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特開2023-133171架橋エチレン系重合体粒子、成形体、および成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133171
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】架橋エチレン系重合体粒子、成形体、および成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/28 20060101AFI20230914BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20230914BHJP
   B29C 48/30 20190101ALI20230914BHJP
   B29C 48/475 20190101ALI20230914BHJP
【FI】
C08J3/28 CES
C08J5/00
B29C48/30
B29C48/475
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028604
(22)【出願日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2022038407
(32)【優先日】2022-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】柳本 泰
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝太郎
(72)【発明者】
【氏名】河相 龍宜
(72)【発明者】
【氏名】鶴来 交
(72)【発明者】
【氏名】清澤 邦臣
【テーマコード(参考)】
4F070
4F071
4F207
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AB23
4F070AB24
4F070HA04
4F070HB04
4F071AA15
4F071AA82
4F071AA88
4F071AF05
4F071AF22
4F071AG05
4F071AG14
4F071AH12
4F071AH19
4F071BB06
4F071BC06
4F207AA04
4F207AG02
4F207AR17
4F207AR20
4F207KA05
4F207KE30
4F207KK36
4F207KM15
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性に優れる成形体を製造し得る架橋エチレン系重合体粒子、該架橋エチレン系重合体粒子を用いた成形体、および該成形体の製造方法を提供すること。
【解決手段】下記要件(i)および(ii)を満たすエチレン系重合体粒子を架橋してなる架橋エチレン系重合体粒子であって、ゲル分率が50~95%の範囲にある架橋エチレン系重合体粒子:(i)窒素ガス吸着法にて測定された吸脱着等温線からBET法により求められる比表面積が、2.00m/gより大きく、30.0m/g以下である;(ii)デカリン溶媒中、135℃で測定される極限粘度[η]が5~50dl/gである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(i)および(ii)を満たすエチレン系重合体粒子を架橋してなる架橋エチレン系重合体粒子であって、ゲル分率が50~95%の範囲にある架橋エチレン系重合体粒子:
(i)窒素ガス吸着法にて測定された吸脱着等温線からBET法により求められる比表面積が、2.00m/gより大きく、30.0m/g以下である;
(ii)デカリン溶媒中、135℃で測定される極限粘度[η]が5~50dl/gである。
【請求項2】
前記エチレン系重合体粒子が下記要件(iii)を満たす、請求項1に記載の架橋エチレン系重合体粒子:
(iii)かさ密度が0.01~0.20g/mLである。
【請求項3】
下記要件(I)を満たす、請求項1に記載の架橋エチレン系重合体粒子:
(I)窒素ガス吸着法にて測定された吸脱着等温線からBET法により求められる比表面積が、1.00~30.0m/gである。
【請求項4】
下記要件(I)を満たし、かつ、ゲル分率が50~95%の範囲にある架橋エチレン系重合体粒子:
(I)窒素ガス吸着法にて測定された吸脱着等温線からBET法により求められる比表面積が、1.00~30.0m/gである。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の架橋エチレン系重合体粒子を含む成形体。
【請求項6】
下記要件(i)および(ii)を満たすエチレン系重合体粒子に放射線を照射して、架橋エチレン系重合体粒子を得る工程と、
前記架橋エチレン系重合体粒子の融点より低い温度で押出成形する工程と
を含む、成形体の製造方法:
(i)窒素ガス吸着法にて測定された吸脱着等温線からBET法により求められる比表面積が、2.00m/gより大きく、30.0m/g以下である;
(ii)デカリン溶媒中、135℃で測定される極限粘度[η]が5~50dl/gである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋エチレン系重合体粒子、ならびに該架橋エチレン系重合体粒子を含む成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子量が極めて高いエチレン系重合体、所謂超高分子量エチレン系重合体は、汎用のエチレン系重合体に比して耐衝撃性、耐摩耗性、耐薬品性、強度に優れており、エンジニアリングプラスチックとして優れた特徴を有している。
【0003】
一方で、超高分子量エチレン系重合体はその分子量の高さ故に、一般的な樹脂の成形法である溶融成形を行うことが困難とされている。超高分子量エチレン系重合体のラム押出法は一般的に使用されている成形体作製方法であり(特許文献1)、特定の金型を用い、エチレン系重合体の融点以下の押出温度とすることで、超高分子量エチレン系重合体を用いて、高い弾性率を有する成形体が前記ラム押出法により得られることが開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-155553号公報
【特許文献2】特開2015-214061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のようなラム押出法では、押出を可能とし、かつ、均一な成形体を得るために、押出温度は樹脂の融点以上に設定して実施している。それ故、成形時に樹脂が溶融状態を経ることから、得られる成形体は機械物性が低下するのが一般的である。また、特許文献2に記載の成形体は、高い弾性率を有するものの、耐摩耗性に関しての記載はなく、超高分子量エチレン系重合体の優位な特性の一つである耐摩耗性を発現した成形体の製造という観点において改良の余地が残されていた。
