(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133045
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】ボール弁用弁座及びボール弁
(51)【国際特許分類】
F16K 5/06 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
F16K5/06 A
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022057466
(22)【出願日】2022-03-11
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】391014125
【氏名又は名称】森田 壽郎
(72)【発明者】
【氏名】森田 壽郎
【テーマコード(参考)】
3H054
【Fターム(参考)】
3H054AA03
3H054BB02
3H054BB22
3H054CB06
(57)【要約】
【課題】 ボール弁の弁体(ボール)に「シート面の円周方向に不均一なたわみ」を生じたときにも、当該変形に対して弁座のシート面がしなやかに密着するような変形をすることで、シール性能の高い弁座とボール弁を実現する。
【解決手段】 ボール弁の弁座を、外周側の漏れが発生しにくい円筒形状とし、外周のシート面に近い位置に外周溝を設けることでシート面と前期外周溝で薄肉のフランジ状部分が構成されるようにするとともに、弁座のシート面を円錐面もしくは弁体(ボール)に向かって凸な「かまぼこ状曲面」となるよう構成したことで、弁体(ボール)に「シート面の円周方向に不均一なたわみ」を生じたときにも、弁座のシート面がしなやかに密着するような変形をすることで、シール性能の高い弁座とボール弁を実現する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁箱に、流路を設けた弁体(ボール)を内蔵し、弁体(ボール)と弁棒を嵌合により固定してトルク伝達するか、もしくは弁体(ボール)と弁棒を固定しないでオルダム継手状のトルク伝達をするよう構成し、弁箱外部から弁棒を旋回させることで弁体(ボール)を旋回させることにより弁体(ボール)に設けた流路の向きを変えて弁の開閉あるいは流路の切り替えをするボール弁における、弁体(ボール)とシート面で当接する弁座において、弁座を肉厚tに対して流路方向の全長Lが概ね5割増し以上の円筒形状とし、その外周のシート面に近い位置に外周溝を設けて当該外周溝のシート面側の側壁をシート面と概ね平行となるよう傾斜させることでシート面と前記外周溝で半径方向に極端な肉厚差の無い薄肉のフランジ状部分が構成されるようにするとともに、弁座のシート面を円錐面もしくは弁体(ボール)に向かって凸な「かまぼこ状曲面」となるよう構成したことを特徴とするボール弁用弁座。
【請求項2】
請求項1に記載の弁座を用いたことを特徴とするボール弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管系統において、当該配管系統内を流れる流体の流路の開閉、あるいは流路の切り替えに用いられるボール弁及びボール弁用弁座に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボール弁には、大きく分けて弁体(ボール)と弁棒を固定しないでオルダム継手状の機構でトルク伝達をし、弁体(ボール)に作用する流体圧は二次側弁座で受けるよう構成した「フローティング形」と、上部弁棒及び下部弁棒と弁体(ボール)を締まり嵌め嵌合等で固定してトルク伝達をし、弁体(ボール)に作用する流体圧を上部弁棒及び下部弁棒を介して弁箱で受ける「トラニオン形」の2種類があるが、そのうち「トラニオン形」ボール弁の例を
図7に示す。ボール弁1の弁箱2に内蔵された弁体(ボール)40には流路41が設けられており、弁体(ボール)40と上部弁棒5及び下部弁棒6は嵌合により固定されていて、上部弁棒5を外部からトルクを加えて旋回させることで弁体(ボール)40を旋回させ、流路41の向きを変えて、流体95の流路の開閉、あるいは流路の切り替えを行うことができるようになっている。また、弁体(ボール)40が一次側の流体95から受ける圧力は、主に上部弁棒5及び下部弁棒6を介して弁箱2で受けるように構成されている。また、弁体(ボール)40は一次側弁座10及び二次側弁座11とシート面60で接していて、スプリング20によって一次側弁座10及び二次側弁座11が弁体(ボール)40に押しつけられることによって発生するシート面60の接触面圧によって、配管系統内の流体95がシート面60の外周側に向って漏れないようにシールしている。
