(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133183
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】複合材、複合材の製造方法および端子
(51)【国際特許分類】
C25D 15/02 20060101AFI20230914BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20230914BHJP
C25D 3/46 20060101ALI20230914BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C25D15/02 F
C25D15/02 L
C25D15/02 M
C25D7/00 H
C25D3/46
H01R13/03 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031966
(22)【出願日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2022037084
(32)【優先日】2022-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】土井 龍大
(72)【発明者】
【氏名】平山 愛梨
(72)【発明者】
【氏名】成枝 宏人
(72)【発明者】
【氏名】冨谷 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】小谷 浩隆
(72)【発明者】
【氏名】加藤 有紀也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 裕貴
【テーマコード(参考)】
4K023
4K024
【Fターム(参考)】
4K023AA04
4K023AA24
4K023AB38
4K023CA09
4K024AB02
4K024AB12
4K024BA09
4K024BB10
4K024GA02
4K024GA03
(57)【要約】
【課題】銀層中に炭素粒子を含有する複合皮膜が素材上に形成された複合材であって、耐摩耗性に優れるとともに、曲げ加工時の複合皮膜(AgC層)からの銀の脱落が抑制された複合材およびその製造方法、並びに、当該複合材を用いた電気接点用の端子を提供すること。
【解決手段】炭素粒子を含有する銀層からなる複合皮膜が素材上に形成されてなる複合材であって、前記複合皮膜の銀の結晶子サイズが30nm以下であり、前記複合皮膜の算術平均粗さRa(μm)を、前記複合皮膜の厚さ(μm)で除した値が0.2未満であり、前記複合皮膜の表面における炭素粒子が占める割合が5面積%以上80面積%以下である複合材を提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素粒子を含有する銀層からなる複合皮膜が素材上に形成されてなる複合材であって、
前記複合皮膜の銀の結晶子サイズが30nm以下であり、
前記複合皮膜の算術平均粗さRa(μm)を、前記複合皮膜の厚さ(μm)で除した値が0.2未満であり、
前記複合皮膜の表面における炭素粒子が占める割合が5面積%以上80面積%以下である、複合材。
【請求項2】
前記素材がCu又はCu合金で構成されている、請求項1に記載の複合材。
【請求項3】
前記複合皮膜の表面のビッカース硬度が100以上である、請求項1または2に記載の複合材。
【請求項4】
前記複合皮膜の厚さが0.5μm以上45μm以下である、請求項1または2に記載の複合材。
【請求項5】
前記複合皮膜の算術平均粗さRaが1.8μm以下である、請求項1または2に記載の複合材。
【請求項6】
前記複合皮膜の銀の結晶子サイズが2~20nmである、請求項1または2に記載の複合材。
【請求項7】
前記素材と前記複合皮膜との間にCu、Ni、Sn、Agから選択される下地層が形成されている、請求項1または2に記載の複合材。
【請求項8】
炭素粒子を含む銀めっき液中で電気めっきを行うことにより、炭素粒子を含有する銀層からなる複合皮膜を素材上に形成する、複合材の製造方法であって、
前記炭素粒子が、ポリマーで表面処理されており、
前記銀めっき液が、前記表面処理された炭素粒子及び下記一般式(I)で表される化合物Aを含有する、複合材の製造方法。
【化1】
(一般式(I)において、mは1~5の整数であり、
Raは、カルボキシル基であり、
Rbは、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基又はスルホン酸基であり、
Rcは、水素又は任意の置換基であり、
mが2以上の場合、複数存在するRbは互いに同一であっても異なっていてもよく、
mが3以下の場合、複数存在するRcは互いに同一であっても異なっていてもよく、
Ra及びRbはそれぞれ独立に、-O-及び-CH
2-からなる群より選ばれる少なくとも一種で構成される2価の基を介してベンゼン環と結合していてもよい。)。
【請求項9】
前記ポリマーがカチオン性ポリマー、アニオン性ポリマー又はノニオン性ポリマーである、請求項8に記載の複合材の製造方法。
【請求項10】
前記カチオン性ポリマーが、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)及びジアリルアミン塩酸塩・アクリルアミド共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項9に記載の複合材の製造方法。
【請求項11】
前記カチオン性ポリマーの重量平均分子量が1000以上15万以下である、請求項9または10に記載の複合材の製造方法。
【請求項12】
前記アニオン性ポリマーが多価フェノール縮合物誘導体であり、該縮合物誘導体はヒドロキシル基およびスルホ基を有する、請求項9に記載の複合材の製造方法。
【請求項13】
前記アニオン性ポリマーの重量平均分子量が1000以上5万以下である、請求項9または12に記載の複合材の製造方法。
【請求項14】
前記ノニオン性ポリマーがポリアクリルアミドである、請求項9に記載の複合材の製造方法。
【請求項15】
前記ノニオン性ポリマーの重量平均分子量が1000以上1000万以下である、請求項9または14に記載の複合材の製造方法。
【請求項16】
前記炭素粒子100質量部に対するポリマーの使用量が10~150質量部である、請求項8又は9に記載の複合材の製造方法。
【請求項17】
前記銀めっき液中の炭素粒子の濃度が10g/L以上150g/L以下である、請求項8または9に記載の複合材の製造方法。
【請求項18】
前記炭素粒子の表面処理を、前記ポリマーの存在下、水中で炭素粒子を撹拌混合することにより実施する、請求項8または9に記載の複合材の製造方法。
【請求項19】
前記素材がCu又はCu合金で構成されている、請求項8または9に記載の複合材の製造方法。
【請求項20】
請求項1または2に記載の複合材がその構成材料として用いられた、電気接点用の端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素材上に所定の複合皮膜が形成されてなる複合材およびその製造方法等に関し、特に、スイッチやコネクタなどの摺動電気接点部品などの材料として使用される複合材およびその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スイッチやコネクタなどの摺動電気接点部品などの材料として、摺動過程における加熱による銅(Cu)や銅合金などの導体素材の酸化を防止するために、導体素材に銀めっきを施した銀(Ag)めっき材が使用されている。
【0003】
しかし、銀めっきは、軟質で摩耗し易く、一般に摩擦係数が高いため、摺動により剥離し易いという問題がある。この問題を解消するため、耐磨耗性、潤滑性などに優れた黒鉛やカーボンブラックなどの炭素粒子のうち、黒鉛粒子を銀マトリクス中に分散させた複合材の皮膜を電気めっきにより導体素材上に形成して耐摩耗性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0004】
また、特許文献3には、素材上に、特定の結晶配向を持つ第1の銀めっき層と、ビッカース硬度Hvが140以上の第2の銀めっき層がこの順に形成されている、耐熱性、耐摩耗性および曲げ加工性に優れた銀めっき材が開示されている。
【0005】
出願人は、耐摩耗性に優れた複合材を提供することを目的とする研究を行って、特定の成分を含有する銀めっき液を使用して電気めっきを実施することにより、結晶子サイズが小さく、それゆえ硬度が高くて、耐摩耗性に優れた複合皮膜(AgC層)に想到し、特許文献4として開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3054628号公報