【0006】
前記背景技術から鑑みた、本発明が解決しようとする課題は、耐摩耗性に優れる成形体を製造し得る架橋エチレン系重合体粒子、該架橋エチレン系重合体粒子を用いた成形体、および該成形体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記課題を解決すべく検討を行った。その結果、下記構成例によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、例えば以下の[1]~[6]に関する。
【0008】
[1]
下記要件(i)および(ii)を満たすエチレン系重合体粒子を架橋してなる架橋エチレン系重合体粒子であって、ゲル分率が50~95%の範囲にある架橋エチレン系重合体粒子:
(i)窒素ガス吸着法にて測定された吸脱着等温線からBET法により求められる比表面積が、2.00m/gより大きく、30.0m/g以下である;
(ii)デカリン溶媒中、135℃で測定される極限粘度[η]が5~50dl/gである。
【0009】
[2]
前記エチレン系重合体粒子が下記要件(iii)を満たす、[1]に記載の架橋エチレン系重合体粒子:
(iii)かさ密度が0.01~0.20g/mLである。
【0010】
[3]
下記要件(I)を満たす、[1]または[2]に記載の架橋エチレン系重合体粒子:
(I)窒素ガス吸着法にて測定された吸脱着等温線からBET法により求められる比表面積が、1.00~30.0m/gである。
【0011】
[4]
下記要件(I)を満たし、かつ、ゲル分率が50~95%の範囲にある架橋エチレン系重合体粒子:
(I)窒素ガス吸着法にて測定された吸脱着等温線からBET法により求められる比表面積が、1.00~30.0m/gである。
【0012】
[5]
[1]~[4]のいずれかに記載の架橋エチレン系重合体粒子を含む成形体。
【0013】
[6]
下記要件(i)および(ii)を満たすエチレン系重合体粒子に放射線を照射して、架橋エチレン系重合体粒子を得る工程と、
前記架橋エチレン系重合体粒子の融点より低い温度で押出成形する工程と
を含む、成形体の製造方法:
(i)窒素ガス吸着法にて測定された吸脱着等温線からBET法により求められる比表面積が、2.00m/gより大きく、30.0m/g以下である;
(ii)デカリン溶媒中、135℃で測定される極限粘度[η]が5~50dl/gである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特定のゲル分率を有する架橋エチレン系重合体粒子(以下「架橋粒子」ともいう。)を用いて、ラム押出成形法で成形することにより、耐摩耗性に優れる成形体を提供することができる。また、前記架橋粒子に特定のエチレン系重合体粒子を用いることにより、得られる成形体の強度および成形性も優れる傾向にある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る架橋エチレン系重合体粒子についてについてさらに詳細に説明する。
〔架橋エチレン系重合体粒子(架橋粒子)〕
本発明の一態様に係る架橋エチレン系重合体粒子は、ゲル分率が50~95%の範囲にあることを特徴とし、下記要件(i)および(ii)を満たすエチレン系重合体粒子を架橋してなる。
(i)窒素ガス吸着法にて測定された吸脱着等温線からBET法により求められる比表面積が、2.00m/gより大きく、30.0m/g以下である。
(ii)デカリン溶媒中、135℃で測定される極限粘度[η]が5~50dl/gである。
【0016】
前記架橋粒子のゲル分率は、50~95%、好ましくは60~90%、より好ましくは70~90%、さらに好ましくは80~90%である。ゲル分率が前記範囲にあると、成形時に樹脂の流動性が保たれ、容易に成形が可能となる。ゲル分率が前記範囲を下回ると、成形時に樹脂が流れ出てしまい成形困難であり、また、得られる成形体の耐摩耗性が低下し、ゲル分率が前記範囲を上回ると、分子の流動性が著しく悪くなり、成形性に劣る。また、前記架橋粒子がガラス転移温度または融点以上となる場合でも、分子鎖が勝手に流動することができなくなるため、高温特性が改善される場合や、応力を受けても形態を保つことができるため、機械的特性を保持できるようになる場合がある。
【0017】
なお、ゲル分率は、一定時間抽出操作を行った試料の質量を試料の仕込み量で除すことにより算出が可能である。本発明においては、ソックスレー抽出器を用いて、o-ジクロロベンゼン中、145℃で2時間抽出を行い、抽出前後の試料の質量からゲル分率を算出する。
【0018】
前記ゲル分率は、エチレン系重合体粒子に放射線を照射することで調整することが可能であり、ゲル分率が前記範囲となるように放射線を照射することで、前記架橋粒子を得ることができる。
【0019】
前記エチレン系重合体粒子(以下「未照射粒子」ともいう。)に放射線を照射することで、分子鎖の切断と架橋が生じ、その結果、分子鎖が架橋点で結び合わされると考えられる。このように分子鎖が架橋し、架橋度が増すことで、ゲル分率が高くなると考えられる。前記架橋度は、一般に、放射線の照射線量により調節することができる。
【0020】
本架橋粒子の融点(Tm)は、好ましくは120~160℃、より好ましくは125~145℃、さらに好ましくは130~140℃である。融点(Tm)が前記範囲にあると、成形時に樹脂の流動性が保たれ、容易に成形が可能となる。融点(Tm)が前記範囲を下回ると、成形時に樹脂が流れ出てしまい成形困難であり、また、得られる成形体の耐摩耗性が低下する。融点(Tm)が前記範囲を上回ると、分子の流動性が著しく悪くなり、成形性に劣る。なお、本明細書中、融点(Tm)は、DSC測定により測定され、具体的には、後述する実施例に記載の方法に拠って測定できる。
【0021】
また、本発明の一態様に係る架橋粒子は、下記要件(I)を満たすことが好ましい。
(I)窒素ガス吸着法にて測定された吸脱着等温線からBET法により求められる比表面積が、1.00~30.0m/gである。
【0022】
本架橋粒子の窒素ガス吸着法にて測定された吸脱着等温線からBET法により求められる比表面積は、好ましくは1.00~30.0m/gであり、より好ましくは1.5~28.0m/g、さらに好ましくは2.00~26.0m/g、特に好ましくは2.00~25.0m/g、とりわけ好ましくは2.50~10.0m/gである。
【0023】
比表面積が前記範囲内であることにより、流動性、ハンドリング性および成形加工性に優れる成形体を容易に得ることができる。比表面積が前記範囲を下回る場合、成形時に粒子同士の接着性が悪く強度不足となる場合がある。また、比表面積が前記範囲を上回る場合、粒子のハンドリング性(例えば、粉体流動性)が悪くなり、成形性に劣る場合がある。
