(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133178
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置及び増幅装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
A61B5/055 350
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031340
(22)【出願日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2022036537
(32)【優先日】2022-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 昂佑
(72)【発明者】
【氏名】村上 満幸
(72)【発明者】
【氏名】酒光 葵
(72)【発明者】
【氏名】山木 裕文
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AB42
4C096AD10
4C096CC32
4C096CC37
(57)【要約】
【課題】磁気共鳴イメージング装置の高周波増幅器とRFコイルとの間に大電力用アイソレータを設けることなく、負荷変動の影響を抑制できるようにする。
【解決手段】一実施形態の磁気共鳴イメージング装置は、被検体にラーモア周波数のRF信号を照射するRFコイルと、前記RF信号を増幅し、増幅された前記RF信号を、前記RFコイル及び前記被検体を少なくとも含んで構成される負荷に供給する増幅装置と、を備え、前記増幅装置は、並列に設けられた2つの増幅回路と、インピーダンス変換回路と、を備え、前記インピーダンス変換回路は、一方の増幅回路の出力端から前記負荷を見たリアクタンスの極性と、他方の増幅器の出力端から前記負荷を見たリアクタンスの極性が互いに逆極性となるように、前記一方の増幅回路と前記他方の増幅回路のいずれか一方の出力端と前記負荷との間に設けられる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体にラーモア周波数のRF(Radio Frequency)信号を照射するRFコイルと、
前記RF信号を増幅し、増幅された前記RF信号を、前記RFコイル及び前記被検体を少なくとも含んで構成される負荷に供給する増幅装置と、を備え、
前記増幅装置は、
並列に設けられた2つの増幅回路と、
インピーダンス変換回路と、
を備え、
前記インピーダンス変換回路は、一方の増幅回路の出力端から前記負荷を見たリアクタンスの極性と、他方の増幅器の出力端から前記負荷を見たリアクタンスの極性が互いに逆極性となるように、前記一方の増幅回路と前記他方の増幅回路のいずれか一方の出力端と前記負荷との間に設けられる、
磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記増幅装置は、
入力信号を第1入力信号と第2入力信号に分配する分配器と、
前記第1入力信号を増幅する少なくとも1つの第1増幅回路と、
前記第2入力信号を増幅する少なくとも1つの第2増幅回路と、
前記第1増幅回路から出力される第1出力信号と、前記第2増幅回路から出力される第2出力信号とを合成し、合成された信号を前記RF信号として前記RFコイルに供給する合成器と、
を備え、
前記分配器と前記第1増幅回路の入力端との間には、第1の4分の1波長伝送路が設けられ、
前記第2増幅回路の出力端と前記合成器との間には、前記インピーダンス変換回路として、第2の4分の1波長伝送路が設けられる、
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記負荷が誘導性の場合、前記第1増幅回路の出力端から見た前記負荷は誘導性である一方、前記第2増幅回路の出力端から見た前記負荷は容量性であり、
前記負荷が容量性の場合、前記第1増幅回路の出力端から見た前記負荷は容量性である一方、前記第2増幅回路の出力端から見た前記負荷は誘導性である、
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記第2の4分の1波長伝送路は、前記第2増幅回路の出力端から前記負荷側を見たインピーダンスが、前記第1増幅回路の出力端から前記負荷側を見たインピーダンスに対して180度の位相差を生じさせる、
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
