IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋アルミエコープロダクツ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-電磁調理器用汚れ防止マット 図1
  • 特開-電磁調理器用汚れ防止マット 図2
  • 特開-電磁調理器用汚れ防止マット 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133253
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】電磁調理器用汚れ防止マット
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/12 20060101AFI20230914BHJP
   F24C 15/14 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
H05B6/12 307
F24C15/14 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037095
(22)【出願日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2022037865
(32)【優先日】2022-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000222141
【氏名又は名称】東洋アルミエコープロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101409
【弁理士】
【氏名又は名称】葛西 泰二
(74)【代理人】
【識別番号】100206195
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】石田 義一
【テーマコード(参考)】
3K151
【Fターム(参考)】
3K151AA09
3K151BA68
(57)【要約】
【課題】 調理時に鍋等の調理器具が共に動くことを防止する電磁調理器用汚れ防止マットを提供する。
【解決手段】 汚れ防止マット1は、円形状のシート体であって、磁力線の透過性及び耐熱性を有するガラス繊維を平織したものからなるシート状繊維の織布7と、織布7の両面に形成され、非透水性及び耐熱性を有するシリコーンからなるコート材8a、8bとから主に構成されている。又、第一面2の静摩擦係数と第二面3の静摩擦係数との差は0.08以上0.60以下となるように構成されている。このように構成することで、第二面3と比べて第一面2はタック性が強くなるため、汚れ防止マット1がトッププレートにフィットした状態を維持しながら、鍋を振ることができる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁調理器のトッププレートと前記電磁調理器によって加熱される鍋の底面との間に挟んで使用される電磁調理器用汚れ防止マットであって、
磁力線の透過性を有する耐熱性のシート体よりなり、
前記シート体の前記電磁調理器と接する面を第一面とし、前記第一面とは反対側の面であって前記鍋の前記底面と接する面を第二面としたときに、
前記第一面の静摩擦係数が前記第二面の静摩擦係数よりも大きく、
前記第一面の静摩擦係数と前記第二面の静摩擦係数との差が0.08以上0.60以下である、電磁調理器用汚れ防止マット。
【請求項2】
前記第一面の静摩擦係数が0.50以上0.90以下であり、
前記第二面の静摩擦係数が0.30以上0.71以下である、請求項1記載の電磁調理器用汚れ防止マット。
【請求項3】
前記シート体は、
耐熱性を有する繊維より構成されるシート状繊維と、
前記シート状繊維の両面に形成され、非透水性を有するコート材とからなる、請求項1又は請求項2記載の電磁調理器用汚れ防止マット。
【請求項4】
前記第一面に形成される前記コート材の塗工量は、乾燥重量で13g/m以上500g/m以下であり、
前記第二面に形成される前記コート材の塗工量は、乾燥重量で5g/m以上60g/m以下である、請求項3記載の電磁調理器用汚れ防止マット。
【請求項5】
前記第一面に形成される前記コート材の塗工厚みは、7μm以上286.1μm以下であり、
