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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133312
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】磁気光学材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/28 20060101AFI20230914BHJP
   H01F 10/16 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
G02B27/28 A
H01F10/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111670
(22)【出願日】2023-07-06
(62)【分割の表示】P 2022571854の分割
【原出願日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2021003325
(32)【優先日】2021-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、チーム型研究(CREST)、「トポロジカル集積光デバイスの創成」「新規磁性コンポジット材料およびプロセス技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000173795
【氏名又は名称】公益財団法人電磁材料研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岩本 敏
(72)【発明者】
【氏名】太田 泰友
(72)【発明者】
【氏名】池田 賢司
(72)【発明者】
【氏名】小林 伸聖
(57)【要約】
【課題】ファラデー回転角等の磁気光学特性の調節幅の増大を図りうる磁気光学材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】基板20の温度が300~800[℃]の範囲に含まれる第1温度に制御され、かつ、当該基板20の雰囲気圧力が1.0×10-4[Pa]以下に制御される(第1工程)。赤外波長域にてENZ特性を示すTCO材料と、磁性金属との複合ターゲットまたは個別の複数のターゲットを用いて、基板20の温度が300~800[℃]の範囲に含まれる第2温度に制御され、かつ、当該基板20の雰囲気圧力が0.1~10[Pa]の範囲に制御されながら当該基板20の上に磁気光学材料10が成膜される(第2工程)。磁気光学材料10は、透明導電性酸化物からなるマトリックス11と、マトリックス11に分散している磁性金属粒子12と、からなるナノグラニュラー構造を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外波長域にてENZ特性を示すTCO材料からなるマトリックスと、前記マトリックスに分散している磁性金属粒子と、からなるナノグラニュラー構造を有する磁気光学材料。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気光学材料において、
前記マトリックスがIn23系化合物であり、前記磁性金属粒子がFe、CoおよびNiから選択される少なくとも1種の金属またはその合金の粒子であり、
SnをM成分として用いて、組成式FeCoNiInSnで表わされ、0≦a≦0.35、0≦b≦0.35、0≦c≦0.35、0.05≦a+b+c≦0.50、0.20≦x≦0.40、0.40≦y≦0.60、0.01≦z≦0.20、0.50≦x+y+z≦0.95、かつ、a+b+c+x+y+z=1である磁気光学材料。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気光学材料において、
前記マトリックスがZnO系材料であり、前記磁性金属粒子がFe、CoおよびNiから選択される少なくとも1種の金属またはその合金の粒子であり、
AlおよびGaから選択されるM成分を用いて、組成式FeCoNiZnで表わされ、組成比a、b、c、x、y、zは原子比率で、0≦a≦0.35、0≦b≦0.35、0≦c≦0.35、0.05≦a+b+c≦0.50、0.20≦x≦0.50、0.20≦y≦0.50、0.01≦z≦0.10、0.50≦x+y+z≦0.95、かつ、a+b+c+x+y+z=1である磁気光学材料。
【請求項4】
請求項1に記載の磁気光学材料において、