【0003】
弁体(ボール)40は、配管系統内の流体95の圧力と弁座からの押付力によって弾性変形する。
「トラニオン形」ボール弁を例にとって、弁体(ボール)40と上部弁棒5及び下部弁棒6の流体圧90と弁座押付力91及び92による変形の状況を示した模式図を
図3、
図4、
図5に示す。
図3(便宜的に「垂直面」と呼ぶ)に示すように、
(ア)弁体(ボール)40は流体圧90と弁座押付力91及び92により、楕円状にたわんで変形するとともに、
(イ)一次側の流体圧90により二次側(
図3では左側)に向かって、材料力学の教科書に出てくる「両持梁のたわみ」も生じて、
たわみ(ア)とたわみ(イ)が重ね合わさって、破線のたわみ曲線40´で示すように変形する。
図3のZ-Z断面(便宜的に「水平面」と呼ぶ)を
図4に示すが、弁体(ボール)40の一次側は流体圧90と弁座押付力91により水平面内で一次側たわみ曲線40´´のように変形する。この垂直面のたわみ曲線40´と、水平面の一次側たわみ曲線40´´は重畳して3次元的な変形となるが、これを
図5に示す。
図5は縦軸に弁体(ボール)の一次側シート面の二次側へのたわみ量を、横軸に弁体(ボール)40の一次側のシート面の円周方向位置を上部弁棒方向を0°として全周にわたって角度表示で図示した模式図である。このように弁体(ボール)40は「シート面の円周方向に不均一なたわみ」を生じる。
【0004】
この「シート面の円周方向に不均一なたわみ」の量は一次側の流体圧90と弁座押付力91及び92が大きくなるほど大きくなる。また、大口径のボール弁になるほど流体圧90に対しての受圧面積が増えて流体95から受ける荷重の総和が大きくなることと、それに伴って弁座押付力91の総和も大きく設定することになるので「シート面の円周方向に不均一なたわみ」の量は増大する。例えば配管口径200Aでクラス900(流体圧力900重量ポンド/平方インチクラス)だと一次側の圧力の総和は20トン近くの荷重になるので、弁体(ボール)40や弁座のシート面60をミクロン(μm)オーダーで精密な加工精度で仕上げていても、それをはるかに超える「シート面の円周方向に不均一なたわみ」が発生する。
【0005】
加えて、弁体(ボール)40のシート面の初期形状は球面であるが、前記「シート面の円周方向に不均一なたわみ」とは別に、弁体(ボール)40に、不均一な温度分布が生ずれば、弁体(ボール)40のシート面は不均一な熱膨張(熱変位)により「真球」ではなくなる。このような不均一な熱変位も含めて、以下本願明細書では「シート面の円周方向に不均一なたわみ」と呼ぶこととする。
【0006】
「シート面の円周方向に不均一なたわみ」は、弁体(ボール)40と弁座の間の隙間発生による流体95の漏れの要因になる。弁座にゴムや軟質の樹脂など弾性係数の低い素材を選定すれば、弁座自体が「しなやか」に変形して弁体(ボール)40の「シート面の円周方向に不均一なたわみ」に追従してくれるので、シート面に隙間が生じず、流体95の漏れが発生しにくい。
【0007】
ところが、高温の流体の場合には弁座の素材としてゴムや軟質の樹脂などが使えないので、金属製の弁座(いわゆる「メタルシート」)が用いられるため弁座の弾性係数が高く、弁体(ボール)40の「シート面の円周方向に不均一なたわみ」に「しなやか」に追従してくれないため、シート面の隙間発生による流体95の漏れの発生につながりやすい。
【0008】
例えば火力発電設備の天然ガス等の燃料系統では、燃焼させる直前の燃料の温度は近年発電効率アップの為に予加熱するなど高温化する傾向にあり、300℃以上や場合によっては400℃を超える温度に耐えることが求められてきているが、ゴムや軟質の樹脂の耐熱性は高いものでも300℃程度が限界であり、耐熱性のあるグラファイトでも多孔質の素材故シール性に難があるので、金属製の弁座を用いることが多くなる傾向にある。
【0009】
金属製の弁座の場合、弁体(ボール)40の「シート面の円周方向に不均一なたわみ」が発生する条件下で無理にシール性を高めようとすれば以下のような問題が生じる。
(1)
図5に示すたわみ量が大きいために接触面圧が低くなる90°近辺と270°近辺において漏れが生じない接触面圧となるようよう、スプリング等による弁座の弁体(ボール)40への押付力91や92を大きくすると、
