(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133310
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】電磁波吸収シート
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20230914BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20230914BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
H05K9/00 M
B32B7/025
H01Q17/00
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111546
(22)【出願日】2023-07-06
(62)【分割の表示】P 2022109044の分割
【原出願日】2017-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2016219994
(32)【優先日】2016-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】豊田 将之
(57)【要約】
【課題】電波を良好に吸収することができ、かつ、高い可撓性を備えた、取り扱いの容易な電波吸収シートを実現する。
【解決手段】 電磁波吸収シートであって、抵抗皮膜1と、誘電体層2と、電磁波遮蔽層3とが順次積層して形成され、前記抵抗皮膜1が、主鎖がπ共役系で構成されている導電性有機高分子を含み、前記抵抗皮膜1の表面抵抗値が真空のインピーダンスに対して-15%から+20%の範囲であり、前記電磁波遮蔽層3の表面抵抗値が1×10
-1Ω/sq以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波吸収シートであって、
抵抗皮膜と、誘電体層と、電磁波遮蔽層とが順次積層して形成され、
前記抵抗皮膜が、主鎖がπ共役系で構成されている導電性有機高分子を含み、
前記抵抗皮膜の表面抵抗値が真空のインピーダンスに対して-15%から+20%の範囲であり、
前記電磁波遮蔽層の表面抵抗値が1×10-1Ω/sq以下である、電磁波吸収シート。
【請求項2】
前記抵抗皮膜は、温度60℃、相対湿度90%の条件で500時間保存後の表面抵抗値の変化率が18%以下である、請求項1に記載の電磁波吸収シート。
【請求項3】
前記抵抗皮膜に、ポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン)を含む、請求項1または2に記載の電磁波吸収シート。
【請求項4】
前記誘電体層がミリ波帯域以上の高周波数帯域の電磁波を吸収可能な層厚に設定されている、請求項1~3のいずれかに記載の電磁波吸収シート。
【請求項5】
ミリ波帯域以上の電磁波に対する電磁波減衰量が20dB以上である、請求項1~4のいずれかに記載の電磁波吸収シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、可撓性を有する電磁波吸収シートに関する。本開示にかかる電磁波吸収シートは、いわゆる電波干渉型の電磁波吸収シートであり、数十ギガヘルツ(GHz)から数百ギガヘルツ(GHz)のいわゆるミリ波帯域以上の電波を吸収するように設計することが可能である。
【背景技術】
【0002】
電気回路などから外部へと放出される漏洩電磁波や、不所望に反射した電磁波の影響を回避するために、電磁波を吸収する電磁波吸収シートが用いられている。
【0003】
近年は、携帯電話などの移動体通信や無線LAN、料金自動収受システム(ETC)などで、数ギガヘルツ(GHz)の周波数帯域を持つセンチメートル波、さらには、30ギガヘルツから300ギガヘルツの周波数を有するミリ波帯、ミリ波帯域を超えた高い周波数帯域の電磁波として、1テラヘルツ(THz)の周波数を有する電磁波を利用する技術の研究も進んでいる。
【0004】
このようなより高い周波数の電磁波を利用する技術トレンドに対応して、不要な電磁波を吸収する電磁波吸収体やユーザの利便性を向上したシート状の電磁波吸収体である電磁波吸収シートにおいても、ミリ波帯域からそれ以上の帯域の電磁波を吸収可能とするものへの要望は、より高くなることが考えられる。
【0005】
このような電磁波吸収シートとして、誘電体層の一方の表面に抵抗皮膜を、他方の表面に電磁波を反射する電磁波遮蔽層とが形成され、反射波の位相を入射波に対して1/2波長分ずらすことで電磁波吸収シートへの入射波と反射波とが打ち消し合って電磁波を吸収する、いわゆる電波干渉型(λ/4型)の電磁波吸収シートが知られている。電波干渉型の電磁波吸収シートは、比重の大きな磁性体粒子によって磁気的に電磁波を吸収する電磁波吸収シートなどと比べて軽量であり、容易に製造することができるため低コスト化が可能という利点を有している。
【0006】
従来、いわゆる電波干渉型の電磁波吸収シート(電磁波吸収体)では、誘電体層の表面に形成される抵抗皮膜として、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛などの金属酸化物、金属窒化物ないしはこれらの混合体を、イオンプレーティング法、蒸着法、スパッタリング法などによって形成したものが知られている(特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06-120689号公報
【特許文献2】特開平09-232787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の電磁波吸収シートにおいて、誘電体層の表面に形成される抵抗皮膜は、電磁波吸収シート表面のインピーダンスを空気中のインピーダンスと合わせるインピーダンス整合を行って、電磁波が電磁波吸収シートの内部に入射し易くするという機能を果たす。このため、抵抗皮膜の表面抵抗の値は、真空中のインピーダンスである377Ω/sq(面抵抗値)近傍の値に保たれていることが要求される。
【0009】