なお、本明細書中、比表面積は、窒素ガス吸着法にて測定された吸脱着等温線からBET法により求められる比表面積の全てを合計した全比表面積を意味し、具体的には下記実施例に記載の測定方法により求められる。
【0024】
[エチレン系重合体粒子(未照射粒子)]
本発明に係る架橋粒子は、前記要件(i)および(ii)を満たすエチレン系重合体粒子を架橋してなる。以下、前記要件(i)および(ii)について説明する。
【0025】
<要件(i)>
前記未照射粒子の窒素ガス吸着法にて測定された吸脱着等温線からBET法により求められる比表面積は、2.00m/gより大きく、30.0m/g以下であり、好ましくは2.50~28.0m/g、より好ましくは3.00~26.0m/g、さらに好ましくは5.00~16.0m/gである。前記未照射粒子の比表面積が前記範囲内であることにより、流動性、ハンドリング性および成形加工性に優れる成形体を容易に得ることができる。比表面積が前記範囲を下回る場合、成形時に粒子同士の接着性が悪く強度不足となる場合がある。また、比表面積が前記範囲を上回る場合、粒子のハンドリング性(例えば、粉体流動性)が悪くなり、成形性に劣る場合がある。
【0026】
<要件(ii)>
前記未照射粒子のデカリン溶媒中、135℃で測定した極限粘度[η]は、5~50dl/gであり、好ましくは10~50dl/g、より好ましくは15~45dl/gである。エチレン系重合体粒子の極限粘度[η]が前記範囲内であることにより、本発明の成形体は高い強度を示しつつ成形性にも優れる傾向にある。極限粘度[η]が前記範囲を上回る場合、十分に押し出しができず成形性が低下する場合がある。一方、極限粘度[η]が前記範囲を下回る場合、粒子を構成する分子量の小さいポリマー鎖における、末端に由来する構造欠陥により、十分な強度を発現しない場合がある。
なお、通常、極限粘度[η]が前記範囲内にあるエチレン系重合体は、分子量が極めて高い傾向にあるため、本発明におけるエチレン系重合体粒子は超高分子量エチレン系重合体からなるといえる。
【0027】
また、前記未照射粒子は、下記要件(iii)を、前記要件(i)および(ii)と同時に満たしていることがより好ましい。
(iii)かさ密度(B.D.)が0.01~0.20g/mLである。
【0028】
<要件(iii)>
前記未照射粒子は、かさ密度(B.D.)が、好ましくは0.01~0.20g/mL、より好ましくは0.02~0.20g/mL、さらに好ましくは0.03~0.15g/mLである。かさ密度(B.D.)が前記範囲内であることにより、成形時の流動性が良好となり、成形性に優れる傾向にある。前記範囲を下回る場合、比表面積が小さくなる傾向にあり、成形不良の要因の一つとなり得る。
前記かさ密度は、具体的には下記実施例に記載の測定方法により求められる。
【0029】
さらに、前記未照射粒子は、下記要件(iv)~(viii)のいずれか一つ以上を、前記要件(i)~(iii)と同時に満たしていることがより好ましい。以下、各要件について順に説明する。
【0030】
(iv)エチレン系重合体粒子のマグネシウム含有量が、10~2,000ppmである。
(v)エチレン系重合体粒子の粗粒の含有量が、20質量%以下である。
(vi)エチレン系重合体粒子のアセトン抽出物が、下記一般式[I]の分子骨格を有する化合物(F)を6~1,000ppmの範囲で含む。
【0031】
【化1】
【0032】
(vii)エチレン系重合体粒子を構成するエチレン系重合体は、エチレンの単独重合体、または、エチレンと炭素原子数3~20の直鎖状もしくは分岐状のα-オレフィンとの共重合体である。
(viii)エチレン系重合体粒子の融点が、120~160℃である。
【0033】
<要件(iv)>
後述するエチレン系重合体粒子の製造方法の通り、エチレン系重合体粒子の製造時にマグネシウムのハロゲン化物(好ましくはMgCl)を用いることで、比表面積が前記範囲にあるエチレン系重合体粒子を容易に製造することができる傾向にある。製造時に用いたマグネシウムハロゲン化物の一部は、通常、エチレン系重合体粒子中に残存し、エチレン系重合体粒子(未照射粒子)のマグネシウム含有量は、製造時のマグネシウムハロゲン化物の濃度に対応する。
前記未照射粒子中のマグネシウム含有量は、10~2,000ppmであることが好ましく、20~1,500ppmであることがより好ましく、30~1,000ppmであることがさらに好ましい。前記範囲にあることにより、本発明におけるエチレン系重合体粒子は、粒子の流動性と成形性がより優れる。
【0034】
<要件(v)>
エチレン系重合体粒子において、1mm以上の粗粒が多く含まれると、重合後の移送時に十分な流動性が得られず、バルブ、ポンプ、ストレーナー等で閉塞が発生することがある。前記不具合を防止する観点から、前記未照射粒子中の粗粒の含有量(粗粒量)は、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、さらにより好ましくは7質量%以下、特に好ましくは3質量%以下、とりわけ好ましくは1.5質量%以下である。粗粒が少ないと加工プロセスにおける粒子の搬送性が良いため、均一に粒子を賦形することができ、延伸成形性および強度に優れた延伸成形体を得られる。
なお、前記粗粒とは、1mm以上の粒子を意味し、1mm×1mmの網目ふるいを用い、振とう時間10分、振幅0.5mm、インターバル15秒でふるった時に、該ふるいを通過しない粒子のことをいう。前記粗粒の含有量は、具体的には下記実施例に記載の測定方法により求められる。
【0035】
<要件(vi)>
前記エチレン系重合体粒子(未照射粒子)のアセトン抽出物は、下記一般式[I]の分子骨格を有する化合物(F)を含んでいることが好ましい。前記アセトン抽出物とは、エチレン系重合体粒子とアセトンとを接触させた後に、エチレン系重合体粒子からアセトン中に溶出される成分である。一般に、アセトンへ溶出される成分は、エチレン系重合体粒子の構成成分のうち、重合操作の段階で使用される触媒や添加剤等であり、また、重合後に使用され得る添加剤等の成分も前記アセトン抽出物に含まれる。以下、下記一般式[I]で表される分子骨格を「オキシアルキレン骨格」と呼ぶ場合がある。
【0036】
【化2】
【0037】
前記一般式[I]中、Rは水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示す。炭素数1~12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基などの直鎖状または分岐状のアルキル基を例示することができる。Rが水素原子またはメチル基である化合物(F)を用いると、重合活性と粗粒発生抑制効果に優れるので好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0038】