前記マトリックスがCdO系材料であり、前記磁性金属粒子がFe、CoおよびNiから選択される少なくとも1種の金属またはその合金の粒子であり、
InおよびDyから選択されるM成分を用いて、組成式FeCoNiCdで表わされ、組成比a、b、c、x、y、zは原子比率で、0≦a≦0.35、0≦b≦0.35、0≦c≦0.35、0.05≦a+b+c≦0.50、0.20≦x≦0.50、0.20≦y≦0.50、0.02≦z≦0.10、0.50≦x+y+z≦0.95、かつ、a+b+c+x+y+z=1である磁気光学材料。
【請求項5】
請求項1に記載の磁気光学材料において、
前記マトリックスがSnO2系材料であり、前記磁性金属粒子がFe、CoおよびNiから選択される少なくとも1種の金属またはその合金の粒子であり、
FおよびNbから選択されるM成分を用いて、組成式FeCoNiSnで表わされ、組成比a、b、c、x、y、zは原子比率で、0≦a≦0.35、0≦b≦0.35、0≦c≦0.35、0.05≦a+b+c≦0.50、0.15≦x≦0.40、0.35≦y≦0.70、0.02≦z≦0.10、0.50≦x+y+z≦0.95、かつ、a+b+c+x+y+z=1である磁気光学材料。
【請求項6】
請求項1に記載の磁気光学材料において、
前記マトリックスがTiO2系材料であり、前記磁性金属粒子がFe、CoおよびNiから選択される少なくとも1種の金属またはその合金の粒子であり、
組成式FeCoNiTiNbで表わされ、組成比a、b、c、x、y、zは原子比率で、0≦a≦0.35、0≦b≦0.35、0≦c≦0.35、0.05≦a+b+c≦0.50、0.15≦x≦0.40、0.35≦y≦0.70、0.02≦z≦0.10、0.50≦x+y+z≦0.95、かつ、a+b+c+x+y+z=1である磁気光学材料。
【請求項7】
請求項1に記載の磁気光学材料において、
前記マトリックスがIn23-ZnO系材料であり、前記磁性金属粒子がFe、CoおよびNiから選択される少なくとも1種の金属またはその合金の粒子であり、
組成式FeCoNiInGayZnzwで表わされ、組成比a、b、c、x、y、z、wは原子比率で、0≦a≦0.35、0≦b≦0.35、0≦c≦0.35、0.05≦a+b+c≦0.50、0.15≦x≦0.40、0.35≦y≦0.70、0.02≦z≦0.10、0.65≦x+y+z≦0.95、かつ、a+b+c+x+y+z+w=1である磁気光学材料。
【請求項8】
基板の温度を300~800[℃]の範囲に含まれる第1温度に制御し、かつ、当該基板の雰囲気圧力を1.0×10-4[Pa]以下に制御する第1工程と、
赤外波長域にてENZ特性を示すTCO材料または当該TCO材料の基礎となる元素および化合物のうち少なくとも一方と、磁性金属との複合ターゲットまたは個別の複数のターゲットを用いて、前記基板の温度を300~800[℃]の範囲に含まれる第2温度に制御し、かつ、当該基板の雰囲気圧力を0.1~10[Pa]の範囲に制御しながら当該基板の上に磁気光学材料を成膜する第2工程と、を含む磁気光学材料の製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の磁気光学材料の製造方法において、
前記第1温度が前記第2温度よりも高温である磁気光学材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気光学材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気光学効果を有する層のファラデー回転角の増大を図るため、透明磁性層と誘電体との組み合わせにより当該層を構成することが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-277842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、角速度ωの電磁波(光)が厚さdの試料を透過する際のファラデー回転角θFは、当該試料の誘電率テンソルの対角成分εxxおよび非対角成分εxyを用いて、関係式(01)により表わされる。「c」は光速である。
【0005】
θF=(ωd/2c)εxy/(εxx1/2 ‥(01)。
【0006】
従来技術によれば、試料の誘電率テンソルの対角成分εxxを小さくすることにより、ファラデー回転角θFの増大が図られているものの、試料の誘電率テンソルの非対角成分εxyが勘案されていなかったため、ファラデー回転角θFの増大には限界があった。
【0007】
