(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133051
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】生体磁場計測処理装置、生体磁場計測システム、生体磁場計測処理装置の制御方法および生体磁場計測処理装置の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/242 20210101AFI20230914BHJP
【FI】
A61B5/242
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065586
(22)【出願日】2022-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2022037446
(32)【優先日】2022-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】石田 洸樹
(72)【発明者】
【氏名】渡部 泰士
(72)【発明者】
【氏名】川端 茂▲徳▼
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄太
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA10
4C127GG09
4C127HH13
4C127HH16
(57)【要約】
【課題】内向き電流が適切に算出できない場合にも内向き電流と等価な電流を算出することで、対象とする生体組織の活動を適切に評価可能な電流波形を生成する。
【解決手段】生体磁場計測処理装置は、生体磁場信号に基づいて算出された電流信号から抽出された電流成分に基づいて、評価対象の生体組織の活動電流の伝導経路上の着目位置に対して前記伝導経路の前後のそれぞれに予め設定された設定距離だけ離れた位置での前記伝導経路に沿う電流成分の電流波形を互いに加算し、前記伝導経路内を流れる細胞内電流の評価用の電流波形を生成する演算部を有することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体磁場信号に基づいて算出された電流信号から抽出された電流成分に基づいて、評価対象の生体組織の活動電流の伝導経路上の着目位置に対して前記伝導経路の前後のそれぞれに予め設定された設定距離だけ離れた位置での前記伝導経路に沿う電流成分の電流波形を互いに加算し、前記伝導経路内を流れる細胞内電流の評価用の電流波形を生成する演算部を有すること
を特徴とする生体磁場計測処理装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記伝導経路上の複数の着目位置毎に、前記伝導経路の前後にそれぞれ前記設定距離だけ離れた位置での前記伝導経路に沿う電流成分の電流波形を互いに加算し、前記細胞内電流の評価用の電流波形を生成すること
を特徴とする請求項1に記載の生体磁場計測処理装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記伝導経路上の着目位置に対して前側の位置での電流波形と、前記伝導経路上の着目位置に対して後側の位置での電流波形の符号を反転させた電流波形とを加算すること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の生体磁場計測処理装置。
【請求項4】
前記細胞内電流の評価用の電流波形の生成に使用する、前記伝導経路上の着目位置から前記伝導経路の前側の位置および後側の位置までのそれぞれの前記設定距離の入力を受け付ける入力制御部を有すること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の生体磁場計測処理装置。
【請求項5】
前記演算部が生成した電流波形を表示装置に表示させる表示制御部を有し、
前記演算部は、前記着目位置において、前記伝導経路の周囲から前記伝導経路に向かう電流成分である内向き電流の電流波形と前記細胞内電流の電流波形とを生成し、
前記表示制御部は、前記伝導経路の前記着目位置での内向き電流の電流波形および前記細胞内電流の電流波形の少なくともいずれかと、前記細胞内電流の評価用の電流波形とを前記表示装置に表示させること
を特徴とする請求項4に記載の生体磁場計測処理装置。
【請求項6】
前記表示制御部は、被検体の形態画像を前記表示装置に表示させる機能を有し、
前記入力制御部は、前記表示装置に表示された被検体の形態画像上で指定される前記伝導経路上の着目位置の入力を受け付け、
前記演算部は、前記入力制御部が受け付けた前記伝導経路上の着目位置に仮想電極を設定し、前記入力制御部が受け付けた前記伝導経路上の着目位置から前記伝導経路の前側および後側にそれぞれの距離で示される位置に、前記細胞内電流の評価用の電流波形の生成に使用する前記細胞内電流を抽出する仮想電極をそれぞれ設定すること
を特徴とする請求項5に記載の生体磁場計測処理装置。
【請求項7】
生体磁場信号を計測する磁場計測装置と、表示装置と、生体磁場計測処理装置とを有し、
前記生体磁場計測処理装置は、
生体磁場信号に基づいて算出された電流信号から抽出された電流成分に基づいて、評価対象の生体組織の活動電流の伝導経路上の着目位置に対して前記伝導経路の前後のそれぞれに予め設定された設定距離だけ離れた位置での前記伝導経路に沿う電流成分の電流波形を互いに加算し、前記伝導経路内を流れる細胞内電流の評価用の電流波形を生成する演算部を有すること
を特徴とする生体磁場計測システム。
【請求項8】
演算部を有する生体磁場計測処理装置の制御方法であって、
前記演算部が、生体磁場信号に基づいて算出された電流信号から抽出された電流成分に基づいて、評価対象の生体組織の活動電流の伝導経路上の着目位置に対して前記伝導経路の前後のそれぞれに予め設定された設定距離だけ離れた位置での前記伝導経路に沿う電流成分の電流波形を互いに加算し、前記伝導経路内を流れる細胞内電流の評価用の電流波形を生成すること
を特徴とする生体磁場計測処理装置の制御方法。
【請求項9】
演算部を有する生体磁場計測処理装置の制御プログラムであって、
前記演算部が、生体磁場信号に基づいて算出された電流信号から抽出された電流成分に基づいて、評価対象の生体組織の活動電流の伝導経路上の着目位置に対して前記伝導経路の前後のそれぞれに予め設定された設定距離だけ離れた位置での前記伝導経路に沿う電流成分の電流波形を互いに加算し、前記伝導経路内を流れる細胞内電流の評価用の電流波形を生成する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする生体磁場計測処理装置の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体磁場計測処理装置、生体磁場計測システム、生体磁場計測処理装置の制御方法および生体磁場計測処理装置の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、生体磁場計測処理装置は、磁場計測装置による生体磁場の計測で得られた磁場データに基づいて、空間フィルター法等により被検体の体内での電流分布を推定する。そして、生体磁場計測処理装置は、推定した電流分布に基づいて、例えば、対象とする被検体の生体組織の計測部位を写した形態画像において、対象とする生体組織の活動電流の伝導に沿って配置された複数の仮想電極上での電流波形を生成し、生成した電流波形を表示装置に表示する。これにより、体内の任意の位置での電気活動が可視化可能になる。ここで、生体組織とは、例えば、神経軸索、骨格筋、心筋または平滑筋を指す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