(a)前記第1増幅回路は、複数の第1増幅回路を備える、及び、
(b)前記第2増幅回路は、複数の第2増幅回路を備える、
の少なくとも一方である、
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記分配器と前記第1増幅回路の間に設けられる第1可変移相器と、
前記分配器と前記第2増幅回路の間に設けられる第2可変移相器と、
前記第1出力信号が入力される前記合成器の第1の入力端における第1位相と、前記第2出力信号が入力される前記合成器の第2の入力端における第2位相とが同一の位相となるように、前記第1可変移相器と前記第2可変移相器とをフィードバック制御する位相制御回路と、
をさらに備える請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
被検体に照射するラーモア周波数のRF(Radio Frequency)信号を増幅し、増幅された前記RF信号を、RFコイル及び前記被検体を少なくとも含んで構成される負荷に供給する増幅装置であって、
並列に設けられた2つの増幅回路と、
インピーダンス変換回路と、
を備え、
前記インピーダンス変換回路は、一方の増幅回路の出力端から前記負荷を見たリアクタンスの極性と、他方の増幅器の出力端から前記負荷を見たリアクタンスの極性が互いに逆極性となるように、前記一方の増幅回路と前記他方の増幅回路のいずれか一方の出力端と前記負荷との間に設けられる、
増幅装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、磁気共鳴イメージング装置及び増幅装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング装置は、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをラーモア周波数の高周波(RF:Radio Frequency)信号で励起し、励起に伴って被検体から発生する磁気共鳴信号(MR(Magnetic Resonance)信号)を再構成して画像を生成する撮像装置である。
【0003】
被検体への高周波信号の照射は、例えば、WB(Whole Body)コイルと呼ばれる円筒状のRFコイルで囲まれた空間内に被検体を置き、高周波増幅器で増幅された大電力の高周波信号をRFコイルに印加することによって行われる。
【0004】
このような環境では、高周波増幅器の負荷は、RFコイルだけでなく、被検体も含まれる。つまり、RFコイルの内側に置かれる被検体の体格や、姿勢、RFコイルに対する被検体の相対的な位置関係、或いは、被検体の体動等、RFコイル以外の要因によって、高周波増幅器の負荷は変動することになる。例えば、RFコイル以外の被検体に関連する要因により、高周波増幅器の負荷が、抵抗性負荷だけでなく、誘導性負荷になったり、容量性負荷になったりと、様々な変動を示すことが知られている。
従来、このような負荷変動の影響を抑制するため、高周波増幅器の出力端とRFコイルの間に、大電力用アイソレータが設けられている。
【0005】
しかしながら、大電力用アイソレータは、物理的なサイズが大きく、高価格でもある。また、大電力用アイソレータは、その最大出力に制限があり、このため、高周波増幅器の出力特性に影響を与えることになっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の1つは、磁気共鳴イメージング装置の高周波増幅器とRFコイルとの間に大電力用アイソレータを設けることなく、負荷変動の影響を抑制できるようにすることである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限らない。後述する各実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置付けることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態の磁気共鳴イメージング装置は、被検体にラーモア周波数のRF信号を照射するRFコイルと、前記RF信号を増幅し、増幅された前記RF信号を、前記RFコイル及び前記被検体を少なくとも含んで構成される負荷に供給する増幅装置と、を備え、前記増幅装置は、並列に設けられた2つの増幅回路と、インピーダンス変換回路と、を備え、前記インピーダンス変換回路は、一方の増幅回路の出力端から前記負荷を見たリアクタンスの極性と、他方の増幅器の出力端から前記負荷を見たリアクタンスの極性が互いに逆極性となるように、前記一方の増幅回路と前記他方の増幅回路のいずれか一方の出力端と前記負荷との間に設けられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の全体構成例を示す構成図。
