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  • 特開-被洗浄物の洗浄方法および洗浄装置 図1
  • 特開-被洗浄物の洗浄方法および洗浄装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133264
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】被洗浄物の洗浄方法および洗浄装置
(51)【国際特許分類】
   B08B 3/08 20060101AFI20230914BHJP
   C11D 7/50 20060101ALI20230914BHJP
   C23G 5/04 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
B08B3/08 B
B08B3/08 Z
C11D7/50
C23G5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037661
(22)【出願日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2022037067
(32)【優先日】2022-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 直門
(72)【発明者】
【氏名】佐久 冬彦
【テーマコード(参考)】
3B201
4H003
4K053
【Fターム(参考)】
3B201AA46
3B201AB03
3B201BB02
3B201BB12
3B201BB13
3B201BB14
3B201CB15
3B201CC01
3B201CC11
4H003DA09
4H003DA11
4H003DA12
4H003DA14
4H003DB01
4H003DB02
4H003DC02
4H003ED26
4H003FA04
4K053PA03
4K053QA04
4K053RA04
4K053RA38
4K053YA06
4K053YA17
(57)【要約】      (修正有)
【課題】蒸気洗浄工程において、汚れ成分を含む洗浄液を用いても、被洗浄物への汚れ成分の再付着による洗浄不良を抑制することができる、被洗浄物の洗浄方法、並びに洗浄装置を提供する。
【解決手段】蒸気洗浄工程を含む、被洗浄物6の洗浄方法であって、前記蒸気洗浄工程は、洗浄液槽3に入れられた、溶剤(A)と汚れ成分とを含む洗浄液2を気化して、溶剤(A)成分と汚れ成分とを含む第1の洗浄蒸気7を生成し、前記第1の洗浄蒸気7をミストセパレータ5に通過させて、汚れ成分が分離された第2の洗浄蒸気8を生成し前記第2の洗浄蒸気8と前記被洗浄物6とを接触させることを含む、方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気洗浄工程を含む、被洗浄物の洗浄方法であって、
前記蒸気洗浄工程は、
洗浄液槽に入れられた、溶剤(A)と汚れ成分とを含む洗浄液を気化して、溶剤(A)成分と汚れ成分とを含む第1の洗浄蒸気を生成し、
前記第1の洗浄蒸気をミストセパレータに通過させて、汚れ成分が分離された第2の洗浄蒸気を生成し、
前記第2の洗浄蒸気と前記被洗浄物とを接触させることを含む、
方法。
【請求項2】
前記ミストセパレータは、前記洗浄液の液面よりも上部であって、前記被洗浄物よりも下部に設けられることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ミストセパレータは、前記被洗浄物を入れた洗浄カゴに直接的あるいは間接的に設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の洗浄蒸気を凝縮させて液とし、該液を前記ミストセパレータに接触させることを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記蒸気洗浄工程の前工程として、前記被洗浄物を溶剤(B)に浸漬させて洗浄する、浸漬洗浄工程を含む、または、
前記浸漬洗浄工程と、前記浸漬洗浄工程と前記蒸気洗浄工程の間工程として、前記被洗浄物を溶剤(C)に浸漬させて洗浄する、リンス洗浄工程とを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記溶剤(A)は不燃性の揮発性有機溶剤から実質的になることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記蒸気洗浄工程により、前記被洗浄物に前記汚れ成分が付着することを防止する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記ミストセパレータは、前記洗浄液槽から前記被洗浄物までの洗浄蒸気の流路上に設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
被洗浄物の蒸気洗浄工程を行うように構成されている、洗浄装置であって、
洗浄液を入れられる洗浄液槽と、
前記洗浄液を気化して洗浄蒸気を生成する加熱部と、
ミストセパレータとを備え、
前記蒸気洗浄工程において、
前記洗浄液が溶剤(A)と汚れ成分とを含み、
前記洗浄液を気化して生成する第1の洗浄蒸気をミストセパレータに通過させて、汚れ成分が分離された第2の洗浄蒸気を生成し、
前記第2の洗浄蒸気を前記被洗浄物と接触させることを特徴とする、洗浄装置。
【請求項10】
前記ミストセパレータは、前記洗浄液の液面よりも上部であって、前記被洗浄物よりも下部に設けられる、請求項9に記載の洗浄装置。
【請求項11】
前記ミストセパレータは、前記被洗浄物を入れた洗浄カゴに直接的あるいは間接的に設けられていることを特徴とする、請求項9または10に記載の洗浄装置。
【請求項12】
前記第2の洗浄蒸気を凝縮させて液とし、該液を前記ミストセパレータに接触させることを含むことを特徴とする、請求項9または10に記載の洗浄装置。
【請求項13】
前記蒸気洗浄工程の前工程として、前記被洗浄物を溶剤(B)に浸漬させて洗浄する、浸漬洗浄工程を行うように構成されている、または、
前記浸漬洗浄工程と、前記浸漬洗浄工程と前記蒸気洗浄工程の間工程として、前記被洗浄物を溶剤(C)に浸漬させて洗浄する、リンス洗浄工程とを行うように構成されていることを特徴とする、請求項12に記載の洗浄装置。
【請求項14】
前記溶剤(A)は不燃性の揮発性有機溶剤から実質的になることを特徴とする、請求項9または10に記載の洗浄装置。
【請求項15】
前記蒸気洗浄工程により、前記被洗浄物に前記汚れ成分が付着することを防止することを特徴とする、請求項9または10に記載の洗浄装置。
【請求項16】
前記ミストセパレータは、前記洗浄液槽から前記被洗浄物までの洗浄蒸気の流路上に設けられていることを特徴とする、請求項9または10に記載の洗浄装置。
【請求項17】
請求項1または2に記載の洗浄方法に用いるためのミストセパレータ。
【請求項18】
請求項17に記載のミストセパレータを備える、洗浄カゴ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被洗浄物の洗浄方法および洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品、精密機械部品、半導体部品、光学部品、精密金属部品等の製造時に使用される加工油等は、最終的には汚れとして除去する必要があり、炭化水素溶剤、塩素系溶剤やフッ素系溶剤による洗浄除去が一般的に行われている。これらの溶剤は不燃性であることから、浸漬洗浄等を行った後の仕上げ洗浄工程として、これらの溶剤を洗浄液として用いた蒸気洗浄が行われることがある。
【0003】
蒸気洗浄は、洗浄液槽に貯められた洗浄液から蒸気を発生させ、洗浄液の蒸気と被洗浄物とを接触させて、被洗浄物表面で洗浄液の蒸気を凝縮させ、凝縮した、汚れ成分を含まない洗浄液によって被洗浄物を洗浄する方法である。
【0004】
特許文献1には、被洗浄物に付着した油汚れを、水系洗浄剤による浸漬洗浄、アルコール洗浄剤の浸漬洗浄(リンス)、フッ素系洗浄剤の蒸気洗浄による三段階の工程で洗浄する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-18459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