脱分極により発生する活動電流は、ある生体組織内を流れる細胞内電流と、該生体組織外を流れる体積電流に大別できる。体積電流の中でも特に脱分極に向かって流れる電流を内向き電流と呼ぶ。なお、対象とする生体組織の活動は、脱分極部から特定の組織の細胞内に沿って相反する方向に電流が流れ、脱分極点が伝導する。脱分極点が伝導する方向を前側、その反対側を後側と呼称する。内向き電流は、例えば、関節部においては、骨など非伝導体の影響を受けて、適切に算出できないことがある。この場合、抽出した内向き電流から生成される内向き電流波形の形状が崩れてしまう。通常、生体組織の詳細な機能の評価は、内向き電流波形を用いて行われる。このため、内向き電流が適切に算出できない場合、対象とする生体組織の機能評価を適切に行うことが困難になる。
【0004】
開示の技術は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、内向き電流が適切に算出できない場合にも内向き電流と等価な電流を算出することで、対象とする生体組織の活動を適切に評価可能な電流波形を生成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記技術的課題を解決するため、本発明の一形態の生体磁場計測処理装置は、生体磁場信号に基づいて算出された電流信号から抽出された電流成分に基づいて、評価対象の生体組織の活動電流の伝導経路上の着目位置に対して前記伝導経路の前後のそれぞれに予め設定された設定距離だけ離れた位置での前記伝導経路に沿う電流成分の電流波形を互いに加算し、前記伝導経路内を流れる細胞内電流の評価用の電流波形を生成する演算部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
内向き電流が適切に算出できない場合にも内向き電流と等価な電流を算出することで、対象とする生体組織の活動を適切に評価可能な電流波形を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態に係る生体磁場計測処理装置を含む生体磁場計測システムの一例を示すブロック図である。
【
図2】生体組織の活動電流のモデルの一例を示す説明図である。
【
図3】
図1の仮想電極生成部により生成される仮想電極での電流強度の算出方法の一例を示す説明図である。
【
図4】被検体(健常者)の左手首に電気刺激を印加したときの左腕の尺骨神経での各種電流波形の例を示す説明図である。
【
図5】各第1仮想電極に対する後側位置と前側位置とで算出される軸索内電流の電流波形から軸索内加算電流の電流波形を生成する例を示す説明図である。
【
図6】
図4に示した内向き電流と軸索内加算電流との電流波形を示す拡大図である。
【
図7】被検体(患者)の右手首に電気刺激を印加したときの右腕の尺骨神経での各種電流波形の例を示す説明図である。
【
図8】
図7に示した内向き電流と軸索内加算電流との電流波形を示す拡大図である。
【
図9】健常者の左手関節部で尺骨神経に刺激を印加したときの左肘部での内向き電流波形と軸索内加算電流波形の例を示す図である。
【
図10】5名の健常者の臨床実験の結果を示す図である。
【
図11】
図1の演算部の動作の一例を示すフロー図である。
【
図14】
図1のデータ処理装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して実施の形態の説明を行う。なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る生体磁場計測処理装置を含む生体磁場計測システムの一例を示すブロック図である。
図1に示す生体磁場計測システム100は、磁場計測装置10、神経刺激装置20、X線撮影装置30、マウス40a、キーボード40b、表示装置40cおよび生体磁場計測処理装置として機能するデータ処理装置50を有する。
【0010】
例えば、磁場計測装置10は、複数の超伝導量子干渉素子(SQUID:Superconducting QUantum Interference Device)を含むSQUIDセンサアレイと信号処理装置とを有する。磁場計測装置10は、神経刺激装置20による電気刺激により被検体Pの評価対象の生体組織に誘発された生体磁場を計測可能である。
【0011】
例えば、磁場計測装置10は、脊磁計(MSG:Magnetospinograph)または筋磁計(MMG:Magnetomyograph)として使用される。なお、磁場計測装置10は、脳磁計(MEG:Magnetoencephalograph)または心磁計(MCG:Magnetocardiograph)として使用可能である。以下では、超伝導量子干渉素子をSQUIDとも称する。
【0012】
神経刺激装置20は、被検体Pの体表(皮膚)に設置される電極を介して被検体Pの生体組織を電気的に刺激する。X線撮影装置30は、被検体Pにおいて生体磁場の計測対象部位の形態画像を撮影する。ここで、計測対象部位は、
図2に示す脱分極点より特定の組織の細胞内に沿って相反する方向に電流が流れ、脱分極点が伝導する部位である。特定の組織とは、例えば、神経軸索、骨格筋、心筋または平滑筋である。なお、被検体Pの筋に誘発された生体磁場を計測する場合、X線撮影装置30の代わりにMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置またはCT(Computed Tomography)装置が使用されてもよい。あるいは、X線撮影装置30と図示しないMRI装置とCT装置との複数を使用して被検体Pの形態画像が撮影されてもよい。
【0013】
データ処理装置50は、神経刺激装置20による生体への電気刺激のタイミング等を制御する機能と、磁場計測装置10が計測した生体磁場等の生体情報の情報処理を実行する機能とを有する。また、データ処理装置50は、X線撮影装置30による被検体PのX線画像の撮影を制御する機能を有する。データ処理装置50は、マウス40aおよびキーボード40b等の入出力装置からの入力を受け付ける機能を有する。
【0014】
さらに、データ処理装置50は、磁場計測装置10が計測した磁場に応じて発生する電流の向きをX線画像に重畳させて表示装置40cに表示する機能を有する。データ処理装置50は、表示装置40cに表示された画像に対して、マウス40aを操作する操作者により指示される連続する複数の位置(仮想電極)での電流値の時間変化を計算する機能を有する。
