(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133215
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】インク組成物、印刷錠剤、錠剤印刷装置、及び錠剤印刷方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/328 20140101AFI20230914BHJP
A61J 3/06 20060101ALI20230914BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20230914BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20230914BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20230914BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C09D11/328
A61J3/06 Q
A61K9/20
A61K47/04
B41M5/00 120
B41M5/00 110
B41M5/00 100
B41J2/01 501
B41J2/01 451
B41J2/01 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034503
(22)【出願日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2022037212
(32)【優先日】2022-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022054895
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002428
【氏名又は名称】芝浦メカトロニクス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】722010585
【氏名又は名称】セトラスホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 達美
(72)【発明者】
【氏名】浅見 夏希
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 修平
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4C047
4C076
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA13
2C056EB13
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2C056FB01
2C056FC01
2H186AA17
2H186DA07
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2H186FB17
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2H186FB29
2H186FB53
4C047LL10
4C076AA36
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4C076GG12
4C076GG14
4J039BE02
4J039BE22
4J039EA35
4J039FA07
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】光による退色を抑えることができるインク組成物、印刷錠剤、錠剤印刷装置、及び錠剤印刷方法を提供する。
【解決手段】実施形態にかかるインク組成物は、染料と、水と、エタノールと、を含み、染料として、食用赤色104号と食用赤色3号とを含む。好ましくは、食用赤色104号に対する食用赤色3号の割合が、重量比率にして0.05以上かつ9未満である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
染料と、
水と、
エタノールと、を含み、
前記染料として、
食用赤色104号と食用赤色3号とを含む、
インク組成物。
【請求項2】
前記食用赤色104号に対する前記食用赤色3号の割合が、重量比率にして0.05以上かつ9未満である、
請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
全体における前記染料の配合比率が、0.1重量%以上かつ10重量%以下である、
請求項1または請求項2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記染料における前記食用赤色104号と前記食用赤色3号とを合計した配合比率が100%である、
請求項1または請求項2に記載のインク組成物。
【請求項5】
前記染料における前記食用赤色104号と前記食用赤色3号とを合計した配合比率が100%である、
請求項3に記載のインク組成物。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載のインク組成物を用いて表面に識別情報が印刷された、
印刷錠剤。
【請求項7】
錠剤の主成分が酸化マグネシウムである、
請求項6に記載の印刷錠剤。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載のインク組成物を供給可能なインク供給部と、
錠剤を搬送する搬送部と、
前記搬送部により搬送される錠剤を検出する検出部と、
前記検出部により検出された前記錠剤に対し、前記インク供給部により供給された前記インク組成物を吐出するインクジェットヘッドと、を備える、
錠剤印刷装置。
【請求項9】
請求項1または請求項2に記載のインク組成物をインクジェットヘッドに供給し、
搬送部により錠剤を搬送し、
前記搬送部により搬送される前記錠剤を検出し、
検出された前記錠剤に対し、前記インクジェットヘッドから前記インク組成物を吐出する、
錠剤印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インク組成物、印刷錠剤、錠剤印刷装置、及び錠剤印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内服用または口腔用等の錠剤の表面に、文字または記号等の識別情報を印刷することで、錠剤の識別性を高め、調剤者による調剤ミス及び使用者による誤った服用の防止が図られている。
【0003】