【
図2】実施形態の磁気共鳴イメージング装置と増幅装置との関係を示すブロック図。
【
図3】第1の実施形態に係る増幅装置の構成例を示すブロック図。
【
図4】従来の増幅装置の構成とその課題を説明する第1の図。
【
図5】従来の増幅装置の構成とその課題を説明する第2の図。
【
図6】負荷が誘導性の場合における増幅装置の作用効果を説明する図。
【
図7】負荷が容量性の場合における増幅装置の作用効果を説明する図。
【
図8】第1の実施形態の変形例に係る増幅装置の構成例を示すブロック図。
【
図9】第2の実施形態に係る増幅装置の構成例を示すブロック図。
【
図10】第3の実施形態に係る増幅器の構成例を示すブロック図。
【
図11】λ/4伝送路をLC回路で実現した回路例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置と増幅装置を、添付図面に基づいて説明する。
【0011】
(磁気共鳴イメージング装置)
図1は、実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1の全体構成例を示すブロック図である。実施形態の磁気共鳴イメージング装置1は、磁石架台100、制御キャビネット300、コンソール400、寝台500等を備えて構成される。
【0012】
磁石架台100は、静磁場磁石10、傾斜磁場コイル11、RFコイル12等を有しており、これらの構成品は円筒状の筐体に収納されている。寝台500は、寝台本体50と天板51を有している。また、磁気共鳴イメージング装置1は、被検体に近接して配設されるローカルコイル20を有している。
【0013】
制御キャビネット300は、傾斜磁場電源31(X軸用31x、Y軸用31y、Z軸用31z)、RF受信器32、RF送信器33、及びシーケンスコントローラ34を備えている。
【0014】
磁石架台100の静磁場磁石10は、概略円筒形状をなしており、被検体(例えば、患者)の撮像領域であるボア(即ち、静磁場磁石10の円筒内部の空間)内に静磁場を発生させる。静磁場磁石10は超電導コイルを内蔵し、液体ヘリウムによって超電導コイルが極低温に冷却されている。静磁場磁石10は、励磁モードにおいて静磁場用電源(図示せず)から供給される電流を超電導コイルに印加することで静磁場を発生し、その後、永久電流モードに移行すると、静磁場用電源は切り離される。一旦永久電流モードに移行すると、静磁場磁石10は長時間、例えば1年以上に亘って、大きな静磁場を発生し続ける。なお、静磁場磁石10を永久磁石として構成しても良い。
【0015】
傾斜磁場コイル11も概略円筒形状をなし、静磁場磁石10の内側に固定されている。この傾斜磁場コイル11は、傾斜磁場電源(31x、31y、31z)から供給される電流によりX軸,Y軸,Z軸の方向に傾斜磁場を被検体に印加する。
【0016】
寝台500の寝台本体50は天板51を上下方向に移動可能であり、撮像前に天板51に載った被検体を所定の高さまで移動させる。その後、撮影時には天板51を水平方向に移動させて被検体をボア内に移動させる。
【0017】
RFコイル12はWB(Whole Body)コイル、或いは、バードケージコイルとも呼ばれる。RFコイル12は、傾斜磁場コイル11の内側に被検体を取り囲むように概略円筒形状に固定されている。RFコイル12は、RF送信器33から伝送されるRFパルスを被検体に向けて送信する一方、水素原子核の励起によって被検体から放出される磁気共鳴信号を受信する。
【0018】
ローカルコイル20は、被検体から放出される磁気共鳴信号を被検体に近い位置で受信する。ローカルコイル20は、例えば、複数の要素コイルから構成される。ローカルコイル20は、被検体の撮像部位に応じて、頭部用、胸部用、脊椎用、下肢用、或いは全身用など種々のタイプがあるが、
図1では胸部用のローカルコイル20を例示している。
【0019】
RF送信器33は、シーケンスコントローラ34からの指示に基づいて、RFコイル12にRFパルスを送信する。RF送信器33は、後述する増幅装置を含んでいる。一方、RF受信器32は、RFコイル12やローカルコイル20によって受信された磁気共鳴信号を検出し、検出した磁気共鳴信号をデジタル化して得られる生データをシーケンスコントローラ34に送る。
【0020】