【特許文献2】特許第4806808号公報
【特許文献3】特許第5848168号公報
【特許文献4】WO2021/261066号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記の通り、特許文献4に開示された複合皮膜は、耐摩耗性に優れている。
しかしながら、本発明者らのさらなる検討によると、特許文献4に開示された技術では、前記複合皮膜の表面に銀で構成されると考えられる多くのコブ状電着組織が発生する。当該コブは周囲の組織(複合皮膜を構成する銀マトリクス)との結合が弱く、外部からの応力によって容易に脱落してしまうため、複合材のユーザーの使用時(曲げ加工など)に、コンタミとして設備を汚す可能性もある。
【0008】
本発明は上述の状況の下でなされたものであり、その解決しようとする課題は、銀層中に炭素粒子を含有する複合皮膜が素材上に形成された複合材であって、耐摩耗性に優れるとともに、曲げ加工時の複合皮膜(AgC層)からの銀の脱落が抑制された複合材およびその製造方法、並びに、当該複合材を用いた電気接点用の端子を提供することである。なお本明細書において、「耐摩耗性に優れる」とは、硬度が高く、また摩擦係数が低いことを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記コブの発生原因について研究した。炭素粒子を含む銀めっき液を使って電気めっきして複合皮膜を形成する際、銀マトリクス中に炭素粒子が巻き込まれる。銀めっき液が特許文献4のように所定の添加剤(安息香酸系の化合物)を含んでいると、当該添加剤が炭素粒子に吸着した状態でめっきが進行すると考えられる。形成されつつある複合皮膜の表面には、銀マトリクス中に巻き込まれたが一部が露出した炭素粒子が存在しているが、この炭素粒子には前記添加剤が吸着しており、その炭素粒子の露出しておりかつ添加剤が吸着した部分にAgが析出し、それが成長してコブになると考えられる。通常であれば、Agは形成されつつある銀マトリクスであるAg上に析出するが、前記炭素粒子に吸着した前記添加剤が、Ag析出の起点となると考えられる。
【0010】
上述の知見に基づき、本発明者らは、炭素粒子表面に所定の修飾を施すことで、表面にコブが少ない複合材を作製することができることに想到し(これは、銀マトリクス中に巻き込まれた炭素粒子上でのAgの析出が抑制されたことによると考えられる。)、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、上述の課題を解決する第1の発明は、
炭素粒子を含有する銀層からなる複合皮膜が素材上に形成されてなる複合材であって、
前記複合皮膜の銀の結晶子サイズが30nm以下であり、
前記複合皮膜の算術平均粗さRa(μm)を、前記複合皮膜の厚さ(μm)で除した値が0.2未満であり、
前記複合皮膜の表面における炭素粒子が占める割合が5面積%以上80面積%以下である、複合材である。
【0012】
第2の発明は、
前記素材がCu又はCu合金で構成されている、第1の発明に記載の複合材である。
【0013】
第3の発明は、
前記複合皮膜の表面のビッカース硬度が100以上である、第1または第2の発明に記載の複合材である。
【0014】
第4の発明は、
前記複合皮膜の厚さが0.5μm以上45μm以下である、第1から第3の発明のいずれかに記載の複合材である。
【0015】
第5の発明は、
前記複合皮膜の算術平均粗さRaが1.8μm以下である、第1から第4の発明のいずれかに記載の複合材である。
【0016】
第6の発明は、
前記複合皮膜の銀の結晶子サイズが2~20nmである、第1から第5の発明のいずれかに記載の複合材である。
【0017】
第7の発明は、
前記素材と前記複合皮膜との間にCu、Ni、Sn、Agから選択される下地層が形成されている、第1から第6の発明のいずれかに記載の複合材である。
【0018】
第8の発明は、
炭素粒子を含む銀めっき液中で電気めっきを行うことにより、炭素粒子を含有する銀層からなる複合皮膜を素材上に形成する、複合材の製造方法であって、
前記炭素粒子が、ポリマーで表面処理されており、
前記銀めっき液が、前記表面処理された炭素粒子及び下記一般式(I)で表される化合物Aを含有する、複合材の製造方法である。
【化1】
一般式(I)において、mは1~5の整数であり、
Raは、カルボキシル基であり、
Rbは、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基又はスルホン酸基であり、
Rcは、水素又は任意の置換基であり、
mが2以上の場合、複数存在するRbは互いに同一であっても異なっていてもよく、
mが3以下の場合、複数存在するRcは互いに同一であっても異なっていてもよく、
Ra及びRbはそれぞれ独立に、-O-及び-CH
2-からなる群より選ばれる少なくとも一種で構成される2価の基を介してベンゼン環と結合していてもよい。
【0019】
第9の発明は、
前記ポリマーがカチオン性ポリマー、アニオン性ポリマー又はノニオン性ポリマーである、第8の発明に記載の複合材の製造方法である。
【0020】
第10の発明は、
前記カチオン性ポリマーが、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)及びジアリルアミン塩酸塩・アクリルアミド共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種である、第9の発明に記載の複合材の製造方法である。
【0021】
第11の発明は、
前記カチオン性ポリマーの重量平均分子量が1000以上15万以下である、第9または第10の発明に記載の複合材の製造方法である。
【0022】
第12の発明は、
前記アニオン性ポリマーが多価フェノール縮合物誘導体であり、該縮合物誘導体はヒドロキシル基およびスルホ基を有する、第9の発明に記載の複合材の製造方法である。
【0023】
第13の発明は、
前記アニオン性ポリマーの重量平均分子量が1000以上5万以下である、第9または第12の発明に記載の複合材の製造方法である。
【0024】
第14の発明は、
前記ノニオン性ポリマーがポリアクリルアミドである、第9の発明に記載の複合材の製造方法である。
【0025】
第15の発明は、
前記ノニオン性ポリマーの重量平均分子量が1000以上1000万以下である、第9または14の発明に記載の複合材の製造方法である。
【0026】
第16の発明は、
前記炭素粒子100質量部に対するポリマーの使用量が10~150質量部である、第8から第15の発明のいずれかに記載の複合材の製造方法である。
【0027】
第17の発明は、
前記銀めっき液中の炭素粒子の濃度が10g/L以上150g/L以下である、第8から第16の発明のいずれかに記載の複合材の製造方法である。
【0028】
第18の発明は、
前記炭素粒子の表面処理を、前記ポリマーの存在下、水中で炭素粒子を撹拌混合することにより実施する、第8から第17の発明のいずれかに記載の複合材の製造方法である。
【0029】
第19の発明は、
前記素材がCu又はCu合金で構成されている、第8から第18の発明のいずれかに記載の複合材の製造方法である。
【0030】
第20の発明は、
第1から第7の発明のいずれかに記載の複合材がその構成材料として用いられた、電気接点用の端子である。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、銀層中に炭素粒子を含有する複合皮膜が素材上に形成された複合材であって、耐摩耗性に優れるとともに、曲げ加工時の複合皮膜からの銀の脱落が抑制された複合材およびその製造方法、並びに、当該複合材を用いた電気接点用の端子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】実施例における、曲げ加工時の銀の脱落評価試験を説明する模式的断面図である。
【
図2】実施例2、3、比較例1、4で製造した複合材におけるめっき皮膜のレーザー顕微鏡写真、ピーリング後のカーボンテープにおける銀の反射電子像写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[1.複合材の製造方法]
本発明の複合材の製造方法の実施の形態は、所定の表面処理を施された炭素粒子を含む特定の銀めっき液中で電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合皮膜を素材上に形成する、複合材の製造方法である。以下、この複合材の製造方法の各構成について説明する。
【0034】
<<1-1.素材>>