蒸気洗浄後の洗浄液は洗浄液槽に戻されて再使用されることがある。繰り返し再使用される洗浄液には、被洗浄物に付着していた油やその他の汚れが混入し、蓄積されていく。長期間使用し汚れ成分が蓄積された洗浄液を用いて蒸気洗浄すると、被洗浄物表面に汚れ成分が再付着することがあるため、蒸気洗浄工程には改良検討の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、蒸気洗浄工程において、汚れ成分を含む洗浄液を用いても、被洗浄物への汚れ成分の再付着による洗浄不良を抑制することができる、被洗浄物の洗浄方法、並びに洗浄装置を検討した。汚れ成分を含む洗浄液を気化して発生させた洗浄液の蒸気には、洗浄成分である溶剤(A)の蒸気とともに汚れ成分を含む飛沫が含まれ、当該汚れ成分を含む飛沫が被洗浄物に付着することで、被洗浄物の洗浄不良を引き起こすことを見出した。
【0008】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施形態が含まれる。
【0009】
[1]
蒸気洗浄工程を含む、被洗浄物の洗浄方法であって、
前記蒸気洗浄工程は、
洗浄液槽に入れられた、溶剤(A)と汚れ成分とを含む洗浄液を気化して、溶剤(A)成分と汚れ成分とを含む第1の洗浄蒸気を生成し、
前記第1の洗浄蒸気をミストセパレータに通過させて、汚れ成分が分離された第2の洗浄蒸気を生成し、
前記第2の洗浄蒸気と前記被洗浄物とを接触させることを含む、
方法。
[2]
前記ミストセパレータは、前記洗浄液の液面よりも上部であって、前記被洗浄物よりも下部に設けられることを特徴とする、[1]に記載の方法。
[3]
前記ミストセパレータは、前記被洗浄物を入れた洗浄カゴに直接的あるいは間接的に設けられていることを特徴とする、[1]または[2]に記載の方法。
[4]
前記第2の洗浄蒸気を凝縮させて液とし、該液を前記ミストセパレータに接触させることを含むことを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1つに記載の方法。
[5]
前記蒸気洗浄工程の前工程として、前記被洗浄物を溶剤(B)に浸漬させて洗浄する、浸漬洗浄工程を含む、または、
前記浸漬洗浄工程と、前記浸漬洗浄工程と前記蒸気洗浄工程の間工程として、前記被洗浄物を溶剤(C)に浸漬させて洗浄する、リンス洗浄工程とを含むことを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1つに記載の方法。
[6]
前記溶剤(A)は不燃性の揮発性有機溶剤から実質的になることを特徴とする、[1]~[5]のいずれか1つに記載の方法。
[7]
前記蒸気洗浄工程により、前記被洗浄物に前記汚れ成分が付着することを防止する、[1]~[6]のいずれか1つに記載の方法。
[8]
前記ミストセパレータは、前記洗浄液槽から前記被洗浄物までの洗浄蒸気の流路上に設けられていることを特徴とする、[1]~[7]のいずれか1つに記載の方法。
[9]
被洗浄物の蒸気洗浄工程を行うように構成されている、洗浄装置であって、
洗浄液を入れられる洗浄液槽と、
前記洗浄液を気化して洗浄蒸気を生成する加熱部と、
ミストセパレータとを備え、
前記蒸気洗浄工程において、
前記洗浄液が溶剤(A)と汚れ成分とを含み、
前記洗浄液を気化して生成する第1の洗浄蒸気をミストセパレータに通過させて、汚れ成分が分離された第2の洗浄蒸気を生成し、
前記第2の洗浄蒸気を前記被洗浄物と接触させることを特徴とする、洗浄装置。
[10]
前記ミストセパレータは、前記洗浄液の液面よりも上部であって、前記被洗浄物よりも下部に設けられる、[9]に記載の洗浄装置。
[11]
前記ミストセパレータは、前記被洗浄物を入れた洗浄カゴに直接的あるいは間接的に設けられていることを特徴とする、[9]または[10]に記載の洗浄装置。
[12]
前記第2の洗浄蒸気を凝縮させて液とし、該液を前記ミストセパレータに接触させることを含むことを特徴とする、[9]~[11]のいずれか1つに記載の洗浄装置。
[13]
前記蒸気洗浄工程の前工程として、前記被洗浄物を溶剤(B)に浸漬させて洗浄する、浸漬洗浄工程を行うように構成されている、または、
前記浸漬洗浄工程と、前記浸漬洗浄工程と前記蒸気洗浄工程の間工程として、前記被洗浄物を溶剤(C)に浸漬させて洗浄する、リンス洗浄工程とを行うように構成されていることを特徴とする、[9]~[12]のいずれか1つに記載の洗浄装置。
[14]
前記溶剤(A)は不燃性の揮発性有機溶剤から実質的になることを特徴とする、[9]~[13]のいずれか1つに記載の洗浄装置。
[15]
前記蒸気洗浄工程により、前記被洗浄物に前記汚れ成分が付着することを防止することを特徴とする、[9]~[14]のいずれか1つに記載の洗浄装置。
[16]
前記ミストセパレータは、前記洗浄液槽から前記被洗浄物までの洗浄蒸気の流路上に設けられていることを特徴とする、[9]~[15]のいずれか1つに記載の洗浄装置。
[17]
[1]~[8]のいずれか1つに記載の洗浄方法に用いるためのミストセパレータ。
[18]
[17]に記載のミストセパレータを備える、洗浄カゴ。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一実施形態によれば、蒸気洗浄工程において、洗浄液に含まれる汚れ成分が分離された洗浄蒸気を生成することができる。そのため、汚れ成分を含む洗浄液を用いても、被洗浄物への該汚れ成分の付着による洗浄不良を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る洗浄装置を示す構成図である。
図2図2は、本開示の一実施形態に係る洗浄装置を示す構成図である。
図3図3は、本開示の一実施形態に係る洗浄装置を示す構成図である。
図4図4は、本開示の一実施形態に係るミストセパレータを示す上面図である。
図5図5は、本開示の一実施形態に係るミストセパレータを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について説明する。ただし本開示は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、以下の実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本開示によりもたらされるものと解される。
【0013】
[1.被洗浄物の洗浄方法]
本開示の一実施形態に係る被洗浄物の洗浄方法は、蒸気洗浄工程を含み、
前記蒸気洗浄工程は、
洗浄液槽に入れられた、溶剤(A)と汚れ成分とを含む洗浄液を気化して、溶剤(A)成分と汚れ成分とを含む第1の洗浄蒸気を生成し、
前記第1の洗浄蒸気をミストセパレータに通過させて、汚れ成分が分離された第2の洗浄蒸気を生成し、
前記第2の洗浄蒸気と前記被洗浄物とを接触させることを含む、ことを特徴とする。
【0014】
[(1)蒸気洗浄工程]
【0015】
(洗浄液)
前記洗浄液は、溶剤(A)と汚れ成分とを含有する。
【0016】
<溶剤(A)>
前記溶剤(A)は、揮発性有機溶剤が使用可能である。具体的には、アルコール類、炭化水素類、塩素系溶剤、臭素系溶剤、フッ素系溶剤が挙げられる。これらは、一種であってもよいし、二種以上の組成物であってもよい。二種以上の組成物である場合、共沸組成物あるいは共沸様組成物であってもよく、非共沸組成物であってもよい。ここで、共沸組成物とは、一定圧力下で液相と気相との組成間に差がなく、あたかも一つの物質のように挙動する組成物を意味する。共沸様組成物とは、共沸組成を形成できる組成物において、共沸組成に近似する組成を有する組成物であって、共沸組成物に近い挙動を示す組成を意味する。非共沸組成物とは、共沸組成物や共沸様組成物ではない組成物を意味する。また、これらの溶剤が位置異性体、幾何異性体等の異性体を有する化合物を含む場合、該化合物はいずれの異性体であってもよく、単独でも二種以上の異性体混合物であってもよい。
前記アルコール類としては、炭素数1~4のアルコールであってもよく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール等が挙げられる。
前記炭化水素類としては、炭素数5~7の飽和あるいは不飽和炭化水素であってもよく、例えば、ペンタン、ヘキサン、イソペンタン、n-ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン等が挙げられる。、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、石油等が挙げられる。