前記化合物(F)は、重合段階で添加される、また、重合後に添加され得る添加剤の、帯電防止剤(に由来する化合物)である。このため、前記化合物(F)のエチレン系重合体粒子中の含有量は、重合操作時の化合物(F)の濃度で調節が可能であり、さらに重合後に化合物(F)を添加して調節してもよい。前記化合物(F)が存在することで粒子の流動性が良くなるため、均一に粒子を賦形することができる。さらに、化合物(F)を重合後に添加するのではなく重合時に化合物(F)を添加することにより、重合体粒子内部まで化合物(F)が入り込み、成形性および強度により優れた成形体を得られる。
【0039】
前記化合物(F)としては、好ましくは前記一般式[I]で表されるオキシアルキレン骨格中の酸素原子に水素原子が結合した骨格を有する化合物であり、特に好ましくは、下記一般式[F1]で表される構造、下記式[F2]で表される構造および下記式[F3]で表される構造からなる群より選ばれる少なくとも1種の骨格を、分子内に一つまたは二つ以上持つ化合物である。
【0040】
【化3】
【0041】
前記式中、Rは前記式[I]で説明するRと同義である。また前記式中、R”は前記Rと同様の原子または基を示し、nおよびmは0または1の整数であり、pは1または2の整数であり、mとpの合計は2である。重合活性と粗粒発生抑制効果の点から、mは0であり、pは2である化合物(F)を用いることが好ましい。
【0042】
前記一般式[F1]で表される骨格を有する化合物としては、ポリオキシアルキレン系化合物を挙げることができ、例えば、ポリオキシアルキレングリコール、エチレンジアミンベースのポリオキシアルキレンポリオール等が挙げられる。
前記一般式[F2]で表される骨格を有する化合物については、特許5796797号公報に記載の脂肪族ジエタノールアミドを好ましく例示することができる。
前記一般式[F3]で表される骨格を有する化合物については、特許5796797号公報に記載の第3級アミン化合物を好ましく例示することができる。
【0043】
前記化合物(F)の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により特定され、好ましくは500~30,000であり、より好ましくは1,000~25,500であり、さらに好ましくは1,500~20,000、特に好ましくは1,500~10,000である。Mwが前記範囲内であると、粗粒の発生量を低くできるため、移送時の管内の流動性が向上し、成形時において均一な成形体が得られる。一方、Mwが小さいと成形時にブリードアウトして品質不良の恐れがあり、Mwが大きいと成形体に異物として組み込まれる場合がある。
【0044】
化合物(F)の具体例として、例えば、(株)ADEKA製の「アデカプルロニック(登録商標)」シリーズが挙げられる。これらの中でも、入手容易性、粗粒発生抑制能力などの観点から、「アデカプルロニック(登録商標)L-71(Mw:3,760)」、「アデカプルロニック(登録商標)L-72(Mw:4,700)」、「アデカプルロニック(登録商標)L-31(Mw:1,700)」、「アデカプルロニック(登録商標)P-85(Mw:7,430)」、「アデカプルロニック(登録商標)F-68(Mw:15,100)」、「アデカプルロニック(登録商標)F-88(Mw:19,300)」、「アデカプルロニック(登録商標)17-R2(Mw:3,310)」等のポリオキシアルキレングリコール;「アデカプルロニック(登録商標)TR-701(Mw:5,060)」、「アデカプルロニック(登録商標)TR-702(Mw:5,390)」、「アデカプルロニック(登録商標)TR-913R(Mw:4,560)」等のエチレンジアミンベースポリオキシアルキレンポリオールが挙げられる。前記以外の化合物(F)の具体例として、花王(株)製「エマルゲン108(Mw:769)」、「エマルゲン109P(Mw:970)」;川研ファインケミカル(株)製「アミゼット(登録商標)5C(Mw:647)」、「アセチレノール(登録商標)E13T(Mw:444)」が挙げられる。
前記化合物(F)は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0045】
前記オキシアルキレン骨格は後述するように、核磁気共鳴(NMR)スペクトルなどの公知の分析手法によって同定が可能である。
エチレン系重合体粒子中の化合物(F)の含有量は、エチレン系重合体粒子に対して6~1,000ppmであることが好ましい。化合物(F)の含有量が前記範囲であると、高い延伸倍率での成形が可能なエチレン系重合体粒子で、かつ、粗粒の発生を抑制できるため、移送時の管内の流動性が向上する。さらに粗粒の発生を抑制することができる点から、より好ましくは8~600ppmであり、さらに好ましくは10~400ppmである。
前記エチレン系重合体粒子中の化合物(F)の含有量は、液体クロマトグラフィー質量(LC-MS)分析等から算出できる。
【0046】
<要件(vii)>
前記エチレン系重合体粒子を構成するエチレン系重合体は、好ましくはエチレンの単独重合体、または、エチレンと炭素原子数3~20の直鎖状もしくは分岐状のα-オレフィンとの共重合体であり、より好ましくはエチレンの単独重合体である。
【0047】
前記炭素原子数3~20のα-オレフィンとして、好ましくは炭素原子数3~10のα-オレフィンであり、より好ましくは炭素原子数3~8のα-オレフィンである。具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセンなどの直鎖状オレフィン;4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ブテンなどの分岐状オレフィンを挙げることができ、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテンが好ましい。
前記α-オレフィンは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
α-オレフィンの含有量、すなわちエチレンと共重合するα-オレフィンから導かれる繰り返し単位の全繰り返し単位に対するモル比は、5mol%以下、好ましくは2mol%以下、より好ましくは0.5mol%以下である。
【0048】
前記エチレン系重合体粒子を構成するエチレン系重合体がエチレン単独重合体である場合、分岐による構造欠陥が少ないため、延伸成形性に優れ、高強度の成形体が得られる。このように、結晶化度を高め、固相延伸成形における延伸成形性を高める観点からは、エチレンの単独重合体であることが好ましい。一方、エチレンとα-オレフィンとの共重合体である場合、α-オレフィンの含有量が前述した範囲より多いと、α-オレフィンに由来する分岐が構造欠陥となり十分な強度が得られない場合がある。なお、エチレン系重合体中のエチレン含有量は、例えば、核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定や赤外吸収スペクトル測定のような公知の測定方法により測定が可能である。
【0049】