前記第二面に形成される前記コート材の塗工厚みは、2μm以上34.3μm以下である、請求項3記載の電磁調理器用汚れ防止マット。
【請求項6】
前記シート状繊維は、ガラス繊維を含む、請求項3記載の電磁調理器用汚れ防止マット。
【請求項7】
前記シート状繊維は、ガラス繊維を含む、請求項4記載の電磁調理器用汚れ防止マット。
【請求項8】
前記シート状繊維は、ガラス繊維を含む、請求項5記載の電磁調理器用汚れ防止マット。
【請求項9】
前記コート材は、シリコーンを含む、請求項3記載の電磁調理器用汚れ防止マット。
【請求項10】
前記コート材は、シリコーンを含む、請求項4記載の電磁調理器用汚れ防止マット。
【請求項11】
前記コート材は、シリコーンを含む、請求項5記載の電磁調理器用汚れ防止マット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は電磁調理器用汚れ防止マットに関し、特に、加熱すべき鍋の底面の汚れや吹きこぼれ等が電磁調理器のトッププレートに付着することを防止する電磁調理器用汚れ防止マットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁調理器を用いて調理を行う際、鍋が電磁調理器のトッププレート上に直接置かれた状態で使用されると、鍋の底面の汚れや料理のハネ等がトッププレート上に付着する問題が起こる。このような事態を防止するために、従来から、電磁調理器のトッププレートと鍋の底面との間に挟んで使用する電磁調理器用汚れ防止マットが用いられている。
【0003】
特許文献1には、磁力線の透過性を有するガラス繊維よりなる織布の両面に非透水性且つ耐熱性のシリコーンを全面に施したものを円形に切り出して、シート体とした汚れ防止マットが開示されている。
【0004】
図3は従来の電磁調理器用汚れ防止マットを電磁調理器に用いた状態を模式的に示す断面図である。
【0005】
同図を参照して、汚れ防止マット51は、電磁調理器のトッププレート52上に設置されており、その上方には鍋53が載置されている。
【0006】
汚れ防止マット51は、その中心素材として織布を用いているためクッション性を有する。又、その両面に非透水性且つ耐熱性のシリコーンを施しているため、汚れ防止マット51全体は非透水性及び耐熱性を有する。
【0007】
汚れ防止マット51は、その使用により、鍋53の底面54に汚れが付着していたり、料理のハネが飛んだりした際にも、トッププレート52に直接付着することが無く美麗な状態を保ち、掃除等の手間をかけずに済む効果を奏するものである。
【0008】
又、シリコーンが施された面はタック性(表面の粘着性)があるため、ガラス天板であるトッププレート52にフィットして、調理中に汚れ防止マット1がずれる事態を防止する。
【0009】
特許文献2には、ガラス繊維からなるシート状の基材を備え、この基材の両面にそれぞれシリコーンゴムからなる第1被覆層及び第2被覆層が形成された保護マットが開示されている。又、第2被覆層は、第1被覆層と同等である所定の表面凹凸、摩擦係数及び複合ヤング率を有している。
【0010】
このように構成することで、電磁調理器のトッププレートと保護マットの第1被覆層のシリコーンゴムの粒子との間に適度に大きな摩擦抵抗が得られ、調理時のマットのずれを防止するとされる。又、第1被覆層と第2被覆層のいずれを表にしても同様に使用することができるので、片面だけが摩耗しにくく、長期間にわたって快適な作業が可能となるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009-140887号公報
【特許文献2】特開2015-128081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した図3でも示したように、汚れ防止マット51は、設置状態で下側の面である第一面が電磁調理器のトッププレート52と接する一方で、上側の面である第二面が鍋53の底面54と接している。
【0013】
ここで、特許文献2のマットでは、両面が同等の摩擦抵抗を有するため、加熱調理時に鍋53(フライパンその他の電磁調理器に用いる調理器具を含む。)を汚れ防止マット51上に載せながら振ろうとすると、鍋53と共に汚れ防止マット51が動いてしまい所定の設置位置からずれてしまう虞があった。