前記塩素系溶剤としては、塩素原子を有する飽和あるいは不飽和炭化水素であってもよく、例えば、1,2-ジクロロエチレン、塩化メチレン、トリクロロエチレン、四塩化炭素等が挙げられる。
前記臭素系溶剤としては、臭素原子を有する飽和あるいは不飽和炭化水素であってもよく、例えば、ブロモプロパン等が挙げられる。
前記フッ素系溶剤としては、HFC類、HCFC類、含フッ素アルコール、含フッ素エーテル、含フッ素アミン、含フッ素ケトン、含フッ素オレフィン等が挙げられる。
前記HFC類としては、フッ素原子を有する炭素数3~8の飽和炭化水素であってもよく、例えば、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(HFC-365mfc)、ヘキサフルオロブタン、ヘプタフルオロブタン、オクタフルオロブタン、テトラフルオロペンタン、ペンタフルオロペンタン、ヘキサフルオロペンタン、ヘプタフルオロペンタン、ノナフルオロペンタン、デカフルオロペンタン、ウンデカフルオロペンタン等が挙げられる。
前記HCFC類としては、塩素原子とフッ素原子を有する炭素数3~8の飽和炭化水素であってもよく、例えば、ジクロロペンタフルオロプロパン(HCFC-225)、トリクロロフルオロプロパン、トリクロロジフルオロプロパン、トリクロロトリフルオロプロパン等が挙げられる。
前記含フッ素アルコールとしては、フッ素原子を有する炭素数2~10の飽和あるいは不飽和アルコールであってもよく、例えば、トリフルオロエタノール、テトラフルオロプロパノール、ペンタフルオロプロパノール、ヘキサフルオロプロパノール、ヘキサフルオロブタノール、ヘプタフルオロブタノール、オクタフルオロペンタノール、ノナフルオロペンタノール、ノナフルオロヘキサノール、ドデカフルオロヘプタノール、トリデカフルオロヘプタノール、トリデカフルオロオクタノール、オクタフルオロシクロペンチルメタノール、オクタフルオロシクロペンチルエタノール、オクタフルオロシクロペンチルプロパノール等が挙げられる。
前記含フッ素エーテルとしては、フッ素原子を有し、水素原子および/または塩素原子を有していてもよい、炭素数3~8の飽和あるいは不飽和エーテルであってもよく、例えば、ヘプタフルオロプロピルメチルエーテル、ノナフルオロブチルメチルエーテル、ノナフルオロブチルエチルエーテル、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-4-(トリフルオロメチル)-ペンタン、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(HFE-347pc-f)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシプロパン(HFE-356mmz)等が挙げられる。
前記含フッ素アミンとしては、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロペンチルアミン、パーフルオロ-N-メチル-モルホリン等が挙げられる。
前記含フッ素ケトンとしては、フッ素原子を有し、水素原子および/または塩素原子を有していてもよい、炭素数4~8のケトン化合物であってもよく、例えば、3,3,4,4-テトラフルオロ-2-ブタノン(HFK-354pc)、1,1,1,2,2-ペンタフルオロ-3-ペンタノン(HFK-465mc)、3,3,4,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-2-ペンタノン(HFK-447mcc)、3,4,4,4-テトラフルオロ-3-(トリフルオロメチル)-2-ブタノン(HFK-447mmy)、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-2-ヘキサノン(HFK-549mccc)、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,7-ウンデカフルオロ-2-ヘプタノン(HFK-64-11mcccc)、1,1,1,2,2,4,5,5,5-ノナフルオロ-4-(トリフルオロメチル)-3-ペンタノン等が挙げられる。
前記含フッ素オレフィンとしては、フッ素原子を有し、水素原子および/または塩素原子を有していてもよい、炭素数3~8の不飽和炭化水素であってもよく、例えば、トリクロロジフルオロプロペン、ジクロロトリフルオロプロペン、クロロトリフルオロプロペン、クロロテトラフルオロプロペン、ペンタフルオロプロペン、ジクロロジフルオロプロペン、、テトラフルオロプロペン、クロロジフルオロプロペン、トリフルオロプロペン、トリクロロテトラフルオロブテン、ジクロロペンタフルオロブテン、クロロヘキサフルオロブテン、トリクロロトリフルオロブテン、ジクロロテトラフルオロブテン、クロロペンタフルオロブテン、ヘキサフルオロブテン、トリクロロジフルオロブテン、ジクロロトリフルオロブテン、クロロテトラフルオロブテン、ジクロロジフルオロブテン、クロロトリフルオロブテン、トリクロロヘキサフルオロペンテン、ジクロロヘプタフルオロペンテン、ノナフルオロペンテン、クロロオクタフルオロペンテン、トリクロロペンタフルオロペンテン、ジクロロヘキサフルオロペンテン、クロロヘプタフルオロペンテン等が挙げられる。
【0017】
また、前記溶剤(A)は、石油系パラフィン類、トルエン、キシレン等のアルキルベンゼン類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類、軽質ナフサ、重質ナフサ、石油ナフサ、コールタールナフサ等のナフサ類等であってもよい。
【0018】
一実施形態において、前記溶剤(A)は、不燃性の揮発性有機溶剤から実質的になることが好ましく、不燃性の揮発性有機溶剤からなることが特に好ましい。ここで、「不燃性の揮発性有機溶剤」とは、引火点を有さない揮発性有機溶剤を指し、「実質的になる」とは、前記溶剤(A)は、不燃性の揮発性有機溶剤を90質量%以上、好ましくは95質量%以上含み、より好ましくは不燃性の揮発性有機溶剤からなることを指す。不燃性の揮発性有機溶剤は非防爆環境下に置くことができるため、防爆設備を有しない非防爆型の洗浄装置での洗浄の実施に有利である。
不燃性の揮発性有機溶剤としては、前述の塩素系溶剤、臭素系溶剤、フッ素系溶剤が挙げられる。
【0019】
前記溶剤(A)は、不燃性を示し、環境適合性と洗浄性能を兼ね備えることから、含フッ素オレフィンを含むことが好ましく、蒸気洗浄後の被洗浄物の乾燥が容易であることから、炭素数3~6の含フッ素オレフィンが特に好ましく、トリクロロジフルオロプロペン、ジクロロトリフルオロプロペン、クロロトリフルオロプロペン、クロロテトラフルオロプロペン、ペンタフルオロプロペン、ジクロロジフルオロプロペン、テトラフルオロプロペン、クロロジフルオロプロペン、トリフルオロプロペン、モノクロロヘプタフルオロペンテンがさらに好ましい。
クロロトリフルオロプロペンとしては、Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd(Z)。沸点:39℃)、E-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd(E)。沸点:18℃。)、Z-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1233yd(Z)。沸点:54℃)、E-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1233yd(E)。沸点:48℃)、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf。沸点:15℃)。
ジクロロトリフルオロプロペンとしては、Z-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1223xd(Z)。沸点:約53℃)、E-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1223xd(E)。沸点:約60℃)、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1223za。沸点:約55℃)、シス-1,3-ジクロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1223yd(Z)、沸点:56℃)、トランス-1,3-ジクロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1223yd(E)、沸点:60℃)。