一方、電波干渉型の電磁波吸収シートでは、吸収する電磁波が高周波となるにしたがって誘電体層の厚さが薄くなるため、より高い可撓性を有するようになる。より薄く、容易に湾曲させることができる電磁波吸収シートは、貼付可能な場所が広がって使用者の利便性が向上するが、使用者に強く曲げられてしまう機会が増える。このような電磁波吸収シートにおいて、スパッタリング法などによって形成された金属酸化膜などによる抵抗皮膜は、強く曲げられることでひびが入りやすく、抵抗皮膜にひびが入るとその表面抵抗値が大きくなってインピーダンス整合が崩れてしまい、電磁波吸収特性が低下するという問題があった。
【0010】
本開示は、上記従来の課題を解決し、いわゆる電磁波干渉型の電磁波吸収シートであって、所望する周波数帯域の電磁波を良好に吸収することができるとともに高い可撓性を備えた、取り扱いの容易な電磁波吸収シートを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため本願で開示する電磁波吸収シートは、電磁波吸収シートであって、抵抗皮膜と、誘電体層と、電磁波遮蔽層とが順次積層して形成され、前記抵抗皮膜が、主鎖がπ共役系で構成されている導電性有機高分子を含み、前記抵抗皮膜の表面抵抗値が真空のインピーダンスに対して-15%から+20%の範囲であり、前記電磁波遮蔽層の表面抵抗値が1×10-1Ω/sq以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本願で開示する電磁波吸収シートは、抵抗皮膜が導電性有機高分子によって形成されているため、シートが強く曲げられた場合でも抵抗皮膜にひび割れなどが生じず、インピーダンス整合を維持して高い電磁波吸収特性を保ち続けることができる。このため、低コストでありながら、高い可撓性を有し、かつ、良好な電磁波吸収特性を備えた電磁波吸収シートを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態にかかる電磁波吸収シートの構成を説明する断面図である。
【
図2】抵抗皮膜の表面抵抗値を異ならせた電磁波吸収シートにおける、電磁波吸収特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願で開示する電磁波吸収シートは、可撓性を有する電磁波吸収シートであって、抵抗皮膜と、誘電体層と、電磁波遮蔽層とが順次積層して形成され、前記抵抗皮膜が、導電性有機高分子により形成されている。
【0015】
このようにすることで、本願で開示する電磁波吸収シートは、抵抗皮膜と誘電体層と電磁波遮蔽層とが積層して形成された電波干渉型の電磁波吸収シートとして、強く湾曲された場合でも抵抗皮膜にひび割れなどが生じにくく、インピーダンス整合を維持して高い電磁波吸収特性を発揮することができる。
【0016】
本願で開示する電磁波吸収シートにおいて、前記抵抗皮膜に、ポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)を含むことが好ましい。このようにすることで、所望の表面抵抗値を備えた表面皮膜を容易に得ることができる。
【0017】
また、前記抵抗皮膜に、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、および、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)をさらに含むことが好ましい。特に、ポリスチレンスルホン酸はポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)のカウンターアニオンの役割を果たし、電気抵抗値の安定性が高い抵抗皮膜を実現することができる。
【0018】
これらの場合において、前記抵抗皮膜に、さらに水溶性ポリエステルを含むことが好ましい。このようにすることで、抵抗皮膜自体の耐候性を高め、表面抵抗値が安定した信頼性の高い電磁波吸収シートを実現することができる。
【0019】
また、前記抵抗皮膜の表面抵抗値が、真空のインピーダンスに対して-15%から+20%の範囲であることが好ましい。このようにすることで、実用上十分な電磁波吸収特性が得られるインピーダンス整合を実現した電磁波吸収シートを得ることができる。
【0020】
さらに、前記電磁波遮蔽層の表面抵抗値が、1×10-1Ω/sq以下であることが好ましい。このようにすることで、電磁波吸収シートに入射した電磁波を良好に反射する電磁波遮蔽層を得ることができる。
【0021】
また、本願で開示する電磁波吸収シートにおいて、前記誘電体層がミリ波帯域以上の高周波数帯域の電磁波を吸収可能な層厚に設定されていることが好ましい。このようにすることで、高い可撓性を備えた、ミリ波帯域以上の電磁波を吸収できる電磁波吸収シートを実現することができる。
【0022】
さらにまた、前記電磁波遮蔽層の背面に接着層を備えることが好ましい。このようにすることで、電磁波吸収シートを所望する場所に容易に貼着することができ、電磁波吸収シートの取り扱い容易性が向上する。
【0023】
また、前記抵抗皮膜を覆って保護層が形成されていることが好ましい。このようにすることで、抵抗皮膜の耐候性を高めることができるとともに、電磁波吸収シートの取り扱い時に抵抗皮膜である導電性有機高分子が傷ついてしまうことを効果的に防止することができる。
【0024】
以下、本願で開示する電磁波吸収シートについて、図面を参照して説明する。
【0025】
なお、「電波」は、より広義には電磁波の一種として把握することができるため、本明細書では、電波吸収体を電磁波吸収体と称するなど「電磁波」という用語を用いることとする。
【0026】
(実施の形態)
まず、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの全体構成について説明する。
【0027】
図1は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの構成を示す断面図である。
【0028】
なお、
図1は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの構成を理解しやすくするために記載された図であり、図中に示された部材の大きさや厚みについて現実に即して表されたものではない。
【0029】
本実施形態で例示する電磁波吸収シートは、抵抗皮膜1、誘電体層2、電磁波遮蔽層3が積層されて形成されている。なお、
