配線は、データ送信用の送信機として、制御装置において、かかるデータを受信して、処理し、処理されたデータに基づいた各装置に対する命令を同様に制御装置に設けられた送信機より送信することができる。
【実施例0024】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0025】
〔実施例1〕
上述の実施形態の装置を用い、容量を20リットルとして、苗藻の育成を行った。
光源は、LEDライト(商品名「GREENSINDOOR」)とし、24時間照射を行った。液温は20℃に保ち、液中の二酸化炭素濃度は0.1~1体積%となるように調整した。この間、苗藻の濃度を随時計測するとともに苗藻含有育成液中の二酸化炭素濃度も随時測定して、適宜二酸化炭素供給も行った。すなわち、上述の調整工程、濃度測定工程、二酸化炭素濃度測定工程及び二酸化炭素追加工程を行った。
その結果、初期の苗藻の濃度が3.2×106個/mlであったが、2週間で1.2×108個/mlにまで濃度が向上し、さらに育成液を追加して容量を増大させること(育成液追加工程)ができた。そして、更には、苗藻の育成から当該苗藻を利用して藻の育成を行うことができた。