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特開2023-133033無線通信システム及びその適用システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133033
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】無線通信システム及びその適用システム
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/06 20060101AFI20230914BHJP
   H01Q 21/24 20060101ALI20230914BHJP
   H01Q 3/26 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
H04B7/06 150
H01Q21/24
H01Q3/26 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038707
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】武井 健
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021AA02
5J021DB02
5J021DB03
5J021FA06
5J021FA32
5J021HA05
5J021JA05
(57)【要約】
【課題】
無線機が偏波を変えて送受信を行う無線通信システムにおいて、非見通し通信環境で無線機に到来する偏波が不確定な場合に発生する通信品質の劣化を防ぐ。
【解決手段】
無線通信システムであって、同一の情報信号を重畳した複数の電磁波をそれぞれ分配し、分配したそれぞれの電磁波に位相重みを付けたのち合成することで複数の電磁波のそれぞれに振幅重みを付け、振幅重みを付けた複数の電磁波を互いに平行関係にない複数のアンテナから同時に送受信するように構成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の情報信号を重畳した複数の電磁波をそれぞれ分配し、分配したそれぞれの電磁波に位相重みを付けたのち合成することで複数の電磁波のそれぞれに振幅重みを付け、該振幅重みを付けた複数の電磁波を互いに平行関係にない複数のアンテナから同時に送受信することを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信システムであって、
前記位相重みを変化させ前記同一の情報信号を前記複数のアンテナから再送することを特徴とする無線通信システム。
【請求項3】
請求項2に記載の無線通信システムであって、
前記情報信号を時間軸上の連続した区間を占めるパケットとして離散的に送信し、前記位相重みを前記パケットが存在しない時間軸上で変化させることを特徴とする無線通信システム。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の無線通信システムであって、
前記複数のアンテナからの受信信号の品質と前記複数のアンテナに与えた前記振幅重みを記憶し、前記受信信号の品質の良いアンテナの振幅重みを選んで送受信を繰り返すことを特徴とする無線通信システム。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載の無線通信システムであって、
送信信号発生回路と受信信号検出回路を切り替える切替スイッチを具備し、
前記切替スイッチの共通端子に分配器を結合し、該分配器の各分配信号をさらに2分配し、該2分配した各分配信号に異なる位相を与えたのちそれらを合成して送受信信号の振幅重みを実現することを特徴とする無線通信システム。
【請求項6】
請求項1から4の何れか1項に記載の無線通信システムであって、
送信信号発生回路と受信信号検出回路を切替スイッチで切り替え、該切替スイッチの共通端子に分配器を結合し、該分配器の各分配信号をそれぞれ異なる電気長の第1および第2の線路を介してハイブリッド回路の2つのポートに結合し、該ハイブリッド回路の残りの2つのポートに空間的に平行関係にない2つのアンテナを結合し、前記第1および第2の線路の電気長を変化させ送受信に用いる電磁波の偏波を変化させることを特徴とする無線通信システム。
【請求項7】
請求項1から4の何れか1項に記載の無線通信システムであって、
送信信号発生回路と受信信号検出回路を切替スイッチで切り替え、該切替スイッチの共通端子に第1の分配器を結合し、該第1の分配器の各分配信号を異なる電気長の第1および第2の線路を介して第1のハイブリッド回路の2つのポートに結合し、該第1のハイブリッド回路の残りの2つのポートの一方に第2の分配器を結合し、該第2の分配器の各分配信号を異なる電気長の第3および第4の線路を介して第2のハイブリッド回路の2つのポートに結合し、該第2のハイブリッド回路の残りの2つのポートに空間的に平行関係にない第1および第2のアンテナを結合し、前記第1のハイブリッド回路の残りの2つのポートの他方に異なる電気長の第5の線路を介して前記第1および第2のアンテナと平行関係にない第3のアンテナを結合し、前記第1乃至第5の線路の電気長を変化させ送受信に用いる電磁波の偏波を変化させることを特徴とする無線通信システム。
【請求項8】
請求項1から4の何れか1項に記載の無線通信システムであって、
第1の送信信号発生回路と第1の受信信号検出回路を第1の切替スイッチで切り替え、該第1の送信信号発生回路と異なる周波数の信号を発生する第2の送信信号発生回路と第2の受信信号検出回路を第2の切替スイッチで切り替え、前記第1および第2の切替スイッチの共通端子をそれぞれ第1のハイブリッド回路の2つのポートに結合し、該第1のハイブリッド回路の他の2つのポートの一方に分配器を結合し、該分配器の各分配信号を異なる電気長の第3および第4の線路を介して第2のハイブリッド回路の2つのポートに結合し、該第2のハイブリッド回路の残りの2つのポートに空間的に平行関係にない第1および第2のアンテナを結合し、前記第1のハイブリッド回路の他の2つのポートの他方に異なる電気長の第5の線路を介して前記第1および第2のアンテナと平行関係にない第3のアンテナを結合し、前記第3乃至第5の線路の電気長を変化させ送受信に用いる回転偏波の電磁波の進行方向を2次元的に変化させることを特徴とする無線通信システム。
【請求項9】
請求項1から4の何れか1項に記載の無線通信システムであって、