【0015】
例えば、操作者は、マウス40aを使用して、表示装置40cの画面に表示されるX線画像により認識される生体組織の活動電流の伝導経路に沿って複数の位置を入力する。データ処理装置50は、例えば、入力された複数の位置に基づいて生体組織に沿うベジェ曲線等の曲線を生成し、予め設定された設定値に基づいて、曲線に沿って複数の仮想電極を生成する機能を有する。さらに、データ処理装置50は、各仮想電極での電流波形を表示装置40cに表示させる機能を有する。
【0016】
データ処理装置50は、入力制御部510、演算部520、表示制御部530、記憶部540および計測制御部550を有する。例えば、入力制御部510、演算部520および表示制御部530の機能は、データ処理装置50に搭載されるCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサが実行する制御プログラムにより実現される。
【0017】
なお、入力制御部510、演算部520、表示制御部530および計測制御部550は、FPGA等のハードウェアにより実現されてもよく、ソフトウェアとハードウェアとの組み合わせにより実現されてもよい。
【0018】
例えば、記憶部540は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)およびフラッシュメモリ等の半導体記憶装置の少なくともいずれかにより実現される。なお、記憶部540は、半導体記憶装置とHDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)を含んで実現されてもよい。
【0019】
入力制御部510は、位置入力部511、波形領域指定部512および波形選択部513を有する。演算部520は、経路生成部521、仮想電極生成部522、再構成解析部523、電流抽出部524および波形演算部525を有する。表示制御部530は、画像表示部531および波形表示部532を有する。記憶部540には、生体磁場信号データ541、形態画像データ542、波形データ543および解析設定値544等を記憶する記憶領域が割り当てられる。
【0020】
入力制御部510は、磁場計測装置10の操作者によるマウス40aおよびキーボード40b等の操作を受け付ける。マウス40aおよびキーボード40b等の操作による情報の入力は、外部入力の一例である。また、入力制御部510は、磁場計測装置10が計測した生体磁場信号をデータとして入力し、入力したデータを記憶部540に格納する。入力制御部510は、X線撮影装置30で撮影されたX線画像データを入力し、入力したデータを記憶部540に格納する。
【0021】
位置入力部511は、表示装置40cの画面に表示されるX線画像等の形態画像上において、生体磁場を評価する生体組織の位置を受け付ける。位置入力部511が受け付けた位置情報は、解析設定値544として記憶部540に格納される。
【0022】
位置入力部511は、生体組織の活動電流の経路上に設定された複数の仮想電極のいずれかから生体組織の活動電流の経路上の後側と前側とのそれぞれの所定位置までの距離(第1距離および第2距離)を受け付ける。生体組織の活動電流の経路上の後側は、前側および後側の一方の一例であり、生体組織の活動電流の経路上の前側は、前側および後側の他方の一例である。第1距離および第2距離は、予め設定された設定距離の一例であり、例えば、キーボードのテンキーから入力されることで受け付けられる。なお、適切な第1距離および第2距離を算出するために学習されたAI(Artificial Intelligence)に、医師等の評価者が距離を入力し、AIにより第1距離および第2距離が求められてもよい。この場合、位置入力部511は、AIにより求められた第1距離および第2距離を自動的に受け付けてもよい。さらに、AIにより求められた第1距離および第2距離を、診断支援のための参考値として表示装置40cに表示することで、医師等の評価者に提示されてもよい。
【0023】
波形領域指定部512は、仮想電極上での電流波形を表示装置40cに表示する時間範囲を受け付ける。波形選択部513は、マウス40aおよびキーボード40b等の操作に基づいて、表示装置40cに表示させる電流波形を選択可能である。さらに、波形選択部513は、マウス40aおよびキーボード40b等の操作に基づいて、表示装置40cに表示された電流波形のうち、重畳して表示させる電流波形を選択可能である。
【0024】
経路生成部521は、位置入力部511から入力された、形態画像上での生体組織の位置を示す位置情報に基づいて、生体組織の経路を算出する。以下では、経路生成部521により算出された生体組織の活動電流の経路は、活動電流の伝導経路とも称される。ここで、経路生成部521により算出された活動電流の伝導経路は、例えば、複数の座標情報または曲線を示す式等により表され、解析設定値544として記憶部540に記憶される。
【0025】
仮想電極生成部522は、経路生成部521が算出した活動電流の伝導経路上に、例えば、等間隔に複数の第1仮想電極を生成する。第1仮想電極の位置は、活動電流の伝導経路上の着目位置の一例である。なお、第1仮想電極は、ユーザ設定に応じて生体組織走行上の任意の位置に設定可能である。この場合、活動電流の伝導経路上の着目位置は、活動電流の伝導経路上の任意の位置に設定可能である。さらに、仮想電極生成部522は、各第1仮想電極において生体組織の活動電流の伝導方向の両側の直交方向に、第1仮想電極から所定距離だけ離れた第2仮想電極を生成する。
【0026】
活動電流の伝導経路上に生成される第1仮想電極の数および間隔、第1仮想電極から第2仮想電極までの距離は、マウス40aまたはキーボード40b等を介して操作者により予め入力される。そして、第1仮想電極および第2仮想電極の位置情報は、入力制御部510により解析設定値544として記憶部540に記憶される。以下では、第1仮想電極と第2仮想電極とを区別なく説明する場合、単に仮想電極と称する。
【0027】
再構成解析部523は、磁場計測装置10による生体磁場の計測により得られた被検体Pの生体磁場データ(生体磁場信号)を使用して、所定の間隔を置いてマトリックス状に配置されるボクセル毎に電流成分(電流信号)を再構成する。すなわち、再構成解析部523は、生体磁場信号に基づいて電流信号を算出する。ボクセルについては、
図3で説明される。
【0028】
電流抽出部524は、各仮想電極とボクセルとの位置関係に基づいて、再構成解析部523により算出されたボクセルでの電流成分を使用して各仮想電極の電流成分を抽出する。例えば、電流抽出部524は、波形領域指定部512で受け付けた時間範囲において、神経走行に沿う第1仮想電極での電流成分(例えば、前側を正、後側を負とする)を、神経走行における生体組織を伝導する細胞内電流として抽出する。また、電流抽出部524は、波形領域指定部512で受け付けた時間範囲において、生体組織の周囲に位置する第2仮想電極から生体組織に向かう電流成分を内向き電流として抽出する。