前記エチレン系重合体を構成するエチレン系重合体は、それぞれ、少なくとも1種以上のバイオマス由来モノマー(エチレン、炭素原子数3~20のα-オレフィン)を含んでいてもよい。重合体を構成する同じ種類のモノマーがバイオマス由来モノマーのみでもよいし、化石燃料由来モノマーのみであってもよいし、バイオマス由来モノマーと化石燃料由来モノマーの両方を含んでもよい。バイオマス由来モノマーとは、菌類、酵母、藻類および細菌類を含む、植物由来または動物由来などの、あらゆる再生可能な天然原料およびその残渣を原料としてなるモノマーで、炭素として14C同位体を1×10-12程度の割合で含有し、ASTM D6866に準拠して測定したバイオマス炭素濃度(単位:pMC)が100pMC程度である。バイオマス由来モノマー(エチレン、α-オレフィン等の他のモノマー)は、例えば、従来から知られている方法により得られる。
【0050】
これらエチレン系重合体が、バイオマス由来モノマーに由来する構成単位を含むことは、環境負荷低減(主に温室効果ガス削減)の観点から好ましい。重合用触媒、重合プロセス、重合温度などの重合体製造条件が同等であれば、原料のモノマーがバイオマス由来モノマーを含む(共)重合体であっても、14C同位体を1×10-12~10-14程度の割合で含む以外の分子構造は、化石燃料由来モノマーからなる(共)重合体と同等である。従って、性能も変わらないとされる。
【0051】
<要件(viii)>
前記未照射粒子の融点(Tm)は、好ましくは120~160℃、より好ましくは130~150℃、さらに好ましくは135~145℃である。融点(Tm)が前記範囲にあると、成形時に樹脂の流動性が保たれ、容易に成形が可能となる。融点(Tm)が前記範囲を下回ると、成形時に樹脂が流れ出てしまい成形困難であり、また、得られる成形体の耐摩耗性が低下し、融点(Tm)が前記範囲を上回ると、分子の流動性が著しく悪くなり、成形性に劣る。
【0052】
<エチレン系重合体粒子の製造方法>
前記エチレン系重合体粒子の製造方法としては特に制限されないが、下記工程[α]および[β]を含む方法が好ましい。
【0053】
工程[α]:金属ハロゲン化物とアルコールとを炭化水素溶媒中で接触させる工程(1)、ならびに、前記工程(1)で得られた成分と有機アルミニウム化合物および/または有機アルミニウムオキシ化合物とを接触させる工程(2)を含む、懸濁液を得る工程<i>、
前記工程<i>で得られた懸濁液と、下記一般式[II]で表される遷移金属化合物(B)とを接触させる工程<ii>、ならびに
前記化合物(F)を添加する工程<iii>
を含み、前記工程<iii>を、前記工程<i>と前記工程<ii>の間、および/または、前記工程<ii>の後に実施してオレフィン重合用触媒含有液を製造する工程
【0054】
工程[β]:前記エチレン重合用触媒含有液の存在下、エチレンを単独重合させることにより、または、エチレンと炭素原子数3~20の直鎖状もしくは分岐状のα-オレフィンとを共重合させることによりエチレン系重合体粒子を製造する工程
【0055】
【化4】
【0056】
式[II]中、Mはチタン、ジルコニウム、またはハフニウムを示し、
mは1~4の整数を示し、
~Rは、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、これらのうちの2個以上が互いに連結して環を形成していてもよく、
は、水素原子、1級または2級炭素のみからなる炭素数1~4の炭化水素基、炭素数4以上の脂肪族炭化水素基、アリール基置換アルキル基、単環性または二環性の脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン原子から選ばれ、
nは、Mの価数を満たす数であり、
Xは、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、ヘテロ環式化合物残基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、nが2以上の場合は、Xで示される複数の基は互いに同一でも異なっていてもよく、またXで示される複数の基は互いに結合して環を形成してもよい。
【0057】
(金属ハロゲン化物)
前記工程[α]で用いられる金属ハロゲン化物としては、前記比表面積を有するエチレン系重合体粒子を得るために、好ましくはマグネシウムのハロゲン化物を使用する。マグネシウムのハロゲン化物として好ましくは、MgI、MgClであり、より好ましくはMgClである。MgClから前記工程<i>で懸濁液を得ることで、比表面積の非常に高いエチレン系重合体粒子を生成することができる傾向にある。
【0058】
さらに、用いる金属ハロゲン化物(特にマグネシウムのハロゲン化物)の前記エチレン重合用触媒含有液中の濃度が、エチレン系重合体粒子の比表面積に影響し、前記濃度が高いと比表面積が高くなる傾向にある。前記金属ハロゲン化物(特にマグネシウムのハロゲン化物)の前記エチレン重合用触媒含有液中の濃度は、0.10~5.0mmol/Lであることが好ましく、0.20~3.0mmol/Lであることがより好ましく、0.30~2.0mmol/Lであることがさらに好ましい。
【0059】
前述した通り、製造時に用いたマグネシウムハロゲン化物の一部は、通常、エチレン系重合体粒子中に含められ、そのマグネシウム含有量は、製造時のマグネシウムハロゲン化物の濃度に対応する。本発明におけるエチレン系重合体粒子は、前記効果を奏する点から、マグネシウムを10~2,000ppm含むことが好ましく、20~1,000ppm含むことがより好ましく、30~500ppm含むことがさらに好ましい。
【0060】
(アルコール)
前記工程[α]で用いられるアルコールとしては、炭素原子数1~25のアルコールが挙げられる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、2-エチルヘキサノール、オクタノール、ドデカノール、オクタデシルアルコール、オレイルアルコール、2-ブチルオクタノール、2-ヘキシルデカノール、2-ヘキシルドデカノール、2-オクチルデカノール、2-オクチルドデカノール、イソヘキサデカノール、イソエイコサノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、クミルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、イソプロピルベンジルアルコールなどの炭素原子数1~25のアルコール類;トリクロロメタノール、トリクロロエタノール、トリクロロヘキサノールなどの炭素原子数1~25のハロゲン含有アルコール類;フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ノニルフェノール、クミルフェノール、ナフトールなどのアルキル基を有してもよい炭素原子数6~25のフェノール類等が挙げられる。