図5の0°、180°、360°近辺では弁座と弁体(ボール)40の接触面圧が過大となり、弁座と弁体(ボール)40に圧痕が発生したり、弁開閉時の弁座と弁体(ボール)40の摺動部に焼き付きやスリ疵を生じたりすることがある。
(2) また、弁座の押付力91や92を大きくするほど弁体(ボール)40の「シート面の円周方向に不均一なたわみ」が大きくなるという「イタチごっこ」が発生してしまう。
(3) さらに、弁座の弁体(ボール)40への押付力91や92を大きくすると、シート面の摩擦抵抗が大きくなることで弁開閉のための必要トルクが大きくなるため、弁棒の強度確保のため軸径が大きくなり、それにつれて弁全体も大型化するのでコストアップにつながる。
(4) 上記(3)に加え、弁の開閉を行うための駆動系(例:電動モータとウォームギヤや、油圧または空気圧アクチュエータなど)の負荷容量が大きくなり駆動系のコストアップや設置スペースの増大、ならびに駆動エネルギーの増大とそれにともなうランニングコストの増大につながる。
(5) 加えて、手動ハンドルによる開閉をする場合は人力によるバルブ開閉が困難となることもある。
【0010】
一方、ボール弁は液化天然ガス(LNG:沸点=マイナス162℃)や、液体水素(沸点=マイナス253℃)などの低温の流体用に用いられることもある。このような低温の場合、
図10に示すように弁体(ボール)40と、弁座12,13のフランジ状部分70の接するシート面60に何らかの理由で隙間{上記記載のような弁体(ボール)40のたわみに起因した隙間など}が発生して流体95の漏れが発生した場合、低温の流体95が流れることにより、弁体(ボール)40や弁座12,13が冷却され収縮して、
図10の破線で図示するように隙間が増大して、結果として流体95の漏れが増大するという悪循環も起きてくる。
【0011】
また、樹脂など非金属であっても弾性係数の高い素材を弁座に用いる場合は上記と同様の問題が発生する。
【0012】
高弾性係数の材料の弁座について、弁体(ボール)40の「シート面の円周方向に不均一なたわみ」に対する上記問題点を解決するには、弁座自体のシート面が「円周方向に不均一なたわみ」に「しなやか」に追従して変形し得るように「剛性を低減する構造」の弁座にすれば良い。このような弁座の構造として、特許文献1の
図2、
図3、
図4、
図6、
図7、
図8に「弁座リング36」(本願明細書中では特記する必要がない限り「弁座リング」を「弁座」と記す。)の「頭部46」に「第1の環状溝66」及び「第2の環状溝68」を設けた技術が示されている。また特許文献2の
図4、
図8、
図9、
図10にも同様の構造の弁座が示されている。本願発明の着目する技術課題に関して言えば、特許文献1の弁座と特許文献2の弁座は同等の構造とみなし得るので、以下特許文献1を例に取って説明を進める。
【0013】
特許文献1の「弁座リング36」の「頭部46」の「弁座40」(本願明細書では「シート面」と記す)と「第1の環状溝66」の間のフランジ状部分は、「弁座40」が「ボール24」の表面に沿うよう傾斜しているのに対して、「第1の環状溝66」は弁座の半径方向にまっすぐに設けられている(旋削加工等ではこの内径側の環状溝を傾斜させるのは困難である)ため、前記フランジ状部分の肉厚が半径方向に大きく変化している。本願明細書の
図5のような「シート面の円周方向に不均一なたわみ」に沿うようシート面が変形するということは、前記フランジ状部分が円周方向に波打つように面外方向(弁座の中心軸に平行な方向)にたわむ(円周方向不均一にたわむ)「曲げ変形」をする必要があるが、前記フランジ状部分の肉厚が半径方向に大きく変化しているので、前記「曲げ変形」に対しての「曲げ剛性」が半径方向に大きく異なる(曲げ剛性は肉厚の3乗に比例する)ため、外形側は極めて曲がりにくく、内径側は曲がりやすいことから、「シート面の円周方向に不均一なたわみ」に沿うようシート面が「曲げ変形」しようとしても内径側と外形側でたわみ量に差が出来てしまい、結果として、「弁座40」(本願明細書では「シート面」)の密着性が悪くなって、流体の漏れの要因になり易いという問題点がある。
【0014】
また、特許文献1の「弁座40」(本願明細書では「シート面」)と「第1の環状溝66」の間の「1番目のフランジ状部分」の肉厚は、「第1の環状溝66」と「第2の環状溝68」の間の「2番目のフランジ状部分」の肉厚と大きく異なる。本願明細書の
