IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 田邉 一仁の特許一覧

特開2023-13344ビスベンズイミド類縁体、その製造方法及びその用途
<>
  • 特開-ビスベンズイミド類縁体、その製造方法及びその用途 図1
  • 特開-ビスベンズイミド類縁体、その製造方法及びその用途 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013344
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】ビスベンズイミド類縁体、その製造方法及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C07D 235/20 20060101AFI20230119BHJP
   C07D 403/14 20060101ALI20230119BHJP
   C07D 487/04 20060101ALI20230119BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230119BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230119BHJP
【FI】
C07D235/20 CSP
C07D403/14
C07D487/04 157
C12Q1/02
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117459
(22)【出願日】2021-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】521314895
【氏名又は名称】田邉 一仁
(74)【代理人】
【識別番号】100119378
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】田邉 一仁
(72)【発明者】
【氏名】蒔苗 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】水谷 美優
(72)【発明者】
【氏名】西原 達哉
【テーマコード(参考)】
4B063
4C050
4C063
4H039
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA05
4B063QQ02
4B063QQ89
4B063QS36
4B063QX02
4C050AA01
4C050AA07
4C050BB06
4C050CC12
4C050EE02
4C050FF01
4C050GG01
4C050HH04
4C063AA03
4C063BB06
4C063CC42
4C063DD26
4C063EE10
4H039CA42
4H039CH40
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低酸素細胞を選択的に発光させるビスベンズイミド類縁体の提供。
【解決手段】下記一般式(1)

(式中、-R1は炭素数1~3のアルキル基を表し、-Xは、アジド基または、アゾ基含有置換基を表す。)で表される、ビスベンズイミド類縁体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
(式中、-R1は炭素数1~3のアルキル基を表し、-Xは下記(X1)~(X3)のいずれかで表される官能基を表す。)
で表される、ビスベンズイミド類縁体。
【請求項2】
下記一般式(2)で表される化合物(式中、-R1は上記と同じ官能基を表す。)及び下記一般式(3)で表される4-ニトロベンズアルデヒド
を共存させた状態で酸性条件下で還元して、次いで環化させることで、下記一般式(4)
(式中、-R1は上記と同じ官能基を表す。)で表されるビスベンズイミド類縁体を得て、
上記一般式(4)で表されるビスベンズイミド類縁体の末端アミノ基を上記官能基Xに置換することによる、
請求項1記載の一般式(1)で表される、ビスベンズイミド類縁体の製造方法。
【請求項3】
被検細胞の細胞核に請求項1記載のビスベンズイミド類縁体を結合させ、前記結合後の被検細胞に光を照射して、前記照射に基づく蛍光を観測する、