図1に示す電磁波吸収シートでは、電磁波遮蔽層3の背面側、すなわち、電磁波遮蔽層3において誘電体層2が配置されている側とは反対側の表面には、接着層4が積層形成されている。また、抵抗皮膜1の前面側、すなわち、抵抗皮膜1において誘電体層2が配置されている側とは反対側の表面には、保護層5が積層形成されている。
【0030】
本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、誘電体層2に入射した電磁波11が、誘電体層2の背面側に配置されている電磁波遮蔽層3との界面で反射されて、反射波12として再び外部へと放出される。このとき、誘電体層2の厚さdを、入射した電磁波の波長の1/4とする(d=λ/4)ことで、入射波11の位相11aと反射波12の位相12aとが打ち消し合って電磁波吸収シートに入射した電磁波を吸収する。
【0031】
なお、d=λ/4となるのは、誘電体層2として空気(誘電率ε=1)が用いられる場合であり、誘電体層2に用いられる誘電体の誘電率がεrである場合には、d=λ/(4(εr)1/2)となって誘電体層2の厚さdを(εr)-1/2だけ薄くすることができる。誘電体層2を薄く形成することで、電磁波吸収シート全体の薄型化を実現でき、より可撓性に優れた電磁波吸収シートを実現することができる。
【0032】
誘電体層2の背面側に積層して形成される電磁波遮蔽層3は、誘電体層2との境界面である誘電体層2側の表面で、入射してきた電波を反射する層である。
【0033】
本実施形態にかかる、電波干渉型の電磁波吸収シートにおける電磁波吸収の原理から、電磁波遮蔽層3は電磁波を反射する反射層として機能すれば良く、金属層として容易に実現可能である。しかし、本実施形態にかかる電磁波吸収シートは全体として可撓性を有するものであるため、電磁波遮蔽層3として可撓性を有しない厚さ(一例として数mm以上)の金属板を用いることは好ましくなく、金属箔や、樹脂などの非金属製材料の薄膜上に金属材料を蒸着して形成された金属薄膜を用いて電磁波遮蔽層3を実現することが好ましい。
【0034】
抵抗皮膜1は、誘電体層2の前面側、すなわち誘電体層2の電磁波遮蔽層3が積層されている側とは反対側の、吸収される電磁波が入射する側に形成され、電磁波吸収シートと空気との間のインピーダンス整合を行う。
【0035】
空気中を伝搬してきた電磁波が電磁波吸収シートに入射する際、電磁波吸収シートの入力インピーダンス値を空気中のインピーダンス値(実際には真空のインピーダンス値)である377Ωと異ならないようにすることで、電磁波吸収シートへの電磁波の入射時に電磁波の反射・散乱が生じて電磁波吸収特性が低下することを防ぐことが重要となる。本実施形態の電磁波吸収シートでは、抵抗皮膜1を導電性有機高分子の膜として形成することで、電磁波吸収シートとしての可撓性を確保するとともに、電磁波吸収シートが強く折り曲げられた場合でも抵抗皮膜1のひび割れなどが生じず、表面抵抗値が変化せずに良好なインピーダンス整合を維持することができる。
【0036】
接着層4は、電磁波吸収シートを所定の場所に容易に貼り付けることができるように、電磁波遮蔽層3の背面側に形成される層である。接着層4は、粘着性の樹脂ペーストを塗布することで容易に形成できる。
【0037】
なお、接着層4は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて必須の部材ではない。電磁波吸収シートを所定の場所に配置するに当たっては、電磁波吸収シートが貼り付けられる部材側に接着のための部材が配置されていてもよく、また、電磁波吸収シートを所定の場所に配置する際に、電磁波吸収シートと配置場所との間に接着剤を供給する、または、両面テープを用いるなどの接着方法を採用することができる。
【0038】
保護層5は、抵抗皮膜1の表面、すなわち、電磁波吸収シートにおいて電磁波が入射する側の最表面に形成され、抵抗皮膜1を保護する部材である。
【0039】
本実施形態の電磁波吸収シートの抵抗皮膜1を形成する導電性有機高分子は、表面に水分が付着するとその表面抵抗値が変化する場合がある。また、樹脂製の膜であるために、表面に尖った部材が接触した場合や、硬い材質のもので擦られた場合には、傷が付く畏れがある。このため、抵抗皮膜1の表面を保護層5で覆って抵抗皮膜1を保護することが好ましい。
【0040】
なお、保護層5は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて必須の構成要件ではなく、導電性有機高分子の材料によって、表面への水分の付着に伴う表面抵抗値の変化や抵抗皮膜1の表面が傷つくことへの懸念が小さい場合には、保護層5がない電磁波吸収シートの構成を選択可能である。
【0041】
また、保護層5としては、後述のようにポリエチレンテレフタレートなどの樹脂材料を用いることができる。保護層5として用いられる樹脂材料は一定の抵抗値を有するが、保護層5の膜厚を薄く設定することで、保護層5の有無による電磁波吸収シートの表面抵抗値への影響を実用上問題ないレベルとすることができる。
【0042】
次に、本実施形態にかかる電磁波吸収シートを構成する各部材について詳述する。
【0043】
[抵抗皮膜]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、抵抗皮膜1は、導電性有機高分子で構成される。
【0044】
導電性有機高分子としては、共役導電性有機高分子が用いられ、ポリチオフェンやその誘導体、ポリピロールやその誘導体を用いることが好ましい。
【0045】
本実施形態にかかる電磁波吸収シートの抵抗皮膜1に用いられることが好適なポリチオフェン系導電性高分子の具体例としては、ポリ(チオフェン)、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブテンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)等が挙げられる。
【0046】
また、抵抗皮膜1に用いられることが好適なポリピロール系導電性高分子の具体例としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)等が挙げられる。
【0047】
