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特開2023-133141ホウ化物強化アルミニウム含有ハイエントロピー合金組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133141
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】ホウ化物強化アルミニウム含有ハイエントロピー合金組成物
(51)【国際特許分類】
   C22C 30/00 20060101AFI20230914BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20230914BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230914BHJP
   C22C 1/051 20230101ALI20230914BHJP
   B22F 3/115 20060101ALI20230914BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230914BHJP
   C22F 1/16 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
C22C30/00
B22F1/05
B22F1/00 Z
C22C1/051 K
B22F3/115
C22F1/00 630D
C22F1/00 640B
C22F1/00 621
C22F1/16 Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 651B
C22F1/00 650A
C22F1/00 627
C22F1/00 613
C22F1/00 687
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023015175
(22)【出願日】2023-02-03
(31)【優先権主張番号】202211013112
(32)【優先日】2022-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(71)【出願人】
【識別番号】390041542
【氏名又は名称】ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(72)【発明者】
【氏名】ハヌム、サティシャ チッカビッコドゥ
(72)【発明者】
【氏名】ナヤック、モハンダス
(72)【発明者】
【氏名】パブラ、シュリンダー シン
(72)【発明者】
【氏名】ダサン、ビジュ
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA40
4K018AB04
4K018AB10
4K018AC01
4K018AD12
4K018BA11
4K018BA20
4K018BB04
4K018BC08
4K018EA60
4K018KA01
4K018KA12
(57)【要約】
【課題】
ホウ化物強化アルミニウム含有ハイエントロピー合金組成物
【解決手段】
組成物、該組成物で被覆された機械部品(29,50)及び機械部品(29,50)の被覆方法を提供する。本組成物は、CoNiCrAlY合金であって、CoNiCrAlY合金の3種以上の元素が等モル量で存在し、CoNiCrAlY合金の3種以上の元素の1つがアルミニウム(Al)であり、Alのモル分率が約0.20~約0.25である、CoNiCrAlY合金を含む。本組成物は、ホウ化コバルト(CoB)、ホウ化チタン(TiB)、ホウ化ジルコニウム(ZrB)、ホウ化タンタル(TaB)、ホウ化ニオブ(NiB)又はホウ化モリブデン(MoB)の1種以上を含む遷移金属ホウ化物と、高融点合金とをさらに含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CoNiCrAlY合金であって、該CoNiCrAlY合金の3種以上の元素が等モル量で存在し、該CoNiCrAlY合金の3種以上の元素の1つがアルミニウム(Al)であり、Alのモル分率が約0.20~約0.25である、CoNiCrAlY合金と、
ホウ化コバルト(CoB)、ホウ化チタン(TiB)、ホウ化ジルコニウム(ZrB)、ホウ化タンタル(TaB)、ホウ化ニオブ(NiB)又はホウ化モリブデン(MoB)の1種以上を含む遷移金属ホウ化物と、
高融点合金と
を含む組成物。
【請求項2】
前記高融点合金がモリブデンニオブ(MoNb)を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
当該組成物の総重量に基づいて、約10重量%~約70重量%のCoNiCrAlY合金と、約20重量%~約60重量%の遷移金属ホウ化物と、約0.5%~約10重量%のMoNbとを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記高融点合金がM-Mo-Cr-Si(式中、MはNi又はCoを含む。)を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
当該組成物の総重量に基づいて、約30重量%~約70重量%のCoNiCrAlY合金と、約20重量%~約40重量%の遷移金属ホウ化物と、約20重量%~約60重量%の高融点合金とを含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
当該組成物が、約0.1μm~約120μmの平均粒径を有する粉末ブレンドを含む、請求項1の組成物。
【請求項7】
当該組成物が、前記CoNiCrAlY合金の複数の粒子を含むσ相マトリックス(32)と、前記σ相マトリックス(32)中に均一に分散したラーベス相(34)であって、前記遷移金属ホウ化物の複数の粒子(22)を含むラーベス相(34)と、前記σ相マトリックス(32)中に分散したβ相(36)であって、前記高融点合金の複数の粒子を含むβ相(36)とを含む含むミクロ組織(30)を有する皮膜(12,54)を形成するように構成されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記皮膜(12,54)が、前記σ相マトリックス(32)、前記ラーベス相(34)及び前記β相(36)を含む領域(42)の上及び該領域を横断して形成された酸化アルミニウム層(40)をさらに含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記酸化アルミニウム層(40)が約20μm未満の厚さを有する、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