被検細胞の酸素濃度の評価方法。
【請求項4】
請求項1記載のビスベンズイミド類縁体を含有する診断薬であって、
被検細胞の細胞核に前記ビスベンズイミド類縁体を結合させ、前記結合後の被検細胞に光を照射して、前記照射に基づく蛍光を観測することにより、被検細胞の酸素濃度を評価するための、
前記診断薬。
【請求項5】
請求項1記載のビスベンズイミド類縁体(但し、-Xは下記(X1)で表される官能基である。)及び下記一般式(5)
(式中、-Yは、一般式(5)に表示される炭素原子とC-C単結合を形成する官能基を表す。)で表される化合物を反応させて、下記一般式(6)
で表される化合物を得て、得られた一般式(6)で表される化合物を細胞核に結合させる、
官能基-Yを有する化合物を細胞核へ導入する方法。
【請求項6】
請求項1記載のビスベンズイミド類縁体(但し、-Xは下記(X1)で表される官能基である。)及び下記一般式(7)
(式中、-Zは、一般式(7)に表示される窒素原子とN-C単結合を形成する官能基を表す。)で表される化合物を反応させて、下記一般式(8)
で表される化合物を得て、得られた一般式(8)で表される化合物を細胞核に結合させる、
官能基-Zを有する化合物を細胞核へ導入する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なビスベンズイミド類縁体化合物、その化合物の製造方法及びその化合物の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍や虚血性疾患等では、低酸素細胞が発生する。低酸素細胞とは、酸素濃度の低い細胞を指す。腫瘍組織では、腫瘍細胞の非常に早い細胞増殖と血管形成の不均衡に伴って低酸素細胞(低酸素領域)が発生する。一方、梗塞等の虚血性疾患では、血管が詰まる結果、その下流領域で低酸素細胞が発生する。重篤な低酸素環境の細胞は、正常組織には発生しないことから、低酸素細胞を可視化することはこれら疾患の可視化につながると期待されている。低酸素細胞の細胞核を染色する技術はこれまでには報告されていない。一般に、細胞核を染色することは、動物組織の顕微鏡等による画像化において、非常に見やすくまた汎用的に用いられる技術であることから、低酸素細胞という異常な細胞を明瞭に可視化する技術は診断薬や低酸素細胞を必要とするライフサイエンス研究に応用が期待される。
【0003】
細胞核を染色する核染色として下記構造式
で表されるビスベンズイミド化合物が知られ、Hoechst分子などとも呼ばれる。Hoechst分子は細胞核内に集積し、ゲノムDNAと結合する結果、発光する性質をもつ。このことから、細胞核を染色する核染色として汎用されてきた。
【0004】
上述した細胞の染色とは別の課題として、細胞核との親和性の高い化合物には、Huisgen反応への応用が期待される。Huisgen反応とは、これまでにも有機合成で広く用いられてきた化学反応である。アジド基とアセチレン基との間で、銅触媒存在下環化付加反応を起こす。また、歪みの大きなアセチレン誘導体を用いると触媒の非存在下であっても環化付加反応が進行する。この反応は様々な生体分子(タンパク質や核酸など)と機能分子をつなぐ反応として、汎用されてきた。また、Hoechst分子の修飾にも用いられてきた(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第WO2015/042438号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、Hoechst分子は細胞核内に集積し、ゲノムDNAと結合する結果、発光する性質をもつ。しかし、Hoechst分子に細胞を選択する機能はなく、全ての細胞の細胞核を染色する。よって、Hoechst分子では、低酸素細胞の検出には不向きである。このような事情に鑑み、低酸素細胞を選択的に発光させる化合物の提供を本発明の課題とする。
【0007】
上述したHuisgen反応については、従来の化合物ではHoechst側にアセチレン基、機能分子側にアジド基をもつ化合物を縮合することで達成されている。しかし、アジド基の導入は通常複雑な反応を経ることが多い。よって、機能分子へアジド基を導入することなくHuisgen反応に用いることができるような化合物の提供ができることがさらに好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す本発明を完成した。