第1の送信信号発生回路と第1の受信信号検出回路を第1の切替スイッチで切り替え、該第1の送信信号発生回路と異なる周波数の信号を発生する第2の送信信号発生回路と第2の受信信号検出回路を第2の切替スイッチで切り替え、前記第1および第2の切替スイッチの共通端子をそれぞれ第1のハイブリッド回路の2つのポートに結合し、該第1のハイブリッド回路の他の2つのポートの一方に第1の分配器を結合し、該第1の分配器の各分配信号を異なる電気長の第1および第2の線路を介して第2のハイブリッド回路の2つのポートに結合し、該第2のハイブリッド回路の残りの2つのポートの一方に第2の分配器を結合し、該第2の分配器の各分配信号を異なる電気長の第3および第4の線路を介して第3のハイブリッド回路の2つのポートに結合し、前記第2のハイブリッド回路の残りの2つのポートの他方に異なる電気長の第5の線路を介して第3のアンテナを結合し、前記第1のハイブリッド回路の残りの2つのポートの他方に異なる電気長の第6の線路を介して第3の分配器を結合し、該第3の分配器の各分配信号を異なる電気長の第7および第8の線路を介して第4のハイブリッド回路の2つのポートに結合し、前記第3のハイブリッド回路の残りの2つのポートの一方と前記第4のハイブリッド回路の残りの2つのポートの一方とを第1の合成器に結合し、該第1の合成器の合成端子に前記第3のアンテナと平行関係にない第1のアンテナを結合し、前記第3のハイブリッド回路の残りの2つのポートの他方と前記第4のハイブリッド回路の残りの2つのポートの他方とを第2の合成器に結合し、該第2の合成器の合成端子に前記第1および第3のアンテナと平行関係にない第2のアンテナを結合し、前記第1乃至第8の線路の電気長を変化させ送受信に用いる回転偏波の電磁波の進行方向を3次元的に変化させることを特徴とする無線通信システム。
【請求項10】
請求項5から9の何れか1項に記載の無線通信システムであって、
前記切替スイッチの共通端子に発生する電力を検出し、該電力の検出をトリガとして前記複数のアンテナに与える重みを変化させることを特徴とする無線通信システム。
【請求項11】
請求項10に記載の無線通信システムであって、
前記切替スイッチの共通端子に入力する信号を検出し、該信号の品質を測り、前記電力の検出をトリガとして前記信号の品質が向上するように前記複数のアンテナに与える重みを変化させることを特徴とする無線通信システム。
【請求項12】
請求項5から11の何れか1項に記載の無線通信システムであって、
前記送信信号発生回路は周波数シンセサイザと電力増幅器と信号発生回路を具備し、
前記切替スイッチを送信としたのちに前記周波数シンセサイザを起動し、該周波数シンセサイザの出力周波数が安定したのちに、前記電力増幅器を起動し、その後に情報信号のパケットを送信することを特徴とする無線通信システム。
【請求項13】
請求項1から12の何れか1項に記載の無線通信システムを用いる地上-高所間無線通信システムであって、
地上局アンテナを具備する地上局と、
高所固定局アンテナを具備する高所固定局からなり、
前記地上局または前記高所固定局に前記無線通信システムを用いることを特徴とする地上-高所間無線通信システム。
【請求項14】
請求項1から12の何れか1項に記載の無線通信システムを用いる製造ライン無線通信システムであって、
製造ラインのベルトコンベア上を移動する製品には小型アンテナを具備する小型無線機が添付されており、
アンテナを具備した監視無線機を有し、前記小型無線機と通信することで前記製品の状態をモニタする監視装置を有し、
前記小型無線機または前記監視無線機に前記無線通信システムを用いることを特徴とする製造ライン無線通信システム。
【請求項15】
請求項1から12の何れか1項に記載の無線通信システムを用いるオフィス内無線通信システムであって、
机の近傍に卓上アンテナを具備した卓上無線機が配置され、
中継アンテナを具備し、前記卓上無線機と無線回線で結ばれている中継無線機が設置されており、
前記卓上無線機または前記中継無線機に前記無線通信システムを用いることを特徴とするオフィス内無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を用いて情報を伝送する無線通信システムに係わり、送受信機間に電磁波散乱体が存在し、見通し通信ができない環境で高品質の通信を実現する無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
利便性向上および安全性確保を目的とした、ロボット、ドローン等の無人移動機器を遠隔操作して、有人サービスを代替する新たな産業に対する関心と期待および需要が高まっている。ここで、無人移動機器の遠隔操作では、機器の場所、姿勢、および周囲環境が特定できないので無線通信技術を用いた制御方法が必須となる。
【0003】
無線通信においては電磁波を通信媒体として用いるが、電磁波は横波でありエネルギーが進行方向に直交する方向で伝搬する。このため、電磁波の送信機と受信機ではエネルギーが伝搬している方向を一致させることが、電磁波エネルギーの高効率伝送には極めて重要である。送受信におけるエネルギーの伝搬方向の不一致はエネルギー伝送効率を著しく低下させ無線通信品質の大幅な劣化を引き起こす。
【0004】
したがって、無人移動機器を無線技術で制御する場合は、無人移動機器に設置される無線機が具備する電磁波の送受信を司るデバイスであるアンテナの方向が、遠隔地から電磁波を送受する制御無線機が具備するアンテナから放射および吸収される電磁波の方向に一致して電磁波エネルギーを送受信する仕組みの実現が極めて重要となる。
【0005】
見通し通信が不可能な通信環境においては、送受信機を取り囲む電磁波障害物により反射等の散乱現象で生じる非直接波および見通し通信を妨げている物体を透過した非直接波を用いて送受信機器は無線通信を行うことになる。散乱および透過に際しては一般的に、電磁波は散乱および透過の際の電磁波の入射方向と電磁波のエネルギー伝送方向を示す偏波に依存して散乱および透過後の偏波が固有に変化する。そのため、あらかじめ遠隔地の制御無線機が適切な偏波を推定して無人移動機器に対する無線通信を高品質で実現することは極めて困難である。
【0006】
見通し通信が可能な場合であっても、無人移動機器の位置および姿勢をあらかじめ確定的に予測することは困難である場合が多く、遠隔地の制御無線機が適切な偏波を推定して無人移動機器に対する無線通信を高品質で実現することは難しいのが実情である。
【0007】
かかる課題を克服するためには、送信機および受信機が偏波を変化させて通信を行う技術が必要となる。本技術分野における先行技術文献として特許文献1がある。特許文献1では、受信機が空間的に異なる位置に設置した複数のアンテナを受信信号の受信状態を用いて切り替える技術が述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014-135636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1においては、送受信機が見通し通信を行えない場合は、送受信機を取り囲む電磁波散乱体の構成により、送信機から放射された電磁波の偏波によっては受信機に到達しない場合があり、送受信機間で良好な通信品質を確保できない可能性があった。
