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特開2023-133284高純度4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸及びそれから誘導される高純度スチレンスルホン酸類とそのポリマー、並びにそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133284
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】高純度4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸及びそれから誘導される高純度スチレンスルホン酸類とそのポリマー、並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 309/39 20060101AFI20230914BHJP
   C08F 12/14 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C07C309/39 CSP
C08F12/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092119
(22)【出願日】2023-06-05
(62)【分割の表示】P 2022035847の分割
【原出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】尾添 真治
(72)【発明者】
【氏名】重田 優輔
(72)【発明者】
【氏名】粟野 裕
【テーマコード(参考)】
4H006
4J100
【Fターム(参考)】
4H006AB84
4H006AC61
4J100AB02Q
4J100AB07P
4J100AJ02Q
4J100BA56P
4J100BA59P
4J100CA01
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA04
4J100FA03
4J100FA19
4J100FA28
4J100FA30
4J100HA55
4J100HE05
4J100HE12
4J100HF05
4J100JA43
4J100JA45
(57)【要約】
【課題】二次電池の改質剤、導電性ポリマーのドーパント、半導体研磨剤や洗浄剤用の添加剤、有機EL素子、フォトレジストなど、特に電子材料向け部材として有用な、結合臭素が著しく低減された高純度スチレンスルホン酸類及びそのポリマーを提供する。
【解決手段】核臭素化物が低減された高純度4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸、並びに高純度4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸から誘導される、結合臭素が著しく低減された高純度スチレンスルホン酸類及びそのポリマー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸に対して、下記一般式(A)で表される核臭素化2-ブロモエチルベンゼンスルホン酸が、0.10%以下〔但し、液体クロマトグラフィー(LC)で求めたピーク面積%であり、4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸のピーク面積を100%としたときの核臭素化2-ブロモエチルベンゼンスルホン酸のピーク面積%〕である高純度4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸。
【化17】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核臭素化体が低減された高純度4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸及びそれから誘導される結合臭素が低減された高純度スチレンスルホン酸類とそのポリマー、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレンスルホン酸類及びそれから誘導されるポリスチレンスルホン酸類は、燃料電池膜、二次電池用の高分子固体電解質や添加剤、導電性ポリマーやカーボンナノチューブの分散剤兼ドーパント、半導体洗浄剤、有機EL素子用の電子受容性物質や熱酸発生剤、フォトレジスト用の熱酸発生剤や保護膜などに利用されている機能性モノマー及びそのポリマーである(例えば、特許文献1~5参照)。主に電子材料分野で使用されるため、金属腐食の原因となるハロゲンなどの不純物が極力低減された、高純度のスチレンスルホン酸類及びそのポリマーが要求される(例えば、特許文献6参照)。
【0003】
スチレンスルホン酸類の内、スチレンスルホン酸エステルは油溶性の液状モノマーであり、油溶性モノマーとの共重合、あるいはコーティングプロセスを利用した各種基材表面へのポリマー塗膜形成やポリマー電解質膜の製造が容易なため、特に上記用途における利用価値は高い。また、スチレンスルホン酸アミン塩やリチウム塩等のスチレンスルホン酸塩は、水や非プロトン性極性溶媒への溶解性が高く、コーティングプロセスへ適用できる他、有機溶剤フリーでポリスチレンスルホン酸水溶液を製造できる点で利用価値が高い(例えば、特許文献7参照)。
スチレンスルホン酸エステルは以下の方法で製造できる(例えば、非特許文献1)。即ち、スチレンスルホン酸ナトリウム等のスチレンスルホン酸塩と塩化チオニルを反応させてスチレンスルホニルクロリドとした後、水酸化カリウム等の塩基とアルコールを用いてエステル化する方法である。
【0004】
【化1】
【0005】
ビニルモノマーである重合性のスチレンスルホン酸エステルの用途の一つとして、導電性ポリマーの水性コロイドを製造するための、分子量分布が制御されたポリスチレンスルホン酸がある(例えば、特許文献2)。例えば、スチレンスルホン酸エチルをリビングラジカル重合した後、水酸化ナトリウムでエステル基を加水分解し、続いてカチオン交換樹脂と限外濾過膜を用いて金属カチオン、低分子不純物及び未反応モノマーを除去することにより、ポリスチレンスルホン酸水溶液を製造できる旨報告されている。
【0006】
【化2】
【0007】
ポリスチレンスルホン酸は別の方法でも製造できる。例えば、スチレンスルホン酸ナト
リウムを水中でラジカル重合し、水酸化ナトリウムを加えて60℃で加熱処理した後、上
記と同様、カチオン交換樹脂と限外濾過膜を用いて精製することにより、ポリスチレンス
ルホン酸水溶液を製造できる旨報告されている(例えば、特許文献7)。
【0008】
【化3】
【0009】
ポリスチレンスルホン酸は更に別の方法でも製造できる。即ち、スルホン化剤に対して
不活性な溶媒中でポリスチレンをスルホン化する方法である(例えば、特許文献8)。該
製造法には、ハロゲン化アルカリ金属が混入し難いメリットはあるが、ポリマー組成や分
子量など、ポリマー設計の自由度が小さく、更に分岐構造が生成し易い等のデメリットが
ある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2017-43700号公報
【特許文献2】特開2011-213823号公報
【特許文献3】国際公開第WO2015/114966号
【特許文献4】国際公開第WO2007/099808号
【特許文献5】特開2004-177666号公報
【特許文献6】特開平5-326477号公報
【特許文献7】特開2009-1624号公報
【特許文献8】特開平8-299777号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】H.Okamuraら;Polymer,43巻,3155~3162頁,2002年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の通り、従来、ハロゲン不純物が極力低減された高純度のスチレンスルホン酸類及びそのポリマーが要求されており、ハロゲン不純物の低減が課題であった。
【0013】
特許文献7は、数平均分子量が5万~100万で、臭素と塩素の合計残存量が500ppm(質量基準)以下であり、且つスチレンスルホン酸モノマーの残存量が1質量%以下であるポリスチレンスルホン酸を開示する。スチレンスルホン酸ナトリウムをポリマー化した後に、得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウムをアンモニアや水酸化ナトリウムなどのアルカリにより処理して臭素や塩素を遊離状態とし、エタノール沈澱法や限外濾過法により取り除き、臭素や塩素、未反応のスチレンスルホン酸ナトリウムを取り除いたポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液を得ている(当該請求項1及び段落0030)。しかし、臭素源及び塩素源に関する具体的な記載はされておらず不明であった。
【0014】
上記と同様の方法でポリスチレンスルホン酸を調製し、イオンクロマトグラフ法で水溶液中のハロゲン濃度を分析すると、確かに製造直後のフレッシュな水溶液では例えば臭素イオン濃度1ppm未満を見かけ上は達成できる。しかし、本発明者らが、当該ポリスチレンスルホン酸水溶液の長期での安定性を詳細に調べた結果、マイルドな条件下でも水溶液中の臭素イオン濃度が経時で著しく増加することが判明し、依然として課題があった。即ち、上記精製法では除去できず、従来報告されていない不安定な結合臭素の存在が示唆された。経時的に臭素イオン濃度が増加する原因の解明及び長期保存可能なポリスチレンスルホン酸を得ることは従来困難であった。
【0015】
スチレンスルホン酸ナトリウム中の結合臭素については、ブロモスチレンスルホン酸ナトリウムの存在が報告されている(例えば、国際公開第WO2014/061357号)。当該特許には、ブロモスチレンスルホン酸ナトリウムの含有量が0.01%(高速液体クロマトグラフ法で測定される面積基準)の高純度スチレンスルホン酸ナトリウムが開示されている(当該特許の公報の段落0080)。
【0016】
すなわち当該特許の公報の実施例2には、高純度パラスチレンスルホン酸ナトリウム、PSSナトリウムの製造、および衣料アイロン仕上げ剤用の合成糊としての評価例2として、次の記載がある。なお以下に記載の(a)~(e)の高速液体クロマトグラフ法で測定される各化合物のピーク面積の面積基準による相対値について、(a):オルソスチレンスルホン酸ナトリウム、(b):β-ブロモエチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、(c):メタスチレンスルホン酸ナトリウム、(d):ブロモスチレンスルホン酸ナトリウム、および(e):β-ヒドロキシエチルベンゼンスルホン酸ナトリウムである。
<高純度パラスチレンスルホン酸ナトリウムの製造>
ジャケットを備えた攪拌機付のステンレス製反応器に、実施例1で得た高純度パラスチレンスルホン酸ナトリウム1,000g、亜硝酸ナトリウム1g、苛性ソーダ20g、純水950gを仕込み、窒素雰囲気下、60℃で1時間撹拌した。その後、3時間かけて室温まで冷却後、遠心分離機で固液分離して、高純度パラスチレンスルホン酸ナトリウムの湿潤ケーキ899gを得た。
上記高純度パラスチレンスルホン酸ナトリウムの純度は89.1wt%、水分は8.2wt%、鉄分は0.58μg/g、臭化ナトリウム分は0.20wt%、異性体等の有機不純物は、(a)0.05%、(b)0.00%、(c)1.34%、(d)0.01%、(e)0.01%だった。上記パラスチレンスルホン酸ナトリウムのメジアン径は63μm、10,00μm未満の小粒は2.0%、安息角は49度で、水への溶解時間は155秒であった。上記パラスチレンスルホン酸ナトリウムのWI値は95.5、YI値は2.9、および15wt%水溶液のAPHA値は15であり、従来品(比較例1)と比較して明らかに優れた色相を示した。さらに、理由は定かでないが、鉄分は実施例1と同じレベルであっても、臭化ナトリウムや異性体などの不純物を低減することによって、色相が一層向上していることが明らかである。
【0017】
当該特許における解決すべき課題は、パラスチレンスルホン酸ナトリウム及びPSSナトリウム(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)の色相改良であり、パラスチレンスルホン酸ナトリウムに含まれることがある鉄分と各種有機不純物を同時に低減したことによる相乗効果で色相を改良したものである。具体的な方法としては、パラスチレンスルホン酸ナトリウムの前駆体である4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸水溶液中の鉄分をカチオン交換処理によって除去し、更に、得られたパラスチレンスルホン酸ナトリウムを再結晶精製することによって有機不純物を除去するものである。ここで、色相に対するブロモスチレンスルホン酸ナトリウムの影響については何ら言及されていない。
一方、本発明における解決すべき課題は、電子材料分野で強く求められているハロゲン不純物の低減であり、特に除去が難しい有機ハロゲン不純物、すなわち結合ハロゲンの低減である。
確かに、上記特許文献では、ブロモスチレンスルホン酸ナトリウムの低減によって、結合ハロゲンが低減されたように見える。しかし、本発明者らが、燃焼分解イオンクロマトグラフ法等を用いて当該高純度スチレンスルホン酸ナトリウム中の全ハロゲン分を分析したところ、上記高速液体クロマトグラフ法からの推算値より少なくとも10倍多い400ppmを超える臭素分が検出された。そこで実際に当該高純度スチレンスルホン酸ナトリウムからポリスチレンスルホン酸水溶液を調製し、安定性を調べたところ、臭素イオン濃度が経時で著しく増加することが判明した。
以上のことから、可能な限り不安定な結合臭素を低減した高純度スチレンスルホン酸類及びそのポリマー、並びにその製造方法が求められていた。その為には単に臭素分として見るのではなく、どのような工程で、結合臭素などの臭素分がどのような化学構造として含まれるかを詳細に検討する必要がある。
【0018】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、不安定な結合臭素が低減されたスチレンスルホン酸類及びそのポリマー、並びにそれらの製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決すべく、スチレンスルホン酸類の前駆体である4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸(以下、BEBSと略称することがある)に着目し、鋭意研究を行った。その結果、BEBS中において、従来報告されていない化合物である2-ブロモ-4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸等を含むBEBSの核臭素化体(以下、核臭素化BEBSと略称することがある)が不純物として含まれていることを見出した。 また、スルホン化剤を用いて4-(2-ブロモエチル)ベンゼンをスルホン化する際に、反応系に存在することがある鉄分、臭化水素及び水分を一定濃度以下に制御し、且つ特定のスルホン化剤の濃度とBEBSに対するスルホン化剤のモル比でスルホン化反応を行うことにより、生産性を損なうことなく、核臭素化BEBSの含量が少ない高純度のBEBSを製造できること、更に、当該高純度BEBSから誘導されるスチレンスルホン酸類及びそのポリマー中の結合臭素を著しく低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
即ち、スチレンスルホン酸類(及びそのポリマー)中の結合臭素は、スチレンよりスチレンスルホン酸類を製造するプロセスの中で、どの段階で、さらにどのような形態で生成するのかが分かれば、その生成を抑制する条件を見出すことができると考えられる。
下記には、スチレンから2-ブロモエチルベンゼンおよび4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸を経てスチレンスルホン酸ナトリウムに至る反応プロセスを示している。その中で、当初は4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸に、70℃~90℃の高温でNaOH等のアルカリを加えてビニル化(脱NaBr)させる反応工程で、遊離した臭素によってスチレンスルホン酸類(及びそのポリマー)中の結合臭素が生成すると考えられていた。
しかしながら本発明者らの検討により、少なくとも2-ブロモエチルベンゼンをスルホン化し、4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸を製造する工程において結合臭素(この場合は、核臭素化BEBS)が生成することを見出した。
従って本発明では、結合臭素としてどのような構造の分子が生成し、またその分子がどの段階で生成するのかを突き止めることで、スチレンスルホン酸類(及びそのポリマー)中の結合臭素の混入を抑制することができると考え、本発明に至った。
【0021】
【化4】
【0022】
ここで言う核臭素化BEBSとは、BEBSのベンゼン環に共有結合を介して臭素原子が少なくとも一つ結合したBEBSであり(下記一般式(1))、例えばベンゼン環に臭素原子が1つ結合した下記一般式(1’)のものが挙げられる。ここで、臭素原子がベンゼン環に結合する位置については特に制限されず、例えば臭素原子がベンゼン環に1つ結合する場合、後述する図1などに示される2-ブロモ-4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸が挙げられる。
また、結合臭素とは、下記重合性ビニル基を持つスチレンスルホン酸類に共有結合を介して結合した臭素であり、少なくともスチレンスルホン酸類のベンゼン環に1つ以上結合した臭素が含まれ(下記一般式(2))、例えばベンゼン環に一つ結合した臭素は下記一般式(2’)が挙げられる。ここで、臭素原子がベンゼン環に結合する位置については特に制限されず、例えば臭素原子がベンゼン環に1つ結合する場合、2-ブロモ-4-スチレンスルホン酸が挙げられる。
全結合臭素を低減することにより、課題であったその内の不安定な臭素分を低減したものである。
【化5】
(式(1)中、nは1~3の整数である)
【化6】
【化7】
(式(2)中、Rは下記一般式(B)の定義と同一であり、nは1~3の整数である)
【化8】
(式(2’)中、Rは下記一般式(B)の定義と同一である)
【0023】
すなわち本発明は、以下の発明に係る。
[1] 4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸に対して、下記一般式(A)で表される核臭素化2-ブロモエチルベンゼンスルホン酸が、0.10%以下〔但し、液体クロマトグラフィー(LC)で求めたピーク面積%であり、4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸のピーク面積を100%としたときの核臭素化2-ブロモエチルベンゼンスルホン酸のピーク面積%〕である高純度4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸。
【化9】
[2] 前記核臭素化2-ブロモエチルベンゼンスルホン酸が、2-ブロモ-4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸である項[1]に記載の高純度4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸。
[3] 前記4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸の液体クロマトグラフィー(LC)で求めた純度が93面積%以上である項[1]又は項[2]に記載の高純度4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸。
[4] 2-ブロモエチルベンゼン若しくは2-ブロモエチルベンゼンの有機溶媒溶液と、無水硫酸若しくは無水硫酸の有機溶媒溶液とを、反応器へ連続的に供給する4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸の製造方法であって、2-ブロモエチルベンゼン及び有機溶媒に含まれる鉄分を各5μg/g以下、臭化水素を各100ppm以下、水分を各1000ppm以下に制御し、反応器内の全反応液に対して供給する無水硫酸の重量百分率を5.00重量%(wt%)~20.00重量%に保ち、且つ反応器内の2-ブロモエチルベンゼンに対する無水硫酸のモル比を0.50~2.00に保ちながら反応させる、項[1]~項[3]の何れかに記載の高純度4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸の製造方法。
[5] 2-ブロモエチルベンゼン若しくは2-ブロモエチルベンゼンの有機溶媒溶液へ、無水硫酸若しくは無水硫酸の有機溶媒溶液を連続的に供給する4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸の製造方法であって、2-ブロモエチルベンゼン及び有機溶媒に含まれる鉄分を各5μg/g以下、臭化水素を各100ppm以下、水分を各1000ppm以下に制御し、反応器内の全反応液に対して供給する無水硫酸の重量百分率を20.00重量%以下に保ち、且つ反応器内の2-ブロモエチルベンゼンに対する無水硫酸のモル比を2.00以下に保ちながら反応させる項[1]~項[3]の何れかに記載の高純度4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸の製造方法。
[6] 前記有機溶媒が、ハロゲン化溶媒、ニトロ化溶媒及び脂肪族炭化水素からなる群から選ばれる1種以上の有機溶媒である項[4]又は項[5]に記載の製造方法。
[7] 前記無水硫酸が、無水硫酸に対して5重量%~10重量%の酢酸又は無水酢酸を含有する無水硫酸である項[4]~項[6] の何れかに記載の製造方法。
[8] 前記無水硫酸若しくは無水硫酸の有機溶媒溶液を、0.5時間~7時間かけて連続的に供給する項[4]~項[7]の何れかに記載の製造方法。
[9] 前記反応において、反応温度が10~60℃、反応時間が0.5時間~10時間である項[4]~項[8]の何れかに記載の製造方法。