その上に複合皮膜を形成する素材の構成材料としては、銀めっき可能であり、スイッチやコネクタなどの摺動接点部品などの材料に求められる導電性を有するものが好適であり、更にコストの観点から、構成材料としてCu(銅)及びCu合金が好適である。前記Cu合金としては、導電性や強度などの観点から、Cuと、Si(ケイ素)、Fe(鉄)、Mg(マグネシウム)、P(リン)、Ni(ニッケル)、Sn(スズ)、Co(コバルト)、Zn(亜鉛)、Be(ベリリウム)、Pb(鉛)、Te(テルル)、Ag(銀)、Zr(ジルコニウム)、Cr(クロム)、Al(アルミニウム)及びTi(チタン)からなる群より選ばれる少なくとも一種と、不可避不純物とで構成される合金が好ましい。Cu合金におけるCuの量は、好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは92質量%以上である(Cuの量は、好ましくは99.95質量%以下である)。
【0035】
素材は後述する通り、好ましくは(複合皮膜が形成された複合材として)端子の用途に用いられるが、素材自体がそういった用途の形状をしている場合もあるし、素材は平らな形状(平板形状など)で、複合材となった後に用途の形状に成形される場合もある。本発明の効果が奏される観点から、素材は平らな形状であることが好ましい。
【0036】
<<1-2.下地層の形成>>
本発明の複合材の製造方法では、素材に対して下地層を形成して、その下地層に対して後述する電気めっきを施してもよい。下地層は、素材の銅がめっき表面に拡散して酸化し、複合材の接触信頼性が劣化することを防止する目的や、複合皮膜の密着性改善の目的で形成される。下地層の構成金属としては、Cu、Ni、Sn及びAgが挙げられる。なお下地層は、Cu、Ni、Sn、Agそれぞれからなる層やそれらを組み合わせた(積層構造の)層であってもよく、下地層の形成は、製造される複合材の用途に応じて、素材の表層全体でもよいし、その一部でもよい。
【0037】
下地層の形成方法は特に限定されず、前記の構成金属のイオンを含むめっき液を用いて、公知の方法により電気めっきすることで、形成することができる。なお前記めっき液は、廃水処理コストの点からシアン化合物を実質的に含まないことが好ましい。
【0038】
<<1-3.Agストライクめっき>>
素材上に複合皮膜を形成する前に、Agストライクめっきにより非常に薄い中間層を形成して、素材と複合皮膜との密着性を高めることが好ましい。なお、下地層を素材上に形成する場合は、下地層上にAgストライクめっきを行って下地層と複合皮膜との密着性を高めることが好ましい。Agストライクめっきの実施方法としては、本発明の効果を損なわない限り、従来公知の方法を特に制限なく採用することができる。Agストライクめっきに使用するめっき液は、廃水処理コストの点からシアン化合物を実質的に含まないことが好ましい。
【0039】
<<1-4.電気めっき>>
本発明の複合材の製造方法では、特定の銀めっき液中で、以上説明した素材に対して、必要に応じて下地層の形成及び/又はAgストライクめっきによる中間層の形成を経た後、電気めっきを行うことで、素材上に、銀層中に炭素粒子を含有する複合皮膜を形成する。
【0040】
<1-4-1.銀めっき液>
銀めっき液は、銀イオン、特定の化合物A及び炭素粒子を含有する。
【0041】
(1-4-1-1.銀イオン)
銀めっき液は銀イオンを含む。この銀めっき液中の銀の濃度は、複合皮膜の形成速度の観点や、複合皮膜の外観ムラ抑制の観点から5~150g/Lであるのが好ましく、10~120g/Lであるのがさらに好ましく、20~100g/Lであるのが最も好ましい。
【0042】
(1-4-1-2.化合物A)
次に、化合物Aは、下記一般式(I)で表される。
【化2】
【0043】
一般式(I)において、mは1~5の整数であり、Raは、カルボキシル基であり、Rbは、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基又はスルホン酸基であり、Rcは、水素又は任意の置換基であり、Ra及びRbはそれぞれ独立に、-O-及び-CH2-からなる群より選ばれる少なくとも一種で構成される2価の基を介してベンゼン環と結合していてもよい。前記2価の基の例としては、-CH2-CH2-O-、-CH2-CH2-CH2-O-、(-CH2-CH2-O-)nが挙げられる(nは2以上の整数である)。
【0044】
化合物Aは、析出した銀の表面に吸着して銀の結晶が成長することを抑えることで、電気めっきにより形成される複合皮膜における銀の結晶子サイズを小さくするものと考えられる。これにより、硬度に優れ、それゆえ耐摩耗性に優れた複合材が得られる。
【0045】
また上記一般式(I)において、mが2以上の場合、複数存在するRbは互いに同一であっても異なっていてもよく、mが3以下の場合、複数存在するRcは互いに同一であっても異なっていてもよい。Rcについて、前記「任意の置換基」としては、炭素数1~10のアルキル基、アルキルアリール基、アセチル基、ニトロ基、ハロゲン基、炭素数1~10のアルコキシル基が挙げられる。
【0046】
銀めっき液中の化合物Aの濃度は、複合皮膜の外観ムラ抑制や、形成される複合皮膜における銀の結晶子サイズを適切に制御する観点から2~250g/Lであるのが好ましく、3~200g/Lであるのがより好ましい。
【0047】
(1-4-1-3.炭素粒子)
次に、銀めっき液は炭素粒子を含有する。銀めっき液が炭素粒子を含んでいると、電気めっきにより素材上へ複合皮膜(銀めっき膜)が形成される際に、銀マトリクス中に炭素粒子が巻き込まれる。複合皮膜が炭素粒子を含むと、複合材の耐摩耗性が高まる。このような機能の発揮の観点から、炭素粒子は黒鉛粒子であるのが好ましい。炭素粒子の、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒径(D50)は、銀めっき膜への巻き込みやすさの観点から0.5~15μmであるのが好ましく、1~10μmであるのがより好ましい。更に、炭素粒子の形状は、略球状、鱗片形状、不定形など特に限定されないが、複合皮膜表面を平滑にすることで複合材の耐摩耗性を高められることから、鱗片形状であることが好ましい。
【0048】
(1-4-1-3-1.炭素粒子の酸化処理)
また、この炭素粒子を酸化処理することにより、炭素粒子の表面に吸着している親油性有機物を除去するのが好ましい。このような親油性有機物として、アルカンやアルケンなどの脂肪族炭化水素や、アルキルベンゼンなどの芳香族炭化水素が含まれる。炭素粒子の酸化処理として、湿式酸化処理の他、O2ガスなどによる乾式酸化処理を使用することができるが、量産性の観点から湿式酸化処理を使用するのが好ましく、湿式酸化処理によって表面積が大きい炭素粒子を均一に処理することができる。湿式酸化処理の方法としては、炭素粒子を水中に懸濁させた後に適量の酸化剤を添加する方法などを使用することができる。酸化剤としては、硝酸、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、過硫酸カリウム、過塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を使用することができる。炭素粒子に付着している親油性有機物は、添加された酸化剤により酸化されて水に溶けやすい形態になり、炭素粒子の表面から適宜除去されると考えられる。また、この湿式酸化処理を行った後、ろ過を行い、さらに炭素粒子を水洗することにより、炭素粒子の表面から親油性有機物を除去する効果をさらに高めることができる。炭素粒子の酸化処理により、炭素粒子の表面から脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素などの親油性有機物を除去することができ、300℃加熱ガスによる分析によれば、酸化処理後の炭素粒子を300℃で加熱して発生したガス中には、アルカンやアルケンなどの親油性脂肪族炭化水素や、アルキルベンゼンなどの親油性芳香族炭化水素が殆ど含まれていない。酸化処理後の炭素粒子中に脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素が若干含まれていても、炭素粒子を本発明で使用する銀めっき液中に均一に分散させることができるが、炭素粒子中に分子量160以上の炭化水素が含まれず且つ炭素粒子中の分子量160未満の炭化水素の300℃加熱発生ガス強度(パージ・アンド・トラップ・ガスクロマトグラフ質量分析強度)が5,000,000以下になるのが好ましい。
【0049】
(1-4-1-3-2.炭素粒子の表面処理)
必要に応じて上記の酸化処理を行った炭素粒子を用いて、後述する電気めっきを実施した場合、[課題]及び[解決手段]の項で説明した通り、形成される複合皮膜表面に多くのコブ状電着組織が発生して皮膜表面の算術平均粗さRaが大きくなる(皮膜の厚さが厚くなるほどコブが大きくなって数も増えてRaが大きくなる傾向にある)。当該コブは周囲の銀マトリクスとの結合が弱く、外部からの応力によって容易に脱落してしまう。
【0050】