前記アルコールは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0061】
なお、炭素数が13~25のアルコールなどの、炭素数が相対的に多いアルコールがエチレン系重合用触媒含有液中に存在する場合には、エチレンの重合反応をマイルドに進行させることが期待でき、その結果、重合時の発熱の偏在が抑制されることも期待できる。重合時の発熱の偏在の抑制は、生成した重合体鎖が絡み合い構造を取ることの抑制に繋がり、結果として、得られる成形体の性能向上につながると考えられる。
【0062】
用いるアルコールの量は、金属ハロゲン化物が溶解する量であれば特に制限されないが、金属ハロゲン化物のアルコール錯体を容易に形成することができる等の点から、金属ハロゲン化物1モル当たり、好ましくは0.1~50モル、より好ましくは0.5~30モル、さらに好ましくは1~20モル、特に好ましくは2~15モルである。
【0063】
(炭化水素溶媒)
前記炭化水素溶媒としては特に制限されないが、具体的には、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油などの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;エチレンクロリド、クロロベンゼン、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素等が挙げられる。これらの中でも、溶解性および反応温度の等の点から、デカン、ドデカン、トルエン、キシレン、クロロベンゼンが好ましい。
前記炭化水素溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0064】
用いる炭化水素溶媒の量は、金属ハロゲン化物が溶解する量であれば特に制限されないが、金属ハロゲン化物のアルコール錯体を容易に形成することができる等の点から、金属ハロゲン化物1モル当たり、好ましくは0.1~100モル、より好ましくは0.2~50モル、さらに好ましくは0.3~40モル、特に好ましくは0.5~30モルである。
【0065】
(有機アルミニウム化合物)
前記有機アルミニウム化合物としては、下記式(Al-1)で表される化合物を用いることができる。
AlX3-n ・・・(Al-1)
(式(Al-1)中、Rは炭素原子数1~12の炭化水素基であり、Xはハロゲン原子または水素原子であり、nは1~3である。)
【0066】
前記炭素数1~12の炭化水素基は、例えば、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルケニル基、炭素数3~12のシクロアルキル基または炭素数6~12のアリール基であり、具体例としては、メチル基(Me)、エチル基(Et)、n-プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基(iso-Bu)、ペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、イソプレニル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、トリル基が挙げられる。
【0067】
前記式(Al-1)で表される有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリ2-エチルヘキシルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム;トリイソプレニルアルミニウムなどのアルケニルアルミニウム;ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジイソプロピルアルミニウムクロリド、ジイソブチルアルミニウムクロリド、ジメチルアルミニウムブロミドなどのジアルキルアルミニウムハライド;メチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、イソプロピルアルミニウムセスキクロリド、ブチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキブロミドなどのアルキルアルミニウムセスキハライド;メチルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、イソプロピルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムジブロミドなどのアルキルアルミニウムジハライド;ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどのアルキルアルミニウムハイドライドが挙げられる。
【0068】
また、前記有機アルミニウム化合物として、下記式(Al-2)で表される化合物を用いることもできる。
【0069】
AlY3-n ・・・(Al-2)
[式(Al-2)中、Rは前記式(Al-1)と同様の基であり、
Yは-OR、-OSiR 、-OAlR 、-NR 、-SiR または-N(R)AlR で表される基であり、
nは1~2の整数である。]
【0070】
前記R、R、RおよびRとしては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基が挙げられる。
前記Rとしては、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基、フェニル基、トリメチルシリル基が挙げられる。
前記RfおよびRgとしては、例えば、メチル基、エチル基が挙げられる。
【0071】
前記式(Al-2)で表される有機アルミニウム化合物としては、具体的には、以下のような化合物が用いられる。
【0072】
(1)R Al(OR3-nで表される化合物
該化合物としては、例えば、ジメチルアルミニウムメトキシド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジイソブチルアルミニウムメトキシド、ジエチルアルミニウム-2-エチルヘキソキシドなどのアルキルアルミニウムアルコキシドが挙げられる。
【0073】
(2)R Al(OSiR 3-nで表される化合物
該化合物としては、例えば、EtAl(OSiMe)、(iso-Bu)Al(OSiMe)、(iso-Bu)Al(OSiEt)が挙げられる。
【0074】
(3)R Al(OAlR 3-nで表される化合物
該化合物としては、例えば、EtAlOAlEt、(iso-Bu)AlOAl(iso-Bu)が挙げられる。
【0075】
(4)R Al(NR 3-nで表される化合物
該化合物としては、例えば、MeAlNEt、EtAlNHMe、MeAlNHEt、EtAlN(SiMe、(iso-Bu)AlN(SiMeが挙げられる。
【0076】
(5)R Al(SiR 3-nで表される化合物
