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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133187
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】有機重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/30 20060101AFI20230914BHJP
   C08G 65/336 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C08G65/30
C08G65/336
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032449
(22)【出願日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2022035789
(32)【優先日】2022-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 章徳
【テーマコード(参考)】
4J005
【Fターム(参考)】
4J005AA04
4J005AA12
4J005BB01
4J005BB02
4J005BC00
4J005BD08
(57)【要約】
【課題】ハロゲン原子を不純物として含む有機重合体を、吸着剤を用いて精製する方法であって、重合体中の不純物量は低減しながら、重合体の回収率は高く、かつ重合体粘度の低下を抑制することが可能な精製方法の提供。
【解決手段】ハロゲン原子を不純物として含む有機重合体(A1)から精製工程を経て有機重合体(A2)を得る。前記精製工程が、有機重合体(A1)に、非極性溶媒(S1)、極性溶媒(S2)、及び吸着剤(I)を添加し、混合液(M1)を得る工程、混合液(M1)から吸着剤(I)を除去し、混合液(M2)を得る工程、及び、混合液(M2)から非極性溶媒(S1)及び極性溶媒(S2)を除去し、有機重合体(A2)を得る工程、を含む。重量比(S1):(S2)=100:1~1:1である。有機重合体(A2)に含まれるハロゲン原子の合計量は、有機重合体(A1)に含まれるハロゲン原子の合計量より少ない。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン原子を不純物として含む有機重合体(A1)から精製工程を経て有機重合体(A2)を得ることを含む、有機重合体(A2)の製造方法であって、
前記精製工程が、
有機重合体(A1)に、非極性溶媒(S1)、極性溶媒(S2)、及び吸着剤(I)を添加し、混合液(M1)を得る工程、
混合液(M1)から吸着剤(I)を除去し、混合液(M2)を得る工程、及び
混合液(M2)から非極性溶媒(S1)及び極性溶媒(S2)を除去し、有機重合体(A2)を得る工程、を含み、
非極性溶媒(S1)と極性溶媒(S2)の重量比が(S1):(S2)=100:1~1:1であり、
有機重合体(A2)に含まれるハロゲン原子の合計量は、有機重合体(A1)に含まれるハロゲン原子の合計量より少ない、有機重合体(A2)の製造方法。
【請求項2】
有機重合体(A1)及び(A2)がポリオキシアルキレン系重合体である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
有機重合体(A1)及び(A2)が、不飽和基を有する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
有機重合体(A2)に含まれるハロゲン原子の合計量が150ppm以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
有機重合体(A1)に含まれるハロゲン原子の合計量が1,000ppmを超える、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
水酸基末端ポリオキシアルキレン系重合体に、アルカリ金属塩を作用させた後、不飽和基含有有機ハロゲン化物を反応させて、有機重合体(A1)として不飽和基を有するポリオキシアルキレン系重合体を得る工程を含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項7】
有機重合体(A2)に含まれるコバルト原子量が1ppm以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項8】
有機重合体(A2)に含まれる亜鉛原子量が1ppm以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項9】
吸着剤(I)が、マグネシウム、アルミニウム、及び/又は珪素を含む無機吸着剤である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項10】
吸着剤(I)が、合成珪酸アルミニウム、合成アルミナマグネシア、合成ハイドロタルサイト、合成珪酸マグネシウム、及びシリカ・マグネシア系製剤からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項11】
非極性溶媒(S1)が、脂肪族または芳香族炭化水素系溶媒で、1気圧における沸点が150℃以下であり、
極性溶媒(S2)が、酸素以外のヘテロ元素を含まない非プロトン性極性溶媒で、1気圧における沸点が150℃以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項12】
有機重合体(A1)に含まれるハロゲン原子が、塩素原子を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項13】
請求項3に記載の製造方法にて有機重合体(A2)を製造した後、得られた有機重合体(A2)が有する不飽和基に、反応性ケイ素基含有ヒドロシラン化合物をヒドロシリル化反応させることによる、反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製工程を含む有機重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反応性ケイ素基含有ポリオキシアルキレン系重合体は、湿分等による反応性ケイ素基の加水分解反応及び脱水縮合反応を伴うシロキサン結合の形成によって架橋し得る。反応性ケイ素基含有ポリオキシアルキレン系重合体は、かかる架橋反応によってゴム状硬化物を与える性質を有することが知られている。
反応性ケイ素基含有ポリオキシアルキレン系重合体は、すでに工業的に生産されており、シーリング材、接着剤、塗料等の用途に広く使用されている。
【0003】
このような反応性ケイ素基含有ポリオキシアルキレン系重合体を製造する方法の一例として、KOH等のアルカリ金属または複合金属シアン化物錯体を触媒としてアルキレンオキシドの開環重合を行い、末端に水酸基を有するポリオキシアルキレン系重合体を製造し、当該ポリオキシアルキレン系重合体が有する末端水酸基を不飽和基に変換した後、その末端不飽和基に、反応性ケイ素基を有するヒドロシラン化合物をヒドロシリル化反応させることで、ポリオキシアルキレン系重合体に反応性ケイ素基を導入する方法が知られている。
【0004】
しかし、不飽和基含有ポリオキシアルキレン系重合体に、製造工程に由来する不純物(例えば、アルカリ成分や、複合金属シアン化物錯体および/またはその残渣化合物等の金属不純物)が含まれると、当該重合体に濁りが生じる原因となったり、その後のヒドロシリル化反応が阻害される場合がある。
【0005】