【0010】
本発明は、上記背景技術及び課題に鑑み、受信機が送信機から放射された電磁波のエネルギーを最大効率で受信し、最良の通信品質を実現するように、送信波の偏波および受信波の偏波を最適化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、その一例を挙げるならば、無線通信システムであって、同一の情報信号を重畳した複数の電磁波をそれぞれ分配し、分配したそれぞれの電磁波に位相重みを付けたのち合成することで複数の電磁波のそれぞれに振幅重みを付け、振幅重みを付けた複数の電磁波を互いに平行関係にない複数のアンテナから同時に送受信するように構成する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、送受信機が最適な偏波を用いて高品質な無線通信を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1における無線通信システムの構成図である。
図2】実施例2における無線通信システムの構成図である。
図3】実施例2における無線通信システムの動作を説明する原理図である。
図4】実施例3における無線通信システムの構成図である。
図5】実施例4における無線通信システムの構成図である。
図6】実施例5における無線通信システムの構成図である。
図7】実施例6における無線通信システムの構成図である。
図8】実施例7における無線通信システムの構成図である。
図9】実施例7における無線通信システムの動作を説明する原理図である。
図10】実施例8における無線通信システムの構成図である。
図11】実施例9における無線通信システムの構成図である。
図12】実施例10における無線通信システムの構成図である。
図13】実施例11における無線通信システムで用いる無線機の詳細構成図である。
図14】実施例11における無線機の動作を説明するタイミングチャートである。
図15】実施例11における情報パケットの送信手続きのフローチャートである。
図16】実施例12における無線通信システムで用いる無線機の詳細構成図である。
図17】実施例12における情報パケットの送信手続きのフローチャートである。
図18】実施例13における無線通信システムで用いる無線機の詳細構成図である。
図19】実施例13における情報パケットの送信手続きのフローチャートである。
図20】実施例14における無線通信システムで用いる無線機の詳細構成図である。
図21】実施例14における情報パケットの送信手続きのフローチャートである。
図22】実施例15における無線通信システムを適用した地上-高所間無線通信システムの概略構成図である。
図23】実施例16における無線通信システムを適用した製造ライン無線通信システムの概略構成図である。
図24】実施例17における無線通信システムを適用したオフィス内無線通信システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
【実施例0015】
図1は本実施例における偏波制御通信システムで用いる無線通信システムの構成図である。
【0016】
図1において、無線通信システムは、送信信号発生回路1と受信信号検出回路2が送受切替スイッチ3で切り替えられる既存の無線機と、新たに追加される高周波モジュールと、アンテナからなる。すなわち、送受切替スイッチ3により送信または受信が選択され、第1の分配器4により送受切替スイッチ3の共通端子に関わる信号が第1と第2の分配信号に分配される。第1の分配信号は、第2の分配器10によりさらに第3と第4の分配信号に分配され、それぞれの第3と第4の分配信号が、制御回路9により移相量が決定される第1の可変移相器11と第2の可変移相器12を介して、第1の合成器19により合成され第1のアンテナ81に結合する。また、第2の分配信号は、第3の分配器20により第5と第6の分配信号に分配され、それぞれの第5と第6の分配信号が、制御回路9により移相量が決定される第3の可変移相器21と第4の可変移相器22を介して、第2の合成器29により合成され第2のアンテナ82に結合する。各アンテナは外部空間と高周波信号の伝送媒体である電磁波の送受信を行う。
【0017】
このように、本実施例では、送信信号を第一段の分配器により2つの分配信号に分配し、2つの分配信号をそれぞれ更に第二段の分配器により4つの分配信号に分配して、4つの分配信号にそれぞれ外部信号で制御される異なる位相遅延を施したのち第二段の分配器の出力同士で合成し、各合成信号を空間的に独立した2つのアンテナから放射する。
【0018】
ここで、同一周波数の異なる位相の2つの正弦波は、式(1)のように初期位相と振幅が異なる1つの正弦波となる。
sin(wt+2f1)+sin(wt+2f2)=sin(wt+f1+f2)cos(f1-f2) 式(1)
すなわち、異なる位相の2つの正弦波を合成することにより1つの正弦波における振幅の重み付けを行うことができる。
【0019】
式(1)の原理を用いれば、本実施例における第1乃至第4の可変移相器の移相量を適宜選択することにより、第1および第2のアンテナには正弦波と余弦波で振幅重みが付けられた同相の信号が出現する。そのため第1のアンテナと第2のアンテナが空間的に平行関係になく直交していれば、両アンテナの張る面内に2次元的に任意の偏波が実現できる。
【0020】
なお、現在の無線通信システムは、例外を除けばデジタル通信を行っており、情報信号はパケットと呼ばれる時間軸上の連続な短い区間を占有する単位で離散的に送受信が行われる。そのため、本実施例では、制御回路9は、パケットが存在しない時間軸上で第1乃至第4の可変移相回路の移相量を変化させる。これにより、切り替えによる影響を防ぐことができ、デジタル無線通信において最適の偏波方向を2次元の自由度で選択することにより、送受信機間で電磁波エネルギーの最適伝送が実現でき、かつ高品質の無線通信を実現できるという効果がある。
【0021】
また、送信信号の振幅の重み付けを行う際に、増幅器等の電源を必要とする能動回路を用いるのに比べて、本実施例では、可変移相器により振幅の重み付けを行うので、電源を必要としない受動回路による実現が可能であり、追加電力を必要とせず、また、増幅器等を用いる場合の損出がなく、低損失の無線通信システムを実現できる。
【0022】
このように、本実施例によれば、送受信機が最適な偏波を用いて高品質な無線通信を行うことが可能となり、既存の無線通信システムで用いられる無線機の高周波出力にアドオンモジュールを結合することにより通信に用いる電磁波の偏波を最適化して通信品質の向上が実現可能となる。
【実施例0023】
図2は本実施例における無線通信システムの構成図である。図2において、図1と同じ構成は同じ符号を付しその説明は省略する。図2において図1と異なる点は、アンテナを3つ設け、3次元的に任意の偏波を実現する点である。
【0024】