その表面に皮膜(12,54)を有する基材(14,52)を備える機械部品(29,50)であって、該皮膜(12,54)が、
CoNiCrAlY合金であって、該CoNiCrAlY合金の3種以上の元素が等モル量で存在し、該CoNiCrAlY合金の3種以上の元素の1つがアルミニウム(Al)であり、Alのモル分率が約0.20~約0.25である、CoNiCrAlY合金と、
ホウ化コバルト(CoB)、ホウ化チタン(TiB)、ホウ化ジルコニウム(ZrB)、ホウ化タンタル(TaB)、ホウ化ニオブ(NiB)又はホウ化モリブデン(MoB)の1種以上を含む遷移金属ホウ化物と、
高融点合金と
を含む、機械部品(29,50)。
【請求項11】
前記高融点合金がモリブデンニオブ(MoNb)を含む、請求項10に記載の機械部品(29,50)。
【請求項12】
前記組成物が、該組成物の総重量に基づいて、約10重量%~約70重量%のCoNiCrAlY合金と、約20重量%~約60重量%の遷移金属ホウ化物と、約0.5%~約10重量%のMoNbとを含む、請求項11に記載の機械部品(29,50)。
【請求項13】
前記高融点合金がM-Mo-Cr-Si(式中、MはNi又はCoを含む。)を含む、請求項10に記載の機械部品(29,50)。
【請求項14】
前記組成物が、該組成物の総重量に基づいて、約30重量%~約70重量%のCoNiCrAlY合金と、約20重量%~約40重量%の遷移金属ホウ化物と、約20重量%~約60重量%の高融点合金とを含む、請求項13に記載の機械部品(29,50)。
【請求項15】
前記組成物が、約0.1μm~約120μmの平均粒径を有する粉末ブレンドを含む、請求項10に記載の機械部品(29,50)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、組成物、該組成物で被覆された機械部品及び機械部品の被覆方法に関する。特に、本開示は、一般に、ホウ化物強化アルミニウム含有ハイエントロピー合金(B-AlHEA;boride-reinforced aluminum-containing high entropy alloy)組成物、該組成物で被覆された機械部品及び機械部品の被覆方法に関する。
【0002】
ガスタービンシステムは、燃料の形態のポテンシャルエネルギーを熱エネルギーに変換し、次いで航空機の推進、発電、流体のポンピングなどに用いるための機械エネルギーに変換する機構である。ガスタービンシステムは、圧縮された燃焼用空気を供給するための圧縮機セクションと、圧縮された燃焼用空気中で燃料を燃焼させるための燃焼器セクション、燃焼空気から熱エネルギーを抽出して回転軸の形態の機械エネルギーへと変換するタービンセクションとを含んでいる。ガスタービンの効率を向上させるための有効な手段の一つは、運転温度を高めることである。
【0003】
しかし、ガスタービンシステムに用いられる合金などの金属材料は、高いガスタービン運転温度ではそれらの熱安定性の上限に近いことがある。先進高効率燃焼ガスタービンシステムは燃焼温度が約1000℃を超えることがあり、さらに効率の高いエンジンが求め続けられていることから燃焼温度はさらに高まると予想される。「高温ガス経路」の燃焼器及びタービンセクションを構成する多くの部品、例えば燃焼器ライナー、燃焼器セクションとタービンセクションの間のトランジションダクト、タービン静翼及び動翼並びに周囲のリングセグメントは、過酷な高温燃焼ガスに直接暴露される。ガスタービンシステムの最も高温の部分では、ある金属材料はその融点を超える温度で用いられることがある。
【0004】
上述の熱応力に加えて、高温に暴露されるガスタービンシステムの上記その他の部品は、部品に機械的摩耗を引き起こしかねない機械的応力及び負荷に付されることがある。例えば、ガスタービンシステムのバケットインターロックは、遠心力及び空気力学的力によって個々のバケットがロックされたときのように、比較的高温(例えば700℃超、800℃超、900℃超など)のフレッチング運動に付されることがある。バケットインターロックは、例えばガスタービンの始動時にフラッタリングに付されることがあり、バケットインターロックに沿った機械的接触を生じかねない。
【0005】
高温作動部品(例えば、限定されるものではないが、ガスタービンシステムなどにおけるもの)に皮膜が施工されることが多々ある。例えば、遮熱コーティングとしてセラミック材料が常用される。ただし、セラミック材料は、比較的高温(例えば900℃超)で依然として不安定性を呈し、分解することがあるので、完全に望ましい遮熱コーティング保護をもたらすわけではない。
【0006】
一方、機械的耐摩耗性の向上のために用いられる皮膜、例えば市販の合金であるTribaloy(商標)T-800(商標)(Kennametal社の一員であるDeloro Stellite Holdings Corporation(米国ミズーリ州セントルイス))で形成された皮膜は、800℃を超える温度で酸化又は摩損する傾向があり、そのため800℃超の温度で作動するエンジンの特定のセクションには適さない。
【発明の概要】
【0007】
以下、幾つかの実施形態について要約する。これらの実施形態は、本開示の技術的範囲を限定するものではなく、本開示の可能な形態を簡単にまとめたものである。実際、本システム及び方法は、以下に記載する実施形態と同様のものだけでなく、それらと異なる様々な実施形態をも包含する。
【0008】
以下に挙げるすべての態様、具体例及び特徴は、技術的に可能な方法で組合せることができる。
【0009】
本開示の一態様は、CoNiCrAlY合金の3種以上の元素が等モル量で存在し、その3種以上の元素の1つがアルミニウム(Al)であり、Alのモル分率が約0.20~約0.25である、CoNiCrAlY合金と、ホウ化コバルト(CoB)、ホウ化チタン(TiB)、ホウ化ジルコニウム(ZrB)、ホウ化タンタル(TaB)、ホウ化ニオブ(NiB)又はホウ化モリブデン(MoB)の1種以上を含む遷移金属ホウ化物と、高融点合金とを含む組成物を提供する。
【0010】
本開示の別の態様は、上述の態様を包含し、高融点合金はモリブデンニオブ(MoNb)を含む。
【0011】
本開示の別の態様は、上述の態様のいずれかを包含し、組成物は、組成物の総重量に基づいて、約10重量%~約70重量%のCoNiCrAlY合金と、約20%~約60重量%の遷移金属ホウ化物と、約0.5%~約10重量%のMoNbとを含む。
【0012】
本開示の別の態様は、上述の態様のいずれかを包含し、高融点合金はM-Mo-Cr-Si(式中、MはNi又はCoを含む。)を含む。