【0014】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、調理時に鍋等の調理器具が共に動くことを防止する電磁調理器用汚れ防止マットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明は、電磁調理器のトッププレートと電磁調理器によって加熱される鍋の底面との間に挟んで使用される電磁調理器用汚れ防止マットであって、磁力線の透過性を有する耐熱性のシート体よりなり、シート体の電磁調理器と接する面を第一面とし、第一面とは反対側の面であって鍋の底面と接する面を第二面としたときに、第一面の静摩擦係数が第二面の静摩擦係数よりも大きく、第一面の静摩擦係数と第二面の静摩擦係数との差が0.08以上0.60以下であるものである。
【0016】
このように構成すると、シート体の第二面と比べて第一面はタック性が強くなる。
【0017】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成において、第一面の静摩擦係数が0.50以上0.90以下であり、第二面の静摩擦係数が0.30以上0.71以下であるものである。
【0018】
このように構成すると、電磁調理器の作動時に微細な動きが生じる虞を低減すると共に、トッププレートの所定位置にシート体を設置する際に正確に設置し易くなる。
【0019】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の構成において、シート体は、耐熱性を有する繊維より構成されるシート状繊維と、シート状繊維の両面に形成され、非透水性を有するコート材とからなるものである。
【0020】
このように構成すると、クッション性を有すると共に、一面で均一なタック性を有する。
【0021】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明の構成において、第一面に形成されるコート材の塗工量は、乾燥重量で13g/m以上500g/m以下であり、第二面に形成されるコート材の塗工量は、乾燥重量で5g/m以上60g/m以下であるものである。
【0022】
このように構成すると、両面の各々で所定の静摩擦係数を有するシート体となる。
【0023】
請求項5記載の発明は、請求項3記載の発明の構成において、第一面に形成されるコート材の塗工厚みは、7μm以上286.1μm以下であり、第二面に形成されるコート材の塗工厚みは、2μm以上34.3μm以下であるものである。
【0024】
このように構成すると、両面の各々で所定の静摩擦係数を有するシート体となる。
【0025】
請求項6記載の発明は、請求項3記載の発明の構成において、シート状繊維は、ガラス繊維を含むものである。
【0026】
このように構成すると、所定の強度を備え、耐熱性、耐衝撃性、柔軟性に優れた汚れ防止マットとなる。
【0027】
請求項7記載の発明は、請求項4記載の発明の構成において、シート状繊維は、ガラス繊維を含むものである。
【0028】
このように構成すると、所定の強度を備え、耐熱性、耐衝撃性、柔軟性に優れた汚れ防止マットとなる。
【0029】
請求項8記載の発明は、請求項5記載の発明の構成において、シート状繊維は、ガラス繊維を含むものである。
【0030】
このように構成すると、所定の強度を備え、耐熱性、耐衝撃性、柔軟性に優れた汚れ防止マットとなる。
【0031】
請求項9記載の発明は、請求項3記載の発明の構成において、コート材は、シリコーンを含むものである。
【0032】
このように構成すると、汚れ防止マットの表面は防滑性、耐熱性、非透水性を備える。
【0033】
請求項10記載の発明は、請求項4記載の発明の構成において、コート材は、シリコーンを含むものである。
【0034】
このように構成すると、汚れ防止マットの表面は防滑性、耐熱性、非透水性を備える。
【0035】
請求項11記載の発明は、請求項5記載の発明の構成において、コート材は、シリコーンを含むものである。
【0036】
このように構成すると、汚れ防止マットの表面は防滑性、耐熱性、非透水性を備える。
【発明の効果】
【0037】
以上説明したように、請求項1記載の発明は、シート体の第二面と比べて第一面はタック性が強くなるため、シート体がトッププレートにフィットした状態を維持しながら、鍋を振ることができる。
【0038】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加えて、電磁調理器の作動時に微細な動きが生じる虞を低減すると共に、トッププレートの所定位置にシート体を設置する際に正確に設置し易くなるため、使い勝手が向上する。