【0009】
(I)下記一般式(1)
(式中、-R1は炭素数1~3のアルキル基を表し、-Xは下記(X1)~(X3)のいずれかで表される官能基を表す。)
で表される、ビスベンズイミド類縁体。
(II)下記一般式(2)で表される化合物(式中、-R1は上記と同じ官能基を表す。)及び下記一般式(3)で表される4-ニトロベンズアルデヒド
を共存させた状態で酸性条件下で還元して、次いで環化させることで、下記一般式(4)
(式中、-R1は上記と同じ官能基を表す。)で表されるビスベンズイミド類縁体を得て、上記一般式(4)で表されるビスベンズイミド類縁体の末端アミノ基を上記官能基Xに置換することによる、上記(I)の一般式(1)で表される、ビスベンズイミド類縁体の製造方法。
(III)被検細胞の細胞核に上記(I)のビスベンズイミド類縁体を結合させ、前記結合後の被検細胞に光を照射して、前記照射に基づく蛍光を観測する、被検細胞の酸素濃度の評価方法。
(IV)上記(I)のビスベンズイミド類縁体を含有する診断薬であって、被検細胞の細胞核に前記ビスベンズイミド類縁体を結合させ、前記結合後の被検細胞に光を照射して、前記照射に基づく蛍光を観測することにより、被検細胞の酸素濃度を評価するための、前記診断薬。
(V)上記(I)のビスベンズイミド類縁体(但し、-Xは下記(X1)で表される官能基である。)及び下記一般式(5)
(式中、-Yは、一般式(5)に表示される炭素原子とC-C単結合を形成する官能基を表す。)で表される化合物を反応させて、下記一般式(6)
で表される化合物を得て、得られた一般式(6)で表される化合物を細胞核に結合させる、官能基-Yを有する化合物を細胞核へ導入する方法。
(VI)上記(I)のビスベンズイミド類縁体(但し、-Xは下記(X1)で表される官能基である。)及び下記一般式(7)
(式中、-Zは、一般式(7)に表示される窒素原子とN-C単結合を形成する官能基を表す。)で表される化合物を反応させて、下記一般式(8)
で表される化合物を得て、得られた一般式(8)で表される化合物を細胞核に結合させる、官能基-Zを有する化合物を細胞核へ導入する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により提供される上記(I)のビスベンズイミド類縁体は、細胞核内に取り込まれた場合に、その細胞が低酸素細胞であるときに選択的に染色することができる。よって、前記類縁体は、細胞の酸素濃度の診断薬として用いることが期待される。
【0011】
さらに、本発明により提供される上記(I)のビスベンズイミド類縁体(上記Xが-Nである。)については、炭素-炭素三重結合を有する機能分子をHuisgen反応によって細胞内に取り込ませることが期待される。この場合、前記機能分子はアジド基を有していなくてもよい点において、用いることが出来る機能分子の選択肢が広がるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】有酸素条件及び低酸素条件における、本発明のビスベンズイミド類縁体存在下における蛍光強度の観察像である。
図2】有酸素条件及び低酸素条件における、本発明のビスベンズイミド類縁体存在下における蛍光強度の相対値の時間経過を表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明で提供される新規ビスベンズイミド類縁体(以下、本発明の化合物、とも呼ぶ。)は、下記一般式(1)で表される。
【0014】
一般式(1)中、-R1は炭素数1~3のアルキル基を表す。好適には、メチル基又はエチル基である。
【0015】
一般式(1)中、-Xは下記(X1)~(X3)のいずれかで表される官能基を表す。
【0016】
従来技術の欄で紹介したHoechst分子との構造類似性を考慮して、本明細書では、以下の略称を用いることがある。
【0017】
Hoechst-N3:一般式(1)において-R1がメチル基であり、-Xが上記(X1)で表される官能基であるビスベンズイミド類縁体。
【0018】
Hoechst-Azo-NMe2:一般式(1)において-R1がメチル基であり、-Xが上記(X2)で表される官能基であるビスベンズイミド類縁体。