図6に示すフランジ状部分70が70´の破線のように変形する(本願明細書中では便宜的に「おじぎ変形」と記す)ことに関する剛性が特許文献1の「1番目のフランジ状部分」と「2番目のフランジ状部分」で大きな差がある。(この変形についても、曲げ剛性はフランジ状部分の肉厚の3乗に比例する。)「弁座40」(本願明細書では「シート面」)にかかる接触面圧の総和は「1番目のフランジ状部分」にも「2番目のフランジ状部分」にもに同じ大きさの力としてかかかるが、前記剛性の差によって「1番目のフランジ状部分」が反時計回り方向に「おじぎ変形」する変形量と、「2番目のフランジ状部分」が時計回り方向に「おじぎ変形」する変形量に大きな差が出来てしまう。このため結果として「弁座40」(本願明細書では「シート面」)が傾斜し易くなるため、シート面のシール性能が悪化しやすくなるという問題がある。
【0015】
また、特許文献3では、弁座の外周面と内周面にそれぞれ外周溝と内周溝を交互に設け、外周溝と内周溝の合計の溝数を2本以上とすること、シート面と外周溝(あるいは内周溝)の間のフランジ状部分の肉厚を当該フランジ状部分の面内で半径方向に概ね均等とし、当該フランジ状部分の肉厚と、隣接する外周溝と内周溝の間に形成されるフランジ状部分の肉厚を概ね同等としたことで、弁座の軸方向圧縮変形に対する剛性を低くすることができ、「ボールのシート面の円周方向に不均一なたわみ」が生じても、弁座のシート面がしなやかに変形してボールのシート面に追従して、シート面の間に隙間が生じることを防いで、シート面のシール性を高めている。(特許文献1及び2よりも、特許文献3の方が、弁座のシート面の「しなやかさ」が向上している。)
しかしながら、弁座のシート面に内周溝と外周溝を複数設けるのは比較的難度の高い機械加工が必要で加工工数が増えるとか、弁座を鋳物など難削材で作ると内周溝と外周溝の機械加工自体が困難なため、鍛造材等単価の高い素材を使わざるを得なくなるなど、コストの増大を招くという問題点がある。
【0016】
前記の弁座の「おじぎ変形」に伴うシート面の傾斜によるシール性能の悪化はボールと弁座のシート面の間での「面接触状態」をシート面の全周に亘って切れ目なく保持することができなくなることによって発生する。そこで、弁座のシート面を円錐面もしくは弁体(ボール)に向かって凸な「かまぼこ状曲面」として、ボールと弁座のシート面の間を「線接触状態」とすれば、前記の弁座の「おじぎ変形」に伴うシート面の傾斜が生じても、シート面の全周に亘ってボールと弁座のシート面の間の「線接触状態」を途切れる事のないように保持することができ、シート面のシール性が確保できる。特許文献4では、弁座のシート面を弁体(ボール)に向かって凸な「かまぼこ状曲面」とした技術が開示されている。この特許文献4の弁座のシール性について以下のとおり考察する。
(1)本願明細書の符号で説明すると、ボール弁の弁座における流路41内部の流体95の「漏れ」が発生するルートとしては、
▲1▼弁体(ボール)40と弁座12、13が接するシート面60の内径側から外径側への漏れ、
▲2▼弁座12、13の反シート面側当り面61から、弁座12、13の外周面とその外側の部材(本願明細書の例では弁箱2)の間の隙間を通っての弁棒5、6方向への漏れ、
の両方があり、弁座のシール性を担保するためには、▲1▼、▲2▼のルートの両方の漏れを止めることが必要である。
(2)引用文献4の弁座27~28は「流体の進行方向の長さ」が短いリング状の形状である。
引用文献4の弁座27~28は円弧形状の「leg portion 28」が、破線J.J´を境にしてたわむことが記載されているが、それだけではなく、弁体(ボール)であるball 13と弁座27~28の間の弁座押付力の反力はvalve body 10のwall section 33とradially inwardly directed portion 27bの間の接触面で受けることになるがball 13と弁座27~28の間の弁座押付力が作用する接触面の半径と、反力を受けるwall section 33とradially inwardly directed portion 27bの間の接触面の半径の差(モーメントアーム)が大きいため、例えば引用文献4のFIG.3では弁座27~28の断面全体を「時計回り」に回転させる、「断面の軸対称回転変形」(例えば皿バネがたわむのと類似の変形)を発生させるような「回転モーメント」が大きくなる。一方、弁座27~28は「流体の進行方向の長さ」が短いリング状の形状であるため、前記「断面の軸対称回転変形」に対する剛性が低い。したがって、「回転モーメント」が大きくて剛性が低いという条件が重なるため、引用文献4の弁座27~28では前記「断面の軸対称回転変形」が大きくなりやすいという問題があり、その結果弁座27~28の外周面であるouter wall 27aとvalve body 10のouter cylindrical wall portion 20aの間の隙間が増大しやすく、上記▲2▼のルートでの流体の漏れが発生しやすいという問題点がある。