そこで、本発明は、ファラデー回転角等の磁気光学特性の調節幅の増大を図りうる磁気光学材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の磁気光学材料は、赤外波長域にてENZ(Epsilon Near Zero)特性を示す透明電極材料からなるマトリックスと、前記マトリックスに分散している磁性金属粒子と、からなるナノグラニュラー構造を有する。
【0009】
本発明の磁気光学材料の製造方法は、基板の温度を300~800[℃]の範囲に含まれる第1温度に制御し、かつ、当該基板の雰囲気圧力を1.0×10-4[Pa]以下に制御する第1工程と、
赤外波長域にてENZ特性を示すTCO(Transparent Conductive Oxide)材料(透明導電性材料)の基礎となる元素および化合物のうち少なくとも一方と、磁性金属との複合ターゲットまたは個別の複数のターゲットを用いて、前記基板の温度を300~800[℃]の範囲に含まれる第2温度に制御し、かつ、当該基板の雰囲気圧力を0.1~10[Pa]の範囲に制御しながら当該基板の上に前記磁気光学材料を成膜する第2工程と、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の磁気光学材料によれば、マトリックス中にナノ微粒子が分散したナノグラニュラー構造において、特定の波長域で誘電率が極めて零に近くなるENZ材料をマトリックスとして用いることにより誘電率テンソルの対角成分εxxを小さくするための調節幅の増大を図り、ナノ微粒子に強磁性金属を用いることによって誘電率テンソルの非対角成分εxyを大きくするための調節幅の増大が図られることにより、ファラデー回転角θFなどの磁気光学特性の調節幅のさらなる増大が図られる。誘電率テンソルの対角成分εxxを小さくするための調節幅の増大に加えて、さらに誘電率テンソルの非対角成分εxyを大きくするための調節幅の増大が図られることにより、ファラデー回転角θFなどの磁気光学特性の調節幅のさらなる増大が図られる(関係式(01)参照)。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る磁気光学材料の構造に関する模式的説明図。
図2】本発明に係る磁気光学材料の製造方法に関する模式的説明図。
図3】実施例および比較例のXRDスペクトルに関する説明図。
図4】実施例および比較例の電気抵抗率に関する説明図。
図5】実施例および比較例のファラデー回転角の波長依存性に関する説明図。
図6】実施例および比較例の磁化曲線に関する説明図。
図7】実施例の誘電率の波長依存性に関する説明図。
図8】実施例および比較例の光透過率に関する説明図。
図9】実施例および比較例の光反射率に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態としての磁気光学材料10において、マトリックス11はIn23系化合物であり、磁性金属粒子12はFe、CoおよびNiから選択される少なくとも1種の金属またはその合金の粒子である。図1に模式的に示されているように、磁気光学材料10は、赤外波長域にてENZ特性を示すTCO材料からなるマトリックス11と、マトリックス11に分散している磁性金属粒子12と、により構成されているナノグラニュラー構造を有する。磁性金属粒子12の粒径は、例えば2~20nmの範囲に含まれている。これは、他の実施形態における磁気光学材料10においても同様である。
【0013】
磁気光学材料10は、SnをM成分として用いて、組成式FeCoNiInで表わされ、組成比a、b、c、x、y、zは原子比率で、0≦a≦0.35、0≦b≦0.35、0≦c≦0.35、0.05≦a+b+c≦0.50、0.20≦x≦0.40、0.40≦y≦0.60、0.01≦z≦0.20、0.50≦x+y+z≦0.95、かつ、a+b+c+x+y+z=1である。Ge、Mo、F、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、WおよびTeから選択される1種以上の元素がM成分として採用されてもよい。
【0014】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態としての磁気光学材料10において、マトリックス11はZnO系材料であり、磁性金属粒子12はFe、CoおよびNiから選択される少なくとも1種の金属またはその合金の粒子である。磁気光学材料10は、AlおよびGaから選択されるM成分を用いて、組成式FeCoNiZnで表わされ、組成比a、b、c、x、y、zは原子比率で、0≦a≦0.35、0≦b≦0.35、0≦c≦0.35、0.05≦a+b+c≦0.50、0.20≦x≦0.50、0.20≦y≦0.50、0.01≦z≦0.10、0.50≦x+y+z≦0.95、かつ、a+b+c+x+y+z=1である。B、In、Y、Sc、F、V、Si、Ge、Ti、ZrおよびHfから選択される1種以上の元素がM成分として採用されてもよい。