該化合物としては、例えば、(iso-Bu)AlSiMeが挙げられる。
【0077】
(6)R Al〔N(R)AlR 3-nで表される化合物
該化合物としては、例えば、EtAlN(Me)AlEt、(iso-Bu)AlN(Et)Al(iso-Bu)が挙げられる。
【0078】
また、前記有機アルミニウム化合物として、第I族金属とアルミニウムとの錯アルキル化物である、下記式(Al-3)で表される化合物を用いることもできる。
【0079】
AlR ・・・(Al-3)
[式(Al-3)中、MはLi、NaまたはK等の第I族金属原子であり、Rは炭素数1~15の炭化水素基である。]
【0080】
前記式(Al-3)で表される有機アルミニウム化合物の具体例としては、LiAl(C、LiAl(C15が挙げられる。
【0081】
前述した有機アルミニウム化合物のうち、前記式(Al-1)で表される化合物が好ましく、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジイソブチルアルミニウムハイドライドが特に好ましい。
【0082】
(有機アルミニウムオキシ化合物)
前記有機アルミニウムオキシ化合物としては特に制限されず、従来公知のアルミノキサン(特開平2-78687号公報に例示されているベンゼン不溶性の有機アルミニウムオキシ化合物や、特開2021-147437号公報に例示されているボロンを含んだ有機アルミニウムオキシ化合物を含む)を用いることができる。
有機アルミニウムオキシ化合物としては、メチルアルミノキサン、エチルアルミノキサン、イソブチルアルミノキサンが挙げられ、具体例としては、特開2021-147437号公報に記載の有機アルミニウムオキシ化合物が挙げられる。
前記有機アルミニウムオキシ化合物は、1種用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0083】
用いる有機アルミニウム化合物および有機アルミニウムオキシ化合物の量は、金属ハロゲン化物1モル当たり、好ましくは0.1~50モル、より好ましくは0.2~30モル、さらに好ましくは0.5~20モル、特に好ましくは1.0~10モルである。
【0084】
〔成形体〕
本発明に係る成形体は、前述した架橋粒子を含む。前記架橋粒子を用いることにより、得られる成形体の耐摩耗性が向上する。
本発明に係る成形体は、後述する種々公知の成形加工方法により作製することができるため、一般的な超高分子量エチレン系重合体を用いた成形体の用途に広く適用可能であるが、本発明に係る成形体は、特に耐摩耗性に優れることから、人工関節、および電線等の耐摩耗性に優れることが要求される用途に特に好適である。
【0085】
〔成形体の製造方法〕
本発明に係る成形体の製造方法は、前述したエチレン系重合体粒子に放射線を照射して架橋させ、架橋エチレン系重合体粒子を得る工程(工程(A))と、前記架橋エチレン系重合体粒子を成形する工程(工程(B))とを含む。
【0086】
[工程(A)]
前記エチレン系重合体粒子に対して密閉状態で放射線を照射する手段としては、エチレン系重合体粒子を収納した容器内を真空引きし、空気の存在割合を下げる真空法;容器内を不活性ガスや窒素で満たし、空気を排出するガスパージ法等を採用することができる。密閉されていれば、真空法やガスパージ法等を用いずに、多少の酸素を含む雰囲気であってもよい。
【0087】
前記放射線としては、例えば、α線、β線、γ線、電子線、重イオン線が挙げられ、いずれも使用可能であるが、好ましくは電子線またはγ線であり、取り扱いの観点からより好ましくは電子線である。
【0088】
前記放射線の照射線量は、使用する未照射粒子を構成するオレフィン種によっても異なるが、好ましくは10~700kGy、より好ましくは20~500kGy、さらに好ましくは40~300kGyである。照射線量が700kGy以下であると、放射線照射による分子鎖架橋と同時に起こる分解が起こりにくく、ゲル分率の高止まりを防ぐことできるため、好ましい。照射線量が10kGy以上であると、分子鎖の架橋速度が遅くなりすぎることなく十分に架橋が進行するため、好ましい。なお、前記放射線の照射線量は、単位質量に吸収されるエネルギーに比例する線量で表わされ、グレイ(Gy)は、放射線がある物質に当たったとき、その物質に吸収されるエネルギー量を表す単位である。
【0089】
[工程(B)]
前記工程(B)においては、種々公知の成形加工方法、具体的には、押出成形、プレス成形、射出成形、カレンダー成形、中空成形等の成形加工方法により、前記架橋エチレン系重合体粒子を成形することができる。前記成形加工を行う際には、押出成形機、プレス成形機、射出成形機、カレンダーロール、トランスファー成形機等の各種成形方法に対応した公知の成形機を用いる。さらに、前記成形加工方法で得られた成形体を熱成形などで二次加工、あるいは、他の材料と積層することができる。
【0090】
前記成形加工方法の中でも、原料に超高分子量エチレン系重合体を用いる場合、押出成形法またはプレス成形法が好ましく、押出成形法がより好ましい。前記押出成形法としては、熱可塑性樹脂の押出成形に用いられる一般的な押出成形方法、例えば、スクリュー押出成形法、ラム押出成形法が挙げられる。本発明の成形体は、ラム押出成形法により成形されることが特に好ましい。
【0091】
本発明の成形体の製造方法にラム押出成形法を採用する場合、架橋粒子はラムシリンダーに充填され、プランジャーで圧縮される。使用する押出機の先端に絞りダイ金型を接続し、圧縮された架橋粒子は、当該絞りダイ金型を通して押出され、成形体が得られる。押出成形に用いる絞りダイ金型は、絞りダイ金型の入口の断面積をA1、絞りダイ金型先端(出口)の断面積をA2とした場合に、A1>A2であることが、曲げ弾性率等の強度特性に優れる傾向にある観点から好ましい。つまり、製造される成形体の断面積は絞りダイの入口の断面積よりも小さいことが好ましい。なお、本発明においては、絞りダイ金型の前部に架橋粒子を充填あるいは圧縮する金型を設置しておいてもよい。
【0092】
ラム押出成形法を採用する場合、圧縮された架橋粒子の押出温度は、通常、100~135℃の範囲で設定され、用いる架橋粒子の融点より低い温度で押出成形することが好ましい。また、前記絞りダイ金型の使用により、押出時の圧力が、通常のラム押出成形法に比べて高くなるため、架橋粒子の運動性が高まり粒子の流動性が向上し、成形性に優れる傾向にある。
【実施例0093】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0094】
[エチレン系重合体粒子(未照射粒子)の物性測定]
以下の実施例において、エチレン系重合体粒子(未照射粒子)の比表面積、極限粘度[η]、かさ密度、融点は、下記の方法に拠って測定した。
【0095】
(比表面積)
高精度ガス吸着装置(マイクロトラック・ベル(株)製、LA-950)を用いて、窒素ガス吸着法にて、エチレン系重合体粒子の吸脱着等温線を測定した。