【0039】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の効果に加えて、クッション性を有すると共に、一面で均一なタック性を有するため、トッププレートや鍋を傷つけにくくすると共に、タック性がコントロールしやすくなる。
【0040】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明の効果に加えて、両面の各々で所定の静摩擦係数を有するシート体となるため、安定して所望のタック性を発揮する。
【0041】
請求項5記載の発明は、請求項3記載の発明の効果に加えて、両面の各々で所定の静摩擦係数を有するシート体となるため、安定して所望のタック性を発揮する。
【0042】
請求項6記載の発明は、請求項3記載の発明の効果に加えて、所定の強度を備え、耐熱性、耐衝撃性、柔軟性に優れた汚れ防止マットとなるため、使い勝手が向上する。
【0043】
請求項7記載の発明は、請求項4記載の発明の効果に加えて、所定の強度を備え、耐熱性、耐衝撃性、柔軟性に優れた汚れ防止マットとなるため、使い勝手が向上する。
【0044】
請求項8記載の発明は、請求項5記載の発明の効果に加えて、所定の強度を備え、耐熱性、耐衝撃性、柔軟性に優れた汚れ防止マットとなるため、使い勝手が向上する。
【0045】
請求項9記載の発明は、請求項3記載の発明の効果に加えて、汚れ防止マットの表面は防滑性、耐熱性、非透水性を備えるため、使い勝手の良い汚れ防止マットとなる。
【0046】
請求項10記載の発明は、請求項4記載の発明の効果に加えて、汚れ防止マットの表面は防滑性、耐熱性、非透水性を備えるため、使い勝手の良い汚れ防止マットとなる。
【0047】
請求項11記載の発明は、請求項5記載の発明の効果に加えて、汚れ防止マットの表面は防滑性、耐熱性、非透水性を備えるため、使い勝手の良い汚れ防止マットとなる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】この発明の第1の実施の形態による電磁調理器用汚れ防止マットを示す斜視図である。
図2図1で示したII-IIラインの拡大断面図である。
図3】従来の電磁調理器用汚れ防止マットを電磁調理器に用いた状態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
図1はこの発明の第1の実施の形態による電磁調理器用汚れ防止マットを示す斜視図であり、図2図1で示したII-IIラインの拡大断面図である。
【0050】
これらの図を参照して、汚れ防止マット1は、円形状のシート体であって、磁力線の透過性及び耐熱性を有するガラス繊維を平織したものからなるシート状繊維の織布7と、織布7の両面に形成され、非透水性及び耐熱性を有するシリコーンからなるコート材8a、8bとから主に構成されている。尚、本明細書では、シリコーンとは、シリコーンレジン、シリコーンゴム及びそれらの両方を含むものを意味する。
【0051】
このようにシート状の素材を、ガラス繊維を織って形成した織布7とすると、所定の強度を備え、耐熱性、耐衝撃性、柔軟性に優れた汚れ防止マット1となる。又、ガラス繊維としては、一般に流通する汎用のものを使用することもできるので、製造コストも低減することが可能となる。又、コート材8a、8bをシリコーンで構成すると、汚れ防止マット1の表面は防滑性、耐熱性、非透水性を備えるため、使い勝手の良い汚れ防止マット1となる。
【0052】
汚れ防止マット1の構成とその作用効果について更に詳述すると、汚れ防止マット1はその中心素材として織布7を用いているため、クッション性を有する。又、非透水性のコート材8a、8bによって織布7の目が埋まり、汚れが織布7内部まで到達することが妨げられるため、汚れ防止マット1は全体が非透水性を有する。
【0053】
汚れ防止マット1の使用に際しては、上述した図3で示した従来の汚れ防止マット51と同様に、電磁調理器のトッププレート52と電磁調理器によって加熱される鍋53の底面54との間に挟んで設置される。即ち、汚れ防止マット1の第一面2は、設置状態では下側となって電磁調理器のトッププレート52と接する面であり、第一面2とは反対側の面である第二面3は、鍋53の底面54と接する面である。このようにして、鍋53の底面54に付着した汚れや料理のハネ等がトッププレート52上に直接付着することが汚れ防止マット1により防止される。