(3)加えて、上記「断面の軸対称回転変形」の発生以前の問題点として、引用文献4の弁座27~28は「流体の進行方向の長さ」が短いリング状の形状であるため、弁座27~28の外周面であるouter wall 27aとvalve body 10のouter cylindrical wall portion 20aの間の上記▲2▼のルートでの流体の漏れの流路が短いため、漏れに対しての圧力損失が少なく漏れやすいという問題点がある。
(4)上記(2)及び(3)の、上記▲2▼のルートでの漏れやすさの問題があるにもかかわらず、引用文献4の弁座27~28では弁座27~28の外周面であるouter wall 27aとvalve body 10のouter cylindrical wall portion 20aの間の流体の漏れを防ぐためのシール・パッキン等は特段設けられていないことも、上記▲2▼のルートでの流体の漏れが発生しやすいという要因となっている。
(5)さらに、FIG3、FIG4のleg portion 28の左側側面とradial wall 20bの間には半円状断面のリング状の空隙(以下、本願明細書では「半ドーナツ状空隙」と記す)が存在する。この「半ドーナツ状空隙」があるおかげで、弁体(ボール)に前記「シート面の円周方向に不均一なたわみ」が生じたときにも、「leg portion 28」が、破線J.J´を境にしてたわむことにより、シート面のシール性を全周に亘って保つことができる。ところが、この「半ドーナツ状空隙」が、弁の内部を通る「流体」の流路passageway 14と連通しているため、「流体」が「半ドーナツ状空隙」に入り込み得るようになっている。このため、以下のような場合には「半ドーナツ状空隙」の円周方向の全部あるいは一部が、硬い物質で充填されてしまうことがあり、その部分では「leg portion 28」が、破線J.J´を境にしてたわむことができなくなり、シート面のシール性を全周に亘って保つことができなくなる。
▲1▼「流体」が水などの液体で、弁の外部が極低温の場合、「半ドーナツ状空隙」の中で「流体」が凍結してしまう。
▲2▼「流体」が天然ガスなどの気体であっても、弁上流のフィルター等で除去しきれない埃や異物が「半ドーナツ状空隙」に入り込んで、長い時間を経て蓄積し固化する。
▲3▼「流体」が天然ガスなどの気体であっても、当該気体に含まれる水分や油分が結露して「半ドーナツ状空隙」に入り込んで、凍結したり固化したりする。
▲4▼「流体」が微粉炭を空気で搬送するなどの、固体粒子混じりの気体(固気二相流)の場合、固体粒子が「半ドーナツ状空隙」に入り込んで、長い時間を経て蓄積し固化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2011-33189号公報 可撓性の弁座を有したトラニオン搭載ボール弁
【特許文献2】特開2011-133104号公報 逆ピストン効果を有するトラニオン形ボール弁
【特許文献3】特開2019-95042号公報 ボール弁用弁座及びボール弁
【特許文献4】英国特許出願広告第1515363号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、弁体(ボール)に「シート面の円周方向に不均一なたわみ」を生じたときにも、当該変形に対して弁座のシート面が「しなやか」に密着するような変形をすることで、前記▲1▼のルートでの漏れに対してシール性能の高い弁座とボール弁を実現し、併せて、前記▲2▼のルートでの流体の漏れを抑制するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、弁箱に、流路を設けた弁体(ボール)を内蔵し、弁体(ボール)と弁棒を嵌合により固定してトルク伝達するか、もしくは弁体(ボール)と弁棒を固定しないでオルダム継手状のトルク伝達をするよう構成し、弁箱外部から弁棒を旋回させることで弁体(ボール)を旋回させることにより弁体(ボール)に設けた流路の向きを変えて弁の開閉あるいは流路の切り替えをするボール弁における、弁体(ボール)とシート面で当接する弁座において、弁座を円筒形状とし(