【0015】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態としての磁気光学材料10において、マトリックス11はCdO系材料であり、磁性金属粒子12はFe、CoおよびNiから選択される少なくとも1種の金属またはその合金の粒子である。磁気光学材料10は、InおよびDyから選択されるM成分を用いて、組成式FeCoNiCdで表わされ、組成比a、b、c、x、y、zは原子比率で、0≦a≦0.35、0≦b≦0.35、0≦c≦0.35、0.05≦a+b+c≦0.50、0.20≦x≦0.50、0.20≦y≦0.50、0.02≦z≦0.10、0.50≦x+y+z≦0.95、かつ、a+b+c+x+y+z=1である。SnがM成分として採用されてもよい。
【0016】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態としての磁気光学材料10において、マトリックス11はSnO2系材料であり、磁性金属粒子12はFe、CoおよびNiから選択される少なくとも1種の金属またはその合金の粒子である。磁気光学材料10は、FおよびNbから選択されるM成分を用いて、組成式FeCoNiSnで表わされ、組成比a、b、c、x、y、zは原子比率で、0≦a≦0.35、0≦b≦0.35、0≦c≦0.35、0.05≦a+b+c≦0.50、0.15≦x≦0.40、0.35≦y≦0.70、0.02≦z≦0.10、0.50≦x+y+z≦0.95、かつ、a+b+c+x+y+z=1である
【0017】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態としての磁気光学材料10において、マトリックス11はTiO2系材料であり、磁性金属粒子12はFe、CoおよびNiから選択される少なくとも1種の金属またはその合金の粒子である。磁気光学材料10は、組成式FeCoNiTiNbで表わされ、組成比a、b、c、x、y、zは原子比率で、0≦a≦0.35、0≦b≦0.35、0≦c≦0.35、0.05≦a+b+c≦0.50、0.15≦x≦0.40、0.35≦y≦0.70、0.02≦z≦0.10、0.50≦x+y+z≦0.95、かつ、a+b+c+x+y+z=1である。
【0018】
(第6実施形態)
本発明の第6実施形態としての磁気光学材料10において、マトリックス11はIn23-ZnO系材料であり、磁性金属粒子12はFe、CoおよびNiから選択される少なくとも1種の金属またはその合金の粒子である。磁気光学材料10は、組成式FeCoNiInGayZnzwで表わされ、組成比a、b、c、x、y、z、wは原子比率で、0≦a≦0.35、0≦b≦0.35、0≦c≦0.35、0.05≦a+b+c≦0.50、0.15≦x≦0.40、0.35≦y≦0.70、0.02≦z≦0.10、0.65≦x+y+z≦0.95、かつ、a+b+c+x+y+z+w=1である。
【0019】
(製造方法)
本発明の磁気光学材料10は基板上に成膜される。基板としては、石英ガラスまたはコーニング社製♯7059(コーニング社の商品名)などのガラス基板、表面を熱酸化した単結晶SiウエハまたはMgO基板が採用される。
【0020】
図2に示されているように、例えばFe、CoおよびNiのうち少なくとも1つを含む磁性金属の円板22の上に、マトリックス11を構成するITO、AZOまたはGZO、IGZOなどの赤外波長域にてENZ特性を示すTCO材料のチップ21が配置された複合ターゲットが用いられ、スパッタリング法によって磁気光学材料10が成膜される。TCO材料のチップ21に代えて、当該TCO材料を構成する元素または当該元素の化合物のチップが用いられてもよい。母材に同一のまたは相応する酸化物(例えばIn23)または窒化物(例えばGaN)のチップと、ドーパント(例えばSn、Ge)のチップとが用いられてもよい。第6実施形態に関して、In23チップおよびZnOチップが母材チップとして用いられてもよい。
【0021】
複合ターゲットに代えて、磁性金属ターゲットおよびTCO材料ターゲット、または、磁性金属ターゲットならびにTCO材料を構成する元素および/または当該元素の化合物のそれぞれのターゲットが用いられてもよい。この際、スパッタリング法により、磁気光学材料10の組成比を調節するために各ターゲットのスパッタ電力およびスパッタ電力供給時間などの因子が調節されながら磁気光学材料10が成膜されてもよい。