クロロテトラフルオロプロペンとしては、Z-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HCFO-1224yd(Z)。沸点:約15℃)、E-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HCFO-1224yd(E)。沸点:約19℃)、Z-2-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HCFO-1224xe(Z)。沸点:約17℃)、E-2-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HCFO-1224xe(E)。沸点:約23℃)。
トリクロロトリフルオロプロペンとしては、1,1,2-トリクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1213xa。沸点:約88℃)。
モノクロロヘプタフルオロペンテンとしては、E-1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテン(HCFO-1437dycc(E)。沸点:約93℃)、Z-1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテン(HCFO-1437dycc(Z)。沸点:約89℃)等が挙げられる。
【0020】
一実施形態において、前記溶剤(A)の沸点は任意である。また、高沸点の溶剤は揮発性が低いので、常圧下(1気圧下。以下同じ)での使用には加熱コストを要するが、減圧式洗浄機の場合は使用可能である。常圧で使用する一般的な洗浄機においては、前記溶剤(A)は、蒸気洗浄後の被洗浄物の乾燥が容易であることから、沸点120℃以下(沸点は、1気圧の圧力下における沸点を指す。本開示において以下同じ。)(溶剤(A)が2種以上の成分を含む組成物である場合には、該組成物としての沸点を指す。以下同じ。)、好ましくは沸点100℃以下、特に好ましくは沸点85℃以下の揮発性有機溶剤であってもよい。
また、前記溶剤(A)は、洗浄液の揮発ロスを低減できることから、沸点が15℃以上、好ましくは25℃以上、特に好ましくは30℃以上の揮発性有機溶剤であってもよい。具体的には、前記溶剤(A)は、沸点15~120℃、好ましくは沸点25~100℃、特に好ましくは沸点30~85℃の揮発性有機溶剤を含み、該揮発性有機溶剤を50質量以上、好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上含んでもよい。これらの揮発性有機溶剤は、不燃性の揮発性有機溶剤から実質的になることが特に好ましい。
【0021】
<汚れ成分>
前記汚れ成分は、油脂を含んでもよく、該油脂としては、例えば、フラックス、加工油、防錆油、グリース類、ワックス類等であってもよい。加工油は例えば、切削油、焼き入れ油、圧延油、潤滑油、機械油、プレス加工油、打ち抜き油、引き抜き油、組立油、線引き油、熱処理油等が挙げられる。油脂は、溶剤(A)で洗浄可能なものが好ましい。また、汚れ成分は油脂以外の成分(例えば、ほこりや、物品加工時の削りかす等のパーティクル)を含んでもよい。専用洗浄機の場合は被洗浄物に付着した汚れ成分と蒸気洗浄で発生する汚れ成分は同一であるが、一般に異なる汚れ成分が付着した色々な被洗浄物を同一の洗浄機で洗浄することが多い。よって、汚れ成分は一種または二種以上を含むことが多い。
一実施形態において、前記汚れ成分は、溶剤(A)の沸点よりも初留点が高い油脂を含む。例えば、初留点が150℃以上、好ましくは200℃以上である油脂を含んでもよく、初留点が150℃以上、終点が400℃以下である油脂、好ましくは初留点が200℃以上、終点が400℃以下である油脂を含むことが好ましい。
さらに別の実施形態としては、前記汚れ成分は、溶剤(A)の沸点よりも低い場合も含む。
一実施形態において、前記汚れ成分は、不揮発性の油脂を含む。「不揮発性」の油脂とは、常温(25℃)かつ常圧下(1気圧下。以下同じ)における蒸気圧がゼロではなく、10-3mmHg(0.13Pa)未満である油脂を指す。
【0022】
一実施形態において、洗浄液は、溶剤(A)として、沸点15~120℃、好ましくは沸点25~120℃、特に好ましくは沸点30~85℃を有する揮発性有機溶剤を含み、汚れ成分として、初留点が150℃以上、好ましくは200℃以上である油脂を含んでもよい。
【0023】
一実施形態において、洗浄液は、沸点30~85℃を有する不燃性の揮発性有機溶剤から実質的になる溶剤(A)と、初留点が150℃以上、好ましくは200℃以上である油脂を含む汚れ成分、あるいは、不揮発性の油脂を含む汚れ成分とを含んでもよい。この洗浄液の採用は、蒸気洗浄後の被洗浄物の乾燥が容易であり、洗浄液の揮発ロスが少なく、防爆設備を有しない非防爆型の洗浄装置での洗浄の実施に有利である。さらに、常圧下での蒸気洗浄に好適であるため、開放式の洗浄装置での洗浄の実施に有利である。これらの特徴は、洗浄装置に高価な設備投資を必要としないことから、産業上非常に有利である。
【0024】
一実施形態において、汚れ成分は、蒸気洗浄工程に含まれる操作の条件で、固体、液体又は気体であり、かつ、溶剤(A)よりも沸点が高くてもよい。
【0025】
本開示の汚れ成分が固体状態の場合は、溶剤(A)が蒸発する時に固体状態の汚れ成分を同伴するが、ミストセパレータを通過することで問題なく洗浄蒸気で被洗浄物が洗浄できる。
【0026】
<その他の成分>
前記洗浄液は、前記溶剤(A)と前記汚れ成分とともに、その他の成分を含む組成物であってもよい。
前記その他の成分は、界面活性剤、防錆剤、水、安定剤等であってもよい。
【0027】
<含有割合>
前記洗浄液において、前記汚れ成分の含有量は、前記溶剤(A)と前記汚れ成分の総量に対して、50質量%以下であってもよく、30質量%以下が好ましく、20質量%以下が特に好ましい。
また、前記洗浄液が前記その他の成分を含む場合、その含有割合は、前記溶剤(A)と前記汚れ成分と前記その他の成分の総量に対して、20質量%以下であってもよく、10質量%以下が好ましい。
【0028】
(洗浄槽)
前記洗浄剤を収容する洗浄槽としては、従来公知の洗浄槽の他、後述する洗浄装置が備える洗浄槽を使用することができる。
【0029】
(第1の洗浄蒸気の生成)
前記蒸気洗浄工程では、前記洗浄液を気化して、溶剤(A)成分と汚れ成分とを含む洗浄蒸気(第1の洗浄蒸気)を生成する。前記洗浄液の気化は通常、洗浄液を加熱して沸騰させることで行う。洗浄液が沸騰して生成する蒸気(第1の洗浄蒸気)には、洗浄成分である溶剤(A)の蒸気とともに汚れ成分を含む飛沫が含まれる。
【0030】
(第2の洗浄蒸気の生成)
前記蒸気洗浄工程では、前記第1の洗浄蒸気をミストセパレータに通過させて、汚れ成分が分離された第2の洗浄蒸気を生成する。前記ミストセパレータは、前記洗浄液槽(より正確には、洗浄液槽に入れられた洗浄液の液面)から前記被洗浄物までの洗浄蒸気の流路上に設けられることが好ましい。
前記第1の洗浄蒸気が前記ミストセパレータを通過することにより、前記第1の洗浄蒸気に含まれる汚れ成分を含む飛沫が前記ミストセパレータにトラップされ、第1の洗浄蒸気から汚れ成分を分離した蒸気(第2の洗浄蒸気)が生成される。分離された汚れ成分は、前記ミストセパレータに付着したり、自然落下したり、洗い流されたりする。
換言すると、前記蒸気洗浄工程では、前記洗浄液を気化して生成した洗浄蒸気から、前記ミストセパレータを介して、前記洗浄液の液面側に第1の洗浄蒸気ゾーンが、前記被洗浄物側に第2の洗浄蒸気ゾーンが生成される。第2の洗浄蒸気ゾーンで前記被洗浄物が蒸気洗浄されることで、前記被洗浄物に付着した汚れを洗浄するとともに、前記被洗浄物に汚れ成分が付着することを防ぐことができる。
沸点が250℃の加工油が付着した被洗浄物を沸点39℃のHCFO-1233zd(Z)を洗浄液として用いて3槽式洗浄機で洗浄する系において、蒸気洗浄槽に設置したミストセパレータの温度は、HCFO-1233zd(Z)の沸点である39℃になる。もし、沸点250℃の加工油を含む蒸気がこのミストセパレータを通過すると、39℃に冷却されて凝縮して落下するので、ミストセパレータを通過した蒸気は清浄になり洗浄不良が著しく低減される。また、油濃度に関わらず、沸騰時の飛沫同伴で油滴やパーティクルが飛んだ場合でも、このミストセパレータが遮蔽し、飛沫同伴による洗浄不良を低減する効果も有する。