図2において、無線通信システムは、図1で説明した第1の合成器19の合成出力が、第4の分配器5により第7と第8の分配信号に分配される。第7の分配信号は、第5の分配器30によりさらに第9と第10の分配信号に分配され、それぞれの第9と第10の分配信号が、制御回路9により移相量が決定される第5の可変移相器31と第6の可変移相器32を介して、第3の合成器39により合成され第1のアンテナ81に結合する。第4の分配器5からの第8の分配信号は、第6の分配器40によりさらに第11と第12の分配信号に分配され、それぞれの第11と第12の分配信号が、制御回路9により移相量が決定される第7の可変移相器41と第8の可変移相器42を介して、第4の合成器49により合成され第1のアンテナと空間的に独立な第2のアンテナ82に結合する。また、図1で説明した第2の合成器29の合成出力は、制御回路9により移相量が決定される第9の可変移相器7を介して第1および第2のアンテナと空間的に独立な第3のアンテナ83に結合する。各アンテナは外部空間と高周波信号の伝送媒体である電磁波の送受信を行う。
【0025】
ここで、図3に示すように、XYZ軸で構成される三次元空間において、太い実線で示すアンテナ80がZ軸に対してθ、X軸に対してφの角度で配置されていた場合、アンテナ80のZ軸上への投影線分はcosθ、x軸上への投影線分はsinθcosφ、Y軸上への投影線分はsinθsinφ、となる。よって、言い換えれば、XYZ軸それぞれに重み付けを行うことで、3次元空間での任意のアンテナの配置を表現できる。
【0026】
このように、本実施例では、図1の実施例と同様の原理で第1乃至第9の可変移相器の移相量を適宜選択することで、図3に示す3次元的重みを第1乃至第3のアンテナに付加できるので、3次元空間に任意の偏波が実現できる。よって、本実施例によれば、3次元空間のあらゆる偏波を無線通信システムが選択して送受信を行うことができるので最適偏波を用いた送受信により最良の無線通信品質が実現可能となる。
【実施例0027】
図4は本実施例における無線通信システムの構成図である。図4において、図1と同じ構成は同じ符号を付しその説明は省略する。図4において図1と異なる点は、第1乃至第4の可変移相器を、多接点スイッチと複数の異なる長さの線路群からなる構成とした点である。
【0028】
図4において、無線通信システムは、図1で説明した第1の可変移相器11に代えて、第1の多接点スイッチ13と複数の異なる長さの第1の線路群14と第2の多接点スイッチ15の縦続接続された構成とする。第1の多接点スイッチ13と第2の多接点スイッチ15は制御回路9によりいずれかの長さの線路を選択するように制御することで移相量が決定される。
【0029】
同様に、図1で説明した第2の可変移相器12に代えて、第3の多接点スイッチ16と複数の異なる長さの第2の線路群17と第4の多接点スイッチ18の縦続接続された構成とする。また、図1で説明した第3の可変移相器21に代えて、第5の多接点スイッチ23と複数の異なる長さの第3の線路群24と第6の多接点スイッチ25の縦続接続された構成とする。さらに、図1で説明した第4の可変移相器22に代えて、第7の多接点スイッチ26と複数の異なる長さの第4の線路群27と第8の多接点スイッチ28の縦続接続された構成とする。
【0030】
上記した多接点スイッチと複数の異なる長さの線路群は、受動素子であり、可変移相器よりも安価である。よって、本実施例によれば、図1の実施例と同様の効果を可変移相器に替えて安価な受動素子で実現できるので、装置の小型化および低コスト化に効果がある。
【実施例0031】
図5は本実施例における無線通信システムの構成図である。図5において、図2図4と同じ構成は同じ符号を付しその説明は省略する。図5において図2と異なる点は、第1乃至第9の可変移相器を、多接点スイッチと複数の異なる長さの線路群からなる構成とした点である。
【0032】
図5において、無線通信システムは、図4と同様に、第1乃至第4の可変移相器を、多接点スイッチと複数の異なる長さの線路群からなる構成とする。また、図2で説明した第5の可変移相器31に代えて、第9の多接点スイッチ33と複数の異なる長さの第5の線路群34と第10の多接点スイッチ35の縦続接続された構成とする。第9の多接点スイッチ33と第10の多接点スイッチ35は制御回路9によりいずれかの長さの線路を選択するように制御することで移相量が決定される。
【0033】
同様に、図2で説明した第6の可変移相器32に代えて、第11の多接点スイッチ36と複数の異なる長さの第6の線路群37と第12の多接点スイッチ38の縦続接続された構成とする。また、図2で説明した第7の可変移相器41に代えて、第13の多接点スイッチ43と複数の異なる長さの第7の線路群44と第14の多接点スイッチ45の縦続接続された構成とする。また、図2で説明した第8の可変移相器42に代えて、第15の多接点スイッチ46と複数の異なる長さの第8の線路群47と第16の多接点スイッチ48の縦続接続された構成とする。さらに、図2で説明した第9の可変移相器7に代えて、第17の多接点スイッチ51と複数の異なる長さの第9の線路群52と第18の多接点スイッチ53の縦続接続された構成とする。
【0034】
本実施例によれば、図2の実施例と同様の効果を可変移相器に替えて安価な受動素子で実現できるので、装置の小型化および低コスト化に効果がある。
【実施例0035】
図6は本実施例における無線通信システムの構成図である。図6において、図4と同じ構成は同じ符号を付しその説明は省略する。図6において図4と異なる点は、分配器、合成器を、それぞれ具体的な回路構成である、ウイルキンソン分配回路、ハイブリッド回路で構成した点である。
【0036】
図6において、無線通信システムは、送受切替スイッチ3の共通端子に関わる信号が第1のウイルキンソン分配回路111により第1と第2の分配信号に分配される、第1の分配信号は、制御回路9により移相量が決定される第1の多接点スイッチ13と複数の異なる長さの第1の線路群14と第2の多接点スイッチ15の縦続接続を介してハイブリッド回路118の第1のポートに結合する。また、第2の分配信号は、制御回路9により移相量が決定される第3の多接点スイッチ16と複数の異なる長さの第2の線路群17と第4の多接点スイッチ18の縦続接続を介してハイブリッド回路118の第2のポートに結合する。そして、ハイブリッド回路118の第3のポートに第1のアンテナ81が結合し、ハイブリッド回路118の第4のポートに第2のアンテナ82が結合する。
【0037】
ウイルキンソン分配回路は分配器の実用的な回路である。また、ハイブリッド回路は、第1のポートから第3のポートへの信号は位相が90°ずれ、第2のポートから第4のポートへの信号は位相が180°ずれる特性がある。
【0038】
よって、本実施例によれば、図3の実施例と同様の効果をより少ない部品点数で実現できるので、装置の小型化および低コスト化に効果がある。
【実施例0039】