シーケンスコントローラ34は、コンソール400による制御のもと、傾斜磁場電源31、RF送信器33およびRF受信器32をそれぞれ駆動することによって被検体のスキャンを行う。そして、シーケンスコントローラ34は、スキャンを行ってRF受信器32から生データを受信すると、その生データをコンソール400に送る。
【0021】
シーケンスコントローラ34は、処理回路(図示を省略)を具備している。この処理回路は、例えば所定のプログラムを実行するプロセッサや、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアで構成される。
コンソール400は、処理回路40、記憶回路41、ディスプレイ42、及び入力デバイス43を有するコンピュータとして構成されている。
【0022】
記憶回路41は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)の他、HDD(Hard Disk Drive)や光ディスク装置等の外部記憶装置を含む記憶媒体である。記憶回路41は、各種の情報やデータを記憶する他、処理回路40が具備するプロセッサが実行する各種のプログラムを記憶する。
【0023】
入力デバイス43は、例えば、マウス、キーボード、トラックボール、タッチパネル等であり、各種の情報やデータを操作者が入力するための種々のデバイスを含む。ディスプレイ42は、液晶ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル、有機ELパネル等の表示デバイスである。
【0024】
処理回路40は、例えば、CPUや、専用又は汎用のプロセッサを備える回路である。プロセッサは、記憶回路41に記憶した各種のプログラムを実行することによって、後述する各種の機能を実現する。処理回路40は、FPGAやASIC等のハードウェアで構成してもよい。これらのハードウェアによっても後述する各種の機能を実現することができる。また、処理回路40は、プロセッサとプログラムによるソフトウェア処理と、ハードウェア処理とを組み合わせて、各種の機能を実現することもできる。
【0025】
これらの各構成品によって、コンソール400は、磁気共鳴イメージング装置1全体を制御する。具体的には、検査技師等の操作者による、マウスやキーボード等(入力デバイス43)の操作によって撮像条件その他の各種情報や指示を受け付ける。そして、処理回路40は、入力された撮像条件に基づいてシーケンスコントローラ34にスキャンを実行させる一方、シーケンスコントローラ34から送信された生データに基づいて画像を再構成する。再構成された画像はディスプレイ42に表示され、或いは記憶回路41に保存される。
【0026】
(増幅装置の第1の実施形態)
図2は、実施形態の磁気共鳴イメージング装置1と増幅装置60との関係を示すブロック図である。前述したように、RF送信器33は、シーケンスコントローラ34からの指示に基づいて、RFコイル12にRFパルスを出力する。
【0027】
RF送信器33は、
図2に示したように、RF送信器33は、RF送信波生成装置35と増幅装置60とを少なくとも備えて構成されている。RF送信波生成装置35から指示されるパルスシーケンスの各種パラメータに基づいて、ラーモア周波数帯のRFパルス列を、RF送信波として生成する。
【0028】
増幅装置60は、生成されたRF送信波を所定の大電力に増幅し、RFコイル12に出力する。RFコイル12は、例えば、円筒形状のWBコイルであり、RFコイル12の内部空間には、撮像対象である被検体Pが置かれている。したがって、増幅装置60の負荷80は、RFコイル12だけでなく被検体Pも含まれる。このため、RFコイル12と増幅装置60との間で負荷整合をとったとしても、RFコイル12の内部空間に被検体Pが載置されることにより、実効上の負荷が変化するため、負荷不整合の状態が起こり得る。
【0029】
また、実効上の負荷は、被検体Pに関連する要因、例えば、被検体Pの体格や、姿勢、RFコイル12に対する被検体の相対的な位置関係、或いは、被検体の体動等によって変動し得る。したがって、増幅装置60の負荷は、抵抗性負荷(例えば、50オーム)だけでなく、リアクタンス成分を持ちうる。この場合、リアクタンス成分の大きさや極性も被検体Pに関連する要因で変化することになり、リアクタンス成分の極性が正の場合は誘導性負荷となり、リアクタンス成分の極性が負の場合は容量性負荷となる。
【0030】
図3は、第1の実施形態に係る増幅装置60の構成例を示す図である。増幅装置60は、分配器61、第1の4分の1波長伝送路64(以下、第1λ/4伝送路64と呼ぶ)、第1増幅回路62A、第2増幅回路62B、第2の4分の1波長伝送路65(以下、第2λ/4伝送路65と呼ぶ)、及び、合成器63を備えて構成されている。