【0019】
Hoechst-Azo-NO2:一般式(1)において-R1がメチル基であり、-Xが上記(X3)で表される官能基であるビスベンズイミド類縁体。
【0020】
Hoechst-NH2:一般式(1)において-R1がメチル基であり、-Xがアミノ基であるビスベンズイミド類縁体であり、言い換えると、一般式(4)において-R1がメチル基である化合物であり、本発明の化合物の前駆体になり得る化合物である。
【0021】
本発明の化合物の製造方法は特に限定は無く、好適には、一般式(1)において-Xがアミノ基である化合物、すなわち、下記一般式(4)で表される化合物
(例:R1がメチル基である場合は、Hoechst-NH2である。)を得て、前記アミノ基を所望の官能基X、すなわち、上記(X1)~(X3)に置換する合成スキームが提案される。一般式(4)で表される化合物からアミノ基を上記(X1)~(X3)に置換する具体的方法は、後述の実施例を参考にすることができる。
【0022】
一般式(4)で表される化合物は、下記一般式(2)で表される化合物及び下記一般式(3)で表される4-ニトロベンズアルデヒド
を共存させた状態で酸性条件下で還元して、次いで環化させることで得られ、具体的な合成例は後述の実施例を参照することができる。
【0023】
本発明の化合物は、従来のHoechst分子と同じように、細胞核内のDNA二重鎖に結合する機能分子である。しかし、従来のHoechst分子とは異なり、細胞の酸素濃度によって蛍光の程度が変化するという特徴がある。このメカニズムは概略以下のように推察される。
【0024】
本発明の化合物は、一般式(1)中、-Xとして、上記(X1)~(X3)のいずれかで表される官能基を有している。これらの官能基はアジド構造又はアゾ構造を有していて、当該構造は、蛍光による発光は生じない。ここで、本発明の化合物が低酸素濃度の細胞に取り込まれた場合は、還元酵素による還元を受けて、アミノ基へと還元され、上述の一般式(4)で表される化合物へと変換される。アミノ基を有する一般式(4)で表される化合物は、特定の波長の光照射により蛍光を発するため、発光現象が観測される。
【0025】
このように、本発明の化合物は低酸素細胞の細胞核を選択的に染色することができるので、低酸素細胞の所在を明らかにしたり、被検細胞の酸素濃度を評価したりするための診断薬として用いることができる。虚血性疾患や固形がん組織などに低酸素細胞が存在するため、これらの疾患を早期に発見するためにも本発明の化合物の利用が期待される。後述の実施例では励起波長405nmの光照射に対する蛍光を観測している。
【0026】
次に、本発明の化合物が有する細胞核内への機能分子運搬機能について説明する。本発明の化合物、すなわち上記一般式(1)で表される化合物のうち、官能基-Xが-Nである化合物はHuisgen反応により、アセチレン構造を有する化合物と化学結合させることができる。そのように化学結合した化合物を細胞核にさらに結合させることは、前記アジド構造又はアセチレン構造を有する化合物を細胞核内に運搬することに相当する。
【0027】
上述のアセチレン構造を有する化合物の一例として、下記一般式(5)で表される化合物が挙げられる。
一般式(5)において、-Yは、一般式(5)に表示される炭素原子とC-C単結合を形成する官能基を表す。一般式(5)で表される化合物及び上記一般式(1)で表される化合物のうち、官能基-Xが-Nである化合物を、同触媒の存在下、Huisgen反応に供することにより、下記一般式(6)
で表される化合物を得ることができる。得られた一般式(6)で表される化合物を細胞核に結合させることは、官能基-Yを有する化合物を細胞核へ導入することに相当する。
【0028】
具体的な官能基-Yとしては、例示として、蛍光色素のようなシグナル発信分子、DNAアルキル化剤のような細胞核内ゲノムDNAと作用する薬剤等が好適に挙げられる。
【0029】
上述のアセチレン構造を有する化合物の別の例として、下記一般式(7)で表される化合物が挙げられる。
一般式(7)において、-Zは、一般式(7)に表示される窒素原子とN-C単結合を形成する官能基を表す。一般式(7)で表される化合物及び上記一般式(1)で表される化合物のうち、官能基-Xが-Nである化合物を、Huisgen反応に供することにより、下記一般式(8)