【0022】
スパッタ成膜に際して、Arガス、ArおよびN2の混合ガスまたはArおよびO2の混合ガスが雰囲気ガスとして用いられる。成膜時間の長短により膜厚が制御され、例えば0.3~3[μm]の磁気光学材料10が製造される。成膜前の「第1工程」において、基板の温度が300~800[℃]の範囲に含まれる第1温度に制御された。また、不純物混入などの影響によるマトリックスの結晶性の低下とそれに伴う透過率の低下を抑制するため、当該基板の雰囲気圧力が1.0×10-4[Pa]以下に制御される。成膜工程としての「第2工程」において、基板の温度が300~800[℃]の範囲に含まれる第2温度に制御された。また、当該基板の雰囲気圧力が0.1~10[Pa]の範囲に含まれるように制御された。成膜時のスパッタ電力は50~350[W]に調節された。
【0023】
第1温度は第2温度と等温または低温であってもよいが、第1温度が第2温度よりも高温になるように第1工程および第2工程のそれぞれにおいて基板の温度が制御されることが好ましい。
【0024】
(実施例・比較例)
基板の上に、スパッタリング法により実施例1-1~1-5および比較例1-1~1-4のそれぞれの薄膜が作製された。実施例および比較例の数番N-Mは、第N実施形態(N=1~7)の第M実施例または第M比較例を表わしている。基板としては、約0.5mm厚の石英基板もしくはコーニング社製#7059(コーニング社の商品名)ガラス基板が用いられた。表1には、各実施例および各比較例の薄膜の組成を表わす原子比率a、b、c、x、y、zの数値が示されている。スパッタリングに際して用いられる複合ターゲットの組成が調節されることにより、薄膜の組成が調節された。
【0025】
【表1】
【0026】
実施例および比較例の磁気光学材料10の作成に際して、第1工程(成膜前)における基板の温度(第1温度)および第2工程(成膜時)における基板の温度(第2温度)は同一の温度に制御された。適当なヒータにより基板が加熱されることにより、当該基板の温度が制御された。基板が収容されたチャンバが真空ポンプにより真空吸引されることによって、基板の雰囲気圧力が制御された。
【0027】
図3左側には、マトリックス11がITOである実施例1-1~1-5のそれぞれの磁気光学材料10のXRDスペクトルが、一点鎖線、二点鎖線、点線、破線および実線のそれぞれにより示されている。図3右側には、マトリックス11がITOである比較例1-1~1-4のそれぞれの磁気光学材料10のXRDスペクトルが、一点鎖線、二点鎖線、点線および破線のそれぞれにより示されている。図3から、ナノ磁性粒子であるFeCoおよびNiに由来する回折ピークが確認できることがわかる。また、比較例1-2および比較例1-4から磁性金属含有量が多くなるとマトリックスのITOの結晶性が低下することが分かる。
【0028】
(電気抵抗率)
図4左側には、マトリックス11がITOである実施例1-1~1-5のそれぞれの磁気光学材料10の電気抵抗率が示されている。図4左側における丸付き数字Mは、実施例1-Mに対応している。図4右側には、マトリックス11がITOである比較例1-1~1-4のそれぞれの磁気光学材料10の電気抵抗率が示されている。図4右側における四角付き数字Mは、比較例1-Mに対応している。図4から、実施例ではITOマトリックスの高い電気伝導性に応じた抵抗率が得られており、キャリア密度とキャリアの移動度が高いことから誘電率が零に近くなる波長帯域が近赤外領域に存在していることがわかる。一方、比較例1-1および比較例1-3の磁性金属含有量が多い試料で抵抗率の増加が確認される。結晶性の低下に由来するキャリアの移動度の低下などによるものであると考えられ、近赤外領域でのENZ特性の発現に不適であることを示している。
【0029】
(ファラデー回転角の波長依存性)