図7は本実施例における無線通信システムの構成図である。図7において、図5図6と同じ構成は同じ符号を付しその説明は省略する。図7において図5と異なる点は、分配器、合成器を、それぞれ具体的な回路構成である、ウイルキンソン分配回路、ハイブリッド回路で構成した点である。
【0040】
図7において、無線通信システムは、図6で説明したハイブリッド回路118の第3のポートからの出力が、第2のウイルキンソン分配回路121の共通端子に結合し、第3と第4の分配信号に分配される。第3の分配信号は、制御回路9により移相量が決定される第5の多接点スイッチ23と第3の線路群24と第6の多接点スイッチ25の縦続接続を介して第2のハイブリッド回路128の第1のポートに結合する。第4の分配信号は、制御回路9により移相量が決定される第7の多接点スイッチ26と第4の線路群27と第8の多接点スイッチ28の縦続接続を介して第2のハイブリッド回路128の第2のポートに結合する。そして、第2のハイブリッド回路128の第3のポートに第1のアンテナ81が結合し、第2のハイブリッド回路128の第4のポートに第1のアンテナと空間的に独立な第2のアンテナ82が結合する。また、第1のハイブリッド回路118の第4のポートに、制御回路9により移相量が決定される第9の多接点スイッチ33と第5の線路群34と第10の多接点スイッチ35の縦続接続を介して、更に第11の多接点スイッチ36と第6の線路群37と第12の多接点スイッチ38の縦続接続を介して第1および第2のアンテナと空間的に独立な第3のアンテナ83が結合する。
【0041】
本実施例によれば、図5の実施例と同様の効果をより少ない部品点数で実現できるので、装置の小型化および低コスト化に効果がある。
【実施例0042】
図8は本実施例における無線通信システムの構成図である。図8において、図7と同じ構成は同じ符号を付しその説明は省略する。図8において図7と異なる点は、異なる周波数の信号を第1のハイブリッド回路118で合成する点である。
【0043】
図8において、無線通信システムは、第1の送信信号発生回路1と第1の受信信号検出回路2が第1の送受切替スイッチ3により選択され、伝送線路104を介して第1のハイブリッド回路118の第1のポートに結合する。また、第1の送信信号発生回路1と周波数の異なる信号を発生する第2の送信信号発生回路101と第2の受信信号検出回路102が第2の送受切替スイッチ103により選択され、第1のハイブリッド回路118の第2のポートに結合する。
【0044】
本実施例では、下記式に示すように、第1のハイブリッド回路の第1のポートおよび第2のポートに異なる周波数の信号を入力すると、第1のハイブリッド回路の第3のポートおよび第4のポートには回転偏波を形成する2つの信号が出力される。
第1のポート: sin(2w1t+2f1)
第2のポート: sin(2w2t+2f2)
第3のポート: cos((w1+w2)t+f1+f2)cos((w1-w2)t+f1-f2)
第4のポート: cos((w1+w2)t+f1+f2)sin((w1-w2)t+f1-f2)
ここで、図9に示すように、XYZ軸で構成される三次元空間において、回転偏波を形成する2つの信号は、cosωtcosΩt、cosωtsinΩtと書ける。そして、回転偏波の進行方向90はZ軸に対してθ、X軸に対してφの角度となる。
【0045】
よって、本実施例では、図9のφ=0に対するXZ面上の2次元の偏波の変化を実現することができ、回転偏波の進行方向の2次元的な制御が可能となり、回転偏波の最適進行方向を送受信機が選択することにより、回転偏波通信の通信品質向上が可能となる。
【実施例0046】
図10は本実施例における無線通信システムの構成図である。図10において、図7図8と同じ構成は同じ符号を付しその説明は省略する。図10において図8と異なる点は、回転偏波の進行方向を3次元空間のすべての方向に設定可能とする点である。
【0047】
図10において、無線通信システムは、第1の送信信号発生回路1と第1の受信信号検出回路2が選択される第1の送受切替スイッチ3が接続される伝送線路104は初段ハイブリッド回路105の第1のポートに結合する。第2の送信信号発生回路101と第2の受信信号検出回路102が選択される第2の送受切替スイッチ103の出力は初段ハイブリッド回路105の第2のポートに結合する。
【0048】
初段ハイブリッド回路105の第4のポートに第1のウイルキンソン分配回路111の共通端子が結合され、以降、図7と同様の構成で、第1のハイブリッド回路118を経由して、第2のハイブリッド回路128の第1のポートおよび第2のポートと第3のアンテナ83に結合される。
【0049】
また、初段ハイブリッド回路105の第3のポートに制御回路9により移相量が決定される第13の多接点スイッチ43と第7の線路群44と第14の多接点スイッチ45の縦続接続を介して更に第15の多接点スイッチ46と第8の線路群47と第16の多接点スイッチ48の縦続接続を介して第3のウイルキンソン分配回路131の共通端子が結合し、第5と第6の分配信号に分配される。第5の分配信号は、制御回路9により移相量が決定される第17の多接点スイッチ51と第9の線路群52と第18の多接点スイッチ53の縦続接続を介して第3のハイブリッド回路138の第1のポートに結合する。第6の分配信号は、制御回路9により移相量が決定される第19の多接点スイッチ54と第10の線路群55と第20の多接点スイッチ56の縦続接続を介して第3のハイブリッド回路138の第2のポートに結合する。
【0050】
第2のハイブリッド回路128の第3ポートと第3のハイブリッド回路138の第3ポートは第2の送受信合成回路106で合成され第1のアンテナ81に結合する。第2のハイブリッド回路128の第4ポートと第3のハイブリッド回路138の第4ポートは第3の送受信合成回路107で合成され第1のアンテナと空間的に独立な第2のアンテナ82に結合する。
【0051】
本実施例によれば、図9に示すすべてのθおよびφに関して回転偏波の進行方向を変化させることができるので、回転偏波の進行方向を3次元空間のすべての方向に設定可能となり、送受信機が回転偏波の最適な進行方向を用いて最良品質で回転偏波通信を実現することが可能となる。
【実施例0052】
図11は本実施例における無線通信システムの構成図である。図11において、図8と同じ構成は同じ符号を付しその説明は省略する。
【0053】
図11において図8と異なる点は、第1の送受切替スイッチ3と伝送線路104の間に第1のカプラ141が挿入されており、第1の送受切替スイッチ3から伝送線路104へ通過する主電力の1部を取り出し、第1のアナログデジタル変換器143により該電力を数値化して制御回路9に伝送する点である。また、同様に、第2の送受切替スイッチ103と第1のハイブリッド回路118の第1のポートの間に第2のカプラ142が挿入されており、第2の送受切替スイッチ103から第1のハイブリッド回路118の第1のポートへ通過する主電力の1部を取り出し、第2のアナログデジタル変換器144により該電力を数値化して制御回路9に伝送する点である。