【0029】
さらに、電流抽出部524は、各第1仮想電極から生体組織上の後側と前側とのそれぞれに第1距離および第2距離だけ離れた位置での電流成分を細胞内電流として抽出する。以下では、各第1仮想電極から神経上の後側に第1距離だけ離れた位置を後側位置と称し、各第1仮想電極から神経上の前側に第2距離だけ離れた位置を前側位置と称する。
【0030】
波形演算部525は、電流抽出部524により抽出された第1仮想電極での細胞内電流の時間変化を示す電流波形を生成する。また、波形演算部525は、電流抽出部524により抽出された第2仮想電極での内向き電流の時間変化を示す電流波形を生成する。生体組織外を流れる体積電流のうち、脱分極点に流入する電流成分である内向き電流は、神経機能を評価する上で重要である。
【0031】
さらに、波形演算部525は、後側位置および前側位置での細胞内電流の時間変化を示す電流波形を生成する。波形演算部525は、後側位置での電流波形の正負を反転し、反転した電流波形と前側位置での電流波形とを加算して細胞内加算電流波形を生成する。
【0032】
画像表示部531は、後述する
図4および
図7に示すように、再構成解析部523により再構成された各ボクセルでの電流の向きと強度とを表す白い小さい矢印を、形態画像(X線画像)に重畳させて表示装置40cに表示させる。また、画像表示部531は、
図4および
図6に示すように、経路生成部521により算出された神経経路と、仮想電極生成部522により生成された仮想電極とをX線画像に重畳させて表示装置40cに表示させる。
【0033】
波形表示部532は、細胞内電流の電流データ値および内向き電流の電流データ値を時間順に並べることで、仮想電極での細胞内電流および内向き電流のそれぞれの時間変化を示す電流波形を画像データとして生成する。そして、波形表示部532は、生成した仮想電極毎の電流波形を、X線画像に重畳された仮想電極に対応付けて表示装置40cに表示させる。
【0034】
さらに、波形表示部532は、重畳画像を含むX線画像、細胞内電流波形および内向き電流波形に加えて細胞内加算電流波形を表示可能である。なお、波形表示部532は、重畳画像を含むX線画像、細胞内電流波形、内向き電流波形および細胞内加算電流波形のうちの任意の画像または電流波形を、入力制御部510による受け付けに基づいて表示可能である。
【0035】
計測制御部550は、磁場計測装置10による磁場計測を制御する。なお、計測制御部550は、神経刺激装置20の動作を制御してもよく、X線撮影装置30によるX線撮影を制御してもよい。
【0036】
生体磁場信号データ541の記憶領域には、磁場計測装置10による被検体Pから発生する磁場の計測により得られた磁場データが格納される。形態画像データ542の記憶領域には、X線撮影装置30により撮影された被検体Pの磁場計測対象部位のX線画像データが格納される。波形データ543の記憶領域には、波形演算部525により生成された波形データが格納される。
【0037】
解析設定値544の記憶領域には、磁場計測装置10による生体磁場の計測に必要な各種パラメータと、生体磁場の計測により得られた磁場データに使用するフィルター(ハイパスフィルター、ローパスフィルター)等の各種設定値とが予め格納される。また、解析設定値544の記憶領域には、表示装置40cに表示する画像上における電流の算出点であるボクセルの位置および電流波形を取得する仮想電極の位置等を示す位置情報が予め格納される。さらに、解析設定値544の記憶領域には、各第1仮想電極から後側位置および前側位置までのそれぞれの生体組織上の距離である第1距離および第2距離を示す距離情報が格納される。
【0038】
図2は、生体組織の活動電流のモデルの一例を示す説明図である。
図2は、図の上下方向に直線状に走行する生体組織の活動により電流が発生する様子を示しており、
図2の刺激の伝導方向(上向き矢印)の前側が脱分極点が伝導する方向であり、
図2の後側がその反対側である。例えば、神経に電気刺激を与えることで、刺激が電流として生体組織を後側から前側に向けて伝導される。
【0039】
このとき、
図2の前側に向けて流れる細胞内電流および
図2の後側に向けて流れる細胞内電流と、生体組織外を流れ、脱分極点に帰ってくる電流成分である体積電流とが発生する。
図2の前側に向けて流れる細胞内電流は、リーディング成分と称され、
図2の後側に向けて流れる細胞内電流は、トレイリング成分と称される。
【0040】
神経機能を詳細に評価するために、例えば、電流抽出部524は、ボクセル毎に再構成された電流成分に基づいて、生体組織に沿って流れる細胞内電流の電流成分と脱分極点に流入する内向き電流の電流成分とを抽出する。細胞内電流は、神経走行に沿った方向の電流成分であり、内向き電流は、生体組織の周囲から生体組織に向かう電流成分である。例えば、内向き電流は、生体組織の横断面方向に沿って生体組織に向かう電流成分である。
【0041】
ここで、生体組織の活動電流にも電荷の保存則が成り立つ。このため、生体組織に流入する内向き電流の総量は、生体組織内を流れる細胞内電流の総量と等しい。したがって、脱分極点から後側に所定距離だけ離れた位置での細胞内電流と、脱分極点から前側に所定距離だけ離れた位置での細胞内電流とを加算することで、脱分極点に向かう内向き電流のふるまいを表現することができる。
【0042】
図3は、
図1の仮想電極生成部522により生成される仮想電極での電流強度の算出方法の一例を示す説明図である。
図3では、線形補間の手法により、マトリックス状に配置されたボクセル上で再構成された電流の強度から仮想電極の電流強度が算出される。この操作により仮想電極のX方向、Y方向、Z方向での電流の推定強度を算出することができる。
【0043】
なお、
図3では、説明を分かりやすくするため、ボクセルの間隔と仮想電極の間隔とを同程度にしているが、実際には、仮想電極の間隔は、ボクセルの間隔の数倍でもよく、任意に設定可能である。また、例えば、SQUID磁気センサが数cm間隔で配置されるのに対して、ボクセルは数mm間隔で配置される。
【0044】
なお、仮想電極での電流強度は、本発明者等により検討されたRENS(REcursive Null Steering)フィルターを用いる手法を使用して算出されてもよい。この場合、各仮想電極での電流強度を線形補間法で算出する場合に比べて、短時間で精度よく算出することができる。
【0045】
図4は、被検体(健常者)の左手首に電気刺激を印加したときの左腕の尺骨神経での各種電流波形の例を示す図である。
図4は、
図1の表示装置40cに表示される画像の一例を示す。
図4の左側には、被検体Pの左腕部のX線画像に神経走行路、第1仮想電極および第2仮想電極を重ね合わせた重畳画像が示される。神経走行路は、生体組織の活動電流の伝導経路の一例である。重畳画像には、マトリックス状に配置されたボクセルでの電流の向きと強度とを表す白い小さい矢印も含まれる。また、重畳画像には、同じ電流強度の位置を示す電流強度分布線(等高線状の曲線)が含まれる。電流強度分布線は、色が白いほど電流が強いことを示し、色が黒いほど電流が弱いことを示す。