[10] 前記反応において、反応液を連続して抜き出すことを含む項[4]~項[9]の何れかに記載の製造方法。
[11] 下記一般式(B)で表されるスチレンスルホン酸類であって、燃焼分解イオンクロマトグラフィー(CIC)で求めた結合臭素含量が400ppm以下である高純度スチレンスルホン酸類。
【化10】
〔式中、Rは下記一般式(C)、下記一般式(D)、アミノ基又は塩素原子を表す。〕
【化11】
〔式中、Rは炭素数1~6の置換もしくは無置換のアルキル基、水素原子、アルカリ金属、置換もしくは無置換のアンモニウムカチオン、又は置換もしくは無置換のホスホニウムカチオンを表す。〕
【化12】
〔式中、Rは置換もしくは無置換のアルキル基、水素原子、アルカリ金属又は置換もしくは無置換のアンモニウムカチオンを表し、Rはトリフルオロメチルスルホニル基、パーフルオロブチルスルホニル基、フルオロスルホニル基、トリフルオロメチルアセチル基又は4-エテニルフェニルスルホニル基を表す。〕
なお、一般式(B)中、Rがアミノ基の場合において、アミノ基は一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基または四級アミノ基のいずれでもよく、ただし一般式(D)の基は除く。
[12] 下記一般式(B’)で表されるスチレンスルホン酸類が、4-スチレンスルホン酸ナトリウム、4-スチレンスルホン酸リチウム、4-スチレンスルホン酸カリウム、4-スチレンスルホン酸アンモニウム、4-スチレンスルホン酸N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、4-スチレンスルホン酸トリオクチルアミン、4-スチレンスルホニルクロリド、4-スチレンスルホンアミド、4-スチレンスルホン酸エチル、4-スチレンスルホン酸ネオペンチル、4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニルイミド)、4-スチレンスルホニル(パーフルオロブチルスルホニルイミド)、4-スチレンスルホニル(フルオロスルホニルイミド)又はリチウム ビス-(4-スチレンスルホニル)イ
ミドであって、燃焼分解イオンクロマトグラフィー(CIC)で求めた結合臭素含量が400ppm以下である高純度スチレンスルホン酸類。
【化13】
(式(B’)中、Rは上記一般式(B)の定義と同一である)
[13] スチレンスルホン酸類の製造方法であって、項[1]に記載の高純度4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸、又は項[4]もしくは項[5]に記載の製造方法により得られる高純度4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸を用いる、項[11]又は項[12]に記載の高純度スチレンスルホン酸類の製造方法。
[14] 下記繰り返し構造単位(E)を有するポリスチレンスルホン酸類、又は下記繰り返し構造単位(E)と下記繰り返し構造単位(F)とを有するポリスチレンスルホン酸類であって、当該ポリスチレンスルホン酸類の10重量%水溶液を70℃で20日間保持したときの当該水溶液中の臭素イオン濃度が30ppm以下である、結合臭素が低減されたポリスチレンスルホン酸類。
【化14】
〔式中、Rは上記[11]に記載の一般式(B)におけるRと同じ。〕
【化15】
〔式中、Qはスチレンスルホン酸類と共重合可能なビニルモノマー由来の繰り返し構造単位を表す。〕
[15] 前記ポリスチレンスルホン酸類の数平均分子量が500~5,000,000である、項[14]に記載のポリスチレンスルホン酸類。
[16] 前記繰り返し構造単位(F)中のQが、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、N-置換マレイミド、スチレン類及びビニルピリジンからなる群より選ばれる1種又は2種以上の組合せであるビニルモノマー由来の繰り返し構造単位を含む項[14]又は項[15]に記載のポリスチレンスルホン酸類。
[17] 前記繰り返し構造単位(F)中のQが、置換スチレン類、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド類及びN-置換マレイミド類からなる群より選ばれる1種又は2種以上の組合せとなる架橋性モノマー由来の繰り返し構造単位を含む、項[14]~項[16]の何れかに記載のポリスチレンスルホン酸類。
[18] ポリスチレンスルホン酸類の製造方法であって、項[11]に記載の高純度スチレンスルホン酸類、又は項[13]に記載の製造方法により得られる高純度スチレンスルホン酸類を重合する、項[14]~項[17]の何れかに記載のポリスチレンスルホン酸類の製造方法。
[19] 10重量%水溶液を70℃で20日間保持したときの当該水溶液中の臭素イオン濃度が10ppm以下である項[14]~項[17]の何れかに記載したポリスチレンスルホン酸類。
[20] 項[14]~項[17]に記載のポリスチレンスルホン酸類を下記工程(i)又は(ii)により化学処理することを特徴とする、項[19]に記載のポリスチレンスルホン酸類の製造方法。
(i)前記ポリスチレンスルホン酸類の溶液に、アルカリ又はアルカリと還元剤を加えて、溶液pH≧13以上を維持しながら90℃~110℃で5時間~30時間加熱処理した後、当該ポリマーを精製する工程
(ii)前記ポリスチレンスルホン酸類の溶液に還元剤及びパラジウム触媒を加えて80℃~110℃で5時間~30時間加熱処理した後、当該ポリマーを精製する工程
[21] 前記項[14]もしくは項[19]に記載のポリスチレンスルホン酸類、又は項[18]に記載の製造方法により得られるポリスチレンスルホン酸類の含有量が1重量%~60重量%であり、該ポリスチレンスルホン酸類の純分に対するフェノール系酸化防止剤の含有量が20ppm~2,000ppmであるポリスチレンスルホン酸類の水溶液組成物。
[22] 前記フェノール系酸化防止剤が2-メトキシフェノール、3-メトキシフェノール、4-メトキシフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、4-tert-ブチルカテコール、ハイドロキノンおよびメトキシハイドロキノンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、項[21]に記載のポリスチレンスルホン酸水溶液組成物。
【発明の効果】
【0024】
本発明の高純度4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸及びそれから誘導される高純度スチレンスルホン酸類とそのポリマーは、核臭素化体などの結合臭素が従来よりも少なく、経時での臭素の遊離が抑制されているため、二次電池、キャパシター、高分子固体電解質、導電性ポリマー、有機EL素子、フォトレジスト、半導体洗浄剤などの電子材料用途において極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】比較例4に記載した従来法で得られたBEBS水溶液のHPLCチャート(拡大図)であり、横軸は溶出時間(分)を表し、縦軸はピーク強度(mV)を表す。図中に示した(A)は4-(2-ヒドロキシエチル)ベンゼンスルホン酸、(B)はBEBSのパラ体、(C)はBEBSのオルソ体、(D)は4-(1-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸及び、(E)は2-ブロモ-4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸(核臭素化BEBS)のピークを示す。
図2】実施例1に記載した本発明の方法で得られたBEBS水溶液のHPLCチャート(拡大図)であり、横軸は溶出時間(分)を表し、縦軸はピーク強度(mV)を表す。図2中の(A)~(E)の記号は図1の説明と同じである。
図3図1に示した不純物ピーク(E)のナトリウム塩のプロトン核磁気共鳴スペクトルであり、横軸はケミカルシフト(ppm)を表し、各ピーク近傍の整数は図中に示す2-ブロモ-4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸ナトリウムの化学構造式に数字として示される炭素の種類を示し、各ピーク近傍の小数点二桁の数値は、該炭素に結合したプロトンの積分比を示す。
図4図1に示した不純物ピーク(E)のTOF-MSスペクトルであり、横軸は質量電荷比m/z(mは分子質量、zは電荷数を表す)を表し、縦軸は信号強度を表す。図4の中ほど左側の図は、質量分析による質量電荷比、推定元素組成、推定構造及び脱着イオン種を示し、図4の中ほど右側の図は、TOF-MSスペクトルの拡大図である。
図5】比較例8に記載した、従来法で合成したBEBSを用いて調製した高純度スチレンスルホン酸ナトリウムのHPLCチャート(拡大図)であり、横軸は溶出時間(分)を表し、縦軸はピーク強度(mV)を表す。図中に示したピーク又は矢印で示される(a)はオルソスチレンスルホン酸ナトリウム、(b)は4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、(c)はメタスチレンスルホン酸ナトリウム、(d)はブロモスチレンスルホン酸ナトリウム、及び(e)は4-(2-ヒドロキシエチル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム由来(推定)のピーク又はピーク位置を示す。
図6】実施例12に記載した、本発明の方法で合成したBEBSを用いて調製した高純度スチレンスルホン酸ナトリウムのHPLCチャート(拡大図)であり、横軸は溶出時間(分)を表し、縦軸はピーク強度(mV)を表す。図6中の(a)~(e)の記号は図5の説明と同じである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、不純物として含まれることがある核臭素化BEBSが0.10%以下〔但し、液体クロマトグラフィー(LC)で求めた面積%であり、4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸のピーク面積を100%とした時の核臭素化BEBSのピーク面積%〕である高純度BEBS、及び高純度BEBSから誘導される結合臭素量が400ppm以下の高純度スチレンスルホン酸類とその重合物であるそのポリマー、並びにそれらの製造法に係り、スチレンスルホン酸類の全結合臭素を低減することにより、スチレンスルホン酸類に存在することがある不安定な結合臭素を低減できることを見出し、本発明に至った。
なお、「液体クロマトグラフィー(LC)で求めた面積%」とは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの液体クロマトグラフィー(LC)により、4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸を測定したときに、対象の4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸のピーク面積を100%としたときの核臭素化2-ブロモエチルベンゼンスルホン酸のピーク面積を%で表示したものをいう。従って、「核臭素化BEBSが0.10%以下である」とは、4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸のピーク面積を100%としたときの核臭素化2-ブロモエチルベンゼンスルホン酸のピーク面積が0.10%以下であることをいう。つまり、ピーク面積を比較したときに、4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸の1/1000以下となることをいう。
【0027】
上記結合臭素の内の不安定な結合臭素が低減されたことは、上記したように、スチレンスルホン酸類をポリスチレンスルホン酸水溶液まで誘導し、臭素イオン濃度の変化を追跡することにより確認した。
【0028】
<4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸(BEBS)>
まず、本発明の核臭素化BEBSが低減されたBEBSの製造法について説明する。
BEBSを製造するための基本プロセスは、従来と同様、2-ブロモエチルベンゼンのスルホン化により製造され(例えば、特公昭55-21030号公報参照)、2-ブロモエチルベンゼンはスチレンの臭素化により製造される(例えば、特開平6-172232号公報参照)。
即ち、下記反応式に示す通り、ヘキサンなどの炭化水素やパークロルエチレンなどのハロゲン化炭化水素に溶解したスチレンを準備する。このスチレンに、紫外線を照射しながら、或いはアゾ化合物など微量のラジカル発生剤を供給しながら臭化水素ガスを供給し、スチレンのビニル基に臭化水素を反マルコフニコフ付加させる。この反応により2-ブロモエチルベンゼンを得る。続いて、耐酸性を有し、乾燥した反応器内で、無水硫酸(三酸化硫黄)、発煙硫酸、濃硫酸又はクロロ硫酸などのスルホン化剤を用いて2-ブロモエチルベンゼンをスルホン化して、4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸が得られる。
【0029】
【化16】
【0030】
ここで、本発明は以下の(i)~(iv)の点に特徴があり、従来法と異なる。
(i)2-ブロモエチルベンゼン及び反応溶媒に存在することがある臭化水素を各100ppm以下に制御する。
(ii)2-ブロモエチルベンゼン及び反応溶媒に存在することがある鉄分を各5ppm以下に制御する。
(iii)2-ブロモエチルベンゼン及び反応溶媒に含まれる水分を各1000ppm以下に制御する。
(iv)反応器に供給したスルホン化剤の濃度及び2-ブロモエチルベンゼンに対するスルホン化剤のモル比を特定範囲に制御する点である。
これらの条件を逸脱すると核臭素化体が副生し易くなることがあり、その結果、核臭素化体から誘導されるスチレンスルホン酸類の結合臭素の量が増加する。
【0031】
2-ブロモエチルベンゼンに存在することがある臭化水素は、製造原料として用いた臭化水素の未反応分と考えられ、2-ブロモエチルベンゼンの加熱、減圧下での加熱、不活性ガスのバブリング、純水、弱アルカリ水又は食塩水等による洗浄、及び又は未反応のスチレンや反応溶媒と共に蒸留除去することにより、100ppm以下に制御する。試薬などフレッシュな反応溶媒に臭化水素が含まれることは通常考え難い。しかしながら実用的に目的物を製造する化学プラントなどの施設での製造では未反応原料や反応溶媒を再使用(リサイクル使用)するため、これらの中に臭化水素が混入することがある。よって、リサイクルした反応原料や反応溶媒を使用する際は、臭化水素の含量を分析し、上記と同様の方法で各100ppm以下に管理する。
【0032】
反応系内に存在することがある鉄分としては、上記した反応系内の臭化水素と水分に起因する臭化鉄(III)の可能性が考えられるが、構造は定かではない。2-ブロモエチルベンゼンや反応溶媒の水洗、蒸留精製、及び又はカチオン交換樹脂(例えば、オルガノ株式会社のアンバーライト(登録商標))、キレート繊維(例えば、キレスト株式会社のキレストファイバー(登録商標))、カチオン交換フィルター(例えば、株式会社キッツマイクロフィルター社のクラングラフト)、活性炭(例えば、大阪ガスケミカル株式会社のザイツAKSJ(登録商標))等で処理することにより、鉄分を各5ppm以下、好ましくは各1ppm以下に制御する。
【0033】
また、2-ブロモエチルベンゼンと反応溶媒に含まれることがある水分は、2-ブロモエチルベンゼンの水洗やリサイクル使用される反応溶媒に由来する水分であり、核臭素化BEBSの副生に特に強く影響するため、蒸留及び又は乾燥剤によって各1000ppm以下、好ましくは各500ppm以下に制御する。
乾燥剤としては、シリカゲル、ゼオライト、モレキュラーシーブ、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、水素化カルシウム、五酸化リン、アルミナなどが例示され、これらを用いて2-ブロモエチルベンゼンと反応溶媒を処理することにより、反応系中の水分を低減する。
【0034】
上記の方法で得られたBEBSは、通常、反応溶液から水で抽出した後、混入した反応溶媒と水を留去、濃縮することにより65重量%~75重量%のBEBS水溶液とし、スチレンスルホン酸アルカリ金属塩の製造に使用される。2-ブロモエチルベンゼンのスルホン化工程で使用された有機溶媒及び未反応の2-ブロモエチルベンゼンは通常、回収し、リサイクル使用される。特に回収された有機溶媒に水分が残留し易いため、上記した方法で水分管理することが極めて重要である。
【0035】
反応溶媒としては、スルホン化剤に対して不活性な溶媒であれば特に制限はないが、例えば、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、塩化メチレン、1,1,2-トリクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、ジブロモベンゼン、ブロモヘキサンなどのハロゲン化溶媒、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ化溶媒、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素が使用できる。
【0036】
上記に加えて、更に、反応器へ供給したスルホン化剤の濃度及び2-ブロモエチルベンゼンに対するスルホン化剤のモル比を特定範囲に制御することが重要である。核臭素化BEBSの副生を抑制する観点では、上記した反応系内の鉄分、臭化水素、水分はゼロもしくは限りなくゼロに近い方が好ましく、更に、基質濃度は低いほど、特にスルホン化剤の濃度は低いほど好ましいが、実用的な生産性を考慮すると、基質濃度の低下には限界がある。生産性を損なうことなく、高純度のBEBSを製造するためには、2-ブロモエチルベンゼン(又はその有機溶媒溶液)とスルホン化剤(又はその有機溶媒溶液)を反応器へ同時に連続供給しながら反応するのが好ましく、槽型反応器を用いたバッチ式、管型やチューブ型反応器を用いた流通式を適用できる。大量生産する場合は、生産効率の観点から流通式がより好ましい。
【0037】
本発明において、スルホン化剤として最も好適な無水硫酸を用いる場合、反応器内の無水硫酸濃度を5.00重量%~20.00重量%に保ち、且つ反応器内の2-ブロモエチルベンゼンに対する無水硫酸のモル比、すなわち反応器へ供給した各モル数の比を0.50~2.00に保ちながら、10℃~60℃で0.5時間~5.0時間反応するのが好ましい。ここで、無水硫酸濃度は、(反応器へ供給した無水硫酸の重量/反応器内の全反応液重量)×100として算出される。
高い反応転化率と選択率を両立させるためには、反応器内の無水硫酸濃度〔(反応器へ供給した無水硫酸の重量/反応器内の全反応液重量)×100〕を10.00重量%~20.00重量%に保ち、且つ反応器内の2-ブロモエチルベンゼンに対する無水硫酸のモル比(反応器へ供給した各モル数の比)を0.95~1.50に保ちながら、20℃~50℃で0.5時間~3.0時間反応するのがより好ましい。
【0038】
また、別の反応様式としては、上記した原料を反応器へ同時に連続供給する方法の他、2-ブロモエチルベンゼン(又はその有機溶媒溶液)へ無水硫酸(又はその有機溶媒溶液)を連続供給し、反応系内の無水硫酸濃度を低く維持しながら反応することが出来る。その場合、反応器内の無水硫酸濃度〔(反応器へ供給した無水硫酸の重量/反応器内の全反応液重量)×100〕を0.5時間~5時間かけて20.00重量%を超えない濃度まで増加させ、且つ反応器内の2-ブロモエチルベンゼンに対する無水硫酸のモル比(反応器へ供給した各モル数の比)を、2.00を超えないモル比まで増加させながら、10℃~60℃で0.5時間~10.0時間反応すれば良い。
【0039】
スルホン化剤としては、反応性が高く、当量で反応を完結させることができ、更に塩酸などの副生物が発生しない無水硫酸が好ましい。また、スルホン化反応の際、スルホン体の生成を防ぐため、酢酸や無水酢酸などの有機カルボン酸をスルホン化剤に対して5重量%~10重量%添加するのが好ましく、且つスルホン化剤の局在化を防ぐため、十分に撹拌しながら反応する。
2-ブロモエチルベンゼンに対するスルホン化剤の適正量は、スルホン化剤の種類によって必ずしも同じではないが、本発明で最も好適な無水硫酸を用いる場合、0.50当量~2.00当量が好ましく、高転化率と高選択率(副反応の抑制)を両立させるため0.95当量~1.20当量がより好ましい。
また、無水硫酸の反応性をマイルドにする目的で、トリエチルアミンやピリジン等の三級アミン類、N,N-ジメチルホルムアミド、ジオキサン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒、及びリン酸トリメチルやリン酸トリエチル等のリン酸トリエステル類等、無水硫酸と錯体を形成する化合物を、無水硫酸に対して0.5当量~1.5当量添加しても良い。
無水硫酸は反応性が極めて高いため、10℃未満でも十分反応できるが、実機製造における温度制御を考慮すると10℃以上が好ましく、反応の選択率を考慮すると60℃以下が好ましい。
【0040】
核臭素化BEBSの生成機構として直ちに想起されるのは、Brによるベンゼン環の求電子置換反応である(例えば、ボルハルト・ショアー 現代有機化学、698~700頁、株式会社化学同人、2000年発行参照)。即ち、2-ブロモエチルベンゼンやリサイクル溶媒に含まれることがある臭化水素が酸化されてBrとなり、反応系内に存在することがある痕跡量の鉄が触媒となって核臭素化BEBSが生成する可能性である。
【0041】
しかし、本発明者らが反応条件を詳細に検討した結果、確かに臭化水素と鉄分の共存によって核臭素化BEBSは生成するが、実際の製造プロセスでより影響が大きいのは、反応系内の水分であることを見出した。
即ち、無水硫酸を用いて2-ブロモエチルベンゼンをスルホン化する際に、原料の臭化水素や鉄分を除去しても、水分が存在するとより多くの核臭素化BEBSが生成することが判明した。この際の臭素源は2-ブロモエチルベンゼンのエチル基に結合した臭素以外にないと考えられるが、その反応機構は定かでない。