この他にも、抵抗皮膜1としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子を使用することができ、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、および、これらの共重合体等を用いることができる。
【0048】
なお、抵抗皮膜に用いられる導電性有機高分子として、ポリアニオンをカウンターアニオンとして用いることができる。ポリアニオンとしては特に限定されないが、上述した抵抗皮膜に用いられる共役導電性有機高分子に、化学酸化ドープを生じさせることができるアニオン基を含有するものが好ましい。このようなアニオン基としては、例えば、一般式-O-SO3X、-O-PO(OX)2、-COOX、-SO3Xで表される基等(各式中、Xは水素原子またはアルカリ金属原子を示す。)が挙げられ、中でも、共役導電性有機高分子へのドープ効果に優れることから、-SO3X、および、-O-SO3Xで表される基が特に好ましい。
【0049】
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート)、ポリメタクリルオキシベンゼンスルホン酸等のスルホン酸基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等のカルボン酸基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
【0050】
ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらポリアニオンのなかでもスルホン酸基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
【0051】
上記導電性有機高分子は、1種を単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。上記例示した材料の中でも、透明性と導電性とがより高くなることから、ポリピロール、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)から選ばれる1種または2種からなる重合体が好ましい。
【0052】
特に、共役系の導電性有機高分子とポリアニオンの組み合わせとしては、ポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン:PEDOT)と、ポリスチレンスルホン酸(PSS)を用いることが好ましい。
【0053】
また、本実施形態にかかる抵抗皮膜1においては、導電性有機高分子の電気伝導度を制御して、電磁波吸収シートの入力インピーダンスを空気中のインピーダンス値と整合させるために、ドーパントを併用することができる。ドーパントとしては、ヨウ素、塩素等のハロゲン類、BF3、PF5等のルイス酸類、硝酸、硫酸等のプロトン酸類や、遷移金属、アルカリ金属、アミノ酸、核酸、界面活性剤、色素、クロラニル、テトラシアノエチレン、TCNQ等が使用できる。より具体的には、抵抗皮膜1の表面抵抗値を377Ωに対してプラス/マイナス数%程度の値にすることが好ましく、このとき、導電性有機高分子とドーパントとの配合割合は、一例として質量比で導電性高分子:ドーパント=1:2~1:4とすることができる。
【0054】
さらに、抵抗皮膜1を形成する材料としては、他にポリフッ化ビニリデンを含むことが好ましい。
【0055】
ポリフッ化ビニリデンは、導電性有機高分子をコーティングする際の組成物に加えることで、導電性有機高分子膜の中でバインダーとしての機能を果たし、成膜性を向上させるとともに基材との密着性を高めることができる。
【0056】
また、抵抗皮膜1に水溶性ポリエステルを含むことが好ましい。水溶性ポリエステルは導電性高分子との相溶性が高いため、抵抗皮膜1を形成する導電性有機高分子のコーティング組成物に水溶性ポリエステルを加えることで抵抗皮膜1内において導電性高分子を固定化させ、より均質な皮膜を形成することができる。この結果、水溶性ポリエステルを用いることで、より厳しい高温高湿環境下におかれた場合でも表面抵抗値の変化が小さくなり、空気中のインピーダンス値とのインピーダンス整合がなされた状態を維持することができる。
【0057】
抵抗皮膜1にポリフッ化ビニリデン、水溶性ポリエステルを含むことで、抵抗皮膜1の耐候性が向上するため、抵抗皮膜1の表面抵抗値の経時的な変化が抑えられて、安定した電磁波吸収特性を維持することができる信頼性の高い電磁波吸収シートを実現することができる。
【0058】
抵抗皮膜1における導電性有機高分子の含有量は、抵抗皮膜1組成物に含まれる固形分の全質量に対して、10質量%以上35質量%以下であることが好ましい。含有量が10質量%を下回ると、抵抗皮膜1の導電性が低下する傾向にある。このため、インピーダンス整合をとるために抵抗皮膜1の表面電気抵抗値を所定の範囲とした結果、抵抗皮膜1の膜厚が大きくなることによって、電磁波吸収シート全体が厚くなったり光学特性が低下したりする傾向がある。一方、含有量が35質量%を超えると、導電性有機高分子の構造に起因して抵抗皮膜1をコーティングする際の塗布適正が低下して、良好な抵抗皮膜1を形成しづらくなり、抵抗皮膜1のヘイズが上昇して、やはり光学特性が低下する傾向にある。
【0059】
なお、抵抗皮膜1は、上述のように抵抗皮膜の形成用塗料としてのコーティング組成物を基材の上に塗布して乾燥することにより形成することができる。
【0060】
抵抗皮膜形成用塗料を基材の上に塗布する方法としては、例えば、バーコート法、リバース法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、ダイコート法、ディッピング法、スピンコート法、スリットコート法、スプレーコート法等の塗布方法を用いることができる。塗布後の乾燥は、抵抗皮膜形成用塗料の溶媒成分が蒸発する条件であればよく、100~150℃で5~60分間行うことが好ましい。溶媒が抵抗皮膜1に残っていると強度が劣る傾向にある。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥法、加熱乾燥法、真空乾燥法、自然乾燥等により行うことができる。また、必要に応じて、塗膜にUV光(紫外線)やEB(電子線)を照射して塗膜を硬化させることで抵抗皮膜1を形成してもよい。
【0061】
