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特開2023-13330リチウム複合酸化物の再生方法及びナトリム複合酸化物の再生方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013330
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】リチウム複合酸化物の再生方法及びナトリム複合酸化物の再生方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20230119BHJP
   C22B 26/12 20060101ALI20230119BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B26/12
C01G53/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117420
(22)【出願日】2021-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 勝弥
(72)【発明者】
【氏名】獅野 和幸
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲也
【テーマコード(参考)】
4G048
4K001
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB01
4G048AC06
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE02
4G048AE05
4K001AA34
4K001BA22
4K001CA09
4K001DB22
(57)【要約】
【課題】劣化したリチウム複合酸化物を、低コストで、かつ、優れた容量特性を有する活物質として再生する方法を提供する。
【解決手段】劣化したリチウムイオン二次電池の活物質であるリチウム複合酸化物の再生方法であって、劣化したリチウムイオン二次電池から、リチウム複合酸化物を回収する工程と、回収した前記リチウム複合酸化物と、リチウム源と、フラックス源とを混合して、フラックス法により、リチウム複合酸化物を結晶育成する工程とを含む。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
劣化したリチウムイオン二次電池の活物質であるリチウム複合酸化物の再生方法であって、
劣化したリチウムイオン二次電池から、リチウム複合酸化物を回収する工程(A)と、
回収した前記リチウム複合酸化物と、リチウム源と、フラックス源とを混合して、フラックス法により、リチウム複合酸化物を結晶育成する工程(B)と、
を含む、リチウム複合酸化物の再生方法。
【請求項2】
前記工程(B)において、フラックス法により、回収前の前記リチウム複合酸化物と同一の化学組成からなるリチウム複合酸化物が結晶育成される、請求項1に記載のリチウム複合酸化物の再生方法。
【請求項3】
前記工程(B)は、前記フラックス源の融液に、回収した前記リチウム複合酸化物、及び前記リチウム源を溶解させた後、前記フラックス源を冷却または蒸発させることにより行われる、請求項1に記載のリチウム複合酸化物の再生方法。
【請求項4】
前記工程(A)において、回収した前記リチウム複合酸化物は、リチウムの一部が抜けた状態になっており、
前記工程(B)において、前記リチウム源から、前記リチウム複合酸化物における抜けたリチウムの一部が補充される、請求項1に記載のリチウム複合酸化物の再生方法。
【請求項5】
前記工程(B)の後、結晶育成された前記リチウム複合酸化物から、前記フラックス源を除去する工程をさらに含む、請求項1に記載のリチウム複合酸化物の再生方法。
【請求項6】
前記リチウム複合酸化物は、Co、Ni,Mn、Fe、Al、Tiの群から選ばれる1種以上の金属を含む、請求項1~5の何れか1項に記載のリチウム複合酸化物の再生方法。
【請求項7】
前記フラックス源は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、硫酸ナトリウム、硝酸リチウム、ホウ酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウムの群から選ばれる1種以上の化合物を含む、請求項1~5の何れか1項に記載のリチウム複合酸化物の再生方法。
【請求項8】
前記リチウム源は、硝酸リチウム、ホウ酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウムの群から選ばれる1種以上の化合物を含む、請求項1~5の何れか1項に記載のリチウム複合酸化物の再生方法。
【請求項9】
前記リチウム源及び前記フラックス源は、同一材料からなる、請求項1~5の何れか1項に記載のリチウム複合酸化物の再生方法。
【請求項10】
劣化したナトリウムイオン二次電池の活物質であるナトリウム複合酸化物の再生方法であって、
劣化したナトリウムイオン二次電池から、ナトリウム複合酸化物を回収する工程と、