で表される化合物を得ることができる。得られた一般式(8)で表される化合物を細胞核に結合させることは、官能基-Zを有する化合物を細胞核へ導入することに相当する。通常は、アセチレン構造を有する化合物が一般式(8)で表されるように、比較的に複雑な構造の環式構造を有する場合には、Huisgen反応において同触媒は通常は不要である。
【0030】
具体的な官能基-Zとしては、例示として、蛍光色素のようなシグナル発信分子、DNAアルキル化剤のような細胞核内ゲノムDNAと作用する薬剤等が好適に挙げられる。
【0031】
本発明によるHuisgen反応を用いた機能分子の導入の利点は、上述の例では一般式(5)や一般式(7)で表される化合物、すなわち細胞への導入を目的とする機能分子側に、アジド構造を導入する必要が無いことである。任意の化学構造をもつ化合物に、アジド構造を導入することは通常は複雑な反応を要しがちであるから、本発明のように、アジド構造を導入する必要が無いことは、Huisgen反応の利用をより促進することにつながり得る。
【実施例0032】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は、本実施例により何ら限定されるものではない。
【0033】
合成した化合物などの測定は以下の装置を用いた。
NMR spectra JNM-ECX500II (1H: 500 MHz, 13C: 125 MHz) spectrometer (JEOL) and chemical shifts: 溶媒の残留プロトンにより設定
(CD3OD: δ3.30 (1H NMR)
FAB mass spectrometry:JMS-700N mass spectrometer (JEOL)
Matrix: nitrobenzylalcohol
共焦点顕微鏡
C2 confocal laser scanning microscope (Nikon)
合成のための試薬等は、特記しない限りは、富士フィルム和光純薬、東京化成工業、関東化学、Sigma-Aldrich製の試薬を用いた。
【0034】
(1)Hoechst-NH2の合成:
Hoechst-NH2は、上記一般式(4)で表される化合物であり(式中、R1はメチル基である。)、この化合物を以下のスキームで得た。

ニトロアニリン誘導体1 (680 mg, 1.93×10-2 mol)、アルデヒド2 (1.46 g, 9.66×10-3 mol)、Sn (1.29 g, 1.09×10-2 mol)の混合物にEtOH (15 mL)と濃塩酸 (1 mL)を加え、90 ℃で3時間攪拌した。セライトを用いてろ過をした後、水酸化ナトリウム水溶液を用いてろ液を中和した。続いて、Na2S2O5水溶液(388 mg, 2.04×10-3 molを水2 mLに溶解したもの)を加えて、100 ℃で2時間攪拌した。反応終了後、溶媒を留去した後、カラムクロマトグラフィー(固定相: SiO2, 移動相: CHCl3-MeOH-aq.NH3)で分離し、Hoechst-NH2(680 mg, 83%)をオレンジ色固体として得た。
なお、ニトロアニリン誘導体1は、文献J. Med. Chem. 1996, 39, 4804-4809を参考に合成し、得た。
同定:1H NMR (CD3OD, 500 MHz) δ8.21 (d, 1H, J = 1.0 Hz), 7.91 (dd, 1H, J = 1,0, 8.5 Hz), 7.87 (d, 1H, J = 9.0 Hz), 7.64 (d, 1H, J = 8.0 Hz), 7.50 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 7.14 (brs, 1H), 7.04 (dd, 1H, J = 1,5, 9.0 Hz), 6.80 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 3.22 (t, 4H, J = 4.5 Hz), 2.67 (t, 4H, J = 4.5 Hz), 2.37 (s, 3H); FABMS (NBA) m/z 424 [(M + H)+]; HRMS calcd. for C25H26N7 [(M + H)+] 424.2250, found 424.2251.