また、核臭素化BEBSには様々な異性体が存在すると予想されるが、BEBSの液体クロマトグラフ分析で見られた不純物を分取し、同定した結果、主な異性体の一つとして2-ブロモ-4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸が含まれることを突き止めた。BEBSを用いてスチレンスルホン酸類を製造する際に、BEBSに含まれる核臭素化BEBSが多い程、スチレンスルホン酸類に含まれる結合臭素及び不安定な結合臭素が増加すると考えられる。
【0042】
<スチレンスルホン酸類>
次に本発明のスチレンスルホン酸類について説明する。スチレンスルホン酸類の内、結合臭素が低減されたスチレンスルホン酸アルカリ金属塩の製造法としては、原料として核臭素化BEBSの含量が低減された高純度BEBSを用いる他は、基本的に公知の方法と同じとすることができる。例えば、上記したように水溶液中でBEBSと水酸化ナトリウム、水酸化リチウム又は水酸化カリウムなどのアルカリを反応させながら晶析することにより、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸リチウム又はスチレンスルホン酸カリウムを製造できる(例えば、国際公開第WO2014/061357号、特開2015-164911号公報)。
【0043】
スチレンスルホン酸類の内、結合臭素が低減されたスチレンスルホン酸エステルの製造法としては、原料として核臭素化BEBSの含量が低減された高純度BEBSを用いる他は、基本的に上記した方法と同じである。即ち、スチレンスルホン酸ナトリウムと塩化チオニルを反応させてスチレンスルホニルクロリドとした後、水酸化カリウム等の塩基とアルコールでエステル化する方法である。
【0044】
スチレンスルホン酸類の内、スチレンスルホニルイミド、例えば、結合臭素が低減された4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニルイミド)ナトリウム塩の製造法としては、原料(前駆体)として核臭素化BEBSの含量が低減された高純度BEBSを用いる他は、基本的に公知の方法と同じとすることができる。例えば、炭酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホンアミド及び上記したスチレンスルホニルクロリドを有機溶媒中で反応させる方法が適用できる(例えば、特開2017-132728号公報)。また、4-スチレンスルホニル(フルオロスルホニルイミド)カリウム塩は、例えば、スチレンスルホニルクロリド、リン酸水素二カリウム、4-tert-ブチルカテコール及びジメチルアミノピリジンを窒素雰囲気下、0℃でアセトニトリル中で混合し、ここへフルオロスルホンアミドを添加した後、室温で72時間反応させる方法により製造できる。更に当該カリウム塩と過塩素酸リチウムを反応させることにより、4-スチレンスルホニル(フルオロスルホニルイミド)リチウム塩へ誘導できる(例えば、Qiang Maら;RSC Advances,2016年,6号,32454~32461頁)。また、ビス(スチリルスルホニルイミド)塩の内、例えばリチウム塩は、脱水有機溶媒中、水素化リチウム存在下、スチレンスルホニルクロリドとスチレンスルホニルアミドを反応させる方法により製造できる(例えば、特開2016-128562号公報)。
【0045】
スチレンスルホン酸類の内、結合臭素が低減されたスチレンスルホン酸アミン塩の製造法としては、原料として結合臭素が低減されたスチレンスルホン酸アルカリ金属塩を用いる他は、基本的に公知の方法と同じとすることができる。例えば、スチレンスルホン酸ナトリウム水溶液にN,N’-ジメチルシクロヘキシルアミン塩酸塩の水溶液を加えてカチオン交換した後、クロロホルム等の有機溶媒でスチレンスルホン酸N,N’-ジメチルシクロヘキシルアミン塩を抽出、乾固させる方法が適用できる(例えば、国際公開第WO2019/031454号)。
スチレンスルホン酸類の内、結合臭素が低減されたスチレンスルホン酸アンモニウムの製造法としては、原料として結合臭素が低減されたスチレンスルホン酸アルカリ金属塩を用いる他は、基本的に公知の方法と同じとすることができる。例えば、メタノール中、65℃でスチレンスルホン酸ナトリウムと硫酸アンモニウムを混合すると、メタノールに可溶なスチレンスルホン酸アンモニウムが生成する。メタノールに不溶なスチレンスルホン酸ナトリウムを濾別した後、メタノールを留去することによりスチレンスルホン酸アンモニウムを製造することができる(例えば、特開昭50-149642号公報)。
スチレンスルホン酸類の内、結合臭素が低減されたスチレンスルホン酸ホスホニウムの製造法としては、原料として結合臭素が低減されたスチレンスルホン酸アルカリ金属塩を用いる他は、基本的に公知の方法を応用できる。例えば、テトラブチルホスホニウムブロミドとスチレンスルホン酸ナトリウムを水に投入し、十分に撹拌、溶解した後、有機溶媒で抽出し、純水で洗浄することにより、スチレンスルホン酸テトラブチルホスホニウムを製造できる(例えば、国際公開第WO2015/147749号)。
【0046】
<ポリスチレンスルホン酸類>
本発明のポリスチレンスルホン酸類の製造法は、モノマーとして結合臭素が低減されたスチレンスルホン酸類を用いることができる。具体的な製造工程には公知の方法を適用することもできる。
即ち、ラジカル重合開始剤、光増感剤、紫外線、放射線を用いた一般的なラジカル重合法や乳化重合法(例えば、蒲池ら;新訂版ラジカル重合ハンドブック、2010年、株式会社エヌ・ティー・エス出版、Lovel Peter A.ら;Emulsion Polymerization and Emulsion Polymers,1997年,John Wiley & Son Ltd出版)の他、原子移動重合(ATRP)、可逆的付加開裂移動(RAFT)重合、沃素移動重合(ITP)、安定ニトロキシル媒介重合(NMP)、有機テルル媒介重合(TERP)などの制御ラジカル重合法(例えば、山子ら、日本ゴム協会誌、82巻、8号、363~369頁、2009年;上垣外ら、ネットワークポリマー、30巻、5号、234~249頁、2009年)が適用できる他、スチレンスルホン酸類の内、スチレンスルホン酸エステルを用いる場合は、有機金属触媒を用いたアニオン重合(例えば、但木ら;ネットワークポリマー,38巻,1号,14~20頁,2017年)も適用することができる。
【0047】
上記した重合法の内、汎用性が高いラジカル重合法について詳しく説明する。例えば、反応容器に溶媒とスチレンスルホン酸類及び必要に応じてスチレンスルホン酸類とラジカル共重合可能なスチレンスルホン酸類以外のモノマーを加える。さらに上記した安定ニトロキシル化合物等の重合制御剤又はメルカプタン化合物等の分子量調節剤及びアゾ化合物などのラジカル重合開始剤を加える。そして反応系内を脱酸素した後、所定温度に加熱しながら重合することにより、所望の分子量を有する溶媒に可溶なポリマーを製造できる。当該ポリマーの分子量は、数平均分子量として500~5,000,000ダルトンだが、スチレンスルホン酸類の重合性を考慮すると500~1,000,000ダルトンが好ましく、1,000~600,000ダルトンがより好ましい。
【0048】
また、スチレンスルホン酸類の内、スチレンスルホン酸エステル、スチレンスルホン酸アミン、スチレンスルホン酸リチウムは各種溶媒への溶解性が高く、高濃度溶液を調製できる。このため、例えば、これらのスチレンスルホン酸類に光重合開始剤や光増感剤、ジビニルベンゼンなどの架橋性モノマー、更に必要に応じて分子量調節剤や増粘剤などを加えたモノマー溶液を、透明なガラス板やフィルムの間に注入したり、不織布に含侵させ、紫外光などを照射して重合することにより、ポリスチレンスルホン酸類の塗膜や架橋膜を簡便に製造することが出来る。但し、架橋膜の場合、ポリマーは溶媒に不溶なため、数平均分子量の測定は困難である。
【0049】
上記反応に用いられる溶媒としては、モノマー混合物を溶解できるものであれば、特に限定するものではない。例えば、アニソール、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジヒドロレボグルコセノン、アセトニトリル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、トルエン、ベンゼン、クロロベンゼン、キシレン、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メトキシエタノール、メトキシプロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、水、ハロゲン化アルカリ金属塩水溶液及びこれらの混合溶媒などが挙げられる。
重合溶媒の使用量は、モノマー全量100重量部に対し、通常、0重量部~2,000重量部である。スチレンスルホン酸塩のような粉末状モノマーを重合する場合、通常、50重量部~1,000重量部の重合溶媒を使用する。
【0050】
一方、スチレンスルホン酸類の内、スチレンスルホン酸エステルや特定のアミン塩は、液状又は低融点のモノマーであるため、反応溶媒は必ずしも必要ではない。また、スチレンスルホン酸類の内、スチレンスルホン酸エステルは油溶性モノマーであり、スチレンや(メタ)アクリル酸エステルなどの汎用モノマーと混和するため、乳化重合、懸濁重合又は分散重合にも適用できる。例えば、ノニオン系乳化剤、アニオン系乳化剤、カチオン系乳化剤及び又は水溶性ポリマーを用いてスチレンスルホン酸エステル及びこれと共重合可能なモノマーを水中に乳化又は微分散させた後、ラジカル重合開始剤を添加しながら重合することによってポリスチレンスルホン酸エステル微粒子やスチレンスルホン酸エステル構造単位で修飾された微粒子を製造できる。
【0051】
分子量調節剤は特に限定されるものではないが、例えば、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルチウラムジスルフィド、2,2’-ジチオジプロピオン酸、3,3’-ジチオジプロピオン酸、4,4’-ジチオジブタン酸、2,2’-ジチオビス安息香酸などのジスルフィド類、n-ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオサリチル酸、3-メルカプト安息香酸、4-メルカプト安息香酸、チオマロン酸、ジチオコハク酸、チオマレイン酸、チオマレイン酸無水物、ジチオマレイン酸、チオグルタール酸、システイン、ホモシステイン、5-メルカプトテトラゾール酢酸、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸、3-メルカプトプロパン-1,2-ジオール、メルカプトエタノール、1,2-ジメチルメルカプトエタン、2-メルカプトエチルアミン塩酸塩、6-メルカプト-1-ヘキサノール、2-メルカプト-1-イミダゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、システイン、N-アシルシステイン、グルタチオン、N-ブチルアミノエタンチオール、N,N-ジエチルアミノエタンチオールなどのメルカプタン類、ヨードホルムなどの沃素化炭化水素、ベンジルジチオベンゾエート、2-シアノプロプ-2-イルジチオベンゾエート、ジフェニルエチレン、p-クロロジフェニルエチレン、p-シアノジフェニルエチレン、α-メチルスチレンダイマー、有機テルル化合物、イオウ、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム、次亜リン酸ナトリウム等が挙げられる。
分子量調節剤の使用量は、モノマー全量100重量部に対し、通常、0.0重量部~15.0重量部である。分子量調節剤は、製造するポリマーの分子量や分岐を低減するため、あるいは架橋性モノマーを用いて高分子電解質を製造する際の膜の均質性を高めるために有効な添加剤である。しかし、一方で重合速度や共重合性の低下、あるいは臭気の原因となるため、目的によっては必ずしも分子量調節剤は必要でなく、重合開始剤の増量、重合温度の調整、あるいはモノマー及び重合開始剤の添加条件によって分子量調整することが出来る。
【0052】
上記ラジカル重合開始剤としては、例えば、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、シクロヘキサノンパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエート、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などのパーオキサイド類、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリックアシッド)、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1’-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレート、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]}ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレートなどのアゾ化合物、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン、エチル-4-(ジメチルアミノ)-ベンゾエート、[4-(メチルフェニルチオ)フェニル]-フェニルメタン、エチルヘキシル-4-ジメチルアミノベンゾエート、ベンゾフェノン、メチル-o-ベンゾイルベンゾエート、o-ベンゾイル安息香酸、4-メチルベンゾフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、メチルベンゾイルフォルメイト、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、2,2-ジメソキシ-2-フェニル アセトフェノン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-メチル-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノ-1-プロパン等の光重合開始剤等があげられる。また、必要に応じて、アスコルビン酸、エリソルビン酸、アニリン、三級アミン、ロンガリット、ハイドロサルファイト、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなどの還元剤を併用しても良い。
ラジカル重合開始剤の使用量は、モノマー全量100重量部に対し、通常、0.1重量部~15重量部である。
【0053】
重合条件は特に限定するものではないが、不活性ガス雰囲気下、20℃~120℃で、4時間~50時間加熱すれば良く、重合溶媒、モノマー組成、及び重合開始剤種によって適宜調整すれば良い。光重合する場合は、波長250nm~450nm、照度20mW/cm~1,000mW/cmの紫外光を10℃~60℃で0.1時間~5時間重合すれば良い。
【0054】
本発明のポリスチレンスルホン酸類の製造に用いるスチレンスルホン酸類以外のモノマーとしては、スチレンスルホン酸類と共重合できるものであれば特に制限はない。例えば、スチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、フロロスチレン、トリフロロスチレン、ニトロスチレン、シアノスチレン、α-メチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、p-アセトキシスチレン、p-スチレンスルホニルクロリド、スチレンスルホニルブロミド、スチレンスルホニルフロリド、p-ブトキシスチレン、4-ビニル安息香酸、3-イソプロペニル-α,α’-ジメチルベンジルイソシアネート、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライドなどのスチレン類、ブチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、2-フェニルビニルアルキルエーテル、ニトロフェニルビニルエーテル、シアノフェニルビニルエーテル、クロロフェニルビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸デシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ボルニル、アクリル酸2-エトキシエチル、アクリル酸2-ブトキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸メトキシエチレングリコール、アクリル酸エチルカルビトール、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル、ポリエチレングリコールアクリレート、アクリル酸グリシジル、2-(アクリロイルオキシ)エチルフォスフェート、アクリル酸2,2,3,3-テトラフロロプロピル、アクリル酸2,2,2-トリフロロエチル、アクリル酸2,2,3,3,3-ペンタフロロプロピル、アクリル酸2,2,3,4,4,4-ヘキサフロロブチルなどのアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ボルニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸グリシジル、ポリエチレングリコールメタクリレート、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸メトキシエチレングリコール、メタクリル酸エチルカルビトール、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル、2-(メタクリロイルオキシ)エチルフォスフェート、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、メタクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル、メタクリル酸3-(ジメチルアミノ)プロピル、メタクリル酸2-(イソシアナート)エチル、メタクリル酸2,4,6-トリブロモフェニル、メタクリル酸2,2,3,3-テトラフロロプロピル、メタクリル酸2,2,2-トリフロロエチル、メタクリル酸2,2,3,3,3-ペンタフロロプロピル、メタクリル酸2,2,3,4,4,4-ヘキサフロロブチル、ジアセトンメタクリレート、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメトキシシランなどのメタクリル酸エステル類、イソプレンスルホン酸、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、2-シアノ-1,3-ブタジエン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、2-(N-ピペリジルメチル)-1,3-ブタジエン、2-トリエトキシメチル-1,3-ブタジエン、2-(N,N-ジメチルアミノ)-1,3-ブタジエン、N-(2-メチレン-3-ブテノイル)モルホリン、2-メチレン-3-ブテニルホスホン酸ジエチルなどの1,3-ブタジエン類、N-フェニルマレイミド、N-(クロロフェニル)マレイミド、N-(メチルフェニル)マレイミド、N-(イソプロピルフェニル)マレイミド、N-(スルフォフェニル)マレイミド、N-メチルフェニルマレイミド、N-ブロモフェニルマレイミド、N-ナフチルマレイミド、N-ヒドロキシフェニルマレイミド、N-メトキシフェニルマレイミド、N-カルボキシフェニルマレイミド、N-(ニトロフェニル)マレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-(4-アセトキシ-1-ナフチル)マレイミド、N-(4-オキシ-1-ナフチル)マレイミド、N-(3-フルオランチル)マレイミド、N-(5-フルオレセイニル)マレイミド、N-(1-ピレニル)マレイミド、N-(2,3-キシリル)マレイミド、N-(2,4-キシリル)マレイミド、N-(2,6-キシリル)マレイミド、N-(アミノフェニル)マレイミド、N-(トリブロモフェニル)マレイミド、N-[4-(2-ベンゾイミダゾリル)フェニル]マレイミド、N-(3,5-ジニトロフェニル)マレイミド、N-(9-アクリジニル)マレイミド、マレイミド、N-(スルフォフェニル)マレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-メトキシフェニルマレイミドなどのマレイミド類、フマル酸ジブチル、フマル酸ジプロピル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジシクロヘキシルなどのフマル酸ジエステル類、フマル酸ブチル、フマル酸プロピル、フマル酸エチルなどのフマル酸モノエステル類、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジエチルなどのマレイン酸ジエステル類、マレイン酸ブチル、マレイン酸プロピル、マレイン酸エチル、マレイン酸ジシクロヘキシルなどのマレイン酸モノエステル類、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などの酸無水物、アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、2-ヒドロキシエチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、N-メチロールアクリルミド、スルフォフェニルアクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-1-メチルスルホン酸、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドアルキルトリアルキルアンモニウムクロライドなどのアクリルアミド類、メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、2-ヒドロキシエチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、メタクリロイルモルホリン、N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、イソプロピルメタクリルアミド、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、メタクリルアミドアルキルトリアルキルアンモニウムクロライドなどのメタクリルアミド類、その他、ビニルピリジン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ビニルピロリドン、スルフォフェニルイタコンイミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α-シアノエチルアクリレート、シトラコン酸、ビニル酢酸、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサミック酸ビニル、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、モノ2-(メタクリロイルオキシ)エチルフタレート、モノ2-(メタクリロイルオキシ)エチルサクシネート、モノ2-(アクリロイルオキシ)エチルサクシネート、アクロレイン、ビニルメチルケトン、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド、ビニルエチルケトン、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、デヒドロアラニン、二酸化イオウ、イソブテン、N-ビニルカルバゾール、ビニリデンジシアニド、パラキノジメタン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ノルボルネン、N-ビニルカルバゾール、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。