錠剤への印刷には、染料を含む染料インクが用いられることがある。染料インクによれば、顔料を含むインクと比較して、印刷された文字などが濃く発色しやすく、識別情報の視認性を向上させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、色素として染料を含むインクは、顔料を含むインクと比較して耐光性が低く、光によって退色しやすいという欠点がある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、光による退色を抑えることができるインク組成物、印刷錠剤、錠剤印刷装置、及び錠剤印刷方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態にかかるインク組成物は、染料と、水と、エタノールと、を含み、前記染料として、食用赤色104号と食用赤色3号とを含む。
【0008】
実施形態にかかる印刷錠剤は、実施形態にかかるインク組成物を用いて表面に識別情報が印刷されている。
【0009】
実施形態にかかる錠剤印刷装置は、実施形態にかかるインク組成物を供給可能なインク供給部と、錠剤を搬送する搬送部と、前記搬送部により搬送される錠剤を検出する検出部と、前記検出部により検出された前記錠剤に対し、前記インク供給部により供給された前記インク組成物を吐出するインクジェットヘッドと、を備える。
【0010】
実施形態にかかる錠剤印刷方法は、実施形態にかかるインク組成物をインクジェットヘッドに供給し、搬送部により錠剤を搬送し、前記搬送部により搬送される前記錠剤を検出し、検出された前記錠剤に対し、前記インクジェットヘッドから前記インク組成物を吐出する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、光による退色を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態にかかるインク組成物に含まれる食用赤色104号および食用赤色3号の構造式を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態にかかるインク組成物を用いて表面に識別情報が印刷された印刷錠剤の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態にかかる錠剤印刷装置の構成の一例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、実施例1~9及び比較例1~4にかかるインク組成物における食用赤色3号の配合量と耐光性試験前後の色差ΔEとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施形態]
以下に、実施形態のインク組成物、印刷錠剤、錠剤印刷装置、及び錠剤印刷方法について図面を参照して説明する。
【0014】
(インク組成物の構成例)
実施形態のインク組成物は、例えば錠剤への印刷または可食体の着色に用いられ、染料と水とエタノールとを含み、染料として食用赤色104号と食用赤色3号とを含む。
図1に、食用赤色104号および食用赤色3号の構造式を示す。
【0015】
図1は、実施形態にかかるインク組成物に含まれる食用赤色104号および食用赤色3号の構造式を示す図である。
図1(a)は食用赤色104号の構造式であり、
図1(b)は食用赤色3号の構造式である。
【0016】
食用赤色104号(フロキシン)および食用赤色3号(エリスロシン)は、食用タール系色素と呼ばれる合成着色料の一種である。より具体的には、食用赤色104号および食用赤色3号は、キサンテンを骨格とするキサンテン系酸性染料である。キサンテン系酸性染料はキサンテン色素とも呼ばれる。
【0017】
食用赤色104号および食用赤色3号は、通常、粉末の状態で取り扱われ、対象物をピンク色(桃色)に着色することができる。
【0018】
実施形態のインク組成物は、例えば染料として食用赤色104号および食用赤色3号のみを含む。つまり、インク組成物に含まれる染料において、食用赤色104号と食用赤色3号とを合計した配合比率が100%であってよい。
【0019】
また、食用赤色104号に対する食用赤色3号の割合は、重量比率にして例えば0.05以上かつ9未満であり、好ましくは0.1以上かつ5以下であり、より好ましくは0.25以上かつ0.5以下である。
【0020】
つまり、食用赤色104号と食用赤色3号との比率が、例えば1:0.05~1:9(食用赤色3号の比率は0.05を含み9を含まない)であり、好ましくは1:0.1~1:5(食用赤色3号の比率は0.1及び5を含む)であり、より好ましくは1:0.25~1:0.5(食用赤色3号の比率は0.25及び0.5を含む)である。
【0021】
例えば錠剤に識別情報を印刷する場合、印刷された識別情報の視認性を維持するため、インク組成物に含まれる染料の退色が課題となる。食用赤色104号および食用赤色3号等の染料は、一般に耐光性が低く、光によって退色しやすい。
【0022】
また、食用赤色104号と食用赤色3号とを比較すると、食用赤色3号よりも食用赤色104号の方が耐光性に優れている。しかしながら、食用赤色104号および食用赤色3号は、いずれも単体では錠剤印刷用途に必要な耐光性を有さない。
【0023】
上述のように、食用赤色104号に食用赤色3号を所定の割合で配合することで、高い耐光性を有し、退色し難いインク組成物が得られる。
【0024】
実施形態のインク組成物における染料の配合比率は、例えば0.1重量%以上かつ10重量%以下であり、より好ましくは0.5重量%以上かつ8重量%以下である。染料の含有量が0.1重量%より少ないと印刷時の色が薄く視認性が悪化する。染料の含有量が10重量%より多いと、インク組成物の粘度が高まって、例えば後述するインクジェット方式で印刷する際、インク組成物が正常に吐出されずに印刷不良となる場合がある。
【0025】
実施形態のインク組成物に含まれる水とエタノールとは、例えば上記の染料を溶解する溶媒である。
【0026】
水としては、例えば精製水を用いることができる。精製水は、イオン交換、蒸留、逆浸透または限外ろ過などを単独で用い、あるいは組み合わせたシステムにより、水道水等の常水を処理して得られる、ミネラル成分、残留塩素、及び微生物等の少なくともいずれかの不純物が除去された水である。
【0027】
エタノールとしては、例えば天然醸造の発酵エチルアルコールやサトウキビアルコールを用いることができる。
【0028】
実施形態のインク組成物は、水とエタノールとの混合液に、食用赤色104号および食用赤色3号の粉末、水溶液、またはペーストを溶解することで得られる。これらの各種構成物を混合する際に、加熱などの前処理または後処理を行ってもよい。
【0029】
上記のように調合された実施形態のインク組成物は、対象物をピンク色(桃色)に着色することができる。実施形態のインク組成物の色調をL*a*b*表色系で表した場合、実施形態のインク組成物によれば、インクジェットヘッドに供給し、1平方センチメートルあたり0.45mgのインク組成物が均一に分布するように、べた塗りで印刷すると、一例として、以下の範囲の色調で対象物が着色される。
【0030】
L*値:56以上94以下
a*値:23以上79以下
b*値:-33以上21以下
【0031】