なお、抵抗皮膜1を形成するために用いられる基材としては特に限定されないが、透明性を有する透明基材が好ましい。このような透明基材の材質としては、例えば、樹脂、ゴム、ガラス、セラミックス等の種々のものが使用できる。
【0062】
本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、上述した導電性有機高分子を用いて表面抵抗値が377Ω/sqの抵抗皮膜1を構成することで、電磁波吸収シートに入射する電磁波に対して空気中のインピーダンスと整合させることができ、電磁波吸収シート表面での電磁波の反射や散乱を低下させてより良好な電磁波吸収特性を得ることができる。
【0063】
[誘電体層]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートの誘電体層2は、酸化チタン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル樹脂、ガラス、シリコーンゴムなどの誘電体で形成することができる。なお、誘電体層2は、1種の材料で1層の構成として形成することができ、また、同種、異種の材料を2層以上積層した構成とすることもできる。誘電体層2の形成には、塗布法やプレス成型法、押出成型法などを用いることができる。
【0064】
上述のように、本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、電磁波吸収シートに入射した電磁波と電磁波遮蔽層で反射された反射波との位相を1/2波長ずらすことで、入射波と反射波とが打ち消し合って電磁波を吸収する電波干渉型(λ/4型)の電磁波吸収シートである。このため、誘電体層の厚さ(
図1におけるd)は、吸収しようとする電磁波の波長に対応して定められる。
【0065】
なお、dの値は、抵抗皮膜1と電磁波遮蔽層3との間が空間となっている場合、すなわち、誘電体層2が空気で形成されている場合は、d=λ/4が成り立つが、誘電体層2を誘電率εrの材料で形成した場合には、d=1/4λ(εr)-1/2となるため、誘電体層2を構成する材料として、材料自体が有する誘電率が大きなものを用いることで誘電体層2の厚さdの値を、(εr)-1/2小さくすることができ、電磁波吸収シート全体の厚さも低減することができる。誘電率は、上限値を10程度としてより大きな値であることが好ましい。
【0066】
本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、可撓性を有するものであることから、電磁波吸収シートを構成する誘電体層2や電磁波吸収シート自体の厚さが小さいほど容易に湾曲させることができてより好ましい。また、本実施形態にかかる電磁波吸収シートが、後述する接着層4などを介して電磁波漏洩を防ぎたい部材に貼着して使用されることが多いことを考慮すると、電磁波吸収シートの厚みが薄く容易に貼着部分の形状に沿うこと、また、シートがより軽量化されていることが好ましい。
【0067】
なお、電磁波遮蔽層3から、λ/4離れた位置に抵抗皮膜1を配置する場合に比べ、電磁波遮蔽層3と抵抗皮膜1との間に誘電率εrを有する誘電体層2を用いると厚みdを、d=λ/(4(εr)1/2)とすることができ、誘電体層2の厚さを薄くすることができる。このように、誘電率εrの値や、誘電体層2の厚みを調整することで、当該誘電体層2を備えた電磁波吸収シートで吸収する電磁波の波長を制御することができる。
【0068】
[電磁波遮蔽層]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートの電磁波遮蔽層3は、誘電体層2を介して電磁波吸収シートの反対側に配置された、表面皮膜1から入射した電磁波を反射させる部材である。
【0069】
電磁波吸収層3を構成する材料としては、金属箔が好ましく、銅箔、アルミ箔、金箔などの各種の金属箔を用いることができる。これらの中でも、コストと空気中での酸化の影響を考慮すると、電磁波遮蔽層3としてアルミ箔を用いることが好ましい。電磁波遮蔽層3を金属箔で形成する場合には、金属材料を圧延することで実現できる。また、蒸着膜で電磁波遮蔽層3を形成する場合には、従来各種蒸着膜の形成に用いられている蒸着方法を、蒸着する金属材料に対応させて適宜選択することが好ましい。
【0070】
電磁波遮蔽層3の厚みは、電波吸収シートが可撓性を有するものであることから、アルミ箔を用いた場合には、1μm~20μmであることが好ましい。
【0071】
また、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、電磁波遮蔽層3を金属などの導電性材料の蒸着膜で形成することができる。特に、誘電体層2の、抵抗皮膜1が形成されている側とは反対側の表面に金属材料の蒸着膜を形成することで、誘電体層2と電磁波遮蔽層3とを別々に形成してこれを密着配置させる場合と比較して、誘電体層2と電磁波遮蔽層3との間に間隙が生じる恐れがないため、誘電体層2を貫通した電波を誘電体層2の背面側表面の位置で反射させることができ、誘電体層2の厚さdを制御することで所望の周波数の電波を吸収することができる。
【0072】
一方で、電磁波遮蔽層3に金属箔を用いる場合と比較して、蒸着膜を用いる場合には、蒸着膜における導電性材料の密度を均一に、かつ十分に形成する必要がある。後述する電磁波吸収層3の表面抵抗値の検討結果から、電磁波遮蔽層3の表面抵抗値は1×10-1Ω/sq以下となるようにすることが好ましく、金属蒸着膜の厚さを十分に制御して、その表面抵抗値を所定の値以下とすることが好ましい。
【0073】
なお、電磁波遮蔽層3は、誘電体層2の背面側に蒸着された金属蒸着膜として実現する以外にも、非金属製の可撓性を有するシート状部材の表面に金属材料を蒸着し、この蒸着面を誘電体層2と接するように配置して実現することができる。
【0074】
[接着層]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、接着層4を設けることで、抵抗皮膜1、誘電体層2、電磁波遮蔽層3との積層体である電磁波吸収シートを、電気回路を収納する筐体の内面や、電気機器の内面または外面などの所望の位置に貼着することができる。特に、本実施形態の電磁波吸収シートは可撓性を有するものであるため、湾曲した曲面上にも容易に貼着することができ、背面に接着層4を設けることで電磁波吸収シートの取り扱い容易性が向上する。