【0054】
尚、汚れ防止マット1は自身のクッション性により、使用の際にトッププレート52や鍋53を傷つける虞が無く、割れる虞も無いため、取扱いが容易である。又、ガラス繊維よりなる織布7はクッション性ばかりでなく、耐熱性や耐衝撃性にも優れた素材であるため、使用の際の信頼性が更に向上する。又、コスト的に(経済性に)優れた汚れ防止マット1となる。
【0055】
更に、コート材8a、8bは、耐熱性を有するため加熱調理の際にも融解等の危険がなく、鍋53の底面とトッププレート52に対して防滑性を発揮するため、より使い勝手が向上する。更に、コート材8a及び8bは撥水性を有するため、液体状の汚れが織布7内部まで浸透する虞が無いばかりでなく、容易に水洗いを行うことが出来るので、汚れ防止マット1のより衛生的な使用が可能となる。
【0056】
次に、コート材8a、8bの塗工量には差が設けてあり、汚れ防止マット1の第一面2側に形成されるコート材8aの塗工量は、第二面3側に形成されるコート材8bの塗工量よりも大きく設定されている。
【0057】
そして、汚れ防止マット1の第一面2の静摩擦係数は第二面3の静摩擦係数よりも大きくなるように構成されている。尚、静摩擦係数が小さいほどその面は滑りやすく、即ちタック性は弱くなり、静摩擦係数が大きいほどその面は滑り難く、タック性は強くなる。
【0058】
ここで、第一面2のタック性が弱すぎると、汚れ防止マット1の設置後の位置が固定され難く、調理時に動いてしまう虞がある。一方で、第一面2のタック性が強すぎると、汚れ防止マット1をトッププレート52上に設置した際に第一面2がトッププレート52上へ強固に貼り付いてしまい、設置後に汚れ防止マット1をわずかにずらすなどして微妙な位置合わせをしようとしても容易には動かなくなってしまい、汚れ防止マット1を所定位置に設置するのに手間取ってしまう虞がある。
【0059】
又、第二面3のタック性が弱すぎるとその面は滑りやすいので、調理中に鍋53がずれてしまい、調理に支障をきたす虞がある。即ち、電磁調理器ではトッププレート52の下に設置されたコイルから磁力線が発生することで鍋53の底面54に渦電流が発生し発熱するが、その際、微妙に鍋53が振動してしまい、第二面3のタック性が弱すぎるとその振動をタック性により受け止めることができず第二面3の上を滑るような状態になりやすく、結果的にトッププレート52の所定の位置から鍋53がずれることに繋がる。一方で、第二面3のタック性が強すぎると、加熱調理時に鍋53をあおるように動かした際に汚れ防止マット1の第二面3のタック性により鍋53と第二面3との間に抵抗が生じて鍋53の動きを妨げるようになり、酷い場合には鍋53の底を第二面3に接触させた際に鍋53が第二面3の上に引っ掛かってしまい、調理中に鍋53を振ることが困難となる虞がある。又、第一面2のタック性と第二面3のタック性とのバランスが悪いと調理時に鍋53の底を第二面3に接触させるように鍋53を動かした際に、鍋53の底に第二面3が引っ掛かるとともに第一面2がトッププレート52から容易にずれてしまい、その結果、調理中に汚れ防止マット1がトッププレート52から剥がれてしまう、という事態になってしまう。
【0060】
以上のように、第一面2と第二面3のタック性の関係は密接に結びついている。これらを両立させ、調理時の使用感を向上させるため、本発明の汚れ防止マット1では、第一面2の静摩擦係数と第二面3の静摩擦係数との差は0.08以上0.60以下となるように構成されている。
【0061】
このように構成することで、第二面3と比べて第一面2はタック性が強くなるため、汚れ防止マット1がトッププレートにフィットした状態を維持しながら、鍋を振ることができる。
【0062】
又、第一面2の静摩擦係数と第二面3の静摩擦係数との差は、0.10以上0.60以下であることがより好ましい。このように構成することで、調理時に鍋を振る際の使用感がより向上する。
【0063】
更に、第一面2の静摩擦係数が0.50以上0.90以下であり、第二面3の静摩擦係数が0.30以上0.71以下であることが好ましい。このように構成することで、電磁調理器の作動時に微細な動きが生じる虞を低減すると共に、トッププレートの所定位置にシート体を設置する際に正確に設置し易くなるため、使い勝手が向上する。
【0064】