【0013】
本開示の別の態様は、上述の態様のいずれかを包含し、組成物は、組成物の総重量に基づいて、約30重量%~約70重量%のCoNiCrAlY合金と、約20重量%~約40重量%の遷移金属ホウ化物と、約20重量%~約60重量%の高融点合金とを含む。
【0014】
本開示の別の態様は、上述の態様のいずれかを包含し、組成物は、約0.1μm~約120μmの平均粒径を有する粉末ブレンドを含む。
【0015】
本開示の別の態様は、上述の態様のいずれかを包含し、組成物は、皮膜を形成するように構成され、皮膜は、CoNiCrAlY合金の複数の粒子を含むσ相マトリックスと、σ相マトリックス中に均一に分散したラーベス相であって、遷移金属ホウ化物の複数の粒子を含むラーベス相と、σ相マトリックス中に分散したβ相であって、高融点合金の複数の粒子を含むβ相とを含むミクロ組織を有する。
【0016】
本開示の別の態様は、上述の態様のいずれかを包含し、皮膜は、σ相マトリックス、ラーベス相及びβ相を含む領域の上及び該領域中に形成された酸化アルミニウム層をさらに含む。
【0017】
本開示の別の態様は、上述の態様のいずれかを包含し、酸化アルミニウム層は約20μm未満の厚さを有する。
【0018】
本開示の別の態様は、その表面に皮膜を有する基材を備える機械部品であって、皮膜が、CoNiCrAlY合金の3種以上の元素が等モル量で存在し、その3種以上の元素の1つがアルミニウム(Al)であり、Alのモル分率が約0.20~約0.25である、CoNiCrAlY合金と、ホウ化コバルト(CoB)、ホウ化チタン(TiB)、ホウ化ジルコニウム(ZrB)、ホウ化タンタル(TaB)、ホウ化ニオブ(NiB)又はホウ化モリブデン(MoB)の1種以上を含む遷移金属ホウ化物と、高融点合金とを含む、機械部品を提供する。
【0019】
本開示の別の態様は、上述の態様を包含し、高融点合金はモリブデンニオブ(MoNb)を含む。
【0020】
本開示の別の態様は、上述の態様のいずれかを包含し、組成物は、組成物の総重量に基づいて、約10重量%~約70重量%のCoNiCrAlY合金と、約20%~約60重量%の遷移金属ホウ化物と、約0.5%~約10重量%のMoNbとを含む。
【0021】
本開示の別の態様は、上述の態様のいずれかを包含し、高融点合金はM-Mo-Cr-Si(式中、MはNi又はCoを含む。)を含む。
【0022】
本開示の別の態様は、上述の態様のいずれかを包含し、組成物は、組成物の総重量に基づいて、約30重量%~約70重量%のCoNiCrAlY合金と、約20重量%~約40重量%の遷移金属ホウ化物と、約20重量%~約60重量%の高融点合金とを含む。
【0023】
本開示の別の態様は、上述の態様のいずれかを包含し、組成物は、約0.1μm~約120μmの平均粒径を有する粉末ブレンドを含む。
【0024】
本開示の別の態様は、上述の態様のいずれかを包含し、皮膜は、CoNiCrAlY合金の複数の粒子を含むσ相マトリックスと、σ相マトリックス中に均一に分散したラーベス相であって、遷移金属ホウ化物の複数の粒子を含むラーベス相と、σ相マトリックス中に分散したβ相であって、高融点合金の複数の粒子を含むβ相とを含むミクロ組織を有する。
【0025】
本開示の別の態様は、上述の態様のいずれかを包含し、皮膜は、σ相マトリックス、ラーベス相及びβ相を含む領域の上及び該領域中に形成された酸化アルミニウム層をさらに含む。
【0026】
本開示の別の態様は、機械部品を被覆する方法であって、当該方法は、組成物であって、CoNiCrAlY合金の3種以上の元素が等モル量で存在し、その3種以上の元素の1つがアルミニウム(Al)であり、Alのモル分率が約0.20~約0.25である、CoNiCrAlY合金と、ホウ化コバルト(CoB)、ホウ化チタン(TiB)、ホウ化ジルコニウム(ZrB)、ホウ化タンタル(TaB)、ホウ化ニオブ(NiB)又はホウ化モリブデン(MoB)の1種以上を含む遷移金属ホウ化物と、高融点合金とを含む組成物を用意する工程と、機械部品の基材に上記組成物を施工する工程とを含む方法を提供する。
【0027】
本開示の別の態様は、上述の態様のいずれかを包含し、組成物を施工する工程は、機械部品上に皮膜を形成することを含んでおり、皮膜は、CoNiCrAlY合金の複数の粒子を含むσ相マトリックスと、σ相マトリックス中に均一に分散したラーベス相であって、遷移金属ホウ化物の複数の粒子を含むラーベス相と、σ相マトリックス中に分散したβ相であって、高融点合金の複数の粒子を含むβ相とを含む。
【0028】
本開示の別の態様は、上述の態様のいずれかを包含し、方法は、皮膜を熱処理することと、σ相マトリックス、ラーベス相及びβ相を含む領域の上及び該領域中に酸化アルミニウム層を形成することとをさらに含む。
【0029】
この発明の概要の欄に記載した態様も含めて、本開示に記載した2以上の態様を組合せて、本明細書に具体的に記載されていない実施形態としてもよい。
【0030】
1以上の実施形態の詳細を、添付の図面及び以下の説明に記載する。その他の特徴、目的及び利点は、発明の詳細な説明、図面並びに特許請求の範囲から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
本開示の上記その他の特徴については、本開示の様々な実施形態について記載する添付図面と併せて以下の詳細な説明を参照することによって理解を深めることができよう。
図1】本開示の実施形態に係る様々なB-AlHEA組成物をB-AlHEA組成物の全重量を基準にした成分の重量百分率(重量%)と共に示す表。
図2】本開示の実施形態に係るB-AlHEA組成物を形成し、かつB-AlHEA組成物から機械部品の基材上に皮膜を形成するプロセスの概略図。
図3】本開示の実施形態に係るB-AlHEA組成物から形成される皮膜のミクロ組織の概略図。
図4】本開示の実施形態に係るB-AlHEA組成物から形成された皮膜を有する機械部品の概略断面図。
図5】本開示の実施形態に係るB-AlHEAで被覆された機械部品の被覆方法の流れ図。
【0032】
なお、本開示の図面は必ずしも縮尺通りではない。図面は、本開示の典型的な態様を例示するものにすぎず、本開示の技術的範囲を限定するものではない。図面において、同様の符号は複数の図面間で同様の構成要素を表す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