このような不純物を除去して、精製された重合体を得る1つの手法として、ポリオキシアルキレン系重合体に特定の溶剤を混合することで不純物を析出させ、析出した不純物を重合体から除去する方法が知られている(例えば、特許文献1及び2を参照)。
【0006】
別の手法として、重合体に無機吸着剤を添加し、吸着剤に不純物を吸着させる方法も知られている。
例えば、特許文献3では、ポリオキシアルキレン系重合体に無機吸着剤を添加して、不純物たる複合金属シアン化物錯体由来金属を吸着させた後、無機吸着剤を重合体から分離する精製方法が記載されており、無機吸着剤による吸着を、水0.1~10重量%の存在下で行うと、ろ過速度を速くできると記載されている(段落0040)。
【0007】
また、特許文献4では、ポリオキシアルキレン誘導体から、水酸基数の異なる不純物(例えば、モノオール体に少量含まれるジオール体)を削減する方法として、当該誘導体を、5重量倍以上の非プロトン性有機溶媒(好ましくは低極性の溶剤、特にトルエン)に溶解した後、無機吸着剤を添加してスラリーとした後、スラリーから前記誘導体を回収する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2019/203234号
【特許文献2】特開2020-84025号公報
【特許文献3】国際公開第2008/026657号
【特許文献4】特開2010-254978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3及び4に開示された無機吸着剤を用いた重合体の精製方法は、不純物を析出させる方法や、不純物を多量の水に溶解させ、その水を分離することによって不純物を除去する方法に比べると、不純物を簡易にかつ短時間で低減できる利点がある。しかし、その精製過程では、無機吸着剤にポリオキシアルキレン系重合体の一部が吸着してしまい、重合体の回収率が低下したり、重合体の粘度が低下してしまう問題があった。
この重合体粘度の低下は、重合体中の高分子量成分が優先的に無機吸着剤に吸着してしまうことが原因と考えられる。
【0010】
また、不飽和基含有ポリオキシアルキレン系重合体には、不飽和基を導入する際の反応に起因してハロゲン原子が不純物として含まれる場合がある。特許文献3では複合金属シアン化物錯体由来金属を除去できること、特許文献4では水酸基数の異なる不純物(例えば、モノオール体に少量含まれるジオール体)を除去できることが記載されているが、ハロゲン原子を除去することについては記載されていない。
【0011】
本発明は、上記現状に鑑み、ハロゲン原子を不純物として含む有機重合体を、吸着剤を用いて精製する方法であって、重合体中の不純物量は低減しながら、重合体の回収率は高く、かつ重合体粘度の低下を抑制することが可能な精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ハロゲン原子を不純物として含む有機重合体を、吸着剤を用いて精製するにあたって、2種類の特定溶媒と吸着剤を重合体に添加して混合液を得ることによって、前記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。また、吸着剤として、特許文献3及び4に開示されているような無機吸着剤に限らず、有機樹脂ベースの吸着剤を使用できることも、併せて見出した。
【0013】
すなわち本発明は、ハロゲン原子を不純物として含む有機重合体(A1)から精製工程を経て有機重合体(A2)を得ることを含む、有機重合体(A2)の製造方法であって、
前記精製工程が、
有機重合体(A1)に、非極性溶媒(S1)、極性溶媒(S2)、及び吸着剤(I)を添加し、混合液(M1)を得る工程、
混合液(M1)から吸着剤(I)を除去し、混合液(M2)を得る工程、及び
混合液(M2)から非極性溶媒(S1)及び極性溶媒(S2)を除去し、有機重合体(A2)を得る工程、を含み、
非極性溶媒(S1)と極性溶媒(S2)の重量比が(S1):(S2)=100:1~1:1であり、
有機重合体(A2)に含まれるハロゲン原子の合計量は、有機重合体(A1)に含まれるハロゲン原子の合計量より少ない、有機重合体(A2)の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ハロゲン原子を不純物として含む有機重合体を、吸着剤を用いて精製する方法であって、重合体中の不純物量は低減しながら、重合体の回収率は高く、かつ重合体粘度の低下を抑制することが可能な精製方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本実施形態に係る有機重合体(A2)の製造方法は、ハロゲン原子を不純物として含む有機重合体(A1)から精製工程を経て有機重合体(A2)を得るものであり、前記精製工程が、有機重合体(A1)に、非極性溶媒(S1)、極性溶媒(S2)、及び吸着剤(I)を添加し、混合液(M1)を得る工程、混合液(M1)から吸着剤(I)を除去し、混合液(M2)を得る工程、及び、混合液(M2)から非極性溶媒(S1)及び極性溶媒(S2)を除去し、有機重合体(A2)を得る工程、を含む。
【0017】
有機重合体(A1)及び(A2)の種類は特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン、ポリオキシテトラメチレン、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシプロピレン-ポリオキシブチレン共重合体などのポリオキシアルキレン系重合体;エチレン-プロピレン系共重合体、ポリイソブチレン、イソブチレンとイソプレンなどとの共重合体、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、イソプレン又はブタジエンとアクリロニトリル、スチレンなどとの共重合体、ならびにこれらのポリオレフィン系重合体に水素添加して得られる水添ポリオレフィン系重合体などの飽和炭化水素系重合体;ポリエステル系重合体;エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル系モノマーをラジカル重合して得られる(メタ)アクリル酸エステル系重合体、ならびに(メタ)アクリル酸系モノマー、酢酸ビニル、アクリロニトリル、およびスチレンなどのビニルモノマーをラジカル重合して得られる重合体などのビニル系重合体;前述のビニルモノマーを重合して得られるグラフト重合体;ポリアミド系重合体;ポリカーボネート系重合体;ジアリルフタレート系重合体;などの有機重合体が挙げられる。上記各重合体はブロック状、グラフト状などのように混在していてもよい。これらの中でも、ポリオキシアルキレン系重合体、飽和炭化水素系重合体、および(メタ)アクリル酸エステル系重合体が、比較的ガラス転移温度が低いことと、得られる硬化物が耐寒性に優れることから好ましい。ポリオキシアルキレン系重合体が特に好ましい。
【0018】
有機重合体(A1)及び(A2)は、上記した各種重合体骨格のうち、いずれか1種の重合体骨格を有する重合体でもよく、異なる重合体骨格を有する重合体の混合物でもよい。また、混合物については、それぞれ別々に製造された重合体の混合物でもよいし、任意の混合組成になるように各重合体が同時に製造された混合物でもよい。
【0019】
有機重合体(A1)及び(A2)の好適な態様である前記ポリオキシアルキレン系重合体とは、オキシアルキレン繰り返し単位から構成される重合体骨格を有するものをいう。該重合体骨格は、直鎖状のものであってもよいし、分岐鎖状のものであってもよい。前記重合体骨格は、オキシアルキレン繰り返し単位のみから構成される重合体骨格であるか、または、オキシアルキレン繰り返し単位に加えて、重合時に使用される開始剤に由来する構造を含み、これらのみから構成される重合体骨格であることが好ましい。
【0020】