図5左側には、マトリックス11がITOである実施例1-1~1-5のそれぞれの磁気光学材料10のファラデー回転角θFの波長依存性の測定結果が、一点鎖線、二点鎖線、点線、破線および実線のそれぞれにより示されている。図5右側には、マトリックス11がITOである比較例1-1~1-4のそれぞれの磁気光学材料10のファラデー回転角θFの波長依存性の測定結果が、一点鎖線、二点鎖線、点線および破線のそれぞれにより示されている。図5から、実施例の磁気光学材料10のファラデー回転角θFの最大値が、波長範囲500~1700nmにおいて0.3から2.8[deg/μm]の範囲に含まれており、磁気光学材料として有効に機能していることがわかる。実施例1-1~1-3のそれぞれの磁気光学材料10のファラデー回転角θFが、波長が長くなるにつれて約900nmで符号が正から負に変化していることがわかる。これは、マトリックス中にナノメートルサイズの磁性微粒子が分散したナノグラニュラー構造に起因した磁気光学特性であり、ITOマトリックス中に磁性金属が分散したナノグラニュラー構造が形成され、その構造に由来した磁気光学効果が発現していることを意味している。一方、比較例1-2および1-4はファラデー効果が確認されていないことから、磁性金属の含有量が不足していることを示している。
【0030】
(磁化曲線)
図6左側には、マトリックス11がITOである実施例1-1~1-5のそれぞれの磁気光学材料10の磁化曲線が、一点鎖線、二点鎖線、点線、破線および実線のそれぞれにより示されている。図6右側には、マトリックス11がITOである比較例1-1~1-4のそれぞれの磁気光学材料10の磁化曲線が、一点鎖線、二点鎖線、点線および破線のそれぞれにより示されている。図6から、磁性金属含有量が大きくなるほど飽和磁束密度Bsが大きくなっていることがわかる。さらに、強磁性主体の磁気特性であり、ナノ磁性粒子由来の磁気特性が得られていることがわかる。一方、比較例1-2および1-4は磁化がほぼ確認されていないことから、磁性金属の含有量が不足していることを示している。
【0031】
(光学定数)
図7には、マトリックス11がITOである実施例1-1および1-4のそれぞれの誘電率の実数成分の波長依存性の測定結果が、一点鎖線および破線のそれぞれにより示されている。複素屈折率mは、複素誘電率ε(ω)および複素透磁率μ(ω)を用いて、関係式(02)により表わされる。ここで、複素透磁率μ(ω)は、周波数帯域が強磁性共鳴周波数に対して十分に高い周波数であるため、1として取り扱うことができる。
【0032】
m={ε(ω)・μ(ω)/(ε0・μ0)}1/2 ‥(02)。
【0033】
図7から、可視光および近赤外光を含む200~2000[nm]の範囲に含まれる波長λ(=c(光速)/f)において、磁気光学材料10の屈折率nが約1.1~2.1の範囲に含まれていることがわかる。また、磁気光学材料10の屈折率nは、波長λが長くなるにつれて徐々に大きくなり、約1000nmで極大値を示した後、徐々に小さくなっていることがわかる。
【0034】
図7から、当該波長範囲において、薄膜の誘電率の実数成分が1700nm付近および1900nm付近で零となっており、ITOマトリックス中に磁性金属が分散したナノグラニュラー構造においてENZ特性が得られていることが確認される。
【0035】
(透過特性)
図8左側には、マトリックス11がITOである実施例1-1~1-5のそれぞれの磁気光学材料10の透過率の波長依存性の測定結果が、一点鎖線、二点鎖線、点線、破線および実線のそれぞれにより示されている。図8右側には、マトリックス11がITOである比較例1-1~1-4のそれぞれの磁気光学材料10の透過率の波長依存性の測定結果が、一点鎖線、二点鎖線、点線および破線のそれぞれにより示されている。
【0036】
図8から、金属粒子の含有量が高くなるほど磁気光学材料10の透過率が低くなる傾向があることがわかる。また、可視光域に高い光透過帯域を有するITOマトリックスに由来した光透過特性を示していることがわかる。その一方、実施例1-1、1-2および1-4については、透過率が10~50%の範囲に含まれているため、光の伝送損失を抑制する観点から特に好ましい。一方、比較例1-1および1-3は光透過率が2%以下となり光の伝送損失の観点から不適である。
【0037】
(透過特性)
図9左側には、マトリックス11がITOである実施例1-1~1-5のそれぞれの磁気光学材料10の反射率の波長依存性の測定結果が、一点鎖線、二点鎖線、点線、破線および実線のそれぞれにより示されている。図9右側には、マトリックス11がITOである比較例1-1~1-4のそれぞれの磁気光学材料10の反射率の波長依存性の測定結果が、一点鎖線、二点鎖線、点線および破線のそれぞれにより示されている。
【0038】
図9から、赤外領域における高い反射率が確認され、ITOマトリックスのフリーキャリア吸収に基づく光学特性を示しているとがわかる。
【符号の説明】
【0039】
10‥磁気光学材料、11‥マトリックス、12‥磁性金属粒子、20‥基板、21‥TCO材料を構成するためのチップ、22‥磁性金属の円板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9