ここで、L*値は0以上100以下の範囲で明度を表し、L*値が大きいほど明度が高い(明るい)ことを示す。a*値とb*値とはそれぞれ-100以上100以下の範囲で色度を表し、a*値とb*値とがともにゼロのときは無彩色となる。a*値においては、プラス方向にいくほど赤みが強く、マイナス方向にいくほど緑みが強くなることを示す。b*値においては、プラス方向にいくほど黄色みが強く、マイナス方向にいくほど青みが強くなることを示す。
【0032】
また、実施形態のインク組成物の耐光性は、例えば所定量の光を錠剤等の印刷物に対して照射する前後のL*値、a*値、及びb*値の差である色差ΔEで表すことが可能である。この色差ΔEの値が小さいほど色の変化が小さいことを示す。つまり、色差ΔEの値が小さいほど、インク組成物の耐光性に優れ、退色が抑制され易いことを意味する。具体的には、色差ΔEは以下の式で求められる。
【0033】
ΔE=[(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2]1/2・・・(1)
【0034】
例えば印刷物に積算で120万Lxの紫外・可視光を照射した場合、実施形態のインク組成物においては、紫外・可視光の照射前後における印刷物の色差ΔEとして、例えば、少なくとも配合された色素が食用赤色104号単独のインク組成物が示す値未満であって、好ましくは25未満、より好ましくは20未満の値が得られる。
【0035】
なお、実施形態のインク組成物に、上記の食用赤色104号および食用赤色3号に加えて他の色素を混合し、所望の色に調色することも可能である。その他の色素としては、例えば公知の合成食用色素および天然食用色素から1つまたは2つ以上を選ぶことができる。
【0036】
合成食用色素としては、例えばタール系色素、天然色素誘導体、天然系合成色素、二酸化チタン等が挙げられる。
【0037】
タール系色素としては、例えば食用赤色2号、食用赤色40号、食用赤色102号、食用赤色105号、食用赤色106号、食用黄色4号、食用黄色5号、食用青色2号、食用赤色2号アルミニウムレーキ、食用赤色3号アルミニウムレーキ、食用赤色40号アルミニウムレーキ、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用黄色5号アルミニウムレーキ、食用青色2号アルミニウムレーキ等が挙げられる。
【0038】
天然色素誘導体としては、例えば銅クロロフィル、銅クロロフィリンナトリウム、ノルビキシンカリウム等が挙げられ、天然系合成色素としては、例えばβカロテン、リボフラビン等が挙げられる。
【0039】
また、その他の色素として、天然食用色素としては、例えば植物炭末色素、アントシアニン系色素、カロチノイド系色素、キノン系色素、フラボノイド系色素、ベタイン系色素、モナスカス色素、その他の天然物を起源とする色素が挙げられる。
【0040】
アントシアニン系色素としては、例えば赤ダイコン色素、赤キャベツ色素、赤米色素、エルダーベリー色素、カウベリー色素、グーズベリー色素、クランベリー色素、サーモンベリー色素、シソ色素、スィムブルーベリー色素、ストロベリー色素、ダークスイートチェリー色素、チェリー色素、ハイビスカス色素、ハクルベリー色素、ブドウ果汁色素、ブドウ果皮色素、ブラックカーラント色素、ブラックベリー色素、ブルーベリー色素、プラム色素、ホワートルベリー色素、ボイセンベリー色素、マルベリー色素、ムラサキイモ色素、ムラサキトウモロコシ色素、ムラサキヤマイモ色素、ラズベリー色素、レッドカーラント色素、ローガンベリー色素、その他のアントシアニン系色素が挙げられる。
【0041】
カロチノイド系色素としては、例えばアナトー色素、クチナシ黄色素、その他のカロチノイド系色素が挙げられる。キノン系色素としては、コチニール色素、シコン色素、ラック色素、その他のキノン系色素が挙げられる。フラボノイド系色素としては、例えばベニバナ黄色素、コウリャン色素、タマネギ色素、その他のフラボノイド系色素が挙げられる。ベタイン系色素としては、例えばビートッド色素が挙げられる。モナスカス色素としては、例えばベニコウジ色素、ベニコウジ黄色素が挙げられる。
【0042】
その他の天然物を起源とする色素としては、例えばウコン色素、クチナシ赤色素、スピルリナ青色素などが挙げられる。
【0043】
また、実施形態のインク組成物には、必要に応じて、着香料、防腐剤(静菌剤)、消泡剤、界面活性剤などの添加剤を配合してもよい。印刷対象が薬剤または可食体等である場合は、これらの添加剤にも可食のものを選択すればよい。また、実施形態のインク組成物に、上記の各種構成物を混合する際、加熱などの前処理または後処理を行ってもよい。
【0044】
(印刷錠剤の印刷例)
図2は、実施形態にかかるインク組成物を用いて表面に識別情報が印刷された印刷錠剤Tの一例を示す図である。
図2の錠剤は、例えば薬効成分を含む粉体が錠剤の形に圧縮成形された医薬用の裸錠である。
【0045】
図2に示すように、印刷錠剤Tの表面には実施形態のインク組成物を用いて識別情報としての識別コードIC(ICc,ICp)が印刷されている。識別コードICは、薬の識別を目的として錠剤等に印刷される文字または絵文字等であり、会社コードICcと製品コードICpとを含む。
【0046】
会社コードICcは、会社の区別を明らかにするものであって、会社を表す標章、略称、記号、アルファベット、かな文字、漢字、マーク等である。製品コードICpは、会社内でその管理のために用いる数字、記号等である。
【0047】
なお、印刷錠剤T表面に印刷された識別情報は、上記の会社コードICcと製品コードICpとを含む識別コードICのみならず、例えば医薬品名および成分量等の他の情報を含んでいてもよい。
【0048】
また、実施形態のインク組成物を用いた印刷錠剤は、上記の裸錠だけでなく、例えば口腔内崩壊(OD:Oral Disintegration)錠、糖衣錠、フィルムコーティング錠、腸溶錠、多層錠、有核錠等であってもよい。
【0049】
OD錠は口中で溶けるように成形された脆弱な錠剤である。糖衣錠は、成形された薬の表面を糖分で覆った錠剤である。フィルムコーティング錠は、成形された薬の表面を水溶性の成分で覆った錠剤である。腸溶錠は、薬の成分が胃酸で変質したり、あるいは胃を刺激したりしないよう、成形された薬の表面を胃で溶けにくく腸で溶ける膜で覆った錠剤である。多層錠は、例えば溶解性の異なる複数の層で薬の成分を覆った錠剤である。有核錠は、配合することで変質する恐れのある複数の薬の成分を内核と外層とに分離した錠剤である。
【0050】
また、実施形態のインク組成物を用いた印刷錠剤には、ゼラチン被包錠、ゼラチン及びグリセリンまたはゼラチン及びソルビトールを用いた被包錠等のカプセル剤を含めることができる。
【0051】
また、実施形態のインク組成物を用いた印刷錠剤には、上記の医薬用の錠剤Tだけでなく、飲食用、洗浄用、工業用、あるいは芳香用として使用される錠剤を含めることができる。
【0052】