本発明では、炭素粒子に対してポリマーで表面処理を行う。これにより、当該炭素粒子上への、後述する一般式(I)の化合物A等のめっき液成分の吸着が抑制される結果、炭素粒子上へのAgの析出が抑制され、表面のコブが少ない(それゆえ曲げ加工時の銀の脱落の少ない)複合皮膜が形成されると考えられる。なお前記ポリマーとしては、カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマー、ノニオン性ポリマーおよび両性ポリマーが挙げられる。これらのうち1種類で表面処理をしても、2種類以上のポリマーを組み合わせて表面処理してもよい。
【0051】
炭素粒子の表面処理は、例えば、以下のようにして行う。必要に応じて酸化処理を行った炭素粒子を、ポリマーの存在下、水中で撹拌混合する。この際、前記ポリマーの疎水性部分は炭素粒子の表面官能基がない部分と、ポリマーの親水性部分(=ヒドロキシル基等の親水性官能基など)は炭素粒子の表面官能基がある部分との相互作用で引き合うことによって、前期ポリマーが炭素粒子に吸着するものと考えられる。前記撹拌混合の後、ろ過及びろ取物(ポリマーで表面処理された炭素粒子)の水洗を行ってもよい。このようにして、ポリマーが炭素粒子の表面に付着すると考えられる。
【0052】
カチオン性ポリマーの重量平均分子量(GPCにより測定した標準ポリエチレングリコール及び標準ポリエチレンオキシド換算の重量平均分子量)は、1000以上15万以下であることが好ましい。曲げ加工時の銀の脱落を防止する観点からは、前記重量平均分子量は1100以上8万以下であることがより好ましく、さらには、重量平均分子量が1200以上6000以下でありかつ後述する電気めっき条件として、形成される複合皮膜の厚さが0.5~10μmになる条件を採用することが特に好ましい。
【0053】
カチオン性ポリマーのカチオン性官能基の例としては、アンモニウム基が挙げられる。また、当該カチオン性ポリマーの具体例として、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)や、ジアリルアミン塩酸塩・アクリルアミド共重合体が挙げられ、曲げ加工時の銀の脱落を防止する観点からは、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)が好ましい。
【0054】
アニオン性ポリマーの重量平均分子量(GPCにより測定)は、1000以上5万以下であることが好ましい。曲げ加工時の銀の脱落を防止する観点からは、前記重量平均分子量は1200以上3万以下であることがより好ましく、1500以上1万以下であることが特に好ましい。
【0055】
アニオン性ポリマーのアニオン性官能基の例としては、ヒドロキシル基、スルホ基やカルボキシル基が挙げられる。また、当該アニオン性ポリマーの具体例として、多価フェノール縮合物誘導体(ヒドロキシル基及びスルホ基を有する)が挙げられる。
【0056】
ノニオン性ポリマーの重量平均分子量(GPCにより測定)は、1000以上1千万以下であることが好ましい。曲げ加工時の銀の脱落を防止する観点からは、前記重量平均分子量は2000以上500万以下であることがより好ましく、1万以上300万以下であることが特に好ましい。
【0057】
ノニオン性ポリマーの具体例として、ポリアクリルアミドおよびポリメタクリルアミドが挙げられる。
【0058】
両性ポリマーの重量平均分子量(GPCにより測定)は、1000以上1千万以下であることが好ましい。曲げ加工時の銀の脱落を防止する観点からは、前記重量平均分子量は2000以上500万以下であることがより好ましく、1万以上300万以下であることが特に好ましい。
【0059】
両性ポリマーはカチオン性官能基およびアニオン性官能基を有するポリマーであり、官能基の例は、カチオン性ポリマーおよびアニオン性ポリマーにおける官能基と同様である。また、当該両性ポリマーの具体例として、アクリルアミド/ジメチルアミノエチルアクリレート4級塩/アクリル酸ソーダ系共重合物およびメタクリルアミド/ジメチルアミノエチルメタクリレート4級塩/メタクリル酸ソーダ系共重合物が挙げられる。
【0060】
炭素粒子を表面処理する際(上記の炭素粒子をポリマーの存在下に水中で撹拌混合する場合)の、水中の炭素粒子濃度は200g/L以下であることが好ましく(通常10g/L以上である。より好ましくは50~120g/L)、炭素粒子100質量部に対するポリマーの使用量(複数種類のポリマーを使用する場合は、合計の使用量)は10~150質量部であることが好ましく(20~100質量部であることがより好ましい)、液温は15℃以上60℃以下であることが好ましく、表面処理(撹拌混合)の時間は3h以上30h以下であることが好ましい。水洗はろ液の電導度が10μS/cm以下になるまで実施すれば良い。
【0061】
また、銀めっき液中の、ポリマーで表面処理された炭素粒子の量は、銀めっき液を使用して複合皮膜を素材上に形成して得られる複合材の耐摩耗性の観点と、複合皮膜中に導入できる炭素粒子の量には限度があることから、10g/L以上150g/L以下であるのが好ましく、15g/L以上120g/L以下であるのがさらに好ましく、30g/L以上100g/L以下であるのが最も好ましい。
【0062】
(1-4-1-4.錯化剤)
本発明で使用する銀めっき液は、好ましくは錯化剤を含有する。錯化剤は銀めっき液中の銀イオンを錯体化して、そのイオンとしての安定性を高める。この作用により、銀のめっき液を構成する溶媒への溶解度が高まる。
【0063】
錯化剤は、前記の機能を有するものを広く使用することができるが、形成される錯体の安定性の観点からスルホン酸基を有する化合物が好ましい。スルホン酸基を有する化合物としては、炭素数1~12のアルキルスルホン酸、炭素数1~12のアルカノールスルホン酸及びヒドロキシアリールスルホン酸が挙げられる。これらの化合物の具体例としては、メタンスルホン酸、2-プロパノールスルホン酸及びフェノールスルホン酸が挙げられる。
【0064】
銀めっき液中の錯化剤の量は、銀イオンの安定化の観点から、30~200g/Lであることが好ましく、50~120g/Lであることがより好ましい。
【0065】
(1-4-1-5.他の添加剤)
他の添加剤として、例えば本発明に使用する銀めっき液は、光沢剤、硬化剤、電導度塩を含有してもよい。前記硬化剤としては、硫化炭素化合物(例えば二硫化炭素)、無機硫黄化合物(例えばチオ硫酸ナトリウム)、有機化合物(スルホン酸塩)、セレン化合物、テルル化合物、周期律表4Bまたは5B族金属等が挙げられる。前記電導度塩としては水酸化カリウム等が挙げられる。
【0066】
(1-4-1-6.溶媒)
銀めっき液を構成する溶媒は、主に水である。水は、(錯体化した)銀イオンの溶解性、めっき液が含むその他の成分の溶解性に優れることや、環境への負荷が小さいことから好ましい。また、溶媒として、水とアルコールの混合溶媒を使用してもよい。
【0067】
(1-4-1-7.シアン化合物)
本発明で使用する銀めっき液の主要な成分は上記の通りであり、この銀めっき液は典型的にはシアン化合物を実質的に含まない(具体的には、銀めっき液中のシアン化合物の含有量が1mg/L以下である。)。シアン化合物とは、シアノ基(-CN)を含む化合物であり、シアン化合物はJISK0102:2019に従って定量できる。シアン化合物は水質汚濁防止法(排水基準)やPRTR(環境汚染物質排出・移動登録)制度の対象物質であり、廃水処理コストが大きい。本発明で使用する銀めっき液は前記の通り典型的にはシアン化合物を実質的に含まないので、その廃水処理コストは小さい。
【0068】
<1-4-2.電気めっき条件>
次に、以上説明した銀めっき液を用いた電気めっきの諸条件について説明する。例えば以下に説明する電気めっきにより、素材上に金属銀が析出するとともに、その際、銀マトリクス中にポリマーで表面処理された炭素粒子が巻き込まれ、複合皮膜が形成される。また、化合物Aの機能により、複合皮膜における銀の結晶子サイズは小さく抑えられている。そして、前記ポリマーの効果により、コブの発生も抑えられている。
【0069】
(1-4-2-1.カソード及びアノード)
電気めっきする対象である素材がカソードである。溶解して銀イオンを提供する、例えば銀電極板がアノードである。
【0070】
(1-4-2-2.電流密度)
銀めっき液(めっき浴)にカソード及びアノードを浸漬し、電流を流して銀めっきを実施する。ここでの電流密度は、複合皮膜の形成速度の観点及び複合皮膜の外観のムラ抑制の観点から、0.5A/dm2以上10A/dm2以下が好ましく、1A/dm2以上8A/dm2以下がより好ましく、1A/dm2以上5A/dm2以下が更に好ましい。
【0071】
(1-4-2-3.温度・撹拌・めっき時間・めっき対象部位)