まず、本開示の主題を明確に説明するため、本開示で関連する機械部品について言及及び説明する際に、用語を選択する必要がある。できるだけ、当技術分野で一般的な用語を、その通常の意味と一致するように用いる。別途記載されていない限り、かかる用語は、本願の文脈及び添付の特許請求の範囲に則して広義に解釈すべきである。ある部品について幾つかの異なる又は重複する用語を用いて言及されることが多々あることは当業者には明らかであろう。本明細書において、単一の部材として記載したものであっても、別の文脈では複数の部品からなるものとして記載することもある。或いは、本明細書のある箇所で複数の部品を含むものとして記載したものであっても、別の箇所では単一の部材として記載することもある。
【0034】
さらに、本明細書では幾つかの記述的用語を繰返し用いるが、本欄の冒頭でこれらの用語を定義しておくと有用であろう。これらの用語及びその定義は、別途明記しない限り、以下の通りである。
【0035】
本明細書で用いる用語は、特定の実施形態を説明するためのものにすぎず、開示内容を限定するものではない。本明細書において、単数形で記載したものであっても、前後関係から明らかでない限り、複数の場合も含めて意味する。「第1」、「第2」及び「第3」という用語は、ある部品を他の部品と区別するために互換的に用いられ、個々の部品の位置又は重要性を示すものではない。本明細書で用いる「備える」及び/又は「含む」という用語は、記載した特徴、整数、工程、操作、構成要素及び/又は部品が存在することを示し、他の1以上の特徴、整数、工程、操作、構成要素、部品及び/又はこれらの群の存在又は追加を除外するものではない。「任意」又は「適宜」という用語は、その用語に続いて記載された事象又は状況が起きても起きなくてもよいこと或いはその用語に続いて記載された部品又は構成要素が存在しても存在しなくてもよいことを意味し、かかる記載はその事象又は状況が起こる場合と起こらない場合並びにその部品又は構成要素が存在する場合と存在しない場合とを包含する。
【0036】
ある構成要素又は層が別の構成要素又は層「の上」、「に係合」、「に接続」又は「に結合」しているという場合、その別の構成要素又は層の直接上、に直接係合、に直接接続又はに直接結合していてもよいし、或いは介在する構成要素又は層が存在していてもよい。対照的に、ある構成要素が別の構成要素又は層「の直接上」、「に直接係合」、「に直接接続」又は「に直接結合」しているという場合、介在する構成要素又は層は存在しない。構成要素間の関係について説明するために用いられる他の用語(例えば、「~の間」と「直接~の間」、「隣接」と「直接隣接」など)も同様に解釈される。本明細書で用いる「及び/又は」という用語は、記載されたものの1以上のあらゆるすべての組合せを包含する。
【0037】
上述の通り、ガスタービンシステムはポテンシャルエネルギーを熱エネルギーに変換し、次いで機械エネルギーに変換して利用する。ガスタービンの効率を向上させることが望ましく、そのような向上はガスタービンの運転温度を高めることによって達成できる。しかし、ガスタービンに用いられる、特に高温ガス経路部品に関連する高温で用いられる金属材料は、ガスタービン運転条件でそれらの熱安定性の上限近くに達していることがある。ガスタービンの最も高温の部分では、金属材料によってはそれらの融点を超える温度に暴露されるものさえある。
【0038】
現在利用し得る解決策は、超高温(例えば、800℃超、900℃超、1000℃超、1100℃超、1200℃超、1300℃超又は1400℃超など)で作動するガスタービンシステムの特定のセクションには適さないおそれがある。例えば、Tribaloy(商標)T-800合金(商標)で被覆されたガスタービン部品が800℃を超える温度に暴露されると、T-800(商標)合金のクロム(Cr)及びコバルト(Co)元素が容易に酸化されて、Cr及び/又はCo酸化物を含む厚い酸化物スケールの層を形成する。酸化物スケールが形成され続けると、Cr及びCoの消費量が増加して、T-800(商標)のラーベス相の量の減少を招く。T-800(商標)のラーベス相はCoMoSi及びCoMoSiを含んでおり、皮膜の耐摩耗性を付与すると考えられている。酸化に伴って、T-800(商標)合金皮膜の耐摩耗性が低下してしまうおそれがある。
【0039】
本開示は、ホウ化物強化ハイエントロピー合金(B-AlHEA)を含む組成物及び該組成物から形成される皮膜を提供する。本開示の組成物及び該組成物から形成される皮膜は、超高温、例えば800℃超、900℃超、1000℃超、1100℃超、1200℃超、1300℃超又は1400℃超の温度で向上した耐酸化性及び耐摩耗性をもたらすことができる。かかる組成物及び皮膜は、タービン機械の高温ガス経路部品に有用である。
【0040】
ハイエントロピー合金(HEA)は、高温性能の向上した合金を開発するための新たなタイプの設計フレームワークを提供する。典型的なハイエントロピー合金は、等モル量/濃度の5種以上の金属を含み、主に単純固溶体(SSS)のような単相組織を含む。HEAは、混合のエントロピーが高いと、金属間化合物相の生成を抑制し、多成分単相固溶体の安定化に役立つ可能性があるという仮定に基づいて開発された。HEAは向上した高温性能をもつ潜在的可能性があるが、その設計原理/仮定の性質上、従来のHEAは、皮膜に耐摩耗性を付与するラーベス相を始めとする金属間化合物相が全く又は僅かしか存在しないおそれがある。
【0041】
本開示は、ホウ化物強化アルミニウム(Al)含有HEA(B-AlHEA)、すなわち遷移金属ホウ化物によって強化されたアルミニウム(Al)含有HEA(AlHEA)の新たな種類の組成物を提供する。本開示の組成物は、向上した高温性能、例えば向上した耐酸化性及び耐摩耗性を有することができる。ある実施形態では、B-AlHEAは、CoNiCrAlY合金であって、CoNiCrAlY合金の3種以上の元素が等モル量で存在し、その3種以上の元素の1つがAlであり、Alのモル分率が約0.20~約0.25である、CoNiCrAlY合金と、ホウ化コバルト(CoB)、ホウ化チタン(TiB)、ホウ化ジルコニウム(ZrB)、ホウ化タンタル(TaB)、ホウ化ニオブ(NiB)又はホウ化モリブデン(MoB)の1種以上を含む遷移金属ホウ化物と、高融点合金とを含む。
【0042】