【0035】
(2)Hoechst-N3の合成:
Hoechst-N3は、上記一般式(1)で表される化合物であり(式中、R1はメチル基であり、Xは-Nである。)、この化合物を以下のスキームで得た。

Hoechst-NH2 (18 mg, 4.25×10-5 mol)に水(2 mL)と6N 塩酸(200 μL)を加え、0 ℃で10分攪拌した後、NaNO2水溶液 (14 mgのNaNO2を水1mLに溶解したもの)を加えた。続いて、0 ℃で30分攪拌した後、NaN3水溶液(17 mgのNaN3を水1mLに溶解したもの)を加え、0 ℃で30分攪拌した。さらに、室温に温度を上げて30分攪拌した。反応終了後、溶媒を留去した後、カラムクロマトグラフィー(固定相: SiO2, 移動相: CHCl3-MeOH-aq.NH3)で分離し、Hoechst-N3(18mg, 94%)を赤色固体として得た。
同定:1H NMR (CD3OD, 500 MHz) δ 8.28 (d, 1H, J = 1.0 Hz), 8.14 (d, 2H, J = 9.0 Hz), 7.97 (dd, 1H, J = 1.5, 8.5 Hz), 7.71 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 7.51 (d, 1H, J = 9.0 Hz), 7.25 (d, 2H, J = 8.5 Hz), 7.14 (d, 1H, J = 1.5 Hz), 7.05 (dd, 1H, J = 2.5, 9.5 Hz), 3.23 (t, 4H, J = 4.5 Hz), 2.68 (t, 1H, J = 4.5 Hz), 2.37 (s, 3H); 1H NMR (CD3OD, 125 MHz) δ 154.4, 151.5, 149.1, 143.5, 136.7, 131.3, 129.3, 126.1, 122.5, 120.8, 120.3, 118.4, 117.5, 116.6, 115.8. 115.3, 114.5, 101.6, 54.8, 54.7, 43.7; FABMS (NBA) m/z 450 [(M + H)+]; HRMS calcd. for C25H24N9 [(M + H)+] 450.2155, found 450.2155.
【0036】
(3)Hoechst-Azo-NMe2の合成:
Hoechst-Azo-NMe2は、上記一般式(1)で表される化合物であり(式中、R1はメチル基であり、Xは上記(X2)で表される官能基である。)、この化合物を以下のスキームで得た。
Hoechst-NH2 (86 mg, 2.01×10-4 mol)を1N 塩酸(400 μL)に溶かし、室温で20分攪拌した。続いて、NaNO2 (42 mg, 6.09×10-4 mol)を添加し、30分室温で攪拌した。さらに、ジメチルアニリンの塩酸溶液(73 mg, 6.09×10-4 molのジメチルアニリンを1N 塩酸に溶解したもの)を添加し、1時間室温で攪拌した。反応終了後、NaHCO3飽和溶液を加えて中和し、酢酸エチルで抽出した。最後にカラムクロマトグラフィー(固定相: SiO2, 移動相: CHCl3-MeOH-aq.NH3)で分離し、Hoechst-Azo-NMe2(26 mg, 23%, cis体とtrans体の混合物)をオレンジ色固体として得た。
同定:1H NMR (CD3OD, 500 MHz) δ 8.30 (br, 1H), 8.26-8.17 (1H), 8.24 (dd, 1H, J = 1.5, 9.0 Hz), 8.14 (m, 1H), 8.30-7.96 (1H), 7.95 (dd, 1H, J = 2.0, 9.0 Hz), 7.86 (m, 1H), 7.83-7.69 (2H), 7.61-7.46 (2H), 7.20-7.09 (1H), 7.06 (dd, 1H, J = 2.0, 9.0 Hz), 6.83 (d, 1H, J = 7.0 Hz), 3.30 (6H), 3.24 (m, 4H), 2.68 (m, 4H), 2.38 (s, 3H); FABMS (NBA) m/z 556 [(M + H)+]; HRMS calcd. for C33H34N9 [(M + H)+] 556.2937, found 556.2935.