回収した前記ナトリウム複合酸化物と、ナトリウム源と、フラックス源とを混合して、フラックス法により、ナトリウム複合酸化物を結晶育成する工程と、
を含む、ナトリウム複合酸化物の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充放電等により劣化したリチウムイオン二次電池の活物質であるリチウム複合酸化物の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の正極活物質には、希少金属であるコバルト等の遷移金属を多く含むため、リチウムイオン二次電池の材料コストを上昇させる要因になっている。そのため、使用済みのリチウムイオン二次電池からコバルト等の遷移金属を回収して、正極活物質を再生産する技術が求められている。
【0003】
従来、リチウムイオン二次電池から、コバルト等の遷移金属を回収する方法として、リチウムイオン二次電池を電気炉で焼結後、粉砕して回収する乾式方法(特許文献1)や、正極活物質を溶解して、水酸化物または金属酸化物として回収する湿式方法(特許文献2)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-046266号公報
【特許文献2】特開2003-157913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のコバルト等の遷移金属の回収方法は、工程が複雑で、設備が大がかりなるため、正極活物質の再生産コストがかかるという問題がある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであって、その主な目的は、充放電等により劣化したリチウムイオン二次電池の活物質であるリチウム複合酸化物を、低コストで、かつ、優れた容量特性を有する活物質として再生することが可能な、リチウム複合酸化物の再生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るリチウム複合酸化物の再生方法は、劣化したリチウムイオン二次電池の活物質であるリチウム複合酸化物の再生方法であって、劣化したリチウムイオン二次電池から、リチウム複合酸化物を回収する工程と、回収したリチウム複合酸化物と、リチウム源と、フラックス源とを混合して、フラックス法により、リチウム複合酸化物を結晶育成する工程とを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、充放電等により劣化したリチウムイオン二次電池の活物質であるリチウム複合酸化物を、低コストで、かつ、優れた容量特性を有する活物質として再生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(A)、(B)は、X線回折法を用いて測定した正極活物質の回折パターンである。
図2】(A)、(B)は、正極活物質の結晶粒子の表面状態を観察した走査電子顕微鏡写真である。
図3】固相法により再生した正極活物質のX線回折パターンである。
図4】フラックス法により再生した正極活物質のX線回折パターンである。
図5】再生した正極活物質を用いて作製したリチウムイオン二次電池の放電容量のサイクル特性を示したグラフである。
図6】再生した正極活物質を用いて作製したリチウムイオン二次電池の充放電特性を示したグラフである。
図7】フラックス法により、劣化した活物質を再生する工程を説明したフロー図ある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を説明する前に、本発明を想到するに至った経緯を説明する。
【0011】
表1は、充放電サイクルを繰り返して、放電容量がほぼゼロになったリチウムイオン二次電池の正極活物質を、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析装置を用いて、充放電サイクル後の正極活物質の組成比を測定した結果を示した表である。
【0012】
ここで、リチウムイオン二次電池に使用されている正極活物質は、三元系(LiNiMnCo)の活物質で、表1は、三元系[Li(Ni-Mn-Co)O]の正極活物質を構成する各元素のモル比を示す。表1には、比較のため、合成後の正極活物質の組成比を測定した結果も示している。
【0013】
【表1】
【0014】
表1に示すように、充放電を繰り返した正極活物質は、ニッケル、コバルト、マンガンの組成比は変化していないが、リチウムの組成比が減少しているのが分かる。すなわち、充放電を繰り返した正極活物質は、リチウムイオンが出入りする過程で、リチウムの一部が、結晶構造から抜け出たものと考えられる。
【0015】
さらに、充放電サイクルを繰り返して、放電容量がほぼゼロになった正極活物質の結晶構造の変化を調べるために、X線回折法を用いて、リチウムの一部が抜けた正極活物質の結晶構造を測定した。
【0016】
図1(A)、(B)は、その結果を示した回折パターンで、図1(A)は、充放電サイクル前の回折パターンを示し、図1(B)は、充放電サイクル後の回折パターンを示す。なお、横軸は回折角度(2θ)、縦軸は回折X線強度を示す。