【0031】
分配器61は、RF送信波生成装置35から出力される入力信号RFinを、第1入力信号と第2入力信号に分配する。第1増幅回路62Aは第1入力信号を増幅する。分配器61と第1増幅回路62Aの入力端との間には第1λ/4伝送路64が設けられている。
【0032】
第2増幅回路62Bは第2入力信号を増幅する。合成器63は、第1増幅回路62Aから出力される第1出力信号と、第2増幅回路62Bから出力される第2出力信号とを合成し、合成された信号を負荷80に出力する。第2λ/4伝送路65は、第2増幅回路62Bの出力端と合成器63との間に設けられている。後述するように、第2λ/4伝送路65は、インピーダンス変換回路として機能する。
【0033】
入力信号を分配器61で2系統に分配し、第1増幅回路62Aと第2増幅回路62Bの2つの増幅回路で増幅した後に合成することにより、1つの増幅回路では得られない大電力の高周波信号を負荷80に供給できるようにしている。
【0034】
一方、第1λ/4伝送路64と第2λ/4伝送路65は、負荷変動による影響を抑制するために設けられており、実施形態の増幅装置60の特徴的な構成である。
上記のように構成された増幅装置60の作用効果を説明する前に、
図4及び
図5を用いて、従来の増幅装置の構成と、その課題を説明する。
【0035】
図4(a)は、従来の増幅装置(比較例(1))の構成を示すブロック図である。
図4と
図3を対比してわかるように、比較例(1)の増幅装置は、第1λ/4伝送路64及び第2λ/4伝送路65を有していない。
【0036】
前述したように、磁気共鳴イメージング装置1では、撮像対象である被検体に関連する要因により、増幅装置の負荷は、抵抗性負荷だけでなく、誘導性負荷や容量性負荷に変化し得る。このような負荷変動により負荷不整合の状態が発生し、その結果、負荷から各増幅回路の出力端に向かう反射信号が発生する。
【0037】
一方、負荷不整合、或いは、反射信号の影響により、増幅回路の出力特性が変化することが知られている。特に、増幅回路の出力端から負荷側を見たときのインピーダンスが、誘導性か容量性かによって、増幅回路の出力特性が変化することが知られている。
【0038】
図4(b)及び
図4(c)は、負荷不整合の状態による増幅回路の出力特性の変化を模式的に示したものである。
図4(b)は、負荷80が誘導性の場合における増幅回路の入出力特性を示した図である。負荷80が誘導性の場合は、抵抗性負荷のときに比べて、増幅回路の利得が増加する傾向を示す。
【0039】
一方、
図4(c)は、負荷80が容量性の場合における増幅回路の入出力特性を示した図である。負荷80が容量性の場合は、抵抗性負荷のときに比べて、増幅回路の利得が低下する傾向を示す。このように、負荷80が誘導性であるのか、容量性であるのかによって、増幅回路の利得の変化の方向(即ち、増加方向か低下方向か)が逆になることが知られている。
【0040】
このように、負荷80が変動することによって増幅回路の利得が変化する、或いは、増幅回路の出力電力が変化すると、意図した値の電力を負荷80に供給することができないため、不都合である。
【0041】
図5は、このような不都合を回避するために、負荷80と合成器の間にアイソレータを設けた従来の増幅装置(比較例(2))の構成を示すブロック図である。この比較例(2)では、負荷80が変動して負荷不整合の状態が発生しても反射信号がアイソレータで吸収されるため、反射信号は各増幅回路の出力端まで到達しない。このため、上述した不都合は発生しない。
【0042】
しかしながら、前述したように、大電力用アイソレータは、物理的なサイズが大きく、高価格でもある。また、大電力用アイソレータは、その最大出力に制限があり、このため、増幅回路の出力特性に影響を与える可能性もある。
【0043】
そこで、実施形態の増幅装置60では、第1λ/4伝送路64と第2λ/4伝送路65とを設けることにより、大電力用アイソレータを設けることなく、負荷変動の影響を抑制できるようにしている。以下、この作用効果について、
図6及び
図7を用いて説明する。
【0044】
図6は、負荷80が誘導性の場合における増幅装置60の作用効果を説明する図である。
図6(a)に示す増幅装置60の構成は、
図3に示した構成と同じである。負荷80が誘導性の場合、第1増幅回路62Aの出力端から負荷側を見たインピーダンスは、負荷80のインピーダンスと実質的に同じとなり、誘導性となる。
【0045】