【0046】
図4では、第1仮想電極は、丸印で示され、第2仮想電極は、X印で示される。第2仮想電極は、神経軸索(各第1仮想電極)の横断面方向に配置される。このため、各第2仮想電極の電流成分に基づいて神経軸索の横断面方向に沿う内向き電流の電流波形を生成することができる。
【0047】
符号Ltは、表示装置40cに表示される重畳画像の左側に位置する第2仮想電極の列を示す。符号Rtは、表示装置40cに表示される重畳画像に対して右側に位置する第2仮想電極の列を示す。列Rtの仮想電極に付した0から8までの数値は、電流波形との対応付けを示す電極番号を示す。列Ltの第2仮想電極の電極番号および第1仮想電極の電極番号は、列Rtにおいて対応する第2仮想電極の電極番号と同じである。重畳画像中に付した符号(A)、(B)は、
図5の符号(A)、(B)に示す神経軸索上の後側位置と前側位置とをそれぞれ示す。
【0048】
X線画像の左右両側にそれぞれ写っているケーブルに接続された端子は、X線画像(形態画像)とSQUID磁気センサによる磁場データの計測位置とを対応付けるために被検体Pとともに撮影される電極である。X線画像において尺骨神経に沿って間隔を置いて配置される白丸(第1仮想電極の丸印より大きい白丸)は、参考用に設置された電位の計測用の電極を示す。
【0049】
図4の右側には、各第1仮想電極での軸索内電流の電流波形と、符号Ltで示す各第2仮想電極での電流波形と、後側位置(A)および前側位置(B)での軸索内電流を加算した軸索内加算電流の電流波形とが示される。軸索内電流は、神経を対象の生体組織とした場合の細胞内電流の一例であり、軸索内加算電流は、細胞内加算電流の一例である。軸索内加算電流の電流波形は、細胞内電流の評価用の電流波形の一例である。重畳画像の隣に示す軸索内電流は、
図2に示した前側に向けて流れる軸索内電流および
図2の後側に向けて流れる軸索内電流の電流成分を両方含む。
【0050】
各第2仮想電極の電流波形は、神経軸索に伝導する内向き電流の時間変化を示す。軸索内加算電流の電流波形の生成方法については、
図5で説明される。電流波形の3つのグラフの右下に示す数値(この例では、10nAm)は、電流双極子(強度)を示す。
【0051】
図5は、各第1仮想電極に対する後側位置と前側位置とで算出される軸索内電流の電流波形から軸索内加算電流の電流波形を生成する例を示す説明図である。
図5に示す例では、後側位置(例えば(A))は、各第1仮想電極から尺骨神経の後側に25mm離れた位置に設定される。前側位置(例えば(B))は、各第1仮想電極から尺骨神経の前側に30mm離れた位置に設定される。後側位置および前側位置は、表示装置40cに表示される軸索内電流の電流波形を観察する神経機能の評価する医師等の評価者により設定される。
【0052】
例えば、評価者は、形態画像において尺骨神経上に設定された複数の第1仮想電極のうちのいずれかである着目第1仮想電極の着目軸索内電流波形から、着目軸索内電流波形の電流値がゼロになるクロス点に波形のピークを有する他の軸索内電流波形を推定する。他の軸索内電流波形は、着目第1仮想電極に対する後側位置と前側位置とでそれぞれ算出される軸索内電流の電流波形である。
【0053】
そして、評価者は、推定した軸索内電流波形が得られる後側位置と前側位置との着目第1仮想電極からの距離(この例では、第1距離=25mm、第2距離=30mm)をキーボード40b等を使用して入力する。これにより、評価者は、自らの知見に基づいて、適切な軸索内加算電流波形が得られる後側位置および前側位置を設定することができる。なお、後側位置および前側位置までの距離は、第1仮想電極毎に設定されてもよい。
【0054】
電流抽出部524は、各第1仮想電極から第1距離だけ離れた後側位置での後行する軸索内電流の電流成分と、各第1仮想電極から第2距離だけ離れた前側位置での先行する軸索内電流の電流成分とを抽出する。波形演算部525は、電流抽出部524により抽出された後側位置での軸索内加算電流に基づいて後側位置での電流波形を生成する。また、波形演算部525は、電流抽出部524により抽出された前側位置での軸索内加算電流に基づいて前側位置での電流波形を生成する。
【0055】
また、波形演算部525は、生成した後側位置での電流波形の正負を反転することで、前側位置での電流波形と後側位置での電流波形との符号を揃える。そして、波形演算部525は、正負を反転した電流波形と前側位置での電流波形とを加算して軸索内加算電流波形を生成する。後側位置での電流波形の正負を反転した後に、前側位置での電流波形と加算することで、電流値が相殺されることを抑止することができ、所望の電流波形が生成されないことを抑止することができる。なお、後側位置での電流波形と前側位置での電流波形とは、表示装置40cに表示されてもよい。
【0056】
軸索内加算電流波形は、軸索内電流の総量に対応し、着目する第1仮想電極に向かう内向き電流の総量と等しい。すなわち、軸索内加算電流波形は、内向き電流相当の波形を示し、脱分極点への内向き電流の振る舞いを示す。波形表示部532は、波形演算部525により生成された軸索内加算電流波形を、神経軸索上の各仮想電極に対応付けて表示装置40cに表示させる。
【0057】
なお、例えば、電極番号0の第1仮想電極の後側位置は、ボクセルの配置領域から外れた位置にある。同様に、電極番号8の第1仮想電極の前側位置は、ボクセルの配置領域から外れた位置にある。このため、電流抽出部524は、電極番号0の第1仮想電極の後側位置での電流成分を正しく抽出できず、電極番号8の第1仮想電極の前側位置での電流成分を正しく抽出できない。この場合、波形演算部525は、電極番号0、8の第1仮想電極に対応する軸索内加算電流波形を生成しない。したがって、電極番号0、8の第1仮想電極に対応する軸索内加算電流波形は生成されない。
【0058】
図6は、
図4に示した内向き電流と軸索内加算電流との電流波形を示す拡大図である。
図4および
図6は、健常者の磁場計測に基づいて得られた電流波形が示されるが、例えば、電極番号3、4の内向き電流波形において、ピーク潜時から算出される神経活動電流の伝導速度(27.4m/s)は、他の内向き電流波形の伝導速度よりも低くなっている。ここで、ピーク潜時は、末梢神経等に電気刺激を与えてから電流波形にピークが現れるまでの時間である。
【0059】
これに対して、軸索内加算電流の電流波形では、電極番号3、4間の伝導速度(74.4m/s)は、神経生理学的に妥当な値である。したがって、例えば、肘部管などの骨と骨の間の狭い部分を通る尺骨神経の部位での内向き電流の電流波形が適切に生成できない場合にも、内向き電流波形に代わる軸索内加算電流の電流波形を使用して、神経機能を適切に評価することが可能になる。
【0060】
図7は、被検体(患者)の右手首に電気刺激を印加したときの右腕の尺骨神経での各種電流波形の例を示す説明図である。
図4と同様の要素については、詳細な説明は省略する。
図7は、
図1の表示装置40cに表示される画像の一例を示す。