前記オキシアルキレン繰り返し単位とは、ポリエーテルを構成する繰り返し単位を指し、例えば、炭素数2~6、好ましくは炭素数2~4のオキシアルキレン単位のことをいう。
ポリオキシアルキレン系重合体の重合体骨格の種類としては特に限定されず、上述したものが挙げられるが、ポリオキシプロピレンが特に好ましい。
【0021】
有機重合体(A1)及び(A2)は、官能基を有さないものであってもよいが、有するものであってもよい。官能基としては、特に限定されず、例えば、不飽和基、反応性ケイ素基等が挙げられる。特に、不飽和基を有することが好ましい。重合体骨格に不飽和基を導入する反応によって、有機重合体(A1)に不純物としてハロゲン原子が含まれる場合があるが、本実施形態によると、当該ハロゲン原子を効率よく除去することができる。
尚、不飽和基とは、炭素-炭素二重結合含有基、又は、炭素-炭素三重結合含有基のことをいう。
【0022】
有機重合体(A1)の製造方法は特に限定されず、公知の合成方法を使用することができる。一例を挙げると、有機重合体(A1)が不飽和基を有するポリオキシアルキレン系重合体である場合、例えば、水酸基を有する開始剤と、複合金属シアン化物錯体等の重合触媒の存在下、モノエポキシドを開環付加重合させて水酸基含有ポリオキシアルキレン系重合体を得た後、当該重合体が有する水酸基を、不飽和基に変換することで、不飽和基を有するポリオキシアルキレン系重合体を製造することができる。
【0023】
当該不飽和基を有するポリオキシアルキレン系重合体において、水酸基と不飽和基の合計数に対する不飽和基の数の割合は、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、85%以上が特に好ましい。前記割合は、例えばH NMRを用いて水酸基と不飽和基それぞれに対応するシグナルの積分比から求めることができる。
【0024】
前記モノエポキシドとしては特に限定されず、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド(例えば、1,2-ブチレンオキシド、2,3-ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド)、スチレンオキシドなどが挙げられる。1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。入手性や得られる重合体の物性の観点から、エチレンオキシド、プロピレンオキシドが好ましく、プロピレンオキシドが特に好ましい。
【0025】
前記水酸基を有する開始剤としては特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、低分子量のポリオキシプロピレンジオール、低分子量のポリオキシプロピレントリオール、アリルアルコール、メタリルアルコール、低分子量のポリオキシプロピレンモノアリルエーテル、低分子量のポリオキシプロピレンモノアルキルエーテル等の、水酸基を1個以上有する有機化合物が挙げられる。
【0026】
前記重合触媒としては、複合金属シアン化物錯体、アルカリ金属触媒、有機アルミニウム化合物等の遷移金属化合物とポルフィリンを反応させて得られる錯体のような金属ポルフィリン、ホスファゼン等が挙げられる。分子量分布(Mw/Mn)が小さく粘度の低い重合体が得られることから、複合金属シアン化物錯体が好ましい。また、本実施形態の製造方法によると、複合金属シアン化物錯体に由来する不純物を有機重合体から効率よく除去することができる。
【0027】
前記複合金属シアン化物錯体としては、従来公知の化合物を用いることができ、特に限定されないが、Zn[Fe(CN)、Zn[Co(CN)、Fe[Fe(CN)]、およびFe[Co(CN)]等が挙げられる。中でも、Zn[Co(CN)(すなわち、亜鉛ヘキサシアノコバルテート錯体)が好ましい。
【0028】
また、前記複合金属シアン化物錯体は、有機配位子が配位したものであってもよい。当該有機配位子としては、アルコールおよび/またはエーテルが好ましい。
前記アルコールとしては、例えば、tert-ブチルアルコール、エタノ-ル、sec-ブチルアルコ-ル、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ペンチルアルコール、イソペンチルアルコール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。前記エーテルとしては、例えば、グライム(エチレングリコールジメチルエーテル)、ジグライム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、トリグライム(トリエチレングリコールジメチルエーテル)、ジオキサン、数平均分子量が150~5000のポリエーテル等が挙げられる。これら有機配位子のうち、tert-ブチルアルコール、およびグライムが特に好ましい。
【0029】
モノエポキシドを開環付加重合させる時の条件は、従来公知の条件を適宜採用することができる。この重合反応によって、重合体骨格の末端に水酸基を有するポリオキシアルキレン系重合体を製造することができる。
【0030】
次いで、水酸基含有ポリオキシアルキレン系重合体の水酸基を、不飽和に変換することで、不飽和基を有するポリオキシアルキレン系重合体を得ることができる。
より具体的に述べると、水酸基含有ポリオキシアルキレン系重合体の水酸基を、アルカリ金属塩と反応させた後、不飽和基含有有機ハロゲン化物を反応させることで、不飽和基に変換することができる。以下、詳細に説明する。
【0031】
(アルカリ金属塩との反応)
まず、水酸基含有ポリオキシアルキレン系重合体に対しアルカリ金属塩を作用させて、重合体が有する水酸基をメタルオキシ基に変換することが好ましい。また、アルカリ金属塩の代わりに、複合金属シアン化物錯体触媒を用いることもできる。以上によって、メタルオキシ基含有ポリオキシアルキレン系重合体が形成される。
【0032】
前記アルカリ金属塩としては特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、ナトリウムアルコキシド、水酸化カリウム、カリウムアルコキシド、水酸化リチウム、リチウムアルコキシド、水酸化セシウム、セシウムアルコキシド等が挙げられる。取り扱いの容易さと溶解性から、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、水酸化カリウム、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムtert-ブトキシドが好ましく、ナトリウムメトキシド、ナトリウムtert-ブトキシドがより好ましい。入手性の点で、ナトリウムメトキシドが、反応性の点で、ナトリウムtert-ブトキシドが、それぞれ特に好ましい。アルカリ金属塩は溶剤に溶解した状態で反応に供してもよい。
当該アルカリ金属塩を作用させる時の条件は、従来公知の条件を適宜採用することができる。
【0033】
(不飽和基含有有機ハロゲン化物との反応)
次に、メタルオキシ基を有するポリオキシアルキレン系重合体に対し、不飽和基含有有機ハロゲン化物を反応させることで、重合体が有するメタルオキシ基を、不飽和基に変換する。前記不飽和基含有有機ハロゲン化物は、ハロゲンの置換反応によって前記メタルオキシ基と反応してエーテル結合を形成する。これによって、不飽和基を有するポリオキシアルキレン系重合体が形成される。
【0034】
不飽和基含有有機ハロゲン化物としては、炭素-炭素二重結合含有有機ハロゲン化物、又は、炭素-炭素三重結合含有有機ハロゲン化物を使用することができる。
炭素-炭素二重結合含有有機ハロゲン化物の具体例としては、塩化ビニル、塩化アリル、塩化メタリル、臭化ビニル、臭化アリル、臭化メタリル、ヨウ化ビニル、ヨウ化アリル、ヨウ化メタリル等が挙げられる。このうち、塩化アリル、塩化メタリルが好ましい。