本開示のB-AlHEAは、向上した耐酸化性をもたらすことができる。アルミニウム(Al)は、CoNiCrAlY合金中に等モル量でかつ比較的高いモル分率で存在する3種以上の元素の1つとして存在する(例えば、Alのモル分率は約0.20~0.25である)。機械部品をB-AlHEAで被覆して超高温環境(本開示において超高温とは、800℃超、900℃超、1000℃超、1100℃超、1200℃超、1300℃超又は1400℃超などの温度をいう。)に付すと、合金のエントロピー状態は、クロム(Cr)及び/又はコバルト(Co)酸化物の形成よりも酸化アルミニウムの形成に有利に働くであろう。換言すると、B-AlHEA組成物で形成された皮膜では、Cr及びCoなどの他の金属元素よりもAlの方が酸化され易い。得られる酸化アルミニウム(Al)層(Al酸化物層)は、保護酸化物層として作用する酸化層である。保護酸化物層は、図3について詳しく説明する通り、皮膜ミクロ組織においてAl酸化物層の下のラーベス相を含む金属間化合物相のそれ以上の破壊を防ぐ。したがって、B-AlHEAの皮膜で得られるAl酸化物層は、耐酸化性(例えば金属Cr及び/又はCoの酸化を最小限に抑制することによって)及び耐摩耗性(例えば皮膜ミクロ組織中のAl酸化物層の下のラーベス相を保護することによって)を共に向上させるという利点を与える。
【0043】
本開示のAlHEA組成物は、限定されるものではないが遷移金属ホウ化物のような添加物によって強化される。理論に束縛されるものではないが、遷移金属ホウ化物でAlHEAを強化してB-AlHEAを形成することによって、B-AlHEAのミクロ組織に導入し得る遷移金属ホウ化物の複数の粒子を含むラーベス相のような二次硬化相の量を増加させることができ、それによってB-AlHEAの超高温下での耐摩耗性がさらに向上する。ある実施形態では、遷移金属ホウ化物は、ホウ化コバルト(CoB)、ホウ化チタン(TiB)、ホウ化ジルコニウム(ZrB)、ホウ化タンタル(TaB)、ホウ化ニオブ(NiB)又はホウ化モリブデン(MoB)の1種以上を含むことができる。
【0044】
本開示のB-AlHEAは、さらに高融点合金を含むことができる。高融点合金は、B-AlHEAの他の成分との組合せによって、B-AlHEAのミクロ組織にさらに多くの硬化相を付与することができ、それによって耐摩耗性をさらに高めることができる。特定の実施形態では、高融点合金は、モリブデンニオブ(MoNb)を含むことができる。幾つかの実施形態では、高融点合金は、M-Mo-Cr-Si(式中、MはNi、Co又はそれらの組合せを含む。)を含むことができる。幾つかの実施形態では、M-Mo-Cr-Si合金は、Co-Mo-Cr-Siを含むことができる。ある実施形態では、M-Mo-Cr-Si合金はT-800(商標)を含むことができる。
【0045】
図1は、本開示で具体化される様々なB-AlHEA組成物の表である。B-AlHEA組成物は、CoNiCrAlY合金を含んでおり、CoNiCrAlY合金の3種以上の元素は等モル量で存在し、その3種以上の元素の1つはAlであって、Alのモル分率は約0.20~約0.25である。B-AlHEA組成物は、ホウ化コバルト(CoB)、ホウ化チタン(TiB)、ホウ化ジルコニウム(ZrB)、ホウ化タンタル(TaB)、ホウ化ニオブ(NiB)又はホウ化モリブデン(MoB)の1種以上を含む遷移金属ホウ化物をさらに含む。B-AlHEA組成物は、さらに高融点合金を含む。高融点合金は、モリブデンニオブ(MoNb)又はM-Mo-Cr-Si(式中、MはNi、Co又はそれらの組合せを含む。)とすることができる。幾つかの実施形態では、M-Mo-Cr-Si合金は、Co-Mo-Cr-Siを含む。ある実施形態では、M-Mo-Cr-Si合金は、T-800(商標)を含む。なお、図1の表は、特定の実施形態について説明するものにすぎず、本開示を限定するものではない。例えば、例示のためCoNiCrAlY合金の特定の重量百分率が挙げられているが、以下で詳しく開示する通り、他の実施形態ではCoNiCrAlY合金の他の重量百分率の範囲を用いることができる。さらに、例示のため図1ではCoB及びMoBを挙げたが、CoB及び/又はMoBに換えて、他の遷移金属ホウ化物、例えばホウ化チタン(TiB)、ホウ化ジルコニウム(ZrB)、ホウ化タンタル(TaB)又はホウ化ニオブ(NiB)を用いてB-AlHEA組成物の別の実施形態を構成してもよい。
【0046】
特定の実施形態では、CoNiCrAlY合金の等モル量で存在する元素は、モル比1:1:1:1:1のコバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)及びイットリウム(Y)であってもよい。ただし、本開示で用いる式CoNiCrAlYは一般式であり、元素Co:Ni:Cr:Al:Yのモル比が1:1:1:1:1である実施形態に限定されるものではない。むしろ、式CoNiCrAlYは、CoNiCrAlY合金の3種以上の元素が等モル量で存在し、その3種以上の元素の1つがAlであって、Alのモル分率が約0.20~約0.25である限り、Co:Ni:Cr:Al:Yのモル比を調整することのできる実施形態を包含する。例えば、幾つかの実施形態では、CoNiCrAlY合金の等モル量で存在する3種以上の元素はCo、Ni及びAlであって、式はCoNiCrAlであり、式中、a、b、dは同じ値であって約0.20~約0.25の範囲内にあり、a+b+c+d+e=1である。別の実施形態では、CoNiCrAlY合金の等モル量で存在する3種以上の元素は、Ni、Cr及びAlであって、式はCoNiCrAlであり、式中、b、c、dは同じ値であって約0.20~約0.25の範囲内にあり、a+b+c+d+e=1である。CoNiCrAlY合金の等モル量で存在する3種以上の元素は、Co、Cr及びAlであってもよく、式はCoNiCrAlであり、式中、a、c、dは同じ値であって約0.20~約0.25の範囲であり、a+b+c+d+e=1である。幾つかの実施形態では、CoNiCrAlY合金の等モル量で存在する3種以上の元素は、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)及びイットリウム(Y)から選択してもよく、式はCoNiCrAlAであり、式中、a、b、c、d及びeは各々約0.20である。CoNiCrAlY中のAlのモル分率は、約0.20、0.21、0.22、0.23、0.24、0.25とすることができ、ここに記載した数値のいずれか2つの数値間の範囲も包含する。
【0047】
ある実施形態では、組成物中のCoNiCrAlY合金の重量百分率は、約10%~約70%とすることができ、例えば約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約55%、約60%、約65%、約70%とすることができ、これらの数値のいずれか2つの数値間の範囲も包含する。例えば、幾つかの実施形態では、CoNiCrAlY合金は、B-AlHEA組成物の全重量に基づいて、約10重量%~約70重量%、又は約20%~約60重量%、又は約40%~約70重量%で存在し得る。
【0048】