図7においても、表示装置40cには、X線画像を含む重畳画像と、各第1仮想電極での軸索内電流の電流波形と、各第2仮想電極(Rt)での電流波形と、軸索内加算電流の電流波形とが表示される。
【0061】
図8は、
図7に示した内向き電流と軸索内加算電流との電流波形を示す拡大図である。
図6と同様の要素については、詳細な説明は省略する。
図8に示す内向き電流(Rt)の電流波形は、ピーク位置がはっきりしないものがあるため、伝導速度のばらつきが大きい。このため、障害部位の特定は困難である。
【0062】
一方、軸索内加算電流の電流波形では、ピーク位置がはっきりしており、伝導速度を適切に算出することができる。したがって、医師等の評価者は、軸索内加算電流の電流波形を観察することで、神経機能を適切に評価することができ、障害部位を特定しやすくなる。例えば、軸索内加算電流の電流波形では、内向き電流の電流波形では判定できない、電極番号0、1間および電極番号2、3間の伝導速度の低下を判定することができ、障害部位の特定を容易であることが分かる。
【0063】
発明が解決しようとする課題で述べたように、関節部においては、骨などの非伝導体の影響を受けて内向き電流を適切に算出できない場合がある。関節部の非伝導体の配置は、関節の屈曲角度により変化する。そこで、本発明者らは、軸索内加算電流の電流波形に基づいて正しい伝導速度を算出できる屈曲角度がどの程度であるかを、臨床実験により確認した。
【0064】
臨床実験は、5名の健常者(被検者)の手関節部で尺骨神経を刺激し、誘発された神経磁界を肘部で計測することで行われた。計測時の肘部の屈曲角度は、30°、60°および90°にそれぞれ設定された。ここで、肘部の屈曲角度は、数値が小さいほど肘部が伸びていることを示し、数値が大きいほど肘部が曲がっていることを示す。なお、5名の被検者の肘部での伝導速度が正常であることは、電位計測法により事前に確認されている。
【0065】
臨床実験では、
図1のデータ処理装置50を使用して、計測された磁場データに空間フィルター法を適用して神経活動電流を可視化した。そして、神経活動電流の伝導路に沿って20mm間隔で設定された第1仮想電極と、各第1仮想電極に対応して設定された第2仮想電極とを使用して、
図4と同様に、軸索内電流波形と内向き電流波形とを算出した。さらに、
図5に示した手法と同様にして、第1距離を30mm、第2距離を30mmに設定して、データ処理装置50により軸索内加算電流の電流波形を算出した。
【0066】
図9は、健常者の左手関節部で尺骨神経に刺激を印加したときの左肘部での内向き電流波形と軸索内加算電流波形の例を示す図である。
図9に示す例では、肘部の屈曲角度は、90°である。そして、得られた内向き電流波形と軸索内加算電流波形とのピーク潜時に基づいて、内側上顆遠位部D(Distal)、内側上顆部ME(Medial)および内側上顆近位部P(Proximal)における神経活動電流の伝導速度を比較した。ここで、内側上顆遠位部Dは、電極番号2、3の間に位置し、内側上顆部MEは、電極番号3、4の間に位置し、内側上顆近位部Pは、電極番号4、5の間に位置する。
【0067】
内側上顆遠位部D、内側上顆部MEおよび内側上顆近位部Pのそれぞれの神経活動電流の伝導速度は、内向き電流波形(従来手法)では、P:42m/s、ME:33m/s、D:136m/sであった。軸索内加算電流波形(本手法)では、P:52m/s、ME:55m/s、D:63m/sであった。なお、神経活動電流の伝導速度の正常範囲は、一般的に40m/sから80m/sの間であることが知られている。このため、
図9に示す例の内向き電流(従来手法に相当)では異常値を示しているが、本手法を適用することで、正常値になることが分かった。
【0068】
図10は、5名の健常者の臨床実験の結果を示す図である。内向き電流波形のピーク潜時を基準に伝導速度を算出する従来手法では、正常値を示す比率は42%である。これに対して、軸索内加算電流のピーク潜時を基準に伝導速度を算出する本手法では、正常値を示す比率は91%であり、健常な被検者の肘部での神経活動をより正確に反映していると考えられる。
【0069】
図9および
図10に示す臨床実験の結果から、3通りの屈曲角度(30°、60°、90°)について、軸索内加算電流波形が、被検者の神経活動を正確に反映していることが確認された。これにより、30°から90°の範囲での任意の屈曲角度においても、軸索内加算電流波形は、被検者の神経活動を正確に反映できると考えられる。すなわち、軸索内加算電流のピーク潜時を基準に伝導速度を算出する本手法では、屈曲角度によって肘関節部の非伝導体の配置が変わっても、正しい伝導速度を算出することができる。
【0070】
さらに、軸索内加算電流波形を算出する本手法の原理は、屈曲角度によらないため、屈曲角度が30°未満、若しくは90°を超える場合にも、軸索内加算電流波形は、被検者の神経活動を正確に反映できると考えられる。
【0071】
図11から
図13は、
図1の演算部520の動作の一例を示すフロー図である。
図11から
図13に示すフローは、生体磁場計測処理装置として機能するデータ処理装置50の制御方法の一例を示し、データ処理装置50に搭載されるCPU等のプロセッサが実行する制御プログラムによる処理の一例を示す。以下では、評価対象の生体組織が神経である場合について説明される。
【0072】
まず、ステップS10において、演算部520の経路生成部521は、位置入力部511により受け付けられた経路情報に基づいて、神経軸索の神経走行路を算出する。例えば、位置入力部511は、操作者が表示装置40cに表示された形態画像を見ながら指定した画像上の複数の位置の座標を経路情報として受け付ける。
【0073】
例えば、経路生成部521は、操作者が指定した複数の位置の座標から神経走行路に沿う曲線を生成し、画像表示部531を制御して、生成した曲線を形態画像上に重畳して表示させる。これにより、実際の神経軸索の曲線形状に合わせて神経経路を設定することができる。
【0074】
次に、ステップS12において、演算部520の仮想電極生成部522は、経路生成部521が算出した経路上(すなわち、神経走行上)に、間隔を置いて複数の第1仮想電極を配置する。なお、第1仮想電極の数および配置間隔は、マウス40aまたはキーボード40b等を介して予め入力される。次に、ステップS14において、演算部520の仮想電極生成部522は、第1仮想電極に対して神経走行路の両側に第2仮想電極をそれぞれ配置する。これにより、経路生成部521が設定した神経経路に沿う任意の位置に第1仮想電極および第2仮想電極を設定することができる。
【0075】
次に、ステップS16において、演算部520の再構成解析部523は、被検体Pの生体磁場データを使用して、ボクセル毎に電流成分を再構成する。次に、ステップS18において、演算部520の電流抽出部524は、各仮想電極とボクセルとの位置関係に基づいて、再構成解析部523により算出されたボクセルでの電流成分を使用して各仮想電極の電流成分を抽出する。例えば、電流抽出部524は、神経走行に沿う第1仮想電極での電流成分を、軸索内電流として抽出し、第2仮想電極から神経軸索上の第1仮想電極に向かう電流成分を内向き電流として抽出する。