上記錠剤の例としては、例えば、酸化マグネシウムを主成分として含むものが挙げられる。以下、酸化マグネシウムを主成分として含む錠剤について詳細に説明する。なお、実施形態における「主成分」とは、錠剤中の含有量が70%以上である成分を指し、特に酸化マグネシウムを主成分として含むものを酸化マグネシウム錠剤とする。
【0053】
・酸化マグネシウム:
本実施形態の酸化マグネシウム錠剤に含まれる酸化マグネシウムは、粉末状又は顆粒状のいずれでもよいが、顆粒状の方が形状保持安定性に優れた高含有量の錠剤を得ることができる。また、本実施形態の効果の奏功の観点から、酸化マグネシウム粒子の平均粒子径と顆粒時の比表面積を所定の範囲内で調整することが好ましい。
【0054】
本実施形態において使用する酸化マグネシウム粒子は、限定されるものではないが、所定の平均粒子径を有していることが好ましい場合がある。本実施形態における平均粒子径はレーザー回折散乱法で測定された体積基準50%粒子径(D50)を指す。レーザー回折散乱法で測定される酸化マグネシウム粒子の平均粒子径の上限は、例えば通常40μm以下、又は20μm以下、又は10μm以下とすることができる。酸化マグネシウム粒子の平均粒子径を上記上限以下とすることにより、錠剤を構成する酸化マグネシウム粒子の間に印字用インクが浸透するため、浸透したインクまで光が届きにくくなり、インクの耐光性、ひいては退色性が向上するという効果が得られる場合がある。一方、当該平均粒子径の下限は、制限されるものではないが、製造上の限界や費用対効果から、例えば通常0.25μm以上、又は0.5μm以上、又は1μm以上とすることができる。酸化マグネシウム粒子の平均粒子径が上述の範囲に含まれていれば、平均粒子径の異なる2種以上の酸化マグネシウム粒子を任意の組み合わせ及び比率で混合して使用してもよい。
【0055】
本実施形態の酸化マグネシウム粒子の平均粒子径を求める際に採用するレーザー回折散乱法による測定は、以下の方法で測定する。ビーカーに酸化マグネシウム0.7g及び0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液70mLを加え、超音波ホモジナイザー(日本精機製、US-300)を用いて分散処理を行う。レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装製、マイクロトラック)を用い、前記酸化マグネシウムの分散後の平均粒子径を測定することができる。
【0056】
本実施形態において使用する酸化マグネシウム顆粒のBET比表面積は、焼成前の水酸化マグネシウムの結晶成長度及び不純物含有量、焼成時の水蒸気雰囲気等によって制御される。酸化マグネシウム顆粒は、焼成前水酸化マグネシウムの結晶成長度がより高ければ、BETが高くなる傾向にある。また、酸化マグネシウム顆粒は、焼成前の水酸化マグネシウムの不純物含有量がより多い場合にBETが低くなる傾向にある。さらに、酸化マグネシウム顆粒は、水蒸気量がより多い雰囲気で酸化マグネシウム粉末の焼成を行った場合、BETが低くなる傾向にある。上記の条件を適宜調整し、酸化マグネシウム顆粒のBET比表面積を以下の下限及び上限の範囲内とすることが好ましい。下限は、5m2/g以上、中でも10m2/g以上、更には15m2/g以上が好ましい。上限は、150m2/g以下、100m2/g以下、より好ましくは60m2/g以下、中でも50m2/g以下、更には40m2/g以下が好ましい。この範囲内にBET比表面積を調整することで、酸化マグネシウムの吸水性を抑えることができる。つまり、上述のBET比表面積を有する酸化マグネシウムを使用し、錠剤を成形することで、耐水性の高い酸化マグネシウム錠剤となりうる。特に、BET比表面積が50m2/g以下の場合は、顕著に吸水性が抑制されるため、印刷されたインクのにじみを抑制することができ、本願実施形態のインクの退色抑制効果が好適に奏功されうる。
【0057】
本実施形態において、BET比表面積とは、酸化マグネシウム顆粒のBET法による比表面積を意味する。BET比表面積は、具体的には、BET比表面積は、全自動表面積測定装置(マイクロトラックベル株式会社製)により測定することが出来る。
【0058】
錠剤中の酸化マグネシウムの含有量は、限定されるものではないが、例えば通常70質量%以上、又は80質量%以上、また、通常95質量%以下、又は90質量%以下とすることができる。
【0059】
酸化マグネシウムを除く添加剤の含有量は、限定されるものではないが、例えば通常5質量%以上、又は10質量%以上、また、通常30質量%以下、又は20質量%以下とすることができる。上記添加剤は例えば、結合剤、崩壊剤、滑沢剤が挙げられる。酸化マグネシウムを除く添加剤の含有量は、酸化マグネシウムと比較して相対的に小さく、本実施形態のインク組成物に与える影響は小さい。
【0060】
・結合剤:
本実施形態における錠剤は、結合剤を含んでいてもよい。結合剤としては、限定されるものではないが、例えば結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、糖アルコールを用いることができる。これらは何れか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。添加するタイミングは問わない。錠剤中の結合剤の含有量は、限定されるものではないが、例えば、通常1質量%以上、又は3質量%以上、また、通常15質量%以下、又は13質量%以下とすることができる。
【0061】
・崩壊剤:
本実施形態における錠剤は、崩壊剤を含んでいてもよい。崩壊剤としては、限定されるものではないが、例えばデンプン、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、カルメロース、カルボキシスターチナトリウム、不溶性ポリビニルピロリドンを用いることができる。これらは何れか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。錠剤中の崩壊剤の含有量は、限定されるものではないが、例えば通常0.5質量%以上、又は1質量%以上、また、通常10質量%以下、又は7質量%以下とすることができる。
【0062】
・滑沢剤:
本実施形態における錠剤は、滑沢剤を含んでいてもよい。滑沢剤としては、限定されるものではないが、例えばステアリン酸及びその塩(Na,Mg,Ca塩)を用いることができる。中でもステアリン酸カルシウムが好ましい。これらは何れか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。錠剤中の滑沢剤の含有量は、限定されるものではないが、例えば通常0.2質量%以上、又は0.5質量%以上、又は0.7質量%以上、また、通常3質量%以下、又は2質量%以下、又は1.5質量%以下とすることができる。
【0063】
・その他の成分:
本実施形態における錠剤は、その他の追加成分を含んでいてもよい。これらの追加成分は、何れか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。例えば、甘味料、着香末、矯味剤、流動化剤が挙げられる。錠剤中のその他の成分の含有量は、限定されるものではないが、例えば通常0.05質量%以上、又は0.1質量%以上、又は0.2質量%以上、また、通常2質量%以下、又は1質量%以下、又は0.5質量%以下とすることができる。
【0064】
錠剤が酸化マグネシウムを有効成分とする錠剤の場合、酸化マグネシウム錠剤の製造方法は、造粒工程と、酸化マグネシウム顆粒の打錠工程とを含んでいてもよい。上記製造方法は、酸化マグネシウム粉末と添加剤とを混合する工程と、混合物を造粒し、酸化マグネシウム顆粒にする工程と、酸化マグネシウム顆粒と添加剤とを混合する工程と、打錠する工程とを含んでいてもよい。
【0065】
本実施形態の製剤を錠剤とする場合、まずは錠剤化のための原料混合物を調製する。原料混合物は、活性医薬成分である酸化マグネシウム粒子に加えて、例えば上記の結合剤及び崩壊剤の一部又は全部、並びに任意によりその他の追加成分を適宜混合して調製することができる。次いで、その原料混合物を顆粒状粒子に造粒する。斯かる造粒は例えば乾式造粒機を用いて実施することができる。乾式造粒機としては例えばロール成形型乾式造粒機等が挙げられる。造粒したシート状成形物を、次いで粉砕して顆粒状粒子を得る。粉砕には例えばオシレーター式粉砕機を用いることができる。顆粒状粒子のサイズとしては、限定されるものではないが、例えば平均粒径を0.25mm~0.4mm、見掛け密度を0.5g/mL~0.7g/mL、安息角を35°~43°とすることができる。
【0066】
斯かる顆粒状粒子に対し、必要に応じて滑沢剤、任意により上記の結合剤及び崩壊剤の残部、並びに任意によりその他の追加成分を適宜混合してから、打錠化することにより錠剤とすることができる。
【0067】
本実施形態において使用する酸化マグネシウム錠剤は、本実施形態の効果の奏功の観点から、空隙率を所定の範囲内で調整することが好ましい。空隙率の上限は、例えば通常60%以下、又は50%以下、又は45%以下とすることができる。一方、当該空隙率の下限は、例えば通常15%以上、又は20%以上、又は25%以上とすることができる。当該空隙率を上述の範囲とすることにより、空隙にインクが浸透することにより、浸透したインクまで光が届きにくくなり、インクの安定性耐光性、ひいては退色性が向上するという効果が得られる場合がある。
【0068】
錠剤の空隙率は、例えば細孔径分布測定装置(Micrometrics社製AutoporeV9620型)を用いて水銀圧入法により測定を行うことが出来る。
【0069】
(錠剤印刷装置の構成例)
実施形態のインク組成物を用いて錠剤に識別情報等を印刷する場合、例えばインクジェット方式を用いることができる。
図3に、インクジェット方式の錠剤印刷装置の一例を示す。
【0070】
図3は、実施形態にかかる錠剤印刷装置1の構成の一例を示す模式図である。
図3に示すように、錠剤印刷装置1は、錠剤供給部10、搬送部20、検出部30、撮像部40、印刷部50、撮像部60、回収部70、インク供給部80、及び制御装置90を備える。
【0071】
錠剤供給部10は、ホッパ11及びシュータ12を有している。錠剤供給部10は、搬送部20の一端側に位置し、印刷対象物である錠剤Tを搬送部20に供給することが可能に構成されている。
【0072】
ホッパ11は、多数の錠剤Tを収容し、収容した錠剤Tをシュータ12に順次供給することが可能に構成されている。シュータ12は、ホッパ11から供給された錠剤Tを一列に整列させて搬送部20に供給することが可能に構成されている。
【0073】
錠剤供給部10は制御装置90に電気的に接続されており、錠剤供給部10の駆動は制御装置90により制御される。
【0074】
搬送部20は、搬送ベルト21、駆動プーリ22、複数の従動プーリ23、モータ24、位置検出器25、及び吸引チャンバ26を有する。
【0075】
搬送ベルト21は、無端状のベルトであり、駆動プーリ22及び各従動プーリ23に架け渡されている。駆動プーリ22及び各従動プーリ23は図示しない装置本体に回転可能に設けられており、駆動プーリ22はモータ24に連結されている。
【0076】
モータ24は制御装置90に電気的に接続されており、モータ24の駆動は制御装置90により制御される。
【0077】
位置検出器25は、エンコーダなどの機器であり、モータ24に取り付けられている。位置検出器25は電気的に制御装置90に接続されており、検出信号を制御装置90に送信する。
【0078】
搬送部20は、モータ24による駆動プーリ22の回転によって各従動プーリ23と共に搬送ベルト21を回転させ、搬送ベルト21上の錠剤Tを、駆動プーリ22等の回転方向である搬送方向H1に搬送することが可能に構成されている。
【0079】
搬送ベルト21には、円形状の図示しない吸引孔が複数形成されている。これらの吸引孔は、それぞれ錠剤Tを吸着する貫通孔であり、一本の搬送路を形成するように搬送方向H1に沿って一列に並べられている。各吸引孔は、吸引チャンバ26に形成された図示しない吸引路を介して吸引チャンバ26内に接続されており、吸引チャンバ26により吸引力を得ることが可能に構成されている。
【0080】
吸引チャンバ26には、ポンプが吸引管(いずれも図示せず)を介して接続されており、ポンプの作動により吸引チャンバ26内が減圧される。吸引管は、搬送方向H1と平行な吸引チャンバ26の側面の略中央に接続されている。ポンプは制御装置90に電気的に接続されており、ポンプの駆動は制御装置90により制御される。
【0081】
吸引チャンバ26内が減圧されると、搬送ベルト21の各吸引孔上に置かれた錠剤Tは吸引孔により吸引され、搬送ベルト21上に保持される。
【0082】
検出部30は、錠剤供給部10が設けられた位置よりも搬送方向H1の下流側に位置し、搬送ベルト21の上方に設けられている。検出部30は、レーザ光の投受光によって搬送ベルト21上の錠剤Tの搬送方向H1における位置を検出することが可能に構成されている。
【0083】
検出部30としては、例えば、変位センサや近接センサなどが用いられる。変位センサとしては、例えば反射型レーザセンサなどの各種のレーザセンサが用いられる。検出部30は制御装置90に電気的に接続されており、制御装置90に検出信号を送信する。
【0084】
撮像部40は、検出部30が設けられた位置よりも搬送方向H1の下流側に位置し、搬送ベルト21の上方に設けられている。なお、必要に応じて撮像用の照明も設けられる。
【0085】
撮像部40は、検出部30により検出された錠剤Tの搬送方向H1における位置情報に基づき、錠剤Tが撮像部40の直下の撮像位置に到達したタイミングで撮像を行い、錠剤Tの印刷前の上面を含む画像を取得し、取得した画像を制御装置90に送信する。
【0086】
錠剤Tの印刷前の画像は、錠剤Tの搬送方向H1、搬送方向H1と直交する搬送ベルト21の幅方向、及び回転方向の位置を検出するために用いられる。
【0087】