遷移金属ホウ化物は、組成物中に約20重量%~約60重量%の割合で存在し得る。ある実施形態では、遷移金属ホウ化物は、ホウ化コバルト(CoB)、ホウ化チタン(TiB)、ホウ化ジルコニウム(ZrB)、ホウ化タンタル(TaB)、ホウ化ニオブ(NiB)又はホウ化モリブデン(MoB)の1種以上を含む。ある実施形態では、図1に非限定的な例として例示した通り、遷移金属ホウ化物は、CoB及びMoBの1種以上とすることができ、例えばCoB又はMoB又はそれらの組合せとし得る。ある実施形態では、組成物中のCoB及びMoBの1種以上の重量百分率は約20%~約60%であり、例えば約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%とすることができ、これらの数値のいずれか2つの数値間の範囲も包含する。例えば、幾つかの実施形態では、ホウ化物は、B-AlHEA組成物中に約30重量%~約50重量%又は約20重量%~約40重量%の割合で存在し得る。
【0049】
ある実施形態では、高融点合金は、MoNb又はM-Mo-Cr-Si(式中、MはNi又はCoを含む。)とすることができる。例えば、幾つかの実施形態では、高融点合金は、B-AlHEA組成物の全重量に基づいて約0.5重量%~約10重量%の割合で存在するMoNbとすることができる。ある実施形態では、組成物中のMoNbの重量%は、約0.5%、約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%とすることができ、これらの数値のいずれか2つの数値間の範囲も包含する。他の実施形態では、高融点合金はM-Mo-Cr-Si(式中、MはNi又はCoを含む。)であってもよい。例えば、幾つかの実施形態では、高融点合金は、B-AlHEA組成物中に約20重量%~約60重量%、約30%~約50重量%又は約20重量%~約40重量%の割合で存在するM-Mo-Cr-Siであってもよい。ある実施形態では、組成物中のMoNbの重量%は、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%とすることができ、これらの数値のいずれか2つの数値間の範囲も包含する。
【0050】
図1に、B-AlHEA組成物の全重量に基づく重量百分率で示す成分を含む各種B-AlHEA組成物を挙げる。例えば、図1の例1~7に例示したように、B-AlHEA組成物は、Alのモル分率が約0.20~約0.25であるCoNiCrAlY合金と、ホウ化コバルト(CoB)及びホウ化モリブデン(MoB)の1種以上と、モリブデンニオブ(MoNb)を含む高融点合金とを含む。B-AlHEA組成物は、B-AlHEA組成物の全重量に基づいて、約10重量%~約70重量%のCoNiCrAlY合金と、約20重量%~約60重量%のCoB及びMoの1種以上と、約0.5重量%~約10重量%のMoNbとを含んでいてもよい。
【0051】
例8~10に例示するように、高融点合金はM-Mo-Cr-Si(式中、MはNi又はCoを含む。)を含んでいてもよく、組成物は、組成物の総重量に基づいて、約30%~約70重量%のCoNiCrAlY合金(Alのモル分率が約0.20~約0.25であるもの)と、約20重量%~約40重量%のCoB及びMoBの1種以上と、約20重量%~約60重量%のM-Mo-Cr-Si(式中、MはNi又はCoを含む。)とを含む。
【0052】
図2は、B-AlHEA組成物18を形成し、基材14(例えば機械部品)上でB-AlHEA組成物18から形成される皮膜12を生成するプロセス10の一実施形態の概略図である。皮膜12は、基材14の耐酸化性及び機械的耐摩耗性を向上させる。基材14は、ガスタービンの部品、例えば燃焼セクションの一部、バケット、バケットインターロック或いは作動中に超高温(例えば800℃超)及び機械的接触に付されることのあるガスタービンの別の部品などとし得る。プロセス10に示す工程は、特定の実施形態を説明するためのものにすぎず、本開示の技術的範囲を限定するものではない。追加の工程を行ってもよいし、特定の工程を省略してもよく、図示した工程は、適宜、別の順序で又は並行して行ってもよいからである。
【0053】
プロセス10を開始するために、ブロック16で、B-AlHEA組成物18を形成する。B-AlHEA組成物18は、Al含有ハイエントロピー合金(AlHEA)20と遷移金属ホウ化物22と高融点合金24の混合物として形成することができる。すなわち、B-AlHEA組成物18は、AlHEA20を遷移金属ホウ化物22及び高融点合金24とブレンドすることによって形成し得る。B-AlHEA組成物は、B-AlHEA組成物の全重量に基づいて、約10重量%~約70重量%のAlHEA20と、約20重量%~約60重量%の遷移金属ホウ化物22と、約0.5重量%~約60重量%の高融点合金24とを含む混合物として形成することができる。幾つかの実施形態では、AlHEA20は、CoNiCrAlY合金を含んでおり、CoNiCrAlY合金の3種以上の元素は等モル量で存在し、その3種以上の元素の1つはAlであって、Alのモル分率は約0.20~約0.25である。遷移金属ホウ化物22は、ホウ化コバルト(CoB)、ホウ化チタン(TiB)、ホウ化ジルコニウム(ZrB)、ホウ化タンタル(TaB)、ホウ化ニオブ(NiB)又はホウ化モリブデン(MoB)の1種以上を含むことができる。特定の実施形態では、遷移金属ホウ化物22は、ホウ化コバルト(CoB)及びホウ化モリブデン(MoB)の1種以上を含む。特定の実施形態では、高融点合金は、モリブデンニオブ(MoNb)を含んでいてもよい。幾つかの実施形態では、高融点合金は、M-Mo-Cr-Si(式中、MはNi又はCoを含む。)を含んでいてもよい。幾つかの実施形態では、M-Mo-Cr-Si合金はCo-Mo-Cr-Siを含む。ある実施形態では、M-Mo-Cr-Si合金はT-800(商標)を含む。
【0054】
ある実施形態では、AlHEA20、遷移金属ホウ化物22及び/又は高融点合金24は粒子であってもよく、粒子は、粒径(例えばミクロンサイズの粒子、ナノ粒子、又はもっと粒径の大きい粒子)及び形状の分布を有し得る。例えば、ミクロンサイズの粒子は、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は95%球状であってもよく、ナノサイズの粒子は、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は95%球状であってもよい。
【0055】