解析法としてBET法により、吸脱着等温線からエチレン系重合体粒子の比表面積を求めた。
なお、吸脱着等温線を測定する前に、前処理装置(マイクロトラック・ベル(株)製、BELPREP VAC-II)を用いて脱気処理を行った。
【0096】
(極限粘度[η])
エチレン系重合体粒子の極限粘度[η]は、該粒子をデカリンに溶解させ、全自動粘度測定装置((株)離合社製、VMR-053UPC)を用いて、温度135℃のデカリン中で測定した。
【0097】
(かさ密度)
エチレン系重合体粒子のかさ密度は、規格形カサ比重測定器(筒井理化学機器(株)製 JIS K-6720 塩化ビニール用)を用いて測定した。予め質量を測定した付属の100mLSUS容器をセットし、規格形カサ比重測定器(筒井理化学機器(株)製 JIS K-6720 塩化ビニール用)のロートからエチレン系重合体粒子を充填した。SUS容器上の余分なエチレン系重合体粒子をヘラで落として正確に100mLに調製して再度質量を測定し、かさ密度を算出した。
【0098】
(融点)
示差走査熱量測定器(TA Instruments社製 Discovery DSC2500)を用いて、窒素雰囲気下試料(約5mg)を(1)10℃/分で30℃から200℃まで昇温して10分間保持し、(2)10℃/分で30℃まで冷却して30℃で1分間保持した後、(3)10℃/分で200℃まで昇温させた。前記(1)の昇温過程における結晶溶融ピークのピーク頂点の温度を融点とした。
【0099】
[架橋エチレン系重合体粒子(架橋粒子)の物性測定]
以下の実施例において、架橋粒子のゲル分率は、下記の方法に拠って測定した。なお、架橋粒子の比表面積および融点は、前記未照射粒子と同様の方法に拠って測定した。
【0100】
(ゲル分率)
架橋粒子のゲル分率は、ソックスレー抽出機を用いて、金属メッシュの金網中に試料を約25mg装入し、145℃のo-ジクロロベンゼン中で2時間抽出を行い、金網内に残存した試料の質量から、下記式で算出した。
ゲル分率(%)=(金網内に残存した試料[g]/仕込み量[g])×100
【0101】
[成形体の物性測定]
以下の実施例において、成形体の摩耗量は下記の方法に拠って測定した。
【0102】
(摩耗量)
往復摩耗試験機(新東科学(株)製 学振形摩耗試験機I型)を用いて、成形体(長さ10cm、幅6mm、厚さ2mm)の表面にガラス摩耗子(U字、幅20mm、高さ30mm、厚み4.5mm)を接触させ、このガラス摩耗子に3kgの荷重をかけて、100mmのストローク、往復30回/分の試験速度で、成形体の長さ方向に往復5,000回の摺動試験を行い、成形体の試験前後の質量を測定し、摩耗量(mg)を算出した。
【0103】
[製造例1]
≪エチレン系重合体粒子の製造≫
<成分(i)の調製>
充分に窒素置換した撹拌機付き1Lガラス容器に、無水塩化マグネシウム66.1g(0.694mol)、脱水デカン246gおよび2-エチルヘキシルアルコール271g(2.08mol)を装入し、145℃で4時間反応を行い、Mg原子換算で1.0mol/Lの均一透明な成分(i')を得た。
前記成分(i')を脱水デカンで希釈し、Mg原子換算で0.25mol/Lの均一透明な成分(i)を得た。
【0104】
<エチレン重合>
充分に窒素置換した撹拌機付き容量1.6mの反応器に脱水デカン721kg、トリイソブチルアルミニウムをAl原子換算で2.7mol装入した。60℃に昇温後、前記成分(i)をMg原子換算で0.86mol装入して15分間撹拌した。その後40℃まで冷却し、反応器内圧が0.1MPaGになるまでエチレンガスを吹き込んだ。次いで下記遷移金属化合物(B-1)をTi原子換算で4.3mmolを装入し、次いでアデカプルロニック(登録商標)L-71((株)ADEKA製)を5.8g、水素を2.7NL装入した後、全圧が0.6MPaGとなるようにエチレンガスを供給しながら、50℃で117分間重合反応を行った。重合終了後、デカンでろ過洗浄し、ヘキサン洗浄後80℃で18時間減圧乾燥し、52.5kgのエチレン系重合体粒子を得た。得られたエチレン系重合体粒子(未照射粒子)について、前記方法に従い、各種物性の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0105】
【化5】
【0106】
[実施例1]
≪架橋エチレン系重合体粒子の製造≫
<放射線(電子線)の照射>
製造例1で得られたエチレン系重合体粒子を、アルミチャック袋に脱酸素剤とともに封入した。均一に電子線を照射するため、エチレン系重合体粒子および脱酸素剤を封入した袋の厚さは2cm以下となるように均した。前記試料入り袋に対して、無酸素下で、加速電圧2MeVとし、照射線量50kGyとなるように電子線を照射して、架橋エチレン系重合体粒子を得た。照射線量は、前記アルミチャック袋に線量計(富士フィルム(株)製 FTR-125)を装着し測定した。得られた架橋エチレン系重合体粒子(架橋粒子)について、前記方法に従い、各種物性の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0107】
≪成形体の作製≫
キャピラログラフ1D((株)東洋精機製作所製)を用いて、得られた架橋エチレン系重合体粒子をシリンダー内にセットした後、押出温度を130℃とし、押出速度100mm/分で、凹型テーパー形状の絞りダイ金型を通過させることによって、押出成形体(長さ10cm、幅6mm、厚さ2mm)を作製した。凹型テーパー形状の絞りダイ金型は、入り口断面積は0.79cm、出口断面積(長方形)は0.12cm、長さは3cmであった。シリンダー直径は1cm、シリンダー断面積は絞りダイ金型入り口断面積と同じ0.79cmであった。得られた成形体について、前記方法に従い摩耗試験を実施した。結果を表1に示す。
【0108】
[実施例2および3]
実施例1において、表1に記載の照射線量となるように電子線を照射したこと以外は、実施例1と同様にして架橋エチレン系重合体粒子および成形体を得た。得られた架橋粒子および成形体について、前記方法に従い各種物性の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0109】
[比較例1]
≪成形体の作製≫
実施例1において、得られたエチレン系重合体粒子に対して、放射線(電子線)の照射を実施しなかった、すなわち、成形体の作製に電子線未照射のエチレン系重合体粒子を用いたこと以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。得られた成形体について、前記方法に従い摩耗量の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
電子線照射を実施しなかった、未架橋の未照射粒子を用いた成形体(比較例1)は、架橋粒子を用いた成形体(実施例1~3)に比べて、摩耗量が多い結果となった。