撮像部40としては、電荷結合素子(CCD:Charge Coupled Device)、相補型金属酸化膜半導体(CIS:CMOS Image Sensor)などの撮像素子を有する各種のカメラが用いられる。撮像部40は制御装置90に電気的に接続されており、撮像部40の駆動は制御装置90により制御される。
【0088】
ここで、錠剤Tの搬送方向H1及びそれに直交する方向の位置は、例えば撮像時の基準位置となる撮像部40の撮像領域の中心に対する直交座標系の位置である。また、回転方向の位置は、例えば撮像部40の撮像領域の水平面内での錠剤Tの回転度合いを示す位置である。この回転方向の位置は、錠剤Tに割線が設けられている場合、または錠剤Tが楕円形、長円形、もしくは四角形などに成型されている場合など、錠剤Tが方向性を有する形状を有する場合に検出される。
【0089】
印刷部50はインクジェットヘッド51を有する。
【0090】
インクジェットヘッド51は、撮像部40が設けられた位置よりも搬送方向H1の下流側に位置し、搬送ベルト21の上方に設けられている。
【0091】
インクジェットヘッド51は、例えば数百個から数千個等の複数の図示しないノズルを有し、ノズルが一列に並ぶノズル列の方向が、水平面内で搬送方向H1と直交するように設けられている。インクジェットヘッド51は、ノズルごとの駆動素子の動作によって各ノズルから個別にインクを吐出することが可能に構成されている。
【0092】
インクジェットヘッド51としては、圧電素子、発熱素子、または磁歪素子などの駆動素子を有する各種のインクジェット方式の印刷ヘッドが用いられる。インクジェットヘッド51は制御装置90に電気的に接続されており、インクジェットヘッド51の駆動は制御装置90により制御される。
【0093】
撮像部60は、印刷部50が設けられた位置よりも搬送方向H1の下流側に位置し、搬送ベルト21の上方に設けられている。なお、必要に応じて撮像用の照明も設けられる。
【0094】
撮像部60は、検出部30により検出された錠剤Tの搬送方向H1の位置情報に基づき、錠剤Tが撮像部60の直下の撮像位置に到達したタイミングで撮像を行い、印刷後の錠剤Tの上面を含む画像を取得し、取得した画像を制御装置90に送信する。
【0095】
印刷錠剤Tの画像は、印刷錠剤T表面の印刷パターンを検査するために用いられる。
【0096】
撮像部60としては、上述の撮像部40と同様、例えば、CCDまたはCMOSなどの撮像素子を有する各種のカメラが用いられる。撮像部60は制御装置90に電気的に接続されており、撮像部60の駆動は制御装置90により制御される。
【0097】
回収部70は、撮像部60が設けられた位置よりも搬送方向H1の下流側に位置し、搬送部20における搬送方向H1の下流側の端部に設けられている。
【0098】
搬送部20は、搬送ベルト21上の印刷錠剤Tが所定の位置、例えば、搬送部20における搬送方向H1の下流側の端部に到達した場合に印刷錠剤Tの保持を解除する。回収部70は、搬送部20による保持が解除されて落下する印刷錠剤Tを不良品と良品とに分けて回収することが可能に構成されている。
【0099】
例えば、落下途中の印刷錠剤Tに気体を吹き付け、印刷錠剤Tの落下方向を不良品と良品で変えることで、あるいは、板等の部材により落下経路を変えることで、落下する印刷錠剤Tを不良品と良品とに分けて回収することが可能である。不良品は例えば印刷不合格錠であり、良品は印刷合格錠である。
【0100】
回収部70は制御装置90に電気的に接続されており、回収部70の駆動は制御装置90により制御される。
【0101】
インク供給部80はインク供給装置81を有している。インク供給装置81は、インクジェットヘッド51に、例えば実施形態のインク組成物を供給することが可能に構成されている。
【0102】
インク供給装置81は、インクボトル81a、インク加圧配管81b、インク供給配管81c、インク加圧弁81e、大気開放弁81f、及び逆流防止弁81gを有している。
【0103】
インクボトル81aは、インク組成物を貯留するインクタンク等の容器である。インク組成物は消費期限を有しており、例えばインクボトル81aの開封後、すなわちインクボトル81a内のインク組成物が空気に触れてからの消費期限が、例えば24時間等と定められている。
【0104】
インク加圧配管81bは、インクボトル81aの内部に窒素ガス等の不活性ガスを供給する。
【0105】
インク加圧配管81bの一端は、インクボトル81aの上面からインクボトル81aの内部に侵入し、インクボトル81a内の液面に接触しない位置まで伸びている。インク加圧配管81bの他端は2本に分岐している。
【0106】
分岐した2本の配管の一方にはインク加圧弁81eが設けられており、他方の配管には大気開放弁81fが設けられている。インク加圧配管81bにおけるインクボトル81a側の一端と、インク加圧配管81bが分岐した箇所である分岐点との間には、逆流防止弁81gが設けられている。
【0107】
インク加圧弁81e、大気開放弁81f、及び逆流防止弁81gはそれぞれ電気的に制御装置90に接続されており、それらの開閉等の駆動は制御装置90により制御される。
【0108】
インク供給配管81cは、インクボトル81aからインクジェットヘッド51にインク組成物を供給することが可能に、インクボトル81aとインクジェットヘッド51とを接続する。
【0109】
インク供給配管81cの一端は、インクボトル81aの上面からインクボトル81aの内部に侵入し、内部に貯留されるインク組成物に浸漬されてインクボトル81aの底面付近まで伸びている。また、インク供給配管81cの他端はインクジェットヘッド51につながっている。
【0110】
制御装置90は、各種情報及び各種プログラムに基づいて錠剤印刷装置1の各部、例えば錠剤供給部10、搬送部20、撮像部40、印刷部50、撮像部60、回収部70、インク供給部80などを制御する。また、制御装置90は、位置検出器25及び検出部30から送信される検出信号等の検出情報を受信し、また、撮像部40及び撮像部60から送信される画像情報などを受信する。
【0111】
制御装置90は、例えば集積回路などの電子回路またはコンピュータなどにより実現される。
【0112】
なお、
図3に示す錠剤印刷装置1は、あくまでも一例であって、インクジェット方式による錠剤Tの印刷にあたっては、様々に異なる構成の装置を用いることができる。
【0113】
上述の錠剤印刷装置1では、錠剤Tを一列で搬送することを例示したが、錠剤Tの列数は複数列であってもよい。また、搬送ベルト21の本数も複数本であってもよく、インクジェットヘッド51の個数も複数個であってよい。このとき、インクジェットヘッド51を、搬送方向H1と直交する方向に複数並べて用いるようにしてもよい。
【0114】
また、上述の錠剤印刷装置1では、インクジェットヘッド51としてノズルが一列に並ぶ印刷ヘッドを例示したが、例えばノズルが複数列に並ぶ印刷ヘッドを用いるようにしてもよい。
【0115】