炭素-炭素三重結合含有有機ハロゲン化物の具体例としては、塩化プロパルギル、1-クロロ-2-ブチン、4-クロロ-1-ブチン、1-クロロ-2-オクチン、1-クロロ-2-ペンチン、1,4-ジクロロ-2-ブチン、5-クロロ-1-ペンチン、6-クロロ-1-ヘキシン、臭化プロパルギル、1-ブロモ-2-ブチン、4-ブロモ-1-ブチン、1-ブロモ-2-オクチン、1-ブロモ-2-ペンチン、1,4-ジブロモ-2-ブチン、5-ブロモ-1-ペンチン、6-ブロモ-1-ヘキシン、ヨウ化プロパルギル、1-ヨード-2-ブチン、4-ヨード-1-ブチン、1-ヨード-2-オクチン、1-ヨード-2-ペンチン、1,4-ジヨード-2-ブチン、5-ヨード-1-ペンチン、および6-ヨード-1-ヘキシン等が挙げられる。これらの中では、塩化プロパルギル、臭化プロパルギル、ヨウ化プロパルギルが好ましく、臭化プロパルギルが特に好ましい。
【0035】
前記不飽和基含有有機ハロゲン化物を反応させる時の条件は、従来公知の条件を適宜採用することができる。
【0036】
また、前記メタルオキシ基含有ポリオキシアルキレン系重合体に対し、まず不飽和基を有するエポキシ化合物(例えば、アリルグリシジルエーテル)を反応させ、次いで、前述した不飽和基含有有機ハロゲン化物を作用させることで、1つの末端に2個以上の不飽和基を有するポリオキシアルキレン系重合体を形成することもできる。
【0037】
以上のようにして製造されるポリオキシアルキレン系重合体には、不純物として、前記不飽和基含有有機ハロゲン化物に由来するハロゲン、重合触媒由来の金属不純物(複合金属シアン化物錯体若しくはアルカリ金属触媒及び/又はその残渣化合物、特に亜鉛やコバルトなど)、前記アルカリ金属塩由来の不純物などが含まれ得る。
【0038】
有機重合体(A1)に含まれる不純物は、以上の記載に限定されるものではないが、少なくともハロゲン原子を含む。ハロゲン原子に加えて、複合金属シアン化物錯体に由来する金属、特にコバルト原子及び/又は亜鉛原子を不純物として含むものであってもよい。
【0039】
本実施形態に係る製造方法によると、有機重合体(A1)に含まれる不純物、特にハロゲン原子の量を低減することができる。さらに、ハロゲン原子に加えて、コバルト原子及び/又は亜鉛原子の量を低減することも可能である。
【0040】
(吸着剤(I))
本実施形態に係る製造方法は、有機重合体(A1)に含まれる不純物を吸着剤(I)に吸着させることで、不純物が低減された有機重合体(A2)を得るものである。
吸着剤(I)としては特に限定されず、従来公知のものを使用することができるが、例えば、その主成分が、周期表の2族、13族、14族金属を主成分とする無機吸着剤;スチレン系、(メタ)アクリル系などの有機樹脂ベースの吸着剤が挙げられる。中でも、マグネシウム、アルミニウム、及び/又は珪素を含む無機吸着剤が、不純物の低減能が高いため好ましい。
【0041】
前記無機吸着剤としては、具体的には、二酸化珪素;酸化マグネシウム;酸化アルミニウム;珪酸マグネシウム;シリカゲル;シリカ・アルミナ、アルミニウムシリケート;活性アルミナ;酸性白土、活性白土等の粘土系吸着剤;珪酸アルミニウムナトリウム等の含水アルミノ珪酸塩鉱物群で総称されるゼオライト系吸着剤;ドーソナイト類化合物;ハイドロタルサイト類化合物等が挙げられる。また、前記無機吸着剤は、以上で例示した物質、吸着剤、及び化合物を少なくとも1つ含む組成物であってもよい。吸着剤(I)としては1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0042】
中でも、不純物の吸着性能が高いことから、合成珪酸アルミニウム、合成アルミナマグネシア(MgOとAlOの固溶体)、合成ハイドロタルサイト、合成珪酸マグネシウム、シリカ・マグネシア系製剤が好ましく、合成珪酸アルミニウム、シリカ・マグネシア系製剤がより好ましく、合成珪酸アルミニウムが特に好ましい。
【0043】
吸着剤(I)の使用量は、除去したい不純物量を考慮して適宜設定することができるが、例えば、有機重合体(A1)100重量部に対して1~100重量部程度であってもよく、10~70重量部が好ましく、20~50重量部がより好ましい。
【0044】
(非極性溶媒(S1)及び極性溶媒(S2))
本実施形態に係る製造方法では、有機重合体(A1)に、非極性溶媒(S1)、極性溶媒(S2)、及び吸着剤(I)を添加して、混合液(M1)を調製する。溶媒を使用することで、有機重合体(A1)と吸着剤(I)を均一に混合することが可能となり、有機重合体(A1)から不純物を効率良く除去することができる。
【0045】
不純物の除去効率向上又は溶媒の使用性の観点から、非極性溶媒(S1)及び極性溶媒(S2)はそれぞれ、有機重合体(A1)を溶解させるものが好ましいが、いずれか一方の溶媒、特に極性溶媒(S2)は、有機重合体(A1)を溶解させないものであってもよい。
【0046】
また、不純物の除去効率向上又は溶媒の使用性の観点から、非極性溶媒(S1)と極性溶媒(S2)は相溶化して均一な混合溶媒を構成することが好ましいが、非極性溶媒(S1)と極性溶媒(S2)は相溶化せず2層に分離するものであってもよい。
【0047】
非極性溶媒(S1)とは、比誘電率が4以下(好ましくは3以下)の溶媒を指し、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒が挙げられる。これらは1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、2種類以上をあらかじめ混合したものを用いても良い。
【0048】
非極性溶媒(S1)としては、脂肪族炭化水素系溶媒または芳香族炭化水素系溶媒が好ましく、脂肪族炭化水素系溶媒がより好ましく、炭素数5~8の脂肪族炭化水素系溶媒がさらに好ましく、炭素数6の脂肪族炭化水素系溶媒が特に好ましい。
また、揮発除去が容易であることから、非極性溶媒(S1)は、1気圧における沸点が150℃以下のものが好ましく、120℃以下のものがより好ましく、100℃以下のものがさらに好ましい。
【0049】
極性溶媒(S2)は、比誘電率が4を超える溶媒を指し、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、n-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、1-ヘキサノール等のアルコール系溶媒;アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン等の環状エーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテート等のエステル系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;水;ギ酸、酢酸等のカルボン酸類;フェノール等が挙げられる。これらは1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、2種類以上の溶媒をあらかじめ混合したものを用いても良い。
【0050】
極性溶媒(S2)としては、酸素以外のヘテロ元素を含まない非プロトン性極性溶媒、アルコール系溶媒、水が好ましい。このうち、非極性溶媒(S1)との相溶性が良好であることから、酸素以外のヘテロ元素を含まない非プロトン性極性溶媒、アルコール系溶媒がより好ましい。不純物の除去効率がより良好となるため、酸素以外のヘテロ元素を含まない非プロトン性極性溶媒が特に好ましい。
【0051】