電気めっきを行う際のめっき浴(銀めっき液)の温度(めっき温度)は、めっきの生産効率および液の過度な蒸発を防ぐ観点から15~50℃であることが好ましく、20~45℃であることがより好ましい。この際のめっき浴の撹拌の速度は、均一なめっきの実施の観点から、200~550rpmであることが好ましく、350~500rpmであることがより好ましい。銀めっきの時間(電流をかける時間)は、目的とする複合皮膜の厚さに応じて適宜調整することができるが、代表的には25~1800秒の範囲である。まためっきする対象部位は、製造される複合材の用途に応じて、素材の表層全体でもよいし、素材の表層の一部でもよい。
【0072】
<<1-5.複合皮膜表面の炭素粒子の一部除去処理>>
以上説明した電気めっきにより、素材上に複合皮膜が形成される。この複合皮膜表面には、銀マトリクスに巻き込まれて(埋まって)おり脱落しにくい炭素粒子と、巻き込まれたというよりも表面に付着しており、脱落しやすい炭素粒子が存在している。後者は複合材の曲げ加工時などに設備を汚染しうる。そこでこのような炭素粒子を洗浄して除去することが好ましい。洗浄方法の一つは、複合皮膜の表面を超音波洗浄する処理である。超音波洗浄は、20~100kHzで1~300秒間行われるのが好ましい。また別の洗浄方法としては電解洗浄処理が挙げられる。この場合、電解洗浄が1~30A/dm2で10~300秒間行われるのが好ましい。
【0073】
[2.複合材]
以下、本発明の複合材の実施の形態について説明する。当該複合材は、銀層中に炭素粒子を含有する複合皮膜が素材上に形成されてなる複合材であって、前記複合皮膜の銀の結晶子サイズが30nm以下であり、複合皮膜の表面の算術平均粗さRa(μm)を当該複合皮膜の厚さ(μm)で除した値が0.2未満であり、前記複合皮膜の表面における炭素粒子が占める割合が5面積%以上80面積%以下である複合材である。この複合材は、例えば本発明の複合材の製造方法により製造することができる。以下、この複合材の各構成について説明する。
【0074】
<<2-1.素材>>
前記素材は、本発明の複合材の製造方法について上記で説明した素材と同様である。すなわち素材の構成材料としてはCu(銅)及びCu合金が好適であり、前記Cu合金としては、導電性と強度などの観点から、Cuと、Si(ケイ素)、Fe(鉄)、Mg(マグネシウム)、P(リン)、Ni(ニッケル)、Sn(スズ)、Co(コバルト)、Zn(亜鉛)、Be(ベリリウム)、Pb(鉛)、Te(テルル)、Ag(銀)、Zr(ジルコニウム)、Cr(クロム)、Al(アルミニウム)及びTi(チタン)からなる群より選ばれる少なくとも一種と、不可避不純物とで構成される合金が好ましい。
【0075】
<<2-2.複合皮膜>>
素材上に形成された複合皮膜は、炭素粒子を含有する銀層で構成される。この銀層においては、銀からなるマトリクス中に炭素粒子が(好ましくは略均等に)分散している。なお複合皮膜を形成する前にAgストライクめっきを行っている場合は、素材(又は後述する下地層)と複合皮膜の間にこのストライクめっきによる中間層が存在するが、非常に薄くて複合皮膜と区別できない場合も多い。また複合皮膜は素材の表層全体の上に形成されていてもよいし、表層の一部上に形成されていてもよい。
【0076】
<2-2-1.炭素粒子>
前記炭素粒子は、本発明の複合材の製造方法について上記で説明したポリマーで表面処理される炭素粒子と同様である。すなわち炭素粒子は黒鉛粒子であるのが好ましく、その形状は、略球状、鱗片形状、不定形など特に限定されないが、複合皮膜表面を平滑にすることで複合材の耐摩耗性を高められることから、鱗片形状であることが好ましい。本発明の複合材が本発明の複合材の製造方法で製造されている場合、前記炭素粒子の表面に前記ポリマーが付着していると考えられる。
【0077】
また炭素粒子の平均一次粒子径は、複合材の耐摩耗性の観点から、0.5~15μmであることが好ましく、1~10μmであることがより好ましい。なお平均一次粒子径とは、粒子の長径の平均値であり、長径とは、複合材の複合皮膜中の炭素粒子を適切な観察倍率で観察した画像(平面)における、粒子内にひくことのできる最も長さの長い線分の長さとする。また長径は、50個以上の粒子について求めるものとする。
【0078】
<2-2-2.結晶子サイズ及びビッカース硬度>
本発明の複合材の実施の形態における複合皮膜における銀の結晶子サイズは、30nm以下と小さい。このように結晶子サイズが小さいことで、ホール・ペッチの関係(一般に、金属材料は結晶粒が小さいほど強度が増す)から複合皮膜の硬度が高く、硬度が高いことで複合皮膜が削れにくくなり複合材の耐摩耗性が高くなる。耐摩耗性の観点と、結晶子サイズを非常に微細にすることは製造上困難であることから、結晶子サイズは好ましくは2~30nmであり、より好ましくは2~20nmである。
【0079】
なお本発明において銀の結晶子サイズとしては、結晶面による偏りを減らすため銀の(111)面と(222)面の結晶子サイズを平均した(足して2で除した)値を採用する。結晶子サイズの更に詳細な測定方法については、実施例で説明する。
【0080】
以上のように複合皮膜は結晶子サイズが小さいため硬度が高く、具体的には、そのビッカース硬度Hvは、好ましくは100以上であり、より好ましくは120~230である。ビッカース硬度Hvの測定方法の詳細については、実施例で説明する。
【0081】
<2-2-3.算術平均粗さRaと複合皮膜の厚さとの比>
本発明の複合材の複合皮膜の銀の結晶子サイズは前記の通り小さく、前記皮膜は高い硬度を達成している。このような小さな結晶子サイズを達成するためには、複合皮膜を形成する電気めっきの際に、化合物Aを含む銀めっき液を使用することが肝要である。しかし[課題]及び[課題を解決するための手段]の項で述べた通り、この化合物Aが原因で複合皮膜表面にコブ状の電着組織が発生してしまう。その結果、複合皮膜の算術平均粗さRa(μm)が大きくなる。なお、前記コブは複合皮膜の厚さが厚いほど発生しやすく、また大きくなり、その結果複合皮膜のRaがさらに大きくなる。
【0082】
本発明の複合材の製造方法では、上述したポリマーによる表面処理を炭素粒子に施すことによって、前記コブの発生を抑制することができた。例えば前記製造方法により得られる、本発明の複合材の複合皮膜の算術平均粗さRa(μm)と複合皮膜の厚さ(μm)との比(Ra/複合皮膜の厚さ)は0.2未満である。本発明者らの検討により、曲げ加工時の複合皮膜からの銀の脱落のしやすさについては、Ra自体よりも、前記比(Ra/複合皮膜の厚さ)が有効な指標となることがわかった。曲げ加工時の複合皮膜からの銀の脱落を抑制する観点から、前記比(Ra/複合皮膜の厚さ)は好ましくは0.18以下であり、より好ましくは0.16以下である。また前記比を0にすることは困難であり、通常0.02以上である。
【0083】
なお、本発明の複合材の複合皮膜の算術平均粗さRaは、好ましくは1.8μm以下であり、より好ましくは0.08~1.5μmである。
【0084】
<2-2-4.炭素の含有量及び炭素粒子の面積率>
本発明の複合材の実施の形態における複合皮膜は上記の通り炭素粒子を含有しており、複合皮膜中の炭素の含有量は、複合材の耐摩耗性及び導電性の観点から、好ましくは1~50質量%であり、より好ましくは1.5~40質量%であり、更に好ましくは2~35質量%である。また本発明の複合材の実施の形態における複合皮膜の元素組成については、典型的には実質的に銀と炭素とからなる。本発明の複合材の製造方法の説明にて説明した通り、複合皮膜の表面には、付着しているだけで脱落しやすい炭素粒子が存在している場合がある。この場合には、<<1-5.複合皮膜表面の炭素粒子の一部除去処理>>の項にて説明したのと同様の超音波洗浄処理を施してから複合皮膜中の炭素の含有量を求めるものとする。
【0085】
また、炭素粒子を含んでいる複合皮膜の表面における炭素粒子が占める割合(面積率)は、耐摩耗性の指標になり、耐摩耗性の観点からある程度以上の割合が必要である。一方、当該割合が高すぎると導電性の点で問題がある。これら耐摩耗性と導電性のバランスの観点から、前記面積率は5面積%以上80面積%以下であり、好ましくは8面積%以上60面積%以下であり、より好ましくは10面積%以上50面積%以下であり、さらに好ましくは22面積%以上40面積%以下である。複合皮膜の表面に脱落しやすい炭素粒子が存在している場合には、<<1-5.複合皮膜表面の炭素粒子の一部除去処理>>の項にて説明したのと同様の超音波洗浄処理を施してから複合皮膜表面の炭素の面積率を求めるものとする。前記面積率の測定方法の詳細については、実施例で説明する。
【0086】
<2-2-5.複合皮膜の厚さ>