【0075】
接着層4としては、粘着テープなどの粘着層として利用される公知の材料、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を用いることができる。また被着体に対する粘着力の調節、糊残りの低減のために、粘着付与剤や架橋剤を用いることもできる。被着体に対する粘着力は5N/10mm~12N/10mmが好ましい。粘着力が5N/10mmより小さいと、電波吸収シートが被着体から容易に剥がれてしまったり、ずれてしまったりすることがある。また、粘着力が12N/10mmより大きいと、電磁波吸収シートを被着体から剥離しにくくなる。
【0076】
また接着層4の厚さは、20μm~100μmが好ましい。接着層4の厚さが20μmより薄いと、粘着力が小さくなり、電磁波吸収シートが被着体から容易に剥がれたり、ずれたりすることがある。接着層4の厚さが100μmより大きいと、電磁波吸収シートを被着体から剥離しにくくなる。また接着層の凝集力が小さい場合は、電磁波吸収シートを剥離した場合、被着体に糊残りが生じる場合がある。また、電磁波吸収シート全体としての可撓性を低下させる要因となる。
【0077】
なお、本実施形態にかかる電磁波吸収シートに用いられる接着層4としては、電磁波吸収シートを被着物体に剥離不可能に貼着する接着層4とすることができるとともに、剥離可能な貼着を行う接着層4とすることもできる。また、前述のように、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、接着層4を備えた構成とすることは必須の要件ではなく、電磁波吸収シートを所望する部材に対して、従来一般的な各種の接着方法を用いて接着することができる。
【0078】
[保護層]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、抵抗皮膜1の表面である電磁波の入射面側に保護層5を設けることができる。
【0079】
本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、抵抗皮膜1として用いられている導電性有機高分子は、空気中の湿度の影響を受けてその表面抵抗値が変化する場合がある。このため、抵抗皮膜1の表面に保護層5を設けることで湿度の影響を小さくして、インピーダンス整合による電磁波の吸収特性が低下することを効果的に抑制できる。
【0080】
本実施形態の電磁波吸収シートにおいて保護層5としては、一例として、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートを用いることができ、これを、樹脂材料の接着剤によって抵抗皮膜1の表面に貼り付けて構成することができる。
【0081】
なお、保護層5は、抵抗皮膜1の表面全体を覆う膜とすることで、抵抗皮膜1への水分の浸透を防ぐことができる。樹脂製の膜として形成される保護層5の表面抵抗値の成分は、積層される抵抗皮膜1の表面抵抗値の成分に対して並列接続されたものとして影響すると考えられる。このため、保護層5の厚みが厚くなりすぎなければ、電磁波吸収シートの入力インピーダンスに与える影響は極めて小さいと考えられる。また、電磁波吸収シートとしての入力インピーダンスとして、保護層5の表面抵抗値の影響を考慮した上で、抵抗皮膜1の表面抵抗値をより適した数値に設定することも可能である。
【0082】
保護層5の厚みとしては、抵抗皮膜1を保護できる範囲においてより薄いことが好ましい。具体的には、保護層5の厚みは、150μm以下が好ましく100μm以下であればより好ましい。保護層の厚みが150μmを超えると、電磁波の吸収性能が低下して電磁波吸収量が20dBを下回る場合がある。また、電磁波吸収シート全体の厚みが大きくなるので、可撓性が低下する。また、保護層の厚みは25μm以上が好ましい。厚みが25μmより薄くなると、傷付きを抑制する効果が低下する。
【0083】
[実施例]
以下、本実施形態にかかる電磁波吸収シートを実際に作製して、各種の特性を測定した結果について説明する。
【0084】
<抵抗皮膜の耐候性>
抵抗皮膜を作製する抵抗皮膜液の成分を異ならせて、以下2種類の電波吸収シートをそれぞれ5枚ずつ作製した。
【0085】
(シート1)
以下の成分を添加、混合して抵抗皮膜液を調整した
(1)導電性高分子分散体 36.7部
ヘレウス社製導電性高分子(PEDOT-PSS):
PH-1000(製品名)、固形分濃度 1.2質量%
(2)PVDF分散液 5.6部
アルケマ社製:LATEX32(商品名)、
固形分濃度 20質量%、 溶媒 水
(3)水溶性ポリエステル水溶液 0.6部
互応化学工業社製:プラスコートZ561(商品名)
固形分濃度 25質量%
(4)有機溶媒(ジメチルスルホキシド) 9.9部
(5)水溶性溶媒(エタノール) 30.0部
(6)水 17.2部。
【0086】
(シート2)
以下の成分を添加、混合して抵抗皮膜液を調整した
(1)導電性高分子分散体 33.7部
ヘレウス社製導電性高分子(PEDOT-PSS):
PH-1000(製品名)、固形分濃度 1.2質量%
(2)PVDF分散液 5.1部
アルケマ社製:LATEX32(商品名)、
固形分濃度 20質量%、 溶媒 水
(3)有機溶媒(ジメチルスルホキシド) 9.5部
(4)水溶性溶媒(ノルマルプロピルアルコール) 36.0部
(5)水 15.7部。
【0087】
抵抗皮膜は、基材としてのポリエチレンテレフタレート製シート(25μm厚)上に、上記それぞれの組成で作製した抵抗皮膜液を、バーコート法によって乾燥後の厚さが約120nmとなる量を塗布し、その後150℃で5分加熱し抵抗皮膜を成膜した。この場合の抵抗皮膜の表面抵抗は、いずれも377Ω/sqとなった。
【0088】
誘電体層として厚さ400μmのウレタンゴムを、電磁波遮蔽層として厚さ15μmのアルミニウム箔を用い、抵抗被膜、誘電体層、電磁波吸収層をこの順序で積層密着させて接着剤にて接着した。
【0089】
(試験条件)
上記作製したシート1(n=5)とシート2(n=5)について、それぞれ初期の表面抵抗値を測定した。次に、全ての電磁波吸収シートを恒温高湿槽に入れて、60℃、相対湿度90%の条件で、500時間保存した。続いて、保存後の各電磁波吸収シートの抵抗皮膜の表面抵抗値を測定した。そして、表面抵抗値の変化率を、n=5の電磁波吸収シートにおける平均値として、表面抵抗値の変化率(%)=[(保存後の表面抵抗値―初期の表面抵抗値)/初期の表面抵抗値]×100との数式に基づいて算出した。