【0031】
前記蒸気洗浄工程においては、前記被洗浄物に洗浄蒸気を効率的に暴露することができることから、前記被洗浄物は前記洗浄液の上部に配置されることがある。このとき、前記ミストセパレータは、前記洗浄液の液面よりも上部であって、前記被洗浄物よりも下部に設けられることが好ましい。
また、前記ミストセパレータは前記洗浄液槽に対して、水平に設けられてもよいし、傾斜をつけて設けられてもよい。
【0032】
前記蒸気洗浄工程は、洗浄液槽(蒸気生成ゾーン)と、被洗浄物と第2の洗浄蒸気との接触場(蒸気洗浄ゾーン)とを、一つの容器内に備える態様において実施されてもよい。この態様では、洗浄装置に高価な設備投資を必要としないことから、産業上非常に有利である。
【0033】
(ミストセパレータ)
前記ミストセパレータは、汚れ成分をトラップし、溶剤(A)成分を通過できるものであれば特に限定されない。
【0034】
前記ミストセパレータは、デミスター、金網、充填材等であってもよい。
【0035】
前記ミストセパレータの材質は、溶剤(A)や汚れ成分に対して、安定なものならば特に限定されない。例えば、ステンレス鋼、鉄、アルミ、銅、真鍮、モネル、ハステロイ等の金属や合金、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂等の樹脂類、陶器や磁器等のセラミックス類等を用いることができる。耐食性に優れることから、SUS304製やSUS316製のステンレス鋼が特に好ましい。
【0036】
前記ミストセパレータは、例えば、スルザーパッキング、メラパック、フレキシパック、グッドロールパッキング、ロンボパックに例示される規則充填材、へリパック、ディクソンパッキング、ラシヒリング等の不規則充填材、金網を加工したものであってもよい。ステンレス鋼製タワシの様に金属線を丸めたもの、金属スポンジ、多孔質金属や多孔質セラミックス等も使用可能である。
【0037】
前記ミストセパレータは、前記洗浄液から生成した第1の洗浄蒸気が前記被洗浄物に直接接触しないように配置されることが好ましい。例えば、前記ミストセパレータの外径は、前記第1の洗浄蒸気の流路(例えば、前記蒸気洗浄槽の内径)と略同等に合わせることが好ましい。
【0038】
前記ミストセパレータの数は限定されない。単数を設けてもよく、複数を設けてもよい。複数を設ける場合には、同種のものを用いてもよいし、複数種のものを用いてもよい。
例えば、前記ミストセパレータは、下層(前記洗浄液側)に目の粗い金網を備え、上層(前記被洗浄物側)に目の細かい金網を備えた複層体であってもよい。
【0039】
前記ミストセパレータは、ポーラス構造体、メッシュ構造体、または、ひだ状構造体であってもよい。
【0040】
一実施形態において、前記ミストセパレータは、金網の単層体や金網の積層体であってもよい。金網の積層体において、積層させる金網の枚数は、蒸気の炊き上げ量、洗浄液中の汚れ成分の含有量、被洗浄物の要求清浄度等に依存するが、2枚から100枚、好ましくは2枚から50枚程度である。形状を維持するために、金網の外側にフレームを付けたり、金網をネットで包んだり、ステンレス製パンチングメタル等で金網を固定したりする形態が望ましい。
金網の線径、目開きも特に限定されないが、線径は0.1~1mm程度、目開きは0.05mm~5mm程度のものが好ましく、目開きが1mm前後のものが特に好ましい。金網の織り方は特に限定されず、例えば、平織、波織、クリンプ織、綾畳織、平畳織、滑面式、その他の織り方であっても良い。
前記ミストセパレータは、市販の20メッシュ前後(例えば、10~30メッシュ)のステンレス鋼製金網、もしくはそれを波型に成型した金網の積層体が特に好ましい。
パンチングメタルの穴の形状は特に限定されず、例えば、円形、星形、三角形、十字型、矩形等であってもよい。穴の大きさは特に限定されず、例えば、直径1mmφ~100mmφであってもよい。
【0041】
(被洗浄物)
前記被洗浄物は、任意のものが使用できる。例えば、医療機器、光学機器、電子機器、精密機器、ロケットや航空機等の航空機器、自動車等の輸送機器、これらの部品等が挙げられるが、これらに限定されない。具体的には、注射針、チューブ、注射針、注射筒、採血用試験管、カテーテル、手術道具(メス、ピンセット、カンシ)、CT、MRI、エコー等の診断機器の部品、光ファイバー、光学フィルター、モーター、半導体、抵抗、コンデンサー、また、これらを実装した電子基板、実装後フラックスが付着した基板、光ファイバー、ウエハー、レンズ、ミラー、光学筒、光ファイバー、油圧機器、イメージセンサー等のセンサー類、バルブ、接手、ゲージ、工具、歯車、ハウジング、チューブ、自動車内装部品、ヒンジ、エンジン、ボルト、ナット、ワイヤー、フィルター、ストレイナー、金具、産業用ロボットなどが挙げられる。特に、医療機器、光学機器、電子機器、精密機器、航空機器、これらの部品は、高い要求清浄度が求められることから、本開示の洗浄方法は好適である。材質としては、例えば、ステンレス鋼、鉄、アルミ、銅、真鍮、亜鉛、モネル、ハステロイ等の金属や合金、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂等の樹脂類、陶器や磁器等のセラミックス類やガラスが挙げられる。耐食性に優れることから、SUS304製やSUS316製のステンレス鋼が特に好ましい。
被洗浄物への影響を最小化するために、被洗浄物に応じて、洗浄液の種類、洗浄温度、洗浄時間を最適化することが好ましい。
【0042】
前記被洗浄物には、その用途に依存するが、前記汚れ成分で挙げた油脂、該油脂以外の成分等が付着していることがある。
【0043】
前記被洗浄物は、治具により固定されていてもよい。例えば、第2の洗浄蒸気を通気できる洗浄カゴ(当業界では、洗浄バスケット、洗浄バレルと呼ばれることもある)に入れられていてもよい。この洗浄カゴは、溶剤(A)や汚れ成分に対して、安定なものを用いることが好ましい。例えば、ステンレス鋼、鉄、アルミ、銅、真鍮、モネル、ハステロイ等の金属や合金、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂等の樹脂類、陶器や磁器等のセラミックス類等を用いることができる。耐食性に優れることから、SUS304製やSUS316製のステンレス鋼が特に好ましい。この洗浄カゴは、金網やパンチングメタル等の多孔部材で形成され、被洗浄物が入った内部を洗浄蒸気が通過するように構成されていてもよい。
【0044】
一実施形態において、前記ミストセパレータは、前記被洗浄物を入れた洗浄カゴに直接的あるいは間接的に設けられていてもよい。ここで、「直接的に」とは、前記ミストセパレータが前記洗浄カゴに接するように設けられていることを指し、「間接的に」とは、前記ミストセパレータが支持部材等を介して前記洗浄カゴに設けられていることを指す。前記ミストセパレータは、例えば、前記洗浄カゴに底面や側面に設けられる。この実施形態によれば、複雑な形状の洗浄蒸気の流路を形成するように設計された洗浄装置においても、ミストセパレータの設置に柔軟性をもたせることができる。
ミストセパレータは、洗浄液槽から被洗浄物までの洗浄蒸気の流路上に設けられ、該洗浄液槽における液面と前記ミストセパレータとの距離は、特に制限はないが、通常、該液面から100cm程度とするのが良い。但し、当該距離は洗浄装置の形状や大きさに合わせて適宜調整でき、例えば、実験室スケールにおける洗浄機は1~5cm程度、工業用スケールにおける洗浄機は、5cm~100cm程度とすることが好ましい。
【0045】
(第2の洗浄蒸気と被洗浄物との接触)
前記ミストセパレータを通過することで生成した第2の洗浄蒸気は、前記被洗浄物と接触させ、被洗浄物表面で凝縮させ、被洗浄物を洗浄する。被洗浄物表面は通常、第2の洗浄蒸気よりも温度が低いことから、第2の洗浄蒸気が凝縮され、液化する。必要に応じて、被洗浄物、被洗浄物まわり、あるいは、被洗浄物の上部を冷却して、第2の洗浄蒸気を凝縮させてもよい。
【0046】