又、第一面2に形成されるコート材8aの塗工量は、乾燥重量で13g/m以上500g/m以下であり、第二面3に形成されるコート材8bの塗工量は、乾燥重量で5g/m以上60g/m以下であることが好ましい。このように構成することで、両面の各々で所定の静摩擦係数を有するシート体となるため、安定して所望のタック性を発揮する。
【0065】
又、第一面2に形成されるコート材8aの塗工厚み(乾燥後の厚み)は、7μm以上286.1μm以下であり、第二面3に形成されるコート材8bの塗工厚みは、2μm以上34.3μm以下あることが好ましい。このように構成することで、両面の各々で所定の静摩擦係数を有するシート体となるため、安定して所望のタック性を発揮する。
【0066】
尚、汚れ防止マット1の厚みは、0.65mm以下であることが好ましい。このように構成すると、トッププレート52の温度を検知する温度センサに与える影響が少なくなるため、電磁調理器の使用に際して不具合が生じる虞が減少する。又、シート状の素材である織布7は、厚みが0.02mm以上0.42mm以下であることが好ましい。このように構成すると、クッション性と十分な引き裂き強度を兼ね備えることができる。
【0067】
尚、上記の実施の形態では、汚れ防止マットは織布と、織布の両面に形成されたコート材とからなるものであったが、シリコーンのみからなるものであってもよい。
【0068】
又、上記の実施の形態では、シート状の素材はガラス繊維を平織した織布であったが、ガラス繊維を一部に含むものであってもよく、又、磁力線の透過性及び耐熱性を有する他の繊維や、その他の素材で構成されてもよい。例えば、ガラス繊維よりなる不織布、カーボン繊維やセラミック繊維等よりなる織布又は不織布、紙であってもよい。
【0069】
更に、上記の実施の形態では、コート材は織布の両面の全面に形成されていたが、一部にのみ形成されていてもよい。汚れ防止マットが織布を用いずシリコーンのみからなるようなものであれば、コート材は無くてもよい。
【0070】
更に、上記の実施の形態では、コート材はシリコーンより構成されるものであったが、シリコーンを一部に含むものであってもよく、非透水性を有する他の部材から構成されてもよい。コート材は磁力線の透過性を有するものが好ましいが、所定厚さ以上では非透過性のものであっても、所定厚さ以下とすることで透過性が確保出来るものであれば、同様に使用できる。
【0071】
更に、上記の実施の形態では、汚れ防止マットは円形形状となっているが、円形形状以外の、例えば矩形形状やドーナツ形状等の他の形状としても良い。尚、ドーナツ形状のように中央部に開口を形成した場合には、電磁調理器以外のガスコンロの五徳の下に設置することでガスコンロ用の汚れ防止マットとしても使用できる。したがって、本発明においては、ガスコンロ用の汚れ防止マットとして使用できるものであっても、電磁調理器用の汚れ防止マットとしても使用できるのであれば、本発明の範囲に含むものとする。
【0072】
更に、上記の実施の形態では、第一面と第二面においてコート材の塗工量を変えることで静摩擦係数を異なるものとしていたが、他の手段で静摩擦係数を設定してもよい。例えば、互いに異なる種類のコート材を用いたり、静摩擦係数が変更される仕上げ加工を行ったりする方法が挙げられる。
【実施例0073】
以下、実施例に基づいて本発明について具体的に説明する。尚、本発明の実施の形態は実施例に限定されるものではない。
(実施例及び比較例の準備)
ガラス繊維からなるシート状素材の両面に、シリコーンからなるコート材をそれぞれ異なる塗工量及び塗工厚みで形成し、実施例1~実施例5、及び比較例1、3を準備した。又、第二面のみをフッ素樹脂に代えたものとして比較例2を準備した。
【0074】
ガラス繊維はいずれも同じものを用いており、下記表1に示す構成である。
【0075】
【表1】
それぞれのコート材の塗工量及び塗工厚みは後述する表2にて示す。尚、塗工量及び塗工厚みのいずれも乾燥後のものである。
【0076】
又、以下の機器を準備した。
【0077】
電磁調理器:HT-J200HTF(株式会社日立製作所)
フライパン:品名 IHルビー・エクセレンス フライパン21cm(品番:C62202)(株式会社グループセブジャパン)
アルミ製雪平鍋:品名 軽くて丈夫な槌目ゆきひらなべ 直径25cm、重量500g(北陸アルミニウム株式会社)
(静摩擦係数の測定)