【0017】
図1(B)に示すように、充放電サイクルを繰り返して、放電容量がほぼゼロになった正極活物質は、回折X線強度のピ-ク値が減少しており、結晶構造が劣化しているのが分かる。
【0018】
さらに、結晶構造が劣化した正極活物質の原子配列の変化を調べるために、図1(A)、(B)の回折パターンから、それぞれ、正極活物質の原子配列を示すカチオンミキシング、及びヘキサゴナルオーダリングを評価した。
【0019】
表2は、その結果を示した表で、カチオンミキシングは、I(003)面/I(104)面で求め、ヘキサゴナルオーダリングは、[I(006)面+I(102)面)]/I(101)面で求めた。ここで、I(003)面、I(104)面、I(006)面は、それぞれ、(003)面、(104)面、(006)面に対応する回折角度における回折X線強度のピ-ク値を示す。
【0020】
【表2】
【0021】
表2に示すように、充放電サイクル後のカチオンミキシングは、充放電サイクル前よりも低下しており、また、充放電サイクル後のヘキサゴナルオーダリングは、充放電サイクル前よりも増加していることが分かる。これは、リチウムの一部が、本来の結晶中での占有サイトとは異なるサイトに配列していることを意味し、このような不規則な配列が生じたことにより、リチウムイオンの移動が妨げられたものと考えられる。
【0022】
さらに、劣化した正極活物質の結晶粒子の状態を調べるために、走査電子顕微鏡を用いて、劣化した正極活物質の結晶粒子の表面状態を観察した。
【0023】
図2(A)、(B)は、その結果を示した走査電子顕微鏡写真で、図2(A)は、充放電サイクル前の写真で、図2(B)は、充放電サイクル後の写真を示す。
【0024】
図2(B)に示すように、劣化した正極活物質の結晶粒子には、矢印で示すように、多数のクラックが発生しているのが分かる。通常、正極活物質を含む正極合剤層には、導電材である炭素が含有されているが、正極合剤層が正極集電箔上に成膜された後に発生したクラックには、炭素が存在していない。そのため、発生したクラックは、自由電子の移動を阻害するため、充放電特性を劣化させる要因となる。
【0025】
以上の知見から、本願発明者等は、リチウムの抜けが、正極活物質の劣化の主要な要因と考えられるため、リチウムを補充することによって、劣化した正極活物質を再生する方法を検討した。
【0026】
リチウムを補充する方法として、正極活物質の合成方法として広く用いられている固相法を検討した。具体的には、劣化した正極活物質に、リチウム源(炭酸リチウム)を加え、その混合物を、高温で焼結することにより、リチウムの補充を行った。ここで、加えるリチウム源の量は、Liと(Ni+Co+Mn)のモル比が1になるように調整した。
【0027】
しかしながら、固相法によりリチウムを補充した正極活物質を用いて、リチウムイオン二次電池を作製したところ、再生した正極活物質の放電容量は、元の正極活物質の放電容量までには戻らなかった。
【0028】
この原因を調べるために、X線回折法を用いて、再生した正極活物質の結晶構造を測定した。図3が、その結果を示した回折パターンで、再生した正極活物質は、図1(A)に示した元の正極活物質に比べて、回折X線強度のピ-ク値が回復しておらず、むしろ、図1(B)に示した充放電サイクル後の正極活物質に比べて、回折X線強度のピ-ク値がさらに低下しているのが分かる。
【0029】
さらに、図3の回折パターンから、正極活物質の原子配列を示すカチオンミキシング、及びヘキサゴナルオーダリングを評価した。表3は、その結果を示した表で、リチウム補充後のカチオンミキシングは、充放電サイクル後よりもさらに低下し、リチウム補充後のヘキサゴナルオーダリングは、充放電サイクル後よりもさらに増加していることが分かる。
【0030】
【表3】
【0031】
このような結果から、固相法を用いて、劣化した正極活物質にリチウムの補充を行っても、結晶構造は改善されず、むしろ、結晶構造を劣化させることが分かった。すなわち、固相法では、劣化した正極活物質にリチウムは補充できても、乱れた原子配列を元に戻すことはできず、元の正極活物質と同等の放電容量を有する正極活物質に再生することはできない。
【0032】
そこで、本願発明者等は、乱れた原子配列を元に戻すためには、劣化した正極活物質の結晶構造を再構成する必要があると考え、リチウムの補充が簡単にでき、かつ、正極活物質を、その融点よりも低い温度で溶解させて、結晶育成が可能なフラックス法に着目した。
【0033】
フラックス法を検討するために、劣化した正極活物質に、リチウム源(炭酸リチウム)とフラックス源(硫酸ナトリウム)を加えた混合物を加熱して、フラックス源を融解し、その融液に、正極活物質及びリチウム源を溶解させた後、フラックス源を冷却することにより、正極活物質を結晶育成し、劣化した正極活物質の再生を行った。なお、加えるリチウム源の量は、Liと(Ni+Co+Mn)のモル比が1になるように調整した。
【0034】