第2の洗浄蒸気を凝縮させて得られた液は前記ミストセパレータに接触させ、該液をミストセパレータに分散させてもよい。これにより、前記第1の洗浄蒸気がこのミストセパレータを通過する際に、前記液と前記第1の洗浄蒸気とが気液接触され、前記第1の洗浄蒸気に含まれる汚れ成分をミストセパレータ上で凝縮させて、トラップ効果を高めることができる。また、凝縮液をミストセパレータに分散させる事により、ミストセパレータに付着した油分を洗い流す清浄化効果がある。特に、汚れ成分の油等がミストセパレータに固着することを防ぐ、目詰まり防止効果がある。
【0047】
(溶剤(A)の回収)
前記被洗浄物を洗浄した後の洗浄液は回収して再利用することができる。同様に、前記被洗浄物を洗浄した後の第2の洗浄蒸気についても、凝縮させて、再利用することができる。回収した洗浄液に水分が含まれる場合には、洗浄液から水を分離してから再利用してもよい。
【0048】
前記蒸気洗浄工程は、常圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。前記蒸気洗浄工程は、常圧下で行うことで、高価な装置を用いることなく、簡便に被洗浄物を洗浄することができる。
【0049】
[(2)乾燥工程]
本開示の洗浄方法は、前記蒸気洗浄工程を経た後に、被洗浄物を乾燥させる乾燥工程を含んでもよい。前記乾燥工程は、被洗浄物を減圧下あるいは、常圧下で乾燥させる。
【0050】
[(3)他工程]
本開示の洗浄方法は、蒸気洗浄する工程の他に、溶剤(B)を入れた浸漬槽に被洗浄物を浸漬させて洗浄する浸漬洗浄工程を含んでもよく、さらに溶剤(C)を入れたリンス槽に被洗浄物を浸漬させてリンスするリンス洗浄工程を含んでもよい。浸漬洗浄工程を含む場合、被洗浄物は浸漬洗浄工程、蒸気洗浄工程の順で洗浄されてもよい。また、浸漬洗浄工程とリンス洗浄工程を含む場合、被洗浄物は浸漬洗浄工程、リンス洗浄工程、蒸気洗浄工程の順で洗浄されてもよい。
浸漬洗浄工程やリンス洗浄工程では、超音波照射下、洗浄剤および/または被洗浄物の揺動下、洗浄剤の液中噴流下、あるいは、これらの組み合わせ下で浸漬やリンスを行うのが、洗浄効果を向上させるうえで好ましい。これによって、被洗浄物に残留しやすい汚れ(例えば、孔構造を有する被洗浄物の孔部分に残留しやすい汚れ)や、乾固した汚れも除去することができる。
溶剤蒸気と被洗浄物品の温度差が大きいと蒸気洗浄の効果が大きくなることから、蒸気洗浄工程に供する被洗浄物品はあらかじめ冷却されていることが好ましい。例えば、蒸気洗浄工程の前に被洗浄物品を冷却したり、前工程(浸漬洗浄工程あるいは、リンス洗浄工程)において、液温を下げた溶剤を用いることで被洗浄物品を冷却してもよい。
【0051】
溶剤(B)は、前記溶剤(A)と同様の種類のものを挙げることができ、前記溶剤(A)と同じものを用いてもよいし、異なるものを用いてもよい。
溶剤(C)は、前記溶剤(A)と同様の種類のものを挙げることができ、前記溶剤(A)と同じものを用いてもよいし、異なるものを用いてもよい。
一実施形態において、溶剤(A)、溶剤(B)および溶剤(C)は同じ種類のものを用いてもよい。同じ種類のものを用いることは、液管理が容易であるという産業上の利点を有する。また、特に溶剤(A)を回収して再利用する場合において、回収した溶剤(A)を、溶剤(A)として再利用するだけでなく、溶剤(B)や溶剤(C)としても再利用することができる。
【0052】
本開示の洗浄方法は、洗浄装置を使用して実施してもよい。例えば、本開示の洗浄方法は、以下で説明する洗浄装置を使用して実施することができる。
【0053】
[2.洗浄装置]
本開示の一実施形態に係る洗浄装置は、被洗浄物の蒸気洗浄工程を行うように構成されており、
洗浄液を入れられる洗浄液槽と、
前記洗浄液を気化して洗浄蒸気を生成する加熱部と、
ミストセパレータとを備え、
前記蒸気洗浄工程において、
前記洗浄液が溶剤(A)と汚れ成分とを含み、
前記洗浄液を気化して生成する第1の洗浄蒸気をミストセパレータに通過させて、汚れ成分が分離された第2の洗浄蒸気を生成し、
前記第2の洗浄蒸気を前記被洗浄物と接触させることを特徴とする。
【0054】
以下、本開示の一実施形態に係る洗浄装置やその構成について詳細に説明する。前述の本開示の洗浄方法で説明した各構成と重複する構成については、本開示の洗浄方法の各構成と同様とすることができ、以降では説明を省略することがある。
【0055】
[(1)洗浄装置の形態例1]
本開示の一実施形態に係る洗浄装置を図1に基づいて説明する。図1に示す洗浄装置1は、被洗浄物の洗浄方法に使用するための装置であって、洗浄液2が入れられる洗浄液槽3と、洗浄液を気化させるための加熱部4と、ミストセパレータ5とを備え、気化した洗浄液の蒸気の流路上に設置される被洗浄物6を蒸気洗浄する工程を少なくとも行うように構成されている。
【0056】
図1に示すように、加熱部4(例えば、ヒータ)で加熱されて発生した洗浄液2の蒸気が、洗浄液槽3(より正確には、洗浄液槽3に入れられた洗浄液2の液面)から出発して被洗浄物6に到達するまでの流路上に、ミストセパレータ5が設けられる。すなわちミストセパレータは、洗浄液槽から被洗浄物までの洗浄蒸気の流路上に設けられることが好ましい。
被洗浄物6の設置方法は特に限定されない。治具により保持、載置されていてもよく、例えば、被洗浄物6は洗浄カゴに収納されていてもよく、取り出し口9から吊るされていてもよい。
【0057】
加熱部4で加熱されて発生した洗浄液2の蒸気(第1の洗浄蒸気7)は、ミストセパレータ5と衝突する。これにより、第1の洗浄蒸気7に含まれる汚れ成分を含む飛沫はミストセパレータ5にトラップされる一方、汚れ成分が分離された洗浄蒸気がミストセパレータ5を通過する。すなわち、ミストセパレータ5を通過することで、第1の洗浄蒸気7から汚れ成分が分離された洗浄蒸気(第2の洗浄蒸気)が生成する。分離された汚れ成分は、ミストセパレータ5に付着あるいは、洗浄液槽3に流れ落ちる。
【0058】
このように、本開示の一実施形態に係る洗浄装置を用いることで、洗浄液2に洗浄成分(溶剤(A))とともに汚れ成分が含まれる場合であっても、ミストセパレータ5を設けることで、被洗浄物6に洗浄液由来の汚れ成分を付着させることなく、被洗浄物6を蒸気洗浄することができる。
【0059】
図1に示すように、洗浄装置1は、洗浄液の蒸気を凝縮し液化させるための冷却機構10を備えていてもよい。冷却機構10は例えば、冷媒を循環させる冷却管であってもよい。冷却機構10により冷却されて液化した洗浄液は、蒸気洗浄工程やその他の洗浄工程に用いる洗浄液として用いることができる。また、冷却機構10との接触により、洗浄液の蒸気が液化するとともに、わずかながら大気中の水分も液化されることがある。そのため、洗浄装置1は、洗浄液から水を分離するための水分離器11を備えていてもよい。冷却機構10との接触により液化した洗浄液と水は、例えば、冷却機構10まわりに設けられた洗浄液と水の捕集部から導管(例えば、導管12)を介して、水分離器11に導入され、水と洗浄液とを分離する。水分離器11から水を分離した洗浄液を回収する。
【0060】
図1に示すように、洗浄装置1は、水分離器11で分離された洗浄液(溶剤(A))は、例えば、導管13を介して、ミストセパレータ5に通過するように構成されていてもよい。洗浄液(溶剤(A))をミストセパレータ5に通過させることで、ミストセパレータ5に付着した汚れ成分を除去することができる。これにより、ミストセパレータ5を清浄に保つことができ、ミストセパレータ5の能力低下を防止する効果がある。また、洗浄液(溶剤(A))をミストセパレータ5に通過させ、洗浄液をミストセパレータ5に分散させることにより、前記第1の洗浄蒸気がミストセパレータ5を通過する際に、洗浄液と前記第1の洗浄蒸気とを気液接触させることができる。これにより、前記第1の洗浄蒸気に含まれる汚れ成分をミストセパレータ5で凝縮されるので、ミストセパレータ5による汚れ成分のトラップ効果を高めることができる。
【0061】
洗浄液(溶剤(A))をミストセパレータ5に通過させる際に、ミストセパレータ5の表面全体に洗浄液が広がるように、ミストセパレータ5あるいは、ミストセパレータ5の上部に液分散板を設けてもよい。
【0062】
ミストセパレータ5への洗浄液の通過性を高めるために、ミストセパレータ5は、傾斜をつけて設けられてもよい。
【0063】
ミストセパレータ5への洗浄液(溶剤(A))の通過は、水分離器11を介さずに行われるように構成されていてもよい。例えば、冷却機構10により冷却されて液化した洗浄液をミストセパレータ5や前記液分散板に落下させるように構成されていてもよい。コレクター(図示せず)を介して、ミストセパレータ5や前記液分散板に洗浄液を落下させてもよい。
【0064】