それぞれの実施例及び比較例の第一面及び第二面の静摩擦係数を、JIS P8147:2010を準用して測定した。尚、試験片の大きさは5cm×7cmとした。又、接触面には、JIS L0803:染色堅ろう度試験用白布(単一繊維布)の綿(呼び番号3-1)による綿布を用いた。又、引張速度は100mm/minとした。
(コート材の塗工厚みの測定)
それぞれの実施例及び比較例の第一面及び第二面のコート材の塗工厚み(単に「コート材の厚み」ともいう)は、シート体の断面が観察面となるようにシート体をエポキシ樹脂に埋め込みして研磨した面を走査電子顕微鏡(SEM)にて観察し、シート体の第一面及び第二面のコート材の厚みを、それぞれコート材の厚みに直交する方向(すなわち、シートの素材としてのガラス繊維の織布と平行する方向)に200μm間隔で10箇所測定して得られたコート材の厚みの値の算術平均である。尚、走査電子顕微鏡によるシート体断面観察時に用いた走査電子顕微鏡の装置名及び測定条件は以下の通りである。又、走査電子顕微鏡による観察の前処理として、観察対象のシート体のエポキシ樹脂により樹脂包埋し、それを機械研磨した後、カーボン蒸着を行った。
装置名:日立ハイテク社製走査電子顕微鏡(型番:S-3700N)、測定条件:測定倍率150倍 加速電圧5kV、真空度10Pa、反射電子像取得
又、走査電子顕微鏡により得られたこれらの画像については、画像解析ソフト(ミタニコーポレーション社製WinRoof2018)を用いて、2点間距離計測の条件にて解析を行った。
(試験1:調理時の鍋等の振り)
コンベア上に置いた電磁調理器のトッププレート(ガラス天板)に各実施例及び比較例の汚れ防止マット(直径21cm)を敷き、その上にフライパンを置いた。そのフライパンを固定したまま(即ち、ガラス天板に敷いた汚れ防止マットの上にフライパンを載置した状態で)コンベアを水平方向に速度200mm/sで200mm動かした際に汚れ防止マットがトッププレートから剥がれるか、剥がれないかを評価した(評価1)。
【0078】
全く剥がれない場合を◎、ほとんど剥がれない場合(全体的に動いても5mm未満、もしくは端がめくれても5mm未満)を〇、剥がれた場合(全体的に5mm以上動く、もしくは端が5mm以上めくれる)を×とした。
【0079】
試験1~試験3の結果は後述する表2にて示す。
(試験2)
各実施例及び比較例の汚れ防止マットをトッププレートと空のアルミ製雪平鍋の間に置いた状態で、電磁調理器の火力を13として加熱し、アルミ製雪平鍋の動きを評価した(評価2)。10秒以内にアルミ製雪平鍋が動かない場合を〇、動いた場合を×とした。
(試験3)
各実施例及び比較例の汚れ防止マット(直径21cm)を、評価者10名がトッププレートの所定位置に配置するのに要した時間を測定した。その算術平均値が5秒未満である場合を〇、5秒以上である場合を×とした(評価3)。
(結果)
各実施例及び比較例の構成、並びに試験1~試験3の結果は以下の通りである。
【0080】
【表2】
表2を参照して、第一面と第二面の静摩擦係数の差が0.08以上0.60以下であれば、評価1~評価3がいずれも〇又は◎となり、調理時に鍋等と汚れ防止マットが共に動くことを防止し、電磁調理器による加熱時に鍋等が動くことを防止し、汚れ防止マットを所定位置へ設置することも容易となることが確認された。
【0081】
又、実施例2~実施例5を参照して、第一面と第二面の静摩擦係数の差が0.10以上であれば、評価1がいずれも◎となり更に好適となることが確認された。
【0082】
更に、第一面の静摩擦係数が0.50以上0.90以下であり、第二面の静摩擦係数が0.30以上0.71以下であると評価1~評価3の結果が好適となることが確認された。
【0083】
更に、第一面に形成されるコート材の塗工量が乾燥重量で13g/m以上500g/m以下であり、第二面に形成されるコート材の塗工量が乾燥重量で5g/m以上60g/m以下であると評価1~評価3の結果が好適となることが確認された。
【0084】
更に、第一面に形成されるコート材の塗工厚みが7μm以上286.1μm以下であり、第二面に形成されるコート材の塗工厚みが2μm以上34.3μm以下であると評価1~評価3の結果が好適となることが確認された。
【符号の説明】
【0085】
1…汚れ防止マット
2…第一面
3…第二面
7…織布
8…コート材
51…汚れ防止マット
52…トッププレート
53…鍋
54…底面
尚、各図中同一符号は同一又は相当部分を示す。
図1
図2
図3