複合皮膜の厚さは特に制限されないが、耐摩耗性や導電性の点で、最低限の厚さがあることが好ましい。また厚さが大きすぎても複合皮膜の効果は飽和し、原料コストが高まる。以上の観点から、複合皮膜の厚さは0.5μm以上45μm以下であることが好ましく、0.5μm以上35μm以下であることがより好ましく、0.5μm以上15μm以下であることが更に好ましい。複合皮膜の厚さの測定方法の詳細については、実施例で説明する。一般に炭素粒子を含む銀めっき液を用いためっき(AgCめっき)では、形成されるめっき膜が薄いと、その膜中に炭素粒子が包含されにくい。しかし、カチオン性ポリマーで表面処理した炭素粒子を使用する本発明の複合材の製造方法では、メカニズムは不明であるが、めっき膜の厚さが薄くても(具体的には、0.5~2μm、好ましくは0.8~1.5μmであっても)、炭素粒子を十分に含むめっき層(複合皮膜)を形成することができる。このように薄い複合皮膜を有する複合材は、原料コストの点で優位である。
【0087】
<<2-3.下地層>>
素材と複合皮膜の間に、種々の目的で下地層が形成されていてもよい。下地層の構成金属としては、Cu、Ni、Sn及びAgが挙げられる。例えば素材中の銅が複合皮膜表面に拡散して接触信頼性が劣化することを防止する目的では、Niからなる下地層を形成することが好ましい。素材が黄銅などの亜鉛を含む銅合金で、素材中の亜鉛が複合皮膜表面に拡散することを防止する目的では、Cuからなる下地層を形成することが好ましい。複合皮膜の素材への密着性改善の目的では、Agからなる下地層を形成することが好ましい。下地層の厚さは特に限定されないが、その機能発揮とコストの観点から、0.1~2μmであることが好ましく、0.2~1.5μmであることがより好ましい。また、電気・電子部品の端子にはCu下地やNi下地を含むSnめっきまたはリフローSnめっきを施した(素材側からCu下地、Ni下地、Sn下地の積層構造の)材料が使用されることが多く、本発明においてもこのような積層構造の下地層を形成してもよい。したがって、本発明において、複合皮膜の下地にCu,Ni,Sn、Agそれぞれからなる層やそれらを組み合わせた(積層構造の)層があってもよく、また例えば素材の電気接点部に本発明で規定する複合皮膜を形成し(下地層は形成してもしなくてもよい)、電線加締め部にリフローSnめっき下地層を形成する(複合皮膜は形成しない)など、場所によって異なる層を形成してもよい。
【0088】
<<2-4.曲げ加工時の複合皮膜からの銀の脱落>>
以上説明した通り、本発明の複合材の実施の形態は上記比(Ra/複合皮膜の厚さ)が0.2未満と小さく、曲げ加工時の複合皮膜からの銀の脱落が抑制されている。具体的には、後述する実施例における曲げ加工時の銀の脱落評価試験にて、ピーリングを行ったカーボンテープについてエネルギー分散型X線分析装置を用いてEDS分析を行ったとき、検出されたAg,C,O及びCuの合計を100質量%としたとき、Agの割合は好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは7質量%以下であり、特に好ましくは4質量%以下である。なお前記Agの割合を0にすることは困難であり、通常0.2質量%以上である。
【0089】
<<2-5.摩擦係数>>
また上述の通り、本発明の複合材の実施の形態は、複合皮膜が炭素粒子を含有し、当該皮膜の結晶子サイズが30nm以下であり、皮膜の表面における炭素粒子が占める割合が5面積%以上80面積%以下であることから、耐摩耗性に優れる。具体的には、後述する実施例における方法で測定した複合材の摩擦係数は、好ましくは0.4以下であり、より好ましくは0.3以下であり、さらに好ましくは0.24以下である。なお摩擦係数を0にすることは困難であり、通常0.05以上である。
【0090】
[3.端子]
本発明の複合材の実施の形態は耐摩耗性に優れるとともに、曲げ加工時の複合皮膜からの銀の脱落が少ないので、電気接点用の端子、特にスイッチやコネクタなどの、その使用において摺動がなされる電気接点部品における端子(曲げ加工により製造される)の構成材料として好適である。
【実施例0091】
以下、本発明による複合めっき材およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0092】
(実施例1)
[1.複合皮膜の作製]
<1-1.炭素粒子の準備>
(1-1-1.酸化処理)
炭素粒子として平均粒径5μmの鱗片形状黒鉛粒子(日本黒鉛工業株式会社製のPAG-3000)80gを1.4Lの純水中に添加し、この混合液を攪拌しながら50℃に昇温させた。なお前記平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製のMT3300(LOW-WET MT3000II Mode))を用いて測定した、体積基準の累積値が50%の粒径である。次に、この混合液に水酸化カリウム5.2gを添加した後、酸化剤として0.1モル/Lの過硫酸カリウム水溶液0.6Lを徐々に滴下した後、1時間攪拌することで酸化処理を行い、その後、ろ紙によりろ別を行い、得られた固形物に対して水洗を行った。
【0093】
(1-1-2.酸化処理による炭化水素系化合物除去の評価)
上記の酸化処理の前後における炭素粒子について、パージ・アンド・トラップ・ガスクロマトグラフ質量分析装置(加熱脱着装置として日本分析工業株式会社製のJHS-100、およびガスクロマトグラフ質量分析計として株式会社島津製作所製のGCMS QP-5050Aを組み合わせた装置)を使用して、300℃加熱における発生ガスの分析を行ったところ、上記の酸化処理により、炭素粒子に付着していた(ノナン、デカン、3-メチル-2-ヘプテンなどの)親油性脂肪族炭化水素や、(キシレンなどの)親油性芳香族炭化水素が除去されていることがわかった。
【0094】
(1-1-3.表面処理)
上記酸化処理後の炭素粒子60gを0.6Lの純水中に添加した後、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)(重量平均分子量:1600、数平均分子量:1500)の水溶液(センカ株式会社製ユニセンスFPA100L、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)の濃度は25~35質量%)100gを加え、液温25℃の状態で24h攪拌混合することで炭素粒子に対する表面処理を行った。その後、ろ紙によりろ別を行い、得られた固形物に対して、ろ液の電導度が10μS/cmになるまで水洗を行った。なお平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した。
測定条件の詳細は以下のとおりである。
溶離液:水(硝酸ナトリウムを濃度0.1mol/Lで、酢酸を濃度0.5mol/Lで含有)
標準物質:ポリエチレンオキシド(分子量1万以上についての標準物質)及びポリエチレングリコール(分子量1万未満についての標準物質)の混合物
試料濃度:0.2w/v%
注入量:100μL
流量:1.0mL/分
カラム:Shodex OHpak SB-806M HQ×2(昭和電工(株)製)
カラム温度:40℃
ポンプ:LC-10ADvp((株)島津製作所製)
検出器:Shodex RI-71(昭和電工(株)製)
【0095】
<1-2.銀ストライクめっき>
縦5.0cm、横5.0cm、厚さ0.2mmのCu-Ni-Sn-P合金からなる板材(1.0質量%のNiと0.9質量%のSnと0.05質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である銅合金の板材)(DOWAメタルテック株式会社製のNB-109EH)を用意した。この板材を素材とし、当該素材をカソード、(チタンのメッシュ素材を酸化イリジウムコーティングした)酸化イリジウムメッシュ電極板をアノードとして使用し、錯化剤としてメタンスルホン酸を含むスルホン酸系銀ストライクめっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE-ST、シアン化合物を実質的に含まない。銀濃度3g/L、メタンスルホン酸濃度42g/L)中において、電流密度5A/dm2で60秒間電気めっき(銀ストライクめっき)を行った。なお銀ストライクめっきは素材の表層全体に対して行った。
【0096】
<1-3.AgCめっき>
錯化剤としてメタンスルホン酸を含む、銀濃度30g/L、メタンスルホン酸濃度60g/Lのスルホン酸系銀めっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE-HB(一般式(I)に該当する化合物Aを濃度4.2g/Lで含み、溶媒は主に水である))に、上記の表面処理を行った炭素粒子(黒鉛粒子)を添加して、濃度50g/Lの炭素粒子と濃度30g/Lの銀と濃度60g/Lのメタンスルホン酸を含む炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液を用意した。この銀めっき液は、実質的にシアン化合物を含まない。
【0097】