これらの中で、スチレンスルホン酸類との共重合性や入手性などを考慮すると、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、N-置換マレイミド、(メタ)アクリルアミド、スチレン類、ビニルピリジンが好ましい。また、架橋膜や架橋粒子を製造する際に用いるモノマーとしては、特に制限はないが、ジビニルベンゼン、ビス-(4-スチレンスルホニル)イミド、ジビニルベンゼンスルホン酸などの置換スチレン類、ポリエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル類、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、N-[トリス(3-アクリルアミドプロポキシメチル)-メチル]アクリルアミド、N,N-ビス(2-アクリルアミドエチル)アクリルアミド、N,N’-[オキシビス(1,2-エタンジイロキシ-3,1-プロパンジイル)]ビスアクリルアミド、N,N’-1,2-エタンジイルビス{N-[2-(アクリロイルアミノ)エチル]アクリルアミド}、N,N’-メチレンビスメタクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類、1,2-ビスマレイミドエタン、4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタン、1,6-ビスマレイミドヘキサン、1,4-ビスマレイミドブタン、N,N’-1,4-フェニレンジマレイミド、N,N’-1,3-フェニレンジマレイミドなど置換マレイミド類が挙げられる。
上記したスチレンスルホン酸類と共重合可能なモノマーの使用割合は、全モノマー中に0.0モル%~99.0モル%である。例えば、ポリスチレンスルホン酸類を導電性ポリマー分散液のドーパントとして用いる場合、当該モノマーは、分散安定性や導電率の面では少ない方が良く、導電膜の耐水性や耐久性の面では多い方が良いため、0.0モル%~50.0モル%である。
また、高分子電解質膜に利用する場合も、スルホン酸基の濃度によってイオン交換容量などの性能が決まるため、当該モノマーの使用量は限定され、例えば、0.0モル%~30モル%である。
一方、例えば、ポリスチレンスルホン酸類を液晶ディスプレイのスペーサー微粒子として用いる場合、当該モノマーは主成分であり、スチレンスルホン酸類は微粒子を製造するための安定剤、即ちマイナーな成分(従たる成分)であるため、50.0モル%~99.0モル%である。
共重合の様式は特に限定されず、ランダム共重合体、交互共重合体及びグラフト共重合体の他、上記した制御重合法を適用すればブロック共重合体を製造できる。
【0055】
本発明で製造される核臭素化BEBSを低減したBEBSは、結合臭素が低減されたスチレンスルホン酸類及びそのポリマーを製造するための前駆体として極めて有用である。当該スチレンスルホン酸類のポリマーは、そのまま使用することが出来るが、下記の化学処理を施すことにより、結合臭素を更に低減することが出来る。
即ち、上記で得たポリスチレンスルホン酸類の水溶液にアルカリ、又はアルカリ及び還元剤を添加し、溶液pH13以上を維持しながら80℃~150℃で5時間~30時間加熱することにより、ポリマー中に存在する結合臭素を遊離させた後、ポリマーを精製する方法である。着色など、ポリマーを劣化させることなく結合臭素を低減するため、90℃~110℃で10時間~25時間加熱処理するのがより好ましい。
【0056】
化学処理する際の雰囲気は、空気中でも構わないが、還元剤の失活やポリスチレンスルホン酸類の劣化を抑制する観点から、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気が好ましい。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等が挙げられ、還元剤としては亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、ハイドロサルファイト、チオ硫酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム等が挙げれらる。
還元剤の添加量としては、上記アルカリの0.5倍モル~1.5倍モルである。また、その他の化学処理法として、ギ酸ナトリウムやヒドラジン等の還元剤とパラジウム炭素触媒の組合せがある、例えば、ポリスチレンスルホン酸類の純分に対して1.0重量%~5.0重量%の還元剤と還元剤の1.0重量%~20重量%のパラジウム炭素(Pd含量5重量%の場合)を添加し、80℃~110℃で5時間~30時間処理する。
【0057】
処理した後の精製方法としては、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂、カチオン交換フィルター、アニオン交換フィルター、キレート繊維、限外濾過膜及び活性炭、再沈精製などを用いた方法が適用できるが、高粘度ポリマー水溶液への適用性を考慮すると、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂及び限外濾過膜の利用が好ましい。
【0058】
本発明のポリスチレンスルホン酸水溶液は、そのまま各種用途に利用できるが、長期保存中のポリマー鎖の切断を抑制するため、安定剤として、ポリスチレンスルホン酸純分に対して20ppm~2,000ppmのフェノール系酸化防止剤を添加するのが好ましい。フェノール系酸化防止剤は特に限定するものではないが、ポリスチレンスルホン酸水溶液に溶解するものが好ましく、2-メトキシフェノール、3-メトキシフェノール、4-メトキシフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、4-tert-ブチルカテコール、ハイドロキノン、メトキシハイドロキノン、エトキシハイドロキノン等が挙げられる。
【0059】
また本発明のポリスチレンスルホン酸をアンモニア、アミン、水酸化テトラメチルアンモニウム及び水酸化テトラエチルアンモニウム等で中和し、アンモニウム塩として使用する場合、即ち、水溶液のpHが中性以上の場合は、上記酸化防止剤の添加は必ずしも必要ではない。
【0060】
本発明の結合臭素が低減されたスチレンスルホン酸類及びそのポリマーは、マイルドな条件下で遊離するような不安定な結合臭素が低減されているため、電池用の部材、有機EL用の部材、フォトレジスト用の部材、導電性ポリマーやカーボンナノチューブの分散剤兼ドーパント、化学機械研磨スラリーの分散剤、半導体洗浄剤など、特に電子材料用途において極めて有用である。
【実施例0061】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。
【0062】
なお、以下の実施例において、化合物の分析及び評価は以下の条件で実施した。
<誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)によるBEB及び有機溶媒中の鉄分の分析>
装置:パーキンエルマー社製NexIon(商標)300S
試料調製:試料約0.1gを25mlポリメスフラスコに精秤し、68%高純度硝酸1mlを添加し超純水でメスアップし、測定用試料とした。
【0063】
<カールフィッシャー法によるBEB及び有機溶媒中の水分の分析>
装置:京都電子工業社製MKC-610
陽極液:ケムアクア陽極液AGE(京都電子工業株式会社製)
陰極液:ケムアクア陰極液CGE(京都電子工業株式会社製)
【0064】
<イオンクロマトグラフ法(IC)によるBEB及び有機溶媒中の臭化水素分の分析>
装置:東ソー株式会社製IC-2001
カラム:TSKgel(登録商標) SuperIC-AP
検出器:電気伝導度、流量:0.8ml/min、カラム温度:40℃
検量線:アニオン標準液を用いた絶対検量線法
試料調製:試料を超純水で振蕩抽出後、遠心分離し、水層を前処理カートリッジ(東ソー株式会社製TOYOPAK(登録商標) ODS M)に通液し、測定用試料とした。希釈倍率はHBr濃度によって、例えば、試料/超純水=2ml/200ml~2ml/4mlのように調整した。
【0065】
<高速液体クロマトグラフ法(HPLC)によるBEB転化率の測定>
BEBのスルホン化反応におけるBEBの転化率(面積%)は下記の条件で測定した。
装置:東ソー株式会社製
カラム:TSKgel(登録商標)ODS-80TM(4.6mmI.D.×25cm)
溶離液:A)20mM NaH2PO4(pH=2.4)水溶液/アセトニトリル=90/10体積比
B)20mM NaH2PO4(pH=2.4)水溶液/アセトニトリル=60/40体積比
グラジェント:A→B(リニアグラジェント60分後、B液で30分継続)
検出器:紫外線UV230m、カラム温度:25℃、流量:0.8ml/min、注入量:20μl
【0066】
<高速液体クロマトグラフ法(HPLC)によるBEBS水溶液濃度の分析>
下記条件でBEBS水溶液の濃度を分析した。
カラム:TSKgel(登録商標)ODS-80TsQA(4.6mmI.D.×25cm)
溶離液:水/アセトニトリル=80/20体積比+0.1wt%トリフルオロ酢酸
検出器:紫外線UV230m

カラム温度:40℃、流量:0.8ml/min
検量線:実施例2で調製したBEBS水溶液から結晶を回収し、標準物質として用いた絶対検量線法
【0067】
<高速液体クロマトグラフ法(HPLC)によるBEBS中の不純物の分析>
BEBS水溶液中の核臭素化体(面積%)は下記条件で分析した。
装置:東ソー株式会社製
カラム:TSKgel(登録商標)ODS-80TM(4.6mmI.D.×25cm)
溶離液:A)20mM NaH2PO4(pH=2.4)水溶液/アセトニトリル=90/10体積比
B)20mM NaH2PO4(pH=2.4)水溶液/アセトニトリル=60/40体積比
グラジェント:A→B(リニアグラジェント60分)
検出器:紫外線UV230m、カラム温度:25℃、流量:0.8ml/min、注入量:20μl
試料調製:BEBS水溶液(濃度69.0~73.0wt%) 5mg/溶離液1ml
【0068】
尚、従来法(以下に示す比較例4)で製造されたBEBS中のUK成分、即ち、図1中のピーク(A)、(C)、(D)及び(E)は、予め下記の方法で同定した。各成分をカラム分取し、スルホン酸基をジアゾメタンでメチルエステル化した後、ガスクロマトグラフ質量分析(日立製作所製M-80B)、フーリエ変換赤外分析(パーキンエルマー社製、System2000)、有機元素分析(ヤナコ製、CHNコーダーMT-3)、及び核磁気共鳴分析(バリアン社製、VXR-300)を実施し、同定を試みた。また更に、(E)についてはエステル化せず、直接TOF-MSによる同定を実施した。
【0069】
<飛行時間型質量分析法(TOF-MS)による核臭素化BEBSの同定>
上記HPLCで検出されたピーク(E)のTOF-MSを測定した。
装置:ブルカー・ダルトニクス microTOF
イオン源:ESI
測定モード:ネガティブモード
試料調製:試料をメタノールに溶解後、メタノール/水=1/1体積比で希釈した。
【0070】
<プロトン核磁気共鳴法(1H-NMR)によるClSSトルエン溶液濃度の分析>
下記条件でスチレンスルホニルクロリド(ClSS)溶液の1H-NMRを測定した。
装置:Bruker製AV-400M
溶媒:重ジメチルスルホキシド
ClSSビニル基CH2=CH-の内のCH2=の1プロトンに対するトルエンのメタ位2プロトンの積分比から下式によりClSS濃度を算出した。
ClSS濃度=100×202.65/(202.65+92×トルエン積分比/2)
【0071】
<ガスクロマトグラフ法(GC)によるETSSの分析>
下記条件でスチレンスルホン酸エチル(ETSS)のGC純度(面積%)を分析した。
装置:株式会社島津製作所製GC-2014
カラム:NEUTRABOND-1(φ0.32mm×30m、0.4μm)
インジェクション:220℃、注入量0.2μl
キャリアガス:ヘリウム、線速度:30cm/分、スプリット比:100
検出器:FID、250℃
昇温条件:80℃×10分保持後、5℃/分で250℃まで昇温し、6分保持
試料:ニート
【0072】
<高速液体クロマトグラフ法(HPLC)によるNaSSの分析>
4-スチレンスルホン酸ナトリウムに含まれることがある各種有機不純物及び異性体は、特許文献(国際公開第WO2014/061357号)と同じ下記条件で分析した。
装置:東ソー株式会社製
カラム:TSKgel(登録商標)ODS-80TM(4.6mmI.D.×25cm)
溶離液:A)5vol%アセトニトリル水溶液(0.1%トリフルオロ酢酸含有)
B)20vol%アセトニトリル水溶液(0.1%トリフルオロ酢酸含有)
グラジェント:A液100%(0~55分)→B液100(55~95分)
検出器:紫外線UV230m、カラム温度:25℃、流量:0.8ml/min、注入量:20μl
試料調製:試料を溶離液Aに溶解し有姿濃度0.5mg/1mlの溶液を調製
【0073】
<スチレンスルホン酸ナトリウムの純分測定>
酸化還元滴定法により、活性二重結合を定量し、試料中のスチレンスルホン酸ナトリウム含量(即ち、パラ体の他、オルソ、メタ体も含む)とした。
(1)試薬
1)臭素液:臭化カリウム22.00g、臭素酸カリウム3.00gを純水に溶解し、全体を1000mlとした。
2)硫酸水溶液(濃硫酸/純水体積比=1/1)
3)ヨウ化カリウム水溶液(200g/L)
4)0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム水溶液
5)でんぷん水溶液:6.00gのでんぷんを純水に溶解し、全体を1000mlとした。
(2)操作
1)試料20gを0.1mgの桁まで秤量瓶に秤取る。
2)500mlメスフラスコに純水で洗い移し、液量を約400mlとする。
3)磁気回転子を入れて撹拌し、試料を溶解する。
4)回転子を取り出し、純水で標線を合わせて振り混ぜ、検液とする。
5)純水200mlを入れた500ml共栓付三角フラスコに臭素液25mlを加える。
6)検液5mlを加えた後、硫酸水溶液10mlを加えて密栓し、20分間放置する。
7)ヨウ化カリウム水溶液10mlを素早く加えて10分間放置する。
8)チオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定し、溶液の黄色が薄くなってから、指示薬として、でんぷん溶液1mlを加え、生じたヨウ素でんぷんの青色が消えるまで滴定する。
9)別に空試験として、純水200mlを加えて共栓付三角フラスコに臭素液25mlを加え、ヨウ化カリウム水溶液10ml、硫酸水溶液10mlを素早く加え、8)の操作を行う。
(3)計算
次式によってスチレンスルホン酸ナトリウム含量を算出する。
A=100×[0.01031×(a-b)×f]/(S×5/500)
A:スチレンスルホン酸ナトリウム含量(%)
a:空試験に要したチオ硫酸ナトリウム水溶液(ml)
b:本試験に要したチオ硫酸ナトリウム水溶液(ml)
f:チオ硫酸ナトリウム水溶液の力価
S:試料量(g)
【0074】
<燃焼分解イオンクロマトグラフ法によるスチレンスルホン酸類中のハロゲンの分析>
下記条件でスチレンスルホン酸類及びポリスチレンスルホン酸中の臭素分及び塩素分を定量した。
燃焼装置:株式会社三菱ケミカルアナリテック製AQF-2100H
燃焼温度:inlet=900℃、outlet=1000℃
IC装置:東ソー株式会社製IC-2010
カラム:TSK-guard column Super IC-AHS+TSK-gel Super IC-Anion HS
溶離液:炭酸緩衝液
吸収液:900ppm過酸化水素水
検出器:電気伝導度
流量:1.5ml/min、温度:40℃
測定モード:サプレッサ式
検量線:アニオン標準液を用いた絶対検量線法
【0075】
<イオンクロマトグラフ法によるポリスチレンスルホン酸水溶液中のハロゲンイオンの分析>
下記条件でポリスチレンスルホン酸水溶液中のハロゲンイオンを定量した。
装置:東ソー株式会社製 IC-2001
カラム:TSKgel(登録商標) Super IC-AP
検出器:電気伝導度
試料調製:試料20gを超純水で希釈して濃度20mg/mlに調製後、限外濾過カートリッジ(分画分子量3千、又は1万)でポリマー成分を除去し、分析用試料とした。
【0076】
<4-スチレンスルホン酸塩中の水分の定量>
試料約2gを0.1mgの桁まで秤量瓶(直径55mm×高さ30mm)に秤取り、乾燥機(105±5℃)で90分乾燥した。直ちにデシケータに移して室温まで冷却後、その質量を0.1mgの桁まで量り、次式から水分を算出した。
水分(wt%)=100×(a-b)/S
a:乾燥前の試料と秤量瓶の重量(g)、b:乾燥後の試料と秤量瓶の重量(g)、S:試料量(g)
【0077】
<4-スチレンスルホン酸類中の臭素イオンの定量>
装置:東ソー株式会社製、IC-2010
カラム:TSKgel(登録商標) guard column Super IC-AHS(4.6mmI.D.×1cm) + TSKgel SuperIC-Anion HS(4.6mmI.D.×10cm)
カラム温度:40℃、注入量:30μl、流量:1.5ml/min
溶離液: 炭酸緩衝液(7.5mM-NaHCO3+0.8mM-Na2CO3)
スチレンスルホン酸エステル類の試料調製:ネジ口試験管に超純水5mlと試料5gを採取し、30分間振蕩抽出後、遠心分離(2800rpm、30分)。水層を前処理カートリッジ(TOYOPAK ODSM)に通液して測定試料とした。
スチレンスルホン酸塩類の試料調製:固体試料を超純水に溶かして10倍希釈し、前処理カートリッジ(TOYOPAK(登録商標) ODSM)に通液して測定試料とした。
検量線:標準液を用いた絶対検量線法
【0078】
<ゲル浸透クロマトグラフ法(GPC)によるスチレンスルホン酸エステルの重合転化率及び生成ポリマー分子量の分析>
下記条件で面積基準の転化率と分子量を測定した。
機種:東ソー株式会社製HLC-8320GPC
カラム:TSKガードカラムSuper AW-H+TSK Super AW-6000+TSK Super AW-4000+TSK Super AW-2500
溶離液:N,N-ジメチルホルムアミド(臭化リチウム10mM)
カラム温度:40℃、流量:0.5ml/min
検出器:RI検出器、注入量:10μl
検量線:東ソー製 標準ポリスチレンキットPSt Quick C,D,Eの重量平均分子量と溶出時間から作成した。
転化率:モノマー由来のピーク面積(a)とポリマー由来のピーク面積(b)から、下式により重合転化率を算出した。
転化率(面積%)=100×[1-{a/(a+b)}]
【0079】
<ゲル浸透クロマトグラフ法(GPC)によるスチレンスルホン酸塩の重合転化率及び生成ポリマー分子量の分析>
下記条件で面積基準の転化率と分子量を測定した。
機種:東ソー株式会社製HLC-8320GPC
カラム:TSKガードカラムAW-H+TSK AW6000+TSK AW3000+TSK AW2500
溶離液:0.05M硫酸ナトリウム水溶液/アセトニトリル=65/35体積比
流速:0.6ml/min、注入量:10μl、カラム温度:40℃
検出器:UV検出器(波長230nm)
検量線:標準ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(創和科学製)を用いて、ピークトッ(3K、15K、41K、300K、1000K、2350K、5000K)のピークトップ分子量と溶出時間から作成した。
転化率:モノマー由来のピーク面積(a)とポリマー由来のピーク面積(b)から、下式により重合転化率を算出した。
転化率(面積%)=100×[1-{a/(a+b)}]
【0080】
<使用薬剤>
2-ブロモエチルベンゼン:東ソー・ファインケム株式会社製 純度99.1%
1,2-ジクロロエタン:東ソー株式会社製 純度99.9%
無水硫酸:日曹金属化学株式会製 日曹サルファン(登録商標) 純度99.4%
酢酸:東京化成工業株式会社製 純度>99.5%
無水水酸化バリウム:富士フイルム和光純薬工業株式会社製
オルソ酢酸トリエチル:東京化成工業株式会社製 純度>96%
t-ブチルカテコール:富士フイルム和光純薬工業株式会社製 純度98%
t-ブトキシカリウム:東京化成工業株式会社製 純度>97%
N,N-ジメチルホルムアミド:東京化成工業株式会社製 純度>99.5%
イルガノックス1010:BASFジャパン株式会社製
塩化チオニル:東京化成工業株式会社製 純度>98%
ネオペンチルアルコール:東京化成工業株式会社製 純度>98%
トリフルオロメタンスルホンアミド:東京化成工業株式会社製 純度>98%