また、水分離器11で分離された洗浄液は、洗浄液槽3に導入されるように構成されていてもよい(図示せず)。
【0065】
[(2)洗浄装置の形態例2]
本開示の一実施形態に係る洗浄装置は、蒸気洗浄工程の他に、浸漬洗浄工程やリンス洗浄工程を行うように構成されていてもよい。浸漬洗浄工程を行うように構成されている場合には、被洗浄物は浸漬洗浄工程、蒸気洗浄工程の順で洗浄されるように構成されていてもよい。また、浸漬洗浄工程とリンス洗浄工程を行うように構成されている場合には、被洗浄物は浸漬洗浄工程、リンス洗浄工程、蒸気洗浄工程の順で洗浄されるように構成されていてもよい。
例えば、従来公知の三槽式洗浄機(例えば、浸漬洗浄槽と、リンス洗浄槽と、蒸気洗浄槽とを備える洗浄機)や二槽式洗浄機(例えば、浸漬洗浄槽と、蒸気洗浄槽とを備える洗浄機)において、本開示の洗浄方法で前述したように、ミストセパレータを設置して蒸気洗浄工程を行うように構成されていてもよい。
本開示の一実施形態に係る洗浄装置が、蒸気洗浄工程の他に、浸漬洗浄工程とリンス洗浄工程を行うように構成されている場合について、図2に基づいて説明する。図2において、図1で説明した構成と重複する構成については、図1の各構成と同様とすることができ、以降では説明を省略することがある。
【0066】
図2に示す洗浄装置20は、被洗浄物の洗浄方法に使用するための装置であって、洗浄液21が入れられる洗浄液槽22と、洗浄液を気化させるための加熱部23と、ミストセパレータ24とを備え気化した洗浄液の蒸気の流路上に設置される被洗浄物25を蒸気洗浄する工程を少なくとも行うように構成されているとともに、
さらに、洗浄液30が入れられる浸漬洗浄槽31と、洗浄液32が入れられるリンス洗浄槽33とを備え、被洗浄物25を浸漬洗浄する工程、被洗浄物25をリンス洗浄する工程、前記蒸気洗浄する工程の順に各工程を行うように構成されている。
なお、図2における被洗浄物25は、蒸気洗浄する工程を行う際の配置例である。
【0067】
図2に示すように、被洗浄物25を浸漬洗浄するための洗浄液30(溶剤(B))は浸漬洗浄槽31に貯留され、浸漬洗浄後の被洗浄物をリンス洗浄するための洗浄液32(溶剤(C))はリンス洗浄槽33に貯留される。被洗浄物25は洗浄液30に浸漬されて洗浄された後、洗浄液30から取り出される。取り出された被洗浄物25は、洗浄液32に浸漬されてリンス洗浄される。リンス洗浄された後、蒸気洗浄する工程へと運搬される。洗浄装置20は、これらの操作の一部または全部を行うための被洗浄物の移動手段として運搬機構を備えていてもよい(図示せず)。
【0068】
図2に示すように、洗浄液槽22(蒸気洗浄液槽)に貯留される洗浄液21は、加熱部23で加熱されて洗浄液21の蒸気が発生する。発生した洗浄液21の蒸気が、洗浄液槽22(より正確には、洗浄液槽22に入れられた洗浄液21の液面)から出発して被洗浄物25に到達するまでの流路上に、ミストセパレータ24が設けられる。
【0069】
加熱部23で加熱されて発生した洗浄液21の蒸気(第1の洗浄蒸気。図示せず。)は、ミストセパレータ24と衝突する。これにより、第1の洗浄蒸気に含まれる汚れ成分を含む飛沫はミストセパレータ24にトラップされる一方、汚れ成分が分離された洗浄蒸気がミストセパレータ24を通過する。すなわち、ミストセパレータ24を通過することで、第1の洗浄蒸気から汚れ成分が分離された洗浄蒸気(第2の洗浄蒸気。図示せず。)が生成する。分離された汚れ成分は、ミストセパレータ24に付着あるいは、洗浄液槽22に流れ落ちる。
【0070】
図2に示すように、洗浄装置20は、洗浄液の蒸気を凝縮し液化させるための冷却機構26を備えていてもよい。冷却機構26との接触により液化した洗浄液は、蒸気洗浄工程やその他の洗浄工程に用いる洗浄液として用いることができる。また、冷却機構26との接触により、洗浄液の蒸気が液化するとともに、わずかながら大気中の水分も液化されることがある。そのため、洗浄装置20は、洗浄液から水を分離するための水分離器27を備えていてもよい。冷却機構26との接触により液化した洗浄液と水は、例えば、冷却機構26まわりに設けられた洗浄液と水の捕集部から導管28を介して、水分離器27に導入され、水と洗浄液とを分離する。これにより、水分離器27から水を分離した回収洗浄液が得られる。
【0071】
図2に示すように、洗浄装置20は、水分離器27で分離された回収洗浄液は、例えば、導管29を介して、ミストセパレータ24に通過するように構成されていてもよい。回収洗浄液をミストセパレータ24に通過させることで、ミストセパレータ24に付着した汚れ成分を除去することができる。これにより、ミストセパレータ24を清浄に保つことができ、ミストセパレータ24の能力低下を防止する効果がある。また、回収洗浄液をミストセパレータ24に通過させ、洗浄液をミストセパレータ24に分散させることにより、前記第1の洗浄蒸気がミストセパレータ24を通過する際に、洗浄液と前記第1の洗浄蒸気とを気液接触させることができる。これにより、前記第1の洗浄蒸気に含まれる汚れ成分をミストセパレータ24で凝縮されるので、ミストセパレータ24による汚れ成分のトラップ効果を高めることができる。
【0072】
回収洗浄液をミストセパレータ24に通過させる際に、ミストセパレータ24の表面全体に洗浄液が広がるように、ミストセパレータ24あるいは、ミストセパレータ24の上部に液分散板を設けてもよい。この液分散板は、例えば、シャワー、コレクター、ディストリビュータ等の、既存の蒸留技術において用いられるものと同様のものであってもよい。
【0073】
ミストセパレータ24への洗浄液の通過性を高めるために、ミストセパレータ24は、傾斜をつけて設けられてもよい。
【0074】
また、ミストセパレータ24への洗浄液(溶剤(A))の通過は、水分離器27を介さずに行う構成としてもよい。例えば、冷却機構26により冷却されて液化した洗浄液をミストセパレータ24や前記液分散板に落下させるように構成されていてもよい。コレクター(図示せず)を介して、ミストセパレータ24や前記液分散板に洗浄液を落下させてもよい。
【0075】
また、水分離器27で分離された回収洗浄液は、洗浄液槽22、洗浄液槽31、あるいは、洗浄液槽33に導入されるように構成されていてもよい(図示せず)。
【0076】
一実施形態において、洗浄装置20は、水分離器27で分離された回収洗浄液がリンス洗浄槽33に導入されるように構成され、リンス洗浄槽33に導入された洗浄液がオーバーフローして浸漬洗浄槽31に導入されるように構成され、さらに、洗浄液槽31に導入されて一定量を超えた洗浄液は洗浄液槽22(蒸気洗浄液槽)に導入されるように構成されていてもよい。この場合、被洗浄物25に付着していた汚れ成分の大部分は浸漬洗浄槽31で除去されるが、浸漬洗浄槽31の液は洗浄液槽22(蒸気洗浄液槽)に導入後、加熱部23による熱で煮詰められるので、洗浄液槽22に汚れ成分が濃縮される仕組みとなる。本開示の洗浄方法は、このような形態において特に効果を奏する。
【0077】
一実施形態において、洗浄装置20は、リンス洗浄槽33とミストセパレータ24の両方に回収洗浄液が分配するように構成されていてもよい。これにより、浸漬洗浄槽31やリンス洗浄槽33に貯蔵される洗浄液への汚れ成分の蓄積を抑制することができる。
回収液の分配比率は特に限定されず、要求清浄度に応じて適宜調整してもよい。より高清浄度の蒸気洗浄を所望する場合は、ミストセパレータ24への分配比率を上げることが好ましい。
回収洗浄液の分配は、蒸気洗浄を実施している間(例えば、蒸気洗浄の開始直前から蒸気洗浄終了までの間)は、回収洗浄液を全量あるいは高比率でミストセパレータ24に導入し、蒸気洗浄を実施していない間は、回収洗浄液をリンス洗浄槽33に導入するように行われてもよい。
また、洗浄装置20は、被洗浄物25を洗浄装置20内の指定された箇所に置くと回収洗浄液がミストセパレータ24に流れ、指定された箇所から外すと回収洗浄液がリンス洗浄槽33に流れるように、回収洗浄液の分配がスイッチングするように構成されていてもよい。
【0078】
[3.ミストセパレータ]
本開示の一実施形態に係るミストセパレータは、前述の本開示の洗浄方法に用いるためのミストセパレータであることを特徴とする。本開示のミストセパレータの詳細については、前述の本開示の洗浄方法におけるミストセパレータの説明の通りである。
【0079】
[4.洗浄カゴ]