また、上述の錠剤印刷装置1では、インクジェットヘッド51をノズルが並ぶ方向が搬送方向H1と直交する方向になるように設けることを例示したが、例えばノズルが並ぶ方向が搬送方向H1と交差する方向になるように、インクジェットヘッド51を設けるようにしてもよい。
【0116】
また、上述の錠剤印刷装置1では、搬送ベルト21上に形成された吸引孔によって錠剤Tが吸引保持されるとしたが、錠剤Tが、ポケットなどに収容保持されて搬送されるようにしてもよく、あるいは搬送ベルト21上に自重により保持されて搬送されるようにしてもよい。
【0117】
また、上述の錠剤印刷装置1では、錠剤Tの片面を印刷することを例示したが、錠剤Tの両面を印刷するようにしてもよい。この場合、例えば搬送部20、検出部30、撮像部40、印刷部50、及び撮像部60を1つのユニットし、そのユニットを上下に重ねて配置してもよい。これにより、上側のユニットで錠剤Tの一方の面に印刷をした後、一方の面を印刷済みの錠剤Tを上側の搬送部20で反転して下側の搬送部20に受け渡し、下側のユニットで錠剤Tのもう一方の面に印刷をすることができる。
【0118】
(錠剤印刷方法)
次に、引き続き
図3を用いて、実施形態のインク組成物を用いた錠剤Tの印刷方法について説明する。
図3に示すインク供給装置81のインクボトル81aには、実施形態のインク組成物が貯留されているものとする。また、ホッパ11には、印刷前の多数の錠剤Tが収容されているものとする。
【0119】
図3を参照して、制御装置90は、搬送部20のモータ24を駆動して駆動プーリ22および複数の従動プーリ23を回転させ、搬送ベルト21の移動を開始する。また、制御装置90は、吸引チャンバ26内の図示しないポンプを駆動して、搬送ベルト21上の図示しない吸引孔から吸引を開始する。
【0120】
制御装置90は、所定数の錠剤Tへの印刷が終了するまで、吸引孔からの吸引を継続し、また、位置検出器25からの検出信号に基づいて搬送ベルト21の移動を継続する。
【0121】
制御装置90は、錠剤供給部10を制御して、ホッパ11に収容されている錠剤Tをシュータ12に供給し、錠剤Tを一列に整列させて搬送部20の搬送ベルト21上に順次、供給していく。搬送ベルト21上に供給された錠剤Tは、吸引孔により搬送ベルト21上の所定位置に吸着されたまま、搬送ベルト21の移動に伴って搬送方向H1に搬送されていく。
【0122】
検出部30は、検出部30の下方位置を通過する搬送ベルト21上の錠剤Tを検出する。検出部30は、錠剤Tの搬送方向H1における位置を示す検出情報を制御装置90へと送信する。
【0123】
制御装置90は、検出部30からの検出信号に基づいて撮像部40を制御して、錠剤Tが撮像部40の直下の撮像位置に到達したタイミングで錠剤Tの印刷前の上面を撮像する。撮像部40は、撮像画像を制御装置90へと送信する。
【0124】
制御装置90は、撮像部40からの撮像画像に基づいて、錠剤Tの搬送方向H1、搬送方向H1と直交する搬送ベルト21の幅方向、及び回転方向の位置を算出する。
【0125】
制御装置90は、算出した錠剤Tの位置に基づいて、錠剤Tがインクジェットヘッド51の直下の印刷位置に到達したタイミングで、インクジェットヘッド51から錠剤Tの上面にインク組成物を吐出させる。
【0126】
制御装置90は、検出部30からの検出信号に基づいて撮像部60を制御して、印刷済みの錠剤Tが撮像部60の直下の撮像位置に到達したタイミングで印刷錠剤Tの上面を撮像する。撮像部60は、撮像画像を制御装置90へと送信する。
【0127】
制御装置90は、撮像部60からの撮像画像に基づいて、印刷錠剤T表面の印刷パターンを検査して良否判定を行う。つまり、印刷錠剤Tのうち、印刷不合格錠は不良品と判定され、印刷合格錠は良品と判定される。
【0128】
制御装置90は、印刷錠剤Tが、搬送部20における搬送方向H1の下流端に到達すると、印刷錠剤Tの保持を解除する。制御装置90は、撮像部60からの撮像画像に基づく良否判定にしたがって回収部70を制御して、搬送部20による保持が解除されて落下する印刷錠剤Tを不良品と良品とに分けて回収する。
【0129】
以上により、実施形態のインク組成物を用いた錠剤Tの印刷処理が終了する。
【0130】
(概括)
内服用または口腔用等の錠剤の表面に、文字または記号等の識別情報を印刷することで、錠剤の識別性を高め、調剤者による調剤ミス及び使用者による誤った服用の防止が図られている。例えば、医療用の錠剤については、医薬品名、製品コード、成分量、会社名や会社コードなどの識別情報が表記される。
【0131】
錠剤への印刷方法としては、例えばインクジェット方式が挙げられる。インクジェット方式の印刷によれば、錠剤に対して非接触で印刷を行うことができるので、例えばOD錠のような崩壊の恐れの高い錠剤に対しても好適に印刷を行うことができる。
【0132】
一方で、錠剤および可食体など、患者もしくは一般の利用者等によって摂取される対象物に印刷等による着色を施す場合、医薬品添加物規格、日本薬局方、または食品添加物公定書の基準に適合したものを使用する必要があり、使用できる色素が限られる。
【0133】
このため、上記のようなインクジェット方式の印刷において、食用の合成着色料である染料を含む染料インクが用いられることがある。染料インクによれば、顔料を含むインクと比較して、印刷された文字などが濃く発色しやすく、識別情報の視認性を向上させることが可能である。
【0134】
しかしながら、色素として染料を含むインクは、顔料を含むインクと比較して耐光性が低く、光によって退色しやすいという欠点がある。
【0135】
例えば、色素として食用赤色3号を単独で配合したインク組成物は耐光性が低く、光によって退色しやすい。食用赤色104号を単独で配合したインク組成物は、赤色3号単独よりは耐光性が高いものの、それでも耐光性が不充分である。
【0136】
これに対し、本発明者らは、鋭意研究の結果、食用赤色104号に、それより耐光性が劣る食用赤色3号を混合することにより、赤色104号単独で配合するよりも耐光性が向上することを見出した。
【0137】
実施形態のインク組成物によれば、染料と、水と、エタノールと、を含み、染料として、食用赤色104号と食用赤色3号とを含む。これにより、配合された色素が赤色104号単独のインク組成物よりも耐光性を高めることができ、光による退色を抑えることができる。よって、例えば錠剤Tに印刷された識別情報等の識別性を維持することができる。
【0138】
実施形態のインク組成物によれば、食用赤色104号に対する食用赤色3号の割合が、重量比率にして0.05以上かつ9未満であり、好ましくは0.1以上かつ5以下であり、より好ましくは0.25以上かつ0.5以下である。これにより、上述の式(1)で求まる色差ΔEが、例えば食用赤色104号単独のインク組成物が示す値未満、好ましくは25未満、より好ましくは20未満のインク組成物が得られる。
【0139】
実施形態のインク組成物によれば、インク組成物全体における染料の配合比率が、0.1重量%以上かつ10重量%以下であり、より好ましくは0.5重量%以上かつ8重量%以下である。
【0140】