ピリジン:東京化成工業株式会社製 純度>99%
4-ジメチルアミノピリジン:東京化成工業株式会社製 純度>98%
炭酸ナトリウム:東京化成工業株式会社製 純度>99%
酢酸エチル:東京化成工業株式会社製 純度>98%
トルエン:東京化成工業株式会社製 純度>99.5%
ギ酸ナトリウム:富士フイルム和光純薬工業株式会社製 純度>95%
パラジウム炭素:富士フイルム和光純薬工業株式会社製 Pd含量5wt%
【0081】
<化合物の略称>
BEB:2-ブロモエチルベンゼン
BEBS:4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸
NaSS:4-スチレンスルホン酸ナトリウム
LiSS:4-スチレンスルホン酸リチウム
ポリNaSS:ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)
ポリLiSS:ポリ(4-スチレンスルホン酸リチウム)
PSS:ポリ(4-スチレンスルホン酸)
ClSS:4-スチレンスルホニルクロリド
ETSS:4-スチレンスルホン酸エチル
ポリETSS:ポリ(4-スチレンスルホン酸エチル)
NPSS:4-スチレンスルホン酸ネオペンチル
ポリNPSS:ポリ(4-スチレンスルホン酸ネオペンチル)
TfNS-Na:4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニルイミド)ナトリウム
ポリTfNS-Na:ポリ〔4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニルイミド)ナトリウム〕
ポリTfNS-H:ポリ〔4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニルイミド)〕
BVBSI-Li:リチウム ビス-(4-スチレンスルホニル)イミド
【0082】
実施例1 4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸(BEBS)の製造(1)
還流冷却管、窒素導入管、温度計挿入管、及び滴下ロートを取付けた1Lガラス製四つ口フラスコに2-ブロモエチルベンゼン(東ソー・ファインケム株式会社製)233.80g(1.25モル)と1,2-ジクロロエタン(東ソー株式会社製)250.30gを仕込んだ。また、滴下ロートには無水硫酸111.30g(1.38モル)、酢酸8.00g(0.13モル)及び1,2-ジクロロエタン250.10gの混合溶液を仕込んだ。尚、2-ブロモエチルベンゼンは予め純水で洗浄後、カチオン交換性のキレストファイバー(登録商標)IRY-LC12(キレスト株式会社製)で処理し、更にモレキュラーシーブで乾燥して鉄分1ppm未満、臭化水素分20ppm、水分20ppmであることを確認した。1,2-ジクロロエタンは予めモレキュラーシーブで乾燥し、水分は63ppm、鉄分及び臭化水素分は各1ppm未満であることを確認した。窒素雰囲気下、磁気撹拌子で十分に撹拌し、内温を30~40℃に制御しながら、無水硫酸と無水酢酸の混合溶液を1時間で滴下した。滴下後、40℃で1時間熟成した。反応器に供給した無水硫酸の濃度は、反応開始~反応終了まで0.00~12.96wt%、2-ブロモエチルベンゼンに対する無水硫酸のモル比は0.00~1.10だった(熟成終了後の2-ブロモエチルベンゼンの反応転化率は97.6%)。
【0083】
熟成終了後、内温を30~40℃に維持しながら、純水162.80gを添加した。十分攪拌した後、静置し、分液ロートを用いて下層のBEBSを含む水溶液を回収した。ロータリーエバポレーターを用いて当該水溶液から残留1,2-ジクロロエタン及び水を留去することにより、濃厚BEBS水溶液437.32gを得た。HPLCで測定したBEBS濃度は70.4wt%、即ち、仕込み2-ブロモエチルベンゼン基準の収率は92.8%だった。
当該BEBS水溶液をHPLCで分析した結果、純度は96.2面積%、BEBSのピーク面積を100とした時の核臭素化BEBSのピーク面積は0.01%であり、表1に示したように、表3に示した比較例1~7と比べて核臭素化BEBSの含量が少ないことが明らかである。
尚、上記2-ブロモエチルベンゼンは、スチレンスルホン酸ナトリウム(東ソー・ファインケム社製スピノマー(登録商標)NaSS)の製造工程で得られる中間製品(工業製品)を用いた。
【0084】
実施例2~5 4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸(BEBS)の製造(2~5)
初期仕込み及び滴下溶液の組成、滴下速度、反応温度を変更した他は、全て実施例1と同じ原料を用い、同様の操作でBEBS水溶液を調製した。表1に示したように、実施例2は反応系内の無水硫酸濃度が低いため、実施例1と比較して核臭素化BEBSが更に少なくなっており、実施例3は反応系内の無水硫酸濃度が高く、実施例4は2-ブロモエチルベンゼンに対する無水硫酸のモル比が高いため、実施例1と比較して核臭素化BEBSがやや多くなった。また、実施例5は反応温度が高いが、無水硫酸濃度が低いため、核臭素化BEBSは実施例3と同レベルになったと考えられる。何れにしても、表3に示した比較例1~7と比べて核臭素化BEBSの含量が少ないことが明らかである。
【0085】
実施例6~7 4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸(BEBS)の製造(6~7)
実施例1~5で反応に用いた1,2-ジクロロエタンを回収後、水洗し、反応溶媒として用した他は、全て実施例4~5と同様の操作を行い、BEBS水溶液を合成した。
表1に示したように、1,2-ジクロロエタン中の水分が高いため、実施例1~5と比べて核臭素化BEBSの含量は多いが、より水分が多い比較例1,2,4,6,7(表3)と比べて少ないことが明らかである。
【0086】
実施例8~9 4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸(BEBS)の製造(8~9)
2-ブロモエチルベンゼンを水洗及びモレキュラーシーブ乾燥しなかった他は、全て実施例1~5と同様の操作を行い、BEBS水溶液を合成した。
表1に示したように、2-ブロモエチルベンゼン中の臭化水素分が高いため、実施例1~5と比べて核臭素化BEBSの含量は多いが、臭化水素及び鉄分が多い比較例3、臭化水素、鉄分及び水分が多い比較例4及び7(表3)と比べて少ないことが明らかである。
尚、上記2-ブロモエチルベンゼンは、スチレンスルホン酸ナトリウム(東ソー・ファインケム社製スピノマー(登録商標)NaSS)の製造工程で得られる中間製品(工業製品)を用いた。
【0087】
【表1】
【0088】
実施例10 4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸(BEBS)の製造(10)
還流冷却管、窒素導入管、温度計挿入管を取付けた1Lガラス製フラスコに、2-ブロモエチルベンゼンの1,2-ジクロロエタン溶液(2-ブロモエチルベンゼン233.50重量部と1,2-ジクロロエタン200.00重量部の混合溶液)を1時間当たり433.50重量部、及び無水硫酸の1,2-ジクロロエタン溶液(無水硫酸111.40重量部、酢酸8.00重量部及び1,2-ジクロロエタン300.00重量部の混合溶液)を1時間当たり419.40重量部の速度で別々に供給しながら、撹拌下、内温40~50℃で反応した。反応液を10分毎に間欠的にポンプで抜出し、1時間当たり852.90重量部抜き出した。この時の反応液の見掛け滞在時間は1時間であり、反応器内の無水硫酸濃度は12.98重量%、2-ブロモエチルベンゼンに対する無水硫酸のモル比は1.11である。また、BEBの反応転化率は98.2%だった。
尚、2-ブロモエチルベンゼンと1,2-ジクロロエタンは実施例1~5で用いたものと同じものを用いた。
抜き出した反応液852.90重量部に対して、純水162.80重量部を添加して十分攪拌した後、下層のBEBSを含む水溶液を回収した。ロータリーエバポレーターを用いて当該水溶液から残留1,2-ジクロロエタン及び水を留去することにより、濃厚BEBS水溶液438.86重量部を得た。HPLCで測定したBEBS濃度は70.4重量%だった(BEB基準の収率は93.3%)。
当該BEBS水溶液をHPLCで分析した結果、表2に示したように、BEBSの純度は96.8面積%、BEBSのピーク面積を100とした時の核臭素化BEBSのピーク面積は0.01%であり、核臭素化BEBSの含量は、表3に示した比較例1~7と比べて少ないことが明らかである。
【0089】
実施例11 4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸(BEBS)の製造(11)
還流冷却管、窒素導入管、温度計挿入管を取付けた1Lガラス製フラスコに、2-ブロモエチルベンゼンを1時間当たり233.50重量部、及び無水硫酸の1,2-ジクロロエタン溶液(無水硫酸111.60重量部、酢酸8.00重量部及び1,2-ジクロロエタン500.00重量部の混合溶液)を1時間当たり619.60重量部の速度で別々に供給しながら、攪拌下、内温40~50℃で反応した。反応液を10分毎に間欠的にポンプで抜出し、1時間当たり853.10重量部抜き出した。この時の反応液の見掛け滞在時間は1時間であり、反応器内の無水硫酸濃度は13.00wt%、2-ブロモエチルベンゼンに対する無水硫酸のモル比は1.11である。また、BEBの反応転化率は97.90%だった。
尚、2-ブロモエチルベンゼンと1,2-ジクロロエタンは実施例1~5で用いたものと同じものを用いた。
抜き出した反応液853.10重量部に対して、純水163.00重量部を添加して十分攪拌した後、下層のBEBSを含む水溶液を回収した。ロータリーエバポレーターを用いて当該水溶液から残留1,2-ジクロロエタン及び水を留去することにより、濃厚BEBS水溶液440.65重量部を得た。HPLCで測定したBEBS濃度は69.90wt%だった(BEB基準の収率は93.01%)。
当該BEBS水溶液をHPLCで分析した結果、表2に示した様に、BEBSの純度は96.3面積%、BEBSのピーク面積を100とした時の核臭素化BEBSのピーク面積は0.01%であり、表3に示した比較例1~7と比べて少ないことが明らかである。
【0090】
【表2】
【0091】
比較例1 4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸(BEBS)の製造(12)
還流冷却管、窒素導入管、温度計挿入管、及び滴下ロートを取付けた1Lガラス製四つ口フラスコに2-ブロモエチルベンゼン233.30g(1.25モル)と1,2-ジクロロエタン497.70gを仕込んだ。また、滴下ロートには無水硫酸111.30g(1.38モル)及び酢酸8.00g(0.13モル)の混合溶液を仕込んだ。尚、2-ブロモエチルベンゼンは予め純水で洗浄後、カチオン交換性のキレストファイバー(登録商標)IRY-LC12(キレスト株式会社製)で処理し、更にモレキュラーシーブで乾燥し、鉄分1ppm未満、臭化水素分20ppm、水分69ppmであることを確認した。尚、1,2-ジクロロエタンは実施例10~11で用いた1,2-ジクロロエタンを回収後、水洗したものを使用し、鉄分及び臭化水素分は各1ppm未満、水分は2145ppmだった。
窒素雰囲気下、磁気撹拌子で十分に攪拌し、内温を30~40℃に制御しながら、無水硫酸と無水酢酸の混合溶液を1時間で滴下した。滴下後、40℃で1時間熟成した。反応器に供給した無水硫酸の濃度は、反応開始~反応終了まで0.00~13.01wt%、2-ブロモエチルベンゼンに対する無水硫酸のモル比は0.00~1.11だった。また、BEBの反応転化率は96.4%だった。
【0092】
熟成終了後、内温を30~40℃に維持しながら、純水163.00gを添加した。十分攪拌した後、静置し、分液ロートを用いて下層のBEBSを含む水溶液を回収した。ロータリーエバポレーターを用いて当該水溶液から残留1,2-ジクロロエタン及び水を留去することにより、濃厚BEBS水溶液420.30gを得た。HPLCで測定したBEBS濃度は72.1wt%だった(BEB基準の収率は91.6%)。
当該BEBS水溶液をHPLCで分析した結果、表3に示した様に、BEBSの純度は91.3面積%、BEBSのピーク面積を100とした時の核臭素化BEBSのピーク面積は0.31%であり、表1及び2に示した実施例1~11と比べて著しく多いことが明らかである。反応系中の水分が高く、副反応が促進されたためと考えられる。
尚、上記2-ブロモエチルベンゼンは、スチレンスルホン酸ナトリウム(東ソー・ファインケム社製スピノマーNaSSTM)の製造工程で得られる中間製品(工業製品)を用いた。
【0093】
比較例2 4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸(BEBS)の製造(13)
水分の異なる1,2-ジクロロエタンのリサイクル品を反応溶媒として用いた他は、全て比較例1と同じ操作を行い、濃厚BEBS水溶液を合成した。
表3に示した様に、1,2-ジクロロエタン中の水分が比較例1よりも更に高いため、核臭素化BEBSの含量が増加したことが明らかである。反応系中の水分がより高く、副反応が一層促進されたためと考えられる。
【0094】
比較例3 4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸(BEBS)の製造(14)
水洗、カチオン交換フィルター処理及びモレキュラーシーブ乾燥していない2-ブロモエチルベンゼンを用いた他は、全て実施例4~5と同様の操作を行い、濃厚BEBS水溶液を合成した。表3に示した様に、2-ブロモエチルベンゼン中の鉄分、臭化水素分、及び水分が実施例1~11よりも高いため、核臭素化BEBSの含量が著しく増加したことが明らかである。反応系中の不純物により、副反応が一層促進されたためと考えられる。
尚、上記2-ブロモエチルベンゼンは、スチレンスルホン酸ナトリウム(東ソー・ファインケム社製スピノマーNaSS(登録商標))の製造工程で得られる中間製品(工業製品)を用いた。
【0095】
比較例4 4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸(BEBS)の製造(15)
水分が多い1,2-ジクロロエタンのリサイクル品を用いた他は、全て比較例3と同様の操作を行い、濃厚BEBS水溶液を合成した。表3に示した様に、比較例3と比べて2-ブロモエチルベンゼン中の鉄分、臭化水素分は同じだが、水分が増加したため、核臭素化BEBSの含量が更に増加したことが明らかである。反応系中の不純物の相乗効果により、副反応が一層促進されたためと考えられる。
【0096】
比較例5 4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸(BEBS)の製造(16)
反応器へ滴下した無水硫酸の濃度及び2-ブロモエチルベンゼンに対する無水硫酸のモル比を高くした他は、全て実施例4~5と同様の操作を行い、濃厚BEBS水溶液を合成した。表3に示した様に、反応系内の鉄分、臭化水素分及び水分は実施例1~11と同等にも関わらず、核臭素化BEBSの含量が高いことが明らかである。高濃度の無水硫酸により、副反応が促進されたためと考えられる。
【0097】
比較例6 4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸(BEBS)の製造(17)
水分が多い1,2-ジクロロエタンのリサイクル品を用いた他は、全て比較例5と同様の操作を行い、濃厚BEBS水溶液を合成した。表3に示した様に、比較例5と比べて水分の増加により、核臭素化BEBSの含量が更に増加したことが明らかである。
【0098】
参考例1 4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸(BEBS)の製造(18)
反応器内の無水硫酸の濃度及び2-ブロモエチルベンゼンに対する無水硫酸のモル比を低くした他は、全て実施例4~5と同様の操作を行い、濃厚BEBS水溶液を合成した。表3に示した様に、反応系内の鉄分、臭化水素分及び水分が低いため、核臭素化BEBSの含量は低いが、反応温度が高いにも関わらず反応転化率が35%と極めて低く、原料の2-ブロモエチルベンゼンが多く残存するため、4-スチレンスルホン酸ナトリウムの工業原料(前駆体)として適さないことが明らかである。
【0099】
比較例7 4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸(BEBS)の製造(18)
水分が多い1,2-ジクロロエタンのリサイクル品、及び比較例3~4と同様、鉄分、臭化水素分及び水分が多い2-ブロモエチルベンゼンを用いた他は、全て参考例1と同様の操作を行い、濃厚BEBS水溶液を合成した。無水硫酸の濃度及びモル比が低くても、反応系内の鉄分、臭化水素分及び水分が一定濃度を超えると核臭素化BEBSの含量が増加することが明らかである。また、無水硫酸の添加量が少ないため反応転化率が29.7%と極めて低く、実用には全く適さない。
【0100】
【表3】
【0101】
実施例12 高純度4-スチレンスルホン酸ナトリウムの製造(1)
<NaSSの合成>
還流冷却管、窒素導入管、撹拌機を取付けた2L円筒型ガラス製セパラブルフラスコに12%水酸化ナトリウム水溶液276.00gと亜硝酸ナトリウム0.80gを仕込み、撹拌しながら70℃まで昇温した。内温を90℃に維持し、窒素雰囲気下、撹拌しながら48%水酸化ナトリウム水溶液462.00gと実施例1で得た70.4wt%-BEBS酸水溶液708.40gとを各々3時間かけて滴下した。得られたNaSSのスラリーを30℃まで冷却後、遠心分離機で固液分離して、NaSSの湿潤ケーク310.80gを得た。
当該NaSSは臭化ナトリウム等の不純物を含む。そこで以下の実施例及び比較例では、結合臭素量を定量するため、以下の通り精製を行った。
【0102】
<NaSSの精製>
還流冷却管、窒素導入管、攪拌機を備えた1L円筒型ガラス製セパラブルフラスコに、水酸化ナトリウム6.16g、純水293.00g、亜硝酸ナトリウム0.28g及び上記で得たNaSS308.00gを仕込み、窒素雰囲気下、60℃で1時間撹拌した。その後、3時間かけて室温まで冷却後、遠心分離機で固液分離して、精製NaSSの湿潤ケーク272.10gを得た。
上記で得た精製NaSSケーク約100gを純水に溶かして5wt%水溶液(純分換算)とし、強酸性カチオン交換樹脂(オルガノ社製 アンバーライトIR-120B、塩酸再生済)カラム及び強塩基性アニオン交換樹脂(オルガノ社製 アンバーライトIRA-402BL、水酸化ナトリウム再生済)カラムの順に通液することにより、スチレンスルホン酸水溶液を得た。カチオン交換後のスチレンスルホン酸は自然重合し易いため、カラム留出後の水溶液は5℃以下を維持し、且つアニオン交換後は直ちに水酸化ナトリウムで中和した。ロータリーエバポレーターを用いて当該水溶液を濃縮することにより析出した結晶を濾別し、60℃で5時間真空乾燥することにより、純度99.5wt%、水分0.5wt%の高純度NaSS結晶64.60gを得た。
イオンクロマトグラフ法で求めた当該高純度NaSS中の臭素分、即ち、無機性(非結合性)の臭素分は1ppm未満だった。
また、上記高純度NaSS結晶に含まれることがある異性体等の有機不純物をHPLCで分析した結果、(a)オルソスチレンスルホン酸ナトリウム0.00%、(b)4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム0.00%、(c)メタスチレンスルホン酸ナトリウム0.01%、(d)ブロモスチレンスルホン酸ナトリウム0.01%、(e)4-(2-ヒドロキシエチル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム0.00%だった(但し、上記有機不純物とNaSSのHPLCピーク面積の総和を100とした時の面積比である)。
NaSSの分子量206.2g/mol、ブロモスチレンスルホン酸ナトリウムの分子量285.1g/mol、Brの原子量79.9g/mol及び上記HPLC面積比(≒モル比と仮定)から、高純度NaSSに含まれるブロモスチレンスルホン酸ナトリウム由来の臭素分は下記のように概算できる。
1,000,000×79.9×0.01/(285.1×0.01+206.2×99.99)≒39ppm
一方、当該高純度NaSSの全臭素分、即ち結合臭素を燃焼分解イオンクロマトグラフ法で定量した結果、上記より遥かに多い108ppmだった。即ち、上記ブロモスチレンスルホン酸ナトリウムのピークが極めて小さいことに起因する定量誤差、或いは位置異性体など、ブロモスチレンスルホン酸ナトリウム以外の結合臭素の存在が示唆された。しかしながら、比較例8~11と比べると全臭素量は明らかに少なかった(表4)。核臭素化BEBSの含有量が少ないBEBSを前駆体に用いたためと考えられる。
更に以下の方法により、当該高純度NaSSをポリマー化してPSSへ誘導し、経時での臭素イオン濃度の変化(不安定な結合臭素の存在)を確認した。
【0103】
<ポリNaSSの合成>
還流冷却管、窒素導入管、撹拌機を取り付けた500mlガラスフラスコに、純水250.00g、上記で得た高純度NaSSを30.02g及び水溶性アゾ系ラジカル重合開始剤V-50を1.00g採取し、常温で溶解した。続いてアスピレーター吸引と窒素導入を繰返して脱酸素した後、窒素雰囲気下、撹拌しながら60℃の温浴で24時間重合した。この時点でGPCで求めたNaSSの重合転化率は100%だった。
続いて窒素気流下、48重量%水酸化ナトリウム水溶液1.64gを添加して溶液pH≧13を維持しながら60℃で24時間撹拌を続けた。
GPCで求めたポリNaSSの数平均分子量Mnは114,000、重量平均分子量Mwは285,000(Mw/Mn=2.50)だった。
【0104】
<PSSの調製と安定性の確認>