【0054】
本実施例によれば、制御回路は第1のアナログデジタル変換器143および第2のアナログデジタル変換器144からの信号により、送信信号が来ているかを判別でき、第1乃至第3のアンテナによって偏波を変化させるタイミングを知ることができるので、情報パケットを送信中に偏波が変化することを防ぐことができ、無線通信の安定化に効果がある。
【実施例0055】
図12は本実施例における無線通信システムの構成図である。図12において、図10と同じ構成は同じ符号を付しその説明は省略する。
【0056】
図12において図10と異なる点は、第2の送受信合成回路106および第3の送受信合成回路107として第1のラットレース回路108および第2のラットレース回路109を採用したことにある。
【0057】
本実施例においては、合成回路にラットレース回路を採用することで安定性が増し、さらに、ラットレース回路の一端がグランド接地となっているので、例えば無線通信機とアンテナを別体とした場合に人がアンテナを触ることによる静気等で無線通信機が壊れることを防ぐことが可能となり、アンテナを別体とすることができ、第1のアンテナ81と第2のアンテナ82の独立性が向上するので、偏波の制御精度を向上させることができ、回転偏波通信を安定して行う効果がある。
【実施例0058】
図13は本実施例における無線通信システムで用いる無線機の詳細構成図である。すなわち、図1で示した、送信信号発生回路1と受信信号検出回路2が送受切替スイッチ3で選択される構成の無線機の具体的な構成図である。
【0059】
図13において、送信信号発生回路1に対応する構成は、デジタル送信信号発生回路181が発生する信号が第1のミキサ183より搬送波周波数帯の信号を生成する周波数シンセサイザ185の出力によりアップコンバートされ、電力増幅器186により増幅され送受切替スイッチ3に入力し共通端子へと伝送される。一方、受信信号検出回路2に対応する構成は、送受切替スイッチ3の共通端子からの伝送された信号は低雑音増幅器187により増幅され、第2のミキサ184より搬送波周波数帯の信号を生成する周波数シンセサイザ185の出力によりダウンコンバートされ、受信信号判定回路182に入力される。
【0060】
デジタル送信信号発生回路181、受信信号判定回路182、電力増幅器186、送受切替スイッチ3および周波数シンセサイザ(PLL)185は、中央処理装置(CPU)189で制御される。中央処理装置189は、情報パケットが送られないタイミングで制御回路9からの制御信号を通じて無線通信システムが送受信に用いる偏波を変更する。
【0061】
中央処理装置189は、制御回路9によって施される複数のアンテナに対する振幅重みと受信信号判定回路182の判定結果を記憶し、該アンテナに対する振幅重みにより受信信号の信号品質が向上したか否かを判断し、所定のアルゴリズムにより受信信号品質が向上するように該アンテナに対する振幅重みを更新する。
【0062】
図14は、情報パケットを送る際の、送受切替スイッチ3、デジタル送信信号発生回路181、電力増幅器186、および周波数シンセサイザ185の時間軸上の動作を説明する図である。送信においては、先ず送受切替スイッチを送信モードに切り替える。次にPLLを動作させて安定した搬送波周波数の信号を供給できる状態とする。その後、電力増幅器を動作させ、最後に情報パケットを送信する。図14より分かるように、時間軸上には情報パケットが送信されない時間帯があり、この時間帯を中央処理装置189が把握して制御回路9に偏波変更の信号を発生させる。
【0063】
図15は、図13の回路構成で行われる処理における情報パケットの送信手続きの一例のフローチャートである。図15において、まず、情報パケットの再送回数Nを設定し(ステップ201)、カウンタcをリセットする(ステップ202)。切替スイッチにより送信手順に入り(ステップ203)、周波数シンセサイザのPLLをオンして(ステップ204)周波数の安定を確認し、制御回路により空間的に互いに平行関係にない複数のアンテナに付与する位相重み付けを設定する(ステップ205)。そして、電力増幅器をオンして(ステップ206)、情報信号発生回路より情報パケットを出力する(ステップ207)。情報信号発生回路からの情報パケットの出力が完了したのち電力増幅器をオフし(ステップ208)、カウンタcを更新し(ステップ209)、カウンタcの値が再送回数Nを超えていないか判断する(ステップ210)。カウンタcの値が再送回数Nを超えていない場合(ステップ201でNo)、制御回路により空間的に互いに平行関係にない複数のアンテナに付与する位相重みを設定する(ステップ205)手順に戻り処理を繰り返し、カウンタcの値が再送回数Nを超えた場合(ステップ201でYes)全処理を終了する。
【0064】
本実施例によれば、情報パケットが送信されないタイミングで偏波が変更可能となるので、送受信機は通常の通信シーケンスを妨げることなく最適な偏波を選択でき、無線通信品質の向上に効果がある。
【実施例0065】
図16は本実施例における無線通信システムで用いる無線機の他の詳細構成図である。図16において、図13と同じ構成は同じ符号を付しその説明は省略する。
【0066】
図16において図13と異なる点は、送受切替スイッチ3の送信出力を送信用の第1のカプラ141で検出して、この検出結果を用いて制御回路9が偏波を変更する信号を送出することである。
【0067】
本実施例によれば、制御回路9は外部からの制御信号が不要で、偏波を変更する信号を出すことができ、情報パケットを離散的に送出する通常のデジタル無線通信システムにアドオンすることができる。
【0068】
図17は、図16の回路構成で行われる処理における情報パケットの送信手続きの一例のフローチャートである。図17において、まず第1のカプラが検出する電力の閾値Pthを設定し(ステップ211)、制御回路により空間的に互いに平行関係にない複数のアンテナに付与する位相重み付けを設定する(ステップ212)。第1のカプラにより送信電力Pの検出を行い(ステップ213)、検出した電力Pが閾値Pthを超えているか判定し(ステップ214)、検出した電力Pが閾値Pthを超えている場合(ステップ214でYes)制御回路により空間的に互いに平行関係にない複数のアンテナに付与する位相重み付けを変更し(ステップ215)、第1のカプラにより送信電力Pを検出する(ステップ213)処理に戻り手順を繰り返す。検出した電力Pが閾値Pthを超えていない場合(ステップ214でNo)、第1のカプラにより送信電力Pを検出する(ステップ213)処理に戻り手順を繰り返す。
【0069】