【0090】
上記測定の結果、それぞれn=5枚の電磁波吸収シートの表面抵抗値の変化率の平均は、シート1が8%、シート2が18%となった。シート1の表面抵抗値の変化率の数値8%は、377Ωに対して約30Ωに相当し、厳しい耐候性試験の条件を勘案すると、実用的には高い安定性を有している数値であると判断できる。また、シート2の表面抵抗値の変化率の数値18%は、377Ωに対して約68Ωに相当するため、実用的には十分な安定性を有している数値であると判断できる。
【0091】
上記したシート1とシート2とを用いた耐候性試験の結果から、抵抗皮膜に水溶性ポリエステル水溶液を加えることで、抵抗皮膜の吸湿性を低下させて、表面抵抗値の変化がより少ない安定した電磁波吸収特性を有する電磁波吸収シートを実現できることがわかった。
【0092】
<インピーダンス整合の効果>
次に、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおける抵抗皮膜の表面抵抗値の違いによる電磁波吸収特性の変化について、実際に異なる表面抵抗値の抵抗皮膜を備えた電磁波吸収シート(シート3~シート6)を作製して検討した。
【0093】
(シートの作製)
電磁波吸収シートは、いずれも、基材としての厚さ300μmのポリエチレンテレフタレート上に、上記したシート1で用いた抵抗皮膜液をバーコート法によって塗布厚さを変えて塗布し、その後150℃で5分間加熱して抵抗皮膜を製膜した。その後、基材のポリエチレンテレフタレートの抵抗皮膜層を塗布した側とは反対側の面に、厚さ250μmのポリエチレンテレフタレートシートを接着剤で貼り合わせた。結果として、厚さ550μmのポリエチレンテレフタレートの誘電体層2が形成されたこととなる。また、電磁波遮蔽層3は、厚さ250μmのポリエチレンテレフタレートシートの、抵抗皮膜とは反対側に、厚さ15μmのアルミニウム箔を用いて形成した。このようにして作製した各電磁波吸収シートが吸収する電磁波の中心周波数は、76GHzとなった。
【0094】
それぞれの電磁波吸収シートの乾燥後の抵抗皮膜の厚さと、表面抵抗値は以下の通りとした。
(シート3)抵抗皮膜層厚さ:140nm 表面抵抗値:320Ω/sq
(シート4)抵抗皮膜層厚さ:92nm 表面抵抗値:452Ω/sq
(シート5)抵抗皮膜層厚さ:150nm 表面抵抗値:302Ω/sq
(シート6)抵抗皮膜層厚さ:88nm 表面抵抗値:471Ω/sq。
【0095】
(電磁波吸収特性の測定)
上記作製したシート3~シート6に加え、抵抗皮膜の表面抵抗値が空気のインピーダンスと同じ377Ω/sqの電磁波吸収シートである上述のシート1とを測定対象として、フリースペース法によって電磁波吸収特性を測定した。具体的には、キーコム株式会社製の自由空間測定装置と、アンリツ株式会社製のベクトルネットワークアナライザMS4647B(商品名)を用いて、各電磁波吸収シートに対して電磁波を照射した際の入射波と反射波の強度比をそれぞれ電圧値として把握した。
【0096】
このようにして測定された各電磁波吸収シートの電磁波吸収特性を、
図2に示す。
図2では、入射波の強度に対する反射波の強度の減衰量をdBで表している。
【0097】
図2において、符号21が、シート1の電磁波吸収特性を、符号22が、シート3の電磁波吸収特性を、符号23が、シート4の電磁波吸収特性を、符号24が、シート5の電磁波吸収特性を、符号25が、シート6の電磁波吸収特性を、それぞれ表している。
【0098】
図2から分かるように、抵抗皮膜の表面抵抗値が377Ω/sqと、空気中(真空)のインピーダンス値と一致して極めて良好なインピーダンス整合が取れているシート1では、76GHzの電磁波に対する減衰量が約42dBと極めて高くなっている。
【0099】
これに対し、真空のインピーダンス値(377Ω)に対して、-15%ずれている抵抗皮膜の表面抵抗値が320Ω/sqのシート3では、76GHzでの電磁波減衰量が約22dB、また、真空のインピーダンス値に対して、+20%ずれている抵抗皮膜の表面抵抗値が452Ω/sqのシート4では、76GHzでの電磁波減衰量が約21dBと、いずれも20dB(減衰率99%)を超えて、良好な電波吸収特性を発揮している。
【0100】
一方、真空のインピーダンス値(377Ω)に対して、-20%ずれている抵抗皮膜の表面抵抗値が302Ω/sqのシート5と、+25%ずれている抵抗皮膜の表面抵抗値が471Ω/sqのシート6では、76GHzでの電磁波減衰量がいずれも約19dBとなっている。電磁波吸収シートとして実用的な電磁波吸収特性としては、減衰量として20dB程度以上と考えられることから、抵抗皮膜の表面抵抗値を、真空のインピーダンス値に対して-15%から+20%の範囲とすることで、電磁波減衰量が20dB(減衰率99%)以上を確保でき、良好な電磁波吸収特性を備えた電磁波吸収シートを得ることができることが分かる。
【0101】
[電磁波遮蔽層の表面抵抗値]
次に、電磁波遮蔽層について、良好に電波を反射できる電磁波遮蔽層の条件を確認した。
【0102】
測定は、上述のシート1に用いた抵抗皮膜、誘電体層及び電磁波遮蔽層の中で電磁波遮蔽層だけを用い、更にシート7~シート9の3種類の電磁波遮蔽層を用い、シート1に用いた電磁波遮蔽層を含めた4枚のシートについて、フリースペース法によってシートを透過する電磁波の強度を把握した。
【0103】
測定対象のシートにおける、電磁波遮蔽層の構成とその表面抵抗値は以下の通りである。
(シート1)アルミ箔(t=15μm) 抵抗値:1.9×10-3Ω/sq
(シート7)銅蒸着膜(t=0.5μm)抵抗値:1.0×10-1Ω/sq
(厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートシート上に形成)
(シート8)アルミ蒸着膜(t=50nm)抵抗値:2.0Ω/sq
(厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートシート上に形成)
(シート9)アルミ板(t=5mm) 抵抗値:1.0×10-4Ω/sq。
【0104】