上記で得たポリNaSS水溶液を限外濾過モジュール(ザルトリウス社製ビバフロー200、分画分子量5万)で処理した後、強酸性カチオン交換樹脂(オルガノ社製 アンバーライトIR-120B、塩酸再生済)カラム及び強塩基性アニオン交換樹脂(オルガノ社製 アンバーライトIRA-402BL、水酸化ナトリウム再生済)カラムの順で通液することにより、PSS水溶液を得た。当該水溶液を約1g精秤し、100℃×3時間真空乾燥して樹脂分を算出した後、純水で樹脂分を調整することにより、10.00重量%ポリスチレンスルホン酸水溶液230.01gを得た。PSSの数平均分子量は114,000、重量平均分子量は282,000(Mw/Mn=2.47)、イオンクロマトグラフ法で求めた臭素イオン濃度は1ppm未満、ICP-AESで求めたナトリウム分は1ppm未満だった。即ち、フリーな(非結合性の)臭素は十分除去出来ていた。一方、該PSS水溶液を約10g採取し、110℃×3時間真空乾燥してPSS固体を取得し、分解燃焼イオンクロマトグラフ法で全臭素分を分析した結果、111ppmだった。尚、PSS固体中の全塩素分は1ppm未満だった。
上記PSS水溶液をガラスサンプル瓶に小分け密閉し、70℃のオーブン中でエージングした。イオンクロマトグラフ法で臭素イオン濃度の変化を追跡した結果、表4に示した通り、比較例8~11と比べて、経時での臭素イオンの増加が大幅に抑制されていることが明らかである。NaSS中に含まれる結合臭素量が少ないため、即ち、前駆体であるBEBSに含まれることがある核臭素化体を低減したためと考えられる。
尚、BEBSを前駆体として用いる限り、NaSS及びそのポリマーに塩素が残留する可能性は低い。一方、4-(2-クロロエチル)ベンゼンスルホン酸(例えば、特開平9-40633号公報)を前駆体に用いた場合は、BEBSと同様、無機系及び有機系の塩素が残留する可能性があると考えられる。
【0105】
実施例13 高純度4-スチレンスルホン酸ナトリウムの製造(2)
<NaSSの合成>
上記実施例2で得た69.9重量%-BEBS水溶液を用いた他は、仕込み重量など全て実施例12と同じ条件で反応等を実施し、NaSSの湿潤ケーキ302.20gを得た。
【0106】
<NaSSの精製>
上記で得たNaSSの湿潤ケーキを用いた他は、全て実施例12と同じ条件で精製を行い、高純度NaSSの乾燥結晶66.02gを得た。純度99.5重量%、水分0.5重量%、当該高純度NaSS中の臭素分、即ち、水溶液で分析した無機性の臭素分は1ppm未満であり、全臭素分は46ppmだった。比較例8~11と比べて全臭素量が少ないことが明らかである(表4)。核臭素化BEBSの含有量が少ないBEBSを前駆体に用いたためと考えられる。
続いて実施例12と同様に、NaSSをポリマー化してPSSまで誘導し、経時での臭素イオン濃度の変化を確認した。
【0107】
<ポリNaSSの合成>
上記で得た高純度NaSS結晶を用いた他は、仕込み重量など全て実施例12と同じ条件でNaSSを重合し、数平均分子量Mn112,000、重量平均分子量Mw281,000(Mw/Mn=2.51)のポリNaSS水溶液を得た。
【0108】
<PSSの調製と安定性の確認>
上記で得たポリNaSS水溶液を用いた他は、全て実施例12と同じ限外濾過及びイオン交換処理を行い、10.00重量%PSS水溶液238.96gを得た。数平均分子量は112,000、重量平均分子量は281,000(Mw/Mn=2.51)、臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。実施例12と同様にPSS固体を取得し、全臭素分を分析した結果、47ppmであり、実施例12よりも減少していた。尚、PSS固体中の全塩素分は1ppm未満だった。
続いて実施例12と同様に上記PSS水溶液をエージングし、臭素イオン濃度の変化を追跡した結果、表4に示した通り、比較例8~11と比べて、経時での臭素イオンの増加が大幅に抑制されていることが明らかである。NaSS中に含まれる結合臭素量が少ないため、即ち、前駆体であるBEBSに含まれることがある核臭素化体を低減したためと考えられる。
【0109】
実施例14 高純度4-スチレンスルホン酸ナトリウムの製造(3)
<NaSSの合成>
上記実施例7で得た71.3重量%-BEBS水溶液を用いた他は、仕込み重量など全て実施例12と同じ条件で反応等を実施し、NaSSの湿潤ケーキ316.10gを得た。
【0110】
<NaSSの精製>
上記で得たNaSSを用いた他は、仕込み重量など全て実施例12と同じ条件で精製を行い、高純度NaSSの乾燥結晶63.60gを得た。純度99.5重量%、水分0.5重量%、当該高純度NaSS中の臭素分、即ち、水溶液で分析した無機性の臭素分は1ppm未満であり、全臭素分は302ppmだった。核臭素化BEBS分が多いBEBSを用いたため、実施例12及び13と比べると全臭素分は多いが、比較例8~11と比べて明らかに少ないことが明らかである(表4)。
続いて実施例12と同様に、NaSSをポリマー化してPSSまで誘導し、経時での臭素イオン濃度の変化(不安定な結合臭素の存在)を確認した。
【0111】
<ポリNaSSの合成>
上記で得た高純度NaSS結晶を用いた他は、仕込み重量など全て実施例12と同じ条件でNaSSを重合し、数平均分子量Mn113,000、重量平均分子量Mw283,000(Mw/Mn=2.50)のポリNaSS水溶液を得た。
【0112】
<PSSの調製と安定性の確認>
上記で得たポリNaSS水溶液を用いた他は、全て実施例12と同様に限外濾過及びイオン交換処理を行い、10.00wt%PSS水溶液241.95gを得た。数平均分子量は113,000、重量平均分子量は283,000(Mw/Mn=2.50)、臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。実施例12と同様にPSS固体を取得し、全臭素分を分析した結果、315ppmであり、全塩素分は1ppm未満だった。
続いて実施例12と同様に、上記PSS水溶液をエージングし、臭素イオン濃度の変化を追跡した結果、表4に示した通り、比較例8~11と比べて、経時での臭素イオンの増加が大幅に抑制されていることが明らかである。NaSS中に含まれる結合臭素量が少ないため、即ち、前駆体であるBEBSに含まれることがある核臭素化体を低減したためと考えられる。
【0113】
実施例15 スチレンスルホン酸エチル(ETSS)の製造(1)
<4-スチレンスルホニルクロリド(ClSS)の合成>
還流冷却管、窒素導入管、撹拌機を取付けた3Lガラス製四つ口フラスコに、実施例12の条件で得た高純度NaSS結晶300.00g(1.45モル)、トルエン600.00g、N,N-ジメチルホルムアミド106.00g(1.44モル)、酸化防止剤イルガノックス(登録商標)1010を0.12g(0.1ミリモル)仕込み、内温を0℃に維持しながら、窒素雰囲気下、30分攪拌した。続いて、内温が5℃を超えないよう制御しながら、塩化チオニル236.0g(1.94モル)を2時間掛けて滴下し、更にそのまま3時間撹拌を続けた。次に、内温が20℃を超えないよう制御しながら、純水750.00gを添加し、十分撹拌した後で静置し、二層分離した水層を廃棄した。残った有機層へ20重量%塩化ナトリウム水溶液750.00gを添加し、十分攪拌した後で静置し、二相分離した水層を廃棄した。その後、内温が10℃を超えないよう制御し、攪拌しながら窒素を反応液へ12時間吹込むことにより、塩化チオニル由来の成分を除去した。その後、再度有機層へ純水750.00gを添加し、水層の電気伝導率が1μS/cm以下になるまで有機層の水洗を繰返し、760.00gのClSS溶液を得た。H-NMRで求めたClSS濃度は36.2重量%だった。即ち、ClSS純分は275.10g(1.36モル)、仕込みNaSS基準の収率は94%だった。
【0114】
<ETSSの合成>
還流冷却管、窒素導入管、撹拌機を取付けた200mlガラス製四つ口フラスコに、上記で得たClSS溶液38.5g(0.069モル)、エタノール9.2g(0.200モル)及び酸化防止剤イルガノックス(登録商標)1010を6ミリグラム(0.005ミリモル)仕込み、0℃を超えないように内温を制御した。ここへ48wt%水酸化カリウム水溶液15.4g(0.132モル)と純水9.2gからなる水溶液を5時間掛けて滴下し、更に5時間熟成してエステル化した。この間、内温が20℃を超えないように制御した。続いて純水100.00gを加えて攪拌後、静置して塩化カリウム等を含む水層を廃棄し、更に20wt%食塩水で洗浄した。更に純水を加え、水層のイオン伝導率が1.00μS/cm以下になるまで洗浄し、有機層を回収した。ロータリーエバポレーターを用いて40℃でトルエンを減圧留去し、ETSS12.01gを得た。ガスクロマトグラフで求めた面積%基準の純度は94.00%(主要不純物はClSS溶液に含まれていたトルエンである)、ClSS基準の収率は77%だった。
イオンクロマトグラフ法で求めた当該ETSS中の臭素分、即ち、純水で抽出された無機性の臭素分は1ppm未満、燃焼分解イオンクロマトグラフ法で求めた全臭素分は 84ppmであり、比較例12~14と比べて臭素分が少ないことが明らかである(表4)。核臭素化BEBSの含有量が少ないBEBSから誘導したNaSSを原料として用いたためと考えられる。
続いて以下の方法によりETSSをポリマー化してPSSまで誘導し、経時での臭素イオン濃度の変化(不安定な結合臭素の存在)を確認した。
【0115】
<ポリETSSの合成>
還流冷却管、窒素導入管及び撹拌機を取付けた300mlガラス製四つ口フラスコに、上記で得たETSS10.75g(46.80ミリモル)、アニソール40.00g、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ(TEMPO)0.15g(0.94ミリモル)、アゾビスイソブチロニトリル0.40g(2.39ミリモル)を採取後、磁気撹拌子で攪拌しながら減圧、窒素導入を繰返して脱酸素した後、窒素雰囲気下、110℃で20時間、引き続き135℃で2時間重合を行い、ポリETSSを調製した。
【0116】
<PSSの調製と安定性の確認>
上記反応液を100℃まで放冷後、5重量%水酸化ナトリウム水溶液75.00g(93.75ミリモル)を添加し、5時間撹拌した後、不溶分を濾別し、分液操作によりポリNaSSを含む水層を回収した。当該水溶液を激しく撹拌しながら2Lのアセトンにゆっくり滴下し、析出したポリマーを110℃で10時間真空乾燥することにより、ポリNaSS3.67g(ETSS基準の収率38%)を回収した。ポリNaSSの数平均分子量は9,000、重量平均分子量は11,000(Mw/Mn=1.22)だった。当該ポリNaSSを純水に溶解し、限外濾過モジュール(ザルトリウス社製ビバフロー200、分画分子量5千)で処理した後、実施例12と同様にイオン交換処理を実施し、10.00重量%PSS水溶液26.77gを得た。数平均分子量は9,000、重量平均分子量は11,000(Mw/Mn=1.22)、臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。即ち、イオン交換処理により、ポリマーに結合していないフリーな臭素は十分除去できたと言える。
実施例12と同様、上記PSSをエージングし、臭素イオン濃度の変化を追跡した結果、表4に示した通り、比較例12~14と比べて、経時での臭素イオンの増加が大幅に抑制されていることが明らかである。ETSS中に含まれる結合臭素量が少ないため、即ち、前駆体であるBEBSに含まれることがある核臭素化体を低減したためと考えられる。
【0117】
実施例16 スチレンスルホン酸エチルの製造(ETSS)(2)
<ClSSの合成>
実施例13で得た高純度NaSS結晶を用い、スケールを1/10に小さくした他は、全て実施例15と同じ条件でClSS溶液75.00gを得た。H-NMRで求めたClSS濃度は35.9wt%だった。即ち、ClSS純分は26.93g、仕込みNaSS基準の収率は92%だった。
【0118】
<ETSSの合成>
上記で得たClSSを用いた他は、全て実施例15と同じ条件でETSSを合成し、ETSS11.90gを得た。ガスクロマトグラフ法で求めた面積%基準の純度は95.00%(主要不純物はClSS溶液に含まれていたトルエンである)、ClSS基準の収率は78%だった。
イオンクロマトグラフ法で求めた当該ETSS中の臭素分、即ち、純水で抽出された無機性の臭素分は1ppm未満、燃焼分解イオンクロマトグラフ法で求めた全臭素分は 51ppmであり、比較例12~14と比べて臭素分が少ないことが明らかである(表4)。核臭素化BEBSの含有量が少ないBEBSから誘導したNaSSを原料として用いたためと考えられる。
続いて実施例15と同様、ETSSをポリマー化してPSSまで誘導し、経時での臭素イオン濃度の変化を確認した。
【0119】
<ポリETSSの合成>
上記で得たETSSを用いた他は、全て実施例15と同じ条件でETSSを重合し、ポリETSSを調製した。
【0120】
<PSSの調製と安定性の確認>
上記で得たポリETSSを用いた他は、全て実施例15と同じ操作を行い、10.00重量%PSS水溶液26.98gを得た。数平均分子量は9,000、重量平均分子量は11,000(Mw/Mn=1.22)、臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。
実施例12と同様、上記PSS水溶液をエージングし、臭素イオン濃度の変化を追跡した結果、表4に示した通り、比較例12~14と比べて、経時での臭素イオンの増加が大幅に抑制されていることが明らかである。ETSS中に含まれる結合臭素量が少ないため、即ち、前駆体であるBEBSに含まれることがある核臭素化体を低減したためと考えられる。
【0121】
実施例17 スチレンスルホン酸エチル(ETSS)の製造(3)
<ClSSの合成>
実施例14で得た高純度NaSS結晶を用いた他は、仕込み重量など全て実施例16と同じ条件で反応等を実施し、76.30gのClSS溶液を得た。H-NMRで求めたClSS濃度は35.50重量%だった。即ち、ClSS純分は27.09g、仕込みNaSS基準の収率は92%だった。
【0122】
<ETSSの合成>
上記で得たClSSを用いた他は、全て実施例16と同じ条件で反応等を実施し、ETSS12.10gを得た。ガスクロマトグラフ法で求めた面積%基準の純度は95.00%(主要不純物はClSS溶液に含まれていたトルエンである)、ClSS基準の収率は80%だった。
イオンクロマトグラフ法で求めた当該ETSS中の臭素分、即ち、純水で抽出された無機性の臭素分は1ppm未満、燃焼分解イオンクロマトグラフ法で求めた全臭素分は 338ppmであり、比較例12~14と比べて臭素分が少ないことが明らかである(表4)。但し、高純度NaSS原料として、核臭素化BEBS分が多いBEBSを用いたため、実施例15及び16と比べて全臭素分は増加した。
続いて実施例15と同様、ETSSをポリマー化してPSSまで誘導し、経時での臭素イオン濃度の変化を確認した。
【0123】
<ポリETSSの合成>
上記で得たETSSを用いた他は、全て実施例16と同様の操作でETSSを重合し、ポリETSSを調製した。
【0124】
<PSSの調製と安定性の確認>
上記で得たポリETSSを用いた他は、全て実施例16と同じ操作で10.00重量%PSS水溶液26.65gを得た。数平均分子量は9,000、重量平均分子量は11,000(Mw/Mn=1.22)、臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。
実施例15と同様、上記PSS水溶液をエージングし、臭素イオン濃度の変化を追跡した結果、表4に示した通り、比較例12~14と比べて、経時での臭素イオンの増加が大幅に抑制されていることが明らかである。ETSS中に含まれる結合臭素量が少ないため、即ち、前駆体であるBEBSに含まれることがある核臭素化体を低減したためと考えられる。
【0125】
実施例18 高純度スチレンスルホン酸ネオペンチル(NPSS)の製造(1)
<NPSSの合成>
還流冷却管、窒素導入管、撹拌機を取付けた1Lガラス製四つ口フラスコにネオペンチルアルコール54.00g(0.60モル)、ピリジン171.3g(2.14モル)を採取し、内温を0℃で維持しながら磁気撹拌子で撹拌、溶解した。内温が0℃を超えないように制御しながら、反応器へ実施例15で得た36.20wt%-ClSS溶液323.21g(0.58モル)を2.5時間掛けて滴下し、反応した。エバポレータを用いて余剰のピリジンとトルエンを留去した後、内容物を1Lのヘキサンへ投入し、―15℃まで冷却して白色結晶を回収した。白色結晶をヘキサン:トルエン=1:1体積比の混合溶媒を用いて再結晶精製し、NPSSの白色結晶37.5gを得た。ClSS基準の収率は25%、H-NMR(内部標準物質1,3,5-トリメチルベンゼン)で求めた純度は97.5%だった。イオンクロマトグラフ法で求めた当該NPSS中の臭素分、即ち、純水で抽出された無機性の臭素分は1ppm未満、燃焼分解イオンクロマトグラフ法で求めた全臭素分は122ppmであり、比較例15と比べて臭素分が少ないことが明らかである(表4)。核臭素化BEBSの含有量が少ないBEBSから誘導したNaSSを原料として用いたためと考えられる。
更に以下の方法により、NPSSをポリマー化してPSSへ誘導し、経時での臭素イオン濃度の変化(不安定な結合臭素の存在)を確認した。
【0126】
<ポリNPSSの合成>
還流冷却管、窒素導入管、撹拌機を取付けた200mlガラス製四つ口フラスコに、上記で得たNPSS10.00g(39.32ミリモル)、N,N-ジメチルホルムアミド40.00g、アゾビスイソブチロニトリル325mg(1.98ミリモル)を採取後、撹拌しながら減圧、窒素導入を繰返して脱酸素した後、窒素雰囲気下、70℃で25時間重合した。重合溶液を激しく攪拌しながら、ゆっくり1Lヘキサンに滴下し、ポリNPSSを単離した。ポリマーを再度クロロホルムに溶解し、貧溶媒であるヘキサンに滴下してポリマーを精製した。湿潤ポリマーを90℃で10時間真空乾燥し、ポリNPSS7.10g(NPSS基準の収率71%)を回収した。GPCで測定した数平均分子量Mn18,000、重量平均分子量Mwは45,000(Mw/Mn=2.50)だった。
【0127】
<PSSの合成と安定性の確認>
上記で得たポリNPSS7.10gをジクロロメタン60.0gに溶解した後、トリメチルシリルヨージド14.76g(スルホン酸ネオペンチル基に対して2.5当量)を添加し、室温で4時間攪拌した。続いてジクロロメタンを減圧留去して回収したポリマーを、1N塩酸40mlとメタノール40mlからなる混合溶液に投入し、室温で2時間攪拌した後、溶媒を減圧留去してPSSを得た。
当該PSSをイオン交換水に溶解し、限外濾過モジュール(ザルトリウス社製ビバフロー200、分画分子量1万)で処理した後、実施例15と同様にイオン交換処理することにより、10.00重量%PSS水溶液56.80gを得た。数平均分子量は18,000、重量平均分子量は45,000(Mw/Mn=2.50)、臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。即ち、精製処理により、ポリマーに結合していないフリーな臭素化合物は十分除去できたと言える。
実施例12と同様に、上記PSS水溶液をエージングし、臭素イオン濃度の変化を追跡した結果、表4に示した通り、比較例15と比べて、経時での臭素イオンの増加が大幅に抑制されていることが明らかである。NPSS中の結合臭素量が少ないため、即ち、前駆体であるBEBSに含まれることがある核臭素化体を低減したためと考えられる。
【0128】
実施例19 高純度4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニルイミド)ナトリウム(TfNS-Na)の製造(1)
<TfNS-Naの合成>
還流冷却管、窒素導入管及び撹拌機を取付けた500mlガラス製四つ口フラスコにトリフルオロメタンスルホンアミド14.92g(98.07ミリモル)、酢酸エチル116.00g、4-ジメチルアミノピリジン0.62g(4.97ミリモル)、tert-ブチルカテコール1.02gを採取し、常温で攪拌、溶解させた後、炭酸ナトリウム21.24g(198.39ミリモル)を添加した。内温を50℃まで昇温した後、内温を50~60℃に維持しながら実施例15で得た36.2wt%-ClSS溶液54.88g(98.03ミリモル)を1時間で滴下した。更に60℃で4時間熟成した後、35℃まで冷却し、イオン交換水90.00gを加えて激しく攪拌し、静置した後、分液し、塩化ナトリウムを含む水層を廃棄した。更に20wt%塩化ナトリウム水溶液50.00gを加えて激しく攪拌し、静止した後、分液し、水層を廃棄した。有機層へ非溶媒であるトルエン60.00gを加えて均一溶液とした後、良溶媒である酢酸エチルを減圧留去した。析出した結晶を濾別し、室温で24時間真空乾燥し、TfNS-Na25.34g(収率73%)を得た。
【0129】
<TfNS-Naの精製>
上記で得たTfNS-Naをイオン交換水に溶解し、5重量%水溶液とした。当該水溶液の温度が10℃を超えないよう注意しながら、実施例12と同様にカチオン及びアニオン交換処理することにより、TfNS-H水溶液を得た。尚、カチオン交換後のTfNS-Hは自然重合し易いため、カラム流出後の水溶液は5℃以下を維持し、且つアニオン交換後は直ちに水酸化ナトリウムで中和した。
ロータリーエバポレーターを用いて当該水溶液から水を留去して析出させた結晶を濾別し、60℃で5時間真空乾燥することにより、高純度TfNS-Na21.30gを得た。H-NMR(内部標準物質1,3,5-トリメチルベンゼン)で求めた純度は99.5重量%、水分は0.5重量%、イオンクロマトグラフ法で求めたの臭素分、即ち、水溶液で分析した無機性の臭素分は1ppm未満であり、燃焼分解イオンクロマトグラフ法で求めた全臭素分は101ppmだった。比較例16と比べて全臭素量が少ないことが明らかである(表4)。核臭素化BEBSの含有量が少ないBEBSから誘導したスチレンスルホン酸ナトリウムを原料として用いたためと考えられる。
更に以下の方法により、TfNS-Naをポリマー化し、経時での臭素イオン濃度の変化(不安定な結合臭素の存在)を確認した。
【0130】
<ポリTfNS-Hの合成>
上記で得たTfNS-Na20.00g(58.71ミリモル)をイオン交換水90.00gに溶かしたモノマー水溶液、及び過硫酸アンモニウム0.10g(0.44ミリモル)をイオン交換水10.00gに溶かしたラジカル重合開始剤水溶液について、各々アスピレーター減圧後、窒素導入する操作を繰り返して脱酸素した。還流冷却管、窒素導入管、撹拌機を取付けた200mlガラス製四つ口フラスコに上記水溶液を同時に3時間で滴下しながらバス温85℃で重合した。その後、更に85℃で2時間熟成した。GPCで測定した重合転化率は98.7%、数平均分子量は35,000、重量平均分子量は82,000(Mw/Mn=2.34)だった。