図4は、フラックス法を用いて再生した正極活物質の結晶構造を、X線回折法を用いて測定した回折パターンである。図4に示すように、再生した正極活物質は、回折X線強度のピ-ク値が、図1(A)に示した元の正極活物質と同程度まで回復していることが分かる。
【0035】
また、図4の回折パターンから、正極活物質の原子配列を示すカチオンミキシング、及びヘキサゴナルオーダリングを評価した。表4は、その結果を示した表で、再生後のカチオンミキシング及びヘキサゴナルオーダリングは、共に、充放電サイクル前の値まで回復していることが分かる。これは、フラックス法では、フラックス源の融液に、正極活物質を溶解してから結晶育成が行われるため、乱れた原子配列が元の位置に戻って再結晶化されたためと考えられる。
【0036】
【表4】
【0037】
なお、正極活物質を回収する際には、集電箔に正極活物質を接合するために用いたバインダーや導電助剤に用いる炭素といった不純物が必然的に混入するが、これらの不純物(炭素やバインダー)は、フラックス源が融液になる温度において、熱分解あるいは酸素、リチウム源の炭酸、フラックス源の硫酸と結合し、気化する。そのため、結晶への影響度を小さく、かつ、高い純度で正極活物質を再生できると考えられる。
【0038】
次に、フラックス法により再生した正極活物質を用いて、リチウムイオン二次電池を作製し、作製したリチウムイオン電池の放電容量を評価した。図5は、作製したリチウムイオン電池の放電容量のサイクル特性を測定した結果を示したグラフである。矢印Aで示した曲線が、元の正極活物質におけるサイクル特性を示し、矢印Bで示した曲線が、再生後の正極活物質におけるサイクル特性を示す。図5に示すように、再生後の正極活物質においても、元の正極活物質と同程度のサイクル特性を有することが分かる。
【0039】
また、図6は、フラックス法により再生した正極活物質を用いて作製したリチウムイオン二次電池の充放電特性を測定した結果を示したグラフである。矢印Aで示した曲線が充電曲線を示し、矢印Bで示した曲線が放電曲線を示す。図6に示すように、再生後の正極活物質は、優れた充放電特性を有していることが分かる。
【0040】
このような結果から、フラックス法を用いることによって、劣化した正極活物質にリチウムを補充するとともに、劣化した結晶構造を元の状態に回復させることが可能であることが判明した。前述したように、再生に使用する正極活物資は、たとえばLNMO型の活物質では、ニッケル、マンガン、コバルトの組成比率が初期状態のまま維持されるのに対して、充放電に関与する金属イオンの組成比のみが初期組成と比較して減少することから、その金属イオンのみを補充して再生する方法を利用することができ、これにより、充放電サイクルにより劣化した正極活物質を、低コストで、かつ、優れた容量特性を有する正極活物質に再生することが可能となる。
【0041】
上記では、フラックス法による劣化した正極活物質の再生方法として、正極活物質として、三元系[Li(Ni-Mn-Co)O]の活物質を例に説明したが、フラックス法を用いて結晶育成できるリチウム複合酸化物であれば、劣化した活物質の再生にもフラックス法を適用することが可能である。すなわち、Co、Ni,Mn、Fe、Al、Tiの群から選ばれる1種以上の金属を含むリチウム複合酸化物について、フラックス法により、劣化したリチウム複合酸化物を再生することができる。
【0042】
再生可能なリチウム複合酸化物の具体的な例としては、正極活物質では、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケル・マンガン酸リチウム[Li(Ni-Mn)O]、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、三元系[Li(Ni-Mn-Co)O]、ニッケル・コバルト・アルミニウム酸リチウム[Li(Ni-Co-Al)O]等が挙げられ、負極活物質では、タン酸リチウム(LiTiO)等が挙げられる。
【0043】
本発明において、充放電等により劣化したリチウムイオン二次電池の活物質であるリチウム複合酸化物の再生は、以下の工程(A)、(B)により行うことができる。
(A)充放電等により劣化したリチウムイオン二次電池から、リチウム複合酸化物を回収する。この回収操作の際には、リチウム複合酸化物とともに、バインダーや炭素等の不純物が混入していてもかまわない。
(B)回収したリチウム複合酸化物と、リチウム源と、フラックス源とを混合して、フラックス法により、リチウム複合酸化物を結晶育成する。
【0044】
工程(B)において、フラックス法により、回収前の前記リチウム複合酸化物と同一の化学組成からなるリチウム複合酸化物が結晶育成される。
【0045】
また、工程(B)は、フラックス源の融液に、回収したリチウム複合酸化物、及びリチウム源を溶解させた後、フラックス源を冷却または蒸発させることにより行われる。
【0046】
また、工程(A)において、回収したリチウム複合酸化物は、リチウムの一部が抜けた状態になっており、工程(B)において、リチウム源から、リチウム複合酸化物における抜けたリチウムの一部が補充される。
【0047】