本実施例によれば、送受切替スイッチの共通端子に発生する送信電力を検出し、その送信電力の検出をトリガとして複数のアンテナに与える重み付けを変化させる。これにより、重み付けの切り替えによる影響を防ぐことができる。よって、既存無線機の高周波出力端子に、制御回路を搭載した実施例1から10に記載の無線通信システムの高周波モジュールと、2つあるいは3つの外部アンテナをアドオンすることで偏波制御通信システムを実現可能となり、偏波制御技術導入が容易となる。
【実施例0070】
図18は本実施例における無線通信システムで用いる無線機の他の詳細構成図である。図18において、図16と同じ構成は同じ符号を付しその説明は省略する。
【0071】
図18において、図16と異なる点は、送受切替スイッチ3の共通端子から出力される電力を検出する送信用の第1のカプラ141のほかに、送受切替スイッチ3の共通端子に入力する信号を検出する受信用カプラ145を具備し、受信用カプラ145の検出した信号の品質を測り蓄積する受信信号計測記憶回路6を具備する点である。これにより、本実施例では、制御回路9が、受信信号計測記憶回路6に順次蓄えられる信号品質が向上するように、空間的に平行関係にない複数のアンテナの振幅重みを決定して偏波を変化させることが可能となる。
【0072】
本実施例では制御回路9は外部からの制御信号が不要で、偏波を変更する信号を出すことができ、情報パケットを離散的に送出する通常のデジタル無線通信システムにアドオンすることができる。これにより、偏波制御により既存の無線通信システムの通信品質を向上させる効果がある。
【0073】
図19は、図18の回路構成で行われる処理における情報パケットの送信手続きの一例のフローチャートである。図19において、まず、送信用の第1のカプラが検出する電力の閾値Pthを設定し(ステップ231)、制御回路により空間的に互いに平行関係にない複数のアンテナに付与する振幅重みをランダムに生成し(ステップ232)、生成した振幅重みをアンテナ重み記憶回路にMwとして記憶し(ステップ233)、該記憶回路の内容Mwを用いて送受信に用いる偏波を設定する(ステップ234)。引き続き、受信用カプラより受信信号をモニタし(ステップ235)、受信信号計測記憶回路によりモニタした受信信号の品質Qrxを測りMqに記憶する(ステップ236)。送信用の第1のカプラにより送信電力Pの検出を行い(ステップ237)、検出した電力Pが閾値Pthを超えているか判定する(ステップ238)。検出した電力Pが閾値Pthを超えている場合(ステップ238でYes)、制御回路により空間的に互いに平行関係にない複数のアンテナに付与する振幅重みをランダムにWaとして生成し(ステップ239)、生成した振幅重みを用いて送受信に用いる偏波を設定し(ステップ240)、受信用カプラおよび受信信号計測記憶回路によりモニタした受信信号の品質Qrxを測り(ステップ241)、受信信号の品質Qrxが受信信号計測記憶回路に記憶した受信信号の品質Mqより向上しているかを判定する(ステップ242)。受信信号の品質Qrxが受信信号計測記憶回路に記憶した受信信号の品質Mqより向上している場合(ステップ242でYes)はアンテナ重み記憶回路のMwをWaで置き換え(ステップ243)、記憶回路の内容Mwを用いて送受信に用いる偏波を設定する(ステップ234)処理に戻り手順を繰り返す。受信信号の品質Qrxが受信信号計測記憶回路に記憶した受信信号の品質Mqより向上している場合(ステップ242でNo)は記憶回路の内容Mwを用いて送受信に用いる偏波を設定する(ステップ234)処理に戻り手順を繰り返す。検出した電力Pが閾値Pthを超えていない場合(ステップ238でNo)、送信用の第1のカプラにより送信電力Pを検出する(ステップ237)処理に戻り手順を繰り返す。
【0074】
本実施例によれば、送受切替スイッチの共通端子に発生する送信電力を検出するとともに、共通端子に入力する信号を検出し、入力信号の品質を測り、送信電力の検出をトリガとして、入力信号の信号品質が向上するように、複数のアンテナに与える重み付けを変化させる。これにより、重み付けの切り替えによる影響を防ぎ、かつ、外部からの制御信号が不要で、偏波を変更する信号を出すことができる。よって、既存無線機の高周波出力端子に、制御回路を搭載した実施例1から10に記載の無線通信システムの高周波モジュールと、2つあるいは3つの外部アンテナをアドオンすることで偏波制御通信システムを実現可能となり、偏波制御技術導入が容易となる。
【実施例0075】
図20は本実施例における無線通信システムで用いる無線機の他の詳細構成図である。図20において、図16と同じ構成は同じ符号を付しその説明は省略する。
【0076】
図20において、図16と異なる点は、送信用の第1のカプラ141を使用せず、制御回路9の動作をタイマ8を用いて偏波を変更する信号を送出することである。
【0077】
無線通信システムが、同一の情報を周波数等の無線パラメータを変更して複数回送信するシステムに本実施例は特に有効で、あらかじめ定められたシーケンスに則って送受信に用いる偏波を変更する。
【0078】
制御回路9は外部からの制御信号が不要で、偏波を変更する信号を出すことができ、情報パケットを離散的に送出する通常のデジタル無線通信システムにアドオンすることができるので、既存無線通信システムに実施例1から10に記載の偏波制御機能をアドオンするための無線モジュールの小型化と低コスト化に効果がある。
【0079】
図21は、図20の回路構成で行われる処理における情報パケットの送信手続きの一例のフローチャートである。図21において、まず、情報パケットの再送インターバルTiを設定し(ステップ221)、タイマを起動し処理開始時間Tsをリセットする(ステップ222)。制御回路により空間的に互いに平行関係にない複数のアンテナに付与する位相重みを設定し(ステップ223)、タイマを参照し現在の時刻Tcを確認し(ステップ224)、タイマによる現在の時刻Tcが処理開始時間Tsと再送インターバルTiの和を超えていないか判定する(ステップ225)。タイマによる現在の時刻Tcが処理開始時間Tsと再送インターバルTiの和を超えている場合(ステップ225でYes)、処理開始時間Tsを現在の時刻Tcに置き換え(ステップ216)、制御回路により空間的に互いに平行関係にない複数のアンテナに付与する位相重みを変更し(ステップ226)、タイマを参照し現在の時刻Tcを確認する(ステップ224)処理に戻り手順を繰り返す。タイマによる現在の時刻Tcが処理開始時間Tsと再送インターバルTiの和を超えていない場合(ステップ225でNo)タイマを参照し現在の時刻Tcを確認する(ステップ224)処理に戻り手順を繰り返す。
【0080】
本実施例によれば、既存無線機の高周波出力端子に、制御回路を搭載した実施例1から10に記載の無線通信システムの高周波モジュールと、2つあるいは3つの外部アンテナをアドオンすることで偏波制御通信システムを実現可能となり、偏波制御技術導入が容易となる。
【実施例0081】
図22は本実施例における偏波制御通信システムを適用した地上-高所間無線通信システムの概略構成図である。