次に、上記の銀ストライクめっきした素材をカソード、銀電極板をアノードとして使用して、上記の炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液中において、スターラにより400rpmで撹拌しながら、温度25℃、電流密度3A/dm2で300秒間電気めっきを行い、銀層中に炭素粒子を含有する複合皮膜(AgCめっき皮膜)が素材上に形成されてなる複合材を得た。なお複合皮膜は素材の表層全体上に形成した。
【0098】
<1-4.超音波洗浄処理>
得られた複合材の複合皮膜表面に対して、超音波洗浄器(AS ONE製のVS-100III出力100W、槽内寸法:縦140mm×横240mm×深さ100mm、液媒体は水)を使用して、28kHzで4分の超音波洗浄処理を実施した。
【0099】
[2.複合材の評価]
この実施例1で得られた複合材について、以下の評価を行った。
【0100】
<2-1.複合皮膜の厚さ>
複合材の複合皮膜5.0cm×5.0cmの面における、中央部分の直径0.2mmの円形の範囲の厚さを蛍光X線膜厚計(株式会社日立ハイテクサイエンス製のFT110A)で測定したところ、5μmであった。なお蛍光X線膜厚計では(炭素粒子の)C原子の検出は困難でAg原子を検出して厚さを求めているが、本発明ではこれにより求まる厚さを複合皮膜の厚さとみなす。
【0101】
<2-2.複合皮膜表面のビッカース硬度Hv>
上記複合皮膜表面のビッカース硬度Hvは、微小硬度計(株式会社ミツトヨ製のHM221)を使用して、荷重0.01Nを複合材の平らな部分に15秒間加えて、JIS Z2244に従って測定し、3回の測定の平均値を採用した。結果、ビッカース硬度Hvは154だった。
【0102】
<2-3.複合皮膜表面の炭素面積率>
卓上顕微鏡(株式会社日立ハイテク製のTM4000 Plus)を使用して加速電圧5kVで1000倍に拡大して複合皮膜の表面を観察した反射電子組成(COMPO)像(1視野)をGIMP 2.10.10(画像解析ソフト)にて2値化し、複合皮膜表面において炭素が占める面積率を算出した。具体的には、全ピクセルのうち最も高い輝度を255、最も低い輝度を0とすると、輝度が127以下のピクセルが黒、輝度が127を超えるピクセルが白になるように階調を2値化し、銀の部分(白い部分)と炭素粒子の部分(黒い部分)に分離して、画像全体のピクセル数Xに対する炭素粒子の部分のピクセル数Yの比Y/Xを、表面の炭素面積率(%)として算出した。その結果、超音波洗浄処理後の炭素面積率は26%だった。なお、卓上顕微鏡による観察範囲は縦88μm、横127μmで、0.1μm四方を1ピクセルとして(縦880ピクセル、横1270ピクセル、合計1117600ピクセル)、GIMP 2.10.10による画像処理を実施した。
【0103】
<2-4.複合皮膜の銀の結晶子サイズ>
上記複合皮膜の表面について、JIS H7805:2005に準拠し、X線回析装置(ブルカージャパン株式会社製のD2Phaser2nd Generation)を用いてX線回折測定(Cu Kα線管球、管電圧:30kV、管電流:10mA、ステップ幅:0.02°、走査範囲:2θ=10°~154°、スキャンスピード:10°/分、測定時間:約15分間、(111)面のピーク:2θ=37.9~38.7°、(222)面のピーク:2θ=79~82.2°)を行った。検出された銀の(111)面、(222)面のピークから、X線解析ソフトウェア(株式会社リガク製のPDXL)を用いて半値全幅(FWHM:Full Width at Half Maximum)を求め、Scherrerの式から銀のそれぞれの結晶面における結晶子サイズを計算した。結晶面による偏りを減らすため銀の(111)面と(222)面の結晶子サイズを平均した値を、銀の結晶子サイズとした。結晶子サイズは13nmだった。
【0104】
なお、Scherrerの式は以下の通りである。
D=K・λ/(β・cosθ)
D:結晶子サイズ
K:Scherrer定数、0.9とした
λ:X線の波長、CuKα線なので1.54Å
β:半値全幅(FWHM)(rad)
θ:測定角度(deg)
【0105】
<2-5.複合皮膜の算術平均粗さ/複合皮膜の厚さ>
上記複合皮膜の表面について、レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製のVKX-110)により倍率1000倍で撮影した複合皮膜表面の画像を解析アプリケーション(株式会社キーエンス製のVK-HIXAバージョン3.8.0.0)によりJIS B0601:2001に基づいて(複合皮膜の観察面全体における)、表面粗さを表すパラメータである算術平均粗さRaを算出したところ0.70μmであった。そして、当該算術平均粗さRaを前述で測定した複合皮膜の厚さで除したところ0.14であった。
【0106】
<2-6.摩擦係数測定>
実施例1で使用したのと同じCu-Ni-Sn-P合金板材に内径1.0mmのインデント(半球形状に押し出す)加工を施し、後述する比較例1と同様のめっき処理(AgSbめっき)を施し、インデント試験片を得た。
【0107】
一方上記実施例1で得られた板状の複合皮膜材をプレート試験片として、摺動摩耗試験機(株式会社山崎精機研究所製 CRS-G2050-DWA)により、このプレート試験片の複合皮膜表面に、上記インデント試験片の凸部(表面はAgSbめっきされている)があたるようにして、インデント試験片を一定の加重(5N)でプレート試験片に押し当てながら摺動速度0.4mm/秒で摺動させ、摺動開始から摺動距離5mmまで摺動荷重を測定した。そして摺動距離2mm~3mmの間の摺動荷重データを平均して、摩擦係数(摺動荷重の平均F/5N)を求めた。結果、摩擦係数は0.16だった。
【0108】
<2-7.曲げ加工時の銀の脱落評価試験>
得られた複合材から長手方向がTD(圧延方向に対して垂直な方向)で幅方向がLD(圧延方向)になるように幅10mmの曲げ加工試験片を切り出し、曲げ加工試験片についてLDを曲げ軸(BadWay曲げ(B.W.曲げ))にしてJIS H3130に準拠した90°W曲げ試験を曲げ半径R=0.2mmで行った。
【0109】
当該90°W曲げ試験を、
図1を参照しながら説明する。
図1は上型治具と下型治具とに挟まれて、山部と谷部とが形成された試験片を示す模式的な断面図である。なお上型治具と下型治具とで試験片を挟んで折り曲げた際、折れ曲がった試験片に対して上下の治具によりさらに荷重をかけることのないよう、上下の治具にかかる荷重をモニターした。
【0110】
この試験後における試験片の上型治具と接触した面に対して、カーボンテープ(日新EM株式会社製 SEM用カーボン両面テープ7322:巾12mm)を使用して、当該テープを貼り付けそして剥がすピーリングを行った。なおカーボンテープが、試験片の幅方向両側で1mmずつはみ出るように貼り付けた。
【0111】
前記ピーリング後のカーボンテープにおける、試験片の上型治具と接触した面において、試験片の谷部となる曲げ加工部に対応する幅方向中央位置を起点に、山部となる曲げ加工部に対応する幅方向中央位置に向かって長手方向2mm進んだ位置について、電子顕微鏡である卓上顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製のTM4000 Plus)を用いて加速電圧15kVで100倍に拡大して観察を行った。
【0112】
そして、このカーボンテープにおける観察箇所領域(1視野)において、上記卓上顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分析装置(オックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製のAztecOne)を用いてEDS分析を行った。結果、C、OおよびAgが検出され、これらの合計におけるAgの量は0.90重量%であった。本明細書では、この数値を曲げ加工時の銀の脱落の指標とする。
【0113】
(実施例2)
[1.複合材の作製]
実施例1の<1-3.AgCめっき>欄にて説明した、電気めっきの時間を60秒間とした以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例2に係る複合材を作製した。この複合材について、実施例1と同様に評価を実施した。また、この複合材の、実施例1と同様にレーザー顕微鏡写真(倍率1000倍)で観察した写真及び<2-7.曲げ加工時の銀の脱落評価試験>でのピーリング後のカーボンテープにおける銀の反射電子像写真(倍率1000倍)を
図2に示す。
【0114】
(実施例3)
[1.複合材の作製]
実施例1の<1-3.AgCめっき>欄にて説明した、電気めっきの時間を900秒間とした以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例3に係る複合材を作製した。この複合材について、実施例1と同様に評価を実施した。
【0115】