なお、フリースペース法は、上述と同様にキーコム株式会社製の自由空間測定装置と、アンリツ株式会社製のベクトルネットワークアナライザMS4647B(商品名)を用いてS21パラメータによって透過する電磁波の強度を測定した。また、それぞれの電磁波遮蔽層の表面抵抗値は、株式会社三菱化学アナリテック製のロレスターGP MCP-T610型(商品名)を用いて行った。
【0105】
電磁波遮蔽層として、可撓性を有しない厚さ5mmのアルミ板を用いたシート9でのシートを透過する電磁波の強度(入力波の強度に対する透過波の強度の減衰量)をリファレンス(=100%)とすると、シート1に用いた電磁波遮蔽層の減衰量が98%、シート7の減衰量が97%となって、実用的には十分な特性を備えた電磁波遮蔽層であると言うことができる。これに対して、シート8における透過電磁波の減衰量は42%と小さく、多くの電磁波が電磁波吸収シートを透過してしまっているという結果となった。
【0106】
本実施形態の電磁波吸収シートは、電磁波が入射する入射側とは異なる側である背面側に電磁波遮蔽層を備える電波干渉型の電磁波吸収シートであるため、電磁波吸収シートを透過する電磁波の強度が大きいことは、電磁波吸収特性として好ましくない。このため、本実施形態にかかる電磁波吸収シートに用いられる電磁波遮蔽層としては、表面抵抗値が1.0×10-1Ω/sq以下であることが好ましいと判断できる。なお、シート7とシート8とにおいて、電磁波遮蔽層を構成する蒸着膜に用いられる金属が銅とアルミとで異なっているが、電磁波遮蔽層は電波を反射するための層であることから、用いられる金属材料による差異はほとんど無く、形成された電磁波遮蔽層の表面抵抗値の大きさが電磁波を反射する層としての特性を左右していると考えることができる。
【0107】
[保護層の効果]
次に、抵抗皮膜の表面に保護層を積層することの効果について検証した。
【0108】
電磁波吸収シートとしては、上述のシート1を用い、抵抗皮膜の表面に保護層として、粘着層を付与した厚さ25μmポリエチレンテレフタレートシートを貼り合せた、シート10を作製した。
【0109】
シート1と、シート10とをそれぞれ2枚ずつ用意し、これら計4枚の電磁波吸収シートに対して乾拭き摺動試験を行って、表面のシート部材の剥離の有無と表面抵抗値の変化とを測定した。なお、乾拭き摺動試験は、白ネルの布をHEIDON社の摺動試験機にセットして、加重2000g、摺動速度4500mm/min、摺動幅25mm、摺動回数1000パス(約10分間)の条件で行った。
【0110】
試験後の電磁波吸収シートを確認すると、シート1とシート10ともに、2枚いずれのシートにも目視で確認できる剥離は認められなかった。一方、電磁波吸収シートの抵抗皮膜の表面抵抗値は、保護層を設けたシート10では2枚とも抵抗値の変化は認められなかったが、保護層を形成しなかったシート1では、それぞれ16%と10%の表面抵抗値の上昇が認められた。これは、保護層を形成していない電磁波吸収シートでは、摺動試験の結果、抵抗皮膜が削られてその厚さが薄くなり表面抵抗値が高くなったためと考えられる。
【0111】
上述のように、抵抗皮膜の表面抵抗値が変動するとインピーダンス整合が崩れて電磁波吸収特性が低下してしまうことから、保護層を設けることで、抵抗皮膜の機械的な要因による厚さの変動を押さえることができ、安定した電磁波吸収特性を備えた電磁波吸収シートを構成できることが確認できた。
【0112】
[可撓性の確認]
次に、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、抵抗皮膜として導電性有機高分子を用いることによって可撓性を確保できる点について確認した。
【0113】
比較例として、抵抗皮膜を、酸化インジウム錫(ITO)をスパッタリングすることで表面抵抗が370Ω/sqとなるようにして形成したシート11を作製した。なお、シート11において、誘電体層と電磁波遮蔽層は、シート1のものと同様に構成した。
【0114】
シート1とシート11とに対し、それぞれのシートを5×10cmの大きさに切り出し、初期値となる表面抵抗を測定した。次に、水平に配置されたアルミ製の直径10mmの円筒型棒(マンドレル)上に、抵抗皮膜が表向きになるようにして被せ、シートの両端に300gの錘を付けて30秒間維持して、シートの中央部分が曲がった状態で両端を下側に引っ張った。その後、再びそれぞれの電磁波吸収シートの表面抵抗を測定した。
【0115】
次に、巻き付けるアルミ製の円筒型棒(マンドレル)の直径を6mmのものに変更して、同様の試験を行った。
【0116】
結果、アルミ製の円筒型棒(マンドレル)の直径が10mmの場合は、シート1およびシート11のいずれも抵抗皮膜の表面抵抗の値に変化が生じなかったが、アルミ製の円筒型棒(マンドレル)の直径が6mmの場合には、シート1の表面抵抗値には変化がなかったものの、シート11の表面抵抗値は、750Ω/sqと約2倍に増加した。
【0117】
また、この6mmのアルミ製の円筒型棒(マンドレル)に巻き付けた電磁波吸収シートの表面状態をマイクロスコープで観察したところ、シート1には変化は認められなかったが、シート11では、表面にクラックが入っていた。
【0118】
このことから、本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、抵抗皮膜に導電性有機高分子を用いることで、シートの可撓性が向上し、シートを強く折り曲げるような負荷がかかった場合でも、電磁波吸収特性を維持できることが確認できた。
【0119】
以上説明したように、本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、吸収する電磁波が入射する側の表面に配置される抵抗皮膜を導電性有機高分子で構成することで、電磁波吸収シートを強く折り曲げた場合でも電磁波吸収特性を維持することができ、安定した高い電磁波吸収特性と可撓性を備えた電磁波吸収シートを実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本願で開示する電磁波吸収シートは、ミリ波帯域以上の高い周波数帯域の電磁波を安定して吸収することができる電磁波吸収シートとして有用である。
【符号の説明】
【0121】
1 抵抗皮膜
2 誘電体層
3 電磁波遮蔽層
4 接着層
5 保護層