【0082】
図22において、地上-高所間無線通信システムは、移動地上局1011が移動局アンテナ1013を具備する移動局1012を搭載しており、ビル1021の屋上に設置された固定局アンテナ1023を具備する高所固定局1022との間で無線通信を行う。移動局1012と高所固定局1022の間には立木1031が存在しており、両局の見通し通信を妨げている。立木の枝葉を通過した電磁波は一般に偏波が変化する。
【0083】
そこで、実施例1から14に記載の無線通信システムを用いた偏波制御無線通信システムを移動局または高所固定局に用いれば、送受信機が最適な偏波を用いて通信を行うことができるので、高品質の無線通信を安定して行うことが可能となる。
【実施例0084】
図23は本実施例における偏波制御通信システムを適用した製造ライン無線通信システムの概略構成図である。
【0085】
図23において、製造ライン無線通信システムは、建屋1161の内部にベルトコンベア1141が設置され、該ベルトコンベア1141上を小型アンテナ1113を具備する小型無線機1112が添付された製品1111が移動している。これらの製品は、産業ロボット1131により加工・調整等の作業が施されるが、産業ロボット1131はアンテナ1133を具備した無線機1132を有しており、作業の内容及び製品の状態をモニタし基地局アンテナ1123を具備した基地局無線機1122が設置された中央監視装置1121にデータを送る。中央監視装置1121に送られたデータは、無線通信により作業台1151上に設置された机上アンテナ1153を具備した机上無線機1152に送られ、各作業台で共有される。製品の位置及び姿勢は特定不可能なので、製品に設置された無線機との通信は最適な偏波を用いないと通信品質が劣化する恐れがある。
【0086】
そこで、実施例1から14に記載の無線通信システムを用いた偏波制御無線通信システムを小型無線機1112または無線機1132に用いれば、ベルトコンベア1141上の任意の位置および方向の製品に設置されたアンテナに最適な偏波で通信を行うことができ、安定かつ高品質な無線通信を通して製造ラインの生産性向上に寄与する効果がある。
【実施例0087】
図24は本実施例における偏波制御通信システムを適用したオフィス内無線通信システムの概略構成図である。
【0088】
図24において、オフィス内無線通信システムは、オフィス1241の内部に事務机1211が複数配置されており、各事務机1211の近傍には卓上アンテナ1213を具備した卓上無線機1212が配置されている。オフィスの壁には中継アンテナ1233を具備する中継無線機1232が設置された中継装置1231が配置されており、オフィス内部には、基地局アンテナ1223を具備した基地局無線機1222が設置された中央監視装置1221が別途配置されている。従業員は、各自の机で仕事を行うが、各自の卓上無線機1212と中継無線機1232は無線回線で結ばれており、中継無線機1232は基地局無線機1222を介して中央監視装置1221に接続し、必要な大容量データの送受信を行う。卓上無線機1212の設置場所は事務机を使用する作業者に固有であり卓上アンテナの位置及び姿勢を特定することは困難である。
【0089】
そこで、実施例1から14に記載の無線通信システムを用いた偏波制御無線通信システムを卓上無線機1212または中継無線機1232に用いれば、卓上無線機1212が具備する卓上アンテナの方向に合わせた偏波を用いて中継無線機1232がデータの送受信を行うことができるので、作業者は高品質かつ安定した無線通信環境で仕事をすることができ、各作業者の仕事効率向上を援助する効果がある。
【0090】
以上、本発明による実施例を示したが、本発明は、アンテナに最適な偏波制御を行うために移相器により振幅の重み付けを行うので、電源を必要としない受動回路による実現が可能であり、追加電力を必要としない。そのため、発電のための炭素排出量を減らし、地球温暖化を防止することができ、SDGs(Sustainable Development Goals)を実現するための特に項目7のエネルギーに貢献する。
【0091】
また、本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0092】
1:送信信号発生回路、2:受信信号検出回路、3:送受切替スイッチ、4:第1の分配器、5:第4の分配器、6:受信信号計測記憶回路、7:第9の可変移相器、8:タイマ、9:制御回路、10:第2の分配器、11:第1の可変移相器、12:第2の可変移相器、13:第1の多接点スイッチ、14:第1の線路群、15:第2の多接点スイッチ、16:第3の多接点スイッチ、17:第2の線路群、18:第4の多接点スイッチ、19:第1の合成器、20:第3の分配器、21:第3の可変移相器、22:第4の可変移相器、23:第5の多接点スイッチ、24:第3の線路群、25:第6の多接点スイッチ、26:第7の多接点スイッチ、27:第4の線路群、28:第8の多接点スイッチ、29:第2の合成器、30:第5の分配器、31:第5の可変移相器、32:第6の可変移相器、33:第9の多接点スイッチ、34:第5の線路群、35:第10の多接点スイッチ、36:第11の多接点スイッチ、37:第6の線路群、38:第12の多接点スイッチ、39:第3の合成器、40:第6の分配器、41:第7の可変移相器、42:第8の可変移相器、43:第13の多接点スイッチ、44:第7の線路群、45:第14の多接点スイッチ、46:第15の多接点スイッチ、47:第8の線路群、48:第16の多接点スイッチ、49:第4の合成器、51:第17の多接点スイッチ、52:第9の線路群、53:第18の多接点スイッチ、54:第19の多接点スイッチ、55:第10の線路群、56:第20の多接点スイッチ、80:アンテナ、81:第1のアンテナ、82:第2のアンテナ、83:第3のアンテナ、90:回転偏波の進行方向、101:第2の送信信号発生回路、102:第2の受信信号検出回路、103:第2の送受切替スイッチ、104:伝送線路、105:初段ハイブリッド回路、106:第2の送受信合成回路、107:第3の送受信合成回路、108:第1のラットレース回路、109:第2のラットレース回路、111:第1のウイルキンソン分配回路、118:第1のハイブリッド回路、121:第2のウイルキンソン分配回路、128:第2のハイブリッド回路、131:第3のウイルキンソン分配回路、138:第3のハイブリッド回路、141:第1のカプラ、142:第2のカプラ、143:第1のアナログデジタル変換器、144:第2のアナログデジタル変換器、145:受信用カプラ、181:デジタル送信信号発生回路、182:受信信号判定回路、183:第1のミキサ、184:第2のミキサ、185:周波数シンセサイザ、186:電力増幅器、187:低雑音増幅器、189:中央処理装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24