また、この複合材の、実施例1と同様にレーザー顕微鏡写真(倍率1000倍)で観察した写真及び<2-7.曲げ加工時の銀の脱落評価試験>でのピーリング後のカーボンテープにおける銀の反射電子像写真(倍率1000倍)を
図2に示す。
【0116】
(実施例4)
[1.複合材の作製]
実施例1にて説明した素材(縦5.0cm、横5.0cm、厚さ0.2mmのCu-Ni-Sn-P合金からなる板材)に対して、<1-2.銀ストライクめっき>の前に、下地層としてニッケルめっきを実施した以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例4に係る複合材を作製した。
【0117】
前記ニッケルめっきは具体的には、実施例1にて説明した板材を素材とし、当該素材をカソード、Ni電極板をアノードとして使用し、スルファミン酸浴(ニッケル濃度80g/L、ホウ酸濃度45g/L)中において、電流密度4A/dm2で60秒間電気めっきを行うことで実施した。なおニッケルめっきは素材の表層全体に対して行った。
この実施例4で得られた複合材について、実施例1と同様に評価を実施した。
【0118】
(実施例5)
[1.複合材の作製]
実施例1の<1-1.炭素粒子の準備>欄の(1-1-3.表面処理)にて説明した、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)水溶液として、重量平均分子量2万(数平均分子量:6300)のポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)の水溶液(濃度は35~45質量%、センカ株式会社製ユニセンスFPA102L)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例5に係る複合材を作製した。この複合材について、実施例1と同様に評価を実施した。
【0119】
(実施例6)
[1.複合材の作製]
実施例1の<1-1.炭素粒子の準備>欄の(1-1-3.表面処理)にて説明した、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)水溶液として、重量平均分子量64000(数平均分子量:11000)のポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)の水溶液(濃度は40~50質量%、センカ株式会社製ユニセンスFPA1000L)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例6に係る複合材を作製した。この複合材について、実施例1と同様に評価を実施した。
【0120】
(実施例7)
[1.複合材の作製]
実施例1の<1-1.炭素粒子の準備>欄の(1-1-3.表面処理)にて説明した、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)水溶液を、ジアリルアミン塩酸塩・アクリルアミド共重合物水溶液(センカ株式会社製ユニセンスKCA100L、当該共重合物の重量平均分子量は16000、数平均分子量は4000、共重合物の濃度は20~25質量%)に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例7に係る複合材を作製した。この複合材について、実施例1と同様に評価を実施した。
【0121】
(実施例8)
[1.複合材の作製]
実施例1の<1-1.炭素粒子の準備>の(1-1-3.表面処理)において、センカ株式会社製ユニセンスFPA100Lのかわりにセンカ株式会社製AX-14Sを使用した以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例8に係る複合材を作製した。この複合材について、実施例1と同様に評価を実施した。なおAX-14Sは、重量平均分子量が約3,000(メーカー公称値)の多価フェノール縮合物誘導体を主成分とする薬剤である。前記多価フェノール縮合物誘導体はヒドロキシル基とスルホ基を有する。
【0122】
(実施例9)
[1.複合材の作製]
実施例8のAgCめっき(実施例1でいう<1-3.AgCめっき>)における電気めっきの時間を600秒間とした以外は、実施例8と同様の操作を行って、実施例9に係る複合材を作製した。この複合材について、実施例1と同様に評価を実施した。
【0123】
(実施例10)
[1.複合材の作製]
実施例1の<1-1.炭素粒子の準備>の(1-1-3.表面処理)において、センカ株式会社製ユニセンスFPA100Lのかわりにセンカ株式会社製ユニセンスEFH-06を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例10に係る複合材を作製した。なおEFH-06は、重量平均分子量が数十万~数百万(メーカー公称値)のポリアクリルアミドを主成分とする薬剤である。
【0124】
(比較例1)
[1.複合材の作製]
実施例1の<1-3.AgCめっき>で使用したスルホン酸系銀めっき液の代わりに、錯化剤としてシアン化合物を含む銀濃度60g/L、アンチモン(Sb)濃度2.5g/Lのシアン系Ag-Sb合金めっき液(溶媒は水)を使用し、電流密度1A/dm2で2400秒間電気めっきし、超音波洗浄を実施しなかった以外は、実施例1と同様にして、素材上にAgSb合金からなる複合皮膜が形成されてなる、比較例1に係る複合材を作製した。
【0125】
前記シアン系Ag-Sb合金めっき液は、10質量%のシアン化銀と30質量%のシアン化ナトリウムとニッシンブライトN(日進化成株式会社製)を含み、前記めっき液中のニッシンブライトNの濃度は50mL/Lである。そしてニッシンブライトNは、光沢剤と三酸化二アンチモンを含み、ニッシンブライトNにおける三酸化二アンチモンの濃度は6質量%である。
【0126】
上記で得られた比較例1の複合材について、実施例1と同様に評価を実施した。また、この複合材の、実施例1と同様にレーザー顕微鏡写真(倍率1000倍)で観察した写真及び<2-7.曲げ加工時の銀の脱落評価試験>でのピーリング後のカーボンテープにおける銀の反射電子像写真(倍率1000倍)を
図2に示す。
【0127】
(比較例2)
[1.複合材の作製]
実施例1の<1-1.炭素粒子の準備>欄にて説明した(1-1-3.表面処理)を行わなかった以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例2に係る複合材を作製した。この複合材について、実施例1と同様に評価を実施した。
【0128】
(比較例3)
[1.複合材の作製]
実施例1の<1-1.炭素粒子の準備>欄にて説明した(1-1-3.表面処理)を行わず、<1-3.AgCめっき>欄にて説明した、電気めっきの時間を600秒間とした以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例3に係る複合材を作製した。この複合材について、実施例1と同様に評価を実施した。
【0129】
(比較例4)
[1.複合材の作製]
実施例1の<1-1.炭素粒子の準備>欄の(1-1-3.表面処理)にて説明した、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)水溶液を、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(分子量162)の65質量%水溶液に変更し、<1-3.AgCめっき>欄にて説明した、電気めっきの時間を600秒間とした以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例4に係る複合材を作製した。この複合材について、実施例1と同様に評価を実施した。また、この複合材の、実施例1と同様にレーザー顕微鏡写真(倍率1000倍)で観察した写真及び<2-7.曲げ加工時の銀の脱落評価試験>でのピーリング後のカーボンテープにおける銀の反射電子像写真(倍率1000倍)を
図2に示す。
【0130】
(比較例5)
[1.複合材の作製]
実施例1の<1-1.炭素粒子の準備>欄にて説明した(1-1-3.表面処理)を行わず、<1-3.AgCめっき>欄にて説明した、電気めっきの時間を60秒間とした以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例5に係る複合材を作製した。この複合材について、実施例1と同様に評価を実施した。
【0131】
以上の実施例1~7に係る複合材の製造条件を表1に記載し、各種評価結果を表2に、実施例8~10に係る複合材の製造条件を表3に記載し、各種評価結果を表4に、比較例1~5に係る複合材の製造条件を表5に、各種評価結果を表6に記載する。
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】