当該ポリTfNS-Na水溶液を実施例18と同様に限外濾過及びイオン交換処理することにより、10.00wt%ポリTfNS-H水溶液146.88gを得た。イオンクロマトグラフ法で求めた臭素イオン濃度は1ppm未満、ICP-AES法で求めたナトリウム分は1ppm未満だった。
【0131】
<ポリTfNS-Hの安定性>
実施例12と同様、イオンクロマトグラフ法で臭素イオン濃度の変化を追跡した結果、表4に示した通り、比較例16と比べて、経時での臭素イオンの増加が大幅に抑制されていることが明らかである。TfNS-Na中の結合臭素量が少ないため、即ち、前駆体であるBEBSに含まれることがある核臭素化体を低減したためと考えられる。
【0132】
実施例20 高純度4-スチレンスルホン酸リチウム(LiSS)の製造(1)
<LiSSの合成>
還流冷却管、窒素導入管、撹拌機を取付けた1L円筒型ガラス製セパラブルフラスコに水酸化リチウム一水和物130.60g(3.23モル)、亜硝酸ソーダ0.60g(0.009モル)及びイオン交換水351.00gを仕込み、撹拌しながら70℃まで昇温した。内温を90℃に維持し、窒素雰囲気下、撹拌しながら上記実施例4で得た70.20wt%-BEBS水溶液457.75g(1.21モル)を1時間かけて滴下し、更に0.5時間熟成した。反応溶液を3時間掛けて20℃まで冷却後、そのまま2時間熟成し、得られたLiSSのスラリーを遠心分離機で固液分離して、純度85.0%のLiSSの湿潤ケーキ199.70g(0.89モル)を得た。
【0133】
<LiSSの精製>
2Lガラスビーカーに上記湿潤ケーキと1Lのアセトンを採取し、常温で1時間撹拌後、ヌッチェを用いて湿潤LiSSを回収した。当該湿潤LiSSを再度1Lのアセトンに投入し、常温で1時間撹拌後、ヌッチェを用いて湿潤LiSSを回収し、更にオーブン中、60℃で10時間真空乾燥し、高純度LiSS 73.50gを得た。純度は98.7重量%、水分は1.30wt%、イオンクロマトグラフィーで求めた当該高純度LiSS中の臭素分、即ち、水溶液で分析した無機性の臭素分は1ppm未満であり、燃焼分解イオンクロマトグラフ法で求めた全臭素分は296ppmだった。比較例17と比べて全臭素分が少ないことが明らかである(表4)。核臭素化BEBSの含有量が少ないBEBSを原料として用いたためと考えられる。
更に以下の方法により、LiSSをポリマー化してPSSへ誘導し、経時での臭素イオン濃度の変化(不安定な結合臭素の存在)を確認した。
【0134】
<ポリLiSSの合成>
還流冷却管、窒素導入管、撹拌機を取り付けた500mlガラスフラスコに、純水250.00g、上記で得た高純度LiSSを30.00g(0.16モル)及び水溶性アゾ系ラジカル重合開始剤V-50を2.10g(0.008モル)採取し、常温で溶解した。続いてアスピレータ吸引と窒素導入を繰返して脱酸素した後、窒素雰囲気下、撹拌しながら60℃の温浴で24時間重合した。この時点でLiSSの重合転化率は100%だった。
続いて窒素気流下、40重量%水酸化リチウム水溶液1.70gを添加して溶液pH≧13以上を維持しながら60℃で24時間攪拌を続けてポリLiSS水溶液を得た。数平均分子量Mnは65,000、重量平均分子量Mwは161,000(Mw/Mn=2.48)だった。
【0135】
<PSSの調製と安定性の確認>
上記で得たポリLiSS水溶液を実施例18と同じ条件で限外濾過及びイオン交換処理することにより、10.00重量%PSS水溶液236.88gを得た。臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。
実施例12と同様に、イオンクロマトグラフ法で臭素イオン濃度を追跡した結果、表4に示した通り、比較例17と比べて、経時での臭素イオンの増加が大幅に抑制されていることが明らかである。LiSS中の結合臭素量が少ないため、即ち、前駆体であるBEBSに含まれることがある核臭素化体を低減したためと考えられる。
【0136】
実施例21 スチレンスルホン酸ナトリウム/スチレン共重合体(ST-3510)の製造
<NaSS/スチレン共重合体の合成>
還流冷却管、窒素導入管、撹拌機を取付けた500ml三つ口製フラスコに実施例12で得た精製前のNaSS26.60g(純度88.5%、114.17ミリモル)、イオン交換水121.00g、2-プロパノール69.89g、スチレン6.37g(60.55ミリモル)及び水溶性アゾ系ラジカル重合開始剤V-50を0.92g(3.36ミリモル)仕込んで溶解し、減圧脱気と窒素導入を繰返して脱酸素した。その後、フラスコを60℃の温浴に浸漬し、攪拌しながら25時間重合した。スチレンスルホン酸ナトリウムの重合転化率は100%、スチレンの重合転化率は98%、数平均分子量は33,000、重量平均分子量は74,000(Mw/Mn=2.24)、重合転化率から算出した共重合体組成はNaSS/St=66/34モル比だった。ロータリーエバポレーターを用いてイソプロパノールと水を減圧留去し、15重量%ポリマー水溶液を得た。
【0137】
<スチレンスルホン酸/スチレン共重合体の合成>
上記したNaSS/スチレン共重合体を、実施例19と同じ条件で限外濾過及びイオン交換処理してスチレンスルホン酸/スチレン共重合体の10.0重量%水溶液231.28gを得た。臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。
【0138】
<スチレンスルホン酸/スチレン共重合体の安定性>
実施例12と同様、上記で得たスチレンスルホン酸/スチレン共重合体水溶液をエージングし、臭素イオン濃度の変化を追跡した結果、表4に示した通り、実施例12と同様の安定性を有することが明らかである。NaSS中に含まれる結合臭素量が少ないため、即ち、前駆体であるBEBSに含まれることがある核臭素化体を低減したためと考えられる。
【0139】
実施例22 スチレンスルホン酸ナトリウム/メタクリル酸共重合体の製造
<NaSS/メタクリル酸共重合体の合成>
還流冷却管、窒素導入管、撹拌機を取付けた500ml三つ口製フラスコに実施例12で得た精製前のNaSS35.00g(純度88.5%、150.22ミリモル)、イオン交換水250.00g、メタクリル酸3.35g(38.52ミリモル)及び水溶性アゾ系ラジカル重合開始剤V-50を2.50g(9.13ミリモル)仕込んで溶解し、減圧脱気と窒素導入を繰返して脱酸素した。その後、フラスコを60℃の温浴に浸漬し、撹拌しながら25時間重合した。NaSSの重合転化率は100%、メタクリル酸の重合転化率は96%、数平均分子量は46,000、重量平均分子量は129,000(Mw/Mn=2.80)、重合転化率から算出した共重合体組成は、NaSS/MAA=80/20モル比だった。ロータリーエバポレーターを用いて水を減圧留去し15重量%ポリマー水溶液を得た。
【0140】
<スチレンスルホン酸/メタクリル酸共重合体の合成>
上記したNaSS/メタクリル酸共重合体を、実施例19と同じ条件で限外濾過及びイオン交換処理してスチレンスルホン酸/メタクリル酸共重合体の10.0重量%水溶液262.26gを得た。臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。
【0141】
<スチレンスルホン酸/メタクリル酸共重合体の安定性>
実施例12と同様、上記スチレンスルホン酸/メタクリル酸共重合体水溶液をエージングし、臭素イオン濃度の変化を追跡した結果、表4に示した通り、実施例12と同様の安定性を有することが明らかである。NaSS中に含まれる結合臭素量が少ないため、即ち、前駆体であるBEBSに含まれることがある核臭素化体を低減したためと考えられる。
【0142】
実施例23 リチウム ビス-(4-スチレンスルホニル)イミド(BVBSI-Li)の製造(1)
<4-スチレンスルホンアミドの合成>
還流冷却管、窒素導入管、滴下管を取り付けた300mLガラスフラスコ反応器に、実施例15で合成したClSS溶液30.0g(54.20ミリモル)、テトラヒドロフラン30.00gを採取し、室温で撹拌、溶解した。この溶液を0℃に冷却し、28%アンモニア水溶液(キシダ化学製)30.00g(493.25ミリモル)を1時間かけて滴下し、滴下終了後、室温で2時間撹拌した。反応終了後、イオン交換水30.00g、酢酸エチル30.00gを加え、分液操作を行い、4-スチレンスルホンアミドを含む有機層を得た。この有機層を濃縮し、4-スチレンスルホンアミドの白色固体6.05g(収率65%)を得た。
【0143】
<BVBSI-Liの合成>
還流冷却管、窒素導入管、滴下管を取り付けた100mlガラスフラスコ反応器に上記で得た4-スチレンスルホンアミド5.00g(28.96ミリモル)、水素化リチウム0.55g(65.72ミリモル)、脱水テトラヒドロフラン30.00gを採取し、窒素雰囲気下、室温で撹拌した。
次に、実施例15で合成したClSS溶液16.00g(28.59ミリモル)を上記スラリー溶液に常温で滴下し、滴下終了後、60℃に昇温して3時間撹拌した。ロータリーエバポレーターで溶媒を留去して白色固体を回収した。白色固体をジエチルエーテルで洗浄後、更にメタノールを用いて再結晶し、BVBSI-Liの白色結晶6.74g、ClSS基準の収率64%、H-NMR(内部標準物質1,3,5-トリメチルベンゼン)で求めた純度は94.0%だった。イオンクロマトグラフィーで求めた当該高純度BVBSI-Li中の臭素分、即ち、水溶液で分析した無機性の臭素分は1ppm未満であり、燃焼分解イオンクロマトグラフ法で求めた全臭素分は121ppmだった。
【0144】
合成例2 ポリスチレンスルホン酸リチウム架橋物の製造
実施例20で得たLiSS2.00g(10.21ミリモル)及び実施例23で得たBVBSI-Li0.50g(1.06ミリモル)、水溶性アゾ系重合開始剤V-50 0.005g(0.018ミリモル)をイオン交換水3.50gに溶解し、混合モノマー溶液を調製した。当該モノマー溶液を、PETフィルム製のスペーサー(厚さ0.5mm、5cm×5cm角のフィルム中央に3cm×3cmの窓をくり抜いたもの)を置いた透明ガラス板(厚さ1.5mm、5cm×5cm角)に滴下した後、同じ透明ガラス板を上から重ね合わせて、余分なモノマー溶液を排除した。2枚のガラス板を金属クリップで固定した後、ガラス面に対して垂直方向で5cmの距離から波長365nmのLED光を3.0時間照射した。尚、LED照射面から垂直方向に5cm離れた位置の照度は100mW/cmだった。金属クリップを外し、当該ガラス板をイオン交換水を満たした1Lポリビーカーに浸漬し、ビーカーを超音波洗浄機に浸漬して常温で10分間超音波処理した。その結果、ガラス板が外れ、膨潤したシート状の架橋物が得られた。
即ち、結合臭素が低減されたLiSS及びBVBSI-Liを用いることにより、経時での臭素の遊離が抑制された電解質膜や塗膜を簡便に形成できる。
【0145】
【表4】
【0146】
比較例8 4-スチレンスルホン酸ナトリウム(NaSS)の製造(4)
<NaSSの製造>
比較例5で得た69.7重量%-BEBS水溶液を用いた他は、全て実施例12と同じ操作を行い、NaSSの湿潤ケーキ311.60gを得た。
【0147】
<NaSSの精製>
上記で得たNaSSの湿潤ケーキを用いた他は、全て実施例12と同じ操作を行い、精製NaSSの湿潤ケーキ273.70gを得た。
当該精製NaSSを実施例12と同じ操作でイオン交換処理し、高純度NaSSの乾燥結晶32.80gを得た。純度は99.3重量%、水分は0.7重量%であり、高速液体クロマトグラフ法(HPLC)で分析した異性体等の有機不純物は、(a)オルソスチレンスルホン酸ナトリウム0.00%、(b)4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム0.00%、(c)メタスチレンスルホン酸ナトリウム0.32%、(d)ブロモスチレンスルホン酸ナトリウム0.01%、(e)4-(2-ヒドロキシエチル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム0.00%だった(但し、上記有機不純物とNaSSのHPLCピーク面積の総和を100とした時の面積比である)。即ち、当該高純度NaSS中のブロモスチレンスルホン酸ナトリウム含量は実施例12と同じだった。しかし全臭素分、即ち結合臭素を燃焼分解イオンクロマトグラフ法で定量した結果、実施例12~14より遥かに多い413ppmだった(表5)。核臭素化BEBSの含有量が多いBEBSを原料として用いたためと考えられる。
以下、実施例と同様、高純度NaSSをポリマー化してPSSへ誘導し、経時での臭素イオン濃度の変化(不安定な結合臭素の存在)を確認した。
【0148】
<ポリNaSSの製造>
上記で得た高純度NaSSを実施例12と同じ条件で重合し、数平均分子量Mn112,000、重量平均分子量Mw285,000のポリNaSS水溶液を得た。
【0149】
<PSSの調製と安定性の確認>
上記で得たポリNaSS水溶液を実施例12と同じ条件で精製し、10.00重量%PSS水溶液235.97gを得た。数平均分子量は112,000、重量平均分子量は285,000(Mw/Mn=2.54)、臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。
上記で得たPSS水溶液をエージングし、臭素イオン濃度の変化を追跡した結果、表5に示した通り、実施例12~14と比べて、経時での臭素イオンの増加が著しいことが明らかである。NaSSに含まれる結合臭素が多いため、即ち、前駆体であるBEBSに含まれる核臭素化体が多いためと考えられる。
【0150】
比較例9 4-スチレンスルホン酸ナトリウムの合成(5)
<NaSSの合成>
比較例1で得た72.1重量%-BEBS水溶液を原料として用いた他は、全て実施例12と同じ条件でNaSSの湿潤結晶325.46gを得た。
【0151】
<NaSSの精製>
上記で得たNaSSを実施例12と同じ条件でイオン交換処理して高純度NaSSの結晶32.50gを得た。乾燥後の純度は99.5重量%、水分は0.5重量%、臭化イオンは1ppm未満であり、全臭素分は665ppmだった。実施例12~14と比べて全臭素量が多いことが明らかである(表5)。核臭素化BEBSの含有量が多いBEBSを原料として用いたためと考えられる。
実施例12と同様に、高純度NaSSをポリマー化してPSSへ誘導し、経時での臭素イオン濃度の変化(不安定な結合臭素の存在)を確認した。
【0152】
<ポリNaSSの合成>
上記で得た高純度NaSSを用いた他は、全て実施例12と同じ条件でポリNaSS水溶液を得た。数平均分子量Mnは113,000、重量平均分子量Mwは291,000(Mw/Mn=2.56)だった。
【0153】
<PSSの調製と安定性の確認>
上記で得たポリNaSS水溶液を用いた他は、全て実施例12と同じ条件で限外濾過及びイオン交換処理して10.0重量%PSS水溶液238.48gを得た。数平均分子量は113,000、重量平均分子量は291,000、臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。
上記で得たPSS水溶液をエージングし、臭素イオン濃度の変化を追跡した結果、表5に示した通り、実施例12~14と比べて、経時での臭素イオンの増加が著しいことが明らかである。NaSS中の結合臭素量が多いため、即ち、前駆体であるBEBSに含まれる核臭素化体が多いためと考えられる。
【0154】
比較例10 4-スチレンスルホン酸ナトリウムの合成(6)
<NaSSの合成>
比較例2で得た70.8重量%-BEBS水溶液を原料として用いた他は、全て実施例12と同じ条件でNaSSの湿潤結晶315.02gを得た。
【0155】
<NaSSの精製>
上記で得たNaSSを実施例12と同じ条件でイオン交換処理して高純度NaSSの結晶32.00gを得た。乾燥後の純度は99.5重量%、水分は0.5重量%、臭化イオンは1ppm未満であり、全臭素分は1264ppmだった。実施例12~14と比べて全臭素量が多いことが明らかである(表5)。核臭素化BEBSの含有量が多いBEBSを原料として用いたためと考えられる。
実施例12と同様に、NaSSをポリマー化してPSSへ誘導し、経時での臭素イオン濃度の変化(不安定な結合臭素の存在)を確認した。
【0156】
<ポリNaSSの合成>
上記で得た高純度NaSSを用いた他は、全て実施例12と同じ条件でポリNaSS水溶液を得た。数平均分子量Mnは112,000、重量平均分子量Mwは283,000(Mw/Mn=2.53)だった。
【0157】
<PSSの調製と安定性の確認>
上記で得たポリNaSS水溶液を用いた他は、全て実施例12と同じ条件で限外濾過及びイオン交換処理して10.0重量%PSS水溶液238.48gを得た。数平均分子量は112,000、重量平均分子量は283,000(Mw/Mn=2.53)、臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。
実施例12と同様、上記PSS水溶液をエージングし、臭素イオン濃度の変化を追跡した結果、表5に示した通り、実施例12~14と比べて、経時での臭素イオンの増加が著しいことが明らかである。NaSS中の結合臭素量が多いため、即ち、前駆体であるBEBSに含まれる核臭素化体が多いためと考えられる。
【0158】
比較例11 4-スチレンスルホン酸ナトリウムの合成(7)
<NaSSの合成>
比較例4で得た72.3重量%-BEBS水溶液を原料として用いた他は、全て実施例12と同じ条件でNaSSの湿潤結晶327.31gを得た。
【0159】
<NaSSの精製>
上記で得たNaSSを実施例12と同じ条件でイオン交換処理して高純度NaSSの結晶31.60gを得た。乾燥後の純度は99.4重量%、水分は0.6重量%、臭化イオンは1ppm未満であり、全臭素分は4463ppmだった。実施例12~14と比べて全臭素量が多いことが明らかである。核臭素化BEBSの含有量が多いBEBSを原料として用いたためと考えられる。
実施例12と同様に、NaSSをポリマー化してPSSへ誘導し、経時での臭素イオン濃度の変化(不安定な結合臭素の存在)を確認した。
【0160】
<ポリNaSSの合成>
上記で得た高純度NaSSを用いた他は、全て実施例12と同じ条件でポリNaSS水溶液を得た。数平均分子量Mnは113,000、重量平均分子量Mwは285,000(Mw/Mn=2.52)だった。
【0161】
<PSSの調製と安定性の確認>
上記で得たポリNaSS水溶液を用いた他は、全て実施例12と同じ条件で限外濾過及びイオン交換処理して10.0重量%PSS水溶液244.69gを得た。数平均分子量は113,000、重量平均分子量は285,000(Mw/Mn=2.52)、臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。
実施例12と同様、上記PSS水溶液をエージングし、臭素イオン濃度の変化を追跡した結果、表5に示した通り、実施例12~14と比べて、経時での臭素イオンの増加が著しいことが明らかである。NaSS中の結合臭素量が多いため、即ち、前駆体であるBEBSに含まれる核臭素化体が多いためと考えられる。
【0162】
比較例12 4-スチレンスルホン酸エチルの合成(4)
<4-スチレンスルホン酸エチルの合成>
原料として比較例9で得た高純度NaSSを用いた他は、全て実施例15と同様の操作でETSS11.80gを得た。ガスクロマトグラフで求めた面積%基準の純度は93.0%だった。イオンクロマトグラフ法で求めた当該ETSS中の臭素分、即ち、純水で抽出された無機性の臭素分は1ppm未満、燃焼分解イオンクロマトグラフ法で求めた全臭素分は651ppmであり、実施例15~17と比べて臭素分が多いことが明らかである(表5)。核臭素化BEBSの含有量が多いBEBSから誘導したNaSSを原料として用いたためと考えられる。
更に以下の方法により、ETSSをポリマー化してPSSへ誘導し、経時での臭素イオン濃度の変化(不安定な結合臭素の存在)を確認した。
【0163】
<ポリETSSの合成>
原料として上記で得たETSSを用いた他は、全て実施例15と同じ条件でETSSを重合し、ポリETSSを得た。
【0164】
<PSSの調製と安定性の確認>
原料として上記で得たポリETSSを用いた他は、全て実施例15と同じ条件で10.0重量%PSS水溶液26.88gを得た。数平均分子量は9,000、重量平均分子量は12,000(Mw/Mn=1.33)、臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。
実施例12と同様、上記PSS水溶液をエージングし、臭素イオン濃度の変化を追跡した結果、表5に示した通り、実施例15~17と比べて、経時での臭素イオンの増加が著しいことが明らかである。ETSS中の結合臭素量が多いため、即ち、前駆体であるBEBSに含まれる核臭素化体が多いためと考えられる。
【0165】
比較例13 4-スチレンスルホン酸エチルの合成(5)
<ETSSの合成>
原料として比較例10で得た高純度NaSSを用いた他は、全て実施例15と同じ条件でETSS11.90gを得た。ガスクロマトグラフで求めた面積%基準の純度は93.0%だった。イオンクロマトグラフ法で求めた当該ETSS中の臭素分、即ち、純水で抽出された無機性の臭素分は1ppm未満、燃焼分解イオンクロマトグラフ法で求めた全臭素分は1331ppmであり、実施例15~17と比べて臭素分が多いことが明らかである(表5)。核臭素化BEBSの含有量が多いBEBSから誘導したNaSSを原料として用いたためと考えられる。
更に以下の方法により、ETSSをポリマー化してPSSへ誘導し、経時での臭素イオン濃度の変化(不安定な結合臭素の存在)を確認した。
【0166】
<ポリETSSの合成>
原料として上記で得たETSSを用いた他は、全て実施例15と同様の条件でETSSを重合し、ポリETSSを得た。
【0167】
<PSSの調製と安定性の確認>
原料として上記で得たポリETSSを用いた他は、全て実施例15と同様の操作で10.0重量%PSS水溶液26.99gを得た。数平均分子量は9,000、重量平均分子量は12,000(Mw/Mn=1.33)、臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。