【0037】
(3)Hoechst-Azo-NO2
Hoechst-Azo-NO2は、上記一般式(1)で表される化合物であり(式中、R1はメチル基であり、Xは上記(X3)で表される官能基である。)、この化合物を以下のスキームで得た。
4-Nitroaniline 3 (21 mg, 1.52×10-4 mol)とPotassium Peroxymonosulfate (122 mg, 1.98×10-4 mol) の混合物にCH2Cl2 (0.5 mL), H2O (0.5 mL)を加えて、室温で3時間攪拌した。反応終了後、反応終了後、水を加えた後、クロロホルムで抽出し、4(ニトロソニトロベンゼン)の粗生成物を得た。続いて、得られた粗生成物に、Hoechst-NH2 (19 mg, 4.48×10-5 mol)、さらにCH2Cl2 ( 0.5 mL)、酢酸(0.5 mL)を加えて、室温で16時間攪拌した。反応終了後、NaOH水溶液で中和した。最後にカラムクロマトグラフィー(固定相: SiO2, 移動相: CHCl3-MeOH-aq.NH3)で分離し、Hoechst-Azo-NO2(21 mg, 84%)をオレンジ色固体として得た。
同定:1H NMR (CD3OD, 500 MHz) δ 7.90-7.70 (5H), 7.68-7.58 (1H), 7.58-7.42 (5H), 7.25 (d, 2H, J = 8.0 Hz), 6.90-6.76 (2H), 3.32 (br, 4H), 2.86 (br, 4H), 2.53 (s, 3H); FABMS (NBA) m/z 558 [(M + H)+]; HRMS calcd. for C31H28N9O2 [(M + H)+] 558.2366, found 558.2366.
【0038】
(4)Hoechst-N3のHuisgen反応:
上記合成したHoechst-N3を以下のスキームにてHuisgen反応に供した。
Hoechst-N3 (16 mg, 3.56×10-5 mol)と1-ethynyl-4-nitrobenzene 5 (61 mg, 4.15×10-5 mol)の混合物をDMF (300 mL)に溶かし、続いて、TBTA (4.7 mg, 2.94×10-5 mol)、CuSO4 (4.7 mg, 2.94×10-5 mol)、アスコルビン酸(6.6 mg, 3.33×10-5 mol)を加えて、4時間室温で攪拌した。反応終了後、溶媒を留去した後、カラムクロマトグラフィー(固定相: SiO2, 移動相: CHCl3-MeOH-aq.NH3)で分離し、付加体6(8 mg, 38%)をオレンジ色固体として得た。
同定:1H NMR (CD3OD, 500 MHz) δ9.71 (s, 1H), 8.48 (d, 2H, J = 8.0 Hz), 8.40 (d, 2H, J = 7.5 Hz), 8.40-8.31 (1H), 8.24 (d, 2H, J = 7.5 Hz), 8.20 (d, 2H, J = 7.5 Hz), 8.06 (d, 1H, J = 8.0 Hz), 7.80-7.70 (1H), 7.69 (m, 1H), 6.93 (br, 2H), 3.12 (br, 4H), 2.26-2.20 (4H); FABMS (NBA) m/z 597 [(M + H)+]; HRMS calcd. for C33H29N10O2 [(M + H)+] 597.2475, found 597.2477.
【0039】
このようにして得られる付加体6を、所望の細胞核に結合せしめることにより、原料として用いた1-ethynyl-4-nitrobenzene 5を細胞核に導入することができる。
【0040】
(5)Hoechst-N3の細胞実験:
ヒト肺がん細胞A549をwell上に蒔いた(培地DMEM)後、24時間37 ℃で有酸素条件下(O2濃度21%)及び低酸素条件下(O2濃度0.3%)で培養した。続いて、培地を除去した後、すぐにHoechst-N3(10 μM)が溶解した培地(DMEM 100 μL)を細胞に添加し、所定時間(10分, 30分, 60分又は24 時間)37 ℃で培養した。続いて、細胞をPBSで洗浄した後、共焦点顕微鏡で細胞を観察し、励起光(Ex. 405 nm)を照射して蛍光発光を観測した。図1は前記観測像である。実際には青色の蛍光が観測されるところ、図1ではグレースケールに変換して描画している。図1における描画が白色に近いほど青色の発光が強いことを示す。図1(A)は低酸素条件である細胞における観察像であり、図1(B)は有酸素条件である細胞における観察像である。図2は、前記観測された蛍光強度の相対値を縦軸に、時間経過を横軸にとって表示したものである。Hoechst-N3は、低酸素濃度の細胞を選択的に発光せしめることが示されている。
図1
図2