図2に示す弁座の流路方向の全長Lを、弁座の半径方向の肉厚tの概ね5割増し以上とし)、その外周のシート面に近い位置に外周溝を設けて当該外周溝のシート面側の側壁をシート面と概ね平行となるよう傾斜させることでシート面と前記外周溝で半径方向に極端な肉厚差の無い薄肉のフランジ状部分が構成されるようにするとともに、弁座のシート面を円錐面もしくは弁体(ボール)に向かって凸な「かまぼこ状曲面」となるよう構成する。
【発明の効果】
【0020】
まず、前記▲1▼のルートでの流体の漏れに対するシール性について述べる。
本発明によれば、高弾性係数の弁座について、弁座の外周のシート面に近い位置に外周溝を設けて当該外周溝のシート面側の側壁をシート面と概ね平行となるよう傾斜させることでシート面と前期外周溝で薄肉のフランジ状部分が構成されるようにするとともに、弁座のシート面を円錐面もしくは弁体(ボール)に向かって凸な軸対称の「かまぼこ状曲面」となるよう構成したことで、「弁体(ボール)のシート面の円周方向に不均一なたわみ」が生じても、弁座のシート面がしなやかに「おじぎ変形」して弁体(ボール)のシート面に追従してたわむとともに、弁座のシート面が「おじぎ変形」をしても、弁座のシート面を円錐面もしくは弁体(ボール)に向かって凸な軸対称の「かまぼこ状曲面」となるよう構成しているため、弁座とボール弁の「線接触状態」がシート面全周に亘って途切れることがないように保たれるので、シート面の間に隙間が生じることを防いで、シート面のシール性を高めることができる。
{一般的に、弁座のシート面は弁体(ボール)のシート面との(無荷重状態における)密着性を高めることを意図して、弁体(ボール)のシート面と「面接触」するような「弁体(ボール)に対して凹な球面」に加工されるが、弁座のシート面が荷重を受けて「おじぎ変形」をしてしまうと弁体(ボール)のシート面との「面接触」状態が、シート面全周の内の一部で崩れてシート面に隙間を生じ、シール性が損なわれる。}
【0021】
また、弁体(ボール)40の「シート面の円周方向に不均一なたわみ」に追従し得るように弁座のシート面60が「円周方向に不均一なたわみδ」を生じることができるようにすることで、弁体(ボール)と弁座のシート面の円周方向での接触面圧の大きな差異が生じにくくなるため以下の効果がある。
(1)弁開閉時の弁座と弁体(ボール)40の圧痕や摺動部の焼き付きやスリ疵を生じにくい。
(2)また、弁座の押付力を大きくするほど弁体(ボール)40の「シート面の円周方向に不均一なたわみ」が大きくなるという「イタチごっこ」が発生しにくい。
(3)さらに、徒に弁座の弁体(ボール)への押付力を大きくすることなくシート面のシール性を確保できるので、弁座と弁体(ボール)間の摩擦による摺動抵抗を低減でき、結果として弁開閉のための必要トルクが抑制できるため、弁棒の強度確保のため軸径を大きくする必要がなく、弁全体もコンパクトにできるのでコストを抑制できる。
(4)上記(3)に加えて、弁の開閉を行うための駆動系(例:電動モータとウォームギヤや、油圧または空気圧アクチュエータなど)の負荷容量も抑制できるので駆動系のコストや設置スペースの節減、ならびに省エネルギーによるランニングコスト低減につながる。また、手動ハンドルで開閉するボール弁の場合、操作者の負担が軽くなる。
(5)高圧のボール弁の場合、
図3、
図4、
図5に示すような弁体(ボール)40の変形を少なくする観点から、流路41の直径に対する弁体(ボール)40の球面の直径の比率を高めることで、弁体(ボール)40の剛性を高めることがあるが、大口径のボール弁の場合は弁体(ボール)40の球面の直径を大きくすると弁全体が大きくなることに加えて、弁の開閉を行う際のトルクが球面の直径に比例して増大することによる上部弁棒周りの強度アップや駆動系の容量アップ等、コストや設置スペースの増大、重量同大による設置工事の難度の増大、配管サポートの設置数の増大等を招くことになるが、本願発明の弁座を用いると弁体(ボール)40の変形に対する許容度が増すので、徒に弁体(ボール)40の球面の直径を大きくする必要がなく、前記コストや設置スペースの増大等の問題を生じにくい。