本開示の一実施形態に係る洗浄カゴは、前述の本開示の洗浄方法に用いるためのミストセパレータを直接的あるいは間接的に備えることを特徴とする。本開示のミストセパレータの詳細については、前述の本開示の洗浄方法におけるミストセパレータの説明の通りである。本開示の洗浄カゴの詳細については、前述した本開示の洗浄方法における洗浄カゴの説明の通りである。
【実施例0080】
以下、実施例を挙げて本開示の洗浄方法、洗浄装置、ミストセパレータについて具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
[蒸気洗浄試験]
【0082】
[実施例]
図3に示すように、ホットプレート102上に置いた2000mLビーカー101に、ミストセパレータ103、コレクター兼液分散板104(多数の小さな穴があいたアルミ製プレート)、冷却コイル105(5℃の冷媒を通過させた銅製コイル)、熱電対106を設けた。当該ビーカー101に洗浄液107を200mL仕込んだ後、ホットプレート102を100℃に設定して当該ビーカー101内を加熱して、洗浄液107を沸騰させた。発生した蒸気を、冷却コイル105で凝縮させ、凝縮した液滴108はコレクター兼液分散板104を経由してミストセパレータ103に分散して流れるようにした。熱電対106は、液相部(洗浄液)、ミストセパレータ部、気相部(ミストセパレータよりも上部)にそれぞれ1部ずつ設置し、各部の温度を測定した。加熱により気相部が一定の温度を数分間維持したところを定常状態とした。その後、汚れ成分が付着していない被洗浄物109を用意し、ミストセパレータ103よりも上部に配置されるように該被洗浄物109をビーカー上部から吊るし、60秒間蒸気に曝した。その後、被洗浄物109をビーカー101から取り出して50℃で乾燥させた。
【0083】
[比較例]
ミストセパレータと、液分散板と、ミストセパレータ部に設けるための熱電対とを設けないこと以外は、実施例と同様の操作を行った。
【0084】
蒸気洗浄試験後の被洗浄物の評価は、下記方法に従って行った。
(1)乾燥させた被洗浄物を、精製した四塩化炭素の一定量で超音波抽出して、被洗浄物表面に残留している汚れ成分を抽出した。この抽出液をFT-IRにより分析し、付着汚れ成分を算出した。この算出は、汚れ成分に特徴的なピークを特定し、予め作成した検量線により、該ピークの強度に基づいて行った。ピーク強度が非常に小さいものについては、痕跡量と判定した。
(2)乾燥させた被洗浄物の表面を目視観察し、下記基準で評価した。
〇:全く汚れが見られなかった。
△:わずかに汚れが見られた。
×:ハッキリとした汚れが見られた。
【0085】
下記実施例と比較例においては、以下のミストセパレータを用いた。
<ミストセパレータ>
図4にミストセパレータ200の上面図を、図5にミストセパレータ200の側面図をそれぞれ示す。
ステンレス平織金網201(線径Φ0.29mm×20メッシュ)を2000mlビーカーの内径に合わせて円形に8枚切断した。これらを重ねたものを、2枚の直径126mmのSUS304製パンチングメタル202(厚さ1.5mm)で挟み、長さ50mmのビス203を4本通し、ナット204で固定して、金網8枚型のミストセパレータ200を作成した。
【0086】
[実施例1-1~実施例1-3、比較例1-1~比較例1-3]
下記の溶剤成分と汚れ成分とを表1に示す配合量で混合して調製した洗浄液と、下記の被洗浄物を用いて、蒸気洗浄試験を実施した。その結果を表1に示す。
<洗浄液>
溶剤成分:フッ素系溶剤であるZ-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd(Z)。セントラル硝子社製。以下同じ)
汚れ成分:工作油G-3641(日本工作油社製。以下同じ)
<被洗浄物>
ステンレス鋼製ナット(Swagelok社製SS-6M2-1。以下同じ)
なお、上記ステンレス鋼製ナットは、高圧配管でも使用可能であり、航空輸送機等の部品として用いられている。
【0087】
【表1】
【0088】
上記の実施例と比較例から示されるように、本開示の洗浄方法によって、被洗浄物への汚れ成分の再付着が抑制されることがわかる。特に、実施例1-3と比較例1-3で示されるように、洗浄液中の汚れ成分濃度が高い場合であっても、付着汚れ成分が著しく少ないことがわかる。
【0089】
[実施例2-1~実施例2-2、比較例2-1~比較例2-2]
下記の溶剤成分と汚れ成分とを汚れ成分濃度が10質量%となるように混合して調製した洗浄液と、下記の被洗浄物を用い、汚れ成分として表2に示す汚れ成分を用いて、蒸気洗浄試験を実施した。その結果を表2に示す。
<洗浄液>
溶剤成分:Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd(Z))
汚れ成分:工作油G-3641
<被洗浄物>
ステンレス鋼製ナット
【0090】
【表2】
【0091】
表2中、HW-32はJXTG製 油圧作動油HIGHLAND-WIDE-32を示す(以下同じ)。
【0092】
上記の実施例と比較例から示されるように、洗浄液中の汚れ成分が異なる場合であっても、本開示の洗浄方法によって、被洗浄物への汚れ成分の再付着が抑制されることがわかる。
【0093】
[実施例3-1~実施例3-2]
下記の溶剤成分と汚れ成分とを、汚れ成分濃度が10質量%となるように混合して調製した洗浄液と、表3に示す被洗浄物を用いて、蒸気洗浄試験を実施した。その結果を表3に示す。
<洗浄液>
溶剤成分:フッ素系溶剤であるZ-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd(Z))
汚れ成分:工作油G-3641
<被洗浄物>
ステンレス鋼製ナット:Swagelok社製SS-6M2-1
汚れ付着ステンレス鋼製ナット:上記ステンレス鋼製ナットに0.12mgの工作油(G-3641)を付着させたもの
【0094】
【表3】
【0095】
上記の実施例から示されるように、汚れ成分が付着した被洗浄物を用いた場合であっても、本開示の洗浄方法によって、被洗浄物に付着した汚れ成分が蒸気洗浄されるとともに、洗浄液由来の汚れ成分が被洗浄物に再付着されるのが抑制されることがわかる。
【0096】
[実施例4-1~実施例4-4、比較例4-1]
表4に示す汚れ成分濃度となるように溶剤成分と汚れ成分とを混合して調製した洗浄液と、被洗浄物とを用いて、蒸気洗浄試験を実施した。その結果を表4に示す。
【0097】
【表4】
【0098】
表4中、AS-300はAGC社製AMOLEA AS-300(フッ素系溶剤である1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン(1233yd)と安定剤を含有)を示し、365-33Zは、HFC-365mfcと1233zd(Z)の混合液(HFC-365mfc:1233zd(Z)=20:80(質量比))を示し、IPAはイソプロピルアルコールを示す。
表4中、ダストは空気清浄機のフィルターに付着した埃を示し、KF-96は信越シリコーン社製一般用シリコーン油KF-96-100csを示す。
表4中、ガラス瓶は100mL透明ガラス瓶を示し、SUSシムプレートは12.7mm×60mm×0.15mmのSUS301製プレートを示し、シリンジは樹脂製注射筒(HENKE製ルアーチップ オールプラスチックシリンジ A8402-LT)を示し、注射針は針先部:ステンレス鋼製、針元部:ポリプロピレン製の使い捨て注射針を示す。
【0099】
上記の実施例と比較例から示されるように、種々の溶剤成分と汚れ成分を含む洗浄液と、種々の被洗浄物とを用いた場合であっても、本開示の洗浄方法によって、被洗浄物への汚れ成分の再付着が抑制されることがわかる。
【符号の説明】
【0100】
1 洗浄装置、2 洗浄液、3 洗浄液槽、4 加熱部、5 ミストセパレータ、6 被洗浄物、7 第1の洗浄蒸気、8 第2の洗浄蒸気 9 取り出し口、10 冷却機構、11 水分離器、12 導管、13 導管、
20 洗浄装置、21 洗浄液、22 洗浄液槽、23 加熱部、24 ミストセパレータ、25 被洗浄物、26 冷却機構、27 水分離器、28 導管、29 導管、30 洗浄液、31 浸漬洗浄槽、32 洗浄液、33 リンス洗浄槽、
100 洗浄装置、101 2000mLビーカー、102 ホットプレート、103 ミストセパレータ、104 コレクター兼液分散板、105 冷却コイル、106 熱電対、107 洗浄液、108 液滴、109 被洗浄物
200 ミストセパレータ、201 金網、202 パンチングメタル、203 ビス、204 ナット
図1
図2
図3
図4
図5