図6(b)は、第1増幅回路62Aの入出力特性を示す図である。第1増幅回路62Aの出力端から負荷側を見たインピーダンスが誘導性の場合、前述したように、第1増幅回路62Aの利得は、負荷80が抵抗性の場合に対して増加する傾向となる。
【0046】
一方、第2増幅回路62Bの出力端と合成器63との間には、第2λ/4伝送路65が設けられている。第2λ/4伝送路65はインピーダンス変換回路として機能する。つまり、第2λ/4伝送路65は、第2λ/4伝送路65と合成器63の間の点から負荷側を見たインピーダンスと、第2λ/4伝送路65と第2増幅回路62Bの間の点から負荷側を見たインピーダンスとを異ならせる機能を有している。より具体的には、第2λ/4伝送路65を第2増幅回路62Bと合成器63との間に設けたことにより、第2増幅回路62Bの出力端から負荷側を見たインピーダンスのリアクタンス成分の極性と、第1増幅回路62Aの出力端から負荷側を見たインピーダンスのリアクタンス成分の極性とを互いに逆極性にすることが可能となる。
【0047】
言い換えると、第2λ/4伝送路65は、第2増幅回路62Bの出力端から負荷側を見たインピーダンスが、第1増幅回路62Aの出力端から負荷側を見たインピーダンスに対して180度の位相差を生じさせる効果をもつ。
【0048】
したがって、負荷80が誘導性(即ち、負荷80のリアクタンス成分の極性が正)の場合、第2増幅回路62Bの出力端から負荷側を見たインピーダンスは容量性(即ち、負荷80のリアクタンス成分の極性が負)になる。
【0049】
図6(c)は、第2増幅回路62Bの入出力特性を示す図である。第2増幅回路62Bの出力端から負荷側を見たインピーダンスが容量性の場合、前述したように、第2増幅回路62Bの利得は、負荷80が抵抗性の場合に対して低下する傾向となる。
【0050】
図6(d)は、第1増幅回路62Aの出力と第2増幅回路62Bの出力の合成出力(即ち、合成器63の出力)の特性を例示する図である。合成器63の出力では、第2増幅回路62Bの利得の低下が、第1増幅回路62Aの利得の増加で補完されることになる。この結果、増幅装置60が、あたかも抵抗性負荷に電力を供給しているような振る舞いを示すようになる。
【0051】
なお、第1増幅回路62Aと分配器61との間に設けられている第1λ/4伝送路64は、分配器61によって分割された2つの高周波信号の位相が、合成器63の2つの入力端において同一位相とするための位相調整回路である。
【0052】
図7は、
図6とは逆に、負荷80が容量性の場合における増幅装置60の作用効果を説明する図である。負荷80が容量性の場合、第1増幅回路62Aの出力端から負荷側を見たインピーダンスは、負荷80のインピーダンスと実質的に同じとなり、容量性となる。
【0053】
図7(b)は、第1増幅回路62Aの入出力特性を示す図である。第1増幅回路62Aの出力端から負荷側を見たインピーダンスが容量性の場合、
図6(b)とは逆に、第1増幅回路62Aの利得は、負荷80が抵抗性の場合に対して低下する傾向となる。
【0054】
一方、第2増幅回路62Bの出力端と合成器63との間には、インピーダンス変換回路としての第2λ/4伝送路65が設けられている。このため、負荷80が容量性(即ち、負荷80のリアクタンス成分の極性が負)の場合、第2増幅回路62Bの出力端から負荷側を見たインピーダンスは誘導性(即ち、負荷80のリアクタンス成分の極性が正)になる。
【0055】
図7(c)は、第2増幅回路62Bの入出力特性を示す図である。第2増幅回路62Bの出力端から負荷側を見たインピーダンスが誘導性の場合、第2増幅回路62Bの利得は、負荷80が抵抗性の場合に対して増加する傾向となる。
【0056】
図7(d)は、第1増幅回路62Aの出力と第2増幅回路62Bの出力の合成出力(即ち、合成器63の出力)の特性を例示する図である。合成器63の出力では、第1増幅回路62Aの利得の低下が、第2増幅回路62Bの利得の増加で補完されることになる。この結果、増幅装置60が、あたかも抵抗性負荷に電力を供給しているような振る舞いを示すようになる。
【0057】
上述したように、実施形態の増幅装置60では、インピーダンス変換回路としての第2λ/4伝送路65を、第2増幅回路62Bと合成器63との間に設けている。この結果、負荷80が誘導性や容量性に変動した場合であっても、負荷80があたかも抵抗性負荷であるように振舞わせることが可能となり、増幅装置60の利得変動を抑制し、安定した入出力特性を提供することが可能となる。
【0058】
(変形例)
図8は、第1の実施形態の変形例に係る増幅装置60の構成例を示すブロック図である。この変形例では、