インク組成物中の染料の配合比率を少なくとも0.1重量%以上とすることで、印刷時の発色をよくして識別性を高めることができる。また、インク組成物中の染料の配合比率を多くとも10重量%以下とすることで、インク組成物の粘度を低く抑えることができる。よって、インクジェット方式で印刷する際にインク組成物のノズル詰まり等が抑制されて、印刷不良となることを抑制することができる。
【0141】
実施形態の印刷錠剤Tによれば、実施形態のインク組成物を用いて表面に識別情報が印刷されている。これにより、印刷錠剤Tの印刷部分の耐光性を高めることができ、光による退色を抑えることができる。よって、錠剤Tに印刷された識別情報等の識別性を維持することができる。
【0142】
実施形態の錠剤印刷装置1によれば、実施形態のインク組成物を供給可能なインク供給部80と、インク供給部80により供給された実施形態のインク組成物を錠剤Tに吐出するインクジェットヘッド51と、を備える。このように、実施形態のインク組成物を錠剤印刷装置1に適用することで、例えば錠剤Tに印刷された識別情報等の光による退色を抑制し、識別性を維持することができる。
【0143】
実施形態の錠剤印刷方法によれば、実施形態のインク組成物をインクジェットヘッド51に供給し、インクジェットヘッド51から実施形態のインク組成物を錠剤Tに吐出する。このように、実施形態のインク組成物を用いて錠剤Tに印刷を行うことで、例えば錠剤Tに印刷された識別情報等の光による退色を抑制し、識別性を維持することができる。
【実施例0144】
次に、実施例のインク組成物について説明する。本発明者らは、食用赤色104号と食用赤色3号とを様々な混合比で混合してインク組成物を調製し、これらのインク組成物について耐光性を比較する試験を行った。
【0145】
まず、以下に示す表1の組成で、実施例1~9のインク組成物、及び比較例1~4のインク組成物を調合した。表1には、各組成物の配合量を重量%で示す。これらのインク組成物の調製方法は以下の通りである。
【0146】
エタノール、精製水、プロピレングリコール、グリセリン、グリセリン脂肪酸エステルを表1に示す分量、混合し、50℃に加熱しながら攪拌して溶解させた。
【0147】
各成分が溶解した後、染料として、食用赤色104号と食用赤色3号とを表1に示す種々の比率で溶解液に加え、さらに50℃で1時間攪拌した。溶解液に加える食用赤色104号および食用赤色3号は、これらの染料が溶解液中に均等に溶解し、または混合されれば、粉体のままでもよく、粉体を水等に溶解させた溶液、または、粉体を水等に分散させたペースト状であってもよい。
【0148】
その後1時間静置し、室温になるまで冷却してから濾過することにより、実施例1~9のインク組成物、及び比較例1~4のインク組成物を得た。これらは、いずれもピンク色に発色するインク組成物である。
【0149】
【0150】
表1に示すように、実施例1~9のインク組成物には、比率が1:0.05~1:5の範囲で食用赤色104号と食用赤色3号とが混合された染料が含まれる。
【0151】
比較例1のインク組成物には染料として食用赤色104号が単独で用いられ、比較例4のインク組成物には染料として食用赤色3号が単独で用いられている。比較例2,3のインク組成物には、それぞれ1:9、及び1:19の比率で食用赤色104号と食用赤色3号とが混合された染料が含まれる。
【0152】
実施例1~9のインク組成物、及び比較例1~4のインク組成物において、染料の総量は一定とした。また、その他の原料である、エタノール、精製水、プロピレングリコール、グリセリン、グリセリン脂肪酸エステルの各々の量を、実施例1~9のインク組成物、及び比較例1~4のインク組成物において全て統一した。
【0153】
次に、実施例1~9のインク組成物、及び比較例1~4のインク組成物をインクジェットヘッドに供給して白色の裸錠の表面に、1平方センチメートルあたり0.45mgのインク組成物が均一に分布するように、べた塗りで印刷を行った。また、このように得られた印刷錠剤に対して、以下の耐光性試験を行った。
【0154】
無包装の印刷錠剤に対し、16.5万Lxの紫外・可視光を7.3時間、つまり、積算で120万Lxの紫外・可視光を照射した。また、照射前後の錠剤の印刷部分について、L*a*b*表色系における値を分光色差計(日本電色工業製SE7700)で測定し、上述の式(1)を用いて色差ΔEを算出した。
【0155】
比較例1と比較例4のインク組成物とでは、比較例1のインク組成物の方が、色差ΔEが小さかった。これにより、食用赤色3号よりも食用赤色104号のほうが、耐光性が高く、印刷錠剤の退色が抑制されやすいことが判る。
【0156】
比較例2と比較例3のインク組成物は、いずれも比較例1のインク組成物よりも色差ΔEが大きかった。これにより、食用赤色104号に食用赤色3号を混合した場合であっても、食用赤色3号の比率が高すぎると、耐光性を高めて退色を抑制する効果が得られないことが判った。
【0157】
一方、実施例1~9のインク組成物は、いずれも比較例1のインク組成物よりも色差ΔEが小さかった。これにより、食用赤色104号に所定の比率で食用赤色3号を混合することで、耐光性を高めて退色を抑制する効果が得られることが判った。なお、実施例1~9のインク組成物は、酸化マグネシウム錠剤に対する印刷においても好適に使用することができた。
【0158】
また、今回の実施例では、食用赤色104号と食用赤色3号との比率を1:0.3とした実施例5のインク組成物において、実施例1~9のインク組成物のうち最小値を示す色差ΔEが得られた。これにより、食用赤色104号と食用赤色3号との比率が1:0.3の付近において、耐光性を高めて退色を抑制する効果が最大となるポイントがあることが判った。
【0159】
実施例1~9のインク組成物、及び比較例1~4のインク組成物における食用赤色3号の配合量と色差ΔEとの関係を
図4のグラフに示す。
【0160】
図4は、実施例1~9及び比較例1~4にかかるインク組成物における食用赤色3号の配合量と耐光性試験前後の色差ΔEとの関係を示すグラフである。グラフの横軸はインク組成物の全体量中の食用赤色3号の配合量を重量比率で表したものであり、グラフの縦軸は色差ΔEである。
【0161】
図4のグラフにおいても、食用赤色3号の配合量が1.5重量%の付近、つまり、食用赤色104号と食用赤色3号との比率が1:0.3の付近において、色差ΔEが最小となっている。
【0162】
以上のように、食用赤色104号と食用赤色3号との比率が、1:0.05~1:9(食用赤色3号の比率は0.05を含み9を含まない)の範囲では食用赤色104号単独の場合より色差ΔEの値が低くなり、1:0.1~1:5(食用赤色3号の比率は0.1及び5を含む)の範囲では色差ΔEが25未満となり、1:0.25~1:0.5(食用赤色3号の比率は0.25及び0.5を含む)の範囲では色差ΔEが20未満となるインク組成物が得られることが判った。
【0163】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。