【0076】
次に、ステップS20において、演算部520の波形演算部525は、電流抽出部524により抽出された第1仮想電極での軸索内電流および第2仮想電極での内向き電流の時間変化を示す電流波形をそれぞれ生成する。次に、ステップS22において、波形演算部525は、生成した電流波形を表示装置40cに表示させる指示を波形表示部532に出力する。これにより、
図4または
図7に示したように、軸索内電流および内向き電流の電流波形が重畳画像とともに表示装置40cの画面内の表示ウィンドウに表示される。なお、ステップS22の時点では、軸索内加算電流の電流波形は、表示されない。
【0077】
次に、
図12のステップS24において、波形演算部525は、第1距離および第2距離の指示の有無を判定する。波形演算部525は、第1距離および第2距離の指示がある場合、ステップS26を実行し、第1距離および第2距離の指示がない場合、
図11から
図13に示す処理を終了する。この場合、
図4または
図7の軸索内加算電流の電流波形は、表示されない。
【0078】
ステップS26において、波形演算部525は、第1仮想電極の電極番号0を選択する。なお、
図12から
図13の処理では、第1仮想電極が順次選択されるが、選択の順序は、
図12から
図13に示す例に限定されない。
【0079】
次に、ステップS28において、波形演算部525は、選択した電極番号の第1仮想電極に対してそれぞれ第1距離および第2距離だけ離れた後側位置および前側位置で電流成分を正しく抽出できるか否か判定する。波形演算部525は、電流成分を正しく抽出できる場合、ステップS30を実行し、波形演算部525は、電流成分を正しく抽出できない場合、
図13のステップS36を実行する。
【0080】
ステップS30において、波形演算部525は、選択した電極番号の第1仮想電極の後側位置の電流成分を抽出し、後側位置での軸索内電流の電流波形を生成する。また、波形演算部525は、生成した後側位置での軸索内電流の電流波形の符号を反転する。次に、ステップS32において、波形演算部525は、選択した電極番号の第1仮想電極の前側位置の電流成分を抽出し、前側位置での軸索内電流の電流波形を生成する。
【0081】
次に、ステップS34において、波形演算部525は、ステップS30で符号を反転した後側位置での軸索内電流の電流波形と、ステップS30で生成した前側位置での軸索内電流の電流波形とを加算し、軸索内加算電流の電流波形を生成する。
【0082】
次に、
図13のステップS36において、波形演算部525は、現在選択している電極番号を+1増加した電極番号を選択する。次に、ステップS38において、波形演算部525は、ステップS36で選択した電極番号が存在するか否かを判定する。波形演算部525は、電極番号が存在する場合、
図12のステップS28を実行し、電極番号が存在しない場合、ステップS40を実行する。
【0083】
ステップS40において、波形演算部525は、ステップS34で生成した各第1仮想電極に対応する軸索内加算電流波形を表示装置40cに表示させる指示を波形表示部532に出力する。これにより、
図4または
図7に示したように、軸索内加算電流波形が、重畳画像、軸索内電流波形および内向き電流波形とともに表示装置40cの画面内の表示ウィンドウに表示される。ステップS40の後、
図11から
図13に示す処理は終了される。
【0084】
図14は、
図1のデータ処理装置50のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。データ処理装置50は、CPU51とROM52とRAM53と外部記憶装置54とを有する。また、データ処理装置50は、入力インタフェース部55と出力インタフェース部56と入出力インタフェース部57と通信インタフェース部58とを有する。例えば、CPU51とROM52とRAM53と外部記憶装置54と入力インタフェース部55と出力インタフェース部56と入出力インタフェース部57と通信インタフェース部58とは、バスBUSを介して相互に接続される。
【0085】
CPU51は、OS(Operating System)およびアプリケーション等の各種プログラムを実行し、データ処理装置50の全体の動作を制御する。また、CPU51は、上述した制御プログラムを実行することにより生体磁場計測処理装置として機能するデータ処理装置50の制御方法を実施する。CPU51は、制御プログラムを実行するコンピュータの一例である。
【0086】
ROM52は、CPU51により実行される制御プログラムを含む各種プログラムおよび各種パラメータ等を保持する。RAM53は、CPU51により実行される各種プログラムや、プログラムで使用するデータ等を記憶する。外部記憶装置54は、HDDまたはSSD等であり、RAM53に展開される各種プログラムを記憶する。
【0087】
入力インタフェース部55には、データ処理装置50を操作する操作者等からの入力を受け付ける入力装置60が接続される。例えば、入力装置60は、
図1のマウス40a、キーボード40bまたはタブレット等である。出力インタフェース部56には、データ処理装置50が生成する各種画像、テキストまたは図形等を出力する出力装置70が接続される。例えば、出力装置70は、CPU51が実行する各種プログラムにより生成される表示画面等を表示する表示装置40c(
図1)またはプリンタ等である。
【0088】
入出力インタフェース部57には、USB(Universal Serial Bus)メモリ等の記録媒体80が接続される。例えば、記録媒体80には、CPU51が実行する制御プログラム等の各種プログラムが格納されてもよい。この場合、各種プログラムは、入出力インタフェース部57を介して記録媒体80からRAM53に転送される。なお、記録媒体80は、CD-ROMやDVD(Digital Versatile Disc:登録商標)等でもよく、この場合、入出力インタフェース部57は、接続する記録媒体80に対応するインタフェースを有する。通信インタフェース部58は、データ処理装置50をネットワーク等に接続する。
【0089】
以上、この実施形態では、例えば、肘部管などの骨と骨の間の狭い部分を通る尺骨神経の部位での内向き電流の電流波形が適切に生成できない場合にも、内向き電流波形に代わる軸索内加算電流の電流波形を使用して、神経機能を適切に評価することが可能になる。なお、骨格筋、心筋、平滑筋等の生体組織での内向き電流の電流波形が適切に生成できない場合にも、内向き電流波形に代わる細胞内加算電流の電流波形を使用して、生体組織の機能を適切に評価することが可能になる。
【0090】
複数の第1仮想電極の各々において神経経路上の前後のそれぞれに予め設定された第1距離だけ離れた位置での神経経路に沿う電流成分の電流波形を互いに加算して複数の軸索内加算電流波形が生成される。これにより、神経活動電流の伝導速度の変化を検出することができ、神経機能の評価が可能になる。後側位置での電流波形の正負を反転した後に、前側位置での電流波形と加算することで、電流値が相殺されることを抑止することができ、所望の電流波形が生成されないことを抑止することができる。