B-AlHEA組成物18は、粉末形態で用意し得る。B-AlHEA組成物18の平均粒径は、限定されるものではないが、動的光散乱(DLS)、動的及び静止画像解析、ふるい分析、沈降、電気光学散乱及びレーザー回折(LD)のような現在公知の又は将来開発される粒径分析技術によって測定し得る。B-AlHEA組成物18の平均粒径が所定の平均粒径範囲よりも大きいと判明したときは、その平均粒子サイズが所定の平均粒子サイズ範囲内に収まるようにB-AlHEA組成物18をさらに処理してもよい(例えば、高エネルギーミリング(ボール/ローラー)、振動ミリング(vibro milling)など)。特定の実施形態では、所定の平均粒径範囲は約0.1μm~約120μmである。別法として、AlHEA合金20と遷移金属ホウ化物22と高融点合金24とをブレンド又は混合してB-AlHEA組成物18を形成する前に、それぞれの平均粒径が約0.1μm~約120μmの所定の平均粒径範囲内になるように、AlHEA合金20、遷移金属ホウ化物22又は高融点合金24の1種以上を前処理(例えば粉砕)してもよい。ブロック16の処理後、B-AlHEA組成物18は、約0.1μm~約120μmの平均粒径範囲を有する粉末ブレンドの形態で得ることができる。ある実施形態では、所定の平均粒径範囲は、約5μm~約70μm、又は約15μm~約45μm、又は好ましくは約25μm~約70μmである。
【0056】
B-AlHEA組成物18は、次いで、基材14の1以上の表面など、基材14上に施工又は堆積される。幾つかの実施形態では、B-AlHEA組成物18は、限定されるものではないが、溶射(例えば、プラズマ溶射、フレーム溶射、高速フレーム溶射(HVOF、HVAF))、スパッタリング、電子ビーム物理気相成長(EBPVD)などを始めとする、現在公知の又は将来開発される任意の堆積技術を用いて、基材14の1以上の表面に施工し得る。
【0057】
基材14上へのB-AlHEA組成物18の施工(例えば溶射による)によって、皮膜12が生成する。工程26で、皮膜12を熱処理(例えば加熱)する。皮膜12を熱処理すると、皮膜12内に存在するサブミクロンの結晶性金属間化合物相が(例えばB-AlHEA組成物18から)析出し、約900℃超の温度で向上した耐摩耗性をもたらす。皮膜12の熱処理は、皮膜上にAl酸化物層28を生成させることもできる。図3について詳しく説明する通り、Al酸化物層28は酸化層であり、超高温下で、皮膜12内に存在するラーベス相を含む金属間化合物相の破壊を防止する保護酸化物層として作用することができる。Al酸化物層28は、耐酸化性(例えば金属Cr及びCoの酸化を最小限に抑制することによって)及び耐摩耗性(例えば形成された皮膜12のミクロ組織中のAl酸化物層28の下のラーベス相を保護することによって)を共に向上させるという利点を与える。
【0058】
皮膜12の熱処理は、皮膜12(並びに皮膜12で被覆された基材14又は機械部品29)を、約500℃、600℃、700℃、800℃、900℃又は900℃超のような比較的高い温度に所定時間加熱することを含むことができる。特定の実施形態では、皮膜12の熱処理は、皮膜12を800℃超の温度に所定の時間加熱することを含む。所定の時間は、1時間、5時間、10時間、20時間又は20時間以上とし得る。少なくとも幾つかの事例では、皮膜12の熱処理は、上述の比較的高い温度に達することができる炉内で皮膜12を加熱することを含んでいてもよい。幾つかの実施形態では、皮膜12の熱処理は、機械(例えばガスタービン)を、その機械の皮膜で被覆された部品の1以上の表面と共に作動して、作動中にAl酸化物層28の形成を促進することを含んでいてもよい。
【0059】
ある実施形態では、機械部品29は、その表面に皮膜12を有する基材14を含む。ある実施形態では、皮膜12は、CoNiCrAlY合金を含んでおり、CoNiCrAlY合金の3種以上の元素は等モル量で存在し、CoNiCrAlY合金の3種以上の元素の1つはAlであって、Alのモル分率は約0.20~約0.25である。組成物は、ホウ化コバルト(CoB)、ホウ化チタン(TiB)、ホウ化ジルコニウム(ZrB)、ホウ化タンタル(TaB)、ホウ化ニオブ(NiB)又はホウ化モリブデン(MoB)の1種以上を含む遷移金属ホウ化物と、高融点合金とをさらに含む。皮膜12は、その上に形成されたAl酸化物層28をさらに含んでいてもよい。
【0060】
図3は、本開示で具体化されるB-AlHEA組成物18から形成された皮膜のミクロ組織30の概略図を示す。ミクロ組織30は、限定されるものではないが、走査型電子顕微鏡(SEM)、光学顕微鏡などを始めとする、現在公知の又は将来開発される任意のミクロ組織分析技術を用いて評価し得る。図3に、非限定的な実施例を示す。図3において、皮膜12(図2)のミクロ組織30は、σ(シグマ)相マトリックス32と、σ相マトリックス32中に均一に分散したラーベス(Laves)相34と、σ相マトリックス32中に分散したβ(ベータ)相36とを含むことができる。幾つかの実施形態では、σ相マトリックス32は、CoNiCrAlY合金を含んでおり、3種以上の元素は等モル量で存在し、CoNiCrAlY合金の3種以上の元素の1つはAlであって、Alのモル分率は約0.20~約0.25である。ラーベス相34は、遷移金属ホウ化物38(図2の遷移金属ホウ化物22も参照)の複数の粒子を含む。β相36は、高融点合金24(図2)の複数の粒子を含む。
【0061】
ミクロ組織30は、酸化アルミニウム層40(図2のAl酸化物層28も参照)をさらに含んでいてもよい。図2について説明した通り、Al酸化物層28,40は、皮膜12を温度(例えば800℃超)に所定時間付したときに形成し得る。Al酸化物層28,40は、σ相マトリックス32、ラーベス相34及びβ相36を含むミクロ組織30の領域42の上及び該領域42中に形成される。したがって、Al酸化物層28,40は、そのAl酸化物層28,40の下の領域42中の金属間化合物相を保護する保護層として働く。例えば、Al酸化物層28,40は、遷移金属ホウ化物22,38の複数の粒子を含むラーベス相34を保護し、もって超高温での耐摩耗性を向上させるという追加の利点をもたらす。幾つかの実施形態では、Al酸化物層28,40は、20μm未満の厚さを有する。さらに、遷移金属ホウ化物22,38は、超高温下での耐摩耗性をさらに高めることができる。
【0062】