図8に示すように、複数の(例えば2つの)第1増幅回路62Aと、複数の(例えば2つの)第2増幅回路62Bを備える構成となっている。このような構成により、上述した第1の実施形態の効果を維持しつつ、増幅装置60の出力電力を増加させることができる。
【0059】
なお、第1増幅回路62Aと第2増幅回路62Bのそれぞれの数は、
図8に示した例に限定されない。例えば、第1増幅回路62Aの数を2のままとし、第2増幅回路62Bの数を1としてもよい。また例えば、第1増幅回路62Aの数を3以上とし、第2増幅回路62Bの数も3以上としてもよい。
【0060】
(増幅装置の第2の実施形態)
図9は、第2の実施形態に係る増幅装置60の構成例を示すブロック図である。第2の実施形態に係る増幅装置60は、第1の実施形態の構成に加えて、第1可変移相器67A、第2可変移相器67B、及び、位相制御回路を少なくとも備えて構成されている。位相制御回路は、例えば、第1位相制御回路69A、第2位相制御回路69B、カプラ66、カプラ68A、カプラ68Bを備えて構成されている。
【0061】
第1可変移相器67Aは、分配器61と第1増幅回路62Aの間に設けられ、分配器61から第1増幅回路62Aを経由して合成器63へ至る経路における高周波信号の位相を調整する。一方、第2可変移相器67Bは分配器61と第2増幅回路62Bの間に設けられ、分配器61から第2増幅回路62Bを経由して合成器63へ至る経路における高周波信号の位相を調整する。
【0062】
位相制御回路は、第1増幅回路62Aの出力信号(第1出力信号)が入力される合成器の63の入力端(第1の入力端)における第1位相と、第2増幅回路62Bの出力信号(第2出力信号)が入力される合成器63の入力端(第2の入力端)における第2位相とが同一の位相となるように、第1可変移相器67Aと第2可変移相器67Bとをフィードバック制御する。
【0063】
より具体的には、位相制御回路の第1位相制御回路69Aと第2位相制御回路69Bは、どちらも位相検出器を内蔵しており、それぞれの位相検出器で検出される位相が同一となるように、第1可変移相器67Aと第2可変移相器67Bの夫々の移相量を制御することで、合成器63に入力される2つの高周波信号の位相を同一にすることができる。
【0064】
このような位相制御により、第1増幅回路62Aや第2増幅回路62Bの夫々の通過位相が熱等の要因で変化した場合でも、合成器63に入力される2つの高周波信号の位相を同一にすることが可能となり、合成出力を最大値に維持することができる。
【0065】
(増幅回路の第3の実施形態)
図10は、第3の実施形態に係る増幅装置60の構成例を示すブロック図である。第1、第2の実施形態では、第1λ/4伝送路64、第2λ/4伝送路65は、1/4波長に相当する長さの線路で構成されている。これに対して、第3の実施形態では、第1λ/4伝送路64、第2λ/4伝送路65を、
図10に示すように、キャパシタCとインダクタLで構成されたLC回路64、65で構成されている。
このようなLC回路64、65によっても、第1λ/4伝送路64、第2λ/4伝送路65と同様に、1/4波長、即ち、90°の位相シフトが可能であり、第1λ/4伝送路64、第2λ/4伝送路65と同様の効果を得ることができる。
図11は、上述したLC回路64、65のいくつかの変形例を示す図である。
図11(a)は、2つのキャパシタCの間にインダクタLが配置されたπ型(C-L-C)のLC回路64、65であり、
図10に示した回路と同じものである。
図11(b)は、π型(L-C-L)のLC回路64、65、
図11(c)は、T型(L-C-L)のLC回路64、65、
図11(d)は、T型(C-L-C)のLC回路64、65、を夫々示している。これらのLC回路64、65によっても、第1λ/4伝送路64、第2λ/4伝送路65と同様の効果を得ることができる。
以上説明してきたように、実施形態の磁気共鳴イメージング装置は、磁気共鳴イメージング装置の高周波増幅器とRFコイルとの間に大電力用アイソレータを設けることなく、負荷変動の影響を抑制できる。
【0066】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0067】
1 磁気共鳴イメージング装置
12 RFコイル
33 RF送信器
60 増幅装置
61 分配器
62A 第1増幅回路
62B 第2増幅回路
63 合成器
64 第1λ/4伝送路
65 第2λ/4伝送路(インピーダンス変換回路)
67A 第1可変移相器
67B 第2可変移相器
69A 第1位相制御回路
69B 第2位相制御回路