酸素以外のヘテロ元素を含まない非プロトン性極性溶媒とは、炭素、水素、酸素のみから構成される非プロトン性極性溶媒を指し、具体的には、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、環状エーテル系溶媒が好ましい。中でも、重合体の回収率がより高く、重合体粘度の低下抑制効果がより良好となるため、ケトン系溶媒、環状エーテル系溶媒がより好ましく、ケトン系溶媒がさらに好ましく、アセトンが特に好ましい。
【0052】
また、揮発除去が容易であることから、極性溶媒(S2)は、1気圧における沸点が150℃以下のものが好ましく、120℃以下のものがより好ましく、100℃以下のものがさらに好ましい。
【0053】
本実施形態では、非極性溶媒(S1)と極性溶媒(S2)の双方を使用する。溶媒として非極性溶媒(S1)のみを使用すると、有機重合体(A1)中の不純物は除去できるものの、重合体の回収率が低く、かつ重合体の粘度が大きく低下してしまう。一方、溶媒として極性溶媒(S2)のみを使用すると、ハロゲンを含む不純物の除去を十分に行うことが困難となる。
【0054】
非極性溶媒(S1)と極性溶媒(S2)の使用比率は、重量比で(S1):(S2)=100:1~1:1である。このような比率で両溶媒を併用することで、重合体中の不純物量を低減しながら、重合体の回収率は高く、かつ重合体粘度の低下を抑制することが可能となる。前記使用比率は、重合体の回収率及び重合体粘度の低下抑制の観点から、20:1~1:1が好ましく、10:1~1:1がより好ましく、5:1~1:1がさらに好ましく、4:1~1:1が特に好ましく、3:1~1:1が最も好ましい。また、不純物除去の観点からは、前記使用比率は、100:1~1.5:1が好ましく、100:1~2:1がより好ましく、100:1~3:1が特に好ましい。また、前記使用比率は、重合体の回収率、重合体粘度の低下抑制、および不純物除去の観点から、10:1~1.5:1が好ましく、4:1~2:1がより好ましい。
【0055】
非極性溶媒(S1)と極性溶媒(S2)の合計使用量は、有機重合体(A1)を均一に溶解又は分散させるに足る量であることが好ましく、具体的には、例えば、有機重合体(A1)100重量部に対して、非極性溶媒(S1)と極性溶媒(S2)の合計量が10~1000重量部が好ましく、50~800重量部がより好ましく、100~500重量部がさらに好ましく、150~400重量部が特に好ましい。
【0056】
次に、本実施形態による有機重合体(A1)の精製の手順を具体的に説明する。
まず、有機重合体(A1)に、非極性溶媒(S1)、極性溶媒(S2)、及び吸着剤(I)を添加し、混合液(M1)を得る。
【0057】
非極性溶媒(S1)、極性溶媒(S2)、及び吸着剤(I)の添加順序は特に限定されず、任意の順序で添加することが可能である。特に好適な態様によると、有機重合体(A1)と吸着剤(I)を均一に混合し、有機重合体(A1)から不純物を効率良く除去することが可能となるため、有機重合体(A1)に非極性溶媒(S1)と極性溶媒(S2)を添加し、混合液(M0)を得た後、吸着剤(I)を添加することが好ましい。
【0058】
非極性溶媒(S1)と極性溶媒(S2)の添加順序は特に限定されず、非極性溶媒(S1)を添加してから極性溶媒(S2)を添加してもよいし、その逆でもよい。また、非極性溶媒(S1)と極性溶媒(S2)を同時に添加してもよいし、あらかじめ非極性溶媒(S1)と極性溶媒(S2)を混合して調製した混合溶媒(S)を添加してもよい。より均一な混合が可能で、不純物の除去効率が向上することから、混合溶媒(S)を添加することが好ましい。非極性溶媒(S1)、極性溶媒(S2)、又は混合溶媒(S)を添加する時は、各溶媒を一度に添加してもよいし、2回以上に分割して添加してもよい。
【0059】
混合液(M0)では、有機重合体(A1)が非極性溶媒(S1)及び極性溶媒(S2)に均一に分散又は溶解していることが好ましく、溶解していることが特に好ましい。そのような分散又は溶解を達成するには、一般的な機械、例えば振とう機や撹拌機を使用すればよい。
【0060】
また、混合液(M0)を調製する時の温度は特に限定されないが、有機重合体の劣化を抑制しつつ、有機重合体の均一分散又は溶解を達成できるよう、0~140℃が好ましく、10~100℃が好ましい。常温であってもよい。
【0061】
次いで、上記で得られた、有機重合体(A1)、非極性溶媒(S1)及び極性溶媒(S2)を含む混合液(M0)に吸着剤(I)を添加し、混合液(M1)を得ることができる。但し、混合液(M0)を調製することなく、混合液(M1)を得てもよい。例えば、有機重合体(A1)に吸着剤(I)を添加してから、非極性溶媒(S1)及び極性溶媒(S2)を添加することで混合液(M1)を得てもよい。また、有機重合体(A1)に非極性溶媒(S1)及び極性溶媒(S2)のうち一方を添加した後、吸着剤(I)を添加し、その後、残りの溶媒を添加することで混合液(M1)を得てもよい。
【0062】
混合液(M0)を調製するか否かに関わらず、吸着剤(I)を添加する時には、当該吸着剤を一度に添加してもよいし、2回以上に分割して添加してもよい。
【0063】
混合液(M1)において、有機重合体(A1)に含まれていた不純物を、吸着剤(I)に吸着させる。この吸着を十分に進行させるために、混合液(M1)を所定時間、撹拌することが好ましい。この撹拌は、例えば、撹拌機を用いて実施することができる。
【0064】
混合液(M1)を撹拌する時間としては、不純物の吸着除去の観点から適宜決定すればよいが、例えば、10分~10時間程度であってよく、30分~5時間程度が好ましい。また、撹拌する時の混合液(M1)の温度は0~140℃程度であってよく、10~100℃程度が好ましい。常温であってもよい。
【0065】
次いで、上記で得られた、有機重合体、非極性溶媒(S1)、極性溶媒(S2)、及び吸着剤(I)を含む混合液(M1)から、吸着剤(I)を除去し、有機重合体、非極性溶媒(S1)及び極性溶媒(S2)を含む混合液(M2)を得る。
【0066】
混合液(M1)から吸着剤(I)を分離する方法としては特に限定されず、静置分離、遠心分離、ろ過法等を使用することができるが、簡便で効率が良いため、ろ過法が好ましい。ろ過法では、ろ過材として、工業的に通常使用されるフィルターを使用することができ、例えば、ろ紙、ろ布、金属メッシュ等を使用できる。ろ過を行う際には、ろ過速度を速めるために適宜圧力をかけてもよい。また、珪藻土やパーライト等のろ過助剤を使用してもよい。
【0067】
ろ過等によって、混合液(M1)から吸着剤(I)を分離した後、重合体の回収率を上げるために、分離した吸着剤(I)を洗浄してもよい。その洗浄には、洗浄溶剤を適宜使用すればよい。そのような洗浄溶剤としては、非極性溶媒(S1)、極性溶媒(S2)、又は混合溶媒(S)を使用することができ、混合溶媒(S)を使用することが好ましい。
【0068】
そして、上記で得られた、有機重合体、非極性溶媒(S1)及び極性溶媒(S2)を含む混合液(M2)から非極性溶媒(S1)及び極性溶媒(S2)を除去することで、少なくともハロゲン原子量が低減された有機重合体(A2)を得ることができる。混合液(M2)から非極性溶媒(S1)及び極性溶媒(S2)を除去するには、常温又は減圧下で非極性溶媒(S1)及び極性溶媒(S2)を揮発除去させる方法が好適である。その時の温度は非極性溶媒(S1)及び極性溶媒(S2)の沸点を考慮して適宜設定すればよく、特に限定されないが、例えば、10~140℃程度であってよく、20~120℃程度が好ましく、60~110℃程度がさらに好ましい。
【0069】
以上で説明した各工程を経ることによって、少なくともハロゲン原子量が有機重合体(A1)よりも低減された有機重合体(A2)を得ることができる。本実施形態に従って、非極性溶媒(S1)及び極性溶媒(S2)の存在下で吸着剤(I)に不純物を吸着させることで、重合体中の不純物量は低減しつつも、重合体の回収率は高く、重合体粘度の低下を抑制することが可能である。