実施例12と同様、上記PSS水溶液をエージングし、臭素イオン濃度の変化を追跡した結果、表5に示した通り、実施例15~17と比べて、経時での臭素イオンの増加が著しいことが明らかである。ETSS中の結合臭素量が多いため、即ち、前駆体であるBEBSに含まれる核臭素化体が多いためと考えられる。
【0168】
比較例14 4-スチレンスルホン酸エチルの合成(6)
<ETSSの合成>
原料として比較例11で得た高純度NaSSを用いた他は、全て実施例15と同じ条件でETSS11.95gを得た。ガスクロマトグラフで求めた面積%基準の純度は94.0%だった。イオンクロマトグラフィーで求めた当該ETSS中の臭素分、即ち、純水で抽出された無機性の臭素分は1ppm未満、燃焼分解イオンクロマトグラフ法で求めた全臭素分は4667ppmであり、実施例15~17と比べて臭素分が多いことが明らかである(表5)。核臭素化BEBSの含有量が多いBEBSから誘導したNaSSを原料として用いたためと考えられる。
更に以下の方法により、ETSSをポリマー化してPSSへ誘導し、経時での臭素イオン濃度の変化(不安定な結合臭素の存在)を確認した。
【0169】
<ポリスETSSの合成>
原料として上記で得たETSSを用いた他は、全て実施例15と同じ条件でETSSを重合しポリETSSを得た。
【0170】
<PSSの調製と安定性の確認>
原料として上記で得たポリETSSを用いた他は、全て実施例15と同様の操作で10.0重量%PSS水溶液26.10gを得た。数平均分子量は9,000、重量平均分子量は11,000(Mw/Mn=1.22)、臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。
上記PSS水溶液をエージングし、臭素イオン濃度を追跡した結果、表5に示した通り、実施例15~17と比べて、経時での臭素イオンの増加が著しいことが明らかである。ETSS中の結合臭素量が多いため、即ち、前駆体であるBEBSに含まれる核臭素化体が多いためと考えられる。
【0171】
比較例15 4-スチレンスルホン酸ネオペンチルの合成(2)
<NPSSの合成>
原料として比較例9で得た高純度NaSSを用いた他は、仕込み重量など全て実施例15と同じ条件でClSS溶液を調製し、実施例18と同じ条件でNPSSの白色結晶35.10gを得た。ClSS基準の収率は24%、H-NMR(内部標準物質1,3,5-トリメチルベンゼン)で求めた純度は97.3%だった。イオンクロマトグラフ法で求めた当該NPSS中の臭素分、即ち、純水で抽出された無機性の臭素分は1ppm未満、燃焼分解イオンクロマトグラフ法で求めた全臭素分は649ppmであり、実施例18と比べて臭素分が多いことが明らかである(表5)。核臭素化BEBSの含有量が多いBEBSから誘導したNaSSを原料として用いたためと考えられる。
実施例18と同様、NPSSをポリマー化してPSSへ誘導し、経時での臭素イオン濃度の変化(不安定な結合臭素の存在)を確認した。
【0172】
<ポリNPSSの合成>
原料として上記で得たNPSSを用いた他は、全て実施例18と同様の操作でポリNPSS6.99g(NPSS基準の収率は71%)を得た。
【0173】
<PSSの調製と安定性の確認>
原料として上記で得たポリNPSSを用いた他は、全て実施例18と同じ操作を行い10.00重量%PSS水溶液57.32gを得た。数平均分子量は9,000、重量平均分子量は11,000(Mw/Mn=1.22)、臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。
実施例12と同様、上記PSS水溶液をエージングし、臭素イオン濃度を追跡した結果、表5に示した通り、実施例18と比べて、経時での臭素イオンの増加が著しいことが明らかである。NPSS中の結合臭素量が多いため、即ち、前駆体であるBEBSに含まれることがある核臭素化体が多いためと考えられる。
【0174】
比較例16 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニルイミド)ナトリウム(TfNS-Na)の製造(2)
<TfNS-Naの合成>
原料として比較例9で得た高純度NaSSを用いた他は、全て実施例19と同様の操作でTfNS-Na24.65gを得た(収率73%)。
【0175】
<TfNS-Naの精製>
上記で得たTfNS-Naを実施例19と同じ操作でイオン交換し、水酸化ナトリウムで中和することにより、高純度TfNS-Naの結晶20.60gを得た。H-NMR(内部標準物質1,3,5-トリメチルベンゼン)で求めた乾燥後の純度は98.3重量%、水分は1.5重量%、イオンクロマトグラフ法で求めた臭素イオン濃度は1ppm未満であり、燃焼分解イオンクロマトグラフ法で求めた全臭素分は642ppmだった。実施例19と比べて結合臭素量が多いことが明らかである(表5)。核臭素化BEBSの含有量が多いBEBSから誘導したNaSSを原料として用いたためと考えられる。
実施例19と同様、TfNS-NaをポリTfNS-Hへ誘導し、経時での臭素イオン濃度の変化(不安定な結合臭素の存在)を確認した。
【0176】
<ポリTfNS-Hの調製と安定性の確認>
上記で得たTfNS-Naを用いた他は、全て実施例19と同条件でポリTfNS-Naを合成した。重合転化率は98.7%、数平均分子量は35,000、重量平均分子量は82,000(Mw/Mn=2.34)だった。続いて実施例19と同条件で限外濾過及びイオン交換処理を行うことにより、10重量%ポリTfNS-H水溶液149.79gを得た。臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。
実施例12と同様、上記ポリTfNS水溶液をエージングし、臭素イオン濃度を追跡した結果、表5に示した通り、実施例19と比べて、経時での臭素イオンの増加が著しいことが明らかである。TfNS-Na中の結合臭素量が多いため、即ち、前駆体であるBEBSに含まれることがある核臭素化体が多いためと考えられる。
【0177】
比較例17 4-スチレンスルホン酸リチウムの製造(2)
<LiSSの合成>
原料として比較例4の72.3重量%-BEBS水溶液を用いた他は、全て実施例20と同じ条件でLiSSの湿潤ケーキ203.50gを得た。
【0178】
<LiSSの精製>
実施例20と同じ条件で上記LiSSを精製し、乾燥LiSS73.50gを得た。
純度は98.6重量%、水分は1.40重量%、臭素イオンは1ppm未満であり、全臭素分は4339ppmだった。実施例20と比べて全臭素量が多いことが明らかである(表5)。原料に用いたBEBS中の核臭素化BEBSが多かったためと考えられる。
実施例20と同様、LiSSをポリマー化してPSSへ誘導し、経時での臭素イオン濃度の増加(不安定な結合臭素の存在)を確認した。
【0179】
<ポリLiSSの合成>
上記で得たLiSSを用いた他は全て実施例20と同じ条件でポリマー化した。重合転化率は99.7%、数平均分子量は39,000、重量平均分子量は91,000(Mw/Mn=2.33)だった。
【0180】
<PSSの調製と安定性の確認>
上記で得たポリLiSS水溶液を実施例20と同じ条件で限外濾過及びイオン交換処理することにより、10.0重量%PSS水溶液242.56gを得た。臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。
実施例20と同様に、上記で得たPSS水溶液をエージングし、臭素イオン濃度を追跡した。表5に示した通り、実施例20と比べて、経時での臭素イオンの増加が大きいことが明らかである。LiSS中の結合臭素量が多いため、即ち、前駆体であるBEBSに含まれることがある核臭素化体が多いためと考えられる。
【0181】
比較例18 リチウム ビス-(4-スチレンスルホニル)イミド(BVBSI-Li)の製造
<4-ビニルベンゼンスルホンアミドの合成>
原料として比較例14で合成したClSS溶液を用いた他は、仕込む重量など全て実施例23と同じ条件で4-スチレンスルホンアミドの白色固体6.10g(収率66%)を得た。
【0182】
<BVBSI-Liの合成>
上記で得た4-スチレンスルホンアミドと比較例14で合成したClSS溶液を用いた他は、仕込み重量など全て実施例23と同じ条件でBVBSI-Liの白色結晶6.25gを得た。ClSS基準の収率60%、H-NMR(内部標準物質1,3,5-トリメチルベンゼン)で求めた純度は93.3%だった。イオンクロマトグラフィーで求めた当該高純度BVBSI-Li中の臭素分、即ち、水溶液で分析した無機性の臭素分は1ppm未満であり、燃焼分解イオンクロマトグラフ法で求めた全臭素分は4556ppmだった。
【0183】
実施例24 ポリスチレンスルホン酸(PSS)の製造(1)
<ポリNaSSの合成>
実施例12において、高純度NaSSを重合した後、窒素気流下、48重量%水酸化ナトリウム水溶液1.64gを添加して60℃で24時間加熱する代わりに、48重量%水酸化ナトリウム水溶液1.65g及び次亜リン酸ナトリウム一水和物1.86gを添加し、溶液pH≧13以上を維持しながら110℃で15時間撹拌を続けてポリNaSS水溶液を得た。
ポリNaSSの数平均分子量Mnは114,000、重量平均分子量Mwは285,000(Mw/Mn=2.50)だった。
【0184】
<PSSの調製と安定性の確認>
上記ポリNaSS水溶液を実施例12と同様の操作で精製し、10.00重量%PSS水溶液230.05gを得た。数平均分子量は114,000、重量平均分子量は282,000(Mw/Mn=2.47)、臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。実施例12と同様、PSS固体を取得し、ハロゲン分を分析した結果、全臭素分は63ppmであり、実施例12よりも減少していた。ポリNaSSを精製する前に、適切に化学処理することによって、結合臭素の一部が遊離したためと考えられる。尚、PSS固体中の全塩素分は1ppm未満だった。
実施例12と同様、上記10重量%PSS水溶液を70℃でエージングし、臭素イオン濃度の変化を追跡した結果、表5に示した通り、実施例12と比べて、更に経時での臭素イオンの増加が抑制されていることが明らかである。
【0185】
実施例25 ポリスチレンスルホン酸(PSS)の製造(2)
<ポリNaSSの合成>
実施例13において、高純度NaSSを重合した後、窒素気流下、48重量%水酸化ナトリウム水溶液1.64gを添加して60℃で24時間加熱する代わりに、48重量%水酸化ナトリウム水溶液1.65gを添加して溶液pH≧13を維持しながら110℃で20時間攪拌を続けることにより、ポリNaSS水溶液を得た。
ポリNaSSの数平均分子量Mnは114,000、重量平均分子量Mwは285,000(Mw/Mn=2.50)だった。
【0186】
<PSSの調製と安定性の確認>
上記で得たポリNaSS水溶液を実施例13と同様の操作で精製し、10.00重量%PSS水溶液231.30gを得た。PSSの数平均分子量は112,000、重量平均分子量は281,000(Mw/Mn=2.51)、臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。実施例12と同様にPSS固体を取得し、全臭素分を分析した結果、35ppmであり、実施例13よりも減少していた。ポリNaSSを精製する前に、適切に化学処理することによって、結合臭素の一部に遊離したためと考えられる。尚、PSS固体中の全塩素分は1ppm未満だった。
実施例13と同様、上記10重量%PSS水溶液を70℃でエージングし、臭素イオン濃度の変化を追跡した結果、表5に示した通り、実施例13と比べて、経時での臭素イオンの増加が更に抑制されていることが明らかである。
【0187】
実施例26 ポリスチレンスルホン酸(PSS)の製造(3)
<ポリNaSSの合成>
実施例14において、高純度NaSSを重合した後、窒素気流下、48重量%水酸化ナトリウム水溶液1.64gを添加して60℃で24時間加熱する代わりに、48重量%水酸化ナトリウム水溶液2.01g及び次亜リン酸ナトリウム一水和物1.90gを添加して溶液pH≧13を維持しながら110℃で15時間攪拌を続けることにより、ポリNaSS水溶液を得た。
ポリNaSSの数平均分子量Mnは114,000、重量平均分子量Mwは285,000(Mw/Mn=2.50)だった。
【0188】
<PSSの調製と安定性の確認>
上記で得たポリNaSS水溶液を実施例14と同じ操作で精製し、10.00重量%PSS水溶液232.02gを得た。PSSの数平均分子量は113,000、重量平均分子量は282,000(Mw/Mn=2.50)、臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。実施例12と同様にPSS固体を取得し、全臭素分を分析した結果、91ppmであり、実施例14よりも減少していた。ポリNaSSを精製する前に、適切に化学処理することによって、結合臭素の一部が遊離したためと考えられる。尚、全塩素分は1ppm未満だった。
実施例14と同様、上記10重量%PSS水溶液を70℃でエージングし、臭素イオン濃度の変化を追跡した。その結果、表5に示した通り、実施例14と比べて、経時での臭素イオンの増加が更に抑制されていることが明らかである。ポリNaSSを精製する前に、適切に化学処理することによって、結合臭素の一部が遊離したためと考えられる。
【0189】
実施例27 スチレンスルホン酸/スチレン(SS/St)共重合体の製造
<NaSS/スチレン共重合体の合成>
実施例21において、精製する前の15重量%NaSS/スチレン共重合体水溶液に、窒素気流下、48重量%水酸化ナトリウム水溶液1.65gを添加して溶液pH≧13を維持したまま90℃で24時間攪拌してNaSS/スチレン共重合体水溶液を得た。
共重合体の数平均分子量Mnは33,000、重量平均分子量Mwは74,000(Mw/Mn=2.24)だった。
【0190】
<PSSの調製と安定性の確認>
上記で得たNaSS/スチレン共重合体を、実施例21と同様の操作で精製し、10.00重量%スチレンスルホン酸/スチレン共重合体水溶液229.50gを得た。酸型共重合体の数平均分子量Mnは33,000、重量平均分子量Mwは74,000(Mw/Mn=2.24)、臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。
上記10重量%共重合体水溶液を70℃でエージングし、臭素イオン濃度の変化を追跡した結果、表5に示した通り、実施例21と比べて、経時での臭素イオンの増加が更に抑制されていることが明らかである。ポリマーを精製する前に、適切に化学処理することによって、結合臭素の一部が遊離したためと考えられる。
【0191】
実施例28 スチレンスルホン酸/メタクリル酸(SS/MAA)共重合体の製造
<NaSS/メタクリル酸共重合体の合成>
実施例22において、精製する前の15wt%NaSS/MAA共重合体水溶液に、窒素気流下、48重量%水酸化ナトリウム水溶液5.00gを添加して溶液≧pH13を維持しながら90℃で24時間攪拌を続けて、NaSS/メタクリル酸共重合体を得た。数平均分子量は46,000、重量平均分子量は129,000(Mw/Mn=2.80)だった。
【0192】
<スチレンスルホン酸/メタクリル酸共重合体の合成と安定性の確認>
上記したNaSS/メタクリル酸共重合体を、実施例22と同じ条件で限外濾過及びイオン交換処理してスチレンスルホン酸/メタクリル酸共重合体の10.0重量%水溶液258.06gを得た。臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。実施例12と同様にスチレンスルホン酸/メタクリル酸共重合体の固体を取得し、全臭素分を分析した結果、45ppmであり、全塩素分は1ppm未満だった。
【0193】
<スチレンスルホン酸/メタクリル酸共重合体の安定性>
実施例22と同様、上記10重量%スチレンスルホン酸/メタクリル酸共重合体水溶液を70℃でエージングし、臭素イオン濃度の変化を追跡した結果、表5に示した通り、実施例22と比べて、経時での臭素イオンの増加が更に抑制されていることが明らかである。ポリマーを精製する前に、適切に化学処理することによって、結合臭素の一部が遊離したためと考えられる。
【0194】
実施例29 ポリスチレンスルホン酸(PSS)の製造(4)
<ポリNaSSの合成>
実施例12において、高純度NaSSを重合した後、窒素気流下、48重量%水酸化ナトリウム水溶液1.64gを添加して60℃で24時間加熱する代わりに、ギ酸ナトリウム0.50g及びパラジウム炭素(Pd含量5wt%)0.05gを添加して、そのまま90℃で24時間攪拌を続けた。その後、当該ポリマー溶液を孔径0.45μmのメンブレンフィルターで濾過してパラジウム炭素を除去した。
ポリNaSSの数平均分子量Mnは114,000、重量平均分子量Mwは285,000(Mw/Mn=2.50)だった。
【0195】
<PSSの調製と安定性の確認>
上記で得たポリNaSS水溶液を実施例12と同じ操作で精製し、10.00重量%PSS水溶液230.36gを得た。PSSの数平均分子量は114,000、重量平均分子量は282,000、臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。実施例12と同様に共重合体の固体を取得し、全臭素分を分析した結果、51ppmであり、全塩素分は1ppm未満だった。
実施例12と同様、上記10重量%PSS水溶液を70℃でエージングし、臭素イオン濃度の変化を追跡した結果、表5に示した通り、実施例14と比べて、経時での臭素イオンの増加が更に抑制されていることが明らかである。ポリNaSSの化学処理によって、結合臭素の一部が遊離したためと考えられる。
【0196】
比較例19 ポリスチレンスルホン酸の製造(5)
<ポリNaSSの合成>
比較例11において、高純度NaSSを重合した後、窒素気流下、48重量%水酸化ナトリウム水溶液1.64gを添加して60℃で24時間加熱する代わりに、48wt%水酸化ナトリウム水溶液2.02gを添加して溶液pH≧13を維持したまま110℃で15時間攪拌することにより、ポリNaSS水溶液を得た。数平均分子量Mnは113,000、重量平均分子量Mwは285,000(Mw/Mn=2.52)だった。
【0197】
<PSSの調製と安定性の確認>
上記で得たポリNaSS水溶液を用いた他は、全て比較例11と同じ条件で限外濾過及びイオン交換処理して10.0重量%PSS水溶液240.61gを得た。数平均分子量は113,000、重量平均分子量は283,000、臭素イオン濃度は1ppm未満、ナトリウム分は1ppm未満だった。実施例12と同様にPSS固体を取得し、全臭素分を分析した結果、2721ppmであり、全塩素分は1ppm未満だった。
比較例11と同様、上記10重量%PSS水溶液をエージングし、臭素イオン濃度の変化を追跡した結果、表5に示した通り、経時での臭素イオンの増加は、比較例11と比べて半減しているが、実施例12~14及び実施例25と比べて著しく大きいことが明らかである。ポリNaSSを適正条件で化学処理したものの、NaSS中の結合臭素量が多すぎたため、即ち、前駆体であるBEBSに含まれる核臭素化体が多すぎたためと考えられる。
【0198】
【表5】
【0199】
実施例30 ポリスチレンスルホン酸組成物の製造(1)
実施例27で得た10重量%スチレンスルホン酸/スチレン共重合体水溶液にハイドロキノン(ポリマー純分に対して700ppm)を添加し、サンプル瓶に小分けして密閉し、70℃のオーブン中でエージングすることにより、分子量と臭素イオン濃度の変化を追跡した。その結果、表6に示した通り、臭素イオンの増加は小さく、且つ比較例20と比べて、分子量の低下が著しく抑制されたことが明らかである。
【0200】
実施例31 ポリスチレンスルホン酸組成物の製造(2)
実施例27で得た10重量%スチレンスルホン酸/スチレン共重合体水溶液に4-メトキシフェノール(ポリマー純分に対して1500ppm)を添加し、実施例30と同様、重量平均分子量と臭素イオン濃度の変化を追跡した。その結果、表6に示した通り、臭素イオンの増加は小さく、且つ比較例20と比べて、分子量の低下が著しく抑制されたことが明らかである。
【0201】
比較例20 ポリスチレンスルホン酸組成物の製造(3)
実施例27で得た10重量%スチレンスルホン酸/スチレン共重合体水溶液に4-メトキシフェノール(ポリマー純分に対して10ppm)を添加し、実施例30と同様、重量平均分子量と臭素イオン濃度の変化を追跡した。その結果、表6に示した通り、臭素イオンの増加は小さいが、実施例30及び31と比べて、分子量の低下が著しいことが明らかである。
【0202】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0203】
本発明の核臭素化体が低減された4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸は、結合臭素が低減されたスチレンスルホン酸類及びそのポリマーを製造するための前駆体として有用であり、結合臭素が低減されたスチレンスルホン酸類及びそのポリマーは、二次電池の改質剤、導電性ポリマーのドーパント、半導体研磨剤や洗浄剤用の添加剤、フォトレジスト、有機EL素子など、特に電材用途で極めて有用である。
【符号の説明】
【0204】
A:4-(2-ヒドロキシエチル)ベンゼンスルホン酸のピーク
B:BEBSのパラ体のピーク
C:BEBSのオルソ体のピーク
D:4-(1-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸のピーク
E:2-ブロモ-4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸(核臭素化BEBS)
のピーク
a:オルソスチレンスルホン酸ナトリウムのピーク位置
b:4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸ナトリウムのピーク位置
c:メタスチレンスルホン酸ナトリウムのピーク位置
d:ブロモスチレンスルホン酸ナトリウムのピーク位置
e:4-(2-ヒドロキシエチル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム由来のピーク位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6