(6)また、高温や低温のボール弁の場合、ボール弁を構成する各部品の熱膨張率の差や、各部品ごとの内部の温度のムラによって、弁体(ボール)と弁座の押付力が変動してシート面の接触状態が変動するが、本願発明の弁座の場合、弁座の軸方向の伸縮に対する剛性が低いため、弁体(ボール)と弁座の押付力の変動やシート面の接触状態の変化が生じにくい。
(7)さらに、弁体(ボール)40と弁箱2の間に存在する「弁座12,13とスプリング21の直列のバネ系としての合成バネ定数」は従来のものよりも低くなるので、弁体(ボール)40と弁箱2の間の軸方向距離をネジ機構・各構成部品の現物合せ調整削り・各部品の加工時の寸法精度管理等により調整する場合、弁体(ボール)40と弁箱2の間の軸方向距離の変化に対して弁座押付力が過敏に変化しにくいので、弁座押付力の調整が行いやすく、また弁体(ボール)や弁座の摩耗が発生しても弁座押付力の変化が少ないので、メンテナンスの周期の延長や消耗部品の寿命増大をはかることができる。
(8)また、外周溝51、53は流体の流路41とは連通していない。このため、引用文献4に関して段落番号[0016]の(5)で述べたような、流路41を流れる流体に起因してフランジ状部分70の「おじぎ変形」が阻害されることがなく、「シート面の円周方向に不均一なたわみ」が発生しても、シート面60のシール性を確保することができる。
【0022】
次に、前記▲2▼のルートでの流体の漏れに対するシール性について述べる。
まず、外力による弁座の「断面の軸対称回転変形」について説明する。弁座周りをどう構成するかにもよるが、
図1に示すようなボール弁の例では、弁体(ボール)40との間の接触荷重がかかる弁座12の接触点は、弁座12の肉厚のほぼ中ほどに位置している一方、前記接触荷重の反力を受けるスプリング21との接触点は弁座12の肉厚の内径側に位置しているため、前記接触荷重とその反力による「回転モーメント」の「モーメントアーム」は肉厚tと比べてさほど大きくない。加えて段落[0009]に述べたような理由で徒にシート面の接触荷重を高めなくても本願発明の弁座ではシール性を確保できるので、「モーメントアーム」と「シート面の接触荷重」の積である「回転モーメント」が大きくならないようセットすることが可能である。一方、弁座自体が円筒形状であるため、引用文献4の各図に示されたような弁座に比べて「断面の軸対称回転変形」に対しての剛性が高い。すなわち、「回転モーメント」は大きくなくて、かつ剛性が高いということで、「断面の軸対称回転変形」の量は小さい。このため弁箱と弁座の篏合面の隙間が増大しにくく、前記▲2▼のルートでの流体の漏れが抑制されやすい。
以上に述べた弁座に作用する「回転モーメント」による弁座の変形がなかったとしても、初期の組み立て時だけでなく、メンテナンス時においても、弁座の組み込みや取り外しを行うために、弁座の外周面とその外側の部材(本願明細書の例では弁箱2)の間には隙間が設けられている。前記▲2▼のルートでの流体の漏れに関して言えば、隙間を最小限度としておけば、本願発明の弁座は全長Lが大きめの円筒形状なので、引用文献4等の例に比べて流路が長い分、圧力損失が大きく流体の漏れもかなり抑制されるので、実用上充分なシール性が得られることが多い。なお、
図1、
図9に示すように弁箱と弁座の篏合面の隙間部分に、シール30を設ければ前記▲2▼のルートでの流体の漏れに対しての高いシール性を担保することができる。
【0023】
さらに、以下に述べる理由により弁座12、13の外径側と弁箱2等に設けられた弁座格納穴との篏合長さL1を弁座12,13の肉厚tと同等以上の寸法とするのが望ましい。ボール弁1の開閉もしくは流路切り替えのために弁体(ボール)40を旋回させる際には、弁座12,13は弁体(ボール)40とシート面60で摺動するため、弁座12,13の中心軸と直角の方向にシート面60に摩擦力が作用する。弁座12、13の外径側と弁箱2等に設けられた弁座格納穴の間には分解・組立の為に若干の隙間が設けられているため、弁座12、13は前記摩擦力によって傾けられ、弁体(ボール)40の旋回が終わって停止したとき、当該弁座12、13の傾きが保持されてしまうということが起き得る。このような傾斜が生じると前記▲1▼のルートのシール性に関してシート面60の片当たりなど接触状態を不安定化させる要因となり得る。一方前記▲2▼のルートに関して言えば弁座12、13の外径側と弁箱2等に設けられた弁座格納穴との隙間の増大による漏れの増大や、ボール弁の開閉動作のたびに弁座12、13の外径側が弁箱2等に設けられた弁座格納穴と叩き合って摩耗やへたりが発生する可能性がある。このため、弁座12、13の外径側と弁箱2等に設けられた弁座格納穴との篏合長さL1を弁座12,13の肉厚tと同等以上の寸法とすることで弁座12,13の傾きを極力抑制すれば、本願発明の初期の目標であるシール性の確保を達成しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図4】弁体(ボール)のたわみの模式図:
図3のZ-Z断面
【
図5】弁体(ボール)のシート面の円周方向のたわみ量分布の模式図
【
図6】弁座の外周溝1本のみの場合のシート面の変形の模式図
【
図7】従来の一般的なトラニオン型ボール弁の模式図(出典:小岩井 隆著『絵とき「バルブ」基礎のきそ』初版4刷、日刊工業新聞社発行)
【
図8】本発明のボール弁の弁座の別の実施例の模式図
【
図9】本発明のボール弁の弁座の外周シール部の例の模式図
【
図10】本発明のボール弁のシート面の低温時収縮の模式図
【発明を実施するための形態】
【実施例0025】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明のボール弁の実施形態にかかる模式図、
図2は本発明の弁座の実施形態にかかる模式図であって、肉厚tに対して流路方向の全長Lが概ね5割増し以上の円筒形状である弁座12の左端が弁体(ボール)40と当接するシート面60となっており、シート面60の表面が円錐面{
図2(a)}もしくは弁体(ボール)40側に対して凸の軸対称な「かまぼこ状曲面」{
図2(b)}となっており、その近傍に外周溝51が設けられ、シート面60と外周溝51の間にフランジ状部分70ができるように構成されている。
【0026】
なお、本願発明の効果を十分に発揮する上で、外周溝51のシート面60に近い方の側壁を、シート面60に概ね平行となるよう傾斜させることで、シート面60と外周溝51の間のフランジ状部分70の肉厚に半径方向に極端な差がつかないように構成している。
【0027】
また、特許文献3のように弁座の外周溝と内周溝を交互に複数設けることで、シート面の接触荷重に対する剛性をさらに低くすれば、コストは高くなるが、上記の[発明の効果]に記載した各効果はさらに高まる。その実施例を
図8に示す。特許文献3の
図2と同様の構成であるが、本願発明ではシート面60が円錐面{
図8(a)}もしくは弁座(ボール)40に向かって凸の軸対称な「かまぼこ状曲面」{
図8(b)}となるように構成されている。
【0028】
さらに、
図9に示すように弁座12,13の外周のシール溝80にシール30(あるいは「パッキン」。
図9は高温・低温にも耐える、金属製管状断面のOリングを例示。)を設け、シール30の内径側は弁座12,13の外周のシール溝80の溝底と接する一方、シール30の外形側は弁箱2の弁座格納用孔の内径と接するようにすることで、前記▲2▼のルートでの流体の漏れに対するシール性を担保している。
【0029】
加えて、[発明の効果](の段落番号[0021])の(7)で述べたようにスプリング21を組み合わせた構成とした場合、弁座12、13の内、少なくとも反シート面側当り面61の硬度を概ねショア硬さHs50以上の高硬度とすることにより、スプリング21との接触による反シート面側当り面61における圧痕の発生や摩耗の低減をはかることができる。スプリング21を用いない構成であっても、反シート面側当り面61の摩耗やへたりを抑制することができるので、弁座のシート面の接触状態の経年劣化を抑制することができる。
弁箱に、流路を設けた弁体(ボール)を内蔵し、弁体(ボール)と弁棒を嵌合により固定してトルク伝達するか、もしくは弁体(ボール)と弁棒を固定しないでオルダム継手状のトルク伝達をするよう構成し、弁箱外部から弁棒を旋回させることで弁体(ボール)を旋回させることにより弁体(ボール)に設けた流路の向きを変えて弁の開閉あるいは流路の切り替えをするボール弁における、弁体(ボール)とシート面で当接する弁座において、弁座を肉厚tに対して流路方向の全長Lが5割増し以上の円筒形状とし、その外周のシート面に近い位置に外周溝を設けて当該外周溝のシート面側の側壁をシート面と概ね平行となるよう傾斜させることでシート面と前記外周溝で半径方向に肉厚差の無い薄肉のフランジ状部分が構成されるようにするとともに、弁座のシート面を円錐面もしくは弁体(ボール)に向かって凸な「かまぼこ状曲面」となるよう構成したことを特徴とするボール弁用弁座。