【0070】
好適な態様によると、例えばハロゲン原子の合計量が1,000ppmを超える有機重合体(A1)から、好ましくはハロゲン原子の合計量が150ppm以下、より好ましくは120ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下、特に好ましくは70ppm以下、最も好ましくは50ppm以下である有機重合体(A2)を得ることができる。
【0071】
ここで、ハロゲン原子の合計量とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子の合計含有量のことをいう。有機重合体(A1)に含まれるハロゲン原子は、通常、有機重合体(A1)の製造過程で発生する副生物や、使用する触媒に由来するものである。例えば、上述した不飽和基含有有機ハロゲン化物として塩化アリルを使用した場合、有機重合体(A1)には不純物として塩素原子が含まれ得る。
【0072】
また、有機重合体(A1)の重合反応で上述した複合金属シアン化物錯体を使用した場合、有機重合体(A1)には、複合金属シアン化物錯体に由来する亜鉛原子及び/又はコバルト原子が不純物として含まれる場合がある。
【0073】
好適な態様によると、例えば亜鉛原子の含有量が15ppmを超える有機重合体(A1)から、亜鉛原子の含有量が15ppm以下、好ましくは10ppm以下、より好ましくは5ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下である有機重合体(A2)を得ることも可能である。
【0074】
また、例えばコバルト原子の含有量が5ppmを超える有機重合体(A1)から、コバルト原子の含有量が1ppm以下、好ましくは0.5ppm以下、より好ましくは0.2ppm以下、さらに好ましくは0.1ppm以下である有機重合体(A2)を得ることが可能である。
【0075】
本実施形態によると、精製工程による重合体の損失が少なく、回収率を高くすることができる。重合体の回収率(%)とは、精製工程から回収された有機重合体(A2)の重量/精製工程で使用した有機重合体(A1)の重量×100で定義することができる。この数値が100%に近いほど、精製工程による重合体の損失が少なく、回収率が高いことを示す。本実施形態によって達成可能な回収率は、特に限定されないが、例えば、93%以上であってよく、94%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、96%以上がさらに好ましく、97%以上が特に好ましい。
【0076】
また、本実施形態によると、精製工程に起因する重合体粘度の低下を抑制することができる。従来、無機吸着剤を用いて有機重合体を精製すると、有機重合体の粘度が大きく低下してしまう傾向があった。これは、有機重合体中の高分子量成分が、低分子量成分よりも優先的に無機吸着剤に吸着されてしまい、有機重合体中の高分子量成分の含有比が低下することが原因と考えられる。しかし、本実施形態によると、精製工程によって重合体の粘度が低下するのを抑制でき、即ち、精製工程に起因する重合体の物性(粘度の他、分子量分布など)の変化を抑止することが可能となる。
【0077】
<不飽和基含有有機重合体のヒドロシリル化>
有機重合体(A2)が不飽和基を有する場合、当該不飽和基に対するヒドロシリル化反応を良好に実施することができる。有機重合体(A2)では、ヒドロシリル化反応の進行を阻害する不純物が低減されているためである。
【0078】
典型的には、有機重合体(A2)が有する不飽和基に、反応性ケイ素基含有ヒドロシラン化合物をヒドロシリル化反応させることで、反応性ケイ素基含有有機重合体を製造することができる。
【0079】
前記反応性ケイ素基含有ヒドロシラン化合物としては特に限定されないが、例えば、トリクロロシラン、ジクロロメチルシラン、クロロジメチルシラン、ジクロロフェニルシラン、(クロロメチル)ジクロロシラン、(メトキシメチル)ジクロロシランなどのハロシラン類;トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシメチルシラン、ジメトキシフェニルシラン、メトキシジメチルシラン、(クロロメチル)メチルメトキシシラン、ビス(クロロメチル)メトキシシラン、(メトキシメチル)ジメトキシシラン、ビス(メトキシメチル)メトキシシラン、(N,N-ジエチルアミノメチル)ジメトキシシラン、[(メトキシメチル)ジメトキシシリルオキシ]ジメチルシラン、[(ジエチルアミノメチル)ジメトキシシリルオキシ]ジメチルシラン等のアルコキシシラン類;ジアセトキシメチルシラン、ジアセトキシフェニルシラン等のアシロキシシラン類;ビス(ジメチルケトキシメート)メチルシラン、ビス(シクロヘキシルケトキシメート)メチルシランなどのケトキシメートシラン類、トリイソプロペニロキシシラン、(メトキシメチル)ジイソプロペニロキシシラン等のイソプロペニロキシシラン類(脱アセトン型)等が挙げられる。
【0080】
ヒドロシリル化反応は、反応促進のため、白金触媒などのヒドロシリル化触媒の存在下で実施することができる。また、ヒドロシリル化反応を実施する際の条件は、特に限定されず、公知の条件であってもよい。
【0081】
(硬化性組成物)
不飽和基含有有機重合体や、反応性ケイ素基含有有機重合体は、硬化性組成物の硬化成分として好適に使用することができる。
本実施形態によって製造可能な有機重合体(A2)は、不純物が良好に除去されているため清澄である。そのため、本実施形態によると、透明性に優れる硬化性組成物を得ることができる。
【0082】
前記硬化性組成物の組成は特に限定されない。不飽和基含有有機重合体を含む硬化性組成物としては、例えば、不飽和基含有有機重合体と、1分子中に少なくとも2個のヒドロシリル基を有する硬化剤と、ヒドロシリル化触媒とを含む組成物が挙げられる。当該組成物は、ヒドロシリル化反応に基づく硬化性を示す。
【0083】
また、反応性ケイ素基含有有機重合体を含む硬化性組成物としては、反応性ケイ素基含有有機重合体と、硬化触媒とを含む組成物が挙げられる。反応性ケイ素基含有有機重合体は、硬化触媒の存在下、水分によって常温又は加熱下で硬化し、金属、ガラス、樹脂等に対する密着性が良好な塗膜を形成することができる。反応性ケイ素基含有有機重合体を含む硬化性組成物は、建造物、航空機、自動車等の製造工程被膜組成物、シーリング材組成物、塗料組成物、接着剤組成物、塗膜組成物等として有用である。硬化触媒としては、従来公知のシラノール縮合触媒を使用することができる。
【0084】
以下の各項目では、本開示における好ましい態様を列挙するが、本発明は以下の項目に限定されるものではない。
[項目1]
ハロゲン原子を不純物として含む有機重合体(A1)から精製工程を経て有機重合体(A2)を得ることを含む、有機重合体(A2)の製造方法であって、
前記精製工程が、
有機重合体(A1)に、非極性溶媒(S1)、極性溶媒(S2)、及び吸着剤(I)を添加し、混合液(M1)を得る工程、
混合液(M1)から吸着剤(I)を除去し、混合液(M2)を得る工程、及び
混合液(M2)から非極性溶媒(S1)及び極性溶媒(S2)を除去し、有機重合体(A2)を得る工程、を含み、
非極性溶媒(S1)と極性溶媒(S2)の重量比が(S1):(S2)=100:1~1:1であり、
有機重合体(A2)に含まれるハロゲン原子の合計量は、有機重合体(A1)に含まれるハロゲン原子の合計量より少ない、有機重合体(A2)の製造方法。
[項目2]
有機重合体(A1)及び(A2)がポリオキシアルキレン系重合体である、項目1に記載の製造方法。
[項目3]
有機重合体(A1)及び(A2)が、不飽和基を有する、項目1又は2に記載の製造方法。
[項目4]
有機重合体(A2)に含まれるハロゲン原子の合計量が150ppm以下である、項目1~3のいずれかに記載の製造方法。