【0091】
入力制御部510により、キーボード40b等から入力される第1距離(後側位置に対応)および第2距離(前側位置に対応)を受け付けることで、評価者は、軸索内加算電流波形の生成に使用する軸索内電流の抽出位置を任意に設定することができる。すなわち、第1距離および第2距離をそれぞれ設定することができる。これにより、評価者は、自らの知見に基づいて、適切な軸索内加算電流波形が得られる後側位置および前側位置を設定することができる。
【0092】
内向き電流波形、第1仮想電極での軸索内電流波形および重畳画像の少なくともいずれかとともに軸索内加算電流波形を表示装置40cに表示することで、神経機能の評価を容易にすることが可能になる。また、表示装置40cに表示される重畳画像上で指定される神経経路上の着目位置である第1仮想電極の前側および後側に軸索内加算電流波形を生成するための仮想電極をそれぞれ設定することができる。したがって、評価者は、重畳画像上の神経経路の曲がり形状等を確認しながら第1距離および第2距離を設定することができ、軸索内加算電流波形を生成するための仮想電極を適切な位置に設定することができる。
【0093】
本発明の態様は、例えば、以下の通りである。
<1>
生体磁場信号に基づいて算出された電流信号から抽出された電流成分に基づいて、評価対象の生体組織の活動電流の伝導経路上の着目位置に対して前記伝導経路の前後のそれぞれに予め設定された設定距離だけ離れた位置での前記伝導経路に沿う電流成分の電流波形を互いに加算し、前記伝導経路内を流れる細胞内電流の評価用の電流波形を生成する演算部を有すること
を特徴とする生体磁場計測処理装置である。
<2>
前記演算部は、前記伝導経路上の複数の着目位置毎に、前記伝導経路の前後にそれぞれ前記設定距離だけ離れた位置での前記伝導経路に沿う電流成分の電流波形を互いに加算し、前記細胞内電流の評価用の電流波形を生成すること
を特徴とする前記<1>に記載の生体磁場計測処理装置である。
<3>
前記演算部は、前記伝導経路上の着目位置に対して前側の位置での電流波形と、前記伝導経路上の着目位置に対して後側の位置での電流波形の符号を反転させた電流波形とを加算すること
を特徴とする前記<1>または前記<2>に記載の生体磁場計測処理装置である。
<4>
前記細胞内電流の評価用の電流波形の生成に使用する、前記伝導経路上の着目位置から前記伝導経路の前側の位置および後側の位置までのそれぞれの前記設定距離の入力を受け付ける入力制御部を有すること
を特徴とする前記<1>ないし前記<3>のいずれか1項に記載の生体磁場計測処理装置である。
<5>
前記演算部が生成した電流波形を表示装置に表示させる表示制御部を有し、
前記演算部は、前記着目位置において、前記伝導経路の周囲から前記伝導経路に向かう電流成分である内向き電流の電流波形と前記細胞内電流の電流波形とを生成し、
前記表示制御部は、前記伝導経路の前記着目位置での内向き電流の電流波形および前記細胞内電流の電流波形の少なくともいずれかと、前記細胞内電流の評価用の電流波形とを前記表示装置に表示させること
を特徴とする前記<4>に記載の生体磁場計測処理装置である。
<6>
前記表示制御部は、被検体の形態画像を前記表示装置に表示させる機能を有し、
前記入力制御部は、前記表示装置に表示された被検体の形態画像上で指定される前記伝導経路上の着目位置の入力を受け付け、
前記演算部は、前記入力制御部が受け付けた前記伝導経路上の着目位置に仮想電極を設定し、前記入力制御部が受け付けた前記伝導経路上の着目位置から前記伝導経路の前側および後側にそれぞれの距離で示される位置に、前記細胞内電流の評価用の電流波形の生成に使用する前記細胞内電流を抽出する仮想電極をそれぞれ設定すること
を特徴とする前記<5>に記載の生体磁場計測処理装置である。
<7>
生体磁場信号を計測する磁場計測装置と、表示装置と、生体磁場計測処理装置とを有し、
前記生体磁場計測処理装置は、
生体磁場信号に基づいて算出された電流信号から抽出された電流成分に基づいて、評価対象の生体組織の活動電流の伝導経路上の着目位置に対して前記伝導経路の前後のそれぞれに予め設定された設定距離だけ離れた位置での前記伝導経路に沿う電流成分の電流波形を互いに加算し、前記伝導経路内を流れる細胞内電流の評価用の電流波形を生成する演算部を有すること
を特徴とする生体磁場計測システムである。
<8>
演算部を有する生体磁場計測処理装置の制御方法であって、
前記演算部が、生体磁場信号に基づいて算出された電流信号から抽出された電流成分に基づいて、評価対象の生体組織の活動電流の伝導経路上の着目位置に対して前記伝導経路の前後のそれぞれに予め設定された設定距離だけ離れた位置での前記伝導経路に沿う電流成分の電流波形を互いに加算し、前記伝導経路内を流れる細胞内電流の評価用の電流波形を生成すること
を特徴とする生体磁場計測処理装置の制御方法である。
<9>
演算部を有する生体磁場計測処理装置の制御プログラムであって、
前記演算部が、生体磁場信号に基づいて算出された電流信号から抽出された電流成分に基づいて、評価対象の生体組織の活動電流の伝導経路上の着目位置に対して前記伝導経路の前後のそれぞれに予め設定された設定距離だけ離れた位置での前記伝導経路に沿う電流成分の電流波形を互いに加算し、前記伝導経路内を流れる細胞内電流の評価用の電流波形を生成する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする生体磁場計測処理装置の制御プログラムである。
【0094】
以上、各実施形態に基づき本発明の説明を行ってきたが、上記実施形態に示した要件に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の主旨をそこなわない範囲で変更することができ、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0095】
10 磁場計測装置
20 神経刺激装置
30 X線撮影装置
40a マウス
40b キーボード
40c 表示装置
50 データ処理装置
51 CPU
52 ROM
53 RAM
54 外部記憶装置
55 入力インタフェース部
56 出力インタフェース部
57 入出力インタフェース部
58 通信インタフェース部
60 入力装置
70 出力装置
80 記録媒体
100 生体磁場計測システム
510 入力制御部
511 位置入力部
512 波形領域指定部
513 波形選択部
520 演算部
521 経路生成部
522 仮想電極生成部
523 再構成解析部
524 電流抽出部
525 波形演算部
530 表示制御部
531 画像表示部
532 波形表示部
540 記憶部
541 生体磁場信号データ
542 形態画像データ
543 波形データ
544 解析設定値
550 計測制御部
BUS バス
P 被検体
【先行技術文献】
【特許文献】
【0096】