図4は、本開示に係る皮膜54を表面に有する基材52を含む機械部品50(図2の機械部品29も参照)の概略断面図である。皮膜54(図2の皮膜12も参照)は、B-AlHEA組成物18(図2)から形成される。さらに、皮膜12,54は、基材52(図2の基材14も参照)上の保護層として設けることもできる。ある実施形態では、機械部品29,50は、皮膜12,54をその表面に有する基材14,52を含む。幾つかの実施形態では、皮膜12,54は、CoNiCrAlY合金であって、CoNiCrAlY合金の3種以上の元素が等モル量で存在し、その3種以上の元素の1つがAlであり、Alのモル分率が約0.20~約0.25である、CoNiCrAlY合金と、ホウ化コバルト(CoB)、ホウ化チタン(TiB)、ホウ化ジルコニウム(ZrB)、ホウ化タンタル(TaB)、ホウ化ニオブ(NiB)又はホウ化モリブデン(MoB)の1種以上を含む遷移金属ホウ化物と、高融点合金とを含む。部品50は、超高温、例えばタービンの高温ガス経路部品が遭遇する温度に付すことができる。タービンとしては、限定されるものではないが、陸用ガスタービンが挙げられる。高温ガス経路部品としては、限定されるものではないが、燃焼器ライナー、トランジションピース、タービンノズル及びタービンブレード(「タービンバケット」としても知られる)が挙げられる。
【0063】
図5は、機械部品29,50の被覆方法の流れ図である。さらに図2及び図4を参照すると、本方法は、工程S62でB-AlHEA組成物18を用意すること、工程S64で機械部品29,50の基材14,52にB-AlHEA組成物18を施工すること、及び工程S66で、基材14,52上で皮膜12,54を形成することを含む。B-AlHEA組成物18を用意する工程(工程S62)は、CoNiCrAlY合金であって、CoNiCrAlY合金の3種以上の元素が等モル量で存在し、その3種以上の元素の1つがAlであり、Alのモル分率が約0.20~約0.25である、CoNiCrAlY合金と、ホウ化コバルト(CoB)、ホウ化チタン(TiB)、ホウ化ジルコニウム(ZrB)、ホウ化タンタル(TaB)、ホウ化ニオブ(NiB)又はホウ化モリブデン(MoB)の1種以上を含む遷移金属ホウ化物と、高融点合金とを混合又はブレンドすることによって、B-AlHEA組成物18を形成することをさらに含む。B-AlHEA組成物18を形成することは、B-AlHEA組成物18の平均粒径範囲を約0.1μm~約120μmに制御することを含んでいてもよい。F-AlHEA組成物18を形成することは、CoNiCrAlY合金と遷移金属ホウ化物と高融点合金とを混合又はブレンドする前に、それぞれの平均粒径が約0.1μm~約120μmの好ましい平均粒径範囲に収まるように、適宜、それらの1種以上の粒子を調整(例えば粉砕)することを含んでいてもよい。特定の実施形態では、B-AlHEA組成物18は、約0.1μm~約120μmの平均粒径を有する粉末ブレンドの形態で形成される。ある実施形態では、平均粒径範囲は、約5μm~約70μm、又は約15μm~約45μm、又は好ましくは約25μm~約70μmである。
【0064】
図2及び図5をさらに参照すると、基材14,52にB-AlHEA組成物18を施工する工程(工程S64)は、限定されるものではないが、溶射(例えば、プラズマ溶射、フレーム溶射、高速フレーム溶射(HVOF、HVAF))、スパッタリング、電子ビーム物理気相成長(EBPVD)又はこれらの組合せを始めとする、現在公知の又は将来開発される堆積技術を用いて、基材14,52の1以上の表面にB-AlHEA組成物18を施工又は堆積することを含むことができる。
【0065】
基材14,52上にB-AlHEA組成物18を(例えば、溶射を用いて)施工すると皮膜12,54が形成される。機械部品29,50の皮膜12,54は、σ相マトリックス32と、σ相マトリックス32中に均一に分散したラーベス相34と、σ相マトリックス32中に分散したβ相36とを含むミクロ組織30(図3)を含むことができる。幾つかの実施形態では、σ相マトリックス32は、CoNiCrAlY合金を含むことができ、CoNiCrAlY合金の3種以上の元素は等モル量で存在し、その3種以上の元素の1つはAlであって、Alのモル分率は約0.20~約0.25である。ラーベス相34は、遷移金属ホウ化物38(図2の遷移金属ホウ化物22も参照)の複数の粒子を含むことができ、遷移金属ホウ化物22,38は、ホウ化コバルト(CoB)、ホウ化チタン(TiB)、ホウ化ジルコニウム(ZrB)、ホウ化タンタル(TaB)、ホウ化ニオブ(NiB)又はホウ化モリブデン(MoB)の1種以上を含む。ある実施形態では、遷移金属ホウ化物22,38は、ホウ化コバルト(CoB)及びホウ化モリブデン(MoB)の1種以上を含む。β相36は、高融点合金24(図2)の複数の粒子を含むことができる。
【0066】
図2図4をさらに参照すると、基材52上で皮膜12,54を形成する工程(S66)は、皮膜12,54を熱処理(例えば加熱)してAl酸化物層28,40を生成させることをさらに含んでいてもよい。Al酸化物層28,40は、σ相マトリックス32、ラーベス相34及びβ相36を含む領域42の上及び該領域42中に形成し得る。幾つかの実施形態では、Al酸化物層28,40は、約20μm未満の厚さを有し得る。
【0067】
本明細書及び特許請求の範囲で用いる近似表現は、数量の修飾語であって、その数量が関係する基本機能に変化をもたらさない許容範囲内で変動し得る数量を表すために適用される。したがって、「約」、「略」及び「実質的に」のような用語で修飾された値はその厳密な数値に限定されない。場合によっては、近似表現は、その値を測定する機器の精度に対応する。本明細書及び特許請求の範囲において、数値限定の範囲は互いに結合及び/又は交換可能であり、かかる範囲は、前後関係等から明らかでない限り、その範囲に含まれるあらゆる部分範囲を特定しかつ包含する。範囲の特定の値に用いられる「約」は、上下限に適用され、その値を測定する機器の精度に依存する場合を除いて、記載された数値の±10%を示すことがある。
【0068】
以下の特許請求の範囲において機能的記載によって特定される構成要素の対応する構造、材料、行為及び均等物は、特許請求の範囲に具体的に記載された他の構成要素と組合せて機能を発揮するあらゆる構造、材料又は行為を包含する。本開示の記載は、例示及び説明を目的としたものであり、網羅的なものでもなければ、開示された形態に限定するものでもない。本開示の技術的範囲及び技術的思想から逸脱せずに、数多くの修正及び変形が当業者には明らかであろう。本開示の実施形態は、本開示の原理及び実用的用途の説明として最も適しかつ当業者が様々な実施形態に関する開示内容及び特定の用途に適した様々な修正について理解できるように、選択して記載したものである。
【符号の説明】
【0069】
12 皮膜
14 基材
28 酸化アルミニウム層
29 機械部品
30 ミクロ組織
32 σ相マトリックス
34 ラーベス相
36 β相
38 遷移金属ホウ化物層
40 酸化アルミニウム層
42 領域
50 機械部品
52 基材
54 皮膜
図1
図2
図3
図4
図5
【外国語明細書】