[項目5]
有機重合体(A1)に含まれるハロゲン原子の合計量が1,000ppmを超える、項目1~4のいずれかに記載の製造方法。
[項目6]
水酸基末端ポリオキシアルキレン系重合体に、アルカリ金属塩を作用させた後、不飽和基含有有機ハロゲン化物を反応させて、有機重合体(A1)として不飽和基を有するポリオキシアルキレン系重合体を得る工程を含む、項目1~5のいずれかに記載の製造方法。
[項目7]
有機重合体(A2)に含まれるコバルト原子量が1ppm以下である、項目1~6のいずれかに記載の製造方法。
[項目8]
有機重合体(A2)に含まれる亜鉛原子量が1ppm以下である、項目1~7のいずれかに記載の製造方法。
[項目9]
吸着剤(I)が、マグネシウム、アルミニウム、及び/又は珪素を含む無機吸着剤である、項目1~8のいずれかに記載の製造方法。
[項目10]
吸着剤(I)が、合成珪酸アルミニウム、合成アルミナマグネシア、合成ハイドロタルサイト、合成珪酸マグネシウム、及びシリカ・マグネシア系製剤からなる群より選択される少なくとも1種である、項目1~9のいずれかに記載の製造方法。
[項目11]
非極性溶媒(S1)が、脂肪族または芳香族炭化水素系溶媒で、1気圧における沸点が150℃以下であり、
極性溶媒(S2)が、酸素以外のヘテロ元素を含まない非プロトン性極性溶媒で、1気圧における沸点が150℃以下である、項目1~10のいずれかに記載の製造方法。
[項目12]
有機重合体(A1)に含まれるハロゲン原子が、塩素原子を含む、項目1~11のいずれかに記載の製造方法。
[項目13]
項目1~12のいずれかに記載の製造方法にて有機重合体(A2)を製造した後、得られた有機重合体(A2)が有する不飽和基に、反応性ケイ素基含有ヒドロシラン化合物をヒドロシリル化反応させることによる、反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法。
【実施例0085】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0086】
数平均分子量は、以下の条件で測定したGPC分子量である。
送液システム:東ソー製HLC-8420GPC
カラム:東ソー製TSKgel SuperHシリーズ
溶媒:THF
分子量:ポリスチレン換算
測定温度:40℃
検出器:RI
【0087】
粘度は、23℃にて、E型粘度計(東京計器製RE-85U、測定コーン:3°×R14)で測定した粘度である。
【0088】
重合体中の各原子量は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(島津製作所社製EDX-7000)で、各原子の検量線を作製の上で測定した値である。
【0089】
なお、以下の各実施例及び比較例で使用する有機溶媒としては、全て富士フイルム和光純薬工業製の特級試薬を使用した。
【0090】
(合成例1-1)
数平均分子量が約4,000であるポリオキシプロピレントリオール(市販品)を開始剤とし、亜鉛ヘキサシアノコバルテートグライム錯体触媒にてプロピレンオキシドの重合を行い、数平均分子量が約13,000の分岐鎖状の水酸基末端ポリオキシプロピレン(E-1)を得た。
【0091】
(合成例1-2)
数平均分子量が約3,500であるポリオキシプロピレンジオール(市販品)を開始剤とし、亜鉛ヘキサシアノコバルテートグライム錯体触媒にてプロピレンオキシドの重合を行い、数平均分子量が約27,000の直鎖状の水酸基末端ポリオキシプロピレン(E-2)を得た。
【0092】
(合成例2-1)
合成例1-1の手順により得た、水酸基末端ポリオキシプロピレン(E-1)の水酸基に対して1.2当量のナトリウムメトキシドのメタノール溶液を添加して130℃でメタノールを留去した。続いて、130℃で1.5当量の3-クロロ-1-プロペン(塩化アリル)を添加することにより、末端にアリル基を有し、不純物として主に塩化ナトリウムを含む、数平均分子量が13,000のポリオキシプロピレン系重合体(A1-1)を得た。ポリオキシプロピレン系重合体(A1-1)中、亜鉛原子含有量は20ppm、コバルト原子含有量は10ppm、塩素原子含有量は14,000ppmであった。また、重合体(A1-1)中の水酸基と不飽和基の合計数に対する不飽和基の数の割合は98%であった。
尚、重合体(A1-1)は、合成例1-1及び2-1に示すように、その製造工程で塩素原子以外のハロゲン原子を含有する反応剤を意図的には使用していない。そのため、重合体(A1-1)中、塩素原子以外のハロゲン原子含有量は実質的にゼロと考えられる。よって、重合体(A1-1)中の塩素原子含有量は、重合体(A1-1)中のハロゲン原子の合計量とみなすことができる。
【0093】
(合成例2-2)
合成例1-2の手順により得た、水酸基末端ポリオキシプロピレン(E-2)の水酸基に対して1.0当量のナトリウムメトキシドのメタノール溶液を添加して140℃でメタノールを留去した。続いて、1.0当量のアリルグリシジルエーテルを140℃で添加して2時間反応させて不飽和結合を導入し、130℃で1.3当量の3-クロロ-2-メチル-1-プロペン(塩化メタリル)を添加して末端の水酸基をメタリル基に変換した。さらに、(E-2)の水酸基に対して0.3当量のナトリウムメトキシドのメタノール溶液を添加して130℃でメタノールを留去し、続いて130℃で0.8当量の3-クロロ-1-プロペン(塩化アリル)を添加することにより、メタリル基/アリル基混合末端を有し、不純物として主に塩化ナトリウムを含む、数平均分子量が27,000のポリオキシプロピレン系重合体(A1-2)を得た。ポリオキシプロピレン系重合体(A1-2)中、亜鉛原子含有量は23ppm、コバルト原子含有量は11ppm、塩素原子含有量は5,000ppmであった。また、重合体(A1-2)中の水酸基と不飽和基の合計数に対する不飽和基の数の割合は97%であった。
尚、重合体(A1-2)は、合成例1-2及び2-2に示すように、その製造工程で塩素原子以外のハロゲン原子を含有する反応剤を意図的には使用していない。そのため、重合体(A1-2)中、塩素原子以外のハロゲン原子含有量は実質的にゼロと考えられる。よって、重合体(A1-2)中の塩素原子含有量は、重合体(A1-2)中のハロゲン原子の合計量とみなすことができる。
【0094】
(参考例1)水精製
合成例2-1の手順により得た、ポリオキシプロピレン系重合体(A1-1)100重量部に、n-ヘキサン300重量部と、水(脱イオン水)300重量部を混合攪拌した後、遠心分離により水を除去した。得られたn-ヘキサン溶液に更に水300重量部を混合攪拌し、再度遠心分離により水を除去した後、エバポレータで濃縮してn-ヘキサンを除くことにより、重合体(A2-0)を得た。重合体の粘度は3.7Pa・sであった。ポリオキシプロピレン系重合体(A2-0)中、亜鉛原子含有量は0.1ppm未満、コバルト原子含有量は0.1ppm未満、塩素原子含有量は40ppmであった。
本参考例は、吸着剤を使用することなく、不純物を多量の水に溶解させ、その水を分離することによって不純物を除去したものである。このような方法によると、ハロゲン原子を含む不純物が十分に除去され、精製工程における重合体粘度の低下を抑制できていることが分かる。この参考例の結果と、後述する比較例1又は2の結果を対比すると、吸着剤を用いた比較例1又は2の精製方法は、不純物の除去効果、又は、回収率及び重合体粘度のいずれかが不十分であることが分かる。
【0095】
(実施例1)