以下、図7を参照しながら、充放電等により劣化したリチウムイオン二次電池から、活物質を分離して、フラックス法により、劣化した活物質を再生する工程を詳しく説明する。
【0048】
まず、充放電サイクルを繰り返して、放電容量がほぼゼロになったリチウムイオン二次電池を分解して、電極板を取り出す(ステップS1)。次に、取り出した電極板を、nメチル・ピロリドン溶液に漬けて、超音波をかけながらバインダーを溶かして、活物質と集電箔とを分離する(ステップS2)。
【0049】
次に、nメチル・ピロリドン溶液を、0.45μmのメシュで濾過して、バインダーと活物質とを分離する(ステップS3)。次に、ICP発光分光分析装置を用いて、劣化した活物質(リチウム複合酸化物)を構成する元素の組成比を測定する(ステップS4)。
【0050】
次に、フラックス法を用いて、劣化した活物質を結晶育成する(ステップS5)。具体的には、分離した活物質と、リチウム源と、フラックス源とを混合して混合物を得る。リチウム源の量は、ICP発光分光分析装置により測定された組成比に基づいて、目的とするリチウム複合酸化物の組成比になるように調整する。そして、混合物を、るつぼに入れて、フラックス源の融点より高い温度に加熱し、フラックス源の融液に、活物質及びリチウム源を溶解させた後、フラックス源を冷却して、活物質を結晶育成する。
【0051】
例えば、活物質が三元系[Li(Ni-Mn-Co)O]の場合、リチウム源として、炭酸リチウムを用い、フラックス源として、硫酸ナトリムを用いた場合、フラックス源を1000℃まで加熱して、3時間保持した後、室温まで冷却することにより、三元系の活物質を結晶育成することができる。なお、フラックス源を加熱して、3時間保持した後、フラックス源を蒸発させることにより、活物質を結晶育成してもよい。
【0052】
フラックス源は、分離した活物質及びリチウム源の融点よりも低い融点を有し、かつ、分離した活物質及びリチウム源が溶解可能な材料を用いることができる。具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、硫酸ナトリウム、硝酸リチウム、ホウ酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウムの群から選ばれる1種以上の化合物を用いることができる。
【0053】
また、リチウム源は、硝酸リチウム、ホウ酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウムの群から選ばれる1種以上の化合物を用いることができる。なお、リチウムを含むフラックス源は、リチウム源としても用いることができる。この場合、フラックス源とリチウム源は、同じ材料からなる。
【0054】
次に、結晶育成された活物質とフラックス残渣とを、フラックス残渣を溶解できる溶液(例えば、純水、エタノール、nメチル・ピロリドン等)に浸漬して、フラックス残渣を溶解除去する(ステップS6)。最後に、フラックス残渣が溶解した溶液を、0.45μmのメッシュで濾過して、溶液から活物質を分離して、再生された活物質を得る(ステップS7)。
【0055】
なお、フラックス残渣を純水で溶解除去した場合、再生された活物質から、リチウムの一部が水に溶けて、リチウムの組成比が減少するおそれがある。この場合は、再度、ICP発光分光分析装置を用いて、溶液から分離された活物質の組成比を測定し、不足した量のリチウム源を用いて、固相法によりリチウムを補充することによって、組成比を整えればよい。なお、フラックス法を用いて再生された活物質は、結晶構造が回復しているので、固相法を用いてリチウムを補充しても、結晶構造を劣化させることはない。あるいは、フラックス残渣を純水で溶解除去する際、純水にリチウムが溶けないよう、予め、純水に水酸化リチウム等のリチウム化合物を溶かしておいてもよい。
【0056】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、もちろん、種々の改変が可能である。例えば、上記実施形態では、リチウムイオン二次電池の活物質であるリチウム複合酸化物を再生する方法を説明したが、ナトリウムイオン二次電池の活物質であるナトリウム複合酸化物の再生にも、本発明のフラックス法を用いた再生方法を適用することができる。この場合、充放電等により劣化したナトリウムイオン二次電池から、ナトリウム複合酸化物を回収し、回収したナトリウム複合酸化物と、ナトリウム源と、フラックス源とを混合して、フラックス法により、ナトリウム複合酸化物を結晶育成すればよい。
【0057】
また、上記実施形態では、フラックス法により、回収前のリチウム複合酸化物と同一の化学組成からなるリチウム複合酸化物を結晶育成したが、回収前と異なる化学組成のリチウム複合酸化物を結晶育成してもよい。例えば、回収前のリチウム複合酸化物が、コバルト酸リチウム(LiCoO)の場合、回収したリチウム複合酸化物と、リチウム源、ニッケル源、及びコバルト源とを混合して、フラックス法により、三元系[Li(Ni-Mn-Co)O]のリチウム複合酸化物を結晶育成してもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7