合成例2-1の手順により得た、ポリオキシプロピレン系重合体(A1-1)100重量部に、非極性溶媒(S1)であるn-ヘキサン:極性溶媒(S2)であるアセトン=10:1(重量比)の混合溶媒200重量部を添加し、撹拌した。さらに、吸着剤(I)である合成珪酸アルミニウム(協和化学工業製、キョーワード700 SEN-S)30重量部を添加して撹拌し、60分後に停止した。濾紙を敷き、セライト-545RVS(ナカライテスク製)およびスタンダード スーパーセル(ナカライテスク製)を敷き詰めた桐山ロートにて減圧吸引ろ過することにより合成珪酸アルミニウムを除去し、桐山ロート上の残留物を前記混合溶媒にて洗浄後、濾液をエバポレータで濃縮して前記混合溶媒を除去することにより、重合体(A2-1)を得た。重合体の回収率は94%、粘度は3.5Pa・sであった。ポリオキシプロピレン系重合体(A2-1)中、亜鉛原子含有量は0.1ppm未満、コバルト原子含有量は0.1ppm未満、塩素原子含有量は40ppmであった。重合体(A1-1)と同様、(A2-1)中の塩素原子含有量は、重合体(A2-1)中のハロゲン原子の合計量とみなすことができる。以下の実施例及び比較例で得られる重合体についても同様である。
【0096】
(実施例2~6)
n-ヘキサンとアセトンの混合比を変更する以外は、実施例1と同様の手順を経ることにより、重合体(A2-2)~(A2-6)を得た。前記混合比、および回収率等の結果は、表1に示す。
【0097】
(比較例1,2)
n-ヘキサンとアセトンの混合溶媒200重量部に代えて、n-ヘキサン200重量部またはアセトン200重量部を単独で用いる以外は、実施例1と同様の手順を経ることにより、重合体(A2-7)および(A2-8)を得た。回収率等の結果は、表1に示す。
【0098】
(実施例7~9)
極性溶媒(S2)として、アセトンに代えて他の極性溶媒を使用し、混合比をn-ヘキサン:極性溶媒(S2)=3:1(重量比)とする以外は、実施例1と同様の手順を経ることにより、重合体(A2-9)~(A2-11)を得た。使用した極性溶媒(S2)、および回収率等の結果は、表2に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
表1および表2に示した結果より、非極性溶媒(S1)と極性溶媒(S2)の重量比が(S1):(S2)=100:1~1:1である実施例1~9では、ハロゲン原子を含む不純物が十分に除去され、かつ高い回収率を示すとともに、精製工程における重合体粘度の低下を抑制できていることが分かる。
一方、非極性溶媒(S1)のみを使用した比較例1では、不純物は除去できたものの、回収率が低く、重合体粘度が大きく低下した。極性溶媒(S2)のみを使用した比較例2では、不純物、特に亜鉛と塩素の除去が十分ではなかった。
【0102】
(実施例10)
極性溶媒(S2)として水(脱イオン水)を使用し、混合比をn-ヘキサン:水=20:1(重量比)とし、残留物の洗浄をn-ヘキサンを単独で用いる以外は、実施例1と同様の手順を経ることにより、重合体(A2-12)を得た。重合体の回収率は96%、粘度は3.6Pa・sであった。ポリオキシプロピレン系重合体(A2-12)中、亜鉛原子含有量は0.1ppm未満、コバルト原子含有量は0.1ppm未満、塩素原子含有量は60ppmであった。
尚、水は非極性溶媒(S1)と相溶しないため、残留物の洗浄時に混合溶媒を使用することが困難であったため、代わりにn-ヘキサンを単独で使用した。
【0103】
実施例10の結果より、極性溶媒(S2)として水を使用する場合でも、ハロゲン原子を含む不純物が十分に除去され、かつ高い回収率を示すとともに、精製工程における重合体粘度の低下を抑制できていることが分かる。
【0104】
(実施例11)
合成例2-2の手順により得た、ポリオキシプロピレン系重合体(A1-2)100重量部に、非極性溶媒(S1)であるn-ヘキサン150重量部を添加し、30分間撹拌した。次に、極性溶媒(S2)であるアセトン50重量部を添加し、5分間撹拌した。さらに、吸着剤(I)である合成珪酸アルミニウム(協和化学工業製、キョーワード700 SEN-S)30重量部を添加して撹拌し、60分後に停止した。濾紙を敷き、セライト-545RVS(ナカライテスク製)およびスタンダード スーパーセル(ナカライテスク製)を敷き詰めた桐山ロートにて減圧吸引ろ過することにより合成珪酸アルミニウムを除去し、桐山ロート上の残留物を前記混合溶媒にて洗浄後、濾液をエバポレータで濃縮して前記混合溶媒を除去することにより、重合体(A2-13)を得た。重合体の回収率は96%、粘度は41Pa・sであった。ポリオキシプロピレン系重合体(A2-13)中、亜鉛原子含有量は0.2ppm、コバルト原子含有量は0.2ppm、塩素原子含有量は30ppmであった。
【0105】
(実施例12)
合成例2-2の手順により得た、ポリオキシプロピレン系重合体(A1-2)100重量部に、非極性溶媒(S1)であるn-ヘキサン:極性溶媒(S2)であるアセトン=3:1(重量比)の混合溶媒200重量部を添加し、撹拌した。さらに、吸着剤(I)である合成珪酸アルミニウム(協和化学工業製、キョーワード700 SEN-S)30重量部を添加して撹拌し、60分後に停止した。濾紙を敷き、セライト-545RVS(ナカライテスク製)およびスタンダード スーパーセル(ナカライテスク製)を敷き詰めた桐山ロートにて減圧吸引ろ過することによりケイ酸アルミニウムを除去し、桐山ロート上の残留物を前記混合溶媒にて洗浄後、濾液をエバポレータで濃縮して前記混合溶媒を除去することにより、重合体(A2-14)を得た。重合体の回収率は97%、粘度は40Pa・sであった。ポリオキシプロピレン系重合体(A2-14)中、亜鉛原子含有量は0.1ppm未満、コバルト原子含有量は0.1ppm、塩素原子含有量は30ppmであった。
【0106】
(比較例3)
n-ヘキサンとアセトンの混合溶媒200重量部に代えて、n-ヘキサン200重量部を単独で用いる以外は、実施例12と同様の手順を経ることにより、重合体(A2-15)を得た。重合体の回収率は91%、粘度は36Pa・sであった。ポリオキシプロピレン系重合体(A2-15)中、亜鉛原子含有量は0.1ppm未満、コバルト原子含有量は0.1ppm未満、塩素原子含有量は20ppmであった。
実施例11,12、比較例3の結果をまとめ、表3に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
表3に示した結果より、非極性溶媒(S1)と極性溶媒(S2)を個別に有機重合体(A1)に添加した場合(実施例11)と、非極性溶媒(S1)と極性溶媒(S2)をあらかじめ混合した混合溶媒(S)を有機重合体(A1)に添加した場合(実施例12)のいずれも、非極性溶媒(S1)のみを添加した場合(比較例3)に比べ、高い回収率を示すとともに、精製工程における重合体粘度の低下を抑制できるとともに、ハロゲン原子を含む不純物が同様に十分に除去されていることが分かる。
【0109】
(実施例13、14)
吸着剤(I)を、合成珪酸アルミニウムに代えて、シリカ・マグネシア系製剤(水澤化学工業製、ミズカライフ F-1G)またはスチレン系イオン交換樹脂(オルガノ製、アンバーリスト 15DRY)を使用する以外は実施例4と同様の手順を経ることにより、重合体(A2-15)および(A2-16)を得た。使用した吸着剤(I)、および回収率等の結果は、表4に示す。
【0110】
(比較例4)
吸着剤(I)を使用しないこと以外は実施例4と同様の手順を経ることにより、重合体(A2-17)を得た。回収率等の結果は、表4に示す。
【0111】
【表4】
【0112】
表4に示した結果より、いずれの吸着剤を用いた場合も、ハロゲン原子が十分に除去され、かつ高い回収率を示すとともに、精製工程における重合体粘度の低下を抑制できていることが分かる。また吸着剤(I)として、実施例14と他の実施例の比較により、亜鉛とコバルトの除去の観点で無機吸着剤が好ましいことが分かり、実施例13と実施例4の比較により、無機吸着剤の中でも回収率の観点で合成珪酸アルミニウムが特に好ましいことが分かる。